説明

生分解性積層シート及びその加工品

【課題】溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、臭気が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂(A)や組成物(A’)及びその生分解性積層シート並びにその加工品を提供する。
【解決手段】二重結合を有する共重合成分を一定の範囲で有する脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練することにより、上記二重結合と有機過酸化物(B)とが効率的に反応するために、少量の有機過酸化物(B)により効率的に架橋が発達し、溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、有機過酸化物(B)由来の臭気が抑制された脂肪族ポリステル樹脂組成物(A’)及びその生分解性積層シートならびにその加工品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な成形性と良好な2次加工性を有するとともに、臭気が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物を基材に積層してなる生分解性積層シート及びその生分解性積層シートを使用した加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、各種食品、薬品、雑貨等の液状物、粉粒物、固形物等の包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途で、紙、プラスチック、アルミ箔等が用いられている。特にプラスチックは、強度、耐水性、成形性、透明性、製造コスト等において優れており、袋、容器等として、多くの用途で使用されている。
【0003】
現在、これらの用途に使用されているプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等がある。しかしながら、上記のプラスチックは、自然環境下において、生分解又は加水分解しないか、又は分解速度が極めて遅いために、埋設処理されたプラスチックが土中に残存したり、投棄されたプラスチックが景観を損ねたりすることがある。また、プラスチックが焼却処理された場合、有害なガスを発生したり、焼却炉を傷めたりしていた。
【0004】
これらの課題を解決する手段として、生分解性を有する材料についての研究が数多くなされてきている。生分解性材料の代表例としては、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。これらの脂肪族ポリエステル樹脂を、シート、フィルム、容器、トレイ、ボトル等の形状に賦形するためには、押出成形、ブロー成形、紙ラミネート、真空成形、真空圧空成形等の各種成形法を用いることが出来る。しかしながら、上記の脂肪族ポリエステル樹脂は、通常、溶融張力が小さいために、真空シート成形時のドローダウンが大きい、ラミネートシート成形時の冷却ロールへの貼付が大きい、ネックインが大きい等、成形加工性が不十分であることが多い。
【0005】
そこで、生分解性材料の成形加工性を改善するために、例えば、特許文献1では、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル樹脂及び有機過酸化物を溶融混練して樹脂を微架橋することで、溶融張力を向上し、成形加工性を改善した脂肪族ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、脂肪族ポリエステル樹脂、有機過酸化物及び連鎖移動剤を混合して溶融混練することで、均一に架橋が導入された脂肪族ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
特許文献3には脂肪族ポリエステル樹脂の積層体にカップリング剤を使用せずに加工中の樹脂圧を制御することにより積層体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−26658号公報
【特許文献2】特開2001−26696号公報
【特許文献3】特開2006−272712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、二重結合を有する共重合成分を一定の範囲で有する脂肪族ポリエステル樹脂と有機過酸化物とを溶融混練することにより、上記二重結合と有機過酸化物とが効率的に反応することで、少量の有機過酸化物により効率的に架橋が発達し、溶融張力に優れることになり、偶然にも良好なラミネート成形性を有するとともに、有機過酸化物由来の臭気が抑制された生分解性積層シート及び生分解性積層シートを加工した紙製容器を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と、下記式(2)で表される脂肪族ジオール単位と、下記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び下記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、下記式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位、下記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び下記式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位とを少なくとも含む脂肪族ポリエステル樹脂と有機過酸化物を含有した樹脂組成物を基材に積層してなる生分解性積層シートであって、
該脂肪族ポリエステルに含まれる該式(3)、該式(4)、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計量が、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、0.0010モル%以上0.50モル%以下、該式(3)及び該式(4)で表される単位の合計が、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計に対するモル比として、1.0以上7.0以下であって、且つ有機過酸化物が該脂肪族ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.0001重量部以上0.06重量部以下の割合で混合されていることを特徴とする生分解性積層シートに存する(請求項1)。
【0010】
【化1】


(式中、R1は、炭素数が0〜40の脂肪族飽和炭化水素基を表す。)
【0011】
【化2】


(式中、R2は、炭素数が2〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0012】
【化3】


(式中、R3は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0013】
【化4】


(式中、R4は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0014】
【化5】


(式中、R5は、一つ以上の二重結合を有する炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0015】
【化6】


【化7】


(式(6)及び式(7)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(6)はトランス型、式(7)はシス型を表す。r及びsは、それぞれ独立に、0〜17の整数を表す。R8は、水素又は炭素数が1〜17の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0016】
さらに、前記脂肪族ポリエステル樹脂の末端に存在するビニル基量が、前記脂肪族ポリエステル樹脂に対して、0.002モル%以上であることが好ましい。
【0017】
また、前記式(5)で表される単位が、下記式(8)及び/又は下記式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位であり、前記脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる前記式(8)で表される単位のモル比が、前記式(9)で表される単位に対して、8.5以下で
あることが好ましい。
【0018】
【化8】


【化9】


(式(8)及び式(9)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(8)はトランス型、式(9)はシス型を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0〜18の整数を表す。R6及びR7は、それぞれ独立に、水素又は炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0019】
さらに、前記式(3)で表される単位が、リンゴ酸に由来する単位であることが好ましい。
【0020】
この時、前記式(4)で表される単位が、クエン酸に由来する単位であることが好ましい。
【0021】
そして、前記有機過酸化物が、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0022】
そして、前記脂肪族ポリエステル樹脂の30℃における還元粘度をη、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物の30℃における還元粘度をη´とした時に、ηでη´を除した値が、1.05以上1.80以下であることが好ましい。
【0023】
そして、前記脂肪族ポリエステル樹脂の190℃における溶融張力をF、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物の190℃における溶融張力をF´とした時に、FでF´を除した値が、1.5以上であることが好ましい。
【0024】
そして、前記脂肪族ポリエステル樹脂の190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃せん断速度10s-1における溶融粘度の比をρ、また、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物の190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃せん断速度10s-1における溶融粘度の比をρ´とした時に、ρでρ´を除した値が、1.1以上3.0以下であることが好ましい。
【0025】
そして、ゲル分の含有量が10重量%未満であることが好ましい。
【0026】
また、請求項1〜5のいずれか一項の記載の生分解性積層シートを加工した紙製袋、紙製容器、紙製箱に存する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、溶融張力に優れ、ネックインが少なく接着力が強化された良好な成形性を有するとともに、2次加工性である打ち抜き性にも優れ、更に臭気が抑制された生分解性積層シート及び生分解性積層シート及びそれを加工した加工品、好ましくは紙製容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に説明する例示や実施形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することが出来る。
【0029】
本発明では、特定の樹脂を成分として含有する樹脂組成物を、その主成分となる樹脂の名前を冠して呼ぶ場合がある。ここで「主成分」とは、組成物の50重量%以上を占める成分をいうものとする。即ち、「脂肪族ポリエステル樹脂組成物」とは、脂肪族ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物をいう。
【0030】
また、本明細書では「重合体」という語を、単一種の繰り返し構造単位から構成される重合体(所謂「単独重合体」)と、複数種の繰り返し構造単位から構成される重合体(所謂「共重合体」)とを包含する概念として使用する。
【0031】
なお、以下の記載では、ある単量体に由来する重合体の部分構造単位を、その単量体の名称に「単位」という言葉を付して表わす。例えば、ジカルボン酸に由来する部分構造単位は、「ジカルボン酸単位」という名称で表わされる。
【0032】
また、同一の部分構造単位を与える単量体を、その部分構造単位の名称の「単位」を「成分」に換えた名称で総称する。例えば、芳香族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸ジエステル等の単量体は、重合体を形成する過程の反応は異なったとしても、何れも芳香族ジカルボン酸単位を形成する。よって、これらの芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸ジエステルを、「芳香族ジカルボン酸成分」という名で総称する。
また本発明における生分解性積層シートとは、基材に本発明に記載の樹脂組成物が積層されていればよく、積層体を総称するものであり、フィルムも本発明の生分解性積層シートに含まれ厚さ等にも特に制限はない。好ましくは、2次加工品である紙製袋、紙製容器、紙製箱、農業用マルチフィルム等に加工できる厚さを備えていれば特に問題はない。具体的には、樹脂層としての下限値は10μm以上であり、好ましくは12μm以上、さらに好ましくは20μm以上であればよい。さらに上限値は100μm以下であり、好ましくは80μmであり、さらに好ましくは50μm以下であることが好ましい。その下限値を下回ると、積層シートの物性が悪くなることがあり、またヒートシール性も低下するので好ましくない。一方上限値を超えると2次加工性である打ち抜き性の悪化や冷却ロールへのはりつきなどが問題となるので好ましくない。
【0033】
[1.本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物(以下、適宜「本発明の樹脂組成物(A’)」と言う。)は、以下に記載の脂肪族ポリエステル樹脂(以下、適宜「本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)」と言う。」と、有機過酸化物(以下、適宜「有機過酸化物(B)」と言う。)とを混合するものである。即ち、本発明の樹脂組成物(A’)は、下記式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と、下記式(2)で表される脂肪族ジオール単位と、下記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び下記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、下記式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位、下記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び下記式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位とを少なくとも含む脂肪族ポリエステル樹脂(A)であって、前記式(3)、前記式(4)、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計量が、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、0.0010モル%以上0.50モル%以下であり、前記式(3)及び前記式(4)で表される単位の合計が、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計に対するモル比として、1.0以上7.0以下である前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物(A’)において、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、有機過酸化物(B)0.0001重量部以上0.06重量部以下の割合で混合する。混合方法としては、溶融混練が好ましい。溶融混練により、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は有機過酸化物(B)により架橋され、本発明の樹脂組成物(A’)が構成される。なお、本発明の樹脂組成物(A’)は、1種の本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を単独で含んでも良く、2種以上の本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0034】
【化10】


(式中、R1は、炭素数が0〜40の脂肪族飽和炭化水素基を表す。)
【0035】
【化11】


(式中、R2は、炭素数が2〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0036】
【化12】


(式中、R3は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0037】
【化13】

(式中、R4は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0038】
【化14】


(式中、R5は、一つ以上の二重結合を有する炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0039】
【化15】


【化16】


(式(6)及び式(7)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(6)はトランス型、式(7)はシス型を表す。r及びsは、それぞれ独立に、0〜17の整数を表す。R8は、水素又は炭素数が1〜17の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0040】
[1−1.組成]
[1−1−1.脂肪族ポリエステル樹脂(A)]
(構成単位)
(式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族ジカルボン酸単位(1)」と言う。)のR1は、炭素数が通常0以上、好ましくは2
以上、また、通常40以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、特に好ましくは4以下の脂肪族炭化水素基を表す。なお、炭素数が0の脂肪族炭化水素基とは、R1
が存在しないことを表す。R1は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭
化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0041】
脂肪族ジカルボン酸単位(1)は、前述した範囲の炭素数を有するR1を含む脂肪族ジ
カルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0042】
本発明において用いられる脂肪族ジカルボン酸単位(1)は、脂肪族ジカルボン酸及び
/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族ジカルボン酸成分(1)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ジカルボン酸成分(1)は、2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物及び脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族カルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル、無水コハク酸等の上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物等も挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸、又はこれらの混合物が好ましく、コハク酸を主成分とする混合物がより好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸のメチルエステル、コハク酸のメチルエステル、又はこれらの混合物が好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分(1)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0043】
なお、本発明における「主成分」とは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全ジカルボン酸単位に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上含まれる単位から形成される成分のことを示す。
【0044】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量は、例えば、1H−NMR等の公知の分析法を用いて定量することができる。具体的には、例えば、0.6mlの重クロロホルムに20mgの脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン社製 Avance 400分光計を用いて、室温で1H−NMRスペクトルを測定することにより、定量できる。この際の測定条件は好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、[NMR測定条件]の項に記載した。
【0045】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、上記の脂肪族ジカルボン酸成分(1)に由来する単位の他に、本発明の効果を著しく損なわない限り、芳香族ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「芳香族ジカルボン酸成分(1)」と言う。)に由来する単位(以下、適宜「芳香族ジカルボン酸単位(1)」と言う。)を、任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。芳香族ジカルボン酸成分(1)としては、2個のカルボキシル基を有する芳香族化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。芳香族ジカルボン酸成分(1)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0046】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記芳香族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル等が挙げられる。中でも、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、ジメチルテレフタレートが好ましい。
【0047】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に、芳香族ジカルボン酸単位(1)を含む場合、含まれる芳香族ジカルボン酸単位(1)の量は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全ジカルボン酸単位に対して、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0048】
また、脂肪族ジカルボン酸単位(1)及び/又は芳香族ジカルボン酸単位(1)(以下、これらを総称して、適宜「ジカルボン酸単位(1)」と言う。)は、バイオマス資源から与えられてもよい。バイオマス資源としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣等の植物資源が好ましく、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、芋、油脂、古紙、製紙残渣がより好ましく、とうもろこし、さとうきび、キャッサバ、サゴヤシがさらに好ましい。これらのバイオマス資源は、通常、窒素元素;ナトリウム、カリウム等の多くのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属等を含有する。バイオマス資源は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
上記のバイオマス資源から製造される炭素源としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース;アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース;ペントサン、サッカロース、澱粉、セルロース等の2糖・多糖類;酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノクチン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、セラコレン酸等の油脂;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質;が挙げられる。これらの中でも、グルコース、フルクトース、キシロースが好ましく、特にグルコースが好ましい。より広義の植物資源由来の炭素源としては、紙の主成分であるセルロースが好ましい。炭素源は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0049】
これらの炭素源を用いて、微生物変換による発酵法、加水分解、脱水反応、水和反応、酸化反応等の反応を含む化学変換法、発酵法と化学変換法との組み合わせにより、ジカルボン酸成分(1)が合成される。これらの中でも、ジカルボン酸成分(1)の合成は、微生物変換による発酵法により合成されるものが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸成分(1)は、着色の少ないことが好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分(1)の黄色度(YI値)は、通常−20以上、好ましくは−10以上、より好ましくは−5以上、さらに好ましくは−3以上、特に好ましくは−1以上、また、その上限は、通常50以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは6以下、特に好ましくは4以下である。YI値が小さすぎる場合、脂肪族ジカルボン酸成分(1)の製造に高額の設備投資を要したり、多大な製造時間を要したりする場合がある。また、YI値が大きすぎる場合、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色が著しくなる場合がある。なお、YI値は、例えば、JIS K7105に基づく方法で測定することができる。
【0050】
(式(2)で表される脂肪族ジオール単位)
本発明において、上記の式(2)で表される脂肪族ジオール単位(以下、適宜「脂肪族ジオール単位(2)」と言う。)のR2は、炭素数が通常2以上、好ましくは4以上、ま
た、その上限は、通常10以下、好ましくは6以下の脂肪族炭化水素基である。R2は、
鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ジオール単位(2)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0051】
脂肪族ジオール単位(2)は、前述した範囲の炭素数を有するR2を含む脂肪族ジオー
ル及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0052】
本発明において用いられる脂肪族ジオール単位(2)は、脂肪族ジオール及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族ジオール成分(2)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ジオール成分(2)は、2個のヒドロキシル基を有する脂肪族及び脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましく、その中でも、エチレングリコール及び1,4−ブタンジオ−ルがより好ましく、1,4−ブタンジオ−ルが特に好ましい。脂肪族ジオール成分(2)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0053】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族ジオール単位(2
)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族ジオール単位(2)を定量できる。
【0054】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、上記の脂肪族ジオール成分(2)に由来する単位の他に、芳香族ジオール及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「芳香族ジオール成分(2)」と言う。)に由来する単位(以下、適宜「芳香族ジオール単位(2)」と言う。)を、任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。芳香族ジオール成分(2)としては、2個のヒドロキシル基を有する芳香族化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、その炭素数が好ましくは6以上、その上限は好ましくは15以下の芳香族ジオールであることが望ましい。芳香族ジオール成分(2)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0055】
芳香族ジオール成分(2)の具体例としては、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4´−ジヒドロキシジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン及びビス(p−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン等が挙げられる。
【0056】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に芳香族ジオール単位(2)を含む場合、含まれる芳香族ジオール単位(2)の量は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全ジオール単位に対して、通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0057】
また、脂肪族ジオール成分(2)としては、両末端ヒドロキシポリエーテルであっても良い。両末端ヒドロキシポリエーテルとしては、炭素数が通常4以上、好ましくは10以上であり、通常1000以下、好ましくは200以下、更に好ましくは100以下のものが望ましい。
【0058】
両末端ヒドロキシポリエーテルの具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレ
ングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール、ポリ1,6−ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合ポリエーテル等を使用することもできる。両末端ヒドロキシポリエーテル及び共重合ポリエーテルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0059】
この際、両末端ヒドロキシポリエーテルの使用量としては、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重量に対して、通常90重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下であることが望ましい。
【0060】
また、脂肪族ジオール単位(2)及び/又は芳香族ジオール単位(2)(以下、これらを総称して、適宜「ジオール単位(2)」と言う。)は、バイオマス資源に由来するものであっても良い。具体的には、例えば、ジオール成分(2)はグルコース等の炭素源から発酵法により直接製造してもよいし、発酵法により得られたジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、環状エーテルを化学反応によりジオール化合物に変換しても良い。
【0061】
より具体的には、例えば、コハク酸、コハク酸無水物、コハク酸エステル、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン等から化学合成により1,4−ブタンジオールを製造しても良いし、発酵法により得られた1,3−ブタジエンから1,4−ブタンジオールを製造してもよい。
【0062】
更に、バイオマス資源から公知の有機化学触媒反応により、ジオール成分(2)を製造する方法も積極的に用いられる。例えば、バイオマス資源から得られた炭素源としてペントースを利用する場合には、公知の脱水反応、触媒反応等により、容易にブタンジオール等のジオール成分(2)を製造できる。
【0063】
また、ジオール成分(2)は、通常、蒸留等の精製工程により酸化生成物等の不純物を除去された後、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の原料として用いられる。ただし、ジオール成分(2)は、少量のジオール成分(2)の酸化生成物を含んでいても良い。具体的には、酸化生成物の量は、ジオール成分(2)の全量に対して、通常1ppm以上、精製工程の経済性の観点から好ましくは10ppm以上、より好ましくは100ppm以上であり、また、その上限は、通常10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、特に好ましくは2000ppm以下である。
【0064】
ジオール成分(2)の酸化生成物の具体例としては、上記のジオール成分(2)の酸化物のほか、2−(4−ヒドロキシブチルオキシ)テトラヒドロフラン等のヒドロキシル基の水素原子がテトラヒドロフランに置換した化合物等が挙げられる。ジオール成分(2)の酸化生成物は、1種を単独で含まれていても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含まれていても良い。
【0065】
(式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)」と言う。)のR3は、炭素数が通常1以
上、樹脂の耐熱性が高いという観点から好ましくは2以上、また、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは8以下、入手容易などの観点から更に好ましくは3以下の脂肪族炭化水素基を表す。R3は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭
化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族
ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0066】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)は、前述した範囲の炭素数を有するR3を含む
脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0067】
本発明において用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)は、2個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシル基を有する脂肪族化合物又は脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸等が挙げられる。また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としては上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の低級アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ヒドロキシカルボン酸としてはリンゴ酸が好ましく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としてはリンゴ酸のエチルエステルが好ましい。さらに、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)としては、リンゴ酸とリンゴ酸のエチルエステルとの混合物も好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0068】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量は、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を容易に製造することが出来るという観点から、ポリエステルを構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.00050モル%以上、好ましくは0.0050モル%以上、より好ましくは0.020モル%以上、更に好ましくは0.040モル%以上、特に好ましくは0.075モル%以上である。また、その上限は、ゲルの発生要因となる可能性を有するという観点から、通常0.450モル%未満、好ましくは0.25モル%以下、より好ましくは0.18モル%以下、更に好ましくは0.13モル%以下、特に好ましくは0.10モル%以下である。含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量が少なすぎる場合、シート成形時や2次加工性時においての溶融張力が不十分である場合があり、多すぎる場合、ゲル化を引き起こす場合がある。
【0069】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、リンゴ酸が与える脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)は、該単位の有するヒドロキシル基がエステル結合を形成し分岐鎖を生じている場合、5.47ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)のメチンプロトンのピークにより定量することができる。一方、該単位の有するヒドロキシル基が未反応の場合、4.49ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)のメチンプロトンのピークにより定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)を定量できる。
【0070】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、上記の脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)に由来する単位の他に、本発明の効果を著しく損なわない限り、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「芳香族ヒドロキシカルボン酸成分(3)」と言う。)に由来する単位(以下、適宜「芳香族ヒドロキシカルボン酸単位(3)」と言う。)を、任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い
。芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられ、芳香族ヒドロキシカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記芳香族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等の低級アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸が好ましい。芳香族ヒドロキシカルボン酸成分(3)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0071】
(式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)」と言う。)のR4は、炭素数が通常1以
上、好ましくは3以上、また、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、入手容易等の観点から、更に好ましくは5以下の脂肪族炭化水素基である。R4
、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0072】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)は、前述した範囲の炭素数を有するR4を含む
脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0073】
本発明において用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(4)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(4)は、3個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシル基を有する脂肪族化合物及び脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記脂肪族カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等の上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の金属塩等が挙げられる。これらの内、脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸が好ましく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としては、クエン酸のエチルエステル、クエン酸のブチルエステル、又はこれらの混合物が好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(4)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0074】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の量は、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を容易に製造することが出来るという観点から、ポリエステルを構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.00050モル%以上、好ましくは0.0050モル%以上、より好ましくは0.020モル%以上、更に好ましくは0.040モル%以上、特に好ましくは0.075モル%以上である。また、その上限は、ゲルの発生要因となる可能性を有するという観点から、通常0.450モル%未満、好ましくは0.25モル%以下、より好ましくは0.18モル%以下、更に好ましくは、0.13モル%以下、特に好ましくは0.10モル%以下である。含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の量が少なすぎる場合、樹脂組成物(A’)を基材に積層し生分解性積層シートを製造する際のシート成形時や2次加工性時において溶融張力が不十分である場合があり、多すぎる場合、ゲル化を引き起こす場合が
ある。
【0075】
さらに、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)としてのリンゴ酸に由来する単位、及び/又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)としてのクエン酸に由来する単位が特に好ましい理由として、例えば、リンゴ酸及び/又はクエン酸を脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分として用いることで、リンゴ酸及び/又はクエン酸が脱水反応を起こして脂肪族ポリエステル樹脂(A)中で二重結合を形成し、それぞれ後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を形成しうるということが挙げられる。
【0076】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、クエン酸に由来する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)は、該単位の有するヒドロキシル基がエステル結合を形成し分岐鎖を生じている場合、3.18ppm〜3.36ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)のメチレンプロトンのピークにより定量することができる。一方、該単位の有するヒドロキシル基が未反応の場合、2.87ppm〜2.91ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)のメチレンプロトンのピークにより定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)を定量できる。
【0077】
(式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)」と言う。)のR5は、1つ以上の二重結合を
有し、炭素数が通常2以上、また、通常20以下、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、入手し易さの観点からさらに好ましくは3以下の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0078】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂が、シート成形時の溶融張力が十分あり、従来よりも成形性に優れた樹脂であるためには、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)並びに後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)が最適な量で本発明の脂肪族ポリエステル樹脂に含まれていることが重要である。この理由としては、未だ詳らかではないが、以下のように推察される。
【0079】
シート成形時に、これらの脂肪族不飽和ジカルボン酸単位が有する二重結合を構成する炭素原子は、前記二重結合と無機過酸化物、有機過酸化物(B)或いは有機アゾ化合物等のラジカル反応開始剤、その他フリーラジカル、或いは、イオンラジカルとが反応して、或いは、熱で誘起されたりして、ラジカル中心となり得る特性を持つ。即ち、前記二重結合を構成していた炭素原子上に発生したラジカルは、周囲の有機物等との後続反応により分岐鎖を生ずる特性を持つ。このような二重結合を有する単位が脂肪族ポリエステル構成単位として含まれていると、樹脂中に効果的に適切な量の分岐鎖を発生させることができることから、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能な特性を有する。
【0080】
また、R5が有する二重結合の量は、R5が有する炭素数をrとすると、rが偶数の場合、通常1以上、その上限は、通常r/2以下である。一方、rが奇数(rは3以上)の場合、通常1以上、その上限は、通常(r−1)/2以下である。ただし、二重結合が多すぎる場合、上記のラジカル中心となる炭素原子が関与した架橋の生成が多く起きる結果、ゲル化が引き起こされる場合がある。従って、二重結合の量の上限は、2以下であることが好ましい。
【0081】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、前述した範囲の炭素数を有するR5を含む脂
肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。

