説明

生物学的マイクロ流体工学チップおよび関連する方法

基板(102)と、基板(102)の表面における開口部を画定するマイクロ流体入口ポート(104)と、基板(102)の表面における開口部を画定するマイクロ流体出口ポート(106)とを備える、生物学的マイクロ流体工学チップ(100)を提供する。生物学的マイクロ流体工学チップ(100)は、基板の上面(110)から延びる複数のウェル(108)も備え、各ウェル(108)が、一つまたは複数の壁によって境界付けられ、入口開口部(112)および出口開口部(114)が複数のウェル(108)各々の壁に設けられている。入口マイクロ流体チャネル(116)が、マイクロ流体入口ポート(104)をウェルの壁における各入口開口部(112)に接続すべく基板(102)に設けられ、出口マイクロ流体チャネル(118)が、ウェルの壁における各出口開口部(114)をマイクロ流体出口ポート(106)に接続すべく基板に設けられている。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的マイクロ流体工学チップおよびそのような生物学的マイクロ流体工学チップを使用する方法に関する。便宜上、生物学的マイクロ流体工学チップを、「バイオチップ」と称することもある。
【背景技術】
【0002】
生物学および生物医学に関する科学的研究においては、研究者が培養容器を使用し、培養容器において研究対象の細胞培養物または胚の培養を行うことが一般的である。培養容器の一つのきわめて一般的な形態は、プレートに形成された真っ直ぐな側面をもつ円柱形ウェルを典型的に含む、いわゆるマイクロタイタープレートであり、これは分析装置または処理ロボットに固定保持されるように標準化された形状および寸法である。
【0003】
実際には、マイクロタイタープレートは、典型的には、格子状のパターンに設定されたマイクロタイターウェルのアレイを備えている。一つの周知の構成は、各々12個のマイクロタイターウェルを含む8列からなるアレイを規定する、96個のマイクロタイターウェルを備えている。96穴プレートの設計は、Society for Biomolecular Screeningによって指定された業界標準の形式となっている。
【0004】
マイクロタイタープレートは、典型的には、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(「ABS」)などの透明なポリマーから製造される。透明であることによって、研究者が、マイクロタイターウェルにおいて培養された細胞、胚、または幼生について種々の光学的試験を実施することができる。さらには、マイクロタイターウェルは、細胞物質に関係しない多数の試験および検査の実施にも適している。
【0005】
マイクロタイターウェルは、使用時の上端において開口している。マイクロタイタープレートの各ウェルへ培養液を注入し、かつマイクロタイターウェル内の細胞への影響を調査することが望まれる例えば試薬、酵素または他の添加剤を注入するために、電子制御の投薬装置を使用することができる。
【0006】
本明細書において使用される「上部」、「上方」、「下部」、「垂直」、「水平」、「上向き」、および「下向き」などの用語は、便宜上、使用時の向き(バイオチップが研究室の作業台などの水平な表面に平置きされてウェルの開口部が上方に向けられるときに生じると考えられる)にあるマイクロタイターウェルまたは生物学的マイクロ流体工学チップを基準に解釈される。しかしながら、バイオチップまたは他の細胞培養容器の使用において、その向きが、例えば遠心分離もしくは他の攪拌の結果として変化してもよく、または実験もしくは観察手順の一部としての傾斜もしくは反転によって変化してもよいことを、理解されたい。上述の用語および関連の用語は、本発明の技術的範囲を培養容器の任意の特定の向き、または任意の特定の使用態様に限定するものと解釈されるべきではない。
【0007】
PNAS, August 28, 2007, vol.104, no.35, 13891-13895において発表されたChristopher B.Rohdeらによる「Microfluidic system for on-chip high-throughput whole-animal sorting and screening at subcellular resolution」(非特許文献1)という名称の論文が、可撓性ポリマーから製造されたフロー層および制御層からなるマイクロ流体工学デバイスを開示している。フロー層は、線虫(C.elegans)を操作し、画像化のために固定し、かつ培地および試薬を送達するためのマイクロチャネルを含む。さらにフロー層は、動物をインキュベーションするためのマイクロチャンバも含む。制御層は、加圧されたときに膜をフローチャネルに入るよう曲げて流れを阻止するかまたは流れの方向を変更する、マイクロチャネルからなる。流れライン内の動物を、高分解能の顕微鏡検査を使用して透明なガラス基板を介して画像化することができる。
【0008】
本明細書における、過去に刊行された文献または任意の背景についての列挙または考察は、必ずしもそのような文献または背景が技術水準の一部であるとみなされるべきではなく、共通の一般的知識であるとみなされるべきでもない。本開示の一つまたは複数の局面/態様は、背景にある課題のうちの一つまたは複数に対処していても、対処していなくてもよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Christopher B.Rohdeら、PNAS, August 28, 2007, vol.104, no.35, 13891-13895「Microfluidic system for on-chip high-throughput whole-animal sorting and screening at subcellular resolution」(非特許文献1)
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の局面によれば、
基板と、
基板の表面における開口部を画定するマイクロ流体入口ポートと、
基板の表面における開口部を画定するマイクロ流体出口ポートと、
基板の上面から延びru
複数のウェルであって、各ウェルが一つまたは複数の壁によって境界付けられており、該複数のウェルそれぞれの壁に入口開口部および出口開口部が設けられている、複数のウェルと、
マイクロ流体入口ポートをウェルの壁における各入口開口部に接続する、基板内の一つまたは複数のマイクロ流体入口チャネルと、
ウェルの壁における各出口開口部をマイクロ流体出口ポートに接続する、基板内の一つまたは複数のマイクロ流体出口チャネルと
