説明

生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、繊維、フィルム、シート、その他の成形体に成形された場合に表面析出物が無く、外観特性および熱安定性に優れた生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法に関する。本発明により得られる脂肪族ポリエステルカーボネートは成形後の外観特性に優れており、さらに生分解性(微生物分解性)を有するので包装材料、農業分野、漁業分野、その他の成形品などに利用できる有用なものである。たとえば農業分野では土壌表面を被覆して土壌の保温をするマルチフィルム、植林用の鉢やひも、また肥料のコーティング材料などに利用でき、あるいは漁業分野では釣り糸、漁網に、さらには、医療分野の医療材料、生理用品などの衛生材料として有用である。
【0002】
【従来の技術】従来、ポリエステルカーボネートとしては、脂環式化合物を用いるポリエステルカーボネートあるいは芳香族化合物と脂肪族化合物を使用するポリエステルカーボネートなどが、通常高い融点を持つか、あるいは高いガラス転移点を示すため成形体として使用できることが知られている。しかしながら、これらは一般には微生物分解性はなく、生分解性ポリマーには分類されていない。ここでいう生分解性ポリマーとは、例えば、成形品を土中または水中に放置した場合に、微生物の作用で、ポリマーが分解、消失する性質を意味する。生分解性ポリマーに分類されているものとしては、環状モノマーを用いた開環重合法による脂肪族ポリエステルカーボネートがある。これらは、ヒドロキシカルボン酸単位と脂肪族カーボネート単位をその構成要素としており、生体適合性があり、医療分野で使用されるものがあるが、加水分解性を有するため成形体としての使用には制限がある。
【0003】一方、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール及びジアリールカーボネートからポリエステルカーボネートを製造することは公知であるが、この脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを構成成分とする脂肪族ポリエステルカーボネートは、一般的に融点が低くゴム状の性質を示し、接着剤、シーリング剤、塗布コーティング剤、さらにはその他の樹脂とのポリマーアロイの材料として利用することが提案されているものの、主な用途は、液状の低分子量体としてウレタン原料に使用されることであり、高分子量を要求される、フィルム、シート、繊維等の成形体に加工され、実用に供された例は未だ見い出されていない。
【0004】本発明者らは、高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートが微生物分解性を有し、フィルム、シート、繊維等の各種成形体として利用できることを見い出した。これら高分子量脂肪族ポリエステルカーボネートは、溶融成形性、生分解性等が良好なポリマーであるが、物性、用途等の更なる研究の結果、フィルム等に成形した後長時間放置すると、表面への析出物による外観特性の低下が見られることが明かとなった。
【0005】この析出物を分析したところ、環状オリゴマーであることが見出された。環状オリゴマーの析出については、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)において知られており(J.Polymer Sci.,vol,13、406頁、1954年)、表面析出物は主に環状3量体であることが確認されている。環状3量体は分子量が大きく、PETからの減圧処理等による物理的除去は困難である。一方、環状オリゴマーの含有量の少ない高分子量のPETを得る方法として、融点以下の温度での固相重合法が実用化されている。この方法によれば、PET中の環状3量体は0.3重量%程度まで低減できることが知られている。
【0006】脂肪族ポリエステルオリゴマーとジアリールカーボネートの溶融重縮合によって得られる脂肪族ポリエステルカーボネートは、それ自体は公知のポリマーである。しかし、ポリマー中に環状オリゴマーが含有されていること、およびその除去に関する記載は見当たらない。一般的に、脂肪族ポリエステルカーボネートは融点が低く、固相重合を行うための実用的な重合温度を確保できないことから、前記のPETで実用化されている固相重合法は、本発明の脂肪族ポリエステルカーボネートには適当ではない。
