説明

生分解性積層包装材料、及び、それを用いた食品包装容器

【課題】耐熱性及び耐油性を備えるようにする。
【解決手段】紙層と、その紙層に積層される生分解性樹脂層とを有する。その生分解性樹脂層は、テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び、ポリエチレングリコールからなる繰り返し単位を有し、前記酸成分中、テレフタル酸が50モル%〜90モル%、スルホン酸金属塩が0.2モル%〜6モル%、脂肪族ジカルボン酸が4モル%〜49モル%であり、前記グリコール成分中、エチレングリコールが50モル%〜99.9モル%、ジエチレングリコールが0.1モル%〜50モル%、ポリエチレングリコールが20モル%以下であるポリエチレンテレフタレート共重合体である生分解性樹脂を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を有する積層包装材料、及び、それを用いた食品包装容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、積層包装材料として、紙層と、ポリエチレン,ポリプロピレン等に代表される合成樹脂層とを積層したものが流通している。こうした積層包装材料は、必要に応じて、各種の形態を有する包装容器として使用されている。
この種の積層包装材料は、紙と合成樹脂とが複合化されているため、分別が困難であり、使用後は、焼却処理又は埋立て処理されている。
しかしながら、焼却処理された場合は、二酸化炭素が発生するため、地球温暖化の一因となる。また、埋立て処理された場合は、その合成樹脂が分解されにくいため、自然環境に悪影響がある。
【0003】
以上のようなことから、埋立て処理しても自然環境下で炭酸ガスと水に分解する生分解性積層材料の開発が待たれている。また、焼却処理したとしても、ポリエチレン等の合成樹脂と比較して二酸化炭素の発生が低減できる包装材料の開発が待たれている。
【0004】
ここに、生分解性樹脂としては、澱粉、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、キトサン、酢酸セルロ−ス、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0005】
紙層と樹脂層との積層は、溶融押出法により、紙層に対して樹脂を直接的に供給して、接着させることによって行うことが好ましい。
その際、上記のような生分解性樹脂の紙層に対する接着力を向上させるためには、溶融樹脂温度をある程度高くすることが必要である。
しかしながら、溶融樹脂温度を高くすると、溶融樹脂の粘度が低下し、口金ダイスから押出される溶融膜の流れ性が不均一になったり、冷却ロール離れが悪くなって接着面に剥離力が働き、溶融樹脂の紙層表面への接着が不安定となり、結果として積層が困難になってしまうという問題があった。
【0006】
このような問題に対処するために、例えば、次のような種々の方法が試みられている。
そのうちの1つの方法として、予め成形したポリ乳酸等の生分解性フィルムを接着剤を用いて紙と積層するドライラミネート法がある。
しかしながら、その方法では、工程が多く、コストがかさむという欠点がある。
【0007】
他の方法として、特許文献1には、紙面に対する接着性が良好な生分解性樹脂を含む生分解性樹脂性ポリマーブレンドを2層同時共押出法で紙層に対して直接的に積層する方法が開示されている。
また、特許文献2には、特定のポリブチレンサクシネートを紙層の表面に積層する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、押出機が2台必要であり、口金ダイスも2層用の特殊なものが必要となってしまう。
また、特許文献2の方法では、その生分解性樹脂に耐熱性がなく、電子レンジやオーブンなどにそのまま使用できないという問題がある。また、同じく、その生分解性樹脂に耐油性がないため、その積層体を用いて作製した包装容器に油性の食品を収容した場合には、その包装容器の外面に油が染み出してしまう、という問題がある。
【特許文献1】特開2004−98321号公報
