説明

生地及び肌着

【課題】接触冷感に優れ、かつ、湿潤時の不快感を抑制することのできる生地を提供する。また、該生地を用いて製造される肌着を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層と、ポリエステルを含有する繊維からなる層とを有し、前記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、前記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに、該肌側となる面の50〜70%の面積に形成されており、前記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが、総厚みの10〜60%である生地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触冷感に優れ、かつ、湿潤時の不快感を抑制することのできる生地に関する。また、本発明は、該生地を用いて製造される肌着に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、夏季用の肌着として、着用時にヒヤリとした感覚を惹起し、清涼感を与える接触冷感に優れた繊維を用いた肌着が研究されている。このような接触冷感に優れた繊維を得る方法として、従来、例えば、繊維の吸水性を向上させたり、繊維の熱伝導性を向上させたりする方法等が行われてきた。
【0003】
また、本発明者は、熱可塑性エラストマーを紡糸して得た繊維が接触冷感に優れることを見出し、特許文献1に、熱可塑性エラストマーを含有する接触冷感に優れた繊維を開示している。更に、本発明者は、特許文献2に、2種類のポリアミド系エラストマーの樹脂混合物を含有する繊維を開示している。
しかしながら、熱可塑性エラストマーを紡糸して得た繊維は、特に肌着に用いられる場合、発汗等による湿潤時にはべたついて肌離れが悪くなり、不快感が生じることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−270075号公報
【特許文献2】特開2005−36361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、接触冷感に優れ、かつ、湿潤時の不快感を抑制することのできる生地を提供することを目的とする。また、本発明は、該生地を用いて製造される肌着を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層と、ポリエステルを含有する繊維からなる層とを有し、前記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、前記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに、該肌側となる面の50 〜70%の面積に形成されており、前記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが、総厚みの10〜60%である生地である。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層と、ポリエステルを含有する繊維からなる層とを有し、前記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、前記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに、該肌側となる面の50〜70%の面積に形成されており、前記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが、総厚みの10〜60%である生地は、接触冷感に優れ、例えばスポーツシーン等における体温上昇を抑制することができ、かつ、発汗等による湿潤時にもべたつき感を軽減して肌離れを改善し、不快感を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の生地は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層を有する。
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、肌着に用いられる場合、肌に触れた瞬間に肌から体温を奪うことができる一方で、肌から離れている間には放熱することができる。このような繊維を用いることにより、本発明の生地は、接触冷感に優れ、例えばスポーツシーン等における体温上昇を抑制することができる。
【0009】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維における熱可塑性エラストマーは特に限定されないが、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーが好適である。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0010】
上記ポリアミド系エラストマーは特に限定されず、例えば、ポリエーテルブロックアミド共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリエステルアミド共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記ポリアミド系エラストマーのうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)、UBEナイロン(宇部興産社製)、グリロンELX、グリルアミドELY(以上、エムス昭和電工社製)、ダイアミド、ベスタミド(以上、ダイセル・デクサ社製)等が挙げられる。
【0011】
上記ポリエステル系エラストマーは特に限定されず、例えば、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記ポリエステル系エラストマーのうち市販されているものとしては、例えば、グリラックス(DIC社製)、ヌーベラン(帝人化成社製)、ペルプレン(東洋紡績社製)、ハイトレル(東レ・デュポン社製)、プリマロイ(三菱化学社製)等が挙げられる。
【0012】
上記熱可塑性エラストマーのなかでも、下記式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体は、極めて優れた接触冷感を与える繊維が得られること、紡糸性に優れること、及び、比重が軽く、軽い生地を作製できる繊維が得られることから特に好適である。
【0013】
【化1】

式(1)中、PAはポリアミドを表し、PEはポリエーテルを表す。
【0014】
上記式(1)で表されるポリエーテルブロックアミド共重合体のうち市販されているものとしては、例えば、ペバックス(アルケマ社製)等が挙げられる。
【0015】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、上記熱可塑性エラストマーのみを含有する繊維であってもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、べたつき感を軽減したり、紡糸性を向上させたり、風合い、肌触り等の肌着に必要な要件を改善したりするために、上記熱可塑性エラストマー以外の他の樹脂を併用した繊維であってもよい。