【0082】
本発明において用いられる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(5)」と言う。)に由来するものである。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(5)の具体例としては、例えば、以下に記載の脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)又は脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)が挙げられる。
【0083】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、下記式(8)及び/又は式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位等が挙げられる。
【0084】
【化17】

【0085】
【化18】


(式(8)及び式(9)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(8)はトランス型、式(9)はシス型を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0〜18の整数を表す。R6及びR7は、それぞれ独立に、水素又は炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0086】
上記の式(8)及び式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、それぞれ、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)」及び「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)」と言う。)のR6及びR7は、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数が通常1以上、また、通常18以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、特に好ましくは2以下の脂肪族炭化水素基を表す。炭素数が多すぎる場合、二重結合の周囲が嵩高くなるため、二重結合の反応性が低下してラジカル中心を生成せず、上記分岐鎖が発生しにくくなる場合がある。脂肪族炭化水素基は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の、それぞれ1種を単独で含んでいても良く、それぞれ2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0087】
なお、R6及びR7は、直接、又は他の官能基若しくは原子を介して結合し、環を形成していても良い。
【0088】
さらに、上記の式(8)及び式(9)において、mは、メチレン基の数を表し、通常0以上、その上限は、通常18以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、特に好ましくは2以下である。メチレン基の数が多すぎる場合、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(8)及び/又は(9)の入手が困難となる場合がある他、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中での分子鎖間で生じる結晶の形成が抑制される結果、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐熱性が低くなる場合がある。
【0089】
また、上記の式(8)及び式(9)において、nは、上記mと同様に、メチレン基の数を表す。nも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記mの好ましい範囲を満たすことが好ましい。
【0090】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、二重結合に関する幾何異性体としてのトランス型である脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び/又はシス型である脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)であることが好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)に対する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)のモル比を、{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)のモル数}/{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)のモル数}と定義した場合、その比が、以下に記載の特定の範囲とすることで、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は溶融張力に優れるとともに、所望の溶融張力に微調整することが可能となる。
【0091】
ここで、上記の特定の範囲とは、通常0.5以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上が望ましい。また、その上限は、通常8.5以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは5.5以下、特に好ましくは4.5以下である。上記のモル比がこの範囲を満たさない場合、樹脂組成物(A’)の溶融張力が劣ったり、溶融張力の微調整が難しくなったりする場合がある。
【0092】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の量は、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(8)が、フマル酸に由来する単位の場合、1H−NMRの6.85ppm付近に出現するフマル酸単位中の二重結合
を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量することができる。また、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(9)として、マレイン酸に由来する単位の場合は、1
H−NMRの6.25ppm付近に出現するマレイン酸単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)
を定量できる。
【0093】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)は、前述した範囲の炭素数を有するR6及びR7を含む脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0094】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)は、通常、脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)」と言う。)に由来するものである。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)の具体例としては、フマル酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジn−ブチル、フマル酸ジ2−エチルヘキシル又はこれらの混合物が好ましく、フマル酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル又はこれらの混合物がより好ましく、フマル酸が特に好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0095】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)は、通常、脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)」と言う。)に由来するものである。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)の具体例としては、マレイン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジn−ブチル、マレイン酸ジ2−エチルヘキシル又はこれらの混合物が好ましく、マレイン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル又はこれらの混合物がより好ましく、マレイン酸が特に好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0096】
従って、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)としては、フマル酸及び/又はマレイン酸に由来する単位であることが特に好ましい。
【0097】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、通常0.00015モル%以上、好ましくは0.0050モル%以上、より好ましくは0.010モル%以上、更に好ましくは0.015モル%以上、特に好ましいのは0.025モル%以上、また、その上限は、通常0.25モル%以下、好ましくは0.18モル%以下、より好ましくは0.058モル%以下、更に好ましくは0.048モル%以下、特に好ましくは0.038モル%以下である。含まれる量が少なすぎる場合、分岐鎖を効果的に発生させ難くなる場合があり、多すぎる場合、分岐鎖が過度に発生し易くなり樹脂組成物(A’)の溶融粘度を微調整することが困難となる場合がある。
【0098】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を測定した場合と同様の1H−NMRが好適な場合には、二重結合を形成する炭素原子上のプロトン、又は該炭素
原子に直接化学結合した炭素原子上のプロトンに由来するピークにより測定することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族不飽和
ジカルボン酸単位(5)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)を定量できる。
【0099】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)においては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位
(3)及び(4)、並びに脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)及び後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)の合計量が、脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる全単位の合計100モル%に対して、通常0.0010モル%以上、好ましくは0.010モル%以上、より好ましくは0.020モル%以上、更に好ましくは0.030モル%以上、特に好ましくは0.050モル%以上、また、その上限は、通常0.50モル%以下、好ましくは0.30モル%以下、より好ましくは0.20モル%以下、更に好ましくは0.15モル%以下、特に好ましくは0.12モル%以下となる。合計量が少なすぎる場合、樹脂組成物(A’)を基材に積層し生分解性積層シートを製造する際のシート成形時や2次加工性時において溶融張力が不十分であったり、効果的且つ容易に溶融張力を微調整することが難しくなったりする場合がある。一方、合計量が多すぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融張力を容易に微調整することが難しくなったり、ゲル化を引き起こしたりする場合がある。
【0100】
さらに、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、及び後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)の合計に対する、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の合計のモル比を、{脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)のモル数及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)のモル数の合計}/{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、及び後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)のモル数の合計}と定義した場合、この比が、通常1.0以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上、特に好ましくは2.0以上、また、その上限は、通常7.0以下、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下となる。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)においては、エステル結合を形成することにより分岐鎖を発生できる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)と、上記の機構により二重結合から分岐鎖を発生できる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、(6)及び(7)との、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の含有量を上記の特定の割合に調整することにより、シート成形時の溶融張力に優れ、溶融張力を微調整できる樹脂組成物(A’)を提供できる。従って、割合が小さすぎても、大きすぎても、樹脂組成物(A’)を基材に積層し生分解性積層シートを製造する際のシート成形時や二次加工時において溶融張力が不十分であったり、効果的且つ容易に溶融張力を微調整することが難しくなったりする場合がある。
【0101】
本発明においては、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は,本発明の実施例に示すように脂肪族ポリエステル製造の原料として用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)から脱水反応により誘導されても良い。
【0102】
(式(6)又は式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位)
本発明の樹脂組成物(A’)が、シート成形時の溶融張力が十分あり、従来よりも成形性に優れるためには、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、上記の構成単位を上記の割合で含むことが重要である。ただし、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、二重結合を有する単位であるという観点から、上記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)」と言う。)又は式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)」と言う。)を含んでいても良い。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又は(7)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)と共に含まれていても良く、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の代わりに含まれていても良い。
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又は(7)が、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の代わりに含まれる場合、含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又は(7)の合計量が、上記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量を満たす。さらに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)と脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)とが含まれる場合、これら3つの単位の合計量が、上記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量を満たす。
【0103】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)のR8
は、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数が通常1以上、また、その上限は、通常17以下、好ましくは14以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは4以下、特に好ましくは2以下の脂肪族炭化水素基を表す。炭素数が多すぎる場合、二重結合の周囲が嵩高くなるため、二重結合の反応性が低下し、分岐鎖が発生しにくくなる場合がある。脂肪族炭化水素基は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)は、それぞれ、1種を単独で本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれていても良く、2種以上を任煮の比率及び組み合わせで含まれていても良い。
【0104】
なお、R8は、直接、又は他の官能基若しくは原子を介して結合し、環を形成していて
も良い。
【0105】
さらに、上記の式(6)及び式(7)において、rは、メチレン基の数を表し、通常0以上、その上限は、通常17以下、好ましくは14以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは4以下、特に好ましくは2以下である。メチレン基の数が多すぎる場合、脂肪族ジカルボン酸成分(6)及び/又は(7)の入手が困難となる場合がある他、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中での分子鎖間で生じる結晶の形成が抑制される結果、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐熱性が低くなる場合がある。
【0106】
また、上記の式(6)及び式(7)において、sは、上記rと同様に、メチレン基の数を表す。sも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記rの好ましい範囲を満たすことが好ましい。
【0107】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)を与える脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(6)の具体例としては、trans−アコニット酸等が挙げられる。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)を与える脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(7)の具体例としては、cis−アコニット酸、アコニット酸無水物等が挙げられる。この内、cis−アコニット酸が好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(6)及び(7)は、それぞれ、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0108】
本発明においては、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)は、脂肪族ポリエステル樹脂の原料として用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)及び/又は(4)から脱水反応により誘導されても良い。
【0109】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)に対する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)のモル比を、{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)のモル数}/{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)のモル数}と定義した場合、その比が、以下に記載の特定の範囲とすることで、本発明の樹脂組成物(A’)は溶融張力に優れるとともに、所望の溶融張力に微調整することが可能となる。
【0110】
ここで、上記の特定の範囲とは、通常0.5以上、好ましくは0.8以上、より好まし
くは1.0以上、更に好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上が望ましい。また、その上限は、通常8.5以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは5.5以下、特に好ましくは4.5以下である。この範囲を上記のモル比が満たさない場合、樹脂組成物(A’)の溶融張力が劣ったり、溶融張力の微調整が難しくなったりする場合がある。
【0111】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又(7)の量は、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様の方法を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、1H−NMRによって二重結合を形成する炭
素原子上のプロトン、又は該炭素原子に直接化学結合した炭素原子上のプロトン等に由来するピークにより定量したり、測定し易いプロトンピークを用いて定量したりすることができる。例えば、trans−アコニット酸から誘導される単位の場合、1H−NMRを
用いて、6.93ppm付近に出現するピークにより定量できる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び
/又(7)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又(7)を定量できる。
【0112】
[1−2.本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各構成単位の好ましい態様]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、上記の単位を上記の量で有するものである。従って、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、ゲル化等に起因するブツの発生を十分に抑制し、イソシアネート化合物やカーボネート等の鎖延長剤を使用することなく、十分に高分子量化され、引張特性等の機械特性等の成形性に優れるという特性を有する。さらに、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各単位の量が、下記式(10)の範囲を満たすことが好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各単位の量が下記式を満たすことにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、射出成形、中空成形、押出成形等の汎用プラスチック成形等のシート成形時、真空成形等の二次加工時の溶融張力が十分であるため成形性に優れるとともに、シート成形時のゲル化に起因するブツの発生を十分に抑制できるため、ブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)を提供することが出来る。
【0113】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各単位は、下記式(10)が以下に記載する範囲を満たすことが好ましい。
[{X−(A+T+S)}/X]/100 (10)
(式(10)中、Xは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、原料に含まれていた脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)及び(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)を与える上記に示した化合物、並びに上記式(6)、(7)、(8)及び(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を与える上記に示した化合物の合計モル数の割合(モル%)を表す。Aは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の構成単位中の上記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び/又は上記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の合計モル数の割合(モル%)を表す。Tは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、上記式(6)及び(8)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位のモル数の割合(モル%)を表す。Sは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる上記式(7)及び式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の割合(モル%)を表す。
【0114】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整するこ
とが可能であり、従来より成形性が優れていることに加え、シート成形時のゲル化を十分に抑制でき、成形品にブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)であるためには、上記式(10)の[{X−(A+T+S)}/X]の値が、通常1.0以上、好ましくは5.0以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、特に好ましいのは25以上、また、その上限は、通常100未満、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、更により好ましくは35以下、特に好ましいのは31以下である。
【0115】
本発明で提供される脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能であり、従来より成形性が優れていることに加え、シート成形時のゲル化を十分に抑制でき、成形品にブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)であるためには、上記式(10)が上記の範囲を満たすことが好ましい。上記式(10)が上記の範囲を満たすと、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能であり、従来より成形性が優れていることに加え、シート成形時のゲル化を十分に抑制でき、成形品にブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)となる理由は、未だ詳らかではないが、 以下のように推察される。
【0116】
まず、上記式(10)において分母であるXは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する前において未分岐の、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造するために必要な原料としてのエステル結合によって分岐鎖を発生させられる3官能以上のヒドロキシカルボン酸単位を与える化合物数と二重結合から分岐鎖を発生できる上記の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を与える化合物数の合計である。上記式(10)において分子である{X−(A+T+S)}は、樹脂製造前は未分岐であった上記の原料としての化合物数(X)から、上記式(3)及び上記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位数と上記式(6)、(7)、(8)、(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位数を差し引いた数である。つまり、{X−(A+T+S)}は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する前において、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を与える二重結合を有していた化合物の一部が、本発明で提供する脂肪族ポリエステル樹脂(A)となる過程で、二重結合を失って脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の構成単位として存在する単位数である。
【0117】
すなわち、製造時等の加熱時に熱等で誘起されたラジカルの関与によって前記二重結合が周囲の有機物等との後続反応により消失し、これら後続反応の一部は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に分岐鎖を生じたと考えられる。つまり、[{X−(A+T+S)}/X]の値が高いほど、分岐鎖数が多く、ゲル化の可能性が高い。一方、値が小さすぎる場合、ゲル化抑制の観点からは、ゲル化の可能性は低くなる。
【0118】
