説明

生分解性軟質フィルム

【課題】乳酸系樹脂が本来有している生分解性に加え、優れた耐熱性、包装適性や加工適性を同時に具備した乳酸系樹脂軟質フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】乳酸系樹脂50〜95質量%と可塑剤5〜50質量%とからなる乳酸系樹脂組成物を含有する組成物からなり、フィルム中の乳酸系樹脂成分の結晶化熱量△Hcが0〜10J/gであり、融解熱量△Hmが10〜50J/gとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生分解性軟質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にプラスチックは、自然環境中で長期にわたって安定であり、しかも嵩比重が小さいため、廃棄物埋め立て地の短命化を促進したり、自然の景観や野生動植物の生活環境を損なうといった問題点が指摘されていた。
【0003】
これに対し、近年環境問題の高まりから、プラスチック製品が自然環境中に棄却された場合、経時的に分解・消失し、最終的に自然環境に悪影響を及ぼさないことが求められている。
【0004】
このため、今日、生分解性樹脂材料が注目を集めている。この生分解性樹脂は、土壌中や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となることが知られている。
【0005】
実用化され始めている生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル、変性PVA、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、及びこれらのブレンド体等があげられる。
【0006】
これらの生分解性プラスチックは、それぞれ固有の特徴を有し、これらに応じた用途展開が図られており、例えば、ポリオレフィンライクの中軟質の生分解性プラスチック材料や、ポリスチレンライクの硬質の生分解性プラスチック材料等は、広く知られている。
【0007】
しかしながら、非常に柔らかくて透明な、軟質塩化ビニルライクの生分解性プラスチック材料は、知られていない。
【0008】
この軟質塩化ビニル(以下、「軟質PVC」と略する。)は、食品ストレッチ包装用フィルムや、工業用保護フィルム、ダイシングフィルム、絆創膏用フィルム等に広く使われているものであり、環境対応の観点から、生分解性の代替材料の開発が望まれていた。
【0009】
透明で硬質材料である乳酸系樹脂に可塑剤を添加し、軟質化しようとする試みは、特許文献1〜5等に開示されている。これらの公報には、乳酸系樹脂と可塑剤からなる組成物や成形体が開示されているものの、可塑剤のブリードや脆化等の経時的な変化が生じる、耐熱性が不十分である、軟質PVCフィルムのような応力歪み特性や緩和特性を有していない等の課題を有し、軟質PVCフィルム代替材料としての実用特性を十分に有していなかった。
【0010】
【特許文献1】特開平4−335060号公報
【特許文献2】特開平7−118513号公報
【特許文献3】特開2000−136300号公報
【特許文献4】特開2000−198908号公報
【特許文献5】特開2000−248164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこでこの発明は、乳酸系樹脂が本来有している生分解性に加え、経時安定性、耐熱性、包装適性等を同時に具備した乳酸系樹脂軟質フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、乳酸系樹脂50〜95質量%と可塑剤5〜50質量%とからなる乳酸系樹脂組成物を主成分とし、フィルム中の乳酸系樹脂成分の結晶化熱量△Hcが0〜10J/gであり、融解熱量△Hmが10〜50J/gとすることにより上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、乳酸系樹脂が本来有している生分解性に加え、優れた耐熱性、包装適性や加工適性を同時に具備した乳酸系樹脂軟質フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかる生分解性軟質フィルムは、乳酸系樹脂と可塑剤からなる乳酸系樹脂組成物を主成分とするフィルムである。上記乳酸系樹脂とは、構造単位がL−乳酸又はD−乳酸であるホモポリマー、すなわち、ポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方である共重合体、すなわち、ポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体をいい、さらには、α−ヒドロキシカルボン酸やジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
