説明

生活習慣病及び/又は癌の診断剤

【課題】生活習慣病及び/又は癌の診断、特に予後の予知及び再発の予知を可能とするようなマーカーを見出し、これを利用した生活習慣病及び/又は癌の診断剤及び検出方法を提供する。
【解決手段】ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を含む、生活習慣病及び/又は癌の診断剤であって、生活習慣病が肥満、インスリン抵抗性症候群、虚血性心疾患、又は炎症性疾患であり、生活習慣病が、糖尿病性網膜症、腹部大動脈瘤、狭心症、又は生活習慣が病態悪化に関与する皮膚筋炎、リウマチなどの膠原病を含む慢性疾患である。また癌が、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活習慣病及び/又は癌の診断剤、及び生活習慣病及び/又は癌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管形成は、血管から新たな毛細血管が形成されるプロセスであり、多数の因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)およびアンジオポエチンなど)が関与していることが知られている。アンジオポエチンは、血管新生活性、表皮細胞増殖活性、軟骨細胞増殖活性、創傷治癒促進活性、及び組織再生活性などを有することが示唆されている。
【0003】
癌に対する既知のマーカーはいずれも腫瘍抗原であるため、腫瘍抗原陽性のがんのサイズ(量)を反映し、がんの状況をサイズ(量)として推測するものである。しかしながら、実際にがんは原発巣のサイズ(量)とは関係なく進展し転移することが知られている。即ち、癌に対する既存のマーカーは何れも、病態発症及び進展機序と関連しているマーカーとは言えない。さらに、生活習慣病(例えば、肥満、インスリン抵抗性疾患、虚血性心疾患、又は炎症性疾患)に対するマーカーについても、早期診断及び予後予知が可能な新規なマーカーの同定が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 274, 26523-26528 1999
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci.102:13502-13507 2005
【非特許文献3】Cancer Res. 68:5067-5075 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生活習慣病及び/又は癌の診断、特に予後の予知及び再発の予知を可能とするようなマーカーを見出し、これを利用した生活習慣病及び/又は癌の診断剤及び検出方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒト血清又は血漿中のヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)をヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を用いて検出することによって生活習慣病及び/又は癌を診断できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1) ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を含む、生活習慣病及び/又は癌の診断剤。
(2) 生活習慣病が肥満、インスリン抵抗性症候群、虚血性心疾患、又は炎症性疾患である、(1)に記載の診断剤。
(3) 生活習慣病が、糖尿病性網膜症、腹部大動脈瘤、狭心症、又は生活習慣が病態悪化に関与する皮膚筋炎、リウマチなどの膠原病を含む慢性疾患である、(1)又は(2)に記載の診断剤。
(4) 癌が、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌である、(1)に記載の診断剤。
(5) 生活習慣病及び/又は癌の予後の予知及び/又は再発の予知のために用いる(1)から(4)の何れかに記載の診断剤。
(6) サンプルとヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を接触させ、サンプル中のヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)を検出又は測定することを含む、生活習慣病及び/又は癌の検出方法。
(7) 生活習慣病及び/又は癌の予後の予知及び/又は再発の予知を行う、(6)に記載の方法。
(8) サンプルが血清又は血漿である、(6)又は(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
