説明

生分解性被覆線及びその巻取り体

【課題】 生分解性を損なわずに、且つ海中での使用が可能で、しかも絶縁電線としての生産性を損なわない生分解性被覆線、およびこれの巻取り体を提供する。
【解決手段】 導体;並びにポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物からなる絶縁被覆層を含む生分解性被覆線。前記絶縁被覆層は、好ましくは、前記樹脂組成物を溶剤に溶解してなる塗料の塗工により形成される。当該塗料は、被覆後、短時間で巻芯に巻き取られても、被膜同士が付着することがないので、生産性に優れた巻取体の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被覆が生分解性樹脂で構成されている生分解性被覆線及び当該絶縁被覆線を巻芯に巻き取ってなる巻取り体に関し、特に、海中で使用され、使用後、廃棄される海洋投棄タイプの電気機器に用いられる電線、信号線に適し、且つ生産性に優れた生分解性被覆線及びその巻取り体に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋の水温、水深等の海洋データを安価で自動的に計測する装置として、投下型センサをワイヤ先端に取り付けた投下器と、センサから送られてきた信号を船上のデータ処理装置で処理するという海洋データ測定装置がある。
このような海洋データ測定装置は、センサプローブを海中に投下し、必要なデータを計測後、センサプローブに接続されていた信号線を切断し、切断されたプローブ、信号線は、回収されずに、そのまま海中に投棄される。
【0003】
信号線に施されている絶縁被覆には、一般にウレタン樹脂、ポリイミド系樹脂などが用いられている。このような絶縁被覆は分解しないため、投棄された信号線は、長期間、海中にゴーストフィッシュイングとなって残存することになり、近年、環境破壊であるとして問題となっている。このような事情から、海洋投棄タイプの信号線については、使用後、生分解できる材料の絶縁被膜が求められるようになっている。
【0004】
生分解性樹脂を用いて絶縁被覆した電線類としては、例えば、特開2003−51215号公報(特許文献1)、特開2002−358829号公報(特許文献2)において、提案されている。
特許文献1では、生分解性樹脂として、ポリεカプロラクトンを使用し、これを放射線等で架橋することにより、生分解性を保持しつつ、耐熱性を確保することが提案されている。
特許文献2には、架橋しなくても、所望の絶縁破壊電圧を有する生分解性絶縁材料として、ポリマー組成を特定の構造単位とするとともに、分子量を特定範囲としたポリ乳酸系生分解樹脂が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−51215号公報
【特許文献2】特開2002−358829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海洋データ測定装置に用いられる伝送ワイヤとしては、海中に浸漬された状態で使用され、電気信号を伝送する必要があることから、一般の絶縁電線とは、異なる特性が要求される。具体的には、海中では、クレージング現象が起きやすいため、耐クレージング性に優れた被膜材料を用いる必要がある。
【0007】
また、生分解性樹脂は、一般に、ポリイミド等の従来より絶縁被覆として用いられている材料と比べて、融点が低く、耐熱性に劣っているという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、生分解性を損なわずに、且つ海中での使用が可能で、しかも絶縁電線としての生産性を損なわない生分解性被覆線、およびこれの巻取り体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の生分解性被覆線は、導体;並びにポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物からなる絶縁被覆層を含む。
前記絶縁被覆層は、前記樹脂組成物を含有する塗料の塗工により形成されたものであることが好ましく、前記絶縁被覆層は、さらにセラック樹脂で被覆されていることが好ましい。
【0010】
本発明の生分解性被覆線は、海洋投棄タイプの信号線に好適に用いることができる。
【0011】
また、本発明は、上記本発明の生分解性被覆線を巻芯に巻きつけてなる巻取り体を提供し、さらに、本発明で用いられる、ポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物を溶剤に溶解してなる生分解性絶縁被覆用塗料を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生分解性被覆線は、耐クレージング性に優れているので海中で使用することができ、使用後、投棄されても、絶縁被膜が生分解されるので、ゴーストフィッシュングとなって残存せずに済む。また、本発明の生分解性被覆線の絶縁被膜は、粘着性が低いので、本発明の巻取り体を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
