説明

生分解性高分子不織布チューブの製造方法

【課題】 簡便で効率的なナノファイバーで構成されるキチン誘導体不織布チューブ、その製造方法およびそのチューブを含む医療用材料を提供する。
【解決手段】 キチン誘導体溶液の液滴を液滴供給部3と電極板5との間に噴射し、電荷反発と電場によって細分化し、延伸する。回転モーター7によって駆動される回転支持体6の回転により、回転支持体6の表面に繊維を形成するとともにチューブを直接成形させる。成形されたチューブを高濃度のアルカリ水溶液に浸漬させる等の方法で不溶化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、キチン誘導体を用いた生分解性高分子不織布チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサン等のキチン誘導体は、成型加工性が良い、化学処理によって新しい機能を付与できる、生体に対して無害である、生物により分解される、といった優れた特性を有する。また、キチン誘導体は、食料廃棄物として大量に存在し、資源の枯渇がない。このような優れた諸性質を有しているため、キチン誘導体は、医療分野、食品分野、農業分野、工業分野及び環境分野などで注目されている。
【0003】
これまで、キチン誘導体を用いた繊維の製造方法が幾つか報告されている。
例えば、特許文献1には、キトサン繊維の製造方法として、キトサンを水-ジクロル酢酸混合溶液に溶解して紡糸原液とし、該原液を金属塩水溶液中で成型凝固させ、その後にキレート試薬を用いて処理する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び3には、キトサンを酢酸水溶液と尿素の混合液中に溶解し、次いで塩基性水溶液とアルコールとの混合溶液中で紡糸して繊維化する方法が開示されている。
【0005】
特許文献4には、原料キチンをアルカリ処理した後、CS2によって硫化し、キチンキトサンビスコースを製造し、そのまま又はセルロースビスコースとの任意の割合で混合してビスコース法の紡糸浴を使用して防止する方法が開示されている。
【0006】
特許文献5には、キトサンをチオシアン酸ナトリウム水溶液に溶解して、アルコール類の凝固浴中で湿式紡糸を行う方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献6には、キトサンの酢酸水溶液を、水溶性有機溶媒(アセトン、エタノール等)単独又はこれらの混合溶媒中に過剰量の塩基性溶液(水酸化ナトリウム等)を凝固浴として湿式紡糸を行い、イソシアネート類、エポキシ系架橋剤を用いて架橋繊維を製造する方法が開示されている。当該方法では、溶剤として、キチン、キトサン及びその誘導体の種類に応じて適切なものを使用できることが記載されている。
【0008】
特許文献7には、キチンを、ハロゲン化炭化水素とトリクロル酢酸の混合物、N-メチルピロリドン又はN,N-ジメチルアセトアミドと塩化リチウムとの混合物に溶解し、ノズルから水、アルコール類、ケトン類又はアルカリ液等の凝固液中に押出して凝固させ、コットン不織布と積層化することで作製された創傷被覆材が開示されている。また、特許文献8には、キチン誘導体を酸水溶液とリン酸との混合溶液に溶解し、水酸化カルシウム水溶液とエタノールとの混合溶液を紡糸浴として作製されたキチン誘導体-リン酸カルシウム複合体繊維が開示されている。
【0009】
以上に説明した方法で作製したキチン誘導体繊維は、μm以上のオーダーである。これらの方法では、キチン誘導体を用いて、nmオーダーの繊維を作製することはできない。
【0010】
一方、ポリマー紡糸方法として、エレクトロスピニング方法(Electrospinning (ELSP);「電界紡糸」とも呼ばれる)と呼ばれる方法がある。エレクトロスピニング方法は、高電圧電場を用いた方法である。エレクトロスピニング方法に関して、特許文献9では、エレクトロスピニング方法を用いた絹不織布の製造方法、特許文献10ではエレクトロスピニング方法による、ポリウレタン、コラーゲン、ゼラチン等を用いた不織布や人工血管の製造方法が開示されている。この他にキチン・キトサンを用いたエレクトロスピニング方法に関して報告が幾つかなされている(非特許文献1及び2)。
【0011】
しかしながら、エレクトロスピニング方法を用いて、ナノファイバーで構成されたキチン誘導体不織布チューブを実際に製造した報告はなされていない。
【0012】
【特許文献1】特開昭57-232464号公報
【特許文献2】特開昭60-059123号公報
【特許文献3】特開昭61-046565号公報
【特許文献4】特開平09-241928号公報
【特許文献5】特開平10-088429号公報
【特許文献6】特開平2001-031702号公報
【特許文献7】特開2002-219143号公報
