説明

生物剤を送達する中空かつ多孔質の整形外科用または歯科用のインプラント

中空かつ多孔質の生体適合性媒体の中に含まれる増殖因子および/または幹細胞などの封入された生物剤であって、放出制御によって送達される生物剤、例えば、ヒトなどの宿主動物の体内に置かれたチタン製インプラントから生体内で新たな歯または骨が生じる。中空の中心部、側壁に多孔をもち、カプセル封入された生物剤または化学剤を中空の中心部に担持させて含む生体適合性材料を含む、歯または骨のインプラントであって、該生物剤または化学剤が、制御放出技術によって時間的および空間的に放出され、歯または骨の治癒を促進するインプラントが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
整形外科用および歯科用のインプラントを媒体として用いて、生物剤が開発される。中空かつ多孔質の整形外科用または歯科用のインプラントは、その内部に、特定の移植部位で制御放出するために生物剤を担持する媒体として機能する。
【背景技術】
【0002】
米国では、毎年約20億ドルが整形外科用および歯科用のインプラントに費やされている。これは、1年間だけで約700,000例の整形外科用インプラント処置が行われていることと相関する。歯科インプラント処置に関しては、35〜44歳の成人の約69パーセントが少なくとも1本の永久歯を失っているため、歯科インプラントの希望者といえる。
【0003】
インプラントは、通常、歯科用であっても、整形外科用またはそれ以外のためであっても、チタンのように生体適合性を有する材料であり、体内に外科的に挿入されて、骨または歯などの欠陥構造物の代わりをする。このようなインプラントは一般的になりつつあるが、短期的にも長期的にも、骨接合の領域に未だ問題が残っている。ほとんどのインプラントの手順は、骨の再生に関してあまり考慮がされておらず、主に機械的な修復にその焦点があてられている。最初は適切に骨接合がされている股関節などの骨置換が、骨とインプラントの接触面における骨溶解により、数年後に劣化することが示されている。
【0004】
インプラントの寿命を延ばし、骨治癒過程を促進するために、ある研究では、インプラントの初期固定を改善すること、およびインプラント界面に対する骨の強度を維持することに焦点を置いている。しかし、これら現在の研究法はいずれも満足できるものではない。
【0005】
トランスフォーミング増殖因子β3は、細胞伝達物質のスーパーファミリーの一員であり、細胞の増殖および分化の調節において基本的な役割を果たす。創傷治癒において、TGFβ3は、I型コラーゲン合成を減衰させて、瘢痕組織形成を減少させることが報告されている。TGFβ3は、新生児約2,500人に1人の割合で発症する先天性疾患であって、頭蓋骨奇形、盲目、知能障害、および致死を示す頭蓋骨癒合症における頭蓋縫合の線維組織の骨化を調節することが報告されている。発達過程で、TGFβ3は、上皮細胞の接着と、その後の2つの口蓋棚が融合するのを調節するが、それに失敗すると口蓋裂が生じる。臍帯の発達段階で、TGFβ3が下方制御されると、臍帯形成段階で母子が死亡する主な原因となっている、臍帯においてよく見られる子癇前症の異常な構造および力学的特性を生じさせる。TGFβ3は、TGF−2など、その他の内生因子を活性化させて、角膜実質線維芽細胞の増殖を媒介する。緑内障手術後に起こる線維症の機構は、TGFβ3、およびその作用が結膜下線維芽細胞に及ぶことによって媒介される。
【0006】
広範な細胞および組織の発達におけるTGFβ3の基本的な役割によって、これを組織修復法に採用することが推進されてきた。ゲルにしてTGFβ3を局所塗布すると、プラセボゲルと比較して、2.5μg/cmの用量で患者の創傷治癒を改善することが報告された。骨化しつつある頭蓋縫合にTGFβ3を含んだコラーゲンゲルを送達すると、早期癒合を遅延させることが報告されている。PLAの微細な溝を有する表面から放出された生物活性TGFβ3は最大限24時間、肺上皮細胞の増殖を阻害することが報告されている。サイトカインを徐放するための従来の試みには、脂質ナノ粒子、キトサンまたはゼラチンを主原料とする微粒子、コラーゲンセラミックス、多孔質ガラスなどがある。TGFβ3の短期的な生物活性が研究されているが、創傷治癒および組織再生の過程で細胞活性を長期間調節するという広範な需要に対しては、マイクロカプセル化による持続放出について調査することが必要である。
【0007】
TGFβ3の治療上の可能性を調査する努力が既に為されてきたにもかかわらず、その有効な用途は、例えば、半減期の短さ、インビボでの不安定性、および送達系が比較的不正確であるなど、いくつかのありふれた欠点によって制約されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
中空かつ多孔質のインプラントには、例えば、幹細胞および増殖因子など、生物、薬品、薬草または化学物質に由来する生物活性剤を担持させる。これらは、例えば、マイクロスフェア(microspheres)の中に封入することができる。中空かつ多孔質の歯科用または整形外科用のインプラントは、インプラント処置後、インプラント中またはインプラント上で歯または骨の治癒を促進する、1つ以上の封入生物剤を担持する。封入された生物剤がインプラントの中に含まれ、さらには、それらがインプラントの外部に、宿主組織に対して放出されて、インプラント上およびインプラント内部で増殖することができるように注意しつつ、当技術分野において既知の方法によって担持させる。マイクロスフェアを生体適合性材料の中に担持させる方法の一つは、真空による方法である。増殖因子を封入している幹細胞および/またはPLGAマイクロスフェアを、例えば、コラーゲンスポンジなどの足場に挿入する。次に、このスポンジをインプラントの中空部に詰め込む。そして、この生体適合性材料をインプラントの中空の中心部に詰め込む。中空かつ多孔質のインプラントは、欠損した骨または歯に耐荷重性機能を付加する生体適合性の固体材料でできており、中空かつ多孔質であるため、インプラントの機械的強度を低下させて、骨に対する応力遮蔽効果を減少させる。この中空かつ多孔質のインプラントに適した材料には、チタンなどの金属が含まれる。骨芽細胞はチタンに付着して、新しい骨を産生することができる。中空かつ多孔質のインプラントは、任意で、金属の上にコーティングを有することも可能である。インプラントの断面は、円筒形か正方形か長方形か、あるいは不規則な形であってよい。選択する形状は、修復すべき歯または骨の解剖学的部位および配置に依存する。
