説明

生分解性樹脂組成物、生分解性発泡シートの製造方法、生分解性発泡シート、および生分解性発泡成形体

【課題】外観に優れ、発泡倍率が十分高く、臭気が少なく、生分解性成分の溶出も少ない生分解性発泡シートを製造することができる生分解性樹脂組成物、この組成物を用いた生分解性発泡シートの製造方法を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂組成物は、(A)熱可塑性合成樹脂と、(B)無機フィラーと、(C)生分解性有機物と、(D)物理発泡剤を含有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合してなり、前記(A)成分の配合量が組成物全量基準で49質量%以下であり、前記(B)成分と前記(C)成分の配合割合((B)/(C))が質量比で3/7から7/3までの範囲であり、前記(D)成分の膨張開始温度が130℃以上、最大膨張温度が220℃未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性を有する生分解性樹脂組成物、該組成物を原料とする生分解性発泡シートの製造方法、この製造方法で得られた生分解性発泡シート、およびこの発泡シートを成形して得られた生分解性発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック製品は世界中で広く使用されているが、その一方で廃プラスチックの処理が問題となっている。例えば、プラスチックを土壌に廃棄すると完全に分解されるまでに約400年もの歳月を要すると言われている。また、プラスチックを焼却すると有毒ガスを発生することも多く、大気や土壌の汚染につながる。さらに、焼却により発生する炭酸ガスが地球温暖化を促進するという問題も指摘されている。
【0003】
プラスチック製品としては、発泡させて断熱性、軽量化等の特徴を持たせた包装容器や梱包包材も広く使用されており、上述した問題に対応すべく、素材をポリスチレン等の熱可塑性合成樹脂から生分解性樹脂あるいは生分解性物質含有樹脂に代替する傾向がある。例えば、10質量%以上の加工デンプンと90質量%以下の未加工デンプンとの混合物100質量部に対して、生分解性樹脂等10質量%以下、水10〜30質量%部と、無機質フィラー0.01〜5質量部を含む発泡性樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。この組成物によれば、生分解性を備えているので環境問題に配慮した発泡体(発泡製品)が提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−260923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発泡体では、環境問題の点は解決されているものの、樹脂組成物に配合した水で発泡させる技術であるため、発泡体(成形体)の表面が荒れたり、厚みムラが生じやすい。そのため、所定の品質(表面粗さや衝撃強度)を一定に維持するという点や、臭気や生分解成分の溶出の点で未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、外観に優れ、発泡倍率が十分高く、臭気が少なく、生分解性成分の溶出も少ない生分解性発泡シートを製造することができる生分解性樹脂組成物、この組成物を用いた生分解性発泡シートの製造方法、生分解性発泡シート、およびこの生分解性発泡シートを成形してなる生分解性発泡成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような生分解性樹脂組成物、生分解性発泡シートの製造方法、生分解性発泡シート、および生分解性発泡成形体を提供するものである。
【0008】
(1)(A)熱可塑性合成樹脂と、(B)無機フィラーと、(C)生分解性有機物と、(D)物理発泡剤を含有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合してなり、前記(A)成分の配合量が組成物全量基準で49質量%以下であり、前記(B)成分と前記(C)成分の配合割合((B)/(C))が質量比で3/7から7/3までの範囲であり、前記(D)成分の膨張開始温度が130℃以上、最大膨張温度が220℃未満であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(2)上述の(1)に記載の生分解性樹脂組成物において、前記(D)成分のマイクロカプセルが熱可塑性樹脂からなる外殻を有することを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(3)上述の(2)に記載の生分解性樹脂組成物において、前記熱可塑性樹脂がアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルのうち少なくともいずれかをモノマーとして含むニトリル系重合体であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【0009】
