説明

生分解性農業用被覆資材

【課題】 初期強伸度が実用に耐えうる程度に高く、透光性や耐候性が良好であり、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易な生分解性農業用被覆資材を提供する。
【解決手段】 複合繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布からなる農業用被覆資材であり、前記複合繊維は、融点が160℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも融点が50℃以上低い脂肪族ポリエステル重合体とを含むとともに、前記脂肪族ポリエステル重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル重合体は、1,4−ブタンジオールとコハク酸とを構成成分とするとともに、アマイドワックスを0.1〜1質量%含有していることを特徴とする生分解性農業用被覆資材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露地栽培やトンネル栽培やハウス栽培等において用いられる被覆資材であって、使用後には、微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易に行えるものであり、特に農作物に直接被覆して用いる、いわゆるベタ掛けシートとして好適に用いられる農業用被覆資材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、防草シート、ハウス内の内張りカーテン、水稲育苗要シート等の農業用資材として、各種の不織布が多用されている。そのひとつの用途として、ベタ掛けシートがある。ベタ掛けシートとは、不織布が有する通気性、透水性、軽量性を活かしたものであり、不織布を直接作物に被覆することで、保温、保水、防霜、防虫、防鳥、防風等の種々の効果を奏させて、作物の成育促進、品質向上、収穫増大等を図ることを目的として使用されるものである。
【0003】
また、近年、農業分野においても、使用済みの各種資材を、自然環境を汚染することなく如何に処理するかが大きな課題となっている。この課題に対応するために、自然界において生分解する脂肪族ポリエステルからなる繊維が開発されており、環境保護への貢献が期待されている。脂肪族ポリエステルの中でも、ポリ乳酸系重合体は、比較的高い融点を有することから、広い分野に応用されることが期待され、農業資材への適用について本件出願人も具体的に提案している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1は、ポリ乳酸系重合体のみによって構成される長繊維不織布からなるベタ掛けシートに関するものであり、このシートは、透光性と耐候性に優れている。しかし、ポリ乳酸系重合体のみによって構成される長繊維不織布からなるベタ掛けシートでは、家庭菜園のように使用面積が限られた小さい場合は良好に使用できるが、使用面積が広大な農場での使用の際には、広大な面積に展張するにあたりシートへの負荷が非常に大きくなり、展張の際の引っ張りに耐えられずに破れが発生する恐れがある。また、展張後も風雨等の外的な環境要因による負荷が大きいため、シートの初期強度が小さいと、これらに耐えることができず破れの発生原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3494404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題を解決し、初期強伸度が実用に耐えうる程度に高く、透光性や耐候性が良好であり、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易な生分解性農業用被覆資材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を達成するために検討した結果、繊維表面の少なくとも一部を形成する脂肪族ポリエステル重合体として特定の重合体を選択し、さらにこの重合体にアマイドワックスを添加してスパンボンド法を適用することにより、初期強伸度を向上させた生分解性を有する不織布が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、複合繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布からなる農業用被覆資材であり、前記複合繊維は、融点が160℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも融点が50℃以上低い脂肪族ポリエステル重合体とを含むとともに、前記脂肪族ポリエステル重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル重合体は、1,4−ブタンジオールとコハク酸とを構成成分とするとともに、アマイドワックスを0.1〜1質量%含有していることを特徴とする生分解性農業用被覆資材を要旨とするものである。
