説明

生分解性ポリマーフィルムおよびその製造方法

【課題】生分解性を向上させた化学合成系の生分解性ポリマーフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】化学合成系の生分解性ポリマーに高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加して紡糸したナノファイバーが積層されてなることを特徴とする。かかる構成により、高級アルコールまたはこれとポリエチレングリコールとのエーテルが生分解性ポリマーのエステル結合を分解する酵素の誘導物質として働き、生分解性ポリマーの分解を促進させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリマーからなるフィルムとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
安価に大量生産されるプラスチックは、自然界で分解が行われないため深刻な自然破壊や廃棄物処理問題の要因となっている。このような社会的背景を基に、環境中において分解の進む生分解性ポリマーに大きな期待が集まっている。
【0003】
生分解性ポリマーは、プラスチックの利便性と、廃棄物になると自然界で微生物により水と二酸化炭素に完全に分解される環境適合性とを有している素材であることから、現在、包装用或いは農園芸用のフィルム等として利用が進められている。また、医療分野においては、手術用縫合糸や体内での薬剤の徐放材料として注目を集めている。
【0004】
この生分解性ポリマーのうち、特に、脂肪族ポリエステルからなる「化学合成系」のものは、大量に比較的安価に製造することが可能であることから、今後の需要の拡大が期待されており、様々な技術開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−172021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この「化学合成系」の生分解性ポリマーは、従来の汎用プラスチックと同様に石油等を原料として人工的に化学合成されたポリマーであるため、でんぷんやセルロースなどの天然高分子を利用した「天然物利用系」や、微生物が細胞内に蓄える脂肪族ポリエステルを利用した「微生物産生系」等の生分解性ポリマーと比較して、生分解性が劣るという問題があった。このため、使用後の処理(後処理)の簡略化を目的に、化学合成系の生分解性ポリマーを用いてフィルムを成形し、これを農園芸用資材として使用した場合、フィルムが十分に生分解せず、結局、従来の汎用プラスチックと同様に、使用後のフィルムを回収して廃棄処理しなければならないという問題が生じるおそれがある。
【0006】
それゆえ、本発明の主たる課題は、現在、主として包装用或いは農園芸用等として利用が進められている生分解性ポリマーフィルムに関し、生分解性を向上させた化学合成系の生分解性ポリマーフィルムおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明は、「化学合成系の生分解性ポリマーに高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加して紡糸したナノファイバーが積層されてなる」ことを特徴とする生分解性ポリマーフィルムである。
【0008】
この発明では、フィルムを構成する化学合成系の生分解性ポリマーに高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加しているので、当該フィルムが微生物等によって生分解される際に、高級アルコールまたはこれとポリエチレングリコールとのエーテルが生分解速度調整剤として機能し[具体的には、高級アルコールまたはこれとポリエチレングリコールとのエーテルが生分解性ポリマーのエステル結合を分解する酵素の誘導物質として働き]、生分解性ポリマーの生分解を促進させることができる。
【0009】
ここで、高級アルコールとは、分子量の大きい(一般には炭素数6以上)アルコール類の総称であり、疎水性が強く水よりも油に近い性質を示すものである。この高級アルコールとして、特に、ステアリルアルコール,パルミチルアルコールおよびミリスチルアルコールの少なくとも何れか1つを用いることによって上記作用がより一層顕著なものとなる。
【0010】
