説明

生分解性樹脂組成物

【課題】生分解性ポリエステルの中でも特に結晶化の遅いP3HA共重合体の欠点である
結晶化の遅さを改善し、射出成形、フイルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡成
形、ビーズ発泡成形などの加工における加工性を改善し、加工速度を向上する。
【解決手段】微生物から生産される、PHA、特に式(1) :[−CHR−CH2−C
O−O−](式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数
である。)で示される繰り返し単位からなるP3HA共重合体であって、高結晶性成分の
ブロック性を示すD値が1.5以上である生分解性ポリエステル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、地球規模での循
環型社会の実現が切望される中で、使用後、微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解
される生分解性プラスチックが注目を集めている。
【0003】
これらの生分解性プラスチックの大部分は、脂肪族ポリエステルである。ポリエステル
は、一般に結晶化速度が遅いが、なかでも脂肪族ポリエステルは結晶化が遅く、さらにポ
リヒドロキシアルカノエートは結晶化が遅い(非特許文献1参照。)。このため、成形加
工時に溶融状態からの固化が遅くて加工が困難になり、加工できたとしても、ラインスピ
ードなどが遅くなり、成形加工の生産性が悪いという欠点がある。
【0004】
そこで、ポリエステルの結晶化速度を改善するために、種々の結晶核剤の添加が検討さ
れている。従来知られている結晶核剤としては、例えば、特定のポリエステルに対し、Z
n粉末、Al粉末、グラファイト、カーボンブラックなどの無機単体;ZnO、MgO、
A123、TiO2、MnO2、SiO2、Fe34などの金属酸化物;窒化アルミ、窒化
珪素、窒化チタン、窒化ホウ素などの窒化物;Na2CO3、CaCO3、MgCo3、C
aSO4、CaSiO3、BaSO4、Ca3(PO43などの無機塩;タルク、カオリン、
クレー、白土などの粘土類;シュウ酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、安息香酸カルシ
ウム、フタル酸カルシウム、酒石酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリアクリ
ル酸塩などの有機塩類;ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの高分子化合
物などを添加することが開示されている(特許文献1参照。)。
【0005】
また、PHAの結晶核剤として、タルク、微粒化雲母、窒化ホウ素、炭酸カルシウムが
挙げられ、より効果的なものとして、有機ホスホン酸もしくは有機ホスフィン酸またはそ
れらのエステル、あるいはそれらの酸もしくはエステルの誘導体、及び周期律表の第I−
V族の金属の酸化物、水酸化物及び飽和または不飽和カルポン酸塩などの金属化合物が開
示されている(特許文献2参照。)。
【0006】
また、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)類であるポリ(3−ヒドロキシブチレー
ト−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)を用いた例としては、ポリヒドロキシブチレー
トなどの、より高い融解温度を有するP3HAを添加することで、結晶化速度が速くなる
ことが開示されている(たとえば、特許文献3、4参照。)。
【0007】
しかしながら、実質的に効果の高い手段は未だ見出されていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平7−126496号公報
【特許文献2】特開平3−24151号公報
【特許文献3】国際公開第02/50156号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5693389号明細書
【非特許文献1】Y.Doi and A.Steinbuchel Polyesters III Applications and Commercial Products,“Biopolymers”Volume4, WILEY−VCH,p.64
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、使用後微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解される生分解性ポリエス
テルの中でも特に結晶化の遅い脂肪族ポリエステル系共重合体(ポリヒドロキシアルカノ
エート)の欠点である結晶化の遅さを改善し、射出成形、フイルム成形、ブロー成形、繊
維の紡糸、押出発泡成形、ビーズ発泡成形などの加工における加工性を改善し、加工速度
を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、結晶化の遅いポリヒドロキシアルカノエートの加工性を改善し、加工速
度を向上する効果的な手段を見出すべく鋭意検討した結果、高結晶性成分のブロック性を
高めることで結晶化速度を著しく改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、微生物から生産される脂肪族ポリエステル系共重合体(ポリヒド
ロキシアルカノエート。以下、「PHA共重合体」と略称する。)、とりわけ下記式(1

[−CHR−CH2−CO−O−] (1)
(式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)

で示される繰り返し単位からなる(ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)(以下、「
P3HA共重合体」と略称する。)であって、高結晶性成分のブロック性を示すD値が1
.5以上であることを特徴とする生分解性ポリエステル系樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PHA共重合体の結晶化の速度が著しく改善され、射出成形、フイル
ム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡成形、ビーズ発泡成形などの加工における加
工性が改善され、加工速度が向上する。また、従来の無機物質からなる結晶核剤等を添加
する必要がないので、基材の生分解性脂肪族ポリエステルであるPHA共重合体の生分解
性を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いられるPHA共重合体は、微生物から生産されるものであり、P3HAは
、式(1) :[−CHR−CH2−CO−O−](式中、RはCn2n+1で表されるアル
キル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰り返し単位を有する脂肪族
ポリエステル系共重合体である。
【0014】
PHA共重合体を生産する微生物としては、PHA類生産能を有する微生物であれば特
に限定されない。例えば、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートと
の共重合体生産菌としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレ
レート)(以下、「PHBV」と略称する。)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−
コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略称する。)生産菌であるア
エロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブ
チレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるカプリアビダス・ネケイター(
Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス
(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ral
stonia eutropha))などが知られている。特に、PHBHに関し、PH
BHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユ
ートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,
FERM BP−6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.
