説明

生分解性樹脂分解処理剤および生分解性樹脂の分解方法

【課題】
生分解性樹脂の耐久性を低下させるなどの使用時の不都合がなく、且つ、実施環境によらず、生分解性樹脂の分解を確実に促進することのできる生分解性樹脂分解処理剤を提供し、また、上記処理剤を使用し、生分解性樹脂を良好に水と二酸化炭素とにまで分解させることを可能とする生分解性樹脂の分解方法を提供する。
【解決手段】
生分解樹脂を加水分解することが可能なアルカリ性無機塩類に加えて、膜形成性樹脂を含有させて生分解性樹脂分解処理剤を調整し、被処理体である生分解性樹脂製品の表面に上記処理時を付与した際に、生分解性樹脂製品の表面に樹脂膜を形成せしめ、該樹脂膜中、あるいは該樹脂膜と生分解性樹脂製品との間に、アルカリ性無機塩類を保持し、これによって生分解性樹脂製品の生分解を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂を生分解する際に使用する生分解性樹脂分解処理剤および、上記生分解性樹脂分解処理剤を用いた生分解性樹脂の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴミ処理問題や自然保護の観点などから、生分解性樹脂を用いたフィルムあるいは成形品が着目され、種々の研究が行われている。
【0003】
生分解性樹脂は、使用時には、従来の樹脂フィルム等あるいは樹脂成形品と同様に使用され、使用後は、土壌中に埋めることによって最終的に水と二酸化炭素とに分解されることを課題とする。即ち、生分解性樹脂は、使用期間中は、使用に耐え得るだけの形状の維持が求められ、一方、使用後は速やかに生分解されることが求められる。いわば、使用時と使用後(分解時)とで相反する課題を求められるところに、良質な生分解樹脂の提供の困難性がある。
【0004】
例えば、使用後の生分解性樹脂の生分解性を向上させるため、下記特許文献1において、生分解性樹脂99〜50重量%に石炭灰1〜50重量%を配合した樹脂組成物からなる農業用フィルムの発明(以下、従来技術1ともいう)が開示されている。従来技術1は、使用した後に土壌に埋設すると、生分解性樹脂の部分が分解され、石炭灰のみが土壌中に残り、当該石炭灰が土壌改良剤として作用し得るという効果があることが説明されている。
【0005】
しかしながら、従来技術1のごとく、石炭灰を予め配合させてフィルムを形成した場合、フィルム使用後の分解速度を速めることはできるかもしれないが、フィルム中に塩基性の土壌改良剤である石炭灰が含まれることから、使用期間中のフィルムの耐久性に欠けることが予想され、また、フィルム中に土壌改良剤が存在することによりフィルムの透明性が劣り、太陽光の透過率が低下することが予想される。
【0006】
これに対し、下記特許文献2には、ポリ乳酸を主成分とする成形品に対して、使用後に、アルカリ性物質を該成形品に散布するか、ポリ乳酸を主成分とする成形品をアルカリ性物質溶液に浸漬させることによって、上記成形品を分解させる分解方法の発明(以下、従来技術2ともいう)が開示されている。
【0007】
また、本出願人の先の出願である特許文献3において、使用済みの生分解性フィルムを、アルカリ性処理剤で処理後に、土壌中に鋤き込むなどして埋設する生分解性フィルムの処理方法の発明(以下、従来技術3ともいう)を開示している。従来技術3は、生分解性フィルムの分解工程として、まず、アルカリ性処理剤で生分解性樹脂を加水分解して低分子化し(初期段階)、その後、土壌に埋設し、微生物の作用により上記低分子化した生分解性樹脂をモノマーレベルに分解させる(最終段階)という2段階の工程により、生分解性樹脂の生分解を行う処理方法である。
【0008】
従来技術2および3のように、使用後の生分解性樹脂に分解を促進するためのアルカリ性処理剤あるいはアルカリ性物質(以下、まとめて「アルカリ性処理剤等」ともいう)を付与する方法であれば、使用時における生分解性樹脂の耐久性を良好に維持し、且つ、使用後の生分解を促進させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−83494号公報