上記他の樹脂は特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、PET、PBT、PTT等のポリエステル系樹脂、レーヨン、アクリル等が挙げられる。上記他の樹脂のなかでも、ポリアミド系樹脂が好適である。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が上記他の樹脂を含有する場合、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、上記熱可塑性エラストマーと上記他の樹脂との混合物を紡糸して得られる繊維であってもよいし、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維と上記他の樹脂を含有する繊維とを交編織して得られる繊維であってもよいし、コンジュゲート繊維であってもよい。
上記コンジュゲート繊維は特に限定されず、例えば、芯鞘型コンジュゲート繊維、サイドバイサイド型コンジュゲート繊維、放射型コンジュゲート繊維、中空環状型コンジュゲート繊維等が挙げられる。
【0017】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が上記芯鞘型コンジュゲート繊維である場合、芯部に上記熱可塑性エラストマー、鞘部に上記他の樹脂を用いてもよいし、芯部に上記他の樹脂、鞘部に上記熱可塑性エラストマーを用いてもよい。
【0018】
上記芯鞘型コンジュゲート繊維の形状は特に限定されず、例えば、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した場合の断面形状が真円であってもよいし、楕円等であってもよい。また、芯部と鞘部とが同心円状に形成された同心芯鞘型コンジュゲート繊維であってもよく、芯部と鞘部とが偏心的に形成された偏心芯鞘型コンジュゲート繊維であってもよい。更に、鞘部の一部が開口した部分開口芯鞘型コンジュゲート繊維であってもよい。加えて、繊維の長さ方向に対して垂直に切断した場合に芯部が複数存在するような構造であってもよい。
【0019】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
【0020】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、繊度の好ましい下限が44dtex、好ましい上限が120dtexである。繊度が44dtex未満であると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、肌に触れた瞬間に肌から充分に体温を奪うことができないことがある。繊度が120dtexを超えると、生地が厚くなり、通気性が悪化して着用時の快適性が低下することがある。
【0021】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記熱可塑性エラストマーを含有するペレットを用いて溶融紡糸を行う方法等の従来公知の方法を用いることができる。
また、上記他の樹脂を用いたコンジュゲート繊維とする場合は、上記熱可塑性エラストマーを含有するペレット、及び、上記他の樹脂を含有するペレットを複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸することにより、コンジュゲート繊維を得る方法等が挙げられる。
【0022】
上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みは特に限定されないが、厚みの好ましい下限が総厚みの40%、好ましい上限が総厚みの90%である。上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みが総厚みの40%未満であると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層は、仮に常に肌に接触していたとしても、肌から充分に体温を奪うことができないことがある。上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みが総厚みの90%を超えると、発汗等による湿潤時のべたつき感を軽減する効果が低下することがある。
【0023】
本発明の生地は、ポリエステルを含有する繊維からなる層を有する。
上記ポリエステルを含有する繊維は、肌着に用いられる場合、発汗等による熱又は水分の放熱性、拡散性、蒸散性等に優れる。
上記ポリエステルを含有する繊維におけるポリエステルは特に限定されず、肌着等の衣料に通常用いられるポリエステルを用いることができるが、発汗等による湿潤時のべたつき感を軽減する観点から、酸化チタンを多く含有するフルダルタイプのポリエステルが特に好適である。
【0024】
上記ポリエステルを含有する繊維は特に限定されないが、例えば、単糸の断面形状がY、W、Z、M、波型、略三角形等の異型(非円形)断面形状である繊維の原糸及び加工糸、空孔率が5〜40%である多孔質繊維の原糸及び加工糸等が好適である。
なお、これらの繊維は、ファイバーメーカー各社より吸水拡散性ポリエステル繊維として市販されている。
【0025】
上記異型(非円形)断面形状である繊維は、繊維基質による吸水性はないが、物理的な要素、即ち、単繊維間の毛管現象、異型(非円形)断面による表面積の増大等により、吸水拡散性に優れる。従って、上記異型(非円形)断面形状である繊維は、発汗等による湿潤時のべたつき感を軽減することができ、更に、水分の拡散及び蒸散による放熱効果を発揮しやすい。
上記異型(非円形)断面形状である繊維のうち市販されているものとしては、例えば、A.H.Y.(三菱レイヨン社製、登録商標)、CEOα(セオ・アルファ)(東レ社製、登録商標)等が挙げられる。
【0026】
上記ポリエステルを含有する繊維は、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維の場合と同様に、上記ポリエステルのみを含有する繊維であってもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリエステル以外の他の樹脂を併用した繊維であってもよい。
また、上記ポリエステルを含有する繊維は、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維の場合と同様に、本発明の効果を損なわない範囲で、無機充填剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、無機物、高級脂肪酸塩等の添加剤を含有してもよい。
【0027】
上記ポリエステルを含有する繊維は、フィラメントであることが好ましい。
上記ポリエステルを含有する繊維は、繊度の好ましい下限が44dtex、好ましい上限が110dtexである。繊度が44dtex未満であると、上記ポリエステルを含有する繊維は、発汗等による熱又は水分の放熱性、拡散性、蒸散性等が低下することがある。繊度が110dtexを超えると、生地が厚くなり、通気性が悪化して着用時の快適性が低下することがある。上記ポリエステルを含有する繊維の繊度のより好ましい下限は56dtex、より好ましい上限は84dtexである。
【0028】
上記ポリエステルを含有する繊維を製造する方法は特に限定されず、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維の場合と同様に、例えば、上記ポリエステルを含有するペレットを用いて溶融紡糸を行う方法等の従来公知の方法を用いることができる。