,179,p4821−4830(1997))などがより好ましく、これらの微生物を
適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記
以外にも、生産したいPHA共重合体に合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した
遺伝子組み替え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよ
い。
【0015】
本発明で使用するPHA共重合体としては、P3HA共重合体が好ましく、さらに前記
式(1)において、アルキル基(R)のnが1とnが2、3、5、7とのP3HA共重合
体が好ましく、nが1および3がより好ましい。
【0016】
本発明で使用するPHA共重合体の重量平均分子量としては、50,000〜3000
,000が好ましく、100,000〜1500,000がより好ましい。なお、ここで
の重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルバーミエーションクロマトグラフ
ィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。
【0017】
本発明で使用するPHA共重合体としては、PHBH〔ポリ(3−ヒドロキシブチレー
ト−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)〕、PHBV〔ポリ(3−ヒドロキシブチレー
トーコ−3−ヒドロキシバレレート)〕、P3HB4HB〔ポリ(3−ヒドロキシブチレ
ートーコ−4−ヒドロキシブチレート)]、ポリ(3−ヒドロキシブチレートーコ−3−
ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシオ
クタデカノエート)などが挙げられる。これらなかでも、工業的に生産が容易であるもの
として、PHBH、PHBV、P3HB4HBが挙げられ、さらにPHBH、PHBV等
のP3HAが好ましいものとして挙げられる。
【0018】
本発明で使用するP3HA共重合体としては、上記したように、工業的に生産が容易で
あり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、前記式(1)において、アル
キル基(R)のnが1である繰り返し単位とnが3である繰り返し単位とからなるP3H
AであるPHBHが好ましい。
【0019】
前記PHBHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、ポリ(
3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)の組成比(以下、
「HB/HH組成比」又は「HB/HH比」と略称する。)が80/20以上99/1以
下(mol/mol)であることが好ましく、75/15以上99/3以下(mo1/m
o1)であることがより好ましい。その理由は、柔軟性の点から99/1以下が好ましく
、また樹脂が適度な硬度を有する点で80/20以上が好ましいからである。
【0020】
PHBHは、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤン
グ率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間
の物性を付与することが可能であることから、本発明で使用するPHA共重合体として、
より好ましい。
【0021】
また、PHBVも、3−ヒドロキシブチレート(3HB)成分と3−ヒドロキシバレレ
ート(3HV)成分の比率によって融点、ヤング率などが変化するが、3HB成分と3H
V成分が共結晶化するため結晶化度は50%以上と高く、ポリ3−ヒドロキシブチレート
(PHB)に比べれば柔軟ではあるが、破壊伸びは50%以下と低い傾向にある。
【0022】
本発明は、前記PHA共重合体の高結晶性成分のブロック性を示すD値が1.5以上で
あると、結晶化速度が高いことを見出して完成されたものである。つまり、ブロック性を
示すD値が高いと、高結晶性成分が連鎖することで結晶性が高くなり、結晶化速度が改善
される。PHA共重合体において、高結晶性成分はポリ(3−ヒドロキシブチレート)(
PHB)が一般的であり、PHBは結晶性が高く、PHA共重合体において3−ヒドロキ
シブチレート成分の連鎖が多くなり、よりPHBに近い構造となることで結晶化速度が速
められると考えられる。
【0023】
なお、本発明では、前記高結晶性成分のブロック性を示すD値は、隣に配列されている
単量体に敏感である主鎖中カルボニル基の13C NMR信号から二連子配列のモル比を求
め、一次構造の配列状態を判断し算出した(Macromolecules,1989,
22,4参照)。D値が1を超えるとブロック性を示し、1でランダム共重合体、1未満
で交互共重合体を示す。PHA共重合体において、結晶性の高い成分のブロック性が高く
