説明

生物処理改善用製剤およびこれを使用する生物処理の改善方法

【課題】生物処理に関わる諸問題に対して、短期間に、かつ、効果的に改善することができる生物処理改善用製剤とそれを使用する生物処理の改善方法を提供すること。
【解決手段】生物処理改善用製剤は廃水の生物処理を改善するものである。この生物処理改善用製剤は、生物処理で形成される生物膜の剥離を促進させる作用を有する剥離促進物質を含有する。前記剥離促進物質は、細菌の培養液から菌体を除去した残液、無機塩類、糖類および水を混合したものを所定の期間静置することにより調製される物質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の工場から排出される廃水の生物処理を安定的に維持管理するために使用する、廃水の生物処理改善用製剤、およびこの生物処理改善用製剤を使用した生物処理の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、化学または製紙等種々の産業分野の工場から排出される廃水は、水質汚濁防止法に定められた排水基準を満たすように廃水処理されなければならない。このような廃水処理の方法として世界中で数多く採用されているものとしては、微生物を利用して廃水処理、すなわち、生物処理を行う生物処理法が挙げられる。
【0003】
生物処理法には、微生物が働く環境の相違により幾つかの方法があり、酸素の利用の有無により、好気性処理と嫌気性処理とに分かれる。また、生物処理法には、微生物を汚泥水中に浮遊懸濁状態で存在させて生物処理を行う浮遊生物法や、生物膜濾材の担体の表面に微生物からなる生物膜を形成させ、この生物膜に汚泥水を接触させて生物処理を行う生物膜法(固着生物法)がある。浮遊生物法の一例としては活性汚泥法が挙げられ、生物膜法の一例としては接触酸化法が挙げられる。
【0004】
生物処理法は、廃水中の汚濁物質を微生物に分解させるものであるが、微生物による処理性能を維持するための管理が必須である。生物処理法は多くの工場に採用されている方法であるが、日常的に様々な不調が起こることは、廃水処理の管理者や廃水処理プラントメーカー等、廃水処理に関わる者にとっては周知の事実である。廃水の生物処理における管理については、例えば、非特許文献1に詳しく記載されている。
【0005】
前記活性汚泥法による生物処理では、廃水における汚泥の沈降性不良、糸状菌の発生、発泡または季節変動等に起因する処理能力の低下が頻繁に起こる。それらの不調に対する対策の一つとして、汚泥中の汚濁物質の分解を促進する微生物、分解酵素その他微生物を活性化させる成分を含有する液体または粉体からなる生物処理改善用製剤を添加することが行われている。
【0006】
また、有機性廃水の生物処理法としては、従来、微生物付着粒子を散在させた処理液を曝気することにより循環流動化させ処理液中の有機物を減少させる、いわゆる流動床式の処理装置が多用されている。前記微生物付着粒子は、珪藻土等からなる担体と、この担体の周囲の生物膜とからなるものであり、微生物付着粒子の表面に酸素および有機物が効率よく接触することで廃水の浄化作用が行われる。
【0007】
このような廃水処理装置は、廃水の量の変化、有機物の濃度のばらつき、汚泥転換率の高い有機物の増加または曝気の操作不良等により微生物が過度に担体に付着して微生物付着粒子が肥大化し、その結果、微生物付着粒子の流出による生物膜面積の減少や微生物付着層内部の嫌気化による生物処理の効率低下および悪臭の発生等を来たすという問題があった。
【0008】
そこで、生物膜の厚さを適切に維持して微生物付着粒子の肥大化を回避すべく、生物膜の厚さが一定の厚さ以上の微生物付着粒子の生物膜を生物膜剥離装置により剥離するようにしている。生物膜剥離装置としては、装置の内部室が駆動水により低圧となり混合される水エジェクターや、撹拌翼が高速で回転する撹拌機等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】千種薫著 「図説 微生物による水質管理」産業用水調査会出版 1996年
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3250042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したような生物処理改善用製剤を添加することで汚泥中の汚濁物質の分解を促進したり微生物を活性化させる方法では、生物処理の能力の改善効果を発揮するまでに長い期間(例えば数週間〜2ヶ月)がかかることが多く生物処理の能力の改善に必ずしも有効でなかった。
また、微生物付着粒子の肥大化を回避するために生物膜剥離装置を設ける方法では、その分、処理装置が大型化する上、高価なものとなってしまう。
【0012】
