説明

生分解性樹脂材料の製造方法および生分解性樹脂材料

【課題】架橋された生分解性樹脂を含む生分解性樹脂材料の製造方法を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂を電離性放射線で架橋して生分解性樹脂架橋物を得る工程と、前記生分解性樹脂架橋物を60℃以上で且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度で可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材で膨潤させ、前記生分解性樹脂架橋物内に含浸材を含浸させて生分解性樹脂の複合架橋物を得る工程と、該複合架橋物と熱可塑性樹脂とを加熱しながら混練する工程を有し、前記熱可塑性樹脂との混練時に前記複合架橋物を粉砕して粒子とし、該粒子を前記熱可塑性樹脂中に分散していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂材料の製造方法および該生分解性樹脂材料に関し、フィルム、容器または筐体などの構造体や部品などのプラスチック製品が利用される分野において、特に使用後の廃棄処理問題の解決を図るために用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
現在、多くのフィルムや容器に利用されている石油合成高分子材料は、加熱廃棄処理に伴う熱および排気ガスによる地球温暖化、さらに燃焼ガスおよび燃焼後の残留物中の毒性物質による食物や健康への悪影響、廃棄埋設処理地の確保など、その廃棄処理過程についてだけでも様々な社会問題が懸念されている。
このような石油合成高分子材料の廃棄処理の問題点を解決する材料として、デンプンや脂肪族ポリエステルに代表される生分解性高分子材料が注目されてきている。生分解性高分子材料は石油合成高分子材料に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく、かつ自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれる等、生態系を含む地球環境に悪影響を与えない。
【0003】
しかし、生分解性樹脂は、一般的に破壊強度は強いが柔軟性がなく、柔軟性を付与するために可塑剤を混合すると、逆に柔軟にはなるが破壊強度が弱い、あるいは混合した可塑剤が浸み出してしまうという欠点を有する。このように、生分解性樹脂は強度と柔軟性とを兼ね備えておらず、そのままでは使用しにくいものが多い。そのため、生分解性樹脂を改質する種々の技術が提案されている。
例えば、電離性放射線を利用して生分解性樹脂を架橋させることにより形状保持性を高めることが特開2003−313214号公報で提案されている。
放射線照射による生分解性樹脂の架橋は耐熱性や形状維持性を向上させるという利点を有するものであるが、これは逆に言えば生分解性樹脂の熱可塑性を失わせ成形できない状態にしてしまうため加工性が著しく損なわれる。そこで、前記したように、従来は製品として成形した後に放射線照射を行っている。しかし、所要形状に成形後に放射線照射を行うには、高額で管理コストもかかる放射線照射設備を製造現場に導入するか、照射設備のある場所まで成形物を運搬することが必要となる。よって、費用や手間がかかるため、成形品の加工性・生産性を著しく損ない、結果として過大な製造コストを要する問題がある。
【0004】
前記問題に対して、生分解性樹脂架橋物を粉砕して樹脂中に分散して生分解性成形材料とすれば、成形品に対して放射線照射をする必要はなく、前記問題を解消することができる。
しかし、架橋した生分解性樹脂を粉砕することは容易でなく、コストがかかる問題がある。即ち、液体窒素などで冷凍粉砕するなどの高コストな方法を除く、低コストな通常の粉砕方法では程度の差こそあれ必ず粉砕の際に摩擦熱で樹脂が加熱されるため、より細かく粉砕することが出来ない。具体的に、例えば生分解性樹脂の代表であるポリ乳酸は60℃という比較的低いガラス転移温度を持ち、そのガラス転移温度以上で極端に柔軟になるため、衝撃や破砕、すりつぶしなどにより粉砕を行っても十分に粉砕されず溶けたようになって変形するだけである。このように低コストな通常の粉砕方法では粉砕後の粒子の大きさを100μm程度とするのが限界であり、粉砕により得られる粉末と熱可塑性樹脂とを複合化する際により均一な混合物を得ることは困難である。
【0005】
現在、2種類以上の樹脂を加熱混合する際に高剪断力をかけてナノサイズという非常に細かい粒子レベルに樹脂同士を分散させた状態にするナノコンポジット化技術が広く行われている。例えば、特開2006−188651号公報にはポリカーボネート/ポリ乳酸アロイが記載されている。このようなナノコンポジット化技術を用いればポリ乳酸を粉砕することなく、高剪断をかけた混合によって1μmを下回る小さなサイズにすることも可能である。しかし、これらの技術では可塑剤等の担持性をポリ乳酸に付与することはできず、ポリ乳酸自身の改質はできない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−313214号公報
【特許文献2】特開2006−188651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記した問題に鑑みてなされたもので、生分解性樹脂の架橋体を別工程で物理的に粉砕して粒子とすることなく、熱可塑性樹脂中に粒子として分散できるようにし、成形品とした後に電離性放射線を放射する必要のない生分解性樹脂材料とし、インフレーション成形や射出成形等の各種成形方法により所望の形状に成形できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、生分解性樹脂材料の製造方法からなる第一の発明として、
生分解性樹脂を電離性放射線で架橋して生分解性樹脂架橋物を得る工程と、
前記生分解性樹脂架橋物を60℃以上で且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度で可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材で膨潤させ、前記生分解性樹脂架橋物内に含浸材を含浸させた複合架橋物を得る工程と、
前記複合架橋物と熱可塑性樹脂とを加熱しながら混練し、該混練で前記複合架橋物を粉砕して粒子とし、該粒子を前記熱可塑性樹脂中に分散する工程と、
を備えることを特徴とする生分解性樹脂材料の製造方法を提供している。
【0009】
また、生分解性樹脂材料の製造方法からなる第二の発明として、
生分解性樹脂を電離性放射線で架橋して生分解性樹脂架橋物を得る工程と、
前記生分解性樹脂架橋物を60℃以上で且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度で可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材と、熱可塑性樹脂と、前記生分解性樹脂架橋物に混練し、生分解性樹脂架橋物内に含浸材を含浸させて複合架橋物し、該複合架橋物を混練で粉砕して粒子とし、前記熱可塑性樹脂に分散する工程と、
を備えていることを特徴とする生分解性樹脂材料の製造方法を提供している。
この第二の発明は、第一の発明の生分解性樹脂架橋物に含浸材を含浸させる工程と、熱可塑性樹脂を混練して複合架橋物を複合して粒子とする工程とを同時に行っている。
【0010】
前記のように、第一および第二の発明では、生分解性樹脂を電離性放射線で照射して架橋した生分解性樹脂架橋物を、含浸材に含浸させて膨潤させ、粉砕しやすい状態として熱可塑性樹脂と加熱しながら混練しているため、混練時の撹拌による剪断力で複合架橋物を粉砕して、100μm未満の粒子とすることができる。その結果、生分解性樹脂の架橋体を別工程で粉砕して粒子とすることなく、熱可塑性樹脂中に生分解性複合物の粒子が分散している生分解性樹脂材料とすることができる。
このように、生分解性樹脂複合物を粉砕する工程を別工程で設ける必要はなく、生分解性樹脂複合物と熱可塑性樹脂を混練する際の撹拌による剪断力で生分解性樹脂の複合架橋物を100μm未満の1〜50μmに粉砕でき、製造工程を削減することができる。
【0011】
前記方法で製造した本発明の生分解性樹脂材料は、生分解性樹脂の複合架橋物が熱可塑性樹脂中にミクロンサイズで分散しているため、インフレーション成形や射出成形等の各種成形方法で用いることができる材料となる。かつ、成形品とした後に電離性放射線で照射して架橋する必要はない。
また、先に電離性放射線を照射した生分解性樹脂架橋物は、含浸材を含浸させることにより架橋強度に粗密ができ、強度の弱い部分があるため混練時に簡単に粉砕することができ、粒子末状として熱可塑性樹脂と混練することができる。かつ、強度の強い部分が粉砕されずに残るために全体の強度を向上させることができる。
