説明

生分解性樹脂積層体

【課題】
生分解性及び優れたガスバリア性を有し、且つ十分な層間接着強度を有することにより、食品等の包装材料として特に適した汎用生分解性樹脂積層体を提供すること。
【解決手段】
ポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層との間に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂層を挿入した積層単位を含むことを特徴とする生分解性樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート、フィルム、容器等の包装成形材料として有用な生分解性樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装材料等の生活に密着したプラスチック廃棄物の処理に伴う環境問題の深刻化に伴い、包装成形材料としての、従来型の石油あるいは石炭系炭素資源由来の非分解性ポリマーに代わり、土壌中の微生物により最終的には水と炭酸ガスにまで分解可能な生分解性ポリマーの使用の拡大が期待されている。生分解性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステルが代表的であり、特にポリ乳酸は、バイオマス資源から大量に製造可能で且つ優れた機械的特性が得られることが確立されつつある生分解性ポリマーである。しかしながら、ポリ乳酸は、特に食品等の内容物の包装材としての使用を考慮した場合に、内容物の劣化を促進する作用のある酸素ガスに対するバリア性が乏しい。
【0003】
他方、ポリ乳酸よりも炭素数が1だけ少ない重合単位を有するポリグリコ−ル酸は、脂肪族ポリエステルの中では例外的に優れたガスバリア性を有する。したがって、ポリ乳酸層にポリグリコ−ル酸層を積層することにより、機械的特性とガスバリア性を両立した生分解性の積層体を与えることが期待される。事実、ポリ乳酸とポリグリコ−ル酸の積層体は、いくつか提案されている(例えば、特許文献1および2)。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸とポリグリコ−ル酸とは、両者間の化学的構造の類似性に伴い、化学的親和性については問題がないにも拘らず、それらの積層体を例えば包装材料として使用するに際しては、両者の層間接着強度が不足するため、大なる変形を伴う酷使条件下で使用する包装態様においては、層間剥離が起こりがちであるという問題点がある(後記比較例1および3)。これは、一つには、ポリグリコ−ル酸のバリア性が向上する主たる理由の一つである相当に大なる結晶性が、他の樹脂との接着性を阻害しているため、と考えられる。異なる樹脂層間の接着性を改善するためには、酸変性ポリオレフィン系樹脂を初めとする各種接着性樹脂を挿入することが広く行われており、ポリグリコ−ル酸と他の樹脂層との間にも、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、酸変性水添ブロック共重合体等の接着剤の使用も提案されている(特許文献3)。しかしながら、このような接着性樹脂は、非生分解性であり、その層をポリ乳酸とポリグリコ−ル酸の間に挿入しても、全体として良好な生分解性を有する積層体は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−80990号公報
【特許文献2】WO2009/154150
【特許文献3】特開2008−132687号公報
【特許文献4】特表平10−508640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術事情に鑑み、本発明の主要な目的は、生分解性及び優れたガスバリア性を有し、しかも十分な層間接着強度を有する生分解性樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生分解性積層体は、上述の目的の達成のために開発されたものであり、ポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層との間に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂層を挿入した積層単位を含むことを特徴とするものである。このようにして形成された本発明の積層体は、全体として優れた生分解性を有することに加えて、優れたガスバリア性およびポリ乳酸系樹脂/ポリグリコ−ル酸系樹脂層間接着性を有するのみでなく、延伸後において一層改善された単位厚さ当たりガスバリア性およびポリ乳酸系樹脂/ポリグリコ−ル酸系樹脂層間接着性を有することが特徴的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、その好適な実施形態に即して、詳細に説明する。
【0009】
上述したように、本発明の生分解性積層体は、ポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層との間に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂層を挿入した積層単位を含むことを特徴とする。
【0010】
(ポリ乳酸系樹脂層)
ポリ乳酸系樹脂層を構成するポリ乳酸系樹脂とは、乳酸を主成分とするモノマーを縮重合してなる重合体をいう。乳酸には、2種類の光学異性体のL−乳酸及びD−乳酸があり、これら2種の構造単位の割合でポリ乳酸系樹脂の結晶性が異なる。例えば、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ80:20〜20:80のランダム共重合体では、結晶性が無く、ガラス転移点60℃付近で軟化する透明完全非結晶性樹脂となる。
