説明

生分解性脂肪族ポリエステル粒子、及びその製造方法

【課題】常温で有機溶剤に溶解可能である生分解性脂肪族ポリエステル粒子、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び(B)示差走査熱量計(DSC)による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量が、1J/g以上;であることを特徴とし、好ましくは、更に(C)前記昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出される結晶融解熱量が、100J/g未満;及び更に(D)前記結晶融解熱量と前記低温結晶化熱量との差が、90J/g未満;である生分解性脂肪族ポリエステル粒子、並びに、重量平均分子量が5万以上である粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルを、0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度で、高せん断力を与えながら粉砕することを特徴とする該生分解性脂肪族ポリエステル粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温などの低温環境下で有機溶剤に溶解可能な生分解性脂肪族ポリエステル粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。これら生分解性の脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。
【0003】
生分解性脂肪族ポリエステルとしては、グリコール酸繰り返し単位からなるポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある。)、乳酸繰り返し単位からなるポリ乳酸(以下、「PLA」ということがある。)、ポリε−カプロラクトンのようなラクトン系ポリエステル、ポリヒドロキシブチレート系ポリエステル、及び、これらの共重合体、例えば、グリコール酸繰り返し単位と乳酸繰り返し単位からなる共重合体などが知られている。
【0004】
生分解性脂肪族ポリエステルの中でも、PLAは、原料となるL−乳酸が、トウモロコシ、芋等から、発酵法により安価で得られること、自然農作物由来なので総二酸化炭素排出量が少ないこと、また得られたポリL−乳酸の性能として剛性が強く透明性がよいなどの特徴がある。
【0005】
また、PGAは、分解性が大きいことに加えて、耐熱性、引張強度等の機械的強度、及び、特にフィルムまたはシートとしたときのガスバリア性も優れる。そのため、PGAは、農業資材、各種包装(容器)材料や医療用高分子材料としての利用が期待され、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
【0006】
生分解性脂肪族ポリエステルから製品を製造する方法としては、押出成形、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、トランスファ成形、注型成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、インフレーションフィルム成形、積層成形、カレンダー成形、発泡成形、RIM成形、FRP成形、粉末成形、ペースト成形、流延成形(キャスティング)など、溶融成形その他の成形方法が採用されている。
【0007】
溶融成形は、生分解性脂肪族ポリエステル及び必要に応じて添加剤を配合した組成物を成形原料として、これを加熱溶融した後、所定の形状に賦形する成形方法である。成形原料として使用されるPGA等の生分解性脂肪族ポリエステルのペレットは、例えば、二軸押出機を用いてPGA等の生分解性脂肪族ポリエステルをストランド状に溶融押出し、所定サイズに切断して得られる平均粒子径が数mm程度の大きさのものである。
【0008】
粉末成形やペースト成形は、PGA等の生分解性脂肪族ポリエステルの粉末または粒子を、そのまま、または溶剤に分散させた分散液として、金型に適用し、通常加熱を伴って賦形する成形方法である。使用される生分解性脂肪族ポリエステルの粉末または粒子としては、用途に応じて所定の大きさと形状に調製された生分解性脂肪族ポリエステル粒子が用いられる。
【0009】
流延成形(以下、「キャスティング」または「キャスト成形」ということがある。)は、PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステル及び必要に応じて添加剤を配合した組成物を、溶剤に溶解させて得られる溶液を、表面を平滑にしたドラム(キャスティングドラム)やステンレス製の平滑ベルト上に流し込んで付着させた後、必要に応じて加熱を行い、溶剤を蒸発させ、または除去することによって、生分解性脂肪族ポリエステルを凝固させ、多くはフィルム状またはシート状の成形品を製造する方法である。流延成形(キャスティング)によれば、i)フィルム状等の製品に物理的な圧力が加えられないため成形品に配向が起こらず、強度や光学特性などに方向性が生じない、ii)厚み精度が極めて高い、iii)溶融成形法等と比べて、与えられる熱量が少ない、iv)熱安定剤などの添加量を低減できる、などの有利な特徴を有する。
【0010】
また、PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステルは、その分解性、強度などに着目して、塗料、コーティング剤、インキ、トナー、農薬、医薬、化粧品、採鉱、坑井掘削などの分野における原料または添加剤などとして使用することが期待されている。これらの分野に適用される生分解性脂肪族ポリエステルは、該生分解性脂肪族ポリエステル粒子を溶剤に分散させた分散液の形態で、または、該生分解性脂肪族ポリエステルを溶剤に溶解させた溶液の形態で使用される。
【0011】
PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステルを、流延成形(キャスティング)または前記した塗料、コーティング剤等の分野に適用するためには、生分解性脂肪族ポリエステルが、溶剤に容易に溶解し、均一な溶液を形成することが求められる。
【0012】
しかしながら、PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステルは、通常は結晶化しており、また結晶化度が高いために、常温などの低温環境下で有機溶剤に溶解させることが困難であった。例えば、特開昭58−206637号公報(特許文献1)には、ポリラクチドを沸騰加熱など加熱することによってキシロールに溶解することが開示され、特開2006−45542号公報(特許文献2)には、PLAを、温度140℃でアジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルの混合物[DBE(登録商標)]に溶解すること、及び、PGAを温度150℃でビス(2−メトキシエチル)エーテルに溶解することが開示されている。生分解性脂肪族ポリエステルを、高温下で溶剤に溶解させるためには、大量の熱エネルギーの供給が必要となるとともに、生分解性脂肪族ポリエステルに過大の熱履歴が与えられるため、加水分解や熱分解を生じるおそれがある。特開平8−311368号公報(特許文献3)には、数平均分子量15000以下、好ましくは2000〜10000の生分解性ポリマーを、架橋剤と架橋触媒とともに、非ハロゲン系溶剤に溶解した後、加熱して架橋反応させることにより生分解性塗膜を得ることが開示されている。しかし、オリゴマーを含む低分子量の生分解性ポリマーであること、及び、架橋反応を伴うことから、利用分野が制限される。
【0013】
そこで、容易に、常温などの低温環境下で有機溶剤に溶解させることができる、PLAやPGA等の生分解性脂肪族ポリエステルが求められていた。
【0014】
