説明

生分解性樹脂及びリン酸カルシウムを含む再生医療用材料及びその製造方法

本発明は、欠損した骨組織や歯組織、その他の生体組織を再生させる際に好適に用いられる、吸収性がある再生医療用材料に関する。本発明の再生医療用材料は、生分解性樹脂99.9〜10重量%と、前記生分解性樹脂に練り込まれたリン酸カルシウム0.1〜90重量%とを含有することを特徴とする。本発明によれば、組織修復物質の鍵となるリン酸カルシウムを基材に任意の比率で含有させることができ、また、安全性、機能性及び生体適合性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、欠損した骨組織や歯組織、その他の生体組織を再生させる際に好適に用いられる、吸収性がある再生医療用材料(「組織修復材」ともいう。)に関する。
【背景技術】
近年、顎骨の欠損や歯組織の欠損等の組織欠損・障害の治療法として、欠損した顎骨や歯組織を再生させる再生医療が注目されている。このような再生医療においては、通常、生体適合性がありかつ生体内で徐々に分解・吸収される生分解性材料がマトリックス(基材)として用いられる。
一方、生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなどの多くのものが知られている(生分解性プラスチック研究会編、編者代表土肥義治、「生分解性プラスチックハンドブック」、株式会社エヌ・ティー・エス、1995年5月26日初版第1刷発行)。
また、ポリ乳酸、及びこれと他の生体分解吸収性ポリマーとの共重合体(又はD体、L体のステレオコンプレックス)を織成もしくは多孔質状に成形し、あるいはこれをハイドロキシアパタイトで被覆した下顎再建材や下顎再建用網トレーも提案されている(特開平5−42202号公報および特開平5−309103号公報参照)。
しかし、上記公開特許に開示されている材料(再建材)は、生分解性を有するが、その生体内での分解速度を制御することは困難である。また、生体内におけるこれらの生分解性樹脂の分解速度は、時間の経過と共に加速され、マトリックス内部の酸性度が高くなり、そのマトリックスを埋め込んだ部位が炎症を起こしやすくなる問題がある。さらに、通常、マトリックス中には組織の修復に必要な物質のリン酸カルシウムを含有させるが、その含有率が低いという問題がある。
【発明の開示】
本発明が解決しようとする課題は、このようなリン酸カルシウムを任意の比率で含有することができ、安全性、機能性及び生体適合性に優れた再生医療用材料(組織修復材)を提供することにあり、また別の課題はそのような再生医療用材料の簡便な製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明者らは種々検討した結果、本発明者らの一人が先に開発した「球状複合粉体の製造方法」(特開2002−114901号公報)の技術を発展させることで、本発明を完成することができた。すなわち、本発明は、
生分解性樹脂99.9〜10重量%と、その生分解性樹脂に練り込まれたリン酸カルシウム0.1〜90重量%とを含有することを特徴とする再生医療用材料、である。
また、本発明は、このような再生医療用材料の簡便な製造方法も提供する。すなわち、その製造方法は、次の工程(i)〜(iii)、
(i)(a)生分解性樹脂99.9〜10重量部、
(b)リン酸カルシウム0.1〜90重量部、及び
(c)前記生分解性樹脂及び前記リン酸カルシウムと相溶しない適量の水溶性分散媒、
を含む混合物を、前記生分解性樹脂の軟化点以上に加熱混合する工程、
(ii)前記軟化点より低い温度に冷却する工程、及び
(iii)水性の展開溶媒を用いて前記水溶性分散媒を除去(水洗)する工程、
を経て行うものである。
