説明

生物反応装置

【課題】本発明における課題は、設置スペースを広く確保しなくても一度に多くのスライド標本の配置を可能にすると共に処理能率の向上が図れるようにする生物反応装置を構成する点にある。
【解決手段】複数の標本スライドが横一列にセットされ上下多段に配置されたスライド支持手段とそのスライド支持手段の全体を、上下動させる昇降手段と、昇降するスライド支持手段を、所定の高さ位置の作動待機位置に位置決め静止させる位置決め手段と、作動待機位置に位置決めされたスライド支持手段を前方の分注動作位置及び分注動作位置からさらに前方の洗浄動作位置へそれぞれに押し出すとともにもとの作動待機位置へ引き戻すよう移動させるスライド移動手段と、前記分注動作位置、洗浄動作位置に押し出されたスライド支持手段にセットされている標本スライドに対し試薬を滴下する滴下手段と洗浄水を噴射する洗浄手段とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理診断等に用いられる生物反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病理診断等に用いられる生物反応装置は、組織標本、細胞診標本等のスライド標本の上面にセットされた標本に対して試薬等を分注する分注装置と反応完了後に洗浄水を噴射して洗浄を行うための洗浄装置とを備える。
【0003】
標本をセットするスライド標本は、縦・横に整列して面一状に配置セットするタイプと円形コンベアの上面にその円形コンベアに沿ってリング状に配置セットするタイプが知られている。
【0004】
面一条にスライド標本を配置セットするタイプの分注・洗浄装置は、前後及び左右方向となるX・Y方向に動くロボットアームによって支持され、例えば、分注時にはX・Y方向に動くことで設置されたスライド標本の上方位置に作動制御される手段となっている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、円形コンベアの上面にスライド標本をリング状に配置セットするタイプの分注・洗浄装置は、円形コンベア上方に配置され、固定された分注・洗浄ゾーンを構成することで、例えば、分注時には円形コンベアを回転させて設定されたスライド標本を分注・洗浄ゾーンの下位に作動制御する手段となっている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−80139号公報
【特許文献2】特許第3186764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来手段の生物反応装置のスライド標本は、前記した如く面一条に配置セットされるタイプと円形コンベアに沿ってリング状に配置セットされるタイプとなっているため、例えば、検査標本が多数集まる検査センターの場合には、一度に多くの標本検査が行えるようスライド標本の設置スペースを広く確保する必要が生じる。
【0008】
しかしながら、設置スペースを広く確保すると前者にあってはスライド標本をセットする広いステージが必要となる。後者にあってはスライド標本をセットする径の大きい円形コンベアが必要となり、いずれも装置全体の大型化を招く問題がある。
【0009】
特に、設置面積の拡大は装置全体の大型化を招くだけではなく前者の場合、ロボットアームは広い領域にわたってX・Y方向に動くようになる。一方後者の場合には直径が大きくなる円形コンベアによって、スライド標本が分注・洗浄ゾーンへ行くまでに時間がかかるようになる等、前者、後者いずれの場合でも能率向上の面を考えると望ましくない。
【0010】
そこで、本発明にあっては、設置スペースを広く確保しなくても一度に多くのスライド標本の配置を可能にすると共に処理能率の向上が図れるようにする手段を得ることを、解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、前記課題を達成するために、複数の標本スライドが横一列にセットされ上下多段に配置されたスライド支持手段と、前記スライド支持手段全体を、スライド支持手段に対応して一段ずつ上下動させる昇降手段と、前記昇降手段により昇降するスライド支持手段を、設定した所定の高さ位置の作動待機位置に位置決め静止させる位置決め手段と、前記位置決め手段により作動待機位置に位置決めされたスライド支持手段を前方の分注動作位置及び分注動作位置からさらに前方の洗浄動作位置へそれぞれに押し出すとともにもとの作動待機位置へ引き戻すよう移動させるスライド移動手段と、前記分注動作位置、洗浄動作位置に押し出されたスライド支持手段にセットされている標本スライドに対し試薬を滴下する滴下手段と洗浄水を噴射する洗浄手段とを備えていることを特徴とする生物反応装置を提起するものである。
そして、これに併せて、前記洗浄手段は、洗浄動作位置に押し出されたスライド支持手段にセットされている複数の標本スライドに対し、同時に洗浄水を噴射する複数の同時噴射ノズルと、並列する複数の標本スライドのうちの個々の標本スライドに対し個別に洗浄水を噴射する個別噴射ノズルとを有していることを特徴とする生物反応装置を提起し、
また、これに併せて、前記スライド移動手段は、移動させるスライド支持手段の姿勢を、分注動作位置において、略水平な姿勢とし、洗浄動作位置において、前方に向け下降傾斜する姿勢とする規制手段を具備していることを特徴とする生物反応装置を提起し、
また、これに併せて、前記スライド支持手段は、標本スライドを並列させて保持せしめるスライドアダプタが載置される床面に、スライドアダプタ上の標本スライドを設定温度に加熱する加熱手段が敷設してあることを特徴とする生物反応装置を提起し、
また、これに併せて、前記分注滴下位置には、滴下手段の外に標本スライド上面に滴下した試薬表面全体をフィルムで覆うフィルム吸着支持手段を有し、フィルム吸着支持手段は少なくとも標本を挟んで左右対称位置でフィルムを吸着支持する吸着パッドを有していることを特徴とする生物反応装置を提起するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スライド支持手段を上下に多段に配置するため設置面積の拡大を図らなくても一度に多くのスライド標本の配置セットができるようになる。
【0013】
また、多段に配置されたスライド支持手段を昇降手段及び位置決め手段によって迅速に作動待機位置に設定できると共にスライド移動手段によって分注動作位置及び洗浄位置に迅速に作動制御できる。
【0014】
また、滴下手段及び洗浄手段の動作は、1つのスライド支持手段の範囲内でよいため、大きく動くことなく滴下、洗浄が行えるようになり分注動作、洗浄動作の面でも大変好ましいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施せる生物反応装置の斜視図である。
