説明

生物処理装置

【課題】不純物の混入を防止して処理精度に優れると共に、ガスの拡散律速を排除して処理効率に優れる生物処理装置を提供すること。
【解決手段】微生物を担持した導電性担体からなり、被処理物を接触させて該微生物の代謝反応により生物処理する生物処理部21と、供給されたガスを電極分解して電位を生じるガス電極31とを備え、前記生物処理部21と前記ガス電極31とは電気的に接続されており、前記ガス電極31に供給された前記ガスの電極分解によって生じた電位を前記生物処理部21に印加して、前記微生物の代謝反応を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物処理装置に関し、詳しくは、被処理物を微生物の代謝反応により生物処理する生物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオガス中に含まれる硫化水素を硫黄酸化細菌によって脱硫処理する場合は、硫黄酸化細菌に対して、バイオガスと共に酸素を供給する必要があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−143781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学的な観点から見れば、微生物の代謝反応は、酸化還元反応として捉えることができ、特に酸素は、酸化還元電位が比較的高いが故に電子受容性に優れ、多くの代謝反応において、電気化学的なドライビングフォースとしての役割を果たしている。
【0005】
即ち、硫黄酸化細菌のような好気性微生物は、酸素を還元して得られる高いエネルギーを用いて、硫化水素のような処理対象の物質を酸化する代謝反応を進行させている。
【0006】
しかるに、引用文献1に記載の技術のように、硫黄酸化細菌に酸素を供給する場合、硫化水素の除去に必要な量だけの酸素を供給できればよいが、通常、バイオガス中における硫化水素の濃度は変動しており、この変動に追従するように供給酸素量を制御することは極めて困難である。
【0007】
その結果、過剰な酸素が供給されることにより、精製後のメタン中に不純物として酸素が混入する問題を生じる。
【0008】
さらに、酸素の拡散速度の限界により、硫黄酸化細菌への酸素の供給が追いつかなくなる場合があり、脱硫処理の処理効率が十分に得られない問題があった。
【0009】
上記の例では、微生物による代謝反応が、硫化水素の酸化反応である場合について説明したが、これらの問題は、この例のみに特有のものではない。
【0010】
例えば、酸素の存在を要求する代謝反応としては、窒素の硝化や、有機物の酸化分解など種々のものが知られており、これらは種々の生物処理技術に利用されている。
【0011】
あるいは、好気性微生物に限らず、嫌気性微生物の代謝反応においても、同様の問題が生じ得る。
【0012】
つまり、嫌気性微生物は、酸素に代えて、硫黄、窒素等の酸性酸化物、例えば硫黄酸化物(SO、SO、SO等のSOx)、窒素酸化物(NO、NO、NO等のNOx)等のガスを還元してエネルギーを得ている。得られるエネルギーは、酸素を還元した場合と比較すると低いものであるものの、嫌気性微生物は、少ないエネルギーによって発現可能な種々の独特な代謝反応を行う能力を有している。これらの代謝反応もまた、種々の生物処理技術に利用されている。
【0013】
そこで、本発明の課題は、不純物の混入を防止して処理精度に優れると共に、ガスの拡散律速を排除して処理効率に優れる生物処理装置を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
(請求項1)
微生物を担持した導電性担体からなり、被処理物を接触させて該微生物の代謝反応により生物処理する生物処理部と、
供給されたガスを電極分解して電位を生じるガス電極とを備え、
前記生物処理部と前記ガス電極とは電気的に接続されており、
前記ガス電極に供給された前記ガスの電極分解によって生じた電位を前記生物処理部に印加して、前記微生物の代謝反応を制御することを特徴とする生物処理装置。
【0017】
(請求項2)
前記生物処理部と前記ガス電極とは気液的に隔離されていることを特徴とする請求項1記載の生物処理装置。