本発明によれば、組織修復物質の鍵となるリン酸カルシウムを基材に任意の比率で含有させることができ、また、安全性、機能性及び生体適合性に優れ、長時間経過後には、それ自身は吸収されて消失する再生医療用材料(組織修復材)を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の再生医療用材料は、先に述べたように、生分解性樹脂99.9〜10重量%と、その生分解性樹脂に練り込まれたリン酸カルシウム0.1〜90重量%とを含有する再生医療用材料である。以下、本発明を更に詳細に説明する。
〔生分解性樹脂(基材)〕
本発明で使用する生分解性樹脂(基材)は、本発明の再生医療用材料を簡便に製造し、また、安全性を高めるため、生分解性かつ熱可塑性樹脂(生分解性熱可塑性樹脂)であることが好ましい。
そのような生分解性熱可塑性樹脂としては、脂肪酸ポリエステル(ポリ乳酸を含む)、天然原料を化学的に変成した特定の生分解性熱可塑性樹脂、微生物生産プラスチック及び合成プラスチックが典型的な樹脂であるが、これらに限定されるものではない。
脂肪族ポリエステルとは、分子内のすべての炭素原子が一列の鎖状に繋がる構造で、分子内の炭素原子は枝分かれ構造を有していても良いが、環式構造を含まないポリエステルをいう。脂肪族ポリエステルは工業的な規模で生産されており、本発明の実施に好ましい脂肪族ポリエステルとしては開環重合法によるポリ乳酸(PLA)、及び発酵法によるポリヒドロキシブチレート/ヴァリレート共重合体(PHB/V)があげられる。
天然原料を化学的に変成した特定の生分解性熱可塑性樹脂の例としては、セルロースアセテートが挙げられる。アセテート置換度が、2.5以下のセルロースアセテートは生分解性熱可塑性樹脂として用いることができる。このセルロースアセテートを使用する場合には可塑剤を併用しても良い。
微生物生産プラスチックとしては、微生物ポリエステル、微生物多糖及び微生物ポリアミノ酸が代表的であり、微生物ポリエステルが本発明に好ましい。
微生物ポリエステルの例としては、ポリ[(R)−3−ヒドロキシブチラート(略して、P(3HB))]が挙げられる。微生物共重合ポリエステル、例えば3−ヒドロキシブチラートと3−ヒドロキシバリレートの共重合体(略して、P(3HB−co−3HV))等は、単量体組成に依存してその物性を幅広く変化させることができるので、更に好ましく使用できる。

本発明で使用する生分解性熱可塑性樹脂として、その他に、特定の変性した合成プラスチックも使用することができる。これらの変性した合成プラスチックとしては、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)、(略して、P(3HA))、生分解性を付与したメタクリル酸エステル樹脂、その他生分解性コポリマー等が挙げられる。
生分解性を付与したメタクリル酸エステル樹脂の例としては、ピリジニウム基を導入したポリメタクリル酸メチルがある。
生分解性コポリマーには、コポリエステル、コポリエステルエーテル、コポリエステルカーボネイト、コポリエステルアミドがある。
上記生分解性熱可塑性樹脂については、生分解性プラスチック研究会編、編者代表土肥義治、「生分解性プラスチックハンドブック」、株式会社エヌ・ティー・エス、1995年5月26日初版第1刷発行、に詳細に記載されている。
入手可能な生分解性熱可塑性樹脂の種類とその製造メーカーを表1に列挙する。

以上の生分解性樹脂の中で、脂肪族ポリエステル又は2種以上の脂肪酸ポリエステルのブレンドを用いることが好ましく、中でも、ポリ乳酸が最も好ましく用いられる。
また、生分解性樹脂と他の樹脂とをブレンドして用いてもよく、種々の充填剤を含有するものであってもよい。
〔リン酸カルシウム〕
本発明の再生医療用材料又はその製造方法では、生分解性樹脂と共にリン酸カルシウムを用いる。リン酸カルシウムとしては、ヒドロキシアパタイト、α−リン酸カルシウム、β−リン酸カルシウム、γ−リン酸カルシウム、リン酸八カルシウム等を用いることができる。用いるリン酸カルシウムは2種類以上を混合して用いてもよい。
なお、リン酸カルシウムは、骨組織や歯組織の主要な無機塩の供給源となる作用のほかに、基材への細胞の付着を助け、細胞増殖を促進する作用がある。また、生分解性樹脂が分解して生じる酸を緩和する作用もある。