また、活性汚泥法には標準活性汚泥法の他に膜分離活性汚泥法(Membrane Bioreactor)(以下「MBR」という。)と呼ばれる方法があり、このMBRは、処理された水と活性汚泥との分離を精密濾過膜または限外濾過膜により行っている。近年、MBRによる処理装置を採用する施設が増加している。MBRによる処理装置の濾過膜は、その表面に微生物や懸濁物質等が付着して積層することで汚れを生じることが分かっている。このような汚れを除去する方法として、化学洗浄と物理洗浄とによる洗浄方法が挙げられるが、これらの方法は高コストであり、MBRの普及を妨げる一因となっている。
【0013】
MBRによる処理装置の濾過膜の汚れを除去するその他の方法としては、活性汚泥に凝集剤を添加することが知られている。しかしながら、活性汚泥に凝集剤を過度に添加すると生物処理の能力低下等の悪影響が出るので、凝集剤の使用量には一定の制限がある。そのため、MBRによる処理装置の濾過膜の汚れを除去する方法として、凝集剤を添加することは必ずしも有効な方法とはなっていない。
【0014】
本発明の目的は、このような問題を解消するためになされたもので、上述したような生物処理に関わる諸問題に対して、短期間に、かつ、効果的に廃水の生物処理を改善することができる生物処理改善用製剤およびこれを使用する生物処理の改善方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明に係る生物処理改善用製剤は、廃水の生物処理を改善する生物処理改善用製剤において、生物処理で形成される生物膜の剥離を促進させる作用を有する剥離促進物質を含有することを特徴とするものである。
【0016】
請求項2に記載した発明に係る生物処理改善用製剤は、請求項1に記載の生物処理改善用製剤において、前記剥離促進物質が、セルラーゼまたはジアスターゼ等の多糖分解酵素であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項3に記載した発明に係る生物処理改善用製剤は、請求項1に記載の生物処理改善用製剤において、前記剥離促進物質が、細菌の培養液から菌体を除去した残液、無機塩類、糖類および水を混合したものを所定の期間静置することにより調製される物質であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載した発明に係る生物処理改善用製剤は、請求項3に記載の生物処理改善用製剤において、前記無機塩類が、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムであることを特徴とするものである。
【0019】
請求項5に記載した発明に係る生物処理の改善方法は、請求項1ないし請求項4のうち何れか一つに記載の生物処理改善用製剤を、廃水を貯留して生物処理を行うための貯留槽に貯留された廃水に添加することを特徴とするものである。
【0020】
請求項6に記載した発明に係る生物処理の改善方法は、請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記生物処理の方法が活性汚泥法であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項7に記載した発明に係る生物処理の改善方法は、請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記生物処理の方法が生物膜法であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項8に記載した発明に係る生物処理の改善方法は、請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記生物処理の方法が膜分離活性汚泥法であることを特徴とするものである。
【0023】
請求項9に記載した発明に係る生物処理の改善方法は、請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記貯留槽が浄化槽であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、生物処理改善用製剤を、生物処理で形成される生物膜の剥離を促進させる作用を有する剥離促進物質を含有するものとしたので、この生物処理改善用製剤を使用することで、廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができ、さらに、従来のような生物膜剥離装置を設ける方法と比べて処理装置の大型化や高額化を回避することができる。
【0025】
