説明

生化学マーカーを使用する肝臓脂肪症の診断方法

本発明は、容易に検出可能な生物学的マーカーの血清濃度を使用することにより、特に、肝臓脂肪症を伴う疾患を患うか、或いは肝線維症及び/又は肝臓の壊死性炎症性病変の存在についての陽性診断試験をすでに受けた患者において、患者の肝臓脂肪症の程度を検出するための新たな診断方法に関するものである。また、本発明は、本発明の診断方法を実施するための診断キットにも関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に検出可能な生物学的マーカーの血清濃度を使用することにより、特に、肝臓脂肪症を伴う疾患を患うか、或いは肝線維症及び/又は肝臓の壊死性炎症性病変の存在についての陽性診断試験をすでに受けた患者において、患者の肝臓脂肪症の程度を検出するための新たな診断方法に関するものである。また、本発明は、本発明の診断方法を実施するための診断キットにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝臓脂肪症とも称される脂肪肝は、肝細胞における脂肪の過剰な蓄積と定義される(Bravo AA,et al.N. Engl.J.Med.2001:344;495−500;Angulo P.N.Engl.J.Med.2002 Apr 18;346(16):1221−31)。脂肪肝疾患は、肝細胞におけるトリグリセリドの蓄積、肝細胞の壊死、炎症(Day CP.Best Pract.Res.Clin.Gastroenterol.2002;16:663−78;Browning JD,Horton JD.J.Clin.Invest.2004;114:147−52)、小肝静脈閉塞、並びに多くの場合、肝硬変、肝細胞癌及び肝臓関連の死へ進行することがある線維症(El−Serag HB,et al.Gastroenterology 2004;126:460−468,Dam−Larsen S,et al.Gut 2004;53:750−5)を伴う。
【0003】
世界規模で、肝臓脂肪症の有病率は、アルコール、糖尿病、肥満、高脂血症、インスリン抵抗性、遺伝子型3のC型肝炎、無βリポタンパク血症、及び一部の薬物のような、幾つかの因子に関連して非常に高い(Bellentani S,et al.Ann.Intern.Med.2000;132:112−7;Levitsky J,Mailliard ME.Semin.Liver Dis.2004;24:233−47)。
【0004】
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を誘発する可能性があるインスリン抵抗性に対する肝臓の適応反応であり、非アルコール性脂肪性肝炎自体が、肝硬変をもたらす可能性がある線維形成反応を誘起する可能性がある(Day.CP.Best Pract.Res.Clin.Gastroenterol.2002;16:663−78)。
【0005】
アルコール性肝疾患(Sorensen TI,et al.Lancet.1984;2:241−4)、慢性C型肝炎(Fabris P,et al.J.Hepatol.2004;41:644−51)、及び、恐らく慢性B型肝炎(Phillips MJ,et al.Am. J.Pathol.1992;140:1295−308)の患者において、肝臓脂肪症の存在は、関連する壊死性炎症性病変(アルコール性肝炎又はウイルス性肝炎)の有無を問わず、線維症の進行にも関係している。
【0006】
肝臓脂肪症の診断についての標準的な推奨は存在しない。通常の推奨は、GGT及びALTを測定すること、並びにグレードの決定及び病期の決定のために肝生検を実施することである(Bellentani S,et al.Ann.Intern.Med.2000;132:112−7;Levitsky J,Mailliard ME.Semin.Liver Dis.2004;24:233−47;Bravo AA,et al.N.Engl.J.Med.2001:344;495−500)。肝生検は、潜在的な標本誤差を伴い、依然として侵襲的且つ高価な方法であるため、患者の肝臓脂肪症のレベルの良好な的中率が得られる、迅速且つ容易に実施できる試験があれば有利であろう。
【0007】
線維症の診断に関して、非侵襲的なFibroTest(FT)(Biopredictive,Paris France,米国特許第6631330号明細書)は、慢性C型肝炎(Poynard T,et al.Comp Hepatol.2004;3:8)及び慢性B型肝炎(Myers RP,et al.J Hepatol.2003;39:222−30)において、また最近ではアルコール性肝疾患(Callewaert N,et al.Nature Med 2004;10;1−6、Naveau S,et al.Clin Gastroenterol Hepatol in press)において、代用マーカーとして有効性が確認されている。
【0008】
しかしながら、これまで、最も一般的な原因であるアルコール性肝炎、ウイルス性肝炎、及びNAFLDにおいて肝臓脂肪症を診断するために、肝生検に対する代替物として単一のバイオマーカー又はバイオマーカー群を使用することができるということを実証する研究はされていない。
【特許文献1】米国特許第6631330号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、患者の肝臓脂肪症の程度の良好な的中率が得られ、且つ、肝生検の必要性を低減させるのに十分な信頼性のある診断方法を開発する必要がある。この方法は、肝臓脂肪症を伴う疾患を患うか、或いは肝線維症又は壊死性炎症性病変についての陽性診断試験をすでに受けた患者が自らの正確な疾患に治療を適合させるのに特に有利となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、特に肝臓脂肪症を伴う疾患を患うか、或いは肝線維症及び/又は肝臓の壊死性炎症性病変の存在についての陽性診断試験をすでに受けた患者の肝臓における肝臓脂肪症を診断するための、簡素な血清生化学マーカーの組み合わせの的中率をプロスペクティブに評価する診断方法を提供する。高い陽性的中率(有意な肝臓脂肪症の予測)又は高い陰性的中率を得ることにより、生検の指示の数を低減させることができる。このことは、肝生検の費用及び危険性を低減するため、患者及び社会にとって有用になり得る。
【0011】
図1は、分析した、訓練群及び検証群に包含される患者のフローチャートを示す図である。
【0012】
図2は、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図である。
【0013】
切り込みのある箱ひげ図は、訓練群における関係性を示し(図2A)、検証群1では治療前のHCV患者を示し(図2B)、検証群2では治癒したHCV患者を示し(図2C)、検証群3ではアルコール性肝疾患の患者を示し(図2D)、そして、対照群では、空腹時及び非空腹時の健常なボランティア並びに非空腹時の血液ドナーを示す(図2E)。
