説明

生分解性潤滑油組成物

【課題】潤滑性、低温流動性、酸化安定性および生分解性に優れ、風力発電装置に用いられる増速機用としても好適な生分解性潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の生分解性潤滑油組成物は、(A)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と直鎖脂肪族二価カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるエステルと、(B)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるエステルと、(C)酸性リン酸エステルとアルキルアミンとを反応させて得られるリン酸エステルアミン塩とを配合してなり、前記(A)成分における直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸とからなり、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量が炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量よりも多いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、より詳しくは、特に風力発電用の増速機に使用される生分解性潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題や化石燃料の枯渇の観点より、自然のエネルギーを活用した風力発電が脚光を浴びている。風力発電では、ロータの回転速度が遅いため発電効率を上げることが重要であり、発電装置内部には増速機が設けられている。増速機に用いられる歯車機構の潤滑にはいわゆるギヤ油が使用されるが、極めて高い潤滑性が必要とされる。
従来、増速機油として、PAO(ポリアルファオレフィン)を基油とした潤滑油が使用されてきた。一方、風力発電装置は洋上や自然環境下で使用されることが多いため、増速機油には高い生分解性が必要である。これに対して、従来のPAO系潤滑油では生分解性がほとんどないため、代替品の探索が続けられてきた。
生分解性が求められる風力発電装置の増速機用としては、エステルを基油とした潤滑油の適用が考えられる(例えば、特許文献1〜3参照)。特許文献1、2では、多価アルコールと多価カルボン酸とから得られる複合エステルを基油とした生分解性潤滑油が提案されている。特許文献3では、特定の2種の複合エステルと、特定のリン酸エステルアミン塩とを配合してなる生分解性潤滑油が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−522204号公報
【特許文献2】特表2005−520038号公報
【特許文献3】特開2010−260972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に記載の生分解性潤滑油では、酸化安定性が十分ではなく、風力発電装置の増速機用として用いた場合、潤滑油としての性能を長期間に渡って維持することは困難である。
また、特許文献3に記載の生分解性潤滑油では、低温流動性が十分ではなく、例えば寒冷地に設ける風力発電装置の増速機用として用いた場合、油による装置の運転トルク上昇が大きく、風力発電装置などの発電効率を低下させてしまう。
そこで、本発明の目的は、潤滑性、低温流動性、酸化安定性および生分解性に優れ、風力発電装置に用いられる増速機用としても好適な生分解性潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような生分解性潤滑油組成物を提供するものである。
本発明の生分解性潤滑油組成物は、(A)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と直鎖脂肪族二価カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られ、40℃における動粘度が400mm/s以上、1000mm/s以下、酸価が0.5mgKOH/g以下であるエステルと、(B)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られ、酸価が0.5mgKOH/g以下であるエステルと、(C)酸性リン酸エステルとアルキルアミンとを反応させて得られるリン酸エステルアミン塩とを配合してなり、前記(A)成分における直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸とからなり、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量が炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量よりも多いことを特徴とするものである。
【0006】
本発明の生分解性潤滑油組成物においては、前記(A)成分における直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸60モル%以上90モル%以下と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸10モル%以上40モル%以下とからなることが好ましい。
