説明

生化学用器具の親水化処理方法およびその生化学用器具

【課題】 本発明は、マイクロプレートやマイクロチューブ、あるいは長い筒状の形状を持つピペットチップ等の生化学用器具において、該器具内面を均一に親水化処理し、薬液注入時および回収時に気泡の発生が少なく、また蛋白質の吸着を低減化し、高精度で、かつ高回収率で回収できる生化学用器具の処理方法および生化学用器具を目的とする。
【解決手段】 ポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂を用いた生化学用器具をスルホン化処理するに際して、該器具を密閉処理室に配置し、該処理室を減圧度30kPa以下になるまで減圧し、ついで減圧状態の処理室に−50(℃)以下の露点を持つ希釈ガスで希釈した三酸化硫黄含有ガスを導入し、該器具内面の硫黄原子含有基量がエネルギー分散型X線分光法により測定した硫黄原子数%で0.05%〜5.0%となるように前記三酸化硫黄含有ガスを接触させることを特徴とする生化学用器具の親水化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質や気泡の付着のない生化学分野で用いられる試薬、検体あるいは溶液の収容あるいは反応器具、検出器具等に用いられる微量容量の合成樹脂製生化学用器具の親水化処理方法およびその生化学用器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学反応やDNA反応、たんぱく質反応などをチップ上にて行うμ−TotalAnalysis System技術やLab−on−Chip技術が研究され実現してきており、今まで大型の実験装置や大量の試薬が必要であった反応実験が直径数ミリ以下容器内で少量の試薬を使用して行えるようになってきている。
【0003】
このような反応容器は通常、ウェルと呼ばれる100μL〜1mLの容積を持つ、微小な穴やくぼみが複数形成された反応容器を有するマイクロプレートや1つの容積が100μL〜1mLの容積を持つ、ヒンジで結合された蓋のついた筒状のチューブと呼ばれる容器が使用されている。このようなウェルあるいは単一の微小容器内において、例えば、抗原抗体反応においては抗原溶液と抗体溶液、DNA検出においてはプローブDNAと検体DNAなどの複数の試薬をウェル内に注入し、反応をおこない、反応の有無を検出する。
【0004】
前述のようなウェル状の反応容器に試料溶液をピペットで注入、あるいは反応容器から回収する際に、試料溶液内に気泡が混入したり、また反応容器壁面に微量な薬液が滞留する現象がしばしば見られ、正確な反応や分析時の検出が妨げられる場合がある。またピペットチップ内にも同様の気泡混入や排出する際に微量の薬液の残留が発生し、正確な計量が出来なくなる場合がある。
【0005】
また、上記の容器およびチップは合成樹脂であるオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂で作られている場合が多く、このような合成樹脂表面は蛋白質等の生体由来物質が非特異的に吸着する特性を有している。このため植物組織培養や動物細胞培養等の培養技術や免疫生化学的手法を駆使する生化学分野の試験用器具および臨床検査における採血、検体保存、更に生体由来の試薬類を保存あるいは反応に使用する上述した容器に合成樹脂材料からなる成型品を使用した場合、非特異的な吸着が種々の問題を引き起こす。例えば、生化学分野の試験容器においては希釈又は保存工程で容器に吸着すると、濃度が変化してしまう為分析結果に大きな影響を与え、採血容器、検体保存容器においては血液等の検体中のタンパク質が容器に吸着されると、タンパク質量の検査値が実際より低いか、あるいは全く検出されなく、診断を誤る可能性がある。
【0006】
このような課題を解決する手段としては、内面を物理的表面処理方法により処理する方法、具体的にはではポリスチレン製器具をオゾン処理する方法(特許文献1)などが知られている。
【0007】
さらには、器具内面を電子線等の活性エネルギー線を照射し、表面に親水性樹脂塗膜を形成させる方法が知られている。(特許文献2)
【0008】
