説明

生分解性評価装置

【課題】簡便でしかも異なる条件での生分解性の評価を正確に行うことができる装置を提供すること。
【解決手段】生分解性ポリマーをコンポスト条件下に分解してその分解性を評価する装置であって、一定組成の空気を一定量供給する手段、該空気を調湿する手段、横に配置されたコンポスト条件下に生分解性ポリマーを分解する両端に空気導入口および排気口を設けた縦長の容器を装着した一定の温度に制御する手段、縦長の容器から排出される空気中の二酸化炭素を定量する手段を空気が漏れないように連結してなる装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ISO14855などに準じて合成ポリマーなどの生分解性を評価する際などに好適な生分解性評価装置および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを利用してバイオリサイクルを実施する上で、ポリマーを始めとする化学物質の種々の条件下での生分解性を評価する事は重要である。たとえば、微生物源としてコンポストなどの加速条件下における生分解性を評価する方法がISO14855により定められており、対応する日本工業規格もJIS K6953として定められている。これらに定められた方法は比較的シンプルなものであるが、時間のかかる測定であり、簡便に測定できる方法、特に装置として一体化したものが提供できることが期待されている。上記規格は、コンポストによる対象物の分解性を評価するものであり、微生物源のコンポストに何も加えないブランク、および対照として分解性が既知の材料をコンポストに添加したもの、さらに目的の対象物をコンポストに添加したものの3つの条件それぞれから時間の経過とともに発生する二酸化炭素を同時に正確に測定することを要求する。
【0003】
微生物を用いて対象物を分解させ発生する二酸化炭素の重量を測定し、対比としてセルロースを分解させ同様に発生する二酸化炭素の重量を測定し比較する方法が知られている(特許文献1)が、特許文献の方法では二酸化炭素の発生量を重量として測定するため装置が極めて複雑なものとなっている。
【0004】
一方、動物が発生する二酸化炭素を正確に測定する方法も公知であり発生する二酸化炭素を酸素含有ガスで搬送して捕集して測定する方法(特許文献2)が提案されている。
【0005】
この方法も同様に二酸化炭素の発生量を重量で測定しようとするものであり、装置、操作が同様に複雑であり、幾つかの異なる条件での反応を同時に再現性良く行い、しかも正確性を担保することについてはなんら開示するものではない。
【特許文献1】特開平11−113595号公報
【特許文献2】特開2003−329672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、簡便でしかも異なる条件での生分解性の評価を正確に行うことができる装置およびそれを用いた評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する為に、鋭意検討したところ、コンポスト条件下に含炭素化合物を分解することができる特定の容器を用いることで上記問題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、含炭素化合物をコンポスト条件下に分解してその分解性を評価する装置であって、一定組成の含酸素ガスを一定量供給する手段、該含酸素ガスを調湿する手段、一定の温度に制御されたコンポスト条件下に含炭素化合物を分解する横に配置され両端に含酸素ガス導入口および排気口を設けた縦長の容器からなる含炭素化合物を分解する手段、縦長の容器の排気口から排出される含酸素ガスの二酸化炭素を捕集する手段を含酸素ガスが漏れないように順に連結してなる装置である。
【0009】
