説明

生分解性農業用被覆資材

【課題】初期強力および初期伸度が実用に耐えうる程度に高く、透光性や耐候性が良好であり、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易な、生分解性農業用被覆資材を提供する。
【解決手段】複合繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布からなる生分解性農業用被覆資材である。複合繊維は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含むとともに、脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成している。脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性農業用被覆資材に関し、特に、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易であり、詳しくは、露地栽培やトンネル栽培やハウス栽培において作物を直接被覆する農業用被覆資材(「ベタ掛けシート」と通称されている)として好適な生分解性農業用被覆資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防草シート、ハウスの内張りカーテン、水稲育苗用シート等の農業用資材として、各種の不織布が多用されている。これらの用途の他にも、不織布は、その通気性、透水性、軽量性を活かし、所謂ベタ掛けシートとしても使用されている。このベタ掛けとは、直接に作物を被覆することで、保温、保水、防霜、防虫、防鳥、防風等の効果を生じせしめ、もって作物の成育促進、品質向上、増収を図るものである。
【0003】
近年、農業分野においても、使用済みの各種資材を、自然環境を汚染することなく如何に処理するかが大きな課題となっている。この課題に対応するために、自然界において生分解する脂肪族ポリエステルからなる繊維が開発されており、環境保護への貢献が期待されている。脂肪族ポリエステルの中でも、ポリ乳酸系重合体は、比較的高い融点を有することから、広い分野に応用されることが期待され、具体的な提案がなされている(特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1には、単一の重合体から構成される単相長繊維を構成繊維とする不織布及び芯鞘型複合長繊維を構成繊維とするポリ乳酸系長繊維不織布からなるベタ掛けシートが開示されている。このシートは、透光性と耐候性に優れている。しかし、実際上は、ポリ乳酸系重合体のみよりなる長繊維不織布からなるベタ掛けシートでは、家庭菜園のように使用面積が小さい場合は使用できるが、使用面積のひろい農場での使用に関しては、すなわち広大な面積に展張する際には、それだけシートへの負荷が大きくなり、また展張後も風雨等の外的な環境要因による負荷が大きいため、初期強伸度が小さいと、これらに耐えうることができない。
【0005】
特許文献2には、ジグリコールと脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体成分を構成単位として含む単一の重合体にて構成される単相長繊維を構成繊維とした生分解性スパンボンド不織布よりなる農業用ベタ掛けシートが提案されている。すなわち、この特許文献2には、長繊維の繊度が10〜20デニールであり、目付が15〜50g/mであり、不織布の光線透過率が50〜95%であることによって、光線透過率と引張強度とに優れ、かつ微生物分解性を有するスパンボンド不織布からなる農業用ベタ掛けシートが開示されている。しかし、ジグリコールと脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体成分を構成単位として含む重合体にて形成された生分解性スパンボンド不織布からなる農業用ベタ掛けシートは、短期分解性を示すものであり、長期的な使用の多いベタ掛けシートでは要求性能を満たさない場合が発生する。また、特許文献2では、農場等で使用した際の気候条件にもとづくシート物性の劣化(耐候性劣化)に関する記述がなく、そのシートが実用レベルで使用可能であるかどうか問題である。
【特許文献1】特許第3494404号公報
【特許文献2】特開平10−215706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題を解決し、初期強力及び初期伸度が実用に耐えうる程度に高く、透光性や耐候性が良好であり、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易な、生分解性農業用被覆資材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、不織布化のための構成繊維同士の接着成分として特定の重合体を用いること、及びその構成繊維を特定の繊維断面とすることにより、上記課題を解決することができるという知見を得て、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の生分解性農業用被覆資材は、複合繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布からなる農業用被覆資材であって、前記複合繊維は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含むとともに、前記脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋していることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、上記の生分解性農業用被覆資材が、透光率が70%以上であり、初期引裂強力が1N以上であり、JIS B7753に準じて行われる耐候性試験において300時間照射後の引張強力保持率及び伸度保持率及び引裂強力保持率が下記式(1)から式(3)を満たしていることが好適である。