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物において、前記物理発泡剤が、炭素数8以下の炭化水素であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(5)上述の(1)から(4)までのいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物において、前記(A)成分がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(6)上述の(1)から(5)までのいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物において、前記(B)成分がタルク、炭酸カルシウム、クレイ、沈降性硫酸バリウム、シリカ、カオリン、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、雲母、アルミナ、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス球、グラファイト、ゼオライト、および石灰岩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(7)上述の(1)から(6)までのいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物において、前記(C)成分が、デンプン、セルロース、ポリ乳酸、およびカゼインから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【0010】
(8)上述の(1)から(7)までのいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物を原料として用いる生分解性発泡シートの製造方法であって、前記原料の含有水分量を1000質量ppm以下にする乾燥工程と、前記原料を加熱して(D)成分を膨張させる発泡工程とを備えることを特徴とする生分解性発泡シートの製造方法。
(9)上述の(8)に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする生分解性発泡シート。
(10)上述の(9)に記載の生分解性発泡シートを成形してなることを特徴とする生分解性発泡成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生分解性樹脂組成物は、膨張開始温度が130℃以上、最大膨張温度が220℃未満である所定の熱膨張性マイクロカプセルを含有しているので、外観に優れ、発泡倍率が十分高く、臭気が少なく、生分解性成分の溶出も少ない生分解性発泡シートを製造することができる。また、この生分解性発泡シートを成形してなる生分解性発泡成形体も同様に優れた性質を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の生分解性樹脂組成物(以下、単に「本組成物」ともいう。)は、(A)熱可塑性合成樹脂と、(B)無機フィラーと、(C)生分解性有機物と、(D)物理発泡剤を含有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合してなるものである。以下、詳細に説明する。
【0013】
(A)成分:
本発明における(A)成分は、熱可塑性合成樹脂である。熱可塑性合成樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、オレフィンとビニルモノマーとの共重合体、変性オレフィン共重合体、縮合系高分子化合物、付加重合反応によって得られる重合体など、種々のものを例示することができる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、エチレン−αオレフィン共重合体、ブロックポリプロピレン、高圧法低密度ポリエチレンなどの単独重合体、共重合体などが挙げられる。
【0014】
オレフィンとビニルモノマーとの共重合体としては、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー(エチレン/カルボン酸含有ビニルモノマー共重合体の金属イオン置換体(例えば:エチレン/アクリル酸共重合体のナトリウムイオン中和物等))、およびエチレン/ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。
