説明

生物医学的な使用のための複合マトリックス

【課題】生物医学的な使用のための複合マトリックスを提供する。
【解決手段】本発明は、架橋され、そして50000Da未満の分子量の鎖が10%ないし40%のグラフト量でグラフトされた、天然起源の生体適合性ポリマー少なくとも1種により構成された複合マトリックス、並びに、天然起源のポリマー少なくとも1種により構成された、部分的に生分解性の生体適合性マトリックスの製造方法であって、一方において、10%ないし40%のグラフト量で、10000Da未満の分子量の小さい鎖をグラフト化すること、他方において、均質なマトリックスを創成するため、ポリマー主鎖に架橋結合すること、からなる方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体液の置換、組織分離又は組織増加を可能にする、少なくとも1種の強く官能化された天然起源のポリマーにより構成された生体適合性マトリックスに関するものである。本発明のマトリックスは、その化学的、生物学的及び機械的分解を抑制することにより得られた生体内での長期持続性により特徴付けられる。
本発明は、完全に生分解性であるが、しかし、生体内における長期持続性により特徴付けられる、組織分離又は関節内補充を向上させるために適合された(薬理的に活性な)医療機器を得るための、方法及び、少なくとも1種の天然起源のポリマーの複合マトリックスの形態の組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
関節症患者において、グリコサミノグリカン成分の分子量が減少したことにより、軟骨保護機能、潤滑性及び衝撃吸収を確保することがもはやできない生来の滑液を置換するため、粘性と弾性を併せ持つ溶液の注入がしばしば考えられている。これらの生成物は、滑液嚢から急速に排出される。
治療用途の場合及び化粧目的の両方において、組織増加が望まれている。
治療用途の場合、特定の組織は、その機能を確保するために、拡張されることを要する;これは、声帯、食道、尿道括約筋、他の筋肉等の場合にそうであり得る。
皺を解消するため、傷跡を覆い隠すため、唇を厚くするため等で、患者は整形手術に頼り得る。しかし、前記手術に伴う高い費用に加えて、それは侵襲的で且つ危険な手法であるため、欠点が多い。組織を増加するために適合された材料の注入は、広汎に使用される方法である。医療機器として使用される皮下注射器は、使用することが容易であり、正確であり、そして非侵襲的方法を構成するという利点を有する。
市場で入手可能で注入可能な材料は、恒久的な又は生分解性の生成物である。
非吸収性の恒久的な生成物
非吸収性の恒久的な生成物を使用するための二つの手法:シリコーン又はベクター溶液中の固体粒子の懸濁液の注入、が存在する。
シリコーンの注入は広汎に使用されてきた。しかしながら、望ましくない長期間の影響(皮膚の小瘤、潰瘍)が認められ、この方法はますます見捨てられている[エジャートン(Edgerton)他、“液体シリコーンに伴う軟組織増加の兆候及び陥り易い過ち(Indications for and pitfalls of soft tissue augmentation with liquid silicone)”、Plast.Reconstr.Surg、58:157〜163(1976)]。
固体微粒子の注入はまた、恒久組織の増加を起こし得る。
米国特許第5344452号明細書は、10μmないし200μmの直径の小さい粒子により構成され、そして非常に平滑な表面を有する微粉状固体の使用を開示している。市販品であるアーテコル(Artecoll;登録商標)及びアーテプラスト(Arteplast;登録商標)は、コラーゲン溶液中のポリメタクリレート微小球の懸濁液により構成されている。
欧州特許出願公開第091775号明細書は、ヒアルロネート溶液中のメタクリレートヒドロゲルのフラグメント溶液を提案している。シリコーン、セラミック、カーボン又は金属の粒子(米国特許第5451406号明細書、米国特許第5792478号明細書、米国特許出願第2001−151466号明細書参照);ポリテトラフルオロエチレンの、ガラス又は合成ポリマーのフラグメント(米国特許出願第2002−025340号明細書参照)及びコラーゲン球もまた使用されたが、しかし、結果は、副反応並びに、残留生成物の生分解及び移行をするので、期待外れのものであった。従って、前記粒子は、以下の欠点の少なくとも一つを有する:大き過ぎる直径又は不規則な形状が粒子を互いに付
着させ、細い針を通る注入を困難にし得ること;脆過ぎる粒子が注入の間に壊れ得ること;小さ過ぎる粒子の注入が、マクロファージ及びリンパ系の他の構成要素による急速な消化を引き起こし、注入された粒子が移動し、そして環境細胞に接着し得ないこと。
従って、これらの生成物の恒久的性質は以下のより大きな欠点を生じさせる:マクロファージの活性化のおそれ、前記生成物を構成する合成フラグメントの移行、ステロイド注射又は切除さえも必要とし得る肉芽腫外観。更に、この種の生成物は、修復が必要なときでも修復が可能でない。