【0009】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0010】
本発明の生分解性農業用被覆資材は、複合繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布からなり、複合繊維は、ポリ乳酸系重合体と特定の脂肪族ポリエステル重合体により構成される。
【0011】
本発明に用いられるポリ乳酸系重合体は、融点160℃以上の重合体あるいは融点が160℃以上の重合体同士のブレンド体を用いる。ポリ乳酸系重合体の融点が160℃以上であることで、高い結晶性を有しているため、複合繊維の機械的強力を向上させる機能を担い、スパンボンド不織布の初期強度が向上する。また、複合する脂肪族ポリエステルとの融点差を十分に設けることができるため、不織布製造の際の溶融紡糸工程において、ポリ乳酸系重合体が熱による影響を受け難く、強度を十分に保持できる複合繊維を得ることができる。
【0012】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、L−乳酸とD−乳酸との共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が160℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。すなわち、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で、(L−乳酸)/(D−乳酸)=2/98〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=98/2〜100/0であるものを用いる。共重合比率が前記範囲を外れると、共重合体の融点が160℃未満となり、本発明の目的を達成し得ないこととなる。さらに好ましくは、融点が165℃以上である。
【0013】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステル重合体は、1,4−ブタンジオールとコハク酸を主たる構成成分とする重合体であり、ポリ乳酸系重合体よりも50℃以上低い融点を有する。ポリ乳酸系重合体との融点差を50℃以上設ける理由は、上記したように、不織布製造の際の溶融紡糸工程において、ポリ乳酸系重合体が熱による影響を受け難く、強度を十分に保持できる複合繊維を得ることができることにある。なお、脂肪族ポリエステル重合体の融点の下限は、実用性を考慮して、90℃程度とする。本発明に用いる脂肪族ポリエステル重合体は、具体的には、三菱化学社製、商品名GSPla(結晶融点110℃)を好ましく用いることができる。また、1,4−ブタンジオールとコハク酸を主たる構成成分とする脂肪族ポリエステル重合体として、イソシアナートが添加されていない重合体であれば、本発明にて使用することが可能である。イソシアナートが添加されることでウレタン結合を含む脂肪族ポリエステルでは、不織布化した際に、条件によっては、着色したり、ミクロゲルが発生したりする問題が発生する恐れがあるため好ましくない。なお、本発明における複合繊維は、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル重合体との融点差を十分に設けているため、脂肪族ポリエステル重合体を熱接着成分として用いるヒートシール性を具備することとなり、得られた農業用被覆資材はヒートシール可能である。
【0014】
本発明に用いる脂肪族ポリエステルは、後述するように特定量のアマイドワックスを含むものであるが、その原料段階において(アマイドワックスを含まない状態の脂肪族ポリエステル重合体において)、DSC装置を用いて昇温速度500℃/分で200℃に昇温し、その状態で5分間ホールドさせた後、降温速度500℃/分で90℃に降温してホールドし、それによって等温結晶化させて示差熱分析したときの結晶化速度指数(以下、「tmax」と略記することがある。)が、3〜10分のものを選択するとよい。この結晶化速度指数tmaxは、重合体を200℃の溶融状態から冷却し90℃にて結晶化させたときに最終的に到達する結晶化度の2分の1に到達するまでの時間(分)で示され、指数が小さいほど結晶化速度が速いことを意味する。したがって、複合繊維の原料となる脂肪族ポリエステル重合体として、上記のように結晶化速度指数tmaxが3〜10分となるような結晶化速度の高いものを用いることで、溶融紡糸したときの冷却性が良好になって、開繊時にブロッキングを生じにくくすることができる。さらにこの脂肪族ポリエステル重合体に後述するアマイドワックスを含有させることによって、結晶化速度がさらに高くなる。
【0015】