【0015】
乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
【0016】
また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系重合体を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0017】
さらに、耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール等を用いてもよい。
【0018】
さらにまた、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することができる。
【0019】
上記乳酸系樹脂に共重合される上記の他のヒドロキシ−カルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類があげられる。
【0020】
上記乳酸系樹脂に共重合される上記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等があげられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等があげられる。
【0021】
上記乳酸系樹脂の重量平均分子量の好ましい範囲としては、5万から40万、好ましくは10万から25万であり、この範囲を下回る場合は実用物性がほとんど発現されず、上回る場合には、溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣る。
【0022】
この発明にかかる生分解性軟質フィルム中の乳酸系樹脂成分の結晶化熱量△Hcは、0〜10J/gがよく、0〜5J/gが好ましい。△Hcがかかる範囲を上回ると、室温においてフィルムの結晶化度が経時的に増大し、脆化したり、結晶化に伴い可塑剤のブリードが起こり易い。
【0023】
また、上記生分解性軟質フィルム中の乳酸系樹脂成分の融解熱量△Hmは、10〜50J/gがよく、20〜50J/gが好ましい。△Hmが10J/gを下回ると、食品用ストレッチフィルムとした場合に、電子レンジ中で溶けてしまう等、耐熱性が乏しくなる。また、ポリ乳酸ホモポリマーの完全結晶融解熱量は93J/gであるが、工業的には50J/gを越えるのは困難であり、製造コスト上の問題を伴う。
【0024】
上記結晶化熱量△Hc及び融解熱量△Hm、特に後者を調整する一つの大きな因子は、乳酸系樹脂におけるL−乳酸とD−乳酸の共重合比である。上記乳酸系樹脂を単独でこれらの範囲を達成するためには、L体とD体の共重合比を、L体:D体=100:0〜90:10、若しくは0:100〜10:90に、好ましくは、100:0〜93:7、若しくは0:100〜7:93、さらに好ましくは、100:0〜95:5、若しくは0:100〜5:95、にすることが好ましい。かかる範囲外では、△Hmを所望の範囲に調整するのが困難になる。
【0025】
また、異なったL体とD体の共重合比を有する複数の乳酸系樹脂をブレンドすることも可能である。この場合には、複数の乳酸系樹脂のL体とD体の共重合比の平均値が上記範囲に入るようにしたら良い。L−乳酸又はD−乳酸を構造単位とするホモポリマーと、L−乳酸及びD−乳酸の両方を構造単位とする共重合体のブレンド体を用いることが、ブリードのしにくさと耐熱性の発現のバランスをとる上では、特に好ましい。
【0026】
上記乳酸系樹脂には、耐衝撃性や耐寒性を付与する目的で、ガラス転移温度Tgが0℃以下の脂肪族ポリエステル樹脂や、脂肪族芳香族ポリエステル樹脂を、20重量部以下でブレンドすることもできる。
【0027】
上記脂肪族ポリエステル樹脂としては、乳酸系樹脂を除く脂肪族ポリエステル樹脂、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル等があげられる。
【0028】
上記の脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジオールであるエチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール等と、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等の中から、それぞれ1種類以上選んで縮合重合して得られる。必要に応じてイソシアネート化合物等でジャンプアップして所望のポリマーを得ることができる。また、耐熱性や機械強度を高めるために、ジカルボン酸成分として、50mol%以下のテレフタル酸等の芳香族モノマー成分を共重合することもできる。