【0007】一方、生分解性脂肪族ポリエステルの熱安定性を向上させる方法が、特開平7−53700号公報に開示されている。すなわち、この方法は末端基が実質的にヒドロキシル基である脂肪族ポリエステルを合成した後、さらにモノイソシアナート化合物を反応させた反応生成物から低分子量オリゴマーを除去することに関する。しかし、この方法では、モノイソシアナートとの反応工程が増え、工程が複雑になること、また、重合触媒がポリマー中にそのまま残存しているため、加熱溶融時のポリマーの分子量低下の抑制が充分でないこと等、未だ十分な方法とは言いがたい。そこで、新たな環状オリゴマーの低減化方法の開発が必要となった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、繊維、フィルム、シート、その他の成形体に成形された場合に表面析出物が実用上問題とならない量まで低減され、外観特性の優れた、後加工、用途分野で障害のない生分解性脂肪族ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、脂肪族ポリエステルカーボネート、特に1,4−ブタンジオールを主成分とした脂肪族ジヒドロキシ化合物と、コハク酸を主成分とした脂肪族ジカルボン酸化合物とから得られる脂肪族ポリエステルオリゴマーと、ジフェニルカーボネートとを溶融重縮合させることにより得られる脂肪族ポリエステルカーボネートの成形品の表面析出物について鋭意検討した結果、表面析出物が主として、コハク酸と1,4−ブタンジオールからなる環状2量体(各々2分子反応したもの)を主成分とする環状オリゴマーであり、重合反応生成物にリン系化合物を添加、混合した後、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートを得、該粒状脂肪族ポリエステルカーボネートと、有機溶媒および/または水とを接触させることにより樹脂中から除去できることを見いだした。さらに、脂肪族ポリエステルカーボネート中の環状オリゴマーの含有量を0.6重量%以下に減少させることにより、成形品の表面への析出物を抑制できることを見い出し、本発明に至ったものである。
【0010】すなわち本発明は、1,4−ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジヒドロキシ化合物とコハク酸を主成分とする脂肪族ジカルボン酸化合物とからなる脂肪族ポリエステルオリゴマーを得、該オリゴマーとジフェニルカーボネートとの反応生成物にリン系化合物を添加、混合した後、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートを得、該粒状脂肪族ポリエステルカーボネートと、有機溶媒および/または水とを接触させることを特徴とする生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法である。
【0011】また、本発明は、1,4−ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジヒドロキシ化合物とコハク酸を主成分とする脂肪族ジカルボン酸化合物とからなる脂肪族ポリエステルオリゴマーを得、該オリゴマーとジフェニルカーボネートとの反応生成物にリン系化合物を添加、混合した後、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートを得、該粒状脂肪族ポリエステルカーボネートと、有機溶媒および/または水とを接触させることにより、主として、1,4−ブタンジオールとコハク酸とからなる環状オリゴマーの含有量が0.6重量%以下であることを特徴とする生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法である。
【0012】本発明による脂肪族ポリエステルカーボネートの製造は、1,4−ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジヒドロキシ化合物とコハク酸を主成分とする脂肪族ジカルボン酸化合物とから脂肪族ポリエステルオリゴマーを得る第1工程と、第1工程で得られた脂肪族ポリエステルオリゴマーとジフェニルカーボネートとを反応させる第2工程、さらに得られた脂肪族ポリエステルカーボネートから環状オリゴマーを除去する第3工程より構成される。以下には便宜上、1,4−ブタンジオールとコハク酸とを原料とした場合について記述する。
【0013】第1工程は、触媒の存在下、温度100〜250℃、好ましくは150〜220℃で、反応に伴って副生する水及び過剰の1,4−ブタンジオールを除去しながら、数平均分子量500〜10000のポリエステルオリゴマーを製造する工程である。ポリエステルオリゴマーの分子量が上記より高い場合は、最終ポリマー中のカーボネート結合の割合が著しく低くなり、生分解性が低下するので、上記の分子量を越えることは好ましくない。しかしながら、カーボネート結合はオリゴマーの結合剤として、オリゴマーを容易に高分子量体とすることが可能であり、生分解性を特に考慮する必要のない場合には、上記の分子量を越えるポリエステルオリゴマーであっても良い。また、ポリエステルオリゴマーの分子量が500未満の場合は最終ポリマーの融点が低下し、実用的な使用に耐えない。反応が行われる圧力は上記目的が達成される圧力が選ばれ、反応を促進する目的で300mmHg以下の減圧としてもよい。
