説明

生分解性不織布およびそれを用いた繊維製品

【課題】 生分解性を有し、優れた機械的強度を有し、かつ優れた風合いを兼ね備えた不織布およびこれを用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】 少なくとも2種類の繊維(繊維Aおよび繊維B)が混合され、繊維Aは生分解性を有する第一成分を含有し、繊維Bは生分解性を有する第二成分を含有する生分解性不織布であって、
(a)繊維Aと繊維Bの混繊比(重量比)が5:95〜95:5の範囲である混合繊維ウェブを用いて得られる不織布であり、
(b)第一成分が第二成分よりも融点の高い脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
(c)第二成分の85℃における半結晶化時間が、第一成分の85℃における半結晶化時間よりも長い、
ことを特徴とする生分解性不織布、およびこれを用いた繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布およびこれを用いた繊維製品に関する。さらに詳しくは、生分解性を有する樹脂を用い、優れた機械的強度を有し、かつ優れた風合いを兼ね備えた不織布およびこれを用いた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生分解性樹脂は土壌中へ埋めることで、微生物などによって短期間に二酸化炭素と水とに分解されることから、従来のプラスチック製品にくらべ、自然環境への負荷が少なく、繊維および不織布分野においても研究開発が盛んに進められている。
【0003】
なかでもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等の脂肪酸ポリエステルからなる生分解性不織布は、汎用の合成繊維に近い不織布物性を有することから、実用化され始めている分野もある。特にポリ乳酸は生分解性を有する脂肪酸ポリエステルの中でも融点が比較的高く、実用性が高いことから、様々な用途への展開が期待されている。
【0004】
ポリ乳酸を用いた不織布は分解性を有し、かつ一般的に他の脂肪族ポリエステルに比べ、融点が高いため耐熱性にも優れる一方で、ポリ乳酸樹脂自体は結晶性が良好であるものの、通常紡糸条件下では結晶化速度が遅いため、紡糸・冷却された繊維がウェブ堆積工程においても繊維同士の粘着感を有しているため、ウェブを構成する繊維同士が結合し、得られる不織布は柔軟性に欠けるものが多く、人肌に接するような用途での展開が難しいという実情があった。
【0005】
また、ポリ乳酸を用いたウェブを、柔軟性を損なわないように加減して熱接着あるいは接着剤によるレジンボンドを行った場合は、毛羽立ちが発生したり機械的強度が劣り、実用に耐えうるものは得られない。
【0006】
ポリ乳酸系重合体として、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体とD−乳酸とヒドロカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体のうち融点が100℃以上の重合体あるいはこれらのブレンド体であって、ポリ乳酸系重合体で構成する長繊維同士が部分的に熱圧着されていたポリ乳酸系長繊維不織布が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、単一成分で構成されるため、得られる不織布は触感が硬く、風合い、柔軟性に乏しいものであった。
【0007】
また、融点の異なる2種類のポリ乳酸系重合体からなる熱融着性複合繊維が提案されている(例えば、特許文献2)。この複合繊維は、優れた接着性を有するものの、低融点成分が全ての構成繊維において接着成分として作用するため、実質的には単一成分と同様で、得られる不織布は触感が硬く、風合い、柔軟性に乏しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3434628号公報
【特許文献2】特開平7−310236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、生分解性を有し、優れた機械的強度を有し、かつ優れた風合いを兼ね備えた不織布およびこれを用いた繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、特定の生分解性樹脂を混繊紡糸(混繊)することによって得られる混繊不織布が、前記課題を解決することを見出し、この知見にもと本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の構成は以下の通りである。
(1)少なくとも2種類の繊維(繊維Aおよび繊維B)が混合され、繊維Aは生分解性を有する第一成分を含有し、繊維Bは生分解性を有する第二成分を含有する生分解性不織布であって、
(a)繊維Aと繊維Bの混繊比(重量比)が5:95〜95:5の範囲である混合繊維ウェブを用いて得られる不織布であり、
(b)第一成分が第二成分よりも融点の高い脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
(c)第二成分の85℃における半結晶化時間が、第一成分の85℃における半結晶化時間よりも長い、
ことを特徴とする生分解性不織布。
(2)第二成分の85℃における半結晶化時間が、第一成分の85℃における半結晶化時間よりも80秒以上長いことを特徴とする上記(1)項に記載の生分解性不織布。
(3)第二成分の85℃における半結晶化時間が180秒以上であり、第一成分の85℃における半結晶化時間が100秒以下であることを特徴とする上記(1)項に記載の生分解性不織布。
(4)第一成分の85℃における半結晶化時間が60秒以下である、上記(1)〜(3)項のいずれか記載の生分解性不織布。
(5)第一成分がポリ乳酸およびポリ乳酸共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、第二成分がポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンサクシネート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、上記(1)〜(4)項のいずれかに記載の生分解性不織布。
(6)第一成分が、第二成分よりも40℃以上高い融点を有することを特徴とする上記(1)項記載の生分解性不織布。
(7)生分解性不織布が、スパンボンド法で得られる長繊維不織布である上記(1)〜(6)項のいずれか1項記載の生分解性不織布。
(8)生分解性不織布が、メルトブローン法で得られる長繊維不織布である上記(1)〜(6)項のいずれか1項記載の生分解性不織布。