を備える生物学的マイクロ流体工学チップが提供される。
【0011】
一般的な使用においては、入口チャネルがウェルに向かって流体を運び、出口チャネルがウェルから流体を運び去る。しかしながら、必要であれば、この流れを逆にすることが可能である。
【0012】
生物学的マイクロ流体工学チップ(バイオチップ)を、ウェル内に位置する細胞、胚および幼生の培養および研究に使用することができ、マイクロ流体チャネルを、ウェルに一つまたは複数のマイクロ流体を供給するために使用することができ、ウェルから一つまたは複数のマイクロ流体を取り除くためにも使用することができる。一例においては、薬物または他の化合物および/もしくは栄養素を、実験において使用するためにウェルへ供給することができる。いくつかの態様においては、ウェルにおいて実施される実験にさもなくば影響を与えるであろう生物学的廃棄物、代謝産物、および/または細菌を、マイクロ流体出口チャネルによってウェルから取り除くことができる。
【0013】
本発明の態様によるバイオチップは、改善された化学的実験をバイオチップのウェルにおいて実施することを可能にし得、より正確かつ信頼できる結果をより低いコストおよびより高い速度で達成することを可能にし得る。
【0014】
複数のウェルの壁は、側方の境界を備えることができ、これは側壁とみなされ、かつ底壁も備えることができ、これはウェルの床とみなされる。壁は、平坦/平面状であっても、湾曲していてもよい。
【0015】
用語「マイクロ流体工学」は小さなスケール(典型的には、ミリメートル未満)へ幾何学的に制限される流体の挙動、精密な制御および操作に関連することを、理解されたい。
【0016】
マイクロ流体入口ポートとウェルの壁における入口開口部との間のマイクロ流体チャネルの長さは、各ウェルまたはウェルのサブセットについて実質的に同じであり得る。すなわち、該ウェルの一部は入口ポートから遠い可能性があるが、入口ポートと各ウェルの開口部との間のチャネルの長さを実質的に同じにすることができる。
【0017】
この様式において、マイクロ流体チャネルによってウェルへもたらされる流体の圧力、およびしたがって流量は、個々のウェルそれぞれについて実質的に同じであり得る。これにより、異なるウェルの内容物の交差汚染の機会を減らすことができ、各ウェルに同じ環境条件を用意できることが保証され得る。本明細書において開示されている一つまたは複数の生物学的マイクロ流体工学チップは、信頼性および再現性がある実験を、複数の異なるウェルにおいて同時に同じ条件下で実施することを可能にし得る。
【0018】
同様に、ウェルの壁における各出口開口部とマイクロ流体出口ポートとの間のマイクロ流体チャネルの長さも、各ウェルについて実質的に同じであり得る。これによって、上記と同じ方法で、流体が各ウェルについて同じ流量でウェルから取り除かれることを保証できる。
【0019】
いくつかの例において、ポートから最も遠いウェルに、入口ポートに最も近いウェルと同時にかつ同じ流量で流体が流入するように、マイクロ流体チャネルを多様な長さとすることができる。各場合において、対応するマイクロ流体チャネルとウェル内の入口/出口開口部それぞれとに、同じ該多様な長さを適用することができる。
【0020】
生物学的マイクロ流体工学チップは、
温度制御入口ポートおよび温度制御出口ポートと、
使用時に温度制御流体とウェルの内容物との間で熱を交換できるような複数のウェルのうちの一つまたは複数に近接する経路に沿って、温度制御入口ポートから温度制御出口ポートまで、温度制御流体を運ぶように構成された、温度制御チャネルと
をさらに備えることができる。
【0021】
そのような内蔵型の温度制御システムを設けることで、バイオチップを実験中に移動させることが可能となり、バイオチップは、別個の温度制御装置のために特定の位置に制約されることがない。
【0022】
使用時にウェルの内容物を加熱または冷却するために熱交換を行うことが可能であり、これによって、安定した一定の温度をすべてのウェルに提供できる。
【0023】
温度制御流体は、温度制御チャネルに沿って移動するときに所望の温度を維持するのに適した水性媒体、油、または任意の他の流体であってもよい。
【0024】
温度制御入口ポート、温度制御出口ポートおよび温度制御チャネルのうち一つまたは複数を、複数のウェルのサブセットに設けることができ、これにより、個々のウェルの温度またはウェルのサブセットの温度を独立して制御することを可能にし得る。
【0025】
いくつかの例では、単一の温度制御出口ポートを、異なる温度制御入口ポートおよび/または温度制御チャネルに関連付けられたウェルによって共有することができる。ウェルの加熱または冷却という目的をすでに果たした各個別のチャネルの温度制御流体が一緒に混合されるように、複数の入口ポートからの温度制御チャネルを出口ポートでの開口の前に合流させることができる。これは、バイオチップに必要なポートの数が少ないため有利であり得、かつ、バイオチップから出るべく各温度制御入口ポートからの温度制御用流体が、混合前にすでにその目的を果たしているため、許容可能と考えられる。
【0026】
複数のウェルが、ウェルのアレイを含むことができる。別個の温度制御入口ポートおよび温度制御チャネルを、ウェルのアレイの各列に設けることができる。この様式において、ウェルの列の内容物の温度を、他の列のウェルの温度とは独立して制御することができる。
【0027】
ウェルの壁における入口開口部の位置は、出口開口部より低くてもよい。これにより、マイクロ流体チャネルを通ってウェルに出入りするマイクロ流体を、該ウェルにおいて効率的に使用することが可能になる。例えば、第1の開口部(入口)を第2の開口部(出口)よりも低くすることで、ウェルにおける流体の所望の深さを維持することができるとともに、マイクロ流体がウェルを効率的に通過することも保証できる。
【0028】
生物学的マイクロチップは、第2のマイクロ流体入口ポートと、各ウェルの壁における第2の入口開口部とをさらに備えることができる。第2の入口開口部を、第2のマイクロ流体入口チャネルによって第2のマイクロ流体入口ポートに流体連通させることができる。この様式において、例えば異なる入口ポートからの異なる流体をウェル内で混合することによって、より高度な実験をウェルにおいて実施することができる。一態様において、異なる化合物を、例えばウェルの異なる側に位置する異なる入口開口部を介して同じウェルへ供給することができる。第1および第2のマイクロ流体入口ポートから流入する異なる流体/化合物の間の勾配効果をウェルにおいて発生させることも可能であり得る。
【0029】