【0014】
各箱の内部の水平線は中央値を表し、各箱の幅は中央値±1.57×四分位範囲/√nを表し、それにより中央値群間の95%の有意性レベルを評価する。影付きの箱が重複していないことは、統計学的な有意性があることを示す(P<0.05)。各箱の上下の水平線は、四分位範囲(第一四分位数から第三四分位数)を包含し、箱の末端からの垂線は、隣接値(上部:第三四分位数+1.5×四分位範囲、下部:第一四分位数−1.5×四分位範囲)を包含する。検証群3では、ほぼ全ての患者が脂肪症を有し、S0群とS1群は組み合わされている。
【0015】
図3は、対照群、訓練群及び検証群を組み合わせた、統合されたデータベースにおける、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図である。
【0016】
影付きの箱が重複していないことは、中央値間で統計学的な有意性があることを示す(P<0.05)。平均値間の全てのペアワイズの差について、テューキー・クレーマー多重比較検定で全てのグレード間で有意な差が存在した。
【0017】
GGT及びALTに関しては、「脂肪症なし」と「5%未満」との間、及び、「5〜33%」と「33〜100%」との間で有意な差が見られなかった。また、ALTに関しても、「脂肪症なし」と「5〜33%」との間、「5%未満」と「5〜33%」との間で有意な差は見られなかった。
【0018】
したがって、本発明は、患者において、又は患者の血清もしくは血漿サンプルから、肝臓脂肪症を診断する方法に関するものであり、以下の過程を含む。
【0019】
a)5つの生化学マーカーを、前記患者の血清又は血漿におけるそれらの濃度の値を測定することにより研究する過程。ここで、前記マーカーは、以下のとおりである。
−ApoA1(アポリポタンパク質A1)、
−アルファ−2−マクログロブリン、
−ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、
−GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)、及び
−トリグリセリド。
b)ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)、ウエストサイズ、及び(ウエストサイズ/ヒップサイズ)比から成る群において選択される一つの臨床的マーカーを研究する過程。
c)前記マーカーを含むロジスティック関数を通して前記値を組み合わせて最終値を得る過程。ここで、前記ロジスティック関数は、以下の方法により得られる。
i)患者の疾患の程度に従った、種々の群への患者コホートの分類、
ii)一次元分析による、これらの群間で有意に異なる因子の同定、
iii)肝臓脂肪症の診断のためのマーカーの独立した識別値を評価するためのロジスティック回帰分析、
iv)これらの同定された独立因子の組み合わせによるロジスティック関数の構築、
(d)前記患者における肝臓脂肪症の存在を確定するための、前記ロジスティック関数の前記最終値の分析。
【0020】
肝臓脂肪症は、アルコール、糖尿病、肥満、高脂血症、インスリン抵抗性、遺伝子型3のC型肝炎、無βリポタンパク血症、及び一部の薬物のような幾つかの因子に関連し得る。特に、本発明は、アルコール性脂肪症及び非アルコール性脂肪症の両方の診断に関する。
【0021】
定義によれば、識別の点での最良の指標(「脂肪症スコア」)は、独立因子を組み合わせたロジスティック回帰関数であった。
【0022】
ロジスティック関数は、ロジスティック回帰で個別に確定された各パラメータの相対的なウエイトを、マーカーが肝臓脂肪症の病期と逆相関を有する場合には負の符合と組み合わせることにより得られる。対数は、その値の範囲が非常に大きいマーカーに使用される。
【0023】
ロジスティック関数の質は、診断に望ましい閾値に応じて得られる受信者動作特性(ROC)曲線を用いて分析される。ROC曲線を得る方法は実施例に記載されている。本発明では、患者の分類は、肝臓脂肪症の種々のグレード(なし=0%、軽度=1〜5%、中程度=6〜32%、(顕著及び重度)=33〜100%、ここで各パーセンテージは、脂肪症を伴う肝細胞のパーセンテージを指す)に従って行われるが、患者の分類は、顕著又は重度の等級のみの患者の診断を目的とする場合には変更することができる。この場合、別のROC曲線が得られることになる。
【0024】
患者における肝臓脂肪症の有無の診断は、集団における肝臓脂肪症の予想有病率に関するデータによりさらに精緻にすることができる。
【0025】
ロジスティック関数は、他の臨床的マーカー又は生化学マーカーをさらに含んでもよい。好適な実施形態では、ロジスティック関数は患者の年齢及び性別も含む。別の実施形態では、ロジスティック関数はまた、総ビリルビン、ハプトグロビン、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、グルコース、及び(コレステロール又はHDL−コレステロール)のような他の生化学マーカーを含んでもよい。好ましくは、ロジスティック関数は、少なくとも1個又は2個、より好ましくは3個〜5個のこれらの他の生化学マーカーを含む。最も好ましくは、ロジスティック関数はまた、総ビリルビン、ハプトグロビン、グルコース、及びコレステロールを含んでもよい。
【0026】
本発明による方法の過程a)で定量される生化学マーカーは「簡素な」生化学マーカーであり、このことは、これらのマーカーが当該技術分野で既知の方法(クロマトグラフィー、電気泳動、ELISA分析・・・)で容易に定量されることを意味する。
【0027】
ロジスティック関数における種々のマーカーについて得られた値に使用される種々の係数は、実施例で記載されるように、統計学的分析を通して算出することができる。
【0028】
特に、本発明の方法を実施するために使用することができる適切なロジスティック関数は、以下である。
f=a1−a2・[年齢(才)]+a3・[ApoA1(g/L)]−a4・[ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)]+a5・Log[アルファ−2−マクログロブリン(g/L)]−a6・Log[ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(IU/L)]−a7・Log[総ビリルビン(μmol/L)]−a8・[コレステロール(mmol/L]−a9・Log[GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)(IU/L)]−a10・[グルコース(mmol/L)]−a11・Log[ハプトグロビン(g/L)]−a12・[トリグリセリド(mmol/L)]+a13・[性別(女性=0、男性=1)]であり、式中、
a1は、[6.68805−x%;6.68805+x%]の区間に含まれ、
a2は、[1.55337E−02−x%;1.55337E−02+x%]の区間に含まれ、
