説明

生物の判別用ユニバーサルプライマー

【課題】ユニバーサルプライマーとその用途を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を3'末端に含むユニバーサルプライマーが提供された。本発明のユニバーサルプライマーで、ゲノムを鋳型として合成されたDNAは、幅広い生物において、各生物に固有のDNA解離パターンを与える。判定すべき試料について、1つの、あるいは少数のプライマーを使ってDNA解離パターンを決定すれば、同じユニバーサルプライマーによって得られた幅広い比較対象される生物のDNA解離パターンと照合することができる。そして、比較対照される生物との同一性を評価することができる。本発明によって、幅広い生物を容易に判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の判別(discrimination)方法および判別キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸を増幅する方法として、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)が広く用いられている。PCR法は、DNAポリメラーゼの作用によって、プライマーの3'末端から相補鎖を合成する反応を繰り返すことによって、指数的に核酸を増幅する反応である。プライマーは、増幅すべき核酸の、3'末端の塩基配列に相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである。センス鎖とアンチセンス鎖のそれぞれに対してプライマーを用意することによって、新たに合成された核酸が次の反応工程で新たな鋳型として機能する。その結果、指数的な増幅が達成される。
【0003】
PCR法では、プライマーの鋳型DNAに対する特異性を高め、全DNA中の特定の部位のみを認識するために、通常、1種類のPCR産物のみが増幅される。PCR法については、特公平4-67957号公報等に詳細に記載されている。
【0004】
特公平4-67957号公報には、遺伝性疾患、癌性疾患あるいは伝染性疾患等の遺伝子診断の用途で核酸中の特定配列の存在を検出するために、標的核酸の塩基配列に相補的プライマーを用いて、僅かしか含まれていない核酸配列を増幅して検出する技術が記載されている。
【0005】
PCR法による核酸の検出あるいは同定方法は、PCR法の増幅産物の生成量を指標としている。たとえば、PCR法における所定の長さを有する核酸の増幅は、検出対象の存在を意味している。増幅産物は電気泳動などの手法によって容易に検出することができる。しかし電気泳動分離は、時間と手間を要する手法なので、大量のサンプルについて迅速な分析を行う場合には不利である。そこで、PCR法の増幅産物を迅速に検出するためのいくつかの方法が実用化されている。
【0006】
たとえば、インターカレーターを使用して、2本鎖核酸の生成を光学的に検出する方法が公知である。インターカレーターは、2本鎖核酸に特異的に結合し、蛍光を発する色素である。PCR法の増幅産物は2本鎖を形成するので、反応系にインターカレーターを加えておけば、増幅産物の生成量を蛍光強度の変化として検出することができる。インターカレーターとしては、エチジウムブロマイドあるいはサイバーグリーンなどを用いることができる。インターカレーターを利用してDNA解離温度の変化を比較し、核酸の変異を検出するための装置も公知である(特開平7-31500)。
【0007】
インターカレーターを利用すれば、PCR法の反応の進行をモニタリングすることができる。この方法は、反応中のモニタリングを可能とするので、リアルタイムPCR(real-time PCR)法と呼ばれている。しかしインターカレーターによる検出方法は、2本鎖の形成を指標としているため、たとえば、鋳型核酸における微妙な塩基配列の相違を識別することはできない場合がある。言い換えれば、インターカレーターを使った核酸の検出方法の特異性は、PCR法の特異性に依存していると言うことができる。
【0008】
PCR法を利用して鋳型となる核酸における特定の塩基を同定することができる。PCR法を構成する鋳型依存性の相補鎖合成反応には、プライマーが必要である。プライマーは、鋳型核酸に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。鋳型核酸にアニールしたプライマーの3’末端から5'->3'方向に相補鎖合成反応が進行する。プライマーの3'末端を構成する塩基は、相補鎖合成における重要な条件の一つである。すなわち、プライマーの3'末端付近における鋳型核酸との相補性は、相補鎖合成反応の反応効率を大きく左右する。
【0009】
そのため、プライマーの3'末端が鋳型核酸に相補的でない場合には、相補鎖合成反応が著しく阻害される。この特徴を利用して、鋳型核酸における特定の塩基を同定することができる。つまり、プライマーの3'末端が、鋳型核酸における同定すべき塩基に相補的な位置に相当するようにデザインされる。このプライマーによって増幅産物が生成された場合には、同定すべき塩基はプライマーの3'末端に相補的であったことがわかる。しかしこの方法では、プライマーがアニールする場所以外における鋳型核酸の塩基の同一性を明らかにすることはできない。
【0010】
PCR法を利用して、増幅産物における未知の塩基の相違を検出するための方法が知られている。たとえばPCR-SSCPは、PCR法の増幅産物の立体構造の相違が電気泳動によって検出される。同じプライマーセットで増幅されたDNAであっても、立体構造の違いが見られる場合には、両者を構成する塩基配列には相違があると予測することができる。
【0011】
同様に、PCR法の増幅産物の制限酵素による切断パターンを比較して、鋳型核酸の塩基の相違を見出す方法も知られている。この方法は、PCR-RFLPと呼ばれている。PCR-SSCPにしろPCR-RFLPにしろ、PCRの増幅産物の電気泳動分離が必要である。その他に、ランダムプライマーを使ったPCR産物の電気泳動パターンを指標に、鋳型核酸を同定する方法も報告されている。この方法は、ランダムプライマーを使うことから、Random Amplified polymorphic DNA (RAPD)、あるいはArbitrarily Primed PCR (AP-PCR)と名づけられた (Welsh and McCelland, Nucleic Acid Res. 18, 7213-7218, 1990; Williams et al., Nucleic Acid Res. 18, 6531-6535, 1990)。
【0012】
更に、PCR法における増幅産物の塩基配列の識別を可能とする方法として、解離曲線を指標とする方法が知られている(特開2002-325581)。PCR法の増幅産物は、温度の上昇にともない、やがて1本鎖に解離する。1本鎖核酸への解離は、特定の温度で急激に起こることが知られている。2本鎖が急激に解離する温度をDNA解離温度と呼ぶ。DNA解離温度は、当該核酸を構成する塩基と、反応液に含まれる成分によって決定される。したがって同じ組成の反応液中においては、DNA解離温度は、核酸を構成する塩基配列によって支配されるといってよい。この特徴に着目して、PCRの増幅産物の構成塩基配列の違いをDNA解離温度の差として検出するのが、特開2002-325581の原理である。DNA解離温度は、インターカレーターを利用して容易に測定することができる。すなわち、特開2002-325581によって、電気泳動のような煩雑な手法に頼ることなく、PCR法における増幅産物の塩基配列の相違を見出すことができる。
【0013】
ところが、特開2002-325581においては、核酸の合成をPCR法に頼ったため、その増幅産物には多様性が無い。1セットのプライマーによって増幅されるのは、原則として1種類の核酸断片である。この特徴は、PCR法の特異性の高さを示している反面、構造が良く似ている複数の核酸を、相互に識別することが難しいことを意味している。
たとえば構造の良く似た3つの核酸A、B、およびCを識別するとする。1セットのプライマーで相互を識別するためには、同じプライマーセットで増幅される領域に、それぞれの核酸にユニークな塩基が含まれるようにデザインしなければならない。核酸の種類が多くなるほど、1セットのプライマーのみで全ての核酸のユニークな領域を増幅することは困難になる。
複数のプライマーセットを使って、複数の領域について同様の解析を実施すれば、多種類の核酸を識別できる可能性は高まる。しかし、複数セットのプライマーを使うことは、反応回数の増加につながる。つまり、解析の迅速性や経済性を犠牲にする可能性がある。また反応回数の増加にともなって、消費する試料の量も増加する。
【0014】
あるいは、PCR法に頼らない核酸同定方法も公知である(WO03/97828)。この方法においては、同定すべき核酸の複数の領域を合成して、異なる塩基配列からなる核酸の混合物を調製する。この混合物の解離曲線は、混合物を構成する核酸のわずかな塩基配列の相違によって、特徴的なパターンを示すことが本出願人によって明らかにされた。したがって、この解離パターンの違いに基づいて、核酸を識別することができる。
【特許文献1】特公平4-67957号公報
【特許文献2】特開平7-31500号公報
【特許文献3】特開2002-325581号公報
【特許文献4】WO03/97828号公報
【非特許文献1】Welsh and McClelland, Nucleic Acid Res. 18, 7213-7218, 1990
【非特許文献2】Williams et al., Nucleic Acid Res. 18, 6531-6535, 1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
DNAの制限酵素による消化、あるいはランダムプライマーによるDNAの増幅は、当該DNAの塩基配列に依存した、さまざまな長さを有する断片を与える。こうして得られた断片の長さのバリエーションは、DNAに固有のパターンを示す。DNAの長さは電気泳動によって確認することができる。すなわち、DNAの消化断片、あるいは増幅産物の電気泳動パターンは、DNAに固有のパターンを示す。この原理を利用して、電気泳動パターンはDNAの同定に利用されてきた。たとえば、前述のPCR-RFLPやRAPDは、電気泳動パターンを利用した核酸の同定方法である。
【0016】
しかし電気泳動によるDNAの分離と、泳動パターンの解析には、ある程度の習熟が必要である。そのため電気泳動工程を含むDNAの同定方法の再現性を維持するには、高度な技術が要求される。また電気泳動は、時間がかかり、大量の試料の解析には不向きな解析技術である。
【0017】
一方、WO03/97828号公報に記載されているような、DNA解離パターンの解析は、電気泳動と比較すると、操作が容易な解析手法と言うことができる。DNA解離パターンの解析は、容易に機械化することができるので、大量の試料の迅速な分析が期待できる。
さて、ある生物が特定の生物であるかどうかを確認するためには、被検生物と比較対象となる生物のDNA解離パターンを比較することによって、両者の同一性を判断することができる。たとえば、ある大豆が遺伝子組換え体であるかどうかを判定する場合などには、このような解析方法が有効である。
【0018】
ところが実際に生物を判定する場合には、多くの可能性の中から、特定の生物であることを同定しなければならない場合も多い。具体的には、牛肉について、そのウシの品種を判定する場合などがそれである。たとえばウシには、次のような多くの品種が存在している。
アバディーン・アンガス
マレー・グレイ
ヘレフォード
エアシャー
ホルスタイン
ジャージー
このように複数の可能性の中から、特定の生物であることを同定するためには、原則的には、考えられる全ての可能性について、それぞれのDNA解離パターンを比較しなければならない。そのためには、検査される牛肉が由来する可能性のある品種の全てについて、プライマーをデザインし、DNA解離パターンを決定しておく必要がある。更に検査される牛肉についても同様に、品種ごとに設定されたプライマーの数だけ、DNA解離パターンも決定される必要がある。
【0019】
そこで、もしも複数の生物について共通のプライマーを利用することができる場合、検査すべき試料(牛肉)について、1つのDNA解離パターンを得れば、比較対象とする全ての生物のDNA解離パターンと比較することができる。すなわち、異なる生物の間で、DNA解離パターンを比較するとき、共通のプライマーを利用できれば、判定のための操作を、大幅に簡素化できる可能性がある。本発明の課題は、生物の間で共通して利用することができるプライマーを提供することである。あるいは本発明は、本発明のプライマーを利用する生物の判定方法、並びに当該方法のためのマスターパターンの作成技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