ウェルの壁における第2の入口開口部の位置は、該ウェルの該壁における出口開口部より低くてもよい。これにより、第1および第2の入口開口部で流入する流体が、ウェルを通って出口開口部へ効果的に流出できることを保証する。
【0030】
本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップが、複数の入口および/または出口開口部を備えるウェルならびに複数の入口および/または出口ポートを有し得ることを理解されたい。また、いくつかの態様において、入口ポートおよび入口開口部を出口ポートおよび出口開口部として使用することが可能であり、その逆も可能であることを、理解されたい。
【0031】
2つ以上の入口開口部および2つ以上の出口開口部が存在する場合、一つの開口部が閉鎖された場合にも残りの開口部を通じてそのウェルに流体を流し続けることができるという利点がある。
【0032】
生物学的マイクロ流体工学チップは、ウェルを密封するように働く蓋をさらに備えることができる。蓋は、スライド式であってもよく、自己密封式であってもよく、着脱可能であってもよく、かつ/または加熱されてもよい。蓋は、熱または接着剤を用いてガラスに接着される、プラスチック、ゴム、シリコーンまたは他のそのようなポリマーフィルムからなることが可能である。そのような蓋を、チップ内の専用のマイクロチャネルを通じて真空を適用することによってチップに接着してもよい。そのような蓋を、ウェル内の圧力を制御するために使用することができ、ウェルの上部開口部を異物および気化による流体の喪失から保護するために使用することができ、かつ/またはウェルへ何か(例えば、製品、細胞または細胞群、さらなるマイクロ流体)を挿入することが望まれる場合にウェルの上部開口部を露出させるために、使用することができる。加熱型の蓋は、蓋に形成される結露の可能性を低下させることができ、これにより、さらに正確な画像化操作を蓋を介して実施することを可能にし得る。
【0033】
生物学的マイクロ流体工学チップを、ホルダ内に配置することができる。
【0034】
蓋が所定の位置にあるとき、各ウェルは、他のウェルから密封されている。したがって、ウェルの上部開口部を介したあるウェルから他のウェルへの交差汚染(例えば、細菌または他の病原菌、薬物および他の化合物)のリスクがない。マイクロ流体チャネルを介した2つ以上のウェルの間の交差汚染のリスクは、該チャネルが比較的長く、かつ移動する流体を含むために、軽減/防止されている。したがって、汚染物質があるウェルから他のウェルへと通過するためには流体の流れに逆らって移動する必要があろう。
【0035】
蓋は、本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップの必須の特徴ではないこと、および本明細書において記載されている例が、開放モード(すなわち、蓋が所定の位置にない)または閉鎖モード(すなわち、蓋がウェルの上部開口部を覆っている)の両方で動作できることを、理解されたい。
【0036】
生物学的マイクロ流体工学チップは、例えば数回の同じまたは異なる実験のために、再使用可能であってもよい。いくつかの例においては、マイクロ流体チャネルおよびウェルを洗浄流体で洗い流すことによって、バイオチップを使用後に洗浄することが可能であってもよい。バイオチップの洗浄は、バイオチップを再現性のある水準まで洗浄することができる自動化、または半自動化されたプロセスであってもよい。さらに、チップを、流体、照射または紫外光で殺菌することができる。本発明の態様によるバイオチップが先行技術のバイオチップほど頻繁に交換する必要がないため、このことにより、より経済的なバイオチップを提供できる。
【0037】
基板を、少なくとも部分的にD263ガラスで製造することができる。この種類のガラスは、公知のポリスチレン製品と比べて自己蛍光を軽減することが明らかになっており、それを介して画像化操作が実施される、バイオチップの少なくとも一部に使用することができる。
【0038】
複数のウェルは、端と端をつなげた2つの円錐台形状を縦断面が含む形状を有し、該円錐台形状の細い方の端部が連結され得る。ウェルは、円形または正方形の水平断面を有する「砂時計」形状を有することができる。円錐台形状は、先端が切り取られた円錐またはピラミッド、例えば底部が正方形のピラミッドであってもよい。
【0039】
バイオチップの基板は、上部層および下部層を備えることができ、2つの円錐台形状が、上部層と下部層との間の境界で連結され得る。さらに、第1および/または第2のマイクロ流体チャネルを、基板の上部層と下部層との間に設けることができる。これらの特徴によって、バイオチップの好都合な製造を提供できる。
【0040】
マイクロ流体チャネルのうちの一つまたは複数は、マイクロ流体バルブを備えることができる。マイクロ流体バルブを用いて、ウェルへの流体の流れおよびウェルからの流体の流れを、ウェルにおいて実施すべき実験の要件に応じて制御することができる。例えば、流体を、個々の実験に応じた所望の時期に所望の量にてウェルへ送達することができる。マイクロ流体バルブはさらに、異なるウェル内容物の間の交差汚染の機会を低減するために使用できる。
【0041】
本発明のさらなる局面によれば、
複数のウェルと、
マイクロ流体入口ポートと、
マイクロ流体出口ポートと
を備える生物学的マイクロ流体工学チップを使用する方法であって、
実験に使用するための細胞を、複数のウェルのうちの一つまたは複数へ供給する工程;
流体を一つまたは複数のウェルに流入するようにマイクロ流体入口ポートへ供給する工程;
マイクロ流体出口ポートを介してマイクロ流体を一つまたは複数のウェルから取り除く工程;および
一つまたは複数のウェルにおける実験の結果を得るために、一つまたは複数のウェルの内容物を画像化する工程
を含む方法が提供される。
【0042】
実験の例として、以下を挙げることができる:
・ゼブラフィッシュの胚/幼生に対する、例えば数日間にわたる胚/幼生の発達に関する実験。使用される他の胚としては、他の動物および植物の胚が挙げられる。
・他の態様において、単層の細胞、例えば心臓幹細胞に対する実験を実施することができる。
・細胞およびまたは組織の2次元または3次元での発達を可能にするために、組織および細胞を、ウェルの内側に配置された基質または膜の表面で発達させる。
【0043】
本方法は、一つまたは複数のウェルの内容物の温度を制御するために、生物学的マイクロチップの温度制御入口ポートへ温度制御流体を供給する工程をさらに含むことができる。
【0044】
複数のウェルのうちの一つまたは複数へ細胞を供給する工程は、細胞を一つもしくは複数のウェルの上部開口部へ注入する工程、または、細胞をマイクロ流体チャネルおよびポートを介して導入する工程を含むことができる。