【0009】
カプセル封入された生物剤は中空かつ多孔質のインプラントの中に担持されて、新しい骨または歯の構造体の成長を促進する。多孔性と制御放出技術を組み合わせることによって、骨成長および骨結合(例えば、チタンを宿主の骨または歯の中に組み込むこと)を促進する、新たな歯科用および/または整形外科用のインプラント系が生み出される。制御放出技術により、予定された用量の増殖因子、および/またはその他の化学的および/または薬理学的な物質を、予め決められた時間的かつ空間的な態様で送達して、骨の増殖および結合を促進する。細孔および中空円筒という理学的徴候を変更して、骨成長および/または骨結合を最適化することができる。適当な薬剤は、新しい骨または歯の成長または治癒に特異的な増殖因子および培養液を含む。成人または胎児の幹細胞を添加することができる。生物剤はインプラント領域、通常はその隣接領域において作用する。具体的な増殖因子には、BMPファミリー(2、7、8、9)、TGF〜ファミリー(1、2、3)、〜FGFファミリー、IGFファミリー、VEGF、bFGF、および増殖因子と化学物質の混合物などがある。幹細胞は、存在する場合、内生的な成人の間葉系幹細胞を含む。適当な生体適合性担体はチタンであり、適当な封入材はポリ乳酸−グリコール酸共重合体である。
【0010】
創傷治癒および組織再生における役割が報告されていながら、TGFβ3の長期間の制御放出については実証されていない。制御放出に適した組成物は、マイクロスフェアに封入されているポリd−l−乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)中のTGFβ3である。PLA:PGAの比が50:50および75:25であるPLGAカプセル中に封入されたTGFβ3の放出プロファイルは、生物活性の解析全体を通して異なっていた。マイクロスフェアを無菌化する方法を比較するために、50:50のPLGAマイクロスフェアにbFGFを封入して、エチレンオキシド(EO)ガス、高周波グロー放電(RFGD)、または紫外(UV)線に曝露した。bFGFの放出は、紫外線によって顕著に弱まったが、EOまたはRFGDによっては顕著には変わらなかった。その生物活性を確認するために、TGFβ3(1.35ng/ml)を、骨原性分化を誘導されているヒト間葉系幹細胞(hMSC)培養液に制御放出した。アルカリホスファターゼによる染色強度は、hMSC由来の骨原性細胞をTGFβ3に暴露してから1週間後には著しく減少していた。このことは、5.8±0.9mU/ml/ng DNA(p<0.05)であった対照(TGFβ3を含まない)よりもアルカリホスファターゼ活性が低くなった(2.25±0.57mU/ml/ngDNA)ことから確認された。さらに、制御放出されたTGFβ3の生物活性は、1.35ng/mlのTGFβ3を細胞培養液に直接添加しても、アルカリホスファターゼに有意な差異が見られなかった(p>0.05)ことによっても確認された。マイクロカプセルに封入されたTGFβ3は、創傷治癒や再生医療を応用する際に有用である。
【0011】
TGFβ3をPLGAマイクロスフェアの中に封入して、その放出動態を測定し、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)の骨原性分化に対する、制御放出されたTGFβ3の生物活性を調べた。PLGAマイクロスフェアの形態、および封入された増殖因子の放出動態に対する、いくつかの一般的に使用されている無菌化法の影響を測定した。それらは、紫外線法、エチレンオキシドガス法、および高周波グロー放電法を含み、さまざまな増殖因子を封入したPLGAマイクロスフェアを用いるその後のインビボ実験において無菌化法を選択するのに役に立つよう設計されていた。
【0012】
中空かつ多孔質のインプラントは、増殖細胞および/または成人間葉系幹細胞を取り込むことができる限り、どのような形状および大きさになるよう生物学的に操作してもよい。患者自身の骨髄に由来する造骨細胞を使用することによって、免疫拒絶反応の問題は最小限になる。
【0013】
新しい骨は、生物学的に行われる治癒過程として、患者自身の組織と一体化する。インプラントを設置するための整形外科的方法は、当技術分野において知られており、別個にヒト被験者の承認手続きを必要とせずに利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
当業者に知られている方法によって、中空かつ多孔質の整形外科用または歯科用のインプラントに、人体の内部またはその上で放出させるためにカプセル封入された生物剤を1つ以上担持させる。このカプセル封入生物剤は中空のコアに担持されて、移植後、インプラントに隣接したところで歯または骨の治癒を促進する。この生物剤は拡散するか、さもなければ、封入細胞膜を通過することができるか、または封入構造が破断して生物剤を放出するか、あるいは、両方が起きて、生物剤が多孔質のインプラントを横断して周囲の組織に入り込む。
【0015】
カプセル封入された生物剤を含む中空かつ多孔質のインプラントは、単独、または胎児もしくは成人の幹細胞、例えば、成人の間葉系幹細胞(MSC)に加えて提供することができる増殖因子を含む。MSCは、骨髄細胞、または、それ以外の由来源、例えば、脂肪組織または末梢血などから調製することができる。内在性細胞を使用すると、免疫拒絶反応の危険が最小限になる。
【0016】
増殖因子の例には、BMPファミリー、例えば、BMP−2、BMP−7、BMP−8およびBMP−9と名付けられた(BMP2、7、8、および9とも呼ばれる)因子など、TGF〜−1、TGF〜−2およびTGF〜−3と呼ばれる(TGF〜1,2、および3とも呼ばれる)分子を含むTGF〜ファミリー、〜FGFファミリー、IGFファミリー、VEGF、bFGF、その他の増殖因子、および上記またはそれら以外の増殖因子を2種類以上混合した物などがある。
【0017】
胎児または成人に由来する幹細胞などの幹細胞は、増殖因子を含み、増殖因子を封入する細胞膜に取り囲まれている。これらの細胞は、骨髄、脂肪組織および末梢血、ならびに別の由来源から採取することができる。成人の間葉系幹細胞(MSC)、胎児の幹細胞、またはその他の成人幹細胞を使用することができる。成人の間葉系幹細胞は、骨細胞に分化することができる骨髄細胞に由来する。
【0018】