本発明の生分解性潤滑油組成物においては、この生分解性潤滑油組成物がギヤ油または軸受油であることが好ましい。また、前記ギヤ油が風力発電装置の増速機用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の生分解性潤滑油組成物によれば、潤滑性、低温流動性、酸化安定性および生分解性に優れており、風力発電装置に用いられる増速機用としても好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の生分解性潤滑油組成物(以下、単に「本組成物」ともいう。)は、(A)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と直鎖脂肪族二価カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるエステルと、(B)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるエステルと、(C)酸性リン酸エステルとアルキルアミンとを反応させて得られるリン酸エステルアミン塩とを配合してなり、前記(A)成分における直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸とからなり、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量が炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量よりも多いことを特徴とする。以下、詳細に本発明を説明する。
【0009】
〔(A)成分〕
本発明における(A)成分は、直鎖飽和脂肪族カルボン酸と直鎖脂肪族二価カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるいわゆる複合エステルである。
前記直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸とからなり、一価のカルボン酸である。また、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量が炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量よりも多いことが必要である。炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量が炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量以下の場合には、得られる生分解性潤滑油組成物の酸化安定性が不十分となる。
前記直鎖飽和脂肪族カルボン酸の合計量に対する炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸の配合量は、モル比で、51モル%以上99モル%以下であることが好ましく、60モル%以上90モル%以下であることがより好ましい。炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸の配合量が上記範囲内であれば、得られる生分解性潤滑油組成物の酸化安定性を確保できる。
炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸および炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸としては、それぞれ、カプリル酸(炭素数8)およびカプリン酸(炭素数10)が挙げられる。
【0010】
前記直鎖脂肪族二価カルボン酸としては、例えばアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、およびエイコサン二酸等が挙げられる。これらの直鎖脂肪族二価カルボン酸は、エステル化の際、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの直鎖脂肪族二価カルボン酸の中では、低温での流動性を維持するために、炭素数が12以下のものを用いることが好ましい。
【0011】
(A)成分を形成するための多価アルコールとしては、いわゆるヒンダードポリオールが好適に用いられる。具体的には、ネオペンチルグリコール;2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール;2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール;トリメチロールエタン;トリメチロールプロパン;トリメチロールブタン;トリメチロールペンタン;トリメチロールヘキサン;トリメチロールヘプタン;ペンタエリスリトール;2,2,6,6−テトラメチル−4−オキサ−1,7−ヘプタンジオール;2,2,6,6,10,10−ヘキサメチル−4,8−ジオキサ−1,11−ウンデカジオール;2,2,6,6,10,10,14,14−オクタメチル−4,8,12−トリオキサ−1,15−ペンタデカジオール;2,6−ジヒドロキシメチル−2,6−ジメチル−4−オキサ−1,7−ヘプタンジオール;2,6,10−トリヒドロキシメチル−2,6,10−トリメチル−4,8−ジオキサ−1,11−ウンデカジオール;2,6,10,14−テトラヒドロキシメチル−2,6,10,14−テトラメチル−4,8,12−トリオキサ−1,15−ペンタデカジオール;ジ(ペンタエリスリトール);トリ(ペンタエリスリトール);テトラ(ペンタエリスリトール);ペンタ(ペンタエリスリトール)などが挙げられる。
これらのヒンダードポリオールは、エステル化の際、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
(A)成分としての複合エステルは、上述した直鎖飽和脂肪族カルボン酸と直鎖脂肪族二価カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られ、40℃における動粘度が400mm/s以上、1000mm/s以下である。この動粘度が400mm/s未満であると、潤滑油組成物としたときに潤滑性を保つために必要な粘度が得られないおそれがある。一方、動粘度が1000mm/sを超えると生分解性が低下するおそれがある。