【0011】
他方、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ100:0〜80:20、又は20:80〜0:100の単独重合体またはランダム共重合体は、結晶性を有する。その結晶化度は、前記のL−乳酸とD−乳酸の割合によって定まるが、ガラス転移点は、前記と同様に60℃程度のポリマーである。このポリマーは、溶融押出した後、急冷することで透明性の優れた非晶性の材料になり、徐冷することにより、結晶性の材料となる。例えば、L−乳酸のみ、又は、D−乳酸のみからなる単独重合体は、180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマーである。本発明においては、結晶性、半結晶性および非晶性のポリ乳酸系樹脂のいずれを用いることもできる。
【0012】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂としては、構造単位がL−乳酸又はD−乳酸である単独重合体、すなわち、ポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方である共重合体、すなわち、ポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体のいずれを用いることもでき、さらには共重合成分として他のヒドロキシカルボン酸、ジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。また少量の鎖延長剤残基を含んでもよい。
前記ポリ乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法等、公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸、D−乳酸又はこれらの混合物を直接 脱水縮重合して、任意の組成を持ったポリ乳酸系樹脂を得ることができる。また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0013】
前記ポリ乳酸系樹脂を構成する前記の他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類があげられる。
【0014】
前記ポリ乳酸系樹脂を構成する前記のジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物等があげられる。また、ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等があげられる。
【0015】
また、必要に応じ、少量共重合成分として、ヒドロキシ安息香酸等の非脂肪族ヒドロキシカルボン酸、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを用いてもよい。
【0016】
但し、ポリ乳酸系樹脂中の乳酸単位(−O−CH(CH)CO−)の割合は、70質量%以上として、ポリ乳酸系樹脂の持つ機械的強度ならびに生分解性を確保することが好ましい。
【0017】
本発明で使用するポリ乳酸系樹脂は、温度210℃におけるメルトインデックス(荷重2.16kg ASTM D1238)の値が1〜10g/10min、特に3〜9 g/10minの範囲であることが好ましい。メルトインデックスの値が大きすぎると、機械的強度および耐熱性等の実用物性が不足し、小さすぎると成形加工性が悪くなる。ポリ乳酸系樹脂が、非晶質あるいは半結晶性である場合のガラス転移温度(Tg)は、50〜70℃の範囲であることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の積層体における、ポリ乳酸系樹脂層には、ポリ乳酸系樹脂を単独で使用することができるが、本発明の目的(特に生分解性)を阻害しない範囲内において、ポリ乳酸系樹脂に、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤等を配合した樹脂組成物を使用することができる。また、ポリ乳酸系樹脂には、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料等の各種添加剤を含有させることができる。
【0019】
(ポリグリコール酸系樹脂)
上記ポリ乳酸系樹脂とともに、本発明の積層体の基本単位を構成するポリグリコール酸系樹脂は、グリコール酸あるいはグリコール酸アルキルエステル、グリコリド等のグリコール酸誘導体を含むグリコール酸系モノマーの単独重合体又は共重合体、或いは前記グリコール酸系モノマーを主成分とする共重合体を含む樹脂のことをいう。ポリグリコール酸系樹脂は、上記グリコール酸系モノマーに由来するグリコール酸単位(−OCH−CO−)を繰り返し単位として、60質量%以上の割合で有する単独重合体または共重合体であることが好ましい。前記グリコール酸単位が前記下限未満であると、ポリグリコール酸が本来有している結晶性が損われ、得られる樹脂積層体のガスバリア性や耐熱性が低下する傾向にある。
【0020】
前記グリコール酸系モノマーの単独重合体を合成する方法としては、グリコール酸を脱水重縮合させる方法、グリコール酸アルキルエステルを脱アルコール重縮合させる方法、グリコリドを開環重合させる方法等を挙げることができる。これらの中でも、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120〜250℃の温度に加熱して、開環重合させる方法によってポリグリコール酸(即ち、ポリグリコリド)を合成する方法が好ましい。なお、このような開環重合は、塊状重合法又は溶液重合法によることが好ましい。