近年、ランダムプライマーによって得られたDNA産物の解離パターンを、生物種に固有のパターンとして利用する試みが報告された(R. Plachy et al., J. Microbiol. Methods 60, 107-113, 2005)。この方法は、増幅産物の長さと、それを構成する塩基の多様性を、DNA解離パターンの変化を指標として検出する方法である。電気泳動分離に依存しない方法であることから、再現性の維持や大量の試料の分析においても有利と考えられた。
【0021】
しかし、ランダムプライマーによって増幅されるDNAの長さや塩基配列は、鋳型とするDNAによって大きく異なる。現在のところ、どのようなプライマーを用いたときに、生物の判別を可能とするDNA解離パターンが得られるのかを予測する技術は提供されていない。したがって、解析すべき生物種ごとに、多くの実験を通じて、経験的に、判別を可能とする条件を明らかにする必要があった。
【0022】
具体的には、まずDNA解離のパターンが判別すべき生物に固有のパターンを含まなければ、DNA解離パターンを指標に生物を判別することはできない。一方で、たとえば、複数のランダムプライマーの混合物で増幅することによって、増幅断片の種類を増やせば、固有のDNA解離パターンを含む可能性も増す。ところが、単に増幅断片の種類を増やすだけでは、通常、再現性の維持が困難となる。複数のプライマーによる増幅条件を一定に維持するのが難しいためである。また増幅産物の種類の増加は、DNA解離パターンが複雑になることを意味する。その結果、DNA解離パターンの解析に高度な技術が要求され、再現性を犠牲にする原因となる。つまり、高度な再現性を維持しつつ、生物種に固有なDNA解離パターンを得ることが求められる。
【0023】
しかし、ランダムプライマーの塩基配列には、きわめて多くのバリエーションが考えられる。たとえばわずか10塩基からなるランダムプライマーであっても、その種類は、410、すなわち100万種類以上(1048576種類)の組み合わせが考えられる。このような多くの組み合わせの中から、判別すべき生物種に応じた解析条件を経験的に明らかにすることは、現実的ではない。
【0024】
更に本発明においては、複数の生物において、各生物に特徴的なDNA解離パターンを与える共通のプライマーの提供が課題とされる。本発明においては、複数の生物において共通して利用することができるプライマーを、ユニバーサルプライマーと呼ぶ。このような要求を満たすプライマーをランダムプライマーの中から見出すことは容易ではない。
【0025】
本発明者らは、DNA解離パターンの解析において、プライマーの塩基配列と、それによって得られる各種の生物のDNA解離パターンとの関係を解析した。そして、特定の塩基配列を3'末端に含むプライマーを用いた場合に、幅広い生物において、各生物に特徴的で再現性のあるDNA解離パターンを得られることを確認した。つまり、本発明者らが選択した塩基配列を含むプライマーは、1種類のプライマーで、さまざまな生物に固有のDNA解離パターンを与えることができるユニバーサルプライマーとして有用であることが確認された。すなわち本発明は、以下のユニバーサルプライマー、並びにその用途に関する。
〔1〕次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマー;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' 。
〔2〕ユニバーサルプライマーを構成する塩基の数が、6〜30である〔1〕に記載の生物の判別用ユニバーサルプライマー。
〔3〕次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む〔1〕に記載の生物の判別用ユニバーサルプライマー;
配列番号:14/ 5'-ATATGTATTCTGCACG-3' (プライマー名:FAH25-16)、
配列番号:15/ 5'-AAAACTTCGTGCC-3' (プライマー名:GP_R19)、
配列番号:16/ 5'-GGCGGGTTCATCA-3' (プライマー名:GP_R29)、
配列番号:17/ 5'-TAGATCCTGCGCC-3' (プライマー名:GP_R42)、
配列番号:18/ 5'-CCTTCAGGTCTGC-3' (プライマー名:GP_R50)、
配列番号:19/ 5'-CCTGAGGGAGCAC-3' (プライマー名:GP_R52)、
配列番号:20/ 5'-GCCGACGCCAGCC-3' (プライマー名:GP_R59)、
配列番号:21/ 5'-GGAAGGTCCCAGA-3' (プライマー名:GP_R62)、
配列番号:22/ 5'-ATGTGGCTGCCGCACC-3' (プライマー名:GP_R40-16)、
配列番号:23/ 5'-ACGACCAGGCGGCTCG-3' (プライマー名:GP_R43-16)、
配列番号:24/ 5'-TAGTTATTCGCCG-3' (プライマー名:FAH25-9)、
配列番号:25/ 5'-ATGTAGTTCGCCG-3' (プライマー名:FAH25-12)、
配列番号:26/ 5'-TATGAACTCGAAG-3' (プライマー名:GP-R32)、
配列番号:27/ 5'-GGTTAGATCCTGCGCC-3' (プライマー名:GP-R42-16) 、および
配列番号:28/ 5'-GCGCTTTGACCGA-3' (プライマー名:GP-R24)。
〔4〕次の要素を含む、生物判別用キット;
i) 次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマー;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
ii) i)に記載のいずれかのユニバーサルプライマーを使って作成された少なくとも1つのマスターパターン;ここでいうマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物のゲノムDNAを鋳型として、ユニバーサルプライマーで合成されたDNA産物の解離パターンである。
〔5〕複数の生物に由来するそれぞれのゲノムDNAを鋳型として作成された、複数種のマスターパターンを含む、〔4〕に記載のキット。
〔6〕次の工程を含む生物の判別方法;
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程、
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、少なくとも1種類の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物由来のゲノムDNAを鋳型として(1)および(2)と同じ工程によって得られたDNA解離パターンであり、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンとマスターパターンが一致したときに、前記被検生物が当該マスターパターンを示す生物と同一であることが示される工程。
〔7〕次の工程を含む生物の判別方法;
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程;
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、少なくとも1種類の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物由来のゲノムDNAを鋳型として(1)と同じ工程によって得られたDNA解離パターンであり;、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンとマスターパターンが一致しないときに、前記被検生物が当該マスターパターンを示す生物と同一でないことが示される工程。
〔8〕次の工程を含む、生物判別用マスターパターンの作製方法;
(1)被検生物のゲノムDNAを鋳型として、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定し、前記生物のマスターパターンとする工程。
〔9〕共通のユニバーサルプライマーによって複数の被検生物のゲノムDNAのそれぞれについてDNA解離パターンを決定する〔8〕に記載の方法。
〔10〕〔8〕に記載の方法によって決定されたマスターパターン。
【発明の効果】
【0026】
本発明によって、DNA解離パターンに基づいて生物を判定するためのユニバーサルプライマーが提供された。本発明が提供するユニバーサルプライマーは、1つの、あるいは少数のプライマーによって、複数の生物において、各生物に固有のDNA解離パターンを与える。その結果、本発明のユニバーサルプライマーを使って得られる判定試料のDNA解離パターンは、複数の比較対象生物のDNA解離パターンと照合することができる。言い換えれば、本発明のユニバーサルプライマーは、判定される試料の1つの、あるいは少数のDNA解離パターンに基づいて、幅広い生物との照合を可能とする。
これに対して、比較対象となる生物に固有のプライマーを用いた場合には、判定試料についてもプライマーの数と同じDNA解離パターンが必要となる。試料の数が多い場合には、判定すべき試料由来のDNA解離パターンを取得するために、多量の試料が必要となり、解析のための時間と資源が浪費される。DNA解離パターンに基づく生物の判定にあたり、本発明のユニバーサルプライマーの操作の簡素化における貢献は大きい。
【0027】
本発明のユニバーサルプライマーは、解析操作に加え、解析のための試薬構成の簡素化にも貢献する。DNA解離パターンの比較に基づく生物の判別には、DNAの合成のための試薬と、合成されたDNA産物の解離パターンを解析するための試薬が用いられる。これらの試薬類のうち、DNAの合成のための試薬は、たとえば、プライマー、DNAポリメラーゼ、そしてヌクレオチド類などを含む。本発明のユニバーサルプライマーを用いれば、プライマーは1種類あるいはごく少数である。一方、比較対象となる生物の数だけプライマーを利用する場合には、多数のプライマーを利用しなければならない。特に、解析に必要な試薬を商業的に供給する場合には、試薬構成の簡素化は、そのコストの低下に大きく貢献する。
【0028】
本発明によるユニバーサルプライマーには、操作や試薬構成の簡素化のみならず、経済的な貢献も期待できる。すなわち、本発明のユニバーサルプライマーを用いることによって、1つの、あるいは少数のプライマーで解析に必要なDNA解離パターンを得ることができる。DNAの合成とDNA解離パターンの解析は、1つの試料あたり、解析に利用するユニバーサルプライマーの種類に依存する。つまり、多くの場合、試料当たりの解析の数は1回である。比較対象となる生物の数だけ解析を行う方法と比べると、本発明のユニバーサルプライマーを用いるほうがはるかに安価であることは明らかである。
【0029】
発明の詳細な説明:
本発明は、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーに関する。
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' 。
【0030】
本発明において、ユニバーサルプライマーとは、たとえば次のように定義することができる。すなわち、あるプライマーによって複数の生物に由来するゲノムを鋳型として相補鎖合成を行ったときに、いずれの生物においても合成産物が得られるとき、このプライマーはユニバーサルプライマーであると言うことができる。更に、本発明におけるユニバーサルプライマーは、各生物のゲノムを鋳型として相補鎖合成産物を与えるとともに、当該DNA産物の解離パターンが、各生物に固有のパターンを含む。したがって、本発明のユニバーサルプライマーは、次の条件AおよびBによって特徴付けられる。
A:複数の生物に由来するゲノムを鋳型として相補鎖合成を行ったときに、いずれの生物においても合成産物を与える、そして
B:AのDNA産物の解離パターンが、Aのゲノムが由来する生物に固有である
本発明において、「DNA解離パターンが固有である」とは、たとえば次のように定義することができる。すなわち、ある生物に由来するDNA産物の解離パターンと、条件Aにおいて合成された他の生物に由来するDNA産物の解離パターンを比較した時、条件Aにおいて合成された他の生物に由来するDNA産物の解離パターンのいずれにも、ある生物由来のDNA産物の解離パターンと同一の解離パターンがない場合、解離パターンは固有であると言うことができる。言い換えれば、複数の種類の生物のゲノムを同じプライマーで増幅したときに、そのDNA産物の解離パターンが、異なる生物の間で一致しないとき、このプライマーは、固有の解離パターンを与えたといえる。