分解可能な生体材料のなかで、コラーゲン溶液又は架橋されたヒアルロン酸溶液が特筆され得る。
コラーゲン社(Collagen Corporation)は、グルタルアルデヒドと架橋結合されたコラーゲンをベースとする製剤を開発した(米国特許第4582640号明細書参照)。この生成物は、酵素的又は生化学的過程により、マクロファージにより消化され、リンパ系により除去され、その結果、急速に分解される。従って、処置を繰り返す必要がある。
米国特許第5137875号明細書は、コラーゲンを含むヒアルロン酸の水性懸濁液又は水溶液の使用を特許請求しているが、しかし、この生成物は、長期間処置用の溶液を構成し得ない。
欧州特許第0466300号明細書は、液相中に分散されたマトリックスであって、前記二相が、動物起源の、架橋結合されており、そして抽出された高分子量のヒアルロネートであるヒラン(hylan)より造られているものより構成された、粘性と弾性を併せ持つゲルの注入を提案している。
前記グリコサミノグリカンの吸収時間を増大させ、その結果、より長い滞留時間を得る目的のために、ヒアルロン酸エステル及びヒアルロン酸の架橋結合された誘導体が開発された。化粧品用途のために適合されたこのような生成物のなかで、液相(架橋結合されていないヒアルロネート)及び非常に架橋結合された層により構成された二相性ゲルであるレスチラン(Restylane;登録商標)を例示し得る。多糖類又は多糖類の酸エステルの分子間又は分子内結合物が多数の用途、例えば、外科手術後の癒着の阻止(欧州特許第0850074号明細書、米国特許第4851521号明細書、欧州特許第0341745号明細書参照)のために使用されるとき、高水準の酵素分解、及びエーテル結合物と反対に生理的環境において分解性であるエステル結合の低寿命(米国特許第4963666号明細書参照)を考えると、これらの生成物は長期間の永続的効果を構成し得ない。
マトリックスの持続性を増加させるため、高分子量のポリマーを使用するか、又は、架橋結合度を増加させる傾向があることは特記され得る。しかし、架橋結合が実質的に生成物の寿命を向上させる場合でも、これら高度に架橋され、それ故、非常に束縛されたゲルの取り扱いは、架橋結合により保護されていないポリマーの他の部位が機械的及び化学的に脆弱で且つより攻撃を受け易くなるので、非常に微妙である。
更に、架橋結合度の非常な増加は、注入することが困難な生成物を与え得る。
欧州特許第0749982号明細書は、低いグラフト化率で、酸化防止剤をマトリックスにグラフト化することを提案している。
【非特許文献1】エジャートン(Edgerton)他、“液体シリコーンに伴う軟組織増加の兆候及び陥り易い過ち(Indications for and pitfalls of soft tissue augmentation with liquid silicone)”、Plast.Reconstr.Surg、58:157〜163(1976)
【特許文献1】米国特許第5344452号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第091775号明細書
【特許文献3】米国特許第5451406号明細書
【特許文献4】米国特許第5792478号明細書
【特許文献5】米国特許第2001−151466号明細書
【特許文献6】米国特許第2002−025340号明細書
【特許文献7】米国特許第5137875号明細書
【特許文献8】欧州特許第0466300号明細書
【特許文献9】欧州特許第0850074号明細書
【特許文献10】米国特許第4851521号明細書
【特許文献11】欧州特許第0341745号明細書
【特許文献12】米国特許第4963666号明細書
【特許文献13】欧州特許第0749982号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、現在の材料は理想的な溶液を提供しないことが明確に示されており、そして、医療分野の用途において使用し易く、その機能がもはや必要とされない場合に消滅するような寿命を有するが、しかし、内科的及び外科的治療を抑制するのに充分な高度に生体適合性の材料の発見を目的として、組織増加、組織分離又は関節内補充のための新規生成物探索が継続している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
組織分離又は関節内補充を増加させるための条件は多年にわたり知られており、そして、多数の溶液が、治療用途及び化粧品用途のために提案されていたけれども、本発明は、副作用なく医療機器を長期間有効にする方法を提供し、そして新規組成物を提案する。前記組成物はまた、活性な薬理物質のためのベクターを構成するためにも有用であることが示され得る。
