説明

生物学的処理方法並びに微生物群担持担体の作製方法

【課題】高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮して効率よく実施することのできる生物学的処理方法を確立する。
【解決手段】電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担体への担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集と培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら生物学的処理を行うようにした。また、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極と有機性基質を含むメタン発酵液とを接触させ、担体保持電極の電位を担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御しながらメタン発酵処理を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的処理方法並びに微生物群担持担体の作製方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、メタン発酵処理等に代表される生物学的処理方法、並びに微生物群担持担体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用した物質処理方法や物質生産方法のような生物学的処理方法は、環境負荷が少なく、低コストに実施できる方法として近年注目が集められており、各種研究・開発が進められつつある。
【0003】
その代表的なものとして、生ゴミ等の有機性廃棄物をメタン発酵処理する技術が挙げられる。メタン発酵処理とは、有機性廃棄物を発酵液に投入し、嫌気性条件下でメタン生成菌等により発酵処理して有機性廃棄物をメタンガス等のバイオガスに分解する方法である。メタン発酵処理は、有機性廃棄物を大幅に減容できることから、近年の埋め立て処分地の逼迫の問題を解決することができ、しかもメタンガスをエネルギーとして回収できる極めて有益性の高い技術として注目されている。
【0004】
そこで、近年、メタン発酵処理に関する技術が各種提案されている。例えば、特許文献1では、生ごみ等の有機性廃棄物をメタン発酵法で効率的に処理するシステムとして、有機性廃棄物をペースト状に粉砕して、50〜60℃で大きな活性を示す高温メタン菌で処理するシステムが開示されている。具体的には、高温メタン菌が、36〜38℃の中温で活性が大きくなる中温菌に比べて2〜3倍の活性を持っていることを利用し、高温メタン菌でメタン発酵を行うことで分解速度の向上と消化率の向上を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−137730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、微生物を利用して物質を変換(分解、酸化、還元等)により処理する場合、高負荷条件、例えば微生物により処理される被処理物の濃度が一定値以上の高濃度になると、微生物の機能が低下し、処理能力が低下してしまうことが知られている。メタン発酵処理においてもこのことは例外ではなく、有機物負荷速度や水理学的滞留時間が高い高負荷条件下では、メタン発酵槽の酸敗等が生じて、メタン発酵処理能が著しく低下する場合がある。このような状況に陥ると、メタン発酵槽を再生する必要が生じ、メタン発酵処理が滞ることになる。そこで、高負荷条件下においても処理能力を低下させることなく、連続して処理を行うことのできる方法の確立が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる要望に鑑みてなされたものであって、高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮して効率よく実施することのできる生物学的処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮する微生物担持担体を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意検討を行ったところ、有機性廃棄物を発酵液に投入してメタン発酵を行うメタン発酵方法において、板状の炭素電極の片面に炭素繊維を備えた担体保持電極を有機性廃棄物と共に発酵液に接触させ、担体保持電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8V〜−1.0Vに制御しながらメタン発酵を行うことで、高負荷運転条件下においても優れたメタン発酵処理能力を発揮することを知見するに至った。
【0010】
本願発明者等は、これらの知見から、微生物を利用した物質処理方法や物質生産方法などの生物学的処理全般について、担体保持電極の電位を、その物質の処理や生産に有用な微生物群の至適範囲に制御することで、高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮させて、効率よく実施することができる可能性が導かれることを知見し、本願発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の生物学的処理方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担体への担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集と培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら生物学的処理を行うようにしている。
