説明

生分解性マルチフィルム

【課題】本発明は、土壌保水性が高く作物の生育性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、特には、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムを提供せんとするものである。
【解決手段】ガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲にもつ組成物からなり、65℃で30分間処理した時の熱収縮率Sm(巻長さ方向)、熱収縮率St(幅方向(巻長さ方向と垂直な方向))がそれぞれ以下の条件を満たすことを特徴とする生分解性マルチフィルム。
3St≦Sm
2≦Sm≦5(%)
−1≦St≦2(%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌保水性が高く作物の生育性に優れ、また風雨に曝されても破れにくい、畝への密着性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、特には、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、農業用分野において、作物の生育、収穫量を向上させることを目的として農業用マルチフィルムが広く用いられている。農業用マルチフィルムの一般的な使用方法としては、山型または台型の断面を持ち細長く直線状に土を盛り上げた畝を立て、畝を被覆してその土壌表面を覆い使用する。作物はマルチフィルムに定植用の穴を空けてそこから苗を植え込む。マルチフィルムは、例えば、苗が土壌に十分根を張るまでの期間の土壌の保水や保温、苗が生育し作物が収穫されるまでの雑草の繁殖抑制や畝の形状維持などの目的で使用されている。
【0003】
この農業用マルチフィルムにはポリエチレンに代表されるポリオレフィンからなるものが多いが、ポリオレフィンは自然環境下に放置されても生分解しないため使用後は回収する必要がある。また、使用後の物理的に劣化し汚れたマルチフィルムは再利用が難しく、ほとんどの場合廃棄するしか方法がないが、それでも廃棄物としての処理費用がかかる問題があった。
【0004】
この問題の解決のために、農業用マルチフィルムとして使用する期間は従来のポリオレフィン製のマルチと同様に使用でき、しかも使用後にそのまま地中に鋤込むことにより土壌中の微生物によって完全分解する、生分解性を有する農業用マルチフィルムが検討されている。これらの生分解性マルチフィルムには、特定の構造を有する脂肪族ポリエステルなどの生分解性樹脂を用いたフィルムが検討されている。しかしながら、ポリオレフィンに比較すると上記の生分解性樹脂は水蒸気を通し易い性質を有し、マルチフィルムとした際には土壌の保水性に劣り、土壌が乾燥しすぎて作物の生育性に劣る欠点があった。
【0005】
特許文献1には、水蒸気バリヤー性付与剤として脂肪酸アミド類やワックス類を配合または塗布し、さらに充填剤としてタルクを併用する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、生分解性樹脂の中でも比較的水蒸気透過率の低い芳香族脂肪族ポリエステルを少なくとも20質量部含有しさらに無機充填剤を10〜50質量部含有する生分解性マルチフィルムについて開示されている。
【0007】
また、従来、生分解性マルチフィルムとしては、石油由来原料から製造された軟質系の生分解性樹脂を中心に開発されてきた。近年、大気中の炭酸ガス濃度増加による地球温暖化問題が世界的な問題となりつつあり、プラスチック製品の分野においては、本来大気中の炭素源(炭酸ガス)に由来する植物由来原料のプラスチックが注目されている。中でも、透明性に優れ、コスト面でも比較的有利なポリ乳酸について、生分解性マルチフィルムとしての実用化検討が進められている。ポリ乳酸を、ポリオレフィンに代表される軟質フィルム用途に適用しようとすると柔軟性や耐衝撃性に欠けるため、これらの特性を改善し実用化するために各種の試みがなされている。
【0008】
例えば、特許文献3には、ポリ乳酸に多価アルコールエステルやヒドロキシ多価カルボン酸エステルの可塑剤、耐ブロッキング剤としてSiO、さらに滑剤を添加した組成物よりなるフィルムが開示されている。特許文献4には、ポリ乳酸、ガラス転移点が0℃以下の脂肪族ポリエステル、および可塑剤からなるフィルムが開示されている。特許文献5には、乳酸系樹脂と可塑剤からなる、主にストレッチ包装用途への展開を目指したフィルムについて開示されている。特許文献6には、D体濃度の異なる複数種類のポリ乳酸と可塑剤からなるフィルムをさらに結晶化処理したフィルムについて開示されている。特許文献7には、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルおよび特定の可塑剤からなるフィルムについて開示されている。特許文献8には、ポリ乳酸とガラス転移温度が0 ℃ 以下の生分解性脂肪族芳香族共重合ポリエステルとオキシ酸エステル系可塑剤と無機質充填材とからなるマルチフィルムについて開示されている。
【0009】
特許文献9には、ポリ乳酸と常温で固体状の可塑剤を用いた、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−352987号公報
【特許文献2】特開2005−192465号公報
【特許文献3】特開平8−34913号公報
【特許文献4】特開2000−273207号公報
【特許文献5】特開2003−12834号公報
【特許文献6】特開2006−45290号公報
【特許文献7】特許3753254号公報
【特許文献8】特開2004−57016号公報
【特許文献9】特開2009−138085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載の技術では、脂肪酸アミド類やワックス類の添加量を増やしすぎると樹脂粘度が大幅に低下しマルチフィルム用途で一般的なインフレーション法での製膜に支障を来すためその添加量は限定的である。また塗布する場合も塗布量を増やしすぎるとブロッキングし易くなったり、滑り易くなり使用前に巻形状が崩れやすくなるなどその塗布量も限定的であり、マルチフィルムとした際の土壌の保水性は不十分な技術であった。
【0012】
特許文献2に記載の技術は、芳香族脂肪族ポリエステルは確かに生分解性樹脂中では水蒸気透過率は比較的低いものの、ポリオレフィンとの比較においてその差は依然として小さくなく、また無機充填剤の添加による効果も限定的なため、マルチフィルムとした際の土壌の保水性は不十分な技術であった。
【0013】
特許文献3〜8の技術ではいずれも常温で液状の可塑剤を用いる技術のため、ポリ乳酸に柔軟性、耐衝撃性等を付与する点では一定の効果があったものの、添加した可塑剤が本質的にブリードし易く性能の経時安定性が不足し、またブロッキングもし易いなど実用的な技術ではなかった。また、これらのフィルムをマルチフィルムとした際にはポリオレフィンに比較すると土壌の保水性に劣り、土壌が乾燥しすぎて作物の生育性に劣る欠点があった。また左記の欠点を補う技術については、何ら有効な示唆はなかった。
【0014】
特許文献9に記載の技術は、特許文献3〜8に記載の技術と同様に、ポリオレフィンに比較するとこれらのフィルムは水蒸気を通し易い性質を有し、マルチフィルムとした際には土壌の保水性に劣り、土壌が乾燥しすぎて作物の生育性に劣る欠点があった。また左記の欠点を補う技術については、何ら有効な示唆はなかった。
【0015】
以上のように、土壌保水性が高く作物の生育性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、さらには、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムに関して種々の検討がなされてきたが、未だに達成されていなかった。
【0016】
そこで本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、土壌保水性が高く作物の生育性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、特には、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の生分解性マルチフィルムは、
ガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲にもつ組成物からなり、65℃で30分間処理した時の熱収縮率Sm(巻長さ方向)、熱収縮率St(幅方向(巻長さ方向と垂直な方向))がそれぞれ以下の条件を満たすことを特徴とする生分解性マルチフィルム。
3St≦Sm
2≦Sm≦5(%)
−1≦St≦2(%)
