説明

生態毒性のない亜鉛含有顔料化合物を得るための解毒方法

本発明は、良好な防食性を有するが高毒性でない少なくとも1種の亜鉛系成分、たとえば、亜鉛の金属粉末あるいは亜鉛の酸化物もしくは水酸化物またはリン酸塩、ホウ酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ピロリン酸塩、ホスホン酸塩、ケイ酸塩、もしくはフェライトを含む、急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法に関し、次のタイプ、すなわち、
・ マグネシウムタイプ(MgHPO・3HOもしくはMg(PO・5HOでありうる)、
・ ナトリウムタイプ(NaPO・10HOもしくはNaPO・12HOもしくはNaHPO・7HOもしくはNaHPO・12HOでありうる)、
・ カリウムタイプ(KPOもしくはKHPOでありうる)、
・ カルシウムタイプ(CaHPO・2HOもしくはCa(POでありうる)、
・ ストロンチウムタイプ(SrHPOもしくはSr(POでありうる)、
・ アルミニウムタイプ(AlPO)、
・ アンモニウムタイプ((NHPO・3HOもしくは(NHHPOでありうる)、
・ 有機タイプ(グアニジンタイプでありうる)、
の少なくともリン酸塩もしくはリン酸水素塩、またはカチオン(Mg、Ca、Srなど)系の任意の他の化合物、たとえば、炭酸塩、酸化物、ケイ酸塩、亜リン酸、ピロリン酸、もしくはホスホン酸塩をも含み、リン酸塩もしくは炭酸水素塩もしくは炭酸塩もしくは酸化物もしくはケイ酸塩もしくは亜リン酸塩もしくはピロリン酸塩は、毒性がなく、亜鉛系成分の毒性力を大幅に減少させることが可能であると同時にその良好な防食性を保持することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
亜鉛含有顔料化合物は、種々の欧州環境要件および指令を満たすために、とくに輸送、貯蔵、およびリサイクルなどの分野で、使用に関してますます厳しくなる制限に直面している。
【0002】
過去数年間にわたり、多くの規制が加えられてきた。その中では、以下の規制が挙げられうる。
・ WEEE−廃電気電子機器−2002
・ ROHS−特定有害物質使用制限−2002
・ 使用済み自動車リサイクル−ELVリサイクル−2002
・ REACH−化学品の登録、評価、および認可−2007
・ GHS−化学品の分類および表示に関する世界調和システム−2005
【0003】
したがって、生態毒性が原因で、亜鉛含有顔料化合物の使用は、年々ますます複雑になってきている。
【0004】
これは、とくにリン酸亜鉛および酸化亜鉛の場合である。
【0005】
かくして、とくにリン酸亜鉛および酸化亜鉛をはじめとする亜鉛塩の分類は、2004年に確立された。リン酸亜鉛は、欧州指令67/548/EECの第28回A.T.P.−技術進歩に伴う改訂−で特定的に挙げられている。リン酸亜鉛は、N/水生環境に対して危険性あり、およびR50/53−「水生生物に対して猛毒性あり、水生環境で長期の有害な影響を及ぼすおそれあり」と表示される。
【0006】
表1は、使用される製品中で使用されるリン酸亜鉛Zn(PO・2〜4HOの量に基づいて、指令99/45/ECに準拠した表示制限さらには関連する実用コードのリスク警句を要約したものである。
【0007】
【表1】

