生活状況推定方法及びシステム、並びに生活状況推定用プログラム
【課題】判別に必要な活動電流閾値をその電力需要家に適した値に自動的に設定する。
【解決手段】電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定すると共に総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値∫A(t')を算出し(ステップS3,S4)、活動電流閾値Dよりも電流積分値∫A(t')が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する(ステップS5)。総負荷電流の測定を複数の日について行い、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に電流積分値∫A(t')を算出すると共に降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値∫A(t')の数が降順に並べられた電流積分値∫A(t')の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dにする(ステップS2)。
【解決手段】電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定すると共に総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値∫A(t')を算出し(ステップS3,S4)、活動電流閾値Dよりも電流積分値∫A(t')が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する(ステップS5)。総負荷電流の測定を複数の日について行い、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に電流積分値∫A(t')を算出すると共に降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値∫A(t')の数が降順に並べられた電流積分値∫A(t')の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dにする(ステップS2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活状況推定方法及びシステム並びに生活状況推定用プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、電力需要家の居住者の例えば在宅と不在との別や就寝中か活動中か等の生活状況を推定する方法及びシステム並びに生活状況推定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の居住者の生活状況を推定するシステムとして、例えば生活状況推定システムがある(特許文献1)。この生活状況推定システムでは、電力需要家の引込線引込口付近に設置された電力計によって時刻tにおける消費電力P(t)を測定し、評価時間Δtに亘り積分して電力量∫P(t')を算出する。そして、電力量∫P(t')の値が活動電力量閾値Paよりも大きくなった場合に電力需要家において居住者による電気機器の意図的な操作が開始されたと判断し、逆に、電力量∫P(t')の値が活動電力量閾値Pa以下の値になった場合に電力需要家において居住者による電気機器の意図的な操作が終了したと判断する。
【0003】
活動電力量閾値Paは、基本電力量∫Pb(t')の最大値∫Pb_maxに変動係数Kfを乗じて求められる値であり、最大値∫Pb_maxは待機稼働中の電気機器の最大消費電力の合計を評価時間Δtにわたって積分するか、あるいは不在時の総消費電力を評価時間Δtにわたって積分して得た総電力量の最大値を算出することで求められる。また、変動係数Kfは、予め適正な値が設定されている。
【0004】
この生活状況推定システムによれば、電力需要家内に配設された電気機器自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を必要とすることなく、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用の有無を判断することが可能であり、居住者の例えば在宅と不在との別や就寝中か活動中か等の生活状況、さらには、居住者が健常に生活しているか否かを含めた生活状況を推定することができる。そのため、システムの整備コストを低減することが可能であり、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−310729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の生活状況推定システムでは、活動電力量閾値Paの算出に必要な基本電力量∫Pb(t')の最大値∫Pb_maxを求めるためには居住者の不在が確認されている時間帯の測定データを取得する必要があり、管理者の目視による測定データの確認が必要である。また、変動係数Kfの設定については、管理者が測定データを目視で確認しながらその電力需要家に適した値に設定する必要がある。これらのため、活動電力量閾値Paの自動設定が困難である。
【0007】
本発明は、電力需要家内に配設された電気機器自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を必要とすることなく、居住者の生活状況を推定することができるものであって、居住者による電気機器の意図的な操作の有無を判別するための閾値をその電力需要家に適した値に自動的に設定することができる生活状況推定方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定すると共に総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出し、活動電流閾値よりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する生活状況推定方法であって、総負荷電流の測定を複数の日について行い、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にするものである。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定する測定手段と、総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、活動電流閾値よりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段とを有する生活状況推定システムであって、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流の測定値と予め設定した時間Taと予め設定した値Yとを記憶している記憶手段と、記憶手段に記憶されている総負荷電流の測定値を用いて、記憶手段に記憶されている時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、記憶手段に記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にする閾値決定手段とを備えるものである。
【0010】
さらに、請求項3記載の生活状況推定用プログラムは、少なくとも、記憶手段に予め記憶されている電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流の測定値を記憶手段に予め記憶されている時間Ta毎に記憶手段に予め記憶されている評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、記憶手段に予め記憶されている総負荷電流の測定値のうち、電力需要家の在宅日に測定されたと判断されるものを用いて、電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、記憶手段に予め記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にする閾値決定手段と、閾値決定手段によって求められた活動電流閾値よりも演算手段によって算出された電流積分値が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【0011】
なお、評価時間Δtとは、総負荷電流を積分して電流積分値を算出する際の積分時間のことをいう。
【0012】
電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流の時刻変動には、電気機器に対する居住者の意図的な操作に起因する変動の他に、電気機器の待機稼働に起因する変動も含まれる。したがって、電力需要家の総負荷電流を積分した電流積分値の時刻変動をそのまま観察したとしても、電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作に起因するものか電気機器の待機稼働に起因するものかの判別をすることができない。
【0013】
なお、電気機器の待機稼働とは、例えば冷蔵庫などのように居住者の意図的な操作によらずオンとオフとの状態遷移を自動的に繰り返す電気機器の動作のことをいう。
【0014】
そこで、本発明では、電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作に起因するものであるか、それとも電気機器の待機稼働に起因するものであるかを判別するための閾値として活動電流閾値を自動的に取得するようにし、電流積分値を活動電流閾値と比較することによって判別を行なうものである。
【0015】
活動電流閾値の自動取得は次のようにして行なわれる。先ず、電力需要家についての総負荷電流の測定を複数日について行って測定データを集め、集めた測定データの中から電力需要家の在宅日に測定されたものであると判断されるデータを抽出する。ここで、在宅日に測定されたと判断されるデータの抽出は、例えばX日分の測定データがあるとすると、各日毎に1日分の測定データを合計して1日の総負荷電流量を求め、1日の総負荷電流量の大きい順にZ日分の測定データを抽出することで行なわれる。
【0016】
そして、抽出したデータを使用して電流積分値を算出し、算出した電流積分値を降順に並べてその上位Y%にあたる値を活動電流閾値とすることで、その電力需要家の負荷パターンに応じた活動電流閾値を自動的に取得する。
【0017】
この活動電流閾値は、電気機器の待機稼働による総負荷電流の変動の影響を排除して、電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用によるものか否かを適確に判断するための閾値となる。
【0018】
この様にして求めた活動電流閾値を使用して電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作に起因するものであるか、それとも電気機器の待機稼働に起因するものであるかを判別する。電流積分値が活動電流閾値よりも大きい場合には、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用がされていると考えられ、居住者は在宅中であり且つ活動中であると推定できる。一方、電流積分値が活動電流閾値以下の場合には、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用はされていないと考えられ、居住者は不在若しくは就寝中であると推定できる。
【0019】
さらに、電力需要家の総負荷電流に基づく電流積分値が活動電流閾値を連続して上回っている時間即ち活動を継続している時間、又は連続して下回っている時間即ち活動を停止している時間が通常の生活パターンから想定される時間とかけ離れて長時間に亘る場合には、居住者が寝たきりになっている或いは居住者が屋内で倒れている等の非常事態が発生している可能性も考えられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電力需要家内に配設された電気機器自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を必要とすることなく、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用の有無を判断することが可能であり、居住者の例えば在宅と不在との別や就寝中か活動中か等の生活状況、さらには、居住者が健常に生活しているか否かを含めた生活状況を推定することができる。したがって、システムの整備コストを低減することが可能であり、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0021】
また、本発明では、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を使わずに居住者の生活状況を推定するようにしているので、生活状況の細部が第三者に常に監視され生活態様が知られてしまう等の不快感を居住者に与えることを防止することができる。したがって、システム普及の障害が軽減され、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみの世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0022】
また、本発明では、電力需要家についての総負荷電流の測定を複数日について行って在宅日に測定されたものであると判断されるデータを抽出し、抽出したデータを使用して電流積分値を算出し、算出した電流積分値を降順に並べてその上位Y%にあたる値を活動電流閾値としているので、活動電流閾値をその電力需要家の負荷パターンに応じた値にすることができ、しかも自動的に設定することができる。そのため、管理者が測定データを目視等して閾値を設定するという手間と経験が必要な作業を行なう必要がなくなり、例えば多数の電力需要家を同時に推定の対象にする場合等であっても、個々の電力需要家について適切な活動電流閾値を迅速に設定することができる。また、電力需要家の負荷パターンは季節変化等に応じて変化するものであるが、活動電流閾値を自動的に設定することができるので、負荷パターンの変化に応じて活動電流閾値を更新するのが容易である。さらに、活動電流閾値の設定を管理者が行なうとその管理者の主観によって設定値にばらつきが生じる虞があるが、活動電流閾値の設定を自動化することで管理者の主観が入り込む余地がなくなり、常に一定の基準で活動電流閾値を設定することができる。しかも、活動電流閾値を設定する際、直近の測定データを使用することで活動電流閾値が電力需要家の直近の負荷パターンに応じた値になるので、電力需要家の現状に沿った推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の生活状況推定方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の生活状況推定システムの実施形態の一例を示す構成図である。