本発明の生分解性被覆線は、導体を、ポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物からなる絶縁被覆層で被覆したものである。
【0015】
本発明で用いられる導体としては、銅線、アルミニウム線など、従来より電線、通信線として公知の導線を用いることができる。
【0016】
〔絶縁被覆層〕
絶縁被覆層は、ポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物で構成される。
ポリカプロラクトン系生分解性樹脂(「PCL系樹脂」と略記)とは、カプロラクトンモノマーの開環重合により得られる樹脂である。PCL系樹脂は、グリコール酸とジカルボン酸との縮合重合により得られる脂肪族ポリエステル樹脂や、ポリ乳酸等の他の生分解性樹脂と比べて、融点が約60℃と低く、またガラス転移点も−60℃と低い。しかしながら、海中で使用される信号線の被覆材料としては、通常の大気中で用いられる被覆電線、被覆信号線とは異なり、高度な耐熱性は要求されないので、この程度の低融点であっても使用可能である。
【0017】
上記カプロラクトンモノマーとしては、ε−カプロラクトン、4−メチルカプロラクトン、3,5,5−トリメチルカプロラクトン、3,3,5−トリメチルカプロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、エナントラクトンなどがあげられる。これらのうち、ε−カプロラクトンが好ましく用いられる。
【0018】
本発明で用いられるカプロラクトン系生分解性樹脂には、生分解性、ポリカプロラクトンとしての結晶性を損なわない範囲で、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類とエチレングリコール等の脂肪族グリコール酸との縮合反応により生じるエステル構造単位、ポリブチレンサクシネート等の構造単位が含まれていてもよい。
【0019】
本発明で用いられるカプロラクトン系生分解性樹脂の重量平均分子量は、特に限定しないが、10000〜100000が好ましく、より好ましくは30000〜80000、さらに好ましくは50000〜80000である。
【0020】
このようなカプロラクトン系生分解性樹脂は、他の生分解性樹脂よりも、結晶性が高く、緻密な被膜を形成することができ、耐ピンホール性に優れている。
さらに、緻密な結晶被膜が形成されることで、耐クレージング性も有していて、海中で使用される電線、信号線として好適である。すなわち、電線、信号線は、出荷される状態において、巻芯に巻き取られた巻取り体の状態となっており、次いで、電気機器に利用される際に、捲線等の種々の加工が加えられる。従って、電線、信号線は、電気機器に接続された状態では、特に伸びが与えられ、被膜に応力が発生した状態となっている。また、海洋投下に用いられる信号線の場合、信号線がコンパクトに巻き取られた状態で測定器内に収納された状態となっており、使用時に信号線は伸ばされるなど、製品の状態において被膜に応力が発生した状態になっている。さらに、海水中に浸漬された使用状態では、波や水圧を受けるなど、ストレスを受けやすい状態となっている。このようにストレスを受けた状態で、水や溶剤、特に海水のように電流がながれやすい水溶液中で、電圧がかかると、絶縁被膜にピンホールが発生しやすい、つまりクレージングが発生しやすい状態にある。このため、海中で使用されるような信号線、電線では、とりわけ高度な耐クレージング性が要求される。この点、PCL系樹脂は、他の生分解性樹脂に比べて、結晶性が高いことから、優れた耐クレージング性を有している。
一方、PCL系樹脂は、高い結晶性を有しているにもかかわらず、その直鎖性、エステル結合に基づき、また低融点、低ガラス転移点に基づき、生分解性を有している。
【0021】
ポリアミド系樹脂としては、6ナイロン、6,6−ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、共重合ポリアミドなどを用いることができる。このようなポリアミド系樹脂は、PCL系樹脂の結晶安定化を速める結晶核剤として配合される。
【0022】