他方、PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステルは、流通段階では、通常、生分解性脂肪族ポリエステル粒子の形態で、保管や輸送が行われ、その後、成形品に適した各種成形方法により成形されたり、粒子の分散液または溶液の形態を介して、所定の用途への使用に供される。
【0015】
PLA粒子やPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステルの樹脂粒子の製造方法は、種々提案されている。
【0016】
生分解性脂肪族ポリエステル粒子の製造方法としては、一般に、溶融固化物の切断または粉砕による粒子の製造方法や、溶液または分散液からの析出による粒子の製造方法が知られている。特開2001−288273号公報(特許文献4)には、PLA系樹脂からなるチップまたは塊状物を、−50〜−180℃の低温に冷却して、衝撃粉砕し分級するポリ乳酸系樹脂粉末の製法が開示されている。先の特開2006−45542号公報(特許文献2)には、PGAやPLAの溶液を20℃/分以上の冷却速度で急冷して平均1次粒子径10〜1000nmの粒子を得ることが開示されている。
【0017】
しかし、これらの方法では、低温環境下で有機溶剤に溶解可能な、PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子を工業的に得ることが困難であり、常温などの低温環境下で有機溶剤に溶解させることができる、PGAやPLA等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子を工業的に製造する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭58−206637号公報
【特許文献2】特開2006−45542号公報
【特許文献3】特開平8−311368号公報
【特許文献4】特開2001−288273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、常温などの低温環境下で有機溶剤に溶解可能である生分解性脂肪族ポリエステル粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を続ける中で、生分解性脂肪族ポリエステル粒子の結晶特性について、検討を進めたところ、該粒子の非結晶部の存在が、溶剤への溶解性に関係することを見いだし、該粒子の非晶部の度合いを制御することにより、課題を解決できることを見いだして、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明によれば、(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び(B)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量が、1J/g以上;であることを特徴とする生分解性脂肪族ポリエステル粒子が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(3)の生分解性脂肪族ポリエステル粒子が提供される。
【0023】
(1)更に(C)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出される結晶融解熱量が、100J/g未満である前記の生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【0024】
(2)更に(D)前記結晶融解熱量と前記低温結晶化熱量との差が、90J/g未満である前記の生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【0025】
(3)前記生分解性脂肪族ポリエステル粒子に含有される生分解性脂肪族ポリエステルが、PGA、PLA、またはそれらの混合物である前記の生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【0026】
さらに、本発明によれば、重量平均分子量が5万以上である粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルを、0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度で、高せん断力を与えながら、粉砕することを特徴とする前記の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の製造方法が提供される。なお、ここで「粒子状」とは、粉末状、フレーク状、粒子状またはペレット状等の生分解性脂肪族ポリエステルが通常有する諸形状を総称するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、生分解性脂肪族ポリエステル粒子が、(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び(B)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量が、1J/g以上;であることを特徴とし、好ましくは、更に(C)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出される結晶融解熱量が、100J/g未満、及び、更に(D)前記結晶融解熱量と前記低温結晶化熱量との差が、90J/g未満である生分解性脂肪族ポリエステル粒子であることによって、該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度−5℃以下の温度、すなわち常温近傍の温度で有機溶剤に溶解することができ、取り扱い性が良好な生分解性脂肪族ポリエステル粒子が提供されるという効果が奏される。
【0028】
また、本発明によれば、重量平均分子量が5万以上である粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルを、0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度で、高せん断力を与えながら、粉砕することによって、前記の生分解性脂肪族ポリエステル粒子を容易に得ることができるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.生分解性脂肪族ポリエステル
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子を構成する生分解性脂肪族ポリエステルは、グリコール酸及びグリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)を含むグリコール酸類、乳酸及び乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドを含む乳酸類、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチレンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)などの環状モノマー;3−ヒドロキシプロパン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;等の脂肪族エステルモノマー類の単独重合体、または共重合体が含まれる。中でも、式:[−O−CH(R)−C(O)−](Rは、水素原子またはメチル基である。)で表されるグリコール酸または乳酸繰り返し単位を70質量%以上有する生分解性脂肪族ポリエステルが好ましい。具体的には、PGA、すなわちグリコール酸の単独重合体、若しくは、グリコール酸繰り返し単位を70質量%以上有する共重合体、または、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸若しくはD−乳酸の繰り返し単位を70質量%以上有する共重合体、これらの混合物等のPLA、更には、PGAとPLAとの混合物が好ましい。特に好ましいのは、分解性、耐熱性、機械的強度の観点から、PGAまたはPLAである。