変性オレフィン共重合体としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、および無水マレイン酸変性ポリエチレンなどが挙げられる。
縮合系高分子化合物としては、ポリカーボネート、ポリアセタール、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、およびフェノール樹脂などが挙げられる。
【0015】
付加重合反応によって得られる重合体(極性ビニルモノマーやジエン系モノマーから得られた重合体)としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリビニルアルコール等の単独重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体,水添重合体であるSEBS,アクリロニトリル/スチレン共重合体、およびハイインパクトポリスチレン(ゴム変性)などが挙げられる。その他、石油樹脂や熱可塑性エラストマーも挙げられる。
上述の各熱可塑性合成樹脂は、1種を用いてもよく2種以上を併用してもよい。上述した各樹脂の中では、成形性や物理的性質の点で、特にポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0016】
(B)成分:
本発明における(B)成分は、無機フィラーである。無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、クレイ、沈降性硫酸バリウム、シリカ、カオリン、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、雲母、アルミナ、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス球、グラファイト、ゼオライト、および石灰岩などが好ましく挙げられる。これらは1種を用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの中では、剛性やコストの点でタルクが好ましい。
【0017】
(C)成分:
本発明における(C)成分は、生分解性有機物である。生分解性有機物としては、デンプン、セルロース、ポリ乳酸、およびカゼインなどが挙げられる。これらの中では、生分解性の点でデンプンが好ましい。デンプンとしては、ジャガイモ、コムギ、トウモロコシ、サツマイモ、コメ、キャッサバ、クズ、カタクリ、緑豆、サゴヤシ、およびワラビ等から得られるものが挙げられる。
このような(C)成分を配合することで、本組成物に生分解性を持たせることができるだけでなく、比重を下げ二次加工性を向上させることもできる。
【0018】
(D)成分:
本発明における(D)成分は、物理発泡剤を含有する熱膨張性マイクロカプセルである。このようなマイクロカプセルとしては、膨張開始温度が130℃以上、最大膨張温度が220℃未満でなければならない。好ましい膨張開始温度は180℃以上であり、好ましい最大膨張温度は210℃以下である。ここで、膨張開始温度と最大膨張温度は、特開平11−2615号公報に記載された方法で測定できる(明細書段落[0008]以降を参照)。具体的には、シリンダーおよびピストンを具備した装置を用意して、シリンダー内に充填された試料(当該マイクロカプセルを分散させたガラスビーズ)の加熱に伴う体積変化をピストンの変位量により測定する。ピストンが変位しだしたときの温度が膨張開始温度(体積変化開始温度)であり、ピストンの変位が最大のときが最大膨張温度(最大体積変化温度)である。
【0019】
上述した方法で測定された当該マイクロカプセルの膨張開始温度が130℃未満であると、組成物を溶融混練したときに発泡開始が早すぎて、均一な発泡体(シート、成形体)を得ることができない。一方、最大膨張温度が220℃以上であると所定の発泡倍率が得られなくなるおそれがある。また、無理に組成物の溶融温度を上げると、(C)成分が分解して臭気がひどくなるおそれがある。
【0020】
ここで、当該マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂からなる外殻を有することが好ましく、特に、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルのうち少なくともいずれかをモノマーとして含むニトリル系重合体であることがより好ましい。具体的には、特開2009−299071号公報に記載された熱膨張性マイクロカプセルの中から上述の条件を満たすものを選択して用いることが好ましい。
【0021】