【0031】
本発明において、複数の生物とは、種類の異なる少なくとも2種類以上の生物をいう。本発明におけるユニバーサルプライマーによって相補鎖を合成することができる生物の種類は、少なくとも2種類、通常5〜10種類、あるいは10〜100種類、更には100種類以上である。
ここで「生物の種類」とは、ある生物を、分類学的に、あるいは遺伝学的に、他の生物と識別することができることをいう。具体的には、種(species)、亜種(subspecies)、品種(race)、あるいは株(strain)が相違する複数の生物は、本発明における「種類の異なる生物」である。本発明においては、遺伝学的な変異によって相違を生じた生物は、相互に遺伝学的に識別される生物に含まれる。遺伝学的な変異とは、天然に生じる変異のみならず、人為的にもたらされた変異を含む。天然に生じる変異には、突然変異や多型による相違を含む。他方、人為的な変異とは、遺伝子工学的手法による形質変化、放射線照射や変異原性物質による変異誘導、並びに交配による育種などが含まれる。更に遺伝子工学的手法による形質変化は、形質導入のみならず、遺伝形質の消失(loss-of-function)を含む。
【0032】
また本発明において、ユニバーサルプライマーによって相補鎖合成反応による合成産物を得ることができる複数の生物は、少なくとも2種類以上である。本発明のユニバーサルプライマーは、たとえば属内に含まれる2種類以上の生物において、相補鎖合成産物を与えることができる。好ましいユニバーサルプライマーは、属を構成する既知の種、亜種、あるいは株のうち、識別を要する生物において相補鎖合成産物を与えることができる。本発明のユニバーサルプライマーによって、相補鎖合成産物を与えることが確認された種、亜種、あるいは株を含む属として、以下の属を示すことができる。
植物(イネ科イネ属)
植物(イグサ科イグサ属)
植物(タデ科ソバ属)
植物(マメ科ラッカセイ属)
植物(マメ科ダイズ属)
植物(マメ科ササゲ属)
植物(マメ科インゲン属)
植物(イネ科オオムギ属)
植物(イネ科ライムギ属 )
植物(イネ科コムギ属)
植物(ウルシ科マンゴー属 )
植物(ウリ科キュウリ属)
植物(ツツジ科スノキ属)
動物(ウシ科ウシ属)
動物(イノシシ科スス属)
動物(キジ科ガルス属)
魚(サバ科マグロ属)
植物(タデ科ギシギシ属)
細菌(Aspergillus属)
細菌(Escherichia属)
細菌(Staphylococcus属)
細菌(Methylobacterium属)
細菌(Micrococcus属)
細菌(Pseudomonas属)
細菌(Alicyclobacillus属)
細菌(Corynebacterium属)
細菌(Streptomyces属)
細菌(Rhodococcus属)
細菌(Brevibacillus属)
細菌(Acinetobacter属)
細菌(Enterococcus属)
細菌(Bacillus属)
細菌(Rhodospirillum属)
細菌(Acetobacter属)
細菌(Rhodobacter属)
細菌(Sphingomonas属)
細菌(Caulobacter属)
細菌(Rhizobium属)
細菌(Phyllobacterium属)
細菌(Bradyrhizobium属)
細菌(Alcaligenes属)
細菌(Comamonas属)
細菌(Hydrogenophilus属)
細菌(Rhodocyclus属)
細菌(Acidithiobacillus属)
細菌(Oceanospirillum属)
細菌(Halomonas属)
細菌(Vibrio属)
細菌(Aeromonas属)
細菌(Myxococcus属)
細菌(Clostridium属)
細菌(Sporolactobacillus属)
細菌(Paenibacillus属)
細菌(Thermoactinomyces属)
細菌(Lactobacillus属)
細菌(Aerococcus属)
細菌(Streptococcus属)
細菌(Rarobacter属)
細菌(Sanguibacter属)
細菌(Brevibacterium属)
細菌(Cellulomonas属)
細菌(Dermatophilus属)
細菌(Intrasporangium属)
細菌(Jonesia属)
細菌(Beutenbergia属)
細菌(Dietzia属)
細菌(Gordonia属)
細菌(Mycobacterium属)
細菌(Nocardia属)
細菌(Tsukamurella属)
細菌(Propionibacterium属)
細菌(Nocardioides属)
細菌(Pseudonocardia属)
細菌(Actinosynnema属)
細菌(Streptomyces属)
細菌(Streptosporangium属)
細菌(Nocardiopsis属)
細菌(Thermomonospora属)
細菌(Geodermatophilus属)
細菌(Sporichthya属)
細菌(Kineosporia属)
細菌(Glycomyces属)
細菌(Acidobacterium属)
細菌(Flavobacterium属)
細菌(Myroides属)
細菌(Sphingobacterium属)
細菌(Flexibacter属)
細菌(Kocuria属)
酵母(Saccharomyces属)
真菌類(ハラタケ科ハラタケ属)
貝(ミミガイ科アワビ属)
貝(アクキガイ科腹足類)
あるいは、属、そして更に上位の分類学上の差を越える複数の生物において、相補鎖合成産物を与えうるユニバーサルプライマーも本発明に含まれる。
【0033】
本発明のユニバーサルプライマーは、先に示した配列番号:1〜配列番号:13に記載の塩基配列のいずれかから選択される塩基配列を3'末端に含むことができる。本発明において、ユニバーサルプライマーを構成する塩基配列の長さは、たとえば6〜30である。より具体的には、13〜16塩基を、本発明のユニバーサルプライマーの好ましい長さとして示すことができる。本発明のユニバーサルプライマーは、その3'末端を、配列番号:1〜配列番号:13に示した塩基配列から選択することができる。
一方、ユニバーサルプライマーを構成する5'側の塩基配列は任意の塩基配列を含むことができる。たとえば配列番号:14〜配列番号:28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドは、本発明のユニバーサルプライマーとして好ましい。これらの塩基配列は、いずれも、次のようにその3'末端に前記配列番号:1〜配列番号:13に示した塩基配列を含んでいる。
プライマーの塩基配列 (3'末端の塩基配列)
配列番号:14 (配列番号:1)
配列番号:15 (配列番号:2)
配列番号:16 (配列番号:3)
配列番号:17 (配列番号:4)
配列番号:18 (配列番号:5)
配列番号:19 (配列番号:6)
配列番号:20 (配列番号:7)
配列番号:21 (配列番号:8)
配列番号:22 (配列番号:9)
配列番号:23 (配列番号:10)
配列番号:24 (配列番号:11)
配列番号:25(*1) (配列番号:11)
配列番号:26 (配列番号:12)
配列番号:27(*2) (配列番号:4)
配列番号:28 (配列番号:13)
(*1):配列番号24と25は、いずれも3'末端に同じ塩基配列(配列番号:11)を含む。
(*2):配列番号17と27は、いずれも3'末端に同じ塩基配列(配列番号:4)を含む。
更に、配列番号:14〜配列番号:28に示した塩基配列において、配列番号:1〜配列番号:13に示した塩基配列が3'末端で保存され、残りの5'側の塩基配列に欠失、置換、挿入、および付加のいずれかを有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、本発明のユニバーサルプライマーに含まれる。あるいは、配列番号:14〜配列番号:28に示した塩基配列において、配列番号:1〜配列番号:13に示した塩基配列が3'末端で保存され、残りの5'側の塩基配列に欠失、置換、挿入、および付加から選択された複数の変異を有する塩基配列からなるオリゴヌクレオチドも、本発明のユニバーサルプライマーに含まれる。
【0034】
本発明の好ましいユニバーサルプライマーは、その3'末端において配列番号:1〜配列番号:13のいずれかの塩基配列が保存され、かつ配列番号:14〜配列番号:28に示す塩基配列のいずれかと70%以上の相同性を有する塩基配列からなる。より具体的には、配列番号:14〜配列番号:28に示す塩基配列のいずれかと80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有する塩基配列は、本発明のユニバーサルプライマーの塩基配列として好ましい。本発明において、オリゴヌクレオチドを構成する塩基配列の同一性は、次の式によって決定することができる。
([候補塩基配列を構成する塩基中、一致した塩基の数]
/[候補塩基配列を構成する塩基配列を構成する全ての塩基数])x100(%)
上記の式において、「候補塩基配列を構成する塩基中、一致した塩基の数」とは、候補塩基配列と、配列番号:14〜配列番号:28から選択されたいずれかの塩基配列を構成する塩基配列を両者の3'末端を合わせて並列させたときに、3’末端側の連続して一致している塩基の数を示す。
【0035】
一方、本発明のユニバーサルプライマーを構成する塩基配列の5’末端を含む塩基配列は、任意である。したがって本発明のユニバーサルプライマーの塩基配列は、次の一般式によって表すことができる。
5’-[sequence Y]-[sequence X]-3’
式中、「sequence X」は、前記配列番号:1〜配列番号:13に記載の塩基配列のいずれかから選択される塩基配列を含み、好ましくは、配列番号:14〜配列番号:28に記載の塩基配列のいずれかから選択される塩基配列を含む。「sequence X」の塩基数は、6以上、好ましくは13〜16塩基である。一方、式中「sequence Y」は、任意の塩基配列である。「sequence Y」の塩基数は、0〜50、たとえば0〜20、通常0、あるいは0〜10である。
プライマーのTm(Melting temparature)を考慮すると、本発明のユニバーサルプライマーを構成する塩基配列のGC含量を10%以上とするのが好ましい。すなわち本発明におけるユニバーサルプライマーを構成する塩基配列は、好ましくは10−95%のGC含量を有する。
【0036】
次に、本発明のユニバーサルプライマーによって合成されたDNA産物の解離パターンは、各生物に固有のパターンを含む。DNA解離温度解析の方法は公知である。すなわち、核酸を含む溶液の温度を段階的に上げて、2本鎖の核酸が1本鎖に解離する温度をDNA解離温度として決定する。2本鎖核酸の1本鎖核酸への解離は、インターカレーターを利用して容易に検出することができる。インターカレーターとは、2本鎖核酸に結合して蛍光を発する色素である。相補鎖合成反応において、合成産物である2本鎖核酸の増加に伴い、蛍光強度が増加する。次いでDNA解離温度解析において、温度を段階的に上昇させると、合成産物の1本鎖への解離に伴って、インターカレーターの蛍光シグナルが失われる。この反応は可逆的である。インターカレーターとして、たとえばサイバーグリーン(商品名)を利用することができる。2本鎖核酸の解離温度は、核酸を構成する塩基の種類と長さに依存する。通常、2本鎖核酸は、その塩基配列と長さに応じて、固有の解離温度を示す。
【0037】
ところで、本発明においては、長大なゲノムDNAの全てを鋳型として相補鎖合成反応を行う。そして相補鎖合成反応のプライマー(すなわちユニバーサルプライマー)には、好ましくは、短いオリゴヌクレオチドが用いられる。その結果、本発明における相補鎖合成は、通常、ゲノムの複数の異なる領域を鋳型として進行する。したがって、本発明のユニバーサルプライマーによって合成される相補鎖合成産物は、通常、長さや塩基配列の異なる複数のDNAを含む。塩基配列や長さが単一もしくは異なる複数の2本鎖核酸を含む混合物について解離温度を解析すると、混合物を構成する核酸の解離温度の集合が得られる。こうして得られた解離温度の集合を、本発明においてはDNA解離パターンと言う。
【0038】