請求項2記載の発明によれば、剥離促進物質が、セルラーゼまたはジアスターゼ等の多糖分解酵素であるので、剥離促進物質を安価に得ることができ、延いては生物処理改善用製剤を安価に提供することができる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、前記剥離促進物質が、細菌の培養液から菌体を除去した残液、無機塩類、糖類および水を混合したものを所定の期間静置することにより調製される物質であるので、剥離促進物質を安価に得ることができ、延いては生物処理改善用製剤を安価に提供することができる。また、生物処理改善用製剤による生物処理の改善効果を一層向上させることができる。
【0027】
請求項4記載の発明によれば、前記無機塩類が、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムであるので、前記剥離促進物質を安価に得ることができ、延いては生物処理改善用製剤を安価に提供することができる。また、生物処理改善用製剤による生物処理の改善効果を一層向上させることができる。
【0028】
請求項5記載の発明によれば、生物処理改善用製剤を、廃水を貯留して生物処理を行うための貯留槽に貯留された廃水に添加することで、廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【0029】
請求項6記載の発明によれば、活性汚泥法による廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【0030】
請求項7記載の発明によれば、生物膜法による廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【0031】
請求項8記載の発明によれば、膜分離活性汚泥法による廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【0032】
請求項9記載の発明によれば、生物処理改善用製剤を、廃水を貯留して生物処理を行うための浄化槽に貯留された廃水に添加することで、該廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
上述した生物処理に関わる諸問題の根本的な原因は、微生物同士が互いに強く付着し合うことにある。この原因を取り除くためには、微生物同士が互いに強く付着し合う力を弱めれば良く、そのためには、生物膜の剥離を促進させる作用を有する物質(以下「剥離促進物質」という。)を廃水中に添加するのが有効である。そこで、この剥離促進物質を含有する製剤(以下「生物処理改善用製剤」という。)を調製して、生物処理の施設にて試用することにより本発明を完成させた。
【0034】
生物処理の場合、担体の表面に形成される生物膜の厚さが数mm以上になることも多いが、この膜厚のうち好気性の膜厚領域は生物膜の表面から僅か数百μmである。すなわち、担体に付着している生物膜の膜厚のうち、好気性処理を有効的に行っている部位は生物膜の表面側の層領域だけであり、生物膜の過度の肥厚は無用である。生物膜の肥厚化は、剥離促進物質の作用により、微生物の付着力を弱めて生物膜を剥離させることで回避できる。
【0035】
また、MBRによる処理装置の濾過膜の汚れに対しても、濾過膜の表面に積層する微生物や懸濁物質等が互いに強く付着し合う付着力を弱めて微生物や懸濁物質等で形成された生物膜を剥離させることで濾過膜の汚れが抑制される。
【0036】
前記活性汚泥法による生物処理では、浮遊微生物が活性汚泥中にフロックと呼ばれる塊状の集合体として通常、存在する。フロックの大きさは、条件により様々であるが、1mm以上のフロックが活性汚泥中に数多く存在する。上述した生物処理における生物膜の場合と同様にフロックにおける好気性の生物膜の膜厚領域はフロックの表面から数百μmであり、それより内部は好気性ではない。
【0037】
また、フロックは廃水中に散在する懸濁物質等を捕捉する機能を有する。フロックにより捕捉された懸濁物質等は微生物により分解され好気性処理されるか、または、捕捉されたまま余剰汚泥として排出される。このような懸濁物質等の好気性処理には酸素が必要である。この酸素としては廃水中に存在する溶存酸素で賄われるが、捕捉された懸濁物質等のうちフロックの内部に存在する懸濁物質等には、前記溶存酸素が到達しにくいため、該懸濁物質等の分解は非常に遅くなる。このようなフロック中で分解されずに残存する懸濁物質等は、活性汚泥法による生物処理には望ましくない糸状菌の栄養になると考えられ、廃水中での沈降性不良や処理水質不良の原因となる。
【0038】
フロック中の微生物同士の付着力を弱めて微生物や懸濁物質等で形成された生物膜を剥離させることで、微生物や懸濁物質等の間に隙間が生じ、その隙間を通って廃水中の溶存酸素がフロックの内部まで十分到達することができる。酸素が内部まで十分到達することにより、分解されずに残存していた懸濁物質等が分解され好気性処理が促進される。さらに、溶存酸素だけでなく溶解性の有機汚濁物質もフロックの内部に供給され、この有機汚濁物質がフロックの内部に存在する微生物により分解され好気性処理が行われ、フロック全体の好気性処理の能力が向上する。