当該マイクロカプセルに含有される発泡剤は物理発泡剤である。物理発泡剤としては、炭素数が8以下の炭化水素であることが好ましい。具体的には、メタン、エタン、プロパン、シクロプロパン、ブタン、シクロブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、ヘプタン、シクロヘプタン、オクタン、シクロオクタン、メチルヘプタン類、およびトリメチルペンタン類などが挙げられる。
【0022】
本発明の生分解性樹脂組成物は、上述した(A)から(D)までの各成分を配合してなるものであるが、(A)成分の配合量は、組成物全量基準で、49質量%以下でなければばらない。この配合量が49質量%を超えると、生分解性が低下してしまう。(A)成分の好ましい配合量は、40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
一方、(A)成分の配合量が少なすぎると、樹脂組成物の成形性が悪化したり、また、製造されたフィルムや成形品の物理的性質が低下するおそれがある。それ故、(A)成分の配合量は30質量%以上であることが好ましく35質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
本組成物における(B)成分と(C)成分の配合割合((B)/(C))は、質量比で3/7から7/3までの範囲であり、好ましくは5/5から6/4までである。この配合割合を変えることで、シートや成形体とした場合に必要とされる要求特性を容易に調整できる。具体的には、配合割合((B)/(C))が3/7未満であると、加工時に臭気が強くなるおそれがある。また容器等の成形品とした場合に、剛性が劣るようになる。
【0024】
一方、配合割合((B)/(C))が7/3を超えると、容器等の成形品を製造した場合に、物理的性質(耐衝撃性等)が劣るようになるとともに、生分解性が低下するおそれがある。最も好ましい割合は、(B)/(C)が1/1の場合である。
また、(B)成分の配合量は、成形品としたときの剛性や、(C)成分の分散性の観点より組成物全量基準で20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。ただし、耐衝撃性の観点より40質量%以下であることが好ましく、
30質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
本組成物における(A)成分と(B)成分の配合割合((A)/(B))は、物理的性質の観点より、質量比で8/2から5/5までの範囲が好ましく、より好ましくは7/3から6/4までである。
【0026】
(C)成分の配合量は、生分解性や二次加工性の観点より組成物全量基準で5質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。ただし、押出加工時の臭気や製品(発泡シートや発泡成形体)としたときの溶出の観点より20質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
本組成物における(A)成分と(C)成分の配合割合((A)/(C))は、加工性の観点より質量比で8/2から5/5までの範囲が好ましく、より好ましくは7/3から6/4までである。
【0027】
(D)成分の配合量は、発泡倍率の観点より、組成物全量基準で5質量%以上、10質量%以下が好ましい。(D)成分の配合量が5質量%未満であると、発泡倍率が2倍以下となり、シートや成形体(容器等)としたときに緩衝性や断熱性が十分でなくなるおそれがある。一方、(D)成分の配合量が10質量%を超えても、発泡倍率が飽和状態となり経済的にも好ましいものではない。特に、発泡倍率が5倍以上の場合、機能として問題はなくとも原料としてはコスト的に高くなってしまう。
【0028】
本組成物を発泡シート、あるいは発泡成形体としたときの密度は0.2g/cm以上、0.6g/cm以下であることが好ましい。密度がこの範囲をはずれると上述した問題を生じるおそれがある。
なお、本組成物には、添加剤として、酸化防止剤、滑剤、核剤、および紫外線吸収剤などを配合してもよい。
【0029】
本組成物を用いて、生分解性発泡シートを製造する際は、原料((A)成分〜(D)成分)の含有水分量を1000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下、さらに好ましくは200質量ppm以下にする乾燥工程と、前記原料を加熱して(D)成分を膨張させる発泡工程とを備えることが必要である。原料中の含有水分量が1000質量ppmを超えると、押出成形後の生分解性シート(発泡シート)において、セルが連続気泡となったり、シート外観が非常に荒れたものになる。