また、(A)成分としては、酸価が0.5mgKOH/g以下である必要がある。酸価が0.5mgKOH/gを超えると、酸化安定性が悪化するおそれがある。
【0013】
なお、(A)成分としてのエステルを得るためには、上述したように2種のカルボン酸と多価アルコールとを反応させることが一般的であるが、結果として上述したカルボン酸残基と多価アルコール残基からなるエステル構造を有していればよいのである。出発物質(反応原料)自体が上記したカルボン酸や多価アルコールである必要はなく、またそれらからの脱水反応によって(A)成分を合成する必要性は必ずしもない。他の原料から別の方法によって合成してもよい。例えば、エステル交換法によって製造してもよい。
【0014】
〔(B)成分〕
本発明における(B)成分は、直鎖飽和脂肪族カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるエステルである。
ここで、直鎖飽和脂肪族カルボン酸としては、生分解性と低温流動性を維持するために炭素数6以上、12以下のカルボン酸が好ましい。具体的には、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、およびラウリン酸のようなモノカルボン酸が挙げられる。なお、1種のカルボン酸を用いると固化するおそれがあるので数種のカルボン酸を組み合わせて使用することが好ましい。
多価アルコールとしては、(A)成分を形成するために用いられる多価アルコールと同様のヒンダードポリアルコールが好適に用いられる。
【0015】
(B)成分の40℃における動粘度は、20mm/s以上、40mm/s以下であることが好ましい。この動粘度が20mm/s未満であると、潤滑油組成物としたときに潤滑性が低下するおそれがある。一方、この動粘度が40mm/sを超えると、潤滑油組成物としたときに低温流動性が悪化するおそれがある。
また、(B)成分としては、酸価が0.5mgKOH/g以下である必要がある。酸価が0.5mgKOH/gを超えると、酸化安定性が悪化するおそれがある。
【0016】
なお、(B)成分としてのエステルは、一般的には上述した所定のカルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られるものである。ただし、結果として上述したカルボン酸残基と多価アルコール残基からなるエステル構造を有していればよいのである。出発物質(反応原料)自体が上記したカルボン酸や多価アルコールである必要はなく、またそれらからの脱水反応によって(B)成分を合成する必要性は必ずしもない。他の原料から別の方法によって合成してもよい。例えば、エステル交換法によって製造してもよい。
【0017】
本発明における(B)成分の配合割合は、組成物基準で10質量%以上であることが生分解性の観点より好ましい。
【0018】
〔(C)成分〕
本発明における(C)成分は、酸性リン酸エステルとアルキルアミンとを反応させて得られるリン酸エステルアミン塩である。
(C)成分を形成するための酸性リン酸エステルとしては、例えば、下記式(1)で示される構造のものが挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
前記式(1)におけるXは、水素原子または炭素数6以上、20以下のアルキル基、Xは炭素数6以上、20以下のアルキル基を示す。上記した炭素数6以上、20以下のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、各種のへキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコンル基などが挙げられる。これらの中では、炭素数が8以上、18以下のアルキル基が好ましく、炭素数が8以上、13以下のアルキル基がより好ましい。
【0021】
前記式(1)で示される酸性リン酸アルキルエステル類としては、例えばモノオクチルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノイソデシルアシッドホスフェート、モノラウリルアシッドホスフェート、モノ(トリデシル)アシッドホスフェート、モノミリスチルアシッドホスフェート、モノパルミチルアシッドホスフェート、モノステアリルアシッドホスフェートなどの酸性リン酸モノエステル、ジオクチルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジイソデシルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジ(トリデシル)アシッドホスフェート、ジパルミチルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートなどの酸性リン酸ジエステルを挙げることができる。
【0022】
(C)成分を形成するには、前記酸性リン酸エステルを1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、最終的に本組成物としたときには、組成物全量基準でリン(P)の含有量が150質量ppm以上、500質量ppm以下とすることが好ましい。このPの含有量が150質量ppm未満では、ギヤ油として使用したときに耐焼付性が不十分となるおそれがあり、一方、Pの含有量が500質量ppmを超えると耐疲労性(耐FZGマイクロピッチング性)が低下するおそれがある。より好ましいPの含有量は250質量ppm以上、450質量ppm以下であり、さらに好ましくは350質量ppm以上、400質量ppm以下である。
【0023】
(C)成分を形成するためのアルキルアミンとしては、第一級アミン、第二級アミンおよび第三級アミンのいずれでもよいが耐焼付性向上の点で、第二級アミンまたは第三級アミンが好ましく、ジアルキルアミンまたはトリアルキルアミンがより好ましい。また、リン酸エステルアミン塩が常温(25℃)で液状であると、基油への溶解性や低温での析出防止の点で好ましく、そのためには、アルキル基の炭素数が6以上、20以下のものが好ましい。