しかし、内面の物理的表面処理方法では、親水性効果は表面処理後、1週間ほどで効果が無くなり、保存が全く利かない。また非常に高価な表面処理装置が必要である。親水性樹脂塗膜を形成する方法では、親水性効果は持続するが、微小容器や細い先端部を持つチップの内面だけを個々に、均一に親水化処理することは技術的にも負担が多く、効率も悪い。さらに使用する装置も高価である。またピペットチップの先端部のように直径が0.1mm以下の製品もあり、樹脂溶液で先端が塞がれてしまうこともしばしばである。電子線等の活性化エネルギー線を使用する場合も、親水性樹脂を表面に塗布しなければならず、前述した問題が発生する場合が多く、かつ高価な活性エネルギー線発生装置を必要とする。
【0009】
親水化処理方法の中で、硫酸、硝酸、発煙硫酸、三酸化硫黄等を使用する化学処理は古くから知られている。例えば、硫酸によるスルホン化により親水性の医療機器を得る方法(特許文献3)が開示されているが、十分な親水性を得るためには、高濃度の薬品を使用したり、ある程度の温度が必要な場合が多く、成形品を親水化処理後に変色や分解が起こり易いといった問題がある。また、三酸化硫黄ガスによるスルホン化処理も開示されているが、こうした処理をすると変色するために、ELISA法などのような光の吸光度を利用した分析方法には利用できないのが実情であった。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−101820号公報
【特許文献2】特開2008−86855号公報
【特許文献3】特開昭54−69185号公報
【特許文献4】特許第2904856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、微小なウェル状の容器を形成しているマイクロプレートやマイクロチューブ、あるいは長い筒状の形状を持つピペットチップ等の生化学用器具において、該器具内面を均一に親水化処理し、薬液注入時および回収時に気泡の発生が少なく、また蛋白質の吸着を低減化し、高精度で、かつ高回収率で回収できる生化学用器具の親水化処理方法および生化学用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題について鋭意研究した結果、三酸化硫黄ガスで器具をスルホン化処理するに当たり、器具を特定水分率以下に調整した後、スルホン化処理室に設置密閉し、スルホン化処理室内部を減圧した後、特定露点以下の空気を希釈ガスとして使用し、該生化学用器具を三酸化硫黄含有ガスに接触させることにより、耐久性のある優れた親水性を持つ生化学用器具を得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、ポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂を用いた生化学用器具をスルホン化処理するに際して、該器具を密閉処理室に配置し、該処理室を減圧度30kPa以下になるまで減圧し、ついで減圧状態の処理室に−50(℃)以下の露点を持つ希釈ガスで希釈した三酸化硫黄含有ガスを導入し、該器具内面の硫黄原子含有基量がエネルギー分散型X線分光法により測定した硫黄原子数%で0.05%〜5.0%となるように前記三酸化硫黄含有ガスを接触させることを特徴とする生化学用器具の親水化処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂およびポリスチレン系樹脂からなる生化学用器具の少なくとも内面を、特定の条件下で三酸化硫黄含有ガスにより親水化処理することで、特定量の親水性基であるスルホン酸基を合成樹脂器具表面に結合させ、該容器およびチップ等の内面を均一に親水化処理し、薬液注入時および回収時に気泡の発生が少なく、薬液の高回収率が可能となり、また蛋白質の吸着を低減化し、蛋白質成分を高精度でかつ高回収率で回収できる生化学用器具を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いられる生化学用器具としては、医療現場・生化学研究に使用されるポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂で構成される生化学用器具で、具体的には、ディスポーザルピペット、マイクロピペットおよびそれに使われるディスポーザブルチップ等の液体操作用器具類および遠沈管、凍結保存チューブ、チューブ、マルチウェルプレート、フラスコ等の容器類あるいはフィルターユニット、ハウジング部品等が挙げられる。これらの中でも生体由来物質との接触時間が比較的長く、各種分析における試料調製に使用されるチューブ類(具体的には、採血容器またはタンパク質の分析に用いられる試験管やサンプル容器)、マルチウェルプレート、分注チップであることが好ましい。本発明により、これら生化学用器具を用いた分析結果の精度及び感度が向上する。