なることで、PHA共重合体の結晶性が高められ、結晶化速度等が速くなると考えられる

【0024】
前記D値を1.5以上とする方法としては、培養時間や条件の変更、微生物への栄養源
の変更等により、PHB等の高結晶性成分の培養比率を高め、D値が高い成分の比率を高
める、あるいは培養により得られたP3HA共重合体を分別してD値の高い成分を取り出
すこと等が考えられる。培養途中で栄養源を変更して、部分的にD値の高い成分を培養す
ることも可能である。
【0025】
微生物が産生するPHA共重合体は、脂肪族ポリエステルの中でも特に結晶化速度が遅
いため、本発明のような優れた分子構造を用いることがとりわけ有効である。また、PH
A、とりわけP3HA共重合体は、好気性、嫌気性何れの環境下での生分解性にも優れ、
燃焼時には有毒ガスを発生しない。P3HA共重合体のなかでも、PHBHは、原料とし
て石油由来のものを使用せず、植物原料を使用しており、地球上の二酸化炭素を増大させ
ない、つまりカーボンニュートラルであるという優れた特徴を有している点でも好ましい
。また、本発明は、非生分解性の結晶核剤を添加することがなく、PHA共重合体の優れ
た分解性を損ねないという利点がある。
【0026】
なお、本発明にかかる生分解性ポリエステル系樹脂組成物は、上記PHA共重合体成分
の他に、酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料などの着色剤;可塑剤;滑剤;無機充填
剤;または帯電防止剤などの他の成分を含有してもよい。これらの他の成分の添加量とし
ては、前記PHA共重合体における高結晶性のブロック性成分による作用を損なわない程
度であればよく、特に限定はない。
【0027】
本発明にかかる生分解性ポリエステル系樹脂組成物は、各種の加工をされて製品が製造
される。加工方法としては、公知のものでよく、例えば、射出成形、フイルム成形、ブロ
ー成形、繊維の紡糸、押出発泡成形、ビーズ発泡成形などが挙げられる。加工条件として
は、特に限定はない。
【0028】
本発明に係る生分解性ポリエステル系樹脂組成物は、加工性に優れ、且つ短時間で加工
が行え、例えば、食器類、包装用フイルム、各種液体ボトル、不織布、織物、緩衝包材用
発泡成形体などの基材として好適に使用される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を、実施例、比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限
定されるものではない。
【0030】
<PHBH試料>
PHBHは,微生物として、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligene
s eutrophus)にアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas cavia
e)由来のPHA合成酵素遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス(Alca
ligenes eutrophus) AC32 (J. Bacteriol. ,
179, 4821 (1997) )を用いて、原料、培養条件を適宜調整して生産
されたものである。炭素源としてはパーム核オレイン油(PKOO)が用いられた。なお
、実施例4、比較例3に用いた試料の精製前の主たる差異は培養時間の違いであり、両者
のHB/HH組成比はほとんど等しい。一方は72時間、もう一方は96時間培養されて
得られたものである。(それぞれ、PHBH original“S”、“L”とする。
なお、Sは“shorter culture time”、Lは“Longer cu
lture time”の意味を表す。)
【0031】
<精製>
不純物による影響を排除するため、PHBHを、濃度が約3g/Lとなるようクロロホ
ルム(1級、国産化学製)中に溶かし、ついでクロロホルム溶液量に対して10倍量のエ
タノール(1級、国産化学株式会社)中に滴下するという、溶媒再沈殿法により精製を行
った。
【0032】
<分別>
溶媒/非溶媒系としてクロロホルム/n−ヘプタン(1級、国産化学株式会社)系を用
いて、分子量・組成比分布が狭い個々の成分へと分離した。精製して得られたPHBH(
purified “S”、又は “L”とする)を、1g/Lとなるようにクロロホル
ム中に溶かし、300rpmで攪拌しながら完全に溶解させた。次にこの攪拌している溶
液中へn−ヘプタンを徐々に加えることで溶媒のPHBHに対する溶解度を変化させ、溶
けきれなくなった成分の沈殿が一定量になるまで滴下した。析出物が一定量発生したら、
n−ヘプタン滴下をやめ、24時間静置して平衡状態として余計な成分が混入しないよう
にし、遠心分離器(H−9R、株式会社コクサン製)により、10,500rpm、27
±3℃の条件下で40分間遠心分離し、沈殿物を回収した。回収した沈殿物を、クロロホ
ルム溶液に溶かし、テフロンディッシュ(75型、アズワン株式会社製)上でキャスト(