ジアルキルアミン類の例としてはジへキシルアミン、ジシクロへキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミンなどを挙げることができ、トリアルキルアミン類の例としては、トリへキシルアミン、トリシクロへキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミンなどを挙げることができる。
これらのアルキルアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、耐焼付性の点ではトリアルキルアミンから選択することが好適である。
【0024】
(C)成分の配合量は、組成物全量基準で、0.2質量%以上、1質量%以下であることが好ましい。配合量が0.2質量%未満では、摩擦低減効果に乏しい。一方、配合量が1質量%を超えると耐疲労性(耐FZGマイクロピッチング性)が低下するおそれがある。ここで、(C)成分は、酸性リン酸エステルアミン塩とした後に、本組成物を調製するために、他の成分と混合してもよいし、酸性リン酸エステルとアルキルアミンを各々個別に配合して本組成物を調製してもよい。
なお、(C)成分の配合量は、酸性リン酸エステルとアルキルアミンを個別に配合して本組成物とする場合は、双方の合計値である。
【0025】
本組成物には、より潤滑性を高めるため、(D)成分として、所定の硫黄化合物をさらに配合してもよい。例えば、(D−1)分子内に−S−S−S−以上の多硫縮合を含まず、かつ分子内の硫黄原子(S)含有量が15質量%以上である硫黄化合物が好適である。さらに、(D−1)成分に付加的に配合される硫黄化合物として(D−2)下記式(2)で示されるチオリン酸トリヒドロカルビルエステルも好適である。
(RO−)P=S (2)
【0026】
上記式(2)中、Rは炭素数6以上、20以下のヒドロカルビル基である。前記(D−1)成分の硫黄化合物が、分子内に−S−S−S−以上の多硫縮合を有する化合物である場合、後述する酸化安定度試験において、スラッジの生成が多くなるおそれがある上に、耐FZGマイクロピッチング性が低下するおそれもある。また、分子内のS含有量が15質量%未満では、硫黄化合物の添加効果が十分に発揮されず、耐焼付性が不足する場合がある。
このような性状を有する(D−1)成分の硫黄化合物としては、例えば、下記の化合物を挙げることができる。
(1)モノまたはジ硫化オレフィン
(2)ジヒドロカルビルモノまたはジスルフィド
(3)チアジアゾール化合物
(4)ジチオカーバメイト化合物
(5)ジスルフィド構造を有するエステル化合物
(6)その他硫黄化合物
【0027】
[モノまたはジ硫化オレフィン]
硫化オレフィンとしては、例えば、下記式(3)で示される化合物を挙げることができる。
−Sa−R (3)
上記式(3)において、Rは炭素数2以上、15以下のアルケニル基、Rは炭素数2以上、15以下のアルキル基またはアルケニル基を示し、aは1または2を示す。この化合物は、炭素数2以上、15以下のオレフィンまたはその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましく挙げられる。
【0028】
[ジヒドロカルビルモノまたはジスルフィド]
ジヒドロカルビルモノまたはジスルフィドとしては、下記式(4)で示される化合物を挙げることができる。
−Sb−R (4)
上記式(4)において、RおよびRは、それぞれ炭素数1以上、20以下のアルキル基または環状アルキル基、炭素数6以上、20以下のアリール基、炭素数7以上、20以下のアルキルアリール基または炭素数7以上、20以下のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、bは1または2を示す。なお、RおよびRがアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0029】
上記式(4)で示されるジヒドロカルビルモノまたはジスルフィドとしては、例えば、ジベンジルモノまたはジスルフィド、各種ジノニルモノまたはジスルフィド、各種ジドデシルモノまたはジスルフィド、各種ジブチルモノまたはジスルフィド、各種ジオクチルモノまたはジスルフィド、ジフェニルモノまたはジスルフィド、ジシクロへキシルモノまたはジスルフィドなどを好ましく挙げることができる。
【0030】
[チアジアゾール化合物]
チアジアゾール化合物としては、例えば、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,6−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールなどを好ましく挙げることができる。
【0031】
[ジチオカーバメイト化合物]
ジチオカーバメイト化合物としては、アルキレンビスジアルキルジチオカーバメイトが挙げられ、中でも炭素数1から3までのアルキレン基、炭素数3以上、20以下の直鎖状若しくは分岐状の飽和または不飽和のアルキル基、あるいは炭素数6以上、20以下の環状アルキル基である化合物が好ましく挙げられる。そのようなジチオカーバメイト化合物の具体例としては、例えば、メチレンビスジブチルジチオカーバメイト、メチレンビスジオクチルジチオカーバメイト、メチレンビストリデシルジチオカーバメイトなどを挙げることができる。
【0032】
[ジスルフィド構造を有するエステル化合物]
ジスルフィド構造を有するエステル化合物としては、下記式(5)で示されるジスルフィド化合物、および下記式(6)で示される化合物が挙げられる。
OOC−A−S−S−A−COOR (5)
11OOC−CR1314−CR15(COOR12)−S−S−CR20(COOR17)−CR1819−COOR16 (6)