【0008】
したがって、2.5重量%超のこの化合物を含有するいかなる配合物も、その結果として、N/水生環境に対して危険性ありと表示される。特定の市場ではこの表示が容認されず、N表示の原因とならない顔料化合物が必要とされるので、新たなニーズがこうして生じてきた。
【0009】
指令99/45/ECに準拠して、配合業者は、N表示を回避するために、リン酸亜鉛などのN、R50/53の製品の使用が2.5重量%未満に制限される。しかしながら、防食塗料および防食塗膜の場合、耐性の有効性は、リン酸亜鉛の含有率と共に増大する。
【0010】
従来的には、欧州指令1999/45/ECに準拠して、「物質」という用語は、製品の安定性の維持に必要な任意の添加剤および方法に由来する任意の不純物を含めて、天然の状態または任意の製造方法により得られた状態の化学元素およびその化合物を定義するが、物質の安定性に影響を及ぼすこともその組成を改変することもなく分離可能な任意の溶媒を除外することに留意されたい。
【0011】
また、従来的には、「調製品」という用語は、2種以上の物質で構成される混合物または溶液を定義することにも留意されたい。
【0012】
これとの関連で、過去数年間にわたり開発されてきた防食塗料中で使用される亜鉛フリー顔料化合物は、新たな関心の対象になっている。特許は、とくに、β−リン酸三カルシウム(Budenheim、1991年、独国特許出願公開第4014523A1号明細書)およびβ−リン酸三カルシウムまたはリン酸二カルシウムとリン酸三マグネシウムとの混合物(Budenheim、1996−1997年、独国特許出願公開第19541895A1号明細書−米国特許第5665149号明細書)に関して出願されてきた。
【0013】
また、リン酸マグネシウムを含有する防食顔料は、塗料で有利な訴求力を有することが実証されているが(AlbrightおよびWilson、1976年、米国特許第3960611号明細書)、しかしながら、リン酸亜鉛に匹敵するものではない。
【0014】
これらの亜鉛フリー顔料は、特定の塗料系に有効であるが、リン酸亜鉛ほど汎用性がない。実際上、リン酸亜鉛は、防食塗料で使用される配合物のほとんどに有効である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
これとの関連で、所期の目的は、良好な防食性を有するが高毒性でない少なくとも1種の亜鉛系成分、たとえば、亜鉛の金属粉末あるいは亜鉛の酸化物もしくは水酸化物またはリン酸塩、ホウ酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ピロリン酸塩、ホスホン酸塩、ケイ酸塩、もしくはフェライトを含む、急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法を開発することであり、亜鉛系成分を、次のタイプ、すなわち、
・ マグネシウムタイプ(MgHPO・3HOもしくはMg(PO・5HOでありうる)、
・ ナトリウムタイプ(NaPO・10HOもしくはNaPO・12HOもしくはNaHPO・7HOもしくはNaHPO・12HOでありうる)、
・ カリウムタイプ(KPOもしくはKHPOでありうる)、
・ カルシウムタイプ(CaHPO・2HOもしくはCa(POでありうる)、
・ ストロンチウムタイプ(SrHPOもしくはSr(POでありうる)、
・ アルミニウムタイプ(AlPO)、
・ アンモニウムタイプ((NHPO・3HOもしくは(NHHPOでありうる)、
・ 有機タイプ(グアニジンタイプでありうる)、
の少なくとも1種のリン酸塩もしくはリン酸水素塩、またはカチオン(Mg、Ca、Srなど)系の任意の他の化合物、たとえば、炭酸塩、酸化物、ケイ酸塩、亜リン酸、ピロリン酸、もしくはホスホン酸塩と混合することを含み、リン酸塩もしくは炭酸水素塩もしくは炭酸塩もしくは酸化物もしくはケイ酸塩もしくは亜リン酸塩もしくはピロリン酸塩は、毒性がなく、亜鉛系成分の毒性力を大幅に減少させることが可能であると同時にその良好な防食性を保持することを特徴とする。
【0016】
本発明の一変形形態によれば、毒性のない顔料成分は、OECDプロトコル201に準拠して50%未満の藻類阻害率、OECDプロトコル202に準拠して50%未満のミジンコ遊泳阻害率、OECDプロトコル203に準拠して50%未満の魚死亡率(この結果、LC50(集団の50%の摂取による致死濃度)およびEC50(集団の50%の吸入による致死濃度)は100mg/l超になる)、およびOECDプロトコル211に準拠してミジンコ繁殖に関して厳密に1mg/l超のNOEC(無影響濃度)を有する。
【0017】
本発明の一変形形態によれば、リン酸亜鉛Zn(PO・0〜4HOおよび/または酸化亜鉛ならびにリン酸マグネシウムMgHPO・3HOを用いて、亜鉛塩とリン酸マグネシウムとの重量比がゼロではなくそれぞれ約0〜99.5%に含まれるようにして、混合が行われる。
【0018】
本発明の一変形形態によれば、リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムとの重量比は、約90%/10%であり、リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムと酸化亜鉛との重量比は、約80%/10%/10%である。
【0019】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、防食塗料の製造方法である。
【0020】
本発明の一変形形態によれば、塗料の製造方法は、塗料を製造するために、非生態毒性充填剤、たとえば、タルク、バライト、カオリン、シリカ、アルミニウムのケイ酸塩または炭酸塩、カルシウムのケイ酸塩または炭酸塩、マグネシウムのケイ酸塩または炭酸塩、カリウムのケイ酸塩または炭酸塩、酸化鉄、酸化クロムグリーン、雲母、チタンの二酸化物、炭酸塩、またはフェライトと組み合わせて、顔料化合物を使用することを含む。
【0021】
本発明の一変形形態によれば、顔料化合物を得るための解毒方法は、物理的または化学的なプロセス、たとえば、逐次沈殿、逐次結晶化、共沈、共結晶化、粉砕、混練、分散、押出し、スラリー形成、または顆粒化を介して、粉末を混合することを含む。
