説明

生物学的に活性な分子の投与系としての、キトサンとポリエチレングリコールとのナノ粒子

本発明は、生物学的に活性な分子を放出するための、キトサン重合体またはその誘導体を含んでなり、ポリエチレングリコールで化学的に変性され、架橋剤で架橋したナノ粒子系に関する。この系は、薬剤組成物、ワクチン、および化粧品処方物に特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、生物学的に活性な分子を放出するためのナノ粒子系に関する。本発明は、とりわけ、生物学的に活性な分子を配置できる、イオン的に架橋したキトサン−ポリエチレングリコール共役物により形成されたナノ粒子系、およびその製造方法に関する。
【技術背景】
【0002】
生物学的に活性な薬剤を放出する系は、常に発展している研究分野である。活性成分を種々の投与経路によって動物または人間の体に投与することが困難であることは、公知である。ペプチド、タンパク質および多糖を包含するある種の薬物は、上皮バリヤーの浸透性に限界があるため、粘膜表面を通して効果的に吸収されない。例えば、現在、皮下投与(それは患者にとっては好ましくないものである)されているインスリンは、鼻または腸粘膜バリヤー等の粘膜バリヤーを通過する能力が乏しい活性成分の一つであり、皮下投与に代わる経路を見出し、この活性分子をより効果的に吸収できる投与系を開発する必要がある。
【0003】
近年提案されている、薬物に対する生物学的バリヤーを克服する可能性として、活性成分を小さな粒子に取り入れることが注目されている。この粒子と粘膜との相互作用は、とりわけ、粒子の大きさにより影響を受け、粒子径の低下と共に相互作用が増大する。
【0004】
米国特許出願第2004138095号には、インスリンを放出する水性ナノ粒子懸濁液、とりわけ、3ブロックのポリエチレングリコール/親水性ポリアミノ酸/疎水性ポリアミノ酸共重合体を基剤とする水性ナノ粒子懸濁液、が記載されている。一方、米国特許第5,641,515号公報には、生物分解性ポリシアノアクリレート中にインスリンを閉じこめて複合体を形成したナノ粒子を含んでなる、インスリンを制御しながら放出するための薬剤処方物が記載されている。
【0005】
薬物放出系としての用途として、疎水性重合体を基剤とするナノ粒子系も開発されており、当該技術分野において多数の文献が示されている。天然由来の巨大分子、例えばアルブミンナノ粒子(W. Linら, Pharm. Res., 11, 1994)やゼラチン(H.J. Watzkeら, Adv. Colloid Interface Sci., 50, 1-14, 1994)を基剤とする親水性ナノ粒子、および、アルジネート等の多糖を基剤とする親水性ナノ粒子(M. Rajaonarivonvyら, J. Pharm. Sci., 82, 912-7, 1993)を基剤とする親水性ナノ粒子を製造するための方法に関する研究が発表されている。しかしながら、これらの方法の多くは、有機溶剤、油および高温を使用する必要があり、これらの系の開発を著しく制限している。これらの提案された方法の中で最も無害であるのが、カルシウムの存在下でのイオン性ゲル化、およびそれに続く陽イオン系高分子電解質ポリ−L−リシンの存在下での硬化、に基づく、アルジネートナノ粒子の製造方法である。しかし、このナノ粒子には、全身系(systemic)毒性およびポリ−L−リシンの高コストに関する欠点がある。
【0006】
これらの系に替わる方法がキトサンナノ粒子の開発であり、先行技術文献には、活性成分の投与に関する有用性、およびその製造方法が記載されている(J. Appl. Polym. Sci. 1997, 63, 125-132、Pharm. Res. 14, 1997b, 1431-6、Pharm. Res. 16, 1991a, 1576-81、S.T.P. Pharm. Sci. 9, 1999b, 429-36、Pharm. Res. 16, 1999, 1830-5、J. Control Release 74, 2001, 317-23、および米国特許第5,843,509号公報)。これらのナノ粒子の欠点は、特定のpHおよびイオン強度条件において、ナノ粒子の安定性が制限されることである。
【0007】
国際公開WO−A−01/32751号パンフレットには、キトサンまたはその誘導体を水性媒体中に溶解させ、次いで表面変性剤の存在下において、pHを、キトサンが沈殿する程度に上昇させることからなる、ナノ粒子の形態にあるキトサンまたはキトサン誘導体の製造方法に関する記載がある。
【0008】
国際公開WO−A−99/47130号パンフレットには、少なくとも一種のポリ陽イオン(キトサンでよい)と、少なくとも一種のポリ陰イオンと、活性成分とから得られる、生物相容性および生物分解性の高分子電解質複合体を有するナノ粒子に関する記載があり、このナノ粒子は、高分子電解質複合体の形成の際またはその後に、少なくとも一種の架橋剤(グリオキサール、TSTUまたはEDAP)でさらに処理することにより、得られる。
【0009】
ポリオキシエチレンと組み合わせたキトサンナノ粒子の製造方法も公知であり(スペイン特許公報2098188号公報および同2114502公報)、さらに、活性成分は、治療用または抗原性巨大分子でよいことも公知である。これらのナノ粒子は、トリポリリン酸塩等の塩基性試薬の添加により引き起こされる、キトサンおよび重合体したナノ凝集物の形態にある活性巨大分子の共沈殿工程によって、形成される。
【0010】
さらに、キトサンは、PEG化と呼ばれるアミノ官能基を通したポリエチレングリコールとの共有結合によって、変性することができる。欧州特許第1304346号および米国特許第6,730,735号には、粘膜を通して薬物を投与するための、キトサンとPEG共役物とがキトサンアミノ基を介して共有結合した組成物が記載されている。
【0011】
米国特許出願第2004/0156904号には、キトサン−PEG、および、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)等の水に不溶の重合体、を含む組成物から調製されたマトリックスに、活性薬剤が配合された薬剤放出系が記載されている。
【0012】
国際公開WO01/32751号パンフレットには、界面活性剤の存在下において、ポリエチレングリコールを含むキトサンナノ粒子の溶液のpHを増加させると、ポリエチレングリコールを含むキトサンナノ粒子が沈殿し、キトサンナノ粒子が得られることが記載されている。しかしながら、PEGはキトサンに共有結合していない。
【0013】
薬物放出系の開発を目的とする多くの文献があるにもかかわらず、生物学的に活性な分子を会合させて、かつ規定速度でその活性分子を放出することができる類のナノ粒子系を提供することが依然として希求されている。