【0033】
上記式(5)において、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1以上、30以下のヒドロカルビル基であり、好ましくは炭素数1以上、20以下、さらには炭素数2以上、18以下、特には炭素数3以上、18以下のヒドロカルビル基が好ましい。該ヒドロカルビル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、酸素原子、硫黄原子、または窒素原子を含んでいてもよい。このRおよびRは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造上の理由から、同一であることが好ましい。
次に、AおよびAは、それぞれ独立にCRまたはCR−CR10で示される基であって、RからR10まではそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上、20以下のヒドロカルビル基である。ヒドロカルビル基としては炭素数が1以上、12以下のもの、さらには炭素数1以上、8以下のものが好ましい。また、AおよびAは互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造上の理由から、同一であることが好ましい。
【0034】
一方、上記式(6)において、R11、R12、R16およびR17はそれぞれ独立に炭素数1以上、30以下のヒドロカルビル基であり、好ましくは炭素数1以上、20以下、さらには炭素数2以上、18以下、特には炭素数3以上、18以下のヒドロカルビル基が好ましい。該ヒドロカルビル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、また、酸素原子、硫黄原子、または窒素原子を含んでいてもよい。このR11、R12、R16およびR17は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、製造上の理由から、同一であることが好ましい。
次に、R13からR15まで、R18からR20まではそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上、5以下のヒドロカルビル基である。原料の入手が容易なことから、水素原子が好ましい。
【0035】
上記式(5)で表されるジスルフィド化合物の具体例としては、ビス(メトキシカルボニル−メチル)ジスルフィド、ビス(エトキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(n−プロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(イソプロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、ビス(シクロプロポキシカルボニルメチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−ブチル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−ヘキシル)ジスルフィド、1,1−ビス(1−メトキシカルボニル−n−オクチル)ジスルフィド、2,2−ビス(2−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、α,α−ビス(α−メトキシカルボニルベンジル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−エトキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−n−プロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−イソプロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−シクロプロポキシカルボニルエチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−ブチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−ヘキシル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−n−プロピル)ジスルフィド、2,2−ビス(3−メトキシカルボニル−n−ペンチル)ジスルフィド、1,1−ビス(2−メトキシカルボニル−1−フェニルエチル)ジスルフィドなどを挙げることができる。
【0036】
上記式(6)で表されるジスルフィド化合物の具体例としては、ジチオリンゴ酸テトラメチル、ジチオリンゴ酸テトラエチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−プロピル、ジチオリンゴ酸テトラ−2−プロピル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ブチル、ジチオリンゴ酸テトラ−2−ブチル、ジチオリンゴ酸テトライソブチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ヘキシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−オクチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−エチル)ヘキシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(3,5,5−トリメチル)ヘキシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−デシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ドデシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−ヘキサデシル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−オクタデシル、ジチオリンゴ酸テトラベンジル、ジチオリンゴ酸テトラ−α−(メチル)ベンジル、ジチオリンゴ酸テトラα,α−ジメチルベンジル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−メトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−エトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−ブトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−エトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−ブトキシープトキシ)エチル、ジチオリンゴ酸テトラ−1−(2−フェノキン)エチルなどを挙げることができる。
【0037】
[その他の硫黄化合物]
その他の硫黄化合物としては、例えば硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などの硫化油脂、チオグリコール酸、硫化オレイン酸などの硫化脂肪酸、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネート化合物、五硫化リンとピネンを反応して得られるチオテルペン化合物などを挙げることができる。
【0038】
上記した(D−1)成分は、上述の硫黄化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、この(D−1)成分の配合量は、組成物全量基準における硫黄量換算で0.2質量%以上、0.6質量%以下が好ましい。この配合量が0.2質量%未満では耐焼付性が充分に発揮できないおそれがあり、一方、配合量が0.6質量%を超えると耐FZGマイクロピッチング性等の耐疲労性に劣ると共に、酸化安定度試験(ASTM D 2893準拠)においてスラッジの発生が多くなるおそれがある。好ましい配合量は0.3質量%以上、0.5質量%以下である。
【0039】
上述の(D−1)成分を配合する際には、所望により(D−2)成分として、上記式(2)で示されるチオリン酸トリヒドロカルビルエステルも配合することが好ましい。
式(2)におけるRは、炭素数6以上、20以下のヒドロカルビル基を示す。このヒドロカルビル基としては、直鎖状、分岐状、環状の炭素数6以上、20以下のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素数6以上、20以下のアリール基または炭素数7以上、20以下のアラルキル基を示す。前記アリール基およびアラルキル基においては、芳香環上に1つ以上のアルキル基が導入されていてもよい。また、3つのRO基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
炭素数6以上、20以下のアルキル基およびアルケニル基の例としては、各種へキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、シクロへキシル基、各種へキセニル基、各種オクテニル基、各種デセニル基、各種ドデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ヘキサデセニル基、各種オクタデセニル基、シクロへキセニル基などが挙げられる。
炭素数6以上、20以下のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、デシルフェニル基、2,4−ジデシルフェニル基、ナフチル基などが挙げられ、炭素数7以上、20以下のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基、メチルナフチルメチル基などが挙げられる。
上記式(2)で示されるチオリン酸トリヒドロカルビルエステルの具体例としては、トリへキシルチオホスフェート、トリ2−エチルへキシルチオホスフェート、トリス(デシル)チオホスフェート、トリラウリルチオホスフェート、トリミリスチルチオホスフェート、トリパルミチルチオホスフェート、トリステアリルチオホスフェート、トリオレイルチオホスフェート、トリクシジルチオホスフェート、トリキンリルチオホスフェート、トリス(デシルフェニル)チオホスフェート、トリス[2,4−イソアルキル(C9、C10)フェニル]チオホスフェートなどが挙げられる。これらのチオリン酸トリヒドロカルビルホスフェートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D−2)成分のチオリン酸トリヒドロカルビルエステルは、上記(D−1)成分の硫黄化合物の添加効果をさらに高めるために、所望により配合されるものであり、その配合量は、組成物の全量に基づき、硫黄量換算で0.1質量%以上、1質量%未満が好ましく、より好ましくは0.2質量%以上、0.5質量%の範囲である。
【0040】
本組成物においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ各種添加剤、例えば無灰系清浄分散剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤および消泡剤などの中から選ばれる少なくとも1種を配合することができる。
ここで、無灰系清浄分散剤としては、例えばコハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価または二価カルボン酸アミド類などが挙げられる。無灰系清浄分散剤の配合量は、効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.01質量%以上、5質量%以下程度である。