a3は、[1.161531−x%;1.161531+x%]の区間に含まれ、
a4は、[0.11889−x%;0.11889+x%]の区間に含まれ、
a5は、[1.74791−x%;1.74791+x%]の区間に含まれ、
a6は、[0.96453−x%;0.96453+x%]の区間に含まれ、
a7は、[0.11958−x%;0.11958+x%]の区間に含まれ、
a8は、[0.68125−x%;0.68125+x%]の区間に含まれ、
a9は、[1.17922−x%;1.17922+x%]の区間に含まれ、
a10は、[1.46963−x%;1.46963+x%]の区間に含まれ、
a11は、[0.34512−x%;0.34512+x%]の区間に含まれ、
a12は、[1.17926−x%;1.17926+x%]の区間に含まれ、そして
a13は、[0.35052−x%;0.35052+x%]の区間に含まれる。
【0029】
「[a−x%;a+x%]の区間」は、[(100−x)/100・a;(100+x)/100・a]の区間を意味する。好ましくは、xは、最大で90、80又は70であり、より好ましくは最大で60、50又は40であり、さらに好ましくは最大で30、20、10又は5である。係数aiは全て、小数点以下5桁の数字まで切り捨てることができる。例えば、xが90に等しいとき、a13は[0.03505;0.66598]の区間に含まれる。
【0030】
実際に、種々の関数における係数のための数値の定義は、研究する患者の数及び特徴に応じて変化してよい。したがって、種々のマーカーの係数に付与される値は、本発明の範囲を低減させることなく、わずかに異なることが可能であると解釈されなくてはならない。
【0031】
xがゼロに等しい場合、特定の有用な関数は、以下のとおりである。
f=6.68805−1.55337E−02・[年齢(才)]+1.161531・[ApoA1(g/L)]−0.11889・[ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)]+1.74791・Log[アルファ−2−マクログロブリン(g/L)]−0.96453・Log[ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(IU/L)]−0.11958・Log[総ビリルビン(μmol/L)]−0.68125・Log[コレステロール(mmol/L)]−1.17922・Log[GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)(IU/L)]−1.46963・Log[グルコース(mmol/L)]−0.34512・Log[ハプトグロビン(g/L)]−1.17926・Log[トリグリセリド(mmol/L)]+0.35052・[性別(女性=0、男性=1)]
【0032】
ロジスティック関数による生物学的マーカーの値の分析により得られる最終値に応じて、患者の肝臓脂肪症の有無に関する結論を出すことが可能である。また、肝臓脂肪症のグレードをROC曲線の描線における閾値として取ることにより、肝臓脂肪症のグレードに関して結論付けることが可能である。
【0033】
したがって、或る特定の実施形態では、本発明は、ロジスティック関数の最終値がさらに肝臓脂肪症のグレードの診断に使用される、上述した方法に関するものである。肝臓脂肪症の種々のグレードは、肝生検の組織学的特徴に従って定義される。肝臓脂肪症のグレードの、より正確な定義は、実施例1で提供される。
【0034】
本発明による方法は、ロジスティック関数の最終値から推論される肝臓脂肪症のグレードに基づいて疾患の進展を予測する過程をさらに含んでもよい。特に、0.30のカットオフでの脂肪症スコアは、種々の群にしたがって85%〜100%の範囲の非常に高い感度を有し(表4)、0.70のカットオフでの脂肪症スコアでは、83%〜100%の範囲の非常に高い特異度を有する。さらに、FibroTestに関してすでに実証されたように(Poynard 2004 Clin Chem 2004)、Steatoスコアと生検との間の不一致の多くは生検の誤差(小さな標本のサイズ)によるものであった。本発明の方法では、80%以上、肝生検の必要性を低減させることが期待される。臨床医は、肝硬変を招くか或いは肝臓検査における異常を示す、主要な組織学的特徴である、脂肪症に関する脂肪症スコア、線維症に関する線維症スコア(FibroTest、Biopredictive,Paris,France)、慢性C型肝炎及び慢性B型肝炎の壊死性炎症性の特徴に関する活性スコア(ActiTest、Biopredictive,Paris,France)の推定値を初めて得ることができる。生検は、線維症スコア(FibroTest)について示されるような解釈不可能な要素、即ち、急性炎症、ジルベール症候群、又は溶血(Poynard Clin Chem 2004)の場合の二次治療においてのみ指示されるはずである。
【0035】
本発明によれば、ロジスティック関数の最終値から推論される肝脂肪症のグレードは、医師が疾患の病期に従って患者に適した治療を選択するためにも非常に有益であり得る。
【0036】
また、前記肝臓脂肪症のグレードに基づいて、医師は患者に対して肝生検を実施するか否かを決定してもよい。
【0037】
診断を受けている患者群における肝臓脂肪症の有病率に応じて、本発明の方法により得られるデータを使用して、患者に対して肝生検を実施する必要性を決定することができる。本発明の方法は、およそ80%、肝生検の必要性を低減させることが期待される。
【0038】
本発明の方法は、肝硬変へ進行する可能性がある肝臓脂肪症を伴うあらゆる疾患を患っている患者に使用することを目的としている。「肝臓脂肪症を伴う疾患」とは、肝臓脂肪症への進行を招く可能性があるすべての疾患を意味する。特に、本発明の方法は、B型肝炎及びC型肝炎、アルコール依存症、ヘモクロマトーシス、代謝障害、糖尿病、肥満症、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、アルファ−1−アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病から成る群に含まれる疾患を患う患者において肝臓脂肪症を検出するため有利に実施される。
【0039】
本発明の方法は、特に、肝線維症及び/又は肝臓の壊死性炎症性病変の存在についての診断試験をすでに受けた患者に使用することを目的としている。
【0040】
より好ましくは、本発明の方法は、参照により本明細書に援用される米国特許第6631330号明細書に記載されるようなFibroTest/ActiTestの診断試験をすでに受けた患者に使用することを目的としている。
【0041】
本発明は、生化学マーカーの定量により患者における肝臓脂肪症の有無を決定するための説明書を含む、患者における肝臓脂肪症の診断用のキットにも関するものである。
【0042】