本発明はまた、含炭素化合物をコンポスト条件下に分解してその分解性を評価する装置であって一定組成の含酸素ガスを一定量供給する手段、該含酸素ガスを調湿する手段、一定の温度に制御されたコンポスト条件下に含炭素化合物を分解する横に配置され両端に含酸素ガス導入口および排気口を設けた縦長の容器からなる含炭素化合物を分解する手段、縦長の容器の排気口から排出される含酸素ガス中の二酸化炭素を捕集する手段を含酸素ガスが漏れないように順に連結してなる装置を用いて含炭素化合物の生分解性を評価することを特徴とする生分解性の評価方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の装置は、構造が簡単で再現性良く異なる条件の評価を同時に行うことができ工業的に極めて価値がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の装置および評価方法において重要なのは、生分解により発生する二酸化炭素を搬送するのに一定組成の含酸素ガスを一定量供給する手段を設けていることである。一定組成の含酸素ガスを利用することでコンポスト条件を好気性条件にすることができ、しかも発生するガスを正確に測定できる。一定組成の含酸素ガスとしては、例えば、上記ISO14855の試験には空気を使用するので、市販のボンベ入りの空気が好ましく例示され、必要な容量のボンベを用いれば測定の間続けて一定組成のガスを装置に供給でき好ましい。その際、二酸化炭素、水ができるだけ少ないものを選択すると好適である。含酸素ガスの供給は上記のような加圧空気を用いる他に、ポンプで空気を加圧して用いる方法あるいは、二酸化炭素の捕集部より吸引することで行うことも可能である。この場合雰囲気の空気を使用することになるので、二酸化炭素の含量などの変動が生ずるので対策が必要である。
【0012】
本発明の装置および評価方法は、含酸素ガスを調湿する手段を有する。本発明の装置および評価方法においては、含酸素ガスを調湿して用いるのが好ましい。調湿する方法としては、上記含酸素ガスを水中に通して利用するのが簡便である。簡便には水を入れた容器の水中にノズルなどを通して含酸素ガスを導入し水中を経由した含酸素ガスを捕集して利用すればよく、市販のガス吸収ビンなどが利用可能である。このガス吸着ビンは下記一定温度に制御できる装置内に設けてもよく、水の吸収を分解温度より低い温度で行うように装置の外に置くこともできる。
【0013】
含酸素ガスの流量は、後述のように生分解反応が行われる容器において一定の空塔線速度となるように制御できるように流量計およびバルブ等の制御手段を設けるのが好ましい。
【0014】
本発明の装置および評価方法において重要なのは、一定の温度に制御されたコンポスト条件下に含炭素化合物を分解する横に配置され両端に含酸素ガス導入口および排気口を設けた縦長の容器からなる含炭素化合物を分解する手段を設けていることである。ここで利用する容器としては上記条件を満足する限り特に制限はないが、好ましい具体例としては円筒形のガラスの両端にガスを通すことのできる管を装着した蓋を装着したものが開示できる。ガスを通すことのできるねじ込み付きの蓋でしかも密閉性の良いものは市販されておりそれを利用することができる。ガラス管の蓋に合わせたねじを両端に形成したものも市販されておりそのまま利用できる。
【0015】
本発明において肝要なのは、上記容器を一定温度に制御できる環境に横置きに設置することにある。容器を縦置きにするとコンポストが重力で圧縮され局所的に反応が進み、場合によっては温度制御が困難になり正しい測定ができない。本測定は、発生する二酸化炭素を完全に回収する必要があることから、一旦仕込むと後で攪拌などすることができないことから反応中にコンポストが圧縮されることは重大な問題である。ここで横置きとは、圧縮あるいは含酸素ガスの偏流など不具合が起こらなければよく必ずしも水平である必要はないが、傾きとして30度以下であるのが好ましく、水平であるのが特に好ましい。
【0016】
一方、コンポスト全体が好気性の雰囲気に保たれる必要があることから、導入口および排気口付近を除きサンプルが均一に充填されている状態であるのが好ましい。また、含酸素ガスは全体に略均一に流通するのが好ましく、含酸素ガスの流通速度は空塔線速度で表現して0.01〜10cm/min、好ましくは0.02〜2cm/min、特に0.05〜0.7cm/minが好ましい。
【0017】
0.01cm/minより小さいと好気性の条件を満たすことが困難であり、10cmを超えるとコンポストが移動して出口付近に圧縮されることがあり好ましくない。
【0018】
ISOの条件を満足し上記空塔線速度を保つと言う意味からは、容器のL/Dは1〜20、特に2〜10の円筒形とするのが好ましい。L/Dが小さ過ぎると空気の流通が不均一となることがあり、大き過ぎると容器が長くなり装置が巨大化し好ましくない。ここで円筒としては断面が必ずしも円形である必要はなく、楕円状であっても良い。楕円の場合にはLとしては長軸を意味する。