PCL系樹脂は、他の生分解性樹脂と比べて、高い結晶性を有している反面、低融点、低ガラス転移点であることから、結晶安定化に時間がかかる。このことは、電線、信号線の巻取り体の製造上、問題となる。すなわち、被覆電線、信号線の工業的生産レベルの製造としては、後述するように、線サプライヤから引き出された線材を芯材として、被覆用組成物を押出し成型し巻芯に巻き取っていく、あるいは被覆用塗料液中を通過させることで、導体に被覆用塗料を塗布し、さらに炉内を通過させることで乾燥し、この塗布、乾燥工程を複数回繰り返した後、巻芯に巻き取っていくというように、線材の引出しから巻き取りまでの工程が連続的に行われる。線材の径、種類にもよるが、通常20〜400m/分の速度で線材が引っ張られながら、絶縁被覆が施され、巻芯に巻き取られていく。絶縁被覆後、巻取りまで、せいぜい1分程度である。被膜の主成分であるポリカプロラクトンの結晶安定化が不十分な状態では、被膜が粘着性を有しているため、かかる状態で巻き取られると、被膜同士が付着してしまうといった問題が生じる。従って、生産上、被覆後、1分以内の短時間で、ポリカプロラクトンを結晶安定化しておく必要がある。この点、その機構は明らかではないが、ポリアミド系樹脂との共存により、カプロラクトン系生分解性樹脂の結晶安定化が速められ、上記のような連続工程によっても、被膜同士の付着を防止できる。
【0023】
ポリアミド系樹脂は、カプロラクトン系生分解性樹脂100質量部あたり、0.1〜10質量部含有されることが好ましい。ポリアミド系樹脂は、生分解性を有しないため、絶縁被覆層に多量に含有されると、絶縁被覆層の生分解性が損なわれてしまうからである。
【0024】
本発明で用いられる被覆用樹脂組成物には、上記カプロラクトン系生分解性樹脂、ポリアミド系樹脂の他、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、炭化ケイ素、炭化チタン、タングステンカーバイド、窒化ホウ素、窒化ケイ素などのフィラー;絶縁塗料硬化性や流動性を改善するために、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどのチタン系ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛などの亜鉛系化合物;酸化防止剤;硬化性改善剤;レベリング剤;接着助剤などの添加剤を含有させることができる。
【0025】
本発明の生分解性被覆線は、以上のような組成を有する樹脂組成物で絶縁被覆されたものである。
【0026】
電線の絶縁被覆が塗布により行われる場合、使用する樹脂組成物は、以下のような有機溶剤で溶解したワニス塗料として用いられることが好ましい。
使用できる有機溶剤としては、ポリアミド系樹脂を溶解することができるものであればよく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロへキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類;ジエチルエステル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素化合物;クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類;ピリジンなどの第三級アミンなどが挙げられ、これらの有機溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上混合して用いることができる。
これらのうち、乾燥、重ね塗り、生産現場での環境、安全性等の観点から、低沸点有機溶剤が好ましく用いられ、具体的にはクレゾール、キシレンなどのフェノール類が好ましく用いられる。
【0027】
また、本発明の生分解性被覆線は、生分解性絶縁被覆層上に、さらにセラック樹脂層で被覆されていてもよい。セラック樹脂による被覆は、被覆層の生分解性を損なうことなく、機械的強度を増大させるという効果がある。
【0028】
〔被覆線の作成〕
生分解性樹脂を導線に被覆する方法としては、通常の電線や光ファイバーの樹脂被覆に用いられている装置を利用することができる。具体的には、汎用の押出機を用い、押出機の芯部に導線を通して、円筒状に融解した生分解性樹脂組成物を被覆し、冷却する方法;あるいは生分解性樹脂組成物を有機溶剤で溶解してなる被覆用塗料液を収容した塗料槽に浸漬し、常温または加温により乾燥、焼付することにより被覆してもよい。
【0029】
乾燥、焼付を炉内で行う場合、炉の温度は、200〜400℃程度とすることが好ましい。
【0030】
上記被覆工程の前工程に、被覆材料である生分解性樹脂との密着性、或いは接着性を向上するため、接着剤等の前処理剤をコーティングしてもよい。
【0031】