また、この発明では、生分解性ポリマーに高級アルコールまたはこれとポリエチレングリコールとのエーテル(すなわち、生分解速度調整剤)を添加したものからなるナノファイバーを積層してフィルムを形成しているので、Tダイ法やインフレーション法などで形成されたフィルムに比べてフィルム表面の比表面積が極めて大きくなる。このため、フィルム表面への微生物の付着率を増大させることができ、フィルムの物理的な構造の面においても生分解性ポリマーの生分解を促進させることができる。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の生分解性ポリマーフィルムの製造方法に関するものであり、「有機溶媒に化学合成系の生分解性ポリマーを溶解させた溶液に生分解速度調整剤として高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加した後、電界紡糸法でナノファイバーを紡糸すると共に、紡糸直後の半溶融状のナノファイバーを積層してフィルムを形成する」ことを特徴とする。
【0012】
上述のように化学合成系の生分解性ポリマーに生分解速度調整剤(高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方)を添加することによって、生分解性ポリマーフィルムの生分解を促進させることができる。しかしながら、生分解性ポリマーと生分解速度調整剤とは混和性が悪いため、Tダイ法やインフレーション法などでフィルムを製造すると、製造過程において生分解性ポリマーと生分解速度調整剤とが相分離し、得られるフィルムは白化したものとなる。
【0013】
そこで、本発明では、まず始めに、生分解性ポリマーを溶解させた溶液に生分解速度調整剤を添加し、このポリマー溶解液を電界紡糸法で紡糸してナノファイバーを形成するようにしている。このように電界紡糸法を用いることで生分解性ポリマーと生分解速度調整剤との混和性を改善することができ、製造過程においてこれらが相分離して白化するのを防止することができる。
【0014】
また、紡糸直後の半溶融状のナノファイバーを積層することによって、ナノファイバーが完全に固化する際、積層したナノファイバー同士が交絡点で接合されるようになるので、別途ナノファイバー同士を接着するための接着工程が不要となり、製造工程を簡素化できると共に、接着剤の使用による生分解性の低下を防止することができる。
【0015】
ここで、電界紡糸法で繊維を紡糸する際には、請求項3に記載したように「化学合成系の生分解性ポリマーの溶解濃度を50〜250g/l」に、また、請求項4に記載したように「フィルム全体の重量に対する生分解速度調整剤の配合割合が0.1〜10重量%となる」ようにするのが好ましい。生分解性ポリマーの溶解濃度および生分解速度調整剤の濃度を上記範囲内にすることによって、繊維径が数nm〜数百nmの範囲に分布した繊維径の異なるナノファイバーを同時に紡糸することができる。このため、このような繊維径が異なるナノファイバーを積層させてフィルムを形成すると、当該フィルムには繊維径の不均一分布に起因した微生物接着挙動や生分解調整剤徐放挙動などの不均化・多様化が生じ、生分解性ポリマーの生分解をより一層促進させることができるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高級アルコールまたはこれとポリエチレングリコールとのエーテルが生分解速度調整剤として機能し、生分解性ポリマーの分解を促進させることができる。また、ナノファイバーを積層してフィルムを形成しているので、フィルム表面の比表面積が極めて大きくなり、フィルム表面への微生物の付着率を増大させることができる結果、フィルムの物理的な構造の面においても生分解性ポリマーの生分解を促進させることができる。
【0017】
したがって、分解処理時間の短縮や分解処理効率の向上が可能な化学合成系の生分解性ポリマーフィルムとその製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態について具体例を示しながら以下に詳述する。
【0019】
図1は、本発明の一実施例の生分解性ポリマーフィルムの表面を拡大したSEM像である。この図が示すように、本発明の生分解性ポリマーフィルムは、化学合成系の生分解性ポリマーと生分解速度調整剤とで構成された繊維径が数nm〜数百nm程度のナノファイバーを積層して形成されている。
【0020】