【0019】
上記容器を一定温度に制御するには、本発明の容器を多数個、好ましくは3本以上装着できるものを特別に製作しても良いが、恒温槽として市販されているものを利用しても良い。
【0020】
ISOに従った試験では、±2℃の温度制御できるものが要求される場合がある。
【0021】
ここでコンポストによる分解作用については多くの例が周知であり、種々の特性のものが入手可能であるが、ISOなどの試験においてはその試験の条件を満足するものを選択して利用することが必要となる。
【0022】
本発明は、縦長の容器の排気口から排出される含酸素ガス中の二酸化炭素を捕集する手段を有するものであり、排出される含酸素ガス中の二酸化炭素を捕集するにはアルカリ性の水溶液に導入することが好ましい。ここで、コンポストからは同時にアンモニアガスも発生するので、まず酸性の水でアンモニアのみを吸収し次いで含酸素ガスを乾燥し二酸化炭素をアルカリと反応せしめ重量で二酸化炭素を計量する乾式の方法でも、両方を同時に水酸化ナトリムなどのアルカリ性水溶液に吸収させ、滴定によって測定する方法であっても良い。アルカリ水溶液で吸収して測定する方法ではアンモニアの影響を除くため、滴定時に二段階反応となる水酸化ナトリウムなどを選択し、水酸化アンモニウムの滴定ポイントに被らない、滴定ポイント2と滴定ポイント3から滴定量を算出するなどが重要である。
【0023】
本発明は、各種のコンポストを入れた生分解反応用の容器を自在に付け替えし、温度を任意に調節する事ができる。素性が明確なコンポストを対照として用い、セルロースなど同一の対象物を用いる事により、入手したコンポストの活性や養生度、反応性等を評価することもできる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の実施の一例について示す。
【0025】
実施例1
内容積が150リットルである恒温槽に直径100mmで長さ500mmの円筒形のガラス製で両端にスリ合わせで10mmのガラス管付きの蓋で密閉できる容器を9本セットした。その内の3本にはコンポスト(自治体コンポスト工場製)210gのみを、次の3本にはコンポスト210gとセルロースパウダーMacherey−Nagel社製)15.5gを混合したものを均一に充填した。容器の両端に設けられたガラス管を経由して、1方には、空気ボンベ(太陽日酸社製)よりレギュレーターを経由して減圧した空気を流量計(STEC社製)により10ml/minに制御した後、水を入れたバブラー(TokyoKoshin社製)を経由して導入した。この際、バブラーは恒温槽内に入れて温度を58±2℃に制御した。一方から取出したコンポストで反応した空気は、それぞれ3Nの水酸化ナトリム溶液を250mLいれた3本のバブラーを経由し、ついでフェノールフタレインで赤色に着色したpHに調整したアルカリ水溶液を入れたバブラーを経由して排気した。このような空気の導入、反応ガスの排出、トラップができるように各容器をセットした。なお、各容器は横置きとした。トラップとして設けた各バブラーのアルカリ水溶液は、イオン交換水で300mLに定容し、15ml/回抜きだして滴定することで二酸化炭素の発生量を把握し、セルロースパウダーの理論発生量と比較して生分解率を継続的に調べた。30日経過後に紙を混合したコンポストを入れた装置から発生した二酸化炭素が理論量の70%を超えたので、試験開始後40日目には試験を終了した。試験中、二酸化炭素の発生量が急に増加するとか減少するなどの異常は見られず、試験終了後のコンポストの観察結果も局所的な反応、特に嫌気性の反応が起こったような異常は観察されなかった。3本セットした発生二酸化炭素量のバラツキは5%以下であった。
【0026】
実施例2
空気の流量を7.5mL/minとした他は実施例1と同様にしたところ、40日経過後にセルロースパウダーを混合したコンポストを入れた装置から発生した二酸化炭素量が理論量の70%を超えたので試験を終了した。試験中、二酸化炭素の発生量が急に増加するとか減少するなどの異常は見られず、試験終了後のコンポストの観察結果も局所的な反応、特に嫌気性の反応が起こったような異常は観察されなかった。3本セットの発生二酸化炭素のバラツキは10%であった。
【0027】
実施例3
