説明

生化学検査装置

【課題】生化学分析方法において、検体を展開させる展開層に検体を均一に展開する。
【解決手段】検体を展開させる展開層12b1を備えた分析チップ12を使用して、検体を測定する生化学分析方法であって、分析チップ12に検体を供給し、検体を供給された分析チップ12に超音波振動を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の検体を分析する分析用チップに検体を供給して生化学分析を行う生化学分析方法および生化学分析装置に関し、特に検体を展開させる展開層を使用する生化学方法および生化学分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、検体の小滴を点着供給するだけでこの検体中に含まれている特定の化学成分または有形成分を定量分析することのできる比色タイプの乾式分析素子や検体に含まれる特定イオンのイオン活量を測定することのできる電解質タイプの乾式分析素子が開発され、実用化されている。これらの乾式分析素子を用いた生化学分析装置は、簡単かつ迅速に検体の分析を行うことができるので、医療機関、研究所等において好適に用いられている。
【0003】
比色タイプの乾式分析素子を使用する比色測定法は、検体を乾式分析素子に点着した後、これをインキュベータ内で所定時間恒温保持して呈色反応(色素生成反応)させ、次いで検体中の所定の生化学物質と乾式分析素子に含まれる試薬との組み合わせにより予め選定された波長を含む測定用照射光をこの乾式分析素子に照射してその光学濃度を測定し、この光学濃度から、予め求めておいた光学濃度と所定の生化学物質の物質濃度との対応を表す検量線を用いて該生化学物質の濃度を求めるものである。一方、電解質タイプの乾式分析素子を使用する電位差測定法は、上記の光学濃度を測定する代わりに、同種の乾式イオン選択電極の2個1組からなる電極対に点着された検体中に含まれる特定イオンの活量を、参照液を用いてポテンシオメトリで定量分析することにより求めるものである。
【0004】
上記いずれの方法においても、液状の検体は検体容器(採血管等)に収容して装置にセットするとともに、その測定に必要な乾式分析素子を装置に搭載し、乾式分析素子を搭載位置から点着部およびインキュベータへ搬送する一方、点着機構の点着ノズルによって検体を搭載位置から点着部へ供給して乾式分析素子へ点着するものである。
【0005】
一方、血液や尿などのサンプルの分析のために、マイクロ流路が形成されたマイクロチップが使用され始めている。このマイクロチップには、バッファ(緩衝液)を含む試薬がプローブによりマイクロ流路に注入され、次に、高電圧がマイクロ流路に印加される。この高電圧の印加により流路内のサンプル中の各組成分が泳動され、その泳動度の差によってサンプル中の測定対象物質が分離されるようになっている。分離された測定対象物質は、試薬によって識別され、生化学分析装置の検出部で検出される。
【0006】
上記のような乾式分析素子には、検体が試薬層(反応層)へ供給される途中に検体を均一に展開させるための展開層を通過させることによって、反応層に検体を均一に提供して反応層の広範囲において均一な測定結果が得られる。しかしながら、展開層上の点着部から離れた位置などには十分検体を展開できない場合があり、展開層から反応層に移動した検体の量に偏りが生じるため、反応層上で反応ムラが生じていた。
【0007】
また、検体を流路へ流下させる流路型分析チップの場合においても、流路中に検体を展開するメンブレンフィルタなどの展開層を配し、展開層を介して検体を通過させて、この検体を流路中に設けられた被検出物質と特異的に結合する結合物質を固定した被検出物を検出するセンサ部などに検体を供給する場合がある。かかるセンサ部が流路の壁面などに設けられている場合、反応の測定条件を管理するために、展開層を通過させることにより流路内を通過する検体の量を流路断面内で均一になるようにしてから検体をセンサ部に供給したいという要求がある。
【0008】
ここで、特許文献1では、血液の半透膜へ拡散する速度を高める技術が開示されている。具体的には、血液が半透膜に拡散する拡散速度をあげるために中空ファイバの中空部分を流過する血液が中空ファイバの壁膜(半透膜)を介して中空ファイバの外側に存在する透析物溶液へ展開する際に超音波振動を印加する方法を開示している。
【0009】
また、特許文献2では、乾式分析素子に備えられる多孔性膜に試薬を固定するために、試薬層および支持体の一方の材質を多孔性マトリックスにするとともに他方の材質を熱可塑性樹脂にし、乾式分析素子の作成時に、試薬層と支持体層を重ねて、超音波による振動熱と外部からの圧力により樹脂成分をマトリックス内へくい込ませる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2004−529668号公報
【特許文献2】特開平8−220083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、血液を半透膜に対して拡散させる速度が高められるものの、特許文献1に開示された拡散は、血液と透析物溶液の濃度差による浸透圧による拡散または半透膜に電位を与えることによる拡散であるため、上記分析チップのように検体と展開層の親和力により展開層に検体を展開させる場合に、特許文献1の方法をそのまま適用できるかは不明である。
【0012】
また、特許文献2の方法は、検体を点着する乾式分析素子や流路内に検体を流下させて、検体を流路中に設けられたセンサ部などで測定を行う流路型分析チップにおいては、検体を熱可塑性樹脂にして供給することができないため適用することができない。
【0013】
本発明はかかる点に鑑み、検体を分析チップに含まれる展開層に均一に展開させるようにした生化学分析方法および生化学分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による生化学分析方法および装置は、検体を展開させる展開層を備えた分析チップを使用して、前記検体を測定する生化学分析方法または装置であって、前記分析チップに前記検体を供給し、前記検体を供給された前記分析チップに超音波振動を印加するようにしたことを特徴とするものである。
【0015】
「展開層」は、いわゆる毛細管現象のように展開層中の間隙表面と液体の親和力によって展開層中の間隙表面に沿って液体が広がることにより検体を展開させるものであればいかなる素材、厚み、構造であってもよい。例えば、展開層として、メンブレンフィルタや多孔性フイルムなどを好適に適用できる。また、展開層として検体を展開させるため親水性のメンブレンフィルタを好適に適用できる。
【0016】
超音波振動を分析チップに印加する期間は、検体が供給されてから検体に含まれる成分の測定が行われる時までの一部または全部の期間であればいつでもよいが、検体を分析チップに供給する時からできるだけ早い時に開始される期間であることが好ましい。また、この期間は、分析時間を必要以上に延長する長期間にわたって延長することのない範囲で、十分長い期間であることが好ましい。例えば、乾式分析素子であれば数秒程度の期間超音波振動を印加することが考えられる。また、超音波振動は、連続して印加してもよいし、複数回に分けて断続的に印加してもよい。
【0017】
また、上記本発明による生化学分析方法における前記検体の供給は、前記検体を前記分析チップに点着することにより行ってもよい。
【0018】
また、「分析チップ」として、検体を均一に通過させるための展開層を備えたものであればいかなる分析チップを用いてもよい。例えば、展開層を介して均一に展開された検体を試薬層に供給する分析チップとして、検体に対する複数の測定項目に対応する試薬層を含む複数の層からなる乾式分析素子を用いてもよい。また、分析に必要な各種物質や試薬、または、前処理剤などを展開層に含ませることにより展開層を通過する検体に対して各種物質や試薬、または前処理剤を供給するタイプの分析チップや、流路上流から順に展開層と試薬層とを備え、展開層を介して流路断面内で均一に展開された検体が流路下流に設けられた試薬層に供給されるタイプの分析チップを用いてもよい。
【0019】
また、上記本発明による生化学分析方法における前記検体の供給は、前記分析チップが、流路部材内に前記検体を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部に測定部が配設されてなるものの場合には、前記分析チップの前記流路部材の前記測定部より流路上流側に設けられた展開層に検体を供給することにより行ってもよい。