【0014】第1工程における1,4−ブタンジオールとコハク酸との反応は、1,4−ブタンジオールを理論量より過剰で使用される。具体的には、コハク酸1に対して、1,4−ブタンジオールを1.05〜2.00のモル比の範囲で使用される。1,4−ブタンジオールが多い方が反応時間は長くなるが、酸価が小さくなる傾向にある。得られる脂肪族ポリエステルオリゴマーの分子量、酸価、1,4−ブタンジオール残存量のコントロールは、未反応の1,4−ブタンジオールの留去速度と反応速度を適当にバランスさせることにより可能であり、仕込みモル比、触媒、温度、減圧度、反応時間の条件を適当に組合わせる方法や、不活性気体を適当な流量で吹き込むような方法が現実的である。
【0015】例えば、減圧度の増加速度を早くすることにより、反応時間の短縮およびオリゴマー中の1,4−ブタンジオールの残存量の低減化が可能であるが、未反応のカルボン酸量すなわち酸価が増大する。酸価の増加は、ジフェニルカーボネートの副反応による分解および着色等の問題から好ましくない。一方、触媒量の増加は反応速度を増加させるが、最終的には生成したポリマーの熱安定性に問題が生じる。このため、反応は少量の触媒を用いて、3段階に分けて減圧度を調節することにより行う。第1段階は主に縮合によって生じた水の除去で、常圧で行われる。第2段階は脱水縮合反応の完結、すなわち酸価の低減のための熟成工程で、200〜80mmHg程度の減圧度で水および少量の1,4−ブタンジオールの留去を行う。第3段階は過剰の1,4−ブタンジオールの留去による高分子量化の工程で、最終的には5mmHg以下の減圧度とする。分子量すなわち末端水酸基価の調節は、1,4−ブタンジオールの留出量によって行うことができる。末端水酸基価は20〜200KOHmg/gの範囲が好ましい。
【0016】第2工程は第1工程で得られたポリエステルオリゴマーとジフェニルカーボネートとを反応させて高分子量体とする工程であり、温度150〜250℃、好ましくは200〜230℃で、反応に伴って副成するフェノールおよび若干量の1,4−ブタンジオール、あるいは1,4−ブタンジオールの転化物等を除去する工程である。ここで、使用するジフェニルカーボネートの量は、ポリエステルオリゴマーの末端水酸基量に対して、0.45〜0.55倍モル量、より好ましくは0.49〜0.51倍モル量の範囲で使用される。得られるポリエステルカーボネート中のカーボネート結合の含有量はポリエステルオリゴマーの末端水酸基価により決定され、1.8〜33モル%の範囲、好ましくは3〜25モル%の範囲である。カーボネート結合の量が増加すると生分解性は向上するが、融点は低下するので、用途に応じて制御することが必要である。また、ここで使用されるポリエステルオリゴマーは1種類に限定されるものではなく、原料の異なる2種類以上のポリエステルオリゴマーを独立に製造し、適当量を混合することによりブロック共重合体を製造することも可能である。
【0017】この工程において反応温度が高いと重合反応は速いが、得られる重合体を着色させることがあり、上記の範囲を越えるような高い温度は好ましくない。反応は、必要に応じて徐々に減圧度を調節して行われ、最終的には3mmHg以下の減圧とすることが好ましい。
【0018】得られた脂肪族ポリエステルカーボネートに、窒素雰囲気下でリン系化合物を添加、混合した後、反応槽から溶融状態でストランド状に抜き出し、冷却固化した後、ペレタイザーで粒状にすることができる。リン系化合物の添加は優れた安定化効果がある。すなわち、リン系化合物を添加することにより、後述の第3工程において、ポリマーの加水分解等による分子量低下を抑制する効果がある。また、溶融状態でのポリマーの分子量低下を防止し、環状オリゴマーの再生抑制にも効果がある。リン系化合物としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸およびそのエステル等が例示される。添加量は、上述の第1および第2工程で使用した触媒1モルに対し0.3〜10倍モル量、好ましくは0.5〜5倍モル量の範囲で使用される。