さらに本発明におけるDNA解離パターンは、ユニバーサルプライマーによって得られた合成産物の解離温度情報の集積である。通常、解離温度解析においては、温度変化に伴うインターカレーターの蛍光強度の変化が、結果として得られる。したがって、温度と、蛍光強度の関数をDNA解離パターンとして得ることができる。更に、蛍光強度の連続的な変化の程度を知るために、蛍光微分値(differential value of fluorescence)に換算することができる。具体的には、蛍光強度変化量の一次微分値(primary differential value)によって、各温度における蛍光強度の変化速度を知ることができる。つまり、微分によって蛍光強度の変化の程度が数値化される。この数値をプロットすれば、蛍光強度の変化をパターンで表示することができる。またDNA解離温度解析によって得られた各温度条件における蛍光強度の変化を表すパターンを含めて、本発明においてはDNA解離パターンと呼ぶ。したがって、DNA解離パターンの比較によって、DNA解離パターンの同一性を評価することができる。
【0039】
さて、本発明においては、ユニバーサルプライマーによって合成されたDNA産物の解離パターンは、各生物に固有のパターンを含む。DNA解離パターンが解析された生物に固有であることは次のようにして確認することができる。たとえば、まず、ユニバーサルプライマーによってゲノムの相補鎖を合成した各生物のそれぞれについて、DNA産物の解離パターンを得る。各生物のDNA解離パターンを比較して、生物の間で、DNA解離パターンを識別することができるとき、当該ユニバーサルプライマーは、各生物に固有のDNA解離パターンを与えるものであることが確認できる。本発明において、少なくとも2種類の生物の間で識別可能なDNA解離パターンの相違があれば、DNA解離パターンは固有であるとする。DNA解離パターンの比較に当たっては、たとえば次のような特徴の比較によって、相違を明らかにすることができる。これらの特徴を比較するための方法については、後に具体的に述べる。
(1)相補鎖合成の産物に起因するDNA解離パターンの変化
(2) DNA解離パターンにおけるピークの数
(3) DNA解離パターンにおけるピークの温度
(4) DNA解離パターンにおけるピークの形
【0040】
本発明のユニバーサルプライマーは、その塩基配列情報に従って化学的に合成することができる。任意の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する方法が公知である。たとえば、オリゴヌクレオチドは、DNA合成装置(DNA synthesizer)によって合成することができる。具体的には、現在、ホスホロアミダイト法やホスホン酸エステル法などの原理に基づく、DNA合成装置が実用化されている。これらのDNA合成装置は、与えられた塩基配列にしたがって、固相上に、ヌクレオチドモノマーをひとつずつ化学的に連結する。全ての反応工程は自動化されていて、目的とする塩基配列情報を入力することで合成が開始される。したがって、このようなDNA合成装置に対して、本発明のユニバーサルプライマーの塩基配列を与えることによって、目的とするDNAを合成することができる。
【0041】
本発明によって提供されるユニバーサルプライマーを利用して、生物判定用のキットが提供される。すなわち本発明は、次の要素i)およびii)を含む生物判定用のキットに関する。
i) 前記配列番号:1〜配列番号:13に示されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマー;および
ii) i)に記載のいずれかのユニバーサルプライマーを使って作成された少なくとも1つのマスターパターン;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物のゲノムDNAを鋳型として、ユニバーサルプライマーで合成されたDNA産物の解離パターンである。
【0042】
本発明のキットを構成するユニバーサルプライマーの塩基配列は、好ましくは配列番号:14〜配列番号:28のいずれかから選択される塩基配列である。本発明のキットは、前記ユニバーサルプライマーの一つ、または複数と、そのユニバーサルプライマーによって得られたマスターパターンとを含む。本発明のキットは、被検生物とマスターパターンを得た比較対象生物との同一性を判定するために利用することができる。本発明における比較対象生物は、任意の生物であることができる。すなわち、キットを構成するユニバーサルプライマーによって、比較対象とする生物に固有のDNA解離パターンが得られる限り、任意の生物を比較対象とすることができる。本発明において、「固有のDNA解離パターン」とは、識別すべき生物との間にDNA解離パターンの違いがあることを意味する。たとえば10種類の比較対象とする生物があるときには、当該10種類の生物の間で、DNA解離パターンが相互に識別できることを意味する。
更に、単一のユニバーサルプライマーでは相互に識別できない生物であっても、複数のユニバーサルプライマーの組み合わせによって、相互に識別できる場合には、本発明における被検生物との比較に用いる生物とすることができる。
【0043】
本発明のキットにおいて、DNA解離パターンは、先に述べた解離温度の集合を含む。したがって、キットを構成するDNA解離パターンは、たとえばDNA解離パターンを表示したグラフとすることができる。あるいはDNA解離パターンの同一性を機械的に照合するために、DNA解離パターンを機械読み取り可能なデータとすることもできる。機械読み取り可能なデータは、それを格納した記録媒体としてキットに加えることもできる。記録媒体とは、磁気ディスク、光学ディスク、あるいはフラッシュメモリなどを含む。
【0044】
本発明において、DNA解離パターンとは、2本鎖DNAの加温による1本鎖DNAへの解離温度情報の集合を指す。異なる塩基組成、あるいは塩基長からなる複数種の2本鎖DNAの集合体を加温すると、各DNAは種々の温度で1本鎖へ解離する。2本鎖DNAが1本鎖DNAに解離する温度は、塩基組成やその長さに依存して決定される。したがって、同じ組成を有する2本鎖DNAの集合体から得られる解離温度情報は、同じである。つまり本発明におけるDNA解離パターンは、2本鎖DNAの集合体の、2本鎖DNAから一本鎖DNAへの解離の温度依存的なパターンと言うこともできる。
【0045】
たとえば、インターカレーターを利用して解離パターンを解析した場合、解離温度は、蛍光強度値の変化として集積される。つまり、蛍光強度値の変化パターンが、解離温度情報の集積であり、かつDNA解離パターンである。このようにして得られたDNA解離パターンは、DNAの解離度と温度の関係を示すグラフとして表すことができる。あるいは、グラフを描くための座標情報の集積として、DNA解離パターンを蓄積することもできる。蛍光強度値の変化は、計数された数値(カウント)の変化として表すことができる。あるいは、蛍光強度値の数値の変化を微分した微分曲線として表すこともできる。こうして得られた微分曲線は、本発明におけるDNA解離パターンを比較するためのDNA解離パターンとして好ましい。
【0046】
本発明において、DNA解離パターンは、データベースとして供給することができる。データベースとは、少なくとも一つのDNA解離パターンを構成する情報を、機械可読式のデータ形式で集積したものを言う。機械可読式なデータとは、DNA解離パターンを構成するデータを、コンピュータによって読み出すことができる状態で記録することを言う。DNA解離パターンを構成するデータには、DNA解離パターンを再構成することができるデータが含まれる。たとえば、データ圧縮技術や、暗号化技術によって、オリジナルデータとは異なるデータ形式をとっていても、所定の操作によって、もとのDNA解離パターンを生成することができる場合には、当該データは、本発明におけるDNA解離パターンに含まれる。
【0047】
本発明のデータベースは、好ましくは、複数のマスターパターンを含む。更に本発明のデータベースは、複数のプライマーによって得られた複数の生物種のマスターパターンを含むことができる。本発明のデータベースは、キットに添付して供給することができる。あるいは、ネットワークを介して、ユーザーの要求に応じて、データベースの情報を開示することもできる。あるいは、ユーザーから提供されたサンプル由来のDNA解離パターンを、サーバーに保持されたデータベースと照合して、その照合結果をユーザーに提供することもできる。
【0048】
本発明のキットには、前記要素i)およびii)に加え、次のような付加的な要素を含むことができる。
iii)DNAポリメラーゼ:本発明のキットは、鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼを含むことができる。PCRなどの公知の核酸合成反応に利用されている種々のDNAポリメラーゼは、本発明に利用することができる。
iv)ヌクレオチド基質:本発明のキットは、核酸の相補鎖合成反応の基質として利用されるヌクレオチド類を含むことができる。具体的には、dCTP、dGTP、dTPT、およびdATPの少なくとも一つ、通常はこれらの全て(dNTP)をキットに含むことができる。これらのヌクレオチド類は、天然の構造のみならず、誘導体を利用することもできる。蛍光物資や結合性リガンドで修飾したヌクレオチド類が公知である。
v)インターカレーター:本発明のキットは、更に付加的にインターカレーターを含むことができる。インターカレーターは2本鎖DNAに結合して蛍光シグナルの変化を与える。本発明におけるユニバーサルプライマーによって合成された合成産物の解離温度の解析においては、インターカレーターが有用である。
【0049】
本発明のキットは、既にDNA解離パターンが得られている対象生物の判定のみならず、新たな生物の判定に用いるユニバーサルプライマーの選択においても有用である。すなわち、本発明のユニバーサルプライマーを候補プライマーとして、新しい生物の判定に利用できるプライマーを選択することができる。本発明者らは、本発明のユニバーサルプライマーを用いて、多様な生物において固有のDNA解離パターンを与えることを確認している。したがって、これまでに、本発明のユニバーサルプライマーによる解析が応用されたことのない生物についても、当該生物に固有のDNA解離パターンを与える可能性が高い。つまり本発明のユニバーサルプライマーは、新たに生物の判定用のユニバーサルプライマーを見出すためのプライマーライブラリーとして有用であることが明らかである。
【0050】
したがって本発明に基づいて、次の工程を含む、生物判定用のユニバーサルプライマーの選択方法が提供される。
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、前記配列番号:1〜配列番号:13に示されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程;
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、複数種の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物のゲノムDNAを鋳型として(1)および(2)と同じ工程によって得られたDNA解離パターンであり;、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンが、(3)で比較したマスターパターンの全てと識別できたとき、工程(1)に使ったユニバーサルプライマーを前記被検生物の判定のためのユニバーサルプライマーとして選択する工程
【0051】
本発明において、好ましいユニバーサルプライマーの塩基配列は、配列番号:14〜配列番号:28のいずれかから選択することができる。本発明において、本発明のユニバーサルプライマーを使った生物の判定方法が適用されたことのない生物を、前記工程(1)の被検生物として利用することができる。本発明の方法によってユニバーサルプライマーを適用可能であることが確認された生物については、当該生物のDNA解離パターンを、工程(2)のマスターパターンに加えることができる。マスターパターンを追加した後、前記のユニバーサルプライマーの選択方法の各工程を繰り返すことによって、本発明のユニバーサルプライマーを適用できる生物の範囲を拡大することができる。
【0052】
たとえば、仮に10種類の生物について識別可能なDNA解離パターンを与えることが確認されているユニバーサルプライマーがあるとする。このユニバーサルプライマーを使って新たに11種類目の生物についてDNA解離パターンを得て、既に確認されている10種類の生物から得られたDNA解離パターンと照合する。その結果、11種類目の生物のDNA解離パターンが、先に得られている10種類の生物と識別できるとき、当該ユニバーサルプライマーは、11種類目の生物の識別にも利用しうるユニバーサルプライマーとして選択される。そして、11種類目の生物のDNA解離パターンを前記工程(2)のマスターパターンとして追加する。次いで12種類目の生物を被検生物として前記工程(1)〜(4)を繰り返すことができる。このようにして、11種類目、12種類目、そして13種類目へと、ユニバーサルプライマーによって識別できる生物の種類を拡大していくことができる。