【0010】
引張強力保持率(%)=(S300/S0)×100 > 40 ・・・・(1)
伸度保持率(%)=(E300/E0)×100 > 50 ・・・・・・(2)
引裂強力保持率(%)=(TS300/TS0)×100 > 80 ・・(3)
ここで、
S300:300時間照射後の試料の引張強力(N/5cm幅)
S0:照射前の試料の引張強力(N/5cm幅)
E300:300時間照射後の試料の伸度(%)
E0:照射前の試料の伸度(%)
TS300:300時間照射後の試料の引裂強力(N)
TS0:照射前の試料の引裂強力(N)
である。
【0011】
また本発明によれば、上記の生分解性農業用被覆資材において、脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸であって、その融点がポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いことが好適である。
【0012】
また本発明によれば、上記の生分解性農業用被覆資材において、複合繊維は、ポリ乳酸系重合体を芯成分とし、脂肪族ポリエステル共重合体を鞘成分とする芯鞘型複合長繊維であることが好適である。
【0013】
また本発明によれば、上記の生分解性農業用被覆資材において、複合繊維の単糸繊度が5〜15デシテックスであり、被覆資材の目付けが10〜30g/mであることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生分解性農業用被覆資材は、複合繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布からなり、前記複合繊維は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含むとともに、複合繊維の繊維表面の少なくとも一部を、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体が形成している構成としたため、初期強力及び初期伸度が実用に耐えうる程度に高く、透光性や耐候性が良好であり、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易な、生分解性農業用被覆資材を提供することができる。また、使用の際に一定期間が経過した後のシートは生分解によりほぼ完全に分解され、被覆資材を回収して廃棄処理を行う手間が省け、しかも自然環境を汚染することがない。
【0015】
また本発明の生分解性農業用被覆資材は、透光率が70%以上であるので、太陽光線を十分透過させることができて、作物の成育不足を防止することができる。しかも、初期引裂強力が1N以上であるため、展張後に破れたりすることが少ない。さらに、JIS B7753に準じて行われる耐候性試験において、不織布の引張強力、伸度、引裂強力について曝露後の保持率が高く、このため耐候性劣化が少なく、長期間の使用に耐えるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
『ポリ乳酸系重合体』
本発明に用いられるポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられるが、これらの中でも特に、ヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が分解性能や低コスト化の点から好ましい。
【0017】
本発明においては、上記ポリ乳酸系重合体であって、融点が150℃以上の重合体あるいはこれら重合体のブレンド体を用いる。ポリ乳酸系重合体の融点が150℃以上であると、高い結晶性を有しているため、熱処理加工時の収縮が発生しにくく、また、熱処理加工を安定して行うことができる。
【0018】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、ホモポリマーでなく、共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。たとえば、L−乳酸とD−乳酸との共重合体の場合であると、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=5/95〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものを用いる。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、このため非晶性が高くなって、本発明の目的を達成し得ないこととなる。
【0019】
『脂肪族ポリエステル共重合体』
次に、ポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体について説明する。この脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸を構成成分とする。
【0020】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノールが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。得られる共重合体の物性を考慮して、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、これらの誘導体である酸無水物を用いてもよい。得られる共重合体の物性を考慮して、コハク酸または無水コハク酸、あるいはこれらとアジピン酸との混合物であることが好ましい。