また、上記生分解性マルチフィルムの好ましい態様は、(1)厚みが18μm以下であること、(2)前記組成物が、ポリ乳酸系樹脂を30質量%以上95質量%以下、可塑剤を5質量%以上30質量%以下含む組成物からなること、(3)前記組成物が、脂肪族芳香族ポリエステルを5質量%以上45質量%以下含むこと、(4)明細書に規定する密着剥離力Asが15g/15mm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、土壌保水性が高く作物の生育性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、特には、柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムが提供される。本発明は、また風雨に曝されても破れにくい、畝への密着性に優れており、生分解性マルチフィルムとして好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、前記課題、つまり土壌保水性が高く作物の生育性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、さらには柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムについて鋭意検討した結果、特定の熱的性質および収縮特性を有した生分解性マルチフィルムとすることで畝への密着性が格段に向上し、その結果高い土壌保水性を発揮することを見出した。また、この畝への密着効果により、風雨に曝されても破れにくいなど他の機械特性にも優れることを見出し、かかる課題の解決に初めて成功したものである。
【0020】
以下、本発明の生分解性マルチフィルムについて説明する。
【0021】
本発明で言うマルチフィルムとは、対象物を覆って使用するためのフィルムを意味し、例えばマルチフィルムの一態様である農業用マルチフィルムにおいては、作物の存在する土壌表面を覆うために使用するフィルムである。
【0022】
本発明の生分解性マルチフィルムの生分解性とは、JIS K6953−2000に従って求められた生分解度が、90日以内に60%以上100%以下となるものと定義する。一般的な農業用マルチフィルムの使用期間は、短くとも通常約3ヶ月程度はあるため、前記生分解度が90日以内に60%以上100%以下となる生分解度を有していることが必要である。
【0023】
本発明の発明者らは、従来の生分解性マルチフィルムの大きな欠点である、土壌の保水性に劣り、土壌が乾燥しすぎて作物の生育性に劣る点について鋭意検討を行った結果、従来とは全く異なる観点からこの課題に取り組み上記の欠点を改善する方法を見出した。すなわち、ガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲にもつ組成物からなり、かつ65℃で30分間処理した時の熱収縮率Sm(巻長さ方向)、熱収縮率St(幅方向(巻長さ方向と垂直な方向))について特定の条件を満たすSm、Stを有するフィルムとすることで、そのフィルムを用いて田畑等の畝を被覆した際には、フィルムが徐々にかつ適度に収縮して畝に密着するというものである。
【0024】
通常、マルチフィルムにて被覆された畝が含む土壌中の水分は、マルチの内面(土壌側)から外面(外界側)へマルチフィルム中を直接通り抜けて蒸散していくものもあるが、実際にはマルチフィルムには作物を植えるためのいわゆる定植穴が等間隔で空けられ開口部として存在するため、この定植穴から蒸散していく水分量の方が圧倒的に多い。この定植穴は作物にもよるが通常穴の直径は小さくても5cm程度以上であり、穴の間隔も15〜60cm程の間隔でいくつも空けられている。そのため、畝とマルチフィルムの間の隙間があり、また、その隙間が定植穴まで通じている場合、土壌から蒸発した水分はその隙間を通り定植穴から自由にマルチフィルム外側へ抜け、マルチフィルム内部の土壌付近の空気は常に比較的湿度の低い状態となる。そのためさらに土壌からの水分の蒸発が進み易くなり水分の蒸散は加速度的に進行していく。
【0025】
一般的なポリエチレンやその他の生分解性マルチフィルムなどの場合、これらを構成する組成物のTgは0℃以下であり、かつSm、Stは本発明の生分解性マルチフィルムとは大きく異なり、Sm、Stとも2%未満である場合がほとんどである。そしてこれらのフィルムでは、展張後もほとんど収縮しない。そのため、たとえ展張時には隙間なく畝に密着させたとしても、畝立て/展張後には時間の経過と共に土壌が落ち着いて徐々に畝が締まっていくため、畝の土壌表面とマルチフィルムとの隙間は広がっていく一方となる。そうなると、土壌から蒸発した水分はその隙間を通り定植穴から自由にマルチフィルム外側へ抜け、前述した通り水分の蒸散は加速度的に進行していく。
【0026】
一方で、本発明の生分解性マルチフィルムは、畝立て/展張後には時間の経過と共に土壌が落ち着いて徐々に畝が締まっていく場合でも、フィルムが徐々にかつ適度に収縮して畝に密着した状態を常に維持する特性を有している。そのため、上述した定植穴からの水分の蒸散を有効に抑制し、土壌水分を良好に長期間保持することができる。さらには、畝にマルチフィルムが常に密着する副次的効果として、強い風雨に曝されてもマルチフィルムがはためきにくく破れにくい、マルチフィルム内に発生した雑草も高温の土壌に押しつけられるため繁茂を有効に抑制できるなどの効果がある。
【0027】
上述の効果を有する本発明の生分解性マルチフィルムは、ガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲にもつ組成物からなる。ここで、ガラス転移温度Tgとは、本発明のフィルムを構成する組成物の値であり、本発明のフィルムそのものを後述する方法で測定して得られる値である。Tgが0℃以上45℃以下の組成物としては、その構成に特に制限はないが、例えば、2種類以上のポリマーの混合物であっても良いし、ポリマーと可塑剤の混合物であっても良いし、また単一のポリマーであっても良い。なお、フィルムを構成する組成物のガラス転移温度は、0℃以上45℃以下の範囲であることが重要であり、この範囲にさえガラス転移温度が存在すれば、この温度範囲外にガラス転移温度が存在しても、特に問題にはならない。また、フィルムが徐々にかつ適度に収縮して畝に密着した状態を常に維持する特性を効果的に付与する観点からは、フィルムを構成する組成物のガラス転移温度は、45℃超の温度範囲に存在しないことが好ましい。
【0028】
2種類以上のポリマーの混合物および/またはポリマーと可塑剤の混合物である態様において、それぞれポリマーどうしあるいはポリマーと可塑剤どうしが相溶性である場合、組成物のTgは単一の温度となる。例えば、後述する本願の好ましい例であるポリ乳酸系樹脂と可塑剤の混合物の場合について説明する。ポリ乳酸系樹脂としてホモポリ乳酸を用いる場合、ホモポリ乳酸のガラス転移温度は57℃である。そして可塑剤としてポリエチレングリコール系の化合物を使用した場合、該可塑剤のガラス転移温度は0℃以下でありホモポリ乳酸の値とは異なる。さらに、ホモポリ乳酸とポリエチレングリコールは互いに相溶性であるため、これらの混合物としての組成物は、ホモポリ乳酸とも可塑剤とも異なる単一のガラス転移温度を持ち、ガラス転移温度Tgが0℃以上45℃以下となる。
【0029】
組成物のTgが0℃未満の場合は、マルチフィルムとしての使用温度に比較して低過ぎるため、製膜後使用前のロールで保管している時点からフィルムの収縮応力が強く巻締まりにより巻姿が悪化する傾向にある。この場合、巻いた状態でシワが発生し巻き出し時にシワの部分が引っかかりなめらかに巻出せなかったり、巻き出したフィルムの平面性が悪く部分的に機械特性が低下してしまう場合があるなど、実用性を欠いたフィルムとなる場合がある。組成物のTgが45℃を越える場合は、マルチフィルムとしての使用温度に比較して高過ぎるため、展張後もあまり収縮せず畝への密着効果が不十分となる。そのため、上記した観点からフィルムを構成する組成物のTgは、マルチフィルム使用温度に近い程良く、フィルムを構成する組成物のTgが30℃以上38℃以下であることが好ましい。
【0030】
ガラス転移温度Tgが0℃以上45℃以下の組成物としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート・サクシネートなどの脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸よりなるポリエステル共重合体や、グリコール酸と乳酸よりなるポリヒドロキシカルボン酸共重合体などの各種ランダム共重合ポリマー、あるいはポリ乳酸系樹脂と可塑剤との混合物などの可塑剤添加ポリマーなどが挙げられる。近年、本来大気中の炭素源(炭酸ガス)に由来する植物由来原料のプラスチックが注目されていることから、植物由来原料であり経済的に生産可能なポリ乳酸系樹脂と可塑剤の混合物の使用が好ましい。
【0031】
本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、L−乳酸および/またはD―乳酸を主成分とし、乳酸由来の成分が70質量%以上100質量%以下のものが好ましく、実質的にL−乳酸および/またはD―乳酸からなるホモポリ乳酸が好ましく用いられる。
【0032】
また本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は結晶性を有することが好ましい。ポリ乳酸系樹脂が結晶性を有するとは、該ポリ乳酸系樹脂を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量分析(DSC)測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されることを言う。