成人のMSCは、軟骨組織、骨組織、および脂肪組織など、全ての結合組織形成細胞系列に分化する能力をもつ。MSCは、骨髄、または体内のその他の結合組織から低侵襲的な方法で得ることができ、培養液の中で非常に増殖させやすく、十分に確立している誘導補助剤に曝露して容易に分化誘導することができる。さらに、成人の幹細胞の使用は、倫理上の理由から、胚性幹細胞を使用するよりも有利である。
【0019】
中空かつ多孔質のインプラントは、例えば、1種類以上の金属、例えば、ステンレススチール、チタンなどでできている、生体適合性を有する固体材料から構築される(図1)。
【0020】
中空かつ多孔質のインプラントの形状は、必要に応じてプログラムする。インプラントの形状は、骨に似るかもしれないし、円筒形や、必要に応じてその他の形状にすることができる。インプラントは多孔性または有孔性である(インプラントの壁を貫通して、細胞、タンパク質、および低分子がインプラントの内側から外側に移動すること、およびその逆を可能にする1つ以上の穴を有する)。すなわち、インプラントの表面には、中空かつ多孔質のインプラントの内外に液体およびタンパク質が出入りすることを可能にする空間が画定されている。中空かつ多孔質のインプラントは金網に似ているかもしれない。壁貫通孔はインプラントをまっすぐに貫通する必要はなく、蛇行していてもよい。
【0021】
中空かつ多孔質のインプラントは、内部に第2の生体適合性材料を含んでいてもよく、また、例えば、ヒドロゲル重合体など、第2の生体適合性材料でコーティングされていてもよい。ヒドロゲル重合体は、造骨細胞に、体の中の細胞外マトリックスに類似した環境を提供する。
【0022】
ヒドロゲル重合体は、その独特の3次元構造を維持しつつ、大量の水または生体液を吸収する、親水性で3次元の網目構造体である。コーティングは光分極性(photopolarizable)ヒドロゲル重合体、または水和ポリ乳酸・グリコール酸共重合体であってもよい。
【0023】
ポリ乳酸・グリコール酸共重合体を主成分とするヒドロゲル重合体は、生体適合性が証明されており、かつ、MSCが骨などの多数の系列に増殖および分化するのを助けることができることが明らかになっているため、生物学的に応用するための一定の利点を有する。これらの重合体は、インプラントの内部にマイクロスフェアを保持するのに役立つ。また、最小限の侵襲的処置(注射)で皮下に細胞−重合体系を投与すること、および、これらのヒドロゲルが経皮的に光重合を行うことができることは生体系において有益である。
【0024】
中空かつ多孔質のインプラントに、例えば、胚性または成人の間葉系幹細胞など、1つ以上の生物剤、および/またはヒドロゲル重合体の中にカプセル封入された1つ以上の増殖因子、あるいはこれら両方を担持させる。封入するヒドロゲルは、一般的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物である物質であろう。好ましくは、ヒドロゲルは、紫外線、および、例えば、2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノンなどの光開始剤の作用によって重合されているポリ乳酸・グリコール酸共重合体を含む。
【0025】
制御放出による長期間にわたる送達によって、例えば、コラーゲンの足場に入れてTGFβ3を即時適用することに伴う従来の制限を回避する方法が提供される。制御放出するための一つのアプローチ法は、マイクロスフェアにペプチドおよびタンパク質を封入することによる方法である(図2)。ポリd−l−乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)は、加水分解によって分解されて、乳酸およびグリコール酸のモノマーなど、生体適合性を有する副産物になる。乳酸およびグリコール酸は、最小限の免疫反応を誘発しながら、クレブス回路を経て、COおよびHOとして生体内で除去される。PLGAマイクロスフェアは、小球の直径および分解速度の調節を可能にする二重エマルジョン溶媒抽出技術を用いて、カプセル封入された増殖因子の安定性と生物活性を維持しつつ製造される。例えば、BMP、TGFβ1および2、神経栄養性成長因子、VEGF、およびIGFなどの増殖因子のいくつかを封入および放出する動態が報告されている。しかし、TGFβ3のマイクロカプセル封入およびその放出の動態は知られていない。他の2つの哺乳動物アイソフォームであるTGFβ1およびTGFβ2は、頭蓋縫合癒合および骨形成を促進する。TGFβ1は、ポリ(フマル酸ポリプロピレン)基質の上で培養した骨髄間質細胞の増殖および骨芽細胞分化を促進することが示されている。TGFβ1および2は、ネズミの前頭鼻骨縫合閉塞症を起している間、持続的に存在する。それに対して、TGFβ3は、ネズミ冠状縫合を非骨状態に維持することに関係している。
【0026】
カプセル封入された生物剤は、アルギン酸、海綿、キトサン、サンゴ、アガロース、フィブリン、コラーゲン、骨、シリコーン、軟骨、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、およびこれらの混合物からなる天然材料を含むことができる生体マトリックスの内部に存在する。コラーゲンスポンジを用いて、中空かつ多孔質のインプラント内部にカプセル封入された増殖因子または幹細胞またはその両方を運ぶことができる(図3)。また、ヒドロゲル重合体を生体マトリックスとして用いることもできる。
【0027】
さらに、該生体マトリックスは骨形成剤、例えば、デキサメタゾンを含むことができる。骨形成剤のさらなる例は、骨形態形成タンパク質ファミリー、トランスフォーミング増殖因子タンパク質ファミリー、および血管内皮増殖因子タンパク質ファミリーの1つ以上のメンバー、ならびにそのような骨形成剤の混合物などである。さらに、生体マトリックスは栄養培地を含むこともできる。
【0028】
組成物を、チタン媒体、生体マトリックス、骨形成剤、栄養培地、すくなくとも1種類の抗生物質、および成人の間葉系幹細胞の中で、骨の一部または全体の形にすることができるが、チタン媒体は、骨形成剤、培地、抗生物質、および細胞を保持している生体マトリックスを支える固形支持体を提供する。
【0029】
組成物は、チタン媒体;ポリ乳酸・グリコール酸共重合体および2−ヒドロキシ−1−[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノンを含むヒドロゲル;デキサメタゾンおよびトランスフォーミング増殖因子β1などの骨形成剤;βグリセロリン酸およびアスコルビン酸−2−リン酸を含む栄養培地;ペニシリン;ストレプトマイシン;およびヒト骨髄由来の成人間葉系幹細胞からなり、円筒形、または一部もしくは全部を骨の形にすることができる。ここでチタン媒体は、骨形成剤、培地、抗生物質、および細胞を保持しているヒドロゲルを支える固形支持体としての機能をはたす。