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、キトサンの架橋を引き起こす試薬の存在下で、イオン性ゲル化工程により得られるPEG−変性されたキトサンナノ粒子により形成される系が、生物学的に活性な分子を効果的に会合させると共に、次いで、それらの分子を好適な生物学的環境中に放出することができることを見出した。PEG−変性されたキトサンナノ粒子は、PEG化されていないキトサンナノ粒子と比較して、例えば鼻内インスリン投与または鼻内ジフテリアトキソイド投与に応答する免疫遺伝において著しい特性を有する。
【0015】
従って、本発明の目的は、生物学的に活性な分子を放出するためのナノ粒子を含んでなる系であって、
前記ナノ粒子が、
a)少なくとも50重量%のキトサンまたはキトサン誘導体、および
b)50重量%未満のポリエチレングリコール(PEG)またはPEG誘導体を含んでなる
共役物を含んでなり、
前記両成分a)とb)とが、キトサンアミノ基を介して共有結合しており、前記ナノ粒子が架橋剤により架橋していることを特徴とする、系を意図したものである。
【0016】
「生物学的に活性な分子」の表現は、広い意味を有し、低分子量薬物、多糖、タンパク質、ペプチド、リピド、オリゴヌクレオチド、および核酸、ならびにそれらの組合せを含んでなる。本発明の一変形においては、生物学的に活性な分子の機能は、病気を阻止する、和らげる、治癒させる、または診断することである。本発明の別の変形においては、生物学的に活性な分子は化粧品機能を有する。
【0017】
本発明の第二の態様は、上に規定するナノ粒子を含んでなる薬剤組成物またはワクチンに関する。好ましい態様においては、薬剤組成物またはワクチンは、粘膜投与に使用される。
【0018】
本発明の別の態様においては、本発明の目的は、上記に規定したナノ粒子を含んでなる化粧品組成物である。
【0019】
本発明の別の態様は、内側に一種以上の生物学的に活性な分子、例えば薬物、ワクチンまたは遺伝学的材料を保持できる、キトサン−PEGナノ粒子を含んでなる組成物に関する。それ自体は生物学的に活性な分子とは考えられないが、投与系の効率に貢献し得る、ペプチド、タンパク質、または多糖もナノ構造中に閉じ込めることができる。
【0020】
本発明の最後の態様は、上記生物学的に活性な分子を制御放出するための系を得る方法であって、
a)キトサン−PEG共役物水溶液を調製すること、
b)架橋剤水溶液を調製すること、および
c)前記工程a)およびb)の溶液を攪拌しながら混合して、イオン性ゲル化によりキトサン−PEGナノ粒子が自発的に形成され、次いで沈殿すること、
を含んでなる、方法である。
【0021】
本発明による方法の一変形においては、活性成分をキトサン水溶液または架橋剤水溶液に配合してから、両方の相を混合する。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本発明の系は、ナノ粒子を含んでなり、その構造は、架橋したキトサンおよびポリエチレングリコール(PEG)共役物を含んでなり、その中に活性成分を取り入れることができる。
【0023】
用語「ナノ粒子」は、キトサンとPEGとの間のキトサンアミノ基を通した共有結合の結果である共役物を含んでなる構造として理解され、その共役物は、陰イオン系架橋剤の作用によるイオン性ゲル化により、さらに架橋している。共有結合の形成およびそれに続く系のイオン性架橋により、独立した、識別可能な、特徴的な物理的存在が生じ、その平均的なサイズは、1μm未満である、すなわち平均サイズは1〜999nmである。
【0024】
「平均サイズ」とは、ナノ粒子が形成された水性媒体中で一緒に動くナノ粒子の集団の平均直径として理解される。これらの系の平均サイズは、当業者には公知の、例えば下記の実験項で説明する、標準的な方法により測定することができる。
【0025】
系のナノ粒子の特徴は、平均粒子径が1μm未満であり、好ましくは平均サイズが1〜999nm、好ましくは50〜800nm、さらに好ましくは50〜500nmである。平均粒子径は、PEGに対するキトサンの比により、キトサンの脱アセチル化度により、および粒子形成条件(キトサン−PEG濃度、架橋剤濃度および両者の比)によっても影響を受ける。PEGの存在により、PEG化されていないキトサンにより形成される系と比較して、平均粒子径が減少する。
【0026】
さらに、ナノ粒子は、電荷(Z電位により測定)を有することができ、その強度は、上記の変数および特にPEGによるキトサンの官能化度に応じて、+0.1〜+50mV、好ましくは+1〜+40mVになることがある。ナノ粒子の正電荷は、ナノ粒子と粘膜表面との相互作用を強化するのに重要であることがある。しかし、ナノ粒子の非経口投与には、中性電荷がより重要である。
【0027】
上記の生物学的に活性な分子を放出するためのナノ粒子を含んでなる系は、共役物中のキトサン含有量が50重量%を超え、好ましくは75重量%を超える。共役物中のPEG含有量は50%未満、好ましくは25%未満である。
【0028】
キトサンは、キチン(ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)に由来する天然重合体であり、その際、Nのアセチル基の重要な部分が加水分解により除去されている。脱アセチル化度は、一般的に30〜95%、好ましくは60〜95%であり、これは、アミノ基の5〜40%がアセチル化されることを示唆する。従って、キトサンは、アミノ多糖構造および陽イオン系特性を有する。キトサンは、式(I)
【化1】

で表され、nが整数である、単量体単位の反復、およびアミノ基がアセチル化されているm単位をさらに含んでなる。n+mの合計は、重合度、すなわちキトサン鎖中の単量体単位の数、を表する。
【0029】
本発明のキトサン−PEG共役物を形成するのに使用するキトサンは、分子量が5〜2000kDa、好ましくは10〜500kDa、より好ましくは10〜100kDaである。使用可能な市販されているキトサンの例は、NovaMatrix, Drammen、ノルウェイから市販されているUPG 113、UP CL 213およびUP CL113である。
【0030】
キトサン−PEG共役物の形成に使用するキトサンを構成する単量体単位の数は、30〜3000単量体、好ましくは60〜600である。
【0031】