癌の増大、進展、転移を考える上で、がん細胞自身の問題(種; Seed)とがん細胞が育つ環境の問題(土壌; Soil)の両方を考える必要がある。つまりがん細胞自身( Seed )から分泌される因子が、血管・リンパ管新生や白血球の呼び込みを誘導し、がんの増大、進展、転移に重要ながん細胞に有利な環境( Soil )形勢に寄与している。実際、血管新生因子VEGFに対する中和抗体を用いた血管新生制御による腫瘍の進展阻止の試みが臨床の場で開始され、生命予後の有意な改善が見られている。しかし、薬剤耐性やVEGF以外の血管新生因子の発現上昇など、がんにおける血管制御において新たな問題点が出現してきており、がんにおける血管・リンパ管新生の分子機構をさらに解明し腫瘍循環機構、環境( Soil )形勢機構を明らかにすることは重要不可欠であると考えられている。がんを除く疾患の診断、治療に多くのバイオマーカーの有用性が利用されている。急性心筋梗塞に対するCK-MBや、ナトリウム性利尿ペプチドとその関連ペプチドが心不全のバイオマーカーとして、また高感度CRPが動脈硬化や急性冠症候群の危険因子として広く利用されている。これらのバイオマーカーはそれぞれの病態発症機序と密接に関連していることが、バイオマーカーとしての意義付けを確固たるものにしている。その点を考えると、がんに対する既知のマーカーはいずれも腫瘍抗原であるため腫瘍抗原陽性のがんのサイズ(量)を反映するが、ANGPTL2はがんの増殖、浸潤、転移に重要な環境を形成する因子であるため、血清ANGPTL2濃度値測定はがん病態発症及び進展機序を基盤とする、がんの発症、進展と再発診断及び予後予知への新規のマーカーである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、アンジオポエチン様タンパク質の分子クローニングを示す。
【図2】図2は、血清ANGPTL2値と血漿ANGPTL2値との関係を示す。
【図3】図3は、血清ANGPTL2濃度と、高感度CRP値、インスリン値、及び肥満度(Body Mass Index;BMI)との関係を示す。
【図4】図4は、血清ANGPTL2濃度と、健常人、インスリン抵抗性を示す肥満病態群、及び虚血性心疾患との関係を示す。
【図5】図5は、血清ANGPTL2濃度と、高感度CRP値、インスリン抵抗性指標(HOMA-R)、内臓脂肪面積、及びインスリン感受性指標(M value)との関係を示す。
【図6】図6は、マウスの化学物質誘導皮膚癌におけるANGPTL2の発現を示す。
【図7】図7は、卵巣癌における血清ANGPTL2濃度値と、stage及び予後日数との関係を示す。
【図8】図8は、原発乳癌における腫瘍の大きさ、悪性度、転移の有無と血清ANGPTL2濃度値との関係を示す。
【図9】図9は、健常人と乳癌患者の血清ANGPTL2濃度値との関係を示す。
【図10】図10は、非浸潤癌(DCIS)、遠隔転移のない浸潤性乳癌(Invasive BC)、遠隔転移のある乳癌(Metastatic BC)における血清Angptl 2、CEA、CA15-3、NCCST439の陽性率を示す。
【図11】図11は、転移性乳癌における血清Angptl 2とCEAとの関係を示す。
【図12】図12は、転移性乳癌における血清Angptl 2とCA15-3との関係を示す。
【図13】図13は、乳癌のタイプ別の予後を示す。
【図14】図14は、Triple negative (TN)タイプの乳癌の予後を示す。
【図15】図15は、TN type原発乳癌における治療開始前Angptl2値と、予後、再発及び転帰を示す。
【図16】図16は、原発乳癌における血清Angptl 2と腫瘍特性の関係を示す。
【図17】図17は、同一症例における手術時と再発時の血清Angptl 2値の変化を示す。
【図18】図18は、同一症例での血清Angptl 2の変化を示す。
【図19】図19は、Angptl2遺伝子座の遺伝子ターゲッティングを示す。
【図20】図20は、血清Angptl2濃度とリウマチ関連因子を示す。
【図21】図21は、糖尿病性網膜症の有無と硝子体液におけるAngptl2濃度を示す。
【図22】図22は、ヒト腹部大動脈瘤病変部におけるANGPTL2の免疫染色を示す。
【図23】図23は、ヒト大動脈瘤病変部のマクロファージにおけるAngptl2の発現を示す。
【図24】図24は、ヒト大動脈瘤病変部の平滑筋の一部でのAngptl2の発現を示す。
【図25】図25は、遺伝子発現解析のための塩化カルシウム塗布によるマウス動脈瘤モデルの作成を示す。
【図26】図26は、塩化カルシウム塗布によるマウス動脈瘤モデルにおける瘤形成の過程でのAngptl2の発現を示す。
【図27】図27は、塩化カルシウム塗布によるマウス動脈瘤モデルにおけるAngptl2蛋白発現を示す。
【図28】図28は、冠攣縮性狭心症の患者背景を示す。
【図29】図29は、冠攣縮性狭心症と血清Angptl2を示す。
【図30】図30は、冠攣縮性狭心症患者における血清Angptl2値と高感度CRP値を示す。
【図31】図31は、冠攣縮性狭心症患者における冠動脈内皮機能と血清Angptl2値の相関を示す。
【図32】図32は、冠攣縮性狭心症患者における冠動脈内皮機能と高感度CRP値の相関を示す。
【図33】図33は、皮膚癌とAngptl2を示す。
【図34】図34は、化学的発癌誘発剤を用いた皮膚癌モデルの作成を示す。
【図35】図35は、Angptl2が持続発現している皮膚における化学的発癌剤による発癌への感受性の亢進を示す。
【図36】図36は、ヒト皮膚筋炎におけるAngptl2の発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(1)ヒトANGPTL2(図1)の濃度測定システムの開発
ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対するモノクローナル抗体を作製し、ELISAシステムを構築しヒトANGPTL2濃度を測定できるシステムを開発した。
【0011】
(2)ヒトANGPTL2濃度測定システムの生活習慣病、特に肥満、インスリン抵抗性、虚血性心疾患、炎症性疾患の早期診断及び予後予知への応用