【0033】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂が結晶性を有する場合には、該ポリ乳酸系樹脂を含んだ組成物をフィルムとした際の耐ブロッキング性の付与に好適である。通常、ホモポリ乳酸は、光学純度が高いほど融点や結晶性が高い。ポリ乳酸の融点や結晶性は、分子量や重合時に使用する触媒の影響を受けるが、通常、光学純度が98%以上のホモポリ乳酸では融点が約170℃程度であり結晶性も比較的高い。また、光学純度が低くなるに従って融点や結晶性が低下し、例えば光学純度が88%のホモポリ乳酸では融点は約145℃程度であり、光学純度が75%のホモポリ乳酸では融点は約120℃程度である。光学純度が70%よりもさらに低いホモポリ乳酸では明確な融点は示さず非結晶性となる。
【0034】
さらに、本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、結晶性を有するホモポリ乳酸と非晶性のホモポリ乳酸を混合することが好ましい。使用するポリ乳酸系樹脂の総量を100質量部として非晶性のホモポリ乳酸の割合は50質量部以上90質量部以下であることが好ましい。この範囲の場合、常温でも適度の潜在的な収縮応力を有するマルチフィルムとし易く、マルチフィルムとして畑等の畝を被覆した際には、フィルムが徐々にかつ適度に収縮し良好に畝に密着する効果を得やすい。
【0035】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、通常少なくとも5万、好ましくは8万〜40万、さらに好ましくは10万〜30万である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0036】
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量を少なくとも5万とすることで、該ポリ乳酸系樹脂を含んだ組成物をフィルムに加工した際には、機械的物性が優れたものとすることができる。
【0037】
また、本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、上記した共重合成分の中でも、生分解性を有する成分を選択することが好ましい。
【0038】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、詳細は後述するが、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0039】
本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、ホモポリ乳酸のガラス転移温度は約57℃であるため、本発明のフィルムを構成する組成物のTgを0度以上45度以下に制御するために、ガラス点移温度を低下させる成分を選択して共重合したポリ乳酸か、またはガラス転移温度を低下させる可塑剤を混合して使用する必要がある。前者の場合、重量平均分子量で5万以上の共重合ポリ乳酸を得るには比較的長時間の重合時間を要するため経済的に不利であり、比較的安価に製造可能なホモポリ乳酸と可塑剤を併用する後者の方が経済的に有利である。
【0040】
本発明のフィルムを構成する組成物として、ポリ乳酸系樹脂と可塑剤の混合物とする場合、ポリ乳酸系樹脂を30質量%以上95質量%以下、可塑剤を5質量%以上30質量%以下含む組成物からなることが好ましい。この場合、特に植物由来原料の実用化技術として相応しく、また、生分解性マルチフィルムとした際に実用的に十分な柔軟性を付与することも可能である。
【0041】
また、本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、後述するように、ポリ乳酸系樹脂および可塑剤以外に脂肪族芳香族ポリエステルをさらに含むことが好ましい。このような観点から、本発明の生分解性マルチフィルムを構成する組成物は、前述のポリ乳酸系樹脂を30質量%以上90質量%以下、可塑剤を5質量%以上25質量%以下含むことがより好ましい。
【0042】
本発明に用いることのできる可塑剤としては、常温で液体状のものやあるいは常温で固体状のものが使用可能であるが、例えば、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジシクロヘキシルなどのフタル酸エステル系、アジピン酸ジ−1−ブチル、アジピン酸ジ−n−オクチル、セバシン酸ジ−n−ブチル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどの脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸ジフェニル−2−エチルヘキシル、リン酸ジフェニルオクチルなどのリン酸エステル系、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリ−2−エチルヘキシル、アセチルクエン酸トリブチルなどのヒドロキシ多価カルボン酸エステル系、アセチルリシノール酸メチル、ステアリン酸アミルなどの脂肪酸エステル系、グリセリントリアセテート、トリエチレングリコールジカプリレートなどの多価アルコールエステル系、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油脂肪酸ブチルエステル、エポキシステアリン酸オクチルなどのエポキシ系可塑剤、ポリプロピレングリコールセバシン酸エステルなどのポリエステル系可塑剤、ポリアルキレンエーテル系、エーテルエステル系、アクリレート系などが挙げられ、これらのうち複数種以上の可塑剤の混合物も含まれる。
【0043】
また、農業用途においては、一時的にせよコンポスト・農地への未分解物の残留の可能性を考慮すると、米食品衛生局(FDA)やポリオレフィン等衛生協議会(JHOSPA)などから認可された可塑剤であることが好ましい。かかる可塑剤としては、たとえばトリアセチン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化アマニ油脂肪酸ブチルエステル、アジピン酸系脂肪族ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アジピン酸ジアルキルエステル、ビス(アルキルジグリコール)アジペートまたはポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0044】
本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、可塑剤のブリードアウト抑制やフィルムのブロッキング抑制、寸法安定性を含む使用前の保管時における耐久性の観点から、可塑剤としては、例えば数平均分子量1,000以上のポリエチレングリコールなど、常温で固体状であることが好ましい。同様の観点から、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有し、かつ一分子中に数平均分子量が1,200以上10,0000以下のポリ乳酸セグメントを有するブロック共重合体であることがさらに好ましい。
【0045】
以下、本発明に用いる可塑剤の好ましい様態である上記のブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体可塑剤」と記す)について説明する。
【0046】
ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントの質量割合は、ブロック共重合体可塑剤全体の50質量%未満であることが、より少量の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましく、5質量%超であることが、ブリードアウト抑制の点から好ましい。また、ブロック共重合体可塑剤一分子中のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、1,200以上10,000以下であることが好ましい。ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントが、1,200以上であると、ブロック共重合体可塑剤とポリ乳酸系樹脂との間に十分な親和性が生じ、また、該セグメントの一部は基材であるポリ乳酸系樹脂から形成される結晶中に取り込まれることで、可塑剤分子を基材につなぎ止める作用を生じ、ブロック共重合体可塑剤のブリードアウト抑制に大きな効果を発揮する。ブロック共重合体可塑剤のポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、好ましくは、2,000以上6,000未満である。なお、ブロック共重合体可塑剤の有するポリ乳酸セグメントは、L−乳酸由来の成分がその95質量%以上100質量%以下であるか、あるいはD−乳酸由来の成分がその95質量%以上100質量%以下であることでブリードアウトが特に抑制されるため好ましい。
【0047】