本組成物は、通常の押出成形により生分解性発泡シートとして提供できる。押出成形法としては、押出機を用いたTダイ法を好ましく適用できる。
【0030】
ここで、原料の乾燥工程は、押出成形機に原料を投入する前に実施しても、押出成形機に原料を投入した後に実施してもよい。すなわち、事前に原料を乾燥してもよいし、原料を押出機(例えば、ベント付きタイプ)に投入してから真空引きにより乾燥してもよい。
【0031】
また、この生分解性発泡シートは単層からなるシートでもよいが、(C)成分である生分解性有機物の溶出を防ぐ観点より、該シートの片面あるいは両面に(C)成分、(D)成分を配合しない樹脂層(例えば、(A)成分と(B)成分のみを配合してなる層)を積層することも好ましい。該樹脂層が該シートの片面に積層される際の厚みとしては、該シート自身の厚み100に対して5から10までの範囲の厚みを有することが好ましい。該樹脂層を該シートの両面に積層する場合でも、各々の該樹脂層が上述の厚み範囲を有することが好ましい。このような積層シートであっても、全体として本発明の生分解性発泡シートとして提供できる。
【0032】
該樹脂層の該シートに対する積層方法は、押出ラミネート法でもよく共押出法でもよい。また、この(C)成分、(D)成分を含まない樹脂層の原料は、本組成物調製時に単に(C)成分、(D)成分を含まないだけの組成物を並行して調製すればよい。
上述の方法で得られた生分解性発泡シートは、そのまま製品として使用することもできるが、さらに熱成形を行って生分解性発泡成形体(各種容器等)として使用することもできる。
なお、当該発泡シートを経由せずに、本組成物から直接的に射出成形などの成形法により容器等の生分解性発泡成形体としてもよい。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
以下の組成で生分解性樹脂組成物を調製し、該組成物から生分解性発泡シートを製造した後、さらに該発泡シートから生分解性成形体(容器)を製造した。なお、比較用として、下記(D)成分を配合しないで(他の成分の相対配合割合は全く同じ)、同様に生分解性樹脂組成物を調製し、生分解性樹脂シートおよび生分解性成形体(容器)を製造した。
・熱可塑性合成樹脂((A)成分):44質量%
(ポリプロピレンン樹脂(プライムポリマー社製F−724N)とポリエチレン樹脂(宇部興産社製R−300)とを、8:2の質量比で使用した。)
・無機フィラー((B)成分):28質量%
(タルクを使用した。)
・生分解性有機物((C)成分):28質量%
(デンプンを使用した。)
・熱膨張性マイクロカプセル((D)成分):5質量%
(熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製 F−190D:膨張開始温度160〜170℃、最大膨張温度210〜220℃)を使用した。アクリロニトリル系コポリマーからなるシェルと、炭素数2の炭化水素ガスをコアとして内包する。)
【0034】
具体的には、上述の(A)〜(C)成分を混練機(40mmφ、L/D=25)に投入し造粒品(ペレット)を得た。得られた造粒品の水分を1000質量ppm以下にすべく乾燥機にて調湿した。次いで水分を1000質量ppm以下に制御した造粒品95質量%と(D)成分を混合して、加工温度を200℃に設定した押出機A(65mmφ、L/D=32)に投入して、厚み0.7mmの単層シート(生分解性発泡シート)を作成した。得られた発泡シートの密度を測定したところ0.32g/cmであった(膨張倍率3.7倍)。得られた発泡シートは外観が良好で、厚みムラのないものであった。次に単発熱成形機で口径80mmφ、高さ60mm金型を用いて容器(生分解性成形体)を得た。
なお、(D)成分を添加しないで同様に樹脂組成物をシートにした場合の密度は1.18g/cmであった。
次に、得られた容器について、以下の方法で物理的性質、臭気、生分解性および生分解性成分の溶出性について評価した。
【0035】
(1)物理的性状の評価方法
1)容器の外観、変形の有無
上述の容器に水を150mL入れ、電子レンジにて3分間沸騰させた。そして、容器の変形、変色、穴あきの有無および容器が溶融しないかどうかについて目視で確認した。
2)容器の厚みムラ
最も厚みが薄くなる部分(側壁部)を含め容器の各部分の厚みを測定した。
【0036】
(2)臭気の評価方法
上述の容器に95℃のお湯を150mL入れた後、ガラス板にて蓋をして自然冷却させた。お湯の温度が常温(25℃)まで下がったところで試飲して(生分解性成分に基づく)臭気の有無を確認した。
(3)生分解性の評価方法
MITI試験法(OECD301C)に準拠して生分解率を測定した。
(4)生分解性成分の溶出性評価方法
物理的性質と同様に、容器に水150mLを入れ電子レンジにて3分間沸騰させた後にお湯を捨て、容器の内面の膨潤度合いや平滑性(ぬめり)を目視や手で確認して、生分解性成分(生分解性有機物)の溶出の有無を評価した。