【0012】
前記した第二の発明の製造方法では、生分解性樹脂架橋物を含浸材で膨潤させる工程と、前記熱可塑性樹脂とを加熱して混練する工程と同時に行い、該工程で生分解性樹脂複合体を粉砕して粒子状としている。
該方法によれば、生分解性樹脂複合物と熱可塑性樹脂を混練する際に加熱するため、この加熱により含浸を加速することができる。
このように、生分解性樹脂架橋物と含浸材と熱可塑性樹脂を同時に混合し加熱混練して、生分解性樹脂架橋物への含浸材の含浸、その粉砕、熱可塑性樹脂との混合を一挙に行うと、効率よく、本発明の生分解性樹脂材料を製造することができる。
【0013】
前記第一、第二の発明の生分解性樹脂材料の製造方法によれば、生分解性樹脂架橋物に含浸させる可塑剤または重合性モノマーによって生分解性樹脂複合物粒子の硬さを調整することができる。例えば、多糖類系やポリ乳酸などの常温では硬くて靭性に乏しい生分解性樹脂では可塑剤を含浸させることにより硬さを低下させて柔軟性や耐衝撃性を付与することが可能となる。また、比較的柔軟性を有するポリブチレンアジペートテレフタレートやポリカプロラクトン、あるいはガラス転移温度60℃以上の温度で軟弱となったポリ乳酸などは重合性モノマーを含浸させて所要の硬さとし、形状維持性の高い、高ヤング率の性質に改質することが可能である。
【0014】
前記生分解性樹脂架橋物を含浸する含浸材として重合性モノマーを用い、前記のように、熱可塑性樹脂と混練する工程と同時又はその前後に連続しても良い。
これにより、混練時の熱により重合性モノマーの重合を開始させることができ、また、生分解性樹脂架橋物に発生したラジカルを利用して重合性モノマーの重合を開始させることができる。
【0015】
また、重合性モノマーを含む含浸材を用い、該含浸材を重合させることで含浸材を生分解性樹脂にポリマーアロイ化させることができる。これにより、生分解性樹脂と含浸材が重合した後のポリマーの両者の特性を合わせた性質を有する生分解性樹脂製の成形材料および成形品を作製することができ、例えば軟化温度が低い生分解性樹脂を改質し軟化温度以上でも硬い性質とするなど目的に応じて生分解性樹脂に機能を付与することができる。
【0016】
前記電離性放射線を照射して架橋する生分解性樹脂は、多官能モノマー等の架橋性モノマーと予め混練し、ペレット化としておくことが好ましい。ペレットとすることにより、放射線照射による架橋を容易に行うことができる。
【0017】
前記熱可塑性樹脂は、前記生分解性樹脂と同一の生分解性樹脂としていることが好ましい。
混合する熱可塑性樹脂は生分解性であってもなくてもよく、公知の熱可塑性樹脂を用いることができるが、本発明の目的を鑑みれば生分解性樹脂であることが望ましい。かつ、生分解性樹脂の種類は限定されないが、特に生分解性樹脂複合体を構成する生分解性樹脂と同じ種類の生分解性樹脂を用いることが粉末同士の接着性をより向上させることができる点から好ましい。
【0018】
生分解性樹脂架橋物と含浸材とからなる複合架橋物に混合する熱可塑性樹脂として、複合架橋物を構成する生分解性樹脂と同一の生分解性樹脂を使用した場合は、複合架橋物と該熱可塑性樹脂がポリマーアロイ化されているとみなすことも可能である。すなわち、ポリマーアロイは一般的にはより硬いハードセグメントとなるポリマーと、より柔らかいソフトセグメントとなるポリマーの混合物であるが、本発明は生分解性樹脂に可塑剤や重合性モノマーを複合化して元の生分解性樹脂よりも柔らかくしたり硬くしたり、硬さを変えた複合架橋物の粒子を、元の生分解性樹脂と混合・分散させたポリマーを形成することができるものである。そのため、見方を変えればポリマーアロイとみなすことができる。ポリマーアロイでは異なるポリマー同士であるために両者の混合・分散が難しいが、本発明では同一の樹脂を用いることにより、その両者の親和性、混合・分散性が極めて良いものとなるという利点がある。
【0019】
さらに、本発明の製造方法は、生分解性樹脂中に含浸材が非常に均一で微細に分散した状態を形成できる点でも優れている。生分解性樹脂と含浸材を複合化させる場合、従来の方法では両者を物理的に練り合わせて加熱混合して分散させていたため、相容化剤を使用せずにポリマーアロイ化、ナノコンポジット化といった微細分散を達成することはできなかった。それに対し、本発明の製造方法では、生分解性樹脂架橋物を形成する際に微細な架橋ネットワーク構造を形成しておけば、相容化剤等の薬剤を使用しなくても、含浸材の微分散状態を容易に形成することができる。このような生分解性樹脂架橋物の微細なネットワーク構造は、架橋性モノマーの量や放射線の照射量などの条件をコントロールして形成すれば良い。
このように、本発明の製造方法では、生分解性樹脂と含浸材を単に混合や配合によって複合化した場合に付き物である材料の混合ムラや、混合しきれなかった大きな塊やダマなどが残存する心配もない。
【0020】
第三の発明として、前記第一、第二の発明の製造方法により製造され、前記複合架橋物の粒子が熱可塑性樹脂中に分散している生分解性樹脂材料からなる成形材料を提供している。
【0021】
本発明の製造方法で製造される生分解性樹脂の複合架橋物の粒子を含む成形材料は、生分解性樹脂が架橋されており、かつ可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材で複合化されているにもかかわらず、架橋したのちは熱可塑性を失い加工性が著しく損なわれるという従来の常識を覆し、後から自由な成形加工が可能な利便性の高い成形材料となる。よって、本発明の生分解性樹脂材料からなる成形材料を用いた成形品の製造において、架橋が最終工程とならず、当該技術分野で通常用いられる設備により従来公知の熱可塑性プラスチックの成形方法を用いて成形することができるため、成形における利便性が大きく向上し、生分解性樹脂の使用を拡大することができる。
かつ、生分解性樹脂架橋物が熱可塑性樹脂中に分散しているため、形状保持力を備え、かつ、耐熱性に優れた成形材料となる。
【0022】
また、本発明の成形材料は、熱可塑性樹脂が混合され、かつ生分解性樹脂複合物と他の熱可塑性樹脂とがコポリマーに準ずるレベルの極めて均一な状態で共存していることで生分解性樹脂複合物粉末同士の接着性が向上され、ひいては成形性を向上することができる。
さらに、本発明の成形材料および成形品は生分解性を有していることから、自然界において生態系に及ぼす影響が極めて少なく、従来のプラスチックが有していた廃棄処理に関わる諸問題を解決できる。
【0023】
第四の発明として、第一の発明で製造された生分解性樹脂材料のペレットを成形機で所要形状に成形し、あるいはペレットとせずに前記熱可塑性樹脂との混練物を連続して成形機で所要形状に成形し、得られた成型品には電離性放射線を照射せずに成型品としていることを特徴とする生分解性樹脂材料からなる成型品の製造方法を提供している。
【0024】
前記のように、生分解性樹脂材料をペレット化して成形しても良いし、ペレット化せずに、可塑性樹脂と混練しながら成形しても良い。
ペレットとした場合、一般的な熱可塑性プラスチック材料と同様の方法により成形することができ、本発明の生分解性樹脂材料を用いた成形工程で取り扱いやすくなる。
ペレット化せずに、熱可塑性樹脂との混練物を連続して成形するとペレット化工程を省略することができる。
【0025】
第五の発明として、生分解性樹脂製の成形品を提供している。
本発明の生分解性樹脂製の成形品は熱可塑性樹脂中に生分解性樹脂の複合架橋物の粒子が分散していることを特徴とする。
【0026】
前記本発明の生分解性樹脂製の成形品は、生分解性樹脂の架橋ネットワークを備えているため、生分解性樹脂のガラス転移温度または軟化温度を超える高温時においても確実に形状と強度を維持することができる。
生分解性樹脂の架橋ネットワーク中に含浸材が含浸され生分解性樹脂分子間の相互作用を阻害していることにより、生分解性樹脂のガラス転移温度以下においても硬さや脆さを呈することはなく優れた柔軟性と伸びを有する生分解性樹脂製の成形材料および成形品とすることができる。可塑剤を含む含浸材を用いた場合にこの効果がより顕著に見られる。
このように、従来の技術では両立させにくかった生分解性樹脂のガラス転移温度以下における柔軟性・伸びの保持とガラス転移温度以上における形状・強度の維持(すなわち耐熱性)を併せ有するため、本発明の成形材料および成形品は、現在、石油合成高分子材料が利用されている一般的な用途、特にゴム吸盤など軟質塩化ビニルが利用されている用途へ応用することができる。また、柔軟性と形状記憶性の両方が必要となる形状記憶製品として利用することも可能である。
【0027】