【0045】
次に、本発明の好ましい態様を、添付の図面を参照して、あくまでも非限定的な例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップを示している。
【図2】本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップのウェルの縦断面図を示している。
【図3】本発明の別の態様による生物学的マイクロ流体工学チップを示している。
【図4】図3の生物学的マイクロ流体工学チップのさらなる詳細を示している。
【図5】図3の生物学的マイクロ流体工学チップのさらなる詳細を示している。
【図6】使用時の、本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップを示している。
【図7】本発明によるホルダ内の生物学的マイクロ流体工学チップを示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書に記載される一つまたは複数の態様は、複数のウェル/凹部を有する生物学的マイクロ流体工学チップに関し、ここで該ウェルのそれぞれは、入口マイクロ流体チャネルおよび出口マイクロ流体チャネルに流体連通している。この様式において、経時的に蓄積する可能性がある全ての細菌または生物学的廃棄物を取り除くために、ウェルを通じて流体を注入することができる。また、薬物または栄養素を、多細胞生物の胚、幼生および成体、単層/複合層の組織/器官、細胞または細胞株の培養および調査において使用するために、マイクロ流体チャネルを介してウェルへ注入することができる。代替的または追加的に、薬物または他の化合物を、ウェルの上部開口部を介して各ウェルへ導入することができる。
【0048】
いくつかの態様においては、マイクロ流体入口ポートとウェルへの開口部との間のマイクロ流体入口チャネルが、各ウェルまたはウェルのサブセットについて実質的に同じ長さである。これにより、圧力を一様にすることができ、ウェルの間の流量、各ウェルへの流量、またはウェルのサブセットへの流量を保持することができる。いくつかの例においては、別々のウェルの内容物の間の交差汚染の可能性を低下させるため、これは有益であり得る。各ウェルに、清浄な流体を供給することができる。
【0049】
他の態様においては、マイクロ流体チャネルの長さは、圧力を一様にしかつ入口ポートと一つまたは複数のウェルとの間の流量を保持するために、多様な長さである。マイクロ流体入口チャネルおよびマイクロ流体入口ポートの物理的特性は、流体を同じ圧力および同じ流量で複数のウェルへ供給することを可能にする任意の様式で設計できることを、理解されたい。マイクロ流体入口チャネルおよび/またはマイクロ流体入口ポートの物理的特性の例として、流体の流れに影響を及ぼすことができる長さ、直径、断面形状、および表面の特性を挙げることができる。
【0050】
いくつかの態様においては、マイクロ流体出口チャネルおよびマイクロ流体出口ポートを、ウェルのうちの一つまたは複数から流体を取り除くために、マイクロ流体入口チャネルおよびマイクロ流体入口ポートと同様の方法で設けることができる。
【0051】
図1は、本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップ(バイオチップ)100を示している。
【0052】
バイオチップ100が、マイクロ流体入口ポート104およびマイクロ流体出口ポート106を有する基板102を備え、マイクロ流体入口ポート104およびマイクロ流体出口ポート106は、基板102の上面110の開口部を画定する。マイクロ流体入口ポート104およびマイクロ流体出口ポート106は、マイクロ流体チャネルの外部環境に対する玄関とみなされうる。複数の凹部/ウェル108が、基板102の上面110から下方へ延びる。
【0053】
図1に示した態様においては、ウェル108の特徴を明瞭に示すことができるよう、2つのウェル108a、108bだけが図示されている。実際には、バイオチップ100が、32個のウェル、96個のウェル、869個のウェル、または必要とされる任意の数のウェルを備えてもよいことを、理解されたい。バイオチップ100の態様の利点は、多数のウェルおよびそれらのウェルに関連付けられたマイクロ流体チャネルを、小さな面積に設けることができる点にある。例えば、本発明の態様によるバイオチップは、従来のマイクロタイタープレートでは96個のウェルしか収容できないと考えられる同じ面積に、869個のウェルを収容することができる。
【0054】
各ウェル108が、ウェル108の側壁への第1の開口部112と、ウェル108の反対側の側壁への第2の開口部114とを有している。第1の開口部112は、入口開口部の例であり、第2の開口部114は、出口開口部の例である。この例では、ウェル108が、正方形の水平断面を有している。他の態様においては、任意の形状の断面を有するウェル108を使用することができ、側壁は、横方向の境界について任意の構成をとることができ、例えば平坦/平面的であってもよくまたは湾曲していてもよい。
【0055】
入口マイクロ流体チャネル/流路116が、マイクロ流体入口ポート104をウェル108の各入口開口部122に接続している。同様に、出口マイクロ流体チャネル118が、マイクロ流体出口ポート106をウェル108の側壁における各出口開口部114に接続している。
【0056】
この例では、ウェル108の側壁における出口開口部114が、第1の開口部112よりも高い(すなわち、ウェル108が延びる上面により近い)。入口および出口開口部112、114のこの構成は、入口開口部112からウェル108に流入した液体を、続いて、ウェル108において停滞を生じることなく出口開口部114を通ってウェル108から流出させるために有利である。開口部112、114の構成は、ウェル108を通る流体の効率的かつ経済的なスループットをもたらすことができる。
【0057】
図2は、本発明の態様によるバイオチップ200のウェル202の側面断面図を示している。
【0058】
バイオチップ200は、基板の第1の層/上部層204と、基板の第2の層/中間層206と、基板の第3の層/下部層218とを備えている。基板を3つの層として構成することで、以下の説明から理解されるとおり、マイクロ流体チャネルを基板の本体内において層間に好都合に配置することが可能になる。
【0059】
この例において、ウェル202は、上方から見たときに円形の水平断面を有しているが、図2に示される構造は、別の断面形状を有するウェル202にも等しく適用可能である。図2に示されているウェル202を、「砂時計」形状の縦断面を有すると考えることができる。