(9)上記(1)〜(8)項のいずれか1項記載の生分解性不織布に、該生分解性不織布以外の不織布、フィルム、ウェブ、織物、編物およびトウから選ばれる少なくとも1種の物品を積層した複合化不織布。
(10)上記(1)〜(8)項のいずれか1項記載の生分解性不織布、または上記(9)項に記載の複合化不織布を用いた繊維製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生分解性不織布は、生分解性を有する樹脂と共に、優れた機械的強度を有し、かつ優れた風合いを兼ね備えており、特に使い捨てオムツ、衣類、土木シート、フィルターを始め、環境対応型の各種繊維製品に好適に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の混合長繊維不織布をスパンボンド法にて製造する場合の紡糸口金の紡糸孔配列の一例を示した図である。図中、○は第1成分樹脂の紡糸孔、●は第2成分樹脂の紡糸孔を表す。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一成分は、第二成分よりも融点の高い生分解性を有する脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。さらに、本発明の生分解性不織布製造工程において、機械的強度と優れた風合いを兼ね備えた生分解性不織布とするために、第二成分の85℃における半結晶化時間が、第一成分の85℃における半結晶化時間よりも長いことが必要である。(その理由については後述する。また、以下、各成分の85℃におけるにおける半結晶化時間のことを単に「半結晶化時間」と記す。)例えば第二成分の半結晶化時間を第一成分のそれより80秒以上長いように設計することができ、その他の例として、第二成分の半結晶化時間が180秒以上であり、第一成分の半結晶化時間が100秒以下であるように設計することができる。これらのような条件を満たす第一成分と第二成分は、市販されている生分解性樹脂から容易に選択することができる。各成分の半結晶化時間は、後述の「実施例」に記した方法によって半結晶化時間を求めることができる。
【0015】
本発明の第一成分としては、第二成分よりも融点の高い脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(ポリラクチドともいう)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)等のポリグリコール酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)等のポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプトレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエートが例示できる。
【0016】
第一成分に用いられる脂肪族ポリエステル共重合体としては、特に限定しないが、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合されたポリマーが利用できる。ポリアルキレンサクシネートとしてはエチレンサクシネート、ブチレンサクシネート等の、エチレングリコール、ブタンジオール等のアルキルジオールとコハク酸との共重合が挙げられる。
また、第一成分に用いられる脂肪族ポリエステル共重合体としては、グリコールとジカルボン酸との縮合重合体も用いられる。具体的には、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレート及びその共重合体を挙げることができる。
また、第一成分として用いられる脂肪族ポリエステル共重合体としては、脂肪族ポリエステルアミド系共重合体等の前記脂肪族ポリエステルと脂肪族ポリアミドとの共縮重合体が利用でき、具体的には、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン12)等を挙げることができる。
【0017】
第一成分として用いられる脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエステル共重合体のなかでも、ポリ乳酸が最も好ましく用いられる。
本発明の第一成分にポリ乳酸を使用する場合には、得られる生分解性不織布の引裂き強度及び引張強伸度等の機械的強度をより向上させるために、特定割合の糖アルコールおよび/または安息香酸の混合物を配合した樹脂組成物をさらに用いることが好ましい。
【0018】
上記ポリ乳酸に配合される糖アルコールとしては、糖を還元して得られる直鎖状ポリオールが利用でき、炭素数3〜6の直鎖状ポリオールが特に好ましい。配合される糖アルコールの例として、具体的には、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、及びソルビトール等を挙げることができる。なかでもソルビトールがポリ乳酸の可塑化効率、糖アルコール自体の不揮発性等の点から最も好ましい。糖アルコールの配合割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、機械的強度の点から0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部が好ましい。
また、上記ポリ乳酸に配合される安息香酸類としては、例えば、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、p−t−ブチル安息香酸、p−t−アミル安息香酸、p−t−オクチル安息香酸、o−メトキシ安息香酸、m−メトキシ安息香酸、アニス酸、無水安息香酸、無水o−トレイル酸、無水m−トレイル酸、無水p−トレイル酸、無水p−t−ブチル安息香酸、無水p−t−アミル安息香酸、無水p−t−オクチル安息香酸、無水o−メトキシ安息香酸、無水m−メトキシ安息香酸及び無水アニス酸等が例示できるが、安息香酸が最も好ましく使用できる。安息香酸類の配合割合は、ポリ乳酸100重量部に対して、機械的強度の点から1〜10重量部、好ましくは2〜6重量部である。
【0019】
第一成分には、脂肪族ポリエステルと脂肪族ポリエステル共重合体以外に、例えば、イソフタル酸、ジフェニルカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等、これらの低級アルキル、低級アルコキシもしくはハロゲン置換体等、または、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオールを10モル%以下の範囲で含有していてもよい。
【0020】
本発明の繊維Aには、第一成分を単独で用いてもよく、本発明の効果を阻害しない範囲であれば第一成分以外の樹脂を含んでいてもよい。また、第1成分自体が2種以上の脂肪族ポリエステルまたは脂肪族ポリエステル共重合体からなっていてもよい。