しかも、本発明の生分解性樹脂製の成形品は今までにない柔軟性を有する点から、これまで生分解性樹脂を利用できなかった分野への応用が期待できる。また、生体への影響がない点から、生体内外に利用される注射器やカテーテルなどの医療用器具への適用が可能な材料である。
生分解性樹脂の生分解性および生体適合性あるいは生体内分解性を考えれば、本発明の生分解性樹脂製の成形材料または成形品をその坦特性を利用した有用物質の徐放システム等に応用することができる。すなわち、薬剤や薬品などの有用物質を可塑剤として生分解性樹脂に含浸して複合化させれば、生分解性樹脂が分解するにつれて含浸されていた有用物質が徐々に放出されることとなる。このように本発明の生分解性樹脂製の成形材料および成形品は広範囲の技術分野に応用することができる
【発明の効果】
【0028】
上述したように、発明の生分解性樹脂材料の製造方法によれば、生分解性樹脂の複合架橋物の粒子を熱可塑性樹脂中に分散した生分解性樹脂材料を簡単に製造することができる。即ち、生分解性樹脂架橋物に含浸材を含浸して生分解性樹脂の複合架橋物とし、該複合架橋物を熱可塑性樹脂と混練しているため、該混練時に剪断力で複合架橋物を粉砕して粒子とすることができる。よって、生分解性樹脂複合物の粉砕工程を別に設けることなく、平均粒径がミクロン単位の生分解性樹脂複合物の粒子が熱可塑性樹脂中に分散した生分解性材料を得ることができる。特に、生分解性樹脂架橋物に含浸材の含浸と、熱熱可塑性樹脂との混練を同時に行うと、含浸・粉砕・熱可塑性樹脂との混合を一度に行うことができる。
このように、本発明の製造方法は、工程数が大幅に削減されているため、簡便に効率よく製造でき、製造コストの大幅な削減を図ることができる。
【0029】
また、本発明の生分解性樹脂材料からなる成形材料および成型品の製造方法によれば、既に前記複合架橋物の粒子が熱可塑性樹脂中に分散されているため、成形品とした後で放射線照射をする必要はない。よって、高額で管理コストもかかる放射線照射設備を成形品の製造現場に設ける必要はなく、コストの低減を図ることができる。
【0030】
さらに、本発明の生分解性樹脂からなる成形品は、形状維持性の高い、高ヤング率の性質に改質したものとすることができ、かつ、軟化温度が低い生分解性樹脂を改質し軟化温度以上でも硬い性質とするなど目的に応じて生分解性樹脂に機能を付与することができる等、成形品は広範囲の技術分野に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を詳述する。
第一実施形態の生分解性樹脂材料の製造方法は、図1に示す工程順序とし、図2の模式図に示す構成に順次変化させている。
製造工程は、生分解性樹脂と多官能性モノマーとの混練工程(A)→放射線照射による架橋して生分解性樹脂架橋物を得る架橋工程(B)→含浸材に含浸して生分解性樹脂の複合架橋物を得る含浸工程(C)→該複合架橋物を熱可塑性樹脂と混練し、該混練時に複合架橋物を粉砕する混練工程(D)→ペレット化工程(E)とからなる。
【0032】
前記(A)工程で、生分解性樹脂に多官能性モノマーからなる架橋性モノマーを配合して混練物を取得し、該混練物よりペレットを得る。
(B)工程で、ペレット状とした生分解性樹脂を電離性放射線で架橋して生分解性樹脂架橋物1を得る。
(C)工程で生分解性樹脂架橋物を60℃以上で且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度で可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材で膨潤させ、前記生分解性樹脂架橋物内に含浸材2を含浸させて生分解性樹脂複合物3を得る。
(D)工程で、得られた生分解性樹脂の複合架橋物を熱可塑性樹脂4と加熱しながら混練し、該混練時の撹拌により発生する剪断力で複合架橋物を粉砕して粒子5とし、熱可塑性樹脂4中に分散させる。
(E)工程で、取得した混練物をペレット化する。
【0033】
前記各工程について、以下に詳述する。
まず、(A)工程で、生分解性樹脂に架橋性モノマーが配合された混練物を作製している。具体的には、次のような方法で前記混練物を作製する。
まず、生分解性樹脂を加熱により軟化させるか、あるいは生分解性樹脂が溶解しうる溶媒中に生分解性樹脂を溶解または分散させる。架橋性モノマーを添加後、架橋性モノマーが均一になるように撹拌混合し、生分解性樹脂と架橋性モノマーの混練物を調整する。所望により後述する他の成分を添加しても良い。混練温度、混練時間は生分解性樹脂および架橋性モノマーの種類によって適宜選択すれば良い。
ついで、先に溶媒を用いた場合には溶媒を乾燥除去しても良い。さらに、第一工程の混練物は、取り扱いを容易とするため、ペレット状としている。なお、シート状、ロッド状に成形しても良い。
【0034】
本発明で用いる生分解性樹脂としては、架橋構造を導入できる生分解性樹脂であれば良いが、特に多糖類系、脂肪族ポリエステル系、脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマーの中から選ばれる1種類あるいは2種類以上の生分解性樹脂であることが好ましい。
具体的には、例えば、セルロース、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸などの天然多糖類およびそれらをアセチル化、エステル化等した誘導体を含む多糖類系の生分解性樹脂;
L体およびD体のポリ乳酸、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンサクシネート、あるいはポリエチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル系の生分解性樹脂;
あるいは、これらにテレフタル酸など芳香族を導入したポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などに代表される脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマーの生分解性樹脂等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
なかでも、生分解性樹脂としては、多糖類系生分解性樹脂である酢酸セルロース(CDA)、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂であるL体およびD体のポリ乳酸、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマーであるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)等を用いることが好ましく、L体およびD体のポリ乳酸を用いることが特に好ましい。
【0036】
前記架橋性モノマーとしては、電離性放射線の照射などにより架橋できるモノマーであれば特に制限を受けないが、例えばアクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーまたはアリル系架橋性モノマーが挙げられる。
前記アクリル系もしくはメタクリル系の架橋性モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0037】
前記アリル系架橋性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0038】
本発明で用いる架橋性モノマーとしては、比較的低濃度で高い架橋度を得ることができることからアリル系架橋性モノマーを用いることが好ましい。なかでもトリアリルイソシアヌレートは生分解性樹脂に対する架橋効果が高いために特に好ましい。また、トリアリルイソシアヌレートと加熱によって相互に構造変換しうるトリアリルシアヌレートを用いても、実質的に効果は同じである。
【0039】
前記架橋性モノマーは、生分解性樹脂の種類にもよるが、生分解性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上15質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。さらに好ましい架橋性モノマーの配合量は3質量部以上8質量部以下である。これは、架橋性モノマーの配合量が3質量部未満であると、架橋性モノマーによる生分解性樹脂の架橋効果が十分に発揮されず、加熱した含浸材に含浸する時またはガラス転移温度もしくは軟化温度以上の高温時において複合物の強度が低下し、最悪の場合形状を維持できなくなる可能性があるからである。一方、架橋性モノマーの配合量を8質量部以下としているのは、架橋性モノマーの配合量が8質量部を超えると、生分解性樹脂に架橋性ポリマー全量を均一に混合するのが困難になり、実質的に架橋効果に顕著な差が出なくなるという理由からである。