【0030】
これらの生分解性脂肪族ポリエステルは、例えば、それ自体公知のグリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができる。また、高分子量の生分解性脂肪族ポリエステルを効率よく合成するには、一般に、α−ヒドロキシカルボン酸の二分子間環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、乳酸の二分子間環状エステルであるラクチドを開環重合すると、PLAが得られる。グリコール酸の二分子間環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、PGAが得られる。
【0031】
PLAは、上記方法により合成することができるものであり、市販の製品としては、例えば、レイシアH−100、H−280、H−400、H−440等の「レイシア」(登録商標)シリーズ(三井化学株式会社製)、3001D、3051D、4032D、4042D、6201D、6251D、7000D、7032D等の「Ingeo」(登録商標)(ネイチャーワークス社製)、エコプラスチックU’z S−09、S−12、S−17等の「エコプラスチックU’zシリーズ」(トヨタ自動車株式会社製)、「バイロエコール(登録商標)」(東洋紡績株式会社製)などが、強度と可撓性の両立、及び耐熱性の観点から、好ましく選択される。
【0032】
以下、生分解性脂肪族ポリエステルとして、主にPGAを例にとって、更に説明するが、PLAその他の生分解性脂肪族ポリエステルについても、PGAに準じて発明を実施するための形態をとることができる。
【0033】
〔ポリグリコール酸(PGA)〕
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の原料として、特に好ましく用いられるPGAは、式:[−O−CH−C(O)−]で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマー[グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む]に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上含むPGA共重合体を含むものである。
【0034】
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類、カーボネート類、エーテル類、エーテルエステル類、アミド類などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、PGA共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
【0035】
本発明のPGA粒子の原料となるPGA中の上記グリコール酸繰り返し単位は50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。グリコール酸繰り返し単位の割合が小さすぎると、PGAに期待される強度や分解性が乏しくなる。グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位は、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられ、グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を含まないものでもよい。
【0036】
本発明のPGA粒子の原料となるPGAとしては、所望の高分子量ポリマーを効率的に製造するために、グリコリド50〜100質量%及び上記した他のコモノマー50〜0質量%を重合して得られるPGAが好ましい。他のコモノマーとしては、2分子間の環状モノマーであってもよいし、環状モノマーでなく両者の混合物であってもよいが、本発明が目的とするPGA粒子とするためには、環状モノマーが好ましい。以下、グリコリド50〜100質量%及び他の環状モノマー50〜0質量%を開環重合して得られるPGAについて詳述する。
【0037】
〔グリコリド〕
開環重合によってPGAを形成するグリコリドは、ヒドロキシカルボン酸の1種であるグリコール酸の2分子間環状エステルである。グリコリドの製造方法は、特に限定されないが、一般的には、グリコール酸オリゴマーを熱解重合することにより得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、溶融解重合法、固相解重合法、溶液解重合法などを採用することができ、また、クロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。なお、所望により、グリコリドとしては、グリコリド量の20質量%を限度として、グリコール酸を含有するものを使用することができる。
【0038】
本発明のPGA粒子の原料となるPGAは、グリコリドのみを開環重合させて形成してもよいが、他の環状モノマーを共重合成分として同時に開環重合させて共重合体を形成してもよい。共重合体を形成する場合には、グリコリドの割合は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。
【0039】
〔他の環状モノマー〕
グリコリドとの共重合成分として使用することができる他の環状モノマーとしては、ラクチドなど他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルの外、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーを使用することができる。好ましい他の環状モノマーは、他のヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステルであり、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。特に好ましい他の環状モノマーは、乳酸の2分子間環状エステルであるラクチドであり、L体、D体、ラセミ体、これらの混合物のいずれであってもよい。
【0040】
他の環状モノマーは、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられる。グリコリドと他の環状モノマーとを開環共重合することにより、PGA(共重合体)の融点を低下させて加工温度を下げたり、結晶化速度を制御して押出加工性や延伸加工性を改善したりすることができる。しかし、これらの環状モノマーの使用割合が大きすぎると、形成されるPGA(共重合体)の結晶性が損なわれ、耐熱性、ガスバリア性、機械的強度などが低下する。なお、PGAが、グリコリド100質量%から形成される場合は、他の環状モノマーは0質量%であり、このPGAも本発明の範囲に含まれる。
【0041】
〔開環重合反応〕
グリコリドの開環重合または開環共重合[以下、総称して、「開環(共)重合」ということがある。]は、好ましくは、少量の触媒存在下に行われる。触媒は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化錫(例えば、二塩化錫、四塩化錫など)や有機カルボン酸錫(例えば、2−エチルヘキサン酸錫などのオクタン酸錫)などの錫系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物;などがある。触媒の使用量は、環状エステルに対して、質量比で、好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは3〜300ppm程度である。
【0042】