【0030】
骨軟骨構造体を作成する方法は、骨髄から成人の間葉系幹細胞などの成人または胚性の幹細胞を提供する工程、骨原性培地で該細胞を処理して骨芽細胞への分化を誘導する工程、および、チタン製メッシュおよびヒドロゲルマトリックスからなる生体適合性媒体上に該骨芽細胞を担持させる工程を含む。適当な骨原性培地は、当技術分野において骨増殖を開始させるか促進するために使用されるものである。内生性骨髄は拒絶反応を最小限にする。
【0031】
生物学的に操作された一部または全体の骨をインビボで産生する方法は、ヒドロゲルコーティングを有する生体適合性チタン媒体の組成物、および例えば、成人の間葉系幹細胞などの成人または胚性の幹細胞の試料を宿主動物に移植することを含む。具体的な宿主動物の例は、例えば、ラット、マウス、およびウサギなどの実験動物、例えば、イヌまたはネコなどの愛玩動物、例えば、馬(ウマ)、牛(ウシ)、羊(ヒツジ)、または山羊(ヤギ)などの家畜動物、またはサル、類人猿(チンパンジー、オランウータン、またはゴリラ)、または人類(ヒト)などの霊長類などである。
【0032】
インプラント部位で新しい骨または歯の増殖を誘導する方法は、以下の工程を含む:(a)骨細胞と混合した生体マトリックスを含む、中空かつ多孔質の生体適合性媒体からなるインプラントを提供する工程、(b)そのインプラントを宿主動物(例えば、患者)に移植する工程、および(c)骨または歯が成長するのに十分な期間、該動物(例えば、患者)を管理する工程。具体的には、成人の間葉系幹細胞などの幹細胞を回収する。それらの細胞を骨原性培地で処理して骨細胞に分化させる。このようにして調製した骨細胞を、ヒドロゲルマトリックスを有する、中空かつ多孔質の穿孔チタン媒体の中に担持させて、該マトリックスとの混合物を形成させる。該インプラントを患者に移植する。新しい細胞が増殖するのに充分な時間、患者を医学的(歯科的)に適切な状態に維持する。
【0033】
「1つの(a)」または「1個の(an)」という冠詞は、1つまたは複数を含むものとする。
【0034】
実施例
実施例1:PLGAマイクロスフェアからのTGFβ3の徐放、およびヒト間葉系幹細胞の初期骨原性分化に対するその効果
PLGAマイクロスフェアの調製およびTGFβ3のカプセル封入
PLA:PGA比が50:50および75:25(Sigma,St.Louis,MO)のポリ(DL−乳酸・グリコール酸)(PLGA;Sigma,St.Louis,MO)のマイクロスフェアを、二重エマルジョン技術((水中油)中水型)を用いて調製した(Lu,L.,et al,2001;Wei G,et al,2004;Ruan,G,et al,2002)。総量250mgのPLGAを1mlのジクロロメタンに溶かした。分子量25kDaの組換えヒトTGFβ3(R&D Systems,Minneapolis,MN)を全部で2.5μg、製造業者のプロトコルに従って、50μlの再構成溶液に希釈し、PLGA溶液に加えて、1分間乳化した(水中油)混合物(初期エマルジョン)を形成させた。次に、この初期エマルジョンを、2mlの1%ポリビニルアルコール(PVA、分子量30,000〜70,000)に加えてから、1分間混合した((水中油)中水)。100mlのPVA溶液を加えたところで、該混合物を1分間攪拌した。総量100mlの2%イソプロパノールを最終エマルジョンに加えてから、ドラフト下で2時間、持続的に攪拌して溶媒を除去した。TGFβ3溶液の代わりに蒸留水50μlを使う以外は同じ手順を用いて、(空でTGFβ3を含まない)対照マイクロスフェアを作った。(Cleek RL,et al,1997)。水だけを対照として含む空のマイクロスフェアは、PLGA単独の分解副産物による影響となりうるものを引き算するために実施された。TGFβ3または蒸留水を含むPLGAマイクロスフェアを、濾過(2μmの濾紙)を用いて単離し、蒸留水で洗浄した。マイクロスフェアを液体窒素の中で30分間凍結させてから、48時間凍結乾燥した。凍結乾燥したPLGAマイクロスフェアは、使用直前まで−20℃で貯蔵した。
【0035】
PLGAマイクロスフェアの滅菌
創傷治癒および再生医療にインビボで使用する前にマイクロスフェアを滅菌した。一般的に用いられているいくつか滅菌技術の有効性を測定するために、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を、本明細書に記載した技術と同じ技術を用いて、PLA:PGA比50:50のPLGAマイクロスフェアにカプセル封入した。TGFβ3の代わりにbFGFを使用する合理的な理由は、bFGFがTGFβ3より安価であり、かつ、同じ構造的特性を有しているからである。ただし、bFGFの溶解特性は、TGFβ3とは異なる可能性があり、異なった封入効率および放出動態をもたらす可能性もあるが、滅菌後の重合体の構造変化に対する滅菌の影響は比較することができよう。作成したbFGF封入PLGAマイクロスフェアを無作為に以下の3つの群に分けた:1)30分間紫外線(UV)下に置く群(n=3)、2)24時間エチレンオキシドガス(EO)に曝露する群(n=3)、または3)100Wで4分間高周波グロー放電(RFGD)に曝露する群(n=3)。3種類の滅菌法を行った4時間後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、bFGF封入PLGAマイクロスフェアの表面形態を測定した。さらに、3種類の滅菌法全部の直後に、10mgのbFGF封入PLGAマイクロスフェアを別々に量り取り、bFGF放出動態を測定するためにウォーターバス中60rpm、37℃で、1mlの1%BSA溶液に浸した。7日、14日、21日、および28日目に上清を5000rpmで10分間遠心して完全に回収した。それぞれを回収した後、新鮮な1%BSA溶液1mlをマイクロスフェアに加えた。放出動態は、bFGF酵素結合免疫吸着測定キット(bFGF ELISA;R&D Systems,Minneapolis,MN)を用いて測定した。
【0036】
インビトロにおけるTGFβ3の放出動態