本発明で用いるリン酸カルシウムの製造方法には特に制限はないが、乾式法、水熱法、湿式法で製造され、熱処理を行ってもよい。
本発明で用いるリン酸カルシウムの平均粒子径は、特に限定されないが0.01μm以上500μm以下が好ましく、0.1μm以上500μm以下が更に好ましく使用できる。
本発明の再生医療用材料におけるリン酸カルシウムの含有率としては、0.1〜90重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜3重量%である。
本発明の再生医療用材料の好ましい形状(構造)の一つは微小球状である。また、本発明の再生医療用材料の別の好ましい形状(構造)は、繊維状若しくは不織布状、スポンジ状、又は微小球体を合体させた特定形状である。
ここで、形状が微小球状であるときの粒子径は、平均値で1μm以上300μm以下が好ましい。
また、形状が繊維状若しくは不織布状であるときの繊維の太さ(直径)、又は形状がスポンジ状あるいは(微小球体を合体させた)特定形状であるときの骨格の太さ(直径)は、いずれの場合も平均値で1μm以上500μm以下が好ましい。
次に、本発明の再生医療用材料の製造方法を詳細に説明する。
本発明のいずれの再生医療用材料も、生分解性樹脂(好ましくは、生分解性で熱可塑性)と、リン酸カルシウムと、必要に応じて添加する添加剤からなる組成物を、これと相溶性のない水溶性分散媒と共に生分解性樹脂の軟化点以上に加熱混合し、分散し、軟化点以下に冷却した後、水性の展開溶媒を用いて水溶性分散媒を除去することにより得ることができる。
このとき、得られる再生医療用材料の形状が繊維状若しくは不織布状となるか、スポンジ状となるか、あるいは微小球状となるかは、通常、生分解性樹脂(o)と水溶性分散媒(w)との体積比によって決まってくる。水溶性分散媒が生分解性樹脂よりも多い場合、例えば水溶性分散媒と樹脂との体積比が6:4以上では、生分解性樹脂は完全に島状となり、o/w型の2相分離構造(海島構造)を示して、得られる再生医療用材料の形状は微小球状となる。生分解性樹脂と水溶性分散媒との体積比が半々に近い場合、例えば水溶性分散媒と樹脂との体積比がほぼ5:5では、島(微小球)は互いに陸続きとなり、得られる再生医療用材料の形状はスポンジ状物(又はこれに近いもの)となる。更に生分解性樹脂の量が水溶性分散媒の量よりやや多めの場合、例えば樹脂と水溶性分散媒との体積比が5.5:4.5近くでは、得られる再生医療用材料の形状は繊維状若しくは不織布状となる。
本発明者らの一人が先に開発した球状複合粉体の製造方法(特開2002−114901号公報)によれば、熱可塑性樹脂及び少なくとも1種の充填剤からなる組成物をこれと相溶性のない水溶性分散媒と共に組成物の軟化点以上に加熱混合し、微粒子として分散した後、冷却することにより、0.01μm以上1,000μm以下の球状複合紛体が得られる。目的とする球状粒子は、水性展開溶媒を用いて水洗することにより、水溶性分散媒から分離できる。
本発明に使用する水溶性分散媒の好ましい例は、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレングリコール等)、ポリアルケンカルボン酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの塩(例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム)、ポリアルケンアミドの単独重合体又は共重合体(ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド)等であり、これらを単独で、あるいは組み合わせて使用することができる。
生分解性樹脂としてポリ乳酸を使用する場合には、水溶性分散媒としては、ポリアクリル酸を使用することが特に好ましい。