【0020】
また、上記本発明による生化学分析方法における前記超音波振動の印加は、複数の方向から前記分析チップに超音波振動を印加することにより行うことが好ましい。
【0021】
また、上記本発明による生化学分析方法における前記超音波振動の印加を、前記展開層が接する空間を密閉して行うことが好ましい。また、前記展開層が接する空間を超音波振動を印加するための圧電素子により密閉してもよく、前記展開層が接する空間を覆う密封部材により前記展開層が接する空間を密閉してもよい。
【発明の効果】
【0022】
上記のような本発明によれば、検体を展開させる展開層を備えた分析チップを使用して検体を測定する生化学分析方法または装置において、検体が展開層中に展開する時に分析チップに超音波振動を印加するため、検体に与えられる振動エネルギにより、検体の移動を促進し、検体を展開層に均一かつ迅速に展開させることができ、より精度の高い分析ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態による生化学分析装置の概略構成を示す部分断面正面図
【図2】図1の生化学分析装置の素子搬送位置での点着機構を除く要部機構の平面図
【図3】図1の乾式分析素子の搬送経路部分の断面正面図
【図4】乾式分析素子の平面図および底面図
【図5】第1の実施形態における点着部の一部を拡大した概略図
【図6】第1の実施形態の変形例における点着部の部分拡大図
【図7】第2の実施形態による装置を示す概略側面図
【図8】第2の実施形態によるセンサチップの外観を示す概略斜視図
【図9】実施例および比較例の評価結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。この実施形態では生化学分析装置による自動分析装置の例であり、図1は第1の実施形態による生化学分析装置の概略構成を示す部分断面正面図、図2は、図1の生化学分析装置の素子搬送位置での点着機構を除く要部機構の平面図、図3は、第1の実施形態の生化学分析装置の点着部を含む乾式分析素子の搬送経路部分の要部を示す断面正面図、図4は乾式分析素子の平面図および底面図、図5は第1の実施形態における点着部の一部を拡大した概略図である。
【0025】
図2に示すように前記サンプルトレイ2は円形で、検体を収容した検体容器11、未使用の乾式分析素子12(比色タイプの乾式分析素子および電解質タイプの乾式分析素子)を収容した素子カートリッジ13、消耗品(ノズルチップ14、希釈液容器15、混合カップ16および参照液容器17)を搭載する。なお、検体容器11は検体アダプタ18を介して搭載され、ノズルチップ14はチップラック19に多数収納されて搭載される。
【0026】
図4に基づいて、本実施形態において分析チップとして用いられる乾式分析素子12について説明する。図4は比色タイプの乾式分析素子12を示し、点着された検体の呈色度合を測定するために使用される。この乾式分析素子12はプラスチックによる表裏の矩形状のマウント部12a内に試薬層を有する測定要素12bが保持されてなるものである。図4(a)に示す表面のマウント部12aの中央には、点着孔12cが開口されて測定要素12bの表面が露出し、この部分に検体の点着が行われる。また、図4(b)に示す裏面のマウント部12aの中央には、測光孔12dが開口されて測定要素12bの裏面が露出し、この部分の呈色度合が生化学分析装置1の測光ヘッド(不図示)によって測定される。この比色タイプの乾式分析素子12は、異なる試薬(塗布物)で構成された測定要素12bによって測定項目が異なる複数種類のものが同一形状に設けられ、その試薬種別情報(測定項目番号、検体種番号など)と、試薬ロット情報(製造ロット番号、その他製造に係わる固有の番号)とを含む素子情報が設定符号化されたドット配列パターン12eが記録されている。
【0027】
図5に図3の一部を拡大した概略図を示す。図5に示すように、乾式分析素子12における測定要素12bは、点着孔12cから測光孔12dに向かって点着された検体を均一に下方の反応層に展開する展開層12b1、反応層の反応における発色を測定するための反射層12b2、検体を反応させる試薬層である反応層12b3、測定要素12bの各層を支持するとともに検査光を透過させる透明支持体層12b4の順に積層されている。なお、本実施形態では上記マウント部12aが、展開層12b1を含む上記各層からなる測定要素12bを保持する保持部材に相当する。
【0028】
本実施形態では、展開層としてセルロースアセテートを用いて作られたメンブレンフィルタを用いている。なお、本実施形態に限定されず、分析チップに含まれ、検体を展開させるための展開層は、いわゆる毛細管現象のように展開層中の間隙表面と液体の親和力によって展開層中の間隙表面に沿って液体が広がることにより検体を展開させるものであればいかなる素材、厚み、構造であってもよい。
【0029】
例えば、展開層12b1に用いることのできるメンブレンフィルタの例としてとしてセルロースアセテート、セルロースニトレート、再生セルロース、ポリアミド、ビスフェノールAのポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有ポリマー等を用いて作られているメンブレンフィルタがあげられる。また、本発明の乾式分析素子における上記メンブレンフィルタの厚さは、約30μm〜約300μmの範囲内、好ましくは約70μm〜約200μmの範囲内である。メンブレンフィルタの気孔率(空隙率)は、約25%〜約90%、好ましくは約60〜約90%である。また、メンブレンフィルタの平均孔径は約0.01〜約20μm、好ましくは約0.1〜約10μmの範囲内である。これらメンブレンフィルタは、既に多くのメーカーから様々な種類のものが市販されており、これらの市販品の中から必要に応じて選択して用いることができる。
【0030】
また、展開層としては、例えば、特開昭55−164356(対応米国特許 4 292 272)、特開昭57−66359(対応米国特許 4 783 315)等に記載の織物布地展開層(例、ブロード、ポプリン等の平編物布地)、特開昭60−222769(対応EP特許 0 162 302A)等に記載の編物布地展開層(例、トリコット編物布地、ダブルトリコット編物布地、ミラニーズ編物布地)、特開昭57−148250に記載の有機ポリマー繊維パルプ含有抄造紙展開層、特開昭57−125847等に記載の繊維と親水性ポリマーの分散液を塗布して形成した展開層等の繊維質微多孔性展開層;特公昭53−21677(対応米国特許 3 992 158)等に記載のメンブレンフィルタ層(ブラッシュポリマー層)、ポリマーミクロビーズ等の微粒子が親水性ポリマーバインダーで点接触状に接着されてなる連続微空隙含有等方的微多孔性展開層、特開昭55−90859(対応米国特許 4 258 001)等に記載のポリマーミクロビーズが水で膨潤しないポリマー接着剤で点接触状に接着されてなる連続微空隙含有等方的微多孔性層(三次元格子状粒状構造物層)展開層等の非繊維等方的微多孔性展開層;特開昭61−4959(対応米国特許 5 019 347)、特開昭62−138756、特開昭62−138757、特開昭62−138758(対応EP特許 0 226 465A)等に記載の複数の微多孔性層(例、織物布地又は編物布地とメンブレンフィルタの2層、織物布地又は編物布地とメンブレンフィルタと織物布地又は編物布地の3層)をそれらの表面で微細な不連続点状又は島状(印刷分野における網点状)の接着剤で積層接着した血球分離能力の優れた展開層が本発明に適用可能である。
【0031】
また、展開層に用いられる織物生地又は編物生地は特開昭57−66359に記載のグロー放電処理又はコロナ放電処理に代表される物理的活性化処理を布生地の少なくとも片面に施すか、又は特開昭55−164356、特開昭57−66359等に記載の水洗脱脂処理、親水性ポリマー含浸等親水化処理、又はこれらの処理工程を適宜に組み合せて逐次実施することにより布生地を親水化し、下側(支持体に近い側)の層との接着力を増大させることができる。また、特開昭59−171864、特開昭60−222769、特開昭60−222770等に記載のように、展開層の上からポリマー含有水溶液又はポリマー含有水−有機溶媒混合溶液を塗布して液体試料の展開面積又は広がりを制御することができる。
【0032】
光反射層12b2は、光遮蔽性又は光遮蔽性と光反射性を兼ね備えた二酸化チタン微粒子、硫酸バリウム微粒子等の白色微粒子がゼラチン等の親水性ポリマーバインダー中にほぼ一様に分散されている乾燥時の厚さ約2μmから約20μmの範囲の層である。