容器の形状を直径71mm、長さ250mmとし、空気の流量を10mL/minとした他は実施例1と同様にしたところ、40日経過後にセルロースパウダーを混合したコンポストを入れた装置から発生した二酸化炭素量が理論量の70%を超えたので試験を終了した。試験中、二酸化炭素の発生量が急に増加するとか減少するなどの異常は見られず、試験終了後のコンポストの観察結果も局所的な反応、特に嫌気性の反応が起こったような異常は観察されなかった。3本セットの発生二酸化炭素のバラツキは10%であった。
【0028】
比較例1
実施例3で用いた容器を用い、容器を縦置きとし上方より下方に空気を導入した以外は同様な実験を行ったところ、30日経過後にセルロースパウダーを混合したコンポストを入れた装置から発生した二酸化炭素量が理論量の50%を超えたので試験を終了した。試験中、二酸化炭素の発生量が急に増加するとか減少するなどの異常が見られた。試験終了後のコンポストの観察結果も局所的な反応、嫌気性の反応が起こったような異常が対比の容器で観察された。3本セットの発生二酸化炭素のバラツキは20%と実施例に比べ大であった。なお、空気は上方より入れ下方より抜き出した。
【0029】
比較例2
空気の流量を30mL/minと大きくし、下方より導入し上方より抜出す方法で行った他は比較例1と同様にしたところ、30日経過後にセルロースパウダーを混合したコンポストを入れた装置から発生した二酸化炭素量が理論量の40%を超えたので試験を終了した。試験中、二酸化炭素の発生量が急に増加するとか減少するなどの異常が見られた。試験終了後のコンポストの観察結果では特に異常は見られなかった。3本セットの発生二酸化炭素のバラツキは20%と実施例に比べ大であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の装置を利用することで生分解性の評価が効率的に精度よく実施でき、合成ポリマーなどの生分解性の評価に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例2の結果を示すものであり、上方の3つのカーブはセルロースパウダーを混合した3本の容器で反応し発生した二酸化炭素の積算値を示すものであり、縦の線は測定したタイミングを示す。下方の事実上1本で示されているカーブは対比のコンポストのみを入れた容器から発生した二酸化炭素の積算値を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含炭素化合物をコンポスト条件下に分解してその分解性を評価する装置であって、一定組成の含酸素ガスを一定量供給する手段、該含酸素ガスを調湿する手段、一定の温度に制御されたコンポスト条件下に含炭素化合物を分解する横に配置され両端に含酸素ガス導入口および排気口を設けた縦長の容器からなる含炭素化合物を分解する手段、縦長の容器の排気口から排出される含酸素ガス中の二酸化炭素を捕集する手段を含酸素ガスが漏れないように順に連結してなる装置。
【請求項2】
コンポスト条件下に含炭素化合物を分解する横に配置され両端に含酸素ガス導入口および排気口を設けた縦長の容器がL/Dが5〜20の円筒形の容器であり導入口および排気口付近を除きサンプルが均一に充填されている状態である請求項1記載の装置。
【請求項3】
含酸素ガス中の二酸化炭素を捕集する手段が、排出される含酸素ガスをアルカリ性の水溶液に導入するものである請求項1に記載の装置。
【請求項4】
含炭素化合物をコンポスト条件下に分解してその分解性を評価する装置であって、一定組成の含酸素ガスを一定量供給する手段、該含酸素ガスを調湿する手段、一定の温度に制御されたコンポスト条件下に含炭素化合物を分解する横に配置され両端に含酸素ガス導入口および排気口を設けた縦長の容器からなる含炭素化合物を分解する手段、縦長の容器の排気口から排出される含酸素ガス中の二酸化炭素を捕集する手段を含酸素ガスが漏れないように順に連結してなる装置を用いて含炭素化合物の生分解性を評価することを特徴とする生分解性の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−319123(P2007−319123A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155012(P2006−155012)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(501021139)株式会社三井化学分析センター (10)
【Fターム(参考)】