説明

生分解性マルチフィルム

【課題】1枚のフィルムでありながら、使用状況に応じて分解速度を選択することのできる生分解性マルチフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも第1の層と第2の層とから形成され、第1の層と前記第2の層とは生分解性樹脂からなり、第1の層および第2の層の少なくとも何れか一方に添加剤を添加するか、または樹脂成分を選択することによって第1の層の分解速度と第2の分解速度とが異なり、第1の層と第2の層とは生分解性フィルムの表層であり、第1の層または第2の層の何れか片方を土壌表面と接するように土壌に展張する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性マルチフィルムに関し、より特定的には農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌の温度を一定に保ち農作物の育成を促したり、日光から遮断することによって雑草の生育を防いだりするために、土壌表面の一部を覆うフィルムが使用されている。このようなフィルムのことを一般的に農業用マルチフィルム(農業用マルチと称したり、マルチフィルムと称したり、単にマルチと称したりすることもある)と呼ばれる。
【0003】
なお、農作物の栽培において農業用マルチフィルムの使用は、当該農作物の品質の向上や安定した収量確保のため不可欠である一方で、農作物が収穫された後は廃棄されるものでもある。そのため、土壌表面を覆っていた農業用マルチフィルムを当該土壌から取り除く必要がある。
【0004】
近年、農業用マルチフィルムの廃棄の労力削減のため、農作物を収穫しその後、畑を耕すときに土壌中に一緒に当該農業用マルチフィルムをすき込んで土壌中で分解させることのできる農業用マルチフィルムが開発されている。なお、以下の説明において、土壌中で分解させることのできる農業用マルチフィルムのことを生分解性マルチフィルムと称す。
【0005】
上記生分解性マルチフィルムの一例として、例えば特許文献1に開示されている生分解性マルチフィルムがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3897237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されている生分解性マルチフィルムは、生分解性樹脂を配合した生分解性樹脂組成物を層構成としたものである。これにより、引裂強度が高く、インフレーション成形時や成型後に亀裂が生じにくい三層生分解性マルチフィルムとなる。具体的には、特許文献1に開示されている生分解性マルチフィルムは、それぞれ脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂成分からなる白色表面層、中間層、黒色表面層とする三層生分解性マルチフィルムである。
【0008】
ところで、農作物はその種類によって、収穫までの期間が異なったり、生育に適した時期(季節)や、さらには農作物の栽培に適した栽培地域の気候風土も異なったりする。そのため、例えば、生分解性マルチフィルムを土壌表面に展張してからすき込むまでの期間が農作物の種類や栽培時期によって異なることになる。その結果、例えば、農作物の生産者は、数ある生分解性マルチフィルムの中から栽培する農作物に応じた最適な分解速度(展張してからすき込むまでの期間)の生分解性マルチフィルムを選択する必要があり、簡易な方法で分解速度を調節することのできる生分解性マルチフィルムの開発が望まれていた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、1枚のフィルムでありながら、使用状況に応じて分解速度を選択することのできる生分解性マルチフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有している。すなわち第1の発明は、添加剤または樹脂成分の少なくとも何れか一方によって分解速度が制御された生分解性マルチフィルムである。上記生分解性マルチフィルムは、少なくとも第1の層と第2の層とから形成されている。また、第1の層と第2の層とは生分解性樹脂からなる。なお、第1の層および第2の層の少なくとも何れか一方に前記添加剤を添加するか、または樹脂成分を選択することによって第1の層の分解速度と第2の分解速度とが異なる。ここで、第1の層と第2の層とは生分解性フィルムにおいては表層であり、第1の層または第2の層の何れか片方を土壌表面と接するように土壌に展張する。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、添加剤には第1の添加剤と第2の添加剤とがあり、第1の層および第2の層の少なくとも何れか一方に第1の添加剤または第2の添加剤を添加することにより当該第1の層の分解速度と当該第2の分解速度とが異なる。なお、第1の添加剤は、顔料、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、加水分解抑制剤から成る群から選ばれる少なくとも1つであり、第2の添加剤は、無機充填剤、でんぷん、加水分解促進剤、前記第1の添加剤における顔料と異なる顔料から成る群から選ばれる少なくとも1つである。
【0012】
第3の発明は、上記第2の発明において、第1の添加剤における顔料はカーボンラックである。
【0013】
第4の発明は、上記第1の発明において、第1の層における添加剤の濃度と第2の層における添加剤の濃度とが異なる。言い換えると、第1の層における添加剤の濃度と第2の層における添加剤の濃度とが異なっていればよく、例えば、第1の層にのみ添加剤が添加され、第2の層には添加剤は添加されていない(第2の層における添加剤の濃度はゼロ)ものも含む。
【0014】
第5の発明は、上記第1の発明において、生分解性樹脂は、ポリエステル系樹脂である。
【0015】
