説明

生分解性樹脂組成物

【課題】生分解性樹脂を迅速に分解させることが可能な生分解性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂に、エステル分解促進剤としてポリエチレンオキサレートと、エステル分解促進剤の加水分解を促進する無機粒子からなるエステル分解促進助剤とを配合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸等の難加水分解性の生分解性樹脂を主成分として含有する生分解性樹脂組成物に関するものであり、より詳細には、生分解性樹脂の分解性が高められた生分解性樹脂組成物、及び該生分解性樹脂により形成された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近に至って、各種分野で生分解性樹脂が環境問題などの観点から注目されている。特にポリ乳酸等の生分解性樹脂は、難加水分解性であり、水等と接触しても安定であるため、このような難加水分解性の生分解性樹脂を用いた各種の成形体が実用に供されている。例えば、特許文献1には、ポリ乳酸を主成分とする乳酸系樹脂組成物及びその成形加工品が提案されている。
【0003】
ところで、ポリ乳酸等の生分解樹脂からなる成形体では、難加水分解性であるため、酵素の作用による分解に時間がかかり、特に容器等の成形体においては、成形体表面から酵素の作用による分解が進行するため、成形体を形成している生分解樹脂が完全に分解するに至るまで著しく時間を要することとなり、その生分解性という特性が十分に活かされていない。
【0004】
このような問題を解決するために、本出願人は先に、ポリ乳酸等の生分解性樹脂にポリエチレンオキサレート等の脂肪族ポリエステルがエステル分解促進剤として配合された生分解性樹脂組成物を提案した(特許文献2参照)。
この生分解性樹脂組成物に配合されているポリエチレンオキサレート等の脂肪族ポリエステルは、易加水分解性であり、水と混合したときに容易に加水分解して酸を放出するため、エステル分解促進剤として機能する。即ち、放出された酸により、生分解樹脂の加水分解が促進されるため、酵素による生分解性樹脂の分解を著しく促進することができる。また、この生分解性樹脂組成物により形成されている容器等の成形体を酵素水溶液と混合したときには、該脂肪族ポリエステルの加水分解によって成形体中に亀裂が発生することとなり、この結果、酵素が成形体の内部に容易に浸透するため、成形体の内部からも生分解性樹脂の分解が進行することとなり、この結果、成形加工品の形態でも酵素による生分解性樹脂の分解が著しく促進されるという利点がある。
【0005】
また、特許文献3には、生分解性樹脂とアルカリ徐放性粒子とを含む樹脂組成物が提案されている。この樹脂組成物において、アルカリ徐放性粒子は、アルカリ性物質をコアとして含有し且つ多孔質物質をシェルとして含有するシェルコア構造を有するものであり、このアルカリ徐放性粒子もエステル分解促進剤として機能するものである。即ち、この樹脂組成物を酵素水溶液中に投入すると、アルカリ徐放性粒子からアルカリ性物質が溶出し、これにより生分解性樹脂の加水分解が促進され、酵素による生分解性樹脂の分解が促進されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−116788号
【特許文献2】WO2008−038648
【特許文献3】特開2009−57408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エステル分解促進剤として機能する脂肪族ポリエステルやアルカリ徐放性粒子を配合した生分解性樹脂組成物では、水分と接触したときの分解促進剤からの酸或いはアルカリの放出が徐々に進行するため、このようなエステル分解促進剤が配合されていない場合に比して生分解性樹脂の生分解が促進されるといっても、その程度は十分でなく、更に生分解性を向上させることが求められている。
【0008】
従って、本発明の目的は、生分解性樹脂を迅速に分解させることが可能な生分解性樹脂組成物及び該生分解性樹脂組成物から成形された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、難加水分解性生分解性樹脂(A)、易加水分解性ポリマーからなるエステル分解促進剤(B)、及び該エステル分解促進剤の加水分解を促進する無機粒子からなるエステル分解促進助剤(C)を含むことを特徴とする生分解性樹脂組成物が提供される。
本発明によれば、また、上記生分解性樹脂組成物を用いて成形された成形体が提供される。