【0018】
(請求項3)
前記生物処理部と前記ガス電極とを気液的に隔離する隔壁と、
前記生物処理部と前記ガス電極とを電気的に接続する通電手段とを備えることを特徴とする請求項2記載の生物処理装置。
【0019】
(請求項4)
前記通電手段は、前記隔壁を貫通して前記生物処理部と前記ガス電極とに接触していることを特徴とする請求項3記載の生物処理装置。
【0020】
(請求項5)
前記隔壁の少なくとも一部がイオン交換膜からなることを特徴とする請求項3又は4記載の生物処理装置。
【0021】
(請求項6)
前記ガスは空気であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の生物処理装置。
【0022】
(請求項7)
前記被処理物は、硫黄系化合物、窒素系化合物、炭化水素系化合物の何れか又は数種を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の生物処理装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、不純物の混入を防止して処理精度に優れると共に、ガスの拡散律速を排除して処理効率に優れる生物処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る生物処理装置の一例を示す概略断面図
【図2】ガス電極から対極にかけて形成される電位の勾配を示す図
【図3】本発明に係る生物処理装置の他の例を示す概略断面図
【図4】実施例の結果を示す図
【図5】実施例の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
微生物は、種々の代謝反応を行う能力を有しているが、これら代謝反応を進行させるためには、特定の条件(環境)を整える必要がある。
【0026】
電気化学的な観点から見ればその代謝反応は酸化還元反応であるため、電子受容体として特定の酸化還元電位を有するガスの存在が要求されることがある。
【0027】
例えば、硫黄酸化細菌は、電子受容体である酸素の存在下において、硫化水素を酸化して硫酸を生成する代謝反応を行う能力を有している。通常、酸素の非存在下においては、電子受容体が存在しないため、この代謝反応は進行しない。
【0028】
従来の生物脱硫では、例えばメタンと硫化水素とを含む被処理ガスと共に、酸素を供給して、硫黄酸化細菌の代謝反応により、硫化水素を硫酸に化学変化させて除去していた。
【0029】
このとき微生物の代謝反応に必要な量だけの酸素を供給できればよいが、過剰な酸素が供給されると、これらが処理後において不純物となるため、処理精度を損なう問題があったことは上述した。
【0030】
これに対して、本発明では、酸素等の特定のガスを、直接微生物に供給するのではなく、間接的に供給する。即ち、特定のガスから酸化還元電位のみを抽出して供給することにより微生物の代謝反応を制御する。
【0031】
特定のガスから酸化還元電位のみを抽出するために、本発明では、供給されたガスを電極分解するガス電極が用いられる。
【0032】
本明細書において、ガスの電極分解とは、ガスがガス電極から電子を受け取る還元反応か、あるいは、ガスがガス電極に電子を与える酸化反応により、ガスが分解されることを指す。
【0033】
かかるガスの電極分解に伴って、ガスの酸化還元電位に相当する電位が、ガス電極に生じる。
【0034】
一例として、ガス電極に、ガスとして酸素が供給された場合、下記反応式に示す通り、酸素はガス電極から電子を受け取る還元反応により分解され、水を生じる。
+4H+4e→2H
【0035】
この還元反応に伴って、1.23V(vs.SHE)の電位が、ガス電極に生じることになる。
【0036】
ガスは、その種類によって特定の酸化還元電位を有しているため、ガス電極に生じる電位は、ガス電極に供給されるガスの種類によって特定の値となる。
【0037】
本発明では、微生物を担持した導電性担体からなる生物処理部とガス電極とを電気的に接続することにより、上記のようにしてガス電極に生じた電位を生物処理部に印加する。本明細書において、電気的に接続するとは、電子移動が可能となるように接続することを意味している。