[1−3.その他の構成単位]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)、脂肪族ジオール単位(2)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び/又は(4)、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、(6)、(7)、(8)からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、これらを総称して「必須単位」と言う。)の構成単位に加えて、その他の構成単位(以下、適宜「任意単位」と言う。)を含んでいても良い。中でも、以下の多官能成分が与える構成単位を、任意の比率及び組み合わせで含んでいることが好ましい。ただし、その場合でも、上記の構成単位の含有量は、上記範囲を満たす。
【0119】
多官能成分の具体例としては、2官能のオキシカルボン酸、架橋構造を形成するための3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸、3官能以上の多価カルボン酸無水物等が挙げられる。これらの多官能成分が与える単位(以下、適宜「多官能単位」と言う。)を含む脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、容易に重合度が高くなる傾向がある
。中でも、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、2官能のオキシカルボン酸に由来する単位を含むことが好ましい場合があり、後述する鎖延長剤を使用することなく脂肪族ポリエステル樹脂(A)が高重合度化するという観点から、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸及び3官能以上の多価カルボン酸無水物からなる群より選ばれる1種以上の成分に由来する単位を含むことがより好ましい場合がある。なお、多官能成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0120】
2官能のオキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、カプロラクトン等が挙げられるが、これらはオキシカルボン酸のエステル若しくはラクトン、又はオキシカルボン酸重合体等の誘導体であっても良い。中でも、入手が容易であるという観点から、乳酸、グリコール酸が好ましい。また、その形態としては、入手が容易であるという観点から、30重量%以上95重量%以下の水溶液が好ましい。また、これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、又はラセミ体のいずれでも良く、形態としては固体、液体、水溶液等の溶液であっても良い。
【0121】
また、2官能のオキシカルボン酸単位の量は、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.02モル%以上、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上である。一方、使用量の上限は、通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造時に、上記の成分を上記の量で用いることにより、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度を高めることが出来る。
【0122】
3官能以上の多価アルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
3官能以上の多価カルボン酸及び3官能以上の多価カルボン酸無水物の具体例としては、プロパントリカルボン酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0123】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸及び3官能以上の多価カルボン酸無水物からなる群より選ばれる1種以上の多官能成分に由来する単位の量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.0001モル%以上、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.005モル%以上、特に好ましくは0.01モル%以上である。また、その上限は、通常5モル%以下、好ましくは1モル%以下、更に好ましくは0.50モル%以下、特に好ましくは0.3モル%以下である。
【0124】
本発明で提供される脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、環境上でも課題があるイソシアネート化合物、カーボネート化合物等の鎖延長剤を使用することなく、十分に高分子量化され、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整できる樹脂を提供できるため、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、これら鎖延長剤に由来する構成単位を含まないことが特に好ましいが、本発明の効果を著しく損なわない限り、これらの鎖延長剤に由来する構成単位を含んでいてもよい。なお、鎖延長剤に由来する単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0125】
その量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対し、カーボネート結合及びウレタン結合が、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以
下、より好ましくは3モル%以下である。しかしながら、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)の特徴でもある生分解性脂肪族ポリエステル樹脂(A)として使用する場合には、ジイソシアネート及び/又はカーボネート結合が存在すると、生分解性を阻害する可能性があるため、その使用量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対し、カーボネート結合が通常1モル%未満、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下であり、ウレタン結合が、通常0.06モル%未満、好ましくは0.01モル%以下、より好ましくは0.001モル%以下である。
【0126】
カーボネート化合物としては、具体的には、ジフェニルカーボネートジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネート、などが挙げられる。その他、フェノール類、アルコール類のようなヒドロキシ化合物から誘導される、同種、または異種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物が使用可能である。
【0127】
ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、
2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合体、ジ
フェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知のジイソシアネートなどが挙げられる。
【0128】
また、その他の鎖延長剤として、ジオキサゾリン、珪酸エステルなどを使用してもよい。珪酸エステルとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジヒドロキシラン等が例示される。
【0129】
また、さらに、溶融張力を高める観点から、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、毒性の低いパーオキサイドに由来する単位を含んでいても良い。パーオキサイドは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0130】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、通常、その末端にカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基が存在する。これらのカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、単官能性のアルコール若しくはカルボン酸等で封止されても良い。これらのカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基が封止されることにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐久性を向上させることが出来るという利点が得られる。
【0131】
カルボジイミド化合物とは、その分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、1個のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミド化合物、2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物がある。カルボジイミド化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0132】
モノカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0133】
ポリカルボジイミド化合物としては、その重合度(即ち、カルボジイミド基の数)が、通常4以上、好ましくは6以上、また、その上限は、通常40以下、好ましくは30以下であることが好ましい。下限値を下回ると、臭気、刺激臭の原因となることがあり、上限
を超えると脂肪族ポリエステルと混合したときに分散不良があり、加水分解抑制効果が得られないことがある。
【0134】
ポリカルボジイミド化合物の具体例としては、工業的に入手可能なカルボジライトHMV−8CA(日清紡製)、カルボジライト LA−1(日清紡製)、スタバクゾールP(ラインケミー社製)、スタバクゾールP100(ラインケミー社製)等が挙げられる。
特に好ましくは脂環式のポリカルボジイミドであるカルボジライトであり、具体的には、HMV−8CAやLA―1が作業性、加水分解の抑制効果、機械物性等を維持向上させることができる点で好ましい。
【0135】
[1―4. 脂肪族ポリエステル(A)の物性]
本発明の脂肪族ポリエステル(A)の物性は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、中でも、以下に記載する物性が、以下に記載する範囲を満たすことが好ましい。
【0136】
(溶融流動体積)
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の成形性を表す指標として、メルトインデックスの一つである溶融流動体積(以下、適宜「MVR」と言う。)を用いることが出来る。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)におけるMVRは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、190℃、荷重2.16kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積MVR(2.16)の値は、通常0.050cm3/10分以上、好ましくは0.10cm3/10分以上、より好ましくは0.50cm3/10分以上、更に好ましくは1.0cm3/10分以上、更により好ましくは1.5cm3/10分以上、特に好ましくは2.0c m3/10分以上、また、その上限は、通常100cm3/10分以下、好ましくは50cm3/10分以下、より好ましくは25cm3/10分以下、更に好ましくは15cm3
10分以下、更により好ましくは10cm3/10分以下、特に好ましくは6.0cm3/10分以下である。MVR(2.16)が小さすぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融張力が高くなりすぎ、成形性が悪くなったり、粘張さが高くなり樹脂組成物(A’)のゲル化を促進したりする場合があり、大きすぎる場合、ゲル化の可能性が低くなる一方で溶融張力が低くなりすぎ、成形性が悪くなる場合がある。
【0137】
一方、190℃、荷重10.0kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積MVR(10.0)も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5.0cm3/10分以上、好ましくは10cm3/10分以上、より好ましくは15cm3/10分以上、更に好ましくは20cm3/10分以上、更により好ましくは25cm3/10分以上、特に好ましくは30cm3/10分以上、また、その上限は、通常500cm3/10分以下、好ましくは300cm3/10分以下、より好ましくは100cm3/10分以下、更に好ましくは80cm3/10分以下、更により好ましくは60cm3/10分以下、特に好ましくは50cm3/10分以下である。MVR(2.16)が小さすぎる場合、溶融張力が高くなりすぎ、成形性が悪くなったり、粘張さが高くなり樹脂組成物(A’)のゲル化を促進したりする場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)のゲル化の可能性が低くなる一方で溶融張力が低くなりすぎ、成形性が悪くなる場合がある。
【0138】
さらに、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除した値(以下、適宜「MVR−R」と言う。)の値も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.50以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは5.0以上、更に好ましくは8.0以上、更により好ましくは10.0以上、特に好ましくは10.5以上、また、その上限は、通常25.0以下、好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、更に好ましくは12.0以下、更により好ましくは11.5以下、特に好ましくは11.
0以下である。MVR−Rの値が小さすぎる場合、樹脂組成物(A’)のゲル化の可能性が低くなる一方で溶融張力が低くなりすぎ、成形性が悪くなる場合があり、大きすぎると、樹脂組成物(A’)の溶融弾性や溶融粘性等が高くなる結果、樹脂組成物(A’)のゲル化を促進する場合がある。
【0139】
なお、MVRは、例えば、タカラ工業製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210の方法に従って測定することが出来る。具体的には、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステル樹脂(A)をタカラ工業製メルトインデクサーに供することにより、JIS−K7210に基づいて、とMVR(2.16)とMVR(10.0)とを測定することが出来る。
【0140】
(メルトフローレート)
また、メルトフローレート(以下、適宜「MFR」と言う。)も指標として用いることが出来る。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)におけるMFRは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRの値は、通常0.5g/10分以上、好ましくは1.0g/10分以上、より好ましくは2.0g/10分以上、また、その上限は、通常100g/10分以下、好ましくは80g/10分以下、より好ましくは60g/10分以下であることが望ましい。MFRが小さすぎる場合、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶融して樹脂組成物(A’)とした際、樹脂組成物(A’)の粘度が非常に高くなる場合がある。従って、成形加工を実施する際に押出機に負荷がかかりすぎる、せん断発熱が大きくなるために樹脂の劣化が生じる等の理由から、安定的に生分解性積層シートが得られない可能性がある。MFRが大きすぎる場合、溶融樹脂の粘度が大幅に低下する場合がある。従って、上記樹脂組成物(A’)を基材に積層し生分解性積層シートを製造する際のシート成形時や2次加工性時において、十分な溶融張力がないことから、成形方法、成形温度等の成形条件によっては、生分解性積層シートを得ることができなくなる可能性がある。
【0141】
なお、MFRは、例えば、JIS−K7210に基づき測定することが出来る。また、測定装置として、例えば、タカラ工業製メルトインデクサーを用いて、それぞれの条件下で測定することが出来る。
【0142】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するカルボキシル基の量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するカルボキシル基(以下、適宜「末端カルボキシル基」と言う。)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常0.1μモル/g以上、好ましくは1.0μモル/g以上、より好ましくは5.0μモル/g以上、更に好ましくは10.0μモル/g以上、特に好ましくは15.0μモル/g以上、また、その上限は、通常70μモル/g以下、好ましくは65μモル/g以下、より好ましくは60μモル/g以下、更に好ましくは40μモル/g以下、特に好ましくは30μモル/g以下である。カルボキシル基の量が多すぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐加水分解性が悪くなる場合がある。なお、末端カルボキシル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)をベンジルアルコールに溶解し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することにより、測定することができる。測定は複数回行い、その平均値を脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシル基の量とすることが好ましい。
【0143】
(還元粘度)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の30℃における還元粘度η(η=ηsp/c)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.6dL/g以上、好ましくは1.8dL/g以上、より好ましくは1.9dL/g以上、更に好ましくは2.0dL/g以上、特に好ましいのは2.1dL/g以上、また、その上限は、通常6dL/
g以下、好ましくは5dL/g以下、より好ましくは4dL/g以下、更に好ましくは3dL/g以下である。還元粘度が小さすぎる場合、上記樹脂組成物(A’)を基材に積層し生分解性積層シートを製造する際のシート成形時や2次加工性時において、十分な溶融粘度が得られない場合があり、大きすぎる場合、シート成形時の溶融粘度が高くなりすぎたり、ゲル化を促進したりする場合がある。なお、還元粘度は、例えば、ウベローデ粘度管を用いて測定することができる。具体的には、フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)溶媒に、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を0.5g/dlとなるように溶解させ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)溶液の30℃での溶液粘度をウベローデ粘度管で測定することにより、測定することができる。
【0144】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するヒドロキシル基の量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するヒドロキシル基(以下、適宜「末端ヒドロキシル基」と言う。)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常10μモル/g以上、好ましくは15μモル/g以上、より好ましくは20μモル/g以上、更に好ましくは25μモル/g以上、また、その上限は、通常100μモル/g以下、好ましくは80μモル/g以下、より好ましくは70μモル/g以下、更に好ましくは60μモル/g以下、更により好ましくは50μモル/g以下、特に好ましくは40μモル/g以下である。なお、末端ヒドロキシル基の量は、好適な公知の分析法を用いて定量すればよい。例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)末端が、1,4−ブタンジオールに由来する単位であり、その単位の有する末端ヒドロキシル基を定量する場合、1H−NMRを用いて、3.66ppm付近に出現する末端ヒドロキシル基が直接結合する炭素原子上のメチレンプロトンのピークにより定量できる。
【0145】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するビニル基の量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するビニル基(以下、適宜「末端ビニル基」と言う。)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常0.001モル%以上、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.025モル%以上、更に好ましくは0.04モル%以上、特に好ましくは0.07モル%以上、また、その上限は、通常0.45モル%以下、好ましくは0.15モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。末端ビニル基の量が少なすぎる場合、樹脂組成物(A’)を基材に積層し生分解性積層シートを製造する際のシート成形時や2次加工性時においての溶融張力が不十分である場合があり、多すぎる場合、樹脂組成物(A’)のゲル化を引き起こし、得られるシート積層体のゲルによる概観不良や接着性を悪化させることがある。
【0146】
末端ビニル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族カルボン酸単位(1)の主成分がコハク酸に由来する単位であり、又は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に由来する脂肪族ジオール単位(2)の主成分が1,4−ブタンジオールに由来する単位である場合には、5.15ppm付近、又は、5.78ppm付近に出現する脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端側に存在する二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量することができる。
【0147】
(YI値)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の黄変度(以下、適宜「YI値」と言う。)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常−2.0以上、好ましくは−1.5以上、より好ましくは−1.0以上、更に好ましくは−0.5以上、特に好ましくは0.0以上、また、その上限は、通常20.0以下、好ましくは15.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは8.0以下、特に好ましくは6.0以下である。YI値が大きすぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の黄味が強くなり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色の原因となる場合がある。なお、YI値は、例えば、測色色差計Color Meter ZE2000(日本電色工業製)を用い、JIS K7105の方法に基づいて測定することができる。
【0148】
(溶融張力)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の190℃における溶融張力Fは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1g以上、好ましくは0.3g以上、より好ましくは0.5g以上であり、また、その上限は、通常60g以下、好ましくは55g以下、より好ましくは50g以下である。溶融張力Fが小さすぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)を溶融混練して得られる樹脂組成物(A’)の溶融張力も小さくなるため、樹脂組成物(A’)の成形加工性が改善されない場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融張力が大きくなりすぎるため、シート成形時の溶融樹脂の延展性が低下する、フィルム等の成形体の伸び等の機械物性が著しく低下する等の可能性がある。なお、溶融張力Fは、例えば、東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて測定することができる。具体的には、口径2.095mm、長さ8.1mmのノズルを備えた東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて、測定温度を190℃において、溶融した脂肪族ポリエステル樹脂(A)を押出速度10mm/分で押し出し、ノズルから出た溶融脂肪族ポリエステル樹脂(A)のストランドを張力検出するプーリーを通してロールで巻き取り、この張力を測定することで測定することができる。
【0149】
(溶融粘度)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の、190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度は、通常100Pa・s以上、好ましくは150Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上であり、また、その上限は、通常15000Pa・s以下、好ましくは13000Pa・s以下、より好ましくは10000Pa・s以下である。溶融粘度が小さすぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融粘度が小さくなり、成形加工が困難になる場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融粘度が大きくなりすぎるため、成形加工を実施する際に押出機に負荷がかかりすぎる、せん断発熱が大きくなるために樹脂組成物(A’)の劣化が生じる、等の理由から成形体を得ることができない場合がある。
【0150】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の、190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度は、通常50Pa・s以上、好ましくは60Pa・s以上、より好ましくは70Pa・s以上であり、また、その上限は、通常1000Pa・s以下、好ましくは800Pa・s以下、より好ましくは600Pa・s以下である。溶融粘度が小さすぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融粘度が小さくなり、成形加工が困難になる場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)の溶融粘度が大きくなりすぎるため、成形加工を実施する際に押出機に負荷がかかりすぎる、せん断発熱が大きくなるために樹脂組成物(A’)の劣化が生じる、等の理由から成形体を得ることができない場合がある。
【0151】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)において、190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度の比ρは、通常3.0以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上である。ρが小さすぎる場合、溶融混練の方法によっては有機過酸化物(B)との反応が困難になる場合がある。
【0152】
なお、溶融粘度は、例えば、東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて測定することができる。具体的には、口径1mm、長さ20.6mmのノズルを備えた東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて、測定温度を190℃として溶融粘度を測定することができる。
【0153】
(ゲル分)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)におけるゲル分の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。ゲル分が多すぎる場合、樹脂組成物(A’)からなる生分解性積層シートの外観を損ねるたり、生分解性積層シートを加工する上で延展性が乏しく、成形スピードがあげられない場合がある。なお、ゲル分は、例えば、以下の方法に従って測定することができる。即ち、先ず、5gの脂肪族ポリエステル樹脂(A)をクロロホルム200mLに溶解して8時間加熱還流を行う。次に、600メッシュ櫛を有するろ過装置を用いてろ過し、ろ過後の残留物をオーブンで70℃8時間減圧乾燥を行う。乾燥後の重量を測定し、以下の式により、ゲル分を測定することができる。
【0154】
ゲル分の含有量=(X/5)×100
(ただし、Xは乾燥後の重量[g]を表す。)
【0155】
(融点)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の融点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、また、その上限は、通常160℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。融点が低すぎる場合、樹脂組成物(A’)からなる基材に積層してなる生分解性積層シートを製造する際に、離ロール製が悪化し、成形できなかったり、積層シートの使用時に、積層シートの樹脂層が変形するなど耐熱性に劣る場合がある。一方、高すぎる場合、生分解性積層シートを2次加工する際、ヒートシール発現温度が高くなり、成形加工が困難になる場合がある。