【0012】
次に、本発明のメタン発酵方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極と有機性基質を含むメタン発酵液とを接触させ、担体保持電極の電位を担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御しながらメタン発酵処理を行うようにしている。
【0013】
ここで、本発明のメタン発酵方法において、担体保持電極を作用電極とし、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、メタン発酵液と電解液とをイオン交換膜を介して接触させ、メタン発酵液に作用電極と参照電極とを接触させ、電解液に対電極を接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御することが好ましい。また、担体保持電極を作用電極とし、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、メタン発酵液と対電極とをイオン交換膜を介して接触させ、メタン発酵液に作用電極と参照電極とを接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御することが好ましい。この場合、担体保持電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8V〜−1.0Vに制御することが好ましい。また、担体は炭素繊維であることが好ましい。
【0014】
次に、本発明の物質処理方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担持対象微生物群として物質変換処理能を有する微生物群を少なくとも含む微生物群集と担持対象微生物群により変換処理される被処理物を含む培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら被処理物を変換処理するようにしている。
【0015】
また、本発明の物質生産方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担持対象微生物群として物質生産処理能を有する微生物群を少なくとも含む微生物群集と担持対象微生物群による生産物の生成源物質を含む培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら物質生産するようにしている。
【0016】
次に、本発明の微生物群担持担体の作製方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担体への担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集と培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御し、担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させるようにしている。
【0017】
また、本発明の微生物群担持担体の作製方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極と有機性基質を含むメタン発酵液とを接触させ、担体保持電極の電位を担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御し、担体にメタン発酵に関与する微生物群を担持させて活性化させるようにしている。
【0018】
また、本発明の微生物群担持担体の作製方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極とメタン生成菌群及びメタン生成菌群の基質となる物質を少なくとも含む培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位に制御し、担体にメタン生成菌群を担持させて活性化させるようにしている。尚、本発明によれば、メタン生成菌群として、水素資化性メタン菌や酢酸資化性メタン菌を担持させて活性化させ得る。したがって、水素資化性メタン菌を担持させて活性化させる場合には、基質として二酸化炭素と水素を培養液に含ませればよく、酢酸資化性メタン菌を担持させて活性化させる場合には、酢酸等の低級脂肪酸(VFA)を培養液に含ませればよい。
【0019】
ここで、請求項10または11に記載の微生物群担持担体の作製方法において、担体保持電極を作用電極とし、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、メタン発酵液または培養液と電解液とをイオン交換膜を介して接触させ、メタン発酵液または培養液に作用電極と参照電極とを接触させ、電解液に対電極を接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御することが好ましい。また、担体保持電極を作用電極とし、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、メタン発酵液または培養液と対電極とをイオン交換膜を介して接触させ、メタン発酵液または培養液に作用電極と参照電極とを接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御することが好ましい。この場合、担体保持電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8V〜−1.0Vに制御することが好ましい。また、担体は炭素繊維であることが好ましい。
