説明

生分解性積層体

【課題】優れたガスバリヤ性と強度を備えた積層体で、且つ生産性に優れた生分解性積層体を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコールを主成分とするガスバリヤ層の両面を、前記ガスバリヤ層との融点の差が20℃以下である脂肪族ポリエステル層で挟持してなる。(1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合基を表す。脂肪族ポリエステル層は、L−乳酸とD−乳酸の含有比率が95/5以上であるポリ乳酸を主成分とする層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の容器や包装に用いられる積層体で、優れたガスバリヤ性及び生分解性を有する生分解性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
容器や包装に用いられるプラスチックに関して、近年の環境への配慮の高まりから、生分解性プラスチックを用いることが注目され、実施開発が進められている。
生分解性プラスチックとしては、比較的機械的強度を有し、透明性にも優れているという理由から、ポリ乳酸が包装用フィルム、容器の材料として用いられている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸系フィルムは、酸素ガスバリヤ性が不十分なため、食品や医薬品の包装材料として、単独で用いることができない。このため、生分解性プラスチックフィルムに、ガスバリヤ層を積層した積層体として、包装用フィルム、容器に用いることが提案されている。例えば、特開2002−200725号では、ポリ乳酸等の飽和ポリエステル樹脂を成分とする生分解性樹脂層上に、ガスバリヤ性被覆層として、SiO等の無機蒸着被膜を形成した樹脂積層体が開示されている。脂肪族ポリエステル樹脂は、一般に、耐熱性に劣ることから、ガスバリヤ層の形成の際に高熱をかけることが難しい。無機蒸着膜形成の際の容器の変形を防止することを目的として、例えば、特開2005−255736号には、d体の含有量が4%以下のポリ乳酸で構成される生分解性フィルムの片面に、膨潤性層状粘土鉱物を含有する紫外線硬化型塗膜を形成した生分解性容器が提案されている。塗膜成分に膨潤性層状粘土鉱物を含有したコーティング液では、60℃以下の温度でガスバリヤ層を形成できるというものである。
【0004】
しかし、無機物で構成されるガスバリヤ層を有する積層体は、透明性が不十分であるため使用用途が限られ、また、無機物層自体は生分解性を有さず、さらに生分解性樹脂層の生分解性を阻害する場合がある。
【0005】
容器全体、包装フィルム全体を生分解性とし、且つガスバリヤ性を有する包装フィルム、容器としては、ガスバリヤ層にポリビニルアルコールを用いた積層体が提案されている。例えば、特開2001−205766号では、生分解性を有する芳香族ポリエステル樹脂配向フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール樹脂コーティング層を設けた積層体が開示されている。ポリビニルアルコール樹脂コーティング層は、ポリ酢酸ビニルのアセテート基を95%以上ケン化した重合体の水溶液をロールコーティング法などでコーティングすることにより形成される。
【0006】
また、特開2003−105176号では、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルに粘着付与剤を配合してなる二軸延伸脂肪族ポリエステルフィルムの片面に無機層状化合物とポリビニルアルコールを含有する組成物層を積層した多層フィルムが提案されている。ここでは、脂肪族ポリエステル層として二軸延伸脂肪族ポリエステルフィルムを使用し、この上に、無機層状化合物とポリビニルアルコールを含有する組成物の水溶液を塗布し、乾燥することにより形成している。
【0007】
【特許文献1】特開2002−200725号公報
【特許文献2】特開2005−255736号公報
【特許文献3】特開2001−205766号公報
【特許文献4】特開2003−105176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガスバリヤ層として、ポリビニルアルコールを主成分とするPVA層を用いた場合には、PVA自体が生分解性を有するので、容器、包装フィルム全体として生分解性を有するものを提供することが可能となる。また、コーティング法によるPVA層の形成は、耐熱性が高くない生分解性樹脂フィルムへの影響も少なくて済む。
【0009】
しかしながら、脂肪族ポリエステル樹脂は疎水性であるため、PVA水溶液をコーティングした場合、表面はじきによる欠陥が生じる場合があり、それを防止するにはアンダーコート層を設ける必要があるが、かかる目的に合致し、かつ生分解性であるアンダーコート層素材は現時点では見出されていない。
【0010】
一方、ガスバリヤ性の更なる向上、強度の増大のためには、積層体を延伸して結晶度を高めることが望まれる。
しかし、PVAとポリ乳酸とは、ガラス転移点、融点が大きく異なるため、両者を積層した積層体の状態で延伸することは、実質上不可能である。予め、延伸したポリ乳酸系フィルムを使用し、コーティング法で形成したガスバリヤ層を形成した後、PVAの延伸適正温度に加熱すると、耐熱性の低いポリ乳酸層を損傷してしまうおそれがあり、結局、ガスバリヤ性向上のための延伸は困難であるのが実情である。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れたガスバリヤ性と強度を備えた積層体で、且つ生産性に優れた生分解性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ガスバリヤ層を構成するPVA及び生分解性層を構成する脂肪族ポリエステル樹脂について、種々検討した結果、両者の融点が近接する組合わせを見出し、共押出ラミネート、さらには延伸処理を可能とすることによりに高度なガスバリヤ性、強度を有する積層体を案出するに到った。
【0013】
すなわち、本発明の生分解性積層体は、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコールを主成分とするガスバリヤ層の両面を、前記ガスバリヤ層との融点の差が20℃以下である脂肪族ポリエステル層で挟持してなる。
【化1】