上記で開発したシステムを用いて健常人100人で血清及び血漿でヒトANGPTL2濃度を測定し、血清ANGPTL2値と血漿ANGPTL2値が正の相関を示すことを見出した(図2)。健常人100人の血清ANGPTL2濃度の値が、高感度CRP値、インスリン値、肥満度(Body Mass Index;BMI)と正の相関をすることを見出した(図3)。また、インスリン抵抗性を示す肥満病態群で血清ヒトANGPTL2濃度を測定すると、健常人に比較して明らかに高値を示すことを見出した(図4)。さらにインスリン抵抗性を示す肥満病態群の血清ヒトANGPTL2濃度は高感度CRP値、インスリン抵抗性指標(HOMA-R)、内臓脂肪面積と正の相関、インスリン感受性指標(M value)と負の相関を示すことを見出した(図5)。さらに、虚血性心疾患を有する群で血清ヒトANGPTL2濃度を測定すると、健常人に比較して明らかに高値を示すことを見出した(図4)。これらの結果から、血清及び血漿ヒトANGPTL2濃度を測定することにより、生活習慣病、特に肥満、インスリン抵抗性症候群、虚血性心疾患、及び炎症性疾患の早期診断及び予後予知因子となることを見出した。
【0012】
(3)ヒトANGPTL2濃度測定システムのがんの発症、進展と再発診断及び予後予知への応用
ヒトの腫瘍組織を用いた免疫染色解析でANGPTL2が前立腺がん、大腸がん、卵巣がん、膵がん、腎臓がん、乳がん、肝細胞がん、肺がん、脳腫瘍に発現していることを見出した。また、マウスの化学物質誘導皮膚がんでANGPTL2の発現が出現し増加することを見出した(図6)。健常人100人に比較し、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝細胞癌、子宮癌の罹患群で血清ANGPTL2濃度の値が明らかに高値を示すことを見出した。また、卵巣癌においては血清ANGPTL2濃度値はstageが進む程高値を示し、生存期間が負の相関を示すことを見出した(図7)。また、乳癌においては原発乳癌で腫瘍の大きさ、悪性度、転移の有無と血清ANGPTL2濃度値が相関を示し、さらに再発症例で血清ANGPTL2濃度の値が明らかに高値を示すことを見出した(図8、9及び10)。既存の腫瘍マーカーに遜色ない陽性率を示したが原発性乳がんでは、どの既存のマーカーとも連関は示さず、新規のマーカーであることが示された(図10)。転移性癌では、CA-15-3と連関を示したが、CEAとは連関がなかった(図11及び12)。
【0013】
エストロゲン受容体(ER)陰性、 プロゲステロン受容体(PgR )陰性及びHER2陰性のTriple negative (TN)タイプの乳癌は、予後不良であることが知られている(図13及び14)。TNタイプの原発乳癌における治療開始前ANGPTL2濃度は、予後、再発及び転帰と相関を示した(図15)。また、ホルモン療法や分子標的薬ハーセプチンの効果のない乳がんで予後が悪いTNタイプの乳癌では血清ANGPTL2濃度の値が明らかに高値を示すことを見出した(図16)。実際、乳がんにおいては再発する時に血清ANGPTL2濃度の値が上昇する症例を認めている(図17及び18)。
【0014】
癌を除く疾患の診断、治療に多くのバイオマーカーの有用性が利用されている。急性心筋梗塞に対するCK-MBや、ナトリウム性利尿ペプチドとその関連ペプチドが心不全のバイオマーカーとして、また高感度CRPが動脈硬化や急性冠症候群の危険因子として広く利用されている。これらのバイオマーカーはそれぞれの病態発症機序と密接に関連していることが、バイオマーカーとしての意義付けを確固たるものにしている。その点を考えると、がんに対する既知のマーカーはいずれも腫瘍抗原であるため腫瘍抗原陽性のがんのサイズ(量)を反映するが、ANGPTL2はがんの増殖、浸潤、転移に重要な環境を形成する因子であるため、血清ANGPTL2濃度値測定はがん病態発症機序を基盤とする、前立腺がん、大腸がん、卵巣がん、膵がん、腎臓がん、乳がん、肝細胞がん、肺がん、脳腫瘍、皮膚がんなどのがんの発症、進展と再発診断及び予後予知への新規のマーカーである。
【0015】
本発明は、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を含む、生活習慣病及び/又は癌の診断剤;並びにサンプルとヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を接触させ、サンプル中のヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)を検出又は測定することを含む、生活習慣病及び/又は癌の検出方法に関する。
【0016】
ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)のアミノ酸配列及び塩基配列は公知であり、例えば、GenBankTM データベースに登録番号AF125175として登録されており、また、J. Biol. Chem. 274 (37), 26523-26528 (1999)に記載されている。従って、ANGPTL2タンパク質、及びそれをコードする遺伝子は当業者であれば容易に取得することができる。
【0017】
本発明は、ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を含む生活習慣病及び/又は癌の診断剤を提供する。本発明で用いるANGPTL2に対する抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、それらは当業者に公知の方法(例えば、「新生化学実験講座1,タンパク質I,389-406,東京化学同人」参照)により調製することが可能である。ANGPTL2はアミノ酸配列が前記のように公知であり、該アミノ酸配列に基づいて通常のタンパク質発現技術を用いて製造することができる。また、ANGPTL2の部分ペプチドは、ANGPTL2のアミノ酸配列から適当な部分配列を選択し、通常のペプチド合成技術を用いて製造できる。