【0033】
また、上記乾式分析素子には、検体の点着側から順に展開層と試薬層を備えるものであれば層構成を適宜変更してもよく、光反射層12b2に替えて、色遮蔽層を設けてもよい。さらに試薬層、色遮蔽層又は光反射層の上には展開層を強固に接着一体化する目的で親水性ポリマーからなる公知の接着層を設けてもよい。接着層の乾燥時の厚さは約0.5μmから約5μmの範囲である。また、試薬層、色遮蔽層又は光反射層、接着層、展開層等には界面活性剤を含有させてもよい。
【0034】
また、このドット配列パターン12eによる素子情報は、乾式分析素子12の裏面のマウント部12aにおける前部と後部の幅方向の中央部分にドット印刷によって形成されている。また、中央の測光孔12dの近傍には、試薬種別情報を含み試薬ロット情報を含まない横縞状のバーコードパターン12fが印刷によって形成されている。また、乾式分析素子12の表面のマウント部12aには、測定項目名12gが印字されている。上記バーコードパターン12fは、ドット配列パターン12eが読み取れない機種の分析装置にも使用可能とするためのものである。また、本発明分析装置1には電解質タイプの乾式分析素子を用いてもよく、この乾式分析素子についても上記と同様のパターン12e,12fの印刷によって素子情報が付与される。
【0035】
点着部3は、サンプルトレイ2の中心線の延長上に配置され、搬送された乾式分析素子12に血漿、全血、血清、尿などの検体の点着が行われるもので、点着機構6によって比色測定タイプの乾式分析素子12には検体を、電解質タイプの乾式分析素子12には検体と参照液を点着する。この点着部3に続いてノズルチップ14が廃却されるチップ廃却部9が配置されている。
【0036】
第1のインキュベータ4は円形で、チップ廃却部9の延長位置に配置され、比色タイプの乾式分析素子12を収容して所定時間恒温保持し、比色測定を行う。第2のインキュベータ5(図2参照)は、点着部3の側方における隣接位置に配設され、電解質タイプの乾式分析素子12を収容して所定時間恒温保持し、電位差測定を行う。
【0037】
素子搬送機構7(図3参照)は、詳細は示していないが、前記サンプルトレイ2の内部に配設され、このサンプルトレイ2の中心と第1のインキュベータ4の中心とを結び、点着部3およびチップ廃却部9を通る直線状の素子搬送経路R(図2)に沿って、乾式分析素子12をサンプルトレイ2から点着部3へ、さらに第1のインキュベータ4へ搬送する素子搬送部材71(搬送バー)を備える。素子搬送部材71はガイドロッド38により摺動自在に支持され、不図示の駆動機構によって往復移動操作され、先端部は縦板34のガイド穴34aに挿入され、このガイド穴34aを摺動する。
【0038】
移送機構8は点着部3を兼ねて設置され、点着部3から第2のインキュベータ5へ、素子搬送経路Rと直交する方向に、電解質タイプの乾式分析素子12を移送する。
【0039】
点着機構6は上部に配設され、昇降移動する点着ノズル45が前述の素子搬送経路Rと同一直線上を移動し、検体および参照液の点着、希釈液による検体の希釈混合を行う。点着ノズル45は、先端にノズルチップ14を装着し、該ノズルチップ14内に検体、参照液等を吸引し吐出するもので、その吸引吐出を行う不図示のシリンジ手段が付設され、使用後のノズルチップ14はチップ廃却部9で外されて落下廃却される。
【0040】
素子廃却機構10(図2参照)は第1のインキュベータ4に付設され、測定後の比色タイプの乾式分析素子12を第1のインキュベータ4の中心部に押し出して落下廃棄する。なお、前記素子搬送機構7によって廃却することもできる。また、第2のインキュベータ5で測定した後の電解質タイプの乾式分析素子12は、前記移送機構8によって廃却穴69に廃棄される。
【0041】
また、サンプルトレイ2の近傍には、血液から血漿を分離する不図示の血液濾過ユニットが設置されている。
【0042】
上記各部の機構を、以下に具体的に説明する。まず、サンプルトレイ2は、正転方向および逆転方向に回転駆動される円盤状の回転ディスク21と、その中央部の円盤状の非回転部22とを有する。
【0043】
回転ディスク21には、図2に示すように、各検体を収容した採血管等の検体容器11を検体アダプタ18を介して保持するA〜Eの5つの検体搭載部23と、これに隣接して各検体の測定項目に対応して通常複数の種類が必要とされる未使用の乾式分析素子12を積み重ねた状態で収容した素子カートリッジ13を保持する5つの素子搭載部24と、多数のノズルチップ14を保持孔に並んで収容したチップラック19を保持する2つのチップ搭載部25と、希釈液を収容した3つの希釈液容器15を保持する希釈液搭載部26と、希釈液と検体とを混合するための混合カップ16(多数のカップ状凹部が配置された成形品)を保持するカップ搭載部27とが円弧状に配置されている。
【0044】
また、非回転部22には、素子搬送経路Rの延長上で点着ノズル45の移動範囲に、参照液を収容した参照液容器17を保持する筒状の参照液搭載部28が設けられ、この参照液搭載部28には、参照液容器17の開口部を開閉する蒸発防止蓋35(図1)が設置されている。
【0045】
蒸発防止蓋35は、下端が非回転部22に揺動可能に枢支された揺動部材37に保持され、閉方向に付勢されている。揺動部材37の上端係止部37aが点着機構6の移動フレーム42の下端角部42aと当接可能であり、参照液の吸引時に近接移動した移動フレーム42により揺動部材37が開方向に揺動され、蒸発防止蓋35が参照液容器17を開口して点着ノズル45による参照液吸引が可能となる。その他の状態では蒸発防止蓋35が参照液容器17の開口部を閉塞して参照液の蒸発を防止し、その濃度変化による測定精度の低下を阻止する。
【0046】
前記回転ディスク21は、外周部が支持ローラ31で支持され、中心部が不図示の支持軸に回転自在に保持されている。また、回転ディスク21の外周には、不図示のタイミングベルトが巻き掛けられ、駆動モータによって正転方向または逆転方向に回転駆動される。非回転部22は上記支持軸に回転不能に取り付けられている。
【0047】
前記素子カートリッジ13は、図3に示すように、上方から未使用の乾式分析素子12が混在状態で通常複数枚重ねられて挿入される。前記素子搭載部24に装填されると、下端部が素子搭載部24の底壁24aに保持され、素子搬送面と同一高さに最下端部の乾式分析素子12が位置し、最下端部の前面側には1枚の乾式分析素子12のみが通過し得る開口13aが、後面側には素子搬送部材71が挿通可能な開口13bが形成されている。
【0048】
また、乾式分析素子12の下面に付与された素子情報を素子カートリッジ13の下方から読み取れるように、素子カートリッジ13の底面には窓部13cが、素子搭載部24の底壁24aにも窓部24bがそれぞれ形成されている。
【0049】
そして、サンプルトレイ2の下方に、乾式分析素子12のドット配列パターン12eによる素子情報を読み取る読取機33が設置されている。この読取機33は、図3に示す素子搬送位置から、サンプルトレイ2の作動により、回転ディスク21が回動し、図5に示すように、検体容器11(検体搭載部23)が点着ノズル45の移動経路(素子搬送経路R)上の吸引位置に移動したときに、その検体の測定に使用する乾式分析素子12を収容した素子カートリッジ13(素子搭載部24)が移動した位置の下方に設置されている。つまり、図示の場合、読取機33は、検体搭載部23と素子搭載部24との位相ピッチだけ素子搬送経路Rからずれた位相角度で、素子搭載部24の回転位置に設置されている。なお、図3では回転ディスク21を一部切除して読取機33を示し、図3では読取機33を便宜的に素子搬送経路Rにある素子搭載部24の下方に示している。
【0050】
上記読取機33は、ドット記録方式に対応してCCDカメラで構成される。この読取機33による乾式分析素子12の素子情報の読み取りは、対応する検体容器11からの検体吸引および乾式分析素子12の搬送に先行して行う。そして、乾式分析素子12に付与された素子情報の読み取りによって得られた6桁または4桁の数字から試薬種別情報、試薬ロット情報等を求めることができ、さらに、記録パターン等から、表裏および前後方向が認識できる。これにより、セット不良が検出でき、ワーニングを発することが可能である。
【0051】