溶媒を飛ばす)した。沈殿回収後の上澄みは、再びn−ヘプタンを滴下して比率を上げて
ゆき、沈殿が析出しなくなるまでこの工程を繰り返した。purified Sでは、3
HHユニットの少ない成分から順に15分画を得た。それぞれ「1st S」、「2nd
S」、・・・、「15th S」と表記した。purified Lでは、同様に順に
17分画を得た。それぞれ、「1st L」、「2nd L」、・・・、「17th L
」と表記した。
【0033】
<再分別>
最初に得られる分画は量が多く、十分に分子量・組成分別できていない場合があるので
、初分画に対し、上記と同様の操作を行い、数分画を得た。再分画の1分画目を、それぞ
れ「r−1st S」、「r−1st L」等と表記した。
【0034】
<組成分布分析>
PHBH試料中の組成分布を知るために、元の試料と得られた分画の、未分別試料に対
する重量比を計算した。また1H NMRスペクトルを測定し、HBユニットとHHユニ
ットのメチンピークと、HHユニットのメチルピーク強度比により組成比を決定した。
まず試料を、濃度が3〜5mg/Lとなるように重クロロホルム(重水素化率>99.
8%、メルク株式会社)750μL中に溶かし、NMR分光計 AVANCE−600(
ブルカー社、1H共鳴周波数600MHz)を用いて次の条件でスペクトルを得た。
試料管:(直径5mm、長さ203mm、エコノミータイプ、wilmad)
π/4パルス角:5.4μsec、
パルス繰返し時間:4sec、
スペクトル幅:8250Hz、
データサイズ:16キロバイト、
積算回数:64回、
測定温度:298.2K
【0035】
<一次構造分析>
隣に配列されている単量体に敏感である、主鎖中カルボニル基の13C NMR信号から
二連子配列のモル比を求め、一次構造の配列状態を判断するD値を出した(Macrom
olecules,1989,22,4参照。)。
13C NMRスペクトルの測定は、1H NMRスペクトル測定に使用したものと同じ
分光計を用いた。試料溶液の濃度は、25〜35mg/mLで、NMR管に注入する前に
、脱脂綿(日本薬局方)を詰めたパスツールピペット(Hirschmann Labo
rgerate)に通し、ごみを取り除いた。測定条件は以下に記す。
試料管:(直径5 mm、長さ203 mm、エコノミータイプ、wilmad)
π/4パルス角:6.4μsec、
パルス繰返し時間:2sec、
スペクトル幅:35970Hz、
データサイズ:16キロバイト、
積算回数:10,000回、
測定温度:313.2K
【0036】
<熱分析>
試料間の熱的性質の違いを明らかにするため、溶液キャスト法から得られた未精製試料
、未分別試料、そして各分画のフィルムを室温の真空オーブン中にて16週間保存し、結
晶化が平衡に達するのを待った。
【0037】
昇温測定にはワークステーション(EXSTAR6000、セイコーインスツル株式会
社)に接続された示差走査熱量計(DSC 220U、セイコーインスツル株式会社)を
使用した。測定に際し、まず同社製アルミニウムパン(直径4.5 mm)に3〜5mg
のフィルム試料を封入し、液体窒素により−80℃まで冷却してから、180℃まで、2
0℃/分の速度で加温走査(1st scan)を行った。1st scan後、液体窒
素によって−80℃まで急冷し、熱履歴のない状態で、再び180℃まで同条件で加温走
査(2nd scan)を行った。1st scan時の融解ピークの頂点を融点とし、
その面積から融解熱、結晶化度を決定した。
【0038】
試料の降温測定には、冷却装置(イントラクーラー2P、パーキンエルマー社)を備え
たDiamond DSC(パーキンエルマー社)を用いて測定した。まず3〜5mgの
試料を直径6mmのアルミパン(パーキンエルマー社)に封入し、まず190℃で2分間
保持し、そのあと−10℃/分の速度で−50℃まで走査した。
【0039】
<実施例1〜3、比較例1〜2>
表1に示すように、「1st S」、「r−1st S」、「r−1st L」を実施
例1〜3とし、「purified L」、「1st L」を比較例1〜2とした。NM
RによるHB/HH組成比、D値、及びDSCによる結晶性の分析結果を表1に示す。ま
た、図1に降温時のDSCチャートを示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1および図1から、D値が1.5以上の実施例1〜3においては、降温時、結晶化温
度を示し(ピークあり)、結晶化が速いことが分かる。一方、比較例1〜2は、D値が1
.5未満であり、降温時、結晶化温度を示さず(ピークなし)、結晶化が遅いことを示し
ている。
【0042】
<実施例4、比較例3>
表2に示すように、「purified S」を実施例4、「purified L」
を比較例3とした。それぞれの分画前、および、分画後のNMRによるHB/HH組成比
、D値、及びDSCによる結晶性の分析結果を表2に示す。また、図2に2nd sca