【特許文献2】特開2002−37921号公報
【特許文献3】特開2004−41089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術2および3を、屋外において実施した場合、以下の問題があった。即ち、使用済みの生分解性樹脂フィルム等あるいは成形品にアルカリ性処理剤等を付与し、これを屋外に放置した場合、降雨や風などによって容易に該アルカリ性処理剤等が流れ落ち、あるいは飛散してしまう虞があった。より具体的には、例えば、使用済みの生分解性農業用マルチフィルムは、回収することなく、使用場所の圃場等において生分解させて処理することが望まれているが、このように屋外で処理する場合、従来技術2および3は、実施環境や天候に左右されるため、作用効果の発揮の確実性に劣るという問題があった。
【0011】
上記問題の発生を防止するために、アルカリ性処理剤等が噴霧などにより付与された使用済み生分解性樹脂フィルム等あるいは成形品を、すぐに土壌中に埋設してしまうと、アルカリ性処理剤等が土壌中で希釈され、また、酸性の土壌により中和されるなどして、所期の作用が充分に発揮されない虞がある。
【0012】
また生分解性樹脂を完全に分解させるという観点からは、最終的には土壌中に埋設し、微生物の作用によりモノマーレベルに分解させることが必要であると考えられるところ、従来技術2の如く、アルカリ性物質を生分解性樹脂に付与し放置するだけでは、モノマーレベルまで樹脂を分解することが困難であるか、非常に長期間を要するという問題があった。また従来技術2の1つの態様として、予めアルカリ性物質を土壌中に混ぜ込んだあと、当該土壌に生分解性樹脂成形品を埋設することが開示されているが(特許文献2、実施例11〜15)、アルカリ性物質を予め土壌に混ぜ込むと、アルカリ性物質が中和され、所期の作用が発揮されなくなる虞がある。
【0013】
この点、従来技術3では、生分解性樹脂の生分解を、初期段階と最終段階とにとらえ、まず、アルカリ性処理剤を生分解性樹脂に付与して加水分解を起こさせることにより低分子化させ(初期段階)、その後、土壌中に埋設し、あるいは鋤き込むことによって、微生物の作用によりモノマー化させ最終的に水と二酸化炭素まで分解する(最終段階)ため、生分解性樹脂を完全に分解させることが可能である。ただし、上述のとおり、屋外で実施する初期段階において、降雨や風などによりアルカリ性処理剤が流れ落ち、あるいは飛散してしまう虞があるため、作用効果の発揮の確実性が求められていた。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、生分解性樹脂の耐久性を低下させるなどの使用時の不都合がなく、且つ、実施環境、天候によらず、生分解性樹脂の分解を確実に促進することのできる生分解性樹脂分解処理剤を提供することを目的とし、また、上記処理剤を使用し、生分解性樹脂を良好にモノマーレベルまで分解させることを可能とする生分解性樹脂の分解方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、使用済みの生分解性樹脂を処理して樹脂を生分解させるためのアルカリ性無機塩類を含有する処理剤において、上記処理剤に酸価200以下の膜形成性樹脂を含有させることによって、風雨などの影響によらず、上記アルカリ性無機塩類を使用済みの生分解性樹脂フィルム等または成形品などの表面に良好に保持させることができることを見出し、本発明の生分解性樹脂分解処理剤を完成した。
【0016】
また、本発明者は、生分解性樹脂を分解する方法において、生分解樹脂の分解を初期段階と最終段階とに認識し、初期段階においてアルカリ性無機塩類および酸価200以下の膜形成性樹脂を含有する処理剤を使用して生分解性樹脂を低分子化し、次いで、上記初期段階を経た生分解性樹脂を、最終段階として土壌中に埋設することによって、生分解性樹脂を望ましく生分解することができることを見出し、本発明の生分解性樹脂の分解方法の完成に至った。
【0017】