第6の発明は、上記第5の発明において、ポリエステル系樹脂は、脂肪族芳香族ポリエステルであり、好ましくはポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)からなる成る群から選ばれる少なくとも1つ以上である。
【0016】
第7の発明は、上記第1の発明において、第1の層における生分解性樹脂と第2の層における生分解性樹脂は同一または異なる。つまり、本発明の第1の層および第2の層における生分解性樹脂として、例えば、樹脂A、樹脂B、樹脂Bを用いることを想定している場合、第1の層と第2の層とは、それぞれ樹脂A+樹脂B+樹脂Cからなってもよいし、第1の層は樹脂Aのみから、第2の層は樹脂A+樹脂B+樹脂Bからそれぞれなってもよい。
【0017】
第8の発明は、上記第6の発明において、第1の層と第2の層とに前記添加剤が添加されている。また、第1の層または第2の層は、つまり、どちらか一方の層はポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、およびポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1枚のフィルムでありながら、使用状況に応じて分解速度を選択することのできる生分解性マルチフィルムを提供することができる。すなわち、例えば、栽培期間の長い農作物を栽培する場合には本発明に係る生分解性マルチフィルムのある面を土壌面と接するように展張し、栽培期間の短い農作物を栽培する場合には本発明に係る生分解性マルチフィルムのもう片方の面を土壌面と接するように展張すれば、異なる2種の分解速度(フィルムを展張してからすき込むまでの期間)のどちらかを選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態に係るマルチフィルム(1)の断面の一例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願人は、鋭意検討した結果、分解速度の比較的速い層と分解速度の比較的遅い層とを有するフィルムとすることで、1枚のフィルムでありながら、使用状況に応じて分解速度を選択することのできる生分解性マルチフィルムを得るに至った。
【0021】
つまり、これまでは、栽培する農作物に応じて(フィルムを展張してからすき込むまでの期間を考慮して)、数ある生分解性マルチフィルムの中から最適な生分解性マルチフィルムを選択する必要があった。しかしながら、本発明に係る生分解性マルチフィルムは、当該生分解性マルチフィルムにおいて土壌面と接する面を変えることにより、1枚のフィルムでありながら、分解速度を異ならせることができることに特徴がある。
【0022】
すなわち、例えば、栽培期間の長い農作物を栽培する場合には本発明に係る生分解性マルチフィルムの、ある面を土壌面と接するように展張し、栽培期間の短い農作物を栽培する場合には本発明に係る生分解性マルチフィルムの、もう片方の面を土壌面と接するように展張する。このように、1枚のフィルムでありながら、作業者はフィルムの表面または裏面を土壌面と接するように展張することで、異なる2種の分解速度(フィルムを展張してからすき込むまでの期間)のどちらかを選択することが可能となる。
【0023】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本実施形態は一例であって、この説明は本発明を限定するものではない。従って、本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。
【0024】
なお、以下の説明では生分解性マルチフィルムは農業用マルチフィルムとして用いられる場合を想定している。また、以下の説明において、本発明の一実施形態に係る生分解性マルチフィルムのことを単にマルチフィルムと称す。
【0025】
図1は、一実施形態に係るマルチフィルム(1)の断面の一例を示した図である。図1に示すように、一実施形態に係るマルチフィルム(1)は、S層と中間層とF層とから形成されている。なお、図1に示したマルチフィルム(1)につき、図1の(a)と(b)とを示したのは、当該マルチフィルム(1)の使用態様を説明するためである。
【0026】
上述したように、一般的に農業用マルチフィルムは、土壌表面を覆うためのフィルムである。ここで、例えば、当該マルチフィルム(1)を畑などの土壌に展張する場合を想定すると、図1の(a)であれば、下側の層、すなわちF層が土壌表面と接することになる。一方、図1の(b)であれば、下側の層、すなわちS層が土壌表面と接することになる。なお、図1において、土壌の図示は省略している。
【0027】
次に、図1に示したマルチフィルム(1)の各層について説明する。
【0028】
(S(Slow)層)
本実施形態に係るマルチフィルム(1)のS層は、生分解性樹脂を主に用いてなるものであり、後述する添加剤がS層に添加されている。なお、後述より明らかとなるが、当該S層の分解速度は、後述のF層に比べて遅い。
【0029】
まず、生分解性樹脂から説明すると、当該生分解性樹脂は、例えば、化学合成系の生分解性樹脂であり、ポリエステル系樹脂、具体的には脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂等を挙げることができる。
【0030】
より具体的には、脂肪族ポリエステル系樹脂の例として、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸/ジオールカルボン酸・ジカルボン酸共重合体、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(PBS/A)、ポリ(ブチレンサクシネート−コ−アジペート)(PBS/A)、ポリ(カプロラクトンブチレンサクシネート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネイト)(PEC)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリエチレンサクシネートアジペート共重合体などを挙げることができる。