説明書は、生化学マーカーの量の確定後に使用する必要があるロジスティック関数を含んでもよい。説明書は印刷支持体、並びにソフトウェアのようなコンピュータで使用可能な支持体として表示することができる。また、説明書は、ロジスティック関数から得られる最終データの分析を可能にするために、求められる閾値に応じたROC曲線を含んでもよい。また、説明書は、患者群における肝臓脂肪症の予想有病率に応じた、的中率を得ることを可能にする様々な表を含んでもよい。
【0043】
また、本発明による診断キットは所望の生物学的マーカーの定量を可能にする要素を含有してもよい。
【0044】
また、前記診断キットは、肝臓脂肪症の種々のグレード(なし=0%、軽度=1〜5%、中程度=6〜32%、顕著=33〜66%、重度=67〜100%)、及び他の中間のグレードの定量化に関する説明書を含んでもよい。
【0045】
本発明の方法は容易に自動化することができ、マーカーの定量は自動的に実施され、データは、ロジスティック関数の値を算出し、ROC曲線を用いてその値を分析するコンピュータ又は計算機へ送信されて、最終的には患者群における肝臓脂肪症の有病率となる。したがって、医師により得られるデータは、より容易に解釈可能であり、生検の必要性又は処方するのに適切な治療を決定するためのプロセスの改善を可能にする。
【0046】
以下の実施例は、発明の態様を説明するためのものであり、本発明の方法を反復するための手順を提供するが、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0047】
患者及び方法
1.1.患者
血清が利用可能であり、肝生検材料間に差がなく、血清と生検材料の採取の期間が3ヶ月より短い患者が包含される。(図1)。包含されない基準としては、利用不可能な血清、利用不可能な生検材料、及び生検材料と血清とが3ヶ月以上離れて採取された患者が挙げられる。分析は、第一の群(訓練群)で実施し、3つの異なる群(検証群)で検証した。
【0048】
訓練群の患者は、この特定の分析にレトロスペクティブに包含されたが、2000年9月から2004年8月にFibroTestの以前のプロスペクティブな検証研究ですでに分析されている(Poynard T,et al.Comp.Hepatol.2004;3:8; Myers RP,et al.J Hepatol.2003;39:222−30;Ratziu V,et al.Hepatology 2003;38:510A)。全て、NAFLD、C型肝炎、B型肝炎及びアルコール性肝疾患のためGroupe Hospitalier Pitie−Salpetriereの肝臓・消化器病科に入院している入院患者であった。
【0049】
検証群1の患者(C型肝炎患者)は、慢性C型肝炎の患者における肝臓脂肪症の研究からレトロスペクティブに分析した(Poynard T,et al.Hepatology.2003;38:75−85)。この目的のため、PEG−IFNとリバビリンのプロスペクティブな多施設無作為試験でこれまでは治療されていない患者が包含された。ベースラインでのバイオマーカー及び生検の結果を用いた。
【0050】
検証群2の患者(HCVが検出不可能な、以前C型肝炎であった患者)は、持続性ウイルス学的著効を示し「治癒」している、つまりHCVのRNAが治療の終了から24週間後に検出不可能である、検証群1と同一の無作為試験の患者であった(Poynard T,et al.Hepatology.2003;38:75−85)。治療の終了から24週間後に実施したバイオマーカー及び生検の結果を使用した。この群は、考えられるウイルス性脂肪症が治療により治癒しているため、NAFLDの検証群とみなされた(Poynard T,et al.Hepatology.2003;38:75−85)。
【0051】
検証群3の患者(アルコール性肝疾患患者)は、この特定の分析にレトロスペクティブに包含されたが、一つの主要な評価項目が生化学マーカーの同定であるアルコール依存症患者コホートにおいて1998年から2000年にプロスペクティブに包含された。このコホートの詳細は、FibroTestの検証研究において近年公開された(Naveau S,et al.Clin.Gastroenterol.Hepatol.2005 in press)。全て、アルコール性肝疾患の合併症のためHopital Antoine Beclereの肝臓・消化器病科に入院している入院患者であった。
【0052】
種々の群の患者の特徴を表1に列挙する。
【0053】
【表1】

【0054】
対照群もまた分析した。対照群は、FibroTestの検証に以前包含された、明らかに健常な空腹時及び非空腹時のボランティア(Munteanu M,et al.Comp.Hepatol.2004;3,3)、及び追加の非空腹時の血液ドナーから構成された。
【0055】
1.2.血清マーカー
10個の以下の生化学マーカーを種々の群について評価した。ApoA1、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、アルファ−2−マクログロブリン、GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)、総ビリルビン、ハプトグロビン、コレステロール、グルコース、及び、トリグリセリド。
【0056】
これらの10個の生化学マーカーは、年齢及び性別により調節されたFibroTest−ActiTestの6つの要素(特許された人工知能アルゴリズム、米国特許第6631330号明細書)に加えて、AST、コレステロール、グルコース、トリグリセリドマーカー、及びBMIを包含する。
【0057】
FibroTest(Biopredictive, Paris, France;FibroSURE LabCorp,Burlington,NC,USA)は、以前に公開されたように確定された(Poynard T,et al.Comp Hepatol.2004;3:8; Myers RP,et al.J Hepatol.2003;39:222−30;Callewaert N,et al.Nature Med 2004;10;1−6; Naveau S,et al.Clin Gastroenterol Hepatol in press;Imbert−Bismut F,et al.Clin Chem Lab Med 2004;42:323−33; Munteanu M,et al.Comp Hepatol 2004;3:3)。
【0058】
公開された推奨の事前分析方法及び分析方法を使用した(Poynard T,et al.Comp Hepatol.2004;3:8;Myers RP,et al.J Hepatol. 2003;39:222−30; Callewaert N,et al.Nature Med 2004;10;1−6;Naveau S,et al.Clin Gastroenterol Hepatol in press;Imbert−Bismut F,et al.Clin Chem Lab Med 2004;42:323−33;Munteanu M,et al.Comp Hepatol 2004;3:3)。