【図2】同上生物反応装置の機内に昇降自在に装架するトレイカセット内の各収容室に組み込むスライドトレイの、スライドアダプタをセットする前の状態における斜視図である。
【図3】同上スライドトレイにセットするスライドアダプタ及びこれにセットする標本スライドの斜視図である。
【図4】同上スライドトレイの別の例の斜視図である。
【図5】同上別の例のスライドトレイに組み込む加熱手段の斜視図である。
【図6】スライドトレイの別の例の斜視図である。
【図7】同上トレイにセットするスライドアダプタおよび標本スライドの斜視図である。
【図8】同上アダプタにセットした標本スライドとスライドトレイ内の台に設けたヒータブロックとの相対関係位置を示す説明図である。
【図9】同上のアダプタにセットした標本スライドがヒータブロックに支承された状態を示す説明図である。
【図10】機内に昇降自在に装架せるトレイカセット及びそのトレイカセットを昇降させる昇降手段の正面図である。
【図11】同上手段の一部の拡大した横断平面図である。
【図12】(イ)同上のトレイカセットが、内部の多段の収容室のうちの最下段の収容室が動作位置の高さ位置まで上昇した状態を示す説明図である。 (ロ)同上のトレイカセットが、内部の収容室の最上段の収容室が動作位置の高さ位置まで下降した状態を示す説明図である。
【図13】トレイカセット内に多段に装架される収容室の、一部の縦断側面図である。
【図14】同上収容室の図13におけるA−A線断面図である。
【図15】同上収容室の図13におけるB−B線断面図である。
【図16】同上収容室の、収容しているスライドトレイが押し出された状態の縦断側面図である。
【図17】同上収容室のスライドトレイがさらに押し出された状態の縦断側面図である。
【図18】生物反応装置の機体に組み込まれるヘッドユニットの底面図である。
【図19】同上ヘッドユニットの正面図である。
【図20】同上ヘッドユニットに組み付けられる分注・洗浄・エアブロー手段の、エアポンプ・水ポンプ・シリンジに対する接続状態を説明する展開した説明図である。
【図21】分注ノズルの内壁に試薬が付着した状態を示す説明図である。
【図22】分注ノズルの外面に付着した試薬を洗浄する説明図である。
【図23】スライドトレイに多連に並列セットした標本スライドを、同時に洗浄する洗浄手段の、洗浄動作状態時の側面図である。
【図24】同上の同時洗浄手段の洗浄動作状態時の斜視図である。
【図25】同上手段の、洗浄ノズル及びエアノズルを多連に装備する基材の縦断面図である。
【図26】同上手段のエアブロー動作状態時の斜視図である。
【図27】トレイカセット内の多段の収容室の各天井面に結露する水滴の回収除去手段の縦断側面図である。
【図28】同上手段の部分の拡大縦断側面図である。
【図29】ヘッドユニットの下面に装着するフィルム吸着支持ユニットの側面図である。
【図30】同上ユニットの縦断側面図である。
【図31】同上ユニットで取り出すフィルムが収容されているフィルムラックの縦断側面図である。
【図32】同上フィルムラックの縦断正面図である。
【図33】フィルム吸着支持ユニットで、フィルムラックからフィルムを取り出す動作の説明図で、(1)はフィルムラックの上方にフィルム吸着支持ユニットを位置せしめた状態、(2)は同上のユニットの各吸着パットをフィルムラック内のフィルムに当接させた状態、(3)は中央の吸着パットを上昇させた状態、(4)はフィルム吸着支持ユニットを引き上げた状態、(5)は、さらにユニットを引き上げて一枚のフィルムを取り出した状態を示す。
【図34】フィルム吸着支持ユニットで、取り出したフィルムを標本スライドの上面に貼着する動作工程の説明図で、(1)はスライドトレイ内の標本スライドの上方にフィルム吸着支持ユニットを位置させた状態、(2)はその状態において、中央の吸着パットを下降させてフィルムの中央部を下方に押し出した状態、(3)は、押し出した中央部を標本スライド上の標本に接触させた状態、(4)はフィルム吸着支持ユニットの下降によりフィルムの中央部を標本に押し付けた状態、(5)はフィルムを標本スライドの上面に貼着した状態を示す。
【図35】フィルム吸着支持ユニットの別の例の側面図である。
【図36】同上のユニットの、フィルムラックから一枚のフィルムを取り出す動作を示す側面図である。
【図37】標本スライドに貼着したフィルムを引き剥がすフィルム引剥手段の斜視図である。
【図38】同上手段の引剥作業の説明図である。
【図39】同上手段のクリップにフィルムの端部が当接する動作の説明図である。
【図40】同上手段のクリップにフィルムの端部が挟み込まれる動作の説明図である。
【図41】同上手段のクリップの側面図である。
【図42】同上クリップのフィルム端部を挟持した状態時の側面図である。
【図43】トレイカセット内のスライドトレイを組み付け収容する収容室の、気密を保持するシール手段の説明図で、(1)はトレイカセットの縦断した概要側面図、(2)は同上トレイカセットの一部の拡大縦断側面図である。
【図44】同上シール手段の別の例の説明図で、(1)は、スライドトレイの前面側の壁板が、収容室の出入口から前方に押し出されている状態におけるトレイカセットの一部の拡大縦断側面図、(2)は、同上一部のスライドトレイの前面側の壁板が収容室の出入口の回りの機壁に圧接してきた状態時の拡大縦断側面図である。
【図45】同上シール手段のさらに別の例の説明図で、(1)はスライドトレイの前面側の壁板が、収容室の出入口から前方に押し出されている状態時におけるトレイカセットの一部の拡大縦断側面図、(2)は、同上一部のスライドトレイの前面側の壁板が、収容室の出入口に嵌合した状態時の拡大縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明の実施の態様を、実施例につき図面に従い詳述する。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明手段を実施せる生物反応装置Tの一例の全体の斜視図で、Wは全体の本体機枠、Aはスライド支持手段となるスライドトレイ(後述する)を上下に多段に並列収容して、本体機枠W内に昇降手段により昇降するよう装架せるトレイカセット、Bは、試薬を分注した標本スライドから試薬が蒸発するのを防ぐフィルムが収容されているフィルムラック、Cは各種試薬瓶ラック、Dはヘッドユニット、Eは、ヘッドユニットに装備される分注ノズル用の洗浄槽、Fはスライドトレイを支承して、そのスライドトレイ内にセットされた標本スライドに対し分注・洗浄・エアブローの動作を行わす動作位置となる棚台、Gは各種試薬のボトルを収容するラック、HはヘッドユニットDを支架せるロボットアームを示す。また、2は、トレイカセットAに上下に多段に形成した収容室1のそれぞれに収容してその収容室1に装備せるスライド移動手段により出入自在としたスライド支持手段となるスライドトレイ(以下、スライドトレイと称す)、2’は、同上の収容室1から分注・洗浄・エアブローの作業の動作位置となる棚台Fに引き出したスライドトレイ、Sはスライドトレイ2内に整列してセットされている標本スライドを示す。