即ち本発明は、
(1)水と、アルカリ性無機塩類と、酸価200以下の膜形成性樹脂とを含有することを特徴とする生分解性樹脂分解処理剤、
(2)上記膜形成性樹脂の酸価が20以上であることを特徴とする上記(1)に記載の生分解性樹脂分解処理剤、
(3)水100重量部に対し、上記無機塩類が1重量部以上50重量部重量部以下、上記膜形成性樹脂が1重量部以上30重量部以下配合されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の生分解性樹脂分解処理剤、
(4)生分解性樹脂を分解する方法において、初期段階として、使用後の生分解性樹脂を、上記(1)から(3)のいずれ1つに記載の生分解性樹脂分解処理剤で処理して低分子化し、次いで、最終段階として、上記初期段階を経た生分解性樹脂を土壌と混合させることを特徴とする生分解性樹脂の分解方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の生分解性樹脂分解処理剤(以下、単に「本発明の処理剤」という場合がある)は、生分解性樹脂を加水分解することが可能なアルカリ性無機塩類を含有している。このため、本発明の処理剤によって生分解性樹脂を処理することによって、樹脂を低分子化することができる。しかも、該処理剤には、膜形成性樹脂が含有されており、使用済みの生分解性樹脂フィルムなどの表面に本発明の処理剤が付与された場合に、該フィルムなどの表面に樹脂膜が形成され、且つ、上記樹脂膜中あるいは上記樹脂膜と生分解性樹脂フィルム面との間にアルカリ性無機塩類が保持される。したがって、本発明の処理剤を付与された生分解性樹脂を屋外に放置した場合であっても、降雨や風の影響により上記アルカリ性無機塩類が生分解性樹脂フィルム面から流れ落ち、あるいは飛散することがなく、確実に生分解脂の分解を促進することができる。
【0019】
もちろん、本発明の処理剤は、使用済みの生分解性樹脂に付与するものであるため、生分解性樹脂の使用時に何ら不都合を発生させる虞がない。
【0020】
また、従来は、生分解性樹脂製品の使用期間中の耐久性と、使用後の生分解性のバランスを図るため、使用期間に応じて、異なる耐久性を示す複数のタイプの製品を揃える必要があった。即ち、生分解性樹脂製品の耐久性を高くすると、使用後の生分解がそれだけ進みにくくなり、また耐久性を低くすると、使用後の生分解は促進するが、使用時から生分解が進んでしまい使用中の製品にキズや切れ目が生じる虞があった。したがって、例えば、生分解性農業用マルチフィルムでは、作物の生育期間に応じて数タイプの耐久性のフィルムを製造し、生育期間が長い作物に使用するフィルムは、より耐久性の高いフィルムを選択する等の必要があった。しかしながら、このように複数のグレードの商品を揃えることは、製造コスト、製造労力を増大させるため、なるべく商品のグレードを統一させて、生産効率を向上させることが望まれていた。これに対し、本発明の処理剤を使用することにより、耐久性の高い生分解性樹脂製品であっても、使用後の生分解を速やかに行うことができるため、製造する生分解性樹脂製品の耐久性を高いグレードで統一し、生産効率を向上させることが可能である。
【0021】
また、本発明の生分解性樹脂の分解方法によれば、上述する生分解性樹脂分解処理剤を用いて、生分解樹脂を低分子化し、その後、低分子化した生分解性樹脂を土壌に埋設することによって、微生物の生分解作用を受けやすく、速やかに生分解性樹脂をモノマーレベルまで分解し、最終的に水と二酸化炭素とに分解することができる。
【0022】
このように、生分解性樹脂の分解を二段階の工程にわけて分解させる場合に、初期段階において、確実に生分解性樹脂の低分子化を促進させるため、アルカリ処理剤を使用済みの生分解性樹脂に噴霧などにより付与した後、すぐに土壌に混ぜ込むのではなく、一定期間屋外にて放置し、分解を促進させることが望ましい。本発明であれば、初期段階に使用する生分解性樹脂分解処理剤に膜形成性樹脂が含有されており、樹脂の加水分解を促進させるアルカリ性無機塩類を、風雨の影響を受けることなく生分解性樹脂フィルムなどの表面に保持することができる。このため、土壌に混ぜ込む前に、屋外にて一定期間放置し、確実に初期の分解を進行させることができる。そして、分解の進んだ生分解性樹脂を土壌中に混ぜ込むため、微生物の作用を受けやすく、速やかに樹脂の分解を進行させることができ、完全な生分解を短期間に可能とする。