本発明で、生分解性樹脂とリン酸カルシウムと水溶性分散媒とを混合して、水溶性分散媒中に生分解性樹脂及びリン酸カルシウムを分散するための方法・装置は特に限定されない。例えば、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、短軸押出機、二軸押出機等によって分散することができる。
水溶性分散媒中に生分解性樹脂及びリン酸カルシウムを加熱・混合する場合、使用する生分解性樹脂の軟化点よりも、10℃ないし200℃高い温度に加熱し、好ましくは20℃ないし150℃高い温度に加熱して、混合することが好ましい。
生分解性熱樹脂とリン酸カルシウムと水溶性分散媒とを混合した後に、この混合物を、生分解性樹脂の軟化点より低い温度に冷却する。その後、通常は、生分解性樹脂及びリン酸カルシウムの貧溶媒でかつ水溶性分散媒の良溶媒である展開溶媒とこの混合物を混合し、水溶性分散媒を除去する。この場合、冷却後の成形物を、クラッシャー等で粉砕したのち、展開溶媒中に浸漬してもよい。また、冷却後の微小球状物をペレタイザーでペレット化してもよい。冷却前の熱い混合物を、押出機、ロール等でシート状又は目的とする構造に成形してから展開溶媒中に浸漬してもよい。
ここで、展開溶媒としては、水、又は水性有機溶媒を用いることができる。水溶性分散媒がポリアルキレンオキシド又はポリアルキレンカルボン酸である場合、水を展開溶媒として使用することができる。
遠心分離、濾過、又はこれらの方法を組み合わせて、展開溶媒と共に水溶性分散媒を除去する。その後、必要に応じて、乾燥してから使用する。
生分解性樹脂、リン酸カルシウム、及び適量の水溶性分散媒を含む混合物を、前記生分解性樹脂の軟化点以上に加熱混合する工程、続いて前記生分解性樹脂の軟化点より低い温度に冷却する工程、更には水性の展開溶媒を用いて前記水溶性分散媒を除去する工程を経て、繊維状若しくは不織布状、スポンジ状、又は微小球体を合体させた特定形状の再生医療用材料を製造する方法に代えて、生分解性樹脂及びリン酸カルシウム含む混合物を、その生分解性樹脂の軟化点以上に加熱混合し、これを紡糸し、これを用いて繊維状若しくは不織布状の再生医療用材料を製造することもできる。また、種々の発泡剤(窒素、フロン等のガスや炭化水素ナトリウム等の化学発泡剤)を添加して、発泡体とし、スポンジ状再生医療用材料を製造することもできる。
球状粒子を合体して特定形状にする方法として、化学的、物理的および機械的な手段が採りうる。例えば、化学結合による合体、接着剤を用いた接着、磁気による合体があげられる。
本発明の再生医療用材料は、更に、Caイオンおよびリン酸イオンを含む水溶液中に30℃以上の温度で12時間以上分散又は浸漬することにより、その表面をリン酸カルシウムからなる層で被覆することができる。
上記水溶液には、少なくともCaイオン及びリン酸イオン(HPO2−)を含有させることが必要である。好ましくは、Caイオンやリン酸イオンを含有した擬似体液を用いる。
上記水溶液は、リン酸カルシウムが過飽和の状態であることが必要である。過飽和状態を実現するためには、水溶液を中性以上のpHに保つことが重要である。pHが下がると、リン酸カルシウムの溶解度が上がるため、結晶は析出しなくなる。
Caイオン濃度は1.0(mM/L)以上であることが好ましく、2.0〜7.5(mM/L)であることが更に好ましい。
リン酸イオン濃度は0.4(mM/L)以上であることが好ましく、0.8〜3.0(mM/L)であることが更に好ましい。
水溶液として擬似体液を用いる場合は、擬似体液中の各種イオン濃度(mM/L)は、Ca2+:2.5、HPO2−:1.0、Na:142、K:5.0、Mg2+:1.5、Cl:147.8、HCO:4.2、SO2−:0.5および緩衝剤(CHOH)CNHの濃度50(mM/L)からなる標準濃度のものや、これらの1〜3倍濃度の水溶液を用いることができる。
浸漬中の水溶液のpH値を7.2〜8.0、好ましくは7.4〜7.6、温度を30〜80℃、好ましくは36〜38℃、浸漬時間を12時間以上、好ましくは3〜10日とする。