【0038】
即ち、特定のガスを電極分解してガス電極に生じた電位を、微生物を担持した導電性担体に印加することにより、代謝反応において本来電子受容体として用いられる該特定のガスに代えて、該導電性担体を電子受容体として用いることが可能となる。
【0039】
例えば、上述した硫黄酸化細菌の例では、酸素を電極分解してガス電極に生じた電位を導電性担体に印加することにより、代謝反応において本来電子受容体として用いられる酸素に代えて、該導電性担体を電子受容体として用いることが可能となる。
【0040】
これにより、酸素の非存在下であっても、下記反応式で示されるような代謝反応により生じる電子(e)を、導電性担体が受容することにより、該代謝反応を進行させることができる。
S+8OH→HSO+4HO+8e
【0041】
以上に説明したように、本発明は、微生物に直接ガスを供給するのではなく、該ガスから固有の酸化還元電位のみを抽出して微生物に供給する。
【0042】
酸化還元電位を供給するためには、ガス電極と生物処理部とが電気的に接続されているだけでよいので、本発明においては、ガス電極と生物処理部とを気液的に隔離することが可能となる。
【0043】
本発明では、ガス電極と生物処理部とが気液的に隔離されていることにより、不純物の混入を防止して、処理精度に優れた生物処理を行うことが可能となる効果を奏する。
【0044】
また、本発明では、微生物に、ガスではなく電位を供給するため、ガスの拡散律速に制限されることなく、処理効率に優れた生物処理を行うことが可能となる効果を奏する。
【0045】
本明細書において、代謝反応を制御するとは、具体的には、代謝反応の発現有無や発現量の制御、あるいは、特定の代謝反応を選択的に発現させる制御を指す。これらの制御は、代謝反応に本来要求されるガスの種類に応じて、ガス電極に供給するガスの種類を適宜選択し、また、その供給量を適宜変更することにより可能となる。
【0046】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
【0047】
図1は、本発明に係る生物処理装置の一例を示す概略断面図である。
【0048】
図1において、1は生物処理装置であり、ここでは、メタンガスと少なくとも不純物である硫化水素を含むバイオガスを生物処理(生物脱硫)して、メタンガスを精製する処理を行うものである。
【0049】
生物処理装置1は、生物処理装置本体11と蓋体12とからなり、該生物処理装置本体11内に、生物処理室2とガス電極室3とを備えている。
【0050】
生物処理室2とガス電極室3とは、隔壁13により気液的に隔離されている。
【0051】
生物処理室2内には、硫黄酸化細菌を担持した導電性担体からなる生物処理部21が設けられている。この例では、生物処理部21は、導電性担体を充填してなる充填層から形成されている。
【0052】
また、生物処理室2は、下部に被処理物であるバイオガスを導入する被処理物導入口22を有し、上部に処理後(精製後)の精製バイオガスを排出する排出口23を有している。
【0053】
図示したように、生物処理室2には、生物処理部21に水分を供給して湿潤状態を保持するための加湿手段24を備えることが好ましい。加湿手段24としては、メタン発酵後の消化液や水等を生物処理部21に散液する散液手段が用いられる。
【0054】
散液手段24から散液される液には、所望の代謝反応を有する微生物(ここでは硫黄酸化細菌)が含有されていることが好ましい。この観点からも、メタン発酵後の消化液等が散液されることが好ましい。
【0055】
生物処理室2は、ヒーター等からなる温度制御手段(不図示)を備えることも好ましいことである。これにより、生物処理部21の温度を、微生物の代謝反応を発現させるための至適温度に保持することが可能となる。
【0056】
被処理物導入口22からバイオガスが導入されると、該バイオガスは生物処理部21に接触し、導電性担体に担持された硫黄酸化細菌の代謝反応により、硫化水素を硫酸として除去する生物処理が施されるようにしている。
【0057】
一方、ガス電極室3内には、酸素を電極分解して電位を生じるガス電極31が設けられている。
【0058】