【特許文献2】特開2006−247876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、より実用性の高い生分解性の積層包装材料及び包装容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、より実用性の高い生分解性の積層包装材料として適切な樹脂を種々探索したところ、特定組成の生分解性樹脂が、溶融押出法による紙層に対する積層に好適であるとともに、良好な耐熱性及び耐油性を兼ね備えていることを初めて見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の積層包装材料は、紙層と、その紙層に積層される生分解性樹脂層とを有する積層包装材料であって、前記生分解性樹脂層は、テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び、ポリエチレングリコールからなる繰り返し単位を有し、前記酸成分中、テレフタル酸が50モル%〜90モル%、スルホン酸金属塩が0.2モル%〜6モル%、脂肪族ジカルボン酸が4モル%〜49モル%であり、前記グリコール成分中、エチレングリコールが50モル%〜99.9モル%、ジエチレングリコールが0.1モル%〜50モル%、ポリエチレングリコールが20モル%以下であるポリエチレンテレフタレート共重合体である生分解性樹脂を主成分とするものである、生分解性を有する積層包装材料である。
【0012】
生分解性樹脂層を形成する材料が上述のものであるため、溶融押出法で、生分解性樹脂層を直接的に紙層に対して接着させ積層させることができる。また、間接加熱による調理用の耐熱性を備えることができるとともに、十分な耐油性を確保できる。
こうして、本発明によれば、従来にはなかった実用的な生分解性の積層包装材料が初めて提供されるのである。
すなわち、発明の積層包装材料の生分解性樹脂層に用いるポリエチレンテレフタレート共重合体に関しては、紙層に対する直接的な溶融押出法により積層体化、及び、間接加熱による加熱調理等への適性、及び、耐油性等について全く検討されておらず、積層包装材料への適用は全く想定されていなかった。
そうした状況の下において、本発明者は、上述のポリエチレンテレフタレート共重合体を用いて積層包装材料を開発したのである。
【0013】
本発明の積層包装材料においては、前記ポリエチレンテレフタレート共重合体の結晶融点が190℃以上210℃以下であることが好ましい。
また、間接加熱による調理容器用であってもよい。特に、電子レンジ、オーブントースター及びオーブン等を用いた調理容器用とすることができる。また、油性食品用とすることもできる。
【0014】
また、本発明の食品包装容器は、上記積層包装材料を少なくとも一部に備える、食品包装容器である。
本発明の食品包装容器は、そのまま間接加熱による加熱調理用の容器であってもよい。特に、電子レンジ、オーブントースター及びオーブン等を用いた調理容器用とすることができる。油性食品用としてもよい。また、袋状体であってもよく、また、前記積層包装材料の一部に内部を視認可能な程度に透明な生分解性樹脂層からなる透明部位を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、実用性の高い生分解性の積層包装材料及び食品包装容器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の各種の実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
[積層包装材料]
本発明の積層包装材料は、紙層と当該紙層に積層される特定組成の生分解性樹脂層とを備えている。本発明の積層包装材料においては、一般的には、紙層が外層側であり、生分解性樹脂層が内層側に配置される。
【0018】
紙層の厚みや単位面積当たりの質量(秤量)は、特に限定されない。
また、紙質も特に限定されず、この種の積層包装材料に使用される公知の各種の紙を用いることができる。例えば、上質紙、晒クラフト紙、クラフト紙、薄葉紙、純白ロール紙、模造紙、板紙、ボール紙等が挙げられる。
【0019】
生分解性樹脂層は、特定組成のポリエチレンテレフタレート共重合体である生分解性樹脂を主成分としている。
生分解性樹脂層の厚みや秤量は、特に限定されない。
ポリエチレンテレフタレート共重合体は、それぞれ特定範囲の組成の酸成分とグリコール成分とで構成されている。なお、グリコール成分の使用量は、酸成分100モルに対し、実質的に等モルであるが、一般には、1モル%以上20モル%以下程度過剰に用いられる。
【0020】
ポリエチレンテレフタレート共重合体は、テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及びポリエチレングリコールからなる繰り返し単位を有している。
この共重合体成分の酸成分中、テレフタル酸が50モル%以上90モル%以下であり、スルホン酸金属塩が0.2モル%以上6モル%以下であり、脂肪族ジカルボン酸が4モル%以上49モル%以下であることが好ましい。
好ましくは、テレフタル酸が60モル%以上85モル%以下であり、スルホン酸金属塩が1モル%以上4モル%以下であり、脂肪族ジカルボン酸が4モル%以上20モル%以下である。
【0021】
また、この共重合体成分中、前記グリコール成分がエチレングリコールが50モル%〜99.9モル%、ジエチレングリコールが0.1モル%〜50モル%、ポリエチレングリコールが20モル%以下であることが好ましい。