【0018】
図2は、標本スライドSを横一列に整列させた状態にセットして支持するスライドトレイ2の、標本スライドSをセットする前の状態における斜視図である。スライドトレイ2は、この例においては、左右に長く前後に短い長四角形の平箱状乃至トレイ状に成形してあり、それの前面の壁板20は、他の側壁板より上方及び下方に延長して引き出しの前面の扉板状に形成してある。このスライドトレイ2は、内部の床板の上面には、標本スライドSを載置する台21が、後方に寄せた部位に配設され、その台21前縁と前面の壁板20との間の床板は、壁板20の下縁に向けて下降傾斜する傾斜床板22に形成してあり、この傾斜床板22と前面の壁板20の内側の壁面との間に、台21上にセットされた標本スライドS上の標本sを洗浄水で洗浄したときの排水を誘導する排水溝24を形成している。この排水溝24の左右の両端は、左右の壁板の端部に、切欠き状に形設した洗浄液排出口23に連通している。
【0019】
このスライドトレイ2に対する標本スライドSのセットは、図3に示しているように、前述の台21の上面に対応する形状の帯板状の板材30に、標本スライドSが嵌め込まれるセット溝31を形設したスライドアダプタ3を用い、このアダプタ3の各セット溝31に、前述の図2に示しているように標本スライドSを嵌合させ、その標本スライドSをセット溝31に嵌合させたスライドアダプタ3を、スライドトレイ2の台21上に載架することで行う。スライドアダプタ3には、左右の両端面に、ロック金具受け32がそれぞれ取り付けてあり、また、スライドトレイ2の左右の壁板の内面には、回動により前記ロック金具受け32と係合して、スライドアダプタ3をスライドトレイ2に対し固定するアダプタロックレバー33が装設してある。
【0020】
また、スライドトレイ2の左右の壁板の外面には、トレイカセットAから移動手段(後述する)によりスライドトレイ2を本体機枠Wの前面側に装設せる分注・洗浄・エアブローの動作位置である棚台F上に移動させるときに、そのスライドトレイ2の姿勢を規制する規制手段(後述する)の構成部材であるガイドレール73とガイド輪71が設けてある。
【0021】
スライドアダプタ3の、標本スライドSを嵌合させるセット溝31は、スライドアダプタ3の底面に開口する溝穴状に成形されてあり、嵌合させた標本スライドSは、それの底面側がスライドアダプタ3の下面側に露出した状態となり、スライドアダプタ3に保持されてスライドトレイ2の台21上に載架されたときに、底面が台21の上面に接当し、台21に装備されている加熱手段kにより、標本スライドS上の標本sを固めているパラフィンを融かす60度C程度の温度の加熱を受けるようになる。
【0022】
この例における台21に設ける加熱手段kは、図4に示している如く、フィルムヒータまたはベルチェ素子を、金属板mでサンドイッチ状に挟み、ヒータブロックhに形成した構成としている。
【0023】
この台21により構成する加熱手段kは、図5にあるように、金属材で額縁状の基盤oを成形し、これにフィルムヒータhまたはベルチェ素子を嵌め込み、その上に熱伝導性のよい金属板mを被せてビスにより組み付けることで構成する場合がある。
【0024】
図6乃至図9は、スライドトレイ2及びこれにセットするスライドアダプタ3の別の例を示している。この例におけるスライドトレイ2は、図6に示している如く、全体を左右に長い長四角の平箱状乃至トレイ状に形成し、内部にはスライドアダプタ3を載架する台21を、後方に寄せた部位に設け、その台21と前面側の壁板20の内面との間に洗浄水の排水溝を形成し、左右の壁板の前端側の端部には、前記排水溝と連通する洗浄水排出口23を開設し、左右の壁板の外面には、スライドトレイ2がトレイカセットA内の収容室1から移動手段により、分注・洗浄・エアブローの動作位置Fに移動していくときの、そのスライドトレイ2の姿勢を規制する規制手段の構成部材であるガイドレール73とガイド輪71を設けることについては、前述の図2に示しているスライドトレイ2と同様であるが、内部に設ける台21は、加熱手段を具備しない構成の台に形成してある。そして、その台21の上面に、標本スライドSに対応する形状・大きさに成形したヒータブロックhが、スライドアダプタ3に整列させてセットする標本スライドSのピッチ間隔をもって、横一列に整列して組み付けられている構成となっている。
【0025】
また、スライドアダプタ3は、スライドトレイ2の台21の上に置かれる大きさ形状とした帯板状の板部材に、標本スライドSを嵌合させて保持するためのセット溝31を、長手方向に整列するように設けて構成することについては、前述の図2・図3に示したスライドアダプタ3と同様であるが、セット溝31は、左右及び前後の辺縁に、標本スライドSの周縁に接して嵌入をガイドするガイド壁310を具備し、かつ、底面の前後の端部に、嵌合させた標本スライドSの前後の端部の下面を支承する保持棚311が設けてあり、この前後の保持棚311の対向する間隔を、下方に開放する開口312に形成した形態のものに構成してある。
【0026】
このセット溝31の底面に形成される開口312は、スライドトレイ2の内部の台21の台面に整列して配置されるヒータブロックhの上面の形状より大きく形成してあり、セット溝31に標本スライドSを嵌合させて、スライドアダプタ3をスライドトレイ2の台21上に載架すると、台21の上面に整列させて配置したヒータブロックhの上部側が、開口312を介してセット溝31内に嵌入して、セット溝31内に嵌合している標本スライドSを、図9にあるように押し上げて、スライドアダプタ3から浮き上がらせ、標本スライドSだけがヒータブロックhの上面に乗った状態とし、標本スライドSのヒータブロックhに対する接触を確実にして、ヒータブロックhによる標本スライドSの加熱を有効にするようにしてある。
【0027】
図10乃至図12は、本体機枠Wに昇降自在に支架せるトレイカセットAを、昇降させる昇降手段5を示している。これら図において、Aは、トレイカセットで、前面側(本体機枠Wの正面側)が開放する四角な箱状に形成してあり、左右の側壁の外面には、本体機枠Wに設けた縦方向のガイドレール40に嵌合するガイド輪41が設けてあり、このガイド輪41がガイドレール40に嵌合して走行することで、本体機枠W内を上下に動くよう支架してある。
【0028】