また、生分解性樹脂組成物の機械的強度や耐熱性を向上させるために、樹脂を架橋させてもよい。架橋方法としては、化学架橋又は放射線架橋を行なうことができる。化学架橋は、有機過酸化物やシランカップリング剤を生分解性樹脂に添加し、得られた生分解性樹脂組成物を、押出機により樹脂被覆工程で樹脂組成物を高温にして融解する工程及び冷却後に熱処理する工程を付加してその架橋を達成することができる。生分解性樹脂組成物被覆層の架橋は、耐熱性を高める点で有効である。一方、海洋投棄タイプの信号線に用いる場合、高度な耐熱性は要求されないこと、本発明の被覆電線は、架橋しなくても、PCL系樹脂の高い結晶性に基づいて、耐クレージング性を充足できることから、海洋投棄タイプの電線、信号線に用いられる場合、架橋を行う必要はない。
【0032】
絶縁被膜の厚みは、導体を保護する観点から、5〜100μmが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。塗布により絶縁被覆を形成する場合には、重ね塗りにより、所望厚みの被覆層を形成する。
【0033】
本発明の被覆線は、絶縁被膜が生分解性を有し、しかも機械的強度に優れ、耐ピンホール性にも優れている。特に、ストレスがかかっている状態であっても、海水等の水溶液中で、電圧がかかるような状況であっても耐ピンホール性を保持している。従って、海水中で使用され、使用後、生分解されることが求められる、海洋投棄型測定器の信号線などに特に好適に用いることができる。
【0034】
〔巻取り体〕
本発明の巻取り体は、上記本発明の被覆線を連続的に作製しつつ、巻芯に巻きとったものであり、通常、このような巻取り体の状態で、製品として出荷される。
被覆線の製造、さらに続いて巻取り体の製造は、連続工程で行われることが好ましく、通常20〜400m/分の速度で線材を巻き取りながら製造される。
本発明の被覆線は、上述にように、PCL系樹脂の結晶安定化が速められているので、被覆後1分以内で巻芯に巻き取られるような製造工程であっても、被覆層同士が粘着してしまうといったことを回避できる。従って、絶縁被覆を、押し出成型あるいは塗布のいずれによって行っても、20〜400m/分の速度で巻芯に巻取って、連続的に巻取り体を製造することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
〔測定評価方法〕
はじめに、本実施例で行なった評価方法について説明する。
(1)耐ピンホール性
作成した被覆電線について、JIS C3003に基づいて、ピンホール試験を行った。具体的には、長さ6mの試験片(作成した被覆線)を、試験片を曲げたり伸ばしたりしないで、フェノールフタレインの3%アルコール溶液の適量を滴下した0.2%食塩水中に、試験片の5m以上の長さを浸し、液を正極、試験片の導体を負極とし、12Vの直流電圧を1分間加えたときに発生するピンホール数を調べる。
【0037】
(2)耐クレージング性
作成した被覆線を3%伸長した後、上記(1)耐ピンホール性試験を行い、発生するピンホール数を調べる。
【0038】
(3)巻取り体粘着性
径0.23mmのワイヤに絶縁被覆用塗料を塗布、乾燥して、厚み0.018mmの被覆層を形成した被覆電線を、35m/分で連続的に、巻芯に巻取り、巻取り体を作製した。乾燥炉を出てから巻取られるまでの時間は、8秒程度である。作成した巻取り体から被覆電線を引き出し、被覆電線同士がひっついていないかどうかを目視で確認した。
【0039】
〔絶縁被覆用塗料の調製〕
絶縁被覆用塗料No.1:
フラスコにクレゾール5670gを入れ、攪拌しながら6−ナイロンを9g添加した。100℃まで上昇させた後、当該温度で30分間攪拌し、6−ナイロンを溶解させた。得られた6−ナイロン溶液を50〜60℃に冷却した後、生分解樹脂として、ダイセル化学工業株式会社の「プラクセルH7」(商品名、分子量70000のポリカプロラクトン)891gを投入し、50〜60℃で5時間攪拌して、生分解性樹脂を溶解させた後、キシレン2430gを投入し、室温まで冷却して、塗料No.1を調製した。
【0040】
被覆用塗料No.2〜4:
6−ナイロンに代えて、表1に示す安定化剤を使用した以外は、No.1と同様にして、被覆用塗料を調製した。
【0041】
被覆用塗料No.5:
フラスコにクレゾール5670gを入れ、50〜60℃に加温した。No.1で用いた生分解性樹脂(ダイセル化学工業株式会社の「プラクセルH7」)900gを投入し、50〜60℃で5時間攪拌して、溶解させた後、キシレン2430gを投入し、室温まで冷却して、組成物No.5を調製した。
【0042】
被覆用塗料No.6〜11:
表1に示すような生分解性樹脂を主成分とする塗料を使用し、いずれも安定化剤を配合していない。
なお、表1に示す生分解性樹脂塗料は、以下の通りである。
A:ダイセル化学工業株式会社の「プラクセルH7」(商品名)分子量70000のポリカプロラクトン
B:昭和高分子株式会社の「ビオノーレEM301」(商品名)
脂肪族ポリエステル系生分解樹脂の水分散塗料で、不揮発分53.2%である。