【0021】
本発明の繊維Bは、生分解性を有する第二成分を含む。繊維Bは第二成分以外に生分解性を有しない他の成分を含んでいてもよいが、生分解性を有する第二成分からなることが好ましい。また、第二成分が生分解性を有する2種類以上の成分からなっていてもよい。第二成分は、1種または2種以上の脂肪族ポリエステル共重合体からなることが好ましい。
【0022】
第二成分として用いられる脂肪族ポリエステル共重合体は、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート・アジペート、ポリエチレンテレフタレート・グルタレート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンテレフタレート・アジペート、ポリブチレンテレフタレート・グルタレート、ポリカプロラクトン等を挙げることができる。
これらの共重合体は、単独で用いても、2種類以上を混合してもよい。これらの中でも、ポリブチレンサクシネートとポリブチレンサクシネート・アジペートは、第一成分との混繊不織布とした場合、不織布の機械的強度を向上させる上で好ましい。
【0023】
第二成分には、脂肪族ポリエステル共重合体以外に、例えば、イソフタル酸、ジフェニルカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸等、これらの低級アルキル、低級アルコキシもしくはハロゲン置換体等、またはブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオールを10モル%以下の範囲で含有していてもよい。
【0024】
本発明の第二成分に用いられる脂肪族ポリエステル共重合体の好ましい態様は、脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族もしくは脂環式ジオール、および、脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体とを含む脂肪族ポリエステル共重合体である。具体的には、下記(I)式で表される脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%、下記(II)式で表される脂肪族または脂環式ジオール単位(但し、エチレングリコール単位を除く)35〜49.99モル%、および下記(III)式で表される脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%を含み、かつ、数平均分子量が1万〜20万であるものが挙げられる。特にポリブチレンサクシネートなどが、このような構成を有しているのが好ましい。
(I)−O−R−CO−(式中、R1は2価の脂肪族炭化水素基)
(II)−O−R−O−(式中、R2は2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基)
(III)−O−R−CO−(式中、R3は直接結合または2価の脂肪族炭化水素基)
【0025】
第二成分として好ましい態様の上記脂肪酸ポリエステル共重合体は、触媒の存在下、重縮合反応により、脂肪族または脂環式ジオールおよび脂肪族カルボン酸またはその誘導体を反応させて、数平均分子量1万〜20万の脂肪族ポリエステル共重合体を製造するに際し、脂肪族オキシカルボン酸を脂肪族カルボン酸またはその誘導体100モルに対して、0.04〜60モル共重合させることにより製造できる。
【0026】
第二成分として好ましい態様の上記脂肪族ポリエステル共重合体を製造する場合に、上記(I)式の脂肪族オキシカルボン酸単位に相当する脂肪族オキシカルボン酸としては、分子中に1個の水酸基とカルボン酸基を有する脂肪族化合物であれば、特に限定されるものではなく、(IV)式
(IV)HO−R1−COOH(式中、R1は2価の脂肪族炭化水素基)
で表されるものをいう。
更には、(V)式、
(V)HO−CH−COOH
|
x2x+1
(式中、xは0または1〜10、好ましくは0または1〜5の整数である)
で表される脂肪族オキシカルボン酸は、重合反応性の向上が認められる点で特に好ましい。
【0027】
第二成分として好ましい態様の上記脂肪族ポリエステル共重合体を構成する脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、あるいはこれらの混合物が挙げられる。これらは光学異性体が存在する場合には、D体、L体、またはラセミ体のいずれでもよく、その形態は固体、液体、または水溶液であってもよい。これらの中で好ましいのは、使用時の重合速度の増大が顕著な乳酸またはグリコール酸である。これらは、乳酸またはグリコール酸の30〜95%水溶液が容易に入手できるの好ましい。これらは脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、二種類以上の混合物として使用できる。
【0028】
上記(II)式の脂肪族または脂環式ジオール単位に相当するジオールは、特に限定されないが、下記式
HO−R2−OH
(R2は、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を示す)
で表される化合物をいう。
2において、好ましい2価の脂肪族炭化水素基として、例えば、
−(CH2n− (nは2〜10の整数)
で表される脂肪族炭化水素基が挙げられる。上記式で表されるR2の中でも特に好ましいのは、nが2〜6の脂肪族炭化水素基である。好ましい2価の脂環式炭化水素基としては、上記式のR2が炭素数3〜10の脂環式炭化水素基であり、それらの中でも特に好ましいのは、4〜6の2価の脂環式炭化水素基である。
【0029】
上記(II)式で表される脂肪族または脂環式ジオール単位の具体例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が好適に挙げられる。得られる、本発明の第二成分に好ましく用いられる脂肪族ポリエステル共重合体の物性面から、1,4−ブタンジオールであることが特に好ましい。これらは単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0030】
上記(III)式の脂肪族ジカルボン酸単位に相当する脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としては、例えば、下記式
HOOC−R3−COOH
(式中、R3は単結合または2価の脂肪族炭化水素基で表され、好ましくは、−(CH2m−、ただし、mは0または1〜10の整数、好ましくは0または1〜6の整数)
で表されるものが挙げられる。