また、脂肪族ポリエステル重合体(アマイドワックスを含まない状態の脂肪族ポリエステル重合体)は、ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて測定した230℃のメルトフローレイトと210℃のメルトフローレイトとの差である溶融粘度勾配が10g/10分以下の範囲であることが好ましい。このような特性を持つ重合体は、温度変化に応じた重合体の流動性の変化が小さく、架橋構造に近い高次構造といえ、このため結晶化速度指数tmaxを上述のように3〜10分とすることができ、溶融紡糸したときの冷却性が良好になって、開繊時にブロッキングを生じにくくすることができる。
【0016】
脂肪族ポリエステル重合体は、アマイドワックスを溶融混合することにより所定量含有している。脂肪族ポリエステルにこれを添加することによって、脂肪族ポリエステル重合体の結晶化速度をより速くすることと、開繊工程における繊維−繊維間の摩擦抵抗を小さくして、開繊工程におけるブロッキングの発生を効果的に防止することとを達成できる。その結果、低目付でありながら、斑のない良好な地合いの不織布を得ることができ、また、得られた繊維および不織布は非常に柔軟性に優れたものとなり、透光性や強度斑のない農業用被覆資材であって、柔軟性に優れるため、傷つきやすい果実にも適した被覆資材を得ることができる。なお、アマイドワックスを溶融混合した脂肪族ポリエステル共重合体は、上記した結晶化速度指数(tmax)を2分以下とすることができる。
【0017】
アマイドワックスとしては、脂肪族モノカルボン酸アミド、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド、脂肪族ビスカルボン酸アミド、N−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド、N−置換尿素類などの脂肪族カルボン酸アミドや、芳香族カルボン酸アミド、あるいは水酸基をさらに有するヒドロキシアミドなどが挙げられる。これらの化合物が有するアミド基は1個でも2個以上でもよい。
【0018】
脂肪族モノカルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、べへニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドが好ましい。
【0019】
N−置換脂肪族モノカルボン酸アミドの具体例としては、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールべへニン酸アミドが好ましい。
【0020】
脂肪族ビスカルボン酸アミドの具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスオレイン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビスベヘニン酸アミド、m−キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが好ましい。
【0021】
N−置換脂肪族カルボン酸ビスアミドの具体例としては、N,N´−エチレンビスラウリン酸アミド、N,N´−エチレン−ビス−オレイルアミド、N,N´−エチレンビスステアリン酸アミド、N,N´−メチレンビスステアリン酸アミド、N,N´−エチレンビスパルミチン酸アミド、N,N´−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸モノメチロールアミド、N,N´−ジステアリルテレフタル酸アミド、N,N´−ヘキサメチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミドが好ましい。
【0022】
N−置換尿素類の具体例としては、N−ブチル−N´ステアリル尿素、N−プロピル−N´ステアリル尿素、N−アリル−N´ステアリル尿素、N−ステアリル−N´ステアリルが好ましい。
【0023】
これらの中でも、N,N´−エチレン−ビス−オレイルアミド、N,N´−エチレン−ビス−リシノレイルアミド、N,N´−エチレンビスラウリン酸アミド、N,N´−エチレンビスステアリン酸アミド、N,N´−エチレンビスパルミチン酸アミド、N,N´−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、N,N´−ヘキサメチレン−ビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等のビスアミドが、結晶化速度をより向上させることができる点で好ましい。
【0024】
脂肪族ポリエステル重合体が含有するアマイドワックスの量は、0.1〜1質量%であり、0.1〜0.7質量%であることが好ましく、0.1〜0.5質量%であることがより好ましい。配合量が0.1質量%未満では、繊維−繊維間の摩擦抵抗を小さくすることができず、開繊工程におけるブロッキングの発生を抑制するには不十分である。上限は、1質量%以下とすることによって、コストとのバランスも考慮して添加剤であるアマイドワックスを含ませる効果をより効率よく奏することができる。
【0025】