より好ましくは、エチレングリコールが75モル%以上99モル%以下、ジエチレングリコールは1モル%以上25モル%以下であり、ポリエチレングリコールは2モル%以上18モル%以下である。
【0022】
本発明で用いるポリエチレンテレフタレート共重合体の結晶融点は190℃以上210℃以下であることが好ましい。
なお、結晶融点は、DSCにおけるピークより求めることができる。
【0023】
本発明の生分解性樹脂層には、上記したポリエチレンテレフタレート共重合体のほか、本発明の効果が損なわれない範囲で他の生分解性樹脂を含有させてもよい。
具体的には、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペート/テレフタレートなどが挙げられる。
また、本発明の生分解性樹脂層には、公知の添加剤である酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、加水分解防止剤、着色剤、プロッキング防止剤等は適宜添加することができる。
【0024】
本発明の積層包装材料は、間接加熱による調理容器用の包装材料に適している。すなわち、こうした加熱調理、典型的には、電子レンジ、オーブン、オーブントースター等の間接加熱による調理器具の加熱に対して良好な耐熱性を備えている。
こうした耐熱性は、上記した特定組成のポリエチレンテレフタレート共重合体によるものである。
また、本発明の積層包装材料は、油性食品用の包装材料に適している。油性食品を包装しても、油分が表面に染み出すのを効果的に防ぐことができるからである。
こうした耐油性も、上記した特定組成のポリエチレンテレフタレート共重合体によるものである。
【0025】
[積層包装材料の製造]
上述した本発明の積層包装材料は、公知の押出ラミネート成形方法、すなわち、溶融押出法により、容易に製造することができる。
生分解性樹脂の積層厚みは、10μm〜50μmと、用途によって適宜変更して積層する。
また、押出温度は、積層厚み、紙質によって変わるが200℃〜280℃、好ましくは、210℃〜270℃の範囲である。210℃未満では、紙層表面への接着性が弱く、270℃以上では溶融樹脂のネックインが大きくなったり、熱分解したり、冷却ロールからの剥離性が悪くなり、紙表面に一旦接着した樹脂膜が剥がれたりする問題が発生するからである。
【0026】
本発明の積層包装材料は、溶融押出法により、紙層に対して生分解性樹脂層を一体性よく積層することができる。これは生分解性樹脂層の主成分であるポリエチレンテレフタレート共重合体によるものである。
【0027】
[食品包装容器]
本発明の食品包装容器は、本発明の積層包装材料を少なくとも一部に備えることができる。
本発明の食品包装容器によれば、本発明の積層包装材料を備えているため、紙層との一体性もよく、しかも耐熱性及び耐油性に優れるものとなっている。
このため、本発明の積層包装材料と同様、本発明の食品包装容器は、間接加熱による加熱調理用容器に有用であり、また、油性食品用に有用である。
【0028】
食品包装容器の形態は、特に限定されず、公知の食品包装容器の各種形態を任意に採用できる。こうした形態としては、袋状体、トレイ、トレイとリッドとの組み合わせ等が挙げられる。本発明の食品包装容器の形態は、好ましくは袋状体である。
【0029】
本発明の食品包装容器は、積層包装材料の一部に内部を視認可能な程度に透明な生分解性樹脂層からなる透明部位を備えることができる。より具体的には、外層に紙層がなく生分解性樹脂層のみからなる透明部位を備えることができる。
こうした透明部位を備えることで、内容物、すなわち、被包装体である食品を外部から視認できる。
本発明の生分解性樹脂は、透明性と溶融押出時の成形性に優れているため、このような透明部位を容易に形成できる。
【0030】
本発明の食品包装容器は、この種の製造方法として公知の方法で製造することが可能である。例えば、袋状体である食品包装容器の製造の一例を以下に示す。
まず、長方形状の積層包装材料を準備し、生分解性樹脂層を内側にして谷折りした後、谷折れ部位から連続する側辺部(すなわち、袋状体となった際における側辺部に該当する部分)をヒートシールすることで、谷折れ部位の反対側を開口部とした袋状体を作製できる。なお、必要に応じて、底部もヒートシールして製袋することもできる。
【0031】
また、透明部位を形成するには、この種の透明部位の製造方法として公知の各種手法を採用できる。例えば、予め透明部位に相当する開口部を設けた紙層を準備して、その紙層上に生分解性樹脂を積層することによって、透明部位を有する積層包装材料を取得する。
こうした積層包装材料を用いて、公知の方法で食品包装容器を作製することができる。