【0041】
酸化防止剤としては、従来潤滑油に使用されているアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤を使用することができる。これらの酸化防止剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジベンジルジフェニルアミン、4,4’−ジへキシルジフェニルアミン、4,4’−ジへプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラへキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ベンジルフェニル−α−ナフチルアミン、へキシルフェニル−α−ナフチルアミン、へプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
【0042】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−トなどのモノフェノール系化合物、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系化合物が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、五硫化リンとピネンとの反応物などのチオテルペン系化合物、ジラウリルチオジプロピオネート、ジスチアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
酸化防止剤の配合量は、効果および経済性のバランスなどの面から、組成物全量基準で、0.3質量%以上、2質量%以下程度である。
【0043】
防錆剤としては、金属系スルホネート、アルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.01質量%以上、0.5質量%以下程度である。
金属不活性化剤(銅腐食防止剤)としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系およびピリミジン系化合物等が挙げられる。この中でベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。これら金属不活性化剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.01質量%以上、0.1質量%以下程度である。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.5質量%以上、15質量%以下程度である。
【0044】
流動点降下剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、例えば、質量平均分子量が5万以上、15万以下程度のポリメタクリレートが好ましく用いられる。流動点降下剤の配合量としては、組成物全量基準で、0.1質量%以上、5質量%以下程度である。
消泡剤としては、高分子シリコーン系消泡剤、ポリアクリレート系消泡剤が好ましく、この高分子シリコーン系消泡剤等を配合することにより、消泡性が効果的に発揮される。このような高分子シリコーン系消泡剤としては、例えばオルガノポリシロキサンを挙げることができ、特にトリフルオロプロピルメチルシリコーン油などの含フッ素オルガノポリシロキサンが好適である。消泡剤の配合量は、消泡効果および経済性のバランスなどの点から、組成物全量に基づき、0.005質量%以上、0.1質量%以下程度である。
【0045】
本発明の生分解性潤滑油組成物は、潤滑性、低温流動性、酸化安定性および生分解性に優れているので、例えばギヤ油(歯車油)、軸受油などの各種潤滑油として好適に使用できる。特に風力発電装置は屋外で長期間に渡って連続的に使用されるため、その内部に載置される遊星歯車式動力伝達装置(増速機)に用いる潤滑油として本組成物は好適である。また、本組成物は、風力発電装置を洋上や山間部などに設置する場合に、その内部に載置される増速機に用いる潤滑油として特に好適である。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
〔実施例1〜3、比較例1〜3〕
各種エステルなどを基油として種々の添加剤を配合し、得られた潤滑油組成物(供試油)について、種々の評価を行った。
以下に、基油として用いた各種成分および各種添加剤の詳細を示す。カルボン酸エステルについては、その性状を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(1)エステルA(A成分)
カプリル酸、カプリン酸、アジピン酸およびトリメチロールプロパンからなる複合エステルであって、カプリル酸(C8)とカプリン酸(C10)とのモル比(C8:C10)が6:4のもの(花王製カオルーブ150−28)を用いた。
(2)エステルB(A成分)
カプリル酸、カプリン酸、アジピン酸およびトリメチロールプロパンからなる複合エステルであって、カプリル酸(C8)とカプリン酸(C10)とのモル比(C8:C10)が8:2のもの(花王製カオルーブ150−30)を用いた。
(3)エステルC(A成分)
カプリル酸、カプリン酸、アジピン酸およびトリメチロールプロパンからなる複合エステルであって、カプリル酸(C8)とカプリン酸(C10)とのモル比(C8:C10)が9:1のもの(花王製カオルーブ150−31)を用いた。
(4)エステルD
カプリル酸、カプリン酸、アジピン酸およびトリメチロールプロパンからなる複合エステルであって、カプリル酸(C8)とカプリン酸(C10)とのモル比(C8:C10)が5:5のもの(花王製カオルーブ150−29)を用いた。
