説明

生分解性ポリマーと多孔質チタンの複合化技術

【課題】金属としての強度を有した、チタンと生分解性ポリマーの複合材料を製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】容器に多孔質チタンと生分解性ポリマーを投入し、加熱することによって生分解性ポリマーを溶かす。その状態で減圧し、また常圧に戻す。これを繰返すことによって、生分解性ポリマーを多孔質チタン内部の細孔まで浸入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明内容は、多孔質チタン材料と生分解性ポリマーの複合化技術。そして生分解性ポリマーの分布および機械的特性が傾斜化したチタンに生分解性ポリマーが傾斜分布した材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の強度を有した、金属とポリマーの複合材料の製造方法は現時点において開発されていない。現在までに開発されているのは、特許文献1に示されるような金属とポリマーの複合粉末を作製する方法までである。これは、金属とポリマーの混合粉末を加圧し各粉末粒子を微細化し複合粉末を作製する方法である。
【0003】
低ヤング率および骨との高い骨結合性を有する生体用チタン材料を実現するために、非特許文献1にはチタン母相中に繊維状の生分解性ポリマー(ポリ-L-乳酸)を強化相として分布させたチタンと生分解性ポリマー複合材料が報告されている。この材料は、生分解性ポリマー繊維とチタン粉末を放電プラズマ焼結炉にて焼結する技術によって作製されている。この方法により作製されたチタンと生分解性ポリマーの複合材料は、人工骨としての強度が不足する欠点を有していた。これは、チタンと生分解性ポリマーの融点がそれぞれ1668度と170−180度と両者の間に大きな差があるため、チタン母相の焼結が完了しなかったことに問題があった。
【特許文献1】特開1995−53726
【非特許文献1】H.Sato, S.Umaoka, Y.Watanabe, I.Kim, M.Kawahara and M.Tokita, Mater. Sci. Forum, Vols.539-543, p.3201 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明で解決しようとする問題点は、従来の技術にて作製されたチタンと生分解性ポリマーの複合材料における金属基複合材料としての強度が不足する点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明のチタンと生分解性ポリマーの複合材料の製造方法は、容器に多孔質チタンと生分解性ポリマーを投入し、加熱することによって生分解性ポリマーを溶かす。その状態で減圧し、また常圧に戻す。これを繰返すことによって、生分解性ポリマーを多孔質チタン内部の細孔まで浸入させることができる。
【0006】
本発明の製造方法によって、金属としての強度を有したチタンと生分解性ポリマーの複合材料を製造することができる。
【0007】
発明のチタンと生分解性ポリマーの複合材料における生分解性ポリマーの分布および機械的特性の傾斜化は、上記の方法における減圧と常圧の繰返し回数および減圧の強さを変化させることによって製造する。これにより、生分解性ポリマーの分布および機械的特性が傾斜化したチタンと生分解性ポリマーの分布が傾斜した材料を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、具体例としてチタンと生分解性ポリマーの複合材料の作製装置の概観図を示している。
【0010】
図2は、本技術にて得られた円柱状の形状を有する、チタンとポリ-L-乳酸の複合材料の概観図である。
【0011】
図3と図4は,それぞれチタンとポリ-L-乳酸の複合材料の最表面および中心部の組織写真である。図3および図4より、多孔質チタンの空孔にポリ-L-乳酸が存在している。また、図3と図4を比較すると、チタンとポリ-L-乳酸の複合材料の中心部においてはポリ-L-乳酸の内部に空孔が多く存在している。すなわち、ポリ-L-乳酸の分布が複合材料の中で傾斜化されている。
【0012】
多孔質チタンそしてチタンとポリ-L-乳酸の複合材料の強度比較をすると、両者の0.2%耐力はそれぞれ57.8MPaと214MPaであった。また、ヤング率はそれぞれ3.14GPaと11.6GPaであった。0.2%耐力、ヤング率ともにチタンとポリ-L-乳酸の複合材料の方が多孔質チタンに比べて強化されていることが分かる。これは、チタンとポリ-L-乳酸の複合材料の強度が、金属基複合材料としての強度を得ていることを示している。非特許文献1に示される方法で作製した、チタンと生分解性ポリマーの複合材料は金属基複合材料としての性質を有しておらず、本技術を用いることによりチタンと生分解性ポリマーの複合材料は、金属基複合材料と同等、あるいはそれ以上の強度を得ることができる。
【0013】
図5および図6はチタンとポリ-L-乳酸の複合材料の材料最表面から試料中心部に向かって0.2%耐力およびヤング率の分布の傾斜を示している。これは,材料最表面と材料中心部ではポリ-L-乳酸の分布が異なり、材料最表面ではポリ-L-乳酸の含有量が多いため、強度の向上したことに起因している。その結果、本技術により作製したチタンとポリ-L-乳酸の複合材料は機械的特性が傾斜分布する。
【0014】
本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、金属とポリマーを複合化した複合材料製造等の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】チタンと生分解性ポリマーの複合材料を製造する装置の図である。
【図2】円柱状の形状をもつチタンとポリ-L-乳酸の複合材料の概観図である。
【図3】チタンとポリ-L-乳酸の複合材料の表面組織の写真である。
【図4】チタンとポリ-L-乳酸の複合材料における内部組織の写真である。
【図5】チタンとポリ-L-乳酸の複合材料における0.2%耐力の分布を示したグラフである。
【図6】チタンとポリ-L-乳酸の複合材料におけるヤング率の分布を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に多孔質チタンと生分解性ポリマーを投入し、ヒーターで容器を加熱することによって生分解性ポリマーを溶かす。その状態で減圧と常圧を繰返し、生分解性ポリマーを多孔質チタン内部の細孔まで浸入させることによって、多孔質チタン材料と生分解性ポリマーを複合化させる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で生分解性ポリマーを多孔質チタン内部の細孔まで浸入させ、多孔質チタン材料と生分解性ポリマーを複合化する。そのとき、減圧の強さおよび減圧と常圧の繰返し回数を変化させることによって生分解性ポリマーを多孔質チタンの中で傾斜分布させる方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法によって作製された、チタン母相に生分解性ポリマーを強化相として分布させた複合材料を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120644(P2009−120644A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293240(P2007−293240)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】