【図3】本実施形態の生活状況推定システムの構成例を示すブロック図である。
【図4】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日不在の日の総負荷電流を1分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図5】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、一時外出した日の総負荷電流を1分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図6】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日在宅の日の総負荷電流を1分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図7】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日不在の日の総負荷電流を30分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図8】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、一時外出した日の総負荷電流を30分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図9】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日在宅の日の総負荷電流を30分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図10】電力需要家の総負荷電流の測定データから在宅日の測定データを自動的に抽出できることを確認するための実験の結果を示し、在宅状況と総負荷電流1日平均値との関係を示す図である。
【図11】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図12】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図13】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図14】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行3日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図15】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行4日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【図16】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図17】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図18】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図19】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行3日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【図20】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図21】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図22】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図23】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行3日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図24】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行4日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【図25】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図26】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図27】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図28】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行3日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1から図9に、本発明の生活状況推定方法及びシステムの実施形態の一例を示す。なお、本実施形態では、図2に示す電力需要家2において本発明を適用した場合について説明する。
【0026】
本実施形態の電力需要家2内の屋内配線回路17には、電気機器3として、テレビジョン受像機3a,冷蔵庫3b,インバータエアコンデショナー3c,蛍光灯3d,白熱灯からなる居間照明機器3e,白熱灯からなるトイレ照明機器3f,ヒータ機能付温水便座3gが接続されている。屋内配線回路17は引込線4及び電柱5に架設された電線を介して電気事業者等の電力系統に接続されている。なお、電力需要家2内の屋内配線回路17に接続される電気機器3は、本実施形態において例示したものには限定されない。
【0027】
本発明の生活状況推定方法は、図1に示すように、閾値設定工程(S1〜S2)と推定工程(S3〜S6)より構成されている。閾値設定工程は、必要に応じて行なわれるものであり、総負荷電流の測定を複数の日について行い、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dにする(S2)ようにしている。
【0028】
また、推定工程では、電力需要家2内に配設された電気機器3によって総負荷電流を測定する(S3)と共に該総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出し(S4)、活動電流閾値Dよりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定する(S5)ようにしている。そして、本実施形態では、電気機器3の意図的な操作の有無の推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定する(S6)ようにしている。なお、本実施形態では、電気機器3の意図的な操作の有無の推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定するようにしているが、電気機器3の意図的な操作の有無を推定することで目的を達成できる場合等には、必ずしも電力需要家2の居住者の生活状況を推定するところまでは行なわなくても良い。
【0029】
上記生活状況推定方法は、本発明の生活状況推定システムとして実現される。本実施形態では、生活状況推定システム1が上記生活状況推定方法を用いて電力需要家2の居住者の生活状況を推定する場合を例に挙げて説明する。
【0030】
本実施形態の生活状況推定システム1は、図2及び図3に示すように、電力需要家2内に配設された電気機器3による総負荷電流を測定する測定手段10と、総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段11と、活動電流閾値Dよりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定する推定手段12とを備えている。なお、本実施形態の推定手段12は、居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定した後、その推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定するようにしている。
【0031】
さらに、本実施形態の生活状況推定システム1は、測定手段10によって測定される総負荷電流、演算手段11によって算出される電流積分値、電力需要家2の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流の測定値、予め設定した時間Ta、予め設定した値Yなどを記憶する例えばRAM(Random Access Memoryの略)やハードディスクなどの記憶装置13(記憶手段)、記憶装置13に記憶されている総負荷電流の測定値を用いて、記憶装置13に記憶されている時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、記憶装置13に記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dにする閾値決定手段15を備えている。
【0032】
この生活状況推定システム1は、本発明の生活状況推定用プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。即ち、少なくとも1つのCPUやMPUなどの演算処理装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶するメモリを備えるコンピュータ、及び生活状況推定用プログラムによって、演算手段11、推定手段12、閾値決定手段15を実現している。即ち、演算処理装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、生活状況推定用プログラム及び所要データ等により、上記演算手段11、推定手段12、閾値決定手段15を実現している。また、コンピュータには、例えばCRTディスプレイやプリンター等の出力装置が接続されていてもよい。
【0033】
生活状況推定システム1による生活状況推定の実行にあたっては、まず、閾値決定手段15が活動電流閾値Dの設定が必要か否かを判断する(S1)。閾値決定手段15は、前回の設定から例えば1日、数日、数ヶ月等の予め設定された所定期間が経過している場合や、生活状況推定を今回始めて実行する場合等に活動電流閾値Dの設定が必要であると判断し、ステップS2に進んで活動電流閾値Dの設定を行なう。一方、閾値決定手段15は、前回の設定の直後である場合等には活動電流閾値Dの設定は不要であると判断し、ステップS1からステップS3に進む。記憶装置13には前回の活動電流閾値Dの設定日時が記憶されており、閾値決定手段15は記憶装置13に記憶されている設定日時を読み込んで前回の設定日時を知ることができる。なお、今回が生活状況推定方法の初めての実行であり、活動電流閾値Dが未設定の場合には、設定日時としてブランク記号が記憶されている。
【0034】
ステップS2では、閾値決定手段15は活動電流閾値Dを設定する。ここで、記憶装置13には電力需要家の総負荷電流についての測定データが記憶されている。即ち、測定手段10によって測定された総負荷電流は記憶装置13に供給され記憶されている。
【0035】
記憶装置13には測定手段10が測定した総負荷電流の過去のデータが記憶されている。総負荷電流として、例えば直近の数十日分又は数ヶ月分のデータが記憶装置13に記憶されている。閾値決定手段15は、記憶されているデータの中から在宅日に測定されたと判断されるデータを抽出する。例えば、記憶装置13にX日分のデータが記憶されていたとすると、各日毎に1日分のデータを合計して1日の総負荷電流量を求め、1日の総負荷電流量が大きい方からZ日分のデータを抽出する。これは、過去X日のうち、全く不在であった日数は(X−Z)日よりも少ないこと、換言すれば、居住者が電気機器の意図的な操作を行なったことがある日数は少なくともZ日あることを前提としている。Zは、このような観点から決定され、予め記憶装置13に記憶されている。例えばX日は14日、Z日は7日である。
【0036】
閾値決定手段15は、抽出したZ日分のデータに基づいて、各日別に、時間Ta毎に電流積分値を算出する。なお、ここでの電流積分値の算出は後述するステップS4での演算手段11による演算と同様である。また、電流積分値の算出に使用する評価時間Δtの値もステップS4の値と同一である。
【0037】
例えば、測定手段10による総負荷電流の測定が1分間隔で行なわれるとすると、記憶装置13には、1日分のデータとして60(分)×24(時間)=1440個のデータ(総負荷電流の測定値)が記憶され、さらにX日分のデータとして(1440×X)個のデータが記憶されている。そして、閾値決定手段15は各日毎に測定値を合計して1日の総負荷電流量を算出し、1日の総負荷電流量が大きい方からZ日分のデータを抽出する。これにより、電力需要家2の在宅日に測定されたと判断されるデータとして、Z日分の(1440×Z)個のデータが抽出される。抽出されたデータは記憶装置13に記憶される。
【0038】
次に、閾値決定手段15は、Z日分のデータを使用して、各日について、予め設定した時間Ta毎に電流積分値∫A(t')を算出する。なお、時間Taとして評価時間Δtと異なる時間(時間Ta≠評価時間Δt)を用いても良いし、同じ時間(時間Ta=評価時間Δt)を用いても良い。本実施形態では、例えば時間Ta=3分とする。
【0039】
閾値決定手段15は、記憶装置13に記憶された抽出データを使用して評価時間Δt内、即ち任意の時刻をTとすると時刻t=Tから時刻t=T+Δtまでの間のデータを積分して電流積分値∫A(t')を連続して算出する。即ち、電流積分値∫A(t')は時間Ta毎に連続して算出される。ここでは、データは測定手段10によって1分毎に測定されたものであり、測定値は次の測定まで(ここでは1分間)一定の値であるとして電流積分値∫A(t')が算出される。閾値決定手段15は評価時間Δt毎に電流積分値∫A(t')を求めるので、1日分として、480(=60分×24時間÷3分)個の電流積分値∫A(t')が求められる。そして、閾値決定手段15は、Z日分のデータについて(480×Z)個の電流積分値∫A(t')を求める。
【0040】
次に、閾値決定手段15は、算出した電流積分値∫A(t')を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値∫A(t')の数が降順に並べられた電流積分値∫A(t')の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dとする。即ち、データ数をn個とすると「n×Y÷100」番目のデータの値をY%値とする。ここで、「n×Y÷100」の値が整数とならない場合は、「n×Y÷100」の値を例えば切り上げて用いる。ただし、切り上げに限るものではなく、小数部分を切り捨てても良いし、四捨五入しても良い。
【0041】
