説明

生分解性合成紙およびその製造方法

【課題】寸法安定性に優れ、従来の合成紙と同等またはそれ以上の筆記性、印刷性と適度なコシを有する地球環境負荷の低い合成紙を提供する。
【解決手段】D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)、ならびに微粉状充填材(C)から構成される生分解性合成紙ポリ乳酸樹脂、および(A)、(B)ならびに見かけ比重0.1〜0.45g/cc、かつ、平均粒径が1〜8μmの(C)を溶融混練してシートまたはフィルムとした後、少なくとも一軸方向に延伸する生分解性合成紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた寸法安定性、筆記性と印刷性を備え、適度なコシを有した生分解性合成紙およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルプ等からなる天然紙は、鉛筆やボールペン等の筆記性や印刷性に優れ、さらに廃棄後自然環境中で分解するが、強度、耐水性が不足する等の問題点がある。一方、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等からなる合成紙は、鉛筆やボールペン等の筆記性・印刷特性は天然紙と同等の特性を有しながらも、強度、耐水性は天然紙より優れている。しかしながら、合成紙は廃棄後に分解せず、焼却処理した場合、燃焼発熱量が大きく焼却炉を傷めたり、大気中の炭酸ガス濃度が上昇したりする等の問題がある。また、生分解性樹脂のポリブチレンサクシネート等からなる合成紙は、コシがない等の問題がある。
【0003】
そこで、特許文献1では、ポリ乳酸樹脂等の生分解性樹脂に無機充填材を配合した生分解性合成紙が開示されており、特許文献2では、ポリ乳酸樹脂に特定の生分解性樹脂と充填材を配合した生分解性合成紙が開示されている。しかしながら、これらの合成紙は、コシがなく、鉛筆やボールペン等の筆記性、印刷性が不良であった。
【0004】
本発明者らは、特許文献3、4、5で、ポリ乳酸に特定の生分解性樹脂、充填材との組み合わせからなる生分解性合成紙を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−322962号公報
【特許文献2】特開2005−306932号公報
【特許文献3】特開2003−183419号公報
【特許文献4】特開2004−231860号公報
【特許文献5】特開2007−284558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの合成紙も、印刷時の乾燥工程で高温にさらすと、収縮する等、寸法安定性が十分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、寸法安定性に優れ、従来の合成紙と同等またはそれ以上の筆記性、印刷性と適度なコシを有する地球環境負荷の低い合成紙を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、D体含有量を制御したポリ乳酸樹脂を用いて結晶性を向上させることにより、上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)、および微粉状充填材(C)を含有する生分解性合成紙。
(2)ポリ乳酸樹脂(A)中のD体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または99.4〜99.9モル%である(1)記載の生分解性合成紙。
(3)ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)と、見かけ比重0.1〜0.45g/cc、かつ、平均粒径が1〜8μmの微粉状充填材(C)を溶融混練してシートまたはフィルムとした後、少なくとも一軸方向に延伸する(1)または(2)いずれかに記載の生分解性合成紙の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生分解性合成紙は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂を用いているため、結晶化が速く、結晶化度が高く、寸法安定性に優れている。また、優れた筆記性、印刷性を有している。そのため、ポスター等屋外用印刷物、名刺、発送伝票、感熱記録、熱転写記録等、耐熱性、高温での寸法安定性、コシの必要な用途に好適に利用できる。
また、本発明の生分解性合成紙の製造方法によれば、前記生分解性合成紙を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の合成紙は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)、および微粉状充填材(C)を含有する。
【0011】
なお、以下において、ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)からなる樹脂組成物を「樹脂組成物(AB)」と略称する。
【0012】
まず、ポリ乳酸樹脂(A)について説明する。
【0013】
ポリ乳酸樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物(AB)に対して、50〜95質量%とすることが好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の含有量をこの範囲とすることで、合成紙に、適度な強度、コシ、耐熱性、寸法安定性を付与することができる。
【0014】
ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は1.0モル%以下であるか、または、D体含有量が99.0モル%以上とすることが必要である。D体含有量がこの範囲外であるポリ乳酸樹脂を用いた場合、得られる合成紙は、結晶化度が低くなり、耐熱性、寸法安定性が劣るものとなる。中でも、D体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または、99.4〜99.9モル%とすることがより好ましい。
【0015】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂(A)の場合、このポリ乳酸樹脂(A)は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0016】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は、後述するように、ポリ乳酸樹脂(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0017】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)として、2種以上のポリ乳酸樹脂を用いてもよい。この場合、D体含有量が本発明で規定する範囲外であるポリ乳酸樹脂、例えば、D体含有量が1.0モル%を超えるポリ乳酸樹脂を用いてもよく、このようなポリ乳酸樹脂と、本発明で規定するD体含有量を満足するポリ乳酸樹脂とを用いて得られるポリ乳酸樹脂(A)において、そのD体含有量が1.0モル%以下であればよい。同様に、ポリ乳酸樹脂(A)を構成するポリ乳酸樹脂として、D体含有量が99.0%未満のポリ乳酸樹脂を用いてもよく、組み合わせて得られるポリ乳酸樹脂(A)において、そのD体含有量が99.0%以上であればよい。
【0018】
ポリ乳酸樹脂(A)の後述の測定方法によるメルトフローレート(以下、MFRと略称する。)は、0.1〜50g/10分であることが好ましく、0.2〜20g/10分がより好ましく、0.5〜10g/10分がさらに好ましい。MFRが0.1g/10分未満の場合は溶融時の流動性がなくなり、成形性が急速に低下する。一方、MFRが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎ、成形性が低下するばかりか、得られた合成紙の機械物性や耐熱性が劣る場合がある。
【0019】
ポリ乳酸樹脂(A)としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂のうち、D体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸樹脂を用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL-ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD−ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる
【0020】
次に、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)について説明する。
【0021】
ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)は、合成紙にコシを付与させることを主たる目的として配合されるものである。
【0022】
ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物(AB)に対して、5〜50質量%とすることが好ましい。(B)の含有量をこの範囲とすることで、合成紙に、適度な強度、コシ、耐熱性、寸法安定性を付与することができる。
【0023】
ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)としては、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等のジオールとジカルボン酸等の脂肪族ポリエステル、ポリ(ε−カプロラクトン)等のポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリブチレンサクシネートのテレフタレート変性物やポリブチレンアジペートのテレフタレート変性物等の芳香族成分を含むポリエステル樹脂が挙げられる。これらの中でも、製膜性と延伸性が良好であり、合成紙に適度な柔軟性とコシを付与できることから、ガラス転移温度が0℃以下である樹脂が好ましい。具体的な樹脂としては、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンテレフタレート)、(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)、ポリエチレンサクシネート等が挙げられる。
【0024】
ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)は、混合していてもよく、共重合していてもよい。
【0025】
合成紙としての物性を損なわない範囲で、その他の生分解性樹脂成分を混合していてもよく、共重合していてもよい。例えば、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、デンプン等の多糖類が挙げられる。
【0026】
次に、微粉状充填材(C)について説明する。
【0027】
微粉状充填材(C)は、合成紙に適度な筆記性や印刷性を付与させることを主たる目的として配合させるものである。
【0028】
微粉状充填材(C)の含有量は、樹脂組成物(AB)100質量部に対して、10〜70質量部とすることが好ましく、10〜50質量部がより好ましく、10〜30質量部がさらに好ましい。微粉状充填材(C)の含有量をこの範囲とすることで、合成紙に、適度な鉛筆やボールペン等の筆記性や隠蔽性を付与することができる。また、延伸時に切断せず、効率よく生産することができる。