キトサンの替わりに、キトサンの溶解度を高めるために、またはキトサンの粘膜密着性を増加するために、一個以上の水酸基および/または一個以上のアミノ基が変性されているキトサン誘導体を使用することもできる。これらの誘導体としては、特に、Roberts Chitin Chemistry, Macmillan, 1992, 166に記載されているような、アセチル化された、アルキル化された、またはスルホン化されたキトサン、チオール化された誘導体がある。誘導体を使用する場合、好ましくはO−アルキルエーテル、O−アシルエステル、トリメチルキトサン、ポリエチレングリコールで変性されたキトサン、等から選択する。他の可能な誘導体は、塩、例えばクエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、等である。いずれの場合も、当業者は、最終処方物の商業的な実行性および安定性を損なわずにキトサンに対して行うことができる変性を決定できる。
【0032】
ポリエチレングリコール(PEG)は、その最も通常の形態で、式(II)
【化2】

の重合体である(式中、pは、PEGの重合度を表す整数である)。本発明においては、PEGの重合度は、50〜500であり、これは分子量2〜20kDa、好ましくは5〜10kDaに相当する。
【0033】
1または2個の末端水酸基が変性されている変性PEGを、キトサン−PEG共役物の形成に使用する。キトサン−PEG共役物の形成に使用できる変性PEGとしては、式(III)
【化3】

を有する物質があり(式中、Xは、その後に続く反応のためにOH官能基をブロックするヒドロキシルラジカル保護基である)、ヒドロキシル保護基は、この分野で良く知られており、代表的な保護基(保護すべき酸素をすでに包含する)は、シリルエーテル、例えばトリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、tert−ブチルジメチルシリルエーテル、tert−ブチルジフェニルシリルエーテル、トリイソプロピルシリルエーテル、ジエチルイソプロピルシリルエーテル、ヘキシルジメチルシリルエーテル、トリフェニルシリルエーテル、ジ−tert−ブチルメチルシリルエーテル、アルキルエーテル、例えばメチルエーテル、tert−ブチルエーテル、ベンジルエーテル、p−メトキシベンジルエーテル、3,4−ジメトキシベンジルエーテル、トリチルエーテル、アリルエーテル、アルコキシメチルエーテル、例えばメトキシメチルエーテル、2−メトキシエトキシメチルエーテル、ベンジルオキシメチルエーテル、p−メトキシベンジルオキシメチルエーテル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチルエーテル、テトラヒドロピラニルエーテルおよび関連するエーテル、メチルチオメチルエーテル、エステル、例えばアセテートエステル、ベンゾエートエステル、ピバレートエステル、メトキシアセテートエステル、クロロアセテートエステル、レブリネートエステル、カーボネートエステル、例えばベンジルカーボネート、p−ニトロベンジルカーボネート、tert−ブチルカーボネート、2,2,2−トリクロロエチルカーボネート、2−(トリメチルシリル)エチルカーボネート、アリルカーボネートである。ヒドロキシル保護基の他の例は、参考書、例えばGreene and Wutsによる「Protective Groups in Organic Synthesis」、John Wiley & Sons, Inc., New York, 1999、に記載されている。好ましい実施態様においては、保護基は、アルキルエーテルであり、より好ましくはメチルエーテルである。
【0034】
は、水素またはキトサンアミノ基に固定できるブリッジ基でよい。使用するブリッジ分子の中で、好ましい形態は、スクシンイミドまたはその誘導体であるが、これらに限定するものではない。
【0035】
あるいは、Xは、アミノ基以外の基で固定することができる基でもよい。例えば、マレイミドをブリッジ分子として使用し、SH基と結合させる。
【0036】
PEGと反応するキトサンアミノ基、言い換えると、PEG化と呼ばれる、キトサンアミノ基のPEGによる官能化の数は、0.1〜5%、好ましくは0.2〜2%、より好ましくは0.5〜1%である。
【0037】
得られるキトサン−PEG共役物は、分子量が5〜3000kDa、好ましくは10〜500kDaである。
【0038】
本発明のナノ粒子系は、キトサン−PEG共役物のイオン性架橋により形成されているのが特徴である。架橋剤は、イオン性ゲル化によりキトサン−PEG共役物を架橋させ、ナノ粒子の自然な形成を促進する陰イオン系塩である。本発明では、架橋剤はポリリン酸塩であり、トリポリリン酸ナトリウム(TPP)の使用が好ましい。ナノ粒子系を与える架橋は、簡単であり、発明の背景に記載したように当業者には公知である。
【0039】
本発明の第二の態様は、上記のナノ粒子を含んでなる薬剤組成物である。薬剤組成物の例としては、組成物を経口、バッカルまたは舌下投与もしくは局所投与するための全ての液体組成物(ナノ粒子の水中懸濁液、または添加剤、例えば粘性付与剤、pH緩衝剤、等を含む水中懸濁液)もしくは固体組成物(ナノ粒子を凍結乾燥または噴霧させ、顆粒、錠剤またはカプセルを調製するのに使用できる粉末を形成)、あるいは組成物を経皮、眼、鼻、膣または非経口投与するための液体または半固体形態がある。非経口投与以外の(non-parenteral)経路の場合、上記の負に帯電した表面との相互作用を強化する大量の正電荷を粒子に与えることにより、ナノ粒子と皮膚または粘膜との接触を改良することができる。非経口投与経路の場合、より詳しくは、静脈内投与には、これらの系は、そこに会合する薬物または分子の生体内配分を調整する可能性を提供する。
【0040】
好ましい態様では、処方物の投与は、粘膜投与である。キトサン−PEG共役物の正電荷は、それらの粘膜との相互作用により粘膜表面における、および負に帯電した上皮細胞の表面における薬物の吸収を改善する。
【0041】
キトサン−PEGナノ粒子は、生物活性分子に対する高い会合能力を有する系である。この会合能力は、配合する分子の種類ならびに上記の処方物パラメータによって異なる。従って、本発明の別の態様は、キトサン−PEGナノ粒子、例えば上記のナノ粒子、および少なくとも一種の生物学的に活性な分子を含んでなる組成物により形成される。
【0042】
用語「生物学的に活性な分子」は、病気の処置、治癒、防止または診断に使用される、あるいは人または動物の物理的および精神的な健康状態を改善するのに使用される全ての物質に関連する。これらの生物学的に活性な分子は、低分子量薬物から多糖、タンパク質、ペプチド、リピド、オリゴヌクレオチドおよび核酸およびそれらを組合せた種類の分子を包含する。これらのナノ粒子に会合する分子の例としては、タンパク質、例えば破傷風トキソイドおよびジフテリアトキソイド、多糖、例えばヘパリン、ペプチド、例えばインスリン、ならびに幾つかのタンパク質をコード化するプラスミドがある。
【0043】