【0016】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の重合体であり、これらオレフィン系単量体から選ばれた少なくとも一つ以上の単量体の重合体または共重合体である。またオレフィン系単量体類と共重合可能なオレフィン系単量体またはオレフィン系以外の単量体との共重合体であっても差し支えない。オレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂の例としてはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、SBR、エチレン−プロピレン系樹脂、ABS系樹脂およびこれらの共重合体等が挙げられる。また、このオレフィン系樹脂と他の熱可塑性樹脂、例えばポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリスチレン樹脂との混合物、或いは共重合体であっても差し支えない。
【0017】
前記ポリスチレン系樹脂とは、スチレン単量体を使用した樹脂であり、樹脂中にスチレン単位が好ましくは10重量%以上含むポリスチレン系樹脂である。具体的にはポリスチレン、α−メチルポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メチルメタアクリレート−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、無水マレイン酸−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素添加物、スチレン−イソプレン共重合体およびその水素添加物、スチレンを反応性希釈剤として含んでいる不飽和ポリエステル系樹脂またはエポキシアクリレート系樹脂等のビニルエステル樹脂などが挙げられる。また、他の熱可塑性樹脂との混合物、共重合物であっても差し支えない。
【0018】
本発明で言う三酸化硫黄含有ガスを接触させる処理とは、固体あるいは液体の三酸化硫黄あるいは発煙硫酸等から得られる三酸化硫黄ガスを親水化剤として使用する親水化処理方法である。この用いられる親水化剤としては、ガス状の三酸化硫黄を不活性ガス、あるいは空気で希釈したガス状のものであり、このガス状親水化剤により効率よく親水化することができる。好ましい三酸化硫黄ガスとしては、液状三酸化硫黄をその沸点以上に加熱してガス化する方法または高濃度の三酸化硫黄ガスを含む発煙硫酸を加熱して得られる方法等によって得られる三酸化硫黄ガスである。目的に応じてこれらの方法から選ぶことが出来る。特に好ましい方法としては液状三酸化硫黄をその沸点以上に加熱してガス化する方法である。
【0019】
本発明によって処理された生化学用器具は、ポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂からなる生化学用器具表面に三酸化硫黄ガスに由来する親水性基としてスルホン酸基が結合したものである。生化学用器具表面は、該処理後に硫黄原子含有基量がエネルギー分散型X線分光法で測定した値で、0.05硫黄原子数%〜5.0硫黄原子数%と成るよう接触処理される。好ましくは0.07硫黄原子数%〜3.0硫黄原子数%となるように処理するのが良い。器具表面の硫黄原子数%が、0.05%未満では親水性効果不十分で、気泡が付着し蛋白質の吸着があり、5.0%より大きいものでは蛋白質吸着はなく良好であるが、親水化処理による変色および表面劣化が激しく、実用性が乏しいものである。本発明のエネルギー分散型X線分光法での測定とは、エネルギー分散型X線分光分析装置(JSM−5900LV 、日本電子製)で測定した時の値である。
【0020】
本発明では、生化学用器具の処理方法で三酸化硫黄含有ガスに接触させる前に該器具に物理的親水化表面処理を施してもかまわない。物理的表面処理方法としては、材料技術研究協会編、実用表面改質技術総覧(1993年)などに記載されているプラズマ処理、紫外線処理(以下 UV処理)イオン処理、放射線処理などがあり、またそれ以外にも大気圧プラズマ処理、コロナ処理、エキシマUV処理、オゾン処理、オゾン水処理等がある。
【0021】