本発明の原理は、ポリマー主鎖に対する直接的な化学的及び酵素的攻撃を抑制するために、ポリマー鎖の多数の部位を占有することに基づいている。架橋結合と併用して小さい分子をグラフト化することは、架橋結合の大きさが大き過ぎることに誘因して敏捷性を制限する一方、マトリックスの密度を増加させ、それ故、分解に必要な時間を増加させる。二種の官能性、即ち、細網化及びグラフト化の組み合わせはまた、ポリマー主鎖において、同一数の占有された部位を有するが、しかし、架橋結合の大きさがより大きいマトリックスに比較して、注入されるために適合されたマトリックスの使用の容易さを増加させ得る。組成物の長期持続性を可能にする効果は、グラフトされた分子が酸化防止性を有するとき増幅され得る。酸化防止剤はまた、前記マトリックス中に分散され得る。前記生成物を構成するための、セルロース誘導体又は、ヒトにおいて自然に存在しない他のポリマーの使用はまた、特定の加水分解酵素がないため、マトリックスの分解を抑制し得る。
本発明の範囲において、用語“部位”は、攻撃され易いポリマー鎖の全ての部位を示したものである;それは、ヒドロキシ基又はカルボキシ基のようなペンダント官能性基又は、エーテル架橋基のような鎖のことでもある。
医療機器の長期持続性の効果は、医学的治療の間隔を開けることを可能にし、それ故、患者の人生の質を向上させる。
本発明の別の目的は、1種又は複数種の治療的な活性分子を含む同一組成物を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明は、少なくとも1種の高度に官能化された天然起源のポリマーにより構成された、長期持続性を持つ、生体適合性の複合単相マトリックスを提供する。長期持続性とは、生体内における寿命が、同等の官能性を有するが、しかし、本発明の方法と別の方法により得られる、しばしば単一の架橋結合により特徴付けられた生成物の寿命よりも大きいことを意味する。
関節内補充又は組織増加に適合した物質は、多糖類、例えばヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、セルロース及びその誘導体、キサンタン及びアルギネート、プロテイン又は核酸から選択された、100000D
aを越える分子量の少なくとも1種のポリマーであって、小さい鎖のグラフト化及び、マトリックスの創成を可能にする架橋結合基により高度に官能化されているポリマーにより構成される。マトリックスは、架橋結合及びグラフト化により二重に官能化された生物起源のポリマーにより構成された三次元ネットワークを意味する。
架橋結合剤は特に、二官能性又は多官能性エポキシド、例えば1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル[また、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンとも呼ばれる。]、1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサン及び1,2−エタンジオールジグリシジルエーテル、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンから選択され得る。
ポリマー鎖の結合を確実にする細網化剤のモル数とポリマー構造物のモル数との比率として定義された細網化の程度は、注入可能な生成物の場合は0.5%ないし25%、固体の場合は25%ないし50%からなる。
前記マトリックスの立体的大きさ及び密度を増加させ、それ故、生成物が化学的及び生化学的作用により分解されるために必要な時間を増加させるため、小さい鎖は、イオン結合により又は、共有結合様式、好ましくはエステル化により、マトリックスにグラフト化され得る。これらのグラフトされた鎖は、マトリックスにおける多数の部位を占有し、それが、マトリックスを構成するポリマーの機械的又はレオロジー的特性を変更することなく、生成物の寿命を実質的に増加させ得る。機械的保護に、“ルアーズ(lures)”により構成される生物学的及び化学的保護が加えられる。
ヒドロキシ又はカルボキシ型の官能性基に対してグラフトされた鎖は、おそらく、一方では、反応されたこれらの官能性基を直接的に、そして、他方では、立体障害性により探知され得る他の部位を間接的に、保護する。
グラフトされた鎖及び小さい寸法の天然起源のポリマーは、マトリックスにより遮蔽された部位又は、有機体の酵素により認識されないポリマーよりもより多くの有効な攻撃部位を含む。前記後者の場合において、それは、セルロース誘導体或いは、有機体の酵素により分解されないが、しかし、遊離基及び他の反応性基の攻撃に敏感な、人体中に自然には存在しない、他のバイオポリマーのことであり得る。それは、例えば、カルボキシメチルセルロースのことであり得る。
グラフトされた鎖は、その上、酸化防止性又は、ポリマーマトリックスの分解反応を阻止する性質を有するところの、ポリマー化されていない鎖である。それは例えば、ビタミン、酵素又は環状分子のことであり得る。
グラフト量は、グラフトされた分子のモル数又はグラフトされたポリマーのモル数と架橋結合されたポリマー構造物のモル数との比率としてとして定義され、10%ないし40%である。
小さい寸法の、即ち、ポリマーマトリクスの多数の部位において、50000Da未満、そして好ましくは10000Da又はそれより小さい寸法の鎖のグラフト化は、これらのグラフトされた鎖の存在が環境的媒体としてマトリクスへの攻撃を阻止し、そして、注入後の生成物の長期持続性を確保する一方、細網化量は増加しないので、最終生成物の注入可能な性質を持続可能にする。