【0053】
あるいは本発明は、前記ユニバーサルプライマーを利用した生物の判別方法を提供する。すなわち本発明は、次の工程を含む生物の判別方法に関する。
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、前記配列番号:1〜配列番号:13に示されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程;
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、複数種の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物のゲノムDNAを鋳型として(1)および(2)と同じ工程によって得られたDNA解離パターンであり;、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンとマスターパターンが一致したときに、前記被検生物が当該マスターパターンを示す生物と同一であることが示される工程。
この方法は、被検生物と被検生物との比較に用いる生物との同一性を決定するための方法である。すなわち、被検生物の同定方法に他ならない。本発明において、ユニバーサルプライマーの塩基配列は、好ましくは配列番号:14〜配列番号:28のいずれかから選択することができる。
【0054】
あるいは本発明によって、被検生物がマスターパターンを与えた生物とは異なることを明らかにすることができる。すなわち本発明は、次の工程を含む生物の判別方法に関する。
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、前記配列番号:1〜配列番号:13に示されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程;
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、複数種の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物のゲノムDNAを鋳型として(1)および(2)と同じ工程によって得られたDNA解離パターンであり;、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンとマスターパターンが一致しないときに、前記被検生物が当該マスターパターンを示す生物と同一でないことが示される工程
この方法は、被検生物と被検生物との比較に用いる生物との同一性を否定するための方法である。具体的には、たとえば、ある米について、その品種が、特定の品種A、B、およびCのいずれかであるのか、それ以外であるのかを明らかにする方法である。この例では、もしも被検生物(ある米)から得られたDNA解離パターンが、品種A、B、およびCのDNA解離パターンのいずれとも一致しないとき、「ある米」の品種が、品種A、B、およびCのいずれでもないことが示される。本発明において、ユニバーサルプライマーの塩基配列は、好ましくは配列番号:14〜配列番号:28のいずれかから選択することができる。
【0055】
本発明においては、ゲノム(genome)を有するあらゆる生物体を判定の対象とすることができる。すなわち、ウイルス、ウイロイド、ファージ、リケッチア、マイコプラズマ、細菌、真菌、酵母、植物、および動物は、本発明における生物に含まれる。本発明において判定の対象とされる動物は、好ましくは、たとえば非ヒト動物である。植物や動物などに属する多細胞生物においては、多細胞生物に由来する組織や細胞も、本発明における生物に含まれる。更に、植物や動物細胞のような、減数分裂を行う細胞においては、減数分裂によって生じた生殖細胞が含むゲノムも、本発明におけるゲノムに含まれる。本発明における生物は、その由来を問わない。したがって、天然に存在する生物に加え、人工的に誘導された生物も、本発明における生物に含まれる。
【0056】
ここに例示した生物にはゲノムサイズの小さなものも含まれる。本発明の判別方法によって判別することができる生物は、好ましくは、5kb以上のゲノムサイズを有する生物である。たとえば5kb〜10Mbのゲノムサイズのウイルス、ファージ、あるいは細菌は、本発明によって判定することができる。
【0057】
また本発明におけるゲノムの複製とは、当該ゲノムが単独で複製を行う場合に加え、他の複製機構に依存して複製される場合も含む。たとえば、ウイルスのような細胞内寄生体のゲノムは、宿主細胞の複製機構に依存して複製される。あるいは、ミトコンドリア、および葉緑体などの細胞内小器官が有するゲノムも同様に、複製を細胞自身の核内ゲノムの複製機構に依存している。これらのウイルスや細胞内小器官のゲノムも、本発明におけるゲノムに含まれる。
【0058】
本発明の判定方法において、核内ゲノム、あるいは細胞内小器官のゲノムは、両者が混在した状態であっても、個別に抽出されたゲノムであっても解析対象とすることもできる。一般に細胞からゲノムDNAを抽出するときには、細胞内の全てのDNAが抽出される。このように混合状態で調製されたゲノムは、本発明における判定方法の試料とすることができる。更に、細胞内寄生体のゲノムを判定するときには、宿主細胞のゲノムと、当該寄生体のゲノムとが混在したままであっても判定用の試料とすることができる。あるいは超遠心分離などの公知の手法によって、細胞内寄生体のゲノムを分離することもできる。
【0059】
本発明において、生物が有するゲノムとは、当該生物の生存、あるいは複製に必要な遺伝情報を含む核酸を言う。ゲノムの「複製」とは、当該ゲノムが有する遺伝情報を含む複製物の生成を言う。ゲノムの遺伝情報は、通常、その全てが複製物に伝えられる。なお「複製」は、必ずしもゲノムの全塩基配列の、完全なコピーを意味しない。ゲノムの「複製」においては、オリジナル−複製物の間の塩基配列情報の相違は起こりうる。たとえば動物の染色体の複製におけるテロメア領域の短縮が知られている。あるいは、複製において誤った塩基が取り込まれる、いわゆる複製エラーも起こりうる。このような塩基配列情報の変動を伴う場合も、ゲノムの遺伝情報が全体として複製されている場合には、ゲノムの複製と言う。
【0060】
ゲノムは、生物の生存、あるいは複製に必要な遺伝情報の全てを含む。複製を宿主の複製機構に依存する場合であっても、何らかのメカニズムによって、結果として複製を達成することができるゲノムは、複製に必要な遺伝情報を含んでいると言える。たとえば、一般に、ウイルスは、タンパク質の翻訳機構を宿主細胞に依存する。しかしゲノムの複製と新たなウイルス粒子の再構成に必要な遺伝情報はウイルス自身が備えている。したがって、ウイルスは本発明における生物に含まれる。更に、生存や複製に必須ではない付加的な遺伝情報を含む核酸も、本発明におけるゲノムに含まれる。ゲノムは、RNA、DNA、あるいはDNA-RNAハイブリッドであることもできる。
更に、本発明においては、解析対象であるゲノムの由来は制限されない。たとえば、細胞から抽出されたゲノムのみならず、ベクターに保持されたゲノムDNAを解析対象とすることもできる。具体的には、YACやBACにクローニングされたゲノムDNAを対象として本発明を実施することもできる。
【0061】
生物のゲノムは、必要に応じて細胞などの生物組織から抽出され、本発明による生物の判定方法のための試料とすることができる。たとえば、真核細胞からのゲノムDNAの抽出方法が公知である。すなわち、真核細胞あるいは真核生物の組織は、まず必要に応じてホモジェナイズされる。次いでプロティナーゼKで処理することで、タンパク質を分解する。このとき、EDTAなどのキレート剤を加えておくことで、DNaseによるゲノムDNAの分解が抑制される。更にSDSなどの界面活性剤を加えて、変性タンパク質や細胞膜を可溶化する。最終的に、フェノールで共存するタンパク質を抽出し、DNAが水相(aqueous phase)に回収される。水相中のゲノムDNAは、エタノール沈殿によって更に精製することができる。
【0062】
たとえば、生物組織から抽出した生物のゲノムからDNAを回収し、本発明による生物の判定方法のための試料とすることができる。フィルターにDNAをトラップさせてDNAを回収する方法や、磁気ビーズを使った回収方法によって、ゲノムからDNAを抽出することができる。市販の自動核酸精製装置(例えば、BioRobot EZ1 Workstation, 株式会社キアゲン)やDNA Tissue kitsを用ることもできる。自動核酸精製装置を用いずDNAを抽出する場合は、菌体をRNaseで処理後、SDSを加え、更にプロティナーゼKを加えてインキュベートする。その後、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールを加えて、震盪混和させ、遠心する。遠心後上清を回収し、エタノール沈澱によってDNAを精製し、実験に用いる。
【0063】
本発明においては、被検試料に由来するゲノムDNAを鋳型として、本発明のユニバーサルプライマーによる相補鎖合成が行われる。以下に、本発明における相補鎖合成の工程について、具体的な条件を示す。
本発明におけるユニバーサルプライマーのアニーリングのための温度は、プライマーのTmよりも高い温度であることが好ましい。たとえば、プライマーのTmに対して、5℃〜15℃高い温度をアニーリングのための温度として利用することができる。より具体的には、たとえば、8〜20塩基からなるプライマーを用いる場合、25℃〜60℃、より具体的には37℃〜50℃の範囲をアニーリングのための温度とすることができる。この条件では、プライマーとゲノムDNAの間にミスマッチがあってもアニーリングが起こり、増幅が行われる。
なお一般的なPCRにおいては、プライマーのTmに対して5℃程度低い温度をアニーリング条件とすることが推奨されている。通常、PCR法は、20塩基以上の長いオリゴヌクレオチドが利用されるため、42℃〜70℃(PCR実験マニュアル、駒野徹編、学会出版センター)、より一般的な条件としては55℃以上のアニーリング温度が利用されることが多い。
【0064】
プライマーのTm(℃)は、たとえば、その塩基配列を構成する塩基の数に基づいて、Wallaceの式"2(A+T)+4(G+C)"にしたがって求めることができる(Thein and Wallace, The use ofsynthetic oligo-nucleotide as specific hybridization probes in the diagnosis of genetic disorders. In human genetic deseases: A practical approach, ed. KE Davies, pp33-50. IRL Press, Oxford, UK)。Wallaceの式によって、1MのNaCl溶液中におけるTmが求められる。
【0065】
一般に、プライマー依存性の相補鎖合成反応においては、プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの凝集が、相補鎖合成反応を阻害すると言われている。したがって、オリゴヌクレオチドの凝集を防ぐことができる温度が、反応に適していると考えられている。オリゴヌクレオチドのアニーリングの特異性を維持するためにも、たとえば70℃以上の高温をアニーリングのための温度として採用されるのが一般的である。しかし本発明においては、原則として反応に必要なプライマーは単一である。そのため、低い温度においてもオリゴヌクレオチドの間の凝集は起こりにくい。
【0066】
一方、ユニバーサルプライマーの伸長反応のための条件は、DNAポリメラーゼの至適条件とすることができる。たとえばDNAポリメラーゼとして次のような酵素を用いるとき、至適条件はそれぞれ次のとおりである。当業者は、これらのDNAポリメラーゼにかかわらず、本発明に利用しうるDNAポリメラーゼを選択し、そのための至適条件を設定することができる。
AmpliTaq Gold DNA polymerase:至適温度75℃、至適pH 9
(アプライドバイオシステムズ社の商品名)
ファストスタートDNA polymerase:至適温度75℃、至適pH 9
(ロッシュダイアグノスティクス社の商品名)
Ex Taq DNA polymerase:至適温度75℃、至適pH 9
(タカラバイオ社の商品名)
【0067】
本発明において、増幅産物の解離温度が解析される。したがって、核酸は、解離温度の解析を可能とする量まで増幅される。具体的には、たとえば1〜500ng程度の核酸を鋳型とするとき、通常10サイクル以上、たとえば10〜70サイクル、好ましくは30〜70サイクルで、解離温度解析に十分な量のDNAを与える。ここで、1サイクルは、通常、鋳型となる2本鎖DNAの変性、鋳型となるDNAとユニバーサルプライマーのアニーリング、およびDNAの伸長反応からなる。