【0029】
微粉状充填材(C)としては、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等の無機充填材が挙げられる。また、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品等の有機充填材を用いてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、強アルカリ性を示さず、生分解性ポリエステルを過度に分解させないことから、タルクやマイカが好ましい。
【0030】
微粉状充填材(C)の平均粒子径は1〜8μmとすることが好ましく、1〜5μmがより好ましい。微粉状充填材(C)の平均粒子径をこの範囲とすることで、合成紙に適度な鉛筆やボールペン等の筆記性を付与することができる。また、延伸時に切断せず、効率よく生産することができる。
【0031】
微粉状充填材(C)の見かけ比重は0.1〜0.45g/ccとすることが好ましい。微粉状充填材(C)の見かけ比重をこの範囲とすることで、微粉状充填材(C)同士が凝集しにくくなり、微粉状充填材(C)は合成紙表面に現れるか、または合成紙表面上に現れた微粉状充填材(C)の周りを樹脂が薄く被覆構造をとるような構造になる。そのため、合成紙に適度な表面粗さが付与され、適度な鉛筆やボールペン等の筆記性と印刷性が付与される。
【0032】
微粉状充填材(C)の形状は板状であることが好ましい。微粉状充填材(C)の形状が板状であると、微粉状充填材が配向しやすくなる。板状の微粉状充填材としては、タルクやマイカが挙げられる。
【0033】
ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)と微粉状充填材(C)を含有する樹脂組成物の溶融粘度は、10〜1×10Pa・sとすることが好ましく、100〜1×10Pa・sがより好ましく、200〜1×10Pa・sがさらに好ましい。溶融粘度を上記の範囲とすることで、延伸時に切断せず、効率よく生産することができる。
【0034】
溶融粘度は、ポリ乳酸樹脂(A)およびポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量を調節することにより制御することができる。
【0035】
次に、本発明の合成紙の製造方法について説明する。
【0036】
まず、本発明の合成紙を製造するためには、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)と微粉状充填材(C)を混合し溶融混練し樹脂組成物を得る。
【0037】
混合方法は特に限定されないが、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型混合機等によって混合してもよい。また、溶融混練方法も特に限定されないが、必要に応じて、一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等によって溶融混練してもよい。また、スタティックミキサーやダイナミックミキサー等を用いてもよい。
【0038】
微粉状充填材(C)は、押出機途中から粉体フィーダーによって配合してもよい。微粉状充填材(C)の見かけ比重が低い場合、途中フィードできる二軸押出機を用いて、微粉状充填材(C)の一部をサイドフィーダーから添加することが好ましい。その場合、(トップフィードする量)/(サイドフィードする量)=30/70〜80/20(質量比)の範囲とすることが好ましい。さらに樹脂への混練を容易にするために、微粉状充填材(C)に少量の展着剤を配合してもよく、例えば、各種ワックス、脂肪族アミド、脂肪族ポリエステルの低分子量物等を、樹脂組成物(AB)に対して、0.01〜0.5質量%配合することができる。
【0039】
なお、溶融混練する際には、本発明を損なわない範囲内で、他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、顔料、可塑剤、耐光剤、耐候剤、滑材、酸化防止剤、抗菌剤、香料、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種有機・無機電解質等を配合することができる。中でも、合成紙の色調を整えるために酸化チタン等の白色顔料が好ましい。
【0040】
次いで、得られた樹脂組成物を乾燥し、製膜してシートまたはフィルムを得る。
【0041】
製膜方法は特に限定されない。例えば、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が挙げられる。中でも、汎用性が高いTダイ法、またはインフレーション法が好ましい。
【0042】
なお、ポリ乳酸樹脂(A)と、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)、微粉状充填材(C)とを溶融混練した後、連続して製膜工程に供してもよい。
【0043】
続いて、得られたシートまたはフィルムをガラス転移温度以上結晶化温度以下の温度雰囲気内で少なくとも一軸方向に延伸する。
【0044】
本発明の製造方法では、少なくとも一軸方向に延伸しているために、樹脂組成物(AB)からなる樹脂と微粉状充填材が延伸方向に沿って層状に配向した構造になりやすくなり、充填材同士が凝集しにくくなる。また、微粉状充填材の平均粒子径が1〜8μmであるため、充填材層の厚みは10μm以下となり、合成紙表面付近の充填材層も10μm以下となる。そのため、適度な鉛筆やボールペン等の筆記性、印刷性を得ることができる。また、微粉状充填材の見かけ比重が0.1〜0.45g/ccと適度な見かけ比重を有しているため、微粉状充填材を圧縮することなく、樹脂に高濃度で添加することができる。通常、微粉状充填材を高濃度で添加する場合には、圧縮工程に供され、見かけ比重を高めてから使用することが多い。本発明の製造方法では、通常よりも1工程減らすことができ、経済的に有利である。さらに、微粉状充填材の形状が板状であると、微粉状充填材が層状に配向しやすくなる。