また、ガス電極室3の下部には、ガス電極31に空気を供給するガス供給手段32が設けられている。
【0059】
図示の例において、ガス供給手段32は、外部からガス電極室3内に空気を取り込むガス導入口と不図示のブロワを備えている。
【0060】
ガス電極室3の上部には、ガス電極31と接触後の空気を排出する排出口33が設けられている。
【0061】
図示したように、ガス電極室3には、ガス電極31に水分を供給して、ガス電極31の湿潤状態を保持するための加湿手段34を備えることが好ましい。加湿手段34としては、メタン発酵後の消化液や水等をガス電極31に散液する散液手段が用いられる。
【0062】
ガス供給手段32から空気が供給されると、該空気中の酸素がガス電極31に接触して電極分解される。これにより、ガス電極31に酸素の還元電位に相当する電位を生じるようにしている。
【0063】
生物処理部21とガス電極31とは、上述したように気液的に隔離されているが、通電手段4によって電気的に接続されている。
【0064】
図示の例において、通電手段4は、隔壁13を貫通して生物処理部21とガス電極31とに接触するように設けられた導電性の炭素棒からなる。通電手段4による隔壁13の貫通は、隔壁13による気液的な隔離が保持されるように成されている。通電手段4は、この例に限定されず、例えば隔壁13を迂回する外部回路により形成されてもよい。
【0065】
また、生物処理部21には、対極5及び接続極6が設けられている。
【0066】
図1に示す通り、対極5はイオン交換膜51を介して生物処理部21に隣設されており、対極5と生物処理部21とは電気的に非接触とされている。一方、接続極6は生物処理部21と直接接触している。
【0067】
対極5と接続極6とは、抵抗71を備える外部回路7を介して電気的に接続されている。
【0068】
以上に説明した構成により、ガス電極31→通電手段4→生物処理部21→接続極6→抵抗71→対極5が電気的に接続されることになる。
【0069】
対極5では、下記反応式に示すように、対極5を形成する電極自身(M)の酸化反応により、電子が生成する。
M+nHO→MO+2nH+2ne
【0070】
一方、ガス電極31では、上述したように、下記反応式に示すように、酸素の還元反応により、電子が消費される。
+4H+4e→2H
【0071】
従って、ガス電極31→通電手段4→生物処理部21→接続極6→抵抗71→対極5が電気的に接続されていることにより、対極5で生成した電子がガス電極31に供給されるように流れる(換言すれば、ガス電極31から対極5に向けて電流が流れる)ようになる。
【0072】
図2は、ガス電極31から対極5にかけて形成される電位Eの勾配を示す図である。
【0073】
図2に示す通り、ガス電極31→通電手段4→生物処理部21→接続極6にかけての電位は、ガスの酸化還元電位(EGas)の近傍に保持され、一方、抵抗71を介して設けられた対極5の電位は、電極自身の酸化電位(E)の近傍に保持されている。
【0074】
このように、生物処理部21と対極5との間に抵抗71を設けることにより、生物処理部21の電位が、ガス電極31で生じた電位の近傍に保持されやすくなるため好ましい。
【0075】
このようにして、ガス電極31に供給された酸素の電極分解によって生じた電位を生物処理部21に印加して、下記反応式に示すようにして、酸素の非存在下において、硫黄酸化細菌の代謝反応を発現させることが可能とされる。
S+8OH→HSO+4HO+8e
【0076】
本発明において、ガス電極31と生物処理部21との電気的な接続は、上述の例に限定されるものではなく、ガス電極31で生じた電位を生物処理部21に印加可能であればよい。
【0077】
また、本発明において、ガス電極31と生物処理部21との間でイオン交換が可能であることが好ましく、例えば図1に示したように、隔壁13の少なくとも一部をイオン交換膜131によって形成することが好ましい。これにより、ガス電極31→生物処理部21→対極5にかけて、ガス電極31と生物処理部21との気液的な隔離を保持したまま、効率的なイオン交換が可能となる。
【0078】