【0031】
また、芳香族ポリエステル系樹脂の例としては、例えば、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート−コ−テレフタレート)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)(CPE)、ポリ(エチレンテレフタレート共重合体)(CPE)などを挙げることができる。
【0032】
さらに、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂等の他に、ポリビニルアルコール(PVA)やポリグリコール酸なども挙げることができる。
【0033】
なお、S層に用いられる生分解性樹脂は、上記した化学合成系の生分解性樹脂に限らず、例えば、微生物産系の生分解性樹脂や天然物系の生分解性樹脂等も挙げることができる。例えば、上記微生物産系の生分解性樹脂の一例として、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、マルトトリオースなどがある。
【0034】
また、天然物系の生分解性樹脂の一例として、例えば、澱粉脂肪酸エステル、澱粉ポリエステル、酢酸セルロース、キトサンなどがある。
【0035】
なお、S層における生分解性樹脂は、上記した各樹脂を1種類単独または2種類以上を適宜組み合わせて当該S層における生分解性樹脂としてもよい。
【0036】
次に、S層に添加されている添加剤について説明する。
【0037】
S層に添加される添加剤とは、耐候性を向上、つまり耐加水分解性を向上させ、分解速度を遅く(抑制)させるためのものである。具体的には、S層に添加される添加剤は、顔料(黒:カーボンブラック等、シルバー:アルミなど)等である。また、添加剤は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤や、加水分解抑制剤等でもよい。
【0038】
ここで、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−tert−ブチル−4’−(2−メタクロイルオキシエトキシエトキシ)ベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノンなどが挙げられるが、これらはベンゾフェノン系紫外線吸収剤の一例であって、公知のベンゾフェノン系紫外線吸収剤を1種類単独、または2種類以上を適宜組み合わせて上記添加剤中に配合してもよい。
【0039】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−ドデシル−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−アルコキシカルボニルエチルフェニル)トリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレンビス(4−tert−オクチル−6−ベンゾトリアゾリルフェノール)、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾールのポリエチレングリコールエステル、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(ドデシル)−4−メチルフェノールなどが挙げられるが、これらはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の一例であって、公知のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を1種類単独、または2種類以上を適宜組み合わせて上記添加剤中に配合してもよい。
【0040】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンなどが挙げられるが、これらはトリアジン系紫外線吸収剤の一例であって、公知のトリアジン系紫外線吸収剤を1種類単独、または2種類以上を適宜組み合わせて上記添加剤中に配合してもよい。
【0041】
なお、添加剤には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤に加えて、ヒンダードアミン系光安定剤(単にHALSと記載されたり、ハルスと称されたりすることもある)が配合されてもよい。
【0042】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカン、1,6(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イルアミノウンデカンなどが挙げられるが、これらはヒンダードアミン系光安定剤の一例であって、公知のヒンダードアミン系光安定剤を1種類単独、または2種類以上を適宜組み合わせて上記添加剤中に配合してもよい。
【0043】
また、上記加水分解抑制剤は、例えば、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキソゾリン系化合物などが挙げられる。この中でも本実施形態で説明した樹脂成分であるポリエステル系樹脂の加水分解を抑制できるカルボジイミド化合物が望ましい。なお、当該カルボジイミド化合物のとしては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ナフチルカルボジイミドなどを挙げることができる。
【0044】
なお、上記添加剤には、上述した顔料、紫外線吸収剤、HALS、加水分解抑制剤の少なくとも1つが配合されていればよいが、添加剤にHALSを配合した場合、併せて紫外線吸収剤を配合するのが好ましい。また、さらに、顔料(特にカーボンブラック)を配合してもよい。
【0045】
このように、本実施形態に係るマルチフィルム(1)のS層は、1種単独または2種以上の生分解性樹脂を主に用いてなり、上述した添加剤がS層に添加されているものである。なお、以下の説明において添加剤とは、顔料、紫外線吸収剤、HALS、加水分解抑制剤の何れかのことを示すものとする。