【0021】
一方、前記グリコール酸系モノマーを主成分とする共重合体は、グリコール酸、グリコール酸アルキルエステル、グリコリドからなる群から選択される少なくとも1種のグリコール酸系モノマーとその他の共重合成分(コモノマー)とを共重合させることにより合成することができる。このようなコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等の環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそれらのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール;こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそれらのアルキルエステルを挙げることができる。これらのコモノマーは、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0022】
また、これらの中でも、共重合させやすく、かつ物性に優れた共重合体が得られやすいという観点で、ラクチド、カプロラクトン、トリメチレンカーボネート等の環状化合物;乳酸等のヒドロキシカルボン酸が好ましい。なお、これらのコモノマーは、全仕込みモノマー量の通常45質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で使用する。これらのコモノマーの割合が大きくなると、生成する重合体の結晶性が損なわれやすくなり、得られる樹脂積層体の耐熱性、ガスバリア性、機械的強度等が低下する傾向にある
【0023】
本発明で使用するポリグリコール酸系樹脂は、温度270℃、剪断速度120sec−1の条件下において測定した溶融粘度が100〜10,000Pa・sであることが好ましく、200〜5,000Pa・sであることがより好ましく、300〜2,000Pa・sであることが特に好ましい。
【0024】
またポリグリコール酸系樹脂の融点(Tm)は、200℃以上であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。例えば、ポリグリコール酸の融点は約220℃であり、ガラス転移温度は約38℃で、結晶化温度は約90℃である。ただし、これらのポリグリコール酸系樹脂の融点は、ポリグリコール酸系樹脂の分子量や用いたコモノマーの種類等によって変動する。
【0025】
なお、本発明の積層体における、ポリグリコール酸系樹脂層には、ポリグリコール酸系樹脂を単独で使用することができるが、本発明の目的(特に生分解性およびガスバリア性)を阻害しない範囲内において、ポリグリコール酸系樹脂に、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤等を配合した樹脂組成物を使用することができる。また、ポリグリコール酸系樹脂には、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料等の各種添加剤を含有させることができる。
【0026】
いずれにしても、本発明の積層体の必要なガスバリア性を確保するためには、ポリグリコール酸系樹脂層中に、グリコール酸単位(−OCH−CO−)が、60質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含まれることが好ましい。但し、本発明の積層体を延伸積層体として得るためには、一旦形成されたポリ乳酸系樹脂との積層体におけるポリ乳酸系樹脂との共延伸性を良好とするために、ポリグリコール酸系樹脂を、グリコール酸共重合体とするか、あるいはグリコール酸単独重合体を他の熱可塑性樹脂で希釈することにより、ポリグリコール酸系樹脂層を構成する樹脂成分中のグリコール酸単位(−OCH−CO−)以外の樹脂成分の割合を2〜40質量%、特に5〜20質量%まで含めて、ポリグリコール酸系樹脂層の延伸性とガスバリア性を調和させることも好ましい。
【0027】
(接着樹脂層)
本発明の生分解性積層体は、上述したポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層との間に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂層を挿入した積層単位を含むことを特徴とする。ここで、「脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする」とは、接着層を構成する樹脂(すなわち、接着層樹脂)が、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とするが、全体として生分解性(ここでは、日本バイオプラスチック協会(JPBA)が「グリーンプラ」として認定する基準である、例えばJIS K6953−1(ISO 14855−1)で定める好気的コンポスト土壌中で「180日以内に60%以上生分解される」ことをいう)を満たす範囲内で、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸のいずれか少なくとも一方、好ましくはジカルボン酸、の最大約50モル%までを芳香族ジオールまたはジカルボン酸で置き換えたポリエステル、更にはエステル末端基を少量成分により鎖延長したポリエステル、を含む趣旨で用いている。
【0028】