【0060】
ウェル202の上部(すなわち、ウェル202のうちの上部層204を貫いている部位)が、基板の第1の層204の上面214から下方へ延びる。ウェル202の上部は、この例では円錐台の形状であり、ウェルの上部に対応する円錐の先端は、下方を(基板の第1の層204の上面214から遠ざかる方を)向いている。
【0061】
ウェル202は、基板の第2の層206内へ延びる下部を有している。ウェル202の下部の水平断面は、やはり円形である。この例では、ウェル202の底部の形状も円錐台であるが、今度は、ウェル202の下部の円錐台形状に対応する円錐が上方を(基板の第1の層204の上面214の方を)向いている。
【0062】
基板の第1の層204と第2の層206との間の境界におけるウェル202の水平断面は、連続的なウェル202がもたらされるように2つの層204、206それぞれにおいて実質的に同じである。ウェル202の先端と先端をつなげた2つの円錐台形状部分は、ウェル202を全体として考えると、「砂時計」形状の縦断面を提供しているとみなされうることを、理解されたい。
【0063】
砂時計形状を有するウェル202を設けることは、ウェル202の内容物の画像化に関して有利となりうる。例えば、この形状を有するウェル202は、バイオチップ200の上方または下方のどちらからも、基板の不必要な領域204、206を見通すことなく、ウェル202の内容物を観察/分析/測定することを可能にし得る。画像化を、典型的には、顕微鏡によって実施することができ、マイクロ流体工学チップを、顕微鏡観察に合わせた等級のガラス層で製造することができる。第1、第2、および第3の層204、206、218の間の境界は、ウェルの内容物の画像化に影響を与えない。他の態様においては、ウェルが全長にわたって一定の断面形状およびサイズを有するように、ウェルの壁が平坦/平面状である。
【0064】
ウェル202は、マイクロ流体チャネル207に流体連通した第1の開口部208を有している。この例では、マイクロ流体チャネル207は、流体の入口である。開口部208は、ウェル202の下面216に隣接している。
【0065】
さらに、第2の開口部210が、基板の第1および第2の層204、206の間においてウェル202の側壁に設けられている。第2の開口部210は、この例ではマイクロ流体出口チャネルである第2のマイクロ流体チャネル212に流体連通している。使用時、ゼブラフィッシュの胚または幼生などの胚または幼生をウェル202に配置でき、栄養素、薬物または他の化合物を、マイクロ流体入口チャネル207および第1の開口部208からウェル202へ送り込むことができる。あるいは、これらの物質を、ピペットによってウェルの上部開口部を通じて導入することができる。
【0066】
一つまたは複数の流体を、マイクロ流体出口チャネル212へ開いたウェル202の側壁における第2の開口部210を通じてウェル202から取り除くことができる。ウェル202から取り出される流体には、経時的にウェル202内に形成されうる任意の廃棄物が含まれ得、胚/幼生および任意の細菌もしくは他の病原菌によって生成される生成物、または生物学的廃棄物、または薬物もしくは他の化合物、または脱落した組織もしくは基質が含まれ得ることを、理解されたい。
【0067】
図3は、本発明の態様によるバイオチップのさらなる態様を示している。
【0068】
図3のバイオチップ300は、この態様においては32個のウェルからなる4×8のアレイであるウェル/凹部302のアレイを有している。さらに、8個の入口/出口ポート304が、バイオチップ300の一端に4×2のアレイとして設けられている。ポートおよびウェルについて他の構成も可能であることを、理解されたい。入口/出口ポート304から延びるマイクロ流体チャネルは、分かりやすくするために図3には示されていない。入口/出口ポート304から延びる流体チャネル、およびそれらのウェル302との相互作用が、図4および図5にさらに詳しく示されている。図4および図5に別々に図示されているマイクロ流体チャネルが、実際にはすべて図3に示した同じバイオチップ300に存在しているが、分かりやすくするために別々に図示されていることを、理解されたい。この例では、ウェルが、上方から見たときに正方形の断面であるが、他の形状も可能である。
【0069】
図4は、図3のバイオチップ300と、マイクロ流体入口ポート410からウェル302まで延びる、関連付けられたマイクロ流体入口チャネルと、マイクロ流体出口ポート412からウェル302まで延びるマイクロ流体出口チャネルとを示している。
【0070】
マイクロ流体入口ポート410が、ウェル302へもたらされる薬物または培養液の供給源など、任意のマイクロ流体源への接続に適していることを、理解されたい。図4に示されているとおり、マイクロ流体チャネル414は、マイクロ流体入口ポート410からウェル302の各列へ並行に延びる。この例では、ウェルは4×8のアレイとして設けられており、したがってマイクロ流体チャネルの枝路414が4本(各列につき1本)、入口ポート410から延びる。
【0071】
ウェル302の所与の列のためのマイクロ流体チャネル414はそれぞれ、各ウェル302の第1の開口部418に流体連通するようにさらに分岐している。ここでも、このように分岐することによって、マイクロ流体チャネル414は、並行して各ウェル302に流体を供給するとみなされ得る。
【0072】
この例では、マイクロ流体チャネル414が、入口ポート410からウェル302の第1の開口部418それぞれに直接延びるのではなく、各ウェルについて同様の流体の流量を保つために、マイクロ流体入口ポート410と各第1の開口部418との間のチャネル長が各ウェルについて実質的に同じ長さであるように構成されている。これは、マイクロ流体チャネル414の主要な幹線と種々のウェル302の第1の開口部418との間のチャネル長を、異なる長さにすることによって達成される。例えば、マイクロ流体チャネルは、必要とされる総チャネル長を入口ポート410と第1の開口部418との間に設けるために、複数回の折り返しを有する経路をたどることができる。これは、図4に参照番号416として示されている。各ウェルについて実質的に一貫した流体の流れを供給する総チャネル長を入口ポート410と第1の開口部418との間に設けるために、マイクロ流体チャネル414の主要な幹線と第1の開口部418との間の経路長が、入口ポート410から遠いウェル302ほど短くなければならないことを、理解されたい。これは、各ウェルへ流体を供給するときに受ける抵抗が、ポートからのウェルの距離にかかわらず実質的に同じであること、およびしたがって流体は各ウェルへ均等に供給されることを意味し得る。