Caイオンやリン酸イオンを含む水溶液に浸漬する工程において、被覆前の再生医療用材料を水溶液中に浮遊させることが好ましい。浮遊させることでバラツキのない被覆が可能となる。浮遊させる手段としては、例えば水溶液に機械的な回転や循環の運動をあたえることで撹拌することが好ましい。また、撹拌操作を間歇的に行っても良い。
上記の方法によれば、表面をリン酸カルシウムからなる層で被覆した再生医療用材料を製造することができる。
被覆層となるリン酸カルシウムとしては、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)やヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))があるが、ヒドロキシアパタイトであることが好ましい。ヒドロキシアパタイトの中でも、ボーンライクアパタイトであることが更に好ましい。ボーンライクアパタイトとは、ヒドロキシアパタイトのPO3−イオンの一部をCO2−イオンが置換し、電気的中性を保つためにCa2+イオンの一部をNaイオンが置換し、その結果Ca/P比が1.67よりも小さくなっているアパタイトのことである。
本発明の再生医療用材料は、細胞分化及び細胞間質の産生を促進し、かつそれ自体徐々に分解される基材として用いることができる。
組織欠損・障害を再生させるためには、生体適合性があり、かつ徐々に生分解される基材であって、適当な条件下に導入した細胞の分化を可能なものとし、特異的な細胞間質を顕著に生成するものであることが好ましい。
上記目的を達成するために、本発明で得られる再生医療用材料と共に、生体に対する適合性を持たせるための他の材料を用いることができる。生体に対する適合性を持たせるための他の材料としては、ヒアルロン酸誘導体、ゼラチンが例示できる。
本発明により得られる再生医療用材料の好ましい形状(構造)の一つは、先に述べたように、スポンジ状(多孔質)である。スポンジ状(多孔質)であるときのその細孔(空隙)の大きさは、平均直径が1〜500μmであり、特に50〜500μmが好ましい。細孔が500μmを超えると、細胞を取り込んだ場合マトリックスからの細胞逸失・欠損が生じやすくなる。細孔が1μmより小さいと、細胞をマトリックスの深部域内にまで取り込むことができなくなる。微小球体を熱融着することにより、特定形状を有する多孔質の再生医療材料を得ることができる。
本発明の再生医療材料は、化学的に架橋させることもできる。架橋剤としては、シアナミドが例示できる。
本発明における再生医療材料は、少なくとも1種類の生理活性物質を含有していてもよい。生理活性物質としては、例えば、取り込まれた細胞のマトリックス特性を最適化させる化合物があり、例えば抗生物質、細胞接着性を改善する化合物、誘導因子などがあげられる。
抗生物質は、移植時の拒絶反応からくる炎症を軽減するために用い、クロキサシリン、リファンピシンなどが例示できる。
細胞接着性を改善する化合物としては、ポリ−L−リジン、フィブロネクチンなどが例示できる。
誘導因子としては、線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF−β)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)などが例示できる。これらの誘導因子を含有する基材は、軟骨細胞、間葉幹細胞とその前駆細胞、結合組織細胞、及び/又は骨芽細胞から、インビトロおよびインビボで分化組織を発生・生成させるために特に適している。
基材に取り込まれる細胞としては、妊娠中絶などから得られる胎性軟骨細胞、骨髄又は骨膜から得られる成体の間葉幹細胞およびその前駆細胞、さい帯から得られる胎性の間葉幹細胞およびその前駆細胞が例示できる。
本発明により得られる再生医療材料は、インビトロでの事前培養を伴うか又は伴うことなく、インビボでの分化を行わせて、種々の組織型の結合・支持器官、特に軟骨組織や骨組織を得るために適している。