グラフトされる分子は、主鎖への直接的な共有結合により、例えば、エポキシド、エピハロヒドリン又はジビニルスルホンから選択された二官能性又は多官能性分子におけるヒドロキシ基又はカルボキシ基のエステル化又はエーテル化により、グラフト化され得る。
当業者は、このような官能化法は、単純な架橋結合に比べて非常な利点を有することを容易に理解する。
グラフト化及び架橋結合は同時に起こり得るか、或いは、グラフト化は架橋結合に先行し得るか、又は、その逆であり得る。
遊離基による分解を抑制するために、酸化防止性を有する分子はまた、強く官能化されたマトリックス中に分散され得る。
例えば、酸化防止性を有する細長い水溶性分子であるビタミンCは、炎症を起こしていない組織の場合に、遊離基を捕捉するため、有機高分子の酸化を避けるばかりでなく、細
胞外マトリックス、特にコラーゲンの合成を促進するためにも、使用され得る。この効果は、皮膚の弾力性を向上させるための外皮用途及び化粧品用途の場合に特に興味深い。
多数の利点(酸化防止作用、組織の発達に対する影響、皮膚の処置における関与)を有するビタミンAもまた、前記の高度に変性されたマトリックス中に分散され得、該マトリックスはその密度により活性な薬物の放出を促進し得る。
非常に少量放出されるメラトニンは、同様にマトリックス中に分散され得る皮膚の強力な酸化防止剤及び再生剤並びに免疫系の防御剤である。
酵素による分解を抑制するため、人体において自然には入手可能でないポリマー、例えばセルロース誘導体、特にカルボキシメチルセルロースの使用は、これらポリマーの特別な加水分解酵素が存在しないので、本発明のマトリックス組成物において推奨される。
結果として、短鎖のグラフト化及び、市場に存在する他の製品に比較して依然としてかなり低い架橋結合量の使用に基づき、非常に多数の“攻撃可能な”部位を、他の部位を脆弱にすることなく、生物学的及び化学的にブロックすることにより、立体障害を大きく増加させることによって、本発明の組成物の長期持続性効果が得られる。
その上、この種の官能化は、マトリックスの成分ポリマーの主鎖上の多数の同様の占有部位に、架橋結合のみにより変性されたゲルに比較して促進された注入可能性をもたらす。
図1は、本発明の注入可能な生成物の、経時的に非常に遅い分解、並びに、市場で入手可能な二つの製品ジュヴェダーム(Juvederm;登録商標)及びレスチラン(Restylane;登録商標)(米国特許第5827937号明細書に記載された多糖類ゲル組成物)の経時的な分解を示す図である。
本発明はまた、架橋され、そして50000Da未満の分子量の鎖が10%ないし40%のグラフト量でグラフトされた、天然起源の、少なくとも1種の生体適合性ポリマーにより構成された複合マトリックスに関するものである。
前記マトリックスを構成する天然起源の生体適合性ポリマーは、好ましくは、ヒアルロン酸のような多糖類、、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、セルロース及びその誘導体、キサンタン及びアルギネート、プロテイン又は核酸から選択されている。
好ましい実施態様において、天然起源の前記生体適合性ポリマーは、ヒアルロン酸のような多糖類、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、キサンタン及びアルギネート、プロテイン又は核酸から選択された、人体内に自然に存在するポリマー少なくとも1種と架橋結合されているところの、セルロース誘導体、キサンタン又はアルギネートのような、人体内に自然に存在しないポリマーである。
好ましくは、ポリマーの結合を確実にする細網化剤のモル数とポリマー構造物のモル数との比率として定義された架橋結合の量は、注入可能な生成物において、0.5%ないし50%、特に0.5%ないし25%、そして固体生成物において、25%ないし50%である。鎖の結合を確実にする架橋結合剤は、エポキシド、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンから選択された二官能性又は多官能性分子により提供され得る。
前記マトリックスは、酸化防止剤、ビタミン又は、他の分散された医薬的に活性な薬剤を含み得る。
本発明はまた、生体液又は組織を置換、充填又は供給するための、上記において定義されたマトリックスの使用に関するものである。
本発明はまた、少なくとも1種の天然起源のポリマーにより構成された、部分的に生分解性の生体適合性マトリックスの製造方法であって、
一方において、10%ないし40%のグラフト量で、50000Da未満の分子量の小さい鎖をグラフト化すること、
他方において、均質なマトリックスを創成するため、ポリマー主鎖を架橋結合すること、
からなる方法に関するものである。
【実施例】
【0006】
実施例
本発明を説明するために実施例を提供するが、しかし、如何なる場合においても、前記実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