【0059】
訓練群及び対照群では、GGT、ALT、血清グルコース、トリグリセリド、コレステロール及び総ビリルビンを、製造業者の試薬を使用して、Hitachi917分析器又はModularDP分析器(ともに、Roche Diagnostics Mannheim,Germany)により測定した。アポリポタンパク質A1、アルファ−2−マクログロブリン、及びハプトグロビンを、自動比濁計BNII(Dade Behring;Marburg,Germany)を使用して測定した。
【0060】
検証群1と2では、GGT、ALT、血清グルコース、トリグリセリド、コレステロール及び総ビリルビンを、製造業者の試薬を使用してHitachi747又はHitachi917(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN,USA)を用いて測定した。アポリポタンパク質A1、アルファ−2−マクログロブリン及びハプトグロビンを、自動比濁計(BNII、」Dade Behring;Marburg,Germany)を使用して血清サンプル中で測定した。
【0061】
検証群3では、ALT、GGT、血清グルコース、トリグリセリド、コレステロール、総ビリルビン及びハプトグロビンを、製造業者の試薬(Olympus,Rungis France)を使用して自動分析器(Olympus AU 640 Automate)により測定した。アルファ−2−マクログロブリン及びアポリポタンパク質A1を、自動比濁計(BNII、Dade Behring;Marburg,Germany)を使用して測定した。
【0062】
分析の変動係数は全て、10%未満であった。
【0063】
1.3.組織学的グレード決定
組織学的グレード決定は、肝生検に基づいて実施した。共通規則を種々の群において適用し、患者の特徴を知らない一群当たり一人の病理学者が組織学的特徴を分析した。肝生検材料は、標準的な技術を使用して処理した。
【0064】
肝臓脂肪症を四つのグレードへのスコアリングシステムで0〜4にスコア付けした:0=脂肪症なし、1〜5%=軽度、6〜32%=中程度、33〜66%=顕著、67〜100%=重度であり、パーセンテージは全て脂肪症に関与する肝細胞のパーセントを指す(Poynard T,et al.Hepatology.2003;38:75−85)。主な組織学的基準は、脂肪症のグレード2〜4(6%〜100%の間)の存在であった。
【実施例2】
【0065】
統計学的分析
統計学的分析は、フィッシャーの正確確率検定、カイ二乗検定、スチューデントt検定、マンホイットニー検定、並びにボンフェローニの全ペアワイズ検定及びテューキー・クレーマー多重比較検定を使用した分散分析を使用して、多変量解析のための多重比較及び多重ロジスティック回帰を考慮に入れた(Hintze JL.NCSS 2003 User Guide.Number Cruncher Statistical Systems 2003 software NCSS,Kaysville,Utah)。分析は、表1で見られるような患者コホートにおいて、第一の群(訓練群)で実施し、3つの異なる群(検証群1、2及び3)で検証した。
【0066】
肝臓脂肪症のスコアリングシステムに従って、患者を幾つかの群に分けた。
【0067】
第一の結果は、肝臓脂肪症のグレード2、3又は4(中程度、顕著又は重度)を有する患者の同定であった。
【0068】
第二の分析では、患者を4つの尺度のスコアリングシステムに従って分類した。
【0069】
第一段階は、カイ二乗検定、スチューデントt検定又はマンホイットニー検定を使用した一次元分析により、これらの群間で有意に異なる因子を同定することから構成される。
【0070】
第二段階は、線維症の診断のためのマーカーの独立した識別値を評価するためのロジスティック回帰分析から構成される。
【0071】
第三段階は、これらの同定された独立因子を組み合わせた指標を構築することであった。定義によれば、識別に関する最良の指標(「脂肪症スコア」)は、独立因子を組み合わせたロジスティック回帰関数であった。以下の全ての実施例では、脂肪症スコアは、「SteatoTestスコア」と称される。SteatoTestスコアは0〜1.00の範囲であり、スコアが高ければ、重大な病変がある可能性が高いということである。
【0072】
マーカーの診断値は、感度、特異度、陽性的中率(PPV)と陰性的中率(NPV)、及び受信者動作特性(ROC)曲線下の面積を用いて評価した(Hintze JL.NCSS 2003 User Guide.Number Cruncher Statistical Systems 2003 software NCSS,Kaysville,Utah)。
【0073】
各々の全体的な診断値は、ROC曲線下の面積により比較した。ROC曲線は、種々の閾値(0〜1)で、ロジスティック関数に関して得られた値に従って患者を分類した後に、(1−特異度)に対する感度をプロットすることにより描かれる。通常、その下の面積が0.7を超える値を有するROC曲線が診断にとって良好な予測曲線であることが認められている。ROC曲線は、診断法の質を予測することを可能にする曲線として認められなくてはならない。
【0074】
ROC曲線下の面積は、経験的なノンパラメトリック法を使用して算出した。また、感度分析も、生検標本のサイズに従って第一の結果についてマーカーの精度を測定するために実施した。全ての分析に関して、両側検定を使用した。0.05以下のP値は有意であるとみなした。全ての分析に関して、Number Cruncher Statistical Systems 2003 ソフトウェア(NCSS, Kaysville,Utah)を使用した(Hintze JL.NCSS 2003 User Guide.Number Cruncher Statistical Systems 2003 software NCSS,Kaysvilles,Utah)。
【0075】
これらの統計学的分析は、これまでに定義したように種々の群に関して別々に実施した。
【実施例3】
【0076】
ロジスティック関数の確定
「SteatoTestスコア」は、肝臓脂肪症の有無の識別に関する最良の指標を再現する、独立因子を組み合わせたロジスティック回帰関数として定義される。
【0077】
表2に、10個の各生化学マーカー、FibroTestスコア及びSteatoTestスコアに関する肝臓脂肪症の存在、並びに線維症とのそれらの個別の関連性に従う患者の特徴を示した(P値)。
【0078】
訓練群では、単変量分析におけるグレード2〜4の脂肪症の存在に関連する最も有意な要素は、BMI、年齢、ALT、AST、GGT、グルコース、及びトリグリセリドであった。
【0079】
ロジスティック回帰分析では、最も有意な要素は、BMI(OR=0.89、P=0.0002)、GGT(OR=0.31、P=0.002)、アポリポタンパク質A1(OR=3.20、P=0.01)、アルファ−2−マクログロブリン(OR=5.74、P=0.02)、ALT(OR=0.38、P=0.03)、及びトリグリセリド(OR=0.31、P=0.04)であった。
