説明

生化学自動分析方法および吸着剤収容容器

【課題】生化学自動分析装置を用いてカルシウムイオン測定を行なう際に、空気中の炭酸ガスの影響を防ぐことができる生化学自動分析方法および吸着剤収容容器を提供する。
【解決手段】複数の試薬容器を周方向に配置して成る試薬用回転テーブルを試薬庫内に備えた生化学自動分析装置用の生化学自動分析方法において、前記試薬容器の1つに入れられたキレート試薬を使ってカルシウムイオンを定量する際に、該キレート試薬を保管する試薬庫内の空気中の炭酸ガスを除去するために、炭酸ガス吸着剤を試薬庫内に設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学自動分析装置において、カルシウムイオン(Ca2+)の定量を行なう際に使用される生化学自動分析方法および吸着剤収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野において、血清中や尿中に含まれているカルシウムイオンを定量する際の測定法としては、現在、酵素法、OCPC法、MXB法、アルセゾナIII法等が主流であり、このうち最も多く用いられているOCPC法およびMXB法は、キレート剤の一種であるOCPC(o-クレゾールフタレインコンプレキソン)やMXB(メチルキシレノールブルー)を用いて、被検試料中のカルシウムイオンを捕捉する方法である。
【0003】
これらの方法では、キレート剤を用いるため、反応時のpH依存性が高い。そのため、これらの試薬を使用している検査施設においては、カルシウムイオン測定値の日差または日内変動が問題になっているところがあり、その原因としては、空気中の炭酸ガスが試薬に溶け込むことによる試薬自身のpH変化が主要な原因となっていることが多い。
【0004】
この問題を解決するために、一部の試薬メーカーにおいては、試薬の液面に流動パラフィンを浮かせて、空気と試薬を遮断することにより、pHの変化を抑える試みが行なわれているが、このような解決方法では、逆に試薬を分注する試薬分注ピペットに内蔵された液面センサーに誤動作を誘発する場合があったりして、根本的な解決方法にはなっていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−339612号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、キレート剤を用いたカルシウムイオン測定試薬に空気中の炭酸ガスが溶け込むと、試薬自身のpHが下がり、キレート剤が被検試料中のカルシウムイオンと結合する際の特異的な選択性が低下する。そのため、測定値の日差または日内変動が許容値を超えることもあり、カルシウムイオン測定上の大きな問題点であった。
【0007】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、生化学自動分析装置を用いてカルシウムイオン測定を行なう際に、空気中の炭酸ガスの影響を防ぐことができる生化学自動分析方法および吸着剤収容容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明にかかる生化学自動分析方法は、
複数の試薬容器を周方向に配置して成る試薬用回転テーブルを試薬庫内に備えた生化学自動分析装置用の生化学自動分析方法において、
前記試薬容器の1つに入れられたキレート試薬を使ってカルシウムイオンを定量する際に、該キレート試薬を保管する試薬庫内の空気中の炭酸ガスを除去するために、炭酸ガス吸着剤を試薬庫内に設置したことを特徴としている。
【0009】
また、前記炭酸ガス吸着剤は吸着のための開口を有する容器に収容され、該容器は前記試薬用回転テーブルに取り付けられることを特徴としている。
【0010】
また、前記炭酸ガス吸着剤が入れられた容器は、前記試薬用回転テーブルの試薬容器保持部に保持されていることを特徴としている。
【0011】
また、前記炭酸ガス吸着剤が入れられた容器は、前記試薬用回転テーブル上のキレート試薬が入った試薬容器の隣の試薬容器保持部に保持されていることを特徴としている。
【0012】
また、前記炭酸ガス吸着剤はモレキュラーシーブであることを特徴としている。
【0013】
また、前記キレート試薬は、OCPC(o-クレゾールフタレインコンプレキソン)またはMXB(メチルキシレノールブルー)であることを特徴としている。
【0014】
また、請求項1記載の生化学自動分析方法に使用される炭酸ガス吸着剤を収容する吸着剤収容容器であって、該収容容器は前記試薬用回転テーブルの試薬容器保持部に保持される形状を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる生化学自動分析方法によれば、