(5)エステルE
ペンタエリスリトール、セバシン酸およびイソステアリン酸からなる複合エステル(uniqema社製プライオルブ1851)を用いた。
(6)エステルF(B成分)
ペンタエリスリトールと飽和脂肪酸からなるエステル(花王製カオルーブ262)を用いた。
(7)エステルG
トリメチロールプロパンジイソステアレートを用いた。
(8)PAO
ポリαオレフィン(INEOS U.S.A. LLC製、PAO40)を用いた。
【0049】
(9)リン酸エステルアミン塩(C成分)
トリデシルアシッドホスフェートとトリオクチルアミンを用いた。
(10)硫黄化合物(D成分)
メチレンビスジブチルジチオカーバメイトとトリス(2,4−C9−C10イソアルキルフェノール)チオホスフェートを用いた。
(11)酸化防止剤
フェノール系としてチバスペシャルティケミカルズ社製イルガノックスL107を用いた。アミン系としてチバスペシャルティケミカルズ社製イルガノックスL57を用いた。(12)金属不活性化剤
チバジャパン社製IRGAMET39(ベンゾトリアゾール誘導体)を用いた。
(13)消泡剤
シリコーン系消泡剤(信越化学製KF96H12500CS)を用いた。
(14)抗乳化剤
ルブリゾール社製ルブリゾール5957(PAG系)を用いた。
【0050】
基油と供試油の性状測定方法および各種評価方法は以下の通りである。表2に、供試油の評価結果(生分解性、酸化安定性、潤滑性)を示す。
(1)動粘度
JIS K 2283に記載の方法に準拠して測定した。
(2)酸価
JIS K 2501に記載の方法に準拠して測定した。
(3)ケン化価
JIS K 2503に記載の方法に準拠して測定した。
(4)硫黄分
JIS K 2541に記載の方法に準拠して測定した。
(5)リン分
ASTM D 5185に記載の方法に準拠して測定した。
【0051】
(6)生分解性
修正MITI試験法(OECD301C)に準拠して生分解率を測定した。なお、1998年7月に改訂されたエコマーク認定基準では、この生分解率は60%以上であることが要求される。
(7)酸化安定度試験
ASTM D 2893に準拠し、供試油を所定の条件で空気酸化(121℃、312時間)させ、100℃動粘度増加率、酸価増加量およびミリポアフィルターで濾過した際のスラッジ量を測定した。
(8)流動点
JIS K2269に記載の方法に準拠して測定した。
(9)潤滑性
DIN51834に記載のボールオンディスク試験機及び測定条件において、試験開始15分後、30分後、90分後、120分後の摩擦係数(f15、f30、f90、f120)を測定し、120分後の摩耗痕直径の縦横平均値(Wk、単位mm)を求めた。
【0052】
【表2】

【0053】
〔評価結果〕
表2に示すように、本願発明の条件を満たす実施例1から3の供試油は、潤滑性、低温流動性、酸化安定性および生分解性のいずれにも優れており、例えば、風力発電装置に用いられる増速機用として優れた性能を発揮することが理解できる。一方、比較例1の供試油は、基油として用いたエステルDが、エステルを作製する際のカプリル酸(C8)とカプリン酸(C10)とのモル比(C8:C10)が5:5のものであるため、酸化安定性に劣っている。また、比較例2の供試油は、基油として用いたエステルEが、エステルAと異なる脂肪酸を用いた構造であり、低温流動性が劣っている。また、比較例3の供試油は、基油としてPAOを用い、さらにエステルG(分岐脂肪族カルボン酸多価アルコールエステル)を10質量%配合してなるものであるが、生分解性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と直鎖脂肪族二価カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られ、40℃における動粘度が400mm/s以上、1000mm/s以下、酸価が0.5mgKOH/g以下であるエステルと、
(B)直鎖飽和脂肪族カルボン酸と多価アルコールとを反応させて得られ、酸価が0.5mgKOH/g以下であるエステルと、
(C)酸性リン酸エステルとアルキルアミンとを反応させて得られるリン酸エステルアミン塩とを配合してなり、
前記(A)成分における直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸とからなり、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量が炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸のモル量よりも多い
ことを特徴とする生分解性潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の生分解性潤滑油組成物において、
前記(A)成分における直鎖飽和脂肪族カルボン酸は、炭素数8の直鎖飽和脂肪族カルボン酸60モル%以上90モル%以下と、炭素数10の直鎖飽和脂肪族カルボン酸10モル%以上40モル%以下とからなる
ことを特徴とする生分解性潤滑油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の生分解性潤滑油組成物がギヤ油または軸受油である
ことを特徴とする生分解性潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の生分解性潤滑油組成物において、
前記ギヤ油が風力発電装置の増速機用である
ことを特徴とする生分解性潤滑油組成物。


【公開番号】特開2013−53227(P2013−53227A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192083(P2011−192083)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】