トレイカセットAは、この例においては、内部に組み付け装架するスライドトレイ2を垂直方向に整列させて上下に多段に装架してあって、多段に整列するスライドトレイ2の、それぞれの前面側の壁板20が、図12に示している如く、垂直な方向に沿い整列するように構成してあるが、下位側のスライドトレイ2がトレイカセットAの開口する前面側に向けて順次上位のスライドトレイ2より突出して、全体として階段状に上下に多段に整列装架する場合がある。
【0029】
トレイカセットAを昇降させる昇降手段5は、トレイカセットAの上方に配位して、本体機枠Wに設けた左右の支持機枠50間に渡架した駆動軸51と、その駆動軸51の左右の中間部位に設けた駆動歯車52に出力軸を伝導して、該駆動軸51を駆動するよう本体機枠W内に設けた組付機枠53に組み付け支架せるモーターMと、駆動軸51の左右の両端部位にそれぞれ固着軸支した駆動ホイル54とトレイカセットAの左右の両側でそのトレイカセットAの下方に位置する部位に配位して本体機枠Wに設けた支持機枠(図示省略)に軸支せる遊動ホイル56との間に、それぞれエンドレスに回しかけた左右に一対の駆動ベルト57と、駆動ベルト57に設けた係合歯と、トレイカセットAの左右の側壁外面に、前記係合歯と係合してトレイカセットAと駆動ベルト57とを連結するように設けたベルト連結金具58と、により、モーターMの作動によって、左右の駆動ベルト57を駆動回動させることでトレイカセットAを、ガイドレール40に沿い昇降させるように構成してある。
【0030】
トレイカセットAの構成を、内部に上下に多段に重ねて装架するスライドトレイ2が、階段状に整列する形態としたときは、トレイカセットAの左右の側壁の外面側に設けるガイド輪41と嵌合さすよう本体機枠Wに設ける縦方向のガイドレール40は、階段状に整列するトレイカセット2の整列方向に沿い傾斜する状態に設ける。
【0031】
スライドトレイ2を階段状に整列させて上下多段に装架した構成のトレイカセットAは、それぞれのスライドトレイ2を前面側に押し出したとき、それぞれのスライドトレイ2にセットせる標本スライドSが前後方向にずれて位置してくるので、滴下手段aによる薬液の滴下、洗浄手段bによる洗浄液の噴射の作業を、複数の標本スライドに対して同時に行えるようになる。
【0032】
昇降手段5を作動させるモーターMは、正逆に回転し、かつ、回動量が所望に制御されるステッピングモーターとし、このステッピングモーターMの回動量の制御作動で、図12の(イ)に示しているように、トレイカセットAの内部に上下に多段に設けてある収容室1の最下段の収容室1内のスライドトレイ2が、分注・洗浄・エアブローの動作を受ける動作位置である棚台Fの棚上面に対応する位置を占める高さ位置から、図12の(ロ)に示しているように、最上段の収容室1内のスライドトレイ2が動作位置である棚台Fの棚上面に対応する位置を占める高さ位置まで、収容室1の一段分の高さ距離ずつ昇降するようにしている。
【0033】
このトレイカセットAを昇降させるときの、各収容室1内に収容せしめたスライドトレイ2を、棚台Fの棚上面に対応する高さ位置に、位置決めする位置決め手段は、ステッピングモーターMの回動量を制御することで行われるようにしてある。
【0034】
図13乃至図17は、トレイカセットA内に上下に多段に並列させて装設されている収容室1内から、収容してあるスライドトレイ2を、トレイカセットAの前面側に設けてある棚台Fの棚上面に押し出すようスライド移動させるスライド移動手段6を示している。
【0035】
このスライド移動手段6は、この例においては、トレイカセットA内に多段に装架せる収容室1の各床面に沿い軸架した前後方向のねじ軸60と、これに螺合するねじ筒61と、スライドトレイ2の下面の後端側の部位に下方に突出するよう設けて下端を前記ねじ筒61の外面に長穴62と連結ピン63を介して連繋した連繋部材64と、ねじ軸60を駆動回転さすよう、棚台Fに組み付け設置したモーターMと、モーターMの出力軸の端部に設けた継手65aとねじ軸60の端部に設けた継手65bとからなるモーターMの出力軸と収容室1内に装設せる前記ねじ軸60とを装脱自在に接続させるカップリング65と、任意の収容室1が棚台Fの棚上面に対応する位置に位置決めされて停止したときに、モーターMの出力軸を押し出してカップリング65を結合した状態とするモーターMの出力軸の出入手段(図示省略)と、からなり、これにより、前述の昇降手段5の作動制御によりトレイカセットAが昇降作動して、目的の段の収容室1が棚台Fの棚上面に対応する位置を占め、その高さ位置に位置決め停止されると、その時点でモーターMに組み込んである出力軸の出入手段が作動して、出力軸を押し出し、出力軸側継手65aとねじ軸側継手65bとを噛み合わせて、カップリング65を接続状態とし、同時にモーターMが回転作動してねじ軸60を回転させ、ねじ筒61をねじ軸60に沿い前方に移動させ、ねじ筒61に連繋部材64を介し連繋するスライドトレイ2を、収容室1の前面の開放口から、前方に押し出していき、またモーターMを逆回転させることで、押し出したスライドトレイ2を、収容室1内に引き戻すようにしてある。
【0036】
また、スライドトレイ2には、この移動手段6により収容室1から押し出されるときに、それの姿勢を規制する規制手段7が施されている。
【0037】
この規制手段7は、この例においては、基本的には、収容室1の左右の機壁の各内面側に取り付けた前後方向に沿うカセットA側のガイドレール70と、このカセットA側のガイドレール70に嵌合して滑動するようスライドトレイ2の左右の側壁の後端部に軸支するトレイ側のガイド輪71と、収容室1の出入口1a部における左右の機壁の内面にそれぞれ軸支するカセットA側のガイド輪72と、このカセットA側のガイド輪72に嵌合して、該ガイド輪72に対し滑動するようスライドトレイ2の左右の機壁の外面に取り付けた前後方向に沿う前後方向のトレイ側のガイドレール73と、により構成され、これにより、スライドトレイ2が移動手段6により押し出されて前方に移動していくとき、ねじ筒61に設けた連結ピン63中心に上下に揺動するスライドトレイ2の前記連結ピン63より後方に位置する部位をトレイ側のガイド輪71とこれに嵌合するカセットA側のガイドレール70とでスライドトレイ2を水平な姿勢とする高さ位置に支承し、スライドトレイ2の前記連結ピン63より前方に位置する部位を、カセット側のガイド輪72とこれに嵌合するトレイ側のガイドレール73との嵌合で、スライドトレイ2を水平な姿勢とする高さ位置に支承して、押し出されるスライドトレイ2の姿勢が水平な姿勢に保持されるように規制している。
【0038】