【0022】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、エポキシ、アルキド、アクリル、ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、アミノプラスト、ポリオレフィン、フェノール、ブチラール、ブタジエン、PVDF、ゴム、または合成もしくは天然の油のタイプのポリマーを含む塗膜の取得方法である。
【0023】
本発明の対象はまた、金属の部分または物体、たとえば、自動車、船舶、航空機、橋、土木車両、軌条車両、農業建築物、工業建築物、コイルコーティング、電子機器材料、コンピューター機器材料、および家庭用機器材料、ガスプラントおよびオイルプラントを処理するための、本発明に係る方法に従って得られる防食塗膜の使用である。
【0024】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、プラスチックの取得方法である。
【0025】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、マスチックの取得方法である。
【0026】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、接着剤の取得方法である。
【0027】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、インクの取得方法である。
【0028】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、天然または合成のゴム材料の取得方法である。
【0029】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、固体または液体の滑剤の取得方法である。
【0030】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、施肥物質の取得方法である。
【0031】
本発明の対象はまた、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、プラスチック用UV遮断化合物の取得方法である。
【0032】
最後に、本発明の対象は、本発明に係る解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、化粧品用UV遮断化合物の取得方法である。
【0033】
本発明の対象はまた、金属の部分または物体、たとえば、自動車、船舶、航空機、橋、建設重機、軌条車両、農業建築物、工業建築物、コイルコーティング、電子機器材料、コンピューター機器材料、および家庭用機器材料、ガスプラントおよびオイルプラントなどを処理するための、本発明に係る防食塗膜の使用である。
【0034】
以下に与えられている説明(ただし、限定を示唆するものではない)を読めば、また添付の図面を見れば、本発明がより明確に理解され、他の利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】標準のリン酸亜鉛が組み込まれた第1のタイプのエポキシアミドの防食接着プライマーを含む塗膜、本発明に係る第1の化合物が組み込まれた第1のタイプのエポキシアミドの防食接着プライマーを含む塗膜、および本発明に係る第2の化合物が組み込まれた第2のタイプのエポキシアミドの防食接着プライマーを含む塗膜のプレートブリスター発生および発錆度に関してASTM1654規格に準拠して行われた、防食性能レベルを評価するための塗料試験を示している。
【図2】標準のリン酸亜鉛が組み込まれた第1のタイプのエポキシアミンの防食接着プライマーを含む塗膜、本発明に係る第1の化合物が組み込まれた第1のタイプのエポキシアミンの防食接着プライマーを含む塗膜、および本発明に係る第2の化合物が組み込まれた第1のタイプのエポキシアミンの防食接着プライマーを含む塗膜のブリスター発生および発錆度に関してASTM1654規格に準拠して行われた、防食性能レベルを評価するための塗料試験を示している。
【発明を実施するための形態】
【0036】
説明の残りの部分は、リン酸一水素マグネシウムとの関連でより特定的に提示されている。これは、リン酸亜鉛との非常に良好な相溶性を有するので、非常に好適である。
【実施例】
【0037】
リン酸亜鉛と酸化亜鉛とリン酸マグネシウムとをベースとする防食化合物の例
以下の化合物を試験した。
PZATB: 80%PZ/10%PAT30/10%ZnO
ただし、PZ: Zn(PO)2・0〜4HOおよび
PAT30: MgHPO・3H
【0038】
1) リン酸亜鉛と酸化亜鉛とリン酸マグネシウムとをベースとする防食化合物の生態毒性試験
調製品の「環境に対して危険性あり」という表示を決定するための2つの可能な経路が存在する。
・ 第1の経路は、物質混合則に基づくすなわち製品の組成に基づく決定に適用される。この経路によれば、亜鉛を含有する製品はいずれも、その結果として、環境に対して危険性ありとなる。
・ 第2の経路は、危険物を含有する調製品の急性生態毒性に関するOECDプロトコル201、202、および203に準拠した生態毒性試験に基づく決定に適用され、この第2の可能な経路は、少なくとも1種の危険物を含有する試験される調製品または混合物の分類の基準を繰り返し述べた規制1999/45/ECおよび1272/2008/ECに規定される第1の経路よりも優先する。
【0039】
第2の経路によれば、試験は、次の3種、すなわち、藻類、ミジンコ、および魚で行われる。
【0040】
規制の観点から、本出願人は、指令67/548/EECの改正補遺5、改変調製品に関する指令99/45/EEC、および混合物の分類基準に関する2003年に準備されたGHS報告書の第3部の第3.10.3節を遵守し、2006年3月23日に採択されたOECDガイドライン201、2004年4月13日に採択されたOECDガイドライン202、および1992年7月17日に採択されたOECDガイドライン203に準拠して試験を行った。
【0041】
続いて、3つの急性試験の最悪の結果に対して化合物の従来表示を行うことにより、表2に要約される結果を提供することが可能である。ここで、義務付けられる可能性のある表示は、濃度C、時間単位で表される試験期間、および明記された時間数の終了時に死亡した種の割合50パーセントに従って規定される。
【0042】
【表2】