【0023】
特に、本発明の生分解性樹脂分解処理剤および分解方法は、風雨などの影響を受けにくく、実施環境、天候によらずに樹脂の生分解を可能とすることから、農業用マルチフィルムなど、屋外において生分解処理の実施が期待される生分解性樹脂に対し、非常に望ましい効果を発揮する。また、室内において使用された生分解性樹脂であっても、アルカリ処理剤を付与した後の放置場所として屋外を選択することができれば、特別な保管場所を確保しなくてもよいというメリットに加え、太陽光に晒されることによる光劣化などによっても生分解を促進することができるというメリットがある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の生分解性樹脂分解処理剤を実施するための形態を説明し、続いて、本発明の処理剤を用いる本発明の生分解性樹脂の分解方法について説明する。尚、本発明においていう生分解性樹脂とは、フィルム、シート、膜などの可撓生を示すことが可能な程度の薄膜状の製品であってもよいし、あるいは紐状体、バンド、発泡樹脂成形品など、任意の形状を有する成形品であってもよい(以下において、これらをまとめて生分解性樹脂製品と呼ぶ場合がある)。
【0025】
本発明の処理剤に含有されるアルカリ性無機塩類は、生分解性樹脂製品を加水分解可能な無機塩類である。より詳しくは、生分解性樹脂の樹脂骨格中におけるエステル結合を加水分解し、生分解性樹脂を低分子化することが可能な無機塩類である。ここで低分子化とは、特段、分子量の範囲を規定するものではなく、生分解性樹脂製品の一部が劣化し、破断や、脆さが発生することをもって、低分子化したと理解するものである。
【0026】
上記アルカリ性無機塩類としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、石灰窒素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、などを挙げることができるが、これに限定されない。例えば、アルカリ性土壌改質剤として知られる化合物は、好ましく本発明の無機塩類として用いることができ、中でも、酸化カルシウム、水酸化カルシウムは、安価であって、生分解性樹脂を良好に加水分解することができ、また残渣は土壌改質剤として土壌に作用し得るため、好ましい。
【0027】
本発明に用いられる膜形成樹脂とは、常温で、生分解性樹脂製品表面に樹脂膜を形成することが可能な樹脂であって、水に分散可能な水系樹脂である。上記樹脂膜中、あるいは、樹脂膜と生分解性樹脂製品表面との間には、上記アルカリ性無機塩類が保持される。これによって、風雨などに晒されても、アルカリ性無機塩類は、流されることなく、あるいは、飛散することなく、生分解性樹脂製品表面に留まることができる。ここで常温とは、特に限定された温度を示すものではなく、生分解性樹脂の処理が、屋外で実施されれば、その際の外気温、屋内で実施されれば、その際の室温を意味する。また、水に分散可能な水系樹脂とは、水を溶媒として、これに溶解可能な水溶性樹脂、あるいは水を分散媒としてエマルジョン形成可能な樹脂を含み、その他、水を溶媒として略均一に分散可能な樹脂を意味する。上記膜形成性樹脂として、例えば、水系のアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂などを挙げることができる。
【0028】