また、前記検体アダプタ18は筒状に形成され、上部から検体容器11が挿入される。この検体アダプタ18は、不図示の識別部を有し、検体の種類(処理情報)、検体容器11の種類(サイズ)等の情報が設定され、測定の初期時点でサンプルトレイ2の外周部に配設された識別センサ30(図2)によってその識別が読み取られ、検体の希釈の有無、血漿濾過の有無などが判別されると共に、検体容器11のサイズに伴う液面変動量が算出され、それに応じた処理制御が行われる。血漿濾過が必要な検体容器11に対しては、アダプタ18に検体容器11を挿入した上に、濾過フィルターを備えたホルダーがスペーサ(いずれも不図示)を介して装着される。
【0052】
点着部3および移送機構8は、サンプルトレイ2と第1のインキュベータ4との間に素子搬送経路Rと直交する方向に長い支持台61を備え、その上に移動可能に摺動枠62が設置されている。この摺動枠62には、点着用開口63a(図3)が形成された第1素子押え63および第2素子押え64が隣接して一体に移動可能に装着されている。第1素子押え63(第2素子押え64も同様)は、支持台61に面する底面に、前記素子移動経路Rに沿って乾式分析素子12が通過する凹部63bを有する。また、摺動枠62は、一端部がガイドバー65に案内され、他端部側の長溝62aにピン66が係合され、さらに、ラックギヤ62bに駆動モータ68の駆動ギヤ67が噛合して移動される。支持台61には、第2のインキュベータ5および廃却穴69が設置されている。
【0053】
図5を用いて、点着部3をさらに詳細に説明する。図3では省略されているが、図5に示すように素子押え63の下面には、超音波振動を発生する圧電素子60が、乾式分析素子12が配置された状態で圧電素子60の下面が乾式分析素子の上面12hに接するように設けられる。また、生化学分析装置1には、超音波発生手段としての圧電素子(本例ではピエゾ素子)60と、この圧電素子60を励振させる駆動電圧を該圧電素子60に印加する不図示のピエゾドライバと、上記駆動電圧の波形を規定する波形信号を生成してピエゾドライバに入力する不図示の波形発生器とを有している。そして、検体の乾式分析素子12への点着と同時に所定の期間圧電素子60にピエゾドライバから信号電圧を印加する。これにより発生した超音波振動は、点着位置に配置された乾式分析素子の上面12hから印加される。なお、図1および図3では、説明のため層の厚みを実際のものとは適宜異ならせており、圧電素子60からピエゾドライバへの配線を省略している。なお、所定の期間は任意に設定可能であり、本実施形態においては数秒間である。
【0054】
なお、本発明における「検体の供給時」は、上記実施形態に限定されず、検体が供給されてから検体に含まれる成分の測定が行われる時までの一部または全部の任意の期間を意味し、超音波振動を分析チップに印加する期間は、検体の供給時であればいつでもよいが、好ましくは検体を分析チップに点着する時を含む任意の期間か、検体を分析チップに点着する時からできるだけ早い時間に開始される任意の期間であることが好ましい。例えば、上記実施形態では、検体の供給時に分析チップに超音波振動を印加できるのであれば、検体の分析チップへの点着を行った時以降、分析チップの測定を行う時以前のいかなる時期に分析チップに超音波振動を印加してもよい。また、超音波振動を分析チップに印加する期間は、分析時間を必要以上に延長する長期間にわたって延長することのない範囲で、十分長い期間であることが好ましい。例えば、乾式分析素子であれば数秒程度の期間超音波振動を印加することが考えられる。また、超音波振動は、連続して印加してもいし、複数回に分けて断続的に印加してもよい。
【0055】
また、圧電素子のいかなる振動モードにより超音波振動を発生させてもよく、一例として、厚み縦振動でも厚み滑り振動でも、長さ振動であってもよい。
【0056】
また、振動周波数は、検体の展開層への展開を促進させうる範囲で任意に設定可能であり、周期の異なる複数の超音波振動を圧電素子から分析チップに印加してもよい。
【0057】
また、振動を分析チップに対して印加する方向はいかなる方向であってもよいが、検体を展開層へ均一に展開することが特に要望される方向に振動素子の振動方向を一致させることが好ましい。また、検体を展開層へ均一に展開することが特に要望される方向に対して圧電素子の厚み縦振動の振動方向を一致させて振動を印加することが好適である。例えば、検体を点着するタイプの分析素子の場合には、検体が点着した位置から展開層の厚み方向に直交する方向に展開ムラが生じるため、展開層の厚み方向に直交する方向に超音波振動を印加することが好適であり、複数の方向に超音波振動を印加することがさらに好適である。また、乾式分析素子に対し異なる方向から同時に超音波振動を印加してもよく、また複数の異なる方向から交互に超音波振動を印加してもよく、これらを任意に組合せてもよい。
【0058】
また、分析チップに複数の向きから超音波振動を印加してもよく、例えば、分析チップを図5における垂直方向両面12h、12kまたは水平方向両面12i、12jまたは図5奥行き方向両面など乾式分析素子の両側から振動部を当接させて挟持するなど対抗する向きから印加することが好ましい。分析チップしっかりと振動部に当接させて支持でき、複数方向から分析チップ全体に効果的に超音波振動を印加できるためである。また、かかる場合、分析装置1は圧電素子60を支持するするとともに圧電素子を分析チップの所望の部分に当接せしめる位置に移動可能な周知の移動機構およびその制御手段を備える。
【0059】
図2のように、第1素子押え63が点着部3に位置している際には、点着後の比色タイプの乾式分析素子12は素子搬送機構によって押し出されて第1のインキュベータ4に移送される。一方、電解質タイプの乾式分析素子12への点着が行われると、摺動枠62が移動されて点着後の乾式分析素子12は第1素子押え63に保持されたまま支持台61上を滑るように第2のインキュベータ5に移送され、電位差測定が行われる。その際には、第2素子押え64が点着部3(点着位置)に移動し、その後に搬送される比色タイプの乾式分析素子12に対する検体の点着および第1のインキュベータ4への搬送が可能である。第2のインキュベータ5での測定が完了すると、摺動枠62がさらに移動されて測定後の乾式分析素子12を廃却穴69に移送して落下廃却する。
【0060】
なお、比色タイプの乾式分析素子12を搬送する際には第2素子押え64を点着部3に移動させておき、電解質タイプの乾式分析素子12が搬送されるときのみ、第1素子押え63を点着部3に移動させるようにしてもよい。
【0061】
また、上記撮像部材33は、ドット配列パターン12eの読み取りのほか、他の情報の読み取りを行うようになっている。そのために、不図示の追加光源が設置されている。この追加光源としては、赤外用光源、劣化検出用光源、など特定波長を有する光源が検出態様に応じて設置される。この情報読取機5による点着情報、その他の読み取りについては後述する。
【0062】
点着機構6(図1)は、固定フレーム40の水平ガイドレール41に、横方向に移動可能に保持された移動フレーム42を備え、この移動フレーム42に昇降移動可能に2本の点着ノズル45が設置されている。移動フレーム42には中央に縦ガイドレール43が固着され、この縦ガイドレール43の両側に2つのノズル固定台44が摺動自在に保持されている。ノズル固定台44の下部には、それぞれ点着ノズル45の上端部が固着され、上部に上方に延びる軸状部材が駆動伝達部材47に挿通されている。ノズル固定台44と駆動伝達部材47との間に介装された圧縮バネにより、ノズルチップ14の嵌合力を得るようになっている。ノズル固定台44は駆動伝達部材47と一体に上下移動可能であると共に、点着ノズル45の先端部にノズルチップ14を嵌合する際に、圧縮バネの圧縮でノズル固定台44に対して駆動伝達部材47が下降移動可能である。上記駆動伝達部材47は、上下のプーリ49に張設されたベルト50に固定され、不図示のモーターによるベルト50の走行に応じて上下移動する。なお、ベルト50の外側部位には、バランスウェイト51が取り付けられ、非駆動時の点着ノズル45の下降移動が防止される。
【0063】
また、移動フレーム42は不図示のベルト駆動機構によって横方向に駆動され、2つのノズル固定台44は独自に上下移動するように、その横移動および上下移動が制御され、2つの点着ノズル45は、一体に横移動すると共に、独自に上下移動するようになっている。例えば、一方の点着ノズル45は検体用であり、他方の点着ノズル45は希釈液用および参照液用である。
【0064】