【0029】
上記環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーであるε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等が代表的にあげられ、これらから1種類以上選ばれて重合される。
【0030】
上記合成系脂肪族ポリエステルとしては、環状酸無水物とオキシラン類との共重合体、例えば、無水コハク酸とエチレンオキサイドとの共重合体、プロピレンオキサイド等との共重合体等があげられる。
【0031】
上記可塑剤は、乳酸系樹脂を軟質化させるために用いられるものであり、本発明の他の条件を満たすものが適宜選ばれるが、相溶性や生分解性の観点から、下記(1)〜(9)に示される化合物から少なくとも1種類が選ばれるのが好ましい。
【0032】
(1)H(OH)−n(OOCCH (但し、0<n≦3)
これは、グリセリンのモノ−、又はジ−、又はトリアセテートであり、これらの混合物でも構わないが、nは3に近い方が好ましい。
(2)グリセリンアルキレート(アルキル基は炭素数2〜20、水酸基の残基があってもよい)
例えば、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等があげられる。
【0033】
(3)エチレングリコールアルキレート(アルキル基は炭素数1〜20、水酸基の残基があってもよい)
例えば、エチレングリコールジアセテート等があげられる。
(4)エチレン繰り返し単位が5以下のポリエチレングリコールアルキレート(アルキル基は炭素数1〜20、水酸基の残基があってもよい)
例えば、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジアセテート等があげられる。
【0034】
(5)脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(アルキル基は炭素数1〜20)
例えば、ステアリン酸ブチル等があげられる。
(6)脂肪族ジカルボン酸アルキルエステル(アルキル基は炭素数1〜20、カルボキシル基の残基があってもよい)
例えば、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ(2−エチルヘキシル) アゼレート等があげられる。
【0035】
(7)脂肪族トリカルボン酸アルキルエステル(アルキル基は炭素数1〜20、カルボキシル基の残基があってもよい)
例えば、クエン酸トリメチルエステル等があげられる。
(8)重量平均分子量2万以下の低分子量脂肪族ポリエステル。
例えば、コハク酸とエチレングリコール/プロピレングリコール縮合体(大日本インキ(株) 商品名:ポリサイザ−)等があげられる。
【0036】
(9)天然油脂及びそれらの誘導体
例えば、大豆油、エポキシ化大豆油、ひまし油、桐油、なたね油等があげられる。
【0037】
上記乳酸系樹脂組成物中の乳酸系樹脂と可塑剤との混合割合は重量比で、乳酸系樹脂:可塑剤=50〜95:5〜50がよく、60〜90:10〜40が好ましい。可塑剤の量がかかる範囲外では、軟質フィルムとして好適な特性が付与されない場合がある。特に、過少の場合は軟質化そのものが進まず、過多の場合は、溶融押出時に粘度が下がりすぎるという問題が生じる場合がある。
【0038】
また、上記生分解性軟質フィルムは、周波数10Hz、温度20℃の条件下で動的粘弾性測定法により測定したフィルムの貯蔵弾性率E’が、20〜700MPaの範囲にあるのが好ましく、50〜500MPaの範囲にあるのがより好ましい。
【0039】
E’が20MPa未満であると、柔らかくて変形に対し応力が小さすぎる場合があり、食品ストレッチ包装用としては、包装作業性が悪くなる場合があり、また、パック品のフィルムの張りが十分でなく、ディスプレー効果が劣る場合がある。一方、E’が700MPaを越えると、硬くて伸びにくいフィルムになり、トレーの変形を生じやすい場合がある。
【0040】
さらに、上記生分解性軟質フィルムは、損失正接tanδが0.2〜0.8の範囲にあるのが好ましく、0.25〜0.6の範囲にあるのがより好ましい。
tanδが0.2未満であると、上記生分解性軟質フィルムの伸びに対する復元挙動が瞬間的であるため、生分解性軟質フィルムをトレーの底に折り込むまでのわずかな間に生分解性軟質フィルムが復元してしまい、生分解性軟質フィルムがうまく張れずにしわが発生しやすい。また底部のヒートシール状態も、ストレッチ包装の場合は、熱による十分な融着がなされにくいので、包装後、輸送中ないし陳列中に次第に底シールの剥がれを生じやすくなる。
【0041】