上記水系の膜形成性樹脂によって、生分解性樹脂製品表面に形成された樹脂膜は、上記アルカリ性無機塩類を生分解性樹脂製品表面に保持し、屋外などにおいて風雨に晒されても一定期間(数日から数カ月の期間)膜が保持されることが必要であり、かかる観点から、膜形成性樹脂の酸価は、200以下である必要があり、100以下であることがより好ましい。本発明者の研究により、用いられる膜形成性樹脂の酸価が200を上回る場合には、樹脂自体の溶解性が高くなるため、膜形成性が悪くなり、あるいは、一度、樹脂膜が生分解性樹脂製品表面に形成されても、風雨に晒されると樹脂膜自体が流れ落ちてしまう場合があることが確認されている。
【0029】
一方、上記膜形成性樹脂の酸価の下限は、特に限定されないが、その酸価が20以上であることが好ましい。酸価が20未満である場合には、一度、生分解性樹脂製品表面に形成された樹脂膜は容易に分解せず、生分解性樹脂の分解後においても樹脂膜だけが土壌中に残留してしまう場合があるからである。もちろん、樹脂膜が残留しても何ら土壌に害を及ぼすものではないが、残渣を土壌改質剤として作用させることを期待する場合には、樹脂膜は最終的には、膜状でなく、より細かい状態にあるほうが望ましい。
【0030】
上記アルカリ性無機塩類と、上記水系の膜形成性樹脂は、水を溶媒として混合され処理剤として調整される。調整の際の配合比率は、特に限定されないが、水100重量部に対して、アルカリ性無機塩類が1重量部以上50重量部以下、膜形成性樹脂が、1重量部以上30重量部以下であることが望ましい。尚、本発明の処理剤の配合比率を勘案する際にいう「水100重量部」とは、用いられるアルカリ性樹脂無機塩類、および膜形成性樹脂が固形状態の場合には、これらを混合するために用いられる溶媒(分散媒)としての水分を意味する。また、用いられるアルカリ性樹脂無機塩類、および/または膜形成性樹脂が、エマルジョン、水溶液といった水との混合物の状態である場合には、それらの混合物中の水分と、後から希釈溶媒として添加する水分との総和を意味する。
【0031】
水100重量部に対し、アルカリ性無機塩類の配合比率が1重量部を下回ると、処理剤中のアルカリ性無機塩類の濃度が低すぎて、一度の噴霧などの作業では、生分解性樹脂製品を充分に加水分解するに足るアルカリ性無機塩類を付与することができない場合があるからである。またアルカリ性無機塩類の配合比率が50重量部を上回ると、処理剤の粘度が高くなり、噴霧により処理剤を生分解性樹脂製品に付与しようとすると噴霧機の目詰まりを起こし、膜形成性が劣る場合がある。
【0032】
一方、水100重量部に対し、膜形成性樹脂の配合比率が1重量を下回ると、膜形成性樹脂が、生分解性樹脂製品上に定着し難く、樹脂膜の成形性が不良である場合がある。一方、膜形成性樹脂の配合比率が30重量部を上回ると処理剤の粘度が高くなり、噴霧により処理剤を生分解性樹脂製品に付与しようとすると噴霧機の目詰まりを起こし、膜形成性が劣る場合がある。
【0033】
本発明の処理剤には、上述する水、アルカリ性無機塩類、膜形成性樹脂以外にも、本発明に趣旨を逸脱しない範囲において適宜、添加剤を添加してよい。例えば、さらに必要に応じて、硬化剤、防腐剤、増粘剤、減粘剤、分散剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、またはアルコール類等の中から、適宜選択して1種以上を添加してよい。
【0034】
本発明の処理剤を用いて生分解が促進される生分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピオラクトン、ポリブチロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ブタンジオール・コハク酸・カプロラクトンの共重合体などの生分解性脂肪族ポリエステル、または、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレートなどの生分解性脂肪族芳香族ポリエステル、あるいはこれらを2種以上組み合わせてなる生分解性樹脂を例として挙げることができる。
【0035】