【特許文献8】特開2005-023464号公報
【特許文献9】特開2004-068161号公報
【特許文献10】特開2004-321484号公報
【非特許文献1】Kousaku Ohkawaら, 「Macromolecular Rapid Communications」, 2004年, 第25巻, p.1600-1605
【非特許文献2】Byung-Moo Minら, 「Polymer」, 2004年, 第45巻, p.7137-7142
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、従来、キトサン等のキチン誘導体を用いて、ナノファイバーで構成された不織布チューブは製造されていなかった。その理由としては、例えば、
1.キチン及びキトサンを溶解させるには酸や特殊溶媒を用いなければならず、繊維原料として汎用性に乏しい、
2.上述した従来技術のキチン誘導体を紡糸原液とした湿式紡糸では、μmオーダー以下の繊維を作製することができず、また湿式紡糸であるためチューブ状の成形が非常に困難である、
という問題があったためである。
【0014】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、簡便で、且つ効率的なナノファイバーで構成されたキチン誘導体不織布チューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、例えば医療用インプラント材料等の原料として用いることができる、ナノファイバーで構成されたキチン誘導体不織布チューブの製造について検討した。
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、キチン誘導体溶液の液滴を液滴供給部と電極板との間の電場に曝露することでキチン誘導体の繊維を形成し、形成された繊維からチューブを成形し、さらに成形されたチューブを不溶化処理に供することで、ナノファイバーで構成されたキチン誘導体不織布チューブを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は以下を包含する。
(1)キチン誘導体溶液を作製する第1工程と、上記キチン誘導体溶液の液滴を液滴供給部と電極板との間の電場に曝露し、キチン誘導体の繊維を形成する第2工程と、第2工程で形成された繊維からチューブを成形する第3工程と、第3工程で成形されたチューブを不溶化処理に供する第4工程とを含み、上記第3工程では、上記液滴供給部と上記電極板との間に配設した回転支持体上に繊維を巻き取ることを特徴とする、キチン誘導体不織布チューブの製造方法。
【0018】
(2)上記不溶化処理が成形されたチューブをアルカリ水溶液に浸漬することであることを特徴とする、(1)記載の方法。
【0019】
(3)上記キチン誘導体は脱アセチル化度50〜100%のキトサンであることを特徴とする、(1)又は(2)記載の方法。
【0020】
(4)上記第2工程で形成された繊維は、直径5μm以下であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。
【0021】
(5)(1)〜(4)のいずれか1記載のキチン誘導体不織布チューブの製造方法で製造されたキチン誘導体不織布チューブ。
(6)(5)に記載のキチン誘導体不織布チューブを含む医療用材料。
【0022】
(7)上記医療用材料が再生医療用材料であることを特徴とする、(6)記載の医療用材料。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る製造方法によれば、生分解性を有するキチン誘導体不織布チューブを効率良く生産することができる。特に、本発明に係る製造方法により製造されたキチン誘導体不織布チューブは、生分解性で、且つ生体適合性であり、安全性が高いので、医療用材料に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るキチン誘導体不織布チューブの製造方法(以下、単に「本発明に係る製造方法」という)により、生分解性のキチン誘導体不織布チューブを製造することができる。
【0025】
本発明において、キチン誘導体とは、キチンから化学変化によって生成するいずれの化合物も意味する。キチン誘導体としては、例えば、キトサン、アルカリキチン、キトサン無機・有機酸塩、N-アリルキトサン、N-アルキルキトサン、o-アリルキトサン、o-アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キチン、トシル化キチン、ベンゾイル化キチン、及びリン酸エステル化キチンが挙げられるが、特にキトサンが好ましい。
【0026】