【0043】
世界調和表示システムGHSは、2009年のその最近の改訂版で、カテゴリー1〜3の急性水生毒性の分類基準として、1mg/l(カテゴリー1)、10mg/l(カテゴリー2[1〜10mg/l])、および100mg/l(カテゴリー3[10〜100mg/l])の上限を繰り返し述べて確認している。急性毒性が100mg/l超では、物質または調製品は、その毒性に関して分類されない。
【0044】
それに加えて、GHSはまた、慢性毒性が1mg/l超の無影響濃度を呈する場合、この物質またはこの混合物は、その慢性性に関して分類の必要はないと規定している。
【0045】
試験は、Evreux(仏国)のCIT(Centre International de Toxicologie[国際毒性学センター])で行われた。
【0046】
調製品は、物理的混合により作製された。
【0047】
GLPという用語は、優良試験所規範に準拠して行われた試験を意味する。
【0048】
以下の用語が使用される。
・ 参照記号LC50は、集団の50%の摂取による致死濃度を表す。
・ 参照記号EC50は、集団の50%の吸入による致死濃度を表す。
【0049】
1.1. 藻類のムレミカヅキモ(Pseudokirchneriella subcapitata)での急性生態毒性
【0050】
【表3】

【0051】
表3は、藻類の阻害が50%未満であることを示している。したがって、調製品は、OECDプロトコル201に準拠して急性生態毒性LC50>100mg/lであるので藻類に対して生態毒性でない。
【0052】
1.2. 甲殻類のオオミジンコ(Daphnia magna)での急性生態毒性
【0053】
【表4】