【0040】
前記(A)工程で調製される混練物には、前記生分解性樹脂および架橋性モノマー以外に、本発明の目的に反しない限り、他の成分を配合しても良い。
例えば、生分解性樹脂以外の樹脂成分、硬化性オリゴマー、各種安定剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカもしくはシリカ等の無機・有機充填材、染料もしくは顔料などの着色剤等を配合することもできる。
【0041】
前記(B)工程は、(A)工程で得られたペレットに電離性放射線を照射して生分解性樹脂の架橋を行い、生分解性樹脂架橋物1を得る。
生分解性樹脂を架橋して分子同士が結合して網状のネットワーク構造を呈する生分解性樹脂架橋物1は図2(a)および拡大図(g)に示す構造となる。
これにより、放射線照射設備を導入したり、照射設備のある場所まで成形物を運搬したりするなどの手間やコストを省くことができる。
(B)工程で得られた生分解性樹脂架橋物1を微視的に見ると、拡大図の図2(g)に示すように、生分解性樹脂分子が架橋Xにより相互に拘束されている。
【0042】
(B)工程においては、生分解性樹脂をほぼ完全に架橋して生分解性樹脂架橋物1を作製することが重要であり、該生分解性樹脂複合物の生分解性樹脂成分が実質的に100%架橋されていることが好ましい。架橋されていない生分解性樹脂を加熱した含浸材に浸漬したときは溶解してしまうか膨潤しないかのいずれかであり、形状を保ったまま含浸材で膨潤させるためには架橋ネットワークが樹脂の中に導入されていることが必須条件となる。この架橋ネットワークは最終製品において強度低下の抑制および形状保持性の向上にも供する。
また、含浸材を含浸させる前に生分解性樹脂を架橋しておけば、含浸材の選択の際には放射線などの架橋手段に対する耐性や架橋阻害について考慮する必要がなく、含浸材は生分解性樹脂との相性のみで任意に選択可能であり、また含浸材に無関係に生分解性樹脂の架橋状態を制御することができる。
【0043】
生分解性樹脂架橋物において生分解性樹脂がほぼ完全に架橋していることの指標として、可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材で膨潤させる前の生分解性樹脂架橋物は、ゲル分率が80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、より好ましくは実質的に100%となっている。
なお、ゲル分率が実質的に100%となる場合でも、架橋点の量、すなわち架橋密度が重要で、架橋密度を上げていくことで含浸材の含有量を制御することが可能である。これは、架橋ネットワーク構造が緻密になることで構造変化・体積変化しにくくなることを利用しており、生分解性樹脂架橋物を形成する際の架橋性モノマーの量、架橋させる電離性放射線の量などを増減させることで架橋密度を増減させて、含浸材の含浸量を制御することが可能である。
【0044】
架橋構造を形成させる方法として電離性放射線を照射している。
電離性放射線としてはγ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種は空気中の酸素と結合して失活すると架橋効果が低下するためである。
【0045】
前記生分解性樹脂を架橋する電離性放射線の照射量は50kGy以上200kGy以下であることが好ましい。
架橋性モノマーの配合量によっては電離性放射線の照射量が1kGy以上10kGy以下であっても生分解性樹脂の架橋は認められるが、ほぼ100%の生分解性樹脂分子を架橋するには電離性放射線の照射量が50kGy以上であることが好ましい。さらに、後の工程で液体状の含浸材で膨潤させたときに形状の変化を抑えて均一に膨潤させるためには、電離性放射線の照射量が80kGy以上であることが好ましい。
一方、電離性放射線の照射量が200kGy以下であることが好ましいとしているのは、生分解性樹脂が樹脂単独では放射線で崩壊する性質を有するため、電離性放射線の照射量が200kGyを超えると架橋とは逆に分解を進行させることになるからである。電離性放射線の照射量の上限値は150kGyであることが好ましく、100kGyであることがより好ましい。
【0046】
なお、前記電離性放射線を照射して架橋する方法に代えて、生分解性樹脂に架橋性モノマーと化学開始剤を混合したのち化学開始剤が熱分解する温度まで上げることによって生分解性樹脂架橋物を調製しても良い。その場合は、架橋性モノマーとしては、前記電離性放射線による架橋の場合と同じ物質を用いることができる。
化学開始剤としては、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒であればいずれでも良い。
架橋させるための温度条件は化学開始剤の種類により適宜選択することができる。架橋は、放射線照射の場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
【0047】
次の(C)工程で、生分解性樹脂架橋物1を60℃以上且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度にした可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材2に浸漬する。
生分解性樹脂架橋物1を上記温度条件下の状態に置くことで非結晶部分が運動し始め、拡大図の図2(h)に示すように、接した面から液体状の含浸材2が生分解性樹脂架橋物1の架橋された網目の中に浸入していく。
【0048】
前記生分解性樹脂架橋物1を含浸材2で膨潤された状態のまま室温に戻すと、図2(c)に示したように生分解性樹脂複合物3が得られる。
生分解性樹脂複合物3は拡大図の図2(i)に示すように生分解性樹脂の架橋11のネットワーク中に含浸材2が含浸されている。含浸材2が生分解性樹脂の分子間の相互作用を阻止するため、ガラス転移温度以下の温度でもガラス転移温度以上のときの柔軟な状態が維持され、優れた柔軟性および衝撃吸収性を示すようになる。そのうえ、本発明の生分解性樹脂複合物3においては分解性樹脂分子間の架橋Xが残ったままであるから、ガラス転移温度以上の温度になっても生分解性樹脂の分子同士の拘束が解かれることはなく、形状を保つことができる。
【0049】
この(C)工程で、生分解性樹脂架橋物1を膨潤させる方法は、生分解性樹脂架橋物を加熱した液体状の含浸材に浸漬することにより行っても良いし、生分解性樹脂架橋物に含浸材を混合し加熱することにより行っても良い。生分解性樹脂架橋物1は見かけ比重の小さい状態、すなわち粒子間に多くの隙間や空間を持った嵩高い状態であるため、生分解性樹脂と等量前後の含浸材を隙間に含み、余剰な含浸材が滲まない状態にすることができる。そのため、密閉した容器に生分解性樹脂架橋物1と含浸材2を所望の比率で混合して加熱すれば、ほぼ均一に生分解性樹脂架橋物粉末に含浸材を含浸させることができる。
【0050】
含浸させる含浸材2の温度は、多くの生分解性樹脂の軟化温度やガラス転移温度は60℃付近であり、この温度付近で柔軟になるので、下限を60℃としている。含浸材の温度を60℃以上とすれば非常に効率よく複合化が可能となる。さらに生分解性樹脂の種類によっては、含浸材の温度を80℃以上、さらには100℃以上とするのが好ましい。
含浸材2の最適温度は生分解性樹脂の種類、含浸材の種類、生分解性樹脂と含浸材の組み合わせにより異なるが、例えばガラス転移温度が一般的に60℃以下である脂肪族ポリエステル類系の生分解性樹脂は、含浸材の温度を60℃以上とするのが適している。ガラス転移温度や軟化温度が一般に高い多糖類系の生分解性樹脂でも80〜100℃に加熱すれば含浸材により膨潤させることが可能である。
【0051】
他方、含浸材2は化学的に安定な状態で、かつ液体状であることが必要であるため、含浸材の温度の上限は前記生分解性樹脂の融点以下または分解温度以下としている。常温で液体である可塑剤や重合性モノマーは、加熱により気化あるいは蒸散しやすいものが多いため、このような可塑剤あるいは重合性モノマーは気化温度よりも低い温度とする必要がある。例えば、重合性モノマーなどの一部の含浸材は80〜150℃付近に沸点を有し、これ以上の温度とすると気化しやすくなるため、含浸材の温度を上げることが困難となる。そのため、気化しやすい含浸材を用いる場合では、その温度の上限を80℃とするのが好ましい。気化しにくい含浸材でも上限は120〜140℃とするのが好ましい。
よって、一般的な含浸材の温度の下限値は60℃とし、好ましくは80℃以上としている。また、上限値は好ましくは130℃以下、さらに好ましくは120℃以下としている。しかし、高温で安定なエポキシ化変性油のような可塑剤を含む含浸材を用いる場合は、180℃など生分解性樹脂の融点を超える温度としても良い。