【0037】
(評価結果)
(1)物理的性状
1)容器の外観、変形の有無
比較用の容器と同様、本実施例の容器は元の形状を保っており、電子レンジを使用した場合でも耐熱性に充分優れることを確認した。また、容器について変色や穴あきのような不良現象は確認できなかった。従って、本実施例の容器は、比較用の容器とくらべ耐熱性について何ら遜色がないと言える。
2)容器の厚みムラ
容器の各位置の厚みを測定したところ、最小値で200μm(側壁部)あり、延伸性も良好であることを確認した。比較用の容器と比べ何ら遜色ないことを確認できた。
(2)臭気
比較用の容器と同様に臭気は全く感じられなかった。
(3)生分解性
26%(分解率)と良好な数値を示し、バイオマス包材としても認証される容器であることが確認できた(認証機関は、日本有機資源協会(農林水産省および環境省公認))。比較用の容器には全く生分解性は認められなかった。
(4)生分解性成分の溶出性
生分解成分の溶出は全く認められなかった。
【0038】
〔実施例2〕
実施例1における単層体用押出機Aと、もう1台の押出機Bとを2種3層ダイスに接続して、ポリプロピレン樹脂を前記単層体の両外層に各々30μm積層して2種3層の生分解性発泡シートを得た。他の製造条件は、実施例1と同様である。
得られた発泡シートの密度を測定したところ0.45g/cmであった。次に単発熱成形機で口径80mmφ、高さ60mmの金型を用い、前記発泡シートを熱成形して容器(生分解性発泡成形体)を得た。その後、実施例1と同じ評価を行った。
【0039】
(評価結果)
(1)物理的性状
1)容器の外観、変形の有無
容器の変形や溶融等は全くなく、実施例1の容器よりも外観が良好であった。従って、本実施例の容器は、実施例1の容器と同様に耐熱性について何ら遜色がないと言える。
2)容器の厚みムラ
容器の各位置の厚みを測定したところ、最小値で200μm(側壁部)あり、延伸性も良好であることを確認した。比較用の容器と比べ何ら遜色ないことを確認できた。また、念のため、両外層の厚みを測定したところ8μm、10μmであり、両外層の破断もないことが確認できた。
(2)臭気
実施例1の容器と同様に臭気は全く感じられなかった。
(3)生分解性
26%(分解率)と良好な数値を示し、バイオマス包材としても認証される容器であることが確認できた。
(4)生分解性成分の溶出性
生分解成分の溶出は全く認められなかった。
【0040】
〔実施例3〕
実施例1において、(A)成分〜(C)成分からなる造粒品の水分量を制御せずに(D)成分を混合して、温度を200℃に設定したベント付き押出機C(50mmφ、L/D=38)に投入し、押出途中で水分が1000質量ppm以下になるように制御しながら混練し、厚み0.7mmの単層からなる生分解性発泡シートを作成した。他の条件は、実施例1と同様である。
得られた発泡シートの外観は非常に綺麗で水分の影響は確認できなかった。なお、押出機投入前の造粒品の水分を測定したところ50,000質量ppmであった。また、得られた発泡シートの密度を測定したところ0.32g/cmであった(膨張倍率3.7倍)。この発泡シートの水分は150質量ppmと低く脱気ができていることを確認した。
次に単発熱成形機で口径80mmφ、高さ60mmの金型を用い、前記発泡シートを熱成形して容器(生分解性発泡成形体)を得た。その後、実施例1と同じ評価を行った。
なお、水分量は、カールフィッシャー法にて測定(三菱化学アナリテック製CA−200型測定器使用)した。
【0041】
(評価結果)
(1)物理的性状
1)容器の外観、変形の有無
比較用の容器と同様、本実施例の容器は元の形状を保っており、電子レンジを使用した場合でも耐熱性に充分優れることを確認した。また、容器について変色や穴あきのような不良現象は確認できなかった。従って、本実施例の容器は、比較用の容器とくらべ耐熱性について何ら遜色がないと言える。
2)容器の厚みムラ
容器の各位置の厚みを測定したところ、最小値で200μm(側壁部)あり、延伸性も良好であることを確認した。比較用の容器と比べ何ら遜色ないことを確認できた。
容器の変形や溶融は全くなかった。従って、本実施例の容器は、実施例1の容器と同様に耐熱性について何ら遜色がないと言える。
(2)臭気
実施例1の容器と同様に臭気は全く感じられなかった。
(3)生分解性
26%(分解率)と良好な数値を示し、バイオマス包材としても認証される容器であることが確認できた。
(4)生分解性成分の溶出性
生分解成分の溶出は全く認められなかった。
【0042】
〔実施例4〕