本発明において、ガス電極31と生物処理部21との間でイオン交換が可能であれば、生物処理部21とガス電極31のpHが互いに追従するように変化させることができ、両者を同程度のpHに保持することが可能となる。
【0079】
本発明では、生物処理部21とガス電極31のpHを同程度に保持することで、ガス電極31において発生する電位と、生物処理部21で要求される電位とが一致しやすくなるため、生物処理のpH依存性が軽減され、安定した生物処理を行うことが可能となる効果を奏する。そのためには、上述したイオン交換膜等のイオン交換手段に限定されず、生物処理部21とガス電極31のpHを同程度に保持するpH制御手段を設けることも好ましいことである。
【0080】
以上の例では、被処理物が気体(バイオガス)である場合について示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、被処理物は例えば液体であってもよい。
【0081】
図3は、本発明に係る生物処理装置の他の例を示す概略断面図である。図3において、図1と同一の符号は、同一の構成を指している。
【0082】
図3において、生物処理装置1は、少なくとも有機物を含むメタン発酵消化液上澄水を、好気性微生物によって生物処理して、有機物(BOD)を酸化分解する処理を行うものである。つまり、本発明の生物処理装置1が、被処理物として液体を処理する場合を例示している。
【0083】
図3に示す通り、生物処理室2は、上部に被処理物であるメタン発酵消化液上澄水を導入する被処理物導入口25を有し、下部に処理後のメタン発酵消化液上澄水を排出する排出口26を有している。
【0084】
被処理物導入口25から導入されたメタン発酵消化液上澄水は、散液手段25aから、好気性微生物を担持した導電性担体からなる生物処理部21に散液される。
【0085】
生物処理部21に散液されたメタン発酵消化液上澄水中の有機物は、ガス電極31からの印加電位の下で、好気性微生物により酸化分解される。
【0086】
生物処理部21から流下した処理後のメタン発酵消化液上澄水は、排出口26から排出される。
【0087】
図3の例に示す通り、被処理物が水分を多く含んでいれば、生物処理部21の湿潤状態は保持され易いため、図1に示したような加湿手段24は省略が可能である。
【0088】
以上の説明では、酸素から抽出した酸化還元電位を好気性微生物に供給して生物処理を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、嫌気性微生物の代謝反応による生物処理においても好適に用いることができる。
【0089】
上述したが、嫌気性微生物は、酸素に代えて、硫黄、窒素等の酸性酸化物、例えば硫黄酸化物(SO、SO、SO等のSOx)、窒素酸化物(NO、NO、NO等のNOx)等のガスを還元してエネルギーを得ている。得られるエネルギーは、酸素を還元した場合と比較すると低いものであるものの、嫌気性微生物は、少ないエネルギーによって発現可能な種々の独特な代謝反応を行う能力を有している。これらの代謝反応もまた、種々の生物処理技術に利用されている。
【0090】
また、好気性微生物も、酸素の非存在下においては、嫌気性の代謝反応を発現する能力を有している場合がある。
【0091】
従って、本発明では、ガス電極31に、酸素の場合と同様に、硫黄、窒素等の酸性酸化物、例えば硫黄酸化物(SO、SO、SO等のSOx)、窒素酸化物(NO、NO、NO等のNOx)等を供給して、それぞれのガスに特有の酸化還元電位を抽出して、生物処理部21の微生物に供給することができる。
【0092】
これにより、嫌気性の代謝反応を発現・進行させて、被処理物に嫌気的処理を施すことが可能となる。
【0093】
このとき、好気性の代謝反応は酸化還元電位の不足により発現し難いため、嫌気性の代謝反応のみを選択的に発現させることが可能になる。
【0094】
本発明において、導電性担体は、導電性を有する材料からなり、且つその表面に微生物を代謝活性が保持された状態で担持可能であれば格別限定されない。
【0095】
導電性担体の形状は格別限定されず、粉末、粒状、片状、糸状、棒状等を好ましく例示できる。
【0096】
生物処理部21は、1つの導電性担体から形成してもよいし、2以上の導電性担体を互いに接触するように充填して形成してもよい。