【0018】
ANGPTL2に対するポリクローナル抗体の調製は、例えば、ウサギ、モルモット、マウス、ニワトリなどの動物に適量のANGPTL2タンパク質またはその部分ペプチドを投与する。投与は、抗体産生を促進するアジュバント(FIAやFCA)と共に行ってもよい。投与は、通常、数週間ごとに行う。免疫を複数回行うことにより、抗体価を上昇させることができる。最終免疫後、免疫動物から採血を行うことにより抗血清が得られる。この抗血清に対し、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、プロテインAや固定化抗原を用いたアフィニティー精製を行うことにより、ポリクローナル抗体を調製することができる。
【0019】
一方、ANGPTL2に対するモノクローナル抗体の調製は、例えば、ANGPTL2タンパク質もしくはその部分ペプチドを、上記と同様に動物に免疫し、最終免疫後、この免疫動物から脾臓またはリンパ節を採取する。この脾臓またはリンパ節に含まれる抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコールなどを用いて融合し、ハイブリドーマを調製する。目的のハイブリドーマをスクリーニングし、これを培養し、その培養上清からモノクローナル抗体を調製することができる。モノクローナル抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、プロテインAや固定化抗原を用いたアフィニティー精製により行うことができる。尚、本発明の目的のためには、抗体はANGPTL2のいかなるエピトープを認識するものであってもよい。
【0020】
また、本発明では、上記した抗体の断片を使用してもよい。抗体の断片としては、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント等が挙げられる。
【0021】
診断剤としての正確性のためには、ANGPTL2に対する抗体はヒト型抗体もしくはヒト抗体であってもよい。ヒト型抗体は、例えば、マウス-ヒトキメラ抗体であれば、ANGPTL2タンパク質に対する抗体を産生するマウス細胞から抗体遺伝子を単離し、そのH鎖定常部をヒトIgE H鎖定常部遺伝子に組換え、マウス骨髄腫細胞に導入することにより調製できる。また、ヒト抗体は、免疫系をヒトと入れ換えたマウスにANGPTL2タンパク質を免疫することにより調製することが可能である。
【0022】
本発明の診断剤には、上記ANGPTL2に対する抗体の他に、必要に応じて薬学的に許容される担体等を適宜含有させることができる。
【0023】
本発明の診断剤で診断できる生活習慣病の種類は特に限定されないが、例えば、肥満、インスリン抵抗性症候群、虚血性心疾患、又は炎症性疾患を挙げることができる。生活習慣病の具体例としては、糖尿病性網膜症、腹部大動脈瘤、狭心症、又は生活習慣が病態悪化に関与する皮膚筋炎、リウマチなどの膠原病を含む慢性疾患を挙げることができる。
【0024】
本発明の診断剤で診断できる癌の種類は特に限定されず、良性腫瘍及び悪性腫瘍の全てを包含する。悪性腫瘍である癌の具体例としては、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝癌(肝臓癌)、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、腎臓癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌であり、さらに好ましくは乳癌又は卵巣癌であり、特に好ましくは乳癌である。
【0025】
本発明はさらに、サンプルとヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を接触させることを含む、生活習慣病及び/又は癌の検出方法を提供する。本発明において、サンプルは、生活習慣病及び/又は癌に罹患しているおそれのある被験者から得られる組織、血清、血漿、唾液、尿等が挙げられるが、特に好ましくは血清又は血漿である。サンプルと上記抗体との接触は、当分野において通常行われている方法に基づいて行えばよく、特に限定するものではない。診断は、例えばサンプルと上記抗体との接触の後、サンプル中に存在し得るANGPTL2に対する抗体との特異的結合を、蛍光物質や発光物質、酵素等で標識した二次抗体等を使用して定量的に検出することにより行うことができる。また、診断のための反応をウェル等の液相中で行ってもよく、あるいはANGPTL2に対する抗体を固定した固相支持体上で行ってもよい。この場合、生活習慣病及び/又は癌に罹患していない正常なサンプル、あるいは生活習慣病及び/又は癌であることが判明しているサンプルを用いて予め作製した標準値と比較することによって、測定された値が生活習慣病及び/又は癌として陽性であるか否かを判定することができる。また、診断の際には、多数の生活習慣病及び/又は癌の患者と健常人の血清又は血漿中のANGPTL2の量を測定して、カットオフ値を設定することができる。
【0026】