【0045】
延伸とは、機械進行方向(以下、「MD方向」と略称する。)および/または機械進行方向に対して直交方向(以下、「TD方向」と略称する。)に引き伸ばすことをいう。延伸により、樹脂の分子が配向し、合成紙の機械的強度や衝撃強度が向上する。延伸倍率は4.1倍以上が好ましく、4.1〜10倍がより好ましく、4.1〜9倍がさらに好ましい。延伸は多段に分けて行なってもよいし、同時または逐次延伸法により二軸方向に延伸してもよい。延伸倍率をこの範囲とすることで、延伸時に切断せず、効率よく生産することができる。
【0046】
延伸後のフィルムは、収縮を抑えるために60〜160℃の範囲で数秒〜数十秒間熱処理をおこなうことが好ましい。
【0047】
合成紙の厚みは、20〜2000μmが好ましい。厚みをこの範囲とすることで、効率よく生産することができ、紙として使用しやすくなる。合成紙の厚みは、押出し条件、製膜条件、延伸条件により制御することができる。
【0048】
合成紙の熱収縮率は2%未満とすることが好ましい。熱収縮率が2%以上であると、印刷時に合成紙が収縮し、印刷できないことがある。合成紙の熱収縮率は、ポリ乳酸樹脂(A)のL体含有量を1.0モル%以下にするか、99.0モル%以上にすることで制御できる。
【0049】
合成紙の表面粗さは、0.1〜10μmとすることが好ましい。表面粗さをこの範囲とすることで、凹部に筆記部材が適度に残存でき、適度な鉛筆やボールペン筆記性を得ることができる。合成紙の表面粗さは、微粉状充填材の種類と含有量を変更することにより制御することができる。
【0050】
合成紙のコシは、クラーク法(JIS P8143、紙の自重曲げ法によるこわさ試験方法)により測定したこわさで評価することができる。
【0051】
合成紙のこわさは、20〜70(cm/100)とすることが好ましく、30〜70(cm/100)がより好ましい。合成紙のこわさをこの範囲とすることで、天然紙と同等のコシを有するようになる。合成紙のこわさはポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステルの種類と含有量を変更することで制御することができる。
【0052】
本発明の合成紙は、パルプ等からなる天然紙や、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等の合成紙が従来用いられている用途に良好に適用することができる。また、本発明の合成紙は、高温での寸法安定性、耐熱性、強度や耐水性が要求される用途、例えばポスター等屋外用印刷物、名刺、伝票用紙、感熱記録、熱転写記録、カレンダー、ちらし、包装用紙、食品表示用紙等に特に適している。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種物性測定は以下の方法によっておこなった。
【0054】
1.評価項目
(1)ポリ乳酸樹脂のD体含有量
ポリ乳酸樹脂0.3gを1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した後、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させた。このサンプル5mL、純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemでGC測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをD体含有量(モル%)とした。
(2)ポリ乳酸樹脂のMFR
JIS K−7210(試験条件4)にしたがって、190℃、21.2Nの荷重で測定した。
【0055】
(3)微粉状充填材の見かけ比重
JIS−K5101にしたがって測定した。
(4)樹脂組成物の溶融粘度
コーンプレート型の治具をセットしたレオメーター(レオメトリックサイエンティフィック)を用いて、180℃における溶融粘度の周波数依存性測定をおこない、0.1s−1における溶融粘度の値を溶融粘度とした。
【0056】
(5)樹脂組成物の結晶化温度、ガラス転移温度
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、25℃から200℃に10℃/分で昇温し、その温度を10分間維持した。その後−55℃まで10℃/分で降温し、再び200℃まで10℃/分で昇温した。降温時に得られた発熱ピークのトップを結晶化温度とし、2回目の昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲線温度の中間値をガラス転移温度とした。
(6)合成紙の厚さ
HEIDENHAIN製MT12Bを用いて測定した。
【0057】
(7)合成紙の熱収縮率
試料長(MD方向)が150mm、試料幅(TD方向)が10mmの試料片を作製し、この試験片を熱風乾燥機に100℃で5分間熱処理した。そして、下記式を用いて、試験片の100℃における試料の熱収縮率を求めた。また、150℃で5分間熱処理したものについても同様にして試料の熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=[(熱処理前試料長−熱処理後試料長)/熱処理前試料長]×100
(8)合成紙の表面粗さ
JIS B0601−1994にしたがって、三次元表面粗さ測定装置(小坂研究所社製 ET−30K)を用いて測定した。
【0058】
(9)合成紙の筆記性
フィルムに硬度Hの鉛筆で直線を引き、これを紙(三菱製紙製コピー用紙A4スーパーダイヤ)の上に直線を引いた場合と比較した。評価基準は次のとおりである。実用上、「○」が好ましい。
○:紙と差はなく、良好に線を引くことができる。
△:紙と比較すると鉛筆が滑りやすく、やや線が引きにくい。