また、ブロック共重合体可塑剤はポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有するが、ポリエーテル系セグメントを有する場合は、より少量の添加で所望の柔軟性を付与できる観点から、ポリエーテル系セグメントとしてポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有することがより好ましく、ポリエチレングリコールからなるセグメントを有することが特に好ましい。ブロック共重合体可塑剤がポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールあるいはポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などのポリアルキレンエーテル、中でも特にポリエチレングリコールなどのポリエーテル系セグメントを有する場合、ポリ乳酸系樹脂との親和性が高いために改質効率に優れ、特に少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を付与できるため好ましい。
【0048】
なお、ブロック共重合体可塑剤がポリアルキレンエーテルからなるセグメントを有する場合、成形時などで加熱する際にポリアルキレンエーテルセグメント部分が酸化や熱分解され易い傾向があるため、後述するヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などの酸化防止剤やリン系などの熱安定剤を併用することが好ましい。
【0049】
ブロック共重合体可塑剤がポリエステル系セグメントを有する場合は、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート・3−ヒドロキシバリレート)、ポリカプロラクトン、あるいはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールとコハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸よりなるポリエステルなどが、ポリエステル系セグメントとして好適に用いられる。なお、可塑剤の生産性やコスト等の理由から、ポリエーテル系セグメントとポリエステル系セグメントのいずれか一方の成分とする場合は、より少量の可塑剤の添加で所望の柔軟性を付与できる観点から、ポリエーテル系セグメントを用いる方が好ましい。
【0050】
さらにまた、ブロック共重合体可塑剤一分子中のポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントの数平均分子量は、7,000以上20,000未満であることが好ましい。上記範囲とすることで、生分解性マルチフィルムを構成する組成物に十分な柔軟性を持たせ、尚かつ、この組成物の溶融粘度を適度なレベルとし、インフレーション製膜法などの製膜加工性を安定させることができる。
【0051】
本発明の生分解性マルチフィルムは、65℃で30分間処理した時の熱収縮率Sm(巻長さ方向)、熱収縮率St(幅方向(巻長さ方向と垂直な方向))がそれぞれ以下の条件を満たす。
3St≦Sm
2≦Sm≦5(%)
−1≦St≦2(%)
Sm>5(%)および/またはSt>2(%)の場合、いずれも巻き取った後のフィルムがロール状態で保管している間に経時で徐々に収縮してしまい、いわゆる巻締りにより巻姿が悪化する。さらには巻き硬度が高くなりすぎてしまい、ブロッキングが発生して巻出しが不安定になってしまう。また、Sm<2(%)の場合は、常温で適度の潜在的な収縮応力を有するフィルムとする事が困難であり、田畑等の畝に展張した際もほとんど収縮せず畝への密着効果が不十分となる。さらにSt<−1(%)の場合は特にフィルム端部の巻姿が悪化、平面性が失われ、巻出しも不安定になってしまう。なおここで、SmおよびStが0未満のマイナスの値をとる場合は、フィルムが伸長することを意味する。
【0052】
また、3St>Smの場合、フィルムの巻長さ方向の収縮率が幅方向の収縮率の3倍よりも小さいことを意味するが、実際に畝に展張した場合は幅方向の収縮率が大きく成り過ぎてしまう。その結果、特に畝の土壌表面に固い突起物が存在したままフィルムが畝に密着したり、発生した雑草がマルチフィルムを過度に押し上げたりする際にはマルチフィルムが局所的に破れやすくなってしまう。
【0053】
また、上記した観点から、Sm,Stはそれぞれ、3.5≦Sm≦5(%)、0≦St≦1(%)の範囲が好ましい。
【0054】
本発明の生分解性マルチフィルムは、明細書に規定する密着剥離力Asが10g/15mm以下であることが好ましい。本発明の生分解性マルチフィルムは、ガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲に持つ組成物からなり、常温でも適度の潜在的な収縮応力を有するフィルムであるため、一般的なポリエチレン等のマルチフィルムよりも比較的ブロッキングし易い傾向にある。しかしながら、密着剥離力が10g/15mm以下の場合、製膜後一定期間保管の後使用する際においてもブロッキング等の問題がなく、良好な巻き出し性を維持できる。密着剥離力をAsが10g/15mm以下とするためには、例えば主成分がポリマーと可塑剤のブレンド物からなる場合は、常温で固体状の可塑剤など耐ブリード性に優れた可塑剤を選択し、さらに有機滑剤を有効量添加するなどの方法もあるが、後述する有機粒子や無機粒子を添加してフィルム表面の十点平均粗さRzを3μm以上とすることが特に有効である。また、密着剥離力はその値が低い程良いが、その下限は0g/15mmである。
【0055】
本発明の生分解性マルチフィルムは、用途にもよるが通常厚さが10μm以上50μm以下のフィルムであり、25μm以下で使用する場合が多い。農業用マルチフィルムとして厚さが上記10μm以上50μm以下の範囲内であれば、取り扱い性が良好なフィルムのコシとなり、またそのためロール巻姿や巻出し性も実用的に十分な範囲となる。本発明の効果である、畝立て/展張後もフィルムが徐々にかつ適度に収縮して畝に密着した状態を常に維持するとの観点からは厚さは18μm以下が好ましく、より長期にその効果が持続する観点から厚さは16μm以下がより好ましく、14μm以下が特に好ましい。
【0056】
本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合、耐衝撃性や生分解性を改良する、および溶融粘度を向上させて特にインフレーション製膜法においては安定したバブルを形成し巻き姿も向上させやすい等の理由で、フィルムを構成する組成物は、ポリ乳酸系樹脂および可塑剤以外に、脂肪族芳香族ポリエステルを5質量%以上45質量%以下含むことが好ましい。脂肪族芳香族ポリエステルの含有量は5質量%以上であると、主には耐衝撃性の面からその改良効果が得られやすく、45質量%以下であれば主には特に農業用途における生分解性が必要な分野において、適度な生分解性を付与することができる。
【0057】
本発明の生分解性マルチフィルムに使用できる脂肪族芳香族ポリエステルの例としては、ポリ(ブチレンサクシネート・テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)などが挙げられる。なかでも、耐衝撃性と生分解性の両方に改良効果が大きいものとして、ポリ(ブチレンアジペート・テレフタレート)が好ましく用いられる。
【0058】
本発明の生分解性マルチフィルムを構成する組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で前述した以外の成分を含有してもよい。例えば、公知の酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、結晶核剤、着色顔料等あるいは滑剤として、無機微粒子や有機粒子、有機滑剤を必要に応じて添加してもよい。
【0059】
酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などが例示される。着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等を使
用することができる。
【0060】
また、易滑性や耐ブロッキング性の向上などを目的として、粒子を添加する際には、例えば無機粒子としては、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。
【0061】
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0062】
無機粒子、有機粒子ともその平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜10μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは1〜4μmである。また無機粒子、有機粒子ともその添加量は、特に限定されないが、本発明の生分解性マルチフィルムの0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、前述のフィルム表面の十点平均粗さRzを3μm以上とするには、2.5質量%以上5質量%以下とすることが特に好ましい。