ここで、ナノファイバーを構成する化学合成系の生分解性ポリマーとは、従来の汎用プラスチックと同様に石油等を原料として人工的に化学合成された生分解性のポリマーであり、具体的には、ポリブチレンサクシネートアジペート,ポリブチレンサクシネート,ポリカプロラクトン,ポリエチレンサクシネート,ポリブチレンアジペートテレフタレートおよびこれらを主成分とする共重合体などが挙げられる。
【0021】
また、生分解速度調整剤とは、上記生分解性ポリマーの分解を促進するための助剤であり、具体的には、ステアリルアルコール,パルミチルアルコールおよびミリスチルアルコールなどの高級アルコール、または、これらの高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテル(例えば、Brij(登録商標))の少なくとも1つを用いるのが好適である。これらの生分解速度調整剤は、生分解性ポリマーのエステル結合を分解する酵素の誘導物質として働き、生分解性ポリマーの分解を促進させることができる。
【0022】
フィルム全体の重量に対するこの生分解速度調整剤の配合割合は0.1〜10重量%となるようにするのが好ましい。生分解速度調整剤の配合割合が0.1重量%未満の場合には、生分解速度調整剤の添加効果(すなわち、生分解ポリマーの生分解促進)が十分に認められず、逆に、生分解速度調整剤の配合割合が10重量%より多い場合には、生分解速度調整剤の添加効果は十分認められるようになるが、ナノファイバー中の生分解性ポリマーの配合割合が相対的に低下する結果、ナノファイバーの機械的強度が著しく低下するようになるからである。また、このような範囲で生分解速度調整剤を添加すると、後述する電界紡糸法を用いて繊維化する際に、その繊維径が数nm〜数百nmの範囲に分布した繊維径の異なるナノファイバーを同時に紡糸することができるようになる。
【0023】
次に、本発明の生分解性ポリマーフィルムの製造方法について説明する。本発明の生分解性ポリマーフィルムは、電界紡糸法を用いて製造する。ここで、「電界紡糸法(Electrospinning;ELSP)」とは、高電圧電場を用いたポリマー紡糸法である。具体的には、原料ポリマーを溶解したポリマー溶液に高電圧を印加すると、チャージした溶液が分裂すると共に溶媒が蒸発し、アースをとったコレクタ(ターゲット)に繊維状物が捕集されることを利用した紡糸法であり、他の紡糸法では得ることが困難なナノスケールサイズの繊維径を有するファイバー(すなわちナノファイバー)を生成することが可能である。この方法で得られたナノファイバーは、超比表面積効果,超微小サイズ効果および超分子配列効果を発揮することが知られている。
【0024】
図2は、本発明の生分解性ポリマーフィルムの製造装置である電界紡糸装置(10)を示す構成図である。この図が示すように、電界紡糸装置(10)は、大略、5〜30kV程度の直流高電圧電源(12),インフュージョンポンプ(14),ステンレス製のニードルシリンジ(16)および金属コレクタ(18)で構成されている。このうち、ニードルシリンジ(16)の先端(16a)は、ポリマー溶液を噴射するためのノズルとなっている。また、ニードルシリンジ(16)に投入するポリマーの濃度,有機溶媒の種類,ニードルシリンジ(16)から押出されるポリマーの流速,印加電圧およびシリンジ(16)−コレクタ(18)間距離(エアギャップ)などの各条件は適宜設定することができるようになっている。
【0025】
かかる電界紡糸装置(10)を用いて生分解性ポリマーフィルムを製造する際には、まず始めに、生分解性ポリマーを有機溶媒に溶解する。この有機溶媒としては、例えば、クロロホルムなどの塩素系炭化水素や、1,1,1,3,3,3‐ヘキサフロロ‐2‐プロパノールなどのフッ素系アルコールなどが挙げられ、使用する生分解性ポリマーの種類に応じて適宜選択される。また、有機溶媒に溶解する生分解性ポリマーの溶解濃度は、50〜250 g/lの範囲であるのが好ましく、より好ましくは80〜240g/lである。生分解性ポリマーの溶解濃度が50g/l未満の場合には、生分解性ポリマーが球状或いはビーズ状に凝集して繊維化するのが困難であり、逆に、生分解性ポリマーの溶解濃度が250g/lより多いの場合には、生分解性ポリマーを完全に繊維化することはできるものの、その繊維径が数μmオーダーと太くなり、ナノファイバーを得るのが困難になるからである。また、生分解性ポリマーの溶解濃度を50〜250 g/lの範囲とすることによって、繊維径が数nm〜数百nmの範囲に分布した繊維径の異なるナノファイバーを同時に紡糸することができるようになる。
【0026】