好ましい実施態様では、生物学的に活性な分子はインスリンである。別の好ましい実施態様では、生物学的に活性な分子はジフテリアまたは破傷風トキソイドである。別の好ましい実施態様では、生物学的に活性な分子はヘパリンである。別の好ましい実施態様では、生物学的に活性な分子はDNAプラスミドである。
【0044】
本発明のナノ粒子系は、治療的効果はないが、化粧品組成物を形成する他の活性分子を配合することもできる。これらの化粧品組成物としては、活性分子を局所投与するための全ての液体組成物(ナノ粒子懸濁液)またはエマルションがある。ナノ粒子に配合できる活性分子としては、特に、抗ニキビ剤、抗真菌剤、酸化防止剤、脱臭剤、制汗薬、ふけ防止剤、皮膚白色化(skin whitening)剤、タンニン酸処理剤(tanning agents)、紫外光吸収剤、酵素、化粧品用殺菌剤がある。
【0045】
本発明の別の態様は、上記のナノ粒子および抗原を含んでなるワクチンである。ナノ粒子から形成された系を使用して抗原を投与することにより、免疫応答を達成することができる。ワクチンは、タンパク質、多糖を含んでなるか、またはDNAワクチンでよい。厳密に言うと、DNAワクチンは、免疫応答を与える抗原の発現をコード化するDNA分子である。好ましい実施態様では、この抗原は、破傷風トキソイドおよびジフテリアトキソイドである。
【0046】
本発明の別の態様は、キトサン−PEGナノ粒子、例えば上記のナノ粒子、の製造方法であって、
a)キトサン−PEG共役物水溶液を調製すること、
b)架橋剤水溶液を調製すること、および
c)前記工程a)およびb)の溶液を攪拌しながら混合して、イオン性ゲル化によりキトサン−PEGナノ粒子が自発的に形成され、次いで沈殿すること、
を含んでなる方法に関する。
【0047】
最初のキトサン−PEG共役物溶液のpHは、両方の溶液を混合する前に、水酸化ナトリウムを加えることにより、4.5〜6.5の値に達するまで調整する。
【0048】
この方法の変形では、得られるキトサン−PEG/架橋剤の比が2/1〜8/1であり、3/1比が好ましく、この比により、多分散度が比較的低い処方物が得られる。しかし、より高いキトサン−PEG/架橋剤比、ならびに酸性がより高い媒体中で粒子を調製することも可能である。
【0049】
架橋剤の存在により、網目構造が形成されるように、キトサン−PEG共役物を架橋させ、その網目構造の中に生物学的に活性な分子を挿入し、後の段階で放出することができる。架橋剤は、ナノ粒子にサイズ、電位、および構造的特徴をさらに与え、生物学的に活性な分子を投与するための系として適した粒子を形成することができる。
【0050】
生物学的に活性な分子は、生物学的に活性な分子を含むキトサン−PEGナノ粒子がイオン性ゲル化により自然に形成され、続いて沈殿するように、工程a)またはb)の溶液に直接配合するか、または水相または有機相中に前もって溶解させることができる。
【0051】
従って、生物学的に活性な分子は、下記の方法により配合することができる。
a)活性分子を架橋剤またはキトサン−PEGの溶液に直接溶解させるか、
b)活性分子を酸性または塩基性水溶液中に溶解させてから、架橋剤またはキトサン−PEGの溶液に配合するか、または
c)活性分子を水と混和し得る、極性の有機溶剤中に溶解させてから、架橋剤またはキトサン−PEGの溶液に配合する。
【0052】
キトサン−PEGナノ粒子の製造方法は、該ナノ粒子を凍結乾燥させる追加工程をさらに含むことができる。薬学的観点からは、貯蔵中の安定性が改良されるので、ナノ粒子を凍結乾燥させた形態にすることが重要である。キトサン−PEGナノ粒子(様々なPEG化度にある)を、5%濃度の低温保護剤、例えばグルコース、の存在下で凍結乾燥させることができる。他の通常の添加剤も存在できる。実際、凍結乾燥の前後における粒子径の測定は、大きく変動しない。言い換えると、ナノ粒子は、それらの中に変化を引き起こさずに、凍結乾燥および再懸濁させることができる(表I)。
【表1】

【0053】
以下に、本発明の特徴および優位性を示す幾つかの例を記載するが、これらの例は、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0054】
例1
キトサン−PEGナノ粒子の製造における最適化
キトサンに関して第WO9804244号に記載されているイオン性ゲル化技術により、キトサン−PEGナノ粒子ナノ粒子を製造した。具体的には、PEG化度(PEGで官能化されるアミノ基の百分率)0.5%または1%のキトサンを先ず超純水に濃度1mg/mLで溶解させた。ナノ粒子の形成に対するその可能な効果を研究するために、粒子径を製造する前に、NaOHを加えることにより、キトサン−PEG溶液の初期pHを4.5〜6.5に調整した。トリポリリン酸ナトリウム(TPP)を様々な濃度で溶解させ、2/1、3/1および4/1のキトサン−PEG/TPP比を得た。磁気攪拌しながら、ある決められた体積のTPP溶液(0.6mL)をある決められた体積のキトサン−PEG溶液(1.5mL)に加えた後、ナノ粒子が自然に形成された。
【0055】
キトサンPEG化度、重合体溶液のpHおよびキトサン−PEG/TPP比の、ナノ粒子サイズおよび多分散度に対する効果を図1Aおよび1Bに示す。得られた結果から、PEG化度0.5〜1%のキトサン−PEGナノ粒子が、広範囲な実験条件で容易に調製でき、pHが、ナノ粒子サイズに対して最も大きな影響を及ぼすパラメータであると結論付けることができる。その上、pHの影響は、PEG化度が0.5から1%に増加した時に、より明らかである。
【0056】
さらに、ナノ粒子サイズ分布も、キトサンのPEG化度により、ならびにキトサン−PEG溶液のpHにより、影響を受ける。比較的低い多分散度を有する処方物を得るための最適キトサン−PEG/TPP比は、明らかに3/1である。
【0057】
ナノ粒子サイズは、その目的にZetasizer III (Malvern Instruments, Malvern, UK)を使用し、光子相関分光法より測定する。キトサン−PEGナノ粒子サイズは70〜310nmの範囲内であった。
【0058】
例2
キトサンナノ粒子とキトサン−PEGナノ粒子の比較
表IIから分かるように、PEG化によりキトサンの溶解度が変化する。これはナノ粒子の形成に影響する。典型的には6/1〜4/1にある最適キトサン/TPP比が、キトサン−PEGの場合、典型的には4/1〜2/1の、より低い値にシフトする。これらの差は、恐らく、キトサンの化学的変性によるものであり、相互作用に利用できる基の変化を受け、イオノトロピー的ゲル化条件を変えることができる。
【表2】

【0059】