そして、また、この規制手段7は、収容室1の左右の機壁の内面に取り付けるカセット側のガイドレール70の前端側の部分で、図16にあるように、スライドトレイ2が、内部にセットした標本スライドS上の標本sに対する試薬の分注・フィルム貼付・フィルム剥離の動作の施行に適応する位置に押し出されてきたときに、トレイ側のガイド輪71が位置する部位よりも前端側の部分を、前方上方に向けて斜めに上昇する傾斜レール部700に形成してあって、これにより、スライドトレイ2が、前述の試薬分注・フィルム貼付・フィルム剥離の動作の施行を受けるのに適応する位置に押し出された状態から、さらに移動手段6で押し出されると、トレイ側のガイド輪71がカセット側のガイドレール70の前端側の傾斜レール部700を上昇していくことで、スライドトレイ2が、ねじ筒61に設けた連結ピン63中心に、図17に示しているように前端側を下降させた傾斜姿勢に回動し、スライドトレイ2内の標本スライドS上の標本sに対し洗浄液を噴射して洗浄の作動を施したときに、噴射した洗浄液が、スライドトレイ2内に形成している排水溝24に流れて、排水口23から排出されるようになり洗浄動作を効率的にする状態姿勢となって、前述の試薬の分注・フィルム貼付・フィルム剥離の動作の施行に適応する位置からさらに押し出したこの洗浄に適応する状態位置が洗浄位置に設定される。
【0039】
このとき、スライドトレイ2を、分注適応位置及び洗浄適応位置にそれぞれ停止保持させる作動は、回動量が所望に制御されるステッピングモーターを用いているモーターMの回動量の制御・設定により行われる。
【0040】
次に、図18乃至図22は、スライドトレイ2にセットした標本スライドS上の標本sに対し試薬・分注・滴下する滴下手段aを構成する分注ノズル80および洗浄液を噴射する洗浄手段bを構成する洗浄ノズル81ならびにエアを吹き付けるエアブロー手段cを構成するエアノズル82を示している。
【0041】
これら分注ノズル80および洗浄ノズル81ならびにエアノズル82は、本体機枠に左右の移動制御を自在に支架されているロボットアームHの下面側に吊り下げ支架せる四角な角箱状のヘッドユニットDの正面側に、左右に三連に並列する状態として組み付けられている。そして、これらノズルは、ヘッドユニットDの機体の正面側に、左右方向に三連に並列させて設けた三本の上下方向のノズルガイド83のそれぞれに、そのガイド83に沿い上下にスライド移動するよう組み付け支架せしめてある。
【0042】
それらノズルのそれぞれには、ヘッドユニットDの機体に三連に並列させて組み付け支架してある上下駆動モーター84により、それぞれ各別に駆動されて上下方向にエンドレスに回動する無端の昇降ベルト85が、連結金具86を介して連結させてあり、これら昇降ベルト85を、並列する上下駆動モーター84の各別の制御作動により、各別に作動させることで図19にて矢印で示している如くそれぞれが単独で昇降作動するようにしてある。
【0043】
そして、これら分注ノズル80・洗浄ノズル81・エアノズル82には、それぞれチューブUが連結してあり、そのそれぞれのチューブUは、図20に示している如く、洗浄ノズル81に接続するチューブU1にあっては、弁機構V1を介し吸引側が洗浄液を注ぎ込んだ洗浄液槽87に連通する水ポンプP1に接続し、エアノズル82に接続するチューブU2にあっては、エアポンプP2に接続し、分注ノズル80に接続連結するチューブU3にあっては、三方弁V2を介して試薬分注用のシリンジ88と、ノズル洗浄用洗浄液が注ぎ込まれた洗浄液槽87とに接続連通させてある。
【0044】
これにより、標本スライドS上の標本sを洗浄するときは、洗浄ノズル81を、ヘッドユニットDの移動制動で洗浄しようとする設定した標本sの上方に位置させ、昇降ベルト85の作動で下降させて標本sに近付け、バルブV1を開弁して水ポンプP1を作動させ、洗浄液を洗浄ノズル81から噴射させることで洗浄動作を行い、この洗浄後、標本sに付着している洗浄液をエアノズル82からのエアの噴射で吹き飛ばすときは、エアノズル82を昇降ベルト85の作動で下降させて標本sに近付け、ヘッドユニットDの移動作動で位置を設定したところで、エアポンプP2を作動させることで行い、この洗浄し終えた標本sに対し試薬を分注・滴下させるときは、分注ノズル80を昇降ベルト85の作動で下降させ、ヘッドユニットDの移動作動で位置を設定したところで、三方弁V2の切替作動でシリンジ88が分注ノズル80に接続連通した状態とし、シリンジ88の作動により試薬を滴下分注することで行うように構成してある。
【0045】
この試薬の分注滴下の作動の際、複数種類の試薬を分注するときは、ユンタミン防止のため、三方弁V2を切替作動させて、シリンジ88がノズル洗浄液槽89に接続する状態として、シリンジ88の作動で洗浄液をシリンジ88内に吸引させ、そこで、再度三方弁V2を切替作動させてシリンジ88と分注ノズル80とが接続連通する状態とし、分注ノズル80を洗浄槽890の上方位置に移動させ、その状態でシリンジ88の作動により洗浄液を分注ノズル80に送りノズル内面の洗浄を行うとともに、洗浄ノズル81を洗浄槽890に対して昇降させてノズル80の外面を洗浄槽890内の洗浄液で洗浄するようにする。
【0046】
次に図23乃至図26は、スライドトレイ全体を洗浄する手段を示している。この手段は、スライドトレイ2内に並列セットした標本スライドSを前述のヘッドユニットDに設けた洗浄ノズル81により個々に洗浄する前述のヘッドユニットDに組み付けた洗浄ノズル81の洗浄手段bとは別に、並列セットした標本スライドSの全てを同じ洗浄液を用いて洗浄するとき、または使用後のスライドトレイ2の全体を洗浄する場合に行うトレイの洗浄手段である。
【0047】
この洗浄手段は、図23にあるようにスライドトレイ2を、スライド移動手段6でトレイカセットA内の収容室1から引き出して、前方に向け下降傾斜する傾斜姿勢としたところに、そのスライドトレイ2の上方に配設しておく洗浄ノズル81から洗浄液を噴射して洗浄することについては、前述のヘッドユニットDに設けた洗浄ノズル81による洗浄手段と同様であるが、洗浄ノズル81は、引き出されたスライドトレイ2の上方位置に、図24に示している如く、細長い角柱状の基材90を、スライドトレイ2の上方を横切るように配設して、この基材90の内部に、図25にあるように洗浄液通路91とエア通路92を、長手方向の全巾に渡るように形設し、その洗浄液通路91には、バルブVを介し水ポンプP2および洗浄タンク93を接続し、エア通路92には、エアポンプP1を接続し、基材90の外部には、内部の洗浄液通路91に接続する洗浄ノズル81と、エア通路92に接続するエアノズル82とを、該基材90の長手方向に多連に並列させて設けた構成としてあって、これにより、スライドトレイ2の洗浄を行うときは、スライド移動手段により、前方に向け下降傾斜する状態姿勢に引き出されているスライドトレイ2を、スライド移動手段の作動で収容室1内に引き込みながら、水ポンプP2を作動させて洗浄液を送給して、多連に並列する全ての洗浄ノズル81から同時に洗浄液を噴射させて洗浄し、引き込まれていくスライドトレイ2のスライド移動がエンドに達したところで、バルブVを閉弁し、噴射を停止させるようにしている手段である。
【0048】