本発明では、生化学用器具を三酸化硫黄含有ガスに接触させる前に、該器具の水分率を0.1%以下に調整するのが好ましい。その調整する方法としては、熱風乾燥機、除湿乾燥機、真空乾燥機等に40(℃)以上、器具材質の熱変形温度以下の温度で乾燥することが好ましい。乾燥装置は何れの物でもよく、装置を特定するものではない。また、該器具の水分率の測定は、カールフィシャーを用いて、120(℃)/5分で測定した値を水分率として用いる。水分率は、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.08%以下である。該器具の水分率が0.1%を越えると、三酸化硫黄含有ガスの三酸化硫黄成分が該器具表面の水分と反応し、スルホン酸基結合量が低下するばかりでなく、水分と反応して生成する濃硫酸により表面の粗さが増したり、変色が多くなり、実用上好ましくない。
【0022】
本発明で使用する三酸化硫黄含有ガスは、好ましくは液状の三酸化硫黄をその沸点以上に加熱して得られた三酸化硫黄ガスを露点が−50℃以下、好ましくは−55℃以下に調整された空気で希釈した三酸化硫黄含有ガスを使用する。密閉処理室に配置した被処理の該器具に接触させる方法が好ましく用いられる。希釈用空気の露点が−50(℃)以上では希釈ガスに含まれる水分と三酸化硫黄との反応により濃硫酸が生成し、正確な三酸化硫黄ガス濃度によるスルホン化処理が不可能となる。また、生成した濃硫酸により該器具表面の粗さが増したり、変色が生じ易くなる。密閉処理室とは、減圧可能な部屋、容器、箱等であり、その材質は減圧可能な鉄、SUS鋼あるいはこれら金属からなる密閉処理室内面をガラスまたはフッ素樹脂でコーティングしたしたものであれば何れのものでも良い。
【0023】
また本発明では、該器具に三酸化硫黄含有ガスを接触させる密閉処理室を、該器具を該処理室内に配置した後、該処理室を減圧し、減圧状態で三酸化硫黄含有ガスを導入する方法が用いられる。また該器具を配置する際、該器具の開口部を三酸化硫黄含有ガスの流動方向に対し、風上側(上流側)に向けて配置することが好ましい。例えば、分注チップの様に開口部が2箇所以上ある場合、ピペットと接合する分注チップの接合部(大きい直径の開口部)が三酸化硫黄含有ガスの流動方向に対し、風上側(上流側)に向けて配置すると内面の処理が効率的に行える。減圧処理の減圧度は30kPa以下であり、好ましくは15kPa以下である。減圧度が30kPaを超えた場合や、該器具の開口部が三酸化硫黄含有ガスの流動方向に対し、風上側に向いていない場合、該器具の内面全体に三酸化硫黄含有ガスが均一に行き渡らず、未処理の部分が発生する。
【0024】
本発明で用いられる希釈前の三酸化硫黄ガスは、好ましくは液状三酸化硫黄をその沸点以上で加熱して気化させることで該三酸化硫黄ガスを得ることが出来る。該ガスを生成させる温度は、液状三酸化硫黄の沸点+5(℃)〜液状三酸化硫黄の沸点+100℃が好ましく、ガス化温度が沸点+5(℃)未満では十分な量のガスが得られず、またガス化温度が沸点+100℃より高い温度ではガス温度の制御に問題がある。より好ましくは液状三酸化硫黄の沸点+10(℃)〜液状三酸化硫黄の沸点+50℃である。
【0025】
生化学用器具を三酸化硫黄含有ガスに接触させる際の三酸化硫黄ガス濃度としては0.1〜5.0体積%が好ましい。0.1体積%未満では親水性が不十分であり、5.0体積%を超えると、該器具の変色や表面の荒れが著しくなる。被処理生化学用器具と接触させる時の処理時のガス温度は20〜80℃が好ましい。20℃未満では短時間での親水化処理が困難であり、80℃を超えると該器具の着色や表面の荒れが著しい。好ましい処理時間としては0.1分〜15分である。0.1分未満では十分な親水性が得られず、15分より長いと該器具の変色や表面荒れが著しい。
【0026】
生化学用器具を三酸化硫黄含有ガスと接触させ、該器具表面に硫黄原子含有親水性基を結合させる方法は、例えば該器具を三酸化硫黄含有ガスが封入される耐酸性の密閉処理室あるいは密閉容器に収容し、接触させるバッチ法を挙げることができる。
また、三酸化硫黄ガスと希釈用乾燥ガスとの混合ガスの供給方法としては、特に制限されないが、例えば三酸化硫黄ガスを連続して一方向に流通している配管途中より、三酸化硫黄ガスを導入後、希釈ガスをスタティックミキサー等により均一に混合する方法、あるいは三酸化硫黄ガスと希釈ガスを同時にスタティックミキサー等に導入し、均一に混合する方法が上げられるが、これに限定されるものではない。予め混合したガスを使用しても差し支えない。処理室のガス流通量としては、処理室の内容積に依存し、1分間当たり処理室の1容量に対し、好ましくは0.5〜10倍量である。より好ましくは、1〜5倍量である。