【0020】
尚、本明細書における「活性化」とは、基本的には担持対象微生物群自体の機能が高められることを意味しているが、これに加えて、担持対象微生物が増殖することにより担体に担持された担持対象微生物群全体としての機能が高められる意味も含まれる場合がある。
【0021】
ここで、請求項9に記載の微生物群担持担体の作製方法において、担持対象微生物群が物質変換処理能を有する微生物群であり、培養液に担持対象微生物群により変換処理される被処理物を含ませ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御することが好ましい。また、担持対象微生物群が物質生産能を有する微生物群であり、培養液に担持対象微生物群による生産物の生成源物質を含ませ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の生物学的処理方法によれば、高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮し、目的の処理を効率よく実施することが可能となる。
【0023】
また、本発明のメタン発酵方法によれば、優れたメタン発酵処理能を発揮させることができ、しかもその能力は有機性廃棄物等を大量投入した高負荷条件下においても発揮されるものとなり、長期に亘り連続して効率よくメタン発酵処理を行うことが可能となる。
【0024】
さらに、本発明の物質処理方法によれば、優れた物質処理能を発揮させることができ、しかもその能力は被処理物を大量投入した高負荷条件下においても発揮され得るものとなり、長期に亘り連続して効率よく物質処理を行うことが可能となる。
【0025】
また、本発明の物質生産方法によれば、優れた物質生産能を発揮させることができ、しかもその能力は生成源物質を大量投入した高負荷条件下においても発揮され得るものとなり、長期に亘り連続して効率よく物質生産を行うことが可能となる。
【0026】
さらに、本発明の微生物群担持担体の作製方法によれば、処理の目的に応じた微生物群を担持対象として担体に担持させて活性化させた担体を得ることができる。したがって、この担体を目的の処理に使用することで、優れた処理能力を発揮し、その能力は高負荷条件下においても発揮され得るものとなる。例えば、メタン発酵処理において有用な微生物群を担体に担持させて活性化させた微生物群担持担体を作製することで、優れたメタン発酵処理能を発揮し、その能力は有機性廃棄物等を大量投入した高負荷条件下においても発揮され得るものとなり、長期に亘り連続して効率よくメタン発酵処理を行うことが可能となる。また、メタン生成菌群を担体に担持させて活性化させた微生物群担持担体を作製することで、長期に亘り効率よく連続してメタン生成を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】参考例A−1において使用した実験装置の断面図である。
【図2】参考例A−1におけるメタン発酵槽の運転条件(負荷条件)を示す図である。
【図3】参考例A−1において得られた設定電位とガス生成速度の関係を示す図である。
【図4】参考例A−1において得られた設定電位と化学的酸素要求量(COD)除去速度の関係を示す図である。
【図5】参考例A−1において得られた設定電位と浮遊固形分(SS)除去速度の関係を示す図である。
【図6】参考例A−1において得られた設定電位と低級脂肪酸濃度の関係を示す図である。
【図7】参考例A−2において得られた発酵液画分の全菌の定量PCR結果を示す図である。
【図8】参考例A−2において得られた発酵液画分のメタン生成菌の定量PCR結果を示す図である。
【図9】参考例A−2において得られた担体付着画分の全菌の定量PCR結果を示す図である。
【図10】参考例A−2において得られた担体付着画分のメタン生成菌の定量PCR結果を示す図である。
【図11】参考例A−2において、T−RFLPにより細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【図12】参考例A−2において、設定電位が−0.6Vの場合の炭素板上の細菌群集構造をTAクローニングにより解析した結果を示す図である。
【図13】参考例A−2において、T−RFLPにより古細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【図14】参考例A−2において、設定電位が−0.6Vの場合の炭素板上の古細菌群集構造をTAクローニングにより解析した結果を示す図である。
【図15】参考例A−3において、メタン生成菌のメタン生成活性の電位依存性を示す図である。
【図16】参考例Aー4において、担体の種類等によるガス生成速度の違いについて実験した結果を示す図である。
【図17】参考例A−3において使用した実験装置の断面図である。
【図18】参考例B−1におけるメタン発酵槽の運転条件(負荷条件)を示す図である。
【図19】参考例B−1において得られた設定電位とガス生成速度の関係を示す図である。
【図20】参考例B−1において得られた設定電位と化学的酸素要求量(COD)除去速度の関係を示す図である。
【図21】参考例B−1において得られた設定電位と浮遊固形分(SS)除去速度の関係を示す図である。
【図22】参考例B−1において得られた設定電位と低級脂肪酸濃度の関係を示す図である。
【図23】参考例B−2において得られた発酵液画分の全菌の定量PCR結果を示す図である。
【図24】参考例B−2において得られた発酵液画分のメタン生成菌の定量PCR結果を示す図である。
【図25】参考例B−2において得られた担体付着画分の全菌の定量PCR結果を示す図である。