ANGPTL2に対する抗体を用いて、サンプル中のANGPTL2を免疫学的に検出する方法の具体例としては、サンドイッチELISA等の酵素免疫測定法(EIA)、又は放射性免疫測定法(RIA)などがあり、これらの技術は当業者に周知である。例えば、サンドイッチELISAでは、抗原認識部位の異なる2種類の抗体を用意し、一方の抗体はプレートに吸着させておく。サンプルをプレートに接触させて反応を行い、さらに抗原認識部位の異なる他方の抗体を反応させ、さらにペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素で標識した抗イムノグロブリン抗体を反応させる。酵素により発色する基質を添加して発色反応させた後、分光光度計により発色強度を測定することにより、サンプル中のANGPTL2の検出または測定を行うことができる。また、放射性免疫測定法では、酵素でなく125I等の放射性物質で標識した抗体を用いて、酵素免疫測定法と同様の操作を行い、シンチレーションカウンターで放射線を測定する。
【0027】
本発明の検出方法は、生活習慣病及び/又は癌に罹患しているか否かの診断に用いることができる他、生活習慣病及び/又は癌に対する治療の効果を確認するために経時的に行うこともできる。例えば、本発明の検出方法は、生活習慣病及び/又は癌の予後の予知及び/又は再発の予知のために用いることができる。
【0028】
本発明はさらに、ANGPTL2に対する抗体を含む、生活習慣病及び/又は癌の診断のためのキットを提供する。本発明のキットには、上記したANGPTL2に対する抗体が少なくとも含まれ、その他に、サンプル中のANGPTL2を検出するのに必要な試薬(例えば、二次抗体、発色試薬、緩衝液など)を適宜含めることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:
(実験方法)
(1−1)組み換えAngptl2タンパク質の精製
組み換えマウス及びヒトAngptl2タンパク質は、Cancer Res 63:6651-6657 2003、Blood 103:3760-3766 2004、及びProc. Natl. Acad. Sci.102:13502-13507 2005の記載に従って精製した。即ち、FLAG エピトープのN末端に融合させたAngptl2コード領域をpCEP4 (Invitrogen, Groningen, the Netherlands)にサブクローニングした。HEK293細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したDulbecco's改変イーグル培地(DMEM) (Sigma, St Louis, MO)中で5% CO2で37℃で培養し、Fugene-6 (Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いてpCEP4-Angptl2をトランスフェクションした。細胞を300 mg/mLのハイグロマイシンB (GIBCO-BRL, Gaithersburg, MD)を用いて5日間選択し、条件培地を回収し、0.22 mmフィルター(Millipore, Bedford, MA)を用いてろ過した。Angptl2タンパク質を精製するために、条件培地を抗FLAG抗体(M2)アフィニティーゲル(Sigma)に移した。ゲルをリン酸緩衝液(PBS)で洗浄後、Gly-HCl (pH 3.0)を添加することによってタンパク質を溶出させ、直ちにTris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)塩酸 (pH 8.0)で中和した。タンパク質は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)でクマシーブリリアントブルー染色(CBB)(Wako, Osaka, Japan)を行うことにより、そして西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗FLAG抗体(M2) (1:200) (Sigma)及び抗Angptl2 抗体を用いたウエスタンブロットにより可視化した。マウスAngptl2と同じ配列であるhuman Angptl2の383番目から400番目のアミノ酸に対応する合成ペプチド(SFRLEPESEYYKLRLGRY)(配列番号1)をウサギに免疫することによって抗体を作製した。
【0030】
(1−2)Angptl2遺伝子座の遺伝子ターゲッティング(図19)
(a)は、野生型Angptl2遺伝子座、ターゲッティングベクター、及び相同組み換え後の変異体アレルを示す。エクソン及びハイブリダイゼーションプローブは、白四角及び黒四角でそれぞれ示す。E, S及びHはそれぞれEcoRI, SpeI及びHindIII制限酵素部位を示す。(b)は、相同組み換えを有するES細胞からのゲノムcDNA(b)をSpeI消化後、(a)に示したプローブを用いてサザンブロット分析した結果を示し、(c)は、ヘテロ接合体の子孫の尾ゲノムDNAをSpeI消化後、(a)に示したプローブを用いてサザンブロット分析した結果を示す。野生型及び変異型アレルに対応する9.0及び12.5 kbのバンドを各々示す。(d)は脂肪組織のノザンブロットを示す。Angptl2のmRNAのシグナルはAngptl2+/- 及び野生型対照マウスで検出された。
【0031】
(1−3)抗ヒトAngptl2モノクローナル抗体