また、上記他の樹脂を用いたコンジュゲート繊維とする場合は、上記ポリエステルを含有するペレット、及び、上記他の樹脂を含有するペレットを複合紡糸装置に投入し、溶融紡糸することにより、コンジュゲート繊維を得る方法等が挙げられる。
【0029】
本発明の生地においては、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに、該肌側となる面の50〜70%の面積に形成されており、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが、総厚みの10〜60%である。
本発明の生地は、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層を、上記範囲の面積及び厚みで上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面に有することで、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に密着することを軽減することができ、その結果、発汗等よる湿潤時にも、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維に起因するべたつき感を軽減して肌離れを改善し、不快感を抑制することができる。
【0030】
また、本発明の生地を用いた肌着を実際に着用すると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に触れたり、肌から離れたりを繰り返すため、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維は、肌に触れた瞬間に肌から体温を奪う一方で、肌から離れている間には放熱する。この流れが繰り返されることで、より効率的に、肌から体温を奪い、放熱することができる。
【0031】
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の面積が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の50%未満であると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に密着しやすくなり、発汗等による湿潤時のべたつき感を軽減することが困難となる。上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の面積が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の70%を超えると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に触れにくくなり、肌から体温を奪い、放熱することが困難となる。
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の面積は、好ましい下限が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の55%、好ましい上限が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の65%である。
【0032】
なお、本明細書において、ポリエステルを含有する繊維からなる層の、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面に対する面積比率は、生地の肌側となる面の画像解析により求められる。より具体的には、例えば、スキャナで読み取った生地の肌側となる面の画像から、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層のピクセル数と、ポリエステルを含有する繊維からなる層のピクセル数とを求め、得られたピクセル数の比率を算出することにより求められる。
【0033】
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが総厚みの10%未満であると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に密着しやすくなり、発汗等による湿潤時のべたつき感を軽減することが困難となる。上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが総厚みの60%を超えると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に触れにくくなり、肌から体温を奪い、放熱することが困難となる。
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みは、好ましい下限が総厚みの12%、好ましい上限が総厚みの58%である。
【0034】
なお、本明細書において、ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みは、ポリエステルを含有する繊維からなる層の平均厚みを意味し、JIS L 1096法により求められる。より具体的には、例えば、ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みは、圧縮弾性試験機(中山電気産業社製)を用い、生地の総厚みを測定した後、ポリエステルを含有する繊維からなる層を剥離して熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みを測定し、生地の総厚みと、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みとの差を算出することにより求められる。
【0035】
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の形状は、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層が、肌に密着することは軽減しながら、肌に触れたり、肌から離れたりを繰り返すことができるような形状であれば特に限定されないが、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面に均一に分布して形成されている形状が好ましい。このような形状として、例えば、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面に、均一に分布した開口部を有しつつ形成されることでメッシュ構造を形成する形状等が挙げられる。
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の形状として、より具体的には、例えば、図1に示すような線状で互い違いに矩形部を有する形状、図2に示すような形状等が挙げられる。
【0036】
図1に、本発明の生地の一例を模式的に示した。なお、図1(a)は、本発明の生地を肌側から見た平面図であり、図1(b)は、外側を上、肌側を下とした場合の断面図である。