【0039】
本実施の形態に係る剥離促進物質としては、酵素、キレート剤または界面活性剤等が挙げられる。酵素としては、セルラーゼまたはジアスターゼ等の多糖分解酵素が好ましく、リパーゼ等の油脂分解酵素を併用することもできる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸やイミノニ酢酸等のアミノポリカルボン酸およびそれらの塩が好ましい。
【0040】
さらに、以下のような工程にて調製された物質が、生物膜の剥離を促進させる作用を有することを確認した。すなわち、バチルス属の細菌を培養した培養液から菌体を除去した残液、無機塩類および糖類を水に溶解する。その後、その溶解水を所定の温度で屋内にて長期間静置して、剥離促進物質を含有する液体(以下「剥離促進液体」という。)を得る。剥離促進液体は、本発明の生物処理改善用製剤を構成する。
【0041】
前記バチルス属の細菌としては、例えば納豆菌、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)またはバチルス・プミルス(Bacillus pumilus)等が挙げられるが、人体上安全な菌であるなら何でも良くこれらの細菌に限らない。バチルス属の細菌を培養する培養液としては、酵母エキス、ポリペプトン、蛋白分解物もしくはコーンスティープリカー等から1種類と、ブドウ糖もしくはオリゴ糖等から1種類とをそれぞれ選んで組み合わせて用いることが好ましく、これらの成分の濃度としては、それぞれ適宜設定することができるが、それぞれ水1リットル当たり3〜10グラムが好ましい。
【0042】
前記バチルス属の細菌の培養液から菌体を除去するのは遠心分離機等で行い、菌体を除去した後の液体を水に溶解する場合の濃度としては、適宜設定することができるが、1〜20体積%であることが好ましい。前記無機塩類としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムが挙げられる。前記塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを水に溶解する場合の濃度としては、適宜設定することができるが、それぞれ0.005〜0.05重量%であることが好ましい。塩化ナトリウムとしては食塩や岩塩等を用いることができ、塩化ナトリウムを水に溶解する場合の濃度としては、適宜設定することができるが、0.01〜4.0重量%であることが好ましい。
【0043】
前記糖類としては、デキストリン、水飴、オリゴ糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、ブドウ糖、果糖または還元糖等のうち少なくとも何れか1つの糖類を用いることができ、水に溶解する場合の糖類の濃度としては、適宜設定することができるが、0.01〜1.0重量%であることが好ましい。
【0044】
前記長期間静置する場合の期間としては、好ましくは6ヶ月以上であるが、さらに好ましくは9ヶ月以上が望ましい。前記所定の温度としては、20〜30℃が好ましい。このようにして調製された剥離促進液体が、生物処理の施設で処理される廃水に添加された結果、生物膜の剥離を促進させる作用を有することを確認した。
【0045】
また、麸、木粉、ゼオライト粉末、珪藻土または堆肥等に前記剥離促進液体を含浸させたのち乾燥させて粉状または粒状に調製した粉体または粒体(以下「剥離促進粉粒体」という。)が、生物処理の施設で処理される廃水に添加された結果、生物膜の剥離を促進させる作用を有することも確認した。剥離促進粉粒体は、剥離促進物質を含有し、本発明の生物処理改善用製剤を構成する。
【0046】
前記剥離促進液体または前記剥離促進粉粒体は、以下のように使用することができる。工場等の廃水を処理する活性汚泥法、生物膜法またはMBR等の生物処理法を採用した好気性処理の施設や、メタン発酵槽または嫌気槽等の貯留槽による生物処理法を採用した嫌気性処理の施設で、廃水1000立方メートルに対して剥離促進液体または剥離促進粉粒体を0.1〜5キログラム用いることが好ましいが、さらに好ましくは0.5〜2.0キログラム用いるのが望ましい。
【0047】
剥離促進液体を廃水に添加する場合は、例えば、廃水を貯留する曝気槽等の貯留槽に1日分を一度に添加しても良いし、ゆっくり連続的に加えてもよい。一方、剥離促進粉粒体を廃水に添加する場合は、例えば、曝気槽等の貯留槽に1日分を一度に添加しても良いし、数回に分けて添加してもよい。
【0048】