組み換えヒトAngptl2に対するマウスモノクローナル抗体をBlood 105:4649-4656 2005の記載に従って作製した。即ち、6週齢のAngptl2ノックアウトマウスに、Freundの完全アジュバント(Difco, Detroit, MI)中の100 mg のヒトAngptl2 タンパク質を4週間に渡って毎週皮下免疫した。4日後、脾臓細胞を回収し、マウスミエローマX63 Ag8 6.5.3細胞(ATCC, Manassas, VA)と融合した。50 ng/mlのヒトAngptl2タンパク質を被覆したマイクロプレートを用いて、未希釈のハイブリドーマ上清をスクリーニングした。陽性のハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングした。マイクロプレートは先ず、モノクローナルハイブリドーマ由来の未希釈の条件培地と一緒にインキュベートした。ヒトAngptl2タンパク質と陽性反応するハイブリドーマを選択するために、結合を、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ヤギ抗ラットIgG抗体(Biosource, Camarillo, CA)によって検出した。プレートに結合した酵素活性を、o-フェニレンジアミン(OPD)色原体(Sigma)によって検出し、各ウエル中のサンプルの吸光度をマイクロプレートリーダー(Benchmark Plus; Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて測定した。選択したクローンを大量培養して、モノクローナル抗体は、抗マウスIgG抗体を被覆したアガロースビーズを用いて精製した。
【0032】
(1−4)ヒト血清中のAngptl2に対するELISA
2種の抗Angptl2モノクローナル抗体を二重抗体サンドイッチELISAに用いて、ヒトAngptl2を検出した。K2-1A1マウスモノクローナル抗体を96穴プレートに固定した。10倍に希釈した血清試料をプレート上に37℃で1時間固定した後、0.05% Tween20を含むPBS (PBST)で洗浄し、西洋ワザビペルオキシダーゼ(HRP)標識K1-12A4マウスモノクローナル抗体を添加した。1時間4℃でインキュベートした後、プレートをPBSTで洗浄し、HRP
のための検出試薬TMB plusを添加した。30分後、等量の1N H2SO4を添加して反応を停止し、450nmでの吸光を測定した。
【0033】
(結果)
(2−1)ANGPTL2値による生活習慣病の診断・検出
上記(1−4)に記載したELISAにより、健常人100人で血清及び血漿でヒトANGPTL2濃度を測定した結果を図2に示す。その結果、血清ANGPTL2値と血漿ANGPTL2値が正の相関を示すことが分かった(図2)。
【0034】
また、健常人100人の血清ANGPTL2濃度の値と、高感度CRP値、インスリン値、肥満度(Body Mass Index;BMI)との関係を調べた結果を図3に示す。その結果、血清ANGPTL2濃度の値と、高感度CRP値、インスリン値、肥満度(Body Mass Index;BMI)は、正の相関を示すことが分かった。
【0035】
また、インスリン抵抗性を示す肥満病態群及び虚血性心疾患を有する群で、血清ヒトANGPTL2濃度を測定した結果を図4に示す。その結果、血清ヒトANGPTL2濃度は、何れの群においても健常人に比較して明らかに高値を示すことが分かった。さらにインスリン抵抗性を示す肥満病態群において、血清ヒトANGPTL2濃度と、高感度CRP値、インスリン抵抗性指標(HOMA-R)、内臓脂肪面積及びインスリン感受性指標(M value)を調べた結果を図5に示す。その結果、血清ヒトANGPTL2濃度とは、高感度CRP値、インスリン抵抗性指標(HOMA-R)、内臓脂肪面積と正の相関、インスリン感受性指標(M value)と負の相関を示すことが判明した。
【0036】
これらの結果から、血清及び血漿ヒトANGPTL2濃度を測定することにより、生活習慣病、特に肥満、インスリン抵抗性症候群、虚血性心疾患、及び炎症性疾患の早期診断及び予後予知因子となることを見出した。
【0037】
(2−2)ANGPTL2値によるm癌の発症、進展及び再発の診断並びに予後予知
ヒトの腫瘍組織を用いた免疫染色解析でANGPTL2が前立腺癌、大腸癌、卵巣癌、膵癌、腎臓癌、乳癌、肝細胞癌、肺癌、脳腫瘍で発現していることが見出した。
【0038】
また、正常皮膚及びマウスの化学物質誘導皮膚癌について、ANGPTL2の発現をmRNA及びタンパク質レベルで調べた結果を図6に示す。その結果、マウスの化学物質誘導皮膚癌において、ANGPTL2の発現が増加することを分かった。
【0039】
健常人100人と比較した結果、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝細胞癌、子宮癌の罹患群で血清ANGPTL2濃度の値が明らかに高値を示すことを見出した。
【0040】
また、卵巣癌における血清ANGPTL2濃度値と、stage及び予後日数との関係を調べた結果を図7に示す。その結果、卵巣癌においては血清ANGPTL2濃度値はstageが進む程高値を示し、生存期間が負の相関を示すことがわかった。
【0041】