【0068】
本発明の判定方法においては、相補鎖合成反応の後、DNA産物の解離パターンが解析される。先に述べたとおり、本発明におけるDNA解離パターンは、解離温度の集合を含む。したがって、DNA解離パターンは、解離温度解析によって得ることができる。具体的には、合成産物を含む溶液の温度を段階的に上昇させて、DNAの1本鎖への解離をインターカレーターの蛍光強度の変化によって検出することができる。合成産物を構成するDNAの解離温度が近いときには、蛍光強度の変化は連続的に起きる。一方、解離温度が異なるDNAを含む場合には、蛍光強度の変化は、断続的である。このような解離温度情報の多様性が、本発明においては、生物の種類に固有のDNA解離パターンとして利用される。
【0069】
DNA解離パターンは、種々の方法によって比較することができる。たとえば、蛍光強度の変化をグラフ化し、その形の同一性を評価することができる。あるいは、蛍光強度の変化を微分曲線として表した「DNA解離パターン」の比較によって、DNA解離パターンを比較することもできる。DNA解離パターンの比較に基づくDNA解離パターンの照合は、本発明において好ましい。DNA解離パターン(微分曲線)においては、DNAの1本鎖への解離に伴う蛍光強度の急激な変化が、ピークとして示される。このピークの形を比較することによって、DNA解離パターンの同一性を評価することができる。DNA解離パターンは、たとえば次のような特徴によって識別することができる。これらの特徴について、具体的に説明する。
(1) 相補鎖合成の産物に起因するDNA解離パターンの変化
(2) DNA解離パターンにおけるピークの数
(3) DNA解離パターンにおけるピークの温度
(4) DNA解離パターンにおけるピークの形
【0070】
(1) 相補鎖合成の産物に起因するDNA解離パターンの変化
相補鎖合成を開始すると、合成産物の蓄積に伴って、蛍光強度が上昇する。蛍光強度は2本鎖を形成したDNAの生成量に依存する。したがって、合成産物の長さと数の違いが、蛍光強度の差となって示される。
【0071】
(2) DNA解離パターンにおけるピークの数
DNA解離温度解析において、合成産物を構成するDNAの中に解離温度の違いが大きいものが混在するとき、蛍光強度の変化が段階的に起きる。その結果、複数の分離したピークがDNA解離パターン上に現れる。つまりDNA解離パターンのピークの数は、合成産物を構成するDNAの中の、DNA解離温度の違うDNAの種類を表す場合があると考えることができる。ただし、合成産物が電気泳動上で単一バンドを形成していても、ピークが二つに分かれることを発明者らは確認している。
【0072】
(3) DNA解離パターンにおけるピークの温度
DNA解離パターン上のピークを生じたときの温度は、合成産物を構成するDNAの解離温度に対応する。解離温度の違いは、2本鎖を形成したDNAの長さ、あるいは塩基配列やGC含量の違いを示す。したがって、ピークにおける温度の違いは、合成産物を構成するDNAの重要な特徴の一つである。通常、ピークの頂点の温度が±0.8℃以内、好ましくは±0.25℃以内のとき、両者の解離温度は同じと判断することができる。
【0073】
(4) DNA解離パターンにおけるピークの形
合成産物を構成するDNAには、近いDNA解離温度を有するものも含まれる可能性がある。DNA解離温度が近いと1本鎖への解離にともなう蛍光強度の変化が連続的に起こる。その結果、DNA解離パターンのピークの形に特徴的な変化を与える場合がある。たとえば、DNA解離温度が明確に異なるDNAの混合物であれば、DNA解離パターンには、各DNAの解離温度において分離したピークが観察されるはずである。しかしDNA解離温度が近いDNAの間では、ピークが分離しなくなる。具体的には、複数のピークが連続して表れたり、なだらかな曲線を形成する場合もある。このような特徴的な形は、合成産物の特徴として利用できる。ピークの形についても、±1℃以内、好ましくは±0.25℃以内に同じ形が見られるとき、両者のピークの形状は同じと判断することができる。
【0074】
DNA解離パターンの同一性を数学的に、あるいはソフトウエアによって評価することもできる。たとえば、まず、比較の対象とする温度範囲において、基準とするDNA解離パターン(マスターパターン、あるいは対照パターン)との差の許容範囲を、一定の幅(エリア)として、『許容誤差率』(permissible error rate; %表示)を設定する。そして、被検試料のDNA解離パターンが、全温度範囲のうち、どの程度の温度帯で、対照パターンの許容誤差率の幅の中に収まっているかを評価し同一性が判定される。このような評価指標を「一致率(concordance rate)」(あるいは「エリアキープ率(area keep rate)」)と呼ぶ。一致率による評価は、人の目視による判定に近い結果を得ることができる。『一致率』を算出するための式として、次の式を利用することができる。
(蛍光微分値(y軸)許容誤差率の範囲内に入ったデータ数)÷(設定された温度範囲内の全データ数)(%表示)
本発明において、一致率を評価するための解離温度解析の温度範囲は、たとえば一般的な細菌においては、通常70℃〜90℃、好ましくは80℃〜95℃の範囲を示すことができる。あるいは抗酸菌の判別においては、通常80℃〜95℃、好ましくは85℃〜95℃の範囲が利用される。更に本発明における許容誤差率とは、各ポイントのマスターデータの微分値の誤差率を指す。ここでマスターデータとは、マスターパターンを構成する各測定データを言う。許容誤差率は、たとえば3〜20%、好ましくは5〜15%、より具体的には、たとえば約10%である。許容誤差率を10%とすることにより、多くの解離温度データの解析が効率的に行えることを本発明者らは確認している。
【0075】
こうして算出された波形一致率が、75%以上、通常80%以上、好ましくは90%以上のとき、2つのDNA解離パターンは同一と判定することができる。更にDNA解離パターンの同一性の判定においては、一次微分によって得られたDNA解離パターンのみならず、DNA解離パターンの傾きの二次微分値を同様の評価方法によって比較することもできる。以上のような評価方法によって、DNA解離パターンの同一性が確認されたとき、被検生物との比較に用いる生物と、被検生物の同一性が示される。あるいは逆にDNA解離パターンの同一性が否定されたときに、被検生物との比較に用いる生物と被検生物とは異なる生物であることが示される。『波形一致率』を算出するための式として、次の式を利用することができる。
(蛍光微分値(y軸)許容誤差率の範囲内に入ったデータ数)÷(設定された温度範囲内の全データ数)(%表示)
【0076】
本発明のユニバーサルプライマーを使って得られるマスターパターンは、生物の判別の指標として有用である。すなわち本発明は、次の工程を含む、生物の判別のためのマスターパターンの作成方法を提供する。加えて本発明は、下記の工程によって作成されたマスターパターンを提供する。
(1)被検生物のゲノムDNAを鋳型として、前記配列番号:1〜配列番号:13に示されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定し、前記生物のマスターパターンとする工程;
前記ユニバーサルプライマーの塩基配列は、好ましくは配列番号:14〜配列番号:28のいずれかから選択することができる。
本発明のマスターパターンの作成方法において、ユニバーサルプライマーは、単一あるいは複数を用いることができる。したがって、単一のユニバーサルプライマーで、多くの生物についてマスターパターンを作成することができる。このようにして得られたマスターパターンのライブラリーは、当該ユニバーサルプライマーを使った生物の判定方法において、マスターパターンとして利用することができる。
あるいは、複数のユニバーサルプライマーのそれぞれについて、複数の生物のマスターパターンを作成することもできる。このようにして、マスターパターンライブラリーを伴った、ユニバーサルプライマーのライブラリーとすることができる。ゲノムDNAを鋳型とする相補鎖合成の条件と、そのDNA産物の解離パターンを得る方法は既に述べたとおりである。マスターパターンは、1回の解析結果に基づいて作成することもできる。あるいは複数回の解析結果の平均値に基づいてマスターパターンを作成することもできる。複数回の解析結果に基づいてマスターパターンを作成するときには、DNA解離パターンの「ばらつき」を評価することもできる。
【0077】
本発明においては、被検生物のDNA解離パターンと前記マスターパターンの比較によって、両者の同一性が判定される。マスターパターンは、単一であっても良い。あるいは、複数種のマスターパターンを利用することもできる。単一のマスターパターンを使う場合には、被検生物がある生物種であるかどうかを判別することができる。複数種のマスターパターンを用いれば、マスターパターンが用意された生物の中の、どの生物と同一なのかを明らかにすることができる。
【0078】
更にマスターパターンは、被検生物の解析にあたって、ネットワークを介して入手することもできる。たとえば、被検生物を解析しようとする者(user)は、ネットワークを介して、被検生物のDNAの増幅に使ったプライマーの情報を、マスターパターンのproviderに伝える。一方、マスターパターンのproviderは、予め種が明らかな多くの生物について、種々のプライマーを使ってマスターパターンを蓄積している。userの求めに応じて、蓄積されたマスターパターンの中から、解析に必要なマスターパターンを選択し、userに提供することができる。
【0079】
加えて本発明は、上記の工程によって作成された少なくとも1つのマスターパターンを含むデータベースを提供する。本発明におけるデータベースは、好ましくは、複数のマスターパターンを含む。たとえば、本発明によって提供されたユニバーサルプライマーの全てについて、上記の方法によって得られたDNA解離パターンをマスターパターンとして蓄積したデータベースは、本発明における好ましいデータベースである。マスターパターンを得るための生物種の種類は限定されない。したがって、複数の生物種のそれぞれについて、本発明によって提供されたユニバーサルプライマーの全てによって得られたマスターパターンを含むデータベースは、本発明のデータベースに含まれる。
【実施例】
【0080】
多様な菌種を検出することができるユニバーサルプライマー(配列番号:14および21)について例示する。表2に記載された検体と上記ユニバーサルプライマーを用いて合成反応を行った。まず、それぞれの菌種のマスターパターンを得るために、表2に記載された検体についてそれぞれ2回ずつ合成反応を行い、合成されたDNA産物の解離パターンをGenopattern analyzer GP1000(商品名;ヤマト科学株式会社)を用いて二重測定し、その平均をマスターパターンとした。次に、同様の操作を繰り返して、得られた結果を検体データとした。なお、それぞれの菌種のマスターパターンと検体データを得るために用いた検体は同一である。すなわち、同じ検体について、DNAの抽出、プライマーによる合成、そしてDNA解離パターン解析を別々に行って、両者の結果を照合した。二重測定の結果得られたマスターパターンと検体データのDNA解離パターンを図1および図2に示す。
【0081】
また、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンの同一性を数学的に評価するために、ソフトウエア「GenoMaster software」(商品名;G&Gサイエンス株式会社)を用いて解析した。解析結果を表3および表4に示す。各々のセルに記載された数字がマスターパターンと検体データの一致率であり、一致率が80%以上のセルは二重線で囲った。一致率が80%以上の場合はマスターと検体が同一であるとし、2つ以上のマスターパターンと80%以上の一致率を示した検体については、菌種の判定を不可とした。DNA解離パターンは各々の検体に固有であるため、表2に記載された検体すべてを判別することができる。
以下に合成反応の条件と結果をまとめた。
【0082】
・反応組成
ジェノパターン バッファーI* 25 μl
Primer(36μM) 5 μl
DNA polymerase 0.5μl
検体DNA (100ng/μl) 1 μl
Dw 17.5μl
Total 50 μl
*ジェノパターン バッファーI(商品名)はG&Gサイエンス株式会社が販売している商品である。
【0083】
[表1]
・反応条件