【0010】
本発明の生分解性樹脂組成物においては、
(1)前記無機粒子がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物であること、
(2)前記塩基性化合物が炭酸カルシウムおよび/または炭酸ナトリウムであること、
(3)前記易加水分解性ポリマーがポリエステルであり、該ポリエステルの酸成分の80モル%以上が鎖状脂肪族ジカルボン酸であること、
(4)前記易加水分解性ポリマーがポリオキサレートであること、
(5)前記生分解性樹脂(A)100重量部当り、前記エステル分解促進剤(B)を0.01乃至30重量部の量で含有し、前記エステル分解促進助剤(C)を、前記エステル分解促進剤(B)100重量部当り、28乃至200重量部の量で含有していること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の生分解性樹脂組成物においては、エステル分解促進剤(B)が易加水分解性ポリマーであり、これが水分と接触することにより加水分解してエステル分解触媒として作用し得る酸を放出し、この結果、該組成物中の難加水分解性の生分解性樹脂の分解を促進させるのであるが、本発明では、このようなエステル分解促進剤(B)に加えて該エステル分解促進剤(B)の加水分解を促進させる無機粒子(例えば炭酸カルシウム)がエステル分解促進助剤(C)として配合されている。即ち、エステル加水分解促進剤(B)はポリマーであるため、水分と接触して加水分解するといっても、その加水分解は有機反応であり、その反応速度は通常の無機反応と比較すると著しく遅い。従って、エステル分解促進剤(B)のみが配合されている場合では、このエステル分解促進剤(B)の加水分解速度が遅く、放出される酸によって生分解性樹脂の加水分解が促進されるまでにかなりの時間を要することとなる(即ち、生分解性樹脂の分解の初期速度が遅い)。しかるに、本発明に従って、上記のような無機粒子をエステル分解促進助剤(C)として配合することにより、エステル分解促進剤(B)の加水分解(酸の放出)が促進される。しかも、このようなエステル分解促進助剤は難加水分解性の生分解性樹脂自体の加水分解をも促進する機能を有している。この結果、このエステル分解促進剤(B)による加水分解促進機能が短時間で発揮されるようになり(生分解性樹脂の分解の初期速度が速くなる)、且つエステル分解促進助剤(C)による該生分解性樹脂の加水分解も促進され、その生分解速度を著しく向上させることが可能となるのである。
【0012】
このように本発明によれば、この生分解性樹脂組成物により成形された成形体を速やかに崩壊でき、ゴミの増大等の環境破壊を回避する上で極めて有利であるばかりか、使用済みの成形体を回収して、生分解樹脂の再利用、再資源化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の生分解樹脂組成物及び比較例1の生分解性樹脂組成物を用いて成形されたフィルムの分解量と分解時間との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の生分解樹脂組成物は、難加水分解性の生分解性樹脂(A)を主成分として含み、且つエステル分解促進剤(B)及びエステル分解促進助剤(C)が配合され、さらに必要により、公知の添加剤が適宜配合され、これらの各成分を押出機等で溶融混練することにより調製される。
【0015】
<生分解性樹脂(A)>
本発明において、用いる生分解性樹脂は、難加水分解性のものであり、例えば、生分解性樹脂を凍結粉砕し粉体化した試料で、10mg/10ml濃度の水分散液を作製し、45℃で一週間インキュベート後、残液のTOC(総有機炭素量)が5ppm以下であるものをいう。さらに水溶性のポリエステルは含まない。このような難加水分解性の生分解性樹脂の例としては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、酢酸セルロースなどを例示することができ、これらは共重合体やブレンド物の形で使用することもできる。
【0016】
また、ポリ乳酸は、100%ポリ−L−乳酸或いは100%ポリ−D−乳酸の何れであってもよいし、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の溶融ブレンド物でもよく、また、L−乳酸とD−乳酸とのランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。
【0017】