n(昇温)のDSCチャートを示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2および図2から、D値が1.5以上の成分を多く含む実施例4では、2nd sc
an(昇温)時、結晶化ピークを示し、2nd scan(昇温)時、ピークを示さない
比較例3に較べて、結晶化が速いことがわかる。実施例4と比較例3では、平均のHB/
HH組成比は大きく変わらないが、組成分布、特にブロック性の高い成分を多く含む実施
例4において、結晶化速度が速くなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】「purified S」、「purified L」、それぞれの1st分画、及び、その1st分画の再分別で得られた1st 再分画のDSCによる降温時の分析チャートである。
【図2】「original S」、「original L」、及び「purified S」、「purified L」のDSCによる2nd scan(昇温)時の分析チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物から生産される脂肪族ポリエステル系共重合体(ポリヒドロキシアルカノエート
。以下、「PHA共重合体」と略称する。)であって、
高結晶性成分のブロック性を示すD値が1.5以上であることを特徴とする生分解性ポ
リエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記PHA共重合体が、下記式(1)
[−CHR−CH2−CO−O−] (1)
(式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)

で示される繰り返し単位からなるポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)(以下、「P
3HA共重合体」と略称する。〕である請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組
成物。
【請求項3】
前記P3HA共重合体が、前記式(1)におけるアルキル基(R)のnが1である繰り
返し単位とnが3である繰り返し単位とからなる、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ
−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、「PHBH」と略称する。)である請求項2に
記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
PHBHの繰り返し単位の組成比〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒ
ドロキシヘキサノエート)〕が、80/20以上99/1以下(mol/mol)である
請求項3に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
微生物から生産されるPHA共重合体であって、高結晶性成分のブロック性を示すD値
が1.5以上であるPHA共重合体からなるブロック性成分を10重量%以上含むことを
特徴とする生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記PHA共重合体が、式(1) :[−CHR−CH2−CO−O−](式中、Rは
n2n+1で表されるアルキル基で、nは1以上15以下の整数である。)で示される繰
り返し単位からなるP3HA共重合体である請求項5に記載の生分解性ポリエステル系樹
脂組成物。
【請求項7】
前記高結晶性成分のブロック性を示すD値が1.5以上であるP3HA共重合体からな
るブロック性成分を30重量%以上含む請求項6に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組
成物。
【請求項8】
前記P3HA共重合体が、前記式(1)におけるアルキル基(R)のnが1である繰り
返し単位とnが3である繰り返し単位とからなるPHBHである請求項6または7に記載
の生分解性ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項9】
前記PHBHの繰り返し単位の組成比〔ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3
−ヒドロキシヘキサノエート)〕が、80/20以上99/1以下(mol/mol)で
ある請求項8に記載の生分解性ポリエステル系樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−223002(P2008−223002A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324789(P2007−324789)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】