本発明では、上記したポリ乳酸系重合体および脂肪族ポリエステル重合体には、各々必要に応じて、艶消し剤、顔料、結晶核剤等の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。とりわけ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の結晶核剤を添加することは、紡出冷却工程での糸条間の融着(ブロッキング)を防止するために、効果がある。結晶核剤は、0.1〜3質量%の範囲で用いると有用である。
【0026】
本発明における複合繊維は、脂肪族ポリエステル重合体が、繊維の表面の少なくとも一部を形成する。このような形態を構成するための繊維断形状として、例えば、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル重合体とが貼り合わされたサイドバイサイド型複合断面、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し脂肪族ポリエステル重合体が鞘部を形成してなる芯鞘型複合断面、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル重合体とが繊維表面に交互に存在する分割型複合断面や多葉型複合断面等が挙げられる。不織布の初期強度を向上させることを考慮すると、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し、脂肪族ポリエステル重合体が鞘部を形成する芯鞘型複合断面であることが好ましい。複合繊維を構成するポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル重合体との複合比(質量比)は、ポリ乳酸系重合体/脂肪族ポリエステル重合体=3/1〜1/3であることが好ましい。
【0027】
本発明における複合繊維の単糸繊度は、被覆の目的や農作物の種類に応じて適宜選択すればよいが、2〜10デシテックス程度がよい。単糸繊度が2デシテックス未満になると、目付にもよるが、単位面積に占める構成繊維の本数が相対的に増加するため、繊維間の空隙が小さくなる傾向にあり透光性や通気性が低下する傾向となる。一方、単糸繊度が10デシテックスを超えると、逆に単位面積に占める構成繊維の本数が相対的に減少するため、繊維間の空隙が大きくなり保温性、防霜性等の機能が十分に果たせなくなりやすい。
【0028】
本発明の農業用被覆資材は、前述した複合繊維が堆積されたスパンボンド不織布である。不織布の形態としては、脂肪族ポリエステル重合体成分が溶融または軟化することにより繊維同士が熱接着して形態保持しているものがよい。熱接着の形態としては、繊維同士の接点において、溶融または軟化した脂肪族ポリエステル重合体を介して熱接着したものであってもよいし、また、熱エンボス装置を通すことにより、部分的に形成される熱接着部と、それ以外の非熱接着部とを有し、熱接着部において脂肪族ポリエステル重合体成分が溶融または軟化して不織布として形態保持しているものであってもよい。熱エンボス装置を通すことにより熱接着したものは、熱接着部にて繊維同士が形態保持して寸法安定性が良好で、非熱接着部は、繊維が熱の影響を受けないため不織布としての機械的強度が保持されかつ柔軟性に富むため、農業用被覆資材として好ましい形態である。
【0029】
本発明の農業用被覆資材の目付は、用いる場所や被覆の目的、被覆する農作物の種類等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、ベタ掛けシートとして用いる場合は、10〜30g/mの範囲が好ましい。
【0030】
本発明の農業用被覆資材をベタ掛け用シートとして用いる場合で、目付が10〜30g/mの範囲の不織布で構成される場合は、透光率は70%以上であることが好ましい。透光率70%以上とすることにより、太陽光線を十分透過させて作物の生育に十分な光を与えることができる。
【0031】
本発明の農業用被覆資材は、上記した構成を有しているため、初期の引張強伸度に優れる。すなわち、本発明のスパンボンド不織布からなる農業用被覆資材は、例えば目付20g/mの不織布において、CD方向(機械(MD)方向と直行する方向)において、初期引張強力が20N以上、初期伸度が20%以上60%以下を達成することができ、初期引張強力、初期伸度を上記の値とすることにより、広大な面積に敷設する場合でも、その展張時の張力に耐えることができ、かつ展張後も破れ等が発生しにくいものが得られる。なお、CD方向の下限値を規定するのは、スパンボンド不織布においては、その製造方法の特徴上、通常、機械方向に連続繊維が配列しやすく機械方向の強力がより高くなり、繊維の軸方向が配列しにくいCD方向の強力は機械方向よりも劣るためである。
【0032】
本発明の農業用被覆資材は、MD方向の初期引裂強力が1N以上であることが好ましい。1N以上とすることにより、被覆資材を展張した後に、展張時に使用した杭の部分から資材が引き裂かれることや、風の強い時期に破れて使用不可となるようなことが生じにくい。また、初期引裂強力は強い程よいが、その上限は、実用上5N程度であれば使用に耐えうるものとなる。