【0019】本発明でいう、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートとは、厳密な意味での粒状のものに限定するわけではなく、粉末状、フレーク状のものも包含する。第2工程で得られた粒状脂肪族ポリエステルカーボネートは、通常ペレット状のものであり、1〜3重量%の環状オリゴマーが含まれている。この他に300ppm程度の副成フェノール及び20ppm未満のジフェニルカーボネートが含まれている。
【0020】本発明の脂肪族ポリエステルカーボネートの製造における第3工程は、重合工程で得られた粒状脂肪族ポリエステルカーボネートから上記の環状オリゴマーを除去する工程である。この工程では、上記の環状オリゴマーを含有する粒状脂肪族ポリエステルカーボネートを、有機溶媒および/または水とともに排出装置を備えた処理容器に導入する。ここで使用される処理容器は、例えば処理温度を保つ温度制御装置、溶媒を循環させる循環機構、あるいは溶媒を底部から導入して上部より排出するオーバーフロー装置を備えたものが好ましいが、必要であれば撹拌機構さらには固液分離機構、乾燥機構などを備えたものとすることもできる。
【0021】また、導入される有機溶媒としては、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートから環状オリゴマーを抽出できるものであれば各種のものを用いることができるが、脂肪族ポリエステルカーボネートに対して、非溶媒あるいは貧溶媒となるものが好適に使用される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトンのようなケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族および芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、さらに上記溶媒を含有するかあるいは含有しない水などが例示される。これらの他に、ジクロルメタン、クロロホルムなどの脂肪族ポリエステルカーボネートを溶解する良溶媒と、上記の貧溶媒との混合溶媒も使用可能である。これらの有機溶媒のうち、メタノール、アセトンが特に好ましい。また、上記の処理容器内に導入される有機溶媒の量は、要するに不純物含有の粒状脂肪族ポリエステルカーボネートと充分に接触できる量であればよい。具体的には処理すべき粒状脂肪族ポリエステルカーボネートに対して重量比で0.5〜20倍、好ましくは1〜5倍量である。
【0022】上記粒状脂肪族ポリエステルカーボネートと有機溶媒および/または水との接触条件は、溶媒の種類および粒子サイズにより適宜選択されるが、ポリエステルカーボネートの融点以下の温度が好ましく、通常は20〜110℃、あるいは溶媒の沸点以下の温度、抽出時間としては、0.1〜10時間が好ましい。このような抽出処理により、脂肪族ポリエステルカーボネート中の環状オリゴマーの含有量が0.6重量%以下となることが好ましい。また、同時にフェノール量は20ppm以下、ジフェニルカーボネート量は10ppm以下となる。環状オリゴマー濃度が0.6重量%を越えると、成形後のフィルムおよびシートの表面に約1ヶ月の保存期間後白色の結晶が析出し透明性を損ない、好ましくない。また、20ppm以上のフェノール量では、成形加工時にフェノール臭の問題があり、作業上好ましくない。
【0023】本発明の方法では、処理容器内で抽出処理を行った後に、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートを有機溶媒および/または水から分離し、乾燥する。固液分離方法、乾燥方法については特に制限はなく、適宜選択される。固液分離に使用する装置としては、例えば抽出処理容器の底部付近に濾過板を設置したものでもよく、抽出容器から独立した濾過装置でもよい。また、乾燥方法としては、自然乾燥でもよいが、通常は加熱下及び/または減圧下で乾燥させる。本発明では、1,4−ブタンジオールとコハク酸を主成分とするポリエステルカーボネートであるから、乾燥処理の温度は80〜110℃とすることが好ましい。あるいは窒素等の不活性ガス通気下で加熱乾燥することもでき、撹拌翼などで撹拌しながら加熱乾燥することも効果的である。ここで上記乾燥機構は、通常は加熱手段により構成され必要に応じて補助的に撹拌手段や減圧手段が付設されており、抽出容器に備えたものでもよく、公知の独立した乾燥機構でもよい。
【0024】本発明に使用する脂肪族ポリエステルカーボネートの製造には、1,4−ブタンジオールとエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジヒドロキシ化合物とを併用したり、またコハク酸と蓚酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ジグリコール酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物を併用することも可能である。また、脂肪族ジヒドロキシ化合物および脂肪族ジカルボン酸化合物を併用する場合は、1,4−ブタンジオールおよびコハク酸の量をそれぞれ60モル%以上とすることが得られるポリマーの物性上の観点から望ましい。
