説明

生澱粉糊およびその製造方法

【課題】成分が分離し難く、被着材に塗布するまで適切な粘度を有している生澱粉糊を安価に提供する。
【解決手段】小麦澱粉である生沈、生麩を含有し、さらにトレハロースを含有する生澱粉糊、および、水分を40〜50重量%含有した生沈を6.0〜15.0重量%となるように添加する生沈添加工程Aと、水分を40〜50重量%含有した生麩を3.4〜8.5重量%となるように添加する生麩添加工程Bと、トレハロースを0.2〜0.4重量%となるように添加するトレハロース添加工程Cと、を有する生澱粉糊の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦澱粉を使用した生澱粉糊およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糊は、化学的作用および機械的作用で紙などの被着材に結合し、さらに糊自身も固まって丈夫な膜を形成することで被着材どうしを結合させている。化学的作用は、例えば当該被着材が紙である場合は、紙の成分であるセルロース中の水酸基と糊が有する水酸基とが水素結合するものである。一方、機械的作用では、糊が紙の内部に入り込んで固まり、固まった糊が所謂アンカーとなって物理的に紙および糊を結合させる。
【0003】
糊の態様としては、上述した被着材と化学的・機械的作用を及ぼすことができるほか、被着材である紙の表面に染み込ませたり、当該表面の凹部を埋めることができるように、ある程度の粘度を有する液状であるものが汎用されている。このような物性を有する糊の原料としては、澱粉・ポリビニールアルコール・ポリビニルピロリドン等が公知である。
【0004】
澱粉糊は、天然(植物)由来の澱粉を主成分とする糊であり、被着材への塗布後に水分が蒸発する過程を経て硬化・接着する。当該澱粉糊は、安価で使い易く、安全性が高い点から、特に紙の接着でよく使われる。
【0005】
例えば、特許文献1,2には、澱粉糊を段ボール用の糊として使用することが記載されている。特許文献1では、例えば小麦澱粉を主原料とし、澱粉に対してグラフト共重合化処理を行った澱粉糊を使用している。また、特許文献2では、例えば小麦澱粉を酸化処理や酵素処理によって低粘度化した澱粉糊を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−11982号公報
【特許文献2】特公昭61−13511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被着材の種類や塗布する部位によって、使用する糊を適切に選択することは重要である。
例えば紙などの被着材どうしを澱粉糊で貼り合わせる際に、互いにフラットな表面を有する被着材どうしを貼り合わせる場合と、少なくとも何れか一方の表面に凹凸な面を有する被着材どうしを貼り合せる場合とでは、粘度の異なる澱粉糊を使い分けるとよい。
即ち、後者の場合(被着材の表面に凹凸面を有する)において、粘度の低い澱粉糊を使用した方が被着材の表面の凹凸に澱粉糊が浸入し易いため、確実な貼り合わせを迅速に行なうことができる。そのため、澱粉糊が有する粘度は重要な因子である。
【0008】
澱粉糊を製造して暫く経過した後、特に冬場の低温時には糊の成分や水が分離する場合がある。このような場合、澱粉糊の粘度や接着特性が変化して澱粉糊の本来の接着力が得られない虞がある。このような事態を避けるためには澱粉糊を攪拌して分離した成分を再び均一に混合する必要があり、当該澱粉糊の品質の管理に手間を要していた。
【0009】
澱粉糊を使用して所望の貼合状態および接着力を得るためには、当該澱粉糊を製造してから被着材に塗布するまでに、当該澱粉糊の成分や糊に含まれる水が分離せず、適切な粘度を有していることなどが求められる。
【0010】
従って、本発明の目的は、成分が分離し難く、被着材に塗布するまで適切な粘度を有している生澱粉糊を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[4]に示す発明を提供する。
[1]小麦澱粉である生沈、生麩を含有し、さらにトレハロースを含有する生澱粉糊。
[2]前記生沈の固形分を2.4〜7.5重量%、前記生麩の固形分を1.4〜4.2重量%、トレハロースを0.2〜0.4重量%含有し、さらに、水を85〜96重量%含有する上記[1]に記載の生澱粉糊。