【0052】
また、膨潤時間も特に限定されず、一般に拡散現象は厚みの二乗に比例し、生分解性樹脂架橋物の形状や大きさまたは含浸材の種類や温度に応じて異なるので一概には言えない。例えば直径数mm程度の平均的なペレットでは1〜24時間程度、好ましくは1〜12時間程度、より好ましくは4〜12時間である。平均粒径100μm前後の粉末では60分以下、好ましくは30〜60分である。
【0053】
前記含浸材1として、可塑剤を含む含浸材と、重合性モノマーを含む含浸材を使用することができる。いずれの態様の含浸材でも、常温で液体状のもの、または常温では固体であっても加熱して融解し液体となるものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0054】
前記含浸材2として可塑剤を用いた場合、含浸材が生分解性樹脂の分子間の相互作用を阻止し、得られた生分解性樹脂複合物はガラス転移温度や軟化温度以下の温度でも非常に優れた柔軟性と伸びを有し、優れた耐衝撃性を示すようになる。
これは、一般的に、熱収縮材が架橋構造により形状記憶性を持つことと同じ効果が起こっていると考えられる。即ち、熱収縮材は伸張された状態で形状を固定して製造され、使用時に加熱されることにより初めて柔軟になり形状復帰能力を発揮することができるが、本発明の成形材料の場合は、可塑剤からなる含浸材を含有させることによって、常温に戻すと可塑剤により柔軟性を有する形状復帰が起きると認められる。
【0055】
前記可塑剤を含む含浸材は、生分解性樹脂内に含浸させる必要から生分解性樹脂との親和性が高いものが好ましい。ゆえに、含浸材としては、弱くとも極性を有し、且つ分子量が大きくないものが好ましく、生分解性樹脂またはその誘導体が最も適している。
具体的には、前記可塑剤は以下の(a)〜(d)の少なくとも1種を含有するものが好適に用いられる。
(a)脂肪族ポリエステル誘導体またはロジン誘導体を含む可塑剤
(b)ジカルボン酸誘導体を含む可塑剤
(c)グリセリン誘導体を含む可塑剤
(d)エポキシ化変性油
なかでも、本発明の生分解性樹脂複合物の生分解性をより高く保つために生分解性を有することが好ましく、具体的には生分解性樹脂をはじめとする脂肪酸ポリエステルの低分子量物もしくはその誘導体、ジカルボン酸およびグリセリン誘導体、ラクトン類などの生分解性の認められている可塑剤が好適である。
【0056】
前記脂肪族ポリエステル誘導体としては、主成分として脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体との重縮合体および共重縮合体、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体およびヒドロキシカルボン酸との共重縮合体等が挙げられ、より具体的には、例えばα−ヒドロキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)、ヒドロキシトリカルボン酸類(例えば、クエン酸など)などの一種以上から合成された重合体、共重合体あるいはこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、脂肪酸ポリエステルとしては生分解性樹脂を用いることが好ましい。
前記脂肪族ポリエステルの分子量は、生分解性樹脂複合物粉末を構成する生分解性樹脂の分子量よりも小さいことが好ましい。具体的には1×105以下、より好ましくは1×
104以下、更に好ましくは1×102〜1×103である。
前記脂肪族ポリエステルの誘導体としては、脂肪族ポリエステルを化学修飾した公知の化合物を用いることができる。なかでも、生分解性樹脂誘導体を含む可塑剤である荒川化学工業(株)製「ラクトサイザーGP−4001(商品名)」を用いることが好ましい。
【0057】
前記ロジン誘導体としては、ガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジン等の原料ロジン類、該原料ロジンを不均化または水素化処理した安定化ロジンや重合ロジン、その他ロジンエステル類、強化ロジンエステル類、ロジンフェノール類、ロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
なかでも、ロジン誘導体を含む可塑剤である荒川化学工業(株)製「ラクトサイザーGP−2001(商品名)」を用いることが特に好ましい。
【0058】
前記ジカルボン酸誘導体としては、ジカルボン酸のエステル体、ジカルボン酸の金属塩またはジカルボン酸の無水物等が挙げられる。
前記ジカルボン酸誘導体のジカルボン酸としては、炭素数2〜50、特に炭素数2〜20の直鎖または分岐状の飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、および数平均分子量2000以下、特に1000以下のポリエーテルジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸もしくはデカンジカルボン酸などの炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸、およびフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸が好ましい。
【0059】
前記ジカルボン酸誘導体としてはジカルボン酸のエステル体が好ましい。ジカルボン酸のエステル体としては、例えばビス(メチルジグリコール)アジペート、ビス(エチルジグリコール)アジペート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、メチルジグリコールブチルジグリコールアジペート、メチルジグリコールエチルジグリコールアジペート、エチルジグリコールブチルジグリコールアジペート、ジベンジルアジペート、ベンジルメチルジグリコールアジペート、ベンジルエチルジグリコールアジペート、ベンジルブチルジグリコールアジペート、ビス(メチルジグリコール)サクシネート、ビス(エチルジグリコール)サクシネート、ビス(ブチルジグリコール)サクシネート、メチルジグリコールエチルジグリコールサクシネート、メチルジグリコールブチルジグリコールサクシネート、エチルジグリコールブチルジグリコールサクシネート、ジベンジルサクシネート、ベンジルメチルジグリコールサクシネート、ベンジルエチルジグリコールサクシネート、ベンジルブチルジグリコールサクシネート、エチルメチルジグリコールアジペート、エチルブチルジグリコールアジペート、ブチルメチルジグリコールアジペート、ブチルブチルジグリコールアジペート、エチルメチルジグリコールサクシネート、エチルエチルジグリコールサクシネート、エチルブチルジグリコールサクシネート、ブチルメチルジグリコールサクシネート、ブチルエチルジグリコールサクシネート、ブチルブチルジグリコールサクシネート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチレングリコレート等が挙げられる。
【0060】
前記ジカルボン酸誘導体としては、特にシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸またはフタル酸などのジカルボン酸の、アセチル化体に代表されるエステル化体が好ましい。なかでも本発明においてはアジピン酸エステルである大八化学工業(株)製「DAIFATTY−101(商品名)」を用いることが特に好ましい。
【0061】
前記グリセリン誘導体としては、グリセリンをエステル化した誘導体が挙げられる。より具体的には、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステルまたはグリセリン脂肪酸トリエステルが挙げられる。
前記エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数2〜22の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には酢酸、プロピオン酸、酪酸(ブタン酸)、イソ酪酸、吉草酸(ペンタン酸)、イソ吉草酸、カプロン酸(ヘキサン酸)、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、イソカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルシン酸、12−ヒドロキシオレイン酸などが挙げられる。グリセリン脂肪酸ジエステルまたはグリセリン脂肪酸トリエステルを構成する2種または3種の脂肪酸は同一であっても異なっていても良い。
【0062】
なかでも本発明においてはトリアセチルグリセリド(通称トリアセチン)、アセチル化モノグリセライドである理研ビタミン(株)製「リケマールPL(シリーズ)」などのアセチル化されたグリセリンがグリセリン誘導体として好適である。