さらに上記(III)式の脂肪族ジカルボン酸単位に相当する脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体として、例えば、上記式で表される脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体における炭素数1〜4の低級アルコールエステルが挙げられる。具体的には、ジメチルエステル等の、またはそれらの酸無水物が挙げられる。
【0031】
上記(III)式の脂肪族ジカルボン酸単位に相当する脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、およびこれらの低級アルコールエステル、無水コハク酸、無水アジピン酸等が挙げられる。得られる共重合体の物性の面から、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、またはこれらの無水物、およびこれらの低級アルコールエステルが好ましく、特にはコハク酸、無水コハク酸、またはこれらの混合物が好ましい。これらは単独でも二種以上の混合して使用することもできる。
【0032】
脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族もしくは脂環式ジオール、および、脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体とを含む、第二成分として好ましい態様の上記脂肪族ポリエステル共重合体の製造は、公知技術で行うことができる。この脂肪族ポリエステルを製造する際の重合反応は、従来から採用されている適切な条件を設定することができ、特に制限されない。
第二成分として好ましい態様の上記脂肪族ポリエステル共重合体を製造する際の脂肪族または脂環式ジオールの使用量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体の使用量と実質的に等モルであるが、エステル化中に、脂肪族または脂環式ジオールは留出することが一般的であるから、1〜20モル%過剰に用いられることが好ましい。この脂肪族ポリエステル共重合体を製造する際に、添加される脂肪族オキシカルボン酸を1モル%以上過剰に用いれば十分な添加効果が現れ、20モル%以下過剰に用いれば結晶性が十分に保持されるので成形上好ましく、耐熱性、機械特性も良好である。また、この脂肪族ポリエステル共重合体を製造する際の脂肪族オキシカルボン酸の量は、脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体100モルに対して、好ましくは、0.04〜60モル、より好ましくは1.0〜40モル、特に好ましくは2〜20モルである。
【0033】
第二成分として好ましい態様の上記脂肪族ポリエステル共重合体を製造する際の、脂肪族オキシカルボン酸の添加時期、方法は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、例えば、(1)あらかじめ触媒を脂肪族オキシカルボン酸溶液に溶解させた状態で添加する方法、(2)原料仕込み時、触媒を添加すると同時に添加する方法、などが挙げられる。
本発明の第二成分として好ましい態様の上記脂肪酸ポリエステル共重合体は、重合触媒の存在下で製造されることが好ましい。触媒としては、ゲルマニウム化合物が好適である。ゲルマニウム化合物は、特に制限されるものではなく、酸化ゲルマニウム、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物、塩化ゲルマニウムなどの無機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さからなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好適である。また、上記触媒と他の触媒の併用も可能である。
【0034】
触媒の使用量は、使用するモノマー量に対して、好ましくは0.001〜3重量%、より好ましくは、0.005〜1.5重量%である。触媒の添加時期は、重縮合以前であれば、特に限定されないが、原料仕込み時に添加しておくと良く、減圧開始時に添加してもよい。原料仕込み時に、乳酸、グリコール酸などの脂肪族オキシカルボン酸と同時に添加するか、または、脂肪族オキシカルボン酸水溶液に触媒を溶解して添加する方法が好ましく、特に触媒の保存性が良好となる点で、脂肪族オキシカルボン酸水溶液に触媒を溶解して添加する方法が好ましい。
【0035】
また、第二成分として好ましい様態の上記脂肪族ポリエステル共重合体の数平均分子量は、好ましくは1万〜20万、より好ましくは3万〜20万である。
【0036】
また、この脂肪族ポリエステル共重合体に、他の共重合成分を導入することができる。他の共重合成分としては、例えば、ヒドロキシ安息香酸等の芳香族オキシカルボン酸類、ビスフェノールA等の芳香族ジオール類、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、またはトリメチロールプロパン、グリセリンなどの多価アルコール、多価カルボン酸または無水物、リンゴ酸などの多価オキシカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
第一成分と第二成分との組み合わせは、第二成分よりも融点の高い脂肪族ポリエステルまたは該脂肪族ポリエステル共重合体を含む第一成分と、脂肪族ポリエステル共重合体を含む第二成分であれば、その組み合わせは特に限定されない。具体的には、上記列挙した第一成分の具体例と第二成分の具体例を適宜組み合わせて用いることができる。これらの組み合わせの中でも、好ましい組み合わせ(第一成分/第二成分)は、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート・グルタレート/ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリ乳酸/ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート・グルタレート/ポリエチレンサクシネートであり、特に好ましい組み合わせ(第一成分/第二成分)は、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートまたはポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート・アジペートである。
【0038】
本発明の生分解性不織布に含まれる第一成分、第二成分に好適に用いられる脂肪族ポリエステルまたは脂肪族ポリエステル共重合体には、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、親水剤等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0039】