【0022】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−3メチル乳酸、ロイシン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、メチル乳酸、カプロラクトン、バレロラクトン等が挙げられる。これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸は2種以上併用してもよい。なかでも乳酸を用いることが好ましい。
【0023】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸には、光学異性体が存在する場合は、D体、L体またはラセミ体のいずれを使用してもよく、また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、固体、液体またはオリゴマーであってもよい。
【0024】
脂肪族ポリエステル共重合体として、具体的には、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸である脂肪族ポリエステル共重合体、すなわちポリブチレンサクシネートに乳酸が共重合した共重合体を好ましく用いることができる。このような脂肪族ポリエステル共重合としては、例えば、特許第3402006号公報に記載されているものを使用することが好ましい。具体的には、三菱化学社製、商品名「GSPla(結晶融点110℃)」を好ましく用いることができる。この三菱化学社製、商品名「GSPla」を用いた場合には、脂肪族ポリエステル共重合体は、成分中に乳酸を共重合しているため、ポリ乳酸系重合体との相溶性が向上する。従って、溶融紡糸工程において良好に複合紡糸を行うことができる。
【0025】
本発明において、脂肪族ポリエステル共重合体には、原料の段階において有機過酸化物を溶融混合することが必要であり、それにより架橋が行われて、脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化速度が速くなる。このため、限られた短い距離とならざるを得ないスパンボンド不織布の製造工程においても、脂肪族ポリエステル共重合体を良好に冷却させて結晶化させることができ、したがって開繊工程におけるブロッキングの発生を効果的に防止して、地合の良好な不織布からなる農業用被覆資材を得ることができる。
【0026】
また、有機過酸化物の混合によって架橋された脂肪族ポリエステル共重合体が、農業用被覆資材を構成する不織布の繊維表面の少なくとも一部を形成することによって、この農業用被覆資材の機械的物性を良好にすることができる。従って、農業用被覆資材の初期引張強力(N/5cm幅)と初期伸度(%)とは、従来より使用されている、ポリ乳酸系重合体からなる農業用被覆資材や、ジグリコールと脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体成分を構成単位として含む生分解性スパンボンド不織布からなる農業用被覆資材よりも良好なものとなる。
【0027】
本発明の農業用被覆資材の機械的物性が良好であるのは、以下の理由によると推定することができる。すなわち、脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合させることにより、共重合体に架橋が形成され、この架橋部分が機械的物性を良化させていると推定することができる。特に、資材の引張伸度にこの架橋部分が影響を及ぼしており、このため溶融混合する有機過酸化物の配合量によっても架橋の度合いが変化して資材の引張伸度が変化する。
【0028】
有機過酸化物として、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロへキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメン等が挙げられる。
【0029】
溶融混合する際の有機過酸化物の配合量は、脂肪族ポリエステル共重合体100質量部に対して0.01〜0.5質量部であることが好ましい。0.01質量部未満では所要の結晶化速度向上効果を発揮できず、また0.5質量部を超えると、共重合体の粘度が高くなって溶融紡糸の際の紡糸性に劣る傾向となる。
【0030】
以上の点に関連して、脂肪族ポリエステル共重合体は、原料の段階において結晶化速度指数が3分以下であることが好ましい。この結晶化速度指数は、DSC装置を用いて試料を昇温速度500℃/分で200℃に昇温し、その状態で5分間ホールドさせて融解させた後、降温速度500℃/分で90℃に降温し、90℃でホールドして等温結晶化させて示差熱分析することにより得られるものである。すなわち、この結晶化速度指数は、重合体を200℃の溶融状態から冷却し90℃にて結晶化させたときに最終的に到達する結晶化度の2分の1に到達するまでの時間(分)で示されるものであり、指数が小さいほど結晶化速度が速いことを意味する。従って、複合繊維の原料となる脂肪族ポリエステル共重合体として、結晶化速度指数が3分以下の結晶化速度の高いものを用いることで、溶融紡糸したときの冷却性が良好になって開繊時にブロッキングを生じにくくすることができる。
【0031】
本発明において原料である脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化速度が速くなるのは、以下の理由によると推定することができる。すなわち、脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合させることにより、共重合体に架橋が形成され、この架橋の部分が結晶化を促進する核として機能して結晶化速度が高くなると推定することができる。
【0032】