[3]前記生沈の平均粒子径が25〜40μm、前記生麩の平均粒子径が2〜10μmである上記[1]又は[2]に記載の生澱粉糊。
[4]水分を40〜50重量%含有した生沈を6.0〜15.0重量%となるように添加する生沈添加工程と、水分を40〜50重量%含有した生麩を3.4〜8.5重量%となるように添加する生麩添加工程と、トレハロースを0.2〜0.4重量%となるように添加するトレハロース添加工程と、を有する生澱粉糊の製造方法。
【0012】
上記[1]〜[3]の構成のように本発明の生澱粉糊では、当該生澱粉糊の原料として小麦の生澱粉である生沈および生麩を含有している。生沈および生麩は小麦粉から抽出した生澱粉である。即ち、生沈および生麩は、加工澱粉のように乾燥(加熱)、酸化、酵素処理などの加工処理を行なっていないため、安価に入手することができる。また、生沈および生麩はある程度の水分を含んでおり、さらに当該加工処理を行わないため澱粉の高分子重合体構造を維持しているため、これら生沈および生麩を含む本発明の生澱粉糊は、増粘特性に優れている。
【0013】
さらに、本願の生澱粉は二糖類の一種であるトレハロースを含有している。本発明者らは鋭意研究した結果、本願の生澱粉糊のように、生沈の固形分を2.4〜7.5重量%、生麩の固形分を1.4〜4.2重量%、トレハロースを0.2〜0.4重量%含有し、さらに、水を85〜96重量%含有するように配合すれば、生澱粉糊が製造された時に有する糊本来の特性を長期に亘って維持できることを見出した。
【0014】
尚、後述の実施例1において、生沈の上限値(7.5重量%)、生麩の上限値(4.2重量%)および水の下限値(85重量%)を規定し、実施例2において、生沈の下限値(2.4重量%)、生麩の下限値(1.4重量%)および水の上限値(96重量%)を規定している。
【0015】
本発明の生澱粉糊であれば、製造後に成分が分離したり、水が分離したりすることを防止できるようになり、製造後、長期に亘って保水力を有し、かつ適切な粘度を維持できる糊となる。このように本願の生澱粉糊は、長期に亘って生澱粉糊を製造した時点の品質を維持し易いため、品質の管理が容易となる。
【0016】
また、本発明の生澱粉糊では、前記生沈の平均粒子径を25〜40μm、前記生麩の平均粒子径を2〜10μmとして、平均粒度分布の異なる成分を混入させている。平均粒子径の大きい生沈を添加することで生澱粉糊の粘度が増す。一方、平均粒子径の小さい生麩を添加することでキメの細かい生澱粉糊とすることができる。キメの細かい生澱粉糊になることで、接着強度を向上させることができる。
【0017】
さらに上記[4]の生澱粉糊の製造方法によれば、水分を含有した生沈および生麩を所定の割合で混合して本発明の生澱粉糊を製造することができる。特に、本手法では生澱粉である生沈、生麩およびトレハロースを本願特有の割合で添加しているため、生澱粉糊が製造された時に有する粘度などの特性を長期に亘って維持できる生澱粉糊を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の生澱粉糊の製造方法の概要を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の生澱粉糊は、小麦澱粉である生沈、生麩を含有し、さらにトレハロースを含有する。
生沈および生麩は小麦粉から抽出した澱粉である。これらは、公知の手法で製造できる。例えば小麦粉に少量の塩と水を加えて良く練り、餅状にしてから所定時間放置した後、水中で揉むようにして洗うことで製造することができる。製造の過程で、生沈および生麩が分離する。水中において沈殿する方が生沈、沈殿しない方が生麩である。生沈および生麩は40〜50重量%程度の水分を含んでおり、本発明で使用する生沈の平均粒子径は25〜40μm、生麩の平均粒子径は2〜10μmとなっている。また、本発明で使用する生沈および生麩は、加工澱粉のように乾燥(加熱)、酸化、酵素処理などの加工処理を行なっていないため、澱粉の高分子重合体構造を維持している。
【0020】
本発明の生澱粉糊は、生沈の固形分を2.4〜7.5重量%、生麩の固形分1.4〜4.2重量%、トレハロースを0.2〜0.4重量%含有し、さらに、水を85〜96重量%含有する。上記「固形分」とは、生沈および生麩が含有する高分子のことを指し、生沈および生麩が含有する水分は含まない。
【0021】