図1に示すように、本発明の生地11は、ポリエステルを含有する繊維からなる層12と、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層13とから構成され、ポリエステルを含有する繊維からなる層12は、線状で互い違いに矩形部を有する形状となっている。また、ポリエステルを含有する繊維からなる層12は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層13の肌側となる面(下側)のみに形成されており、本発明の生地11は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層13が、肌に密着することは軽減しながら、肌に触れたり、肌から離れたりを繰り返すことのできる構成となっている。
【0037】
図2に、本発明の生地の別の一例を模式的に示した。なお、図2(a)は、本発明の生地を肌側から見た平面図であり、図2(b)は、外側を上、肌側を下とした場合の断面図である。
図2に示すように、本発明の生地21は、ポリエステルを含有する繊維からなる層22と、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層23とから構成されている。また、ポリエステルを含有する繊維からなる層22は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層23の肌側となる面(下側)のみに形成されており、本発明の生地21は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層23が、肌に密着することは軽減しながら、肌に触れたり、肌から離れたりを繰り返すことのできる構成となっている。
【0038】
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面にメッシュ構造を形成する場合、生地の肌側となる面において、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の開口部は、図2に示すように円形であってもよく、多角形であってもよい。
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の開口部が多角形である場合として、例えば、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面にハニカムメッシュ構造を形成する場合等が挙げられる。
【0039】
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面にメッシュ構造を形成する場合、生地の肌側となる面において、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の開口部ひとつ当たりの面積は、好ましい下限が2mm、好ましい上限が81mmである。上記開口部ひとつ当たりの面積が2mm未満であると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に触れにくくなり、肌から体温を奪い、放熱することが困難となることがある。上記開口部ひとつ当たりの面積が81mmを超えると、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維が肌に密着しやすくなり、発汗等による湿潤時のべたつき感を軽減することが困難となることがある。
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の開口部ひとつ当たりの面積は、より好ましい下限が3mm、より好ましい上限が72mmであり、更に好ましい下限が4mm、更に好ましい上限が64mmである。
【0040】
また、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面にメッシュ構造を形成する場合、生地の肌側となる面において、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層のそれぞれの開口部は、長径/短径の好ましい下限が1、好ましい上限が3、より好ましい上限が2.5である。
【0041】
なお、本明細書において、生地の肌側となる面における、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の開口部ひとつ当たりの面積、及び、それぞれの開口部の長径/短径は、上述した面積比率と同様に、生地の肌側となる面の画像解析により求められる。
【0042】
本発明の生地は、Q−max値の好ましい下限が0.20J/sec/cmである。Q−max値が0.20J/sec/cm未満であると、官能試験を行っても大半の人が接触冷感を感じないことがある。Q−max値のより好ましい下限は0.21J/sec/cm、更に好ましい下限は0.22J/sec/cmである。
なお、本明細書において、Q−max値は、一定面積、一定質量の熱板に所定の熱を蓄え、これが試料表面に接触した直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱流量のピーク値である。Q−max値は、着用時、特に安静時及び着用初期に試料に奪われる体温をシミュレートしていると考えられ、Q−max値が大きいほど着用時に奪われる体温が大きく、接触冷感が高いと考えられる。
【0043】
本発明の生地は、目付の好ましい下限は90g/m、好ましい上限は200g/mである。目付が90g/m未満であると、熱又は水分が移動しにくくなり、生地の接触冷感が低下することがある。目付が200g/mを超えると、重量又は熱伝達抵抗の増加により、生地の接触冷感が低下することがある。
【0044】
本発明の生地を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維及び上記ポリエステルを含有する繊維を用いて編み立てを行う方法、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維及び上記ポリエステルを含有する繊維を用いて製織する方法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0045】
本発明の生地においては、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに、該肌側となる面の50〜70%の面積に形成されており、上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが、総厚みの10〜60%である。これにより、本発明の生地は、接触冷感に優れ、例えばスポーツシーン等における体温上昇を抑制することができ、かつ、発汗等による湿潤時にもべたつき感を軽減して肌離れを改善し、不快感を抑制することができる。
上記ポリエステルを含有する繊維からなる層の面積及び厚みを上記範囲に調整する方法として、例えば、上記ポリエステルを含有する繊維の繊度を調整したり、上記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面における上記ポリエステルを含有する繊維のニットする本数を調整したりする方法等が挙げられる。
【0046】
本発明の生地を用いて、接触冷感に優れ、かつ、湿潤時の不快感を抑制することのできる肌着を製造することができる。本発明の生地を用いて製造される肌着もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、接触冷感に優れ、かつ、湿潤時の不快感を抑制することのできる生地を提供することができる。また、本発明によれば、該生地を用いて製造される肌着を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1(a)及び(b)は、本発明の生地の一例を示した模式図である。