(ア)1〜3:DNA増幅段階
(イ)4〜5:DNA解離温度曲線測定、解析段階(波形生成過程)、蛍光強度同時測定
【0084】
[表2]
・検体リスト

表中、NBRC No.は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation ; NITE)の生物資源部門(Biological Resource Center)の株番号である。またNBRC No.の欄にTを含むものは、その菌株の基準株であることを示す。基準株とは、その種の命名の際に基準として用いられた培養株である。
【0085】
合成反応に用いたユニバーサルプライマーと、DNA解離パターンおよび解析結果の対応関係は次のとおりである。図中に、検体微生物のNBRC株番号を記載した。表中の株番号は、基準株を表すTを省略して記載した。
ユニバーサルプライマー DNA解離パターン 解析結果
配列番号:14(FAH-25-16) 図1 表3
配列番号:21(GP_R62) 図2 表4
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
表3および表4から明らかなように、同じ微生物では高度に一致するDNA解離パターンが得られた。一方、微生物が異なる場合には、それぞれのDNA産物の解離パターンの一致率は著しく低かった。以上の結果より、配列番号:14(FAH-25-16)、あるいは配列番号:21(GP_R62)のユニバーサルプライマーを用いれば、13属の菌種の判別が可能であることが確認された。
【0089】
多様な菌種を検出することができるユニバーサルプライマー(配列番号:15、16、17、18、20、24、25および28)について例示する。表6に記載された検体と上記ユニバーサルプライマーを用いて合成反応を行った。まず、それぞれの菌種のマスターパターンを得るために、表6に記載された検体についてそれぞれ8回ずつ合成反応を行い、合成されたDNA産物の解離パターンをGenopattern analyzer GP1000(商品名;ヤマト科学株式会社)を用いて8連(octuplicate)測定し、その平均をマスターパターンとした。8連測定とは、8つのウエルで同じ反応を同時に行ってDNA解離パターンを得ることを言う。次に、同様の操作を繰り返して、得られた結果を検体データとした。なお、それぞれの菌種のマスターパターンと検体データを得るために用いた検体は同一である。すなわち、同じ検体について、DNAの抽出、プライマーによる合成、そしてDNA解離パターン解析を別々に行って、両者の結果を照合した。8連測定の結果得られたマスターパターンと検体データのDNA解離パターンを図3から図10に示す。
【0090】
また、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンの同一性を数学的に評価するために、ソフトウエア「GenoMaster software」(商品名;G&Gサイエンス株式会社)を用いて解析した。解析結果を表7−1から表14−2に示す。各々のセルに記載された数字がマスターパターンと検体データの一致率であり、一致率が80%以上のセルは二重線で囲った。一致率が80%以上の場合はマスターと検体が同一であるとし、2つ以上のマスターパターンと80%以上の一致率を示した検体については、菌種の判定を不可とした。DNA解離パターンは各々の検体に固有であるため、表6に記載された検体すべてを判別することができる。
以下に合成反応の条件と結果をまとめた。
【0091】
・反応組成
ジェノパターン バッファーI* 15 μl
Primer (18μM) 5 μl
DNA polymerase 0.3μl
検体DNA (60ng/μl) 1 μl
Dw 8.7μl
Total 30 μl
*ジェノパターン バッファーI(商品名)はG&Gサイエンス株式会社が販売している商品である。
【0092】
[表5]
・反応条件

・反応条件
(ア)1〜3:DNA増幅段階
(イ)4〜5:DNA解離温度曲線測定、解析段階(波形生成過程)、蛍光強度同時測定
【0093】
[表6]
・検体リスト

表中、NBRC No.は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation ; NITE)の生物資源部門(Biological Resource Center)の株番号である。またNBRC No.の欄にTを含むものは、その菌株の基準株であることを示す。基準株とは、その種の命名の際に基準として用いられた培養株である。
【0094】
合成反応に用いたユニバーサルプライマーと、DNA解離パターンおよび解析結果の対応関係は次のとおりである。図中に、検体微生物のNBRC株番号を記載した。表中の株番号は、基準株を表すTを省略して記載した。
ユニバーサルプライマー DNA解離パターン 解析結果
配列番号:15(GP_R19) 図3 表7−1〜表7−2
配列番号:16(GP_R29) 図4 表8−1〜表8−2
配列番号:17(GP_R42) 図5 表9−1〜表9−2
配列番号:18(GP_R50) 図6 表10−1〜表10−2
配列番号:20(GP_R59) 図7 表11−1〜表11−2
配列番号:24(FAH25-9) 図8 表12−1〜表12−2
配列番号:25(FAH25-12) 図9 表13−1〜表13−2
配列番号:28(GP-R24) 図10 表14−1〜表14−2
【0095】
【表7−1】

【0096】
【表7−2】

【0097】
【表8−1】

【0098】
【表8−2】

【0099】
【表9−1】

【0100】
【表9−2】

【0101】
【表10−1】

【0102】
【表10−2】

【0103】
【表11−1】

【0104】
【表11−2】

【0105】
【表12−1】

【0106】
【表12−2】

【0107】
【表13−1】

【0108】
【表13−2】

【0109】
【表14−1】

【0110】
【表14−2】

【0111】
以上の8つのユニバーサルプライマーを用いることで、様々な属の菌種について、安定したピークを形成するDNA解離パターンを確認した。また、各々のDNA解離パターンは多様性を示しており、それぞれの検体について、多様な菌種を検出することが可能となった。すなわち、これらのユニバーサルプライマーは本実験で使った検体に固有のDNA解離パターンを与えた。さらに、これらのユニバーサルプライマーは、表6に例示した以外の菌種でも十分に安定したDNA解離パターンを形成し、属間の菌種を判別することができる。
【0112】
ユニバーサルプライマー(配列番号:25、14、24、15、16、26、17、18、および21)について例示する。これらのユニバーサルプライマーを用いて合成されたDNA産物の解離パターンは、目視レベルで再現性のある特徴的なピークを形成する。表16−1および表16−2に記載された検体と上記ユニバーサルプライマーを用いて合成反応を行った。まず、それぞれの菌種のマスターパターンを得るために、表16−1および表16−2に記載された検体についてそれぞれ2回ずつ合成反応を行い、合成されたDNA産物の解離パターンをOpticon2(商品名;BIO-RAD)を用いて二重測定し、その平均をマスターパターンとした。次に、同様の操作を繰り返して、得られた結果を検体データとした。なお、それぞれの菌種のマスターパターンと検体データを得るために用いた検体は同一である。すなわち、同じ検体について、DNAの抽出、プライマーによる合成、そしてDNA解離パターン解析を別々に行って、両者の結果を照合した。二重測定の結果得られたマスターパターンと検体データのDNA解離パターンを図11aから図19cに示す。DNA解離パターンは各々の検体に固有であるため、表16−1および表16−2に記載された検体すべてを判別することができる。
以下に合成反応の条件と結果をまとめた。
【0113】
・反応組成
ジェノパターン バッファーI* 25 μl
Primer(36μM) 5 μl
DNA polymerase 0.5μl
検体DNA (100ng/μl) 1 μl
Dw 17.5μl
Total 50 μl
*ジェノパターン バッファーI(商品名)はG&Gサイエンス株式会社が販売している商品である。
【0114】
[表15]
・反応条件

(ア)1〜3:DNA増幅段階
(イ)4〜5:DNA解離温度曲線測定、解析段階(DNA解離パターン解析モード)、蛍光強度同時測定。
【0115】
[表16−1]
・検体リスト

【0116】
[表16−2]

表中、NBRC No.は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation ; NITE)の生物資源部門(Biological Resource Center)の株番号である。またNBRC No.の欄にTを含むものは、その菌株の基準株であることを示す。基準株とは、その種の命名の際に基準として用いられた培養株である。
【0117】
合成反応に用いたユニバーサルプライマーと、DNA解離パターンの対応関係は次のとおりである。図中に、検体微生物のNBRC株番号を記載した。
ユニバーサルプライマー DNA解離パターン
配列番号:25(FAH25-12)) 図11a〜図11c
配列番号:14(FAH25-16) 図12a〜図12c
配列番号:24(FAH25-9) 図13a〜図13c
配列番号:15(GP_R19) 図14a〜図14c
配列番号:16(GP_R29) 図15a〜図15b
配列番号:26(GP_R32) 図16a〜図16c
配列番号:17(GP_R42) 図17a〜図17c
配列番号:18(GP_R50) 図18a〜図18c
配列番号:21(GP_R62) 図19a〜図19c
【0118】
以上の9つのユニバーサルプライマーを用いることで、様々な属の菌種について、安定したピークを形成するDNA解離パターンを確認した。また、各々のDNA解離パターンは多様性を示しており、それぞれの検体について、多様な菌種を検出することが可能となった。すなわち、これらのユニバーサルプライマーは本実験で使った検体に固有のDNA解離パターンを与えた。さらに、これらのユニバーサルプライマーは、表16−1および表16−2に例示した以外の菌種でも、十分に安定したDNA解離パターンを形成し、属間の菌種を判別することができる。
【0119】
主に、植物の種を判別することができるユニバーサルプライマー(配列番号:19、20、22、および23)について例示する。表18に記載された検体と上記ユニバーサルプライマーを用いて合成反応を行った。まず、それぞれの植物種のマスターパターンを得るために、表18に記載された検体についてそれぞれ2回ずつ合成反応を行い、合成されたDNA産物の解離パターンをOpticon2(商品名;BIO-RAD)を用いて二重測定し、その平均をマスターパターンとした。次に、同様の操作を繰り返して、得られた結果を検体データとした。なお、それぞれの植物種のマスターパターンと検体データを得るために用いた検体は同一である。すなわち、同じ検体について、DNAの抽出、プライマーによる合成、そしてDNA解離パターン解析を別々に行って、両者の結果を照合した。二重測定の結果得られたマスターパターンと検体データのDNA解離パターンを図20aから図23bに示す。
【0120】
また、DNA解離パターンと検体データの同一性を数学的に評価するために、ソフトウエア「GenoMaster software」(商品名;G&Gサイエンス株式会社)を用いて解析した。解析結果を表19−1から表22−2に示す。各々のセルに記載された数字がマスターパターンと検体データの一致率であり、一致率が80%以上のセルは二重線で囲った。一致率が80%以上の場合はマスターと検体が同一であるとし、2つ以上のマスターパターンと80%以上の一致率を示した検体については、植物種の判定を不可とした。DNA解離パターンは各々の検体に固有であるため、表18に記載された検体すべてを判別することができる。
以下に合成反応の条件と結果をまとめた。
【0121】
・反応組成
ジェノパターン バッファーII* 15 μl
Primer 5 μl
DNA polymerase 0.3μl
検体DNA (100ng/μl) 1 μl
Dw 8.7μl
Total 30 μl
*ジェノパターン バッファーII(商品名)はG&Gサイエンス株式会社が販売している商品である。
【0122】
[表17]
・反応条件

(ア)1〜3:DNA増幅段階
(イ)4〜5:DNA解離温度曲線測定、解析段階(DNA解離パターン解析モード)、蛍光強度同時測定。
【0123】
[表18]
・検体リスト

【0124】
合成反応に用いたユニバーサルプライマーと、DNA解離パターンおよび解析結果の対応関係は次のとおりである。
ユニバーサルプライマー DNA解離パターン 解析結果
配列番号:19(GP_R52) 図20a〜図20b 表19−1〜表19−2
配列番号:20(GP_R59) 図21a〜図21b 表20−1〜表20−2
配列番号:22(GP_R40_16) 図22a〜図22b 表21−1〜表21−2
配列番号:23(GP_R43_16) 図23a〜図23b 表22−1〜表22−2
【0125】
【表19−1】