キトサンは、キチンを濃アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)中で加熱することで得られる脱アセチル化物である。純粋なキチンの脱アセチル化度を0%とし、純粋なキトサンの脱アセチル化度を100%とした場合、脱アセチル化度は一本の高分子におけるキトサンユニット%として表わすことができる。本発明においてキトサンを使用する場合、脱アセチル化度は、溶媒への溶解性や製造する不織布チューブの用途に応じて適宜選択することができる。本発明においては、特に、キチン誘導体として、脱アセチル化度が50〜100%、好ましくは75〜100%、特に好ましくは85〜100%のキトサンを用いることができる。
【0027】
本発明に係る製造方法では、まずキチン誘導体溶液を作製する。原料となるキチンは、例えばカニ等の甲殻類の殻を室温で塩酸処理して、抽出し、調製する等の公知の方法を用いて調製することができる。あるいは、市販されているキチンを使用してもよい。
【0028】
次いで、キチンからキチン誘導体を生成し、得られたキチン誘導体を適当な溶媒に溶解することで、キチン誘導体溶液を調製する。使用する溶媒は、下記で説明するエレクトロスピニング方法に適合したものを適宜選択する。例えば、キチン誘導体に対する高い溶解性、低表面張力及び低い沸点といった特性を有する溶媒を、キチン誘導体に対する溶媒として使用することができる。
【0029】
キチン誘導体溶液としてキトサン溶液を得る場合には、キチンを濃アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)中で加熱することで、所望の脱アセチル化度を有するキトサンを調製する。あるいは、市販のキトサン(例えば、北海道曹達株式会社製)を用いることができる。このようにして得られたキトサンを、適当な溶媒に溶解し、キトサン溶液として使用することができる。キトサンに対する溶媒としては、例えば、トリフルオロ酢酸、並びにトリフルオロ酢酸と塩化メチレン、ギ酸、酢酸及び/又はリン酸との混合溶媒が挙げられる。当該混合溶媒におけるトリフルオロ酢酸に混合する他の溶媒の割合は、例えば0〜50%、好ましくは0〜30%、特に好ましくは0〜20%である。また、キトサンをトリフルオロ酢酸と塩化メチレンとの混合溶媒で、例えば50℃で12時間溶解させることで粘度を減少させたものをキトサン溶液とすることができる。
【0030】
本発明に係る製造方法では、次いで得られたキチン誘導体溶液の液滴を電場に曝露し、キチン誘導体の繊維を形成する。また、形成された繊維からチューブを成形する。具体的には、キチン誘導体溶液をエレクトロスピニング方法に供する。図1に、エレクトロスピニング方法を用いてキチン誘導体溶液からチューブの成形までを行う装置の模式図を示す。当該装置は、インフュージョンポンプ1、注射器2、液滴供給部3、高圧直流定電圧電源4、電極板5、回転支持体6及び回転モーター7から構成されている。以下では、図1に示す装置に基づいて、キチン誘導体溶液からチューブの成形までを説明する。
【0031】
まず、注射器2中にキチン誘導体溶液8を充填する。また、シリンジ針等の液滴供給部3に注射器2を接続する。さらに、注射器2をインフュージョンポンプ1にセットする。一方、液滴供給部3は、高圧直流定電圧電源4の陽極に接続する。また、電極板5を高圧直流定電圧電源4の陰極に接続する。さらに、棒状の回転支持体6を回転モーター7に接続する。
【0032】
次いで、液滴供給部3と電極板5との間に高圧直流定電圧電源4を使用して、高電圧をかけることで電場を発生させる。その電場に対して、インフュージョンポンプ1からキチン誘導体溶液8を押出し、液滴供給部3から液滴が形成されるように、キチン誘導体溶液8を噴射する。このようにして形成された液滴が電荷反発と電場によって、細分化し、延伸する。同時に、液滴中のほとんどの溶媒が蒸発する。このようにして、不織布状の繊維が形成される。この際、回転モーター7の駆動によって、回転モーター7に接続した回転支持体6を回転させることで、回転支持体6の表面に繊維が形成されるととともに、チューブが直接成形されることとなる。
【0033】
なお、液滴を形成する際のインフュージョンポンプ1の送液速度は、0〜30ml/時間、好ましくは0〜10ml/時間、特に好ましくは0〜5ml/時間とする。また、電場を発生させるための電圧は、1〜100kV、好ましくは1〜50kV、特に好ましくは10〜30kVとする。本発明では、直径5μm以下、好ましくは直径0.01〜3μm、特に好ましくは直径0.1〜1μmの繊維が形成される。
【0034】
また、インフュージョンポンプ1からのキチン誘導体溶液8の噴出量、回転支持体6の種類や径の大きさ及び回転支持体6の回転速度を変えることでチューブの寸法、密度、強度等を任意に設定することができる。
【0035】