【0054】
表4は、ミジンコが遊泳阻害されないことを示している。したがって、調製品は、OECDプロトコル202に準拠して急性生態毒性EC50>100mg/lであるので甲殻類に対して生態毒性でない。
【0055】
1.3. 魚類のニジマス(Oncorhynchus mykiss)での急性生態毒性
【0056】
【表5】

【0057】
表5は、マスが死亡しなかったことを示している。調製品は、OECDプロトコル203に準拠して急性生態毒性LC50>100mg/lであるのでこの魚に対してなんら毒性を呈しない。
【0058】
したがって、PZATBは、なんら急性毒性を呈しないことがこれらの試験からわかる。
【0059】
リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムとをベースとする防食化合物の例
99%/1%〜4.3%/95.7%の範囲内で以下のように規定されたリン酸亜鉛とリン酸一水素マグネシウムとの重量比を用いて、種々の化合物を作製し試験した。
PZAT 99: PZ 99%/PAT30 1%
PZAT 95: PZ 95%/PAT30 5%
PZAT 90: PZ 90%/PAT30 10%
PZAT 80: PZ 80%/PAT30 20%
PZAT 70: PZ 70%/PAT30 30%
PZAT 60: PZ 60%/PAT30 40%
PZAT 50: PZ 50%/PAT30 50%
PZAT 40: PZ 40%/PAT30 60%
PZAT 04: PZ 4.3%/PAT30 95.7%
ただし、PZ: Zn(PO・0〜4HOおよび
PAT30: MgHPO・3H
【0060】
2) リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムとをベースとする防食化合物の急性生態毒性試験
試験は、Evreux(仏国)のCIT(Centre International de Toxicologie[国際毒性学センター])で行われた。
【0061】
調製品は、物理的混合により作製された。
【0062】
GLPという用語は、優良試験所規範に準拠して行われた試験を意味する。以下の用語が使用される。
・ 参照記号LC50は、集団の50%の摂取による致死濃度を表す。
・ 参照記号EC50は、集団の50%の吸入による致死濃度を表す。
【0063】
2.1. 藻類のムレミカヅキモ(Pseudokirchneriella subcapitata)での急性生態毒性
【0064】
【表6】

【0065】
表6は、藻類の阻害が50%未満であることを示している。したがって、調製品は、OECDプロトコル201に準拠して急性生態毒性LC50>100mg/lであるので藻類に対して生態毒性でない。
【0066】
2.2. 甲殻類のオオミジンコ(Daphnia magna)での急性生態毒性
【0067】
【表7】

【0068】
表7は、ミジンコが遊泳阻害されないことを示している。したがって、調製品は、OECDプロトコル202に準拠して急性生態毒性EC50>100mg/lであるので甲殻類に対して生態毒性でない。
【0069】
2.3. 魚類のニジマス(Oncorhynchus mykiss)での急性生態毒性
【0070】
【表8】

【0071】
表8は、マスが死亡しなかったことを示している。調製品は、OECDプロトコル203に準拠して急性生態毒性LC50>100mg/lであるのでこの魚に対してなんら毒性を呈しない。
【0072】
99%/1%〜25%/75%の範囲内で以下のように規定されたリン酸亜鉛とリン酸一水素マグネシウムとの重量比を用いて、種々の化合物を作製し試験した。
PZAT 99: PZ 99%/PAT30 1%
PZAT 92: PZ 92%/PAT30 8%
PZAT 25: PZ 75%/PAT30 25%
ただし、PZ: Zn(PO・0〜4HOおよび
PAT30: MgHPO・3H
【0073】
3) リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムとをベースとする防食化合物の慢性生態毒性試験
調製品の「長期にわたり環境に対して危険性あり」という表示を決定するための2つの可能な経路が存在する。
・ 第1の経路は、物質混合則に基づくすなわち製品の組成に基づく決定に適用される。この経路によれば、25%超のR53製品(1999/45/EC)を含有する製品はいずれも、その結果として、慢性生態毒性を呈する。
・ 第2の経路は、危険物を含有する調製品に関するOECDプロトコル211に準拠した最も影響を受けやすい種(亜鉛塩の場合、ミジンコである)での生態毒性試験に基づく決定に適用され、この可能な第2の経路は、第1の経路よりも優先する。
【0074】
規制の観点から、本出願人は、指令67/548/EECの改訂補遺5、表9に示される改変調製品に関する指令99/45/EEC、表10に示される混合物の分類基準に関する2003年に準備され改変されたGHSのUNO報告書の第3部の第3.10.3節の推奨基準から派生した規制1272/2008ECを遵守し、2008年10月3日に採択されたOECDガイドライン211に準拠して試験を行った。
【0075】
「NOEC」という用語は、無影響濃度を意味する。
【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
試験は、Evreux(仏国)のCIT(Centre International de Toxicologie[国際毒性学センター])で行われた。
【0079】
調製品は、物理的混合により作製された。
【0080】
試験は、GLP下で行われた。GLPという用語は、優良試験所規範に準拠して行われた試験を意味する。
【0081】
【表11】