値Yは、過去の在宅の日のデータのうち、居住者の操作によって電気を使用していると確実に考えられる時間の割合[%]であり、居住者の操作によって電気を使用していると考えられる時間の割合よりも小さくなるように設定されている。本実施形態では、例えば15である。即ち、算出した電流積分値∫A(t')を降順に並べてその上位15%にあたるデータの値を活動電流閾値Dとする。ここでは、n=(480×Z)であるので、Y=15、Z=7であるとすると、「480×7×15÷100」=504であり、降順に並べた3360(=480×7)個のデータのうち、大きい方から504番目のデータの値(電流積分値∫A(t'))がY%値となり、この電流積分値∫A(t')を活動電流閾値Dとする。閾値決定手段15は、求めた活動電流閾値Dを記憶装置13に記憶させると共に、活動電流閾値Dを求めた日時を記憶装置13に記憶させる。
【0042】
ステップS3では、測定手段10が、電力需要家2内に配設された電気機器3による総負荷電流の測定を行う。ここで、測定手段10は、電力需要家2内に配設された電気機器3による総負荷電流、即ち、電力需要家2全体としての負荷電流を測定するものである。本実施形態では、電流計が用いられている。
【0043】
測定手段10は電力需要家2の引込線4の引込口の付近に設置される。このような構成を採ることにより、本発明の生活状況推定方法及びシステムを、電力需要家2内の屋内配線回路17に接続している複数の電気機器3による総負荷電流の合計を使用するもの、すなわち、電力需要家2内に配設された特定の電気機器3の情報は使用しない方法及びシステムとすることができる。
【0044】
測定手段10によって測定されて出力される電力需要家2の時刻tにおける総負荷電流A(t)は記憶装置13に記録される。
【0045】
次に、演算手段11が、ステップS3の処理によって得られる総負荷電流A(t)を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値∫A(t')の算出を行う(S4)。
【0046】
演算手段11は、記憶装置13に記録された総負荷電流A(t)を用いて評価時間Δt内、即ち任意の時刻をTとすると時刻t=Tから時刻t=T+Δtまでの間の総負荷電流A(t)を積分して電流積分値∫A(t')を連続して算出する。すなわち、電流積分値∫A(t')は評価時間Δt毎に連続して算出される。なお、本実施形態ではt'=t+Δt/2とする。そして、演算手段11は算出した電流積分値∫A(t')の値を記憶装置13に記憶させる。
【0047】
電流積分値∫A(t')を算出する際の総負荷電流A(t)の積分時間である評価時間Δtは、本実施形態における冷蔵庫3bやヒータ機能付温水便座3gのように居住者の操作によらずオンとオフとの状態遷移を自動的に繰り返す電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動の影響を排除して、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用による総負荷電流A(t)の変動を電流積分値∫A(t')の変動として顕著に現すための変数である。
【0048】
したがって、評価時間Δtは、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用がされている時の総負荷電流A(t)の変動と、されていない時の総負荷電流A(t)の変動との間の差が電流積分値∫A(t')の変動においてより顕著に現れるように設定される。
【0049】
また、電流積分値∫A(t')を算出する時間間隔である時間Taは、居住者による電気機器3の意図的な操作による総負荷電流A(t)の変動を見逃さない時間間隔に設定される。
【0050】
ここで、評価時間Δtの長短が電流積分値∫A(t')の変動に与える影響について説明する。本実施形態の電力需要家2について、居住者が終日不在の日と、午後1時40分から4時まで外出しその他の時間帯は在宅の日(以下、一時外出した日と呼ぶ)と、終日在宅の日との時刻tにおける総負荷電流A(t)のそれぞれについて評価時間Δtを1分とした場合即ち1分に亘って積分した場合の電流積分値∫A(t')の時刻変動の概念を図4から図6に示す。なお、本実施形態では、1分毎に測定される総負荷電流の瞬時値が1分後の次の測定時まで変化しないものとして時刻tにおける総負荷電流A(t)のデータが整備されている。
【0051】
図4中の符号rで示す比較的低い範囲で定期的に増減を繰り返している電流積分値∫A(t')の変動は冷蔵庫3bの待機稼働に起因するものである。また、符号tで示す定期的且つ瞬間的に増加する電流積分値∫A(t')の変動はヒータ機能付温水便座3gの待機稼働に起因するものである。
【0052】
すなわち、図4に示すように、居住者が終日不在であって居住者による電気機器3の意図的な操作がされない場合であっても、電力需要家2内の屋内配線回路17に接続している電気機器3のうち例えば冷蔵庫3bやヒータ機能付温水便座3gのように居住者が不在であっても稼働し続けて負荷電流を生じる電気機器3の待機稼働があるために電流積分値∫A(t')は変動する。そして、評価時間Δtが1分の場合には電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動においても顕著に現れる。
【0053】
そして、図5及び図6に示すように、評価時間Δtが1分の場合には、居住者が在宅しており居住者による電気機器3の意図的な操作が実際にはされているにもかかわらず、電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動もあるため、電気機器3の意図的な操作であって屋内での活動に伴って電気機器3が使用されることによる総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動としては顕著には現れない。
【0054】
続いて、本実施形態の電力需要家2について、居住者が終日不在の日と一時外出した日と終日在宅の日との総負荷電流A(t)のそれぞれについて評価時間Δtを30分とした場合の電流積分値∫A(t')の時刻変動の概念を図7から図9に示す。
【0055】
図7に示すように、評価時間Δtが30分の場合には、居住者が終日不在の日において、電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動としては平準化される。
【0056】
そして、図8や図9に示すように、評価時間Δtが30分の場合には、居住者が一時外出した日若しくは終日在宅の日において、居住者による電気機器3の意図的な操作であって屋内での活動に伴って電気機器3が使用されることによる総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動(図中符号Aで示す)として顕著に現れるようになる。
【0057】
このように、総負荷電流A(t)を適切な評価時間Δtで積分して電流積分値∫A(t')とすることによって、電気機器3の待機稼働によるものであって居住者の電気機器3の意図的な操作によらない総負荷電流A(t)の変動を電流積分値∫A(t')においては平準化させることができると共に、これにより電気機器3の意図的な操作に起因する総負荷電流A(t)の変動を電気機器3の待機稼働に起因する総負荷電流A(t)の変動と区別して電流積分値∫A(t')の変動において顕著化させることができる。
【0058】
このように、評価時間Δtは、本実施形態におけるΔt=1分の場合のように適切な設定に対して短すぎると電気機器3の待機稼働に起因する総負荷電流A(t)の変動を平準化させることができないので居住者による電気機器3の意図的な操作に起因する総負荷電流A(t)の変動を電流積分値∫A(t')の変動において顕著化させることができず、一方、適切な設定に対して長すぎると居住者の活動が実際には活発であって前後の時間帯と比べて総負荷電流A(t)が高い値になっている変動が電流積分値∫A(t')としては平準化されてしまい居住者が実際に活動している時間帯が曖昧になってしまうおそれがある。
【0059】
評価時間Δtは、具体的には、3分から30分程度の範囲で設定することが好ましく、より好ましくは15分から30分程度の範囲で設定することであり、最も好ましくは30分程度に設定することである。しかしながら、評価時間Δtはこの範囲に限られるものではなく、3分より短くても良いし、30分より長くても良い。
【0060】
本実施形態では、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用がされている時の総負荷電流A(t)の変動とされていない時の総負荷電流A(t)の変動との間の差が電流積分値∫A(t')の変動においてより顕著になるように評価時間Δtを30分に設定している。
【0061】
次に、推定手段12が、ステップS4の処理によって得られる電流積分値∫A(t')を用いて電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無の推定を行う(S5)。
【0062】
推定手段12は、ステップS4の処理において算出されて記憶装置13に記録された電流積分値∫A(t')の値と活動電流閾値Dの値とを比較する。
【0063】
活動電流閾値Dは、電力需要家2において居住者による電気機器3の意図的な操作が行われたか否かを判断するための閾値であり、ステップS2の実行により算出されて記憶装置13に記録されている。
【0064】
そして、推定手段12は、電流積分値∫A(t')の値が活動電流閾値D以下の値から活動電流閾値Dよりも大きな値に推移した場合には電力需要家2において居住者による電気機器3の意図的な操作が開始されたと判断する。
【0065】
一方、推定手段12は、電流積分値∫A(t')の値が活動電流閾値Dよりも大きな値から活動電流閾値D以下の値に推移した場合には電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作が終了したと判断する。
【0066】
本実施形態では、図7に示すように、居住者が終日不在の日における電流積分値∫A(t')は、活動電流閾値Dを超えることがない。
【0067】
そして、図8に示すように、居住者が一時外出した日については、夕方及び夜間において電流積分値∫A(t')が活動電流閾値Dを上回り(符号A)、当該時間帯において居住者による電気機器3の意図的な操作が行われたと推定される。
【0068】
また、図9に示すように、居住者が終日在宅の日については、昼間から夜間に亘って電流積分値∫A(t')が活動電流閾値Dを上回り(符号A)、当該時間帯において居住者による電気機器3の意図的な操作が行われたと推定される。
【0069】
さらに、本実施形態では、推定手段12がステップS5の処理によって得られる居住者による電気機器3の意図的な操作の有無の推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況の推定を行う(S6)。
【0070】
推定手段12は、ステップS5の処理において、居住者による電気機器3の意図的な操作が開始されたと推定した場合には居住者は在宅中であり且つ活動中であると判断してこの推定結果を表す情報として活動開始情報を出力する。
【0071】
一方、推定手段12は、ステップS5の処理において居住者による電気機器3の意図的な操作が終了したと推定した場合には居住者は在宅しているが活動停止中若しくは不在若しくは就寝中であると判断してこの推定結果を表す情報として活動終了情報を出力する。
【0072】
さらに、推定手段12は、例えば、昼間に活動終了情報を出力してから時間が経過した場合には居住者は不在であるとの推定結果を出力したり、夜間に活動終了情報を出力してから所定の時間が経過した場合には居住者は就寝中であるとの推定結果を出力したりする。
【0073】
ここで、本実施形態の生活状況推定システム1は、推定手段12が出力する活動開始情報や活動終了情報を外部の情報処理装置に送信する通知手段14を更に備え、推定手段12が出力するこれらの情報を利用して電力需要家2内で生活する居住者の安否を確認するようにしている。
【0074】
この場合、上述した生活状況推定方法及びシステムを居住者の安否確認方法及びシステムとして利用することができる。以下、この安否確認システムの対象となる電力需要家2の居住者のことを対象者と呼ぶ。
【0075】
この安否確認システムによれば、対象者が健常に生活しているか否かを対象者の家族や担当医師等が遠隔から確認することができるようになるので、対象者の生活安全性の向上に寄与する。したがって、この安否確認システムは、例えば一人暮らしの老人や身体障害者の世帯又は老人のみの世帯に設置される場合に特に有用である。
【0076】
外部の情報処理装置としては、例えば、対象者の安否確認を業として行う事業者(以下、安否確認事業者と呼ぶ)が運用するコンピュータ20(以下、安否情報管理手段20と呼ぶ)、または、対象者の家族や担当医師等が所有するパーソナルコンピュータ若しくは電話機や携帯電話機等の情報端末機21が用いられる。
【0077】
また、通知手段14と安否情報管理手段20と情報端末機21との相互間の通信には有線又は無線の通信回線及び通信プロトコル等の通信技術が用いられる。そして、通知手段14と安否情報管理手段20と情報端末機21とには採用された通信回線及び通信技術による通信を可能にするハードウェア並びにソフトウェアが実装される。
【0078】
安否情報管理手段20や情報端末機21は、これらが備える演算機能等により、活動終了情報を最後に受信した時刻から活動開始情報を受信しないまま経過した現時刻までの時間(以下、活動停止時間と呼ぶ)を算出すると共に算出された活動停止時間と予め定められた活動停止基準時間とを比較する。
【0079】
活動停止基準時間は、対象者の生活パターン等を考慮して適宜設定される。具体的には例えば、一日8時間程度の睡眠中に電気機器の意図的な操作は行われないことは通常であることを考慮して活動停止基準時間が9時間から12時間程度の間に設定されることが考えられる。または、対象者の生活パターンとして日中は外出する時間が長い場合や対象者の生活態様として電気機器の意図的な操作を頻繁には行わないことが通常である場合にはこれらの事情を考慮して活動停止基準時間が12時間から24時間程度の間に設定されることも考えられる。
【0080】
さらに、安否情報管理手段20や情報端末機21は、これらが備える演算機能等により、活動開始情報を最後に受信した時刻から活動終了情報を受信しないまま経過した現時刻までの時間(以下、活動継続時間と呼ぶ)を算出すると共に算出された活動継続時間と予め定められた活動継続基準時間とを比較する。
【0081】
活動継続基準時間は、対象者の生活パターン等を考慮して適宜設定される。具体的には例えば、対象者の生活態様として一日16時間程度の屋内での活動中電気機器が継続的に使用されることが通常である場合にはこれを考慮して活動継続基準時間が16時間から20時間程度の間に設定されることが考えられる。
【0082】
そして、安否情報管理手段20や情報端末機21は、活動停止時間が活動停止基準時間以上となる場合又は活動継続時間が活動継続基準時間以上となる場合に自身が備えるスピーカやディスプレイ等の出力装置に警告音や警告メッセージ等の警告情報を自動出力し、安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等に対して注意を促す。