【0063】
有機滑剤としては、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレンなどの脂肪族炭化水素系、ステアリン酸、ラウリル酸、ヒドロキシステアリン酸、硬性ひまし油などの脂肪酸系、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド系、ステアリン酸アルミ、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、グリセリン脂肪酸エステル、ルビタン脂肪酸エステルなどの多価アルコールの脂肪酸(部分)エステル系、ステアリン酸ブチルエステル、モンタンワックスなどの長鎖エステルワックスなどの長鎖脂肪酸エステル系などが挙げられる。本発明の生分解性マルチフィルムにポリ乳酸系樹脂を用いる場合は、ポリ乳酸との適度な相溶性の観点から、少量で効果の得られやすい、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0064】
次に、本発明の生分解性マルチフィルムを製造する方法について、好ましい例としてポリ乳酸系樹脂を用いる場合について具体的に説明する。
【0065】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0066】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0067】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0068】
次に、本発明の好ましい様態の一つにおいて使用する、一分子中に数平均数分子量が1,200以上10,000以下のポリ乳酸セグメントを有し、ポリエーテル系セグメントおよび/またはポリエステル系セグメントを有するブロック共重合体可塑剤のより具体的な例を説明する。
【0069】
両末端に水酸基末端を有するポリエチレングリコール(以下ポリエチレングリコールをPEGとする)を用意する。両末端に水酸基末端を有するPEGの数平均分子量(以下PEGの数平均分子量をMPEGとする)は、通常、市販品などの場合、中和法などにより求めた水酸基価から計算される。両末端に水酸基末端を有するPEGのw質量部に対し、ラクチドw質量部を添加した系において、PEGの両水酸基末端にラクチドを開環付加重合させ十分に反応させると、実質的にPLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体を得ることができる(ここでPLAはポリ乳酸を示す)。この反応は、必要に応じてオクチル酸錫などの触媒併存下でおこなわれる。このブロック共重合体からなる可塑剤の一つのポリ乳酸セグメントの数平均分子量は、実質的に(1/2)×(w/w)×MPEGと求めることができる。また、ポリ乳酸セグメント成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w/(w+w)%と求めることができる。さらに、ポリ乳酸セグメント成分を除いた可塑剤成分のブロック共重合体可塑剤全体に対する質量割合は、実質的に100×w/(w+w)%と求めることができる。
【0070】
ブロック共重合体可塑剤が、未反応PEGや、末端のポリ乳酸セグメント数平均分子量が1,200に満たないPEGとの反応物や、ラクチドオリゴマーなどの副生成物、あるいは、不純物などを多量に含む場合には、例えば次の精製方法によりこれらを除去することが好ましい。クロロホルムなどの適当な良溶媒に、合成したブロック共重合体可塑剤を均一溶解した後、水/メタノール混合溶液やジエチルエーテルなど適当な貧溶媒を滴下する。あるいは、大過剰の貧溶媒中に良溶媒溶液を加えるなどして沈殿させ、遠心分離あるいはろ過などにより沈殿物を分離した後に溶媒を揮散させる。ブロック共重合体可塑剤を水に浸漬後50〜90℃に加熱し必要に応じて攪拌の後、ブロック共重合体可塑剤を含有する有機相を抽出し乾燥して水を除去する。精製方法は上記に限られず、また、必要に応じて上記の操作を複数回繰り返しても良い。ラクチドオリゴマーなどの副生成物等を除去することは、ポリ乳酸系樹脂組成物とした時に低粘度化することを防ぐことができ、該組成物の溶融粘度を適度なレベルとし、加工を安定させることができるためにも好ましい。
【0071】
上記した方法で、PLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体の可塑剤を作成した場合、作成した可塑剤が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量は、次の方法で求めることができる。すなわち、ブロック共重合体可塑剤の重クロロホルム溶液を用いて、H−NMR測定により得られたチャートを基に、{IPLA×(ポリ乳酸モノマー単位の分子量)/(ポリ乳酸セグメントの数)}/{IPEG×(PEGモノマー単位の分子量)/(化学的に等価なプロトンの数)}×MPEGに従って算出することができる。つまり、PLA(A)−PEG(B)−PLA(A)型のブロック共重合体の可塑剤を作成した場合は、{IPLA×72/2}/{IPEG×44/4}×MPEGである。ただし、IPEGは、PEG主鎖部のメチレン基の水素に由来するシグナル積分強度、IPLAは、PLA主鎖部のメチン基の水素に由来するシグナル積分強度である。ブロック共重合体可塑剤合成時のラクチドの反応率が十分に高く、ほぼ全てのラクチドがPEG末端部に開環付加する条件にて合成した場合は、多くの場合、H−NMR測定により得られたチャートを基にした上記方法により、可塑剤が有する一つのポリ乳酸セグメントの分子量を求めることが好ましい。
【0072】
本発明においてポリ乳酸系樹脂と可塑剤や、脂肪族芳香族ポリエステル、あるいはその他の成分を含有する組成物(本発明の生分解性マルチフィルムを構成する組成物)を得るにあたっては、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去して組成物を製造することも可能であるが、溶媒へ原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要で、実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法を採用することが好ましい。その溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の通常使用されている公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0073】
またその混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸系樹脂と可塑剤をドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸系樹脂と可塑剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂や前述のその他の成分を溶融混練する方法等が挙げられる。また必要に応じて、その他の成分を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂と可塑剤成分とを溶融混練する方法を用いてもよい。また、常温で液状の可塑剤などの成分を添加する際は、常温で固体状の成分とは別に、定量ポンプを用いて押出機の原料供給孔ベント孔から添加することもできる。
【0074】
溶融混練時の温度は150℃〜240℃の範囲が好ましく、ポリ乳酸系樹脂の劣化を防ぐ意味から、200℃〜220℃の範囲とすることがより好ましい。
【0075】
本発明の生分解性マルチフィルムは、例えば上記した方法により得られた組成物を用いて、公知のインフレーション法、Tダイキャスト法、Tダイキャスト後2軸延伸する方法などの既存のフィルムの製造法により得ることが出来る。
【0076】
本発明の生分解性マルチフィルムを製造するにあたっては、例えば前述した方法により得られた組成物を一旦チップ化し、再度溶融混練して押出・製膜する際には、チップを60〜110℃にて6時間以上乾燥するなどして、組成物の水分量を1200ppm以下とすることが好ましい。さらに、真空度10Torr以下の高真空下で真空乾燥をすることで、組成物中のラクチド含有量を低減させることが好ましい。組成物の水分量を1200ppm以下、ラクチド含有量を低減することで、溶融混練中の加水分解を防ぎ、それにより分子量低下を防ぐことができ、溶融粘度を適度なレベルとし、製膜工程を安定させることができるためにも好ましい。また、同様の観点から、一旦チップ化、あるいは溶融押出・製膜する際には、ベント孔付きの2軸押出機を使用し、水分や低分子量物などの揮発物を除去しながら溶融押出することが好ましい。
【0077】