【0082】
表11は、調製品が、OECDプロトコル211に準拠してNOEC>1mg/lであるので慢性生態毒性を呈さないことを示している。
【0083】
リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムとを含有する調製品はいずれも、環境に対して危険性ありという表示をなんら有していない(急性毒性も慢性毒性もない)。
【0084】
0〜25%のリン酸亜鉛を含有する調製品は、物質混合則に基づく慢性生態毒性をなんら呈さないので、その結果として、リン酸マグネシウムとの混合物として0〜99%のリン酸亜鉛を含有する化合物はいずれも、環境に対して危険性ありという表示が免除されることが実証された。
【0085】
したがって、2および3の箇所で以上に挙げたこれらの調製品はいずれも、急性および慢性の両方の特性に関して環境に対して危険性ありにならないことがこれらの分析からわかる。
【0086】
以上に列挙された対応する化合物を毒性に関して評価し、工業的具体例により防食性能レベルに関しても評価した。
【0087】
このために、PZと比較して性能レベルの顕著な低下がなんらみられないように、種々の顔料化合物が組み込まれた溶媒相エポキシ系タイプの従来型の防食接着プライマーを調製した。
【0088】
実際上、防食塗膜の問題との関連では、金属表面を被覆することが意図された第1のコートに対応する防食接着プライマーを開発することが求められる。このコート自体は、一般的には塗膜の色を有する塗料の第2のコート(トップコートと呼ばれることが多い)を従来方式で支持することが意図される。
【0089】
4) 塗料での防食試験
したがって、本出願人は、塗料で試験を行って化合物の塗料で良好な防食性能レベルを実証した。これらの試験は、溶媒相エポキシプライマーを用いて行われた。
【0090】
具体例1: 溶媒相ビニルアルキドプライマーでの調製品の試験
表12の処方で調製した。
【0091】
【表12】

【0092】
アルキドプライマーでの化合物PZ、PZATB、およびPZAT90の比較
PZ、調製品PZ 80%/PAT30 10%/ZnO 10%、および調製品PZ 90%/PAT30 10%を比較した。PZATBおよびPZAT90は、物理的混合により調製された。
【0093】
アルキド樹脂中に顔料化合物が組み込まれた防食プライマーのコートを40μmの厚さをもたせて金属表面に提供した。このコートは、一般にトップコートとも呼ばれる25μmの厚さを有するアルキドコートの膜で被覆される。
【0094】
全体を塩水噴霧(規格ASTM B117)に300時間暴露する。
【0095】
図1は、得られた結果を示している。
【0096】
等級により発錆度およびブリスター発生度を評価することが可能である。
【0097】
発錆度に関して、規格NF ISO 4628−3 T30−140−3を使用した。
Ri0: 発錆なし、0%の発錆表面積
Ri1: ごくわずかの発錆、0.5%の発錆表面積
Ri5: 多くの発錆、40〜50%の発錆表面積
【0098】
ブリスター発生度に関して、規格NF ISO 4628−1 T30−140−2およびNF ISO 4628−3 T30−140−2を使用した。
D0S0: 検出可能なサイズの欠陥なし、10倍の倍率で見えない
D2S2: 少量の小さいブリスター
D5S5: 多量の大きいブリスター
【0099】
「スクライブ等級」および「グローバル等級」は、それぞれ、規格ASTM D 1654 2005年1月−「腐食性環境に付される塗装または被覆された試験片を評価するための標準的試験方法」−の3頁の表1および2に準拠して生成される。
スクライブ時の等級:
10は、スクライブ時の0mmを表す。
0は、スクライブ時の16mm超を表す。
グローバル等級:
10は、0%の劣化を表す
0は、75%超の劣化を表す。
【0100】
表13の等級は、以上に記載の規格に準拠して生成される。
【0101】
【表13】