グリコリドの開環(共)重合は、生成するPGAの分子量や溶融粘度などの物性を制御するために、ラウリルアルコール等の高級アルコールその他のアルコール類や水などのプロトン性化合物を分子量調節剤として使用することができる。グリコリドには通常、微量の水分と、グリコール酸及び直鎖状のグリコール酸オリゴマーからなるヒドロキシカルボン酸化合物類が不純物として含まれていることがあり、これらの化合物も重合反応に作用する。そのため、これらの不純物の濃度を、例えばこれらの化合物中のカルボン酸量を中和滴定などによりモル濃度として定量し、また目的の分子量等に応じプロトン性化合物としてアルコール類や水を添加し、全プロトン性化合物のモル濃度をグリコリドに対して制御することにより生成PGAの分子量等を調整することができる。また、物性改良のために、グリセリンなどの多価アルコールを添加してもよい。
【0043】
グリコリドの開環(共)重合は、塊状重合でも、溶液重合でもよいが、多くの場合、塊状重合が採用される。塊状重合の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、板状型、管状型など様々な装置の中から、適宜選択することができる。また、溶液重合には、各種反応槽を用いることができる。
【0044】
重合温度は、実質的な重合開始温度である120℃から300℃までの範囲内で目的に応じて適宜設定することができる。重合温度は、好ましくは130〜270℃、より好ましくは140〜260℃、特に好ましくは150〜250℃である。重合温度が低すぎると、生成したPGAの分子量分布が広くなりやすい。重合温度が高すぎると、生成したPGAが熱分解を受けやすくなる。重合時間は、3分間〜50時間、好ましくは5分間〜30時間の範囲内である。重合時間が短すぎると重合が充分に進行し難く、所定の分子量を実現することができない。重合時間が長すぎると生成したPGAが着色しやすくなる。
【0045】
生成したPGAを固体状態とした後、所望により、更に固相重合を行ってもよい。固相重合とは、後述するPGAの融点(Tm)未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0046】
本発明のPGA粒子を製造する原料として、PGAに加えて、本発明の目的に反しない限度において、他の脂肪族ポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリグリコール類、変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリL−リジンなどのポリアミド類などの他の樹脂や、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、末端封止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、水素イオン濃度調節剤、補強繊維等の充填材などの通常配合される添加剤を必要に応じて配合することができる。これら添加剤等の配合量は、PGA100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下であり、5質量部以下または1質量部以下の配合量でよい場合もある。
【0047】
〔重量平均分子量(Mw)〕
本発明のPGA粒子を形成するために使用されるPGAの重量平均分子量(Mw)は、5万以上であり、通常5〜150万の範囲内にあるものが好ましく、より好ましくは7〜140万、更に好ましくは8〜130万、特に好ましくは10〜120万、最も好ましくは15〜100万の範囲内にあるものを選択する。PGAの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置によって求めたものである。具体的には、PGA試料を、トリフルオロ酢酸ナトリウムを所定の濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させた後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して分子量を測定した結果から、重量平均分子量(Mw)を算出する。該重量平均分子量(Mw)が、5万未満であると、該PGA粒子を用いて得られる種々の製品、用途において強度が不足することがある。該重量平均分子量(Mw)の上限は特になく、常温近傍の温度で容易に溶液を形成でき、得られる溶液の液粘度が過度に大きくならない範囲で、定めればよい。
【0048】
また、本発明のPLA粒子を形成するために使用されるPLAの重量平均分子量(Mw)は、5万以上であり、好ましくは5〜120万、より好ましくは6〜100万、更に好ましくは7〜80万の範囲である。
【0049】
〔結晶融点(Tm)〕
本発明のPGA粒子を形成するために使用されるPGAの結晶融点(Tm)は、通常197〜245℃であり、重量平均分子量(Mw)、分子量分布、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。PGAの結晶融点(Tm)は、好ましくは200〜240℃、より好ましくは205〜235℃、特に好ましくは210〜230℃である。PGAの単独重合体の結晶融点(Tm)は、通常220℃程度である。結晶融点(Tm)が低すぎると、該PGA粒子を用いて得られる種々の製品の強度や耐熱性が不十分となることがある。結晶融点(Tm)が高すぎると、常温近傍の温度で溶液を形成することが困難となったり、加工性が不足したり、粒子の形成を十分制御することができず、得られるPGA粒子の粒子径が所望の範囲のものとならないことがある。PGAの結晶融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、試料PGAを、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から280℃[結晶融点(Tm)+60℃付近の温度に相当。]まで加熱する昇温過程で検出される、結晶溶融に伴う吸熱ピークの温度を意味する。該吸収ピークが複数みられる場合には、吸熱ピーク面積が最も大きいピークを融点(Tm)とする。
【0050】
また、本発明のPLA粒子を形成するために使用されるPLAの結晶融点(Tm)は、好ましくは145〜185℃、より好ましくは150〜182℃、更に好ましくは155〜180℃の範囲である。
【0051】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
本発明のPGA粒子を形成するために使用されるPGAのガラス転移温度(Tg)は、通例25〜60℃であり、好ましくは30〜50℃、より好ましくは35〜45℃である。PGAのガラス転移温度(Tg)は、重量平均分子量(Mw)、分子量分布、共重合成分の種類及び含有割合等によって調整することができる。PGAのガラス転移温度(Tg)は、結晶融点(Tm)の測定と同様に、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、試料PGAを、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から280℃[結晶融点(Tm)+60℃付近の温度に相当。]まで加熱する昇温過程で検出される、ガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度をガラス転移点(Tg)とする。ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、該PGA粒子を用いて得られる種々の製品の強度や耐熱性が不十分となる。一方、ガラス転移温度(Tg)が高すぎると、常温近傍の温度で溶液を形成することが困難となったり、加工性が不足したり、粒子の形成を十分制御することができず、PGA粒子の粒子径を所望の範囲のものとできなくなることがある。
【0052】
また、本発明のPLA粒子を形成するために使用されるPLAのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは45〜75℃、より好ましくは50〜70℃、更に好ましくは55〜65℃の範囲内である。
【0053】
2.生分解性脂肪族ポリエステル粒子
