説明

生物処理装置及び生物処理方法

【課題】廃棄物や廃水等の処理対象物中で消費されたり、残存したりしていたガスを回収することによって、ガスの回収量を増加させることができる生物処理装置および生物処理方法を提供する。
【解決手段】生物処理装置1は、被処理液体を生物処理してガスを発生させる生物処理槽3と、生物処理槽3の後段に配され、生物処理槽3内において発生したガスを透過する分離膜29を有するガス分離手段、及びガス分離手段の内部を減圧する減圧ポンプ7を備えるガス分離槽5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理液を生物処理により処理する生物処理装置及び生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農業、畜産業、水産業等における廃棄物や廃水、下水や下水汚泥等の処理するための技術として、これらを嫌気性微生物により生物処理する方法が開発され実用化されている。このような従来から用いられている生物処理装置及び方法では、廃棄物、廃水等に含まれる有機物は、嫌気性微生物により発酵させている。そして嫌気性微生物により有機物を発酵させると、最終的にメタン、二酸化炭素、アンモニア、水素ガス等が発生するので、これらのガスを処理するために、廃棄物や廃水等を処理するのと並行して、気相に放出されたガスを回収し、回収したガスからメタンガス等の特定のガスを分離することが行われている。
【0003】
このような生物処理装置及び方法において、廃棄物や廃水等から発生したガスから二酸化炭素を除去してメタンガスを濃縮、分離する方法としては、化学吸収法、物理吸収法、PSA(Pressure Swing Adsorption)法、分離膜を用いた分離法等が知られている。これら複数の方法のなかでも、分離膜を用いた分離法を採用することによって、システムを簡便に構成できること、及び装置を比較的小規模にできることが知られている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−53994号公報
【特許文献2】特開平4−177013号公報
【0005】
特許文献1には、嫌気性微生物の作用によってごみ埋立地から発生し気相に放出されたガスを回収して、二酸化炭素を通しやすい分離膜に該ガスを通してメタンガスを分離膜を用いて分離する方法が記載されている。
また、特許文献2には、嫌気性微生物による廃水処理によって発生し気相に放出されたメタンガスと炭酸ガスの混合ガスを回収し、さらに該混合ガスから分離膜を用いてメタンガスを分離して利用する装置が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生物処理方法や生物処理装置においては、嫌気性微生物により生成したガスを気相に放出し、これを回収するようになっているが、従来から用いられている生物処理方法や生物処理装置では、生成したガスが気相に放出されずに廃棄物、廃水、微生物集合体(すなわち生物膜)中に残存してしまい、生成したガスを十分に回収することができないという問題があった。このため、生物処理方法や生物処理装置におけるシステム全体のガス回収量を増大させることができず、エネルギー回収量を増大させることができなかった。
【0007】
そこで本発明では、廃棄物や廃水等の処理対象物中で消費されたり、残存したりしていたガスを回収することによって、ガスの回収量を増加させることができる生物処理装置および生物処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、被処理液体を生物処理により処理する生物処理装置であって、前記被処理液体を生物処理してガスを発生させる生物処理槽と、前記生物処理槽の後段に配され、前記生物処理槽内において発生したガスを透過する分離膜を有するガス分離手段及び前記ガス分離手段の内部を減圧する減圧手段を備えるガス分離槽とを有する。
【0009】
また、本発明は、被処理液を生物処理し、前記生物処理により発生するガスをガス分離手段を用いて被処理液体から分離する生物処理方法であって、前記ガス分離手段は、減圧手段を備えており、被処理液体が、所定の温度条件、以下になった場合にのみ、減圧手段を駆動させながらガス分離を行う。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、廃棄物や廃水等の処理対象物中で消費されたり、残存したりしていたガスを回収することによって、ガスの回収量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態による生物処理装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による生物処理装置及び生物処理方法について説明する。
【0013】
図1に示すように、生物処理装置1は、被処理液体を生物処理してガスを発生させるための生物処理槽3と、生物処理槽3で発生したガスを分離するためのガス分離槽5と、ガス分離槽5内を減圧するための減圧ポンプ7と、ガスを貯留するためのガス貯留部9とを備えている。
【0014】