【図2】図2(a)及び(b)は、本発明の生地の一例を示した模式図である。
【図3】図3は、比較例1〜2及び実施例1〜3で得られた生地について行ったQ−max値の測定の結果を表すグラフである。
【図4】図4は、比較例1〜2及び実施例1〜3で得られた生地について行った肌離れ性試験の結果を表すグラフである。
【図5】図5は、比較例1〜2及び実施例1〜3で得られた生地について行った衣服内の蒸れ状態評価の結果を表すグラフである。
【図6】図6は、比較例1〜2及び実施例1〜3で得られた生地について行った肌離れ性試験の測定装置を示した模式図である。
【図7】実施例1〜3において生地を編成する際の編図を示した模式図である。
【図8】比較例1において生地を編成する際の編図を示した模式図である。
【図9】比較例2において生地を編成する際の編図を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0050】
(実施例1)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、ペバックス 1041SA01)95重量%と、酸化チタン5重量%とを溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を得た。得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維の繊度は120dtexであった。
得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、ポリエステル繊維(三菱レイヨン社製、AHY84T48)とを用いて、丸編機により、ポリエステル繊維からなる層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに形成されるように生地を編成した。このときの編図を図7に示した。なお、図7において数字は給糸コース番号を示す。
得られた生地においては、ポリエステル繊維からなる層と熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層とはハニカムメッシュ構造に編成されており、ポリエステル繊維からなる層の面積は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の58%であり、ポリエステル繊維からなる層の厚みが、総厚みの13%であった。ポリエステル繊維からなる層及び熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みを表1に示した。
【0051】
(実施例2)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、ペバックス 1041SA01)99重量%と、酸化チタン1重量%とを溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を得た。得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維の繊度は50dtexであった。
得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、ポリエステル繊維(三菱レイヨン社製、AHY56T36)とを用いて、丸編機により、ポリエステル繊維からなる層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに形成されるように生地を編成した。このときの編図を図7に示した。なお、図7において数字は給糸コース番号を示す。
得られた生地においては、ポリエステル繊維からなる層と熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層とはハニカムメッシュ構造に編成されており、ポリエステル繊維からなる層の面積は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の61%であり、ポリエステル繊維からなる層の厚みが、総厚みの51%であった。ポリエステル繊維からなる層及び熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みを表1に示した。
【0052】
(実施例3)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、ペバックス 1041SA01)99重量%と、酸化チタン1重量%とを溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を得た。得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維の繊度は50dtexであった。
得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、ポリエステル繊維(三菱レイヨン社製、AHY84T48)とを用いて、丸編機により、ポリエステル繊維からなる層が、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに形成されるように生地を編成した。このときの編図を図7に示した。なお、図7において数字は給糸コース番号を示す。
得られた生地においては、ポリエステル繊維からなる層と熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層とはハニカムメッシュ構造に編成されており、ポリエステル繊維からなる層の面積は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面の58%であり、ポリエステル繊維からなる層の厚みが、総厚みの56%であった。ポリエステル繊維からなる層及び熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みを表1に示した。
【0053】
(比較例1)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、ペバックス 1041SA01)95重量%と、酸化チタン5重量%とを溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を得た。得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維の繊度は120dtexであった。
得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、ポリエステル繊維(三菱レイヨン社製、AHY84T48)とを用いて、丸編機により、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層が、ポリエステル繊維からなる層の肌側となる面に形成されるように生地を編成した。このときの編図を図8に示した。なお、図8において数字は給糸コース番号を示す。
得られた生地においては、ポリエステル繊維からなる層と熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層とは完全にリバーシブルに編成されており、肌側となる面に露出している繊維は全てが熱可塑性エラストマーを含有する繊維であり、ポリエステル繊維からなる層の厚みが、総厚みの60%であった。ポリエステル繊維からなる層及び熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みを表1に示した。