また、上記生分解性樹脂製品は、農業資材、建築資材、食品資材など利用分野を問わず、本発明における生分解の対象としてよい。中でも、本発明の処理剤は、膜形成性樹脂を含み、これによって生分解性樹脂製品表面に樹脂膜を形成し、これによって無機塩類を生分解性樹脂製品表面に保持することができ、実施の環境、天候を問わずに確実に生分解を促進させることができる、という優れた特徴を有する。この特徴を勘案すると、特に生分解性農業用マルチフィルムなどのように屋外で使用され、使用場所にて処理されることが望まれる生分解性樹脂製品に対し本発明を実施することにより、本発明の上記特徴が非常に望ましく発揮される。もちろん、屋内において使用された生分解性樹脂製品を、屋外において処理する場合にも同様である。
【0036】
本発明の処理剤は、含有されるアルカリ性無機塩類の作用により、生分解性樹脂製品を構成する樹脂骨格中のエステル結合部分を加水分解することによって、樹脂を低分子化させるものである。このように加水分解が促進された生分解樹脂製品を、さらに土壌に混合することによれば、土壌中の微生物の作用による生分解が受けやすく、短期間に水と二酸化炭素のレベルに樹脂を分解させることを可能とする。もちろん、生分解性樹脂製品をどの程度まで分解する必要があるかによるが、完全に水と二酸化炭素になる前の細かく分解された状態で生分解性樹脂製品の処理を終了とする場合には、特に土壌に埋設することなく、本発明の処理剤の使用だけで、生分解性樹脂を分解させてもよい。
【0037】
尚、本発明の処理剤は、含有される無機塩類や膜形成性樹脂の濃度にもよるが、処理される生分解性樹脂製品が、フィルム等の薄い膜状の製品であれば、フィルムの面積当たり、処理剤の乾燥重量で80〜300g/m程度の量で付与することが好適である。
【0038】
次に本発明の生分解性樹脂の分解方法(以下、「本発明の分解方法」という場合がある)について説明する。本発明の分解方法は、初期段階と最終段階という少なくとも2段階に区別される。
【0039】
本発明の分解方法における初期段階は、上述する本発明の処理剤で生分解性樹脂を処理し、生分解性樹脂の分解を促進させることを目的に行われる。本発明において処理剤で生分解性樹脂を処理するとは、本発明の処理剤を、生分解性樹脂製品に噴霧、散布、または塗布等し、あるいは、生分解性樹脂製品を処理剤に浸漬させ、生分解性樹脂製品の表面に処理剤を付与し、処理剤中のアルカリ性無機塩類によって、生分解性樹脂を加水分解させることを意味する。
【0040】
上記初期段階は、環境を問わず実施することができるため、室内、屋外いずれにおいても実施することができ、また上述のとおり常温下において実施することができる。初期段階の実施の期間は、特に限定されず、処理剤を生分解性樹脂製品に付与した後、少なくとも目視または手で触って、被処理物である生分解性樹脂製品の分解が確認できる程度(例えば、目視で亀裂が確認できる程度、あるいは明らかに使用時よりも脆くなっていることが手で触って確認できる程度)になるまで放置することが望ましい。例えば、生分解性樹脂フィルムなどであれば、処理剤におけるアルカリ性無機塩類の濃度や付与量にもよるが、少なくとも7日間以上、そのまま放置することが望ましい。生分解性樹脂製品に処理剤を付与した後、充分な期間をおかずに、該生分解性樹脂製品を土壌に埋設すると、処理剤中のアルカリ性無機塩類が希釈され、あるいは酸性土壌との間で中和反応が生じ、生分解性樹脂の加水分解の進行を抑制する虞があるからである。
【0041】
このように初期段階において、屋外であっても、一定期間放置して生分解性樹脂製品の加水分解を確実に進行させることができるのは、上記処理剤に含有される膜形成性樹脂の存在による。即ち、膜形成性樹脂によって形成される樹脂膜中、あるいは樹脂膜と生分解性樹脂製品の表面との間にアルカリ性無機塩類が保持されることによって、環境に左右されずに確実に生分解性樹脂製品の低分子化を促進することができるようになったものである。
【0042】
続く最終段階は、上記初期段階を経た被処理物である生分解性樹脂製品を、土壌に混合することにより実施される。混合方法は、生分解性樹脂製品の分解が進んでいる場合には、単に埋設するだけでもよいが、望ましくは、土壌に梳き込むなどして、土壌と生分解性樹脂の接触が多く得られるよう混ぜ合わされることが望ましい。