【0080】
検証群では同程度の差が見られ、BMI、GGT、ALT、及びトリグリセリドに関して最も有意であった(表2)。
【0081】
【表2】

【0082】
9個のマーカーと年齢、性別及びBMIを組み合わせた最良のロジスティック関数(SteatoTest)は、以下のように訓練群で確定した。
f=6.68805−1.55337E−02・[年齢(才)]+1.161531・[ApoA1(g/L)]−0.11889・[ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)]+1.74791・Log[アルファ−2−マクログロブリン(g/L)]−0.96453・Log[ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(IU/L)]−0.11958・Log[総ビリルビン(μmol/L)]−0.68125・Log[コレステロール(mmol/L]−1.17922・Log[GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)(IU/L)]−1.46963・Log[グルコース(mmol/L)]−0.34512・Log[ハプトグロビン(g/L)]−1.17926・Log[トリグリセリド(mmol/L)]+0.35052・[性別(女性=0、男性=1)]
【0083】
この関数は、ロジスティック回帰で個別に確定した各パラメータの相対的なウエイトを、マーカーが肝臓脂肪症の病期との逆相関を有する場合に負の符合と組み合わせることにより、訓練群で得られた。対数は、その値の範囲が非常に大きいマーカーに使用した。
【0084】
年齢、性別及びBMIにより調節した、9個のマーカー(アルファ−2−マクログロブリン、ALT、ApoA1、ハプトグロビン、GGT、及び総ビリルビン)を組み合わせるSteatoTestスコアの値は、訓練サンプル並びに検証サンプルで、肝臓脂肪症の有無と高い相関があった(表2)。
【0085】
本研究の主要な発見の一つは、マーカーを組み合わせると、GGT及びALTのようなこれまでに推奨された従来の通常の試験に対して脂肪症の診断値が非常に有意に改善することである。BMI、グルコース、トリグリセリドのようなインスリン抵抗性の単純なマーカーにより、ALT及びGGTの診断値が増大した。これは、肝臓脂肪症の種々の原因においてこれまでに実証されていなかった。さらに、脂肪症の診断に関しては、ALTの診断値はGGTよりもはるかに大きいことが初めて実証された。また興味深いことに、GGT値は、ALTと比較して、脂肪症の重篤性に応じて増加しなかった。
【実施例4】
【0086】
データの分析
4.1 肝臓脂肪症の診断のためのSteatoTestスコアの信頼性
種々の患者群に関するSteatoTestスコアの診断値(ROC曲線下の面積)を表3に示す。0.30、0.50及び0.70のカットオフでのSteatoTestスコアの感度、特異度、及び、陽性的中率と陰性的中率を表4に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
結果は全て、SteatoTestスコアが、非常に高い診断値(ROC曲線の下の面積、表3を参照)、及び、肝臓脂肪症の診断のための高い特異度、感度、及び、陽性的中率又は陰性的中率を得ることができることを示す(表4を参照)。
【0090】
SteatoTestスコアの診断値(ROC曲線の下の面積)は、訓練群と検証群1、2及び3との間で高度に再現性があった。また、感度も訓練群と検証群1、2及び3との間で極めて高度に再現性があった(表4)。さらに、研究した種々の集団において観察されるSteatoTestスコアの感度及び特異度は、ボランティア及び血液ドナーにおいて優れた特異度が観察されたこと(図2E)、及び、本研究が病的肥満のような幾つかの代謝危険因子を有する限られた数の患者を包含していたことから、より一般的な集団においてはおそらく増大するであろう。
【0091】
一部の患者に関して、生検とSteatoTestスコアによる肝臓脂肪症の存在について診断が不一致であった。生化学マーカーと生検により予測された5%を超える肝臓脂肪症の存在の不一致の原因は、これまでに詳述されたような不良の各々の危険因子に従って生じた(Poynard T,et al.Clin.Chem.2004;50:1344−55)。有意な不一致は、SteatoTestスコアにより予測された又は生検標本において観察された、5%を超える肝臓脂肪症(グレード2〜4)の予測における不一致として、また、5%を超える肝臓脂肪症のパーセンテージにおける30%以上の差として定義した。SteatoTestスコアの不良の危険因子は、溶血、ジルベール症候群、急性炎症及び肝外胆汁うっ滞であった。生検の不良の危険因子は、生検標本のサイズ(25mm未満)及び断片化(二つ以上の断片)であった。生検標本が15mm未満であり、且つ断片化され、さらに少なくとも一つの代謝危険因子が存在する場合に、生検に起因する不良(偽陰性)が疑われた。
【0092】
訓練群では、STにより予測される脂肪症のパーセンテージと生検標本で観察される脂肪症のパーセンテージとの間の有意な不一致が56事例(18%)見られた。STに起因する不良(STの偽陽性)は、慢性B型肝炎に付随する急性薬物性肝炎を有する一事例で疑われた。生検に起因する不良(生検の偽陰性)は、生検標本の質が悪く(平均長さ13mm、2つの断片)少なくとも一つの代謝危険因子を伴う16の事例で疑われた。
【0093】
検証群に関しては、有意な不一致は、群1では17事例(16%)、群2では20事例(10%)、及び、群3では13事例(21%)で観察された。有意な不一致は、広範な線維症を伴う患者(病期F3又はF4)においてより多く観察された:609事例のうちの91事例(15%、P=0.001)に対して135事例のうちの38事例(28%)。
【0094】
侵襲的で且つ高価な生検診断と比較して、本発明の方法が、患者に対する多くの不必要な治療、又は、治療を必要とする患者の排除を招かないものであるということに留意することが非常に重要である。本出願で提示されるデータは、本発明による診断方法の信頼性を高める。
【0095】
4.2 他の非侵襲的な診断試験(FibroTest、50IU/LのGGT、及び50IU/LのALT)とSteatoTestとの比較
SteatoTestスコア(年齢、性別及びBMIにより調節した9つの生化学パラメータを使用)で得られる結果を、肝臓脂肪症の有無を示すために有用なマーカーであると通常考えられているGGT及びALTのような単離されたマーカーを用いて得られる結果と比較した。同一の標準的なカットオフ値である50IU/Lを、GGT及びALTに使用する。前記カットオフ値未満で、肝臓脂肪症の診断は陰性であるとみなし、前記カットオフ値を超えると肝臓脂肪症の診断は陽性であるとみなす。
【0096】
個々の生化学マーカー、FibroTest及びSteatoTestスコアに関する肝臓脂肪症の存在に従った患者の特徴を表2に示した。