【0083】
そして、警告情報を受信した安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等は対象者が寝たきりになっていたり屋内で倒れていたりする等の非常事態が発生している可能性があると判断し、例えば、安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等が対象者に電話連絡等をして安否確認を行ったり、安否確認事業者が対象者の家族や担当医師等に電話連絡等をして対象者の安否確認の依頼を行ったりする等の措置が施される。これにより、独居老人や老人のみ世帯等において非常事態が発生した場合にそのことが誰にも知られることなく事態がより悪化してしまうことを防ぐことが可能となり、独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性が確保される。
【0084】
この安否確認方法及びシステムによれば、電力需要家2内に配設された電気機器3自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家2内に配設された特定の電気機器3の情報を必要とすることなく、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用の有無を判断することが可能であり、居住者が健常に生活しているか否かを推定することができる。したがって、安否確認システムの整備コストを低減することができ、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。さらに、本発明では、電力需要家2内に配設された特定の電気機器3の情報を使わずに居住者の健常性を推定するようにしているので、第三者から監視されている又は生活態様が知られてしまう等の意識を居住者が持つなどの不快感を与えることを防止することができる。したがって、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0085】
本発明では、電力需要家2についての総負荷電流の測定を複数日について行って在宅日に測定されたものであると判断されるデータを抽出し、抽出したデータを使用して電流積分値∫A(t')を算出し、算出した電流積分値∫A(t')を降順に並べてその上位Y%にあたる値を活動電流閾値Dとしているので、活動電流閾値Dをその電力需要家2の負荷パターンに応じた値にすることができ、しかも自動的に設定することができる。そのため、管理者が測定データを目視等して活動電流閾値Dを設定するという手間と経験が必要な作業を行なう必要がなくなり、例えば多数の電力需要家2を同時に推定の対象にする場合等であっても、各電力需要家2毎に適切な活動電流閾値Dを迅速に設定することができる。
【0086】
また、電力需要家2の負荷パターンは季節変化等に応じて変化するものであるが、本発明では活動電流閾値Dを自動的に設定することができるので、負荷パターンの変化に応じて活動電流閾値Dを適切な値に更新するのが容易である。
【0087】
さらに、活動電流閾値Dの設定を管理者が行なうとその管理者の主観によって設定値にばらつきが生じる虞があるが、本発明では活動電流閾値Dの設定を自動化することができるので、活動電流閾値Dの設定に人間の主観が入り込む余地がなくなり、常に一定の基準で活動電流閾値Dを設定することができる。
【0088】
また、活動電流閾値Dを設定する際、直近の測定データを使用することで活動電流閾値Dが電力需要家2の直近の負荷パターンに応じた値になり、電力需要家2の現状に沿った推定を行うことができる。ただし、使用するデータは必ずしも厳密に直近に測定したデータでなくても良い。推定に必要な程度に電力需要家2の負荷パターンを活動電流閾値Dに反映させることができれば、測定からある程度の時間が経過したデータを使用しても良い。
【0089】
本発明では、評価時間Δt、Z日、時間Ta、値Yを予め設定しておく必要がある。しかしながら、これらの値は電力需要家2の負荷パターンが例えば季節的に変化してもそのまま使用することができるものであり、システムの管理者等が負荷パターンを目視によって確認していちいち設定し直す必要はない。そのため、本発明による活動電流閾値Dの自動設定を妨げるものではない。
【0090】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0091】
例えば、上述の説明では、推定手段12が出力する活動開始情報や活動終了情報を通知手段14によって外部の情報処理装置である安否情報管理手段20や情報端末機21に送信して安否情報管理手段20や情報端末機21が安否判断するようにしているが、これに限られず、推定手段12によって安否判断まで行いこの判断結果の情報を通知手段14によって安否情報管理手段20や情報端末機21に送信するようにしても良い。この場合、推定手段12は、活動停止時間を算出してこの活動停止時間と予め定められた活動停止基準時間とを比較すると共に、活動継続時間を算出してこの活動継続時間と予め定められた活動継続基準時間とを比較する。そして、推定手段12は、活動停止時間が活動停止基準時間以上となる場合又は活動継続時間が活動継続基準時間以上となる場合に警告メッセージ等の警告情報を通知手段14に対して出力する。さらに、通知手段14は、この警告情報を安否情報管理手段20や情報端末機21に送信して安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等に対して注意を促す。
【0092】
また、上述の説明では、推定手段12は、電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定した後、この推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定するようにしていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、推定結果に基づいた電力需要家2の居住者の生活状況の推定は行なわなくても良い。この場合であっても、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用の有無を判断することが可能であり、例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0093】
さらに、本実施形態では、記憶装置13及び演算手段11を独立した装置として有する構成にしているが、場合によっては、これらの機能を安否情報管理手段20及び情報端末機21の双方又は一方に持たせる構成とすることも可能である。この場合には、測定手段10によって測定される総負荷電流A(t)を通知手段14によって安否情報管理手段20や情報端末機21に送信し、安否情報管理手段20や情報端末機21において電流積分値∫A(t')の算出や居住者による電気機器3の意図的な操作の有無の推定等を行うようにする。
【0094】
また、本実施形態においては、本発明の生活状況推定方法及びシステムが居住者の安否確認方法及びシステムとして利用される場合を前提とした例について主に説明したが、これに限られるものではなく、例えば、本発明により推定される居住者の生活パターンの情報を空調機器等の電気機器の学習に利用し、当該電気機器が当該学習に基いて居住者の生活パターンに適合した運転を行えるようにすることも可能である。
【0095】
また、上述の説明では、値Yを15としていたが、必ずしも15に限るものではない。判別に適した活動電流閾値Dを設定できるような値であれば良い。
【実施例1】
【0096】
在・不在を問わずに電力需要家2の総負荷電流を測定したデータの中から、在宅日に測定したデータを自動的に抽出できることを確認するための実験を行なった。実験には、ある1世帯について測定した132日分のデータを使用した。132日分のデータについて、日別に総負荷電流1日平均値[A]を算出し、在宅状況別に分類した。データ測定日の居住者の在宅状況は別途回収した居住者記載の在宅状況記入表に基づいて推定した。在宅状況として、「終日在宅」、「日中不在」、「夜間不在」、「終日不在」、「朝不在」に分類した。
【0097】
その結果を図10に示す。図10からも明らかなように、総負荷電流1日平均値は「終日不在」が最も小さく、在宅時間が長くなるのに応じて増加する傾向を示した。したがって、日別の総負荷電流の合計値(1日の総負荷電流量)が大きい方からZ日選択することで、在宅日に測定されたデータのみを抽出できる。
【実施例2】
【0098】
活動電流閾値Dを適切に設定することで、電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を判別できることを確認するための実験を行なった。実験は、ある2世帯(世帯A,世帯B)が旅行に出かけたときのデータを使用して行なった。旅行期間は、世帯Aが4日間、世帯Bが3日間であり、旅行前日から旅行最終日(帰宅日)のデータを使用した。評価時間Δt=15分,30分のそれぞれについて、値Y=1,2,3,5,10,15,20,25,30%とした場合について計算を行なった。
【0099】
その結果を図11〜図28に示す。各図は、時間によって変動する電流積分値と、各値Yに対応する活動電流閾値Dとの関係を示している。図11〜図15は世帯Aについて評価時間Δtを15分とした場合、図16〜図19は世帯Bについて評価時間Δtを15分とした場合、図20〜図24は世帯Aについて評価時間Δtを30分とした場合、図25〜図28は世帯Bについて評価時間Δtを30分とした場合である。値Yは、毎日、その前日までのX日(14日)のデータを使用してZ日(7日)を抽出して再計算している。
【0100】
世帯Aについては、旅行前日(図11,図20)の8時頃〜9時頃,12時頃〜13時頃,17時頃〜23時頃、旅行1日目(図12,図21)の7時頃〜10時頃、旅行4日目(帰宅日:図15,図24)の19時頃〜22時頃に電流積分値が増加している。また、世帯Bについては、旅行前日(図16,図25)の3時頃〜5時頃,8時頃〜23時頃、旅行1日目(図17,図26)の7時頃〜9時頃、旅行3日目(帰宅日:図19,図28)の20時頃〜23時頃に電流積分値が増加している。これらの増加部分は、居住者から別途回収した在宅状況記入表に記載されている在宅時と一致しており、居住者の意図的な電気機器3の使用を示していると言える。
【0101】
したがって、活動電流閾値Dを適切な値に設定することで、活動電流閾値Dとの比較によって居住者の意図的な電気機器3の使用を判別することができる。実験のケースでは、各図からも明らかなように、評価時間Δt=15分,30分のいずれについても、Y=20〜30%に対応するデータの値(Y%値)を活動電流閾値Dとして使用することで、居住者の意図的な電気機器3の使用を判別することが可能である。また,Y=10%,15%でも居住者の意図的な電気機器3の使用を判別することが概ね可能であるが,図19や図28の20時以降のデータ等からわかるように,居住者が旅行から帰宅して在宅しているにも関わらず,電流積分値が小さいために,居住者はいまだ不在と推定する可能性がある。
【実施例3】
【0102】
次に、実施例2により導き出された評価時間Δtと値Yとの組み合わせについて、より多くのデータを使用して評価を行なった。具体的には、Δt=15分の場合のY=10%,15%,20%、Δt=30分の場合のY=10%,20%とである。使用したデータは、延べ12軒、計1847日間についてのものである。
【0103】
評価は、実施例2により導き出されたΔtとYの組み合わせを使用した判定結果を在宅状況記入表の記載と比較することで行なった。その結果を表1に示す。
【表1】
【0104】
Δt=15分の場合、Y=20%では不在時に在宅と判断したケースがあった。Yを大きくすると、活動電流閾値Dは低くなるので、Yを20%以上にすると、不在時に在宅と誤判断するケースが増えると考えられ、判別精度が減少する。そのため、Yを20%未満とするのが妥当である。一方、Yを小さくすると活動電流閾値Dは高くなるので、Yを小さくし過ぎると、在宅時に不在と誤判断するケースが増加すると考えられる。これらのバランスより、実施例2ではΔt=15分の場合にはY=15%が適していると考えられる。
【0105】
また、Δt=30分の場合、Y=10%では「在宅時」に不在と誤判別するケースが多かった。一方、Y=20%では、Δt=15分,Y=15%の組み合わせとほぼ同等の結果が得られた。したがって、実施例2では、Δt=30分の場合にはY=20%が適していると考えられる。
【符号の説明】
【0106】
1 生活状況推定システム
2 電力需要家
3 電気機器
10 測定手段
11 演算手段
12 推定手段
15 閾値決定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活状況推定方法及びシステム並びに生活状況推定用プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、電力需要家の居住者の例えば在宅と不在との別や就寝中か活動中か等の生活状況を推定する方法及びシステム並びに生活状況推定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の居住者の生活状況を推定するシステムとして、例えば生活状況推定システムがある(特許文献1)。この生活状況推定システムでは、電力需要家の引込線引込口付近に設置された電力計によって時刻tにおける消費電力P(t)を測定し、評価時間Δtに亘り積分して電力量∫P(t')を算出する。そして、電力量∫P(t')の値が活動電力量閾値Paよりも大きくなった場合に電力需要家において居住者による電気機器の意図的な操作が開始されたと判断し、逆に、電力量∫P(t')の値が活動電力量閾値Pa以下の値になった場合に電力需要家において居住者による電気機器の意図的な操作が終了したと判断する。
【0003】
活動電力量閾値Paは、基本電力量∫Pb(t')の最大値∫Pb_maxに変動係数Kfを乗じて求められる値であり、最大値∫Pb_maxは待機稼働中の電気機器の最大消費電力の合計を評価時間Δtにわたって積分するか、あるいは不在時の総消費電力を評価時間Δtにわたって積分して得た総電力量の最大値を算出することで求められる。また、変動係数Kfは、予め適正な値が設定されている。
【0004】
この生活状況推定システムによれば、電力需要家内に配設された電気機器自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を必要とすることなく、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用の有無を判断することが可能であり、居住者の例えば在宅と不在との別や就寝中か活動中か等の生活状況、さらには、居住者が健常に生活しているか否かを含めた生活状況を推定することができる。そのため、システムの整備コストを低減することが可能であり、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−310729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の生活状況推定システムでは、活動電力量閾値Paの算出に必要な基本電力量∫Pb(t')の最大値∫Pb_maxを求めるためには居住者の不在が確認されている時間帯の測定データを取得する必要があり、管理者の目視による測定データの確認が必要である。また、変動係数Kfの設定については、管理者が測定データを目視で確認しながらその電力需要家に適した値に設定する必要がある。これらのため、活動電力量閾値Paの自動設定が困難である。