複数の試薬容器を周方向に配置して成る試薬用回転テーブルを試薬庫内に備えた生化学自動分析装置用の生化学自動分析方法において、
前記試薬容器の1つに入れられたキレート試薬を使ってカルシウムイオンを定量する際に、該キレート試薬を保管する試薬庫内の空気中の炭酸ガスを除去するために、炭酸ガス吸着剤を試薬庫内に設置したので、
生化学自動分析装置を用いてカルシウムイオン測定を行なう際に、空気中の炭酸ガスの影響を防ぐことができる生化学自動分析方法を提供することが可能になった。
【0016】
また、本発明にかかる吸着剤収容容器によれば、
請求項1記載の生化学自動分析方法に使用される炭酸ガス吸着剤を収容する吸着剤収容容器であって、該収容容器は前記試薬用回転テーブルの試薬容器保持部に保持される形状を有するので、
生化学自動分析装置を用いてカルシウムイオン測定を行なう際に、空気中の炭酸ガスの影響を防ぐことができる吸着剤収容容器を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。本発明では、炭酸ガスの吸着剤であるモレキュラーシーブを生化学自動分析装置の試薬庫内に設置し、試薬庫中の炭酸ガスを吸着除去することにより、試薬庫に設置されたカルシウムイオン測定試薬のpHの変動を抑え、安定したデータの取得を可能とする。
【0018】
[実施例]
生化学自動分析装置を用いて本発明の効果を確認する手順を以下に述べる。実験に使用したカルシウムイオン定量方法はOCPC法であり、用いた試薬は関東化学(株)製の「シカオートCa」という商品名の市販試薬である。測定には日本電子(株)製全自動生化学分析装置BioMajesty JCA-BM8040を用いた。
【0019】
(手順1)反応セルに分析試薬1を試薬分注ピペットにより所定量分注する。尚、分析試薬1は、「シカオートCa」用の緩衝液である。
【0020】
(手順2)分析試薬1が注入された反応セルに、続けて被検試料(関東化学(株)製の検量線用Ca2+標準試料「マルチキャリブ6M」、またはシスメックス社製のコントロール血清「QAP×1」)を検体分注ピペットにより所定量分注する。
【0021】
(手順3)所定の経過時間後、主波長(571nm)と副波長(658nm)での吸光度を同時測定する。ここで主波長は、キレート剤OCPCがカルシウムイオンを捕捉すると赤く発色する(570nm付近に吸収極大を持つ)ので、それを定量する前に、そのブランク値を測定するものであり、副波長は、被検試料の濁り等によるバックグラウンドを差し引いて前記ブランク値を補正する目的で測定するものである。
【0022】
(手順4)所定の経過時間後、分析試薬1および被検試料が分注された反応セルに、分析試薬2を試薬分注ピペットにより所定量分注する。尚、分析試薬2は、「シカオートCa」用の発色液(OCPC水溶液)である。
【0023】
(手順5)所定の経過時間後、赤く発色した反応混合物の主波長(571nm)と副波長(658nm)での吸光度を同時測定する。
【0024】
(手順6)測定された主・副波長の吸光度をカルシウムイオン濃度に換算し、結果を出力する。
【0025】
(手順7)標準試料「マルチキャリブ6M」によってカルシウムイオンの検量線を作成後、コントロール血清「QAP×1」をキャリブレータに用いてカルシウムイオンを定量し、「QAP×1」の表示値通りの定量値が出るかどうか確認した。
【0026】
本発明により炭酸ガスの影響を排除する効果がどの程度あるかを調べるため、実験に際し、生化学自動分析装置の試薬庫にドライアイスを設置し、一昼夜かけて試薬庫内に炭酸ガスを充満させた。その後、ドライアイスを除去して、カルシウムイオンの検出試薬「シカオートCa」をセットし、試薬庫内に炭酸ガスを吸着する能力を持つモレキュラーシーブ「13×1/16」を置いた場合と置かなかった場合とで、カルシウムイオンの定量結果を比較した。
【0027】
尚、モレキュラーシーブの設置位置は、キレート剤を入れた試薬容器の開口部に近いほど効果が大きいので、一例として、試薬容器の上部をカッター等で切り取り、オープンの状態にしたものにモレキュラーシーブを入れ、複数の試薬容器を周方向に配置して成る試薬用回転テーブルのキレート剤が置かれている位置の両隣に置く方法を取った(図1)。ただし、モレキュラーシーブを設置する仕方にはさまざまな変形が考えられ、本発明はこの例のみに必ずしも限定されるものではない。
【0028】