【0102】
PZATBは、PZと同程度に有効でありかつPZAT90よりも有効である。
【0103】
具体例2: 溶媒相エポキシアミドプライマーでの調製品の試験
表14の処方で調製した。
【0104】
【表14】

【0105】
エポキシアミドプライマーでの化合物PZ、PZATB、およびPZAT90の比較
PZ、調製品PZ 80%/PAT30 10%/ZnO 10%、および調製品PZ 90%/PAT30 10%を比較した。PZATBおよびPZAT90は、物理的混合により調製された。
【0106】
エポキシアミド樹脂中に顔料化合物が組み込まれた防食プライマーのコートを50μmの厚さをもたせて金属表面に提供した。このコートは、一般にトップコートとも呼ばれる100μmの厚さを有するポリウレタンPUの膜で被覆される。
【0107】
全体を塩水噴霧(規格ASTM B117)に600時間暴露する。
【0108】
図2は、得られた結果を示している。
【0109】
表15の等級は、以上に述べたのと同一の規格に準拠して生成される。
【0110】
【表15】

【0111】
PZAT90は、PZと同程度に有効でありかつPZATBよりも有効である。
【0112】
具体例3: 溶媒相エポキシアミンプライマーでの調製品の試験
表16の処方で調製した。
【0113】
【表16】

【0114】
エポキシアミンプライマーでの化合物PZ、PZATB、およびPZAT90の比較
顔料調製品が組み込まれたエポキシアミン系防食プライマーは、50μmの厚さを有するように調製される。このコートは、一般にトップコートとも呼ばれる100μmの厚さを有するポリウレタンPUの膜で被覆される。
【0115】
全体を塩水噴霧−規格ASTM B117−に600時間暴露する。
【0116】
図3は、得られた結果を示している。
【0117】
表17の等級は、以上に述べたのと同一の規格に準拠して生成される。
【0118】
【表17】