C:昭和高分子株式会社の「ビオノーレEM503」(商品名)
脂肪族ポリエステル系生分解樹脂の水分散塗料で、不揮発分53.2%である。
D:ミヨシ油脂株式会社の「ランディPL2000」(商品名)
ポリ乳酸の水分散塗料で、最低造膜温度90℃で粒径2μmのエマルジョンで、不揮発分40%である。
E:ミヨシ油脂株式会社の「ランディPL3000」(商品名)
ポリ乳酸の水分散塗料で、最低造膜温度が20℃で、粒径1μmのエマルジョンで、不揮発分39.3%である。
F:東洋紡株式会社の「バイロエコールBE400」(商品名)をメチルピロリドン/キシレン=70/30に溶解した塗料で、不揮発分40%である。
バイロエコールBE400は、D−乳酸を共重合したことにより、非晶性としたポリ乳酸(分子量4300、ガラス転移点50℃)である。
G:東洋紡株式会社の「バイロエコールBE450」(商品名)をメチルピロリドン/キシレン=70/30に溶解した塗料で、不揮発分50%である。
バイロエコールBE450は、D−乳酸を共重合したことにより、非晶性としたポリ乳酸(分子量25000、ガラス転移点30℃)。
【0043】
〔被覆電線および巻取り体の作製〕
被覆電線No.1〜11:
径0.230mmの銅線に、上記で調製した被覆用塗料No.1〜11を、複数回塗布、焼きつけを繰り返すことにより、被膜厚み0.018mmの被覆電線を作成し、上記評価方法に基づいて、耐ピンホール性、耐クレージング性を評価した。結果を表1に示す。さらに被覆電線No.1〜11を用いて、巻取り体を作成し、上記評価方法に基づいて、粘着性を評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1からわかるように、生分解性樹脂として、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸を用いた場合には、結晶度や造膜温度の違いにかかわらず、ピンホール試験、クレージング試験でピンホールが発生し、絶縁性能を満足することができない(No.6〜11)。
生分解性樹脂として、ポリカプロラクトンを用いることで、耐ピンホール性、耐クレージング性を満足することができるが、安定化剤を含まない場合、安定化剤としてポリアミドを含有させなかった場合(No.4,5)には、巻取り体の状態で、被膜同士が付着し、連続生産に適さなかった。
【0046】
一方、生分解性樹脂としてポリカプロラクトンを使用し、且つポリアミド系樹脂を配合した場合、ポリアミド系樹脂の種類にかかわらず、耐ピンホール性、耐クレージング性、巻取り体における被膜同士の付着は発生しなかった(No.1〜3)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の生分解性被覆線は、絶縁被膜が耐クレージング性に優れ且つ生分解性を有しているので、特に海洋投棄される信号線、電線、ケーブルに好適に用いることができる。また、被覆後、短時間で巻芯に巻き取られても、被膜同士が付着することがないので、100m以上の長い電線、信号線の巻取り体であっても、連続生産でき、生産性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体;並びに
ポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物からなる絶縁被覆層
を含む生分解性被覆線。
【請求項2】
前記絶縁被覆層は、前記樹脂組成物を含有する塗料の塗工により形成されたものである請求項1に記載の生分解性被覆線。
【請求項3】
前記絶縁被覆層は、さらにセラック樹脂で被覆されている請求項1または2に記載の生分解性被覆線。
【請求項4】
海洋投棄タイプの信号線に用いられる請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性被覆線。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性被覆線を巻芯に巻きつけてなる巻取り体。
【請求項6】
ポリカプロラクトン系生分解性樹脂及びポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物を溶剤に溶解してなる生分解性絶縁被覆用塗料。

【公開番号】特開2010−44892(P2010−44892A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206580(P2008−206580)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(592048040)北海道電機株式会社 (5)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】