【0063】
前記エポキシ化変性油としては、エポキシ化大豆油やエポキシ化ひまし油等が挙げられる。
その他、前記可塑剤として、薬剤、農薬、薬品や食品などの有用物質を用いても良い。有用物質を含浸材として用い、生分解性樹脂の架橋ネットワークに有用物質を担持させることにより、生分解性樹脂製の成形品が生分解されるにつれて有用物質が徐放されるという徐放システムを構築することができる。
含浸材として用いる薬剤、薬品としては、徐放システムのように生分解性樹脂架橋物粉末の周囲に作用するものだけに限定されず、例えば生分解性樹脂架橋物粉末自体に作用し、耐久性を向上させる老化防止剤や加水分解抑制剤等を用いることができる。
例えば、生分解性樹脂架橋物粉末にポリ乳酸を使用した場合、加水分解しやすいポリ乳酸の性質を改良するために、含浸材にカルボジイミド等の加水分解抑制剤を溶解させておき、一緒に複合化する等の方法を用いることができる。
【0064】
さらに、前記可塑剤として、メタノールやDMSO(ジメチルスルオキシド)等の極性溶媒を用いても良い。極性溶媒を使用して架橋ネットワーク構造の中に含有させることにより、ゲル濾過や液体クロマトグラフィなどの分子篩いに応用することができる。これは、前記極性溶媒により本発明の生分解性樹脂複合物がゲル状構造を呈することができるためであり、前述した方法で架橋構造を制御することで分離分析技術の分野へ幅広く利用することが可能である。
【0065】
また、含浸材として重合性モノマーを用いる場合には、生分解性樹脂架橋物粉末の架橋ネットワークの中で重合性モノマーを固定する目的で、生分解性樹脂架橋物粉末に重合性モノマーをグラフト重合、あるいは重合性モノマーを生分解性樹脂に複合化して内部でポリマー化し、生分解性樹脂と該ポリマーをポリマーアロイとすることが可能である。ポリマーアロイ化することによって、生分解性樹脂と重合性モノマーが重合して生成するポリマーの両者の特性を合わせた硬さ等の性質のものを作製することができる。
【0066】
前記重合性モノマーを含む含浸材は、下記の(e)〜(i)の少なくとも1種類を含有することが好ましい。
(e)アクリル系モノマーあるいは/およびアクリル基を有する低分子量ポリマー
(f)メタクリル系モノマーあるいは/およびメタクリル基を有する低分子量ポリマー
(g)スチレン系モノマー
(h)アリル系モノマーあるいは/およびアリル基を有する低分子量ポリマー
(i)カルボン酸ビニル系モノマー
なかでも、メタクリル系モノマーを用いることがより好ましい。
【0067】
前記アクリル系もしくはメタクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、メタクリル酸グリシジル(グリシジルメタクリレート)等が挙げられる。
前記アクリル基を有する低分子量ポリマーもしくはメタクリル基を有する低分子量ポリマーとしては、前記アクリル系もしくはメタクリル系モノマーの1種類あるいは2種類以上を重合させて得られる分子量が100〜1000程度の低分子量ポリマーが挙げられる。
【0068】
前記スチレン系モノマーとしては、スチレン、p−メチルトルエンなどの主としてそのパラ位に官能基を備えたもの、スチレンスルフォン酸塩、クロロスチレン、α−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、クロロメチルスチレンなどが挙げられる。
【0069】
前記アリル系モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
前記アリル基を有する低分子量ポリマーとしては、前記アリル系モノマーの1種類あるいは2種類以上を重合させて得られる分子量が100〜1000程度の低分子量ポリマーが挙げられる。
【0070】
前記カルボン酸ビニル系モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、デカン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0071】
生分解性樹脂架橋物内に加熱した含浸材が含浸され、生分解性樹脂架橋物が膨潤した状態で生分解性樹脂の室温付近まで冷却することにより、生分解性樹脂と含浸材が複合化された複合架橋物が得られる。冷却は放冷により徐々に冷却しても良いし、水冷などにより急冷しても良い。
【0072】
前記複合架橋物は、含浸材の含有率が5%以上60%以下であることが好ましい。該複合架橋物のガラス転移温度以下での柔軟性を確保するために、含浸材の含有率を5%以上としている。より柔軟性向上効果を発揮させるためには含浸材の含有率が10%以上が好ましく、特に20%以上が好ましい。含浸材の含有率を60%以下としているのは、含浸材の含有率が60%を超えると含浸材が析出するといういわゆるブリードが起こりえるためである。含浸材の含有率は50%以下が好ましい。
【0073】
含浸材の含有率は以下の方法で測定できる。
含浸材に浸漬する前の常温における生分解性樹脂架橋物の質量を予め測定しておき、含浸材に浸漬したのち常温に戻した後の複合架橋物の質量を測定する。得られた値をもとに下記式に基づき含浸材含有率を算出する。
含浸材含有率(%)={(A−B)/A}×100
(A;生分解性樹脂複合物の質量、B;含浸材への含浸前の生分解性樹脂架橋物の質量)
【0074】
得られた生分解性樹脂の複合架橋物3は生分解性樹脂の架橋Xのネットワーク中への含浸材2の浸入により膨潤しており、その体積変化は例えば元の2倍程度となる。そのため複合架橋物3はネットワーク構造が無理矢理広げられたような歪みを受けた状態となり、全体の強度低下は避けられない。さらに生分解性樹脂中にいくら架橋性モノマーを均等に混合しても厳密には架橋強度に粗密はできるため、強度の強い部分と弱い部分の分布ができる。
【0075】
つぎの(D)工程で、生分解性樹脂の複合架橋物3を熱可塑性樹脂4と混練し、該混練工程で生分解性複合物を混練時の剪断力で粉砕して粒子5とし、熱可塑性樹脂4中に粒子5を分散している。
即ち、生分解性樹脂架橋物を粉砕してから含浸材を含浸させるのではなく、含浸材を含浸して強度を低下させてから、熱可塑性樹脂4と混練し、混練時の剪断力で細かく粉砕して複合架橋物の粒子5を得ている。該粒子5は100μm未満で、平均粒子径は10〜50μm程度とすることができる。
【0076】
生分解性樹脂の複合架橋物3を熱可塑性樹脂4と加熱混練し始めた直後は、図2(d)に示すように熱で融けた熱可塑性樹脂4の中に、熱では融けない複合架橋物3が混ざった状態になる。混練の剪断力で複合架橋物3が粉砕され、図2(e)に示すように細かくなっていき、最終的に図2(f)に示すように生分解性樹脂の複合架橋物の粒子5が溶融した熱可塑性樹脂4の中に分散した状態となる。
【0077】
このように、(D)工程で、複合架橋物3の粉砕と熱可塑性樹脂4との混練工程とを同時に行うと、生分解性樹脂架橋物を粉砕する工程を別に設ける必要はなく、製造工程を減らし製造を簡略化できる。
さらに、含浸材を含浸させることにより架橋強度に粗密ができることを逆に利用して、含浸材を含浸したのち粉砕すれば強度の弱い部分から粉砕され、強度の強い部分が粉砕させずに残るために全体の強度を向上させることができる。
【0078】
前記熱可塑性樹脂は、前記生分解性樹脂の複合架橋物に対して質量比0.1〜1倍量で混合することが好ましい。
混練方法としては特に限定されず公知の方法に従って良い。例えば、2本あるいはそれ以上のロール混練機、ニーダー、1軸もしくは2軸混練機や押出機等が利用できる。特に混練と同時に生分解性樹脂複合物を粉砕することを考えれば、剪断力の強い機器を用いて混練することが好ましい。具体的には回転軸が剪断力をかけやすい形状、例えば深溝形状となっているかあるいは回転軸が高速回転できる高剪断タイプの混練機や押出機、または高圧をかけた状態で混練剪断できる加圧ニーダーを用いることが好ましい。
【0079】
具体的には、二条深溝スクリューを有する東芝機械(株)性の高剪断二軸混練機TEM−26SSを利用した場合は、スクリュー回転速度200rpm以上であることが好ましく。より好ましくは400rpm以上、さらに好ましくは700rpm以上である。回転数の上限はより細かく粉砕する観点では特に限定されないが、回転が速すぎるとロッドの押出速度が安定せず連続製造が困難になるため、生分解性樹脂の種類にもよるが1200rpm程度が限界である。
【0080】
混練温度は生分解性樹脂の複合架橋物の構成や熱可塑性樹脂の種類などにより変動するので一概には言えないが、熱可塑性樹脂が変形し始める温度以上で、かつ、複合架橋物が溶融または分解する直前までの温度条件下で混練を行うことが好ましい。熱可塑性樹脂が変形し始める温度としては熱可塑性樹脂の融点−20℃程度が目安である。具体的には、熱可塑性樹脂としてポリ乳酸を用いる場合は160〜190℃の温度で行うことが好ましい。