【0119】
PZATBは、PZと同程度に有効であり、PZAT90は、これらの他の2つの化合物よりも有効である。
【0120】
エポキシアミド系および溶媒相エポキシアミドでのPZとPZAT90顔料との比較により、PZAT90顔料の性能に関して非常に満足すべき結果が示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
良好な防食性を有するが高毒性でない少なくとも1種の亜鉛系成分、たとえば、亜鉛の金属粉末あるいは亜鉛の酸化物もしくは水酸化物またはリン酸塩、ホウ酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、ポリリン酸塩、亜リン酸塩、ピロリン酸塩、ホスホン酸塩、ケイ酸塩、もしくはフェライトを含む、急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法であって、前記亜鉛系成分を、次のタイプ、すなわち、
・ マグネシウムタイプ(MgHPO・3HOもしくはMg(PO・5HOでありうる)、
・ ナトリウムタイプ(NaPO・10HOもしくはNaPO・12HOもしくはNaHPO・7HOもしくはNaHPO・12HOでありうる)、
・ カリウムタイプ(KPOもしくはKHPOでありうる)、
・ カルシウムタイプ(CaHPO・2HOもしくはCa(POでありうる)、
・ ストロンチウムタイプ(SrHPOもしくはSr(POでありうる)、
・ アルミニウムタイプ(AlPO)、
・ アンモニウムタイプ((NHPO・3HOもしくは(NHHPOでありうる)、
・ 有機タイプ(グアニジンタイプでありうる)、
の少なくとも1種のリン酸塩もしくはリン酸水素塩、または前記カチオン(Mg、Ca、Srなど)系の任意の他の化合物、たとえば、炭酸塩、酸化物、ケイ酸塩、亜リン酸、ピロリン酸、もしくはホスホン酸塩と混合することを含み、前記リン酸塩もしくは炭酸水素塩もしくは炭酸塩もしくは酸化物もしくはケイ酸塩もしくは亜リン酸塩もしくはピロリン酸塩は、毒性がなく、前記亜鉛系成分の毒性力を大幅に減少させることが可能であると同時にその良好な防食性を保持することを特徴とする、解毒方法。
【請求項2】
毒性のない前記顔料成分が、OECDプロトコル201に準拠して50%未満の藻類阻害率、OECDプロトコル202に準拠して50%未満のミジンコ遊泳阻害率、OECDプロトコル203に準拠して50%未満の魚死亡率(この結果、LC50(集団の50%の摂取による致死濃度)およびEC50(集団の50%の吸入による致死濃度)は100mg/l超になる)、およびOECDプロトコル211に準拠してミジンコ繁殖に関して厳密に1mg/l超のNOEC(無影響濃度)を有する、請求項1に記載の急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法。
【請求項3】
リン酸亜鉛Zn(PO・0〜4HOおよび/または酸化亜鉛ならびにリン酸マグネシウムMgHPO・3HOを用いて、亜鉛塩とリン酸マグネシウムとの重量比がゼロではなくそれぞれ約0〜99.5%に含まれるようにして、前記混合が行われることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法。
【請求項4】
リン酸亜鉛とリン酸マグネシウムとの重量比が約90%/10%であり、かつリン酸亜鉛とリン酸マグネシウムと酸化亜鉛との重量比が約80%/10%/10%であることを特徴とする、請求項3に記載の急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、防食塗料の製造方法。
【請求項6】
塗料を製造するために、非生態毒性充填剤、たとえば、タルク、バライト、カオリン、シリカ、アルミニウムのケイ酸塩または炭酸塩、カルシウムのケイ酸塩または炭酸塩、マグネシウムのケイ酸塩または炭酸塩、カリウムのケイ酸塩または炭酸塩、酸化鉄、酸化クロムグリーン、雲母、チタンの二酸化物、炭酸塩、またはフェライトと組み合わせて、顔料化合物を使用することを含む、請求項5に記載の防食塗料の製造方法。
【請求項7】
物理的または化学的なプロセス、たとえば、逐次沈殿、逐次結晶化、共沈、共結晶化、粉砕、混練、分散、押出し、スラリー形成、または顆粒化を介して、粉末を混合することを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の急性および慢性の水生生態毒性のない顔料化合物を得るための解毒方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、エポキシ、アルキド、アクリル、ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、アミノプラスト、ポリオレフィン、フェノール、ブチラール、ブタジエン、PVDF、ゴム、または合成もしくは天然の油のタイプのポリマーを含む塗膜の取得方法。
【請求項9】
金属の部分または物体、たとえば、自動車、船舶、航空機、橋、土木車両、軌条車両、農業建築物、工業建築物、コイルコーティング、電子機器材料、コンピューター機器材料、および家庭用機器材料、ガスプラントおよびオイルプラントを処理するための、請求項8に記載の方法に従って得られる防食塗膜の使用。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、プラスチックの取得方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、マスチックの取得方法。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、接着剤の取得方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、インクの取得方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、天然または合成のゴム材料の取得方法。
【請求項15】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、固体または液体の滑剤の取得方法。
【請求項16】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、施肥物質の取得方法。
【請求項17】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、プラスチック用UV遮断化合物の取得方法。
【請求項18】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の解毒方法を利用して得られる顔料化合物を使用することを特徴とする、化粧品用UV遮断化合物の取得方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−518696(P2012−518696A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550578(P2011−550578)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052118
【国際公開番号】WO2010/094764
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511202724)ソシエテ ヌヴェル デ クルール ジンシク (1)
【Fターム(参考)】