次に図27・図28は、洗浄したスライドトレイ2を収容室1に引き込み収容させたときに、スライドトレイ2に付着した収容室1内に持ち込まれた水分が蒸発して収容室1の天井面に結露し水滴となって付着してくるのを、回収除去して収容室1から排出させる洗浄液の蒸発液の回収排除手段を示している。
【0049】
この手段は、トレイカセットA内に、上下に多段に並列させて装架せる収容室1の天井部材10(下面が次段の収容室1の天井面となる収容室1の床部材を含む)の下面の天井面10aを、図28にあるように、後方に向け下降傾斜する傾斜面に形成し、その天井面10aの後端縁は、トレイカセットAの後壁に設けた開口11から後方に突出させ、トレイカセットAの後壁の後面側に設けた上下方向の導液路12に対し接続連通させてある。そして、その導液路12の下端側は、トレイカセットAの底壁下方に装設した前方に向け下降傾斜する受け樋13に接続させ、その受け樋13の下流側の開放口を、トレイカセットAの前面側の棚台Fの下方に配設される排液槽14に接続することで構成してあって、これにより、収容室1の天井面10aに結露した水滴が、傾斜する天井面10aをつたって、開口11に向けて流れ、導液路12から受け樋13を経て排液槽14に回収されるようにしてある。
【0050】
図29乃至図34は、標本スライドSの上面に被せるフィルムfを、吸着により標本スライドSの上面と平行する状態姿勢に支持して移動させるフィルム吸着支持手段を示している。
【0051】
生物反応装置を用い、試薬の分注滴下を行った標本スライドS上の標本sには、滴下して添加した試薬液の蒸発を防ぐため、フィルムfを被せて被覆する。
【0052】
このフィルムfは、通常、多数枚重ねた状態として、フィルムラックB内に収容されている。フィルム吸着支持手段は、このフィルムラックB内から、積層して収納されている多数枚のフィルムのうちの最上位のフィルムfの一枚を、吸引・吸着により剥ぎ取るように取り出して、吸着支持し、被覆すべき標本スライドSの上方位置に移動させ、下降作動により標本スライドSの上面に押し付けて被覆させるように作動する。
【0053】
この例におけるフィルム吸着支持ユニットdは、図29・図30に示しているように、上面側の中心部位に支持アーム101を具備せしめたボディ100の下面側に、四角な台板状に形成したフレーム102を組み付け、そのフレーム102の下面側に、弾性資材により吸盤状に成形した二つの吸着パットe・eを、前記支持アーム101を通る中心線を対称軸線として左右に一対に対称するように配位して組み付け、それら吸着パットeの内側に、それぞれ、前記支持アーム101の内部に設けたエアの吸引流路103に連通するエアの流路104を設けて、支持アーム101の頂部に吸引流路103と接続させて設けた接続口105に、吸引ポンプの吸引口と連通するエアホース(図示省略)を接続することで、吸引ポンプの作動によりそれら吸着パットeの内側に吸引圧が作用するようにし、また、これら吸着パットe・eの中間位置のフレーム102下面の中心部位には、もう一つの吸着パットgを配位し、その吸着パットgを、フレーム102の中心部位に昇降自在に組み付けた軸筒状の支持部材106の下端に取り付け支持せしめ、その支持部材106には、フレーム102に組み付けた昇降作動機構107を連繋し、その昇降作動機構107の作動で、吸着パットgがフレーム102に対し昇降するようにすることで、フィルム吸着支持ユニットdに組み立てた構成としてある。
【0054】
そしてこれにより、図31・図32に示しているようフィルムfが多数枚、積み重ねた状態として、バネで押し上げられている上下可動の台板の上面に載架して収容してあるフィルムラックBからフィルムfを一枚ずつ取り出すときは、図33の(1)にあるように、フィルム吸着支持ユニットdをまずフィルムラックBの上面の開口部の上方に位置させ、次いで、その位置において下降させて、フレーム102の下面に設けた左右の吸着パットe・eおよび中央の吸着パットgのそれぞれの下面を、フィルムラックB内の積み重ねてあるフィルムfの最上位のフィルムfの上面に接触させて、吸引ポンプの作動により、吸引・吸着させ、次いで、この状態において、中央の吸着パットgを上昇させて、吸着した最上位の一枚目のフィルムfの中央部位を図33の(3)にあるように、引き上げ、その一枚目のフィルムfを二枚目のフィルムfに対しずらせて、二枚目のフィルムfとの密着を解放し、この状態においてフィルム吸着支持ユニットdを上昇させることで、図33の(4)・(5)にあるように、フィルムラックB内の積み重ねたフィルムの束から一枚のフィルムfを取り出すようにしてある。
【0055】
そして、このフレーム102の中央部位に昇降するように設けた中央の吸着パットgは、吸着支持したフィルムfを、試薬を滴下して添加した標本スライドS上の標本sの上面に被覆・貼着するときは、図34の(2)にあるように、左右の吸着パットe・eよりも下降した位置を占めるように下降させて、吸着支持するフィルムfの中央部位が、下方に凸面状に突出する状態とし、この凸面状の突出部を、図34の(3)・(4)に示している如く、試薬が盛り付けるように滴下されている標本プレートS上の標本sの上面に押し付けるように接触させて、試薬を標本sの中心から均等に標本sの外周側に拡げるように作用させ、試薬が拡がり出したタイミングをもって、この中央の吸着パットgを上昇させ、フレーム102とともに下降していく左右の吸着パットeでフィルムfを、図34の(5)にあるように標本スライドSの上面に貼着させるようにしてある。
【0056】
フィルム吸着支持ユニットdは、このようにフィルムラックBからフィルムfを、吸着パットeによる吸引・吸着により一枚ずつ取り出し吸着支持して、標本スライドSがセットされている位置に移動し、支持しているフィルムfを標本スライドSの上面に貼着させることから、移動機構に支架せしめることを要する。
【0057】
この例におけるフィルム吸着支持ユニットdは、生物反応装置の本体機枠Wの前面側に装架せるロボットアームHの下面に組み付け支架してあるヘッドユニットDの下面に組み付けることで、生物反応装置Tに装備されているロボットアームHとそれに組み込まれたヘッドユニットDの機能を利用して移動作動が行われるようにしてある。
【0058】
ヘッドユニットDには、それの底面側に、前述した図18の底面図にあるよう、フィルム吸着支持ユニットdのボディ100の中心部位に設けてある支持アーム101を嵌装させる組付穴jが形設してあり、ここに支持アーム101を嵌挿してセットすることで、前記図18にて薄墨で塗り潰して示しているように、ヘッドユニットDの底面の中央部位に組み付け装架してある。そして、支持アーム101の上端の接続口105は、ヘッドユニットDの機内において、エアノズル82に接続するエアポンプP2の吐出口と弁機構を介し接続し、また、中央の吸着パットgを昇降させる昇降作動機構107を、ヘッドユニットDが具備する機能により作動させ得るよう連繋させてある。