【0007】
本発明は、電力需要家内に配設された電気機器自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を必要とすることなく、居住者の生活状況を推定することができるものであって、居住者による電気機器の意図的な操作の有無を判別するための閾値をその電力需要家に適した値に自動的に設定することができる生活状況推定方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定すると共に総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出し、活動電流閾値よりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する生活状況推定方法であって、総負荷電流の測定を複数の日について行い、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にするものである。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定する測定手段と、総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、活動電流閾値よりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段とを有する生活状況推定システムであって、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流の測定値と予め設定した時間Taと予め設定した値Yとを記憶している記憶手段と、記憶手段に記憶されている総負荷電流の測定値を用いて、記憶手段に記憶されている時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、記憶手段に記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にする閾値決定手段とを備えるものである。
【0010】
さらに、請求項3記載の生活状況推定用プログラムは、少なくとも、記憶手段に予め記憶されている電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流の測定値を記憶手段に予め記憶されている時間Ta毎に記憶手段に予め記憶されている評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、記憶手段に予め記憶されている総負荷電流の測定値のうち、電力需要家の在宅日に測定されたと判断されるものを用いて、電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、記憶手段に予め記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にする閾値決定手段と、閾値決定手段によって求められた活動電流閾値よりも演算手段によって算出された電流積分値が大きいか否かによって電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【0011】
なお、評価時間Δtとは、総負荷電流を積分して電流積分値を算出する際の積分時間のことをいう。
【0012】
電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流の時刻変動には、電気機器に対する居住者の意図的な操作に起因する変動の他に、電気機器の待機稼働に起因する変動も含まれる。したがって、電力需要家の総負荷電流を積分した電流積分値の時刻変動をそのまま観察したとしても、電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作に起因するものか電気機器の待機稼働に起因するものかの判別をすることができない。
【0013】
なお、電気機器の待機稼働とは、例えば冷蔵庫などのように居住者の意図的な操作によらずオンとオフとの状態遷移を自動的に繰り返す電気機器の動作のことをいう。
【0014】
そこで、本発明では、電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作に起因するものであるか、それとも電気機器の待機稼働に起因するものであるかを判別するための閾値として活動電流閾値を自動的に取得するようにし、電流積分値を活動電流閾値と比較することによって判別を行なうものである。
【0015】
活動電流閾値の自動取得は次のようにして行なわれる。先ず、電力需要家についての総負荷電流の測定を複数日について行って測定データを集め、集めた測定データの中から電力需要家の在宅日に測定されたものであると判断されるデータを抽出する。ここで、在宅日に測定されたと判断されるデータの抽出は、例えばX日分の測定データがあるとすると、各日毎に1日分の測定データを合計して1日の総負荷電流量を求め、1日の総負荷電流量の大きい順にZ日分の測定データを抽出することで行なわれる。
【0016】
そして、抽出したデータを使用して電流積分値を算出し、算出した電流積分値を降順に並べてその上位Y%にあたる値を活動電流閾値とすることで、その電力需要家の負荷パターンに応じた活動電流閾値を自動的に取得する。
【0017】
この活動電流閾値は、電気機器の待機稼働による総負荷電流の変動の影響を排除して、電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用によるものか否かを適確に判断するための閾値となる。
【0018】
この様にして求めた活動電流閾値を使用して電流積分値の変動が居住者による電気機器の意図的な操作に起因するものであるか、それとも電気機器の待機稼働に起因するものであるかを判別する。電流積分値が活動電流閾値よりも大きい場合には、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用がされていると考えられ、居住者は在宅中であり且つ活動中であると推定できる。一方、電流積分値が活動電流閾値以下の場合には、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用はされていないと考えられ、居住者は不在若しくは就寝中であると推定できる。
【0019】
さらに、電力需要家の総負荷電流に基づく電流積分値が活動電流閾値を連続して上回っている時間即ち活動を継続している時間、又は連続して下回っている時間即ち活動を停止している時間が通常の生活パターンから想定される時間とかけ離れて長時間に亘る場合には、居住者が寝たきりになっている或いは居住者が屋内で倒れている等の非常事態が発生している可能性も考えられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電力需要家内に配設された電気機器自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を必要とすることなく、居住者による電気機器の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器の使用の有無を判断することが可能であり、居住者の例えば在宅と不在との別や就寝中か活動中か等の生活状況、さらには、居住者が健常に生活しているか否かを含めた生活状況を推定することができる。したがって、システムの整備コストを低減することが可能であり、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0021】
また、本発明では、電力需要家内に配設された特定の電気機器の情報を使わずに居住者の生活状況を推定するようにしているので、生活状況の細部が第三者に常に監視され生活態様が知られてしまう等の不快感を居住者に与えることを防止することができる。したがって、システム普及の障害が軽減され、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみの世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0022】
また、本発明では、電力需要家についての総負荷電流の測定を複数日について行って在宅日に測定されたものであると判断されるデータを抽出し、抽出したデータを使用して電流積分値を算出し、算出した電流積分値を降順に並べてその上位Y%にあたる値を活動電流閾値としているので、活動電流閾値をその電力需要家の負荷パターンに応じた値にすることができ、しかも自動的に設定することができる。そのため、管理者が測定データを目視等して閾値を設定するという手間と経験が必要な作業を行なう必要がなくなり、例えば多数の電力需要家を同時に推定の対象にする場合等であっても、個々の電力需要家について適切な活動電流閾値を迅速に設定することができる。また、電力需要家の負荷パターンは季節変化等に応じて変化するものであるが、活動電流閾値を自動的に設定することができるので、負荷パターンの変化に応じて活動電流閾値を更新するのが容易である。さらに、活動電流閾値の設定を管理者が行なうとその管理者の主観によって設定値にばらつきが生じる虞があるが、活動電流閾値の設定を自動化することで管理者の主観が入り込む余地がなくなり、常に一定の基準で活動電流閾値を設定することができる。しかも、活動電流閾値を設定する際、直近の測定データを使用することで活動電流閾値が電力需要家の直近の負荷パターンに応じた値になるので、電力需要家の現状に沿った推定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の生活状況推定方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の生活状況推定システムの実施形態の一例を示す構成図である。
【図3】本実施形態の生活状況推定システムの構成例を示すブロック図である。
【図4】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日不在の日の総負荷電流を1分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図5】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、一時外出した日の総負荷電流を1分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図6】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日在宅の日の総負荷電流を1分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図7】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日不在の日の総負荷電流を30分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図8】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、一時外出した日の総負荷電流を30分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図9】本実施形態の電力需要家の電流積分値の時刻変動を示し、終日在宅の日の総負荷電流を30分に亘って積分した場合の変動を示す概念図である。
【図10】電力需要家の総負荷電流の測定データから在宅日の測定データを自動的に抽出できることを確認するための実験の結果を示し、在宅状況と総負荷電流1日平均値との関係を示す図である。
【図11】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図12】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図13】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図14】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行3日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図15】Δt=15分とした場合のある世帯Aの旅行4日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【図16】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図17】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図18】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図19】Δt=15分とした場合のある世帯Bの旅行3日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【図20】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図21】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図22】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図23】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行3日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図24】Δt=30分とした場合のある世帯Aの旅行4日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【図25】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行前日における電流積分値の変動を示す図である。
【図26】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行1日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図27】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行2日目における電流積分値の変動を示す図である。