ナノ粒子に関して、PEG化されたキトサンから製造されたナノ粒子は、純粋なキトサンにより形成されたナノ粒子とは大きく異なっていることが観察できる。これを、キトサン、PEG化度0.5%および1%(初期pH値における、その最適重合体比)のキトサン−PEGにより形成されたナノ粒子の特性を示す表IIIに示す。
【0060】
PEG化は、ナノ粒子サイズおよび表面電荷の著しい低下を引き起こす。後者の場合、PEG化度が0.5%から1%に増加すると、表面電荷がさらに低下するので、PEG化度も強い影響を及ぼす。
【表3】

【0061】
例3
種々のPEG化度を有するDNA装填したキトサンの形成および特性試験
カプセル封入するために、ナノ粒子を形成する前にTPP溶液にプラスミドDNAを配合した。次いで、このDNAを含むTPP溶液をキトサン−PEG溶液に加え、磁気攪拌しながら保持した。理論的DNA装填量は、ナノ粒子の調製に使用したキトサン−PEGの総量(1mg)に対して5、10または20%であった。プラスミドDNAのカプセル封入効率は、蛍光(Pico Green dsDNA染料)およびアガロースゲル電気泳動検定により、常に90%を超えることが確認された。
【0062】
表IV、VおよびVIは、様々なキトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子の特性を示す。未装填ナノ粒子と同様に、PEGを含むDNA装填した処方物は、PEGを含まない処方物よりも、はるかに小さく、正の表面電荷が少ない。
【0063】
すべての場合で、DNAの存在は、特に高DNA百分率で、キャリヤーの特性を変化させ、その際、表面電荷が一般的に低下する。ナノ粒子サイズに関して、大きなDNA装填量は、より高度に架橋した構造を誘発し、粒子径の低下を引き起こす。これは、PEG化されていないキャリヤーの場合に観察され、そこではサイズが約270〜300nmから220nmに低下している。
【0064】
しかし、PEG化されたキャリヤーのサイズは、特にPEG化度0.5%のキトサン−PEGを使用する場合に、DNA装填量と共に増加する。
【表4】

【表5】

【表6】

【0065】
例4
インビトロプラスミドDNA放出
プラスミドDNAは、キトサンおよびキトサン−PEG粒子径と効果的に会合した。図2Aおよび2Bに示すように、プラスミドDNAを装填したナノ粒子を、酢酸塩緩衝液(pH4、pH7.4)および精製水(MQ)の両方で1ヶ月以上培養した時、プラスミドDNAの放出は検出されない。
【0066】
例5
酵素の存在下におけるインビトロプラスミドDNA放出
電気泳動分析(図3)から観察されるように、プラスミドDNAを装填したナノ粒子を、キトサナーゼ(0.6mg/mL)の存在下、酢酸塩緩衝液pH6中で培養した時、プラスミドDNAをキトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子から放出させることができる。
【0067】
これらの結果は、プラスミドDNAがナノ粒子に効果的に会合しているが、重合体状キャリヤーが酵素により分解した時は放出されるので、プラスミドDNAはナノ粒子に不可逆的に結合しているのではないことを示している。
【0068】
例6
キトサン−PEGナノ粒子に会合した(GFP)プラスミドDNAのトランスフェクションにおける効率
キトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子によるトランスフェクションの効率を、HEK 293細胞ラインモデルでGFPプラスミドのコード化に関して評価した。
【0069】
図4は、20%プラスミドDNA(pDNA)装填量を含む高分子量キトサンナノ粒子(125kDa、HMW CS NP)のトランスフェクションにおける効率に対する、キトサンPEG化度(0.5%および1%)により引き起こされる効果を示す。ウェルあたりのプラスミド投与量は1μgであった。これらの結果は、0.5%PEG化度が、これらのナノ粒子のトランスフェクション能力に対して好ましい効果を有することを示唆している。このPEG化度を、その後の実験に選択した。図4bに示す結果は、トランスフェクションの効果が、ナノ粒子のpDNA装填量と共に増加することを特徴とする示している。この観察は、プラスミド投与量が一定(1μg)であり、従って、pDNA装填量が増加するにつれてナノ粒子投与量が低下するので、重要である。
【0070】
トランスフェクションの効率に対するプラスミド装填量の影響は、低分子量キトサン−PEGナノ粒子(10kDa、LMW CS-PEG NP)に対しても評価した。この場合、少ない装填量(5%)に対して高い発現レベルが観察された(図5a)。さらに、この少ない装填量(5%)に対して、PEG化がトランスフェクションの効率に対して好ましくない効果を有することが観察された(図5b)。
【0071】
これらの実験の主な結論は、キトサンPEG化が、キトサンの分子量に応じて、好ましい(HMW CS-PEG NP)または好ましくない(LMW CS-PEG NP)効果を有するということである。
【0072】
例7
カプセル封入したインスリンおよび遊離インスリンの、濃度10U/kgにおける鼻内投与の生物学的効果
インスリンをキトサンナノ粒子中にカプセル封入するために、インスリン2.4mgをNaOH溶液中に予め溶解させ、次いでこれにTPP1.2mLを加えた。この混合物をキトサン3mLに加えた。磁気攪拌しながら5分後、この製剤を10,000gで40分間遠心分離した。上澄み液を除去し、沈殿物を緩衝液中に溶解させた。同じ処理をキトサン−PEGナノ粒子の調製にも行ったが、10mg/mLのPEG400をキトサン2mg/mLに加えた。
【0073】
光子相関分光分析により測定したキトサンナノ粒子の最終サイズは、605±15nmであるのに対し、キトサン−PEGナノ粒子の最終サイズは590±6nmであった。
【0074】
先ず、雄のWistarラット、体重200〜220g、に、クエン酸塩緩衝液、pH4.5中のstreptozotocin注射(65mg/kg i.v.)により、糖尿病を誘発させた。これらのラットは、3週間のstreptozotocinによる処理後、血糖濃度が400mg/dlを超えた時に糖尿病と見なされた。
【0075】
給餌していないラットを使用して、この実験を行った。ラットを、ラットに投与する処方物に応じて異なったグループに分けた。様々な処方物は、比較用溶液(酢酸塩緩衝液、pH4.3)、酢酸塩緩衝液に溶解させたインスリン、キトサン溶液に溶解させたインスリンおよびキトサンナノ粒子に会合したインスリンおよびキトサン−PEGナノ粒子に会合したインスリンからなり、インスリン濃度は体重1kgあたり10Uである。処方物は、ラットに仰臥位置でエーテルで麻酔をかけ、Eppendorfピペットを使用し、各鼻オリフィスに少量(10〜20μl)を入れることにより、投与した。次いで、麻酔が血中グルコースレベルに及ぼす恐れのある影響を防止するために、これらのラットを実験全体にわたって醒めた状態に維持した。