上記割合で生沈、生麩およびトレハロースを配合して本発明の生澱粉糊を製造することで、製造後に成分が分離したり、水が分離したりすることを防止できるようになり、製造後、長期に亘って保水力を有し、かつ適切な粘度を維持できる生澱粉糊となる。
本発明では、乾燥澱粉などの加工澱粉を使用せず、トレハロースは僅か0.2〜0.4重量%加えるだけでよいため、安価に本発明の生澱粉糊を供することができる。
【0022】
本発明の生澱粉糊のように特定量の生沈や生麩を含有させることで粘度が高い生澱粉糊となる。即ち、粘りの高い糊となるため、特定の被着材を貼合わせるのに都合がよい。例えば、米袋、肥料袋、セメント袋などのように、大容量の紙製の袋体を製造するに際し、袋体の背面(胴部分)を貼合わせる場合と、底面を貼合わせる場合とにおいて、使用する糊の種類を変更することがある。
本願の生澱粉糊のように粘度の高い糊は、例えば袋対の背面を貼り合せるのに適している。仮に糊の塗布領域に凹凸(折り目など)がある場合は、当該凹凸部分の全面に素早く糊を塗布するのが好ましいため、粘度の低い糊を使用することが多い。一方、当該背面であれば、通常、糊の塗布領域はフラットであるため、糊の液ダレが起こり難い粘度の高い糊を使用するのがよい。
【0023】
本発明の生澱粉糊は、水分を40〜50重量%含有した生沈を6.0〜15.0重量%となるように添加する生沈添加工程Aと、水分を40〜50重量%含有した生麩を3.4〜8.5重量%となるように添加する生麩添加工程Bと、トレハロースを0.2〜0.4重量%となるように添加するトレハロース添加工程Cと、を行なって製造することができる(図1)。
【0024】
生沈、生麩、トレハロースのそれぞれを攪拌容器内に投入し、温度および攪拌速度などを制御できる攪拌手段によって所定時間の攪拌を行なう(攪拌工程)。各成分の投入順序は問わない。攪拌は、水を添加しながら、或いは、予め所定量の水を当該容器内に投入した後に各成分を投入した状態で行なえばよい。攪拌は所望の温度(例えば85〜90℃)を維持した状態で行い、所定時間が経過した後、例えば室温まで冷却して生澱粉糊を製造する。
【0025】
本発明の生澱粉糊には、必要に応じて他の成分を添加してもよい。他の成分としては、小麦以外の澱粉、防腐剤などが挙げられる。当該他の成分を、例えば1.0〜2.5重量%程度になるように添加する。
【実施例】
【0026】
本発明の実施例について説明する。
【0027】
〔実施例1〕
本発明の生澱粉糊を4000kg製造した。
水分を44重量%含有した生沈(草野食品株式会社製)600kg、水分を44重量%含有した生麩(草野食品株式会社製)340kg、トレハロース(株式会社林原商事製)12kgを添加して、最終容量が3000L(最終重量4000kg)になるように水を加えた。各成分を添加しながら90℃で3時間攪拌し、その後、室温まで冷却させた。
【0028】
【表1】

【0029】
製造された生澱粉糊は、例えば段ボールや紙袋など紙製、布製などの被着材を接着する工業用澱粉糊として使用した。また、本実施例の生澱粉糊は、製造後3ヶ月以上に亘って成分が分離したり、水が分離したりすることなく、長期に亘って保水力を有し、かつ適切な粘度を維持できた。
【0030】
尚、生沈および生麩は、これらの製造段階で40〜50重量%程度の水分を含んだ状態で精製される。即ち、本実施例ではこれらは何れも含水量が44重量%のものを使用したが、含水量が40〜50重量%の間であれば、同様の効果を奏する(結果は示さない)。
【0031】
例えば、本実施例の生沈において、含水量が40重量%の場合は固形分:6.0重量%(15×0.4)、含水量が50重量%の場合は固形分:7.5重量%(15×0.5)となる(表2)。
また、本実施例の生麩において、含水量が40重量%の場合は固形分:3.40重量%(8.5×0.4)、含水量が50重量%の場合は固形分:4.25重量%(8.5×0.5)となる(表2)。
【0032】
【表2】

【0033】
この場合、生澱粉糊4000kgに含まれる水の量は、攪拌時に添加した水と、生沈および生麩に含まれる水とを合計した量となる。即ち、攪拌時に添加した水:76.2重量%(3048/4000)に、含水量が40重量%の場合に生沈および生麩に含まれる水:14.1重量%(9.0+5.1)を足した値:90.3重量%となる。
同様に、生沈および生麩の含水量が50重量%の場合は、生澱粉糊の含水量は、87.9重量%(76.2+7.5+4.2)となる。