第一組の実施例(実施例1〜3)
実施例1−(架橋結合)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)150mg及びカルボキシメチルセルロース(分子量=2×105 Da)50mgを0.5%ソーダ6mLに添加した。透明溶液が得られるまで、全体を混合物形態で均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)10μLを前記溶液に添加し、そして、全体を20℃で12時間混合した。pHを生理的pHに調節した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル1)。
実施例2−(架橋結合)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)150mg及びカルボキシメチルセルロース(分子量=2×105 Da)50mgを0.5%ソーダ6mLに添加した。透明溶液が得られるまで、全体を混合物形態で均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)20μLを前記溶液に添加し、そして、全体を20℃で12時間混合した。pHを生理的pHに調節した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル2)。
実施例3−(架橋結合及びグラフト化)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)150mg及びカルボキシメチルセルロース(分子量=2×105 Da)50mgを0.5%ソーダ6mLに添加した。透明溶液が得られるまで、全体を混合物形態で均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)20μLを前記溶液に添加し、そして、全体を20℃で8時間混合した。ベンジルヒアルロネート(75%までエステル化されている;分子量=104 Da)40mgを添加し、そして、20℃で2時間混合した。その後、ビタミンC10mgを添加し、そして、粘稠マトリックスに配合した。pHを生理的pHに調節した。その後、全体を2時間混合した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル3)。
グラフト化量の計算
グラフト化量=((mvitC/MvitC+(mHAbenzyl/MHAbenzyl))/
((mHA/MHA)+(mCMC /MCMC ))
=0.246(即ち、24.6%)
式中、m:質量(g)
M:ポリマー単位の分子量(g/モル)
vitC:ビタミンC
HA:ヒアルロネート
HAbenzyl:ベンジルヒアルロネート
CMC:カルボキシメチルセルロース
カルボキシル官能性は全てナトリウム塩の形態で存在し、そしてカルボキシメチルセルロースは0.9の置換量を有する、と仮定することにより計算されたグラフト化量は、24.6%である。
レオロジーに関する研究は、実施例1のゲル(ゲル1)よりも実施例2のゲル(ゲル2)の方が、これらのゲルが37℃に保持された場合、それらの性質がより遅く低下することを示した。生体内研究は今まで行われなかったけれども、ゲル2の分解は、同一方法により合成された、しかし、ヒアルロン酸ナトリウムを排他的に含むゲルより急速でなく分解されるはずのゲル1の分解よりもおそらく遅い。この結果は、同一濃度で注入され、そ
して、同様の分子量を有する細網化されていないヒアルロン酸ナトリウムの生体内寿命と比較した、細網化されていないカルボキシメチルセルロースの生体内寿命に関するデータにより示唆されている。
ゲル2は、架橋結合の程度が2倍大きいことに起因して、実施例1からのものよりも長い寿命を有する。
実施例3のゲル(ゲル3)において占有された部位の数は、ゲル2のものと少なくとも同等であり、そして、ゲル3の粘度の経時的な減少は、ゲル2のものよりも遅い(これらのゲルが37℃に保持された場合)。
【0007】
第二組の実施例(実施例4〜7)
実施例4−(架橋結合)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)1gを、1%ソーダ溶液10mLに投入した。前記溶液が透明になるまで、全体を均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)100μLを添加し、そして、全体を再び50℃で2時間混合した。この溶液を生理的pHに調節し、そして、燐酸塩緩衝液を用いて、容積を50mLに再調節した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル4)。