【0076】
血中グルコースレベルを測定するために、血液試料を尾の静脈から、鼻内投与の前および15分毎に、90分間が過ぎるまで採取した。続いて、試料を、1時間毎に2〜7時間、および最後に鼻内投与から24時間後に採取した。血中グルコースレベルは、グルコース分析装置(Chronolyss製のPrestige)を使用して直ちに測定した。実験中、ラットには給餌しなかった。
【0077】
図6に示すように、酢酸塩緩衝液、pH4.3、の鼻内投与により、血糖値が時間と共に徐々に、漸進的に減少し、比較値に対する最大の減少は投与後6時間であった。酢酸塩緩衝液中10U/kgインスリンの鼻内投与は、前の結果を大きく変えなかった。しかし、インスリンをキトサン−PEGナノ粒子と会合させた場合、血糖レベルは投与後僅か15分間以内で18%(p<0.01)減少し、該投与から45分間で最大減少45〜50%(それぞれp<0.01およびp<0.001)に達した。この減少は、鼻内投与から少なくとも7時間が経過した後も維持されることを強調しなければならない。血糖レベルの明らかな低下は、キトサンナノ粒子に会合したインスリンを鼻内投与した後にも観察された。この場合、血糖は、30分から大きく低下し始め、特に16%(p<0.01)低下し、最大減少は、鼻内投与から2時間後に観察された32%(p<0.001)であった。血糖は、インスリンをキトサン溶液に溶解させた場合にも減少するが、その程度は、インスリンをキトサン−PEGナノ粒子と会合させた場合よりも、はるかに小さかった。
【0078】
例8
インスリンを含むナノ粒子の、経口グルコース投与への血糖応答に対する効果
一晩給餌しなかった糖尿病ラットを使用し、この実験を行った。例7に記載した製剤のそれぞれをこれらのラットに鼻内投与した。1時間後、各グループのラットに、体重1kgあたり2gのグルコースを経口投与した。グルコース投与の前および10、20、30、60、90および120分後に尾の静脈から採取した試料の血液で血糖を測定した。
【0079】
図7は、インスリンを含むナノ粒子の、経口グルコース投与への血糖応答に対する効果を示す。酢酸塩緩衝液を与えた比較用ラットでは、経口グルコース投与に続いて血糖が増加し、30分後にその最大値105%(p<0.001)に達した。続いて血糖は2時間にわたって徐々に低下した。酢酸塩緩衝液に溶解させたインスリン(10U/kg)は、この結果を大きく変えなかった。
【0080】
しかし、同じ量のキトサン溶液中インスリンは、グルコースに対する血糖応答を189%(p<0.05)増加したのに対し、キトサンまたはキトサン−PEGナノ粒子に会合したインスリンは、血糖応答をそれぞれ193%(p<0.01)および225%(p<0.01)増加した。
【0081】
従って、分析した様々な処方物に基づくA.U.C.(曲線下の面積)を比較すると、最も効果的な製剤は、キトサン−PEGナノ粒子に会合したインスリンに対応する製剤であり、キトサンナノ粒子に会合したインスリンがその次であり、最後がキトサン溶液中のインスリン対応する製剤である。
【0082】
これらの結果は、本発明に記載するキトサン−PEGナノ粒子の使用により、糖尿病ラットにおけるインスリン吸収が増加することを示している。実験結果は、キトサン−PEGナノ粒子に会合しているインスリン(10U/体重kg)が、鼻内放出後15分から出発して少なくとも7時間まで血糖を著しく下げ、経口グルコース負荷が起きた時に血糖応答を改良することを示す。該ナノ粒子に会合しているインスリンが4U/kgでは、それ程顕著な効果は見られない。
【0083】
インスリンが、キトサンのみによって形成されたナノ粒子に会合している場合、あるいはインスリンがキトサンの溶液中にある場合、その効率は、インスリンがキトサン−PEGナノ粒子と会合している場合より低いのに対し、遊離のインスリンは、糖尿病ラットにおけるその鼻内放出の後、生物学的パラメータに対する重大な効果を発揮しない。
【0084】
例9
ジフテリアトキソイド装填されたナノ粒子により引き起こされる免疫応答の生体内評価
ジフテリアトキソイド(DT)をTPP溶液に配合することにより、DTをキトサンまたはキトサン−PEGナノ粒子に会合させる(DT300μg)。異なった量のTPP水溶液(1mg/mL)をキトサンまたはキトサン−PEG溶液(1mg/mL)に磁気攪拌しながら加えることにより、ナノ粒子が自然に形成される。TPP溶液の量は、キトサン:TPP比8:1および2:1を達成するように計算した。キトサンは、その塩酸塩、脱アセチル化度86%のProtosan C1(登録商標) 113およびProtosan C1(登録商標) 213として市販されている。5℃、10,000gで40分間遠心分離することにより、キトサンナノ粒子を単離する。キトサン−PEGの場合、遠心分離ウルトラフィルター(Amicon(登録商標)ultra-4 100000 NMWL, Millipore)上に3800gで30分間かけてナノ粒子を集める。上澄み液を除去し、ナノ粒子をリン酸塩緩衝液を加えた食塩水、pH7.4、中に再懸濁させ、マウスに投与する。
【0085】
キトサンおよびキトサン−PEG処方物の免疫原性試験は、鼻内免疫法により行った。生後6週間の雄BALB/cマウスを使用した。マウスを5つのグループに分けた。2グループは、DT装填したキトサンナノ粒子(CS-113 C1、CS-213 C1)で処理し、1グループはDT装填したキトサン−PEGナノ粒子で処理した。使用した投与量は、ナノ粒子100μgに配合したDT10μgであり、pH7.4のリン酸塩緩衝液10μlに取り、5μlを各鼻オリフィスに投与する。もう一つのグループは、リン酸塩緩衝液を加えた食塩水、pH7.4中の遊離トキソイドで処理した。さらに、比較用として、1グループは、リン酸アルミニウム中に吸着させたDTP(ジフテリア、破傷風および百日咳)ワクチン(10μg/マウス)を腹腔内投与した。この投与量を、意識があるラットに0、7および14日に投与した。
【0086】
血液試料をマウスの尾から、第一投与量の投与後14、28、42、56および70日目に採取し、生体内免疫応答検定を行った。さらに、腸、気管支肺胞および唾液の洗浄試料(wash sample)も70日目に採取した。唾液分泌は、ピロカルピン(50μL、1mg/mL)を腹腔内注射により誘発した。各マウスの初期唾液流の100μLアリコートを集めた。次いで、マウスを、ペントバルビタールで麻酔にかけ、殺した。気管支肺胞洗浄液は、静脈内カニューレを使用して洗浄媒体5mLを気管の中に注入して肺を膨脹させ、吸入により得た。さらに、腸部分(十二指腸、空腸、回腸)を無菌的に取り出し、1mM PMSF、1mMヨード酢酸および10mM EDTAの溶液4mL中に均質化した。これらの試料を遠心分離により清澄化し、アジ化ナトリウム、PMSFおよびウシ血清を保存剤として加えた。抗体濃縮検定を行うまで、全試料を−20℃で保存した。