本発明の生分解性不織布に含まれる第一成分および第二成分の紡糸を行う前のメルトマスフローレイト(JIS K 7210の附属書A表1の条件D(温度190℃、荷重2.16kg)にて測定。以下、MFRと略す)は、紡糸可能な範囲のMFRであれば、特に限定されることはないが、1〜200g/10分の範囲が好ましく、10〜200g/10分の範囲がさらに好ましい。本発明の一つの態様であるメルトブローン法においては、細繊化のため、より高いMFRであることが好ましく、20〜200g/10分が好ましい。
【0040】
本発明の生分解性不織布において、第一成分と第二成分の半結晶化時間に差を設け、第二成分として半結晶化時間が長いものを選ぶことが重要となる。以下にこの理由を述べる。
本発明の第一成分や第二成分に用いられるような生分解性を有する成分(生分解性樹脂)を主成分として単独の繊維を紡糸し、ウェブとした場合、その生分解性樹脂の融点が高い場合、綿状のウェブを形成することはできるが、ウェブ中の繊維接点の接着が十分でないため機械的な強度が得られず、接着を強固にするためにはさらなる熱処理が必要となる。その場合、接着は行われるが、樹脂が結晶化して固化する際にウェブ全体が硬いものとなってしまい、得られる不織布の風合いも硬いものとなる。比較的低融点の生分解性樹脂を使用した場合は、ウェブ形成の時点でベタツキが生じるので搬送や巻き取りなどの取り扱いが困難となり、ベタツキが生じなかったとしても接着が進みすぎるので、後の熱処理を行う意味がなく、行ったとしても得られる不織布の風合いはさらに硬くなってしまう。メルトブローン法やスパンボンド法によってウェブを形成する場合も、コンベア上に繊維を捕集する際に上記と同様の問題が発生する。
【0041】
これに対して、融点の異なる2種類の生分解性樹脂を紡糸して混繊した場合、たとえそれらの樹脂の融点が異なっていても樹脂が結晶化(固化)する時間に差がないか、高融点樹脂側の結晶化(固化)時間が長い場合は、双方の生分解性樹脂が結晶化(固化)する際の挙動が、上述した単独の繊維を紡糸した場合と変わらず、融点の差を設けても問題が解消されない。これらの問題を解決するためには、双方の生分解性樹脂の固化時間を考慮することが重要となる。双方の生分解性樹脂の相対的な結晶化(固化)時間については、それらの半結晶化時間を測定することによって知ることができる。
【0042】
そこで、本発明においては、生分解性不織布に含まれる第一成分と第二成分を、それらの半結晶化時間に差を設けて選び、第二成分の半結晶化時間を第一成分のそれより長くすることで、半結晶化時間が短い生分解性樹脂が不織布の風合いを維持し、また半結晶化時間が長い生分解性樹脂が不織布形成に必要な繊維同士の交絡点を形成することで、風合いと機械的強度に優れた生分解性不織布が得られる。このような条件を満たしていれば、第一成分と第二成分は異なる生分解性樹脂であっても、類似の生分解性樹脂であってもよい。
【0043】
具体的には、第二成分の半結晶化時間が、第一成分の半結晶化時間よりも80秒以上長くなるように、第一成分と第二成分を選択すると不織布形成時において、第一成分の結晶化が完了後に、第二成分が結晶化するため、搬送や巻取り時の不具合が低減される。第二成分の半結晶化時間が、第一成分の半結晶化時間よりも100秒以上長くなると好ましく、120秒以上長くなると尚好ましく、150秒以上長くなるとさらに好ましい。
【0044】
同様に、第二成分の半結晶化時間は、好ましくは180秒以上、第一成分の半結晶化時間は100秒以下であると、不織布形成後の搬送や巻取りの不具合が低減される。
第一成分の半結晶化時間は、好ましくは60秒以下、更に好ましくは30秒以下である。これによって、接着成分である第二成分が不織布中に存在している場合でも、熱風処理や点熱圧着等の不織布形成加工後に粘着性に起因する搬送や巻取りの不具合が低減される。特にメルトブローン法では捕集コンベアに混合繊維ウェブを形成する際に、前記半結晶化時間の第一成分と第二成分を用いることで、第二成分は混繊繊維ウェブが未結晶状態で捕集され、繊維同士が交絡点を形成した不織布が得られる。一方、第一成分は、混繊繊維ウェブは結晶状態で捕集されるため、繊維同士の交絡点が形成せず、風合いのウェブが得られる。よって、第一成分が風合いを維持し、第二成分が不織布形成に必要な繊維同士の交絡点を形成するため、風合いと機械的強度に優れた生分解性不織布が得られる。
【0045】
本発明の生分解性不織布に含まれる第一成分と第二成分との組み合わせによって、風合い、柔軟性および耐熱性等の種々の性質を生分解性不織布に付与することが可能である。
また、第一成分と第二成分の融点差が一定以上あると、混合繊維同士の熱接着性および引張強度を良好に保つことができる。そのため、両者の融点差は、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることが更に好ましい。
【0046】
本発明の生分解性不織布において、繊維Aの混繊比が少なすぎると、得られる不織布の柔軟性や風合いが不十分となり、多すぎると、得られる不織布の機械的強度が低下する。これらの観点から、繊維Aと繊維Bの好ましい混繊(重量)比は、5:95〜95:5であり、さらに好ましくは10:90〜90:10、特に好ましくは20:80〜80:20である。また、本発明のごとく繊維Aと繊維Bを混合繊維として用いることにより、樹脂混合では紡糸困難な、相溶性が低い成分同士であっても、容易に紡糸することができ、生分解性不織布とすることができる。
【0047】
本発明の生分解性不織布を構成する繊維を製造する方法としては、特に限定がなく、ステープルファイバーやチョップ等の短繊維を得る方法、ならびにメルトブローン法、スパンボンド法、トウ開繊法等の長繊維を得る方法を例示できるが、特に風合いを重視する場合はメルトブローン法、特に強度を重視する場合はスパンボンド法が望ましい。
【0048】
本発明の生分解性不織布においては、繊維Aと繊維Bを混繊させる方法には特に限定はなく、従来公知公用の方法を使用することができる。
【0049】
例えば、紡糸、延伸後に必要に応じたクリンプ処理を施して、所定の長さに切断された繊維AとBそれぞれの短繊維を作成し、カード法またはエアレイド法によりウェブ化する際に両繊維を混繊させることができる。また、一方の繊維を直接不織布化する方法であるメルトブローン法、スパンボンド法のいずれかの方法で製造する工程で、捕集コンベア上に繊維を吹き付ける時にもう一方の短繊維、長繊維等を供給し、混繊する方法が例示される。また、短繊維や長繊維のウェブを形成する際に、メルトブローン法、スパンボンド法のいずれかで製造された長繊維を吹き付けてもよい。
【0050】