【0097】
本発明において、生物処理部21を形成する導電性担体の体積抵抗率(2以上を充填して形成する場合は充填された状態での体積抵抗率)は、1kΩcm以下であることが好ましく、100Ωcm以下であることがより好ましく、10Ωcm以下であることが更に好ましい。体積抵抗率の測定には、例えば直流4端子法を用いることができる。「見かけの体積抵抗率」は、多孔質のものであっても、孔隙を無視して測定された体積抵抗率を指す。
【0098】
本発明においては、かかる導電性担体として、導電性炭素材を好ましく用いることができる。
【0099】
導電性炭素材としては、導電性を有する炭素材であれば格別限定されないが、有機物原料を、好ましくは1250℃以上、より好ましくは1350℃以上、更に好ましくは1400℃以上で、還元雰囲気下で焼成または再焼成して得られた焼成物が好ましく用いられる。
【0100】
「還元雰囲気下で焼成または再焼成する」とは、例えば1250℃で焼成または再焼成する場合、焼成温度(1250℃)で還元雰囲気であればよく、その後降温時には空気などを注入してもよい。
【0101】
有機物原料としては、格別限定されないが、セルロース、ポリアクリロニトリル、ピッチ系などの炭素を含む繊維を用いて形成した織布又は不織布、木炭、モウソウ竹などの竹等を好ましく例示でき、中でもポリアクリロニトリル系炭素繊維不織布が好適である。
【0102】
本発明において、導電性炭素材は、ESCAによる表面分析でC1S及びO1Sピーク面積から求める元素数比O/Cが0.03〜0.30の範囲であることが好ましい。このように、導電性炭素材の表面に若干の酸素元素が導入されると、担持微生物の代謝反応等を好適に制御することが可能となる効果を奏する。この理由については明らかではないが、導電性炭素材と微生物との間の電子移動が酸素原子の介在により促進されているものと推測される。
【0103】
また、本発明において、導電性炭素材は、ラマン分光スペクトルにおける1580cm−1ピーク強度(P1)と1360cm−1ピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.85以上であることが好ましい。これにより、導電性炭素材の導電性が向上するため、生物処理部21における電圧降下が防止され、生物処理部21全体に亘ってガス電極31からの電位が好適に印加されるようになる。この結果、担持微生物の代謝反応等を好適に制御することが可能となる効果が得られる。
【0104】
さらに、本発明において、導電性炭素材は、窒素吸着により測定したBET比表面積が、好ましくは1m/g(窒素吸着量)以上、より好ましくは4.5m/g(窒素吸着量)以上、さらに好ましくは7.0m/g(窒素吸着量)以上であることである。これにより、導電性炭素材の表面に担持される微生物の量が増加するため、生物処理の効率が向上する効果が得られる。
【0105】
また、微生物は、炭素表面に対して親和性が高く、また安定な状態で吸着されるため、このような観点からも、導電性担体が導電性炭素材であることが好ましい。導電性炭素材を用いれば、微生物含有液に含浸させるだけで、好適に微生物を担持することが可能である。
【0106】
本発明において、ガス電極31としては、供給されたガスの電極分解が可能なものであれば格別限定されないが、電極表面に電極分解を促進する触媒を担持させたものを好ましく用いることができる。触媒としては、格別限定されないが、白金等を好ましく例示できる。
【0107】
ガス電極31は、生物処理部21と同様に、粉末、粒状、片状、糸状、棒状等の導電性材料を単体で、あるいは、2以上を互いに接触するように充填して形成することができる。
【0108】
特に、ガス電極31のガスに対する接触面積を大きく確保するためには、導電性担体として上に例示したものと同様の導電性炭素材に、塩化白金酸溶液を含浸した後に加熱し、表面に白金を析出させたものを好適に用いることができる。
【0109】
本発明において、ガス供給手段32は、ガス電極31にガスを供給可能であれば格別限定されず、ブロワ等に接続された導入口からガスを導入する手段であってもよいし、あるいは、ガス電極室3内において化学反応あるいは蒸発によってガスを発生させる手段であってもよい。