【0025】本発明に使用される触媒はエステル交換触媒から選ばれるが、ジルコニウム化合物あるいはハフニウム化合物とY,La,Zn,Snから選ばれる少なくとも1種との組み合わせからなる複合触媒とすることにより、ジルコニウム化合物またはハフニウム化合物単独使用の場合より全体の触媒量が少量で、充分な反応速度が得られる。触媒として、好ましい化合物の形態としては、脂肪酸塩類、水酸化物、アルコラート、フェノラート、アセチルアセトナート等種々あげられる。
【0026】ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物としては、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセテートジルコニル、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラターシャリーブトキシド、ジルコニルクロライド、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウムオキシアセテート、オクタン酸ジルコニウム、ジルコニウムオキシステアレート、ハフニウムアセチルアセトネート、ハフニウムテトラブトキシド、ハフニウムテトライソプロポキシドなどが例示されるが、ジルコニウムアセチルアセトネート、ハフニウムアセチルアセトネートがとくに好ましく用いられる。
【0027】Y,La,Zn,Snの化合物としては酢酸イットリウム、ナフテン酸イットリウム、トリス(アセチルアセトナト)イットリウム、酢酸ランタン、酢酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート、安息香酸亜鉛、ステアリンサン亜鉛、酸化亜鉛、燐酸亜鉛、蓚酸錫、錫アセチルアセトナート、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキサイド、塩化錫などが例示されるが、この中で、亜鉛アセチルアセトナート、酢酸亜鉛、ジブチル錫オキサイドが、特に好ましく用いられる。
【0028】また、触媒の添加時期は、前述の第1工程で、触媒を最初から上記の組み合わせで使用する方法と、第1工程ではジルコニウム化合物またはハフニウム化合物を使用し、前述の第2工程ではY,La,Zn,Snの化合物から選ばれる少なくとも1種を追加して反応する方法があるが、どちらの方法でも良い。触媒量は極力少ないことが望まれ、通常、原料(反応)混合物100重量部に対して、5×10-5〜1重量部、好ましくは1×10-4〜2×10-2重量部が使用される。
【0029】本発明によれば簡単な方法で、環状オリゴマー含有量を0.6重量%以下、重量平均分子量(Mw)30000以上の脂肪族ポリエステルカーボネートが製造可能であるだけではなく、広い範囲で重合度の調節が可能であり、反応時間、温度、触媒量等の反応条件の一部を変更するだけで、重量平均分子量(Mw)30000〜350000付近までの脂肪族ポリエステルカーボネートを用途に応じて適宜製造する事ができる。しかし、成形加工性等を考慮すると、Mwは100000〜250000の範囲のものが実際には使用される。
【0030】本発明の方法により製造された生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートの使用に際しては、安定剤、酸化防止剤、無機充填剤などの慣用の補助添加剤を配合することができ、従来公知の方法に従ってフィルム、シート、発泡体、フィラメントなど各種の形状に成形することができる。
【0031】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】本実施例において、ポリエステルオリゴマー、ポリエステルカーボネートの分子量はクロロホルムを溶媒としてGPC(昭和電工(株)製GPC、System−11)を使用し、スチレン換算のMw、Mnとして測定した。また、カーボネート結合含有量はNMR(日本電子(株)製NMR、EXー270)を使用し、13CNMRによりジカルボン酸エステル単位およびカーボネート単位の合計に対するカーボネート単位の割合(モル%)として測定した。水酸基価および酸価はJIS−K1557に従って定量した。ポリマー中の環状オリゴマーの定量は、ポリエステルカーボネートのジクロルメタン溶液をメタノールで再沈澱させ、ポリマーを分離した母液をガスクロマトグラフィー(島津製作所GC14B)で定量した。ヘイズ(フィルムの曇価)は色差計(日本電色工業製、1001DP)により測定した。