両点着ノズル45は棒状に形成され、内部に軸方向に延びるエア通路が設けられ、下端にはピペット状のノズルチップ14がシール状態で嵌合される。この点着ノズル45にはそれぞれ不図示のシリンジポンプ等に接続されたエアチューブが連結され、吸引・吐出圧が供給される。また、この吸引圧力の変化に基づき検体等の液面検出が行えるようになっている。
【0065】
チップ廃却部9は、搬送経路Rを上下方向に交差して設けられ、上部材81および下部材82を備える。このチップ廃却部9における支持台61には、楕円形に開口された落下口83が形成されている。上部材81は支持台61の上面に固着され、落下口83の直上部位には係合切欠き84が設けられ、下部材82は支持台61の下面に落下口83の下方を囲むように筒状に形成され、落下するノズルチップ14をガイドするようになっている。
【0066】
そして、ノズルチップ14が装着されている点着ノズル45を、上部材81内に下降させてから横方向に移動させ、その係合切欠き84にノズルチップ14の上端を係合してから、点着ノズル45を上昇移動させてノズルチップ14を抜き取り、外れたノズルチップ14は落下口83を通して落下廃却される。
【0067】
比色測定を行う第1のインキュベータ4は、外周部に円環状の回転部材87を備え、この回転部材87は内周下部に固着された傾斜回転筒88が下部のベアリング89に支持されて回転自在である。回転部材87の上部に上位部材90が一体に回転可能に配設されている。上位部材90の底面は平坦であり、回転部材87の上面には円周上に所定間隔で複数(図1の場合13個)の凹部が形成されて両部材87,90間にスリット状空間による素子室91が形成され、この素子室91の底面の高さは搬送面の高さと同一に設けられている。また、傾斜回転筒88の内孔は測定後の乾式分析素子12の廃却孔92に形成され、素子室91の乾式分析素子12がそのまま中心側に移動されて落下廃却される。
【0068】
上位部材90には図示しない加熱手段が配設され、その温度調整によって素子室91内の乾式分析素子12を所定温度に恒温保持する。また上位部材90には、図4に示すように、素子室91に対応して乾式分析素子12のマウントを上から押えて検体の蒸発防止を行う押え部材93が配設されている。上位部材90の上面には保温カバー94が配設される一方、この第1のインキュベータ4は全体が遮光カバー95によって覆われる。さらに、回転部材87の各素子室91の底面中央には測光用の開口91aが形成され、この開口91aを通して図2に示す位置に配設された測光ヘッド96による乾式分析素子12の反射光学濃度の測定が行われる。第1のインキュベータ4の回転駆動は、不図示のベルト機構により行われ、往復回転駆動される。
【0069】
廃却機構10は、外周側から中心方向に素子室91内に進退移動する廃却バー101を備えている。この廃却バー101は後端部が水平方向に走行するベルト102に固定され、駆動モータ103の駆動によるベルト102の走行に応じ、素子室91から測定後の乾式分析素子12を押し出して廃却する。なお、廃却孔92の下方には測定後の乾式分析素子12を回収する回収箱が配設される。
【0070】
また、イオン活量を測定する第2のインキュベータ5は、前述の摺動枠62の第1素子押え63が上位部材となり、その底部の凹部によって測定本体97の上面との間に1つの素子室が形成される。この第2のインキュベータ5には、図示しない加熱手段が配設され、その温度調整によって乾式分析素子12のイオン活量を測定する部分を所定温度に恒温加熱する。さらに、測定本体97の側辺部にはイオン活量測定のための3対の電位測定用プローブ98が出没して乾式分析素子12のイオン選択電極に接触可能に設けられている。
【0071】
なお、不図示の血漿濾過ユニットは、サンプルトレイ2に保持された検体容器11(採血管)の内部に挿入され上端開口部に取り付けられたガラス繊維からなるフィルターを有する不図示のホルダーを介して血液から血漿を分離吸引し、ホルダー上端のカップ部に濾過された血漿を保持するようになっている。
【0072】
上記のような生化学分析装置1の動作、測定条件の設定等は、不図示の筐体20に設置された不図示の操作パネル55からの入力によって行われる。この操作パネル55(インターフェース)は、表示画面、スタートキー、ストップキー、検体キー、消耗品キー、手動キー、緊急キー、キャリブレーションキー、テンキー、印刷キーなど、指先で押して各種の指示操作を行う操作キーが配設されている。この操作パネル55は、不図示の制御系に接続され、そこに登録されている制御プログラムに基づく測定演算処理が設定され、自動測定動作、手動測定動作、緊急測定動作、キャリブレーション動作、印刷動作などが選択実行され、測定値に基づき前記素子情報に対応する分析情報によって分析結果を(成分濃度)を算出するようになっている。そして、測定結果を出力記録するため、設定値の確認などのために、これらのデータをプリンタ57によって印刷する。
【0073】
次いで、前述の生化学分析装置1の全体動作について説明する。まず、分析を行う前に、サンプルトレイ2の各搭載部23〜28に、各検体を収容した検体容器11、乾式分析素子12を装填した素子カートリッジ13、ノズルチップ14を収容したチップラック19、混合カップ16、希釈液容器15および参照液容器17を搭載して、測定準備を行う。
【0074】
その後、分析処理をスタートする。まず、血漿濾過が必要な検体の場合には、血液濾過ユニットにより、検体容器11内の全血を濾過して血漿成分を得る。次に、回転ディスク21を回転させて測定する検体の素子カートリッジ13を点着部3に対応する素子取り出し位置に停止させ、乾式分析素子12を素子搬送機構によって素子カートリッジ13から取り出して点着部3に搬送する。なお、点着部3に搬送される前に、乾式分析素子12に付与された分析情報が読み取られ、その後の動作が制御される。
【0075】
そして、測定項目が比色測定の場合は、素子押え64が点着部に位置している状態で、乾式分析素子12の搬送を行い、続いてサンプルトレイ2を回転させて点着ノズル45の下方にチップラック19のノズルチップ14を移動させ、点着ノズル45に装着する。続いて検体容器11を移動させ、点着ノズル45を下降してノズルチップ14に検体を吸引し、点着ノズル45を点着部3に移動して、乾式分析素子12に検体を点着する。
【0076】
点着ノズル45が検体を点着すると同時に、不図示のピエゾドライバにより圧電素子60に、数秒間超音波振動を発生させる。すると発生した超音波振動は乾式分析素子12のマウント部12a(支持部材12a)を介して展開層12b1に伝播される。検体は超音波エネルギにより展開層における移動を促進され、乾式分析素子12の展開層12b1内全体に均一に展開し、その後、均一に展開した検体が反射層12b2を通過して、反応層12b3に一様に到達し、反応層中の試薬と検体中の対応する成分が反応する。
【0077】
そして、検体が点着された比色タイプの乾式分析素子12が第1のインキュベータ4に挿入される。次に、素子室91を回転して、所定時間恒温保持した後、挿入された乾式分析素子12を順次測光ヘッド96の位置に移動させ、乾式分析素子12の反射光学濃度の測定が行われる。測定終了後、測定済みの乾式分析素子12は中心側に押し出して廃却する。測定結果を出力し、使用済みのノズルチップ14をチップ廃却部9で点着ノズル45から外して下方に落下廃却し、処理を終了する。この比色測定の間は、第2のインキュベータ5においては、前述のように、下ブロック71を上昇させて上ブロック63を予熱している。
【0078】
次いで、検査項目が希釈依頼の場合、例えば血液の濃度が濃すぎて正確な検査を行うことができないような場合には、その乾式分析素子12を点着位置に搬送した後、ノズルチップ14を点着ノズル45に装着し、点着ノズル45を下降してノズルチップ14に検体を吸引する。吸引した検体をノズルチップ14から混合カップ16に分注した後、使用済みのノズルチップ14を外す。次いで、新しいノズルチップ14を点着ノズル45に装着し、希釈液容器15からノズルチップ14に希釈液を吸引する。吸引した希釈液をノズルチップ14から混合カップ16に吐出する。そして、ノズルチップ14を混合カップ16内に挿入して吸引と吐出とを繰り返して撹拌を行う。撹拌を行った後、希釈した検体をノズルチップ14に吸引し、その点着ノズル45を点着部3に移動して、乾式分析素子12に検体を点着する。以下同様に、恒温保持、測光、素子廃却、結果出力およびチップ廃却を行って処理を終了する。
【0079】