【0126】
【表19−2】

【0127】
【表20−1】

【0128】
【表20−2】

【0129】
【表21−1】

【0130】
【表21−2】

【0131】
【表22−1】

【0132】
【表22−2】

【0133】
以上の4つのユニバーサルプライマーを用いることで、様々な植物種について安定したピークを形成するDNA解離パターンを確認した。また、各々のDNA解離パターンは多様性を示しており4つのプライマーを用いることで、それぞれの検体について、種を判別することが可能である。表18に例示した以外の植物種でも、十分に安定したDNA解離パターンを形成し、多くの植物種を判別することができる。
【0134】
ユニバーサルプライマー(配列番号:27)を用いて、菌種を判別し種を同定することができるか実験を行った。4種類の抗酸菌(M.avium, M.intracellulare, M.kansasii, M.gordonae)の基準株と2種類の抗酸菌(M.aviumM.kansasii)の臨床株を検体として、このユニバーサルプライマー用いて合成反応を行った。まず、それぞれの菌種のマスターパターンを得るために、上記検体についてそれぞれ2回ずつ合成反応を行い、合成されたDNA産物の解離パターンについてOpticon2(商品名;BIO-RAD)を用いて二重測定し、その平均をマスターパターンとした。次に、同様の操作を繰り返して、得られた結果を検体データとした。なお、それぞれの菌種のマスターパターンと検体データを得るために用いた検体は同一である。すなわち、同じ検体について、DNAの抽出、プライマーによる合成、そしてDNA解離パターン解析を別々に行って、両者の結果を照合した。二重測定の結果得られたマスターパターンと検体データのDNA解離パターンを図24に示す。
【0135】
また、マスターパターンと検体データの同一性を数学的に評価するために、ソフトウエア「GenoMaster software」(商品名;G&Gサイエンス株式会社)を用いて解析した。解析結果を表24に示す。各々のセルに記載された数字がマスターパターンと検体データの一致率であり、一致率が80%以上のセルは太線で囲った。一致率が80%以上の場合はマスターと検体が同一であるとし、2つ以上のマスターパターンと80%以上の一致率を示した検体については、菌種の判定を不可とした。DNA解離パターンは各々の検体に固有であるため、上記検体すべてを判別することができる。
以下に合成反応の条件を示す。
【0136】
・反応組成
ジェノパターン バッファーIII* 15 μl
Primer 5 μl
DNA polymerase 0.3μl
検体DNA (100ng/μl) 1 μl
Dw 8.7μl
Total 30 μl
*ジェノパターン バッファーIII(商品名)はG&Gサイエンス株式会社が販売している商品である。
【0137】
[表23]
・反応条件

(ア)1〜3:DNA増幅段階
(イ)4〜5:DNA解離温度曲線測定、解析段階(DNA解離パターン解析モード)、蛍光強度同時測定。
【0138】
[表24]

(i)マスターパターンと検体との比較
M.avium由来の臨床株11株に関して、比較検討を行った。これら菌株は予め16S rRNA領域とsod遺伝子領域の塩基配列を決定し、菌種を同定した後に検体として用いた。
【0139】
[表25]
(ii)(i)で使用したマスターパターンとM.avium由来の臨床株との比較

同様にM.kansasii由来の臨床株20株に関して、比較検討を行った。これら菌株は予め16S rRNA領域とsod遺伝子領域の塩基配列を決定し、菌種を同定した後に検体として用いた。
【0140】
[表26]
(iii)(i)で使用したマスターパターンとM.kansasii由来の臨床株との比較

【0141】
以上の結果より、このプライマーを用いれば4菌種の抗酸菌を判別することができた。さらに、M.avium及びM.kansasii由来の臨床株の同定が可能であったことから、種の同定も可能である。他の菌種についても、種の同定が可能であると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は生物の判別に有用なユニバーサルプライマーを提供した。本発明のユニバーサルプライマーは、(1)複数の生物のゲノムを鋳型として相補鎖合成産物を与える。更に本発明のユニバーサルプライマーは、(2)ユニバーサルプライマーによって得られた合成産物は鋳型としたゲノムが由来する生物に固有のDNA解離パターンを与える。本発明によって提供されるユニバーサルプライマーは、たとえば、微生物の判別に利用することができる。具体的には、病原性微生物の判別は、疾患の診断や治療において重要な情報を与える。あるいは食品として流通する動植物組織の判別によって、表示や基準にしたがった生物に由来する食品であることを試験することができる。
【0143】
本発明のユニバーサルプライマーを利用すれば、特に、好ましい態様において、単一のプライマーによって、複数の生物のDNA解離パターンを得ることができる。このことは、単一のプライマーによる1度の解析結果に基づいて、当該生物を判別できることを意味している。具体的には、仮に比較対象とする生物が10種類あるとする。これらの生物からは、共通のユニバーサルプライマーによって、それぞれ固有のDNA解離パターンを得ることができる。同様にして、判定すべき生物についても同じユニバーサルプライマーを使ってDNA解離パターンを得て、比較対象とする10種類の生物のそれと照合することができる。照合の結果、もしもDNA解離パターンが一致する生物があれば、被検生物がその生物と同じであることが判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】配列番号:14のユニバーサルプライマーと表2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図2】配列番号:21のユニバーサルプライマーと表2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図3】配列番号:15のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図4】配列番号:16のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図5】配列番号:17のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図6】配列番号:18のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図7】配列番号:20のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図8】配列番号:24のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図9】配列番号:25のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図10】配列番号:28のユニバーサルプライマーと表6に記載された検体を用いた8連測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に70℃から100℃までの温度を示す。
【図11a】配列番号:25のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図11b】図11aの続きを示す図である。
【図11c】図11bの続きを示す図である。
【図12a】配列番号:14のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図12b】図12aの続きを示す図である。
【図12c】図12bの続きを示す図である。
【図13a】配列番号:24のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図13b】図13aの続きを示す図である。
【図13c】図13bの続きを示す図である。
【図14a】配列番号:15のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図14b】図14aの続きを示す図である。
【図14c】図14bの続きを示す図である。
【図15a】配列番号:16のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図15b】図15aの続きを示す図である。
【図16a】配列番号:26のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図16b】図16aの続きを示す図である。
【図16c】図16bの続きを示す図である。
【図17a】配列番号:17のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図17b】図17aの続きを示す図である。
【図17c】図17bの続きを示す図である。
【図18a】配列番号:18のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図18b】図18aの続きを示す図である。
【図18c】図18bの続きを示す図である。
【図19a】配列番号:21のユニバーサルプライマーと表16−1および表16−2に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図19b】図19aの続きを示す図である。
【図19c】図19bの続きを示す図である。
【図20a】配列番号:19のユニバーサルプライマーと表18に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図20b】図20aの続きを示す図である。
【図21a】配列番号:20のユニバーサルプライマーと表18に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図21b】図21aの続きを示す図である。
【図22a】配列番号:22のユニバーサルプライマーと表18に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図22b】図22aの続きを示す図である。
【図23a】配列番号:23のユニバーサルプライマーと表18に記載された検体を用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。
【図23b】図23aの続きを示す図である。
【図24】配列番号:27のユニバーサルプライマーと4種類の抗酸菌を検体として用いた二重測定の結果得られた、マスターパターンと検体データのDNA解離パターンを示す図である。グラフは縦軸が蛍光強度変化の微分値を、横軸が左端から右端に60℃から100℃までの温度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマー;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' 。
【請求項2】
ユニバーサルプライマーを構成する塩基の数が、6〜30である請求項1に記載の生物の判別用ユニバーサルプライマー。
【請求項3】
次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む請求項1に記載の生物の判別用ユニバーサルプライマー;
配列番号:14/ 5'-ATATGTATTCTGCACG-3' (プライマー名:FAH25-16)、
配列番号:15/ 5'-AAAACTTCGTGCC-3' (プライマー名:GP_R19)、
配列番号:16/ 5'-GGCGGGTTCATCA-3' (プライマー名:GP_R29)、
配列番号:17/ 5'-TAGATCCTGCGCC-3' (プライマー名:GP_R42)、
配列番号:18/ 5'-CCTTCAGGTCTGC-3' (プライマー名:GP_R50)、
配列番号:19/ 5'-CCTGAGGGAGCAC-3' (プライマー名:GP_R52)、
配列番号:20/ 5'-GCCGACGCCAGCC-3' (プライマー名:GP_R59)、
配列番号:21/ 5'-GGAAGGTCCCAGA-3' (プライマー名:GP_R62)、
配列番号:22/ 5'-ATGTGGCTGCCGCACC-3' (プライマー名:GP_R40-16)、
配列番号:23/ 5'-ACGACCAGGCGGCTCG-3' (プライマー名:GP_R43-16)、
配列番号:24/ 5'-TAGTTATTCGCCG-3' (プライマー名:FAH25-9)、
配列番号:25/ 5'-ATGTAGTTCGCCG-3' (プライマー名:FAH25-12)、
配列番号:26/ 5'-TATGAACTCGAAG-3' (プライマー名:GP-R32)、
配列番号:27/ 5'-GGTTAGATCCTGCGCC-3' (プライマー名:GP-R42-16) 、および
配列番号:28/ 5'-GCGCTTTGACCGA-3' (プライマー名:GP-R24)。
【請求項4】
次の要素を含む、生物判別用キット;
i) 次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマー;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
ii) i)に記載のいずれかのユニバーサルプライマーを使って作成された少なくとも1つのマスターパターン;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物のゲノムDNAを鋳型として、ユニバーサルプライマーで合成されたDNA産物の解離パターンである。
【請求項5】
複数の生物に由来するそれぞれのゲノムDNAを鋳型として作成された、複数種のマスターパターンを含む、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
次の工程を含む生物の判別方法;
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程、
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、少なくとも1種類の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物由来のゲノムDNAを鋳型として(1)および(2)と同じ工程によって得られたDNA産物の解離パターンであり、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンとマスターパターンが一致したときに、前記被検生物が当該マスターパターンを示す生物と同一であることが示される工程。
【請求項7】
次の工程を含む生物の判別方法;
(1) 被検生物のゲノムDNAを鋳型として、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定する工程;
(3) (2)で得られたDNA解離パターンと、少なくとも1種類の生物のマスターパターンを比較する工程;ここでマスターパターンとは、被検生物との比較に用いる生物由来のゲノムDNAを鋳型として(1)と同じ工程によって得られたDNA解離パターンであり;、そして
(4) (2)で得られたDNA解離パターンとマスターパターンが一致しないときに、前記被検生物が当該マスターパターンを示す生物と同一でないことが示される工程。
【請求項8】
次の工程を含む、生物判別用マスターパターンの作製方法;
(1)被検生物のゲノムDNAを鋳型として、次の群から選択されるいずれかの塩基配列を3'末端に含む生物の判別用ユニバーサルプライマーでDNAを合成する工程;
配列番号:1/ 5'-TGCACG-3'、
配列番号:2/ 5'-CGTGCC-3'、
配列番号:3/ 5'-TCATCA-3'、
配列番号:4/ 5'-TGCGCC-3'、
配列番号:5/ 5'-GTCTGC-3'、
配列番号:6/ 5'-GAGCAC-3'、
配列番号:7/ 5'-CCAGCC-3'、
配列番号:8/ 5'-CCCAGA-3'、
配列番号:9/ 5'-CGCACC-3'、
配列番号:10/ 5'-GGCTCG-3'、
配列番号:11/ 5'-TCGCCG-3'、
配列番号:12/ 5'-TCGAAG-3'、および
配列番号:13/ 5'-GACCGA-3' ;
(2) (1)で合成されたDNA産物の解離パターンを決定し、前記生物のマスターパターンとする工程。
【請求項9】
共通のユニバーサルプライマーによって複数の被検生物のゲノムDNAのそれぞれについてDNA解離パターンを決定する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法によって決定されたマスターパターン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【図15a】
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【図15b】
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【図16a】
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【図16b】
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【図16c】
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【図17a】
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【図17b】
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【図17c】
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【図18a】
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【図18b】
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【図18c】
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【図19a】
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【図19b】
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【図19c】
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【図20a】
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【図20b】
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【図21a】
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【図21b】
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【図22a】
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【図22b】
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【図23a】
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【図23b】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−154460(P2008−154460A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343534(P2006−343534)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(399077674)G&Gサイエンス株式会社 (21)
【出願人】(000114891)ヤマト科学株式会社 (17)
【出願人】(301037213)独立行政法人製品評価技術基盤機構 (25)
【Fターム(参考)】