さらに、上記の生分解性樹脂(A)は、その生分解性樹脂の特性が損なわれない限り、各種の脂肪族多価アルコール、脂肪族多塩基酸、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが共重合された共重合体の形態で使用することもできる。
このような多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ポリエチレングリコールなどを例示することができる。
多塩基酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸を例示することができる。
ヒドロキシカルボン酸としては、グルコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、マンデル酸を挙げることができる。
ラクトンとしては、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトン、グリコリド、マンデライドなどを挙げることができる。
【0018】
また、上述した生分解性樹脂(A)は、成形性の観点から、フィルムを形成するに足る分子量を有しているべきであり、一般に、重量平均分子量が5,000乃至1,000,000、特に10,000乃至500,000の範囲にあるのがよい。
【0019】
本発明においては、容器等の包装材の分野で好適に適用されるという観点から、ポリ乳酸が最適である。
【0020】
上述した生分解性樹脂(A)は、難加水分解性であり、その分解に著しく長期間を要するために、以下に述べるエステル分解促進剤(B)及びエステル分解促進助剤(C)を配合し、その分解速度を向上させる。
【0021】
<エステル分解促進剤(B)>
エステル分解促進剤(B)は、それ単独ではエステル分解能を示さないが、水分と混合したときにエステル分解の触媒として機能する酸を放出する易加水分解性のポリマーであり、生分解性樹脂(A)の全体にわたって均一に分散し、エステル分解促進剤(B)から放出される酸によっての生分解性樹脂(A)の加水分解を迅速に促進するために、例えば、その重量平均分子量が1000乃至200000程度のものが使用される。
【0022】
このような酸放出性を有しているエステル分解促進剤(B)としては、構成されるモノマーの一つが特に、0.005g/ml濃度の水溶液乃至水分散液でのpH(25℃)が4以下、特に3以下を示す酸のものであり、水と混合したときに容易に加水分解して酸を放出するポリマーが好適に使用される。
【0023】
上記ポリマーとして、例えば、ポリオキサレートなどが挙げられる。これらはコポリマー、単独での使用、2種以上を組み合わせての使用でもよい。
【0024】
コポリマーを形成する成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アントラセンジカルボン酸などのジカルボン酸;グリコール酸、L-乳酸、D-乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、マンデル酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;グリコリド、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0025】
特に、上記のポリオキサレートやポリグルコール酸は易加水分解性の生分解性樹脂であり、それ自体で生分解性を有している点でも好適に使用される。
【0026】
尚、ポリオキサレートは、少なくとも一つのモノマーとしてシュウ酸が使用されたホモポリマー或いは共重合体であるが、このようなポリオキサレートとしては、特にテレフタル酸のような芳香族環を含むコモノマー含量が50モル%よりも少ないこと(特に20モル%以下)が好ましい。芳香族環を含むコモノマー含量が多くなるにしたがい、後述するエステル分解促進助剤(C)による加水分解促進が有効に作用しなくなる傾向が認められるからである(後述する実施例9,10及び比較例4,5参照)。
【0027】
本発明において、このようなエステル分解促進剤(B)は、その種類によっても異なるが、一般に、前記生分解性樹脂(A)100重量部当り、0.01乃至30重量部、特に1乃至10重量部の量で使用することが好ましい。エステル分解促進剤(B)の使用量が少なすぎると、生分解性樹脂(A)の分解を促進させることが困難となるおそれがあり、また必要以上に多量に使用すると、この樹脂組成物の調製段階或いは成形体として使用に供している段階で生分解性樹脂の分解が始まってしまうおそれがあるからである。
【0028】
<エステル分解促進助剤(C)>