凍結乾燥後、PLGAマイクロスフェアを1mg単位にした1ml当たりのカプセル封入されたTGFβ3の実際の量を、溶解したPLGAマイクロスフェアの親水性抽出液に酵素結合免疫吸着測定キット(bFGF ELISA;R&D Systems,Minneapolis,MN)を用いて検出した。総量で10mgのTGFβ3封入PLGAマイクロスフェアを、1mlの1%BSA溶液中に分散させ、60rpmおよび37℃のウォーターバスの中で持続的に攪拌した(n=3)。定期的に上清の全量を回収してから、各試料について、TGFβ3 ELISAキットを用いて、TGFβ3の量を定量的に測定した。TGFβ3の放出速度を、PLGAマイクロスフェア1mg当たりの全TGFβ3の割合(パーセント)として表した。1mlのクロロホルムに10mgのTGFβ3封入PLGAマイクロスフェアを溶解させてから、1mlの1%BSA溶液を加えて、封入の収率を測定した(n=3)。混合物を6時間静置し、ELISAを用いて、カプセル封入された量を定量するために、TGFβ3を多く含む溶液を回収した。TGFβ3を封入したPLGAマイクロスフェアを、水溶液に曝露してから4日目にSEMで画像化して表面の形態を観察した。
【0037】
ヒト間葉系幹細胞の培養および骨原性分化
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を、匿名の健常なドナーの骨髄(AllCells,Berkeley,CA)から単離して、6穴プレートの中で30,000細胞/ウエルの密度に培養増幅した。(Alhadlaq,A.,et al,2004;Alhadlaq,A.,and Mao,2004)。単層hMSC培養物は、37℃、湿度95%、および5%CO下で、10%ウシ胎仔血清(FBS;Atlanta Biologicals,Norcross,GA)、および1%の抗生物質および抗真菌剤(10,000U/mlペニシリン(ベース)、10,000μg/mlストレプトマイシン(ベース)、25μg/mlアンホテリシンB)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM−c;Sigma,St.Louis,MO)を用いて維持した(Atlanta Biologicals,Norcross,GA)。3日か4日毎に培地を交換した。100nMデキサメタゾン、50μg/mlアスコルビン酸、および100mMβ−グリセロリン酸を含む骨形成補助剤によって、ヒトMSCを骨原性細胞に分化させた。骨形成補助剤で処理されたMSCは、多数の骨芽細胞マーカーを発現した骨芽細胞様細胞に分化し始める。hMSC由来細胞の初期骨形成能を、アルカリホスファターゼ(ALP)染色法、および酵素試薬を用いる定量法によって評価した(Alhdlaq,A.,et al,2004;Alhadlaq,A.,and Mao,2004;Alhadlaq,A.,Mao,J.J.,2003)。
【0038】
ヒト間葉系幹細胞の骨原性分化に対する、制御放出されたTGFβ3の生物活性
エチレンオキシドガスで滅菌された50:50共重合体比のTGFβ3カプセル封入PLGAマイクロスフェア(62.5mg、放出動態から見積もると、7日間で培地2mlあたり1.35ngのTGFβ3が得られる、図7)をトランスウエルインサート(孔径0.4μm)の中に置いた(Becton Dickinson Labware,Franklin Lakes,NJ)(Lu,L.,et al.,2001)。マイクロスフェアを含むトランスウエルインサートを、未分化hMSCの単層培養から上方約0.9mmのところに細胞培養用ウエルの中に置いて、細胞をPLGAマイクロスフェアと直接接触させることなしに、放出されたTGFβ3に曝露した。このとき、骨形成剤を添加したDMEM培地を加えた(n=3)。対照群では、0または1.35ng/mlのマイクロスフェア封入されていないTGFβ3の溶液を、骨形成剤を添加したDMEM培地とともにhMSCの単層培養に加えた(n=3)。3日目に骨形成剤添加培地を交換した。対照群には、溶液に入った新鮮なTGFβ3を培地交換の際に加えた。溶液中の(マイクロスフェア封入されていない)TGFβ3に曝露したhMSC由来の骨形成原細胞のALP活性を7日後に測定して、PLGAマイクロスフェアから放出された同一用量のTGFβ3(1.35ng/ml)に曝露したhMSC由来の骨形成原細胞のALP活性と比較した(n=3)。上記で得られたTGFβ3放出量を、62.5mgのPLGAマイクロスフェアから最初の7日間に放出されたTGFβ3の量から推定した。アルカリホスファターゼ活性をALP試薬(Raichem,San Diego,CA)を用いて測定し、hMSC由来の骨形成原細胞のDNA含有量に対して標準化した。DNA含有量は、蛍光DNA定量キット(BioRad Labs,Hercules,CA)を用いて測定した(Alhdlaq,A.,et al,2004)。
【0039】
統計解析
スチューデントのT検定およびANOVAを用いて、さまざまな滅菌法を行った後の、bFGFをカプセル封入したPLGAマイクロスフェアの放出速度、PLA:PGA比が50:50のときと75:25のときのTGFβ3の放出速度、および対照群(TGFβ3を含まない)と2つの実験群(PLGAマイクロスフェアから放出されるか、細胞培養培地に直接添加する場合)における、hMSC由来の骨形成原細胞のALP活性を比較した。すべての統計解析は、Minitab14ソフトウエア(State College,PA)を用いて、0.05のαレベルで行った。
【0040】
PLGAマイクロスフェアに封入されたTGFβ3
二重エマルジョン溶媒抽出技術によって調製された、TGFβ3をカプセル封入したPLGAマイクロスフェアは、2種類のPLGA組成物について円形で滑らかな表面を示した(図4A)。TGFβ3をカプセル封入したPLGAマイクロスフェアの平均直径は108±62μmであった(図4A)。水溶液の中に出現してから4日間たつと、PLGAマイクロスフェアでは明らかに表面の分解が始まった(図4B)。
【0041】
PLGAマイクロスフェアの安定化とbFGFの放出動態
PLGAマイクロスフェアのさまざまな滅菌法が、SEMによると、表面の分解に対してさまざまな影響を与えた。UV光で滅菌したPLGAマイクロスフェアは、未滅菌のPLGAマイクロスフェアに較べると表面に対して顕著な有害作用を示した(図5A)。これに対して、エチレンオキシド(EO)ガス、および高周波グロー放電(RFGD)は、PLGAマイクロスフェアの表面分解に対する最小限の形態変化しか誘導しないようであった(図5Cおよび5D)。
【0042】