【図26】参考例B−2において得られた担体付着画分のメタン生成菌の定量PCR結果を示す図である。
【図27】模擬有機性廃棄物のボルタンメトリー測定を行った結果を示す図である。
【図28】参考例B−2において、T−RFLPにより細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【図29】参考例B−2において、T−RFLPにより古細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【図30】第一の実施形態Aにかかる処理装置の一例を示す断面図である。
【図31】第一の実施形態Bにかかる処理装置の一例を示す断面図である。
【図32】第一の実施形態Cにかかる処理装置の一例を示す断面図である。
【図33】第一の実施形態Dにかかる処理装置の一例を示す断面図である。
【図34】第二の実施形態にかかる処理装置の一例を示す断面図である。
【図35】処理装置の他の形態の一例を示す断面図である。
【図36】実施例1におけるメタン発酵槽の運転条件(負荷条件)を示す図である。
【図37】実施例1におけるガス生成速度の経時変化を示す図である。
【図38】実施例1におけるバイオガス中のメタンガス含有率の経時変化を示す図である。
【図39】実施例1におけるメタン発酵液のVFA濃度の経時変化を示す図である。
【図40】実施例1における有機物負荷量に対するCOD除去率を示す図である。
【図41】実施例1における有機物負荷量に対するSS除去率を示す図である。
【図42】実施例2において得られた発酵液画分の全菌の定量PCR結果を示す図である。
【図43】実施例2において得られた担体付着画分の全菌の定量PCR結果を示す図である。
【図44】実施例2において得られた発酵液画分のメタン菌の定量PCR結果を示す図である。
【図45】実施例2において得られた担体付着画分のメタン菌の定量PCR結果を示す図である。
【図46】実施例2において、T−RFLPにより古細菌群集構造を解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
本発明の生物学的処理方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担体への担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集と培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら生物学的処理を行うようにしている。また、本発明の生物学的処理方法を実施することで、担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させることができる。
【0030】
また、本発明の物質処理方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担持対象微生物群として物質変換処理能を有する微生物群を少なくとも含む微生物群集と担持対象微生物群により変換処理される被処理物を含む培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら被処理物を変換処理するようにしている。また、本発明の物質生産方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担持対象微生物群として物質生産処理能を有する微生物群を少なくとも含む微生物群集と担持対象微生物群による生産物の生成源物質を含む培養液とを接触させ、担体保持電極の電位を担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら物質生産するようにしている。そして、本発明の物質処理方法を実施することで、担体に物質変換処理能を有する微生物群を担持させて活性化させることができる。また、本発明の物質生産方法を実施することで、担体に物質生産処理能を有する微生物群を担持させて活性化させることができる。
【0031】
本発明では、被処理物に対し、分解、酸化、還元などの変換処理を行うことのできる微生物群全般、あるいはある生成源物質を利用して物質を生産する能力を有する微生物群全般を担持対象微生物群とすることができる。
【0032】
例えば、SS(固形浮遊物)の分解、COD(化学的酸素要求量)の分解除去、TOC(全有機炭素)の分解除去、テトラクロロエチレン(PCE)、ジクロロエチレン(DCE)及びビニルクロライド(VC)の脱塩素化処理等を行う機能を有する公知あるいは新規の微生物を担持対象微生物群とすることができる。例えば、SS(固形浮遊物)の分解、COD(化学的酸素要求量)の分解除去、TOC(全有機炭素)の分解除去には、メタン発酵槽から取得される汚泥に含まれる微生物群を使用することができる。また、テトラクロロエチレン(PCE)の脱塩素化には例えばDesulfitobacterium, Dehalococcoides, Dehalobacter, Geobacter等、ジクロロエチレン(DCE)及びビニルクロライド(VC)の脱塩素化には例えばDehalococcoides等の微生物群を使用することができる。
【0033】