【0156】
[1−5.脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り、公知の任意の触媒を用い、公知の任意の製造方法により、製造されることが出来る。例えば、溶融重縮合や、有機溶媒を用いた溶液加熱脱水縮合等によって製造することができる。中でも、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、経済性及び製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行なう溶融重縮合が好ましい。
【0157】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)はバイオマス資源から誘導しても良い。バイオマス資源の種類やその製造方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、及び、物理的処理等の、公知の何れの前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導して得られたバイオマス資源を用いることもできる。
【0158】
以下、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶融重縮合により製造する場合について詳しく説明するが、溶融重合法の手順はこれに限定されるものではなく、一部の工程を省略したり、他に代わる工程に変更したり、他の任意の工程を有していたりしても良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、溶融重縮合に限られるものではない。
【0159】
触媒としては、通常、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素を含む化合物が用いられる。具体的には、例えば、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群より選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩またはβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物や複合酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物等が挙げられる。なお、触媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0160】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融或いは溶解した状態であると重合速度が高くなる場合がある為、重合時に液状であるか、エステル低重合体及び脂肪族ポリエステル樹脂(A)に溶解する化合物が好んで使用される。
さらに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造用の触媒として、例えば、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物を予め混合させて調製した触媒(以下、適宜「金属複合触媒」と言う。)を用いることもできる。
【0161】
前記触媒中のチタン原子、アルカリ土類金属原子及びリン原子の含有量は、チタン原子の含有量をT(モル基準)、アルカリ土類金属の含有量をM(モル基準)及びリン原子の含有量をP(モル基準)とした場合、T/P(モル比)の下限は、通常0.5以上、好ましくは0.7以上であり、上限は、通常5.5以下、より好ましくは3.0以下である。下限値未満であると、触媒活性が低下する傾向がある。一方、上限値を超えると、製造される脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色が著しくなるばかりか、触媒の安定性が低下し、触媒の失活が起き、更には触媒失活物が製品中に混入して製品の品質を損ねる場合がある。
【0162】
一方、M/P(モル比)の下限は通常0.5以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、上限は、通常5.5以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.5以下である。下限値未満であると、触媒活性が低下する場合があり、上限値を超えると、この触媒を用いて得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定性が悪化する場合がある。また、アルカリ土類金属が析出する場合もある。
【0163】
前記触媒はアルコール、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物を混合し、この混合物を濃縮することによって製造することが好ましい。より詳しくは、(i)アルコール、チタン化合物、アルカリ金属化合物及び酸性リン酸エステル化合物を混合、溶解、反応させる工程
(ii)工程(i)で得た反応溶液からアルコールなどを留去することにより濃縮を行うと同時に更に反応を進め、粘稠な液体状触媒、又は固体状触媒、あるいはこれらの混合物を得る工程により製造されることが好ましい。この時、用いられるアルコールは反応には関与せず、単に溶媒としてのみ働くものと考えられる。
【0164】
ここで粘稠な液体状触媒、又は固体状触媒、あるいはこれらの混合物と、得られる触媒の形態が異なるのは、濃縮の度合いによるものである。工程(ii)で得られる触媒はそのままか、あるいはエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールなどのグリコールなどに溶解させてから容易に回収することができる。なお、濃縮時に留去されるものは溶媒として用いられるアルコール、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物の反応によって副生するアルコール、有機酸などである。
【0165】
このようにして得られる触媒は、溶媒として用いられたアルコールを除く原料の総重量よりも通常重量が減少している。得られる触媒の重量W1と、混合に用いた、即ち、上記
(i)の工程でアルコールと混合したチタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物の重量の和W0との比W1/W0は、通常0.45以上通常0.85
以下である。この比は、通常、用いられる原料化合物の種類、組成比等によって変化する。
【0166】
(触媒溶解用の溶媒)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法において、重縮合反応は無溶媒下で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させるために少量の溶媒を使用しても良い。この触媒溶解用の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール等のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水等が挙げられる。触媒溶解用の溶媒としては、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0167】
また、その使用量は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り任意であるが、触媒濃度が、通常0.0001重量%以上、通常99重量%以下となるように使用することが望ましい。
【0168】
(使用量)
重合触媒として金属材料を用いる場合、触媒の使用量は、生成する脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重量に対して、触媒に含まれる金属量が通常0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、更により好ましくは10ppm以上、特に好ましくは20ppm以上、また、その上限は、通常30000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは250ppm以下、更に好ましくは100ppm以下、特に好ましくは60ppm以下となる触媒量を用いることが望ましい。使用する触媒の量が少なすぎる場合、重合活性が低くなり、それに伴い脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造中に脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解が引き起こされ、実用上有用な物性を示す脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られにくくなる場合がある。量が多すぎる場合、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかではないが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の末端カルボキシル基濃度が多くなる傾向がある為、末端カルボキシル基の量及び残留触媒濃度の増大により脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定性、耐加水分解性等が低下する場合がある。
【0169】
(導入時期)
また、反応系への触媒の混合時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に反応系に混合しておいてもよいが、用いる触媒によっては、水が多く存在、もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合があるため、後述するエステル化反応及び/又はエステル交換反応終了後に混合するほうが好ましい場合がある。
【0170】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り任意であるが、通常、公知の反応装置及び公知の触媒を用いて、溶融重縮合により製造することが好ましい。
【0171】
(反応装置)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法には、通常、回分式反応と連続式反応が用いられる。回分式反応は、通常、エステル化反応及び/又はエステル交換反応と重縮合反応とを回分式で行う反応であり、連続式反応は、通常、エステル化反応及び/又はエステル交換反応と重縮合反応とを連続的に行う方法である。
【0172】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を回分式に製造する反応装置としては、例えば
、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。中でも、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、当該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分、未反応の単量体等が回収される方法が好適に用いられる。
【0173】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を連続式に製造する反応装置としては、通常、エステル化及び/又はエステル交換反応槽と重縮合反応槽とを用いる。エステル化及び/又はエステル交換反応槽としては、特に限定されるものではないが、例えば、公知の縦型攪拌完全混合層、縦型熱対流式混合層、塔型連続反応槽等を使用することができる。また、重縮合反応槽としても同様に特に限定されるものではなく、例えば、公知の縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを使用することができる。なお、エステル化及び/又はエステル交換反応槽及び重縮合反応槽は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0174】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法として、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下で、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端ヒドロキシル基のエステル交換反応により生成するジオールを留去しながら脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度を高める方法、若しくは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシル基のエステル交換反応により生成するジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去しながら脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度を高める方法等が挙げられる。
【0175】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、より低温でも重合速度が高く、鎖延長剤等を用いずとも高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が容易に得られる観点から、後者のジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去する方法を用いることが好ましい場合がある。この場合、ジカルボン酸及び/又はその無水物の除去は、通常、上記の重縮合反応中にジカルボン酸及び/又はその酸無水物を加熱留出させる方法が採られるが、重縮合反応条件下では、ジカルボン酸は酸無水物になりやすいため、酸無水物の形態で加熱留出させる場合が多い。また、その際、重合速度向上の観点から、ジオールから誘導される鎖状又は環状エーテル及び/又はジオールも共に除去されることが望ましい場合がある。
【0176】
ここで、ジカルボン酸及び/又はその酸無水物とジオールとを留去させる際、留去されるジカルボン酸及び/又はその無水物とジオールとの合計量に含まれるジカルボン酸及び/又はその無水物の量は、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造できるという観点から、通常30モル%以上、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であることが望ましい。
【0177】
ジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去する方法により高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する製造装置の条件として、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の反応容器側排気口の温度を、ジカルボン酸無水物の融点、又は重縮合反応時の真空度でのジカルボン酸無水物の沸点のいずれか低い方の温度以上に保持することが好ましい。これにより、生成するジカルボン酸及び/又はその酸無水物が効率よく反応系から除去でき、目的の高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が短時間で製造できるため好ましい。更には、反応容器側排気口から凝縮器までの配管温度を酸無水物の融点、又は重縮合反応時の真空度での沸点のいずれか低い方の温度以上に保持することがより好ましい。
【0178】
(原料)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する際の原料は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り、任意である。ただし、上記記載の(構成単位)の項に記載に記載されている成分を原料として少なくとも用いることが好ましい。
【0179】
また、原料の使用量としては、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)が所望の構成単位を所望の比率で有することができるように設定すればよい。具体的には、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の目的、原料の種類等により好ましい範囲が異なるため一概には言えないが、脂肪族ジカルボン酸成分(1)1モルに対する脂肪族ジオール成分(2)の量が、通常0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上であり、また、その上限が、通常3.0モル以下、好ましくは2.7モル以下、特に好ましくは2.5モル以下であることが望ましい。
【0180】
一方、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する際、上記のジカルボン酸及び/又はその酸無水物の留去しながら重縮合反応を行う場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の目的、原料の種類等により好ましい範囲が異なるため一概には言えないが、脂肪族ジカルボン酸成分(1)1モルに対する脂肪族ジオール成分(2)の量が、通常0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上、更に好ましくは0.95以上であり、また、その上限が、通常1.15モル以下、好ましくは1.1モル以下、特に好ましくは1.08モル以下であることが望ましい。
【0181】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が任意単位を含有する場合、その任意単位もそれぞれ目的とする組成となるように、それぞれに対応する成分(単量体やオリゴマー;以下、適宜「任意成分」と言う。)を反応に供すれば良い。任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0182】
この時、上記の任意成分を反応系に導入する時期及び方法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。例えば脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分を反応系に導入する時期及び方法は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、例えば、(1)あらかじめ触媒を脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分溶液に溶解させた状態で反応装置に供給する方法、(2)原料仕込み時触媒を反応装置に供給すると同時に、反応装置に供給する方法、等が挙げられる。
【0183】
(添加剤)
さらに、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造するに際して、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、各種添加剤を任意の比率及び組み合わせで使用することが出来る。各種添加剤としては、例えば、有機リン化合物等が挙げられる。また、その使用量も、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意であるが、有機リン化合物の含有量が、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中のリン元素の含有量として、下限が、通常0.01ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、特に好ましくは10ppm以上である。一方、その上限は、通常5000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、更に好ましくは100ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。使用量が少なすぎると脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定化が発現しない場合があり、使用量が多すぎると製造される脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐加水分解性が著しく低下する場合がある。各種添加剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0184】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中にリン元素を含有させるためには、以下に示す有機リン化合物を脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造時の任意の工程で混合する方法がとられるが、操作の容易さの理由から反応仕込み時に含有させる方法が好ましい。
【0185】
これらのリン元素含有化合物を製造時に混合することにより脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定化が発現し、より高温での脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造が可能となる。
【0186】
有機リン化合物としては、有機ホスフェイト金属塩、ホスファイトならびにホスホナイトの群から選ばれる有機リン化合物ならびにそれらの混合物であることが好ましい。この中でも、特に製造時の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定化効果が高く且つ製造後の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐加水分解性等の耐久性に優れる理由から、ホスファイトならびにホスホナイトがより好ましく、ホスファイトが特に好ましい。
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する際、有機リン化合物は、特に混合順序には限定はなく、例えば、原料の単量体と一括に反応装置に入れて反応することもできるし、脂肪族ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とをエステル化反応又はエステル交換反応させた後に反応装置に供給しても良い。
【0187】
更に本発明において、ジカルボン酸成分として脂肪族カルボン酸に加えて芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを混合して使用する場合は、特に混合順序には限定はなく、例えば、第1として、原料の単量体を一括に反応装置に入れて反応することもできるし、第2として、ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とをエステル化反応又はエステル交換反応させた後、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分をエステル化反応又はエステル交換反応させ、更に重縮合反応させる方法等種々の方法を採用することができる。
【0188】
(反応条件)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶融重縮合により製造する工程は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行い、減圧して重縮合反応を行う。
【0189】
(エステル化反応及び/又はエステル交換反応における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間)
エステル化反応及び/又はエステル交換反応における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間などの条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、通常150℃以上、好ましくは180℃以上、また、その上限は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。さらに、反応圧力は、通常10kPa以上、通常常圧以下であるが、中でも常圧が好ましい。反応時間は、通常1時間以上、また、その上限は通常10時間以下、好ましくは4時間以下である。
【0190】
(重縮合反応における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間)
重縮合反応の反応温度は、通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常280℃以下、好ましくは260℃以下である。反応温度が低すぎる場合、重縮合反応の速度が極めて遅くなり、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機が必要となる為、経済的に不利となる可能性がある。一方、反応温度が高すぎる場合、重合速度は向上するものの、重縮合反応時に生成した脂肪族ポリエステル樹脂(A)が同時に熱分解されてしまい、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造が難しくなる可能性がある。従って、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法においては、重縮合反応の反応温度の制御が極めて重要である。
【0191】
また、反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気が好ましい。
【0192】
反応圧力は、通常0.01×103Pa以上、好ましくは0.01×103Pa以上であり、上限が通常1.4×103Pa以下、好ましくは0.4×103Pa以下の真空度下であることが望ましい。重合製造時の圧力が高すぎると、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重縮合時間が長くなり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解による分子量低下、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色等が引き起こされ、実用上十分な特性を示す樹脂組成物(A’)を製造することが難しくなる可能性がある。一方、重合速度を向上させる観点からは、超高真空重合設備を用いた重縮合反応が好ましいが、圧力が低すぎると、極めて高額な設備投資が必要となる可能性がある。
【0193】
反応時間は、通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。反応時間が短すぎると反応が不十分となり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度が低くなる可能性がある。また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の引張り破断伸び率が低く、また、その末端カルボキシル基量が多いことから、引張り破断伸び率の劣化が著しくなる可能性もある。一方、反応時間が長すぎると、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解による分子量低下が引き起こされ、引張り破断伸び率が低下するばかりでなく、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐久性に影響を与える末端カルボキシル基が熱分解により増加する可能性がある。また、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)のゲル化が引き起こされる可能性もある。
【0194】
(重縮合反応における減圧平均速度と昇圧平均速度)
重縮合反応を進行させる際、通常、反応系の圧力を上記の反応圧力まで減圧するが、この際、減圧平均速度を制御しながら減圧することが好ましい。具体的な減圧平均速度として、常圧から2hPaまでの減圧平均速度が、通常2hPa/分以上、好ましくは3hPa/分以上、より好ましくは4hPa/分以上、更に好ましくは5hPa/分以上、特に好ましくは6hPa/分以上、また、その上限は、通常15hPa/分未満、好ましくは12hPa/分以下、より好ましくは10hPa/分以下、更に好ましくは9hPa/分以下、特に好ましくは8hPa/分以下であることが望ましい。減圧平均速度が遅すぎる場合、重縮合時間が長時間化する可能性がある。また、速すぎる場合、反応装置内の揮発成分の蒸発量が多くなり、重合体から奪われる蒸発熱の量が大きくなり、重合体温度が低下しすぎる可能性がある。
【0195】
[2.有機過酸化物(B)]
本発明の樹脂組成物(A’)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、有機過酸化物(B)とを溶融混練してなる。有機過酸化物(B)としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意のものを任意の比率で用いることが出来る。中でも、有機過酸化物(B)としては、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上の化合物を用いることが好ましい。より好ましくは、
パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイドであり、更に好ましくは、ジアルキルパーオキサイドが操作しやすい適切な半減期温度、水素引抜能を有し、さらに臭気が少ないという点で、操作性や分岐構造の制御のしやすさで有効である。
なお、有機過酸化物(B)は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。 以下に、具体的な好ましい化合物の記載を列挙する。
【0196】
ケトンパーオキサイドの具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0197】
ジアシルパーオキサイドの具体例としては、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0198】
パーオキシジカーボネートの具体例としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0199】
パーオキシエステルの具体例としては、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0200】
パーオキシケタールの具体例としては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート等が挙げられる。