実施例5−(架橋結合)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)1gを、1%ソーダ溶液10mLに投入した。前記溶液が透明になるまで、全体を均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)130μLを添加し、そして、全体を再び50℃で2時間混合した。この溶液を生理的pHに調節し、そして、燐酸塩緩衝液を用いて、容積を50mLに再調節した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル5)。
実施例6−(架橋結合)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)0.8g及びカルボキシメチルセルロース(分子量=3×105 Da)0.2gを、1%ソーダ溶液10mLに投入した。前記溶液が透明になるまで、混合機で全体を均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)130μLを添加し、そして、全体を再び50℃で2時間混合した。この溶液を生理的pHに調節し、そして、燐酸塩緩衝液を用いて、容積を50mLに再調節した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル6)。
実施例7−(架橋結合及びグラフト化)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量=2×106 Da)0.8g及びカルボキシメチルセルロース(分子量=3×105 Da)0.2gを、1%ソーダ溶液10mLに投入した。前記溶液が透明になるまで、混合機で全体を均質化した。その後、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)130μLを添加し、そして、全体を50℃で1時間20分間混合した。0.5%ソーダ溶液4mLで稀釈したヘパリン(分子量=3×103 Da)0.2gを、その後、添加してゲルを形成し、そして、全体を再び混合した。この混合物を生理的pHに調節し、そして、燐酸塩緩衝液を用いて、容積を50mLに再調節した。その後、得られたマトリクスを、pH7の燐酸塩緩衝液で24時間透析した(分離の境界体として、分子量=12000〜14000の再生セルロースを使用した。)(ゲル7)。
グラフト化量の計算
グラフト化量=(mheparin /Mheparin )/
((mHA/MHA)+(mCMC /MCMC ))
=10.3%
式中、m:質量(g)
M:ポリマー単位の分子量(g/モル)
HA:ヒアルロネート
CMC:カルボキシメチルセルロース
イオン化可能な官能性の半分はナトリウム塩の形態で存在し、そして、カルボキシメチルセルロースは0.9の置換量を有すると仮定することにより計算されたグラフト化量は、10.3%である。
その上、実施例1ないし実施例7において得られた異なるゲルの注入可能性を定量化するための方法が記載されている。この方法は、得られた異なるゲルを、27G型針を通して放出するために必要な力の測定を使用する。得られた異なるゲルをそれぞれ、出口に27G型針が装着されている1mLのシリンジ中に投入した。このシリンジをキャリヤーにより垂直に保持し、その後、使用者により定義された一定速度で、シリンジのピストンを押圧した。検出器で、前記生成物を放出するために必要な力を測定した。第一組の実施例において、放出速度は75mm/分であり、そして、第二組の実施例において、放出速度は15mm/分であった。
実施例1ないし実施例7のゲルに対して測定された放出力の値を、後記表1及び表2に示す。

表1
┌──────────────┬────────────┐
│ゲル │放出力 V=75mm/分│
├──────────────┼────────────┤
│1(架橋結合) │ 20N+/−4N │
├──────────────┼────────────┤
│2(架橋結合) │ 32N+/−4N │
├──────────────┼────────────┤
│3(架橋結合及びグラフト化)│ 25N+/−4N │
└──────────────┴────────────┘
前記表に記載された結果によると、架橋結合の当量に対して、本発明の架橋結合され且つグラフトされたゲルは、架橋結合されたゲルよりも小さい放出力(それ故、良好な注入性)を有する(実施例2のゲルと実施例3のゲルとを比較)。

表2
┌──────────────┬────────────┐
│ゲル │放出力 V=15mm/分│
├──────────────┼────────────┤
│4(架橋結合) │ 14N+/−4N │
├──────────────┼────────────┤
│5(架橋結合) │ 23N+/−4N │
├──────────────┼────────────┤
│6(架橋結合) │ 26N+/−4N │
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│7(架橋結合及びグラフト化)│ 24N+/−4N │