本発明の生分解性不織布を構成する両繊維がメルトブローン法によって混合される場合は、例えば特許第3360377号明細書に記載された1つの紡糸口金に異種の樹脂が流れ出す紡糸孔が交互に一列で並んだ構造の紡糸口金を使用することができる。得られるウェブでは繊維AとBがより均一に混合される。また、繊維A用の紡糸口金と繊維B用の紡糸口金を併用し、それぞれの紡糸口金で得られる繊維Aのウェブと繊維Bのウェブとを積層してもよい。さらに、この積層物にニードルパンチ等の処理をして、繊維の混合状態を改良することもできる。より均一な混合状態のウェブを得るには、特許第3360377号明細書に記載された紡糸口金を用いる方法が好ましい。
【0051】
繊維Aと繊維Bとに割り当てられる紡糸孔の数を変更したり、各口金から出る繊維の吐出量を変更することにより、生分解性不織布中の各繊維の含有量を変更することができる。また、それぞれの樹脂の紡糸孔当たり異なる押出量で紡糸したり、孔径の異なる口金を用いて紡糸することにより、繊度の異なる混合物が得られる。
【0052】
本発明の生分解性不織布を構成する両成分繊維がスパンボンド法による場合は、例えば図−1に記載された1つの紡糸口金に異種の樹脂が流れ出す紡糸孔が千鳥配列に並んだ構造の紡糸口金を使用して溶融紡糸することができる。得られるウェブでは繊維Aと繊維Bがより均一に混繊される。また、繊維A用の紡糸口金と繊維B用の紡糸口金を併用し、それぞれの紡糸口金で得られる繊維Aのウェブと繊維Bのウェブとを積層してもよい。更に、この積層物にニードルパンチ等の処理をして、繊維の混繊状態を改良することもできる。
【0053】
本発明の生分解性不織布を構成する繊維の断面形状は、丸断面または紡糸を損なわない範囲で異型断面または中空断面であってもよい。繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、1〜50μmが好ましい範囲である。更に、風合いの面から好ましくは、1〜30μmである。
【0054】
本発明の生分解性不織布の目付は、特に限定されないが、好ましくは1〜300g/m2、より好ましくは5〜200g/m2、更に好ましくは10〜150g/m2である。また、目的に応じて熱処理しても構わない。熱処理の方法としては、フラットカレンダーロールや加熱エンボスロールによる熱圧着法、加熱空気によるエアスルー法、赤外線ランプによる方法等の公知の方法が使用できる。また、ソニックボンド加工、ウォータージェット加工、スチームジェット加工、ニードルパンチ加工、レジンボンド加工のいずれか一つ以上の加工を行なっても構わない。
【0055】
本発明においては、得られた生分解性不織布に、前記生分解性以外の不織布、フィルム、ウェブ、織物、編物およびトウから選ばれる少なくとも1種の物品を積層して複合化不織布として用いることができる。積層に使用される材料は、特に限定されないが、目的によって種々の材料が適宜選択され、利用できる。
【実施例】
【0056】
(1)半結晶化時間
TAInstrument社製熱分析装置DSC Q10(商品名)を用い、試料4mgを昇温速度10℃/分にて融点以上まで加熱、溶融させた後、降温速度10℃/分で降温させて温度設定を85℃として、試料を結晶化させた。結晶化工程のサーモグラフからΔHcが1/2となるポイントを読み取り、結晶化が始まったポイントからΔHcが1/2となるポイントまでの時間(秒数)を測定した。この測定を3回繰り返し、その平均値を半結晶化時間とした。
(2)融点
TAInstrument社製熱分析装置DSC Q10(商品名)を用い、JIS K 7122に準拠し、昇温速度10℃/分にて融点を測定した。
(3)引張強度
幅25mm、150mmの短冊状に切断した不織布をサンプルとして、該不織布サンプルのMD方向(機械方向)およびCD方向(機械方向に直行する方向)について、(株)島津製作所製オートグラフAG-G(商品名)を用い、サンプルの破断強度および破断伸度を測定した。試験条件は、室温下、引張速度100mm/分、試長100mmで実施した。
(4)柔軟度
JIS L 1096(A法、45°カンチレバー法)に準拠し、不織布のMD方向について、剛軟度を測定し、柔軟度として求めた。なお、柔軟度の値は小さいほど不織布が柔らかいことを示す。
(5)不織布風合い
不織布を用いて、10人のパネラーに不織布を触ってもらい風合いを判断する。判定基準は、ガサツキ感がなく、しかもソフトであると全員が判定した場合を優(A)、3〜4名が同様に判定した場合を良(B)、3名以上がガサツキ感があるか、またはソフト感に欠けると判断した場合を不可(C)とした。
(6)生分解性能評価
不織布を土中に埋没して6ヶ月後に取り出し、不織布がその形態を保持しておらず、埋没後の引張強度が測定不可能である場合を優、不織布はその形態を保持しているが埋没後の引張強度が埋没前の引張強度に対して50%未満まで低下している場合を良、不織布の埋没後の引張強度が埋没前の引張強度に対して50%以上を示している場合を不可と評価した。
(7)不織布の機械的強度判定
得られた不織布の機械的強度判定として、引張強度測定時に不織布破断形状を目視観察した。判定基準は、不織布形状を保ったまま破断した場合を○、ウェブ形状で破断した場合を×とした。
(8)捕集コンベアからの剥離性
不織布製造の際に、捕集コンベアからの剥離性を目視観察した。捕集コンベアからの剥離性が良好な場合を○、捕集コンベアからの剥離が粘着や膠着により悪い場合を×とした。
【0057】
本発明において使用した材料の略号と内容は以下の通りである。
・PLA−1:ポリ乳酸(豊田自動車 商品名:U’z S−22 融点174℃ MFR20 条件D)
・PLA−2:ポリ乳酸(ネーチャーワークス 商品名:6201D 融点166℃ MFR13.5 条件D)
・PLA−3:ポリ乳酸(ネーチャーワークス 商品名:6252D 融点165℃ MFR36 条件D)
・PBS−1:ポリブチレンサクシネート(三菱化学製 商品名:GSPla AZ71T 融点110℃ MFR20 条件D)
・PBS−2:ポリブチレンサクシネート(三菱化学製 商品名:GSPla AZ61T 融点110℃ MFR30 条件D)
・PBS−3:ポリブチレンサクシネート(昭和高分子製 商品名:ビオノーレ 1050 融点114℃ MFR55 条件D)
・PBSA:ポリブチレンサクシネート−アジペート(昭和高分子製 商品名:ビオノーレ 3020 融点104℃ MFR30 条件D)
・PES:ポリエチレンサクシネート(日本触媒製 商品名:ルナーレSE 融点102℃ MFR28 条件D)
・PETG:ポリエチレンテレフタレート・グルタレート(デュポン製 商品名:Biomax 4026 融点199℃ MFR22 条件D)
・PBTA:ポリブチレンテレフタレート・アジペート(イーストマン・ケミカル製 商品名:EASTAR BIO GP 融点108℃ MFR28 条件D)
【0058】