生物処理槽3は、いわゆるUASB(Up-flow Anaerobic Sludge Blanket)リアクターである。必要に応じてその内部に、微生物が保持されている保持担体11を設けてもかまわない。被処理流体の温度が一定の温度を超えているときに被処理流体の温度を制御するための温度制御手段(冷却手段)13とを備えている。また、生物処理槽3は、被処理液体を内部に流入させるための生物処理槽流入口15と、生物処理を行った被処理液体を生物処理槽3からガス分離槽5に向けて排出するための生物処理槽流出口17と、生物処理によって発生したガスの一部をガス貯留部9に向けて排出するための生物処理槽ガス排出口19とを備えている。そして生物処理槽3は、生物処理槽流入口15から流入した被処理液体を、生物処理槽3内に保持されている微生物によって醗酵処理し、醗酵処理により発生したガスの一部は生物処理槽ガス排出口19を通じてガス貯留部9に排出する。また醗酵処理により発生したガスの一部が残存した被処理液体を、生物処理槽流出口17からガス分離槽5に向けて排出する。なお、本実施形態では微生物を保持担体に保持させているが、グラニュール化するなどして槽内に浮遊させておいてもよい。
【0015】
保持担体11としては、生物付着性の高い微生物担持機構を設けた担体を用いることができる。また、保持担体11としては、比表面積の高い多孔質体及び/又は微生物の付着し易い素材が用いられ、発泡プラスチックや炭素繊維などを用いることが好ましい。また保持担体11に、予め嫌気性微生物等の生物を付着させておいてもよい。
【0016】
冷却手段13としては、熱交換器や空冷ガス送風機などを用いることができる。このような冷却手段の設置位置は、生物処理槽3内部に限らず、生物処理槽流入口15付近を含む生物処理槽3を効率的に冷却できる箇所であればどのような位置であってもよい。
【0017】
ガス分離槽5は、生物処理槽流出口17と連結されたガス分離槽流入口21と、ガスが溶解されている被処理液体からガスを分離するためのガス分離手段23と、ガスが分離された被処理液体をガス分離槽5から排出するためのガス分離槽排出口25とを備えている。また、ガス分離槽5の上部は、ガスの再溶解を防止するため、密閉されていることが好ましい。
【0018】
ガス分離手段23は、ガスを透過する分離膜を有するものである。ガス分離手段としては、公知の分離膜モジュール(中空糸膜モジュール、平膜モジュール等)が挙げられるが、簡易に内部を減圧できる点、膜の比表面積が大きく充填率を高くできる点から、中空糸膜モジュールを用いることが好ましい。中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜29(分離膜)と集気管31とを備え、中空糸膜29の少なくとも一方の端部が集気管31に連通した状態で集気管31に固定されている。中空糸膜29の他方の端部は同様に集気管31に連通した状態で固定されたものでもよく、端部が封止されたものであってもよく、ループ状に折り返したものであってもよい。このようなガス分離手段23は、処理対象物に浸漬するように且つ、処理対象物の流れを妨げないように、例えば、ガス分離槽5の長手方向と略平行にようにガス分離槽5内に配置されている。
【0019】
また、分離膜としては、水分率の高い処理対象物を生物処理する場合であっても水分を含まないガスを分離、回収することが容易である点から、非透水性分離膜を用いることが好ましく、非透水性中空糸膜を用いることがより好ましい。非透水性中空糸膜としては、例えば、疎水素材からなる分離膜や、ガス透過性の非多孔質分離層を多孔質支持層で挟んだ三層構造膜が挙げられる。
【0020】
また、分離膜としては、水素、アンモニア、メタン等の有用なガスを高濃度で分離、回収することが容易になる点から、気体選択透過性分離膜を用いることが好ましく、気体選択透過性中空糸膜を用いることがより好ましい。気体選択透過性中空糸膜としては、例えば、ポリウレタン製の非多孔質分離層を有する三層構造膜等が挙げられる。
【0021】
中空糸膜29としては、水分率の高い処理対象物を生物処理する場合であっても水分を含まないガスを分離、回収することが容易である点から、非透水性中空糸膜を用いることが好ましく、生物処理装置において挙げたものと同じものが挙げられる。
【0022】
また、中空糸膜29としては、水素やメタン等の有用なガスを高濃度で分離、回収することが容易になる点から、気体選択透過性中空糸膜を用いることが好ましく、生物処理装置において挙げたものと同じものが挙げられる。
【0023】
減圧ポンプ7は、ガス分離手段23に減圧作用を及ぼすことができるものであれば特に限定されず、例えば、吸引ポンプによって構成されている。この減圧ポンプ7は、ガス分離手段23の集気管31に連結されており、中空糸膜29の内部を減圧して、被処理液体から分離されたガスを吸引するようになっている。
【0024】
ガス貯留部9は、減圧ポンプ7、生物処理槽ガス排出口19、及びガス分離槽ガス排出口27に連結されており、これらから流入したガスを回収し、貯留するようになっている。このガス貯留部9としては、分離、回収したガスを貯留できるものであれば特に限定されず、アルミバッグや圧力容器等を用いることができる。
【0025】
つぎに、上述した生物処理装置を用いた生物処理方法について説明する。
先ず、生物処理槽3内に処理対象物を入れ、処理対象物を生物処理し、ガスを発生させる。同時に、減圧ポンプ7を作動させてガス分離手段5内を減圧し、処理対象物中で発生したガスを透過して分離する。生物処理槽3の上部の生物処理槽ガス排出口19および減圧ポンプ7から排出されるガスは、ガス貯留部9に回収される。
【0026】