さらに、原発乳癌における腫瘍の大きさ、悪性度、転移の有無と血清ANGPTL2濃度値との関係を調べた結果を図8に示し、健常人と乳癌患者の血清ANGPTL2濃度値との関係を調べた結果を図9に示し、非浸潤癌(DCIS)、遠隔転移のない浸潤性乳癌(Invasive BC)、遠隔転移のある乳癌(Metastatic BC)における血清Angptl 2、CEA、CA15-3、NCCST439の陽性率を測定した結果を図10に示す。その結果、乳癌においては原発乳癌で腫瘍の大きさ、悪性度、転移の有無と血清ANGPTL2濃度値が相関を示し、さらに再発症例で血清ANGPTL2濃度の値が明らかに高値を示すことが分かった。既存の腫瘍マーカーに遜色ない陽性率を示したが原発性乳がんでは、どの既存のマーカーとも連関は示さず、新規のマーカーであることが示された(図10)。また、転移性乳癌における血清Angptl 2とCEAとの関係を図11に示し、転移性乳癌における血清Angptl 2とCA15-3との関係を図12に示す。その結果、転移性癌では、CA-15-3と連関を示したが、CEAとは連関がなかった。
【0042】
乳癌のタイプ別の予後を図13に示し、Triple negative (TN)タイプの乳癌の予後を図14に示す。その結果、エストロゲン受容体(ER)陰性、 プロゲステロン受容体(PgR )陰性及びHER2陰性のTriple negative (TN)タイプの乳癌は、予後不良であることが分かった。
【0043】
また、TNタイプの原発乳癌における治療開始前ANGPTL2濃度と、予後、再発及び転帰との関係を調べた結果を図15に示す。その結果、TNタイプの原発乳癌における治療開始前ANGPTL2濃度は、予後、再発及び転帰と相関を示した。
【0044】
原発乳癌における血清Angptl 2と腫瘍特性の関係を図16に示す。その結果、 ホルモン療法や分子標的薬ハーセプチンの効果のない乳がんで予後が悪いTNタイプの乳癌では血清ANGPTL2濃度の値が明らかに高値を示すことが分かった。
【0045】
また、乳癌においては再発する時に血清ANGPTL2濃度の値が上昇する症例として、同一症例における手術時と再発時の血清Angptl 2値の変化を図17に示し、同一症例での血清Angptl 2の変化を図18に示す。
【0046】
実施例2:関節リウマチとangptl2
人工膝関節置換術を施行した関節リウマチ(rheumatoid arthritis ; RA)患者より血清を採取し、IBL社製Human angiopoietin like2測定キットを用い、ELISA法にてAngptl2濃度を測定した。対象となった患者より、それぞれ臨床データ(リウマトイド因子;RF、CRP、血液沈降速度;ESR)を調査し、測定したAngptl2との相関を解析した。また、患者それぞれの圧通関節数(tender joint count ; TJC)、腫脹関節数(swollen joint count ; SJC)、Visual Analogue Scale(VAS)よりDisease Activity Score 28 (DAS28)を算出し、測定したAngptl2との相関を解析した。DAS28の計算式は以下の通り。
DAS28-ESR = 0.555×√(TJC)+0.284×√(SJC)+0.7×LN(ESR)+0.0142×(VAS)
DAS28-CRP = 0.555×√(TJC)+0.284×√(SJC)+0.36×LN((CRP)×10+1)+0.0142×(VAS)+0.96
TJC: tender joints count
SJC: swollen joints count
E: ESR(mm/hr)
C: CRP(mg/dl)
VAS: Visual analogue scale(患者によるGeneral Health:0-100mm)
LN: 自然対数
【0047】
結果を図20に示す。血清Angptl2値はRA関連因子(DAS28-ESR、DAS28-CRP)と正の相関を示す傾向にある(N=12)。これらの結果より、血清Angptl2値はRA関連因子と相関する傾向にあり、RAの病態を反映していると考えられ、RAの診断および経過フォローアップに活用できると考えられる。
【0048】
実施例3:糖尿病性網膜症の有無と硝子体液におけるAngptl2濃度
糖尿病性網膜症患者8人の患者から採取した硝子体液各1μlを10倍希釈してELISAにてAngptl 2を測定した。
結果を図21に示す。糖尿病性網膜症をもつ患者は、もたない患者と比較して硝子体液におけるAngptl2濃度が高値である。硝子体液中のAngptl2は糖尿病性網膜症を反映していると考えられ、糖尿病性網膜症の診断および経過フォローアップに活用できると考えられる。
【0049】
実施例4:腹部大動脈瘤とAngptl2
図22は、腹部大動脈瘤患者の瘤壁の病理標本をANGPTL2で、免疫染色をおこなった結果を示す。動脈瘤の部分に浸潤してきた炎症細胞や、変性した平滑筋と思われる部分に、Angptl2の発現を認めた。正常な血管壁では、血管内皮以外ではAngptl2の発現は認めなかった
図23は、腹部大動脈瘤患者の瘤壁の病理標本においてマクロファージのマーカーであるCD68とANGPTL2で蛍光二重免疫染色した結果を示す。両者の結果は一致した。
【0050】
図24は、血管平滑筋のマーカーであるα-SMAとANGPTL2で蛍光二重免疫染色した結果を示す。両者の結果は一致した。
塩化カルシウム法を用いてマウス腹部大動脈モデルを作成した。図25はその作成プロトコールを示す。
【0051】
図26は、マウス腹部大動脈瘤モデルにおいて、リアルタイムPCR法を用いて、遺伝子発現の経時的変化をみた結果を示す。TNFαやIL1-β、IL-6といった、急性炎症を示す遺伝子は術後早期に発現し、すみやかに消退しているのに対し、Angptl2は持続的(慢性的)に高値であり、Mφ(CD68)の動きと類似している。