続いて、生分解性ポリマーの溶解液に、フィルム全体の重量に対する配合割合が0.1〜10重量%となるように生分解速度調整剤を添加した後、ニードルシリンジ(16)に投入し、直流高電圧電源(12)をオンにしてニードルシリンジ(16)に電圧を印加すると共に、インフュージョンポンプ(14)を作動させて所定の速度にてニードルシリンジ(16)の先端(16a)から生分解性ポリマーの溶解液を押し出す。すると、金属コレクタ(18)の表面に半溶融状のナノファイバーが捕集される。ここで、「半溶融状」とは、ポリマーが繊維状に成形されているものの、該ポリマーが完全に固化していない状態をいう。なお、金属コレクタ(18)にて捕集するナノファイバーを半溶融状態とするためには、沸点の高い有機溶媒を用いるか、或いは、融点の高い生分解速度調整剤を添加するようにすればよい。
【0027】
そして、この半溶融状のナノファイバーを金属コレクタ(18)上で積層させて冷却すると、積層したナノファイバー同士の交絡点が接合され、高弾性で且つ生分解異性に優れた生分解性ポリマーフィルムが完成する。
【0028】
ここで、電界紡糸装置(10)の運転条件の一例を挙げると、ニードルシリンジ(16)から押出されるポリマーの流速を20〜200μl/min、印加電圧を0〜40kV、シリンジ(16)−コレクタ(18)間距離(エアギャップ)を5〜50 cm、好ましくは10〜30 cmに設定する場合が挙げられる。この条件で電界紡糸装置(10)を運転すると、得られるファイバーの繊維径は、数十ナノメートルから数十マイクロメートル、例えば50ナノメートルから50マイクロメートル、より具体的には500ナノメートルから5マイクロメートルとなる。
【0029】
以上のようにして得られた生分解性ポリマーフィルムの分解には、アルテナリア(Alternaria)属のカビ等を植菌して行うことのほか、コンポストや活性汚泥等を微生物源として添加して微生物分解することも可能である。この微生物分解の際には、ポリマーに添加されたステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール等の高級アルコール、または、これら高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルであるBrijが生分解性ポリマーのエステル結合を分解する酵素の誘導物質として働き、生分解性ポリマーの分解が促進され、分解処理時間の短縮、分解処理の効率を向上することが可能となる。なお、この微生物分解反応は、室温でも進行するが、温度を30℃前後に管理することにより、より一層生分解が促進される。
【0030】
本実施例の生分解性ポリマーフィルムによれば、フィルムを構成する化学合成系の生分解性ポリマーに高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加しているので、上述のように高級アルコールまたはこれとポリエチレングリコールとのエーテルが生分解性ポリマーのエステル結合を分解する酵素の誘導物質として働き、生分解性ポリマーの分解を促進させることができる。
【0031】
また、化学合成系の生分解性ポリマーと生分解速度調整剤とでナノファイバーを紡糸し、該ナノファイバーを積層してフィルムを形成しているので、Tダイ法やインフレーション法などで形成されたフィルムに比べてフィルム表面の比表面積が極めて大きくなる。このため、フィルム表面への微生物の付着率を増大させることができ、フィルムの物理的な構造の面においても生分解性ポリマーの生分解を促進させることができる。
【0032】
一方、化学合成系の生分解性ポリマーに上記生分解速度調整剤を添加することによって、生分解性ポリマーフィルムの生分解を促進させることができるが、生分解性ポリマーと生分解速度調整剤とは混和性が悪いため、Tダイ法やインフレーション法などでフィルムを製造すると、製造過程において生分解性ポリマーと生分解速度調整剤とが相分離し、得られるフィルムは白化したものとなる。
【0033】
しかしながら、本実施例の生分解性ポリマーフィルムの製造方法では、まず始めに、生分解性ポリマーを溶解させた溶液に生分解速度調整剤を添加し、このポリマー溶解液を電界紡糸法で紡糸してナノファイバーを形成するようにしているので、生分解性ポリマーと生分解速度調整剤との混和性を改善することができ、製造過程においてこれらが相分離して白化するのを防止することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例をあげて本発明の生分解性ポリマーフィルムおよびその製造方法を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0035】