本発明の農業用被覆資材となる不織布を構成するための複合長繊維は、脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成している。例えば、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体とが貼り合わされたサイドバイサイド型複合断面、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、脂肪族ポリエステル共重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型複合断面、脂肪族ポリエステル共重合体とポリ乳酸系重合体とが繊維表面に交互に存在する分割型複合断面や多葉型複合断面等が挙げられる。中でも、脂肪族ポリエステル共重合体の熱接着成分としての役割を考慮すると、芯鞘型複合断面であることが好ましい。
【0033】
『芯鞘比』
ポリ乳酸系重合体が繊維形成成分としての芯部を形成し、脂肪族ポリエステル共重合体が熱接着成分としての鞘部を形成した芯鞘型複合断面である場合に、芯部と鞘部との複合比(質量比)は、芯部/鞘部=3/1〜1/3であることが好ましい。芯部の比率が3/1を超えると、鞘部の比率が低くなりすぎるため、熱接着性能に劣る傾向となり、農業用被覆資材の機械的性能が劣る傾向となる。一方、芯部の比率が1/3未満となると、鞘部の比率が高くなりすぎるため、農業用被覆資材を構成する長繊維不織布を製造する際に、紡糸工程において冷却が十分になされず、開繊工程においてブロッキングが発生する傾向となり、不織布の地合が悪くなる傾向となる。
【0034】
『末端封止剤』
本発明の農業用被覆資材を構成する不織布は、ポリ乳酸系重合体を含む長繊維不織布であるため、高温高湿下での加水分解による機械的物性の低下が考えられる。そこで、これを制御する目的で、末端封鎖剤を、紡糸工程における糸切れ等のトラブルを超えない範囲内で添加することが好ましい。高温高湿下での機械的物性低下の抑制効果と、紡糸工程中のトラブル回避効果との双方を発揮させるためには、末端封鎖剤の添加量は、1質量%〜3質量%であることが好ましい。
【0035】
『溶融粘度(MFR)』
高速紡糸に適したポリマーの粘度を選択することも、本発明における好ましい条件である。すなわち、ポリ乳酸系重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR1」と略記する)が10〜80g/10分であることが好ましく、20〜70g/10分であることがさらに好ましい。MFR1が10g/10分未満であると、粘度が高すぎて、製造工程において溶融時のスクリューへの負担が大きくなる。反対にMFR1が80g/10分を超える場合には、粘度が低すぎるために紡糸工程において糸切れが多発しやすく、操業性を損なう傾向となる。
【0036】
一方、脂肪族ポリエステル共重合体の粘度は、ASTM−D−1238に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレイト(以下、「MFR2」と略記する)が10〜50g/分であることが好ましい。MFR2が10g/10分未満であると、脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合した場合にそれにより架橋が行われ、粘性が高くなりすぎて、紡糸工程において延伸張力に耐えきれずに糸切れが発生し、操業性を損なう傾向となる。一方、MFR2が50g/10分を超えると、低分子量であるが故に、架橋させる際に架橋反応が十分に行われず、その結果、結晶化速度を上げる効果が少なくなるため開繊が良好な不織布が得られない傾向となる。
【0037】
『繊度』
本発明の農業用被覆資材を構成する不織布における複合長繊維の単糸繊度は、5〜15デシテックスであることが好ましい。単糸繊度が5デシテックス未満であると、得られる不織布において単位面積当たりの構成繊維の本数が増加するために繊維間空隙が小さくなって、農業用被覆資材の透光率が低下しやすくなる。一方、単糸繊度が15デシテックスを超えると、溶融紡糸工程において紡出糸条の冷却性が劣るばかりか、得られる不織布において単位面積当たりの構成繊維の本数が減少するために繊維間空隙が大きくなって、被覆資材として必要な機械的特性、保温性、防霜性が劣ることになる。これらの理由から、単糸繊度は、より好ましくは7〜12デシテックスである。
【0038】
『目付』
本発明の農業用被覆資材においては、繊維端が少なく、機械的強力に優れ、生産性に優れることから、スパンボンド法による熱接着不織布を用いる。
【0039】
この不織布の目付は、10〜30g/mの範囲であることが好ましい。目付が10g/m未満であると、不織布において単位面積当たりの構成繊維の本数が減少するために繊維間空隙が大きくなり、このため保温性が劣り、しかも機械的特性も低下する。一方、目付けが30g/mを超えると、不織布において単位面積当たりの構成繊維の本数が増加するために繊維間空隙が小さくなって、透光性や通気性が劣り、被覆資材として使用したときに、作物の成育に支障を来しやすくなる。なお、目付けと上述の単糸繊度とは特に密接な関係にあり、例えば単糸繊度が小さい場合には同一目付けでも緻密な不織布となるが、透光率が低下することを考慮する必要があり、また繊維自体の機械的特性が低い場合には、不織布として実用上の一定強力を得るために、単糸繊度と目付けを大きくすることが必要である。
【0040】
『透光率』
本発明の被覆資材は、上記単糸繊度の複合長繊維で形成された上記範囲の目付けを有する不織布で構成され、さらに70%以上の透光率を有することが特に好ましい。透光率が70%より小さいと、被覆資材が太陽光線を十分透過させることができず、作物の成育に支障を来たしやすくなる。
【0041】
『引張強力及び伸度』
本発明の被覆資材は、初期の引張強力及び伸度に優れ、不織布のヨコ方向(CD)において、初期引張強力が15N/5cm幅以上であることが好ましく、初期伸度が40%以上であることが好ましい。初期引張強力、初期伸度を上記の値とすることにより、広大な面積に敷設する場合でも、その展張時の張力に耐えることができ、かつ展張後も破れ等が発生しにくい。