【0033】
本発明の被覆資材は、JIS B 7753に準じて行われる耐候性試験において、300時間照射後の引張強力保持率、伸度保持率、引裂強力保持率が、それぞれ80%以上であることが好ましい。なお、それぞれの保持率は下記式にて表される。
引張強力保持率(%)=(S300/S)×100≧80
伸度保持率(%)=(E300/E)×100≧80
引裂強力保持率(%)=(TS300/TS)×100≧80
300:300時間照射後の試料の引張強力(N)
:照射前の試料の引張強力(N)
300:300時間照射後の試料の伸度(%)
:照射前の試料の伸度(%)
TS300:300時間照射後の試料の引裂強力(N)
TS:照射前の試料の引裂強力(N)
【0034】
被覆資材の耐候性を示す上記各種保持率は、被覆資材が生分解によって崩壊する前に気候の変化等によって強力及び伸度が低下することが無いかどうかを示す指標であり、生分解によって崩壊する前に被覆資材の引張強力、伸度及び引裂強力が低下すると、資材が破損しやすくなって、使用中に本来の透光性や保温性が発揮されないことにもなり、作物の成育に良好に寄与できなくなる。本発明では、引張強力保持率、伸度保持率、引裂強力保持率が、それぞれ80%以上とすることにより、継続使用において良好に作物の生育に寄与することが可能となる。
【0035】
本発明の農業用被覆資材は、柔軟性をも併せもつ。農業用被覆資材に求められる柔軟性とは、路地栽培やトンネル栽培あるいはハウス栽培において、作物を植える畝の形にある程度追随する柔軟性を意味する。また、展張して使用時に、風等の外的な環境要因に対応できることを意味する。特に、展張された被覆資材は風によってなびくため、柔軟な資材であると作物を傷つけることなく作物の品質を保持することができる。本発明の農業用被覆資材は、ポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも低融点の特定の脂肪族ポリエステル重合体とからなる複合繊維からなる不織布にて構成され、構成繊維の少なくとも一部を柔軟な脂肪族ポリエステル重合体が占めているため、柔軟性に優れたものとなる。また、この特定の脂肪族ポリエステル重合体が、その理由は定かではないが弾性的性質を強く有していることから、その性質が不織布へも反映して、柔軟でありながら弾性的な性質をもつ不織布となり、被覆資材としての使用の際に、外的な環境要因(風等)に晒されたとしても、破れが発生することや、作物を傷つけるということがなく、被覆資材として必要な期間にわたって十分使用することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の生分解性農業用被覆資材は、複合繊維を構成繊維としてスパンボンド法により形成された不織布からなり、前記複合繊維は、融点が160℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも融点が50℃以上低い脂肪族ポリエステル共重合体とを含むとともに、前記脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体は、1,4-ブタンジオールとコハク酸を主たる構成成分とするとともに、アマイドワックスを0.1〜1.0質量%含有しているため、初期強力及び初期伸度が実用に耐えうる程度に高く、透光性や耐候性が良好であり、使用後には微生物の作用によりほぼ完全に分解されて廃棄処理が容易な、生分解性農業用被覆資材を提供することができる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は、以下の方法により実施した。
(1)融点(℃):示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0039】
(2)メルトフローレイト(g/10分):ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)の条件で測定したメルトフローレイト「MFR1」と、230℃、荷重20.2N(2160gf)の条件で測定したメルトフローレイト「MFR2」とを求めた。
【0040】
(3)結晶化速度指数(分):示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用いて、試料5mgを昇温速度500℃/分で200℃に昇温し、その状態で5分間ホールドさせた後、降温速度500℃/分で90℃に降温し、90℃でホールドして等温結晶化させて示差熱分析することにより結晶化速度指数(tmax)測定した。なお、測定にあたっては、脂肪族ポリエステル重合体自体の結晶化速度指数(tmax)と、脂肪族ポリエステル重合体に、アマイドワックスを溶融混合させて、溶融温度200℃で押し出した溶融混合物の結晶化速度指数(tmax)との両者を求めた。