(実施例1)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBS−1を用いた。メルトブローン装置としてスクリュー(30mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.3mm、異なる成分の繊維を吐出するための紡糸孔が、一列毎に交互に並んだ紡糸孔、孔数501ホール、有効幅500mm)、圧縮空気発生装置、空気加熱機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベア、巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にPLA−1とPBS−1を別々に投入し、加熱体によりそれぞれ230℃で加熱溶融させて、PLA−1/PBS−1の比率(重量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりPLA−1、PBS−1共に0.45g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維を400℃に加熱した98kPa(ゲージ圧)の圧縮空気によって、走行速度22m/分で走行しているポリエステル製ネットの捕集コンベア上に吹き付けることによって、PLA−1からなる繊維とPBS−1からなる繊維が均一にランダムに集積したメルトブローン不織布を得た。捕集コンベアは、紡糸口金から25cmの距離に設置した。吹き付けた空気は捕集コンベアの裏側に設けた吸引装置で除去した。得られた不織布の物性等を表1に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0059】
(実施例2)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBS−2を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表1に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0060】
(実施例3)
原料樹脂として第一成分にPLA−2、第二成分にPBS−1を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表1に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0061】
(実施例4)
原料樹脂として第一成分にPLA−3、第二成分にPBS−3を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表1に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0062】
(実施例5)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBSAを用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表1に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0063】
(実施例6)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBS−1を用い、PLA−1/PBS−1の比率(重量%)が70/30になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりPLA−1とPBS−1の平均吐出量が0.45g/分の紡糸速度で吐出させた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表1に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0064】
(実施例7)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBS−1を用い、PLA−1/PBS−1の比率(重量%)が30/70になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりPLA−1とPBS−1の平均吐出量が0.45g/分の紡糸速度で吐出させた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表2に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0065】
(実施例8)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBS−1を用い、PLA−1/PBS−1の比率(重量%)が60/40になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりPLA−1とPBS−1の平均吐出量が0.45g/分の紡糸速度で吐出させた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表2に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0066】
(実施例9)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPESを用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表2に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0067】
(実施例10)
原料樹脂として第一成分にPETG、第二成分にPBS−1を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表2に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0068】
(実施例11)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBS−1を用いた。スパンボンド装置としてスクリュー(30mm径)、加熱体およびギアポンプを有する2機の押出機、混繊用紡糸口金(孔径0.4mm、図1の紡糸孔配列を持つ混繊用の紡糸口金、120ホール)、エアサッカー、帯電法開繊機、ポリエステル製ネットを備えた捕集コンベア、ポイントボンド加工機および巻取機からなる装置を用いた。それぞれの押出機にPLA−1とPBS−1を別々に投入し、加熱体によりそれぞれ230℃で加熱溶融させて、PLA−1/PBS−1の比率(重量%)が50/50になるようにギアポンプを設定して、紡糸口金から単孔当たりPLA−1、PBS−1共に0.45g/分の紡糸速度で吐出させ、吐出した繊維をエアサッカーに導入し、直後に帯電法開繊機によって開繊させた捕集コンベア上に捕集した。エアサッカーの空気圧は、196kPaとした。捕集コンベア上にウェブを上下ロール温度60℃に加熱したポイントボンド加工機(圧着面積21%)に投入し、加工後の不織布を巻取機にてロール状に巻取り、スパンボンド不織布を得た。得られた不織布の物性等を表2に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた。