一方、tanδが0.8を越えると、包装仕上がりは良好であるものの、塑性的な変形を示し、パック品の外力に対する張りが弱すぎて、輸送中ないし陳列中の積み重ねなどにより、トレー上面のフィルムがたるみ易く、商品価値が低下しやすい。また自動包装の場合には縦に伸びやすいためチャック不良などの問題が生じやすい。tanδの特に好適な範囲は、0.30〜0.60である。
なお、食品ストレッチ包装以外の用途であっても、作業性や機械適性の観点から、同様のE’及びtanδの範囲が望ましい。
【0042】
上記生分解性軟質フィルムのE’及び、tanδを上記の範囲にするためには、可塑剤量を上記範囲にすることが特に重要であるが、乳酸系樹脂の組成、可塑剤の種類、可塑剤量、成形加工条件の組み合わせにおいて適宜調整される。
【0043】
上記生分解性軟質フィルムを構成する乳酸系樹脂組成物には、上記の乳酸系樹脂組成物の他に、必要に応じて、この発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、着色剤、滑剤、核剤、加水分解防止剤等の添加剤を処方することができる。
【0044】
この発明にかかる生分解性軟質フィルムは、通常の溶融押出によるフィルム成形法の任意の方法によって製造することができる。また、組成物を得る方法としては、あらかじめ、同方向2軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用い、プレコンパウンドしても構わないし、各原料をドライブレンドし、直接フィルム押出機に投入しても構わない。可塑剤等の液状成分は、固体成分とは別に、ポンプ等を用いベント口から注入することもできる。フィルム成形法の具体例としては、キャスト法、延伸法、インフレーション法、チューブラー法などを採用することができる。
【0045】
得られる生分解性軟質フィルムの融解熱量△Hmを10〜50J/gの範囲に調整するため、上記した原料のLD比の調整以外に、フィルム成形後、徐冷したり、再加熱する等、フィルムに一定時間熱を加えることが好ましい。好ましい加熱条件は、30〜130℃で1〜200秒であり、40〜100℃で2〜30秒がより好ましく、50〜80℃で3〜20秒がさらに好ましい。かかる範囲を下回ると、得られる生分解性軟質フィルムは所望の融解熱量に到達せず、温度が上回ると、生分解性軟質フィルムが工程内のロールへ貼りつき、工程トラブルが発生し易くなる。さらに、時間がかかる範囲を上回ると、工程が長くなり、製造コスト的に好ましくない。直接加熱以外に、高周波や超音波などのエネルギー波で加熱しても構わない。
【0046】
上記の方法で得られる生分解性軟質フィルムのMD方向(引取り方向)に対するTD方向(MD方向の直角方向)の引張り応力比(σMD/TD)は、伸び率200%までの範囲において0.4〜2.5の範囲にすることがよく、0.5〜2.0の範囲にするのが好ましい。かかる範囲外では、食品ストレッチ包装においては、トレーのコーナー周辺にシワが入りやすく、工業用保護フィルムにおいては、貼り合わせ時の作業性が確保しにくい。
【0047】
引張り応力比(σMD/TD)を上記範囲にするためには、インフレーション法においては、引き取り速度とブロー比が重要であり、ブロー比を1.2〜5.0の範囲にすることが好ましい。また、キャスト法においては、押出引き落とし率を1.0〜10.0にすることが好ましい。さらに、延伸法においては、縦延伸倍率を1.5〜5.0に、横延伸倍率を2.0〜6.0にすることが好ましい。
【0048】
この発明で得られる生分解性軟質フィルムは、工業用保護フィルム、絆創膏等の軟質フィルム、特に食品ストレッチ包装用フィルムとして使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定を行ない、算出した。
【0050】
1)結晶化熱量△Hc、融解熱量△Hm
フィルムを5mmφの円形に切り出し、パーキンエルマー製DSC−7を用い、JIS−K7121に基づいて昇温測定を行い、得られたサーモグラムより、乳酸系樹脂成分のみの熱量を算出した。
【0051】
2)E´、tanδ
JIS K−7198 A法に記載の動的粘弾測定法により、岩本製作所(株)製粘弾性スペクトロメーターVES−F3を用い、振動周波数10Hz、温度20℃及び0℃でフイルムの横方向について測定した。
【0052】
3)引張り応力比(σMD/TD)
フィルムのMD(流れ方向)とTD(幅方向)について、JIS− K1702に準じて引張速度200mm/分で引張試験を行い、MDの応力をTDの応力で除すことにより、算出した。
【0053】
4)ストレッチ包装適性
ストレッチ包装適性幅350mmのストレッチフィルムを用い、自動包装機(石田衡器(株)社製ISHIDA・Wmin MK−II)により発泡ポリスチレントレー(長さ200mm、幅130mm、高さ30mm)を包装し、表1に示す基準で、評価した。