【0054】
(比較例2)
熱可塑性ポリアミド系エラストマーであるポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製、ペバックス 1041SA01)95重量%と、酸化チタン5重量%とを溶融混合し、ペレタイザーを用いて樹脂ペレットを作製した。次いで、得られた樹脂ペレットを用い、溶融紡糸法にて製糸を行い、熱可塑性エラストマーを含有する繊維を得た。得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維の繊度は120dtexであった。
得られた熱可塑性エラストマーを含有する繊維と、ポリエステル繊維(三菱レイヨン社製、AHY84T48)とを用いて、丸編機により、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層が、ポリエステル繊維からなる層の肌側となる面のみに形成されるように生地を編成した。このときの編図を図9に示した。なお、図9において数字は給糸コース番号を示す。
得られた生地においては、ポリエステル繊維からなる層と熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層とはハニカムメッシュ構造に編成されており、熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の面積は、ポリエステル繊維からなる層の肌側となる面の57%であり、即ち、ポリエステル繊維からなる層の肌側の面積比率は43%であり、ポリエステル繊維からなる層の厚みが、総厚みの96%であった。ポリエステル繊維からなる層及び熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の厚みを表1に示した。
【0055】
<評価>
実施例及び比較例で得られた生地について、以下の評価を行った。結果を表1〜2及び図3〜5に示した。
【0056】
(1)Q−max値の測定
20.5℃の温度に設定した試料台の上に各生地を置き、生地の上に32.5℃の温度に温められた貯熱板を接触圧0.098N/cmで重ねた直後、蓄えられた熱量が低温側の試料に移動する熱量のピーク値を測定した。測定には、サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いた。得られた値は、ΔT20℃の値に換算した。
【0057】
(2)肌離れ性試験
図6に、肌離れ性試験の測定装置の模式図を示す。図6において、滑車6と接するワイヤー7に繋がれた第1のプレート4に生地を、第2のプレート5に人の肌に見立てたガラス濾紙を貼り、ガラス濾紙と生地とが接するように第1のプレート4と第2のプレート5とを重ね合わせた。オートグラフ ASG−J(島津製作所社製)を用いて、図6に示すように100mm/minの速さで第1のプレート4を50mm滑らせ、このとき、第1のプレート4を滑らせるのにかかった平均荷重を測定した。平均荷重が小さいほど滑りがよいことを示し、肌離れ性がよいといえる。
【0058】
(3)衣服内の蒸れ状態評価
得られた生地を用いて半袖Tシャツ肌着タイプのスポーツ用ウェアを作製した。この衣服を着用した3人の被験者が、時速3km/hから2分ごとに1km/hずつ、9km/hの速度まで速度が漸増するトレッドミル上を走行し、走行後、3分間の立位安静をとった。運動開始から3分間の立位安静終了まで、測定器としてグラム(グラム社製)を用いて被験者の衣服内の湿度を測定し、湿度変化量の3人の被験者の平均値を算出した。
【0059】
(4)官能試験
得られた生地を用いて半袖Tシャツ肌着タイプのスポーツ用ウェアを作製した。この衣服を着用した3人の被験者が、時速3km/hから2分ごとに1km/hずつ、9km/hの速度まで速度が漸増するトレッドミル上を走行し、走行後、3分間の立位安静をとった。この運動試験中における衣服の接触冷感、及び、べたつき感について官能試験を行い、10段階評価の3人の被験者の平均値を算出した。なお、10段階評価は、10に近いほど接触冷感又はべたつき感が高いとした。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1及び図4に示す肌離れ性試験の結果から、「ポリエステル繊維からなる層を、所定範囲の面積及び厚みで熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面に有する」という層構成を有する実施例1〜3で得られた生地は、比較例1〜2で得られた生地に比べて、肌離れ性に優れていることがわかる。
また、従来、無機フィラーをより多く含有する繊維のほうがべたつき感が小さくなることが技術常識として捉えられてきたが、実施例2〜3で得られた生地は、熱可塑性エラストマーを含有する繊維における酸化チタン含有率がより低いにもかかわらず肌離れ性に優れていた。このことからも、べたつき感を軽減するために、「ポリエステル繊維からなる層を、所定範囲の面積及び厚みで熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面に有する」という層構成が有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、接触冷感に優れ、かつ、湿潤時の不快感を抑制することのできる生地を提供することができる。また、本発明によれば、該生地を用いて製造される肌着を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
11、21 本発明の生地
12、22 ポリエステルを含有する繊維からなる層
13、23 熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層
3 肌離れ性試験の測定装置
4 第1のプレート
5 第2のプレート
6 滑車
7 ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層と、ポリエステルを含有する繊維からなる層とを有し、
前記ポリエステルを含有する繊維からなる層が、前記熱可塑性エラストマーを含有する繊維からなる層の肌側となる面のみに、該肌側となる面の50〜70%の面積に形成されており、
前記ポリエステルを含有する繊維からなる層の厚みが、総厚みの10〜60%である
ことを特徴とする生地。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系エラストマー及び/又はポリエステル系エラストマーであることを特徴とする請求項1記載の生地。
【請求項3】
ポリアミド系エラストマーは、ポリエーテルブロックアミド共重合体であることを特徴とする請求項2記載の生地。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の生地を用いて製造されることを特徴とする肌着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−136788(P2012−136788A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288078(P2010−288078)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】