エステル分解促進助剤(C)は、上記の易加水分解性ポリマーからなるエステル分解促進剤(B)の加水分解を促進させるために使用される無機粒子であり、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物や、アルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンを放出するゼオライトやイオン放出性フィラーが代表的である。即ち、このような無機粒子は、水の存在下でエステル分解促進剤(B)の加水分解を促進する。
【0029】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を挙げることができる。
【0030】
上記のゼオライトとしては、交換性イオンとしてアルカリ金属やアルカリ土類金属イオンを含む天然或いは合成の各種ゼオライトを使用することができる。
【0031】
また、イオン放出性のフィラーとしては、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含むアルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソータ石灰ガラス等の酸化物ガラスや、フッ化ジルコニウムガラス等のフッ化物ガラスを挙げることができる。
【0032】
上記エステル分解促進助剤(C)は単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0033】
本発明においては、環境に対する影響が少なく、また、生分解性樹脂(A)の特性に悪影響を与えず、しかも、樹脂組成物の熱成形時の無機粒子の分解が生じないという観点から、上記で例示した無機粒子の中でも、カルシウムおよび/またはナトリウムを含有する塩基性化合物、カルシウムイオンおよび/またはナトリウムイオンを放出し得るゼオライト、カルシウムイオンおよび/またはナトリウムイオン放出性フィラーが好ましく、特に、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムが最適である。
【0034】
また、上記の無機粒子は、樹脂組成物中に均一に分散させるという観点から、その平均粒度(レーザ回折散乱法による体積換算での平均粒径D50)が10μm以下、特に、0.01μm乃至5μmの範囲にあるものが好ましい。
【0035】
このような無機粒子は、前記エステル分解促進剤(B)100重量部当り、28乃至200重量部、特に30乃至100重量部の量で使用することが好ましい。この無機粒子の量が多すぎると樹脂組成物の熱成形性が損なわれたり、この樹脂組成物から成形された成形体中でエステル分解促進剤(B)や生分解樹脂(A)の加水分解が促進され、成形体の形態が損なわれる等の不都合を生じることがある。また、この無機粒子の量が少なすぎると、生分解性樹脂の分解速度を速めることが困難となる恐れがある。
尚、上述した無機粒子の内、炭酸ナトリウムは、ポリグリコール酸(B)や生分解性樹脂(A)に対する加水分解促進機能が最も大きいが、このために、炭酸ナトリウムを単独で使用した場合には、熱成形時に生分解性樹脂(A)の分子量を極度に低下させ、さらには、生分解性樹脂(A)の変色等によりその製品価値が低下してしまうことがある。そこで、炭酸ナトリウムを用いる場合には、その量を生分解性樹脂(A)に対して0.1〜35ppmの範囲とし、さらに、炭酸カルシウムと組み合わせて使用することが好ましく、これにより、成形時にポリグリコール酸の分解を促進しながらも、生分解性樹脂(A)の分子量低下を抑制でき、かつ、得られる生分解性樹脂組成物の酵素分解速度を上げることができる。このように、炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムを併用した場合、そのトータルの配合量は、上述した範囲内、即ち、ポリグリコール酸(B)100重量部当り、28乃至200重量部、特に30乃至100重量部の範囲とするのがよい。
【0036】
<他の配合剤>
本発明の生分解性樹脂組成物は、上述した各成分以外に、各種の樹脂用添加剤を適宜配合することもでき、例えば、生分解性樹脂の成形性や生分解特性を損なわない量で、可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、顔料、充填材、離型剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤、核形成材などを配合することができ、さらに必要に、他の熱可塑性樹脂をブレンドすることも可能である。