【0046】
また、上記添加剤の他に必要に応じて可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤等が、さらにS層に添加されてもよい。
【0047】
次に中間層についてであるが、当該中間層は上述したS層や、後述するF層と同様の構成であってもよい。言い換えると、本発明に係るマルチフィルム(1)の一例として、図1の(a)や(b)では中間層を有する例を示したが、本発明に係るマルチフィルム(1)において中間層は無くともよい。つまり、本発明に係るマルチフィルム(1)は、上述したS層と、後述するF層とを有していることに特徴がある。
【0048】
次に、図1に示したマルチフィルム(1)のF層について説明する。
【0049】
(F(Fast)層)
本実施形態に係るマルチフィルム(1)のF層は、S層と同様に生分解性樹脂を主に用いてなるものであるが、当該F層に添加される添加剤は、上述したS層に添加されている添加剤と異なっている。また、当該F層の分解速度は、上述したS層に比べて速い。
【0050】
なお、以下では、F層における生分解性樹脂は上述したS層における生分解性樹脂と同様ものを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いても構わないので説明は省略し、F層に添加される添加剤について説明する。
【0051】
F層に添加される添加剤とは、耐候性を低下、つまり耐加水分解性を低下させ、分解速度を速く(促進)させるためのものである。例えば、F層に添加される添加剤は、無機充填剤、顔料(グリーン)、でんぷん(コーンスターチ、小麦、米、ばれいしょ)等である。
【0052】
ここで、上記無機充填剤とは、例えば、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等、より具体的には、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、パーライト、アルミナ、ゼオライト、セピオライト、蛭石、活性白土、カオリン、タルク、ハイドロタルサイト、ベントナイト、ケイソウ土、活性炭等の無機粉末等を挙げることができる。さらに、公知の有機粉末もF層に添加される添加剤として添加してもよい。
【0053】
なお、上述したS層と同様にF層にも必要に応じて可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤等が、さらに添加されてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例に基づき更に詳細に本発明を説明するが、本発明の実施例のみに限定されるのではなく、本発明の効果を損なわない量的質的範囲で、各含有成分の組成の組み合わせ等を変更してもよい。
【0055】
[マルチフィルムの作製]
まず、実施例1〜5、および比較例1〜3にそれぞれ係るマルチフィルムを作製するにあたり、各実施例および比較例にそれぞれ係るマルチフィルムにおけるS層、中間層、F層をそれぞれ作製した。そして、得られたS層、中間層、F層を共押出しTダイ法、共押出し空冷インフレーション法、共押出し水冷インフレーション法等を用いて3層からなるマルチフィルムをそれぞれ作製した(表1参照)。なお、各実施例および比較例にそれぞれ係るマルチフィルムの詳細については後述する。
【0056】
[マルチフィルムの評価]
次に、それぞれ作製されたマルチフィルムについて評価を行った。具体的には、表1に示すように、それぞれ作製されたマルチフィルムの使用期間について評価を行った。なお、評価基準は以下の通りである。
短期:使用期間の目安が2ヶ月程度
標準(基準):使用期間の目安が3ヶ月程度
長期:使用期間の目安が4ヶ月程度
【0057】
ここで、使用期間の目安とは、例えば、上記標準の場合、マルチフィルムを土壌に展張後約2ヶ月程度で当該マルチフィルムの分解が始まり、おおよそ3ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能なことをいう。なお、以下の説明において、上記標準を基準として、使用期間の目安が長い場合を長期、つまり分解が遅いことを示し、使用期間の目安が短い場合を短期、つまり分解が速いことを示すものとする。
【0058】
さらに、表1に示してあるように、各実施例および比較例にそれぞれ係るマルチフィルムにつき、S層を表側として使用した場合とF層を表側として使用した場合とで使用期間について評価を行った。
【0059】
なお、S層を表側として使用とは、下側の層、すなわちF層が土壌表面と接するようにマルチフィルムを畑などの土壌に展張し場合(図1であれば(a))のことであり、F層を表側として使用とは、下側の層、すなわちS層が土壌表面と接するようにマルチフィルムを畑などの土壌に展張し場合(図1であれば(b))のことである。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例1に係るマルチフィルム)
実施例1に係るマルチフィルムの厚さは約0.02mmである。なお、後述する実施例2〜5、および比較例1〜3にそれぞれ係るマルチフィルムの厚さも約0.02mmである。
〈S層〉
樹脂成分:PBS(ポリブチレンサクシネート:昭和電工社製の商品名ビオレート♯1001)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート:昭和電工社製の商品名ビオレート♯3001)、およびPBAT(ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート):BASFジャパン株式会社製の商品名Ecoflex)
添加剤:カーボンブラック
〈中間層〉
樹脂成分:PBS(ポリブチレンサクシネート:昭和電工社製の商品名ビオレート♯1001)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート:昭和電工社製の商品名ビオレート♯3001)、およびPBAT(ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート):BASFジャパン株式会社製の商品名Ecoflex)