また、生物処理槽3の液温が所定の温度、即ち気相へのガスの発生量が被処理液中への溶解量を超える温度に達した場合、冷却手段13を稼動させて生物処理槽3内の液温を下げることによって、より好適に被処理液中からガスの回収を行うことができる。気相へのガス発生量は、ガスの種類や被処理液の有機物濃度や微生物の活性により適宜変化することから、冷却手段13を稼動させるか否かを判断するための温度は、ガスの種類、被処理液の勇気濃度、又は微生物の活性に応じて適宜設定される。実際の使用条件下においては、被処理液の有機物濃度やガス発生量のモニタリングにより温度条件を適宜変更することがより好ましい。また低温条件下でも生物処理が行われるように、低温条件下でも活性を有する微生物を利用することが好ましい。このように、生物処理槽3の液温が高い場合には冷却手段13を稼動させて液温を低下させることによって、気相へのガス発生がほとんど生じない温度条件下での運転が可能となる。そしてこれにより、実質的に気相からの再溶解を無くし、分離膜のみを用いて液中から発生ガスを回収できる。特に気相からガスを回収しない場合、ガスを回収するための手段が分離膜のみとなるため、装置の簡略化にも貢献する。また、冷却手段13を有しない場合でも、被処理液中のガス濃度が低い時は気相からのみ回収を行い、被処理液中のガス濃度が高い(すなわち、被処理液の液温が所定の温度以下)のときのみ、ガス分離手段23内を減圧する減圧ポンプ7を稼動させることが好ましい。このように、液温が所定の温度以下になったときのみに減圧ポンプ7を稼動させることによって、分離膜の減圧手段に必要なエネルギーロスを低減しつつシステム全体の回収効率を高めることができる。
【0027】
以上説明した生物処理装置1では、ガス分離手段が処理対象物に接触するようにガス分離槽に配置されているため、処理対象物中に残存していたガスを回収できる。また、以上説明した生物処理方法にあっては、ガス分離手段を前記処理対象物に接触させるため、処理対象物中に残存していたガスを回収できる。
【0028】
さらに、上述した生物処理装置1によれば、発生ガスの気相/液相への溶解を制御すること、または発生ガスの気相/液相への溶解に応じて処理方法を切り替えることによって効率的にバイオガスを回収することができる。すなわち、生物処理装置1は、気相へのガス発生がほとんど生じない温度条件下で運転可能に構成されているので、ガスが気相から再溶解することを防止することができ、さらに、液中に残留したバイオガスを後段で分離膜を用いて回収できる。このように気相からのガスの回収プロセスと液相からのガスの回収プロセスとを分離することで、各工程を最適化することができ、結果としてトータルの発生ガスの回収率の向上が期待できる。また、このようにガスの回収プロセスの後に液相からのガスの回収プロセスを行うようにすることで、前段の生物処理槽では気相回収し、後段の分離膜槽では液中から回収することが可能となり、効率的なシステム設計を行うことができる。
【0029】
さらに、被処理液の温度を制御する制御手段を設けることで、気相へのガス発生がほとんど生じない低温条件下での運転が可能となるため、実質的に分離膜のみを用いて液中から発生ガスを回収することも可能である。そして気相からガス回収しない場合、ガスを回収するための手段として分離膜があれば足りるので、装置を簡略化することができる。
【0030】
また、液中の発生ガス濃度が高い(すなわち、被処理液の液温が低温所定の温度以下)ときのみ分離膜を稼動することで、分離膜の減圧手段に必要なエネルギーロスを低減しつつ回収効率を高めることができる。
【0031】
また、分離膜として中空糸膜を用いることで、高集積かつ接触効率の良い分離膜モジュールが製作できる。さらに、中空糸膜がガス選択性を有することで回収したガス濃度の制御や精製も同時に行うことができる。
【符号の説明】
【0032】
1 生物処理装置
3 生物処理槽
5 ガス分離槽
7 減圧ポンプ
9 ガス貯留部
11 保持担体
13 冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液体を生物処理により処理する生物処理装置であって、
前記被処理液体を生物処理してガスを発生させる生物処理槽と、
前記生物処理槽の後段に配され、前記生物処理槽内において発生したガスを透過する分離膜を有するガス分離手段及び前記ガス分離手段の内部を減圧する減圧手段を備えるガス分離槽とを有する、生物処理装置。
【請求項2】
さらに、前記被処理液体の温度を所定の温度に制御する制御手段を有する、請求項1に記載の生物処理装置。
【請求項3】
被処理液体を生物処理により処理する生物処理装置であって、
被処理液を生物処理してガスを発生させる生物処理槽と、
前記被処理液の温度を制御する制御手段と、
前記ガスを透過する分離膜を有するガス分離手段と、
前記ガス分離手段の内部を減圧する減圧手段と有する、生物処理装置。
【請求項4】
前記温度制御手段は、前記生物処理槽内に設けられた冷却装置である、請求項2または3に記載の生物処理装置。
【請求項5】
前記ガス分離膜が非透水性中空糸膜である、請求項1〜4のいずれかに記載の生物処理装置。
【請求項6】
前記中空糸膜が気体選択透過性分離膜である、請求項5に記載の生物処理装置。
【請求項7】
被処理液を生物処理し、前記生物処理により発生するガスをガス分離手段を用いて被処理液体から分離する生物処理方法であって、
前記ガス分離手段は、減圧手段を備えており、被処理液体が、所定の温度条件、以下になった場合にのみ、減圧手段を駆動させながらガス分離を行う、生物処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−71110(P2013−71110A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214660(P2011−214660)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】