【0054】
【表1】

【0055】
5)耐熱性
発泡ポリスチレントレー(長さ200mm、幅130mm、高さ30mm)にエビの天ぷら(長さ160mm程度)2尾を入れ、4)の包装機にてフィルム包装を行い、500W電子レンジに入れて、3分間加熱し、熱によるフィルムの破れ具合を観察し、以下の基準で評価した。
○= 穴があかなかった。
△= 少し穴があいたが使用上問題のないレベル。
×= 大きな穴があいた。
【0056】
6)可塑剤のブリード
フィルムを30℃の恒温槽中に1ヶ月静置し、触感でブリード量を以下のように相対評価した。
○= 試験前と変わらない。
△= ブリードが少し認められる。
×= 明らかに大量にブリードしている。
【0057】
(実施例1)
L体:D体=99:1であるカーギル・ダウ社製乳酸系樹脂NatureWorks4031Dと、滑剤としてステアリン酸アルミ0.1phrを混合し、三菱重工(株)製45mmφ同方向押出機に供し、ベント口より可塑剤としてジブチルアジペート(大八化学(株)製)38質量部を注入しながら、押出温度200℃で、原料コンパウンドを行った。
【0058】
コンパウンドした原料を、丸ダイとインフレーション製膜ラインを併設した三菱重工(株)製60mmφ単軸押出機に供し、押出温度200℃で押出を行い、ブローアップ比(BUR)3.0で、厚み15μmの筒状フィルムを得た。
【0059】
筒状フィルムの一箇所にカッターを当て、フィルムを平面状に開いた後、多段熱処理ロールに接触させ、70℃×20秒間、熱処理を行った。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0060】
(実施例2/比較例1〜5)
原料樹脂や種々の条件を変えるのみで、実施例1と同様の方法により種々のフィルムサンプルを採取した。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0061】
なお、表に記載されていない、使用した原料や条件は以下の通りである。
・実施例2:第二の乳酸系樹脂として、カーギル・ダウ社製NatureWorks4060Dを使用。
・比較例1:熱処理を行わなかった。
・比較例2:乳酸系樹脂として、カーギル・ダウ社製NatureWorks4060Dを使用。
・比較例4:可塑剤として、トリアセチン(大八化学(株)製)を使用。
・比較例5:可塑剤として、ジオクチルフタレート(大八化学(株)製)を使用。
【0062】
(実施例3/比較例6)
可塑剤として、トリアセチン(大八化学(株)製)を使用し実施例1と同様の方法で採取したコンパウンド原料を、90mmφ単軸押出機を具備した三菱重工(株)製逐次2軸延伸フィルムテンターに供し、押出温度200℃、延伸温度60℃で成形を行い、15μmのフィルムを得た。
【0063】
この時、延伸倍率を以下のように設定した。
・実施例3: MD×TD=3×3倍
・比較例6: MD×TD=1×5倍
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂50〜95質量%と可塑剤5〜50質量%とからなる乳酸系樹脂組成物を主成分とし、フィルム中の乳酸系樹脂成分の結晶化熱量△Hcが0〜10J/gであり、融解熱量△Hmが10〜50J/gである生分解性軟質フィルム。
【請求項2】
周波数10Hz、温度20℃の条件下で動的粘弾性測定法により測定した貯蔵弾性率E′が20〜700MPa、損失正接tanδが0.2〜0.8の範囲にある請求項1に記載の生分解性軟質フィルム。
【請求項3】
フィルムのMD方向(引取り方向)に対するTD方向(MD方向の直角方向)の引張り応力比(σMD/TD)が、伸び率200%までの範囲において0.4〜2.5の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の生分解性軟質フィルム。
【請求項4】
乳酸系樹脂が、L−乳酸又はD−乳酸を構造単位とするホモポリマーと、L−乳酸及びD−乳酸の両方を構造単位とする共重合体のブレンド体である請求項1乃至3のいずれかに記載の生分解性軟質フィルム。

【公開番号】特開2006−219684(P2006−219684A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147783(P2006−147783)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【分割の表示】特願2001−201691(P2001−201691)の分割
【原出願日】平成13年7月3日(2001.7.3)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】