【0043】
最終段階において土壌と混合される生分解性樹脂製品は、既に初期段階において生分解が進んでいるために、土壌中に存在する微生物による生分解の作用を受けやすく、初期段階を経ない生分解性樹脂製品を土壌に混合した場合に比べて、短い期間で水と二酸化炭素とに分解することができる。
【0044】
本発明の分解方法において、分解の対象となる生分解性樹脂製品は、上述で説明する本発明の処理剤に関して説明した生分解性樹脂と同様であり、ここではその説明を割愛する。ただし、上述のとおり、初期段階において処理剤を生分解性樹脂製品に付与した後に、低分子化が進行するまでの一定期間、屋外で放置しても確実に生分解性樹脂の低分子化を進行させることができるという本発明の特徴を勘案すれば、例えば生分解性農業用マルチフィルムなどの屋外で使用される生分解性樹脂であって、圃場などの使用場所にて分解処理が求められる生分解性樹脂製品に本発明の分解方法を適用することは非常に有意である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例、及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1〜6、比較例2〜6の生分解性樹脂生分解処理剤の調整)
アルカリ性無機塩類として、酸化カルシウムを準備し、膜形成性樹脂として、下記膜形成性樹脂材料1〜3を準備した。水100重量部に対し、酸化カルシウムおよび膜形成性樹脂の配合量を、表1に示す重量部となるように配合して生分解性樹脂生分解処理剤(以下、単に「処理剤」という)を調整し、それぞれ実施例1〜6、比較例3〜6とした。また比較例2は、酸化カルシウムのみを、実施例1に用いた酸化カルシウムの10倍量、準備し、これを比較例2とした。
【0047】
尚、膜形成性樹脂材料1〜3は、エマルジョンに調整された市販品を使用し、表中、水100重量部に対するエマルジョンの配合量は固形分量(樹脂分)で記載した。なお、水100重量部中には、エマルジョンを構成する水分と後から希釈剤としての添加する水分とが含まれる。
【0048】
膜形成性樹脂1:ジョンクリル352J(BASF社製 スチレンアクリル系エマルジョン、酸価51、固形分45%)
膜形形成性樹脂2:ジョンクリルHPD−96J(BASF社製 スチレンアクリル系エマルジョン、酸価240、固形分34%)
膜形成性樹脂3:ジョンクリルPDX−7163(BASF社製 スチレンアクリル系エマルジョン、酸価1、固形分47%)
【0049】
(実施例1の使用試験)
生分解性樹脂フィルムとして、100cm×100cm、厚み20μmのポリブチレンサクシネートフィルム(PBSフィルム)を準備し、屋外の平らな土の上に載置し、4隅を固定した。そして、実施例1である処理剤を霧吹きに充填し、上記PBSフィルム表面に、実施例1の乾燥重量において約100g/mの量となるよう噴霧した。
【0050】
(実施例2〜6の使用試験)
処理剤として、実施例1を用いる代わりに、実施例2〜6それぞれを用いたこと以外は、実施例1の実施と同様に、PBSフィルム面に噴霧した。
【0051】
(比較例1)
何ら処理剤を用いず、上記PBSフィルムのみを載置した状態で放置したものを比較例1とした。
【0052】
(比較例2〜6の使用試験)
処理剤として、実施例1を用いる代わりに、比較例3〜6のそれぞれを用いたこと以外は、実施例1の実施と同様に、PBSフィルム面に噴霧した。また比較例2は、PBSフィルム面に、撒くことによって使用した。
【0053】
(噴霧性の評価)
実施例1〜6および比較例3〜6それぞれをPBSフィルム面に噴霧した際の噴霧性について、以下のとおり評価した。評価結果は、表1に示す。
詰まりがなく良好に霧吹きによって噴霧することができた・・・・・・・○
霧吹きのノズルに目詰まりが生じ、噴霧ができなかった・・・・・・・・×
【0054】
(生分解性評価)
同時期に、実施例1〜6および比較例3〜6それぞれをPBSフィルム面に噴霧し、比較例2をPBSフィルム上に撒き、および、比較例1としてPBSフィルムを載置した後、一カ月後に、PBSフィルムの状態を下記のとおり評価した。評価結果は、表1に示す。