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、生分解性脂肪族ポリエステルを主成分とする粒子であり、好ましくはPGA粒子、PLA粒子またはPGAとPLAとの混合粒子である。以下、生分解性脂肪族ポリエステル粒子として、PGA粒子を例にとって更に説明するが、PLA粒子、PGAとPLAとの混合粒子、またはその他の生分解性脂肪族ポリエステルの粒子についても、PGA粒子に準じて発明を実施するための形態をとることができる。
【0054】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び(B)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量が、1J/g以上;であることを特徴とする生分解性脂肪族ポリエステル粒子である。
【0055】
〔平均粒子径(50%D)〕
本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、平均粒子径(50%D)が、10〜500μmのものである。粒子の平均粒子径(50%D)は、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用して求めた粒子の粒径分布を用いて、小粒子径側からの累積重量が50%となる粒子径で表される値を意味する。
【0056】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の平均粒子径(50%D)は、好ましくは12〜450μm、より好ましくは15〜400μm、更に好ましくは20〜300μm、特に好ましくは30〜200μmの範囲である。平均粒子径(50%D)が小さすぎると、粒子の取り扱い性や保存性または保管性が悪くなる。平均粒子径(50%D)が大きすぎると、用途により使用が難しくなることがある。例えば、平均粒子径が大きすぎると、常温近傍における低温溶解性が悪くなることがある。
【0057】
〔低温結晶化温度(TC1)〕
本発明のPGA粒子は、示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱ピークに対応する低温結晶化温度(TC1)が、好ましくはPGAのガラス転移温度+10℃以上、より好ましくはPGAのガラス転移温度+15℃以上、更に好ましくはPGAのガラス転移温度+20℃以上のものである。低温結晶化温度(TC1)の上限は特に限定されないが、通常、PGAのガラス転移温度+65℃、多くの場合PGAのガラス転移温度+60℃であり、これを限度としてもよい。具体的な低温結晶化温度(TC1)の範囲としては、例えば、55〜110℃のような範囲のものであることが好ましく、特に好ましくは60〜105℃、最も好ましくは65〜100℃の範囲の低温結晶化温度(TC1)を有するPGA粒子を選ぶことができる。PGA粒子の低温結晶化温度(TC1)は、PGA粒子試料を、示差走査熱量計(DSC)を使用して、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から結晶融点(Tm)+60℃付近まで加熱する昇温過程において、結晶化に伴う発熱ピークが検出される場合の該発熱ピークの温度を意味する。低温結晶化温度(TC1)が低すぎると、PGA粒子を保管している間に、PGA粒子表面が軟化し、粒子のブロッキングが起きやすくなることがある。低温結晶化温度(TC1)が高すぎると、常温近傍の温度で溶液を形成することが困難となったり、加工性が不足したり、粒子の形成を十分制御することができず、PGA粒子の粒子径を所望の範囲のものとできなくなることがある。低温結晶化温度(TC1)の調整は、重合度(重量平均分子量(Mw))、分子量分布、重合成分の種類や量を適宜選択することなどにより行うことができる。示差走査熱量計による昇温過程で結晶化に伴う発熱ピークが検出されない粒子である場合は、粒子の低温結晶化温度(TC1)は存在しない。
【0058】
また、本発明のPLA粒子の低温結晶化温度(TC1)は、好ましくは65〜135℃であり、より好ましくは70〜130℃、更に好ましくは75〜125℃、特に好ましくは80〜120℃である。
【0059】
〔低温結晶化熱量(ΔHTC1)〕
本発明は、PGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の非晶部の度合いを、低温結晶化熱量(ΔHTC1)を指標として評価することに特徴を有する。すなわち、本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、該粒子の、示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量(ΔHTC1)が、1J/g以上である。具体的には、低温結晶化熱量(ΔHTC1)は、前記した低温結晶化温度(TC1)近傍の発熱ピーク面積[通常は、低温結晶化温度(TC1)±20℃の範囲内の面積]を積算して算出されるものである。低温結晶化熱量(ΔHTC1)が1J/g以上であるPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、非晶部が所定量以上存在し、非晶部の度合いが大きい粒子であって、該粒子に含まれる生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度−5℃以下の温度、すなわち常温近傍の温度で有機溶剤に容易に溶解することができる。該粒子の低温結晶化熱量(ΔHTC1)が1J/g未満であると、PGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、非晶部の存在度合いが低く、結晶部の度合いが大きい粒子であって、常温近傍の温度で有機溶剤に溶解することが困難である。なお、低温結晶化温度(TC1)が存在しない粒子の場合は、低温結晶化熱量(ΔHTC1)は存在せず、0J/gである。
【0060】
本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の低温結晶化熱量(ΔHTC1)は、好ましくは3J/g以上、より好ましくは5J/g以上、更に好ましくは8J/g以上、特に好ましくは10J/g以上、最も好ましくは12J/g以上である。PGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の低温結晶化熱量(ΔHTC1)は、特に上限がないが、有機溶剤に溶解して得られる溶液の溶液粘度が高くなって(1000mPa・s超過)、溶液の取り扱い性が不良となることから、通常50J/g以下、多くの場合45J/g以下であり、40J/g以下であってもよい。
【0061】
〔結晶融解熱量(ΔHm)〕
本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出される結晶融解熱量(ΔHm)が100J/g未満であることが好ましい。PGA粒子の結晶融解熱量(ΔHm)は、より好ましくは98J/g以下、更に好ましくは95J/g以下、特に好ましくは90J/g以下、最も好ましくは85J/g以下である。結晶融解熱量(ΔHm)は、試料であるPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子を、示差走査熱量計(DSC)を使用して、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から結晶融点(Tm)+60℃付近まで加熱する昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出されるものであり、通常は、結晶融点(Tm)±40℃の範囲に検出されるすべての吸熱ピークの面積を積算して算出される。
【0062】
PGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の結晶融解熱量(ΔHm)が100J/g以上であると、低温溶解性が悪く、常温近傍で溶液を得ることが困難となる。結晶融解熱量(ΔHm)の下限は特にないが、通常20J/g、多くの場合30J/gであり、特にPGA粒子においては、40J/g程度を下限とすることが多い。
【0063】
[結晶融解熱量と低温結晶化熱量との差]
さらに、本発明は、前記の結晶融解熱量(ΔHm)と低温結晶化熱量(ΔHTC1)とに関して、結晶融解熱量(ΔHm)と低温結晶化熱量(ΔHTC1)との差(以下、「ΔHm−ΔHTC1」ということがある。)で表される熱容量を、PGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の非晶部の度合いの指標として評価することにも特徴を有する。すなわち、本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、前記の結晶融解熱量(ΔHm)と低温結晶化熱量(ΔHTC1)との差(ΔHm−ΔHTC1)が、90J/g未満であることが好ましい。生分解性脂肪族ポリエステル粒子のΔHm−ΔHTC1が90J/g未満であると、粒子の非晶部の度合いが大きく、常温近傍で有機溶剤に溶解させて溶液を得ることがいっそう容易となり、かつ、得られた溶液の粘度が過大となることがないので、種々の用途に使用しやすいものとなる。ΔHm−ΔHTC1は、より好ましくは85J/g未満、更に好ましくは83J/g未満である。ΔHm−ΔHTC1の下限は、特にないが、粒子の耐ブロッキング性や取り扱い性の観点から、通常20J/g、多くの場合25J/gである。
【0064】
3.生分解性脂肪族ポリエステル粒子の有機溶剤溶液
本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、低温溶解性に優れており、常温近傍の温度で、有機溶剤に溶解してPGA等の生分解性脂肪族ポリエステルの溶液を形成することができる。該低温溶解性とは、該生分解性脂肪族ポリエステル粒子に含まれる生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)−5℃以下の温度の有機溶剤に、2質量%以上の濃度で溶解して溶液を形成できることを意味する。有機溶剤溶液としては、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上の濃度で溶解して溶液を形成できることが望ましい。
【0065】
〔有機溶剤〕
有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、4−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル等の二塩基酸エステル系溶剤;シクロヘキサノン、イソホロン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;シクロヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン含有炭化水素系溶剤;ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶剤;ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶剤;ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶剤;及びこれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
好ましくは、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル及びコハク酸ジメチルの混合エステル系溶剤;ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶剤;ジメチルアセトアミド、炭酸プロピレン、4 − ブチロラクトン、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールなどであり、最も好ましくは、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)である。
【0067】
〔溶解温度〕
本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、該生分解性脂肪族ポリエステル粒子に含まれる生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)−5℃以下の温度の有機溶剤に、2質量%以上の濃度で溶解して溶液を形成できる。溶解温度としては、好ましくはガラス転移温度(Tg)−10℃以下、より好ましくはガラス転移温度(Tg)−15℃以下である。例えば、PGA粒子については、特に好ましくは30℃以下の温度で、また、PLA粒子については、特に好ましくは40℃以下、最も好ましくは35℃以下の温度で有機溶剤に溶解して、2質量%以上の濃度の溶液を形成することができる。中でも、室温(20〜25℃程度)において、有機溶剤に溶解して、2質量%以上の濃度の溶液を形成することができることが好ましい。
【0068】
〔溶液の濃度〕
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、2質量%以上の濃度の有機溶剤溶液を形成することができるものである。生分解性脂肪族ポリエステルの濃度は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上である。濃度の上限は特にないが、得られる溶液の溶液粘度が高すぎると取り扱い性が困難となることから、通常60質量%以下、好ましくは50質量%以下であり、40質量%以下であると溶液の取り扱い性が良好である。
【0069】
〔溶液粘度〕
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子から形成した生分解性脂肪族ポリエステル溶液の溶液粘度は、特に限定されないが、溶液の流動性、利用性の観点から、10〜1000mPa・sの範囲であることが好ましい。溶液の溶液粘度は、生分解性脂肪族ポリエステル粒子2gを20mlのHFIPに投入し、温度を25℃に保持しながら2時間攪拌して調製した溶液について、BROOKFIELD社製のLV型粘度計(スピンドルNo.SC4−31)を用いて、測定温度25℃、せん断速度20sec−1で測定する。溶液の溶液粘度は、より好ましくは50〜800mPa・s、更に好ましくは100〜600mPa・s、特に好ましくは150〜500mPa・sの範囲である。
【0070】
4.生分解性脂肪族ポリエステル粒子の製造方法
本発明のPGA粒子またはPLA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び(B)低温結晶化熱量が、1J/g以上;である生分解性脂肪族ポリエステル粒子を得ることができる限り、その製造方法は特に限定されない。
【0071】
本発明の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、通常、重合反応後に回収される粉末状またはフレーク状等の形状を有するPGA等の生分解性脂肪族ポリエステルから、好ましくは洗浄を行い、必要に応じて分級して、得られた粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルを出発原料とすることができる。また、該粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルに、必要に応じて種々の添加剤を配合して溶融押出成形することによって得られたペレット状の生分解性脂肪族ポリエステルを出発原料とすることができる。これら粉末状、フレーク状またはペレット状等の諸形状(すなわち「粒子状」)の生分解性脂肪族ポリエステルは、重量平均分子量が5万以上のものであることが好ましい。粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が小さすぎると、得られる生分解性脂肪族ポリエステル粒子を用いて得られる種々の製品、用途において強度が不足することがある。