接着層樹脂を構成する脂肪族ジオール成分は特に限定されないが、炭素数3〜10個の脂肪族ジオール成分が好ましく、炭素数4〜6個の脂肪族ジオール成分が特に好ましい。具体的には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4−ブタンジオールが特に好ましい。脂肪族ジオール成分は2種類以上を用いることもできる。また、脂肪族ジカルボン酸成分は特に限定されないが、炭素数2〜10個の脂肪族ジカルボン酸成分が好ましく、炭素数4〜8個の脂肪族ジカルボン酸成分が特に好ましい。具体的には、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸またはアジピン酸が特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分は2種類以上を用いることもできる。また、本発明で用いる接着層樹脂は、温度190℃におけるメルトインデックス(荷重2.16kg ASTM D1238)の値が1〜8g/10min、特に2〜5 g/10minの範囲であることが、本発明の積層体を、ポリ乳酸系樹脂およびポリグリコール酸系樹脂との共押出で得るために好ましい。
【0029】
接着層樹脂の市販品の例としては、いずれもポリブチレンサクシネートに分類されるコハク酸と1,4−ブタンジオールを少量のL−乳酸等の第三成分とともにポリエステル化して得られた三菱化学(株)製の「GS−pla」およびコハク酸(またはコハク酸ジメチル)と1,4−ブタンジオールの縮合物の末端水酸基を少量のジイソシアネートにより鎖延長して得られた昭和高分子(株)製「Bionolle」、ならびにポリブチレンアジぺートを構成するアジピン酸の一部、最大約50モル%までをテレフタル酸等で置き換えて得られたポリブチレンアジペートテレフタレート共重合体類であるBASF社製「Ecoflex」が挙げられる。このポリアルキレンアジペートテレフタレート類等のより詳細については、特表平10−508640号公報(特許文献4)に記載され、Tgが−10℃以下で、特に優れたポリ乳酸系樹脂/ポリグリコール酸系樹脂層間接着強度を与え、本発明の目的に特に適した接着層樹脂である。
【0030】
本発明における生分解性の接着層樹脂は、必要に応じて粘着付与剤、例えば石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂又はそれらの水添物を含んでもよい。このような粘着付与剤としては、例えばトーホーハイレジン(東邦石油樹脂(株));ガムロジン、ウッドロジン、アルコンP及びM(荒川化学(株));アドマープ(出光石油化学工業(株));ピコペール、ピコライトS及びA(ピコ(株));YSレジン、クリアロン(ヤスハラケミカル(株))が挙げられる。
【0031】
本発明の接着樹脂層は、上記した脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする接着層樹脂に加えて、全体としての生分解性を阻害しない範囲で他の樹脂を含むことができるが、上記接着層樹脂が、接着樹脂層の60質量%以上、特に80質量%以上含むことにより、良好なポリ乳酸系樹脂/ポリグリコール酸系樹脂層間接着強度、ならびに共押出積層適性ならびに共延伸適性を維持することが好ましい。
【0032】
(樹脂積層体)
本発明の樹脂積層体は、ポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層との間に、上記した脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂層を挿入した積層単位を含むことを特徴とするものであるが、この積層単位の外側に、更にポリ乳酸系樹脂層、ポリグリコ−ル酸系樹脂層および接着樹脂層を付加した積層構造とすることもできる。本発明の生分解性積層構造体の積層構造の典型例としては、1)ポリ乳酸系樹脂層/接着樹脂層/ポリグリコ−ル酸系樹脂層、2)ポリ乳酸系樹脂層/接着樹脂層/ポリグリコ−ル酸系樹脂層/接着樹脂層/ポリ乳酸系樹脂層、3)ポリグリコ−ル酸系樹脂層/接着樹脂層/ポリ乳酸系樹脂層/接着樹脂層/ポリグリコ−ル酸系樹脂層がある。更に、上記典型的積層構造の外側の一方または双方に、接着樹脂層を介してあるいは介さずに他の生分解性樹脂層を付加することもできる。この際、特にポリグリコ−ル酸系樹脂層に隣接して他の生分解性樹脂層を設ける場合には、上記接着樹脂層を間に介することが好ましい。他の生分解性樹脂の例としては、上記したポリ乳酸系樹脂層およびポリグリコ−ル酸系樹脂層を構成する乳酸およびグリコ−ル酸以外のコモノマーから構成される脂肪族ポリエステルが挙げられ、全体としての生分解性が損なわれない範囲で芳香族ポリエステル単位を含むものも用いられる。
【0033】
上記の典型例1)〜3)の積層体を形成するためには、その一部の層の上に他の層を押出しラミネートすることも可能であるが、構成樹脂の優れた共押出性を利用することにより、構成樹脂種に応じた数(いずれの場合も3台)の押出機を通じて溶融押出し、平型あるいは環状のダイを通じて、共押出積層することが好ましい。他の生分解性樹脂層を付加する場合には、必要な数の押出機を付加して共押出するか、押出ラミネートすることもできる。
【0034】
(延伸積層体)
本発明の積層体は、延伸することによりむしろ層間接着強度が増大し、ポリグリコ−ル酸系樹脂層の単位厚み当たりのガスバリア性が向上することが特徴である。一軸または二軸延伸が可能であるが、層間接着強度、ガスバリア性あるいは製品積層体の特性の等方性等の観点で一般に二軸延伸が好ましい。二軸延伸は、テンター法、インフレーション法あるいはブロー成形法等により逐次または同時の二軸延伸として行うことができる。上記典型例1)〜3)の積層構造の共延伸を行う場合、面積倍率として4〜16倍、特に9〜12倍、程度が好ましく、延伸温度は、55〜85℃、好ましくは60〜75℃程度が適当である。逐次二軸延伸の場合には、一段目よりも二段目の延伸温度を5〜10℃程度高く設定することが好ましい。