フィルム面の複数個所に亀裂が入っていた・・・・・・・・・・・・・・○
フィルム面に亀裂はなかったが、指で表面を押すと容易に破れた・・・・△
フィルム面に亀裂はなく、また、指で表面を押しても破れなかった・・・×
【0055】
また試験開始から、1週間後に実施例1〜6の処理剤が噴霧されたPBSフィルム面を肉眼観察した結果、いずれのPBSフィルム面にも、樹脂膜が形成されていた。さらに試験開始から1カ月後に肉眼観察した際には、実施例1〜5が噴霧されたPBSフィルム面には、上記樹脂膜は、膜の形態では残留していなかった。これに対し、実施例6が噴霧されたPBS面には、上記樹脂膜が、膜の状態で残留していた。
【0056】
一方、酸化カルシウムをPBSフィルム面に撒いただけの比較例2は、試験開始後、数日で風により酸化カルシウムが飛散してしまい、PBSフィルム面に酸化カルシウムが残留していなかった。また比較例3が噴霧されたPBSフィルム面は、試験開始後に降った雨により、比較例3の処理剤が流れ落ちてしまった。比較例6が噴霧されたPBSフィルム面は、試験開始後には、樹脂膜が形成されていたが、その後に降った雨により、上記樹脂膜が流されてしまっていた。
【0057】
以上の結果から、PBSフィルム面に樹脂膜が形成された実施例1〜6は、上記生分解性評価において、明らかに生分解が進み、低分子化した様子が確認された。しかも、実施例1〜5は、1カ月後には樹脂膜自体がバラバラになり、土壌中に分散可能な状態となっていた。
【0058】
一方、ブランクとして実施した比較例1では、何ら生分解が進んでおらず、また同様に、比較例4および5は、霧吹きの目詰まりにより充分にPBSフィルム面に噴霧されなかったため、やはりPBSフィルムの生分解が進まなかった。比較例3は、PBSフィルム面に噴霧されたものの、膜形成性樹脂が含有されてないことから、樹脂膜が形成されず、その結果、酸化カルシウムが雨により流れ落ちてしまい、PBSフィルムの生分解が進行しなかった。比較例4は、PBSフィルム面に噴霧されたものの、含有される膜形成性樹脂の酸価が高すぎて、良好な膜が形成されず、その結果、酸化カルシウムもPBSフィルム面上に適切に保持されず、生分解が進行しなかった。
【0059】
また、上記実施例の使用試験によって、本発明の分解方法における初期段階における生分解性樹脂製品の確実な低分子化が裏付けられた。したがって、上記初期段階を経て、低分子化した生分解性樹脂を土壌に混合することによれば、低分子化する前の生分解性樹脂製品を単に土壌に混合する場合に比べて、速やかに水と二酸化炭素とに分解されることは明らかである。
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、アルカリ性無機塩類と、酸価200以下の膜形成性樹脂とを含有することを特徴とする生分解性樹脂分解処理剤。
【請求項2】
上記膜形成性樹脂の酸価が20以上であることを特徴とする請求項1に記載の生分解性樹脂分解処理剤。
【請求項3】
水100重量部に対し、上記無機塩類が1重量部以上50重量部以下、上記膜形成性樹脂が1重量部以上30重量部以下配合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性樹脂分解処理剤。
【請求項4】
生分解性樹脂を分解する方法において、
初期段階として、使用後の生分解性樹脂を、請求項1から3のいずれ1項に記載の生分解性樹脂分解処理剤で処理して低分子化し、次いで、
最終段階として、上記初期段階を経た生分解性樹脂を土壌と混合させることを特徴とする生分解性樹脂の分解方法。

【公開番号】特開2012−12509(P2012−12509A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150766(P2010−150766)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】