【0072】
〔粉砕処理〕
本発明のPGA粒子等の生分解性脂肪族ポリエステル粒子は、前記の粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルに対して、機械的衝撃を加えて粉砕(衝撃粉砕)することができるが、特に、0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度で、高せん断力を与えながら粉砕することによって製造することが好ましい。また、その際、必要に応じて分級して得ることができる。
【0073】
低温溶解性に優れる生分解性脂肪族ポリエステル粒子を得るために行う粉砕処理の粉砕(衝撃粉砕)温度は、好ましくは0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度、より好ましくは5℃以上該ガラス転移温度−5℃以下の温度、更に好ましくは10℃以上該ガラス転移温度−10℃以下の温度、特に好ましくは15℃以上該ガラス転移温度−15℃以下の温度である。粉砕温度が0℃未満であると、低温溶解性の粒子を得ることが困難な場合がある。一方、粉砕温度が該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度以上であると、得られる生分解性脂肪族ポリエステル粒子の形状が不均一になることがある。
【0074】
高せん断力を与えながら粉砕(衝撃粉砕)を行う装置としては、圧縮力、摩擦力、衝撃力及びせん断力という粉砕の作用のうち、衝撃力及びせん断力の寄与が大きい粉砕装置であれば、特に限定されないが、例えば、ロータによる衝撃に加えて、超高速渦流や高周波の圧力振動を利用して粉砕を行うターボミルなどを有効に利用することができる。
【0075】
単にノズルから高速気流を噴射するジェットミル、遠心力によりピンに衝突させて粉砕するピンミル、または、一対のロール間で粉砕を行うロールミルなどによる粉砕処理では、粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルに高せん断力が与えられず、低温溶解性の生分解性脂肪族ポリエステル粒子が得られないことがある。ただし、ターボミルと、ジェットミル、ピンミルまたはロールミル等を併用することができる。
【実施例】
【0076】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における生分解性脂肪族ポリエステル粒子の物性または特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0077】
[重量平均分子量(Mw)]
重量平均分子量(Mw)は、生分解性脂肪族ポリエステル粒子試料10mgを、トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIPに、溶解させて10mlとした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液10μlをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して、下記の測定条件で分子量を測定することによって求めた。
【0078】
<GPC測定条件>
装置:昭和電工株式会社製GPC104
カラム:昭和電工株式会社製HFIP−806M 2本(直列接続)+プレカラム:HFIP−LG 1本
カラム温度:40℃
溶離液:トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液
検出器:示差屈折率計
分子量校正:分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(Polymer laboratories Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用
【0079】
[結晶融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)]
試料10mgを、示差走査熱量計(DSC;メトラー・トレド社製TC−15)を使用して、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から結晶融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程で検出される吸熱ピーク、及び、ガラス状態からゴム状態への転移領域に相当する二次転移領域における熱量の二次転移の開始温度から、結晶融点(Tm)、及びガラス転移温度(Tg)を測定した。結晶融点(Tm)が複数みられる場合には、吸熱ピーク面積が最も大きいピークの温度を結晶融点(Tm)とした。
【0080】
[低温結晶化温度(Tc1)及び低温結晶化熱量(ΔHTC1)]
試料10mgを、前記示差走査熱量計を使用して、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から結晶融点(Tm)+60℃付近まで加熱する昇温過程において、結晶化に伴う発熱ピークが検出される場合の該発熱ピークの温度を低温結晶化温度(Tc1)とした。また、該低温結晶化温度(TC1)±20℃の範囲内の発熱ピーク面積を積算して、低温結晶化熱量(ΔHTC1)を算出した。
【0081】
[結晶融解熱量(ΔHm)]
試料10mgを、前記示差走査熱量計を使用して、液体窒素により急速冷却し(約20℃/分)、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、−50℃から結晶融点(Tm)+60℃付近の温度まで加熱する昇温過程において、結晶融点(Tm)±40℃の範囲で検出される吸熱ピークを全て結晶融解熱量(ΔHm)として、結晶融解熱量(ΔHm)を算出した。
【0082】
[平均粒子径(50%D)]
平均粒子径は、粒子試料を、界面活性剤(サンノプコ株式会社製「SNディスパーサント7347−c希釈溶液」)を含有する水に分散させた粒子分散液について、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALADA−3000S)を使用して求めた粒子径分布から、小粒子径側からの累積重量が50%となる粒子径を平均粒子径(50%D)として求めた。
【0083】
〔溶液粘度〕
粒子試料2gを20mlのHFIPに投入し、温度を25℃に保持しながら2時間攪拌して、生分解性脂肪族ポリエステル溶液を調製した。目視により、溶液状態であるか、スラリー状態であるかを確認し、溶液が得られたものについて、BROOKFIELD社製のLV型粘度計(スピンドルNo.SC4−31)を用いて、測定温度25℃、せん断速度20sec−1で、溶液粘度を測定した。
【0084】
〔実施例1〕
PGAフレーク(Mw:20万、Tg:45℃、Tm:220℃、ΔHm:100J/g)約10kgを、ターボミル(フロント・ターボ工業株式会社製、ターボミルTT250型)を使用して、供給量10kg/hr、粉砕温度20℃、回転数5000rpmにて3回粉砕した後、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製、PJM−280SP)を用いて供給量1kg/hrで5回粉砕した。これを目開き39μmの超音波振動篩にて粗大粉をカットし、PGA粒子を得た。得られたPGA粒子2gを20mlのHFIPに投入し、温度を25℃に保持しながら2時間攪拌して、PGA溶液を調製した。PGA粒子の平均粒子径(50%D)(以下、「粒子径」という。)、低温結晶化温度(Tc1)、低温結晶化熱量(ΔHTc1)、結晶融解熱量(ΔHm)、及び溶液の溶液粘度を測定した結果を表1に示す。
【0085】
〔実施例2〕