【0042】
『引裂強力』
本発明の被覆資材は、1N以上の初期引裂強力を有することが特に好ましい。初期引裂強力が1Nより小さいと、例えば、被覆資材を展張した後に、展張時に使用した杭部分から資材が引き裂かれてしまい、風の強い時期に破れて使用不可となってしまいやすい。また、初期引裂強力は強いにこしたことはないが、その上限は、実用上5N程度であれば使用に耐えうるものとなる。
【0043】
『機械的性能の保持率』
本発明の被覆資材は、JISB 7753に準じて行われる耐候性試験において、300時間照射後の引張強力保持率、伸度保持率、引裂強力保持率が、それぞれ、ある一定の値以上であることが特に好ましい。すなわち、
S300:300時間照射後の試料の引張強力(N/5cm幅)
S0:照射前の試料の引張強力(N/5cm幅)
E300:300時間照射後の試料の伸度(%)
E0:照射前の試料の伸度(%)
TS300:300時間照射後の試料の引裂強力(N)
TS0:照射前の試料の引裂強力(N)
であるとして、
引張強力保持率(%)=(S300/S0)×100 > 40 ・・・・(1)
伸度保持率(%)=(E300/E0)×100 > 50 ・・・・・・(2)
引裂強力保持率(%)=(TS300/TS0)×100 > 80 ・・(3)
であることが特に好ましい。
【0044】
被覆資材の耐候性は、被覆資材が生分解によって崩壊する前に気候の変化等によって強力及び伸度が低下することが無いかどうかを示す指標であり、生分解によって崩壊する前に被覆資材の引張強力、伸度及び引裂強力が低下すると、破損等の異常が生じやすくなって、農業用被覆資材としての使用過程で被覆資材の有する透光性や保温性に悪影響を及ぼし、作物の成育に支障を来しやすくなる。したがって、本発明では、引張強力保持率、伸度保持率、引裂強力保持率が、それぞれ、上記の値以上であることが好ましい。そうでないと、農業用被覆資材として使用した際に経時的に強力が低下し、作物の成育に悪影響を及ぼしやすく、また被覆資材の耐用年数も短くなりやすい。
【0045】
『柔軟性』
本発明の被覆資材は、透光性、耐候性の他に、柔軟性を併せもっている。農業用被覆資材に求められる柔軟性とは、路地栽培やトンネル栽培あるいはハウス栽培において直接作物に被覆する際に、作物を植える畝の形にある程度追随する柔軟性を意味する。また、展張された際に、風等の外的な環境要因に対応できることを意味する。特に、展張された被覆資材は風によってなびくため、柔軟でない資材を使用した場合には作物を傷つける場合もある。
【0046】
本発明の被覆資材は、ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とからなる複合繊維からなる不織布にて構成され、構成繊維の少なくとも一部を柔軟な脂肪族ポリエステル共重合体が占めているため、柔軟性に優れたものとなる。また本発明の被覆資材は、脂肪族ポリエステル共重合体が架橋していることにより、ポリエステル共重合体自体の弾性的性質が強くなり、その性質が不織布にも寄与され、柔軟であり且つ弾性的な性質をもつ不織布となっており、被覆資材としての使用の際に、外的な環境要因(風等)にさらされたとしても、破れたり、作物を傷つけるということがなく、被覆資材として必要な期間にわたって十分使用することができる。
【0047】
『その他』
脂肪族ポリエステル共重合体及びポリ乳酸系重合体には、各々必要に応じて、艶消し剤、顔料、結晶核剤等の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。とりわけ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の結晶核剤を添加することは、紡出冷却工程での糸条間の融着(ブロッキング)を防止するために、効果がある。結晶核剤は、0.1〜3質量%の範囲で用いると有用である。
【0048】
本発明の不織布の形態としては、従来公知の方法によって一体化してなるものであればよい。すなわち、構成繊維同士が熱処理(熱風処理、熱ロール装置による圧着処理、熱エンボス装置による圧着処理等)により接着することによって一体化してなるもの、構成繊維同士が機械的に交絡することにより一体化してなるもの等が挙げられる。また、本発明の効果をより奏するためには、部分的熱圧着部を有することにより一体化した不織布であることが好ましい。このような不織布であると、部分的熱圧着部では接着性が向上し機械的強力が向上するため好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において、各物性値は次のようにして求めた。
【0050】
(1)融点(℃):示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0051】
(2)メルトフローレイト[MFR](g/10分):ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、温度210℃及び190℃、荷重20.2N(2160gf)の条件で測定した。以下、ポリ乳酸系重合体について210℃で測定したメルトフローレイトを上述のように「MFR1」と称し、脂肪族ポリエステル共重合体について190℃にて測定したメルトフローレイトを上述のように「MFR2」と称する。
【0052】
(3)繊度(デシテックス):ウエブ状態における繊維径を、50本の繊維について光学顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0053】
(4)目付(g/m):標準状態の試料から縦10cm×横10cmの試料片10点を作成し、平衡水分に至らしめた後、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して、目付(g/m)とした。
【0054】