カルシウムイオンの測定方法としては、1つの試料を5回測定し、その平均値で比較する方法を取った。モレキュラーシーブを設置した場合と設置しなかった場合で有意差があるかどうかの判断は、30時間の追跡測定を行ない、有意水準1%(99%は差があると見て良い水準)で検定した。
【0029】
測定されたカルシウムイオンの定量結果を時間経過とともに図2および図3に示す。図2および図3から明らかなように、試薬庫内にモレキュラーシーブを設置した場合は、測定開始直後に8.86mg/dlと定量されたカルシウムイオンは、測定開始30時間後にも8.76mg/dlと定量され、高い安定性を示した。
【0030】
一方、試薬庫内にモレキュラーシーブを設置しなかった場合は、測定開始直後に8.82mg/dlと定量されたカルシウムイオンは、測定開始30時間後には7.84mg/dlと定量され、大きく値が減少する結果となった。
【0031】
この減少は、試薬庫内の炭酸ガスがカルシウムイオンの検出試薬「シカオートCa」中に溶解した結果、そのpHが低下し、それによりカルシウムイオンの定量誤差を招いたものと考えられる。
【0032】
図4に有意差検定の結果を示す。この検定結果から、測定開始30時間後に観測された8.76mg/dlという値と7.84mg/dlという値は等しいとする仮説は有意水準1%で棄却され、両者に明らかな有意差のあることが確認された。
【0033】
以上の結果から、キレート剤を用いて被検試料中のカルシウムイオンを定量する場合には、本発明のごとく、キレート剤を保管している試薬庫内に炭酸ガスを吸着するモレキュラーシーブを予め設置しておけば、高い定量安定性を維持したまま、長時間に渡り測定を行なえることが明らかになった。
【0034】
尚、モレキュラーシーブの代わりに、炭酸ガスを中和吸収する能力を有するアルカリ試薬を用いても、同様の効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
生化学自動分析装置の一測定手法として、広く使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】モレキュラーシーブの設置方法の一例を示す図である。
【図2】試薬庫内にモレキュラーシーブを設置した場合と設置しなかった場合の測定結果を示す図である。
【図3】試薬庫内にモレキュラーシーブを設置した場合と設置しなかった場合の測定結果を示す図である。
【図4】有意差検定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試薬容器を周方向に配置して成る試薬用回転テーブルを試薬庫内に備えた生化学自動分析装置用の生化学自動分析方法において、
前記試薬容器の1つに入れられたキレート試薬を使ってカルシウムイオンを定量する際に、該キレート試薬を保管する試薬庫内の空気中の炭酸ガスを除去するために、炭酸ガス吸着剤を試薬庫内に設置したことを特徴とする生化学自動分析方法。
【請求項2】
前記炭酸ガス吸着剤は吸着のための開口を有する容器に収容され、該容器は前記試薬用回転テーブルに取り付けられることを特徴とする請求項1記載の生化学自動分析方法。
【請求項3】
前記炭酸ガス吸着剤が入れられた容器は、前記試薬用回転テーブルの試薬容器保持部に保持されていることを特徴とする請求項2記載の生化学自動分析方法。
【請求項4】
前記炭酸ガス吸着剤が入れられた容器は、前記試薬用回転テーブル上のキレート試薬が入った試薬容器の隣の試薬容器保持部に保持されていることを特徴とする請求項3記載の生化学自動分析方法。
【請求項5】
前記炭酸ガス吸着剤はモレキュラーシーブであることを特徴とする請求項1記載の生化学自動分析方法。
【請求項6】
前記キレート試薬は、OCPC(o-クレゾールフタレインコンプレキソン)またはMXB(メチルキシレノールブルー)であることを特徴とする請求項1記載の生化学自動分析方法。
【請求項7】
請求項1記載の生化学自動分析方法に使用される炭酸ガス吸着剤を収容する吸着剤収容容器であって、該収容容器は前記試薬用回転テーブルの試薬容器保持部に保持される形状を有することを特徴とする吸着剤収容容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−127675(P2010−127675A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300588(P2008−300588)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】