添加剤:カーボンブラック
〈F層〉
樹脂成分:PBS(ポリブチレンサクシネート:昭和電工社製の商品名ビオレート♯1001)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート:昭和電工社製の商品名ビオレート♯3001)、およびPBAT(ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート):BASFジャパン株式会社製の商品名Ecoflex)
添加剤:なし
【0062】
なお、上記実施例1に係るマルチフィルムのF層には添加剤は添加されていないが、分解速度を速くさせるための添加剤(無機充填剤、顔料、でんぷん、加水分解促進剤等)を1種単独または2種類以上添加してもよい。
【0063】
(実施例2に係るマルチフィルム)
〈S層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
〈中間層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
〈F層〉
樹脂成分は、上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様であるが、添加剤はカーボンブラックに加えて、耐候性を低下、つまり耐加水分解性を低下させ、分解速度を速くさせるための添加剤(無機充填剤、顔料、でんぷん、加水分解促進剤等)が1種単独または2種類以上添加されている。
【0064】
(実施例3に係るマルチフィルム)
〈S層〉
樹脂成分:PSB(リブチレンサクシネート:昭和高分子社株式会社製の商品名ビオレート)
添加剤:カーボンブラック
〈中間層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
〈F層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
【0065】
(実施例4に係るマルチフィルム)
〈S層〉
樹脂成分:PBAT(ポリブチレンアジペート/テレフタレート):BASF社製の商品名Ecoflex)、およびPBSA/PLAブレンド物(ポリブチレンアジペートテレフタレート/ポリ乳酸ブレンド物:BASF社製の商品名エコバイオ)
または、PBAT(ポリブチレンアジペート/テレフタレート):BASF社製の商品名Ecoflex)、およびPLA(ポリ乳酸ブレンド物:大神薬化社製の商品名レヴォダ)
添加剤:カーボンブラック
〈中間層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
〈F層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
【0066】
(実施例5に係るマルチフィルム)
実施例5に係るマルチフィルムは、上述した実施例1に係るマルチフィルムにおいて、中間層を有しないものである。
【0067】
なお、上述した各実施例に係るマルチフィルムにおいて、樹脂成分としてPBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)を含むものがあるが、当該PBSAは無くともよい。
【0068】
(実施例6に係るマルチフィルム)
〈S層〉
樹脂成分:上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層と同様。
添加剤:UV吸収剤
〈中間層〉
樹脂成分:上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層と同様。
添加剤:UV吸収剤
〈F層〉
上述した実施例1に係るマルチフィルムのF層と同様。
【0069】
(実施例7に係るマルチフィルム)
〈S層〉
樹脂成分:上述した実施例5に係るマルチフィルムのS層と同様。
添加剤:UV吸収剤
〈中間層〉
なし
〈F層〉
上述した実施例5に係るマルチフィルムのF層と同様。
【0070】
(比較例1に係るマルチフィルム)
比較例1に係るマルチフィルムは、S層、中間層、F層すべて同じものである。具体的には、各層は上述した実施例1に係るマルチフィルムのS層(中間層)と同様。
【0071】
(比較例2に係るマルチフィルム)
比較例2に係るマルチフィルムは、上述した比較例1に係るマルチフィルムにおいて、中間層を有しないものである。
【0072】
(比較例3に係るマルチフィルム)
比較例3に係るマルチフィルムは、上述した比較例1に係るマルチフィルムにおいて、S層およびF層を有しない、つまり中間層のみの単層とするものである。
【0073】
次に、各実施例および比較例に係るマルチフィルムの評価について、表1を参照しつつ説明する。具体的には、S層、中間層、F層のそれぞれの層において樹脂成分および添加剤がそれぞれ同じ表1の比較例の評価結果に基づき各実施例の評価結果について説明する。
【0074】
まず、実施例1、2、6、7に係るマルチフィルムについて、S層を表側として使用した場合、すなわちF層が土壌表面と接するように使用した場合のすき込み可能期間は標準であった。しかしながらF層を表側として使用した場合、すなわちS層が土壌表面と接するように使用した場合のすき込み可能期間は、S層を表側として使用した場合と比べて短くなった。つまり、実施例1、2、6、7に係るマルチフィルムを使用する場合、S層を表側として使用すれば分解速度は標準(およそ3ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となるが、F層を表側として使用すれば分解速度は速くなる(およそ2ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となる。
【0075】