(5)引張強力(N)及び伸度(%):JIS L1096に記載のグラブ法に準じて測定した。すなわち、不織布のヨコ方向(CD)に沿って試料長が15cm、試料幅が10cmである試料片を10点作成し、定速伸長型引張試験機(東洋ボールドウイン社製:テンシロンUTM−4−1−100)を用いて、各試料片毎に、不織布のヨコ方向(CD)について、把持間隔7.6cm、引張速度30cm/分で伸長し、切断時の強力(N/5cm幅)、伸度(%)を求め、得られた切断時の強力及び伸度の平均値を試料の引張り強力(N/5cm幅)及び伸度(%)とした。
【0055】
(6)引裂強力(N):JIS L1906に記載のベンジユラム法に準じて測定した。すなわち、不織布のタテ方向(MD)に沿って試料長が6.5cm、試料幅が10cmである試料片を5点作成し、各試料片毎に不織布のタテ方向(MD)について引裂き強力を求め、得られた値の平均値を試料の試料の引裂強力(N)とした。
【0056】
(7)透光率(%):JIS L1906に記載の透光性に準じて、光源の照度を2000ルクスとして測定した。
【0057】
(8)引張強力保持率(%):耐候性の指標である強力保持率を次のようにして求めた。すなわち、JIS B7753に準じて、スガ試験機社製の型式S80DHBサンシャインウェザーメータを用いて耐候性試験を行い、上記(5)項の引張強力を用い、下記式(ロ)から300時間照射後の強力保持率(%)を求めた。
【0058】
引張強力保持率(%)=(S300/S0)×100 ・・・・・・(ロ)
ここで、
S300:300 時間照射後の試料の引張強力(N/5cm幅)
S0:照射前の試料の引張強力(N/5cm幅)
である。
【0059】
(9)伸度保持率(%):耐候性の指標である伸度保持率を次のようにして求めた。すなわち、JIS B7753に準じて耐候性試験を行い、上記(5)項の伸度を用い、下記式(ハ)から300時間照射後の伸度保持率(%)を求めた。
【0060】
伸度保持率(%)=(E300/E0)×100・・・・・・・(ハ)
ここで、
E300:300時間照射後の試料の伸度(%)
E0:照射前の試料の伸度(%)
である。
【0061】
(10)引裂強力保持率(%):耐候性の指標である引裂強力保持率を次のようにして求めた。すなわち、JIS B7753に準じて耐候性試験を行い、上記(6)項の引裂強力を用い、下記式(ニ)から300時間照射後の引裂強力保持率(%)を求めた。
【0062】
引裂強力保持率(%)=(TS300/TS0)・・・・・・(ニ)
ここで、
TS300:300時間照射後の試料の引張強力(N)
TS0:照射前の試料の引張強力(N)
である。
【0063】
(11)柔軟性(cN):JIS L1906に記載のハンドルオメーター法に準じて測定した。すなわち、不織布から、試料長が20cm、試料幅が20cmの試料片を10点作成し、試験片の一辺から平行に6.7cmの位置で、ブレードによる押し圧を、タテ、ヨコ、表、裏の異なる4ヶ所について測定し、その合計(トータルハンド;cN)を算出し、これを柔軟性とした。算出した値が小さいほど、柔軟性に優れることを意味する。
【0064】
(12)生分解性:約58℃に維持された熟成コンポスト中に試料を埋設し、3ヶ月後に取り出し、試料としての不織布がその形態を保持していない場合、あるいは、その形態を保持していも引張強力が埋設前の強力初期値に対して50%以下に低下している場合は、生分解性が良好であると評価し○で示した。これに対し、強力が埋設前の強力初期値に対して50%を超えている場合は、生分解性能が不良であると評価し×で示した。
【0065】
実施例1
融点が168℃、MFR1が20g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.4/1.6モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体(以下、「P1」と略記する)を、芯成分として用意した。
【0066】
また、融点が110℃、MFR2が35g/10分である、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸及び乳酸を構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体(三菱化学社製 商品名:GSPla(以下、「P2」と略記する))と、下記の有機過酸化物とを190℃で溶融混合した重合体(チップ)をコンパウンド法により用意した。すなわち、有機過酸化物として、ジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキシン(日本油脂社製 商品名:パーヘキシン25B−40、純度40%)を脂肪族ポリエステル共重合体P2の100質量部に対して0.1質量部(有機過酸化物としては0.04質量部)になるように添加し、二軸混練機にて溶融混練して、鞘成分の重合体(以下、「P3」と略記する)を用意した。この重合体P3は、結晶化速度指数が1.6分、MFRが14g/10分であった。有機過酸化物を溶融混練する前よりもMFRが低下したのは、有機過酸化物により架橋がおこって粘性が上昇したためであると思われる。
【0067】
さらに、P1をベースとして結晶核剤としてのタルクを20質量%練り込み含有したマスターバッチを用意した。
そして、P1とP3との複合比が質量比でP1:P3=1:1となるように、またP1の溶融重合体中にタルクが0.5質量%含まれることになるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて温度220℃で溶融し、芯鞘型複合繊維断面となる紡糸口金を用いて、上述のようにP1が芯部を構成し、P3が鞘部を構成するように、単孔吐出量1.00g/分の条件で溶融紡糸した。