【0037】
<生分解性樹脂組成物の調製及び用途>
上述した各種成分を含む本発明の生分解性樹脂組成物は、上述した(A)〜(C)の各成分を同時に混合し、各成分が分解しない程度の温度(例えば150℃乃至240℃程度)で押出機中で溶融混練することにより調製することができる。この場合、(B)成分のエステル分解促進剤や(C)成分のエステル分解促進助剤と生分解性樹脂(A)とを同時に混合してもよいし、(B)成分のエステル分解促進剤や(C)成分のエステル分解促進助剤各成分のマスターバッチを作製し、生分解性樹脂(A)と混合してもよい。
【0038】
係る樹脂組成物は、それ自体公知の成形法、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形などによって種々の形状の成形体として使用に供せられ、包装材の分野でも好適に使用することができる。
【0039】
例えば、包装材の分野では、上記の生分解性樹脂組成物を包装用のフィルム乃至シートとして使用することができるし、特にフィルムは、3方シールによる貼り合せなどの製袋によって袋状容器(パウチ)として使用することができる。また、フィルム乃至シートを真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形などによってカップ状、トレイ状の容器として使用することができる。さらに、射出成形等によって試験管形状のプリフォームとし、このプリフォームを用いてのブロー成形によってボトル形状の容器として使用することができる。
【0040】
尚、上記のような各種形状の成形体においては、必要により、多層多重ダイを備えた押出機や複数の射出ゲートを備えた共射出機などを用いての成形によって、他の樹脂と積層した多層構造体として使用し得ることも可能である。
【0041】
<分解方法>
本発明の生分解性樹脂組成物を用いて成形された容器等の成形体は、廃棄に際しては、そのまま分解槽に供給してもよいが、これを適宜、裁断、圧潰等によって小片状にした後、分解槽に供給して分解処理される。
【0042】
この分解処理は、水性媒体中で、触媒の存在下で行われる。かかる触媒としては、含水している固体酸触媒、例えば酸性白土やベントナイトなどのスメクタイト系粘土を酸処理して得られる高比表面積の活性白土などを使用することもできるが、酵素を使用することが好適である。即ち、環境に与える影響や廃棄物処理などの観点のみならず、酵素を触媒として用いた場合には、成形体の内部への水分の浸透により成形体内部からエステル分解促進剤(B)の加水分解が進行し、生分解性樹脂(A)の加水分解が促進されると同時に、酵素が成形体(廃棄物)の内部にまで速やかに浸透するため、成形体の内部からも生分解性樹脂(A)の分解が生じ、短時間で成形体が完全に崩壊するまで分解することができるという点で極めて有利である。
【0043】
上記のような酵素としては、例えば、プロテアーゼ、セルラーゼ、クチナーゼ、リパーゼ等が挙げられ、これらの酵素は固定化していても固定化していなくてもよい。例えば和光純薬工業株式会社製のプロテアーゼKなどが水溶液の形で使用される。また微生物を入れ、その菌体外酵素を用いてもよく、その微生物が必要とする培地成分や栄養成分が添加されていてもよい。
【0044】
上記のような分解処理中の溶媒は、酵素反応液のpHの変化を防止するためには、例えば反応液を交換したり、反応液に緩衝液を使用することにより行うことができ、このような緩衝液としてはグリシン−塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液などが挙げられる。また、緩衝液の代わりに固体の中和剤を使用し、溶媒に水を用いてもよく、例えば炭酸カルシウム、キトサン、脱プロトンイオン交換樹脂などが挙げられる。反応液中に適宜酸やアルカリを添加し、中和を行うこともできる。また必要に応じて、エタノールなどの有機溶媒を添加してもよい。
【0045】
即ち、生分解性樹脂組成物の成形体の廃棄物を、分解槽中で酵素水溶液と混合攪拌することにより、分解処理を行うことが好適である。この際、酵素の使用量は、用いる酵素の活性によっても異なるが、一般には、難加水分解性の生分解樹脂100重量部当り0.01乃至10重量部程度の量でよく、分解槽中に充填された酵素水溶液中に成形体廃棄物を投入して攪拌することにより、分解処理が行われる。
尚、前述した固体酸触媒を用いる場合には、固体酸触媒が含水しているため、適宜の有機溶媒中に固体酸触媒を分散しておき、この分散液に成形体廃棄物を投入するのがよい。
【0046】