【0033】実施例1撹拌機、分溜コンデンサー、温度計、ガス導入管を付けた50リットルの第1反応器に、コハク酸18.74kg(158.7モル)、1,4−ブタンジオール21.43kg(237.8モル)、ジルコニウムアセチルアセトネート745mgおよび亜鉛アセチルアセトナート1.50gを仕込み、窒素雰囲気下で温度150〜220℃で2時間反応し水を留出させた。つづいて、減圧度150〜80mmHgで3時間熟成し、脱水反応を進行させた。更に最終的に減圧度2mmHg以下となるよう徐々に減圧度を増してさらに水と1,4−ブタンジオールを留出させ、総留出量が10.40kgになったところで反応を停止した。総反応時間は7.0時間であった。得られたオリゴマーの数平均分子量は1700、末端水酸基価は106KOHmg/gであり、酸価は0.59KOHmg/gであった。
【0034】次に得られたオリゴマー24.0kgを撹拌機、分溜コンデンサー、温度計、ガス導入管を付けた50リットルの第2反応器に仕込み、ジフェニルカーボネート4.86kgを添加した。温度210〜220℃で最終的に1mmHgの減圧度とし、フェノールを留去しながら5時間反応した。窒素により減圧を解除し、ポリリン酸0.7gを含む300gのポリエステルカーボネートマスターバッチを添加し、混合後に押出しペレット化を行った。ペレットサイズは平均して、長さ3mm,直径2mmであった(ペレットaと言う)。得られた高分子量体は、無着色でGPCの測定による重量平均分子量(Mw)が213000であり、13CNMR測定によりポリカーボネート成分として14.3%のカーボネート結合を有していた。また、樹脂中には、環状2量体を0.92重量%、フェノールを300ppm含有しており、ジフェニルカーボネートは検出されなかった。
【0035】つづいて、得られたポリエステルカーボネートのペレット20kgを50リットルの抽出槽に仕込み、抽出槽底部に設けた網目フィルター付き溶媒仕込口と抽出槽上部に設けたオーバーフロー管により、温度50℃の条件で外部貯槽から抽出槽内部に50kgのアセトンを10リットル/分の速度で5時間循環させた。アセトンを貯槽に戻した後に、抽出槽底部に設けた排出弁からポリエステルカーボネートを排出し、90℃で乾燥させた。乾燥したポリエステルカーボネート中の環状2量体量は0.05重量%に減少しており、フェノールは検出されなかった。また、分子量はMwで217000であった。得られた乾燥ペレットを用いて、成形温度190℃でダイ幅20cm、ダイリップ0.7mmのT−ダイから押出し、厚み0.05mmのフィルムに成形した。得られたフィルムについて外観特性(目視にて観察)、ヘイズの測定を行った。また、成形から1週間後、2週間後、4週間後に、同様に外観特性の観察およびヘイズの測定を行い、表面析出物の時間変化を追ったが、フィルムの外観は変化がなく、ヘイズにも変化が認められなかった。結果を表1に示す。
【0036】比較例1実施例1で得られたポリエステルカーボネート(ペレットa)を、抽出処理を省いて、そのまま実施例1と同様にしてフィルムを製造した。また、実施例1と同様に外観特性の観察およびヘイズの測定を行った。フィルム成形後2週間で表面に白色の析出物が認められた。結果を表1に示した。
【0037】実施例2抽出温度を35℃とした以外は、実施例1で得られたポリエステルカーボネート(ペレットa)を用い、実施例1と同様の抽出操作を行った。乾燥後のポリエステルカーボネート中の環状2量体量は0.38重量%に減少しており、フェノールは検出されなかった。また、ポリエステルカーボネートの分子量はMwで215000であった。得られた乾燥ペレットを用いて、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。また、実施例1と同様に外観特性の観察およびヘイズの測定を行った。結果を表1に示した。
【0038】実施例3アセトンに代えてメタノールを用い、抽出温度を60℃とした以外は、実施例1で得られたポリエステルカーボネート(ペレットa)を用い、実施例1と同様の抽出操作を行った。乾燥後のポリエステルカーボネート中の環状2量体量は0.12重量%に減少しており、フェノールは検出されなかった。また、ポリエステルカーボネートの分子量はMwで210000であった。得られた乾燥ペレットを用いて、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。また、実施例1と同様に外観特性の観察およびヘイズの測定を行った。結果を表1に示した。