図27は、マウス腹部大動脈瘤モデルにおいて、ウエスタンブロット法を用いて、蛋白発現を確認した結果を示す。
【0052】
腹部大動脈瘤の形成には、慢性炎症が病態の鍵因子であることが従来より指摘されているが、Angptl2は腹部大動脈瘤の形成に関与していると考えられる。したがって、血清Angptl2測定は、腹部大動脈瘤の診断及び瘤の大きさのフォローアップに活用できると考えられる。
【0053】
実施例5:冠攣縮性狭心症と血清Angptl2
図28は、患者背景を示す。control群で女性が多い傾向にあるが、冠危険因子である耐糖能障害、血圧、脂質代謝、腎機能については両群間に有意はない。喫煙は、有意差はないもののCSA群で多い傾向にある。慢性炎症の指標である、高感度CRPは、冠攣縮性狭心症群(CSA)で高い傾向にある。
図29は、血清Angptl2値の測定結果を示す。血清Angptl2値は、冠攣縮性狭心症群で上昇していた。
【0054】
図30は、冠攣縮性狭心症患者における血清Angptl2値と高感度CRP値を示す。正に相関する傾向にある。
図31は、冠攣縮性狭心症患者における冠動脈内皮機能と血清Angptl2値の相関を調べた結果を示す。冠動脈内皮機能が低いと血清Angptl2値が高い傾向にある。
図32は、冠攣縮性狭心症患者における冠動脈内皮機能と高感度CRP値の相関を調べた結果を示す。冠動脈内皮機能と高感度CRP値は相関しない。
【0055】
冠攣縮性狭心症患者あるいは血管内皮障害を持つ患者においては、血清Angptl2値が病態を反映していると考えられる。したがって、血清Angptl2は冠攣縮性狭心症及び血管内皮障害の診断、経過フォローアップに活用できると考えられる。
【0056】
実施例6:皮膚癌とAngptl2
図33は、皮膚癌とAngptl2を示す。上から順にSCC(扁平上皮癌)腫瘍部分、腫瘍部分から1cm離れた切除断端部、腫瘍から3cm以上離れた正常部を示す。左がH.E.染色、右がAngptl2免疫染色。使用抗体はAngptl2ポリクローナル抗体(383)。オートクレーブ賦活。撮影条件x100、腫瘍部位にてAngptl2が陽性である。
【0057】
ケラチノサイトにてangptl2を過剰発現するトランスジェニックマウス(K14)を用いて、化学発癌誘導剤を用いて発癌実験を行った。図34は、そのプロトコールについて示す。
【0058】
図35は、Angptl2が持続発現している皮膚における化学的発癌剤による発癌への感受性の亢進を調べた結果を示す。ケラチノサイトにてangptl2を過剰発現するマウスの皮膚では、化学発癌誘導剤による発癌が通常マウスと比較して亢進していた。
皮膚癌の発症にAngptl2の誘導が関与していると考えられ、皮膚癌の診断及び経過フォローアップにAngptl2が活用されると考えられる。
【0059】
実施例7:皮膚筋炎とAngptl2
図36は、皮膚筋炎患者の皮膚および横紋筋においてAngptl2免疫染色(ポリクローナル抗体(383):100倍希釈)を行った結果を示す。皮膚筋炎患者の皮膚においてAngptl2は発現しており、Angptl2は皮膚筋炎の診断および経過フォローアップに活用できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
日本人の疾病による死因の一位はがんである。ヒトANGPTL2濃度測定システムの開発により、がん患者でANGPTL2濃度をFOLLOW UPすることによりがんの進展、転移、再発が迅速に予想でき、医療費の削減に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を含む、生活習慣病及び/又は癌の診断剤。
【請求項2】
生活習慣病が肥満、インスリン抵抗性症候群、虚血性心疾患、又は炎症性疾患である、請求項1に記載の診断剤。
【請求項3】
生活習慣病が、糖尿病性網膜症、腹部大動脈瘤、狭心症、又は生活習慣が病態悪化に関与する皮膚筋炎、リウマチなどの膠原病を含む慢性疾患である、請求項1又は2に記載の診断剤。
【請求項4】
癌が、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、肝癌、子宮癌又は皮膚癌である、請求項1に記載の診断剤。
【請求項5】
生活習慣病及び/又は癌の予後の予知及び/又は再発の予知のために用いる請求項1から4の何れかに記載の診断剤。
【請求項6】
サンプルとヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)に対する抗体を接触させ、サンプル中のヒトアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)を検出又は測定することを含む、生活習慣病及び/又は癌の検出方法。
【請求項7】
生活習慣病及び/又は癌の予後の予知及び/又は再発の予知を行う、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
サンプルが血清又は血漿である、請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate


【公開番号】特開2010−151800(P2010−151800A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254820(P2009−254820)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(399032282)株式会社 免疫生物研究所 (14)
【Fターム(参考)】