【0073】
この様式でマイクロ流体チャネル414、416を設けることによって、ウェル302への途上にあるときに流体から受ける物理的特性を、各ウェル302について同じにすることが可能になる。これにより、各ウェル302に対する流体の一貫した圧力が提供され、よって、一貫した流量が提供され、したがってウェル302の内容物がマイクロ流体入口チャネル414、416へ押し戻される機会を低減できる。結果として、これは、個々のウェル302の内容物の間の交差汚染の機会を低減することができる。
【0074】
同じ構造が、マイクロ流体出口ポート412をウェル302の第2の開口部420に接続するマイクロ流体出口チャネル424、422にも適用される。
【0075】
図5は、バイオチップ300のウェル302の内部の温度を制御するために使用されるポートおよびチャネルを示している。この例では、ウェル302は、上方から見たときに正方形の断面であるが、他の形状も可能である。
【0076】
この例では、ウェル302のアレイの各列に一つずつ、4つの温度制御入口ポート510a、510b、510c、510dが存在している。この様式において、各列のウェル302の温度を、独立して制御することができる。バイオチップ300は、単一の温度制御出口ポート512を備えている。他に考えられる構成として、単一の入口および単一の出口温度制御ポートを有する構成が挙げられ、そのような態様においては、バイオチップの全体を、均一温度に維持することができる。
【0077】
各温度制御入口ポート510から、温度制御チャネル506が延びている。温度制御チャネル506は、温度制御流体を、温度入口ポート510に関連付けられた列のウェル302に近接した経路に沿って、入口ポート510から出口ポート512へと運ぶことができる。「近接」とは、ウェル304の内容物と温度制御チャネル506の温度制御流体との間で十分に熱交換が行われる程に温度制御チャネル506がウェル302の近傍に位置することを意味することを、理解されたい。ウェル302の内容物を冷却し、または加熱するために、熱を温度制御流体へ交換でき、または温度制御流体から交換することができる。
【0078】
この例では、温度制御チャネル506が、ウェルの内容物を一様に加熱または冷却するために、ウェル302の正方形の水平断面の4辺のうちの3辺に隣接する経路をたどる。温度制御チャネル506の温度制御流体とウェル302の内容物との間で熱を交換できる限りにおいて、温度制御チャネル506は、ウェル302に関して任意の経路をとってもよいことを、理解されたい。ウェル302が円形の水平断面を有する例において、温度制御チャネルは、円形のウェルの周囲の一部または実質的にすべてを巡ることができる。
【0079】
ウェルの横を通過した後、ウェルの各列に対する温度制御チャネル506はすべてが一緒に合流し、温度制御出口ポート512に流体連通した共通の温度制御戻りチャネル508を形成する。
【0080】
先行技術の製品は、バイオチップ内のウェルについて安定した実験温度を維持するために、外部の加熱モジュールを使用することが公知である。先行技術のシステムにおいては、マイクロタイタープレートが、常に加熱モジュールに取り付けられた状態でなければならず、結果として使用中のプレートの移動が不可能になりうる。したがって、先行技術のマイクロタイタープレートは、ウェルについて一様な温度が必要とされる場合に、ハイスループットスクリーニングのための自動化された処理ロボットシステムにおいて容易に使用することができない。対照的に、本明細書において記載されているバイオチップの態様は、内蔵型の加熱/冷却チャネルを有することができ、したがって温度調節モジュールに固定する必要がなく、ロボットシステム内で自由に移動させることができる。これにより、先行技術のマイクロタイタープレートに比べ、使用の面でよりフレキシブルなバイオチップが得られる。
【0081】
本明細書において記載されている態様を、ゼブラフィッシュの胚/幼生に対する実験をウェル内で実施するために使用することができ、数日間にわたる胚/幼生の発達を、例えば薬物または他の化合物への曝露有りまたは無しでモニタリングすることができる。他の態様においては、単層の細胞に対して、膜、マトリクスまたは他の基層に対して、ウェル内で実験を実施することができる。
【0082】
この態様においては、バイオチップは、基本化合物としてガラスおよび/または(融解)シリカを使用する。これは、96穴マイクロタイタープレートに使用される公知のポリスチレン製品と比べ、自己蛍光を大幅に軽減することができる。ガラスはより安価と思われるが、ガラスとポリスチレンの組み合わせは、コーティング技術が必要であるためにより高価になる可能性がある。さらに、ガラスは、プラスチックと比べ、スクラッチおよび洗浄サイクルの繰り返しに対する耐性がある。
【0083】
この例では、バイオチップの表面はガラスであり、これは、画像化操作において0.1秒以内に標本へ焦点を合わせ直すことを可能にする。対照的に、ポリスチレン表面を有する公知のバイオチップは、バイオチップの比較的粗い表面に起因するドリフト、および、画像化操作の一部として使用される赤外波長の偏向を生じる。これは、先行技術のバイオチップにおける焦点の合わせ直しが、ウェル一つにつき1秒超を要することを意味し得、このことによって、大規模バッチの胚スクリーニングのための時間が対数的に増加する。
【0084】
図6は、ゼブラフィッシュの胚604について実験を実施している、使用時の本発明の態様によるバイオチップ300のウェル602の縦断面図を示している。
【0085】
この例では、胚604は、自身の卵膜606によって囲まれ、胚がウェルにおいて動き回ることがないように低融点アガロース608(処理ロボットによってウェルへ注入される)に埋め込まれている。アガロース608は凝固してゲルとなるが、試料を傷めたり、気体/栄養素の交換を妨げたりすることがなく、胚体外の膜(卵膜606)を通じて試験薬物を注入するために好都合でありうる。ゲル608は、生じうる感染の拡散を抑えることもできる。バイオチップ600の各ウェル602は、並列に走るマイクロ流体入口チャネル610を介して所定の緩衝液を安定してまたは絶えず供給されることで、微生物の交差汚染および隣接ウェルへの薬物漏出のリスクを低減する。加えて、プラスチックまたはガラスであってもよくかつ注入のためにウェルの開口部を露出させるべく引っ込めることができるスライド式の蓋を介して、薬物を、ピペット処理ロボットによって投与することができる。あるいは、蓋は、自己密封式の蓋、例えばゴムもしくはポリマーの栓、積層フィルム、または粘着テープであってもよい。アガロース608の存在は必須ではなく、他の態様においては、胚がウェル内の流体中で自由に位置してもよく、または任意の他の物質内に位置してもよいことを、理解すべきである。