本発明の再生医療用材料の形状は、繊維状若しくは不織布状、スポンジ状、微小球状、又は微小球体を合体させた特定形状である。これらは、再生医療の用途にあわせて使い分けることができる。
本発明のスポンジ状の形状を有する再生医療用材料は、リジッドな構造物なので、耳や指などの形を明確にとどめたい組織の再生医療に用いることができる。
本発明の、繊維状若しくは不織布状の形状を有する再生医療用材料は、例えば、次のような場合に用いる。β−リン酸カルシウムで被覆した繊維状若しくは不織布状の再生医療用材料に肝臓の幹細胞を取り込ませ、肝臓の幹細胞をインビトロで増殖させた後に、人工肝臓として用いる。
本発明の再生医療材料の一実施態様として、微小球状粒子を用いることができる。本発明における微小球状粒子は、本発明者が先に開発した微小球状粒子の製造方法(特開2001−114901号公報)に従って製造することができる。1μm以上300μm以下の球状粒子が好ましい。
繊維状若しくは不織布状の再生医療用材料と同様に、本発明の微小球状粒子を、Caイオンおよびリン酸イオンを含む水溶液中に30℃以上の温度で12時間以上分散又は浸漬することにより、粒子表面をリン酸カルシウムからなる層で被覆することができる。
得られた微小球状粒子は、繊維状若しくは不織布状又はスポンジ状の再生医療用材料と同様に、細胞分化及び細胞間質の産生を促進し、かつそれ自体徐々に分解される材料として用いることができる。
本発明により得られる微小球状粒子からなる再生医療用材料は、少なくとも1種類の生理活性物質を含有させることができる。
繊維状若しくは不織布状又はスポンジ状の再生医療用材料と微小球状粒子からなる再生医療用材料は、その生理的機能という点では差異はないが、その用途の点で区別される。すなわち、微小球状粒子からなる再生医療用材料は、繊維状若しくは不織布状又はスポンジ状の再生医療用材料よりも粒子径が小さいために、精密さが要求される人工組織、例えば人工血管や人工筋肉などの材料として適している。
また、微小球状粒子を熱融着し特定形状にした再生医療用材料を使うことができる。骨の一部を再生するために、欠損形状にあわせて球状粒子を合体し、間隙に生理活性物質を充填することができる。
微小球状粒子を熱融着しフィルター状としたものを再生医療用材料として利用する方法もある。例えば、100μmの粒子径を有する粒子を熱融着させ、10μmの間隙を持つフィルター状の再生医療用材料である。
【実施例】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
ユニチカ(株)製のポリ乳酸ペレット(PLA4031DK)1kgにβ−リン酸カルシウム30gを加え、日本純薬(株)製のポリアクリル酸ペレット(ジュリマーAC−103AP)1.3kgとよく混合した後、加圧混練機中で180℃において10分間混練し、190℃で安定静置を5分間行った。その後、加圧混練機から押出すとともに、120℃まで冷却し、その後、分散水約20リットル中にてポリアクリル酸を溶解・除去した。その結果、β−リン酸カルシウムを包含した繊維状若しくは不織布状のポリ乳酸(厚み約10mm)が得られた。
<筋肉修復材としての応用>
β−リン酸カルシウムを包含した上記繊維状若しくは不織布状ポリ乳酸(厚み約10mm)のβ−リン酸カルシウム部分に、ラットの大腿筋より分離した筋肉の幹細胞を植え付け、24時間培養し、ある程度成長させる。この時、ポリ乳酸の繊維部分に沿って筋肉の幹細胞が成長する。これを同じラットの筋肉損傷部位に移植する。1週間後に、移植部位の組織を一部切除し、組織切片を電子顕微鏡で観察する。その結果、移植部位は元の組織に完全に癒着し、かつβ−リン酸カルシウムを包含したポリ乳酸は完全に分解している。
【実施例2】
ユニチカ(株)のポリ乳酸ペレット(PLA4031DK)2kgにβ−リン酸カルシウム200gを加え、日本純薬のポリアクリ酸ペレット(ジュリーマーAC−109)3.0kgと混合した後、押出機にて200℃にて混錬押出しし190℃で3分内安定静置した。120℃まで冷却後、分散水約40リットル中にてポリアクリル酸を溶解・除去した。その結果、β−リン酸カルシウムを包含したポリ乳酸の平均5μmの微小球状体を得た。