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先に観察されたように、架橋結合量の増加は、生成物を放出するために必要な力を増加させる(実施例4ないし実施例6のゲルを比較)。同等の架橋結合量では、この注入性は、架橋結合されたゲルHA/CMCに対してより低下する。しかし、注入性が高いとき、これらのゲルの持続性もまた長いはずである。最後の実施例(ゲル6とゲル7とを比較)は、ヘパリンの小さい鎖のグラフト化は、架橋結合されたマトリックスを立体障害性により及び前記ポリマーの生物学的性質により保護する一方、放出のために必要な力を減少さ
せるという事実を示している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の注入可能な生成物の、経時的に非常に遅い分解、並びに、市場で入手可能な二つの製品ジュヴェダーム(Juvederm;登録商標)及びレスチラン(Restylane;登録商標)(米国特許第5827937号明細書に記載された多糖類ゲル組成物)の経時的な分解を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシド、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンから選択された二官能性又は多官能性分子の架橋剤を用いて架橋結合された、天然起源の生体適合性ポリマー少なくとも1種により構成された複合マトリックスであって、
該ポリマーは、
小形の天然起源のポリマー、好ましくはセルロース誘導体、又は、人体内に自然に存在しない他のバイオポリマーの誘導体、及び/又は、酸化防止性又は前記マトリックスの分解反応を阻止する性質を有する非ポリマー状鎖、好ましくはビタミン、酵素又は、1個若しくは複数個の環を含む分子、から選択された、50000Da未満の分子量の鎖が、グラフトされた分子のモル数とポリマーユニットのモル数との比率として定義された10%ないし40%のグラフト量でグラフトされているところの、複合マトリックス。
【請求項2】
天然起源の前記生体適合性ポリマーが、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、セルロース及びその誘導体、キサンタン及びアルギネート、プロテイン又は核酸から選択されている、請求項1記載のマトリックス。
【請求項3】
天然起源の前記生体適合性ポリマーが、人体内に自然に存在しないポリマー、例えばセルロース誘導体、キサンタン又はアルギネートであって、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、プロテイン又は核酸から選択されたところの、人体内に自然に存在するポリマー少なくとも1種と架橋結合されているポリマーである、請求項1又は請求項2記載のマトリックス。
【請求項4】
ポリマーの結合を確実にする架橋結合剤のモル数とポリマー単位のモル数との比率として定義された架橋結合量が、注入可能な生成物の場合、0.5%ないし50%、特に0.5%ないし25%、そして固体生成物の場合、25%ないし50%である、請求項1ないし請求項3の何れか一項記載のマトリックス。
【請求項5】
酸化防止剤、ビタミン及び、他の分散された医薬的に活性な薬剤を含む、請求項1ないし請求項4の何れか一項記載のマトリックス。
【請求項6】
ビタミン又は、他の分散された医薬的に活性な薬剤を含む、請求項1ないし請求項5の何れか一項記載のマトリックス。
【請求項7】
生体液又は組織を分離、置換、充填又は供給するための、請求項1ないし請求項6の何れか一項記載のマトリックスの使用。
【請求項8】
天然起源のポリマー少なくとも1種により構成された、部分的に生分解性の生体適合性マトリックスの製造方法であって、
−一方において、10%ないし40%のグラフト量で、50000Da未満の分子量の小さい鎖であって、該小さい鎖は、小形の天然起源のポリマー、好ましくはセルロース誘導体、又は、人体内に自然に存在しない他のバイオポリマーの誘導体、及び/又は、酸化防止性又は前記マトリックスの分解反応を阻止する性質を有する非ポリマー状鎖、好ましくはビタミン、酵素又は、1個若しくは複数個のユニットを含む分子、から選択されている小さい鎖、をグラフト化すること、
−他方において、均質なマトリックスを創成するため、エポキシド、エピハロヒドリン又はジビニルスルホンから選択された二官能性又は多官能性分子である架橋結合剤を用いて、ポリマー主鎖を架橋結合すること、
からなることを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−500027(P2007−500027A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521630(P2006−521630)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002052
【国際公開番号】WO2005/012364
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(506032369)アンタイス エス.エイ. (6)
【Fターム(参考)】