次いで、イオン活量の測定の場合は、前述のように上ブロック63を点着部3へ移動させて、電解質タイプの乾式分析素子12を点着位置へ搬送した後、まず、一方の点着ノズル45にノズルチップ14を装着し、検体を吸引する。次に、他方の点着ノズル45にノズルチップ14を装着し、参照液容器17から参照液を吸引する。次いで、一方の点着ノズル45により検体を乾式分析素子12の一方の液供給孔に点着し、さらに、他方の点着ノズル45により参照液を乾式分析素子12の他方の液供給孔に点着する。そして、制御ユニットは先述同様に振動部を駆動して、点着ノズル45により検体を乾式分析素子12に点着すると同時に数秒間乾式分析素子12に超音波振動を印加する。
【0080】
そして、検体および参照液が点着された乾式分析素子12が、点着部3から上ブロック63と共に摺動枠62の移動によって第2のインキュベータ5に移送され、下ブロック71の上昇で恒温保持しつつ電位測定用プローブ78によってイオン活量の測定を行う。測定終了後、測定後の乾式分析素子12を摺動枠62の移動によって廃却穴69に移送して廃却する。そして測定結果を出力し、両方の使用済みのノズルチップ14を両点着ノズル45から外して廃却し、処理を終了する。
【0081】
本実施形態によれば、検体を展開させる展開層に展開された検体を測定する生化学分析方法において、分析チップに検体を供給する際、検体を供給された分析チップに超音波振動を印加するため、検体を展開層中に展開する時に検体に振動エネルギを供給して検体の移動を促進し、検体を展開層に均一かつ迅速に展開させることができる。また、検体が展開層中に展開する速度が大きい期間である検体の展開層への供給時から数秒間の期間に、集中して分析チップに超音波振動を印加するため、検体を振動方向に移動を促進することができ、検体を展開層に展開する速度を向上できるとともに検体を展開層に均一に展開させることができる。また、超音波振動を印加する期間を数秒間としたことにより、従来の生体分析の所要時間を延長することなく、効率的に検体の展開を促進できる。
【0082】
また、上記実施形態のように検体を分析チップに点着する、特に展開ムラが生じやすいタイプの分析チップに本発明を適用した場合には、展開層の一部分に集中して供給された検体を展開層全体に迅速に展開させることができるため、より展開ムラの低減の効果が著しい。
【0083】
また、上記実施形態のように分析チップとして検体に対する測定項目に対応する試薬層を含む複数の層からなる乾式分析素子を用いた場合には、均一に展開された検体が反応層に供給されるため反応層における検体の反応ムラが低減され、反応ムラによる乾式分析素子の誤測定を抑制でき、精度よい分析結果が得られる。
【0084】
また、上記実施形態のように、展開層を保持する保持部材を介して超音波振動を印加する場合には、保持部材を介することにより、乾式分析素子全体に均一に超音波振動を印加して展開層への展開を促進できるため好適である。
【0085】
図6は、本実施形態の圧電素子60の変形例を示す図である。図6に示すように、上記実施形態において、乾式分析素子12への超音波振動印加時に、圧電素子60の表面が乾式分析素子12の点着孔12cおよび/または測光孔12dを覆った密封空間12mを形成するように乾式分析素子12の上面12hまたは下面12kに密着させて位置させてもよい。上記の場合、点着部3に第1素子押え63を上昇させる周知の駆動機構(不図示)と圧電素子60を水平方向にスライド移動させる周知の駆動機構(不図示)をさらに備え、検体を分析チップに点着後すぐ第1素子押え63を上昇させて第1素子押え63と乾式分析素子12との間に間隙を生じさせ、かかる間隙に圧電素子60を挿入して圧電素子60から乾式分析素子12の上面12hに超音波振動を印加することができる。また同様に、乾式分析素子12の下方にも、さらなる圧電素子60を水平方向にスライド移動させる周知の駆動機構(不図示)をさらに備え、検体を分析チップに点着後すぐに乾式分析素子12の下面12kに接する位置に圧電素子60を挿入して圧電素子60から乾式分析素子12に超音波振動を印加することができる。
【0086】
このような場合には、乾式分析素子12の点着孔12cおよび/または測光孔12dを覆った密封空間12mにのみ測定要素12bが触れるため、超音波振動の印加時に検体の大気中への蒸発を好適に抑制でき、検体中の気化しやすい成分を測定する分析の場合には特に有効である。
【0087】
上記のように、展開層が接する空間を圧電素子60により密閉した場合には、圧電素子60を乾式分析素子12に配置すると同時に展開層が接する空間を迅速に密封空間12mとすることができる。また、展開層が接する空間を密封するための余分な部品などを備える必要がない。また、圧電素子60の表面に検体により汚染が発生する場合には、圧電素子60を乾式分析素子12と共に各検査項目ごとに交換してもよい。
【0088】
また、乾式分析素子12の点着孔12cおよび/または測光孔12dを覆うための保護膜などの密封部材を別途設け、展開層が接する空間を覆う密封部材により前記展開層が接する空間を密閉してもよい。この場合、検体を乾式分析素子12に点着後すみやかに密封部材を点着孔12cおよび/または測光孔12dを覆うように配置してから、超音波振動を印加することができる。
【0089】
また、上記実施形態では乾式分析素子に検体を点着させる分析方法を基に説明したが、本発明はこれに限定されず、検体を展開させる展開層を備えた分析チップに超音波振動を印加可能な様々な分析方法に適用可能である。第2の実施形態として、バイオ測定に用いるマイクロ流路型のセンサチップを分析チップとして用いる検出装置に本発明を適用する例を説明する。
【0090】
バイオ測定においては、抗原抗体反応などの生体分子反応を検出することにより、被検出物質である抗原(あるいは抗体)などの存在の有無、量を測定している。例えば、互いに特異的に結合する2つの物質の一方の物質(例えば、抗原、抗体、各種酵素、受容体など)を基板上に固定化し、被検出物質の量に応じた量の他方の物質を基板上に固定された固定層に結合させ、この結合反応を検出することにより、試料中における被検出物質の有無、量を測定することができる。具体的には、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上にその抗原と特異的に結合する抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより抗体に抗原を特異的に結合させ、次いで、抗原と特異的に結合する、標識が付与された標識抗体を添加し、抗原と結合させることにより、抗体―抗原―標識抗体の、所謂サンドイッチを形成し、標識からの信号を検出するサンドイッチ法や、標識された競合抗原を抗原と競合的に固定化抗体と結合させ、固定化抗体と結合した競合抗原に付与されている標識からの信号を検出する競合法などのイムノアッセイがなされている。
【0091】
図7は、本発明の第2の実施形態による測定装置の概略構成を示すものであり、図8は第2の実施形態によるセンサチップの外観を示す概略斜視図である。本実施形態の測定装置は、先に述べた微小流路型センサチップ(以下、単にセンサチップという)110を分析チップとして用いて生体由来物質を検出する装置である。図7および8を参照して、このセンサチップ110について説明する。
【0092】
センサチップ110は測定装置本体に対して着脱自在とされたものであり、図7および図8に示される通り、試料液が流される微小流路111を有する流路部材112と、微小流路111の一部を構成して、互いに特異的に結合する2つの物質のうちの一方の物質113を壁面に固定しているセンサ部114と、流路部材112の上に固着された上板部材117とを備えている。なおセンサ部114の上流側つまり図中の左側において流路部材112には、メンブレンフィルタ118が形成されている。このメンブレンフィルタ118は後述するように、展開層として機能するものである。
【0093】
本実施形態では、抗原抗体反応においてサンドイッチ法によるアッセイを行う場合を例とし、そこで上記物質113が、被検出物質である抗原A1と特異的に結合する抗体であるとして説明する。なお、抗体113は直接微小流路111の壁面に固定されてもよいが、後述するように表面プラズモンによる電場増強により蛍光を増強する場合は、この壁面の上に金属薄膜が形成され、その上に抗体113が固定される。
【0094】
上記上板部材117は、図8に示されるように、上表面に開口した試料液流入口116aおよび試料液流出口116bと、試料液流入口116aと微小流路111の上流端とを連通させる開口15aと、試料液流出口116bと微小流路111の下流端とを連通させる開口15bとを有している。この上板部材117と流路部材112は、例えば超音波溶接により接合されている。