<自家骨修復材としての応用>
得られた微小球状体(粉体)を、ラットの、骨を傷つけた部分に埋め込み、1ヶ月後にレントゲン検査で骨の破断部分を視察すると、ポリ乳酸は溶解して破断部分は消滅し、自家骨の成長が見られる。
【実施例3】
加圧混練機から押出される熱い混合物をステンレスのバットに薄く(約0.5mm)受けた以外は、実施例1と同様に操作し、β−リン酸カルシウムを包含した厚さ約0.5mmのポリ乳酸のシート状不織布を得た。
<培養皮膚への応用>
得られた上記シート状不織布を適当な大きさに切り取り、これを培養用シャーレに入れる。ウシ胎児血清10%(容量)入りRPMI1640培地を加えるとともに、別にトリプシン等で処理しバラバラにした動物の皮膚細胞を少量加え、細胞培養インキュベータ中、37℃で、培養する。シート状不織布の上に、皮膚細胞が増殖するのが観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂99.9〜10重量%と、
前記生分解性樹脂に練り込まれたリン酸カルシウム0.1〜90重量%とを含有することを特徴とする
再生医療用材料。
【請求項2】
請求項1記載の再生医療用材料であって、その形状が微小球状である再生医療用材料。
【請求項3】
請求項2記載の再生医療用材料であって、粒子径が平均値で1μm以上300μm以下である再生医療用材料。
【請求項4】
請求項1記載の再生医療用材料であって、その形状が繊維状若しくは不織布状、スポンジ状、又は微小球体を合体させた特定形状のいずれかである再生医療用材料。
【請求項5】
請求項4に記載の再生医療用材料であって、繊維又は骨格の太さは平均値で1μm以上500μm以下である再生医療用材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の再生医療用材料であって、リン酸カルシウムがヒドロキシアパタイト、α−リン酸カルシウム、β−リン酸カルシウム、γ−リン酸カルシウム又はリン酸八カルシウムより選ばれた少なくとも1つである再生医療用材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の再生医療用材料の表面が、更にリン酸カルシウムで被覆されている再生医療用材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の再生医療用材料であって、更にリン酸カルシウム以外の生理活性物質を含んでいる再生医療用材料。
【請求項9】
次の工程(i)〜(iii)、すなわち、
(i)(a)生分解性樹脂99.9〜10重量部、
(b)リン酸カルシウム0.1〜90重量部、及び
(c)前記生分解性樹脂及び前記リン酸カルシウムと相溶しない適量の水溶性分散媒、
を含む混合物を、前記生分解性樹脂の軟化点以上に加熱混合する工程、
(ii)前記軟化点より低い温度に冷却する工程、及び
(iii)水性の展開溶媒を用いて前記水溶性分散媒を除去する工程、
を含んでなることを特徴とする、
生分解性樹脂99.9〜10重量%と、前記生分解性樹脂に練り込まれたリン酸カルシウム0.1〜90重量%とを含有する再生医療用材料の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/075939
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502881(P2005−502881)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002121
【国際出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【出願人】(302050123)トライアル株式会社 (19)
【Fターム(参考)】