【0041】
(4)単糸繊度(デシテックス):ウエブ状態における繊維50本の径を光学顕微鏡にて測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0042】
(5)目付(g/m):標準状態の試料から長さ10cm、幅5cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0043】
(6)CD方向の引張強力(N)および伸度(%):JIS−L−1096(1999) 引張り強さおよび伸び率 B法(グラブ法)に準じて測定した。長さ方向がCD方向となるように、長さ15cm×幅10cmの試料片10点を作製し、定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製テンシロンUTM−4−1−100)を用い、つかみ間隔7.6cm、つかみの大きさは、上下ともに表側は2.54cm×2.54cm、裏側は5.1cm×2.54cmとして、引張速度30cm/分で伸張し、得られた切断時破断荷重(N)の平均値を引張強力(N)とし、切断時の破断伸度の平均値を伸度(%)とした。
【0044】
(7)MD方向の引裂強力(N):JIS−L−1906(2000)に記載のペンジユラム法に準じて測定した。すなわち、長さ方向がMD方向となるように、長さ6.5cm×幅10cmの試料片を5点作成し、各試料片の引裂強力を求め、得られた値の平均値を試料のMD方向の引裂強力(N)とした。
【0045】
(8)ドレープ係数:JIS−L−1096(1999)剛軟性 G法(ドレープ係数)に基づき測定した。
【0046】
(9)透光率(%):JIS−L−1906(2000)に記載の透光性に準じて、光源の照度を2000ルクスとして測定した。
【0047】
(10)引張強力保持率(%)、伸度保持率(%)、引裂強力保持率(%):耐候性の指標である強力保持率を次のようにして求めた。すなわち、JIS−B−7753に準じて、スガ試験機社製の型式S80DHBサンシャインウェザーメータを用いて耐候性試験を行い、耐候性試験後の試料について、上記(6)CD方向の引張強力(N)および伸度(%)記載の試験方法、および上記(7)MD方向の引裂強力(N)記載の試験方法によってそれぞれの値を求め、下式より300時間照射後の保持率(%)をそれぞれ求めた。
引張強力保持率(%)=(S300/S)×100≧80
伸度保持率(%)=(E300/E)×100≧80
引裂強力保持率(%)=(TS300/TS)×100≧80
300:300時間照射後の試料の引張強力(N)
:照射前の試料の引張強力(N)
300:300時間照射後の試料の伸度(%)
:照射前の試料の伸度(%)
TS300:300時間照射後の試料の引裂強力(N)
TS:照射前の試料の引裂強力(N)
【0048】
(11)生分解性:約58℃に維持された熟成コンポスト中に試料を埋設し、3ヶ月後に取り出し、試料としての不織布がその形態を保持していない場合、あるいは、その形態を保持しても引張強力が埋設前の強力初期値に対して50%以下に低下している場合は、生分解性が良好であると評価し○で示した。これに対し、強力が埋設前の強力初期値に対して50%を超えている場合は、生分解性能が不良であると評価し×で示した。
【0049】
実施例1
融点168℃、MFR1が23g/10分、MFR2が52g/分の、ポリ乳酸系重合体(NatureWorks社製 商品名6201D;以下、「P1」と略記する)を、芯成分として用意した。また、融点110℃、MFR1が22g/10分、MFR2が25g/分である、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸を構成成分とする脂肪族ポリエステル重合体(三菱化学社製 商品名GSPla、FZ71PD;以下、「P2」と略記する)を用意した。この脂肪族ポリエステル重合体の結晶化速度指数は、7.4分であった。
【0050】
さらに、P1をベースとして結晶核剤としてのタルク(TA)を20質量%練り込み含有したマスターバッチを用意した。
【0051】
そして、P1とP2との複合比が質量比でP1:P2=1:1となるように、またP1の溶融重合体中にタルクが0.5質量%含まれることになるように、P2の溶融重合体中に、アマイドワックスであるN,N´−エチレンビスステアリン酸アミドが0.5質量%含まれるように、個別に計量した後、それぞれを個別のエクストルーダー型溶融押し出し機を用いて温度220℃で溶融し、芯鞘型複合繊維断面となる紡糸口金を用いて、ポリ乳酸系重合体が芯部を構成し、脂肪族ポリエステル重合体が鞘部を構成するように、単孔吐出量2.3g/分の条件で溶融紡糸した。
【0052】
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアーサッカーにて牽引速度2380m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。開繊の際に、構成繊維の大部分が分繊され、密着糸および収束糸は認められず、開繊性は良好であった。堆積させた複合繊維の単糸繊度は、9.6デシテックスであった。