UV光滅菌した後、bFGFの放出速度は、未滅菌のPLGAマイクロスフェア、EO滅菌法またはRFGD滅菌法のどれと比較しても顕著に低下した(図6)。このUV処理したときのbFGF放出速度の低下は、UV滅菌した後のPLGAマイクロスフェアの表面構造の分解をSEMで観察した結果によって確認された(図5B)。EO滅菌されたPLGAマイクロスフェアまたはRFGD滅菌されたPLGAマイクロスフェアのいずれのbFGF放出速度も、未滅菌の対照と統計的に有意な差は見られなかった(図6)。その結果、低コストでマイクロスフェアの形態にも損傷を与えにくいことから、エチレンオキシドガスを、その後の実験で、TGFβ3をカプセル封入したPLGAマイクロスフェアを滅菌する技術として選択した。
【0043】
TGFβ3の放出動態
PLA:PGAの共重合比が50:50および75:25のどちらについても、それぞれ、試験された36日目および42日目まで、TGFβ3がPLGAマイクロスフェアからインビトロで放出された(図7)。TGFβ3の封入率は、75:25のPLGAマイクロスフェア1mgあたり0.68ng/mlであり、50:50のPLGAマイクロスフェア1mgあたり0.24ng/mlであった。最初の1週間には、50:50または75:25いずれの共重合比のPLGAマイクロスフェアについても、バースト様放出が起き、その後、75:25の共重合比のものについて、より段階的に放出速度が増加するのが観察された(図7)。おそらく、50:50のPLGAの分解速度の方が速いせいで、75:25のPLA:PGA比よりも、50:50のPLA:PGAの共重合比でより急速なTGFβ3放出が得られた(図7)。封入されたTGFβ3の約8%が、75:25のPLGAによって、最初の1週間以内に放出されたが、これに対し、同じ期間内に、50:50のPLGAからは、ほぼ16%のTGFβ3が放出された。35日後、約14%および34%のTGFβ3が、それぞれ75:25および50:50という共重合比のPLGAから放出された。
【0044】
hMSCの骨原性分化の阻害
ALP染色、および酵素試薬を用いた定量によって明らかされたように、ヒトMSCは、骨形成剤添加培地におけるインビトロでの培養7日目まで、比較的高い平均のアルカリホスファターゼ量を発現した(図8Aおよび8C)。PLGAマイクロスフェアから放出されたTGFβ3(1.35ng/ml)に曝露されたhMSC細胞の、骨形成剤添加培地における培養7日目までのALP活性は、ALP染色の低下(図8B)だけでなく、ALPの定量(図8C)によっても明らかなように有意に阻害された。同じ用量(1.35ng/ml)のTGFβ3を、hMSCの培養培地に直接(マイクロカプセル封入せずに)加えても、外から送達されたTGFβ3に曝露されなかったhMSCよりは有意に低いALP活性が得られた(図8C)。さらに、細胞培養培地に添加されたTGFβ3と、PLGAマイクロスフェアから放出された同一用量のTGFβ3との間でALP減少に統計的に有意な差異がなかったこと(図8C)は、マイクロカプセルに封入した後、EO滅菌に引き続いて、生物活性のあるTGFβ3がPLGAマイクロスフェアから放出されたことを示している。
【0045】
先行研究では、TGFβ3が、本明細書で報告した濃度(1.35ng/ml)よりもずっと高い濃度(10ng/ml)で、間葉系幹細胞の軟骨形成分化を誘導することが示されている。最大1.35ng/mlという本発明のTGFβ3用量による軟骨形成がないことを確認するために、TGFβ3を担持したPLGAマイクロスフェアとともに培養されたhMSC単層のサフラニン−Oによるネガティブ染色を観察した。
考察
PLGAマイクロスフェアの中のTGFβ3を徐放させるという発見は、創傷治癒および組織再生に応用することが可能である。制御放出法によるTGFβ3の長期にわたる送達によって、細胞の動員、増殖、および分化が調節される。TGFβ3は、遺伝子の転写を標的とするSmad経路によって細胞代謝に作用する。I型およびII型の二量体TGFβレセプターが、細胞表面でTGFβ3を捕捉して、Smadに関連した事象のカスケードを活性化させ、シグナルを細胞核まで中継する。徐放させることにより、注射またはサイトカインを生体材料に浸すことに伴う拡散、不活性化、および生物活性の喪失とは対照的に、長期間のサイトカイン送達が可能になる。現在確認されている、50:50および75:25のPLA:PGA比を用いたPLGAマイクロスフェアからのTGFβ3の徐放プロファイルは、PLGAマイクロスフェアからTGFβ3が放出される速度は、PLA:PGAの比率を変えることによって、簡単に、具体的な分解の必要性に合わせることができることを示している。PLA内のメチル基が、その疎水的でゆっくりとした分解に関与している。PGAは結晶であり、分解時間を延長させる。したがって、さまざまな比率のPGAおよびPLAによって、増殖因子の特定の放出速度に適合させることができる。初期のバースト放出量は、予想されたよりは少なかったが、PLGAマイクロスフェアの調製法には、このバーストを防ぐ技術が含まれていなかった。TGFβ3をPLGAマイクロスフェアに封入するのは新規のアプローチであり、比較的初期バースト放出量が少ないのは、特異的な増殖因子−重合体の相互作用のせいであるかもしれない。このPLGAマイクロスフェアによるTGFβ3の系は、徐放性の長期放出を行うためのメカニズムを提供する。
【0046】
PLGAマイクロスフェアを薬剤送達および再生医療に応用するには、適切な滅菌技術を含む、適正な調製法が必要である。最適な滅菌技術は、生物活性と、封入される増殖因子の所定の放出動態を維持するものでなければならない。紫外線が、エチレンオキシドガスおよび高周波グロー放電のどちらよりも、bFGFを封入したPLGAマイクロスフェアの有意に大きな表面損傷を誘導し、増殖因子の放出速度を低下させたことをここで実証したことは、PLGAマイクロスフェアの滅菌にUV光を使用することに対して警告を発する。放出速度が低下したのは、滅菌過程で重合体の表面および/またはバルクが分解され、その結果、bFGFの量が減少したせいかもしれない。また、光によって増殖因子が直接分解されることも、UV滅菌したPLGAマイクロスフェアからのbFGFの放出速度の低下したことの説明になるかもしれない。表面の分解は、水性環境でインキュベートした後に見られ、重合体構造が加水分解されることを示唆している。
【0047】
エチレンオキシドガスおよび高周波グロー放電はいずれも、PLGAマイクロスフェアからのbFGF放出動態を有意に変えない。ガンマ線照射を用いる滅菌法が十分に記録されているが、ほとんどの研究室では、ガンマ線照射滅菌を行うための装置を広く利用することができない。したがって、エチレンオキシドが、増殖因子を封入したPLGAマイクロスフェアを滅菌するための論理的な選択結果である。