本発明に係る製造方法では、成形されたチューブをさらに不溶化処理に供することで、製造されたキチン誘導体不織布チューブを生体内などの水分が多い環境に曝露しても溶解しないものとすることができる。不溶化処理として、例えば残存する溶媒に対して脱溶媒や中和処理を行った後、水による洗浄を行う。特に、キチン誘導体溶液の作製に使用した溶媒を完全に除去すべく、アンモニア水や水酸化ナトリウム溶液等の高濃度(例えば、10〜50%の濃度)のアルカリ水溶液中に、成形されたチューブを1〜100時間、好ましくは1〜50時間、特に好ましくは1〜20時間浸漬することで、不溶化処理を行う。
【0036】
以上に説明した本発明に係る製造方法によれば、生分解性を有し、ナノファイバーから構成されたキチン誘導体不織布チューブを得ることができる。このキチン誘導体不織布チューブは生分解性を有し、かつ生体適合性に優れた材料であるため、医療用材料に使用することができる。医療用材料としては、例えば、人工血管、神経再生チューブ等の医療用インプラント材料が挙げられる。特に、細胞培養や組織再生における新しい細胞足場材料として、医療用インプラント材料等の再生医療用材料に使用することができる。
【0037】
本発明に係る製造方法によれば、繊維が均一で且つ継ぎ目のないチューブを成形することが可能となる。また、本発明では、電極板が形成された繊維によって覆われることはない。従って、常に一定の高電圧をかけることで、厚みのあるチューブを成形することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕キトサン溶液の作製
北海道曹達株式会社製キトサン(脱アセチル化度98%)1.6gを、トリフルオロ酢酸(和光純薬工業株式会社製)20mlに50℃で12時間かけて溶解した。次いで、この溶液に塩化メチレンを5ml加えて希釈することで、キトサン溶液の粘度を減少させた。当該キトサン溶液を以下の実施例で使用する。
【0040】
〔実施例2〕キトサンナノファイバーでできた不織布の作製
図2にエレクトロスピニング装置の写真を示す。エレクトロスピニング装置は高圧直流定電圧電源(日本スタビライザー株式会社製HSP-30k-2)、インフュージョンポンプ(HARVARD APPRATUS製 11Plus)、針(テルモ株式会社製 シェアフィールド SVセット 22G)、電極板(アルミ箔、銅板など)で構成される。
【0041】
実施例1で作製したキトサン溶液2mlを、注射器(テルモ株式会社製 テルモシリンジ SS-10SZ)に入れて、針につないだ後にインフュージョンポンプにセットした。インフュージョンポンプの送液速度を1ml/時間で針と電極板との間に高圧直流定電圧電源を使用して、25kVの電圧をかけたまま、針からキトサン溶液を2時間かけて噴出した。このようにして作製したキトサンナノファイバー不織布の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3A〜Bに示す。図3Aの写真は、1500倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは、10μmである。一方、図3Bの写真は、15000倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは、1μmである。
【0042】
図3A〜Bの写真から、キトサンナノファイバー不織布は、1μm以下のキトサンナノファイバーでできていることが判った。
【0043】
〔実施例3〕キトサンナノファイバーでできた不織布の水に対する不溶化処理
実施例2において作製したキトサンナノファイバー不織布を、水酸化ナトリウム200gを水500mlに溶解した水溶液に12時間浸漬した。その後、3回蒸留水で当該不織布を洗浄することで、吸着した水酸化ナトリウムを完全に除去した。水に対する不溶化処理を施した後、得られたキトサンナノファイバー不織布をSEMによって観察した。不溶化処理後のキトサンナノファイバー不織布の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4A〜Bに示す。図4Aの写真は、1500倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは、10μmである。一方、図4Bの写真は、15000倍に拡大したSEM写真であり、スケールバーの長さは、1μmである。
【0044】
図4A〜Bから、不溶化処理後のキトサンナノファイバー不織布は、エレクトロスピニング直後のナノファイバーの形状を大体保っていることが判った。
【0045】
〔実施例4〕ナノファイバーでできたキチン誘導体不織布チューブの製造
本実施例では、図2に示すエレクトロスピニング装置に、さらに回転モーター及び回転支持体を配設した装置を用いた。
【0046】