【0201】
ジアルキルパーオキサイドの具体例としては、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジーt−ヘキシルパーオキサイド、2.5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3等が挙げられる。
【0202】
ハイドロパーオキサイドの具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0203】
また、有機過酸化物(B)の使用量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、通常0.0001重量部以上、好ましくは0.0005重量部以上、より好ましくは0.001重量部以上、また、その上限は、通常0.06重量部以下、好ましくは0.03重量部以下、より好ましくは0.01重量部以下である。有機過酸化物(B)の量が少なすぎる場合、架橋効果が得られなくなる場合があり、多すぎる場合、本発明の樹脂組成物(A’)に未反応の有機過酸化物(B)、残渣等が残る場合がある。また、有機過酸化物(B)の使用量が上記範囲にあると、本発明の樹脂組成物(A’)が所望の量で微架橋されることで溶融張力等が効率的に向上し、成形性が増すばかりでなく、臭気なども生じないという利点が得られる。
【0204】
なお、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記の有機過酸化物(B)の使用量の上限値を超える範囲で有機過酸化物(B)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)に混合し、樹脂組成物(A’)を製造し、その後脂肪族ポリエステル樹脂(A)と混合して希釈することで、有機過酸化物(B)の使用量が上記混合範囲内にある樹脂組成物(A’)を製造することも可能である。
【0205】
[2−1.樹脂組成物(A’)の物性]
本発明の樹脂組成物(A’)の物性は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、中でも、以下に記載する物性が、以下に記載する範囲を満たすことが好ましい。
【0206】
(含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量)
本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含
まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量と同様である。
【0207】
なお、樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量は、例えば、上記記載の(構成単位)の項に記載の(式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0208】
(含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量)
本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジオール酸単位(2)の量と同様である。
【0209】
なお、樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量は、例えば、上記記載の(構成単位)の項に記載の(式(2)で表される脂肪族ジオール単位)に記載の方
法に従って測定できる。
【0210】
(含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量)
本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、それぞれ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量と同様である。
【0211】
なお、樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量は、例えば、上記記載の(構成単位)の項に記載の(式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)及び(式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0212】
(含まれる不飽和脂肪族ジカルボン酸単位(5)、(6)、(7)の量)
本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる不飽和脂肪族ジカルボン酸単位(5)、(6)及び(7)(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位」と言う。)中の二重結合は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練すると、通常、有機過酸化物(B)と反応して、含まれる脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士が架橋されるため、その一部又は全部が単結合となる。従って、本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量を測定することにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋の度合いを測定することができる。
【0213】
本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、樹脂組成物(A’)に含まれる全単位の合計に対して、通常0.25モル%以下、好ましくは0.18モル%以下、より好ましくは0.058モル%以下、さらに好ましくは0.048モル%以下、特に好ましくは0.038モル%以下である。割合が大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)を成形加工する際、分岐鎖が過度に発生し易くなり、成形加工が困難になる場合がある。
【0214】
なお、樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量は、例えば、上記記載の(構成単位)の項に記載の(式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0215】
(樹脂組成物(A’)の末端に存在するビニル基の量)
本発明の樹脂組成物(A’)の末端ビニル基の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端ビニル基と有機過酸化物(B)とが反応しうるため、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端ビニル基の量よりも減
少する。なお、末端ビニル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれるビニル基の場合と同様に測定できる。
【0216】
(樹脂組成物(A’)の末端に存在するカルボキシル基の量)
本発明の樹脂組成物(A’)の末端カルボキシル基の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、樹脂組成物(A’)に対して、通常70μモル/g以下、好ましくは65μモル/g以下、より好ましくは60μモル/g以下、更に好ましくは40μモル/g以下、特に好ましいのは30μモル/g以下、また、その下限は、通常0.1μモル/g以上、好ましくは1.0μモル/g以上、より好ましくは5.0μモル/g以上、更に好ましくは10.0μモル/g以上、特に好ましいのは15.0μモル/g以上である。末端カルボキシル基の量が多すぎる場合、樹脂組成物(A’)の耐加水分解性が悪くなる場合がある。なお、末端カルボキシル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれるカルボキシル基の場合と同様に測定できる。
【0217】
(還元粘度)
本発明の樹脂組成物(A’)の30℃における還元粘度η´(η´=ηsp´/c)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.6dL/g以上、好ましくは1.8dL/g以上、より好ましくは1.9dL/g以上、更に好ましくは2.0dL/g以上、特に好ましいのは2.1dL/g以上、また、その上限は、通常6dL/g以下、好ましくは5dL/g以下、より好ましくは4dL/g以下、更に好ましくは3dL/g以下である。還元粘度が小さすぎる場合、樹脂組成物(A’)のシート成形時に十分な溶融粘度が得られない場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)のシート成形時に溶融粘度が大きくなりすぎる又はゲル化を促進してしまう場合がある。なお、還元粘度は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様の方法により測定できる。
【0218】
(溶融張力)
本発明の樹脂組成物(A’)の190℃における溶融張力F´は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2.0g以上、好ましくは2.5g以上、より好ましくは3.0g以上であり、また、その上限は、通常60g以下、好ましくは55g以下、より好ましくは50g以下である。溶融張力が小さすぎる場合、本発明の効果である樹脂組成物(A’)の成形加工性の改善効果が得られない場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)のシート成形時の溶融樹脂の延展性が低下する、フィルム等の成形体の伸び等の機械物性が低下する場合がある。なお、溶融張力は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の溶融張力と同様に測定できる。
【0219】
(溶融粘度)
本発明の樹脂組成物(A’)において、温度190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度は、特に制限はないが通常100Pa・s以上、好ましくは150Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上であり、また、その上限は、通常15000Pa・s以下、好ましくは13000Pa・s以下、より好ましくは10000Pa・s以下である。
【0220】
本発明の樹脂組成物(A’)において、温度190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度は、通常50Pa・s以上、好ましくは60Pa・s以上、より好ましくは70Pa・s以上であり、また、その上限は、通常1000Pa・s以下、好ましくは800Pa・s以下、より好ましくは600Pa・s以下である。
【0221】
本発明の樹脂組成物(A’)において、温度190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、温度190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度の比ρ´は、通常3.0以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上である。ρ´が小さ
すぎる場合、適用する成形加工法、成形条件によっては樹脂組成物(A’)の成形が困難になる場合ある。
【0222】
なお、溶融粘度は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様に測定できる。
【0223】
(融点)
本発明の樹脂組成物(A’)の融点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の融点と同様である。融点が低すぎる場合、成形体の耐熱性が問題になる場合があり、高すぎる場合、樹脂組成物(A’)の成形加工が困難になる場合がある。
【0224】
[2−2.脂肪族ポリエステル樹脂(A)及び樹脂組成物(A’)における物性の好ましい関係]
(各構成単位の含有量)
【0225】
さらに、本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の合計に対する、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の合計の割合yは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位中の二重結合と有機過酸化物(B)とが反応して、その全部/又は一部が単結合となるため、通常、樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量よりも減少する。従って、yの値は、通常、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の合計に対する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の合計の割合xの値よりも大きくなる。
【0226】
具体的には、xでyを除した値(y/x)が、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.05以上、好ましくは1.07以上、より好ましくは1.10以上、また、通常5.00未満、好ましくは4.95以下、より好ましくは4.90以下である。y/xの値が小さすぎる場合、樹脂組成物(A’)中の架橋が発達しにくいため、本発明の効果である樹脂組成物(A’)の成形加工性の改善効果を得られない可能性があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A’)中の架橋が発達しすぎるため、樹脂組成物(A’)の成形加工が困難になる、成形体中のブツの量が多くなりすぎる等の可能性がある。
【0227】
また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練させると、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋が進行し、分子量が増大し還元粘度が増大する。従って、上述した(還元粘度)に記載の30℃における還元粘度ηで、上述した(還元粘度)に記載の30℃における還元粘度η´を除した値(η´/η)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.05以上、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.20以上であり、また、その上限は、通常1.80以下、好ましくは1.75以下、より好ましくは1.70以下である。
η´/ηが小さすぎる場合、架橋が発達していないため、樹脂組成物(A’)の溶融張力が不足し、押出積層シート成形時に冷却ロールへ張り付いたり、インフレーション成形において厚みが不均一になったりする可能性がある。また、η´/ηが大きすぎる場合、架橋が発達し過ぎ、ゲル分が非常に多くなる可能性がある。従って、成形加工プロセスにおいて、樹脂組成物(A’)の流動が不安定になったり、成形体表面にゲル分を目視で確認出来るようになり、美麗な外観の成形体を得ることが難しくなったりする可能性がある。
【0228】
さらに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練させると、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋が進行し、分子量が増大するとともに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に分岐が発達するため、樹脂組成物(A’)の溶融張力が増大する。従って、上述した(溶融張力)に記載の溶融張力Fで、上述した(溶融張力)に記載の溶融張力F´を除した値(F´/F)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.5以上、好ましくは1.55以上、より好ましくは1.60以上であり、また、その上限は、通常20以下、好ましくは19以下、より好ましくは18以下である。
F´/Fが小さすぎる場合、分子量及び脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の分岐の発達が不十分であるため、樹脂組成物(A’)の溶融張力の向上が不十分となる可能性がある。また、F´/Fが大きすぎる場合、架橋が過度に発達するため、樹脂組成物(A’)表面に凝集物が目立つ、シート成形時の延展性が低下する、フィルム等の成形体の伸び等の機械物性が著しく低下する等の可能性がある。
【0229】
そして、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練させると脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋が進行し、分子量が増大するとともに脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に分岐が発達するため、樹脂組成物(A’)の低せん断速度領域において非ニュートン性が高まり、即ち、溶融粘度がせん断速度に対して一定値をとらなくなり、溶融粘度が増大する。従って、上記の(溶融粘度)に記載の溶融粘度ρで、上記の(溶融粘度)に記載の溶融粘度ρ´を除した値(ρ´/ρ)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.1以上、好ましくは1.15以上、より好ましくは1.20以上であり、また、その上限は、通常3.0以下、好ましくは2.9以下、より好ましくは2.8以下である。
ρ´/ρが小さすぎる場合、分子量及び脂肪族ポリエステル樹脂(A)の分岐の発達が不十分であり、成形性が十分に向上しない可能性がある。また、ρ´/ρが大きすぎる場合、架橋が発達しすぎているため、溶媒不溶成分であるゲル分が非常に多くなる可能性がある。
【0230】
(ゲル分)
本発明の樹脂組成物(A’)におけるゲル分の含有量は、通常10重量%未満、好ましくは8重量%以下、より好ましくは6重量%以下である。ゲル分が多すぎる場合、フィルム等の成形体表面に凝集物が散見され、外観が優れない成形体になるばかりでなく、その凝集物が成形体の機械物性にも悪影響を及ぼす場合がある。なお、ゲル分は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様に測定できる。
【0231】
[2−3.本発明の樹脂組成物(A’)の製造方法]
本発明の樹脂組成物(A’)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、上記の有機過酸化物(B)とを溶融混練してなる。
【0232】
(混練の方法)
混練は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の装置を用い、任意の方法で、任意の条件に設定して行うことができる。混練の装置としては、例えば、ロール、インターナルミキサーのようなバッチ式混錬機、1段型、2段型連続式混錬機、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機等を使用できる。中でも、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機が好ましい。混練の方法としては、例えば、加熱溶融させたところに各種添加剤を混合する方法などが挙げられる。また、各種添加剤を均一に分散させる目的でブレンド用オイル等を使用することもできる。混練の装置は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。また、混練の方法も1種を単独で行っても良く、2種以上を任意に組み合わせて行っても良い。
【0233】
(温度)
混練の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常80℃以上、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上、また、その上限は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下である。温度が低すぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が十分に溶融せずに混合が困難であったり、架橋反応が十分に進行しなかったりする場合がある。また、温度が高すぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が熱分解して分子量が低下したり、架橋反応が進行しすぎて多量のゲル成分が生成したりする場合がある。
【0234】
(混練時間)
混練の時間は、混練装置の種類、脂肪族ポリエステル樹脂(A)及び有機過酸化物(B)の種類等によって一概には言えないが、通常0.1分以上、通常20分以下である。
【0235】
(各種添加剤)
本発明の樹脂組成物(A’)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、各種添加剤を含有することが出来る。なお、本発明の樹脂組成物(A’)に各種添加剤を混合する順序、方法、添加量等は、最終的な樹脂組成物(A’)に各種添加剤が含有しており、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に決定できる。各種添加剤と脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを混合してから混練しても良いし、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを混練しながら各種添加剤を混合しても良い。
【0236】
各種添加剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意のものを用いることができる。例えば、結晶核剤、フィラー、酸化防止剤等の熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤(耐光剤)、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、離型剤、防曇剤、結晶核剤、可塑剤、着色剤、充填剤、相溶化剤、難燃剤、表面ぬれ改善剤、分散助剤、各種界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、結晶核剤、フィラーを用いることが好ましい。なお、添加剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0237】
結晶核剤の具体例としては、無機系核剤、有機系核剤等が挙げられる。なお、結晶核剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0238】
無機系核剤の具体例としては、タルク、カオリン、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、フェニルホスホネート等の金属塩等を挙げることができる。また、これらの無機系核剤は、樹脂組成物(A’)中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていても良い。
【0239】
一方、有機系核剤の具体例としては、ステアリン酸カルシム等の脂肪酸金属塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、等の脂肪酸アミド;ポリオレフィンワックス、などを挙げることができる。
【0240】
フィラーとしては、従来公知のフィラーを用いることができる。フィラーは、通常、無機系フィラーと有機系フィラーとに大別される。
【0241】
無機系フィラーの具体例としては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カル
シウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。
なお、本発明の樹脂組成物(A’)を、特にシートに成形する際、離ロール性を向上させることや、シート積層体をカッター刃等で打ち抜き加工性等の2次加工性の向上の観点
から、樹脂組成物(A’)は無機系フィラーを含有することが好ましい。この場合、樹脂組成物(A’)中の無機系フィラーの含有量としては、樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂(A)と無機系フィラーとの合計量に対して通常0.01重量%以上、好ましくは0.02重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、また、その上限は、通常70重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは10重量%以下であることが望ましい。
無機系フィラーが少なすぎる場合、離ロール性の改善効果や打ち抜き性において改善されない可能性があり、多すぎる場合、シート成形時において接着強度が不足することや打ち抜き刃の磨耗が著しく、刃の交換作業が頻繁となるため、作業性が悪化するので好ましくない。
【0242】
有機系フィラーの具体例としては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、木材粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフ、藁等の粉末などが挙げられる。本発明の樹脂組成物(A’)における有機系フィラーの含有量は、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下であることが望ましい。
【0243】
なお、これらの添加剤を混合する時期は、例えば前段工程の原料仕込み時に入れても良いし、後段工程の原料仕込み時に入れてもよく、本発明の樹脂組成物(A’)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0244】
本発明の樹脂組成物(A’)は、上記の添加剤の他に、他の任意の材料を含んでも良い。なお、他の任意の材料は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。他の任意の材料としては、例えば、以下に記載する材料が挙げられる。なお、以下に例示する添加剤は添加剤の具体例であり、添加剤としては、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0245】
(その他の脂肪族ポリエステル樹脂)
本発明の樹脂組成物(A’)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)以外の生分解性樹脂を含有していても良い。生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系樹脂、多糖類、脂肪族―芳香族共重合ポリエステル、その他の分解性樹脂等が挙げられる。その中でも脂肪族ポリエステル系樹脂が好ましく、従来公知の各種の樹脂も用いることができる。中でも、脂肪族ポリエステル系樹脂は、生分解性高分子、熱可塑性樹脂であることが好ましい。なお、脂肪族ポリエステル系樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0246】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、通常、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位を主たる構成単位とするものが好ましく、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位と、必要に応じたその他の共重合単位とから構成されていてもよい。
多糖類としては、例えば、セルロース、酢酸セルロース等の変性セルロース、キチン、キトサン、澱粉、変性澱粉等が挙げられる。その他の分解性樹脂としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。なお、多糖類は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。その他の分解性樹脂も、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0247】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等の含ハロゲン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−イソプレン共重合ゴム等のエラストマー、ナイロン6,6、ナイロン6等のポリアミド系樹脂の他、ポリ酢酸ビニル、メタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
本発明の樹脂組成物(A’)が、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と上記の樹脂とを含む場合、本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の量は、通常0.1重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、また、その上限は、通常99.9重量%以下、好ましくは85重量%以下、より好ましくは60重量%以下であることが望ましい。
【0248】
(相溶化剤)
本発明の樹脂組成物(A’)には、樹脂組成物(A’)の相溶性を向上させるために、相溶化剤を含有させてもよい。
【0249】
相溶化剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。相溶化剤の具体例としては、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端又は主鎖に、エステル基、カルボン酸無水物、アミド基、エーテル基、シアノ基、不飽和炭化水素基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、芳香族炭化水素基などを付加した化合物等が挙げられる。
相溶化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、本発明の樹脂組成物(A’)においては、本発明の脂肪族ポリエステル以外の樹脂を含む場合、本発明の樹脂組成物(A’)が相溶化剤を含むことが好ましい。
【0250】