【0053】
次いで、このウエブをエンボスロールと表面平滑な金属ロールとからなる熱エンボス装置に通して熱処理を施し、目付20g/mのスパンボンド不織布からなる農業用被覆資材を得た。熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を90℃とし、エンボスロールは、個々の面積が0.6mmの円形の彫刻模様で、圧接点密度が20個/cm、圧接面積率が15%のものを用いた。
【0054】
実施例2
実施例1において、P2に含有させるアマイドワックスとして、N,N´−エチレンビスパルミチン酸アミドを用いたこと、牽引速度2400m/分としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用被覆資材を得た。複合繊維の単糸繊度は、9.5デシテックスであった。
【0055】
実施例3
実施例1において、P2に含有させるアマイドワックスとして、N,N´−エチレンビス(12ヒドロキシステアリン酸)アミドを用いたこと、牽引速度2350m/分としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用被覆資材を得た。複合繊維の単糸繊度は、9.7デシテックスであった。
【0056】
実施例4
実施例1において、単孔吐出量を0.7g/分としたこと、牽引速度2370m/分としたこと以外は、実施例1と同様にして農業用被覆資材を得た。複合繊維の単糸繊度は、2.9デシテックスであった。
【0057】
実施例5
実施例1において、目付を15g/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、農業用被覆資材を得た。
【0058】
比較例1
融点が168℃、MFR1が65g/10分の、L−乳酸/D−乳酸=98.4/1.6モル%のL−乳酸/D−乳酸共重合体のみを用い、その溶融重合体中にタルク0.5質量%含まれるようにして、温度210℃で溶融し、単孔吐出量1.7g/分の条件で中実の糸条を溶融紡糸した。そして、牽引速度を5000m/分とし、熱エンボス条件としては、両ロールの表面温度を130℃とした以外は実施例1と同様にして、単糸繊度3.3デシテックス、目付20g/mの農業用被覆資材を得た。
【0059】
得られた実施例1〜5、比較例1の性能を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、本発明の実施例1〜5の農業用被覆資材は、初期強力が高く、ポリ乳酸系重合体のみからなる比較例1のものと同目付の実施例1〜4の農業用被覆資材は、約3倍の初期強力を有している。次に、柔軟性について考察すると、一般に、資材を構成する繊維の太さ(単糸繊度)が大きくなると資材自体の硬さも硬くなる傾向にあるが、実施例1〜3、5の資材を構成する繊維の単糸繊度は、比較例1の約3倍の大きさであるが、柔軟性の指標となるドレープ係数を比較すると同等程度となっており、本発明の実施例1〜3、5の資材は、単糸繊度が大きいにもかかわらず、柔軟性を有するものであった。また、比較例1と同等程度の単糸繊度である実施例4の資材は、ドレープ係数の値がより小さくなっており、より柔軟性に優れていることがわかる。また、耐候試験結果も良好であり、長期に亘って初期の強力を維持できることがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合繊維を構成繊維とするスパンボンド不織布からなる農業用被覆資材であり、前記複合繊維は、融点が160℃以上のポリ乳酸系重合体と、このポリ乳酸系重合体よりも融点が50℃以上低い脂肪族ポリエステル重合体とを含むとともに、前記脂肪族ポリエステル重合体が繊維表面の少なくとも一部を形成しており、前記脂肪族ポリエステル重合体は、1,4−ブタンジオールとコハク酸とを構成成分とするとともに、アマイドワックスを0.1〜1質量%含有していることを特徴とする生分解性農業用被覆資材。
【請求項2】
複合繊維は、ポリ乳酸重合体が芯部を形成し、脂肪族ポリエステル重合体が鞘部を形成した芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1記載の生分解性農業用被覆資材。
【請求項3】
複合繊維の単糸繊度が2〜10デシテックス、不織布の目付が10〜30g/mであることを特徴とする請求項1または2記載の生分解性農業用被覆資材。
【請求項4】
請求項3の生分解性農業用被覆資材からなることを特徴とするベタ掛けシート。


【公開番号】特開2011−6823(P2011−6823A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153771(P2009−153771)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】