【0059】
そして、これにより、ロボットアームHおよびヘッドユニットDの移動作動で、本体機枠Wの、分注・洗浄の作動の動作位置である棚台F上に載置されるスライドトレイ2の左右の一側位置に装架してあるフィルムラックBの上方位置においてのフィルムfの取り出しと、前記棚台F上のスライドトレイ2内の標本スライドSの上方位置においてのフィルムfの貼着が行われるようにしてある。
【0060】
次に図35及び図36は、フィルム吸着支持ユニットdの別の実施例を示している。この例のフィルム吸着支持ユニットdは、基本的な構成については、前述の図29乃至図34で示している例のものと同様であり、同じ構成部材については同一の符号を付して詳しい説明を省略し、異なる構成についてだけ説明する。
【0061】
この例にあっては、フレーム102の下面側に設ける吸着パットが、左右に対称して設けられる左右の2つの吸着パットe・eだけで、中央の吸着パットgはないものとしてある。そしてこの左右に一対の吸着パットe・eを支持するフレーム102は左右の中間位置において左半側のフレーム102Lと右半側のフレーム102Rとに分割され、それらが連結軸108中心に屈曲回動するよう連結させてあり、かつ、その左半側・右半側の一方が、回動機構(図示省略)を作動制御させることで、図36にあるように上昇回動するようにしてある。
【0062】
そしてこれにより、フィルムラックB内からフィルムfを左右の吸着パットe・eに吸着されて取り出すときに、フレーム102の一半側を上向き回動させて、左右の吸着パットe・eのうちの一方の吸着パットeだけを引き上げることで、図36にあるよう、フィルムfの一端側を吸着パットeで押さえた状態でそのフィルムfの他端側を持ち上げて、二枚目のフィルムfから引き剥がし、フィルムfの一枚どりを確実に行わすようにしている構成のものである。
【0063】
図37乃至図42は、標本スライドSに貼着したフィルムfを、標本スライドSから引き剥がすフィルム引剥手段Rを示している。
【0064】
標本スライドS上の標本sは、試薬の分注滴下を受けたとき、その試薬の蒸発を抑えるため、フィルムfを被せて、標本スライドSに貼着させるが、そのフィルムfは、標本sを試薬との反応が終えたところで、その試薬を洗い流し、二次試薬の分注滴下に備えさせるため、標本スライドSの上面から引き剥がす。フィルム引剥手段Rは、このフィルムfを標本スライドSから引き剥がす手段である。
【0065】
この例におけるフィルム引剥手段Rは、本体機枠Wに昇降手段により昇降自在に装架してあるトレイカセットAの前面側で、そのカセットAから引き出されるスライドトレイ2をセットするセット位置(分注・洗浄の動作を受ける動作位置)となる棚台Fの棚面の上方位置に、そのセット位置の左右の両側から、左右に一対に対称して立ち上がる支柱200の上端間にゲイト状をなすようクリップ組付機枠201を装架し、そのクリップ組付機枠201に、図41にあるよう固定の爪片202と支点203中心に上下に回動する可動の爪片204とが上下に対向し、その可動の爪片204は、バネ205により固定の爪片202に対し閉じ合わされるように付勢してあるクリップ206を、スライドトレイ2内に並列セットされる多数の標本スライドSのそれぞれと対応するように配位して組み付け、それらクリップ206の可動の爪片204に、ソレノイド210により出入作動するロッド211を、ソレノイド210がオンに作動すると、ロッド211が引き込まれて可動の爪片204がバネ205に抗して固定の爪片202から離れる開放側に動き、ソレノイド210がオフに作動すると、バネ205により可動の爪片204が固定の爪片に閉じ合わされるよう連繋しておき、かつ、フィルムfには、長手方向の端部に、標本スライドSの上面に貼着した状態において、標本スライドSの端縁から突き出る舌片状の突出部f’を設けておいて、トレイカセットAからセット位置Fにスライドトレイ2を押し出し、それの内部にセットされている標本スライドSに貼着されたフィルムfの端部の舌片状の突出部f’が、クリップ206の先端部の下方に位置する状態とし、この状態において、トレイカセットAを昇降手段5により上昇させ、これにより標本スライドS上のフィルムfの突出部f’が図39にあるようクリップ206の固定の爪片202の下面に衝合して、弾性による撓曲で、その固定の爪片202を越え、図40にあるよう可動の爪片204との間に入り込んだところで、トレイカセットAの上昇を停止させ、そのタイミングでソレノイド210をオフとして、バネ205によりクリップ206を閉じ合わせ、突出部f’をクリップ206に挟持させ、トレイカセットAをゆっくり下降させて、フィルムfを標本スライドSの上面から引き剥がし、次いで、スライドトレイ2をトレイカセットA内に引き込みソレノイド210のオン作動でクリップ206を開放することで剥がしたフィルムfを、下方に配設しておくフィルム廃棄槽220内に落下させるようにしている手段である。
【0066】
図43乃至図45は、トレイカセットA内に多段に装設する収容室1の内部空間を、外部に対し気密に遮断するためのシール手段を示している。
【0067】
収容室1は、収容するスライドトレイ2にセットした標本スライドSの加熱手段による加温の効果を保持するため、外部に対し断熱遮断することが必要である。図43はこれを実施する手段の一例を示している。この図43における左半側に示す図(1)は、本体機枠Wに昇降自在に装架せるトレイカセットAの縦断した概要側面で、1…はトレイカセットA内に多段に設けた各収容室、2…は各収容室1内に出入自在に組み込み収容せしめたスライドトレイを示している。また、右半側に示す図(2)は、前記トレイカセットAの正面側の一部の拡大縦断側面図である。
【0068】
この例のシール手段は、収容室1内に組み込み収容せしめるスライドトレイ2の正面側(前面側)の壁板20の内面側で、収容室1の出入口1aの口縁部と接合する部位に、耐熱性の弾性材よりなるシール材nを、前記出入口1aの口縁部の形状に倣う角枠状に形設して接着剤による接着等の接着手段で取り付けておき、スライドトレイ2が移動手段6により、収容室1内に引き込まれたときに、この角枠状のシール材nが、収容室1の出入口1aの回りの機壁の外面に圧接していくことで、出入口1aを気密に閉塞して、収容室1内を外部に対し気密に保持するようにしている手段である。
【0069】
図44は、上述のシール手段の変形例を示している。同図43の左側の図(1)は、スライドトレイ2が、収容室1の出入口1aから少しの距離だけ押し出された状態、図(2)は移動手段6によりスライドトレイ2が引き込まれて、それの前面側の壁板20が収容室1の出入口1aの回りの機壁の前面に近づいてきた状態を示している。