また、例えば、メタンガス、水素、アミノ酸、各種有機物を生産する機能を有する公知あるいは新規の微生物を担持対象微生物群とすることができる。例えば、水素と二酸化炭素を生成源としてメタンガスを生成する水素資化性メタン生成菌(例えば、Methanothermobacter thermautotrophicus等)、酢酸を生成源としてメタンガスを生成する酢酸資化性メタン生成菌(例えば、Methanosarcina thermophila)、グルコースからエタノールやブタノール、アセトンを生産するClostridium acetobutylicum等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明において用いられる担体保持電極は、微生物反応プロセスに合わせて、電極表面に保持される担体の性質を適宜選択して用いることができる。例えば、親水性の担体に付着し得る微生物を担持させる場合には、親水性の担体を用いればよいし、疎水性の担体に付着し得る微生物を担持させる場合には、疎水性の担体を用いればよい。つまり、電極の性質に依存することなく、担体の性質を適宜選択して微生物反応プロセスに合わせて微生物群を担持させることができる。したがって、例えば、電極の表面に親水性の担体と疎水性の担体の双方を保持させることで、親水性の担体に付着する微生物と疎水性の担体に付着する微生物の双方を担持させることも容易に行うことができる。また、担体は、繊維状や多孔質体、粒状物等の三次元構造として表面積を増大させ、微生物の担持量を増大することのできる形態とすることが好ましい。
【0035】
ここで、メタン発酵処理またはメタンガス生成を実施する場合には、疎水性担体を用いることが好ましい。疎水性担体としては、例えば、炭素繊維を用いることが好適であり、空隙率が25%〜98%の炭素繊維、好適には空隙率が50〜98%の炭素繊維、より好適には空隙率が98%の炭素繊維を使用することができるが、疎水性担体は炭素繊維に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン製やポリプロピレン製の繊維等の担体を用いてもよい。尚、炭素繊維は、高い空隙率の確保が容易であり、例えば炭素繊維不織布は、高い空隙率(98%)を確保し易く、しかも安価に入手でき、好適である。
【0036】
担体保持電極に用いられる電極については、その材質は特に限定されるものではなく、電極上で還元反応が生じ得るあらゆる電極を使用することができる。例えば、炭素電極が好適であるが、これに限定されるものではない。
【0037】
尚、本発明において用いられる担体保持電極は、電極表面の少なくとも一部に担体が備えられていれば良いが、電極表面の片面に備えられていることが好適であり、電極表面の全体に備えられていることが最も好適である。電極表面における担体保持面積を高めれば高める程、微生物を担持させやすくなる。担体を電極表面に備える方法としては、接着剤による接着や、担体を袋状や筒状にして電極に被せて覆う方法などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0038】
ここで、微生物を担持し得る担体は、電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとすることが好ましい。この場合、担体の電極近傍まで十分に微生物を担持させることができると共に、電極近傍の電位の制御性を確保して、担体上の微生物を十分に活性化させることができる。つまり、仮に担体の素材を炭素のような導電性の素材とした場合においても、微生物の担持量を高める上で空隙率等を向上させれば、導電性能は大幅に低下して実質的には電流が流れなくなるが、担体を電極とメタン発酵液との接触を確保し得る通液性を有するものとしておけば、担体の空隙を満たすメタン発酵液の電位が制御されて担体の電位環境を微生物にとって至適な範囲に制御することができる。
【0039】
培養液は、微生物の培養の際に使用される通常の培養液を用いればよく、微生物のエネルギー源となる物質や、pH等の培養環境を制御するための物質等を適宜添加して使用すればよい。尚、培養液には通常、水素イオン、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)などの一価の陽イオンが含まれていることから、培養液自体に通電性があり、担体保持電極自体の電位制御は容易に行うことができる。
【0040】
尚、担体保持電極と担持対象微生物群と培養液との接触方法は特に限定されるものではない。例えば、培養液に担体保持電極と担持対象微生物群とを別々に入れるようにしてもよいし、担持対象微生物群あるいは担持対象微生物群を含む微生物群集を例えばバイオフィルムのような形態で担体に予め担持させておき、これを培養液に入れるようにしてもよい。いずれの場合にも、担体保持電極の担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させることができる。本発明によれば、担持対象微生物群を担持させて活性化させることができるのは勿論のこと、担持対象微生物群を含む微生物群集のうち、担持対象微生物群を主要な構成成分として担持させて活性化させることができる。つまり、複数種の微生物群を含む微生物群集から所望の微生物群を主要な構成成分として担体に担持させて活性化させることができる。
【0041】
担持対象微生物群の至適範囲は、以下に説明する実験方法により導かれる。即ち、被処理物を変換処理する能力を有する微生物群を担持対象とする場合、一定量の被処理物を培養液に添加し、この培養液に担体保持電極と担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集とを接触させて、担体保持電極を各種電位に一定期間制御し、培養液に含まれる被処理物の量が大幅に低減している電位範囲を至適範囲とすることができる。また、生産物を生産する微生物群を担持対象とする場合、一定量の生成源物質を培養液に添加し、この培養液に担体保持電極と担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集とを接触させて、担体保持電極を各種電位に一定期間制御し、生産物の生成量が多い電位範囲を至適範囲とすることができる。