ジェットミルによる粉砕を行わなかったこと、及び、超音波振動篩の目開きを154μmとしたことを除いて、実施例1と同様にして、PGA粒子を得て、PGA溶液を調製した。PGA粒子の粒子径、低温結晶化温度(Tc1)、低温結晶化熱量(ΔHTc1)、結晶融解熱量(ΔHm)、及び溶液の溶液粘度を測定した結果を表1に示す。
【0086】
〔実施例3〕
PGAペレット(Mw:20万、Tg:45℃、Tm:220℃、ΔHm:70J/g)約10kgを、ターボミル(フロント・ターボ工業株式会社製、ターボミルTT250型)を使用して、供給量7kg/hr、粉砕温度20℃、回転数5000rpmにて1回粉砕した。これを目開き39μmの超音波振動篩にて粗大粉をカットし、PGA粒子を得た。得られたPGA粒子を用いて、実施例1と同様にして、PGA溶液を調製した。PGA粒子の粒子径、低温結晶化温度(Tc1)、低温結晶化熱量(ΔHTc1)、結晶融解熱量(ΔHm)、及び溶液の溶液粘度を測定した結果を表1に示す。
【0087】
〔実施例4〕
ターボミルの回転数を4500rpmとしたことを除いて、実施例3と同様にして、PGA粒子を得て、PGA溶液を調製した。PGA粒子の粒子径、低温結晶化温度(Tc1)、低温結晶化熱量(ΔHTc1)、結晶融解熱量(ΔHm)、及び溶液の溶液粘度を測定した結果を表1に示す。
【0088】
〔比較例1〕
PGAペレット(Mw:7万、Tg:45℃、Tm:200℃、ΔHm:80J/g)を、N−メチルピロリドンに温度190℃で溶解させて、PGAの5質量%溶液を調製した。この溶液を、2℃/分で冷却させ、PGA粒子を析出させた。PGA粒子を吸引ろ過し、アセトンで洗浄した後、温度40℃の真空下で12時間乾燥させた。得られたPGA粒子2gを20mlのHFIPに投入し、温度を25℃に保持しながら2時間攪拌したが、PGA粒子は溶解せず、スラリー状のままであった。このPGA粒子は、低温結晶化温度(Tc1)が検出されず[低温結晶化熱量(ΔHTc1)は0J/gとした。]、流動性が悪いものであった。PGA粒子の粒子径、低温結晶化熱量(ΔHTc1;0J/gとした。)、及び結晶融解熱量(ΔHm)を測定した結果を表1に示す。
【0089】
〔比較例2〕
実施例1で用いたPGAフレーク約20kgを、液体窒素に浸漬して冷却後、粉砕時に液体窒素冷却が可能なピンミル(槇野産業株式会社製、超微粉ピンミル:コントラプレックスシリーズ)を使用して、液体窒素で冷却しながら、粉砕温度−25℃、周速187m/secの条件で2分間粉砕して、PGA粒子を得た。得られたPGA粒子2gを20mlのHFIPに投入し、温度を25℃に保持しながら2時間攪拌したが、PGA粒子は溶解せず、スラリー状のままであった。このPGA粒子は、低温結晶化温度(Tc1)が検出されなかった[低温結晶化熱量(ΔHTc1)は0J/gとした。]。PGA粒子の粒子径、低温結晶化熱量(ΔHTc1;0J/gとした。)、及び結晶融解熱量(ΔHm)を測定した結果を表1に示す。
【0090】
〔比較例3〕
実施例3で用いたPGAペレット約20kgを使用したことを除いて、比較例2と同様にして、PGA粒子を得た。得られたPGA粒子2gを20mlのHFIPに投入し、温度を25℃に保持しながら2時間攪拌したが、PGA粒子は溶解せず、スラリー状のままであった。このPGA粒子は、低温結晶化温度(Tc1)が検出されなかった[低温結晶化熱量(ΔHTc1)は0J/gとした。])。PGA粒子の粒子径、低温結晶化熱量(ΔHTc1;0J/gとした。)、及び結晶融解熱量(ΔHm)を測定した結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1から、重量平均分子量が20万である粒子状のPGAをターボミルを使用して粉砕して得られた、粒子径が11〜123μmであって、低温結晶化熱量(ΔHTc1)が12〜31J/gである実施例1〜4のPGA粒子は、温度25℃でHFIPに溶解して、溶液粘度177〜430mPa・sの溶液を得ることができることが分かった。
【0093】
これに対し、粉砕をせずに、温度190℃で溶解した溶液から析出させて得た粒子径が8μmである比較例1のPGA粒子、並びに、高せん断力を与えながら粉砕することなく、液体窒素で冷却しながら凍結粉砕することにより形成した比較例2及び3のPGA粒子は、低温結晶化温度(Tc1)が検出されないものであり、いずれも温度25℃でHFIPに溶解して、溶液とすることができないものであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び(B)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量が、1J/g以上;であることを特徴とし、好ましくは、更に(C)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出される結晶融解熱量が、100J/g未満;及び更に(D)前記結晶融解熱量と前記低温結晶化熱量との差が、90J/g未満;である生分解性脂肪族ポリエステル粒子であることによって、該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度−5℃以下の温度、すなわち常温近傍の温度で有機溶剤に溶解することができ、取り扱い性が良好な生分解性脂肪族ポリエステル粒子が提供されるので、該生分解性脂肪族ポリエステル粒子の利用可能性が高まり、産業上の利用可能性が高い。
【0095】
また、本発明によれば、重量平均分子量が5万以上である粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルを、0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度で、高せん断力を与えながら、粉砕することによって、前記の生分解性脂肪族ポリエステル粒子を容易に得ることができるので、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均粒子径が、10〜500μm;及び
(B)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶化に伴う発熱量として算出される低温結晶化熱量が、1J/g以上;
であることを特徴とする生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【請求項2】
更に(C)示差走査熱量計による昇温過程で検出される結晶の融解に伴う吸熱量として算出される結晶融解熱量が、100J/g未満である請求項1に記載の生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【請求項3】
更に(D)前記結晶融解熱量と前記低温結晶化熱量との差が、90J/g未満である請求項2に記載の生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【請求項4】
前記生分解性脂肪族ポリエステル粒子に含有される生分解性脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはそれらの混合物である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の生分解性脂肪族ポリエステル粒子。
【請求項5】
重量平均分子量が5万以上である粒子状の生分解性脂肪族ポリエステルを、0℃以上該生分解性脂肪族ポリエステルのガラス転移温度未満の温度で、高せん断力を与えながら粉砕することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の生分解性脂肪族ポリエステル粒子の製造方法。

【公開番号】特開2012−224809(P2012−224809A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95831(P2011−95831)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】