【0014】
前記脂肪族ポリエステル層は、L−乳酸とD−乳酸の含有比率(L/D)が95/5以上であるポリ乳酸を主成分とする層であることが好ましく、前記ポリビニルアルコールは、側鎖1,2−ジオール構造の含有率が7〜10モル%で、ケン化度98モル%以上であることが好ましい。
【0015】
前記ガスバリヤ層と前記脂肪族ポリエステル層とは共押出ラミネートされたものであることが好ましく、前記積層体は、延伸されることもできる。
【0016】
本明細書において、脂肪族ポリエステル層及びガスバリヤ層の融点、ポリ乳酸及びポリビニルアルコールの融点は、いずれも示差走査熱量測定(DSC)により測定した値を示している。尚、本発明でいう各層の融点は、層全体の融点であるが、通常、各層の主成分であるポリマーの融点によってほぼ決定される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の生分解性積層体は、特定のポリビニルアルコールを主成分とするガスバリヤ層と脂肪族ポリエステル層との融点差が20℃以下の組合わせの積層体であることから、共押出ラミネートにより製造可能であり、安定的な積層構造を形成することができる上に、延伸処理も可能となる。さらに両層とも生分解性を有するので、積層体全体として生分解性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明の生分解性積層体は、脂肪族ポリエステル層/ガスバリヤ層/脂肪族ポリエステル層を構成単位とし、脂肪族ポリエステル層の融点とガスバリヤ層の融点との差が20℃以下である。両層の融点の差を20℃以下とすることにより、共押出ラミネートによる積層体の製造が可能となり、また積層体の状態での延伸処理も可能となる。
以下、各順について説明する。
【0019】
<脂肪族ポリエステル層>
脂肪族ポリエステル層を構成する脂肪族ポリエステルとしては、具体的にはポリ乳酸、グリコール酸などのヒドロキシカルボン酸の縮合物、あるいはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、シクロペンタンジカルボン酸およびシクロヘキサンジカルボン酸等の通常、炭素数が4〜12の二塩基性カルボン酸とエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、1,8−オクチレングリコール、ナノメチレングリコール、デカメチレングリコール等の通常、炭素数が2〜10のグリコールから任意に選ばれた1種あるいは2種以上のジカルボン酸とグリコールの脱水縮合あるいはそれに続く脱グリコール反応により得られる生分解性を有する脂肪族ポリエステルが挙げられる。これらの中でも、融点が150℃以上のポリ乳酸が、耐熱性、防湿性能、透明性、強度、柔軟性といったフィルム物性に優れるので好ましい。
【0020】