【0042】
本発明によれば、担体保持電極の担体に担持対象微生物群を担持させて活性化することができる。したがって、高負荷条件下で微生物を利用した物質処理方法や物質生産方法を実施しても、優れた処理能力を発揮させて効率よく実施することができる。また、本発明によれば、目的の処理を阻害する微生物群を失活させたり、あるいは除去することで、目的の処理を効率よく実施することも可能となる場合もある。尚、本発明の生物学処理的方法において、高負荷条件下で実施しても、優れた処理能力を発揮させて効率よく実施することができる要因の一つとして、例えば以下のことが考えられる。即ち、本発明の生物学的処理方法により、担体に担持対象微生物群を担持させて活性化させながらも、培養液中の全菌に占める担持対象微生物群の割合を増加させることができ、担体保持電極を培養液とを含めた処理槽全体としての処理能力が向上していることが要因の一つとして考えられる。いずれにしても、本発明の構成をとることによって、優れた処理能力を発揮させることができる。
【0043】
以下、本発明の生物学的処理方法としてメタン発酵処理を実施した場合について具体的に説明する。
【0044】
メタン発酵処理は、有機性廃棄物をメタン発酵して減容化し、その過程でメタンガスを含むバイオガスを生成させて回収するものである。
【0045】
メタン発酵液には、有機性廃棄物等のメタン発酵処理が行われているメタン発酵槽のメタン発酵液やメタン発酵汚泥を添加した培養液を用いることができる。また、メタン発酵を行うための微生物群を人工的に培養した微生物群集を添加した培養液を用いることもできる。
【0046】
メタン発酵液には、有機性基質として有機性廃棄物が投入される。有機性廃棄物としては、畜産廃棄物、生ゴミ、廃水処理汚泥、稲藁や麦藁等の藁類、紙ごみ、各種バイオマス等などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、有機性廃棄物は、その性状により、必要に応じて、破砕や分別などの前処理を行ってからメタン発酵処理に供される。
【0047】
担体保持電極としては、上記の通り、電極、例えば炭素板の表面の少なくとも一部に疎水性の担体、例えば炭素繊維が備えられたものがメタン発酵液に浸される。
【0048】
担体保持電極の電位は、担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御する。尚、担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位は、メタン発酵液が一般的に銀・塩化銀電極電位基準で−0.5V程度であることから、−0.6Vを含んで−0.6Vよりもマイナス側に大きくすれば、担体保持電極にて還元反応は生じ得るが、マイナス側に大きくし過ぎると水の電気分解が激しく生じてメタン発酵が停止する虞があると共に、メタン発酵から水素発酵への移行が生じる虞もあるので、それよりも小さな電位とすることが好適である。具体的には−1.0Vを含んで−1.0Vよりもマイナス側に大きくすると、メタン発酵から水素発酵への移行が生じる可能性があるので、−1.0Vよりも絶対値基準で小さくすることが好適である。因みに、−1.2V程度であれば水の電気分解が激しく生じることはない。尚、後述するイオン交換膜を備えた形態の場合には、−1.0Vよりもマイナス側に大きくしても水素発酵への移行は生じないので、−1.0Vよりもマイナス側に大きくしてもよい。このように担体保持電極の電位を制御することにより、メタン発酵処理に関与する微生物群が担体保持電極の担体に担持されて活性化し、メタン発酵処理の一連の微生物反応である、SS分解処理、COD分解除去処理、低級脂肪酸分解処理及びメタン生成が効率よく進行する。また、本願発明者等の実験によれば、有機物負荷量を徐々に増加させながら電位を上記値に44日間制御し続けることで、最終的に有機物負荷量を27.8gCOD/l/日としても、メタン生成が問題なく進行することが確認され、特に、設定電位を−1.0Vとした場合については、有機物負荷量を徐々に増加させながら電位を54日間制御し続けることで、最終的に有機物負荷量を32.7gCOD/l/日としてメタン発酵を行っても、メタン生成が問題なく進行することが確認された。このことから、設定電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8V〜−1.0Vまたは+0.3V、好適には−1.0Vに制御して、例えば最終的な有機物負荷量が20gCOD/l/日となるように有機物負荷量を徐々に増加させて少なくとも44日間馴養を行うことで、少なくとも有機物負荷量27.8gCOD/l/日という極めて高負荷な運転条件下においてもメタン発酵処理を進行させることができる微生物群担持担体を作製することができる。
【0049】
ここで、本発明のメタン発酵方法は、例えば図30〜図34に示す装置により実施される。以下、第一の実施形態にかかるメタン発酵方法を図30〜図33に基づいて説明し、第二の実施形態にかかるメタン発酵方法を図34に基づいて説明する。
【0050】
<第一の実施形態>
第一の実施形態にかかるメタン発酵方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極を作用電極とし、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、メタン発酵液と電解液とをイオン交換膜を介して接触させ、メタン発酵液と作用電極と参照電極とを接触させ、電解液に対電極を接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御するようにしている。
【0051】