【0087】
血清および粘膜組織における抗体の応答評価は、ELISA試験により行った。マイクロプレート(DYNEX, immulon(登録商標))を先ずpH9.6の炭酸塩緩衝液0.05M中のDT(4μg/ウェル)100μLで被覆した。工程間で、ウェルはpH7.4のPBST(0.01M PBS、または5%v/vのTween(登録商標)20を含むリン酸塩緩衝液)で3回洗浄した。非特異的反応を最少に抑えるために、PBSTM(スキムミルク粉末5%v/vおよび保存剤としてアジ化ナトリウム0.1%v/vを含むPBST)を全てのウェルに加え、37℃で1時間培養した。PBSTで洗浄した後、試料を2工程で連続的にPBSTMで希釈し、プレートを37℃でさらに2時間培養した。続いて、ヤギ抗−マウスIgG免疫グロブリンペルオキシダーゼ共役物100μLをPBSTM中1:2000に希釈し、ウェルに加え、37℃で2時間培養した。プレートを洗浄し、o−フェニレンジアミン二塩酸塩50μL(0.45mg/mL)を基質としてpH5.0のクエン酸塩リン酸塩緩衝液0.05Mに加えた。発色(37℃で30分間)に続いて、プレートをマイクロプレートリーダー(3350-UV, Biorad)上、450nmで読み取った。
【0088】
鼻内免疫法に従って、DT装填したナノ粒子および比較用DT溶液により引き起こされた抗−ジフテリアIgGレベルを図8に示す。この図は、腹腔内投与した市販の処方物(リン酸アルミニウムに吸収させたDT)に対応する結果も示す。一般的に、これらの結果は、最初の1箇月の後、DT装填したナノ粒子に対して観察されたIgGレベルは、流体ワクチンに対応する結果よりも著しく優れていることを示している(p<0.05)。実際、これらの値は、非経口投与された、アジュバントとして使用された処方物(リン酸アルミニウムに吸収されたDT)で得られた値に匹敵する。従って、これらの結果は、ナノ粒子を含む処方物のアジュバント効果を明らかに示している。もう一つの注目すべき観察は、増加し、長時間持続する免疫応答である。最後に、ナノ粒子組成物の影響に関して、キトサンの分子量は、キトサンナノ粒子により得られる免疫応答に何の影響も及ぼさないが、キトサンのPEG化は、ナノ粒子の効率に明らかな結果をもたらすことは重要である。実際、1箇月後、IgGレベルは、キトサン−PEGナノ粒子が、キトサンナノ粒子よりもはるかに大きい。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1Aは、ナノ粒子径に対する、キトサンPEG化度、重合体溶液のpH、およびキトサン−PEG/TPP比の影響を示し、図1Bは、ナノ粒子径の多分散性に対する、キトサンPEG化度、重合体溶液のpH、およびキトサン−PEG/TPP比の影響を示す。
【図2】図2Aは、酢酸塩緩衝液(pH4および7.4)および純水(MQ)中で1日培養した後の、キトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子と会合するプラズマDNAのアガロースゲル電気泳動分析を示し、図2Bは、酢酸塩緩衝液(pH4および7.4)および純水(MQ)中で4週間培養した後の、キトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子と会合するプラズマDNAのアガロースゲル電気泳動分析を示す。
【図3】キトサナーゼの存在下でキトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子と会合するプラズマDNAのアガロースゲル電気泳動分析を示す。
【図4】図4Aは、高分子量キトサン(CS)ナノ粒子のトランスフェクションにおける効率に対するPEG化度の影響を示し、図4Bは、高分子量キトサン(CS)ナノ粒子のトランスフェクションにおける効率に対するpDNAの影響を示す。
【図5】図5Aは、低分子量キトサン(CS)ナノ粒子のトランスフェクションにおける効率に対するpDNAの影響を示し、図5Bは、低分子量キトサン(CS)ナノ粒子のトランスフェクションにおける効率に対するPEG化度の影響を示す。
【図6】種々の処方物または酢酸塩緩衝液(比較)中に含まれるインスリン10U/kgを鼻内投与した後の血糖を示す。血糖は、基底線値に対する%で、平均値±S.E.M.で示す。下記の値は、様々な投与の前の基底線値である。酢酸塩緩衝剤(黒四角)423±16mg/dl(n=7)、インスリン(□)430±15mg/dl(n=7)、キトサン溶液中のインスリン(●)439±12mg/dl(n=8)、キトサンナノ粒子(◆)469±14mg/dl(n=7)、キトサン−PEGナノ粒子(○)458±21mg/dl(n=8)。
【図7】インスリンまたは酢酸塩緩衝液を含む処方物を、一晩給餌しなかった糖尿病のラットに鼻内投与した後の、グルコース耐性を示す。グルコース(体重1kgあたり2g)は、鼻内投与した後0および1時間後に胃内投与した。酢酸塩緩衝剤(黒四角)(n=10)、インスリン(□)(n=6)、キトサン溶液中のインスリン(●)(n=6)、キトサンナノ粒子(◆)(n=6)、キトサン−PEGナノ粒子(○)(n=6)。
【図8】種々のキトサンおよびキトサン−PEGナノ粒子処方物中に配合したTD10μgを鼻内投与した後、0、7および14日後の、マウスの血清中のIgG抗TDの最終タイターを示す(n=6)。INは鼻内、IPは腹腔内を表す。* 統計的に重大な差(α<0.5)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的に活性な分子を放出するためのナノ粒子を含んでなる系であって、
前記ナノ粒子が、
a)少なくとも50重量%のキトサンまたはキトサン誘導体、および
b)50重量%未満のポリエチレングリコール(PEG)またはPEG誘導体を含んでなる
共役物を含んでなり、
前記両成分a)とb)とが、キトサンアミノ基を介して共有結合しており、前記ナノ粒子が架橋剤により架橋していることを特徴とする、系。
【請求項2】
前記キトサンまたはキトサン誘導体のポリエチレングリコールに対する比率が、好ましくは75重量%を超える、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの比率が、好ましくは25重量%未満である、請求項1に記載の系。
【請求項4】