【0048】
マイクロスフェアから放出されたTGFβ3と、細胞培養液に直接添加されたものと同じ用量のTGFβ3との間には、ヒト間葉系幹細胞に由来する骨形成細胞のALP活性に統計的に有意な差が存在しないことによって、PLGAマイクロスフェアから放出されたTGFβ3の生物活性を確認することができる。
【0049】
ヒト間葉系幹細胞の骨原性分化に対するTGFβ3の阻害作用は、いくつかの再生医療モデルで役に立つ。例えば、間葉系幹細胞から組織再生されたウサギの腱修復の約28%で望ましくない異所性骨形成が起きる。PLGAマイクロスフェアからTGFβ3が徐放されると、異所性骨形成の発生を抑えるのに役立つかもしれない。間葉系幹細胞の予期せぬ骨原性分化が、関節軟骨の組織再生で起きることがあるが、マイクロスフェア中のTGFβ3を送達することにより対処することができる。TGFβ3またはTGFβ1は高用量(一般的には10ng/ml)で、間葉系幹細胞の軟骨形成性分化を誘導する。
【0050】
TGFβ3の徐放の別の組織再生上の用途は、骨芽細胞活性を阻害すること、および、頭蓋変形、発作、および失明として発症する頭蓋骨癒合症をもたらす病理状態である、頭蓋縫合の早期骨化を予防することである。組織再生された頭蓋縫合を、頭蓋骨癒合症モデルに適用すれば、病理的に癒合した頭蓋骨縫合と同じ早期骨化の運命に耐えなければならないかもしれない。封入された増殖因子をより長期間作用させ、かつ正確に制御することを可能にする徐放法によって、TGFβ3を送達する既存の方法をさらに改良することができる。初期の骨形成において、TGFβ3は、封入されていてもいなくても、ヒト間葉系幹細胞のインビボにおける分化を阻害することができる。明らかな頭蓋縫合部の間葉組織としての性質によって、間葉系幹細胞は、早期縫合部骨化において極めて重要な役割を果たしている可能性が高い。
【0051】
実施例2:チタン製インプラント
シカゴのイリノイ大学にある医療装置店で、滑らかで工業的に純粋なチタン製インプラントが特注によって製造された。インプラントは、寸法が4mm×2mm×6mm(外径×内径×長さ)の中空かつ円筒形のチタン棒であった。これらのインプラントは、直径が1mmのクロスホールを4個含んでいた。インプラントの寸法は、現在市販されている通常の歯科用インプラントの寸法を反映していた。これらのインプラントは、歯科用インプラントから成形されたものであるが、この技術を整形外科に応用することができる。
【0052】
材料と方法
ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)は、増殖因子などの大きな生体分子を制御送達する上で有効であることが分かっている、FDAが認可した共重合体である。正確に処理すれば、PLGAに、生体分子を封入するマイクロスフェアを形成させることができる。直径が平均64±μmで、TGF−β1を封入しているPLGAマイクロスフェアを研究室で作製した。また、PLGAマイクロスフェアは、封入された分子の放出速度を変えるために、さまざまなPLA:PGAの比率を用いて作製することもできる。TGF−β1を封入した50:50のPLGAマイクロスフェアのインビトロにおける放出実験によって、TGF−β1は、速やかにバーストして3日間で約0.2±0.05ngが放出され、最大4週間まで放出が持続されることが示された。
【0053】
【化1】

【0054】
【化2】

【0055】
【化3】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】チタン製インプラントを具体的に示す、3枚組の写真(図1A、図1Bおよび図1C)である。これらのインプラントは、直径1mmのクロスホールを4個含む、4mm×2mm×6mm(外径×内径×長さ)の滑らかで中空かつ多孔質の円筒形のチタン製ロッドである。A:商標Steri−Ossという名称でNobelBioCareから市販されている歯科用インプラント。B:商標ITIという名称でStraumannから市販されている歯科用インプラント。C:市販されているインプラントの寸法を模倣して特注した中空かつ多孔質のチタン製インプラント。
【図2】油−水−油二重エマルジョン技術を用いて研究室で製造されたポリ乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)マイクロスフェアとその使用法を図示する写真(図2A)およびグラフ(図2B)である。図2A:直径が約64〜16pmであって、TGF−〜Iを封入しているPLGAマイクロスフェア。写真中の棒の長さは約100pである。図2B:TGF−〜Iを担持するマイクロスフェアのインビトロでの放出プロファイルを示すグラフ。TGF−〜Iは、3日間で約0.2 0.05ngが速やかにバーストして放出され、最大限4週間まで放出が持続する。
【図3】PLGAマイクロスフェア、およびそれらを使用した結果を示す写真(図3A)およびグラフ(図3B)である。図3A:インビトロでの研究に備えて、PLGAマイクロスフェアをコラーゲンスポンジに注入した。図3B:インビトロでの研究によって、3週目にはコラーゲンスポンジ中のDNA含量が増加することが示され、マイクロスフェアを担持するインプラントの中に移動する細胞の数が増加したことを示唆している。
【図4】PLGAマイクロスフェアの製造および分解に関する。A:PLA:PGAの比率が50:50であるポリd−l−乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)から製造された、カプセル封入TGFβ3をもつマイクロスフェアの代表的なSEM画像、TGFβ3封入PLGAマイクロスフェアの平均直径は108±62μmであった。B:4日後にPBS溶液の中で、予想通りに分解したTGFβ3封入PLGAマイクロスフェアの代表的なSEM画像。
【図5】SEM下での無菌PLGAマイクロスフェアの形態変化を示す。A:未滅菌PLGAマイクロスフェア。B:紫外線(UV)滅菌の極めて有害な影響を示す、紫外線滅菌されたPLGAマイクロスフェア(30分)。C:24時間エチレンオキシド(EO)ガスによって滅菌されたPLGAマイクロスフェア。D:高周波グロー放電(RFGD)によって滅菌されたPLGAマイクロスフェア(4分、100W)。UV光によって誘起された激しい表面分解による変化とは対照的に、EOガスおよびRFGDは、PLGAマイクロスフェアの顕著な表面分解をもたらさなかった。