【0035】
上記典型例1)〜3)の積層構造において、含まれるポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層と(各樹脂層が複数含まれる場合はその合計)の間の厚み比は、50:50〜99.7:0.3、特に80:20〜95:5の範囲が好ましく、接着樹脂層の厚みは、製品(非延伸または延伸)積層体中において、1層当たり1〜20μm、特に2〜10μmの範囲が好ましい。製品積層体の合計厚みは、用途により異なる剛性(あるいは可撓性)、ガスバリア性によって広範囲で変化し得るが、一般に5μm〜1mm、特に10〜100μmの範囲となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、実施例及び比較例において使用した樹脂又は樹脂組成物を、その略号とともに下表1にまとめて示す。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施例1)
原料樹脂としてポリ乳酸樹脂(PLA),ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(Ecoflex)およびポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)を、計3台の押出機でそれぞれ溶融押出しし、溶融された樹脂を長さ300mmで間隙1.0mmの直線状リップを有する平型のダイから樹脂温度240℃で共押出し、表面を50℃に保った金属ドラム上にキャストすることにより冷却し、層構成がPLA/Ecoflex/PGA、厚み比が80/20/20で、合計厚みが120μmの積層シートを作製した。
【0039】
(実施例2)
ポリグリコ−ル酸系樹脂層を構成する樹脂として、ポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)単独の代わりに、実施例1で用いたポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)とポリ乳酸(PLA)との質量比で90/10のブレンドを用いる以外は、実施例1と同様にして、層構成がPLA/Ecoflex/PGA(90)+PLA(10)、厚み比が80/20/20で、合計厚みが120μmの積層シートを作製した。
【0040】
(実施例3)
接着樹脂層を構成する樹脂として、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(Ecoflex)の代わりに、ポリブチレンサクシネート樹脂(GS-pla)を用いる以外は、実施例1と同様にして、層構成がPLA/GS-pla/PGA、厚み比が80/20/20で、合計厚みが120μmの積層シートを作製した。
【0041】
(実施例4)
ポリグリコ−ル酸系樹脂層を構成する樹脂として、ポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)単独の代わりに、実施例1で用いたポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)とポリ乳酸(PLA)との質量比で90/10のブレンドを用いる以外は、実施例3と同様にして、層構成がPLA/GS-pla/PGA(90)+PLA(10)、厚み比が80/20/20で、合計厚みが120μmの積層シートを作製した。
【0042】
(比較例1)
実施例1において接着樹脂として用いたポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(Ecoflex)を用いずに、ポリ乳酸樹脂(PLA)とポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)とを、各1台の押出機でそれぞれ溶融押出しする以外は実施例1と同様にして、層構成がPLA/PGA、厚み比が80/20で、合計厚みが100μmの積層シートを作製した。
【0043】
(比較例2)
実施例1において接着樹脂として用いたポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(Ecoflex)の代わりに、酸変性ポリオレフィン樹脂(Modic)を用いる以外は実施例1と同様にして、層構成がPLA/Modic/PGA、厚み比が80/20/20で、合計厚みが120μmの積層シートを作製した。
【0044】
(実施例5〜8および比較例3〜4)
上記実施例1〜4および比較例1〜2で得られた積層シートの各々について、48℃のシート温度に調整した積層シートを、それぞれ60℃に加熱した周速の異なる一対の延伸ロール間で、延伸速度(後側のロール周速)3m/分で、縦方向(MD)に延伸倍率が3.0倍となるように一軸延伸した。次いで、一軸延伸フィルムをテンター延伸機に導入し、フィルム温度70℃で、延伸倍率が4.0倍となるように横方向(TD)に延伸して、設定面積延伸倍率が12倍の二軸延伸フィルムを作製した。延伸後、直ちにテンター延伸機内で該二軸延伸フィルムを、乾熱雰囲気下に温度120℃で、横方向緩和率が2%となるように熱処理を施し、逐次二軸延伸フィルムを作製した。
得られた延伸フィルムの厚みは、比較例3(接着樹脂層なし)は10μm、それ以外(接着樹脂層あり)は12μmであった。
【0045】