無機フィラー((B)成分)として、フライアッシュを用いた以外は、実施例1と同様にして、生分解性発泡シート(厚み 7mm)を得た。発泡シートの密度を測定したところ0.32g/cmであった(膨張倍率3.7倍)。また、実施例1と同様にして容器(生分解性発泡成形体)を作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0043】
(評価結果)
(1)物理的性状
1)容器の外観、変形の有無
比較用の容器と同様、本実施例の容器は元の形状を保っており、電子レンジを使用した場合でも耐熱性に充分優れることを確認した。また、容器について変色や穴あきのような不良現象は確認できなかった。従って、本実施例の容器は、比較用の容器とくらべ耐熱性について何ら遜色がないと言える。
2)容器の厚みムラ
容器の各位置の厚みを測定したところ、最小値で200μm(側壁部)あり、延伸性も良好であることを確認した。比較用の容器と比べ何ら遜色ないことを確認できた。
(2)臭気
実施例1の容器と同様に臭気は全く感じられなかった。
(3)生分解性
26%(分解率)と良好な数値を示し、バイオマス包材としても認証される容器であることが確認できた。
(4)生分解性成分の溶出性
生分解成分の溶出は全く認められなかった。
【0044】
〔実施例5〕
生分解性有機物((C)成分)として、ポリ乳酸樹脂(ユニチカ製 テラマック)を用いた以外は、実施例1と同様にして、生分解性発泡シート(厚み 7mm)を得た。発泡シートの密度を測定したところ0.32g/cmであった(膨張倍率3.7倍)。また、実施例1と同様にして容器(生分解性発泡成形体)を作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0045】
(評価結果)
(1)物理的性状
1)容器の外観、変形の有無
比較用の容器と同様、本実施例の容器は元の形状を保っており、電子レンジを使用した場合でも耐熱性に充分優れることを確認した。また、容器について変色や穴あきのような不良現象は確認できなかった。従って、本実施例の容器は、比較用の容器とくらべ耐熱性について何ら遜色がないと言える。
2)容器の厚みムラ
容器の各位置の厚みを測定したところ、最小値で200μm(側壁部)あり、延伸性も良好であることを確認した。比較用の容器と比べ何ら遜色ないことを確認できた。
(2)臭気
実施例1の容器と同様に臭気は全く感じられなかった。
(3)生分解性
26%(分解率)と良好な数値を示し、バイオマス包材としても認証される容器であることが確認できた。
(4)生分解性成分の溶出性
生分解成分の溶出は全く認められなかった。
【0046】
〔実施例6〕
実施例3において、ベント付き押出機Cを用いず、押出機Aを用いた以外は同様にして生分解性発泡シート(厚み0.7mm)を得た。すなわち、水分量を制御しないことを除けば実施例1と同様である。得られた発泡シートの密度を測定したところ0.26g/cmと高発泡倍率(膨張倍率4.5倍)であることは確認できたが、セルは独立気泡と連続的な気泡が混在し、発泡シートの外観の一部に荒れが生じていた。なお、押出機投入前の造粒品の水分を測定したところ1,500質量ppmであった。
【0047】
(評価結果)
(1)物理的性状
1)容器の外観、変形の有無
比較用の容器と同様、本実施例の容器は元の形状を保っており、電子レンジを使用した場合でも耐熱性に充分優れることを確認した。また、容器について変色や穴あきのような不良現象は確認できなかった。従って、本実施例の容器は、比較用の容器とくらべ耐熱性について何ら遜色がないと言える。
2)容器の厚みムラ
容器の各位置の厚みを測定したところ、最小値で200μm(側壁部)あり、延伸性も良好であることを確認した。比較用の容器と比べ何ら遜色ないことを確認できた。
(2)臭気
実施例1の容器と同様に臭気は全く感じられなかった。
(3)生分解性
26%(分解率)と良好な数値を示し、バイオマス包材としても認証される容器であることが確認できた。
(4)生分解性成分の溶出性
生分解成分の溶出は全く認められなかった。
【0048】
〔比較例1〕(化学発泡剤使用)
(A)成分〜(C)成分からなる造粒品を90質量%用い、(D)成分のかわりに、化学発泡剤(永和化成製 ポリスレン)を10質量%用いた以外は、実施例1と同様にして、生分解性発泡シート(厚み 7mm)を得た。発泡シートの密度を測定したところ0.90g/cmと高かった(膨張率1.3倍)。またセルは連続的な気泡であり、発泡シートの外観も荒れていて実用性がなかった。また、実施例1と同様にして容器(生分解性発泡成形体)を作成したが、断熱性が十分ではなかったので、他の評価は行わなかった。
【0049】
〔比較例2〕(化学発泡剤使用、水分量制御なし)