相溶化剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A’)に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。また、使用量が少なすぎる場合、相溶化剤の効果が小さくなる可能性があり、多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性がある。なお、相溶化剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0251】
さらに、相溶化剤は、本発明の樹脂組成物(A’)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0252】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物(A’)は、上記の材料以外に、さらに以下に例示する添加剤を含有しても良い。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り制限されないが、混合する添加剤の総含有量が、本発明の樹脂組成物(A’)に対して、通常0.01重量%以上、通常10重量%以下であることが望ましい。また、添加剤は、本発明の樹脂組成物(A’)に、任意の形態で混合することができる。例えば、固体の状態で混合してもよいし、溶媒に溶解した溶液として、又は、溶剤に分散させたスラリーとして混合してもよい。なお、以下に例示する添加剤は添加剤の具体例であり、添加剤としては、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0253】
(熱安定剤)
本発明の樹脂組成物(A’)は、熱安定剤を含有してもよい。これにより、シート成形時に樹脂の劣化を抑制するという利点が得られる。
【0254】
熱安定剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、が汎用的であり、色相(YI)の維持の点で好ましくも用いられる。
【0255】
また、熱安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A’)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、その上限は、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。含有量が少なすぎる場合、熱安定剤の効果が小さくなり、シート成形時おいて、分岐構造を著しく発達させた結果、ブツを発生させる可能性がある。また、含有量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性があり、また、熱安定剤のブリードアウトが生じたりする可能性がある。なお、熱安定化剤を2種以上併用する場合には、相乗効果も期待でき、その効果を著しく向上させることがあり、好適に用いられる。それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。また、本明細書において「ppm」とは、重量を基準とした比率を表わす。
【0256】
熱安定剤は、本発明の樹脂組成物(A’)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0257】
(耐光剤)
本発明の樹脂組成物(A’)は、耐光剤を含有してもよい。これにより、光による樹脂組成物(A’)の劣化(即ち、分子量の低下)を抑制できるという利点が得られる。
【0258】
耐光剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、ヒンダードアミン系安定剤等が挙げられる。耐光剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、異なる種類の耐光剤を組み合わせて用いることが好ましく、さらに、紫外線吸収剤と組み合わせて用いることが好ましい。中でも、ヒンダードアミン系耐光剤と紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0259】
また、耐光剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A’)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、その上限は、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。含有量が少なすぎる場合、耐光剤の効果が小さくなる可能性がある。また、含有量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性があり、樹脂組成物(A’)の耐熱性、成形加工性が劣ったり、耐光剤のブリードアウトが生じたりする可能性がある。なお、耐光剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0260】
耐光剤は、本発明の樹脂組成物(A’)を製造する如何なる工程において、混合しても
よい。
【0261】
(紫外線吸収剤)
本発明の樹脂組成物(A’)は、紫外線吸収剤を含有してもよい。
【0262】
紫外線吸収剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に異なる種類の紫外線吸収剤を組み合わせて用いることが好ましく、さらに、耐光剤と組み合わせて用いることも好ましい。
【0263】
また、紫外線吸収剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A’)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、その上限は、通常5重量部以下、好ましくは2重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。含有量が少なすぎる場合、紫外線吸収剤の効果が小さくなる可能性がある。また、含有量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性があり、樹脂組成物(A’)の耐熱性、成形加工性が劣ったり、紫外線吸収剤のブリードアウトが生じたりする可能性ある。なお、紫外線吸収剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0264】
紫外線吸収剤は、本発明の樹脂組成物(A’)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0265】
(帯電防止剤)
本発明の樹脂組成物(A’)は、帯電防止剤を含有してもよい。
【0266】
帯電防止剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。具体例としては、界面活性剤型のノニオン系、カチオン系、アニオン系が好ましい。
帯電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0267】
帯電防止剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A’)に対して、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下である。含有量が少なすぎる場合、帯電防止性向上効果が低減する可能性があり、含有量が多すぎる場合、樹脂組成物(A’)同士の融着性が低下する可能性がある。さらに、樹脂組成物(A’)の表面べたつきが発生し、成形後の製品価値が低下する可能性もある。
【0268】
帯電防止剤は、本発明の樹脂組成物(A’)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0269】
(その他)
さらに、上記のように、滑剤、ブロッキング防止剤、離型剤、防曇剤、結晶核剤、着色剤、難燃剤等を添加剤として用いてもよい。これらはいずれも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。また、その使用量も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。さらに、これらの添加剤はいずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0270】
ただし、上記の添加剤は、それぞれ、本発明の樹脂組成物(A’)に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下となるように用いることが望ましい。含有量が少なすぎる場合、混合の効果が小さくなる可能性があり、含有量が多すぎる場合、製造費が高くなる可能性があり、樹脂組成物(A’)の耐熱性、成形加工性が低下したり、添加剤のブリードアウトが生じたりする可能性がある。
【0271】
[3.生分解性積層シート]
本発明の生分解性積層シートは、上述の樹脂組成物(A’)を含む樹脂層(以下、樹脂層という場合がある)として基材上に積層されることにより任意の形状に任意の方法でシート成形することにより得られる。樹脂層には、その他の樹脂、タルクやシリカ粒子等の周知の充填材が含有されていてもよい。また任意の形状で、生分解性積層シート及びその加工品に用いることが出来る。例えば、本発明の生分解性積層シートは2次加工して、袋、容器などに用いることが好ましい。
【0272】
(基材の種類)
本発明の生分解性積層シートは、各種用途に加工するために、基材を有している。基材としては、限定されないが、通常、外層材等として使用される樹脂製のフィルムやシート、アルミ箔と樹脂フィルムの積層体、不敷布、セロハン、合成紙、紙等が挙げられる。基材としての樹脂フィルムや樹脂シート体としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド等の合成樹脂基材のみならず、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の脂肪族ポリエステル樹脂製のフィルムやシートも使用することができる。
【0273】
中でも、本発明の生分解性積層シートの基材は、紙、セロハン、不織布、ポリ乳酸フィルム、ポリグリコール酸フィルムから選ばれるものであることが好ましい。基材として、生分解性である脂肪族ポリエステル樹脂製のフィルムやシート、紙等を使用する場合、得られる積層フィルムは全体として生分解性となり、環境に配慮した包材を形成することができる。この中でも特に好ましい基材は紙基材である。具体的な紙基材には、クラフト紙、模造紙、ロール紙、中質紙、ボード、グラシン紙、パーチメント、アート紙、板目紙、ダンボール原紙などの板紙を挙げることができる。これらの紙基体の坪量(日本工業規格 JIS P8124)は、紙質によっても異なるが、一般に10〜1000g/m、特に30〜700g/mの範囲にあることが好ましい。
【0274】
(塗布層について)
また、本発明の生分解性積層シートの構成層としては、例えば、基材上に有機溶剤で希釈した樹脂を含む塗布層や印刷層を塗工した層(以下 塗工層という)やガスバリアー層など、他の樹脂層も任意に設定することができる。
本発明における基材上における塗工層としては汎用的な接着剤、有機顔料、無機顔料、染料、顔料を保持するバインダー樹脂、分散剤等が好適に使われる。塗工方法はMEK、トルエン等の溶剤に3〜70重量%となるように液状塗料を調整して、乾燥する。その固形量が0.1g/m〜1g/mとなるように塗布、乾燥させる好ましい上限の量は0.5 g/m以下、より好ましくは0.3g/m以下であり、その下限量は0.00
1g/m以上、より好ましくは0.01g/m以上である。上限値を超えると塗布工程において塗料濃度を高くしたり、乾燥工程に負荷がかかるので好ましくない。下限値を下回ると、接着性の効果が出ないため好ましくない。接着剤としてはポリエーテルポリウレタンポリイソシアネート、ポリエステルポリウレタンポリイソシアネート等の末端にイソシアネート基を組み込んだような一液反応型や、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリウレタンポリオール等のポリエステル系樹脂あるいはポリエーテルポリウレタンポ
リオール等のポリエーテル系樹脂の水酸基を持った主剤とイソシアネート基を持つ硬化剤とを混合して用いる二液反応型のウレタン系、アクリル樹脂、ニトロセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等の重合体または共重合体などの各種樹脂をあげることができ、これらを併用することも好適である。特に本発明で用いられる樹脂層と基材の接着性を増加させるのに好適なものはアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂が優れている。
【0275】
(樹脂層について)
本発明で樹脂組成物(A’) を主成分とする樹脂層の厚みは使用目的等により任意で
ある。基材の最外層に位置する樹脂層の厚みは通常2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上であり、その上限は通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。 樹脂層の厚みが上限値を超えると、ラミネート製造時において、冷却されず、ロールトラブルを起こしたり、生分解性積層シートを打ち抜き加工する際、樹脂層が伸びてひげが出る状態や、ヒートシール性を悪化させることがある。また
樹脂層の厚みが下限値を下回ると、厚みムラが無い安定的な生分解性積層シートを得るのが難しく、必要なヒートシール強度が得られないことがある。
【0276】
(多層構造)
本発明では、共押し出しダイスを用いた多層構造を有しても良い。
層構成としては 上述した基材と最外層との間に、必要に応じて上述した塗布層を基材
上に配置することや、中間層として本発明の樹脂組成物(A’)以外の脂肪族ポリエステルを配置することが好ましい。特に好ましい脂肪族ポリエステルとしては粘度の低い脂肪族ポリエステルや、ヒートシール発現温度が低く、伸びが高く、弾性率が低い脂肪族ポリエステル共重合体、弾性率の低い脂肪族-芳香族ポリエステルなどが好ましい。下記に代
表的な物性を記載する。
【0277】
本発明で用いられる中間層の粘度(MFR)は、樹脂層と基材層の接着力を高める目的で、最外層で用いた樹脂組成物(A’)の190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFR値と同等以下であれば特に限定されない。190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFR値は通常2g/10分以上、好ましくは5g/10分以上、より好ましくは10g/10分以上、また、その上限は、通常100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下であることが望ましい。上限を超える場合、押出し機の吐出安定性に欠け、積層シートの厚みムラが出ることがあり好ましくなく。下限値を下回ると、接着力を強化する効果が得られないことがあり好ましくない。
【0278】
本発明で用いられる中間層の機械物性等は、樹脂層と基材層の接着力を高める目的で、最外層で用いた樹脂組成物(A’)の弾性率と同等以下であれば特に限定されない。通常上限は800MPa以下、好ましくは500MPa以下、より好ましくは300MPa以下、また、その下限は通常10MPa以上、好ましくは50MP以上、より好ましくは100MPa以上であることが望ましい。上限を超える場合、接着力を強化する効果が得られないことがあり好ましくなく、下限値を下回ると、打ち抜き性が悪くなることがある。
【0279】
具体的な好ましい樹脂を例示すると、三菱化学(株)製 GS Pla AZ71TN、FZ71PDや三菱化学(株)製 GS Pla AD92WN、やBASF社製 エコフレックスを混合するのが好ましく、これらは総称としてジオール単位及びジカルボン酸単位を主たる構成単位とする生分解性ポリエステルと称することができる。この中間層を配置することで、基材と樹脂層(中間層と最外層)の接着強度が増加したりするので好ましい。中間層の厚みは本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。通常基材の最外層に位置する樹脂層の厚みは通常2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上であり、その上限は通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。上限値を超えると、ラミネート製造時において、冷却されず、ロールトラブルを起こしたり、生分解性積層シートを打ち抜き加工する際、樹脂層が伸びてひげが出る状態や、ヒートシール性を悪化させることがある。
【0280】
下限値を下回ると、厚みムラが無い安定的な生分解性積層シートを得るのが難しいことや、必要なヒートシール強度が得られないことがある。
通常、中間層/最外層の構成比は50/50、より好ましくは25/75、さらに好まし
くは15/85、特に好ましくは10/90が好ましい。中間層の比率が高くなると、生
分解性積層シートを打ち抜き加工する際、樹脂層が伸びてひげが出る状態となり好ましくない。また、中間層の比率が小さいと、接着強度を得るための効果が出ないことがあったり、厚みムラの制御が難しくなる虞がある。
【0281】
(加工温度)
本発明において押出しラミネートの加工温度、特にダイス直下での樹脂温度は押出し成形性と接着性との関係から任意に定められるが、通常300℃以下、好ましくは290℃以下、285℃以下である。一方下限の温度は190℃以上、より好ましくは230℃以上、より好ましくは260℃以上である。上限を超えると本発明の樹脂組成物(A’)の溶融粘度が低くなりすぎ、ネックインが大きくなったり、ラミネート加工する際、冷却ロールへの張り付きが多発し、成形が困難になることがある。また、下限を下回ると、押出し機のモータ負荷が大きくなり、装置の停止が起こる。あるいは、溶融膜の粘性が高くなり、基材への接着強度が低くなることがある。
【0282】
(発泡層)
本発明の生分解性積層シートは発泡層を有しても良いし、積層した樹脂層を発泡させてもよい。発泡層を設けることにより、断熱保温効果、衝撃吸収効果を付与することができる。発泡層は任意の手法で設定することができ、本発明の生分解性積層シートにおいては、基材に含まれる水分を加熱蒸発させることにより、樹脂層を発泡させることができる。具体的には発泡させようとする樹脂の融点近傍化で積層体を加熱オーブンに入れ、発泡層を付与することである。本発明では溶融張力を有する樹脂組成物(A’) が発泡性に優れた樹脂組成物である。樹脂組成物の物性等は[2−1]、[2−2]等に記載された各項目のいずれかに該当する範囲がこのましく、上限を超えると、水蒸気等のガスが膨張する工程で樹脂成分が伸びず、発泡性が悪くなったり、下限値を下回ると、特に張力が無いため、気泡を維持できなくなり割れてしまうことがある。
【0283】
本発明の樹脂組成物(A’)を含む組成物以外の樹脂を含む層を設ける場合、樹脂としては、上述の樹脂組成物および/またはその他の樹脂を任意の組み合わせおよび比率で使用することができる。但し、生分解性積層シートの分解速度や分解後の崩形性の観点からは、基材や樹脂層を含む生分解性積層シート全体が含有する全樹脂成分に対する生分解性を有する樹脂の割合が、50重量%以上、好ましくは70重量%以上となるように他の樹脂層を設けることが好ましい。
【0284】
本発明の生分解性積層シートを得る方法は、特定の物性等の性能を満たせば、通常行われている方法でよく、特に限定されるものではない。例えば、「最新ラミネート加工便覧」(1989年 加工技術研究会)に記載されている公知技術が採用できる。その加工方法を列挙すると(1)ある層に水溶性または水分散タイプの接着剤を塗り、湿った状態で他の層の張り合わせが行われ、その後乾燥、巻き取りが行われるウェットラミネーション方法、(2)接着剤を加熱(120℃〜160℃)して溶かしてある層に塗り、他の層を貼り合わせ、その後瞬間冷却することによって接着剤を固めて接着するホットメルトラミネーション方法、(3)樹脂を溶融させ、Tダイなどのスリットダイからフィルム上に押出したものを基材に塗る押出コーティング方法、(4)樹脂を溶融させ、Tダイなどのスリットダイからフィルム上に押出したものをある層に塗り、サンド繰出し機と呼ばれるアンワインダーから別の層を供給して、同時に貼り合わせる方法である押出ラミネーション方法、(5)Tダイや丸ダイにて数種の樹脂を押出し、1工程で多層フィルムが製造できる共押出成形ラミネーション法、(6)有機溶剤に溶解させた接着剤をある層の表面に塗り、乾燥させて、他の層を積層するドライラミネーション法、(7)ウレタン系の接着剤を溶剤無しに加熱して溶解させてある層に塗り、これと別の層を加熱ロールによって圧着させて生分解性積層シートを得るノンソルベントラミネーション法、(8)ある層にホットメルト型、熱硬化型、熱可塑型の接着剤を含浸または塗工しておき、他の層を加熱ロールにて圧着させるサーマルラミネーション法などの加工技術を用いることができる。
【0285】
本発明の生分解性積層シートの製造方法としては、上述した樹脂組成物(A’)を含む樹脂層中に、必要に応じて添加される他の樹脂、滑剤、酸化防止剤、改質剤、核剤などの上述した所望の添加剤を配合した樹脂組成物を、単層や共押し出しのダイを有する押出機を用いて基材上に押出積層する方法(押出コーティング法)や、上述した本発明の樹脂組成物(A’)含む組成物をインフレ成形やTダイフィルム成形法によりフィルムとした後に接着剤や火炎処理、熱圧着等により生分解性積層シートを得る方法が好ましく、生産性や得られる生分解性積層シートの物性の観点からは、押出コーティング法が特に好ましい。押出コーティング法を用いる場合には、ポリエチレン等の熱可塑性合成樹脂の溶融押出コーティング・ラミネート用に通常使用される単層のダイス、あるいは共押出しダイスが配置された溶融押出コーティング・ラミネート装置を用いることができる。
【0286】
[3−1.生分解性積層シートの特性とその製造過程の特徴]
本発明に係る生分解性積層シート及びその製造過程の特徴は以下に示すような特性を示すことが好ましい。
生分解性積層シートはダイス出口から溶融膜の状態を目視で確認すると、溶融膜が透明で、ブツや異物、気泡がなく、またレゾナンスも極めて少ないことが好ましい。逆に溶融膜がブツや異物が多い、もしくは、気泡が多く膜割れが多発し、運転できない状態であることは好ましくない。
臭気については、本発明において成形加工時にて判断することができ、煙も少なく、刺激臭がないことが好ましい。逆に臭気や煙がひどく発生して成形性に深刻な問題がある場合は好ましくない。
【0287】
ネックインについては、生分解性積層シートの厚みムラを考慮してトリミングを実施し、製品有効幅を測定することによって評価ができる。
つまり、本発明においてネックインの状況を確認は吐出 150Kg/hの状態でエアギャップ110mmにしたときの得られたフィルム巾とダイス巾の基準から算出することができる(ネックインの単位はmmとする)。通常、70mm以上から100mm未満、好ましくは、50mm以上70mm未満、より好ましくは、50mm未満である。100mm以上になると、生分解性積層シートの製品としての有効幅が小さいので、生産性が悪いことや基材巾の制限を受けることや、基材をトリミングすることによって基材のロスも大きくなる傾向がある。よって、ネックインの値が小さいことが好ましい。但し、このネックインの数値はダイス巾、エアギャップ、吐出量、引き取り速度等、樹脂の特性においてその数値が変わることがある。
【0288】
本発明においての離ロール性はセミマット加工ロールで温度20度にて生分解性積層シートを製造したときの状況を確認することで評価ができる。好ましくは、離ロール性においてなんら問題にならない状態である。特に生産速度が80m/min以上180m/minまで加工できる状態であることが好ましい。離ロール性が悪いという状態は、ロールとシート積層体が接着傾向にあり、ロールから積層体をはがす時にその傾向がつよいと基材と樹脂層で剥離状態になることや、基材が破断し、ロールに巻きついて生産できない場合は好ましくない。
【0289】
モーター負荷については、成形加工時にて判断することができ、押出し機のモーター負荷値(%)等で判断する。通常、生産中にモーターの能力を超え、停止しなければよい。モーター負荷値は好ましくは95%以下、よりこのましくは90%以下、さらにこのましくは85%以下であり、負荷がかかりすぎると、生産中に停止することがあり、好ましくない。
【0290】
本発明において、生分解性積層シートの概観は樹脂層側を目視、手触りの感触によって確認すると冷却ロールの転写がされ、FEによる凹凸がまったくない状態や生分解性積層シートの樹脂層が冷却ロールからはがれるときにあとが付く状態であるが、特に問題のならない状態であることが好ましい。逆に生分解性積層シートの樹脂層が冷却ロールからはがれるときに樹脂層が少し伸びた状態でしわが生じたり、樹脂層と基材層の間で剥離状態となり、接着強度が弱い状態は好ましくない。
【0291】
本発明の樹脂層と紙基材間の接着強度は下記に記述した接着強度測定法にて、測定し、また樹脂層と紙の剥離の様子を観察することで評価できる。好ましい接着状態は実使用上問題ないレベルであり、界面剥離せず、少しの紙剥けがある紙の凝集破壊が観測されたものであれば良く、さらに好ましくは界面剥離せず、紙の凝集破壊がムラなく観測されたものであれば良い。逆に樹脂層と基材との接着強度は弱いレベルであり、界面剥離が観測され、しかも巾方向において、接着強度のムラが多い状態、もしくは樹脂層と基材との接着強度が50g/15mm 以下で擬似接着の状態は好ましくない。擬似接着や接着強度においてムラが多いと、2次加工工程での打ち抜き性やヒートシール性が悪化する傾向があり、最終成形体である容器等の加工性が悪かったり、容器としたときに液漏れ等の虞があり好ましくない。
【0292】
本発明において、打ち抜き性は樹脂層のひげが出ない状況または樹脂層のひげが少し出る状態であればもっとも好ましく。また、樹脂層のひげが全体的に出る状態で、20%以下の確率で打ち抜き片がくっついている状態でも良い。逆に樹脂層のひげが全体的に出る状態で、20%以上で打ち抜き片がくっついている状態は好ましくない。この評価は下記に示す打ち抜き性の簡易評価法にて確認することができる。ひげが出る状態であると、2
次加工時の打ち抜きの際に打ち抜き片がブランク(打ち抜き片の外側)から離れず、次工程で繰り込み不良などでトラブルの原因となるからである。
【0293】
本発明の生分解性積層シートはヒートシール性が良好である特徴を有し、紙コップや袋などの2次成形加工がしやすく、また高速成形(カップ成形において110から100cps/min)や自動充填機への適性がある。本発明の積層体の樹脂層同士のヒートシール強度は、少なくとも5N/15mm以上有しているが、その上限としては、25N/15mm以下が好ましい。下限値を下回ると、とても弱い力で剥離が進行し、その剥離形式も界面剥離であって接着力が弱く、破袋するなど包装資材として実用的ではない。また上限値を上回る場合にはシール圧力、シール時間、シール温度を通常より高く設定する必要があり、2次加工時の生産性を低下させることがあり好ましくない。また本発明の積層体のヒートシール発現温度は80℃以上150℃以下であればよい。この温度以下であると、カップ等の容器としたときの耐熱性が得られがたくなり、お湯等の液体を入れたときにシール部分のはがれが生じ、液漏れを起こすことがあり好ましくない。また上限を超えると、ヒートシール時間の延長やヒートシール圧力の高圧化を必要とすることから好ましくない。ヒートシール強度は下記に記載の方法でヒートシール性の状況を確認できる。
【0294】
[3−2.生分解性積層シートの利用]
(2次加工品)
本発明で得られた生分解性積層シートは各種包装資材や製袋、カップ、トレー、カートン等に2次加工が可能である。各種の加工は、従来の紙、プラスチック積層紙の場合と同じ方法、すなわち、包装資材としては三方シール自動製袋機、センターシール自動製袋機、スタンディングパウチ自動製袋機などの自動製袋機やピロー型自動充填包装機、三方シール充填包装機、四方シール充填包装機などの自動充填包装機を用いて行うことができ、製袋としては平袋、角底袋、亀の甲底袋などの各種形状に加工することができる。更に紙カップ成形機、打抜機、サック貼機、製函機等の装置を用いて加工することもできる。これらの加工機において生分解性積層シートの接着方法は公知の技術で採用されるが、一般的にヒートシール法、インパルスシール法、超音波シール法、高周波シール法、ホットエアシール法、フレームシール法などが採用される。
【0295】
本発明の生分解性積層シートのヒートシール設定温度は接着法により異なるが、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用し、100〜300g/m以上の紙基材を用いた場合、ヒートシール発現温度(立ち上がり温度)以上であればよく、特に上限値は設定されないが、通常は250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。下限値を下回ると接着されないことがあり好ましくない。また上限値を上回るとシール部の近傍も加熱によって樹脂が溶け出し、樹脂層の膜圧が薄肉化し、シール強度が低下するおそれがある。
【0296】
本発明の生分解性積層シートのヒートシール設定圧力は接着法により異なるが、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用した場合、0.05MPa以上、好ましくは0.1MPa以上であればよい。上限値は0.5MPa以下、好ましくは0.45MPa以下、より好ましくは0.4MPa以下である。下限値を下回ると接着されないことがあり好ましくない。また上限値を上回るとシールの端部の膜圧が薄肉化し、シール強度が低下するおそれがある。
【0297】
本発明の生分解性積層シートのヒートシール設定時間は接着法により異なるが、シールバーを有する加熱式ヒートシール試験機を使用した場合、0.25秒以上、好ましくは0.5秒以上であればよい。上限値は3秒以下、好ましくは2秒以下、より好ましくは1.5秒以下である。下限値を下回ると接着されないことがあり好ましくない。また上限値を上回るとシールの端部の膜圧が薄肉化やシール強度が低下するおそれがある。
【0298】
(具体的な加工品の用途)
本発明にかかる生分解性積層シートは、加工することによって、包装容器資材、農業・土木・水産用資材などに用いられる。
【0299】
包装容器資材としては、例えば、ショッピングバッグ、各種製袋、ビデオやオーディオ等の磁気テープカセット製品包装材、フレキシブルディスク包装材、製版用材、包装用バンド、粘着テープ、テープ、ヤーン、コップ、トレー、カートン、弁当箱、惣菜用容器、食品・菓子包装材、食品用ラップ材、化粧品・香粧品用ラップ材、おむつ、生理用ナプキン、医薬品用ラップ材、製薬用包装資材,肩こりや捻挫等に適用される外科用貼付薬用包装資材など食品、電子、医療、薬品、化粧品等の各種包装材が挙げられる。
【0300】