【0110】
例えば、ガス供給手段32からの蒸発によって常時ガス電極室3内をガス飽和状態に保つようにすることも好ましいことである。この場合、ガス電極31におけるガスの消費に伴って、気液平衡により、新たなガスがガス供給手段32から蒸発発生する。この態様では、排出口33の設置を省略してもよい。
【0111】
本発明においては、例えば、高純度な酸素をガス電極31に供給する場合のように、ガス電極での分解により供給されたガスがすべて消失する(気体状ではなくなる)場合は、排出口33の設置を省略してもよい。
【0112】
本発明において、被処理物としては、バイオガス、天然ガス、各種の熱分解ガス等の気体、メタン発酵消化液上澄水、有機物汚泥を含む排水(廃水)、食品加工工程において排出される廃水等の液体を好ましく例示できる。
【0113】
また、被処理物は、硫黄系化合物、窒素系化合物、炭化水素系化合物の何れか又は数種を含むことが、本発明による効果が顕著となるため好ましい。ガス電極31に酸素を供給することで、硫黄系化合物の脱硫処理、窒素系化合物の硝化処理、炭化水素系化合物の分解処理が効率的に行われる。
【0114】
本発明において、生物処理部21とガス電極31との気液的な隔離は、隔壁13によって成される場合に限定されず、生物処理部21とガス電極31とが実質的に気液的に隔離されていればよい。例えば、隔壁13を設けず、生物処理部21とガス電極31とを、実質的に気液的に隔離される距離を置いて設置してもよい。また、隔壁13を設けず、生物処理部21とガス電極31とを近接する場合であっても、被処理物の流れと、ガスの流れとを、互いに交叉しないように配向することで、実質的に気液的に隔離することが可能である。
【0115】
以上の説明では、生物処理部21とガス電極31とが、生物処理装置本体11内に設けられた生物処理室2とガス電極室3とに各々収納されている場合について示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、生物処理部21とガス電極31の何れか又は両方が大気に露出されていてもよい。
【0116】
更に、本発明の生物処理装置1は、生物処理部21を河川や用水路、湖沼等の被処理水域の水底に設置し、ガス電極31に空気ないし酸素を供給して、水底に堆積した有機物汚泥等の被処理物を酸化分解するようにしてもよい。この場合、例えば、ガス電極31を水中に設置して曝気手段による曝気によりガス供給されるようにしてもよいし、ガス電極31を大気に露出するように設置して直接空気と接触させてガス供給されるようにしてもよい。これにより、ガス電極31へのガス供給により広範囲に亘って分布する汚泥を効率的に分解することが可能となる効果を奏する。
【0117】
また、本発明においては、生物処理部21に対して、ガス電極31に供給するガスと同様のガスを供給する態様を排除するものではない。即ち、これにより不純物の混入を防止する効果は低下する場合があるが、生物処理部21において、ガス電極31から印加される電位と、直接供給されるガスとの協働により、代謝反応が更に促進され、生物処理効率の更なる向上を図ることができる効果を奏する。
【実施例】
【0118】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0119】
(実施例1)
図1に示したものと同様の構成を有する小型の生物処理装置を用い、家畜(搾乳牛)糞尿のメタン発酵処理施設からのバイオガス(硫化水素濃度約600ppm)を被処理物として生物脱硫試験を行った。
【0120】
ガス電極としては、1350℃焼成のPAN系炭素繊維不織布を、塩化白金酸溶液を含浸させた後に加熱して、表面に白金を析出させたものを使用した。
【0121】
生物処理部の導電性担体として、1350℃焼成のPAN系炭素繊維不織布を使用した。導電性担体は、メタン発酵消化液を含浸させることにより、微生物を担持させた。
【0122】
生物処理室内の温度は、ヒーターにより約40℃に保持した。また、ガス電極、生物処理部共に、バイオガスからの凝縮水を回収して散布し、加湿した。
【0123】