パルミチルアルコールの添加による生分解促進効果
(1)生分解性ポリマーフィルムの作製
[実施例1]
ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、「PBAT」という。)樹脂を1,1,1,3,3,3‐ヘキサフロロ‐2‐プロパノールに100g/l(6.18wt%)の濃度で溶解し、更に、フィルム全体の重量に対して5.0重量%の配合割合となるようにパルミチルアルコールを添加して溶解させ、ポリマー溶解液を得た。
【0036】
続いて、このポリマー溶解液を用いて、ターゲット間距離(エアギャップ)15cm、印加電圧20kV、押出し量50μl/min、シリンジの針規格22Gに設定した電界紡糸装置を用いてナノファイバーを紡糸し、これをアルミ箔(金属コレクタ)上で積層して生分解性ポリマーフィルムを得た。
【0037】
得られたフィルムの電子顕微鏡写真を図1に示す。図1が示すように、数十から数百ナノメートルスケールの繊維径を有するナノファイバーからなる不織布ライク(不織布調)なフィルムが得られた。
【0038】
[比較例1]
生分解速度調整剤としてパルミチルアルコールを添加しなかったこと以外は上述の実施例1と同様の方法で生分解性ポリマーフィルムを作製した。なお、得られたフィルムは、上述の実施例1と同様に数十から数百ナノメートルスケールの繊維径を有するナノファイバーからなる不織布ライクなフィルムであった。
【0039】
(2)生分解性の評価
以下に述べる手順で生分解性ポリマーフィルムの生分解試験を行ない、フィルムの生分解性について評価を行った。
【0040】
すなわち、300mlビーカー(実施例用および比較例用として2個ずつ用意)にpH6に調整した無機塩培地を100mlずつ入れてオートクレーブ滅菌した。なお、無機塩培地の組成は表1の通りである。
【0041】
【表1】

【0042】
続いて、実施例1および比較例1のフィルムを4cm×4cmに各2枚ずつ切り、それぞれの重量を測定した後、これらフィルムを5cm×5cmのポリエチレンネットにそれぞれ入れた後、上記無機塩培地の入ったビーカーに入れた。2個のビーカーのうち、一方は無植菌(ブランク)、他方はPD培地(ポテトデキストロース培地)を用いて30℃で振盪培養したアルテナリア(Alternaria)属のカビをホモジナイザーで均一に懸濁した液2mlを植菌し、これらを30℃で振盪培養した。7日間培養後、フィルムを取り出し付着している菌を蒸留水で洗浄して取り除き、室温で乾燥後、重量を測定し、それぞれのフィルムの分解率を求めた。なお、分解率は、下式(1)により計算した。
【0043】
【数1】

【0044】
上記生分解試験の結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
この表が示すように、アルテナリア(Alternaria)属のカビを植菌していない実施例1および比較例1のフィルムにおいては、分解試験前後の重量にほとんど変化が無く分解は観察されなかった。一方、アルテナリア(Alternaria)属のカビを植菌した場合には、比較例1のフィルムにおいては、フィルムは分解せず逆にカビの付着により若干のフィルム重量の増加が観察されたのに対し、実施例1のフィルムにおいては、カビによる分解が進行し、約20%の重量の減少が観察された。つまり、生分解性ポリマーにパルミチルアルコールを添加することによって生分解が促進されることが示された。
【0047】
Brij(登録商標)72の添加による生分解促進効果
(1)生分解性ポリマーフィルムの作製
[実施例2]
PBAT樹脂を1,1,1,3,3,3‐ヘキサフロロ‐2‐プロパノールに100g/l(6.18wt%)の濃度で溶解し、更に、フィルム全体の重量に対して0.5重量%の配合割合となるようにBrij(登録商標)72を添加して溶解させ、ポリマー溶解液を得た。
【0048】
続いて、このポリマー溶解液を用いて、ターゲット間距離(エアギャップ)15cm、印加電圧20kV、押出し量50μl/min、シリンジの針規格22Gに設定した電界紡糸装置を用いてナノファイバーを紡糸し、これをアルミ箔(金属コレクタ)上で積層して生分解性ポリマーフィルムを得た。
【0049】
[実施例3]
フィルム全体の重量に対するBrij(登録商標)72の配合割合が5.0重量%となるようにしたこと以外は、上述の実施例2と同様の方法で生分解性ポリマーフィルムを作製した。