ポリ乳酸を構成する乳酸モノマーとしては、L−乳酸であってもよいし、D−乳酸であってもよい。さらに、乳酸と共重合可能なコモノマーとして、例えば3−ヒドロキシブチレート、カプロラクトン、グリコール酸などが含まれていてもよい。本発明で用いられるポリ乳酸は、融点150℃以上、好ましくは160℃以上のポリ乳酸である。ガスバリヤ層との融点の差を20℃以下にするような脂肪族ポリエステル層の主成分となるポリマーの融点を150℃以上、好ましくは160℃以上のポリマーを主成分とすることが好ましいからである。このようなポリ乳酸としては、乳酸のみからなる単独重合体が好ましく、より好ましくは、L−乳酸とD−乳酸の含有比率(L/D)が95/5以上のポリ乳酸である。ポリ乳酸において、D体の比率が高くなるにつれて結晶性が低下し、融点が低下する傾向にあることから、D−乳酸の含有比率を少なくすることが好ましいからである。例えば、DSCにより測定されるポリ乳酸の融点は、L−乳酸とD−乳酸の含有比率(L/D)が95/5の場合には152℃であり、99/1の場合には171℃である。
【0021】
本発明で用いる脂肪族ポリエステルとしては、その重量平均分子量が、10,000〜500,000の範囲が好ましい。また、そのメルトフローレートは、ASTM D−1238に準拠し、220℃、2160g荷重下で測定した値が、0.1〜100(g/10分)であることが好ましい。分子量およびメルトフローレートが前記の範囲内にあると、押出成形に適した溶融粘度を示し、また二軸延伸フィルムとしての十分な機械的強度を有する。
【0022】
以上のような構成を有する脂肪族ポリエステル層としては、ガスバリヤ層との融点の差が20℃以下となるように、脂肪族ポリエステル層を構成する組成物としての融点が150℃以上であることが好ましい。かかる融点差はできるだけ小さい方が好ましく、同一であることが最も好ましい。融点が150℃未満になると、ガスバリヤ層を構成するポリビニルアルコールとの融点の差が大きくなりすぎて、共押出の際にポリビニルアルコール層の冷却固化がダイ付近で起り、ポリビニルアルコールの流動性が実質的に失われて、引張りによる積層体の巻取りが困難になる。あるいは得られる積層体のポリビニルアルコール層が不均質なものとなる。また、積層体形成後に、ガスバリヤ層を構成するポリビニルアルコールの結晶度を高めるため、あるいは脂肪族ポリエステル層の強度を高めるための延伸処理を行なうことが困難となる。
【0023】
脂肪族ポリエステル層の厚さは、通常10〜200μmであり、特に20〜150μm、さらには20〜100μmであることが好ましい。薄すぎると、機械的強度が不足したり、脂肪族ポリエステル層が水分を透過しやすくなって、高湿度条件下で使用した場合のガスバリヤ層のガスバリヤ性が低下したりする傾向にあり、逆にぶ厚すぎると柔軟性が乏しくなる傾向にある。
【0024】
<ガスバリヤ層>
上記ガスバリヤ層は、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール単位を有するポリビニルアルコール(以下「側鎖1,2−ジオール含有PVA」という)を主成分とする樹脂層である。
【化1】