比較例1と同様に、(D)成分のかわりに化学発泡剤(永和化成製 ポリスレン)を10質量%用い、比較例2と同様に水分量を制御しないで、生分解性発泡シート(厚み0.7mm)を作成した。得られたシートの密度を測定したところ、0.48g/cmと中程度の発泡シート(膨張倍率2.5倍)であることは確認できたが、比較例1、2と同様にセルは連続的な気泡であり外観も非常に荒れており実用性はなかった。化学発泡剤(炭酸ガス)と水を組み合わせても樹脂の溶融張力が低い為に発泡がうまくいかないことを確認した。
【0050】
〔比較例3〕(熱膨張性マイクロカプセルの種類変更)
(D)成分のかわりに、熱膨張性マイクロカプセル(松本油脂製のF−230D、膨張開始温度180〜190℃、最大膨張温度220〜240℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして、生分解性発泡シート(厚み0.7mm)を作成した。得られた発泡シートの密度を測定したところ1.05g/cm(膨張倍率1.12倍)であり、発泡シートとして実用性がなかった。
【0051】
〔比較例4〕(熱膨張性マイクロカプセルの種類と押出温度変更)
比較例3において、押出機Aの温度を200℃から230℃に上げた以外は同様にして、生分解性発泡シート(厚み0.7mm)を作成した。得られた発泡シートの密度を測定したところ0.25g/cm(膨張倍率4.72倍)であった。しかし、得られた発泡シートは焦げた茶褐色を呈し、かつ発泡シートは、デンプンの焦げた様な臭気が酷く実用性がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性合成樹脂と、(B)無機フィラーと、(C)生分解性有機物と、(D)物理発泡剤を含有する熱膨張性マイクロカプセルとを配合してなり、
前記(A)成分の配合量が組成物全量基準で49質量%以下であり、
前記(B)成分と前記(C)成分の配合割合((B)/(C))が質量比で3/7から7/3までの範囲であり、
前記(D)成分の膨張開始温度が130℃以上、最大膨張温度が220℃未満である
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の生分解性樹脂組成物において、
前記(D)成分のマイクロカプセルが熱可塑性樹脂からなる外殻を有する
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の生分解性樹脂組成物において、
前記熱可塑性樹脂がアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルのうち少なくともいずれかをモノマーとして含むニトリル系重合体である
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物において、
前記物理発泡剤が、炭素数8以下の炭化水素である
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物において、
前記(A)成分がポリオレフィン系樹脂である
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物において、
前記(B)成分がタルク、炭酸カルシウム、クレイ、沈降性硫酸バリウム、シリカ、カオリン、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、雲母、アルミナ、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス球、グラファイト、ゼオライト、および石灰岩から選ばれる少なくとも1種である
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物において、
前記(C)成分が、デンプン、セルロース、ポリ乳酸、およびカゼインから選ばれる少なくとも1種である
ことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物を原料として用いる生分解性発泡シートの製造方法であって、
前記原料の含有水分量を1000質量ppm以下にする乾燥工程と、
前記原料を加熱して(D)成分を膨張させる発泡工程とを備える
ことを特徴とする生分解性発泡シートの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造された
ことを特徴とする生分解性発泡シート。
【請求項10】
請求項9に記載の生分解性発泡シートを成形してなる
ことを特徴とする生分解性発泡成形体。

【公開番号】特開2013−23576(P2013−23576A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159558(P2011−159558)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】