×:鉛筆が滑ってしまい、ほとんど線を引くことができない。
(10)合成紙の印刷性
オフセット印刷機にて合成紙に印刷ができるか、また印刷した文字に滲みがないかを評価した。評価基準は次のとおりである。実用上、「○」が好ましい。
○:文字に抜けや滲みがない。
△:文字に多少の抜けや滲みがある。
×:印刷ができない。
【0059】
(11)合成紙のこわさ
JIS P8143(紙の自重曲げ法によるこわさ試験方法、クラーク法)にしたがって測定した。
【0060】
2.原料
<ポリ乳酸樹脂(A)>
(1)A−1 トヨタ自動車社製 S−06、D体含有量=0.2%、MFR=4、重量平均分子量=15万
(2)A−2 トヨタ自動車社製 S−09、D体含有量=0.1%、MFR=8、重量平均分子量=13.7万
(3)A−3 トヨタ自動車社製 A−1、D体含有量=0.6%、MFR=2、重量平均分子量=17万
(4)A−4 トヨタ自動車社製 S−17、D体含有量=0.1%、MFR=11、重量平均分子量=12万
(5)A−5 ユニチカ社製 TP−4000、D体含有量=1.2%、MFR=4、重量平均分子量=16万
【0061】
<ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)>
(1)B−1 BASF社製 Ecoflex、ポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート、ガラス転移温度=−35℃
(2)B−2 三菱化学社製、GsPla AZ81T、ポリブチレンサクシネート、ガラス転移温度=−32℃
(3)B−3 日本触媒社製 ルナーレSE−P5000、ポリエチレンサクシネート、ガラス転移温度=−11℃
【0062】
<微粉状充填材(C)>
(1)C−1 林化成社製 MW−HS−T、タルク、平均粒径=2.7μm、見かけ比重=0.2g/cc
(2)C−2 竹原化学工業社製 ハイミクロンHE−5、タルク、平均粒径=1.6μm、見かけ比重=0.13g/cc
【0063】
<顔料>
(1)T 富士チタン工業社製、酸化チタン、平均粒径0.1μm
【0064】
実施例1
二軸押出混練機PCM−30(池貝社製、ダイス直径4mm×3孔、バレル温度:210℃、押出ヘッド温度:180℃)を用い、A−1を80質量部、B−1を20質量部、およびC−1を25質量部供給し、押出すことでペレット状に加工した。ペレットを乾燥後、Tダイ付き口径50mmφ押出機(日鋼社製)を使用して、樹脂温度210℃で押出した後、10℃の冷却ロールで冷却し、厚み500μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムをロール延伸機により65℃で縦方向に4.5倍延伸し、120℃で熱固定し、さらに10℃〜室温で冷却することで厚み120μmの延伸フィルムを得た。
【0065】
実施例2〜15、比較例1〜5
ポリ乳酸樹脂(A)、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)および微粉状充填材(C)を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、合成紙を作製した。
【0066】
表1に、合成紙の樹脂組成、延伸倍率、特性値を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
実施例1〜15の合成紙は、いずれもD体含有量が1.0モル%以下であるポリ乳酸樹脂(A)を用いていたため、収縮率が低く、寸法安定性に優れていた。また、適度な表面粗さを有していたため、適度な鉛筆筆記性、印刷性が良好で、合成紙として適切なこわさを有していた。
【0069】
それに対して、比較例1、2は、ポリ乳酸樹脂のD体含有量が1.0モル%以上を超ええていたため、熱収縮率が高く、寸法安定性に劣っていた。
比較例3は、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂と微粉状充填材を用いなかったため、表面粗さが非常に小さく、筆記性、印刷性が著しく劣るものであった。また、こわさが高く、手で折り曲げると容易に割れてしまった。
比較例4は、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂を用いなかったため、こわさが高く、手で折り曲げると容易に割れてしまった。
比較例5は、微粉状充填材を用いなかったため、表面粗さが非常に小さく、筆記性、印刷性が著しく劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)、および微粉状充填材(C)を含有する生分解性合成紙。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(A)中のD体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または99.4〜99.9モル%である請求項1記載の生分解性合成紙。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂(A)とポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂(B)と、見かけ比重0.1〜0.45g/cc、かつ、平均粒径が1〜8μmの微粉状充填材(C)を溶融混練してシートまたはフィルムとした後、少なくとも一軸方向に延伸する請求項1または2いずれかに記載の生分解性合成紙の製造方法。

【公開番号】特開2011−219555(P2011−219555A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87793(P2010−87793)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】