【0069】
(実施例12)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPBTAを用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表2に示す。得られた生分解性不織布は機械的強度および柔軟性に優れた特性を有していた
【0070】
(比較例1)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPLA−1を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表3に示す。得られた生分解性不織布は熱融着による繊維同士の交絡がないためウェブ状であり、機械的強度が満足できる性能を示さなかった。
【0071】
(比較例2)
原料樹脂として第一成分にPBS−1、第二成分にPBS−1を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表3に示す。得られた生分解性不織布は、捕集コンベアの剥離性が悪く、また柔軟性および風合いが悪くが満足できる性能を示さなかった。
【0072】
(比較例3)
原料樹脂として第一成分にPLA−1、第二成分にPLA−3を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表3に示す。得られた生分解性不織布は熱融着による繊維同士の交絡がないためウェブ状であり、機械的強度が満足できる性能を示さなかった。
【0073】
(比較例4)
原料樹脂として第一成分にPBS−1、第二成分にPBS−3を用いた以外は、実施例1に準拠して、生分解性不織布を得た。得られた不織布の物性等を表3に示す。得られた生分解性不織布は、捕集コンベアの剥離性が悪く、また柔軟性および風合いが悪くが満足できる性能を示さなかった。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の生分解性不織布または生分解性複合化不織布を用いた繊維製品としては、例えば、衛生材料、医療材料、建築用、家庭用、被服材料用、包装材料、食品用、その他多くの用途に使用することができる。また、他の資材、例えば布帛、フィルム、金属ネット、建設資材、土木資材、農業資材など、多くの資材と組み合わせて使用することも可能である。
具体的には、使い捨てオムツ用表面材、オムツ用部材、生理用品用部材、オムツカバー用部材等の衛生材料の部材、衣料用芯地、衣料用絶縁材や保温材、防護服、帽子、マスク、手袋、サポーター、振動吸収材、指サック、クリーンルーム用エアフィルター、血液フィルター、油水分離フィルター等の各種フィルター、エレクトレット加工をほどこしたエレクトレットフィルター、セパレーター、断熱材、コーヒーバッグ、食品包装材料、自動車用天井表皮材、防音材、基材、クッション材、スピーカー防塵材、エア・クリーナー材、インシュレーター表皮、バッキング材、ドアトリム等の各種自動車用部材、複写機のクリーニング材等の各種クリーニング材、カーペットの表材・裏材、農業捲布、木材ドレーン材、スポーツシューズ表皮等の靴用部材、カバン用部材、工業用シール材、ワイピング材、シーツ等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の繊維(繊維Aおよび繊維B)が混合され、繊維Aは生分解性を有する第一成分を含有し、繊維Bは生分解性を有する第二成分を含有する生分解性不織布であって、
(a)繊維Aと繊維Bの混繊比(重量比)が5:95〜95:5の範囲である混合繊維ウェブを用いて得られる不織布であり、
(b)第一成分が第二成分よりも融点の高い脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリエステル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
(c)第二成分の85℃における半結晶化時間が、第一成分の85℃における半結晶化時間よりも長い、
ことを特徴とする生分解性不織布。
【請求項2】
第二成分の85℃における半結晶化時間が、第一成分の85℃における半結晶化時間よりも80秒以上長いことを特徴とする請求項1に記載の生分解性不織布。
【請求項3】
第二成分の85℃における半結晶化時間が180秒以上であり、第一成分の85℃における半結晶化時間が100秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性不織布。
【請求項4】
第一成分の85℃における半結晶化時間が60秒以下である、請求項1〜3のいずれか記載の生分解性不織布。
【請求項5】
第一成分がポリ乳酸およびポリ乳酸共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、第二成分がポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンサクシネート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性不織布。
【請求項6】
第一成分が、第二成分よりも40℃以上高い融点を有することを特徴とする請求項1記載の生分解性不織布。
【請求項7】
生分解性不織布が、スパンボンド法で得られる長繊維不織布である請求項1〜6記載のいずれか1項記載の生分解性不織布。
【請求項8】
生分解性不織布が、メルトブローン法で得られる長繊維不織布である請求項1〜6記載のいずれか1項記載の生分解性不織布。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の生分解性不織布に、該生分解性不織布以外の不織布、フィルム、ウェブ、織物、編物およびトウから選ばれる少なくとも1種の物品を積層した複合化不織布。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の生分解性不織布、または請求項9記載の複合化不織布を用いた繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−255135(P2010−255135A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106234(P2009−106234)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(399120660)チッソポリプロ繊維株式会社 (41)
【Fターム(参考)】