【0050】
[比較例2]
生分解速度調整剤としてBrij(登録商標)72を添加しなかったこと以外は、上述の実施例2と同様の方法で生分解性ポリマーフィルムを作製した。
【0051】
(2)生分解性の評価
以下に述べる手順で生分解性ポリマーフィルムの生分解試験を行ない、フィルムの生分解性について評価を行った。
【0052】
すなわち、300mlビーカー(各実施例用および比較例用として3個ずつ用意)にpH6に調整した無機塩培地を100mlずつ入れてオートクレーブ滅菌した。なお、無機塩培地の組成は上記表1の通りである。
【0053】
続いて、実施例2,3および比較例2のフィルムを4cm×4cmに各3枚ずつ切り、それぞれの重量を測定した後、これらフィルムを5cm×5cmのポリエチレンネットにそれぞれ入れた後、上記無機塩培地の入ったビーカーに入れた。3個のビーカーのうち、1つは無植菌(ブランク)、1つはPD培地を用いて30℃で振盪培養したKH‐1株をホモジナイザーで均一に懸濁した液2mlを植菌、残りの1つは活性汚泥2mlを植菌し、これらを30℃で振盪培養した。7日間培養後、フィルムを取り出し付着している菌を蒸留水で洗浄して取り除き、室温で乾燥後、重量を測定し、それぞれのフィルムの分解率を上記式(1)で算出した。
【0054】
上記生分解試験の結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
この表が示すように、KH‐1株或いは活性汚泥を植菌していない実施例2,3および比較例2のフィルムにおいては、分解試験前後の重量にほとんど変化が無く分解は観察されなかった。一方、KH‐1株或いは活性汚泥を植菌した場合には、比較例2のフィルムにおいては、フィルムは分解せず逆にカビの付着により若干のフィルム重量の増加が観察されたのに対し、実施例2及び3のフィルムにおいては、植菌による分解が進行し、フィルム重量の減少が観察された。つまり、生分解性ポリマーにBrij(登録商標)72を添加することによって生分解が促進されることが示された。
【0057】
なお、KH‐1株又は活性汚泥のいずれを植菌した場合であっても、Brij(登録商標)72の添加量が0.5重量%の実施例2のフィルムの方が生分解性に優れる結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例の生分解性ポリマーフィルムを示すSEM写真である。
【図2】本発明の一実施例の電界紡糸装置の概要を示す構成図である。
【符号の説明】
【0059】
(10)…電解防止装置
(12)…直流高電圧電源
(14)…インフュージョンポンプ
(16)…ニードルシリンジ
(18)…金属コレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学合成系の生分解性ポリマーに高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加して紡糸したナノファイバーが積層されてなることを特徴とする生分解性ポリマーフィルム。
【請求項2】
有機溶媒に化学合成系の生分解性ポリマーを溶解させた溶液に生分解速度調整剤として高級アルコールまたは高級アルコールとポリエチレングリコールとのエーテルの少なくとも一方を添加した後、電界紡糸法でナノファイバーを紡糸すると共に、紡糸直後の半溶融状の前記ナノファイバーを積層してフィルムを形成することを特徴とする生分解性ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記化学合成系の生分解性ポリマーの溶解濃度が、50〜250g/lであることを特徴とする請求項2に記載の生分解性ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項4】
フィルム全体の重量に対する前記生分解速度調整剤の配合割合が0.1〜10重量 %となるようにすることを特徴とする請求項2又は3に記載の生分解性ポリマーフィルムの製造方法。




【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−223185(P2008−223185A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65608(P2007−65608)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】