【0097】
FibroTestと比較して、SteatoTestスコアは、分析した全ての群において、特に訓練群及び検証群2に関して、肝臓脂肪症の有無のはるかに良好な識別を可能にする(表2)。
【0098】
主要な項目評価(即ち、グレード2〜4の肝臓脂肪症)の診断について、SteatoTestスコア、50IU/LのGGT、及び、50IU/LのALTの診断値(ROC曲線の下の面積)を表3に示した。SteatoTestスコアは、分析した全ての群において50IU/LのGGTよりも、また訓練群及び検証群1においては50IU/LのALTよりも、大きいROC曲線下の面積を有する(表3)。
【0099】
0.30、0.50又は0.70のカットオフでのSteatoTestスコア、並びに50IU/LのGGT及び50IU/LのALTの感度、特異度、及び陽性的中率と陰性的中率を表4に示した。グレード2〜4の脂肪症の診断に関して、0.50のカットオフでのSteatoTestスコアは、訓練群及び検証群のそれぞれに従って、良好な感度(0.69、0.89、0.68及び0.62)及び良好な特異度(0.74、0.58、0.79、1.00)を得た。さらに、0.50のカットオフでのかかるSteatoTestスコアは、検証群1における50IU/LのALTの陰性的中率を除いて、分析した全ての群において50IU/LのGGT及び50IU/LのALTよりも高い陽性値及び陰性値を示す。
【0100】
さらに、肝臓脂肪症の種々のグレード間の識別に関しては、分析した全ての群において、50IU/LのGGT及び50IU/LのALTと比較してSteatoTestスコアで最良のものが得られる(図2)。
【0101】
また、肝臓脂肪症の種々のグレード間の識別も、訓練群、三つの検証群及び対照群の全ての包含された被験者(884人の被験者)から構成される、統合されたデータベースで分析した。
【0102】
対照から「33〜100%」まで、SteatoTestスコアと脂肪症のグレードとの間に非常に有意な全体的な相関が見られた(グレード3〜4、図3を参照)。SteatoTestスコアに関して、平均値間の全てのペアワイズの差について、テューキー・クレーマー多重比較検定で全てのグレード間で有意な差が見られた(P<0.05)。一方、GGT及びALTに関しては、「脂肪症なし」(グレード0)と「5%未満」(グレード1)との間で有意な差は見られなかった。ALTに関しては、「脂肪症なし」(グレード0)と「6〜32%」(グレード2)、「5%未満」(グレード1)と「6〜32%」(グレード2)、及び「6〜32%」(グレード2)と「33〜66%」(グレード3)との間でも有意な差は見られなかった。
【0103】
結論として、本発明は、肝臓脂肪症の有無の検出に使用するための、年齢、性別及びBMIにより調節された少なくとも5個、好ましくは9個の生化学マーカーの組み合わせを提示する。本発明で使用されるマーカーは、ROC曲線下の面積により示されるような、このように良好な的中率を得るべく、特に患者の年齢、性別及びBMIとこのように組み合わされたことはかつてなかった。
【0104】
本発明の診断方法は、マーカーの値の自動測定後に自動的に分析することができ、肝生検の指示を低減させるために、肝臓脂肪症を伴う疾患の患者に有利に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】分析した、訓練群及び検証群に包含される患者のフローチャートを示す図。
【図2】SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。
【図2A】訓練群における、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。
【図2B】検証群1における、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。
【図2C】検証群2における、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。
【図2D】検証群3における、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。
【図2E】対照群における、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と、肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。
【図3】対照群、訓練群及び検証群を組み合わせた、統合されたデータベースにおける、SteatoTest、GGT(IU/L)及びALT(IU/L)と肝臓脂肪症のグレードとの間の関係性を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血清又は血漿サンプルから肝臓脂肪症を診断するためのin vitroでの方法であって、
a)5つの生化学マーカー、
−ApoA1(アポリポタンパク質A1)、
−アルファ−2−マクログロブリン、
−ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、
−GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)及び
−トリグリセリド
を、前記患者の血清又は血漿におけるそれらの濃度の値を測定することにより研究する過程、
b)ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)、ウエストサイズ、及び(ウエストサイズ/ヒップサイズ)比から成る群において選択される一つの臨床的マーカーを研究する過程、
c)前記マーカーを含むロジスティック関数を通して前記値を組み合わせて最終値を得る過程であって、前記ロジスティック関数が、
i)患者の疾患の程度に従った、種々の群への患者コホートの分類、
ii)一次元分析による、これらの群間で有意に異なる因子の同定、
iii)肝臓脂肪症の診断のためのマーカーの独立した識別値を評価するためのロジスティック回帰分析、
iv)これらの同定された独立因子の組み合わせによるロジスティック関数の構築、
の方法から得られる過程、
からなる方法。
【請求項2】
前記ロジスティック関数が、患者の年齢及び性別をさらに考慮に入れる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ロジスティック関数が、総ビリルビン、ハプトグロビン、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、グルコース、及び(コレステロール又はHDL−コレステロール)から成る群において選択される少なくとも一つの生化学マーカーをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ロジスティック関数が、総ビリルビン、ハプトグロビン、グルコース及びコレステロールを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ロジスティック関数が、