なお、透明部位を有する積層包装材料は、開口部を有しない紙層に生分解性樹脂を溶融押出により積層した後、紙層の一部を除去して開口部を形成することで作製してもよい。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
生分解性樹脂として、デュポン株式会社の「Biomax4024」(結晶融点:199℃)を用いて、温度250℃で、秤量50g/m2 の晒クラフト紙の表面に対して、溶融押出しによって、その生分解性樹脂を厚みが15μmとなるように積層した。こうして、生分解性を有し、紙層と生分解性樹脂層との一体性の良好な積層包装材料を作製した。
本積層包装材料を用いて、生分解性樹脂面を内側にして折り曲げた後、両側面をヒートシールして食品包装袋を作製した。
その食品包装袋の中に、油で揚げた惣菜を入れて、定格高周波出力500Wの電子レンジで2分間加熱、又は、オーブンで5分間加熱した。
その結果は、いずれにおいても、袋の内面は融着することなく、又、袋の外面へ油の染み出しもなく、良好であった。
【0034】
<実施例2>
生分解性樹脂として、デュポン株式会社の「Biomax4026」(結晶融点:195℃)を用いて、実施例1と同様に、生分解性を有し、紙層と生分解性樹脂層との一体性の良好な積層包装材料を作製した。
本積層包装材料を用いて、生分解性樹脂面を内側にして折り曲げた後、両側面をヒートシールして食品包装袋を作製した。
その食品包装袋の中に、油で揚げた惣菜を入れて、定格高周波出力500Wの電子レンジで2分間加熱、又は、オーブンで5分間加熱した。
その結果は、いずれにおいても、袋の内面は融着することなく、又、袋の外面へ油の染み出しもなく、良好であった。
【0035】
<比較例1>
生分解性樹脂として、融点110℃のポリブチレンサクシネートを用いて、温度240℃で、秤量50g/m2 の晒クラフト紙表面に対して、その生分解性樹脂が厚みが15μmとなるように積層した。こうして、実施例1と同様に、生分解性を有する積層包装材料を作製した。
本積層包装材料を用いて、実施例1と同様に、食品包装袋を作製した。
そして、実施例1と同様に、その食品包装袋に、油で揚げた惣菜を入れて、電子レンジで2分間加熱、又は、オ−ブンで5分間加熱した。
その結果は、いずれにおいても、袋の内面は熱で融着し、又、袋の外面に油が染み出して、実用性のないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙層と、その紙層に積層される生分解性樹脂層とを有する積層包装材料であって、
前記生分解性樹脂層は、
テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び、ポリエチレングリコールからなる繰り返し単位を有し、
前記酸成分中、テレフタル酸が50モル%〜90モル%、スルホン酸金属塩が0.2モル%〜6モル%、脂肪族ジカルボン酸が4モル%〜49モル%であり、
前記グリコール成分中、エチレングリコールが50モル%〜99.9モル%、ジエチレングリコールが0.1モル%〜50モル%、ポリエチレングリコールが20モル%以下である
ポリエチレンテレフタレート共重合体である生分解性樹脂を主成分とするものである、
生分解性を有する積層包装材料。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート共重合体の結晶融点が190℃以上210℃以下である、請求項1に記載の積層包装材料。
【請求項3】
間接加熱による加熱調理用である、請求項1又は請求項2に記載の積層包装材料。
【請求項4】
油性食品用である、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の積層包装材料。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の積層包装材料を少なくとも一部に備える、食品包装容器。
【請求項6】
間接加熱による加熱調理用容器である、請求項5に記載の食品包装容器。
【請求項7】
油性食品用である、請求項5又は請求項6に記載の食品包装容器。
【請求項8】
袋状体である、請求項4〜請求項6のいずれかに記載の食品包装容器。
【請求項9】
前記積層包装材料の一部に、内部を視認可能な程度に透明な前記生分解性樹脂層からなる透明部位を備える、請求項4〜請求項6のいずれかに記載の食品包装容器。

【公開番号】特開2010−125796(P2010−125796A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305505(P2008−305505)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(592110808)株式会社吉良紙工 (11)
【Fターム(参考)】