【0025】
上記一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。R〜Rは、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0026】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合基であり、熱安定性の点、高温下や酸性条件下での安定性の点から、単結合であることが好ましい。上記結合鎖としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CHO)m−、−(OCH)m−、−(CHO)mCH−、−CO−、−COCO−、−CO(CH)mCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられるが(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。なかでも、製造時あるいは使用時の安定性の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0027】
このような側鎖1,2−ジオール含有PVAの製造方法は特に限定しないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、好ましく製造される。
【0028】
【化2】


【化3】


【化4】


(2)(3)(4)式中、R〜Rは、いずれも(1)式の場合と同様である。R及びRは、それぞれ独立して水素またはR−CO−(式中、Rは、アルキル基である)。R10及びR11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基である。
【0029】
(i)、(ii)及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
【0030】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR〜Rが水素原子、Xが単結合、R及びRがR−CO−であり、Rがアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、更にその中でも特にRがメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0031】
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710,r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701であり、これは(ii)の方法で用いられる一般式(3)で表される化合物であるビニルエチレンカーボネートの場合のr(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0032】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0033】
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)(3)(4)で示される化合物)の他に、水溶性、溶融押出性を損なわない範囲であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル、アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物が共重合されていてもよい。
【0034】
PVAに含まれる側鎖1,2−ジオール単位の含有率は、比較的多めのものが望ましく、通常7〜10モル%が好ましく、より好ましくは8〜10モル%、さらに好ましくは8〜9モル%である。側鎖1,2−ジオール単位の含有率を上記範囲内とすることにより、側鎖1,2−ジオール含有PVAの融点を180℃以下とすることが可能となる。側鎖1,2−ジオール単位の含有率が低く成りすぎると、融点が高くなって、ポリ乳酸との融点の差を20℃以下とすることが困難となる。一方、側鎖1,2−ジオール単位の含有率を10モル%を越えて高くしても、融点、ガスバリヤ性、生分解性の程度はそれほど、向上しない。
【0035】
尚、PVA中の側鎖1,2−ジオール単位の含有率は、PVAを完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には、1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、及びメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0036】
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVAの重合度は、200〜2000であることが好ましく、より好ましくは250〜1000、更に好ましくは300〜600である。重合度が高すぎると、溶融粘度が高くなり、安定した押出が困難となる傾向にある。また、剪断発熱が大きくなり、熱分解によるゲルや焦げが増加する傾向にあり、容器内表面の外観不良の原因となる。一方、重合度が低すぎると、強度が不十分となる傾向にある
【0037】
また、本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVAのケン化度は、通常98モル%以上が好ましく、より好ましくは99〜99.9モル%である。側鎖1,2−ジオール単位の含有率が上記範囲内の場合、融点を180℃以下とするためには、ケン化度を通常98モル%以上とする必要があるからである。
【0038】
以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール含有PVAは、融点が150〜180℃程度で、溶融成形可能であり、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られる従来のPVAと同様に、ガスバリヤ性、生分解性を有している。
【0039】
尚、ガスバリヤ層は、ガスバリヤ層と脂肪族ポリエステル層との融点の差が20℃以下である限りにおいては、上記側鎖1,2−ジオール含有PVA1種類で構成されていてもよいし、異なる2種類以上の側鎖1,2−ジオール含有PVAの混合物であってもよいし、側鎖1,2−ジオール含有PVAと側鎖に1,2−ジオール単位を有しない未変性PVA、さらには、他に変性されたPVA(例えば、カチオン変性PVA、カルボン酸変性PVA、スルホン酸変性PVA)やエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物等の他のPVA誘導体との混合物であってもよい。脂肪族ポリエステル層との融点の差が20℃以下であり、且つガスバリヤ層として、ガスバリヤ性が高く、生分解性を有し、しかも溶融成形性が損なわれない限りは、他の水溶性樹脂が含まれていても良い。併用可能な水溶性あるいは水分散性樹脂としては、デンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン等のデンプン誘導体;ゼラチン、カゼイン、等の天然系たんぱく質類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、CMC等のセルロース誘導体;アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸等の天然高分子多糖類;ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩などの水溶性樹脂;SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル樹脂系エマルジョン、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョンなどが挙げられる。