【0086】
本明細書において記載されているバイオチップのいくつかの態様は、バイオチップ基板の上面のウェルの開口部を覆うように構成された蓋を備えることができる。蓋は、バイオチップの一部として一体化されたスライド式の蓋であってもよい。これにより、実験の開始に先立って胚を導入するためにおよび/または実験中に薬物を導入するために、蓋を開放位置まで片側にスライドさせてウェルの開口部を露出させることが可能になる。次いで、蓋を、実験中の保護位置まで再びスライドさせることができる。
【0087】
いくつかの例では、ウェル内の効率的なマイクロ流体の流れを可能にするために、ウェルが気体および/または流体を通さぬように、蓋によって密封することができる。着脱可能な蓋は、実験後の胚の回収も可能にし、バイオチップにおける実験の終了後にさらなる詳細な分析(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、mRNAの抽出など)を実施することができる。蓋の取り外しによって、バイオチップを再使用できるように実験終了後にウェルを好都合に洗浄することも可能であり得る。
【0088】
いくつかの態様においては、蓋で生じる結露の可能性を低減するために、蓋を加熱することが可能である。結露の低減は、使用時に蓋を介して実施されるより正確な画像化操作を可能にし得る。あるいは、蓋は、加熱下で適用されるプラスチックフィルムからなってもよく、または、ウェルの上部開口部と整列させた孔を有する有孔膜と、該膜を覆って適用されるガラスカバーとからなってもよい。蓋がフィルムである場合、蓋は、針をウェルへと通過させた後に自己密封してもよい。蓋は、ウェルの内容物の顕微鏡による分析を可能にするために光学的に透明/透過性であってもよく、鏡面化された上面または下面を有してもよい。
【0089】
図7は、本発明によるホルダに配置されたときの本発明の態様による(図2のような)バイオチップ200のウェル202の縦断面図を示している。ホルダは、例えばねじによって接続されたときにバイオチップを特定の位置に固定することができるいくつかの材料層を備えている。上蓋1は、金属/プラスチックまたは他の材料で製造される。プレート2は、上部シール層3に取り付けることができるガラス板またはポリマーシールである。上部シール層3は、例えばシリコーンで製造される。層4は、下部(シリコーン)シールである。層5は、金属および/またはプラスチックあるいは他の材料で製造することができる下蓋を構成している。点線6の間の角度は、画像化のための下側の視野を示している。点線7は、画像化目的のための層3における穴の位置を示している。点線8の間の角度は、画像化のための上側の視野を示している。本発明のホルダは、この特定の構成に限られるわけではない。
【0090】
次に、本発明の態様による生物学的マイクロ流体工学チップの具体的な実施の詳細を説明する。生物学的マイクロ流体工学チップのこの態様を、D263ガラスから製造することができる。なぜならば、この種類のガラスは、公知のポリスチレン製品と比べて自己蛍光を低下させることが公知であるからである。
【0091】
バイオチップのウェルの断面積は、2〜4mm2である。これは、大幅に大きな、すなわち33.18mm2(表面積(πr2)r=3.25mm;h=10mm)であるウェル断面積を有する公知の96ウェルのマイクロタイタープレートと対照的である。したがって、バイオチップのこの態様は、自動システムにおいて使用される場合の自動化「発見&マーク」の時間を低減することができる。
【0092】
この態様のバイオチップのウェル一つの体積は、8mm3=8μl(2mm×2mm×2mm)である。これは、典型的にはおよそ250〜331mm3(33.18mm2*(7.5mmまたは10mm))である公知の96穴プレートのウェルの体積と対照的である。したがって、バイオチップのこの態様は、化合物の使用におけるコストの削減をもたらすことができ、31〜41%(250/8〜331/8)の削減になると推定される。
【0093】
この例では、バイオチップは、従来のマイクロタイタープレートがプレート1枚につき96個のウェルを保持するであろう同じ面積に、869個のウェルを収容することができる。これは、96穴プレートの表面領域(総面積7823mm2;幅×奥行き72.3mm×108.2mm)が、ウェルおよそ0.012個/mm2であるからである。対照的に、本発明の態様によるバイオチップは、ウェル≧0.11個/mm2(各ウェル+それに関連付けられたマイクロ流体チャネルの表面積は、3mm×3mmである)を収容することができる。
【0094】
本明細書において記載されている態様を、生物学的マイクロ流体工学チップのウェルにおいて実験を実施するために使用することができる。胚などの実験の対象を、ウェルを画定している基板の上部開口部へ挿入することができる。任意に、基板の上部開口部を、上述のように蓋で覆うことができる。
【0095】
本明細書において記載されている例は、胚または他の対象をウェル内で固定することができ、その後に対象を、ウェルの壁における開口部まで開いたマイクロ流体チャネルから流入する一つまたは複数の流体に曝露することができる。例として、流体は、対象のための栄養を供給することができる。対象は、マイクロ流体チャネルを通ってウェルへまたはマイクロ流体チャネルを通ってウェルから、移動できなくてもよい。
【0096】
本明細書において記載されている一つまたは複数の生物学的マイクロ流体工学チップのウェルは、対象の成長のための保持チャンバと考えることができ、長期にわたる培養実験/システムに関すると考えることができる。「長期」とは、例えば5日間など、数日程度であると考えることができる。
【0097】
生物学的マイクロ流体工学チップは、マイクロ流体蠕虫ソータへの別の技術分野に存在するとみなされ得、ここで蠕虫は吸引によって閉じたチャンバに捕捉される。本明細書に記載のウェルを有する生物学的マイクロ流体工学チップとは異なる技術的考慮事項が、そのようなマイクロ流体ソータのために必要であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の表面における開口部を画定するマイクロ流体入口ポートと、
該基板の表面における開口部を画定するマイクロ流体出口ポートと、
該基板の上面から延びる複数のウェルであって、各ウェルが一つまたは複数の壁によって境界付けられており、該複数のウェルそれぞれの壁に入口開口部および出口開口部が設けられている、複数のウェルと、