【0039】実施例4アセトンに代えて水を用い、抽出温度を80℃とし、抽出操作を8時間とした以外は、実施例1で得られたポリエステルカーボネート(ペレットa)を用い、実施例1と同様の抽出操作を行った。乾燥後のポリエステルカーボネート中の環状2量体量は0.56重量%に減少しており、フェノールは検出されなかった。また、ポリエステルカーボネートの分子量はMwで210000であった。得られた乾燥ペレットを用いて、実施例1と同様にしてフィルムを製造した。また、実施例1と同様に外観特性の観察およびヘイズの測定を行った。4週間後、わずかにフィルム表面にかすみがかかった。結果を表1に示した。
【0040】比較例2ポリリン酸のマスターバッチを添加しない以外は、実施例1と同様に繰り返しペレットを得た(ペレットbと言う)。得られた高分子量体は、GPCの測定による重量平均分子量(Mw)が210000であり、13CNMR測定によりポリカーボネート成分として14.1%のカーボネート結合を有していた。また、樹脂中には、環状2量体を0.89重量%、フェノールを280ppm含有しており、ジフェニルカーボネートは検出されなかった。得られたペレットbを、実施例1と同様の条件でアセトンによる抽出操作をおこなった。乾燥ペレット中の環状2量体は0.06重量%に減少しており、フェノールは検出されなかったが、乾燥ペレットの重量平均分子量(Mw)が200000となり、分子量低下が大きい事が分かった。
【0041】また、上記ペレットaとペレットbを、それぞれ5.0gずつガラスビンに取り、220℃で30分間加熱溶融した。その結果、重量平均分子量(Mw)がそれぞれ209000、168000となり、リン系化合物を添加しないペレットbの分子量低下が大きいことが分かった。また、各樹脂中の環状2量体の含有量はそれぞれ、0.92、0.96重量%となり、リン系化合物を添加しないペレットb中の環状2量体の含有量は、かえって増大していた。
【0042】
【表1】


【0043】
【発明の効果】本発明により、得られる生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートは、成形後の外観に優れているので、フィルム、シート、発泡体あるいは繊維などの成形品を得るのに好適である。また、流動性、射出成形性、熱安定性にも優れ、得られる成形品は高い機械的強度を有しており従来の汎用樹脂の代替物として使用できる。また、環境中で高い生分解性を示すものであり、生分解性の要求される包装材料や成形体などに広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1,4−ブタンジオールを主成分とする脂肪族ジヒドロキシ化合物とコハク酸を主成分とする脂肪族ジカルボン酸化合物とを反応させて脂肪族ポリエステルオリゴマーを得、該オリゴマーとジフェニルカーボネートとの反応生成物にリン系化合物を添加、混合した後、粒状脂肪族ポリエステルカーボネートを得、該粒状脂肪族ポリエステルカーボネートと有機溶媒および/または水とを接触させることを特徴とする、生分解性脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法。
【請求項2】 主として、1,4−ブタンジオールとコハク酸とからなる環状オリゴマーの含有量が0.6重量%以下であることを特徴とする、請求項1記載の脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法。
【請求項3】 リン系化合物がリン酸、ポリリン酸、亜リン酸およびそのエステル等である、請求項1記載の脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法。
【請求項4】 粒状脂肪族ポリエステルカーボネートの重量平均分子量が100000以上である、請求項1記載の脂肪族ポリエステルカーボネートの製造方法。

【特許番号】特許第3501188号(P3501188)
【登録日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【発行日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−114451
【出願日】平成7年5月12日(1995.5.12)
【公開番号】特開平8−302163
【公開日】平成8年11月19日(1996.11.19)
【審査請求日】平成14年5月8日(2002.5.8)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【参考文献】
【文献】特開 平7−53695(JP,A)
【文献】特開 平7−53693(JP,A)