【図6】PLGAマイクロスフェアからのbFGFの放出動態を図示する。紫外線(UV)は、21日目までPLGAマイクロスフェアからbFGFが放出される速度を有意に変化させた(n=3、p<0.05)。エチレンオキシド(EO)ガスまたは高周波グロー放電(RFGD)で滅菌した後には、放出動態の顕著な変化は見られなかった。エチレンオキシドが、サイトカイン封入PLGAマイクロスフェアにとって最も経済的に効率的で安全な方法である。
【図7】1%BSA溶液中におけるPLGAマイクロスフェアからのTGFβ3の放出動態を示す。ELISAによって検出したところ、50:50または75:25の共重合率のPLGAマイクロスフェアから、TGFβ3が、それぞれ最大限36日目および42日目まで持続的に放出され、どちらの共重合率でも、初期バースト様の放出が見られたが、75:25のPLA:PGA比よりも50:50のPLA:PGA比の方が急速な放出速度をもたらした。
【図8】骨形成剤添加培地で7日間培養した、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)のアルカリホスファターゼ(ALP)活性を示す。A:TGFβ3を含まないPLGAマイクロスフェアに曝露したときのALP染色。B:PLGAマイクロスフェアから放出されたTGFβ3に曝露したときのALP染色。染色は、白い矢印で示した隔離された領域に限定されている。C:骨形成剤添加培地で培養したhMSCのALP活性をALP試薬によって定量した結果。PLGAマイクロスフェアによって送達されたTGFβ3において、骨形成剤添加培地で培養されたhMSCで有意な染色の低下が見られ、TGFβ3は、1.35ng/mlでインビトロにおいてhMSCの初期骨形成分化を阻害することを示唆した(n=3、p<0.05)。10倍の倍率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の中心部、側壁に多孔をもち、カプセル封入された生物剤または化学剤を中空の中心部に担持させて含む生体適合性材料を含む、歯または骨のインプラントであって、該生物剤または化学剤が、制御放出技術によって時間的および空間的に放出され、歯または骨の治癒を促進するインプラント。
【請求項2】
封入された生物剤が、生体マトリックスまたは足場の中に存在する、請求項1記載のインプラント。
【請求項3】
生体適合性材料が単量体または重合体からなる、請求項1記載のインプラント。
【請求項4】
生体適合性材料が、ステンレス鋼、チタン、および金属合金からなる群から選択される、1つ以上の金属である、請求項1記載のインプラント。
【請求項5】
さらに、歯または骨の解剖学的位置に応じて、断面が円筒形、正方形、長方形、または不規則な形であると定義される、請求項1記載のインプラント。
【請求項6】
側壁に複数の孔を有する、請求項6記載のインプラント。
【請求項7】
生体適合性材料が、内部表面、外部表面、または両面に第2の生体適合性材料のコーティングを有する、請求項1記載のインプラント。
【請求項8】
生体適合性材料が、コートされた縁をもつ複数の孔を有するとさらに規定される、請求項7記載のインプラント。
【請求項9】
第2の生体適合性材料が化学的な単量体または重合体である、請求項7記載のインプラント。
【請求項10】
薬剤が、コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコール、またはこれらの混合物からなる群から選択される化学的な重合体または単量体によってカプセル封入されている、請求項1記載のインプラント。
【請求項11】
カプセル封入された生物剤が、増殖因子、薬理作用物質、薬草物質、または化学物質である、請求項1記載のインプラント。
【請求項12】
生体マトリックスが、アルギン酸、キトサン、サンゴ、アガロース、フィブリン、コラーゲン、骨、シリコーン、軟骨、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される天然材料を含む、請求項2記載のインプラント。
【請求項13】
生体マトリックスが、骨形成剤、骨誘導剤、骨伝導剤、および骨形成促進剤をさらに含む、請求項12記載のインプラント。
【請求項14】
骨形成剤が、デキサメタゾン、骨形態形成ファミリーのタンパク質、トランスフォーミング増殖因子ファミリーのタンパク質、および血管内皮増殖因子ファミリーのタンパク質、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項13記載のインプラント。
【請求項15】
生体マトリックスが栄養培地をさらに含む、請求項12記載のインプラント。
【請求項16】
中空かつ多孔質の生体適合性媒体を含む整形外科用または歯科用のインプラントであって、該媒体が、
(i)生体マトリックス;
(ii)骨形成剤、薬理作用因子、薬草因子、化学因子、もしくは増殖因子、またはそれらの混合物;
(iii)栄養培地;および
(iv)幹細胞
を含み、
骨形成剤、薬理作用因子、薬草因子、化学因子、もしくは増殖因子、培地、および幹細胞を保持する、生体マトリックス用の固体支持体を提供するインプラント。
【請求項17】
中空かつ多孔質の媒体が有孔金属である、請求項16記載の整形外科用または歯科用のインプラント。
【請求項18】
骨形成剤がデキサメタゾンである、請求項16記載の整形外科用または歯科用のインプラント。
【請求項19】
請求項1または16に記載されたインプラントを宿主動物の中に移植することを含む、生物学的に操作された一部または全体の骨または歯を生体内で産生させる方法。
【請求項20】
以下の工程を含む、動物の体内において、インプラント部位で新しい骨または歯の増殖を誘導する方法:
(a)動物にインプラントを移植する工程;および
(b)該動物を骨または歯が成長するのに十分な期間管理する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−517660(P2008−517660A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538076(P2007−538076)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/037948
【国際公開番号】WO2006/047310
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(503060525)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (25)
【Fターム(参考)】