次に、実施例3および実施例4に係るマルチフィルムについて、S層を表側として使用した場合、すき込み可能期間は長くなった。つまり、実施例3および実施例4に係るマルチフィルムを使用する場合、F層を表側として使用すれば分解速度は標準(およそ3ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となるが、S層を表側として使用すれば分解速度は遅くなる(およそ4ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となる。
【0076】
なお、本発明に係るマルチフィルムにおいて、上述した中間層は必須ではない。つまり、例えば、実施例5、7に示すように、中間層が無くともF層を表側として使用すれば分解速度は標準(およそ3ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となるが、S層を表側として使用すれば分解速度は遅くなる(およそ4ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となる。
【0077】
なお、同様に例えば、実施例1および/または実施例2において中間層は無くともよい。つまり、表1には示していないが、S層を表側として使用すれば分解速度は標準(およそ3ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となるが、F層を表側として使用すれば分解速度は速くなる(およそ2ヶ月程度で土壌へのすきこみが可能)となる。
【0078】
このように、マルチフィルムの各層における添加剤の配合および樹脂成分を変えることで1枚のフィルムでありながら、作業者はフィルムの表面(例えばS層)または裏面(例えばF層)を土壌面と接するように展張することで、異なる2種の分解速度(フィルムを展張してからすき込むまでの期間)のどちらかを選択することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る生分解性マルチフィルムは、土壌の温度を一定に保ち農作物の育成を促したり、日光から遮断したりすることによって雑草の生育を防いだりするために、土壌表面の一部を覆う農業用フィルム等に好適である。
【符号の説明】
【0080】
1…マルチフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加剤または樹脂成分の少なくとも何れか一方によって分解速度が制御された生分解性マルチフィルムであって、
前記生分解性マルチフィルムは、少なくとも第1の層と第2の層とから形成され、
前記第1の層と前記第2の層とは生分解性樹脂からなり、
前記第1の層および前記第2の層の少なくとも何れか一方に前記添加剤を添加するか、または前記樹脂成分を選択することによって前記第1の層の分解速度と前記第2の分解速度とが異なり、
前記第1の層と前記第2の層とは前記生分解性フィルムの表層であり、前記第1の層または前記第2の層の何れか片方を土壌表面と接するように土壌に展張する、生分解性マルチフィルム。
【請求項2】
前記添加剤には第1の添加剤と第2の添加剤とがあり、
前記第1の層および前記第2の層の少なくとも何れか一方に前記第1の添加剤または前記第2の添加剤を添加することにより当該第1の層の分解速度と当該第2の分解速度とが異なり、
前記第1の添加剤は、顔料、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、加水分解抑制剤から成る群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記第2の添加剤は、無機充填剤、でんぷん、加水分解促進剤、前記第1の添加剤における顔料と異なる顔料から成る群から選ばれる少なくとも1つである特徴とする、請求項1に記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項3】
前記第1の添加剤における顔料はカーボンラックであることを特徴とする、請求項2に記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項4】
前記第1の層における前記添加剤の濃度と前記第2の層における前記添加剤の濃度とが異なることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項5】
前記生分解性樹脂は、ポリエステル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂は、脂肪族芳香族ポリエステルであり、好ましくはポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)からなる成る群から選ばれる少なくとも1つ以上であることを特徴とする、請求項5に記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項7】
前記第1の層における前記生分解性樹脂と前記第2の層における前記生分解性樹脂は同一または異なることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項8】
前記第1の層と前記第2の層とに前記添加剤が添加されており、
前記第1の層または前記第2の層は、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、およびポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PBAT)からなることを特徴とする、請求項6に記載の生分解性マルチフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−205552(P2012−205552A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74414(P2011−74414)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】