農業・土木・水産用資材としては、例えば、農業用・園芸用フィルム、農薬品用ラップフィルム、温室用フィルム、肥料用袋、育苗ポット、防水シート、土嚢用袋、建築用フィルム、雑草防止シート、テープやヤーンからなる植生ネットなどの農業・土木・水産分野で用いられる資材が挙げられる。その他、ブロー成形品としても適用でき、ゴミ袋、コンポストバッグとしても用途も挙げられ、広範囲における材料として好適に使用し得る。
【実施例】
【0301】
以下に本発明の実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0302】
[1.物性の測定方法]
[1−1.MFR及びMVR]
溶融流動体積であるMVR、及びMFRは、タカラ工業製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210の方法に従って測定した。
【0303】
具体的には、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステル樹脂(A)をメルトインデクサーに供することにより、MVR(2.16)とMVR(10.0)とを測定した。メルトインデクサーの条件としては、190℃で荷重10.0kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(cm3/10分)をMVR(10.0)とし、190℃で荷重2.1
6kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(cm3/10分)をMVR(2.16
)とした。また、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除した値をMVR−Rとした。
【0304】
また、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステル樹脂(A)をメルトインデクサーに供することにより、MFRを測定した。メルトインデクサーの条件としては、190℃で荷重2.16kgとし、この条件下で測定した単位時間当たりの溶融流動した重量(g/10分)をMFRの値とした。
【0305】
[1−2.末端カルボキシル基量]
末端に存在するカルボキシル基の量(μモル/g)は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)をベンジルアルコールに溶解し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することにより、測定した。
【0306】
[1−3.還元粘度]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の30℃における還元粘度(ηsp/c)は、ウベローデ粘度管を用いて測定した。具体的には、フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)溶媒に、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を0.5g/dlとなるように溶解させ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)溶液の30℃での溶液粘度をウベローデ粘度管で測定した。
【0307】
[NMR測定条件]
1H−NMRを用いて、末端ヒドロキシル基量、末端ビニル基量、脂肪族不飽和ジカル
ボン酸単位(8)及び(9)の定量、含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)を定量した。0.6mlの重クロロホルムに20mgのポリマーを溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン社製Avance 400分光計を用い室温で1
−NMRスペクトルを測定して定量した。フリップ角は45度、データの取り込み時間は4秒、待ち時間は6秒、積算回数は256回である。ウィンドウ関数にLB(Line Broadening)=0.1Hzの指数関数を用い、フーリエ変換処理をした。
【0308】
[1−4.末端ヒドロキシル基量]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するヒドロキシル基(即ち、末端ヒドロキシル基)は、1H−NMRを用いて、3.66ppm付近に出現する末端ヒドロキシル基
が直接結合する炭素原子上のメチレンプロトンのピークにより定量した。
【0309】
[1−5.末端ビニル基量]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するビニル基(即ち、末端ビニル基)の量
は、1H−NMRを用いて、5.15ppm付近、又は、5.78ppm付近に出現する
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在する二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。
【0310】
[1−6.脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の定量]
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)の定量は、1H−NMRを用いて、6.85pp
m付近に出現する当該単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。また、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)の定量は、1H−NMRを用いて、6.25ppm付近に出現する当該単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。
【0311】
[1−7.含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量]
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の定量は、1H−NMRを用いて行った。当該
単位の有するヒドロキシル基がエステル結合を形成し分岐鎖を生じている場合、5.47ppm付近に、未反応の場合、4.49ppm付近に出現する当該単位中のメチンプロトンのピークにより定量した。
【0312】
[1−8.YI値]
YI値は、ペレット状脂肪族ポリエステル樹脂(A)を内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計Color Meter ZE2000(日本電色工業株式会社)を使用して、JIS K7105の方法に基づいて測定した。反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0313】
[1−7.溶融張力]
溶融張力は、上述した(溶融張力)に記載の方法に従って測定した。
【0314】
[1−8.溶融粘度]
溶融粘度は、上述した(溶融粘度)に記載の方法に従って測定した。
【0315】
[1−10.ゲル分]
ゲル分は、上述した(ゲル分)に記載の方法に従って測定した。
【0316】
[1−11溶融膜の外観と安定性]
ダイス出口から溶融膜の状態の目視を実施した。
◎:溶融膜が透明で、ブツや異物、気泡がない正常な状態である。
またレゾナンスも極めて少ない。
○:溶融膜が透明で、ブツや異物、気泡が少なく、成形に問題ないレベルでレゾナンスも許容される範囲内である。
△:溶融膜が不透明で、ブツや異物が多い状態である。またレゾナンスも多い。
×:溶融膜がブツや異物が多いもしくは、気泡が多く膜割れが多発し、運転できない状態である。
【0317】
[1−12 臭気]
本発明において成形加工時の臭気について判断した。
◎:煙も少なく、刺激臭がない。
○:煙も少なく、多少臭気の発生も認められるが特に問題にならない状態。
△:多少問題点はあるが成形可能なレベルである。
×:成形性に深刻な問題がある。
【0318】
[1−13ネックイン]
生分解性積層シートの厚みムラを考慮してトリミングを実施し、製品有効幅を測定した。本発明においてネックインの状況を確認は吐出 150Kg/hの状態でエアギャップ110mmにしたときの得られたフィルム巾とダイス巾の基準から算出した。ネックインの単位はmm。
◎:50mm未満。
○:50mm以上70mm未満。
△:70mm以上から100mm未満
×:100mm以上
【0319】
[1−14 離ロール性]
本発明においての離ロール性はセミマット加工ロールで温度20度にて生分解性積層シートを製造したときの状況を確認した。
◎:離ロール性においてなんら問題にならない状態。
○:多少離ロール性に問題があり、生産速度180m/minまで加工できる状態。
△:ロールに張り付きが多少あるが生産可能な状態。
×:なんとか生産が可能である状態であるが、生産速度が100m/min以上にて、ロールに張り付き、基材が破断する状態。
【0320】
[1−15 モーター負荷の状態]
本発明においてのモーター負荷は主モータ(最外層の樹脂の押出し機)での表示。
[1−16 生分解性積層シートの樹脂層の概観]
本発明において、得られた生分解性積層シートの樹脂層側を目視、手触りの感触による評価で確認した。
◎:冷却ロールの転写がされ、FEによる凹凸がまったくない状態。
○:冷却ロールの転写がされ、FEによる凹凸が少しある状態。
△:生分解性積層シートの樹脂層が冷却ロールからはがれるときにあとが付く状態であるが、特に問題のならない状態。
×:生分解性積層シートの樹脂層が冷却ロールからはがれるときに樹脂層が少し伸びた状態であり、接着強度が弱い状態。
【0321】
[1−17 接着強度]
樹脂層と紙基材間の接着強度を、剥離角度180°、剥離速度300mm/min、試験片幅15mmで剥離した時の強度で示し、また樹脂層と紙の剥離の様子を観察した。
◎:界面剥離せず、紙の凝集破壊がムラなく観測された。
○:実使用上問題ないレベルであるが、界面剥離せず、少しの紙剥けがある紙の凝集破壊が観測された
△:樹脂層と基材との接着強度は弱いレベルであり、界面剥離が観測され、しかも巾方向において、接着強度のムラが多い。
×:樹脂層と基材との接着強度は50g/15mm 以下で擬似接着の状態。
【0322】
[1−18生分解性積層シートの打ち抜き性]
本発明において、打ち抜き性は文房具での穴あけパンチにより紙面からオス刃があたるようにして打ち抜き性を確認した。打ち抜き回数は20回実施した。
◎:樹脂層のひげが出ない状況。
○:樹脂層のひげが少し出る状況。
△:樹脂層のひげが全体的に出る状態で、20%以下で打ち抜き片がくっついている状態
×:樹脂層のひげが全体的に出る状態で、20%以上で打ち抜き片がくっついている状態
【0323】
[1−19生分解性積層シートのヒートシール性]
本発明の生分解性積層シートのヒートシール性は JIS Z 1526に準じてヒートシール強度を求めた。試験片の作成およびヒートシール強度の測定に関してはサンプルの状態調節として23℃ 50%RH下で1日以上静置したものを使用した。
試験片としては、樹脂層の膜圧が20μmの平坦部を使用し、縦、横15cmに切り出し、樹脂層部分をあわせるようにして一端をヒートシーラーにてヒートシールし、幅15mmの短冊形に切り出したものを用いた。この時フィルムの流れ方向に直角にシールしたものを縦シール強度とした。逆にフィルムの流れ方向に平行にシールしたものを横シール強度とした。
ヒートシールは、シールバー幅5mmの片面加熱バーシーラーを使用して、シール温度は任意とし、シール圧力0.4MPa、シール時間1秒で行い、シール部が完全接着した
温度を記入した。ここで言う完全密着とは樹脂面同士の界面剥離ではなく、繊維剥離も一部見られるような状態であることを言う。あるいは高温領域(明らかに完全接着)でヒートシール強度が飽和開始した温度である。
【0324】
[2.脂肪族ポリエステル樹脂(A)]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては、以下に記載の触媒を用いて得られた、以下の3種類を用いた。
【0325】
[2−1.重縮合反応用触媒の調製]
撹拌装置付き500mlのガラス製ナス型フラスコに、酢酸マグネシウム四水和物を62.0g入れ、更に250gの無水エタノール(純度99%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合重量比は45:55)を35.8g加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを75.0g添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。
【0326】
この混合溶液を1Lのナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。約1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体が残った。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、5Torrの減圧下で更に濃縮を行った。粘稠な液体は表面から粉体状へと徐々に変化し、約2時間後には完全に粉体化した。その後、窒素を用いて常圧に戻し、室温まで冷却し、淡黄色粉体108gを得た。
【0327】
得られた触媒に含まれる金属元素を、試料0.1gをケルダールフラスコ中で硫酸存在下、過酸化水素で湿式分解の後、蒸留水にて定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES ULtrace JY−138U型)を用いて定量分析した結果、チタン原子(T)含有量が10.3重量%、Mg原子(M)含有量が6.8重量%、リン原子(P)含有量が8.7重量%であり、モル比としては、T/P=0.78、M/P=1.0であった。また、反応後の重量は、反応前の重量と比べて、エタノール溶媒を除く原料総重量の37%が減少していた。更に、粉体状の触媒を、チタン原子含有量が34000ppmとなるように、1,4−ブタンジオールに溶解させた。1,4−ブタンジオール中における触媒の保存安定性は良好であり、窒素雰囲気下40℃で保存した触媒溶液は、少なくとも40日間析出物の生成は認められなかった。また、この触媒溶液のpHは6.1であった。尚、本触媒溶液においては、ブタノールや1,4−ブタンジオールのアルコキシド基由来の吸収が1H−NMR上で観測されず、本触媒のチタン金属には有機アルコキシド基が結合していないことが判明した。
【0328】
[2−2.製造例]
[2−2−1.脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の製造(製造例1)]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料としてコハク酸100.3重量部、1,4−ブタンジオール99.5重量部、リンゴ酸0.37重量部を仕込み、窒素−減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。系内を撹拌しながら1時間かけて230℃まで昇温し、この温度で1時間反応させた。その後、上記の触媒溶液を添加した。添加量は、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重量に対して、チタン原子が50ppmとなる量とした。280分かけて250℃まで昇温し、同時に0.7hPaまで減圧し、減圧開始から5.6時間反応させ脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)を得た。
【0329】
この時、常圧から2hPaまでの減圧平均速度は、7.9hPa/分とした。また、反応系内を100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際の重合体温度の低下量は、2.3℃であった。圧力降下時の重合体温度の低下が小さく、高い反応性を維持したまま、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造することが可能であった。
【0330】
得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の還元粘度は2.4dL/gであり、白色の脂肪族ポリエステル樹脂(A)(YI値:2.5)が得られた。190℃におけるMVR(2.16)の値は3.6cm3/10分、MVR(10.0)の値は38.6cm3/10分であり、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除したMVR−Rの値は、10.7であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の末端カルボキシル基量は51μモル/gであった。全共重合体単位に対して、リンゴ酸に由来する単位は0.082モル%、フマル酸に由来する単位は0.024モル%、マレイン酸に由来する単位は0.0075モル%であり、それらの合計は0.11モル%であった。この時、リンゴ酸に由来する単位の量は、フマル酸に由来する単位及びマレイン酸に由来する単位の合計量に対するモル比として、2.6であった。さらに、フマル酸に由来する単位の量は、マレイン酸に由来する単位の量に対するモル比として、3.2であった。さらに、末端ビニル基量は0.095mol%であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の、190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRは2.6g/10分と低く、フィルムや容器などの成形に良好な溶融張力を有する樹脂であった。これ以外の測定した物性を、表2、表3に示した。
【0331】
[2−2−2.脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)の製造(製造例2)]
常圧から2hPaまでの減圧平均速度を12.8hPa/分、反応系内を100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際の重合体温度の低下量が7.3℃であり、減圧開始から5.2時間反応させたこと以外は製造例1と同一の条件で製造を行い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)を得た。
【0332】
得られたポリエステル樹脂(A−2)の還元粘度は1.9dL/gであり、白色のポリエステル(YI値:3.9)が得られた。MVR(2.16)の値は35cm3/10分、MVR(10.0)の値は350cm3/10分であり、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除したMVR−Rの値は、10であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)の末端カルボキシル基量は49μモル/gであった。全共重合体単位に対して、リンゴ酸に由来する単位は0.072モル%、フマル酸に由来する単位は0.022モル%、マレイン酸に由来する単位は0.0055モル%であり、それらの合計は0.10モル%であった。この時、リンゴ酸に由来する単位の量は、フマル酸に由来する単位及びマレイン酸に由来する単位の合計量に対するモル比として、2.6であった。さらに、フマル酸に由来する単位の量は、マレイン酸に由来する単位の量に対するモル比として、4.0であった。さらに、末端ビニル基量は0.102mol%であった。得られた脂肪族ポリエステル(A−2)の190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRは18.7g/10分と高く、Tダイ成形やY射出成形などにおいて、モータ負荷の少ない流動性の高い成形性優れた樹脂であった。これ以外の測定した物性を、表1〜表3に示した。
【0333】
[2−2−3.脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の製造(製造例3)]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料としてコハク酸100.3重量部、1,4−ブタンジオール88.8重量部、リンゴ酸0.37重量部並びに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め0.98重量%となるように溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部を仕込み、窒素−減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。系内を撹拌しながら1時間かけて220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、160分かけて230℃まで昇温し、同時に0.7hPaまで減圧し、減圧開始から5.4時間反応させ脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)を得た。
【0334】
この時、常圧から2hPaまでの減圧平均速度は、12.8hPa/分とした。また、反応系内を100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際の反応系内の重合体温度の低下量は、1℃未満であった。
【0335】
得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の還元粘度は2.5dL/gであり、白色の脂肪族ポリエステル樹脂(A)(YI値:0.5)が得られた。MVR(2.16)の値は5.1cm3/10分、MVR(10.0)の値は50.5cm3/10分であり、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除したMVR−Rの値は、9.9であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の末端カルボキシル基量は26μモル/gであった。全共重合体単位に対して、リンゴ酸に由来する単位は0.097モル%、フマル酸に由来する単位は0.011モル%、マレイン酸に由来する単位は0.0012モル%であり、それらの合計は0.11モル%であった。この時、リンゴ酸に由来する単位の量は、フマル酸に由来する単位及びマレイン酸に由来する単位の合計量に対するモル比として、8.0であった。さらに、フマル酸に由来する単位の量は、マレイン酸に由来する単位の量に対するモル比として、9.2であった。さらに、得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRは3.3g/10分と低く、フィルムや容器などの成形に良好な溶融張力を有する樹脂であった。これ以外の測定した物性を、表1〜表3に示した。
【0336】
[3.有機過酸化物(B)]
有機過酸化物(B)としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂製パーヘキサ25B;分子式 C16344、分子量290.45
)を用いた。
【0337】
[4.樹脂組成物(A’)の製造]
[製造例4]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)100重量部と有機過酸化物(B)0.0001重量部とを、ヘンシェルミキサーにて混合した(表−1を参照)。得られた混合物を2軸押出混合機を用いて温度190℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練し、ストランドを水冷し切断することで、白色の樹脂組成物(A’)を得た。その後、樹脂組成物(A’)のペレットを70℃、窒素雰囲気下で8時間乾燥を行なった。樹脂組成物(A’)(A’−1)の物性を測定したところ、表−2、表−3のようになった。
【0338】
[製造例5〜8、10,11]
製造例4と同様に有機過酸化物(B)の配合量を表−1に記載した量に変更して製造し、樹脂組成物(A’)(A’−2〜A’−5、A’-7,A’-8)を得た。物性値を表−1〜表−3に示した。
【0339】
[製造例9]
用いた脂肪族ポリエステル樹脂(A)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)、有機過酸化物(B)の配合量を0.0015重量部とした以外は、製造例4と同様の方法で製造し、樹脂組成物(A’)(A’−6)を得た。物性値を表−1〜表−3に示した。
【0340】
[5.生分解性積層シートの製造]
[実施例1]
製造例4の樹脂組成物(A’―1)に酸化防止剤(Irganox1330 500ppm)を含むようにして、スクリュウ径40mmΦの単軸押出機に幅360mmのハンガーコート型のTダイを用い、シリンダー設定温度をC1(ホッパー側温度)230℃、C2(ダイス側温度)280℃、ダイス部温度(端250℃、中央270℃、端250℃)に設定し、樹脂を押出し、押出機回転数100rpmで吐出一定とし溶融膜の安定を待った。安定後、ダイス中央部直下の樹脂温度(265℃)、両端の樹脂温度(250℃)計測し、膜安定性、および臭気を観察した。基材として板紙(250g/m)を低速から繰り出し、溶融樹脂を積層させた。徐々に加工速度を上げ100m/minで運転した。基材にはコロナ処理を施し、これに繰り出し速度および押出機回転数、ダイス温度(両端部、中央部)を微調整しながら膜厚20μm(巾方向で3箇所平均、23μm、20μm、22μm)となるように樹脂の溶融膜を積層することによって生分解性積層シートを得た。エアギャップは110mmとし、冷却ロールにはセミマットロールを使用し、冷却温度を20℃とし、ニップロール圧は0.4MPaに設定した。ラミネート加工性に関して溶融膜概観、ネックイン、離ロール性、モータ負荷(%)、ラミネート品の概観、巾方向の厚みムラ、厚み、接着強度およびその剥離状態、ヒートシール性、打ち抜き性について表-4に記載した。
【0341】
[実施例2〜6]
実施例1と同様な方法で上記の製造例で合成した樹脂組成物(A’―2〜A’―6)に変更して基材上に樹脂組成物を積層させた。各実施例においては加工性を考慮し、樹脂温度を変更させた。結果を表-4に記載した。
【0342】
[実施例7]
製造例8の樹脂組成物(A’―5)と製造例1の脂肪族ポリエステル(A―1)を8:2でドライブレンドし、酸化防止剤(Irganox1330 500ppm)を含むよ
うにして、スクリュウ径40mmΦの単軸押出機に幅360mmのハンガーコート型のTダイを用い、シリンダー設定温度をC1(ホッパー側温度)230℃、C2(ダイス側温度)280℃、ダイス部温度(端250℃、中央270℃、端250℃)に設定し、樹脂を押出し、押出機回転数100rpmで吐出一定とし溶融膜の安定を待った。安定後、ダイス中央部直下の樹脂温度(265℃)、両端の樹脂温度(250℃)を計測し、膜安定性、および臭気を観察した。基材として板紙(250g/m)を低速から繰り出し、溶融樹脂を積層させた。徐々に加工速度を上げ100m/minで運転した。基材にはコロナ処理を施し、これに繰り出し速度および押出機回転数、ダイス温度(両端部、中央部)を微調整しながら膜厚22μm(巾方向で3箇所平均、23μm、22μm、22μm)の生分解性積層シートを得た。結果を表―4 に示した。
【0343】
[実施例8]
実施例7の樹脂組成物と製造例1の脂肪族ポリエステルのブレンド比率を8:2から5:5に変更してラミネート生分解性積層シートを得た。結果を表―4に示す。
【0344】
[実施例9]
実施例7の脂肪族ポリエステル(A―1)を脂肪族ポリエステル(A―2)に変更した。
また、分子量が低いため、加工条件として温度を240℃に変更して、実施した。
結果を表―4に示す。
【0345】
[実施例10]
2種2層共押出成形機(ダイス幅;360mm、マルチマンニホールドタイプ共押出ラミネーター)を用いて生分解性積層シートを速度100m/分で作製した。中間層にAZ71TD,最外層に製造例8の樹脂組成物(A’―5)と製造例1の脂肪族ポリエステル
(A―1)を8:2でドライブレンドし、酸化防止剤(Irganox1330 500ppm)を含むようにして、シリンダー設定温度をC1(ホッパー側温度)230℃、C2(ダイス側温度)280℃、ダイス部温度(端250℃、中央270℃、端250℃)に設定し、吐出一定とし溶融膜の安定を待った。安定後、ダイス中央部直下の樹脂温度(265℃)、両端の樹脂温度(250℃)計測し、膜安定性、および臭気を観察した。基材として板紙(250g/m)を低速から繰り出し、溶融樹脂を積層させた。徐々に加工速度を上げ100m/minで運転した。基材にはコロナ処理を施し、これに繰り出し速度および押出機回転数、ダイス温度(両端部、中央部)を微調整しながら膜厚25μm(巾方向で3箇所平均、26μm、24μm、25μm)となるように樹脂の溶融膜を積層することによって生分解性積層シートを得た。また、樹脂層の構成比率は中間層が6μであった。エアギャップは110mmとし、冷却ロールにはセミマットロールを使用し、冷却温度を20℃とし、ニップロール圧は0.4MPaに設定した。ラミネート加工性に関して溶融膜概観、ネックイン、離ロール性、モータ負荷(%)、ラミネート品の概観、巾方向の厚みムラ、厚み、接着強度およびその剥離状態、ヒートシール性、打ち抜き性について表―4に記載した。
【0346】
[実施例11]
実施例10の中間層にポリブチレンスクシネートアジペート共重合体を6μとして生分解性積層シートを得た。結果は表―4に示す。
【0347】
[比較例1]
実施例1と同様に、樹脂層を脂肪族ポリエステル(A―3)として生分解性積層シートを得た。
結果を表-4に示すが、各実施例と比較すると、脂肪族ポリエステルの分岐構造が少な
いため、成形性を向上させる因子である溶融張力が足りなく、各実施例と比較しネックイン、離ロール性が著しく悪化していることが分る。
【0348】
[比較例2]
実施例9と同様な条件にて、樹脂層を脂肪族ポリエステル(A―2)として生分解性積層シートを得た。成形性が向上する脂肪族ポリエステル樹脂組成物(A’)をブレンドした実施例9と比較するとネックインの悪化と離ロール性が悪化し、連続して運転するのが困難であった。
【0349】
[比較例3]
実施例1と同様に、製造例10の脂肪族ポリエステル樹脂組成物(A’―7)に変更し生分解性積層シートを得た。
各実施例を比較するとネックインや離ロール性や接着強度が悪化していることが分る。
【0350】
[比較例4]
実施例1と同様に製造例11の脂肪族ポリエステル樹脂組成物(A’-8)に変更し生
分解性積層シートを得た。
各実施例を比較するとモータ負荷や溶融膜の概観不良やラミネート品の概観不良、さらに接着強度の低下が観測された。
【0351】
(発泡実験)
[実施例12]
実施例4で得た生分解性積層シートを120℃のオーブンにいれ、5分間保持し、その後、発泡状況を確認すると、樹脂層に発泡層が形成された。
【0352】
[比較例5]
比較例1と4で得た生分解性積層シートを実施例12の方法で発泡性を確認すると、比較例1の生分解性積層シートは穴が開いた状態となり、気泡を保持できていない状態であった。比較例4の生分解性積層シートは、発泡せずに基材層と樹脂層が剥離した状態となった。
【0353】
【表1】