ガス電極室に空気を20mL/分程度流通させた。これと同時に、生物処理室に空気供給を行わず、バイオガスのみをブロワを用いて約100mL/分流通させて、精製バイオガス中の硫化水素濃度の経時変化を、検知管を用いて測定した。
【0124】
結果を図4に示す。
【0125】
<評価>
図4に示す通り、被処理バイオガスと比較して、精製バイオガス中の硫化水素濃度が大幅に低減することがわかる。
【0126】
また、処理開始から2時間後に、一定時間ガス電極への空気の供給を停止した結果、精製バイオガス中の硫化水素濃度が上昇したが、空気の供給を再開することにより、再び減少した。
【0127】
このことから、ガス電極への空気の供給により、硫化水素濃度が減少する(脱硫効率が向上する)ことがわかる。
【0128】
(実施例2)
図3に示したものと同様の構成を有する小型の生物処理装置を用い、メタン発酵消化液上澄水(BOD約6500mg/L)を被処理物としてBOD分解処理試験を行った。
【0129】
ガス電極及び導電性担体は、実施例1と同様のものを用いた。
【0130】
生物処理室内の温度は、ヒーターにより約40℃に保持した。また、ガス電極に、バイオガスからの凝縮水を回収して散布し、加湿した。
【0131】
ガス電極室に空気を20mL/分程度流通させた。これと同時に、生物処理室に空気供給を行わず、メタン発酵消化液上澄水のみをチューブポンプを用いて約5mL/分流通させて、処理後のメタン発酵消化液上澄水中のBODの経時変化を測定した。
【0132】
結果を図5に示す。なお、図5中、「入口液」は生物処理装置で処理される前のメタン発酵消化液上澄水であり、「出口液」は処理後のメタン発酵消化液上澄水である。
【0133】
<評価>
図5に示す通り、ガス電極への空気の供給により、処理後のメタン発酵消化液上澄水中のBODが、4000mg/L程度まで低減されることがわかる。
【符号の説明】
【0134】
1:生物処理装置
11:生物処理装置本体
12:蓋体
13:隔壁
131:イオン交換膜
2:生物処理室
21:生物処理部
22:被処理物導入口
23:排出口
24:加湿手段
25:被処理物導入口
26:排出口
3:ガス電極室
31:ガス電極
32:ガス供給手段
33:排出口
34:加湿手段
4:通電手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を担持した導電性担体からなり、被処理物を接触させて該微生物の代謝反応により生物処理する生物処理部と、
供給されたガスを電極分解して電位を生じるガス電極とを備え、
前記生物処理部と前記ガス電極とは電気的に接続されており、
前記ガス電極に供給された前記ガスの電極分解によって生じた電位を前記生物処理部に印加して、前記微生物の代謝反応を制御することを特徴とする生物処理装置。
【請求項2】
前記生物処理部と前記ガス電極とは気液的に隔離されていることを特徴とする請求項1記載の生物処理装置。
【請求項3】
前記生物処理部と前記ガス電極とを気液的に隔離する隔壁と、
前記生物処理部と前記ガス電極とを電気的に接続する通電手段とを備えることを特徴とする請求項2記載の生物処理装置。
【請求項4】
前記通電手段は、前記隔壁を貫通して前記生物処理部と前記ガス電極とに接触していることを特徴とする請求項3記載の生物処理装置。
【請求項5】
前記隔壁の少なくとも一部がイオン交換膜からなることを特徴とする請求項3又は4記載の生物処理装置。
【請求項6】
前記ガスは空気であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の生物処理装置。
【請求項7】
前記被処理物は、硫黄系化合物、窒素系化合物、炭化水素系化合物の何れか又は数種を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の生物処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−213331(P2012−213331A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78830(P2011−78830)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】