本発明の生分解性マルチフィルムを製膜する方法としてはインフレーション法が好ましい。インフレーション法により製膜する場合、分子配向を抑制し易くマルチフィルムの実用性に必要な伸度、いわゆる伸び易さを付与し易い。併せて、配向結晶化も抑制し易いため、本発明の生分解性マルチフィルムの特徴である、常温でも適度の潜在的な収縮応力を有するフィルムとし易い。インフレーション法により製造する場合は、例えば、前述のような方法により調整した組成物をベント孔付き2軸押出機にて溶融押出して環状ダイスに導き、環状ダイスから押出して内部には乾燥エアーを供給して風船状(バブル)に形成し、さらにエアーリングにより均一に空冷固化させ、ニップロールでフラットに折りたたみながら所定の引き取り速度で引き取った後、必要に応じて両端、または片方の端を切り開いて巻き取れば良い。
【0078】
この場合、環状ダイスからの吐出量とニップロールの引き取り速度、バブルのブロー比により、通常厚さが10μm以上50μm以下となるように調整すれば良いが、厚み精度、均一性を高めるためには、環状ダイスはスパイラル型を用いるのが良い。
【0079】
また、ポリ乳酸系樹脂等を含有する組成物の押出温度は通常150〜240℃の範囲であるが、厚み精度、均一性を高め、さらには、良好なロール巻姿や巻出し性を付与するためには環状ダイスの温度が重要であり、環状ダイスの温度は150〜190℃、好ましくは、150〜170℃の範囲である。環状ダイスの温度が150℃未満では組成物がダイス押し出された温度が低すぎて吐出直後のブローアップ時の成形挙動が不均一になって厚み精度が悪化し巻き姿が不良となったり、ブローアップ時の応力が高くなり過ぎてフィルムとした際には熱収縮率が高く経時でのいわゆる巻き締まりによりさらに巻き姿が悪化し易い。また、環状ダイスの温度が190℃を越えると組成物の粘度が低過ぎて厚み精度が悪化し巻き姿が不良となったり、さらにはバブルの形成そのものが不安定になり易い。同様の観点から、環状ダイスの温度は、160〜170℃がより好ましい。
【0080】
バブルのブロー比は、吐出量とニップロールの引き取り速度との関係にもよるが、低過ぎても高過ぎてもフィルムに異方性を生じ過ぎる場合があり、また、特に高過ぎる場合にはバブルが不安定となり易く、通常2.0〜4.0の範囲である。
【0081】
また、適度な熱収縮率を付与して、3St≦Sm、2≦Sm≦5(%)、−1≦St≦2(%)となるように制御するためには、基本的にSmとStの値の絶対量およびバランスを制御するが、例えばSm、Stともに値の絶対量を上げるには次のような方法がある。
(1)添加成分や成分量を選択し生分解性マルチフィルムを成す組成物の溶融粘度を上げる。
(2)環状ダイスの温度を下げる。
(3)厚みを薄くする。
また、例えばStは余り変化させず、Smのみ絶対量を上げる、すなわちバランスを制御するには次のような方法がある。
(4)環状ダイスから押出して風船状(バブル)に形成した後のニップロールによる引き取り速度を上げる。
(5)ブロー比を下げる。
なお、例えばSmは余り変化させず、Stのみ絶対量を上げるには上記(4)、(5)と逆の方法を採れば良い。
【0082】
さらに、フィルムに成形した後に、印刷性、ラミネート適性、コーティング適性などを向上させる目的で各種の表面処理を施しても良い。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などが挙げられ、いずれの方法をも用いることができるが、連続処理が可能であり、既存の製膜設備への装置設置が容易な点や処理の簡便さからコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
[測定及び評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
(1)組成物のガラス転移温度:Tg(℃)
フィルムサンプルを約5mg秤量しサンプルパンに詰めて測定試料とした。JIS K7121−1987に基づいて、−50℃で5分間保持後20℃/分の昇温速度にて100℃まで示差走査型熱量計(DSC)測定を行った。観測されたDSC曲線から中間点ガラス転移温度としてTgを求めた。
(2)幅方向の平均厚さ:Ta(μm)
フィルムサンプルの幅方向に沿って、一方の端部からもう一方の端部まで等間隔に20箇所の位置の厚さを測定した。測定はJIS K7130−1999(A法)に従いマイクロメータにより行い、各測定値の平均厚さ:Ta(μm)を求めた。
(3)熱収縮率:Sm、St(%)
試験方向を長手方向として140mm×10mmに切り出し、長手方向に100mm間の評線を入れ、内部を65℃保持したに乾熱式オーブンにより30分間処理した後、その評線間の寸法を計り、次式に従って収縮率を算出した。測定は1水準につき5回行い、5回の測定の平均値から巻長さ方向の熱収縮率Smを求めた。
【0084】
収縮率(%)={(収縮前の寸法)−(収縮後の寸法)}/(収縮前の寸法)×100
同様の方法によって、幅方向の熱収縮率Stを求めた。
(4)十点平均粗さ:Rz(μm)
万能表面形状測定器SE−3FA(株式会社小坂研究所製)により、触針先端半径:2μm、測定方向:巻長さ方向、測定長:1mm、Xピッチ:1.0μm、Yピッチ:5μm、X送り早さ:0.1mm/秒、低域カット:0.25mmの3次元測定条件にて十点平均粗さRz(μm)を測定した。
(5)密着剥離力:As(g/15mm)
フィルムサンプルから幅15mm、長さ150mmの短冊状の試験片2つを長辺がフィルムの巻長さ方向となるように切り出して作成した。この試験片2つを長辺と短辺ともにずれなく重ね合わせ、長さ方向の片方の端から100mmの部分にのみ10g/cmの荷重をかけた状態で、80℃の雰囲気下で1時間放置し、密着剥離力測定用のサンプルを作成した。
【0085】
密着剥離力の測定には、テンシロン万能試験機UTC−100型(株式会社オリエンテック製)を用いた。前述した測定用のサンプルのうち荷重をかけていない部分をつかみ部分として上下のチャックにセットし、引張り速度200mm/分において、100mm分の密着させた部分が全て剥離するチャック位置まで引張り試験を行った。このとき、荷重をかけ密着させた部分が引張り方向と90°の角度となる状態を常に維持できる自動テーブルを併用し、このテーブルに密着させた部分を載せて引張り試験を行った。1回の引張り試験における最大の応力を測定した。測定は1水準につき5回行い、5回の試験の平均値を求めこれを密着剥離力とした。
(6)インパクト強度(kN・m/mm)
フィルムインパクトテスター(東洋精機社製)により、直径1/2インチの半球状衝撃頭を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下においてインパクト強度の測定を行った。測定は1水準につき5回行い、5回の測定の平均値から求めた。さらに、平均厚さ:Ta×10−3(mm)で割り返し、単位厚み当たりの値として求めた。
(7)ロール巻き姿、外観
ロールサンプルを温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下において3日間保管の後、ロールサンプルの幅方向において、巻径が最大の位置と最小の位置で巻き尺を用いてロールの周長を測定した。
【0086】
測定した周長から、(巻径)=周長/3.14の式を用いて、巻径の最大値と最小値をそれぞれ算出した。巻径の最大値と最小値の差の、最小値に対する割合:D(%)を求め、以下の基準で判断した。
◎:D≦1%
○:1%<D≦1.5%
△:1.5%<D≦3%
×:3%<D
(8)巻出し性
ロールサンプルを温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下において3日間保管の後、ロールサンプルの紙管に紙管の内径より小さい直径の鉄製軸を通し、鉄製軸の両端をフックにかけてロールを水平に、且つ自由に回転できる状態で掛けおいた状態とし、フィルムを10m/分の速度で巻き出した際の巻出しの様子を目視にて観察し、以下の基準にて判断した。
◎:問題なく滑らかに巻き出すことができる。
○:軽度のシワやブロッキングにより、時々不連続な巻出しとなる。
△:シワやブロッキングにより、断続的に不連続な巻出しとなる。
×:シワやブロッキングにより、巻出し時にフィルムが引張られ変形したり破れる。
(9)畝への密着性
茨城県の圃場にて、3月中旬にマルチフィルムの展張テストを行った。マルチャー付きのトラクターを用いて畝立てと同時に展張を実施し、畝の形状は畝幅60cm、畝高35cm程の断面が半円状の畝とした。また、1水準ごとに長さ50mの畝長とし、各水準とも展張速度等は同条件にて実施した。展張テストを行った圃場はやや粘土質で、直径3cm以上の比較的固い土塊を多数含んでいた。
【0087】
展張の2週間後、円錐形の専用冶具をマルチフィルムの上から突き刺して、各畝の頂上部に約35cm間隔で直径約12〜15cm、深さ12〜15cm程度の穴を1列に空け、それぞれの穴に葉たばこの苗を投入して移植した。
【0088】
移植から1ヶ月後の5月上旬に、以下の基準にて「畝への密着性」を判断した。
【0089】
<畝への密着性>
◎:マルチフィルムが畝の土壌表面に一様に隙間なく密着しており、マルチフィルムの表面2cm四方程の面積でも手でつまむことが困難であり、無理に手でつまむと破れてしまう程にフィルムの張力で土壌表面に張り付くように密着している。
○:マルチフィルムが畝の土壌表面に一様に隙間なく密着しており、マルチフィルムの表面2cm四方程の面積を手でつまみ、土壌表面から1cm程度つまみ上げて手を離しても、フィルムの張力で土壌表面に張り付くように再度密着する。