【0095】
流路部材112および上板部材117はポリスチレン等の透明な誘電体材料からなり、射出成型によりそれぞれ成型されている。微小流路111の深さは例えば50〜100μm程度とされる。
【0096】
また本例のセンサチップ110においては、抗体113が固定されている領域の上流側において微小流路111の内面に、不図示の標識抗体が付着されている。標識抗体は、被検出物質に対して、前述の抗体113とは異なるエピトープに特異的に結合する抗体と蛍光標識とから構成されたものである。ここでは蛍光標識として、多数の蛍光色素分子fと該蛍光色素分子fを内包する光透過材料とからなる蛍光微粒子が用いられている。
【0097】
上記蛍光微粒子の大きさには特に制限はないが、直径数十nm〜数百nm程度が好ましく、ここでは一例として直径100nm程度のものが用いられている。光透過材料としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、蛍光色素分子fを内包でき、かつ該蛍光色素分子fからの蛍光を透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。本例における標識抗体は、蛍光標識122を、それよりも小さい抗体により表面修飾して構成されている。
【0098】
本例のセンサチップ110において、上記標識抗体よりもさらに上流に設けられたメンブレンフィルタ118は、pH調整剤をメンブレンフィルタ118の内部に付着させている。メンブレンフィルタ118を通過する検体に対して抗体113の反応効率を上げるためのpH調節剤を供給するためである。
【0099】
次に図7に戻って測定装置について説明する。この測定装置は、上記センサチップ110が例えば屈折率マッチングオイルを介して載置されるプリズム130と、微小流路111の底面(センサチップ110と試料液との界面)に対して、全反射条件となる入射角で励起光L0を入射させる半導体レーザ等からなる光源131と、センサチップ110の試料液流出口116bにノズル32を介して一端が連通される連通管133と、この連通管133の他端に吸込口が接続された試料吸引ポンプ134と、連通管133に介設された開放弁135と、センサチップ110のセンサ部114の近傍部分から後述するようにして発せられる蛍光Lfを検出する光検出器136とを備えている。
【0100】
さらにこの測定装置は、微小流路111の壁面を介して前記メンブレンフィルタ118の上方に配置された、超音波発生手段としての圧電素子(本例ではピエゾ素子)140と、この圧電素子140を励振させる駆動電圧を該圧電素子140に印加するピエゾドライバ141と、上記駆動電圧の波形を規定する波形信号を生成してピエゾドライバ141に入力する波形発生器142とを有している。なお超音波発生手段としては、ピエゾ素子に限らず、それ以外の圧電セラミック等を適用することも可能である。
【0101】
次に、この測定装置による被検出物質の検出について説明する。ここでは一例として、試料液としての血液(全血)Sに含まれる可能性のある抗原A1を検出する場合について説明する。まず、図1に示す試料液流入口116aに全血Sが注入され、それとともに試料吸引ポンプ134が駆動され、開放弁135は連通管133を開く状態に設定され、全血Sがセンサチップ110の微小流路111内に導入される。またこのとき、ピエゾドライバ141により圧電素子140が駆動され、そこから、微小流路111を横切るように設けられたメンブレンフィルタ118に向かって超音波振動が印加される。
【0102】
超音波振動の印加は、全血Sがメンブレンフィルタ118に通過開始から通過終了までの期間の一部または全部に行うことが好ましく、特に、超音波振動を印加を行う期間が全血Sがメンブレンフィルタ118に到達時を含むと、全血がメンブレンフィルタ118に展開する速度が大きいため特に好ましい。
【0103】
微小流路111に導入された全血Sは、図7に模式的に示すように血球(赤血球、白血球および血小板)H1を含み、また抗原A1を含み得るものである。この全血Sが、微小流路111の上記メンブレンフィルタ118が設けられている部分に到達すると、全血Sは超音波振動エネルギを受けて移動が促進される。このため、微小流路111のメンブレンフィルタ118を通過する速度が速くなるとともにメンブレンフィルタ118に均一に全血Sが展開され、全血Sにメンブレンフィルタ118に含まれるpH調整剤が均一に供給される。
【0104】
その後、全血Sに含まれる血漿は、微小流路111に吸着固定されている標識抗体と混ぜ合わされる。それにより、抗原A1が標識抗体の抗体と結合し、さらに抗体と結合した抗原A1が、センサ部114の抗体113と結合し、抗原A1が抗体113と抗体で挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0105】
このようにしてセンサ部114に吸着した抗原A1は、以下の通りにして検出される。光源131から発せられた励起光L0は、微小流路111の底面(センサチップ110と試料液との界面)に対して、全反射条件となる入射角で入射する。こうして励起光L0が全反射すると、抗体113を固定している微小流路111の内壁面から試料液S中にエバネッセント光が滲み出す。このとき、エバネッセント光の滲み出し領域内に蛍光標識が存在すると、その蛍光標識が励起されて蛍光Lfが発生する。こうして発生した蛍光Lfは、光検出器136によって検出される。以上のようにして蛍光標識の存在を検出することは、すなわち、抗体113と結合した抗原A1の存在を検出することになる。そこで光検出器136の蛍光検出信号に基づいて、抗原A1の存在の有無や、その量を検出可能となる。
【0106】
上記実施形態において、波形発生器142としては株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製のマルチファンクションジェネレータWF1974が、ピエゾドライバ141としては同社製のバイポーラ電源HSA4101を使用した。そして、上記波形発生器142で発生させた電圧波形を、ピエゾドライバ141で増幅して圧電素子140に印加し、厚み振動によって超音波を発振させた。このときの印加電圧(p−p値)は10.0Vであった。
【0107】
上記第2の実施形態においては、メンブレンフィルタ118に検体を均一に展開させることにより、メンブレンフィルタ118に含まれたpH調整剤を均一に検体に供給できるため、pHを均一にした好ましい反応条件のもとで抗体113が固定されている領域において抗体113と検体との反応を行わせることができ、精度の高い分析結果を得ることができる。また、本発明は、上記第2の実施形態における標識抗体などのように分析に必要な各種物質や試薬、または、上記第2の実施形態のようなpH調整剤などの前処理剤などをメンブレンフィルタ118に含ませることによりメンブレンフィルタを通過する検体に対して各種物質や試薬、または前処理剤を供給するタイプの分析チップや、流路上流から順にメンブレンフィルタと試薬層とを備え、メンブレンフィルタを介して流路断面内で均一に展開された検体が流路下流に設けられた試薬層に供給されるタイプの分析チップなど、流路に設けられた各層やセンサ部などに対して検体を均一に通過させるための展開層を備えた様々な分析チップに対して好適に適用できる。
【0108】
また、バイオ測定においては、より短時間での測定を可能とすることが望まれており、第2の実施形態のように、流路型センサチップに本発明を適用した場合には、展開層を介して検体が流れる時間を短縮することにより測定時間を効率化でき好適である。また、流路の下部にセンサ部を設けた場合のように、メンブレンフィルタを検体が流路内で偏って通過するとセンサ部に到達する検体に偏りが生じるため測定条件を一定に管理するために好ましくない。しかし、本実施形態によれば展開層に均一に検体を展開できるためセンサ部などに均一に検体を供給でき、精度よく検体成分の測定結果を得ることができる。
【0109】
また、図7に示す装置において、センサチップ110のメンブレンフィルタ118の下方のみに圧電素子140をさらに備えてもよく、メンブレンフィルタ118の下方にのみ圧電素子140を備えてもよい。メンブレンフィルタ118の上方および下方の両方に圧電素子140を備えた場合には、振動をより均一かつ確実に印加できるためさらに好ましい。