【0068】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度1600m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。開繊の際に、構成繊維の大部分が分繊され、密着糸及び収束糸は認められず、開繊性は良好であった。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は、6.2デシテックスであった。
【0069】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mの不織布からなる生分解性農業用被覆資材を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を100℃とした。
【0070】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例2
実施例1と同じL−乳酸/D−乳酸共重合体P1を芯成分として用意した。
【0073】
また、実施例1と同じ脂肪族ポリエステル共重合体P2と、下記の有機過酸化物とを190℃で溶融混合した重合体(チップ)をコンパウンド法により用意した。すなわち、有機過酸化物として、ジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製 商品名:パーヘキサ25B−40、純度40%)をP2の100質量部に対して0.2質量部(有機過酸化物としては0.08質量部)になるように添加し、二軸混練機にて溶融混練して、鞘成分の重合体(以下、「P4」と略記する)を用意した。この重合体P4は、結晶化速度指数が1.5分であった。重合体P4のMFRは、実施例1の場合と同様に、脂肪族ポリエステル共重合体P2のMFRである35g/10分よりも低下して、13g/10分であった。
【0074】
さらに、P1をベースとして結晶核剤としてのタルクを20質量%練り込み含有したマスターバッチを用意した。
そして、P1とP4との複合比が質量比でP1:P4=1:1となるように、またP1の溶融重合体中にタルクが0.5質量%含まれることになるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて温度220℃で溶融し、芯鞘型複合繊維断面となる紡糸口金を用いて、上述のようにP1が芯部を構成し、P4が鞘部を構成するように単孔吐出量1.00g/分の条件で溶融紡糸した。
【0075】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度2100m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。開繊の際に、構成繊維の大部分が分繊され、密着糸及び収束糸は認められず、開繊性は良好であった。堆積させた複合長繊維の単糸繊度は、4.7デシテックスであった。
【0076】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mの不織布からなる生分解性農業用被覆資材を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を100℃とした。
【0077】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0078】
実施例3
長繊維不織布の目付を15g/mとしたこと以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。
【0079】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0080】
実施例4
長繊維不織布の目付を30g/mとしたこと以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。
【0081】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0082】
実施例5
実施例2において、P1をベースとして、タルクに代えて二酸化チタンを20質量%練り込み含有させたこと以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。
【0083】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0084】
実施例6
単孔吐出量を2.56g/分とし、牽引速度を2000m/分とし、単糸繊度を12.7デシテックスとしたこと以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。被覆資材としての不織布を構成する複合長繊維の単糸繊度は、12.7デシテックスであった。
【0085】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0086】
実施例7
実施例2において、有機過酸化物としてのジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキサンの添加量を変化させた。すなわち、ジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製 商品名:パーヘキサ25B−40、純度40%)をP2の100質量部に対して0.3質量部(有機過酸化物としては0.12質量部)になるように添加し、二軸混練機にて溶融混練して、鞘成分の重合体を用意した。この重合体の結晶化速度指数は1.2分であり、MFRは11g/10分であった。そして、それ以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。
【0087】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0088】
実施例8