△:ほとんどの部分でマルチフィルムが畝の土壌表面に隙間なく密着しており、マルチフィルムの表面2cm四方程の面積を手でつまみ、土壌表面から1cm程度つまみ上げて手を離しても、フィルムの張力で土壌表面に張り付くように再度密着するが、定植穴の周辺や畝の端部など一部に隙間のある部分がある。
×:マルチフィルムと畝の土壌表面に一様に隙間があり、マルチフィルムを土壌表面から1cm程度以上つまみ上げることが可能であり、手を離すとその部分のフィルムにシワが残ったままになる。
(10)保水性
畝への密着性の評価と同時に土壌の水分率を測定した。測定用の土壌としては、隣り合う定植穴の真ん中の位置において、表面から深さ15cm程度の深さまでにある土壌を各深さの土壌が同じ割合になるように約1kg採取した。この土壌の質量をあらかじめ測定した後、バットに薄く広げ100℃の熱風オーブン中で24時間以上乾燥させて十分に乾燥させた絶乾状態にて質量を測定し、下記式にて土壌の水分率を求めた。
【0090】
(土壌水分率)=((乾燥前の土壌質量)−(乾燥後の土壌質量))/(乾燥前の土壌質量)×100(%)
上記の方法により求めた水分率より、以下の基準にて「保水性」を判断した。
【0091】
<保水性>
○:20%≦(土壌水分率)
△:10%≦(土壌水分率)<20%
×:(土壌水分率)<10%
(11)展張後の耐久性
移植から3ヶ月後の7月上旬にマルチフィルムの破れの有無を目視にて観察し、以下の基準にて「展張後の耐久性」を判断した。
<展張後の耐久性>
○:直径2cmの球が通り得る大きさの穴や破れが、畝長50m中で2箇所以下
△:直径2cmの球が通り得る大きさの穴や破れが、畝長50m中で3箇所以上10箇所以下
×:直径2cmの球が通り得る大きさの穴や破れが、畝長50m中で11箇所以上
[使用したポリ乳酸系樹脂]
(ポリ乳酸PL1)
重量平均分子量=200,000、D体含有量=12.0%、融点=無し、水分量=490ppm、
(ポリ乳酸PL2)
重量平均分子量=220,000、D体含有量=1.4%、融点=166℃、水分量=360ppm、
(ポリ乳酸PL3)
重量平均分子量=220,000、D体含有量=5.0%、融点=150℃、水分量=360ppm、
(ポリ乳酸PEG共重合体PL4)
数平均分子量10,000のポリエチレングリコール(PEG)10質量部とL−ラクチド81質量部、メソラクチド9質量部およびオクチル酸スズ0.1質量部を混合し、窒素雰囲気下160℃で3時間以上重合することで、ポリ乳酸−ポリエチレングリコールブロック共重合体からなるPL4を得た。PL4を得た後に、すぐに防湿梱包をおこなって保管した。
【0092】
重量平均分子量=160,000、D体含有量=4.5%、融点=145℃、水分量=660ppm、
なお、PL1からPL4の重量平均分子量は 日本Warters(株)製、Warters2690を用い、ポリメチルメタクリレートを標準とし、カラム温度40℃、クロロホルム溶媒を用いて測定した。
[使用した可塑剤]
(可塑剤PS1)
クエン酸アセチルトリブチル(森村商事社製、商品名“シトロフレックスA−4”)
(可塑剤PS2)
ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名“PEG−10000”)
(可塑剤PS3)
数平均分子量8,000のポリエチレングリコール62質量部とL−ラクチド38質量部とオクチル酸スズ0.1質量部を混合し、窒素雰囲気下160℃で3時間重合することで、ポリエチレングリコールの両末端に数平均分子量2,500のポリ乳酸セグメントを有する可塑剤S1を得た。可塑剤S1を得た後に、すぐに防湿梱包をおこなって保管した。水分量を測定すると、1650ppmであった。
[使用した脂肪族ポリエステル樹脂、脂肪族芳香族ポリエステル樹脂]
(ポリエステルPA1)
ポリブチレンサクシネート・アジペート系樹脂(昭和高分子社製、商品名“ビオノーレ”#3001)
(ポリエステルPA2)
ポリブチレンサクシネート系樹脂(三菱化学社製、商品名“GSPla”AZ91T)
(ポリエステルPA3)
ポリブチレンアジペート・テレフタレート樹脂(BASF製、商品名“エコフレックス”)
[使用した有機滑剤]
(滑剤SL1)
ステアリン酸アミド(日本油脂社製、商品名“アルフローS−10”)
[使用した粒子]
(無機粒子PT1)
タルク(日本タルク社製、商品名“SG−95”)、平均粒径=2.5μm
(無機粒子PT2)
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、商品名“カルテックスR”)、平均粒径=2.8μm
なお、上記の平均粒径は、累積中位径(Median径)、すなわち、粉体の集合の全体積を100%として累積カーブを求めたときに、その累積カーブが50%となる点の粒子径(50%径[μm])であり、マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により求めた。
[ポリ乳酸系樹脂フィルムの作成]
(実施例1)
ポリ乳酸PL1を58.6質量%、ポリ乳酸PL2を15.7質量%、可塑剤PS3を24.3質量%、無機粒子PT2を1.4質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物1を得た。
【0093】
この組成物を温度100℃、露点―25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物1を70質量%、ポリエステルPA3を30質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら30m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれ幅1350mmのフィルムをワインダーにて巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムとした。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例2)
吐出量の調整により最終厚みが18μmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例3)
吐出量の調整により最終厚みが15μmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例4)
ポリ乳酸PL1を57.1質量%、ポリ乳酸PL2を14.3質量%、可塑剤PS3を24.3質量%、無機粒子PT2を4.3質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物2を得た。
【0094】
この組成物2を温度100℃、露点―25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物2を70質量%、ポリエステルPA3を30質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら20m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれ幅1350mmのフィルムをワインダーにて巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが15μmのフィルムとした。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例5)
吐出量の調整により最終厚みが13μmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例6)
ポリ乳酸PEG共重合体PL4を98.8質量%、滑剤SL1を1.2質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物3を得た。
【0095】
この組成物3を温度100℃、露点―25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物3を85質量%、ポリエステルPA1を15質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし使用した以外は実施例1と同様にして、最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例7)
ポリ乳酸PL3を64.7質量%、可塑剤PS1を10.6質量%、可塑剤PS3を20質量%、無機粒子PT2を4.7質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物4を得た。
【0096】
この組成物4を温度100℃、露点―25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物2を70質量%、ポリエステルPA2を15質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度155℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら20m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれ幅1350mmのフィルムをワインダーにて巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムとした。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(実施例8)