【0070】
この例は、スライドトレイ2の前面側の壁板20の内面側に、耐熱性の弾性材よりなるシール材nを、収容室1の出入口1aの口縁部の形状に倣う角枠状に成形して、取り付け装着することについては、前述の例と変わりがないが、そのシール材nは、壁板20から突出する方向における突出端部の形状を、右方の図(2)にあるように断面がニップル状乃至嵌合突起状をなすように成形しておき、また、収容室1の出入口1aの回りの機壁の前面には、前記壁板20内面に装着せる角枠状のシール材nと対応する部位に、別の角枠状のシール材n’を、耐熱性の弾性材により成形して取り付け、かつ、そのシール材n’は、断面が前方に開放する凹溝状をなすように成形しておいて、スライドトレイ2が移動手段で引き込まれてきたときに、壁板20内面に取り付けたシール材nが、右方の図(2)にあるように収容室1の機壁前面に取り付けたシール材n’と嵌り合って、出入口1aを気密にシールするようにしている手段である。
【0071】
図45は、さらに別の例を示している。この例は、前述の例がスライドトレイ2の前面側の壁面20を出入口1aより大きく形成しておいて、その壁板20の内面側と収容室1の前面側の機壁との接合部位に、シール材nを介装しているのに対し、スライドトレイ2の前面側の壁板20は、収容室1の出入口1aより小さく形成して、出入口1aの口縁内に嵌合するようにしておき、この壁板20の四周の外周面に、耐熱性の弾性材よりなるシール材を、断面が三角錐状をなす形状の縁枠状に成形して取り付け、スライドトレイ2が移動手段6により引き込まれて、前板の壁板20が収容室1の出入口1aに嵌合してきたときに、この壁板20の外周面に取り付けた断面三角錐の縁枠状のシール材nが、図45における右方の図(2)にあるように、屈曲変形して出入口1aの口縁に圧接し、出入口1aを気密に塞ぐようにしている手段である。
【符号の説明】
【0072】
A トレイカセット
B フィルムラック
C 試薬ビンラック
D ヘッドユニット
E 洗浄槽
F 棚台
G ラック
H ロボットアーム
M モーター
P1 水ポンプ
P2 エアポンプ
R フィルム引剥手段
S 標本スライド
T 生物反応装置
U U1 U2 U3 チューブ
V1 弁機構
V2 三方弁
W 本体機枠
a 滴下手段
b 洗浄手段
c エアブロー手段
d 吸着支持ユニット
e 吸着パット
f フィルム
f’ 舌片状の突出部
g 吸着パット
h ヒータブロック
j 組付穴
k 加熱手段
m 金属板
n n’ シール材
o 基盤
s 標本
1 収容室
1a 出入口
10 天井部材
100 ボディ
101 支持アーム
102 フレーム
102L 左半側フレーム
102R 右半側フレーム
103 吸引流路
104 エアの流路
105 接続口
106 支持部材
107 昇降作動機構
108 連結軸
10a 天井面
11 開口
12 導液路
13 受け樋
14 排液槽
2 2’ スライドトレイ
20 壁板
200 支柱
201 クリップ組付機枠
202 固定の爪片
203 支点
204 可動の爪片
205 バネ
206 クリップ
21 台
210 ソレノイド
211 ロッド
22 床板
220 フィルム廃棄槽
23 洗浄液排出口
24 排水溝
3 スライドアダプタ
30 板材
31 セット溝
310 ガイド壁
311 保持棚
312 開口
32 金具受け
33 アダプタロックレバ
40 ガイドレール
41 ガイド輪
5 昇降手段
50 支持機枠
51 駆動軸
52 駆動歯車
53 機枠
54 駆動ホイル
56 遊動ホイル
57 駆動ベルト
6 移動手段
60 ねじ軸
61 ねじ筒
62 長穴
63 連結ピン
64 連繋部材
65 カップリング
65a 65b 継手
7 規制手段
70 ガイドレール
700 傾斜レール部
71 トレイ側のガイド輪
72 カセット側のガイド輪
73 ガイドレール
80 分注ノズル
81 洗浄ノズル
82 エアノズル
83 ノズルガイド
84 駆動モータ
85 昇降ベルト
86 連結金具
87 洗浄液槽
88 シリンジ
89 洗浄液槽
890 洗浄槽
90 基材
91 洗浄液通路
92 エア通路
93 洗浄タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標本スライドが横一列にセットされ上下多段に配置されたスライド支持手段と、前記スライド支持手段全体を、スライド支持手段に対応して一段ずつ上下動させる昇降手段と、前記昇降手段により昇降するスライド支持手段を、設定した所定の高さ位置の作動待機位置に位置決め静止させる位置決め手段と、前記位置決め手段により作動待機位置に位置決めされたスライド支持手段を前方の分注動作位置及び分注動作位置からさらに前方の洗浄動作位置へそれぞれに押し出すとともにもとの作動待機位置へ引き戻すよう移動させるスライド移動手段と、前記分注動作位置、洗浄動作位置に押し出されたスライド支持手段にセットされている標本スライドに対し試薬を滴下する滴下手段と洗浄水を噴射する洗浄手段とを備えていることを特徴とする生物反応装置。
【請求項2】
前記洗浄手段は、洗浄動作位置に押し出されたスライド支持手段にセットされている複数の標本スライドに対し、同時に洗浄水を噴射する複数の同時噴射ノズルと、並列する複数の標本スライドのうちの個々の標本スライドに対し個別に洗浄水を噴射する個別噴射ノズルとを有していることを特徴とする請求項1記載の生物反応装置。
【請求項3】
前記スライド移動手段は、移動させるスライド支持手段の姿勢を、分注動作位置において、略水平な姿勢とし、洗浄動作位置において、前方に向け下降傾斜する姿勢とする規制手段を具備していることを特徴とする請求項1記載の生物反応装置。
【請求項4】
前記スライド支持手段は、標本スライドを並列させて保持せしめるスライドアダプタが載置される床面に、スライドアダプタ上の標本スライドを設定温度に加熱する加熱手段が敷設してあることを特徴とする請求項1記載の生物反応装置。
【請求項5】
前記分注滴下位置には、滴下手段の外に標本スライド上面に滴下した試薬表面全体をフィルムで覆うフィルム吸着支持手段を有し、フィルム吸着支持手段は少なくとも標本を挟んで左右対称位置でフィルムを吸着支持する吸着パッドを有していることを特徴とする請求項1記載の生物反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【公開番号】特開2012−137293(P2012−137293A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287680(P2010−287680)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(591058127)メディカテック株式会社 (17)
【Fターム(参考)】