【0040】
尚、ガスバリヤ層として、側鎖1,2−ジオール含有PVA以外のPVA系樹脂や他の生分解性樹脂を含む場合、生分解性、溶融押出性、ガスバリヤ性の観点から、側鎖1,2−ジオール含有PVAの含有率は80重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0041】
ガスバリヤ層の厚みは、0.5〜50μm(さらには1〜30μm、特には2〜20μm、殊には3〜10μm)の範囲から選択することが好ましい。かかる厚みが薄すぎると、酸素バリア性が不十分となり、逆に厚すぎると経済的に不利となって好ましくない。
【0042】
<積層体>
本発明の生分解性積層体は、以上のような構成を有するガスバリヤ層を脂肪族ポリエステル層で挟持したもので、「脂肪族ポリエステル層/ガスバリヤ層/脂肪族ポリエステル層」を構成単位とするものである。脂肪族ポリエステル層を構成するポリ乳酸組成物とガスバリヤ層を構成するポリビニルアルコール組成物とを共押出することにより得られる。脂肪族ポリエステル層とガスバリヤ層との融点の差が20℃以下であることから、両層は境界面においても、それぞれの層と同じように、溶融状態を保持し続けることができるので、共押出された積層体を引張って巻取る際に、等しく張力をかけることが可能となる。等しく張力がかけられた状態で巻取られた積層体は、脂肪族ポリエステル層、ガスバリヤ層のいずれにおいても、結晶度が高められており、期待するガスバリヤ性、強度を確保することができる。
さらに、脂肪族ポリエステル層とガスバリヤ層との融点の差が20℃以下であることから、積層体の状態で延伸処理することも可能となり、これにより結晶度をさらに高めてガスバリヤ性、強度をさらに向上させることができる。
【0043】
積層体の厚みは、通常20〜300μmであり、特に30〜250μm、さらに50〜200μmのものが好ましく用いられる。また、脂肪族ポリエステル層の両層の厚さの和と、ガスバリヤ層の厚さとの比は、通常、20/1〜1/1、特に10/1〜2/1、さらに5/1〜3/1のものが好ましく、かかる厚さの比が大きすぎると、ガスバリヤ性が不十分となる傾向にあり、逆に小さすぎると、脂肪族ポリエステル層の湿度バリア性が不足し、高湿度条件下でガスバリヤ層が吸湿することによりガスバリヤ性が低下する傾向にある。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0045】
〔生分解性の測定方法〕
JIS K6950に規定する水系培養液中の好気的究極生分解度に従って、生分解度を測定した。
具体的には、標準試験培養液300mlに、フィルムを細かく裁断した断片を600μl添加して、25±1℃で70日間培養し、培養中の、水中での好気的生物酸化によって消費された溶存酸素の質量濃度に相当する生物化学的酸素要求量(BOD)を、閉鎖系酸素消費量測定装置(大倉電気社製クーロンメーターOM3100A)を用いて測定し、下記式により生分解度(%)を算出した。なお、化学物質が完全に酸化されるために必要とされる分子式から計算される最大理論酸素要求量である理論的酸素要求量(ThOD)には、完全ケン化物の場合で理論的に算出した値を採用した。
生分解度(%)=(試料のBOD値−空試験のBOD値)/ThOD×100
【0046】
〔側鎖1,2−ジオール含有PVAフィルムの作製及び生分解性の測定〕
酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合し、これをケン化して、側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量8モル%、ケン化度98モル%、重合度300の側鎖1,2−ジオールPVA系樹脂を製造し、溶融押出して側鎖1,2−ジオール含有PVAフィルム(厚み30μm)を得た。このPVAフィルムの融点は170℃である。
このPVAフィルムの生分解度を、上記評価方法に基づいて測定した。1週間後の生分解度は23.8%、2週間後で35.5%、3週間後で46.5%、65日目で70%を越えた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の生分解性積層体は、ガスバリヤ層を構成するポリビニルアルコールとして、特定構造のPVAを使用し、脂肪族ポリエステル層との融点の差を小さくすることにより共押出ラミネートを可能としたものである。従来のコーティング法によるPVA製ガスバリヤ層の積層体と比べて生産性が向上するだけでなく、脂肪族ポリエステル層を構成するポリ乳酸とガスバリヤ層を構成するPVAの結晶度を高めることが可能となり、従来のPVAを用いた生分解性積層体よりも、ガスバリヤ性、強度を高めた生分解性積層体を、効率よく生産することできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を含有するポリビニルアルコールを主成分とするガスバリヤ層の両面を、前記ガスバリヤ層との融点の差が20℃以下である脂肪族ポリエステル層で挟持してなる生分解性積層体。
【化1】

【請求項2】
前記生分解ポリエステル層は、L−乳酸とD−乳酸の含有比率(L/D)が95/5以上であるポリ乳酸を主成分とする層である請求項1に記載の生分解性積層体。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールは、側鎖1,2−ジオール構造の含有率が7〜10モル%で、ケン化度98モル%以上である請求項1又は2に記載の生分解性積層体。
【請求項4】
前記ガスバリヤ層と前記脂肪族ポリエステル層とは共押出ラミネートされたものである請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性積層体。
【請求項5】
前記積層体は、延伸されたものである請求項1〜4の何れかに記載の生分解積層体。

【公開番号】特開2009−196287(P2009−196287A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42353(P2008−42353)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】