該マイクロ流体入口ポートを該ウェルの該壁における各入口開口部に接続する、該基板内の一つまたは複数のマイクロ流体入口チャネルと、
該ウェルの該壁における各出口開口部を該マイクロ流体出口ポートに接続する、該基板内の一つまたは複数のマイクロ流体出口チャネルと
を備える、生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項2】
前記マイクロ流体入口ポートとウェルの前記壁における入口開口部との間のマイクロ流体チャネルの長さが、各ウェルについて実質的に同じである、請求項1記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項3】
温度制御入口ポートおよび温度制御出口ポートと、
使用時に温度制御流体とウェルの内容物との間で熱を交換できるような前記複数のウェルのうちの一つまたは複数に近接する経路に沿って、該温度制御入口ポートから該温度制御出口ポートまで、該温度制御流体を運ぶように構成された、温度制御チャネルと
をさらに備える、請求項1または2記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項4】
前記温度制御入口ポート、前記温度制御出口ポート、および前記温度制御チャネルのうち一つまたは複数が、前記複数のウェルのサブセットに対して設けられている、請求項3記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項5】
前記複数のウェルがウェルのアレイを含み、別個の温度制御入口ポートおよび温度制御チャネルが、該ウェルのアレイの各列に対して設けられている、請求項3または4記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項6】
前記ウェルそれぞれの壁における前記入口開口部の位置が、前記出口開口部よりも低い、前記請求項のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項7】
第2のマイクロ流体入口ポートと、
前記ウェルの前記壁における第2の入口開口部と
をさらに備え、該第2の入口開口部が、第2のマイクロ流体入口チャネルによって該第2のマイクロ流体入口ポートに流体連通している、前記請求項のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項8】
前記ウェルの前記壁における前記第2の入口開口部の位置が、該ウェルの該壁における前記出口開口部よりも低い、請求項7記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項9】
蓋をさらに備え、該蓋が、スライド式であり、自己密封式であり、着脱可能であり、かつ/または加熱される、前記請求項のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項10】
前記基板が、少なくとも部分的にD263ガラスである、前記請求項のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項11】
前記複数のウェルが、端と端をつなげた2つの円錐台形状を縦断面が含む形状を有し、該円錐台形状の細い方の端部が連結されている、前記請求項のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項12】
前記基板が、上部層および下部層を備え、前記2つの円錐台形状が、該上部層と該下部層との間の境界で連結されている、請求項11記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項13】
前記第1および/または第2のマイクロ流体チャネルが、前記基板の前記上部層と前記下部層との間に設けられている、請求項12記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項14】
前記マイクロ流体チャネルのうちの一つまたは複数がマイクロ流体バルブを備える、前記請求項のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップ。
【請求項15】
実験に使用するための細胞、胚または幼生を、前記複数のウェルのうちの一つまたは複数へ供給する工程;
流体を、該一つまたは複数のウェルに流入するように前記マイクロ流体入口ポートへ供給する工程;
前記マイクロ流体出口ポートを介して、該一つまたは複数のウェルから流体を取り除く工程;および
該一つまたは複数のウェルにおける該実験の結果を得るために、該一つまたは複数のウェルの内容物を画像化する工程
を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の生物学的マイクロ流体工学チップを使用する方法。
【請求項16】
前記複数のウェルのうちの一つまたは複数において前記細胞、胚または幼生を発達させる工程;および
任意で、該細胞、胚または幼生を薬物または他の化合物に曝露する工程
をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が幹細胞である、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
ヒト、動物、微生物または植物の研究またはスクリーニングのためにアッセイが使用される、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
光合成体(例えば、植物細胞、葉緑体)を、前記複数のウェル内で培養する、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記一つまたは複数のウェルの内容物の温度を制御するために、前記生物学的マイクロ流体工学チップの温度制御入口ポートへ温度制御流体を供給する工程をさらに含む、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−529896(P2012−529896A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515387(P2012−515387)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003579
【国際公開番号】WO2010/149292
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511307199)ユニバーシテイト レイデン (1)
【Fターム(参考)】