【0027】
更に、本発明では、上記のように密閉処理室内で該器具に三酸化硫黄含有ガスを接触させた後、直ちに該器具の後処理をし、該器具表面に残存する三酸化硫黄あるいは硫酸を除去することが好ましい。前記後処理としては、例えば、導電率100(μS/m)以下のイオン交換水を用いた水洗、重曹水溶液及び石灰水等のアルカリ溶液による処理等を好ましく挙げることができる。アルカリ溶液で洗浄した後、さらに10℃以上のイオン交換水で洗浄することがより好ましい。アルカリイオン成分としては、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、銅イオン、銀イオン、カルシウムイオン等が好ましい。
【0028】
また本発明では、該器具の親水化処理の必要がない部分についてはマスキングすることにより、選択的に親水化処理を実施することができる。マスキング方法としては公知の方法が用いられる。例えば、粘着剤のついた樹脂製あるいは紙製のフィルム、シート、テープ等や粘着剤のついた金属箔によるマスキング、UVあるいは電子線硬化塗料を含む塗料等の塗布によるマスキング、レジスト材によるマスキング、物理的遮蔽によるマスキング等が挙げられる。
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。本発明の三酸化硫黄含有ガスにより改善された親水性能の性能評価方法及び評価基準を以下に述べる。
【実施例】
【0030】
<物性評価方法>
(1)スルホン酸基結合量評価方法
生化学用器具凹部内面のスルホン酸基濃度をエネルギー分散型X線分光分析装置(EDX)によるエネルギー分散型X線分光法により硫黄原子数%で評価した。測定箇所はマイクロウェル、マイクロチューブについては凹部内面において、開口部から底部までの領域の中で、開口部から底部方向へ、開口部から1/3までの深さ領域内面を開口部とし、開口部から2/3以上の深さ領域内面を底部として、開口部および底部のスルホン酸基濃度を測定した。
・エネルギー分散型X線分光分析装置(JSM−5900LV 、日本電子製)
・倍率:100倍
【0031】
(2)生化学用微量チューブおよびマイクロウェルプレート気泡混入率評価
内容量260μLのV底形状の生化学用微量容器(チューブ)100個あるいは内容量300μLの96ウェルマイクロウェルプレート1枚にマイクロピペットにて100μLのイオン交換水を微量容器に分注し、微量容器内の壁面とイオン交換水の間の気泡の有無を目視で確認する。気泡が確認された容器数を百分率で評価する。
【0032】
(3)蛋白質吸着量評価
蛋白質吸着性はELISA法を用いた。測定用試薬として株式会社シバヤギ製のELISA測定キットを用いた。評価用容器内面をリン酸緩衝液で4回洗浄し、50ng/mlのウシアルブミン溶液100μLを分注し、室温で1時間静置した。ついでウシ血清アルブミン溶液を捨て、リン酸緩衝液で4回洗浄し、2μL/mLのペルオキシターゼ結合抗アルブミン抗体を100μL分注し、室温で1時間静置した。つぎにペルオキシターゼ結合抗アルブミン抗体を廃棄し、リン酸緩衝液で4回洗浄した。その後、TMBZ発色液を100μL分注し、室温で30分静置した。ついで反応停止液(1M硫酸)を100μL分注し、反応を停止させた後、分光光度計で450nmの吸光度を測定し、検量線から容器本体に残留したペルオキシターゼ結合抗アルブミン抗体(残留ウシアルブミン量に対応)の重量を求め、3個の平均吸着率を求め、アルブミン吸着率とした。
【0033】
(4).成形品水分率
スルホン化処理前の成形品水分率は、乾燥後の成形品の一部約0.2gを切り出し、カールフィッシャーにて、120(℃)/5分加熱し、水分率を測定した。
【0034】
(実施例1〜3)
1ウェル容量300μLの市販のポリスチレン製96ウェルマイクロウェルプレートを60(℃)で表−1に示す水分率になるまで乾燥した。ついで、表−1に示される条件にて三酸化硫黄含有ガスにて処理した。処理後、50(℃)、70(μS/m)のイオン交換水の流水中で10分洗浄した。このマイクロウェルプレートについて、前述した評価方法に基づき、気泡含有率およびアルブミン吸着率を測定した。結果を表−1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
(比較例1〜5)