このような方法により、活性汚泥法、生物膜法またはMBR等の好気性処理の施設における諸問題を改善することができる。また、嫌気性処理においても、メタン発酵や嫌気性の分解を促進することができる。また、剥離促進液体または剥離促進粉粒体は、浄化槽等の貯留槽に添加しても同様の効果を奏することができる。
【0049】
上述したような生物処理改善用製剤によれば、生物処理改善用製剤を、生物処理で形成される生物膜の剥離を促進させる作用を有する剥離促進物質を含有するものとしたので、この生物処理改善用製剤を使用することで、廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができ、さらに、従来のような生物膜剥離装置を設ける方法と比べて処理装置の大型化や高額化を回避することができる。
【0050】
また、剥離促進物質が、セルラーゼまたはジアスターゼ等の多糖分解酵素である場合は、剥離促進物質を安価に得ることができ、延いては生物処理改善用製剤を安価に提供することができる。
【0051】
また、前記剥離促進物質が、細菌の培養液から菌体を除去した残液、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、糖類および水を混合したものを所定の期間静置することにより調製される物質である場合は、剥離促進物質を安価に得ることができ、延いては生物処理改善用製剤を安価に提供することができる。また、生物処理改善用製剤による生物処理の改善効果を一層向上させることができる。
【0052】
また、生物処理改善用製剤を、廃水を貯留して生物処理を行うための貯留槽に貯留された廃水に添加することで、該廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【0053】
また、生物処理改善用製剤を使用することで、活性汚泥法、生物膜法および膜分離活性汚泥法による廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【0054】
さらにまた、生物処理改善用製剤を、廃水を貯留して生物処理を行うための浄化槽に貯留された廃水に添加することで、該廃水の生物処理の改善を短期間に、かつ、効果的に行うことができる。
【実施例1】
【0055】
(剥離促進液体の調製方法)
バチルス属の細菌としては納豆菌を使用し、この培養液として酵母エキスおよびブドウ糖を使用する。バチルス属の細菌の培養液から菌体を遠心分離機で除去した後の残液と塩化マグネシウム10グラムと塩化カルシウム10グラムと塩化ナトリウム1キログラムと蔗糖200グラムとを水90リットルに溶解させる。その後、その溶解液を6ヶ月間、屋内で20〜30℃の温度下で静置して剥離促進液体を得る。
【実施例2】
【0056】
(剥離促進液体の、固定床担体を設置した生物濾過による施設での適用)
前記(実施例1)で調製した剥離促進液体を、化学工場における生物濾過による施設の処理装置に使用する。この処理装置は、廃水量が1日当たり5000立方メートルで、廃水の生物化学的酸素要求量が廃水1リットル当たり500ミリグラムである。前記処理装置は、調整槽および3基の生物濾過槽を備え、処理される廃水が調整槽を経て3基の生物濾過槽に流入し、これら3基の生物濾過槽で好気性処理が行なわれるものである。前記調整槽および3基の生物濾過槽は、それぞれ本願の請求項5に係る発明の貯留槽を構成する。
【0057】
前記(実施例1)で調製した剥離促進液体を、1日当たり5リットルを連続的に調整槽に添加した。剥離促進液体の添加開始後3〜7日の間に、3基の生物濾過槽それぞれの上部水面に多量の浮遊物が浮上した。この浮遊物は、生物濾過槽の固定床担体に付着していた微生物が固定床担体から剥離したものである。その後、浮遊物の浮上は殆ど見られなかった。剥離促進液体の添加を開始して約7日経過してから、好気性処理の能力に速やかな回復が見られた。
【0058】
すなわち、剥離促進液体を添加する前は、3基の生物濾過槽の固定床担体が全て微生物の付着により肥厚化して好気性処理の能力が著しく低下し、悪臭が発生していたが、剥離促進液体を添加したことで、固定床担体の肥厚化や悪臭の発生を改善することができ、好気性処理の能力を回復することができた。
【実施例3】
【0059】
(剥離促進液体の、標準活性汚泥法による生物処理の施設での適用)
前記(実施例1)で調製した剥離促進液体を、食品工場における標準活性汚泥法による生物処理の施設の処理装置に使用する。この処理装置は、廃水量が1日当たり400立方メートルで、廃水の生物化学的酸素要求量が廃水1リットル当たり600ミリグラムである。前記処理装置は沈殿槽および曝気槽を備え、処理される廃水が沈殿槽を経て曝気槽に流入し、この曝気槽で標準活性汚泥法による生物処理が行なわれるものである。前記沈殿槽および曝気槽は、それぞれ本願の請求項5に係る発明の貯留槽を構成する。前記沈殿槽では汚泥が排水中で十分に沈降せず沈降不良が発生し、汚泥中には多量の糸状菌が観察された。