【0110】
また、本発明は、上記実施形態に限られず、検体を展開層に均一かつ迅速に展開させ、展開された検体を測定する生体分析方法ならいかなるものにも適用できる。一例として、本出願人の出願である特開2009−257819号公報などに記載されたような、抗原と抗体との特異的反応を利用して特定の抗原または抗体よりなる被検出物質を検出するイムノクロマトグラフ法に好適に適用できる。また、本出願人の出願である特開2009−180516号公報の背景技術に記載されたような、蛍光色素を含有させたゲル支持体上で複数のDNA断片を電気泳動させ、その後、複数のDNA断片のDNAを変性し、次いで、サザン・ブロッティング法により、ニトロセルロースなどの転写支持体上に、変性DNA断片の少なくとも一部を転写し、目的とするDNAと相補的なDNAもしくはRNAを蛍光色素で標識して調製したプローブと変性DNA断片とをハイブリダイズさせ、プローブDNAもしくはプローブRNAと相補的なDNA断片のみを選択的に標識し、励起光によって蛍光色素を励起して、生じた蛍光を検出することにより画像を生成し、転写支持体上の目的とするDNA分布を検出する方法にも、ニトロセルロースなどの転写支持体(本発明における展開層に相当)に非転写物(本発明における検体に相当)を転写する工程に本発明を有効に適用することができる。
【0111】
また、上記各実施形態に限定されず、本発明には分析チップの種類または分析の目的や分析条件に応じて、種々の振動モード、振動周期、圧電素子の種類、展開層の種類などを任意に適用可能である。
【0112】
また、上記各実施形態に限定されず、本発明は一つの方向から乾式分析素子に超音波振動を印加してもよく、複数の方向から乾式分析素子に超音波振動を印加してもよい。複数の方向から乾式分析素子に超音波振動を印加する場合には、複数の方向への展開を促進でき、より高速かつより広い範囲に均一に検体を展開できる。
【0113】
上記の各実施形態はあくまでも例示であり、上記のすべての説明が本発明の技術的範囲を限定的に解釈するために利用されるべきものではない。この他、上記の各実施形態におけるシステム構成、ハードウェア構成、処理フロー、モジュール構成や具体的処理内容等に対して、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で様々な改変又は組合せを行ったものも、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0114】
本発明にかかる実施例および比較例について説明する。
【0115】
(分析チップ)
比色タイプの乾式分析素子(富士フイルム株式会社製CREスライド)を用意した。また、後述の評価試験を行う際、各回ごとに実施例および比較例で同種類かつ同製造ロット番号の乾式分析素子を用いた。また、反応ムラの発生をしやすくするために、下記評価試験において使用期限を過ぎた乾式分析素子を用いた。
【0116】
(評価試験)
上記乾式分析素子に対し、コントロール液QP-H(富士フイルム株式会社製、ロット番号22032、CRE平均濃度:5.1mg/dL)を用手法で点着した。その後、乾式分析素子の比色反応を観察し、反応ムラを視覚的に3段階評価した。また、10枚の乾式分析素子に対し、超音波振動を印加することなくコントロール液QP-Hの乾式分析素子への点着を行ったものを比較例とした。
【0117】
(実施例)
比較例とそれぞれロット番号が一致する10枚の乾式分析素子に対しコントロール液QP-Hの乾式分析素子への点着後すぐに圧電素子を乾式分析素子上面(点着孔側)に配置し、超音波を印加して上記評価試験を行った。超音波の発生条件は以下の通りとした。
圧電素子:株式会社富士セラミックス社製のPZT-Pb(Zr・Ti)O3系PZTソフト材(C-82:共振周波数13MHz)
波形発生器:株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製マルチファンクションジェネレータWF1974
圧電素子の振動モード:厚み縦振動モード
周波数:13MHz
超音波印加時間:約15秒
【0118】
(評価結果)
図9に実施例および比較例の比色反応の結果を示す。図9の(I)は、超音波の印加した場合の乾式分析素子を表す図であり、図9の(II)は、超音波の印加しない従来方法による乾式分析素子を表す図である。比較例に対し、実施例では反応ムラが抑制されていることが視認できる。なお、図9の(I)、(II)は、反応ムラの発生を顕著に確認するため使用期限を過ぎた乾式分析素子を用いている。
【0119】
以下、実施例および比較例の視覚的評価を10回行った結果を表1に示す。
【表1】

なお、上記表1において各記号の意味は以下の通りである。
○・・・反応ムラなし。△・・・反応ムラがわずかに見られる。×・・・反応ムラが見られる。
【0120】
上記表1に示されるように、比較例には視認できる程度のわずかな反応ムラが4回発生し、顕著な反応ムラが6回発生したが、実施例においては反応ムラが全く発生しなかった。また、本実施例においては、乾式分析素子の厚み方向に超音波振動を印加したが、反応ムラが生じやすい乾式分析素子の厚み方向に直交する方向についても十分に反応ムラの抑制効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0121】
1 生化学分析装置
2 サンプルトレイ
3 点着部
6 点着機構
12 乾式分析素子(分析チップ)
12a マウント部
12b 測定要素
12b1 展開層
12b2 反射層
12b3 反応層
12b4 透明支持体層
12c 点着孔
12d 測光孔
12m 密封空間
60 圧電素子
110 センサチップ(分析チップ)
111 微小流路
112 流路部材
118 メンブレンフィルタ
140 圧電素子
141 ピエゾドライバ
142 波形発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を展開させる展開層を備えた分析チップを使用して、前記検体を測定する生化学分析方法であって、
前記分析チップに前記検体を供給し、
前記検体を供給された前記分析チップに超音波振動を印加することを特徴とする生化学分析方法。
【請求項2】
前記検体の供給は、前記検体を前記分析チップに点着することにより行うことを特徴とする請求項1記載の生化学分析方法。
【請求項3】
前記分析チップとして、前記検体に対する複数の測定項目に対応する試薬層を含む複数の層からなる乾式分析素子を用いることを特徴とする請求項1または2記載の生化学分析方法。
【請求項4】
前記検体の供給は、流路部材内に前記検体を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部に測定部が配設されてなる分析チップの前記流路部材の前記測定部より流路上流側に設けられた前記展開層に検体を供給することにより行うことを特徴とする請求項1記載の生化学分析方法。
【請求項5】
前記超音波振動の印加は、複数の方向から前記分析チップに超音波振動を印加することにより行うことを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の生化学分析方法。
【請求項6】
前記超音波振動の印加は、前記展開層が接する空間を密閉して行うことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の生化学分析方法。
【請求項7】
前記展開層が接する空間を、超音波振動を印加するための圧電素子により密閉することを特徴とする請求項6記載の生化学分析方法。
【請求項8】
前記展開層が接する空間を覆う密封部材により前記展開層が接する空間を密閉することを特徴とする請求項6記載の生化学分析方法。
【請求項9】
検体を展開させる展開層を備えた分析チップを使用して、前記検体を測定する生化学分析装置であって、
前記分析チップに前記検体を供給する手段と、
前記検体を供給された前記分析チップに超音波振動を印加する手段とを備えたことを特徴とする生化学分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202807(P2012−202807A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67449(P2011−67449)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】