【図28】Δt=30分とした場合のある世帯Bの旅行3日目(帰宅日)における電流積分値の変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1から図9に、本発明の生活状況推定方法及びシステムの実施形態の一例を示す。なお、本実施形態では、図2に示す電力需要家2において本発明を適用した場合について説明する。
【0026】
本実施形態の電力需要家2内の屋内配線回路17には、電気機器3として、テレビジョン受像機3a,冷蔵庫3b,インバータエアコンデショナー3c,蛍光灯3d,白熱灯からなる居間照明機器3e,白熱灯からなるトイレ照明機器3f,ヒータ機能付温水便座3gが接続されている。屋内配線回路17は引込線4及び電柱5に架設された電線を介して電気事業者等の電力系統に接続されている。なお、電力需要家2内の屋内配線回路17に接続される電気機器3は、本実施形態において例示したものには限定されない。
【0027】
本発明の生活状況推定方法は、図1に示すように、閾値設定工程(S1〜S2)と推定工程(S3〜S6)より構成されている。閾値設定工程は、必要に応じて行なわれるものであり、総負荷電流の測定を複数の日について行い、電力需要家の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dにする(S2)ようにしている。
【0028】
また、推定工程では、電力需要家2内に配設された電気機器3によって総負荷電流を測定する(S3)と共に該総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出し(S4)、活動電流閾値Dよりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定する(S5)ようにしている。そして、本実施形態では、電気機器3の意図的な操作の有無の推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定する(S6)ようにしている。なお、本実施形態では、電気機器3の意図的な操作の有無の推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定するようにしているが、電気機器3の意図的な操作の有無を推定することで目的を達成できる場合等には、必ずしも電力需要家2の居住者の生活状況を推定するところまでは行なわなくても良い。
【0029】
上記生活状況推定方法は、本発明の生活状況推定システムとして実現される。本実施形態では、生活状況推定システム1が上記生活状況推定方法を用いて電力需要家2の居住者の生活状況を推定する場合を例に挙げて説明する。
【0030】
本実施形態の生活状況推定システム1は、図2及び図3に示すように、電力需要家2内に配設された電気機器3による総負荷電流を測定する測定手段10と、総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段11と、活動電流閾値Dよりも電流積分値が大きいか否かによって電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定する推定手段12とを備えている。なお、本実施形態の推定手段12は、居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定した後、その推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定するようにしている。
【0031】
さらに、本実施形態の生活状況推定システム1は、測定手段10によって測定される総負荷電流、演算手段11によって算出される電流積分値、電力需要家2の在宅日に測定されたと判断される総負荷電流の測定値、予め設定した時間Ta、予め設定した値Yなどを記憶する例えばRAM(Random Access Memoryの略)やハードディスクなどの記憶装置13(記憶手段)、記憶装置13に記憶されている総負荷電流の測定値を用いて、記憶装置13に記憶されている時間Ta毎に電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、記憶装置13に記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値の数が降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dにする閾値決定手段15を備えている。
【0032】
この生活状況推定システム1は、本発明の生活状況推定用プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。即ち、少なくとも1つのCPUやMPUなどの演算処理装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶するメモリを備えるコンピュータ、及び生活状況推定用プログラムによって、演算手段11、推定手段12、閾値決定手段15を実現している。即ち、演算処理装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、生活状況推定用プログラム及び所要データ等により、上記演算手段11、推定手段12、閾値決定手段15を実現している。また、コンピュータには、例えばCRTディスプレイやプリンター等の出力装置が接続されていてもよい。
【0033】
生活状況推定システム1による生活状況推定の実行にあたっては、まず、閾値決定手段15が活動電流閾値Dの設定が必要か否かを判断する(S1)。閾値決定手段15は、前回の設定から例えば1日、数日、数ヶ月等の予め設定された所定期間が経過している場合や、生活状況推定を今回始めて実行する場合等に活動電流閾値Dの設定が必要であると判断し、ステップS2に進んで活動電流閾値Dの設定を行なう。一方、閾値決定手段15は、前回の設定の直後である場合等には活動電流閾値Dの設定は不要であると判断し、ステップS1からステップS3に進む。記憶装置13には前回の活動電流閾値Dの設定日時が記憶されており、閾値決定手段15は記憶装置13に記憶されている設定日時を読み込んで前回の設定日時を知ることができる。なお、今回が生活状況推定方法の初めての実行であり、活動電流閾値Dが未設定の場合には、設定日時としてブランク記号が記憶されている。
【0034】
ステップS2では、閾値決定手段15は活動電流閾値Dを設定する。ここで、記憶装置13には電力需要家の総負荷電流についての測定データが記憶されている。即ち、測定手段10によって測定された総負荷電流は記憶装置13に供給され記憶されている。
【0035】
記憶装置13には測定手段10が測定した総負荷電流の過去のデータが記憶されている。総負荷電流として、例えば直近の数十日分又は数ヶ月分のデータが記憶装置13に記憶されている。閾値決定手段15は、記憶されているデータの中から在宅日に測定されたと判断されるデータを抽出する。例えば、記憶装置13にX日分のデータが記憶されていたとすると、各日毎に1日分のデータを合計して1日の総負荷電流量を求め、1日の総負荷電流量が大きい方からZ日分のデータを抽出する。これは、過去X日のうち、全く不在であった日数は(X−Z)日よりも少ないこと、換言すれば、居住者が電気機器の意図的な操作を行なったことがある日数は少なくともZ日あることを前提としている。Zは、このような観点から決定され、予め記憶装置13に記憶されている。例えばX日は14日、Z日は7日である。
【0036】
閾値決定手段15は、抽出したZ日分のデータに基づいて、各日別に、時間Ta毎に電流積分値を算出する。なお、ここでの電流積分値の算出は後述するステップS4での演算手段11による演算と同様である。また、電流積分値の算出に使用する評価時間Δtの値もステップS4の値と同一である。
【0037】
例えば、測定手段10による総負荷電流の測定が1分間隔で行なわれるとすると、記憶装置13には、1日分のデータとして60(分)×24(時間)=1440個のデータ(総負荷電流の測定値)が記憶され、さらにX日分のデータとして(1440×X)個のデータが記憶されている。そして、閾値決定手段15は各日毎に測定値を合計して1日の総負荷電流量を算出し、1日の総負荷電流量が大きい方からZ日分のデータを抽出する。これにより、電力需要家2の在宅日に測定されたと判断されるデータとして、Z日分の(1440×Z)個のデータが抽出される。抽出されたデータは記憶装置13に記憶される。
【0038】
次に、閾値決定手段15は、Z日分のデータを使用して、各日について、予め設定した時間Ta毎に電流積分値∫A(t')を算出する。なお、時間Taとして評価時間Δtと異なる時間(時間Ta≠評価時間Δt)を用いても良いし、同じ時間(時間Ta=評価時間Δt)を用いても良い。本実施形態では、例えば時間Ta=3分とする。
【0039】
閾値決定手段15は、記憶装置13に記憶された抽出データを使用して評価時間Δt内、即ち任意の時刻をTとすると時刻t=Tから時刻t=T+Δtまでの間のデータを積分して電流積分値∫A(t')を連続して算出する。即ち、電流積分値∫A(t')は時間Ta毎に連続して算出される。ここでは、データは測定手段10によって1分毎に測定されたものであり、測定値は次の測定まで(ここでは1分間)一定の値であるとして電流積分値∫A(t')が算出される。閾値決定手段15は評価時間Δt毎に電流積分値∫A(t')を求めるので、1日分として、480(=60分×24時間÷3分)個の電流積分値∫A(t')が求められる。そして、閾値決定手段15は、Z日分のデータについて(480×Z)個の電流積分値∫A(t')を求める。
【0040】
次に、閾値決定手段15は、算出した電流積分値∫A(t')を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる電流積分値∫A(t')の数が降順に並べられた電流積分値∫A(t')の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値Dとする。即ち、データ数をn個とすると「n×Y÷100」番目のデータの値をY%値とする。ここで、「n×Y÷100」の値が整数とならない場合は、「n×Y÷100」の値を例えば切り上げて用いる。ただし、切り上げに限るものではなく、小数部分を切り捨てても良いし、四捨五入しても良い。
【0041】
値Yは、過去の在宅の日のデータのうち、居住者の操作によって電気を使用していると確実に考えられる時間の割合[%]であり、居住者の操作によって電気を使用していると考えられる時間の割合よりも小さくなるように設定されている。本実施形態では、例えば15である。即ち、算出した電流積分値∫A(t')を降順に並べてその上位15%にあたるデータの値を活動電流閾値Dとする。ここでは、n=(480×Z)であるので、Y=15、Z=7であるとすると、「480×7×15÷100」=504であり、降順に並べた3360(=480×7)個のデータのうち、大きい方から504番目のデータの値(電流積分値∫A(t'))がY%値となり、この電流積分値∫A(t')を活動電流閾値Dとする。閾値決定手段15は、求めた活動電流閾値Dを記憶装置13に記憶させると共に、活動電流閾値Dを求めた日時を記憶装置13に記憶させる。
【0042】
ステップS3では、測定手段10が、電力需要家2内に配設された電気機器3による総負荷電流の測定を行う。ここで、測定手段10は、電力需要家2内に配設された電気機器3による総負荷電流、即ち、電力需要家2全体としての負荷電流を測定するものである。本実施形態では、電流計が用いられている。
【0043】
測定手段10は電力需要家2の引込線4の引込口の付近に設置される。このような構成を採ることにより、本発明の生活状況推定方法及びシステムを、電力需要家2内の屋内配線回路17に接続している複数の電気機器3による総負荷電流の合計を使用するもの、すなわち、電力需要家2内に配設された特定の電気機器3の情報は使用しない方法及びシステムとすることができる。
【0044】
測定手段10によって測定されて出力される電力需要家2の時刻tにおける総負荷電流A(t)は記憶装置13に記録される。
【0045】
次に、演算手段11が、ステップS3の処理によって得られる総負荷電流A(t)を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値∫A(t')の算出を行う(S4)。
【0046】
演算手段11は、記憶装置13に記録された総負荷電流A(t)を用いて評価時間Δt内、即ち任意の時刻をTとすると時刻t=Tから時刻t=T+Δtまでの間の総負荷電流A(t)を積分して電流積分値∫A(t')を連続して算出する。すなわち、電流積分値∫A(t')は評価時間Δt毎に連続して算出される。なお、本実施形態ではt'=t+Δt/2とする。そして、演算手段11は算出した電流積分値∫A(t')の値を記憶装置13に記憶させる。
【0047】
電流積分値∫A(t')を算出する際の総負荷電流A(t)の積分時間である評価時間Δtは、本実施形態における冷蔵庫3bやヒータ機能付温水便座3gのように居住者の操作によらずオンとオフとの状態遷移を自動的に繰り返す電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動の影響を排除して、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用による総負荷電流A(t)の変動を電流積分値∫A(t')の変動として顕著に現すための変数である。
【0048】
したがって、評価時間Δtは、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用がされている時の総負荷電流A(t)の変動と、されていない時の総負荷電流A(t)の変動との間の差が電流積分値∫A(t')の変動においてより顕著に現れるように設定される。
【0049】
また、電流積分値∫A(t')を算出する時間間隔である時間Taは、居住者による電気機器3の意図的な操作による総負荷電流A(t)の変動を見逃さない時間間隔に設定される。
【0050】
ここで、評価時間Δtの長短が電流積分値∫A(t')の変動に与える影響について説明する。本実施形態の電力需要家2について、居住者が終日不在の日と、午後1時40分から4時まで外出しその他の時間帯は在宅の日(以下、一時外出した日と呼ぶ)と、終日在宅の日との時刻tにおける総負荷電流A(t)のそれぞれについて評価時間Δtを1分とした場合即ち1分に亘って積分した場合の電流積分値∫A(t')の時刻変動の概念を図4から図6に示す。なお、本実施形態では、1分毎に測定される総負荷電流の瞬時値が1分後の次の測定時まで変化しないものとして時刻tにおける総負荷電流A(t)のデータが整備されている。
【0051】
図4中の符号rで示す比較的低い範囲で定期的に増減を繰り返している電流積分値∫A(t')の変動は冷蔵庫3bの待機稼働に起因するものである。また、符号tで示す定期的且つ瞬間的に増加する電流積分値∫A(t')の変動はヒータ機能付温水便座3gの待機稼働に起因するものである。
【0052】