上記の実施例および比較例で得られた積層体(積層未延伸シートあるいは延伸フィルム)を、それぞれ以下の方法で評価した。
【0046】
<層間接着強度>
積層体試料をそれぞれ幅15mmの帯状試料に切り出し、90度剥離による層間接着力を測定した。すなわち、先ず、帯状試料の端部をアルコールに浸漬し、接着樹脂層を溶解することにより、帯状試料の端部においてポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層とを分離した。次に、引張試験機としてオリエンテック社製「テンシロンRTM−100」を使用し、上記で分離されたポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層をそれぞれ引張試験機のチャックにセットして、23℃/50%RH雰囲気中でチャック間距離30mm、試験速度300mm/分の条件で90度剥離試験を行い、剥離の際の荷重(層間接着力)を測定した。包装材料用途に使用する積層体については、40g−f/15mm以上の層間接着強度を有することが望ましい。
【0047】
<ガスバリア性>
モダンコントロール(MODERN CONTROL)社製の酸素透過量測定装置「MOCON OX−TR AN2/20型」を使用し、温度23℃及び相対湿度0%の測定条件下に、日本工業規格JIS K7126(等圧法)に規定されている方法に従って積層体の酸素透過度を測定した。また、延伸フィルムについては、延伸前のポリグリコ−ル酸系樹脂層の厚さ(20μm)に規格化した酸素透過度(すなわち、測定値×延伸後PGA層厚/延伸前PGA層厚=測定値×1/10)も求めた。
【0048】
<生分解性試験>
実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた積層体について、コンポスト土壌(茨城県小美玉市内で採取した畑地土壌にその17質量%の野菜ごみを添加したもの)に5cm×5cmの大きさにカットした積層体試料(1枚)を埋設し、温度60℃、湿度90%で二ヶ月間保存して、試料の形状を目視で評価した。試料が目視で元の形状を維持していないものを生分解性あり(表記○)、維持しているもの(接着樹脂層が形状を維持している)ものを生分解性無し(表記×)と評価した。
【0049】
上記実施例、比較例で得られた積層体の層構成の概要および評価結果をまとめて、下表2に示す。
【表2】

【0050】
上記表2に示す結果からも理解されるとおり、本発明の積層体(実施例1〜8)は、ポリ乳酸系樹脂(PLA)とポリグリコ−ル酸樹脂(PGA)との間に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂(ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂(Ecoflex)あるいはポリブチレンサクシネート樹脂(GS-pla))の層を挿入することにより、PLAとPGAとの直接積層体(比較例1および3)に比べて著しく接着強度が向上し、また接着樹脂として一般的な酸変性ポリオレフィン樹脂(Modic)を挿入した場合(比較例2および4)に比べて全体として生分解性を有する積層体を与える。また延伸によりPGA層厚みあたりのガスバリア性が一層向上するばかりでなく、延伸により層間接着強度が低下する酸変性ポリオレフィン樹脂接着層を有する積層体(比較例2との対比での比較例4)に比べて、延伸により層間接着強度が一層向上した積層体が得られている(実施例1〜4との対比における実施例5〜8)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上述したように、本発明によれば、生分解性及び優れたガスバリア性を有し、しかも十分な層間接着強度を有することにより、機械的強度に加えて、内容物の保存性が要求される食品等の包装材料として特に適した汎用生分解性樹脂積層体が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂層とポリグリコ−ル酸系樹脂層との間に、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とからなるエステル単位を主成分とする生分解性の接着樹脂層を挿入した積層単位を含むことを特徴とする生分解性樹脂積層体。
【請求項2】
共押出積層状態にある請求項1に記載の生分解性樹脂積層体。
【請求項3】
延伸されている請求項1または2に記載の生分解性樹脂積層体。
【請求項4】
生分解性の接着樹脂がポリブチレンサクシネート類およびポリブチレンアジペートテレフタレート共重合体類から選択される請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性樹脂積層体。
【請求項5】
ポリグリコ−ル酸系樹脂層が、グリコール酸の単独重合体または共重合体を含み且つ式(−OCH−CO−)で表されるグリコール酸単位を繰り返し単位として60質量%以上の割合で含む請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性樹脂積層体。
【請求項6】
ポリグリコール酸系樹脂層を構成する樹脂成分中のグリコール酸単位(−OCH−CO−)以外の樹脂成分の割合が2〜40質量%含まれる、請求項5に記載の生分解性樹脂積層体。

【公開番号】特開2012−40688(P2012−40688A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180820(P2010−180820)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】