このような分解処理においては、酵素の失活温度(通常、50℃程度)よりも低い温度で加熱することが好ましい。このような加熱により、エステル分解促進剤(B)の加水分解をより促進することができる。
【0047】
上記のようにして、分解が行われ、成形体が完全に崩壊すると、生分解樹脂は、これを構成するモノマー乃至オリゴマーにまで分解されており、分解槽中の液を廃棄してもよいし、必要により、蒸留、抽出等の分離操作によりモノマー乃至オリゴマーを回収し、これを生分解性樹脂の合成に再利用することもできる。
また、本発明の生分解性樹脂組成物は、優れた分解性を有するので環境を浄化する材料として利用することもでき、例えば、汚染された土壌の改質剤や、下水や排水などの廃水処理剤としても利用することができる。
【実施例】
【0048】
<分析>
HFIP溶媒を用いたGPC測定;
GPCには、東ソー株式会社製を用い、カラムとしてHFIP−605を用いた。カラムオーブンの温度を40℃とし、溶離液としてHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)を用い、流速を0.5ml/分とした。また、サンプル注入量は15μlとした。スタンダードはHFIPにポリメチルメタクリレートを溶解させ用いた。サンプル調整はHFIPを溶媒として濃度2mg/mlとし、フィルターろ過したものを用いた。
【0049】
クロロホルム溶媒を用いたGPC測定;
GPCには、東ソー株式会社製HLC−8120を用い、カラムとしてTSKgel SuperHM−H×2及びガードカラムとしてTSKguard column SuperH−Hを用いた。カラムオーブンの温度を40℃とし、溶離液としてクロロホルムを用い、流速を0.5ml/minとした。また、サンプル注入量は20μlとした。スタンダードはクロロホルムにポリスチレンを溶解させたものを用いた。サンプル調整はクロロホルムを溶媒として濃度3mg/mlとし、フィルターろ過したものを用いた。
【0050】
<使用材料>
ポリ乳酸(PLA):
natureworks社製4032D(d乳酸1.4±0.2%)を用いた。
ポリエチレンオキサレート:
下記で合成されたポリエチレンオキサレート(PEOx)或いはポリエチレンオキサレートーテレフタレート共重合体(PEOx20またはPEOx50)を用いた。
尚、PEOx20は、エチレンオキサレート含量80モル%、テレフタル酸含量20モル%の共重合体であり、PEOx50は、エチレンオキサレート含量50モル%、テレフタル酸含量50モル%の共重合体である。
炭酸カルシウム:
白石工業株式会社製brilliant1500(平均粒度;0.2μm)を用いた。
炭酸ナトリウム:
和光純薬工業製を用いた。
ゼオライト:
ユニオン昭和株式会社製ゼオライト3A(Ca型)を用いた。
キトサン(有機塩基):
和光純薬工業製を用いた。
【0051】
ポリオキサレート(PEOx)の合成;
マントルヒーター、攪拌装置、窒素導入管、冷却管を取り付けた300mLのセパラブルフラスコにシュウ酸ジメチル354g(3.0mol)、エチレングリコール223.5g(3.6mol)、テトラブチルチタネート0.30gを入れ窒素気流下フラスコ内温度を110℃からメタノールを留去しながら170℃まで加熱し、9時間反応させた。最終的に210mlのメタノールを留去した。その後内温150℃で0.1〜0.5mmHgの減圧下で1時間攪拌し、内温170℃〜190℃で7時間反応後、粘度が上がり取り出した。
HFIP溶媒を用いたGPC測定により、重量平均分子量 (Mw)は30000であった。
【0052】
ポリオキサレート(PEOx20)の合成;
シュウ酸ジメチル354g(3.0mol)の代わりにシュウ酸ジメチル94.5g(0.8mol)及びテレフタル酸ジメチル38.8g(0.2mol)、を用いた以外は、上記PEOxの合成と同様の方法で合成した。
クロロホルム溶媒を用いたGPC測定により、重量平均分子量(Mw)は20000であった。
【0053】
ポリオキサレート(PEOx50)の合成);
シュウ酸ジメチル354g(3.0mol)の代わりにシュウ酸ジメチル177g(1.5mol)及びテレフタル酸ジメチル291g(1.5mol)、を用いた以外は、上記PEOxの合成と同様の方法で合成した。
【0054】
<フィルムの作製>
各種材料をドライブレンドし、超小型混練機(株式会社東洋精機製作所製)で成形温度200℃または240℃及びスクリュー回転速度50rpmにて混練し、ペレットを作製した。該ペレットを200℃または240℃で5分間融解後、50Kgf/cmの圧力で加熱加圧(ホットプレス)し、フィルムを作製した。