すなわち、図4に示すように、居住者が終日不在であって居住者による電気機器3の意図的な操作がされない場合であっても、電力需要家2内の屋内配線回路17に接続している電気機器3のうち例えば冷蔵庫3bやヒータ機能付温水便座3gのように居住者が不在であっても稼働し続けて負荷電流を生じる電気機器3の待機稼働があるために電流積分値∫A(t')は変動する。そして、評価時間Δtが1分の場合には電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動においても顕著に現れる。
【0053】
そして、図5及び図6に示すように、評価時間Δtが1分の場合には、居住者が在宅しており居住者による電気機器3の意図的な操作が実際にはされているにもかかわらず、電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動もあるため、電気機器3の意図的な操作であって屋内での活動に伴って電気機器3が使用されることによる総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動としては顕著には現れない。
【0054】
続いて、本実施形態の電力需要家2について、居住者が終日不在の日と一時外出した日と終日在宅の日との総負荷電流A(t)のそれぞれについて評価時間Δtを30分とした場合の電流積分値∫A(t')の時刻変動の概念を図7から図9に示す。
【0055】
図7に示すように、評価時間Δtが30分の場合には、居住者が終日不在の日において、電気機器3の待機稼働による総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動としては平準化される。
【0056】
そして、図8や図9に示すように、評価時間Δtが30分の場合には、居住者が一時外出した日若しくは終日在宅の日において、居住者による電気機器3の意図的な操作であって屋内での活動に伴って電気機器3が使用されることによる総負荷電流A(t)の変動が電流積分値∫A(t')の変動(図中符号Aで示す)として顕著に現れるようになる。
【0057】
このように、総負荷電流A(t)を適切な評価時間Δtで積分して電流積分値∫A(t')とすることによって、電気機器3の待機稼働によるものであって居住者の電気機器3の意図的な操作によらない総負荷電流A(t)の変動を電流積分値∫A(t')においては平準化させることができると共に、これにより電気機器3の意図的な操作に起因する総負荷電流A(t)の変動を電気機器3の待機稼働に起因する総負荷電流A(t)の変動と区別して電流積分値∫A(t')の変動において顕著化させることができる。
【0058】
このように、評価時間Δtは、本実施形態におけるΔt=1分の場合のように適切な設定に対して短すぎると電気機器3の待機稼働に起因する総負荷電流A(t)の変動を平準化させることができないので居住者による電気機器3の意図的な操作に起因する総負荷電流A(t)の変動を電流積分値∫A(t')の変動において顕著化させることができず、一方、適切な設定に対して長すぎると居住者の活動が実際には活発であって前後の時間帯と比べて総負荷電流A(t)が高い値になっている変動が電流積分値∫A(t')としては平準化されてしまい居住者が実際に活動している時間帯が曖昧になってしまうおそれがある。
【0059】
評価時間Δtは、具体的には、3分から30分程度の範囲で設定することが好ましく、より好ましくは15分から30分程度の範囲で設定することであり、最も好ましくは30分程度に設定することである。しかしながら、評価時間Δtはこの範囲に限られるものではなく、3分より短くても良いし、30分より長くても良い。
【0060】
本実施形態では、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用がされている時の総負荷電流A(t)の変動とされていない時の総負荷電流A(t)の変動との間の差が電流積分値∫A(t')の変動においてより顕著になるように評価時間Δtを30分に設定している。
【0061】
次に、推定手段12が、ステップS4の処理によって得られる電流積分値∫A(t')を用いて電力需要家における居住者による電気機器の意図的な操作の有無の推定を行う(S5)。
【0062】
推定手段12は、ステップS4の処理において算出されて記憶装置13に記録された電流積分値∫A(t')の値と活動電流閾値Dの値とを比較する。
【0063】
活動電流閾値Dは、電力需要家2において居住者による電気機器3の意図的な操作が行われたか否かを判断するための閾値であり、ステップS2の実行により算出されて記憶装置13に記録されている。
【0064】
そして、推定手段12は、電流積分値∫A(t')の値が活動電流閾値D以下の値から活動電流閾値Dよりも大きな値に推移した場合には電力需要家2において居住者による電気機器3の意図的な操作が開始されたと判断する。
【0065】
一方、推定手段12は、電流積分値∫A(t')の値が活動電流閾値Dよりも大きな値から活動電流閾値D以下の値に推移した場合には電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作が終了したと判断する。
【0066】
本実施形態では、図7に示すように、居住者が終日不在の日における電流積分値∫A(t')は、活動電流閾値Dを超えることがない。
【0067】
そして、図8に示すように、居住者が一時外出した日については、夕方及び夜間において電流積分値∫A(t')が活動電流閾値Dを上回り(符号A)、当該時間帯において居住者による電気機器3の意図的な操作が行われたと推定される。
【0068】
また、図9に示すように、居住者が終日在宅の日については、昼間から夜間に亘って電流積分値∫A(t')が活動電流閾値Dを上回り(符号A)、当該時間帯において居住者による電気機器3の意図的な操作が行われたと推定される。
【0069】
さらに、本実施形態では、推定手段12がステップS5の処理によって得られる居住者による電気機器3の意図的な操作の有無の推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況の推定を行う(S6)。
【0070】
推定手段12は、ステップS5の処理において、居住者による電気機器3の意図的な操作が開始されたと推定した場合には居住者は在宅中であり且つ活動中であると判断してこの推定結果を表す情報として活動開始情報を出力する。
【0071】
一方、推定手段12は、ステップS5の処理において居住者による電気機器3の意図的な操作が終了したと推定した場合には居住者は在宅しているが活動停止中若しくは不在若しくは就寝中であると判断してこの推定結果を表す情報として活動終了情報を出力する。
【0072】
さらに、推定手段12は、例えば、昼間に活動終了情報を出力してから時間が経過した場合には居住者は不在であるとの推定結果を出力したり、夜間に活動終了情報を出力してから所定の時間が経過した場合には居住者は就寝中であるとの推定結果を出力したりする。
【0073】
ここで、本実施形態の生活状況推定システム1は、推定手段12が出力する活動開始情報や活動終了情報を外部の情報処理装置に送信する通知手段14を更に備え、推定手段12が出力するこれらの情報を利用して電力需要家2内で生活する居住者の安否を確認するようにしている。
【0074】
この場合、上述した生活状況推定方法及びシステムを居住者の安否確認方法及びシステムとして利用することができる。以下、この安否確認システムの対象となる電力需要家2の居住者のことを対象者と呼ぶ。
【0075】
この安否確認システムによれば、対象者が健常に生活しているか否かを対象者の家族や担当医師等が遠隔から確認することができるようになるので、対象者の生活安全性の向上に寄与する。したがって、この安否確認システムは、例えば一人暮らしの老人や身体障害者の世帯又は老人のみの世帯に設置される場合に特に有用である。
【0076】
外部の情報処理装置としては、例えば、対象者の安否確認を業として行う事業者(以下、安否確認事業者と呼ぶ)が運用するコンピュータ20(以下、安否情報管理手段20と呼ぶ)、または、対象者の家族や担当医師等が所有するパーソナルコンピュータ若しくは電話機や携帯電話機等の情報端末機21が用いられる。
【0077】
また、通知手段14と安否情報管理手段20と情報端末機21との相互間の通信には有線又は無線の通信回線及び通信プロトコル等の通信技術が用いられる。そして、通知手段14と安否情報管理手段20と情報端末機21とには採用された通信回線及び通信技術による通信を可能にするハードウェア並びにソフトウェアが実装される。
【0078】
安否情報管理手段20や情報端末機21は、これらが備える演算機能等により、活動終了情報を最後に受信した時刻から活動開始情報を受信しないまま経過した現時刻までの時間(以下、活動停止時間と呼ぶ)を算出すると共に算出された活動停止時間と予め定められた活動停止基準時間とを比較する。
【0079】
活動停止基準時間は、対象者の生活パターン等を考慮して適宜設定される。具体的には例えば、一日8時間程度の睡眠中に電気機器の意図的な操作は行われないことは通常であることを考慮して活動停止基準時間が9時間から12時間程度の間に設定されることが考えられる。または、対象者の生活パターンとして日中は外出する時間が長い場合や対象者の生活態様として電気機器の意図的な操作を頻繁には行わないことが通常である場合にはこれらの事情を考慮して活動停止基準時間が12時間から24時間程度の間に設定されることも考えられる。
【0080】
さらに、安否情報管理手段20や情報端末機21は、これらが備える演算機能等により、活動開始情報を最後に受信した時刻から活動終了情報を受信しないまま経過した現時刻までの時間(以下、活動継続時間と呼ぶ)を算出すると共に算出された活動継続時間と予め定められた活動継続基準時間とを比較する。
【0081】
活動継続基準時間は、対象者の生活パターン等を考慮して適宜設定される。具体的には例えば、対象者の生活態様として一日16時間程度の屋内での活動中電気機器が継続的に使用されることが通常である場合にはこれを考慮して活動継続基準時間が16時間から20時間程度の間に設定されることが考えられる。
【0082】
そして、安否情報管理手段20や情報端末機21は、活動停止時間が活動停止基準時間以上となる場合又は活動継続時間が活動継続基準時間以上となる場合に自身が備えるスピーカやディスプレイ等の出力装置に警告音や警告メッセージ等の警告情報を自動出力し、安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等に対して注意を促す。
【0083】
そして、警告情報を受信した安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等は対象者が寝たきりになっていたり屋内で倒れていたりする等の非常事態が発生している可能性があると判断し、例えば、安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等が対象者に電話連絡等をして安否確認を行ったり、安否確認事業者が対象者の家族や担当医師等に電話連絡等をして対象者の安否確認の依頼を行ったりする等の措置が施される。これにより、独居老人や老人のみ世帯等において非常事態が発生した場合にそのことが誰にも知られることなく事態がより悪化してしまうことを防ぐことが可能となり、独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性が確保される。
【0084】
この安否確認方法及びシステムによれば、電力需要家2内に配設された電気機器3自体に付加的な機能や装置を設けることなく、且つ、電力需要家2内に配設された特定の電気機器3の情報を必要とすることなく、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用の有無を判断することが可能であり、居住者が健常に生活しているか否かを推定することができる。したがって、安否確認システムの整備コストを低減することができ、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。さらに、本発明では、電力需要家2内に配設された特定の電気機器3の情報を使わずに居住者の健常性を推定するようにしているので、第三者から監視されている又は生活態様が知られてしまう等の意識を居住者が持つなどの不快感を与えることを防止することができる。したがって、システムの普及を促進して例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0085】
本発明では、電力需要家2についての総負荷電流の測定を複数日について行って在宅日に測定されたものであると判断されるデータを抽出し、抽出したデータを使用して電流積分値∫A(t')を算出し、算出した電流積分値∫A(t')を降順に並べてその上位Y%にあたる値を活動電流閾値Dとしているので、活動電流閾値Dをその電力需要家2の負荷パターンに応じた値にすることができ、しかも自動的に設定することができる。そのため、管理者が測定データを目視等して活動電流閾値Dを設定するという手間と経験が必要な作業を行なう必要がなくなり、例えば多数の電力需要家2を同時に推定の対象にする場合等であっても、各電力需要家2毎に適切な活動電流閾値Dを迅速に設定することができる。
【0086】
また、電力需要家2の負荷パターンは季節変化等に応じて変化するものであるが、本発明では活動電流閾値Dを自動的に設定することができるので、負荷パターンの変化に応じて活動電流閾値Dを適切な値に更新するのが容易である。
【0087】
さらに、活動電流閾値Dの設定を管理者が行なうとその管理者の主観によって設定値にばらつきが生じる虞があるが、本発明では活動電流閾値Dの設定を自動化することができるので、活動電流閾値Dの設定に人間の主観が入り込む余地がなくなり、常に一定の基準で活動電流閾値Dを設定することができる。
【0088】
また、活動電流閾値Dを設定する際、直近の測定データを使用することで活動電流閾値Dが電力需要家2の直近の負荷パターンに応じた値になり、電力需要家2の現状に沿った推定を行うことができる。ただし、使用するデータは必ずしも厳密に直近に測定したデータでなくても良い。推定に必要な程度に電力需要家2の負荷パターンを活動電流閾値Dに反映させることができれば、測定からある程度の時間が経過したデータを使用しても良い。
【0089】
本発明では、評価時間Δt、Z日、時間Ta、値Yを予め設定しておく必要がある。しかしながら、これらの値は電力需要家2の負荷パターンが例えば季節的に変化してもそのまま使用することができるものであり、システムの管理者等が負荷パターンを目視によって確認していちいち設定し直す必要はない。そのため、本発明による活動電流閾値Dの自動設定を妨げるものではない。
【0090】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0091】