前記キトサンの重合度、またはキトサン若しくはキトサン誘導体を構成する単量体単位の数が、30〜3000、好ましくは60〜600である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の系。
【請求項5】
前記キトサンまたはキトサン誘導体の分子量が、5〜2000kDa、好ましくは10〜500kDa、より好ましくは10〜100kDaである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記キトサンまたはキトサン誘導体の脱アセチル化度が、30〜95%、好ましくは60〜95%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記PEGが、下記式(III):
【化1】

(式中、Xはヒドロキシルラジカル保護基であり、Xは、水素または前記キトサンアミノ基に固定できるブリッジ基であり、pは重合度である。)
を有する変性されたPEGである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
がアルキル基、好ましくはメチルである、請求項7に記載の系。
【請求項9】
前記PEGの重合度が50〜500である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
前記PEGの分子量が2〜20kDa、好ましくは5〜10kDaである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
前記キトサンアミノ基またはキトサン誘導体のアミノ基のPEGによる官能化が、0.1〜5%、好ましくは0.5〜1%である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の系。
【請求項12】
低分子量薬物、多糖、タンパク質、ペプチド、リピド、オリゴヌクレオチド、および核酸、ならびにそれらの組合せからなる群から選択された、生物学的に活性な分子をさらに含んでなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の系。
【請求項13】
前記架橋剤が、ポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の系。
【請求項14】
前記ナノ粒子の平均粒子径が、1〜999ナノメートル、好ましくは50〜800nmである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の系。
【請求項15】
電荷(Z電位)が、+0.1〜+50mV、好ましくは+1〜+40mVである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の系。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の系と、病気を予防、緩和または治癒させることができる生物学的に活性な分子とを含んでなる、薬剤組成物。
【請求項17】
経口、バッカル、舌下、局所、経皮、眼内、鼻内、膣内、または非経口投与するための、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記生物学的に活性な分子が、多糖、タンパク質、ペプチド、リピド、オリゴヌクレオチド、核酸、およびそれらの組合せから選択されるものである、請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
前記生物学的に活性な分子が、インスリン、ヘパリン、タンパク質、抗原、またはDNAプラスミドである、請求項16〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の系のような、生物学的に活性な分子を放出するための系を含んでなる、化粧品組成物。
【請求項21】
前記活性分子が、抗ニキビ剤、抗真菌剤、酸化防止剤、脱臭剤、制汗薬、ふけ防止剤、皮膚白色化剤、タンニン酸処理剤、UV光吸収剤、酵素および化粧品用殺菌剤から選択されるものである、請求項20に記載の化粧品組成物。
【請求項22】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の系のような、生物学的に活性な分子を放出するための系と抗原とを含んでなる、ワクチン。
【請求項23】
前記抗原が、タンパク質、多糖、およびDNA分子から選択されるものである、請求項22に記載のワクチン。
【請求項24】
前記抗原が、破傷風トキソイドまたはジフテリアトキソイドである、請求項22または23に記載のワクチン。
【請求項25】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の、生物学的に活性な分子を制御放出するための系を製造する方法であって、
a)キトサン−PEG共役物水溶液を調製すること、
b)架橋剤水溶液を調製すること、および
c)前記工程a)およびb)の溶液を攪拌しながら混合して、イオン性ゲル化によりキトサン−PEGナノ粒子が自発的に形成され、次いで沈殿すること、
を含んでなる、方法。
【請求項26】
前記架橋剤が、トリポリリン酸塩、好ましくはトリポリリン酸ナトリウムである、請求項25に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項27】
前記生物学的に活性な分子が、前記a)またはb)において予め溶解されているか、若しくは前記a)またはb)に添加される別の水相または有機相に予め溶解されている、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記生物学的に活性な分子が、インスリン、ヘパリン、DNAプラスミド、破傷風トキソイド、およびジフテリアトキソイドから選択されるものである、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−533108(P2008−533108A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501338(P2008−501338)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000123
【国際公開番号】WO2006/097558
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(504355789)アドバンスド、イン、ビートロウ、セル、テクノロジーズ、ソシエダッド、リミターダ (9)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED IN VITRO CELL TECHNOLOGIES, S.L.
【Fターム(参考)】