実施例1で使用した未処理のマイクロウェルプレートを用い、表−2に示す以下の実験を実施した。
親水化処理無しの場合を比較例1に、ウェル開口部を三酸化硫黄含有ガスの流動方向に対し、直角方向に設置した例を比較例2に、親水化処理前の水分率、希釈ガス露点およびが処理室減圧度が本発明外の例をそれぞれ比較例3、比較例4および比較例5に結果を示した。
表−2から明らかなように、本発明の生化学用マイクロウェルは分注時に気泡の発生が無く、測定精度に信頼性が高まり、かつアルブミン吸着も少なく、試料への直接的な影響および測定結果への悪影響を防止できる。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例4〜6)
容量250μLの市販のポリプロピレン製PCRチューブを表−3に示す条件にて、90(℃)で表−3に示す水分率になるまで乾燥し、ついで同表に示される条件にて三酸化硫黄含有ガスにて処理した。実施例6については1分間のUV照射をした後、同表に示される条件にて乾燥、三酸化硫黄含有ガスでの処理を実施した。処理後、実施例1と同様に洗浄した。このPCRチューブについて、気泡含有率およびアルブミン吸着率を測定した。結果を表−3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
(比較例6〜10)
実施例6で使用した未処理のPCRチューブを用いて、表−4に示す以下の実験を実施した。親水化処理無しの場合を比較例6に、PCRチューブ開口部を三酸化硫黄含有ガスの流動方向に対し、直角方向に設置した例を比較例7に、親水化処理前の水分率、希釈ガス露点およびが処理室減圧度が本発明外の例をそれぞれ比較例8、比較例9および比較例10に結果を示した。
表−4から明らかなように、本発明の生化学用PCRチューブは分注時に気泡の発生が無く、測定精度に信頼性が高まり、かつアルブミン吸着も少なく、試料への直接的な影響および測定結果への悪影響を防止できる。






【0041】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により特定の条件で三酸化硫黄含有ガスにて表面を処理された生化学用器具は、分注時の気泡の発生を低減化し、表面に対する生体由来物質の吸着量を低減させることができているため、特に遺伝子工学、蛋白質工学、臨床検査学等の生化学研究および生体由来物質の分析を行なう際に使用するピペット、ディスポーザブルチップ、ディスペンサーチップ、マイクロチューブ、ウェルプレート、保存容器、希釈容器等の器具類に適用した場合、生体由来物質等の試料の吸着による損失が無く、有機溶剤を使用する事が可能で、高精度かつ高感度な分析を行なう事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂またはポリスチレン系樹脂を用いた生化学用器具をスルホン化処理するに際して、該器具を密閉処理室に配置し、該処理室を減圧度30kPa以下になるまで減圧し、ついで減圧状態の処理室に−50(℃)以下の露点を持つ希釈ガスで希釈した三酸化硫黄含有ガスを導入し、該器具内面の硫黄原子含有基量がエネルギー分散型X線分光法により測定した硫黄原子数%で0.05%〜5.0%となるように前記三酸化硫黄含有ガスを接触させることを特徴とする生化学用器具の親水化処理方法。
【請求項2】
前記処理前の生化学用器具の水分率を0.1%以下まで乾燥させることを特徴とする請求項1記載の生化学用器具の親水化処理方法。
【請求項3】
前記生化学器具を密閉処理室に配置する際、該器具の開口部が、希釈した三酸化硫黄含有ガスの流動方向風上側に向けて配置することを特徴とする請求項1〜2いずれかに記載の生化学用器具の親水化処理方法。
【請求項4】
前記処理前の生化学用器具が、物理的親水化処理をしたものであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の生化学用器具の親水化処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかの処理方法で処理して得られた生化学器具。

【公開番号】特開2010−202823(P2010−202823A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51874(P2009−51874)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】