第一の実施形態にかかるメタン発酵方法は、例えば図30〜図33に示す装置1により実施される。即ち、図30〜図33に示す処理装置1は、イオン交換膜6によって仕切られた二つの槽のうちの一方の槽を処理槽7とし、他方の槽を対電極槽8とし、処理槽7にはメタン発酵液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が浸され、対電極槽8には電解液4aが収容されると共に対電極10が浸され、作用電極9と対電極10は定電位設定装置12に結線され、作用電極9の電位を3電極方式で制御するようにしている。
【0052】
このように、3電極方式で作用電極9の電位を制御することで、作用電極9の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)12により、作用電極9と参照電極11との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極9と対電極10との間に電流を流し、基準となる参照電極11には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。
【0053】
但し、作用電極9と対電極10の極間電圧のみで作用電極9の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。また、図30〜図33では、作用電極9の片面にのみ微生物を担持し得る担体9aを備えるようにしているが、片面の一部に備えるようにしてもよいし、両面に備えるようにしても勿論良い。
【0054】
また、図30〜図33に示す処理装置1では、処理槽7内のメタン発酵液4の液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するメタンガスを含むバイオガスを処理槽7の外(処理装置1の外)へ導くガス排出管15aを備え、このガス排出管15aをバルブ15bにより開閉可能としたガス回収手段15により、処理槽7内のバイオガスを回収するようにしている。但し、バイオガスの回収方法は、この方法に限定されない。例えば、ガス回収手段15を備えることなく、処理槽7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからバイオガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、バイオガスの回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、処理槽7からバイオガスが漏れ出すことがない。
【0055】
さらに、図30〜図33に示す処理装置1では、処理槽7内のメタン発酵液4の液面よりも下部に、処理槽7内のメタン発酵液4を処理槽7の外に導くメタン発酵液排出管16aを備え、このメタン発酵液排出管16aをバルブ16bにより開閉可能としたメタン発酵液採取手段16により、処理槽7内からメタン発酵液4を採取するようにしている。但し、メタン発酵液4の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、メタン発酵液採取手段16を備えることなく、処理槽7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺してメタン発酵液4を採取するようにしてもよい。または両端が開口された管の一端の注射器に接続し、他端をメタン発酵液4に浸けて、管を介してメタン発酵液4を採取するようにしてもよい。これらの場合にも、処理槽7からバイオガスが漏れ出すことはない。
【0056】
また、ガス回収手段15やメタン発酵液採取手段16とは別に、メタン発酵液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、処理槽7の外部からメタン発酵液4に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、メタン発酵液に栄養源、中和剤、メタン発酵汚泥等の物質を必要に応じて添加することができる。勿論、有機性基質をこの導入管から供給することもできる。また、環境を嫌気性に維持するためにガスを供給することもできる。但し、メタン発酵液4に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、ガス回収手段15やメタン発酵液採取手段16をメタン発酵液4に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んでメタン発酵液4に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0057】
以下、図30に示す処理装置を用いた場合を第一の実施形態Aとして説明し、図31に示す処理装置を用いた場合を第一の実施形態Bとして説明し、図32に示す処理装置を用いた場合を第一の実施形態Cとして説明し、図33に示す処理装置を用いた場合を第一の実施形態Dとして説明する。
【0058】
(第一の実施形態A)
図30に示す処理装置1は、密閉構造の容器20を処理槽7とし、容器20に収容可能な密閉構造の小容器21を対電極槽8とし、小容器21は少なくとも一部にイオン交換膜6を備えると共にガス(対電極10から発生するガス)を容器20の外に排出するガス排出管22を備えるものとしている。尚、図30に示す処理装置1では、対電極10と定電位設定装置12を結線する配線は、ガス排出管22の中を通過させているが、必ずしもこの構成には限定されず、配線をガス排出管22を通さずに定電位設定装置12と結線するようにしてもよい。
【0059】