f=a1−a2・[年齢(才)]+a3・[ApoA1(g/L)]−a4・[ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)]+a5・Log[アルファ−2−マクログロブリン(g/L)]−a6・Log[ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(IU/L)]−a7・Log[総ビリルビン(μmol/L)]−a8・[コレステロール(mmol/L]−a9・Log[GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)(IU/L)]−a10・[グルコース(mmol/L)]−a11・Log[ハプトグロビン(g/L)]−a12・[トリグリセリド(mmol/L)]+a13・[性別(女性=0、男性=1)]であり、式中、
a1が、[6.68805−90%;6.68805+90%]の区間に含まれ、
a2が、[1.55337E−02−90%;1.55337E−02+90%]の区間に含まれ、
a3が、[1.161531−90%;1.161531+90%]の区間に含まれ、
a4が、[0.11889−90%;0.11889+90%]の区間に含まれ、
a5が、[1.74791−90%;1.74791+90%]の区間に含まれ、
a6が、[0.96453−90%;0.96453+90%]の区間に含まれ、
a7が、[0.11958−90%;0.11958+90%]の区間に含まれ、
a8が、[0.68125−90%;0.68125+90%]の区間に含まれ、
a9が、[1.17922−90%;1.17922+90%]の区間に含まれ、
a10が、[1.46963−90%;1.46963+90%]の区間に含まれ、
a11が、[0.34512−90%;0.34512+90%]の区間に含まれ、
a12が、[1.17926−90%;1.17926+90%]の区間に含まれ、そして
a13が、[0.35052−90%;0.35052+90%]の区間に含まれる、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ロジスティック関数が、
f=6.68805−1.55337E−02・[年齢(才)]+1.161531・[ApoA1(g/L)]−0.11889・[ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)]+1.74791・Log[アルファ−2−マクログロブリン(g/L)]−0.96453・Log[ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(IU/L)]−0.11958・Log[総ビリルビン(μmol/L)]−0.68125・Log[コレステロール(mmol/L)]−1.17922・Log[GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)(IU/L)]−1.46963・Log[グルコース(mmol/L)]−0.34512・Log[ハプトグロビン(g/L)]−1.17926・Log[トリグリセリド(mmol/L)]+0.35052・[性別(女性=0、男性=1)]
である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者が脂肪症を伴う疾患を患う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記疾患が、B型肝炎及びC型肝炎、アルコール依存症、ヘモクロマトーシス、代謝障害、糖尿病、肥満症、自己免疫性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、アルファ−1−アンチトリプシン欠乏症、及びウィルソン病から成る群に包含される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が、肝線維症及び/又は肝臓の壊死性炎症性病変の存在についての診断試験をすでに受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記診断試験がFibroTest/ActiTestである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
患者の肝臓脂肪症の診断用のキットであって、
a)前記患者における肝臓脂肪症の存在を確定するための説明書、
b)5つの生化学マーカー、
−ApoA1(アポリポタンパク質A1)、
−アルファ−2−マクログロブリン、
−ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、
−GGT(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)及び
−トリグリセリド
の濃度の血清値を測定するための試薬、
c)任意で、総ビリルビン、ハプトグロビン、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、グルコース、又は(コレステロール又はHDL−コレステロール)の濃度の血清値を測定するための少なくとも1つの試薬、
d)最終値を得るための、ボディ・マス・インデックス(体重/身長2)、ウエストサイズ、及び(ウエストサイズ/ヒップサイズ)比から成る群において選択される一つの臨床的マーカーと前記値とを組み合わせるために使用されるロジスティック関数を使用するための説明書、
を含む診断用のキット。
【請求項12】
ROC曲線をさらに含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
患者群における肝臓脂肪症の予想有病率に応じた、的中率を得ることを可能にする表をさらに含む、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
肝臓脂肪症の種々のグレード(なし=0%、軽度=1〜5%、中程度=6〜32%、顕著=33〜66%、及び重度=67〜100%)及び他の中間のグレードの定量化に関する説明書をさらに含む、請求項11に記載のキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−529030(P2008−529030A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553738(P2007−553738)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【国際出願番号】PCT/IB2006/000333
【国際公開番号】WO2006/082522
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507240336)
【Fターム(参考)】