【0034】
よって、本実施例の生澱粉糊は、生沈の固形分6.0〜7.5重量%、生麩の固形分3.4〜4.2重量%、トレハロース0.3重量%、水分量87.9〜90.3重量%の範囲であれば、同様の効果が得られると認められた。
さらに、2.5重量%程度の他の成分を含有する場合を鑑みると、本実施例の生澱粉糊の水分量は当該他の成分の量だけ減らせばよいので、85.4(約85)〜87.8重量%となる。
【0035】
〔実施例2〕
本発明の生澱粉糊を10000kg製造した。
水分を44重量%含有した生沈600kg、水分を44重量%含有した生麩340kg、トレハロース30kgを添加して水を加えた。各成分を添加しながら室温で3時間攪拌した。
【0036】
【表3】

【0037】
製造された生澱粉糊は、工業用澱粉糊(例えば容量20Lの紙製のセメント袋の背面(胴部分)を貼合わせる糊(胴糊))として使用した。また、本実施例の生澱粉糊も、製造後3ヶ月以上に亘って成分が分離したり、水が分離したりすることなく、長期に亘って保水力を有し、かつ適切な粘度を維持できた。
【0038】
尚、本実施例の生沈において、含水量が40重量%の場合は固形分:2.4重量%(6×0.4)、含水量が50重量%の場合は固形分:3.0重量%(6×0.5)となる(表4)。
また、本実施例の生麩において、含水量が40重量%の場合は固形分:1.4重量%(3.4×0.4)、含水量が50重量%の場合は固形分:1.7重量%(3.4×0.5)となる(表4)。
【表4】

【0039】
この場合、生澱粉糊を10000kgに含まれる水の量は、攪拌時に添加した水:90.3重量%(9030/10000)に、含水量が40重量%の場合に生沈および生麩に含まれる水:5.6重量%(3.6+2.0)を足した値:95.9(約96重量)%となる。
同様に、生沈および生麩の含水量が50重量%の場合は、生澱粉糊の含水量は、95.0重量%(90.3+3.0+1.7)となる。
【0040】
よって、本実施例の生澱粉糊は、生沈の固形分2.4〜3.0重量%、生麩の固形分1.4〜1.7重量%、トレハロース0.3重量%、水分量95〜96重量%の範囲であれば、同様の効果が得られると認められた。
【0041】
〔別実施の形態1〕
実施例1,2では、トレハロースを0.3重量%となるように添加したが、0.2〜0.4重量%となるように添加してもよい。この場合でも、実施例1,2と同様の効果が得られる生澱粉糊が製造できた(結果は示さない)。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、生澱粉糊および当該生澱粉糊の製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0043】
A 生沈添加工程
B 生麩添加工程
C トレハロース添加工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦澱粉である生沈、生麩を含有し、さらにトレハロースを含有する生澱粉糊。
【請求項2】
前記生沈の固形分を2.4〜7.5重量%、前記生麩の固形分を1.4〜4.2重量%、トレハロースを0.2〜0.4重量%含有し、さらに、水を85〜96重量%含有する請求項1に記載の生澱粉糊。
【請求項3】
前記生沈の平均粒子径が25〜40μm、前記生麩の平均粒子径が2〜10μmである請求項1又は2に記載の生澱粉糊。
【請求項4】
水分を40〜50重量%含有した生沈を6.0〜15.0重量%となるように添加する生沈添加工程と、
水分を40〜50重量%含有した生麩を3.4〜8.5重量%となるように添加する生麩添加工程と、
トレハロースを0.2〜0.4重量%となるように添加するトレハロース添加工程と、を有する生澱粉糊の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14705(P2013−14705A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149236(P2011−149236)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(501233433)鈴木糊工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】