【0081】
混合する熱可塑性樹脂の種類は限定されないが、本実施形態では、(A)工程で用いる生分解性樹脂と同一の生分解性樹脂を用いて、両者の親和性、混合・分散性が極めて良好としている。
かつ、生分解性樹脂と同一の生分解性樹脂を使用した場合は、生分解性樹脂の複合架橋物と該熱可塑性樹脂がポリマーアロイ化されているとみなすことができ、生分解性樹脂に可塑剤や重合性モノマーを複合化して元の生分解性樹脂よりも柔らかくしたり硬くしたり、硬さを変えた複合架橋物の粒子を、元の生分解性樹脂と混合・分散させたポリマーを形成することができる。
【0082】
該熱可塑性樹脂として石油由来の樹脂を使用することも可能である。
前記生分解性樹脂以外に用いられる熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネートやアクリロニトリルスチレンブタジエン共重合体(ABS)等のエンジニアリングブラスチック、ポリウレタン系、オレフィン系、スチレン系、アミド系等の各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0083】
二酸化炭素排出量を抑制する目的から植物由来樹脂の利用が好ましい。植物由来樹脂は大気中の二酸化炭素を炭素源として吸収して固定化できる植物に由来する樹脂で、炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルを保つことができ生態系を含む地球環境に悪影響を与えないという利点がある。また、石油合成高分子材料に比べて燃焼に伴う熱量も少ない。
【0084】
本発明においても、生分解性樹脂の複合架橋物を構成する生分解性樹脂および/または該複合架橋物に混合する熱可塑性樹脂として、植物由来樹脂を用いることが好ましい。しかし、ポリ乳酸や酢酸セルロース等の植物由来樹脂を使用した生分解性樹脂複合物を、石油由来の熱可塑性樹脂に混合して使用することも植物由来樹脂で代替した分だけ石油の使用量を減らすことができる。
【0085】
前述した生分解性樹脂の中で、ポリ乳酸、酢酸セルロース、疎水化デンプンは生分解性樹脂であると共に植物由来樹脂でもあるので、これらを前記生分解性樹脂複合物を構成する生分解性樹脂および該生分解性樹脂複合物に混合する熱可塑性樹脂として用いれば、成形材料や成形品を植物由来の生分解性樹脂で形成することができる。
【0086】
可塑剤を含有する生分解性樹脂の複合架橋物に、ポリエチレンやポリプロピレン等の汎用プラスチックや、強度や耐薬品性・耐熱性に優れたポリカーボネートやABS等のエンジニアリングプラスチックを混合することにより、成形材料あるいは成形品の一部を植物由来樹脂で構成すると同時に低コスト化したり、柔軟性や耐衝撃性を付与することができる。また、可塑剤を含有する複合架橋物に、ポリウレタン樹脂や各種の熱可塑性エラストマー等の柔軟なポリマーを混合することにより、成形材料や成形品に柔軟性を付与することができる。
ひまし油を原料とするポリアミド11は生分解性樹脂ではないが植物由来樹脂であるので、ポリ乳酸等の植物由来樹脂を用いた生分解性樹脂複合物に該ポリアミド11を混合すれば、全体としての生分解性は損なわれるものの、成形材料や成形品を植物由来樹脂のみで構成することが可能となる。
【0087】
前記複合架橋物の粒子と熱可塑性樹脂との間の接着力が低い場合には、混合物全体の強度低下を抑制するため、各種相容化剤を利用することができる。
前記相容化剤としては無水マレイン酸変性ポリマーまたはアクリル変性ポリマー等を用いることができ、例えば三洋化成(株)製「ユーメックス(商品名)」、三菱レイヨン(株)製「メタブレン(商品名)」等の市販品を用いることができる。
【0088】
前記した(D)工程で、熱可塑性樹脂4中に複合架橋物の粒子が分散した混練物6を作製した後に、該混練物6をペレット化する(E)工程を行い、成形材料として利用しやすいペレットとしている。
ペレット化の方法は特に限定されず、例えば押出機とペレタイザーを用いる公知方法を用いて良い。
【0089】
図3に第二の発明の第二実施形態の生分解性樹脂材料の製造工程を示す。
第二実施形態では、第一実施形態の含浸工程(C)と熱可塑性樹脂の混練工程(D)とを同時に行う(F)を設け、工程順序を(A)→(B)→(F)→(E)としている。
【0090】
前記(F)工程において、生分解性樹脂架橋物と可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材と熱可塑性樹脂とを同時に混合しても、生分解性樹脂架橋物に存在する粒子間の空間は限定されているため、分子量の大きい熱可塑性樹脂は前記空間に浸入することはできず、原則として含浸材が選択的に生分解性樹脂架橋物内に浸入するので、得られる成形材料は第一実施形態と同様に図2(f)に示した模式図のような状態を呈する。
【0091】
前記含浸材として前記重合性モノマーを用いる場合には、前記(F)工程と同時に、もしくはその前後で、含浸材を重合させることが好ましい。
重合性モノマーの重合には、最初の生分解性樹脂の架橋と同様、電離性放射線を用いることが好ましい。その場合、使用する電離性放射線は、最初の生分解性樹脂の架橋と同じであり、γ線、エックス線、β線あるいはα線などが使用できる。工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や電子線加速器による電子線が好ましい。照射量は含浸させた重合性モノマーの量にも多少依存するが、最初の生分解性樹脂の架橋ほどの量は必要なく、数kGyから数10kGyでも効果がある。
【0092】
また、放射線等による生分解性樹脂の架橋工程(B工程)の直後に、重合性モノマーの含浸を行う場合には、B工程で生分解性樹脂に発生したラジカルを利用して、前記重合性モノマーを生分解性樹脂にグラフト重合させることができる。
即ち、ラジカルが消失する前に含浸材に浸漬することによって、残存ラジカルにより重合モノマーをグラフト重合させることができる。この場合には、含浸後に重合性モノマーを重合させる工程を省略することができるため、より好ましい。
【0093】
電離性放射線の照射等により発生したラジカルは空気中の酸素等との反応や熱によるゆらぎで徐々に失われていくため、生分解性樹脂および含浸材の種類にもよるが、前記B工程が電離性放射線の架橋による場合には、該架橋を行ってから略1〜24時間以内、好ましくは1〜12時間以内、より好ましくは1〜5時間以内に生分解性樹脂架橋物粉末を重合性モノマーを含む可塑剤に浸漬すれば、電離性放射線の照射なしで重合性モノマーを重合させることができる。
【0094】
重合性モノマーの重合は化学開始剤を用いた方法でも行うことができる。この場合、熱可塑性樹脂と加熱しながら混練する(F)工程もしくは,前記融点以上に加熱してペレット状とする(E)工程と同時に行うことにより、前記工程において必要な熱を使用して重合性モノマーの重合も一気に行うことができ、別工程とする必要がなくなることから好ましい。
【0095】
前記第一実施形態および第二実施形態の製造方法では、いずれも最後の(E)工程で、ペレットとした生分解性樹脂材料の成形材料を取得している。
このペレットとした成形材料は、前記生分解性樹脂の融点以上に加熱して成形し、生分解性樹脂製の成形品を製造することができる。
成形方法は特に限定されず、溶融押出成形、射出成形、インフレーション成形、圧延成形、カレンダー成形など熱可塑性樹脂の一般的な成形方法を用いて良い。
成形品の形状も特に限定されず、シート、フィルム、繊維、トレイ、容器または袋などの所望の形状に成形できる。
【0096】
図4(A)(B)に示す第三、第四実施形態では、一旦ペレット状にするのではなく、第一、第二実施形態のペレット化工程(E)を省略し、熱可塑性樹脂との混練工程で得られた混練物を連続して射出成型機や押出成型機で所要形状に成形している。
具体的には、射出成型機や押出成型機に前記熱可塑性樹脂との混練機を接続している。
図4(C)に示す第五実施形態では、(F)工程で生分解性樹脂架橋物に含浸する含浸材に架橋性モノマーを用い、(B)の架橋工程で架橋されなかった生分解性樹脂を架橋している。
【0097】
以下、本発明について実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