【0055】
<酵素分解性試験>
CLE酵素液の作製と分解液の作製;
CLE酵素液はCryptococcus sp. s−2由来リパーゼ(独立行政法人酒類総合研究所:特開2004−73123)粉末20mgを、50w/w%グリセリンを含む0.05MTris−HCl緩衝液(pH8.0)1mlに溶解させた液とした。分解液はpH7の60mmol/Lリン酸緩衝液10mlに、CLE酵素液12μlを添加した液とした。
酵素分解性試験;
上記方法で作製されたフィルム(2cm×2cm、重量70〜80mg)と、上記分解液10mlを25mlのバイアル瓶内に入れ、45℃、100rpmで6日間振とうさせた。なお、pHの極度な低下を避けるため、4日間を2日、2日に分け、それぞれ分解液を交換して行った。4日後、フィルムを取り出し45℃オーブンで一晩乾燥させ、重量を測定した。フィルムの分解量は(初期のフィルム重量)―(4日後のフィルム重量)で求めた。
【0056】
<分子量保持率の測定>
PLAと上記方法で作成しPLAフィルムに対してクロロホルム溶媒を用いたGPC測定を行った。PLAの分子量をMw(前)、作製したフィルムの分子量をMw(後)とし、分子量保持率をMw(後)/Mw(前)×100で求めた。分子量保持率が60%以上を○としている。
【0057】
<実施例1、比較例1〜3>
表1に示す各種材料を所定の配合比でブレンドし、上述の成形方法でフィルムを作成した。得られたフィルムの分子量保持率の測定、及び、酵素分解試験の結果を表1に示す。なお、成形温度を200℃とした。
【0058】
<実施例2〜4、比較例4,5>
エステル分解促進剤として、上述の方法で合成したポリエステルの構成成分中の酸成分の芳香環(テレフタル酸)を20モル%有するPEOx20、或いは、芳香環を50モル%有するPEOx50を、表2に示す配合比で炭酸カルシウムと共にPLAとブレンドし、フィルムを作成した(実施例2〜4)。また、炭酸カルシウムを配合しない以外は、実施例2〜4と同様にしてフィルムを作成した。
得られたフィルムの分子量保持率の測定、及び、酵素分解試験の結果を表2に示す。
【0059】
結果より、PEOx20を配合したフィルムは、PEOx50を配合したフィルムに比して分解量が多いことから、分解促進助剤(炭酸カルシウム)は、酸成分の芳香環及び/または脂環が20mol%以下のエステル分解促進剤を配合したフィルムに使用されることが望ましいことがわかる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
難加水分解性生分解性樹脂(A)、易加水分解性ポリマーからなるエステル分解促進剤(B)、及び該エステル分解促進剤の加水分解を促進する無機粒子からなるエステル分解促進助剤(C)を含むことを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機粒子がアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩基性化合物が炭酸カルシウムおよび/または炭酸ナトリウムである請求項2に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記易加水分解性ポリマーがポリエステルであり、該ポリエステルの酸成分の80モル%以上が鎖状脂肪族ジカルボン酸である請求項1乃至3の何れかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
前記易加水分解性ポリマーがポリオキサレートである請求項4に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
前記生分解性樹脂(A)100重量部当り、前記エステル分解促進剤(B)を0.01乃至30重量部の量で含有し、前記エステル分解促進助剤(C)を、前記エステル分解促進剤(B)100重量部当り、28乃至200重量部の量で含有している請求項1乃至5の何れかに記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の生分解性樹脂組成物を用いて成形された成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77246(P2012−77246A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225835(P2010−225835)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】