ポリ乳酸PL1を58.6質量%、ポリ乳酸PL2を15.7質量%、可塑剤PS3を24.3質量%、滑剤SL1を1.4質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物5を得た。
【0097】
この組成物5を温度100℃、露点―25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物5を70質量%、ポリエステルPA3を30質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、押出機シリンダー温度190℃のスクリュー径65mmの一軸押出機に供給し、直径200mm、リップクリアランス1.3mm、温度180℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:4.3にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら35m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれ幅1350mmのフィルムをワインダーにて巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムとした。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0098】
【表1−1】

【0099】
【表1−2】

【0100】
(比較例1)
ポリ乳酸PL1を60質量%、ポリ乳酸PL2を17.6質量%、可塑剤PS3を21.4質量%、滑剤SL1を1.0質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後にチップ化した組成物1を得た。
【0101】
この組成物を温度100℃、露点―25℃の除湿熱風にて10時間乾燥した後、組成物1を70質量%、ポリエステルPA1を30質量%の混合物として最終的に表1に示す組成物とし、押出機シリンダ温度190℃のスクリュー径65mmの一軸押出機に供給し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら20m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれワインダーにてフィルムを巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例2)
可塑剤PS2に変えて可塑剤PS1を用いた以外は実施例2と同様にして、最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例3)
ポリ乳酸PL1を75質量%、ポリ乳酸PL2を22質量%、可塑剤PS3を3質量%の混合物をシリンダー温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後、引き続いてギアポンプにて計量し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら20m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれワインダーにてフィルムを巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例4)
ポリエステルPA3を99質量%、滑剤SL1を1.0質量%の混合物をシリンダー温度160℃のスクリュー径44mmの真空ベント付き2軸押出機に供し、真空ベント部を脱気しながら溶融混練し均質化した後、引き続いてギアポンプにて計量し、直径250mm、リップクリアランス1.3mm、温度165℃のスパイラル型環状ダイスより、ブロー比:3.4にてバブル状に上向きに押出し、冷却リングにより空冷し、ダイス上方のニップロールで折りたたみながら20m/分にて引き取り、両端部をエッジカッターにて切断して2枚に切り開き、それぞれワインダーにてフィルムを巻き取った。吐出量の調整により最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例5)
比較例1と同様にして、さらに吐出量を調整することにより最終厚みが8μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例6)
比較例1と同様にして、ただしスクリュー径65mm、シリンダー温度200℃の一軸押出機に供給し、温度200℃のスパイラル型環状ダイスより押し出してニップロールの引き取り速度を35m/分として、吐出量を調整することにより最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例7)
比較例1と同様にして、ただし直径200mmのスパイラル型環状ダイスを用い、ブロー比:4.3にてチューブ状に上向きに押出しニップロールの引き取り速度を15m/分として吐出量を調整することにより最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
(比較例8)
比較例1と同様にして、ただし、温度145℃のスパイラル型環状ダイスより押し出して吐出量を調整することにより最終厚みが20μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0102】
実施例1〜8の生分解性マルチフィルムは、いずれもガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲にもつ組成物からなり、かつ65℃で30分間処理した時の熱収縮率Sm(巻長さ方向)、熱収縮率St(幅方向(巻長さ方向と垂直な方向))について本願明細書規定の条件を満たしており、ロール巻き姿、外観、巻出し性などの品位や、畝への密着性、保水性、耐久性など実用性に優れたマルチフィルムであった。
【0103】
一方、比較例においては、熱収縮率Sm(巻長さ方向)が2%未満であり、畝への密着性が不十分であり、また保水性も不十分であった(比較例1〜4)。
【0104】
熱収縮率Sm(巻長さ方向)が2%以上であっても、熱収縮率St(幅方向)が2%を超えた場合は、特に畝の土壌表面に固い土塊などの突起物が存在したままフィルムが畝に密着し、局所的にその部分が破れてしまい耐久性が不十分であった(比較例5,7)。
【0105】
また、熱収縮率Sm(巻長さ方向)が5%を超えた場合には、巻締りにより巻姿が悪化した(比較例6,8)。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、土壌保水性が高く作物の生育性に優れる生分解性マルチフィルムに関し、さらには柔軟性、耐衝撃性、耐ブリード性に優れたポリ乳酸系生分解性マルチフィルムである。本発明の生分解性マルチフィルムは、特定の熱的性質および収縮特性を付与することで畝への密着性が格段に向上し、その結果高い土壌保水性を発揮するものであり、この畝への密着効果により、風雨に曝されても破れにくいなど他の機械特性にも優れる特徴を有しており、生分解性を有した農業用マルチフィルムとして好ましく用いることができる。ある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度Tgを0℃以上45℃以下の範囲にもつ組成物からなり、65℃で30分間処理した時の熱収縮率Sm(巻長さ方向)、熱収縮率St(幅方向(巻長さ方向と垂直な方向))がそれぞれ以下の条件を満たすことを特徴とする生分解性マルチフィルム。
3St≦Sm
2≦Sm≦5(%)
−1≦St≦2(%)
【請求項2】
厚みが18μm以下であることを特徴とする請求項1記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項3】
前記組成物が、ポリ乳酸系樹脂を30質量%以上95質量%以下、可塑剤を5質量%以上30質量%以下含むことを特徴とする請求項1または2記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項4】
前記組成物が、脂肪族芳香族ポリエステルを5質量%以上45質量%以下含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の生分解性マルチフィルム。
【請求項5】
密着剥離力Asが10g/15mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の生分解性マルチフィルム。

【公開番号】特開2012−31279(P2012−31279A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171947(P2010−171947)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】