例えば、上述の説明では、推定手段12が出力する活動開始情報や活動終了情報を通知手段14によって外部の情報処理装置である安否情報管理手段20や情報端末機21に送信して安否情報管理手段20や情報端末機21が安否判断するようにしているが、これに限られず、推定手段12によって安否判断まで行いこの判断結果の情報を通知手段14によって安否情報管理手段20や情報端末機21に送信するようにしても良い。この場合、推定手段12は、活動停止時間を算出してこの活動停止時間と予め定められた活動停止基準時間とを比較すると共に、活動継続時間を算出してこの活動継続時間と予め定められた活動継続基準時間とを比較する。そして、推定手段12は、活動停止時間が活動停止基準時間以上となる場合又は活動継続時間が活動継続基準時間以上となる場合に警告メッセージ等の警告情報を通知手段14に対して出力する。さらに、通知手段14は、この警告情報を安否情報管理手段20や情報端末機21に送信して安否確認事業者又は対象者の家族や担当医師等に対して注意を促す。
【0092】
また、上述の説明では、推定手段12は、電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を推定した後、この推定結果に基づいて電力需要家2の居住者の生活状況を推定するようにしていたが、必ずしもこの構成に限るものではなく、推定結果に基づいた電力需要家2の居住者の生活状況の推定は行なわなくても良い。この場合であっても、居住者による電気機器3の意図的な操作即ち屋内での活動に伴う電気機器3の使用の有無を判断することが可能であり、例えば独居老人や老人のみ世帯等の生活安全性の向上を図ることができる。
【0093】
さらに、本実施形態では、記憶装置13及び演算手段11を独立した装置として有する構成にしているが、場合によっては、これらの機能を安否情報管理手段20及び情報端末機21の双方又は一方に持たせる構成とすることも可能である。この場合には、測定手段10によって測定される総負荷電流A(t)を通知手段14によって安否情報管理手段20や情報端末機21に送信し、安否情報管理手段20や情報端末機21において電流積分値∫A(t')の算出や居住者による電気機器3の意図的な操作の有無の推定等を行うようにする。
【0094】
また、本実施形態においては、本発明の生活状況推定方法及びシステムが居住者の安否確認方法及びシステムとして利用される場合を前提とした例について主に説明したが、これに限られるものではなく、例えば、本発明により推定される居住者の生活パターンの情報を空調機器等の電気機器の学習に利用し、当該電気機器が当該学習に基いて居住者の生活パターンに適合した運転を行えるようにすることも可能である。
【0095】
また、上述の説明では、値Yを15としていたが、必ずしも15に限るものではない。判別に適した活動電流閾値Dを設定できるような値であれば良い。
【実施例1】
【0096】
在・不在を問わずに電力需要家2の総負荷電流を測定したデータの中から、在宅日に測定したデータを自動的に抽出できることを確認するための実験を行なった。実験には、ある1世帯について測定した132日分のデータを使用した。132日分のデータについて、日別に総負荷電流1日平均値[A]を算出し、在宅状況別に分類した。データ測定日の居住者の在宅状況は別途回収した居住者記載の在宅状況記入表に基づいて推定した。在宅状況として、「終日在宅」、「日中不在」、「夜間不在」、「終日不在」、「朝不在」に分類した。
【0097】
その結果を図10に示す。図10からも明らかなように、総負荷電流1日平均値は「終日不在」が最も小さく、在宅時間が長くなるのに応じて増加する傾向を示した。したがって、日別の総負荷電流の合計値(1日の総負荷電流量)が大きい方からZ日選択することで、在宅日に測定されたデータのみを抽出できる。
【実施例2】
【0098】
活動電流閾値Dを適切に設定することで、電力需要家2における居住者による電気機器3の意図的な操作の有無を判別できることを確認するための実験を行なった。実験は、ある2世帯(世帯A,世帯B)が旅行に出かけたときのデータを使用して行なった。旅行期間は、世帯Aが4日間、世帯Bが3日間であり、旅行前日から旅行最終日(帰宅日)のデータを使用した。評価時間Δt=15分,30分のそれぞれについて、値Y=1,2,3,5,10,15,20,25,30%とした場合について計算を行なった。
【0099】
その結果を図11〜図28に示す。各図は、時間によって変動する電流積分値と、各値Yに対応する活動電流閾値Dとの関係を示している。図11〜図15は世帯Aについて評価時間Δtを15分とした場合、図16〜図19は世帯Bについて評価時間Δtを15分とした場合、図20〜図24は世帯Aについて評価時間Δtを30分とした場合、図25〜図28は世帯Bについて評価時間Δtを30分とした場合である。値Yは、毎日、その前日までのX日(14日)のデータを使用してZ日(7日)を抽出して再計算している。
【0100】
世帯Aについては、旅行前日(図11,図20)の8時頃〜9時頃,12時頃〜13時頃,17時頃〜23時頃、旅行1日目(図12,図21)の7時頃〜10時頃、旅行4日目(帰宅日:図15,図24)の19時頃〜22時頃に電流積分値が増加している。また、世帯Bについては、旅行前日(図16,図25)の3時頃〜5時頃,8時頃〜23時頃、旅行1日目(図17,図26)の7時頃〜9時頃、旅行3日目(帰宅日:図19,図28)の20時頃〜23時頃に電流積分値が増加している。これらの増加部分は、居住者から別途回収した在宅状況記入表に記載されている在宅時と一致しており、居住者の意図的な電気機器3の使用を示していると言える。
【0101】
したがって、活動電流閾値Dを適切な値に設定することで、活動電流閾値Dとの比較によって居住者の意図的な電気機器3の使用を判別することができる。実験のケースでは、各図からも明らかなように、評価時間Δt=15分,30分のいずれについても、Y=20〜30%に対応するデータの値(Y%値)を活動電流閾値Dとして使用することで、居住者の意図的な電気機器3の使用を判別することが可能である。また,Y=10%,15%でも居住者の意図的な電気機器3の使用を判別することが概ね可能であるが,図19や図28の20時以降のデータ等からわかるように,居住者が旅行から帰宅して在宅しているにも関わらず,電流積分値が小さいために,居住者はいまだ不在と推定する可能性がある。
【実施例3】
【0102】
次に、実施例2により導き出された評価時間Δtと値Yとの組み合わせについて、より多くのデータを使用して評価を行なった。具体的には、Δt=15分の場合のY=10%,15%,20%、Δt=30分の場合のY=10%,20%とである。使用したデータは、延べ12軒、計1847日間についてのものである。
【0103】
評価は、実施例2により導き出されたΔtとYの組み合わせを使用した判定結果を在宅状況記入表の記載と比較することで行なった。その結果を表1に示す。
【表1】
【0104】
Δt=15分の場合、Y=20%では不在時に在宅と判断したケースがあった。Yを大きくすると、活動電流閾値Dは低くなるので、Yを20%以上にすると、不在時に在宅と誤判断するケースが増えると考えられ、判別精度が減少する。そのため、Yを20%未満とするのが妥当である。一方、Yを小さくすると活動電流閾値Dは高くなるので、Yを小さくし過ぎると、在宅時に不在と誤判断するケースが増加すると考えられる。これらのバランスより、実施例2ではΔt=15分の場合にはY=15%が適していると考えられる。
【0105】
また、Δt=30分の場合、Y=10%では「在宅時」に不在と誤判別するケースが多かった。一方、Y=20%では、Δt=15分,Y=15%の組み合わせとほぼ同等の結果が得られた。したがって、実施例2では、Δt=30分の場合にはY=20%が適していると考えられる。
【符号の説明】
【0106】
1 生活状況推定システム
2 電力需要家
3 電気機器
10 測定手段
11 演算手段
12 推定手段
15 閾値決定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定すると共に前記総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出し、活動電流閾値よりも前記電流積分値が大きいか否かによって前記電力需要家における居住者による前記電気機器の意図的な操作の有無を推定する生活状況推定方法であって、前記総負荷電流の測定を複数の日について行い、前記電力需要家の在宅日に測定されたと判断される前記総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に前記電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる前記電流積分値の数が前記降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を前記活動電流閾値にすることを特徴とする生活状況推定方法。
【請求項2】
電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定する測定手段と、前記総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、活動電流閾値よりも前記電流積分値が大きいか否かによって前記電力需要家における居住者による前記電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段とを有する生活状況推定システムであって、前記電力需要家の在宅日に測定されたと判断される前記総負荷電流の測定値と予め設定した時間Taと予め設定した値Yとを記憶している記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている前記総負荷電流の測定値を用いて、前記記憶手段に記憶されている前記時間Ta毎に前記電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、前記記憶手段に記憶されている前記値Yを用いて、「その値以上となる前記電流積分値の数が前記降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を前記活動電流閾値にする閾値決定手段とを備えることを特徴とする生活状況推定システム。
【請求項3】
少なくとも、記憶手段に予め記憶されている電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流の測定値を前記記憶手段に予め記憶されている時間Ta毎に前記記憶手段に予め記憶されている評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、前記記憶手段に予め記憶されている前記総負荷電流の測定値のうち、前記電力需要家の在宅日に測定されたと判断されるものを用いて、前記電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、前記記憶手段に予め記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる前記電流積分値の数が前記降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にする閾値決定手段と、前記閾値決定手段によって求められた前記活動電流閾値よりも前記演算手段によって算出された前記電流積分値が大きいか否かによって前記電力需要家における居住者による前記電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段としてコンピュータを機能させるための生活状況推定用プログラム。
【請求項1】
電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定すると共に前記総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出し、活動電流閾値よりも前記電流積分値が大きいか否かによって前記電力需要家における居住者による前記電気機器の意図的な操作の有無を推定する生活状況推定方法であって、前記総負荷電流の測定を複数の日について行い、前記電力需要家の在宅日に測定されたと判断される前記総負荷電流を用いて予め設定した時間Ta毎に前記電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、予め設定した値Yを用いて、「その値以上となる前記電流積分値の数が前記降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を前記活動電流閾値にすることを特徴とする生活状況推定方法。
【請求項2】
電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流を測定する測定手段と、前記総負荷電流を評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、活動電流閾値よりも前記電流積分値が大きいか否かによって前記電力需要家における居住者による前記電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段とを有する生活状況推定システムであって、前記電力需要家の在宅日に測定されたと判断される前記総負荷電流の測定値と予め設定した時間Taと予め設定した値Yとを記憶している記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている前記総負荷電流の測定値を用いて、前記記憶手段に記憶されている前記時間Ta毎に前記電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、前記記憶手段に記憶されている前記値Yを用いて、「その値以上となる前記電流積分値の数が前記降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を前記活動電流閾値にする閾値決定手段とを備えることを特徴とする生活状況推定システム。
【請求項3】
少なくとも、記憶手段に予め記憶されている電力需要家内に配設された電気機器による総負荷電流の測定値を前記記憶手段に予め記憶されている時間Ta毎に前記記憶手段に予め記憶されている評価時間Δtに亘って積分して電流積分値を算出する演算手段と、前記記憶手段に予め記憶されている前記総負荷電流の測定値のうち、前記電力需要家の在宅日に測定されたと判断されるものを用いて、前記電流積分値を算出すると共に、算出した電流積分値を降順に並べ、前記記憶手段に予め記憶されている値Yを用いて、「その値以上となる前記電流積分値の数が前記降順に並べられた電流積分値の総数に対してY%となる」値であるY%値を算出し、このY%値を活動電流閾値にする閾値決定手段と、前記閾値決定手段によって求められた前記活動電流閾値よりも前記演算手段によって算出された前記電流積分値が大きいか否かによって前記電力需要家における居住者による前記電気機器の意図的な操作の有無を推定する推定手段としてコンピュータを機能させるための生活状況推定用プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−39886(P2011−39886A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187996(P2009−187996)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
[ Back to top ]