【0060】
前記沈降不良の発生は特に冬期が著しかった。沈降不良のため、沈殿槽から曝気槽への汚泥の流出が頻繁に発生していた。このときの沈殿槽における廃水の活性汚泥沈殿率(SV)はSV30で99%、SV60で97%であった。なお、SV30とは、廃水を1リットルのメスシリンダーに1リットル入れ、30分間静置した後の沈殿汚泥の容積(ミリリットル)の割合(%)を示すものである。SV60とは、静置する時間を60分とするものである。
【0061】
前記(実施例1)で調製した剥離促進液体を、1日当たり0.5リットルを連続的に沈殿槽に添加した。剥離促進液体の添加を開始した後3〜10日の間に、沈殿槽で発泡が発生し、10日目以降は汚泥の沈降性が徐々に改善された。剥離促進液体の添加を開始して2週間が経過した後の前記SV30は94%で前記SV60は89%に改善され、沈殿槽からの汚泥の流出は殆ど発生しなくなった。その後も沈降性の改善が続き、1ヶ月後のSV30は88%でSV60は78%になった。
【実施例4】
【0062】
(剥離促進液体の、MBRによる処理装置への適用)
前記(実施例1)で調製した剥離促進液体を、病院におけるMBRによる施設の処理装置に使用する。この処理装置は、廃水量が1日当たり120立方メートルで、廃水の生物化学的酸素要求量が廃水1リットル当たり1000ミリグラムである。この処理装置は沈殿槽、曝気槽および膜分離槽を備え、処理される廃水が沈殿槽を経て曝気槽に流入したのち該曝気槽を経て膜分離槽に流入し、この膜分離槽で活性汚泥と処理水との分離が行なわれるものである。前記沈殿槽、曝気槽および膜分離槽は、それぞれ本願の請求項5に係る発明の貯留槽を構成する。
【0063】
膜分離槽の濾過膜による濾過は水頭の圧力で行なわれる。濾過膜の汚れによる濾過水量の減衰が激しく、2ヶ月に一度の割合で濾過膜を膜分離槽内から外部に取り出して物理的な洗浄と化学的な洗浄とを行なう必要があった。これらの洗浄を行って濾過膜を膜分離槽に再び設置した後に、前記(実施例1)で調製した剥離促進液体を、1日当たり0.1リットルを毎日、膜分離槽内に添加して生物処理を行った。この結果、濾過膜の汚れによる濾過水量の減衰が半年間殆ど見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水の生物処理を改善する生物処理改善用製剤において、生物処理で形成される生物膜の剥離を促進させる作用を有する剥離促進物質を含有することを特徴とする生物処理改善用製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の生物処理改善用製剤において、前記剥離促進物質が、セルラーゼまたはジアスターゼ等の多糖分解酵素であることを特徴とする生物処理改善用製剤。
【請求項3】
請求項1に記載の生物処理改善用製剤において、前記剥離促進物質が、細菌の培養液から菌体を除去した残液、無機塩類、糖類および水を混合したものを所定の期間静置することにより調製される物質であることを特徴とする生物処理改善用製剤。
【請求項4】
請求項3に記載の生物処理改善用製剤において、前記無機塩類が、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムであることを特徴とする生物処理改善用製剤。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうち何れか一つに記載の生物処理改善用製剤を、廃水を貯留して生物処理を行うための貯留槽に貯留された廃水に添加することを特徴とする生物処理の改善方法。
【請求項6】
請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記生物処理の方法が活性汚泥法であることを特徴とする生物処理の改善方法。
【請求項7】
請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記生物処理の方法が生物膜法であることを特徴とする生物処理の改善方法。
【請求項8】
請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記生物処理の方法が膜分離活性汚泥法であることを特徴とする生物処理の改善方法。
【請求項9】
請求項5に記載の生物処理の改善方法において、前記貯留槽が浄化槽であることを特徴とする生物処理の改善方法。

【公開番号】特開2012−192395(P2012−192395A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83136(P2011−83136)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(503331757)
【Fターム(参考)】