実施例1で作製したキトサン溶液2mlを、注射器(テルモ株式会社製 テルモシリンジ SS-10SZ)に入れて、針につないだ後にインフュージョンポンプにセットした。針先に高圧直流定電圧電源の陽極を接続した。また、回転支持体として直径1.8mmのステンレス棒を針の向きに対して垂直かつ同じ高さになるように配設し、ステンレス棒の一方の端を回転モーターと連結し、自動で回転できるようにした。さらに針とは逆のステンレス棒の後方に電極板として縦100mm横50mmのステンレス板を配設し、これに高圧直流定電圧電源の陰極を接続した。ここで針先とステンレス棒との距離を15cm、ステンレス棒と電極板との距離を5cm、ステンレス棒の回転速度は100rpmとした。インフュージョンポンプの送液速度を2ml/時間とし、針と電極板との間に高圧直流定電圧電源を使用して、25kVの電圧をかけたまま、針からキトサン溶液を1時間かけて噴出した。また、同時に回転モーターによってステンレス棒を回転させた。このようにして、噴出と同時にステンレス棒の表面にキトサンナノファイバーが生成し、ステンレス棒が回転することで自動的に巻き取られナノファイバーはチューブ状に成形され、不織布チューブとなった。
【0047】
得られた不織布チューブの写真を図5A〜Cに示す。得られた不織布チューブは、長さ約5cm、外径5.1mm、内径1.9mmであり、重量は1cm当たり0.038gであった。
【0048】
〔実施例5〕ナノファイバーでできたキチン誘導体不織布チューブの水に対する不溶化処理
実施例4において作製したキトサンナノファイバー不織布チューブを28%アンモニア水50gに12時間浸漬した。その後、3回蒸留水で当該不織布チューブを洗浄することで、吸着したアンモニア水を完全に除去した。こうして得られた不溶化した不織布チューブは、長さ約4.8cm、外径4.3mm、内径1.7mmであり、重量は1cm当たり0.022gであった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、エレクトロスピニング方法を用いてキチン誘導体溶液からチューブの成形までを行う装置の模式図を示す。
【図2】図2は、エレクトロスピニング装置の写真を示す。
【図3】図3A〜Bは、実施例2で作製したキトサンナノファイバー不織布の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図4】図4A〜Bは、実施例3で作製した不溶化処理後のキトサンナノファイバー不織布の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図5】図5A〜Cは、実施例4で作製したキトサンナノファイバー不織布チューブの写真を示す。
【符号の説明】
【0050】
1:インフュージョンポンプ
2:注射器
3:液滴供給部
4:高圧直流定電圧電源
5:電極板
6:回転支持体
7:回転モーター
8:キチン誘導体溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン誘導体溶液を作製する第1工程と、
上記キチン誘導体溶液の液滴を液滴供給部と電極板との間の電場に曝露し、キチン誘導体の繊維を形成する第2工程と、
第2工程で形成された繊維からチューブを成形する第3工程と、
第3工程で成形されたチューブを不溶化処理に供する第4工程と、
を含み、上記第3工程では、上記液滴供給部と上記電極板との間に配設した回転支持体上に繊維を巻き取ることを特徴とする、キチン誘導体不織布チューブの製造方法。
【請求項2】
上記不溶化処理が成形されたチューブをアルカリ水溶液に浸漬することであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記キチン誘導体は脱アセチル化度50〜100%のキトサンであることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記第2工程で形成された繊維は、直径5μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のキチン誘導体不織布チューブの製造方法で製造されたキチン誘導体不織布チューブ。
【請求項6】
請求項5に記載のキチン誘導体不織布チューブを含む医療用材料。
【請求項7】
上記医療用材料が再生医療用材料であることを特徴とする、請求項6記載の医療用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−299459(P2006−299459A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122561(P2005−122561)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(390021393)北海道曹達株式会社 (7)
【Fターム(参考)】