生分解性樹脂として、三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシア(LACEA)H440」を使用した。アリル系架橋性モノマーの1種である日本化成工業(株)製トリアリルイソシアヌレート「TAIC(登録商標、商品名)」を用意し、押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)を用いてシリンダ温度180℃で生分解性樹脂を溶融押出する際に、押出機のペレット供給部にTAICをペリスタポンプにて定速滴下することで生分解性樹脂にTAICを添加した。その際、TAICの配合量が生分解性樹脂100質量部に対して5質量部になるように添加量を調整した。棒状に押し出したものは水冷ののちにペレタイザーにてペレット化し、生分解性樹脂と架橋性モノマーのペレット状混練物を得た。
このペレット状混練物に対し、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を90kGy照射し、ペレット状の生分解性樹脂架橋物を得た。
【0099】
得られた生分解性樹脂架橋物に、同じ質量の含浸材を混合し密閉容器に入れて加熱した。含浸材としては、ジカルボン酸誘導体を主成分とする可塑剤である大八化学工業(株)製可塑剤「DAIFATTY−101」を用いた。加熱は120℃の恒温槽内に1時間放置することにより行った。容器は15分に一度10秒程度上下左右を入れ替えて振動を与えた。そののち、室温で放冷したところ、混合した可塑剤はほぼ全て生分解性樹脂架橋物に含浸され、室温でも柔軟なペレット状の生分解性樹脂の複合架橋物を得た。
【0100】
この生分解性樹脂の複合架橋物に、三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH280」のペレットを生分解性樹脂複合物:ポリ乳酸=4:1(質量比)となるように配合し、二軸混練機(東芝機械(株)製高剪断二軸混練機「TEM−26SS」)を用いて、混練温度190℃、スクリュー回転速度400rpmにてロッド状に押し出したものをペレタイザーにてペレット状に切断した。
最後に、この混練物を180℃で熱プレスすることで厚み500μmのシートを得た。
【0101】
(実施例2〜4)
生分解性樹脂の複合架橋物とポリ乳酸の混練温度を各々180℃、170℃、160℃としたこと以外は実施例1と同様にして実施例2〜4とした。また、前記混練温度を150℃としたところ、安定にペレットを得られなかった。
【0102】
(実施例5〜8)
生分解性樹脂の複合架橋物とポリ乳酸の混練時のスクリュー回転速度を各々50rpm、100rpm、200rpm、700rpmとしたこと以外は実施例1と同様にして実施例5〜8とした。
【0103】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたペレット状の生分解性樹脂の複合架橋物を、衝撃粉砕機アトマイザーミルにて粉砕し、425μmふるいにて95%パスで分級して、平均粒径約100μmの生分解性樹脂の複合架橋物の粉末を得た。
得られた生分解性樹脂の複合架橋物の粉末に同じ質量の含浸材を混合し、実施例1と同様にして含浸材を生分解性樹脂架橋物粉末に含浸させ、生分解性樹脂複合物を得た。
得られた生分解性樹脂の複合架橋物とポリ乳酸とを実施例1と同様にして混練し、この混練物を180℃で熱プレスすることで厚み500μmのシートを得た。
【0104】
(比較例2)
含浸材を含浸する工程を省いたこと以外は実施例1と同様にして比較例2とした。
(比較例3)
製造工程を、混練工程A、シート成形・照射工程B、含浸工程Cの順に行った。
まず、実施例1と同様に混練工程を行い、生分解性樹脂と架橋性モノマーのペレットを得た。次に、この混練物を180℃で熱プレスすることで厚み500μmのシートを得た。その後、実施例1と同様に、電子線90kGyの照射工程B、DAIFATTY−101の含浸工程Cを行い、得られたシートを比較例3とした。
【0105】
実施例および比較例において得られたシートの外観を観察し、目視でムラ・気泡、粒子形状の有無を確認し、いずれも確認されず均一に見えた場合を「◎」と、ムラ・気泡、粒子形状が一部に見られたものの、それらが存在する面積が全面積の50%以下の場合を「○」と、全面積の50%以上を超える場合を「△」と、シート形状をなさなかった場合を「×」と評価した。
実施例1〜4および比較例1、3で得られたシートについては、ASTM K7161に準拠して引張試験を行った。
【0106】
前記評価結果を、製造条件の相違点とともに下記表に示す。
【表1】

【0107】
実施例ではいずれも安定な生分解性樹脂材料のペレットを得ることができた。一方、比較例2では生分解性樹脂架橋物が可塑剤でゲル膨潤されていないために熱可塑性樹脂との混練時に十分に粉砕されず大きな粒子の状態で存在することとなるため、押出ロッドが安定せずペレットが安定して得られなかった。
【0108】
実施例で得られたシートはいずれも元の生分解性樹脂よりも柔軟で、かつエラストマー同様の弾力のあるシートが得られた。ペレットの粉砕により形成される生分解性樹脂複合物の粒子は目視外観では全く検出できず、半透明で均質なシートであった。ただし、実施例5,6では気泡の混入が見られた。
比較例1、3では実施例と同様のシートが得られ、外観に差はなかったが、強度は実施例に比較すると、比較例1の半分以下で、比較例3に至っては1/100以下と非常に弱かった。
比較例2では、ペレットの状態ですでに生分解性樹脂複合物の粒子が確認でき、シートも形状を保てなかった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の第一実施形態の生分解性樹脂材料の製造工程を示す図面である。
【図2】前記製造工程における生分解性樹脂材料の構成を示す模式図である。
【図3】第二実施形態の生分解性樹脂材料の製造工程を示す図面である。
【図4】(A)〜(C)は、第三〜第五実施形態の生分解性樹脂材料の製造工程を示す図面である。
【符号の説明】
【0110】
1 生分解性樹脂架橋物
2 含浸材
3 生分解性樹脂の複合架橋物
4 熱可塑性樹脂
5 複合架橋物の粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を電離性放射線で架橋して生分解性樹脂架橋物を得る工程と、
前記生分解性樹脂架橋物を60℃以上で且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度で可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材で膨潤させ、前記生分解性樹脂架橋物内に含浸材を含浸させた複合架橋物を得る工程と、
前記複合架橋物と熱可塑性樹脂とを加熱しながら混練し、該混練で前記複合架橋物を粉砕して粒子とし、該粒子を前記熱可塑性樹脂中に分散する工程と、
を備えることを特徴とする生分解性樹脂材料の製造方法。
【請求項2】
生分解性樹脂を電離性放射線で架橋して生分解性樹脂架橋物を得る工程と、
前記生分解性樹脂架橋物を60℃以上で且つ前記生分解性樹脂の融点あるいは分解温度以下の温度で可塑剤あるいは重合性モノマーを含む含浸材と、熱可塑性樹脂と、前記生分解性樹脂架橋物に混練し、生分解性樹脂架橋物内に含浸材を含浸させて複合架橋物とし、該複合架橋物を混練で粉砕して粒子とし、前記熱可塑性樹脂に分散する工程と、
を備えていることを特徴とする生分解性樹脂材料の製造方法。
【請求項3】
前記複合架橋物は混練による粉砕で100μm未満の粒子としている請求項1または請求項2に記載の生分解性樹脂材料の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は前記生分解性樹脂と同一の生分解性樹脂としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生分解性樹脂材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された生分解性樹脂材料からなる成形材料。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法で製造する生分解性樹脂材料のペレットを成形機で所要形状に成形し、あるいはペレットとせずに前記熱可塑性樹脂との混練物を連続して成形機で所要形状に成形し、得られた成型品には電離性放射線を照射せずに成型品としていることを特徴とする生分解性樹脂材料からなる成型品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で成形されたことを特徴とする生分解性樹脂製の成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−298937(P2009−298937A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155677(P2008−155677)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】