実施例2において、有機過酸化物としてのジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製 商品名:パーヘキサ25B−40、純度40%)の添加量を、P2の100質量部に対して0.1質量部(有機過酸化物としては0.04質量部)になるように変化させた。この有機過酸化物を添加のうえ、二軸混練機にて溶融混練して、鞘成分の重合体を用意した。この重合体の結晶化速度指数は1.9分であり、MFRは15g/10分であった。また、実施例2において、牽引速度を1800m/分とし、被覆資材としての不織布を構成する複合長繊維の単糸繊度を5.5デシテックスとした以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。
【0089】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0090】
実施例9
実施例2において、有機過酸化物として、実施例1で用いたものと同じジメチル(ブチルパーオキシ)ヘキシン(日本油脂社製 商品名:パーヘキシン25B−40、純度40%)を用いた。そして、この有機過酸化物を、脂肪族ポリエステル共重合体の100質量部に対して0.2質量部(有機過酸化物としては0.08質量部)になるように添加し、二軸混練機にて溶融混練して、鞘成分の重合体を用意した。この重合体の結晶化速度指数は1.2分であり、MFRは16g/10分であった。そして、それ以外は実施例2と同様にして、生分解性農業用被覆資材を得た。
【0091】
得られた農業用被覆資材の性能を表1に示す。
【0092】
比較例1
融点が168℃、MFR1が65g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.4/1.6モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体のみを用い、その溶融重合体中にタルク0.5質量%含まれるようにして、温度210℃で溶融し、単孔吐出量1.7g/分の条件で中実の糸条を溶融紡糸した。そして、牽引速度を5000m/分とし、熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を130℃とした以外は実施例1と同様にして、単糸繊度3.3デシテックス、目付20g/mの不織布を得た。
【0093】
得られた不織布の性能を表1に示す。
【0094】
実施例1〜9の被覆資材は、いずれも、比較例1と比較して、初期の引張強力、伸度共に高く、また柔軟性については比較例1と比較して1/2〜1/3と値が小さく、よって柔軟性に優れたものであり、広大な面積の農場においても十分使用に耐えるものであった。また透光率が70%以上であり、農業用被覆資材として用いたときの保温性が良好で、作物の成育も良好であった。300時間照射後の引張強力保持率が40%以上であり、実用的な耐候性を有するものであった。そして、生分解性を有するポリ乳酸系重合体及び脂肪族ポリエステル共重合体からなる不織布にて形成されているため、コンポストに埋設し3ヶ月経過した後には完全に分解しており、焼却等の廃棄処理の必要がないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布からなる農業用被覆資材であって、前記複合繊維は、融点が150℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の脂肪族ポリエステル共重合体とを含むとともに、前記脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とするとともに、架橋していることを特徴とする生分解性農業用被覆資材。
【請求項2】
透光率が70%以上であり、初期引裂強力が1N以上であり、JIS B7753に準じて行われる耐候性試験において300時間照射後の引張強力保持率および伸度保持率および引裂強力保持率が下記式(1)から式(3)を満たしていることを特徴とする請求項1記載の生分解性農業用被覆資材。
引張強力保持率(%)=(S300/S0)×100 > 40 ・・・・(1)
伸度保持率(%)=(E300/E0)×100 > 50 ・・・・・・(2)
引裂強力保持率(%)=(TS300/TS0)×100 > 80 ・・(3)
ここで、
S300:300時間照射後の試料の引張強力(N/5cm幅)
S0:照射前の試料の引張強力(N/5cm幅)
E300:300時間照射後の試料の伸度(%)
E0:照射前の試料の伸度(%)
TS300:300時間照射後の試料の引裂強力(N)
TS0:照射前の試料の引裂強力(N)
である。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸であって、その融点がポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いことを特徴とする請求項1または2記載の生分解性農業用被覆資材。
【請求項4】
複合繊維は、ポリ乳酸系重合体を芯成分とし、脂肪族ポリエステル共重合体を鞘成分とする芯鞘型複合長繊維であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の生分解性農業用被覆資材。
【請求項5】
複合繊維の単糸繊度が5〜15デシテックスであり、被覆資材の目付けが10〜30g/mであることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の生分解性農業用被覆資材。

【公開番号】特開2008−54535(P2008−54535A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232885(P2006−232885)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】