【0354】
【表2】

【0355】
※注 ただし、表中、「(3)+(4)+(5)」は、式(3)で表される単位、式(4)で表される単位、式(5)で表される単位の合計の割合を表す。また、「x又はy」は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の合計の割合(a)で、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の合計の割合(b)を除した値を表す。
【0356】
【表3】

【0357】
※注 ただし、表中、「10s-1[Pa・s]」とは、温度190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度を表し、「1000s-1[Pa・s]」とは、温度190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度を表す。
【0358】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0359】
本発明の生分解性積層シートの用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いること
が可能である。具体例としては、包装容器資材、農業・土木・水産用資材に広く利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と、下記式(2)で表される脂肪族ジオール単位と、下記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び下記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、下記式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位、下記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び下記式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位とを少なくとも含む脂肪族ポリエステル樹脂と有機過酸化物を含有した樹脂組成物を基材に積層してなる生分解性積層シートであって、
該脂肪族ポリエステルに含まれる該式(3)、該式(4)、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計量が、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、0.0010モル%以上0.50モル%以下、該式(3)及び該式(4)で表される単位の合計が、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計に対するモル比として、1.0以上7.0以下であって、且つ有機過酸化物が該脂肪族ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.0001重量部以上0.06重量部以下の割合で混合されていることを特徴とする生分解性積層シート。
【化1】


(式中、R1は、炭素数が0〜40の脂肪族飽和炭化水素基を表す。)
【化2】


(式中、R2は、炭素数が2〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化3】


(式中、R3は、炭素又は炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化4】


(式中、R4は、炭素又は炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化5】


(式中、R5は、一つ以上の二重結合を有する炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す
。)
【化6】


【化7】


(式(6)及び式(7)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(6)はトランス型、式(7)はシス型を表す。r及びsは、それぞれ独立に、0〜17の整数を表す。R8は、水素又は炭素数が1〜17の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
該式(5)で表される単位が、下記式(8)及び/又は下記式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位であり、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる該式(8)で表される単位のモル比が、該式(9)で表される単位に対して、8.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性積層シート。
【化8】


【化9】


(式(8)及び式(9)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(8)はト
ランス型、式(9)はシス型を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0〜18の整数を表す。R6及びR7は、それぞれ独立に、水素又は炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項3】
該有機過酸化物が、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生分解性積層シート。
【請求項4】
基材が、紙、セロハン、不織布、ポリ乳酸フィルム、ポリグリコール酸フィルムから選ばれる少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記
載の生分解性積層シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の記載の積層体を加工した紙製袋、紙製容器、紙製箱。

【公開番号】特開2011−743(P2011−743A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143731(P2009−143731)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】