したがって、図30に示す処理装置1によれば、処理槽7からバイオガスが漏洩することがない。また、対電極槽8から発生するガスが処理槽7に漏れ出すことがないので、バイオガスに対電極槽8から発生したガスが混入してバイオガスのメタン濃度を低下させたり、対電極槽8から発生したガスがメタン発酵液4に溶け込んでメタン発酵に関与する微生物群の生育や機能に悪影響を及ぼすこともない。さらに、処理槽7を密閉構造としているので、処理槽7を嫌気環境に制御し易い利点もある。
【0060】
また、容器20に小容器21を収容することで、容器20に収容されているメタン発酵液4に小容器21が浸され、小容器21の少なくとも一部に備えられているイオン交換膜6はメタン発酵液4と接触する。換言すれば、メタン発酵液4はイオン交換膜6を介して電解液4aと接触する。
【0061】
処理槽7としての密閉構造の容器20は、対電極槽8としての密閉構造の小容器21を収容可能な大きさの容器であり、形状は特に限定されない。容器の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過性の膜材をヒートシール等により袋状に形成した容器を処理槽7として用いるようにしてもよい。
【0062】
対電極槽8としての密閉構造の小容器21は、処理槽7としての容器20に収容可能な大きさの容器であり、少なくとも一部にイオン交換膜6を備えるものとしている。ここで、小容器21はその全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいが、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成したり、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分は容器20と同様の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えばガス不透過性の膜材により構成し、小容器21からのガス(対電極槽8から発生するガス)が容器20の内部に漏洩しないようにしてもよい。
【0063】
有機性基質は、処理槽7に添加される。
【0064】
対電極槽8に収容される電解液4aは、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を含むものとすればよい。尚、通常、メタン発酵液4にもナトリウムイオンやカリウムイオン等が含まれていることから、電解液4aとしてメタン発酵液4を用いることも可能である。
【0065】
作用電極9及び対電極10としては、例えば炭素板等の導電性材料を適宜使用することができる。対電極10では、作用電極9における酸化還元反応に対して電子の授受を補完する反応が進行する。
【0066】
処理槽7の温度(メタン発酵液4の温度)は、4℃〜100℃未満とすればよいが、好適には40℃〜70℃、より好適には50℃〜60℃、さらに好適には55℃である。
【0067】
本実施形態では、作用電極9の電位を作用電極9にて還元反応が生じ得る電位に制御しながらメタン発酵処理を行う。または、作用電極9の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御しながらメタン発酵処理を行う。この際に、作用電極9の担体9aにメタン発酵に関与する微生物(例えば、水素資化性メタン菌や酢酸資化性メタン菌)等が担持されて活性化する。即ち、微生物群担持担体の作製が行われることになる。作用電極9にて還元反応が生じ得る電位について具体的に説明すると、作用電極9において還元反応を生じさせるために、作用電極9の電位を、作用電極9への電位無印加時のメタン発酵液4の溶液電位(酸化還元電位)よりもマイナス側に大きな電位に制御する。即ち、電位無印加時の作用電極9と参照電極11の間の電位差が、作用電極9への電位無印加時のメタン発酵液4の溶液電位に相当するので、その値よりもマイナス側に大きな電位を作用電極9に印加することで、作用電極9において還元反応を進行させることができる。具体的には、メタン発酵液が一般的に銀・塩化銀電極電位基準で−0.5V程度であることから、作用電極9の電位は−0.6Vを含んで−0.6Vよりもマイナス側に大きくすればよい。一方で、出来るだけ還元反応が強く生じる電位とした方が本発明の効果が得られやすくなると考えられるが、作用電極9の電位をマイナス側に大きくし過ぎると水の電気分解が激しく生じてメタン発酵が停止する虞があると共に、メタン発酵から水素発酵への移行が生じる虞もあるので、それよりも小さな電位とすることが好適である。但し、本実施形態のように、イオン交換膜6を備える場合には、メタン発酵から水素発酵への移行は生じ難い。また、−1.2V程度であれば水の電気分解が激しく生じることはない。したがって、−0.6V〜−1.2とすれば、本発明の効果を得られるものと考えられるが、−0.8V〜−1.0Vとすることが好適であり、−1.0Vとすることがより好適である。
【0068】
本発明の効果は、イオン交換膜6を備えることで得られ易くなる。つまり、本発明の微生物群担持担体からはメタン発酵液への微生物の供給が行われると共に、メタン発酵液には元々メタン発酵に関与する微生物が存在しており、イオン交換膜6を備えることで、メタン発酵液4に存在する微生物を対電極槽8に移動(拡散)させることなく、処理槽7側に留めることができる。したがって、対電極10の酸化反応に伴う微生物からの電子の引き抜きを防ぎながら、作用電極9から微生物へ電子を供給することができるので、本発明の効果をより得られ易くなる。さらには、対電極槽8に電解液を入れておくことで、対電極槽8による電子の引き抜き反応が電解液との間で完結するので、微生物からの電子の引き抜きが確実に防止される。
【0069】
また、イオン交換膜6を備えることで、作用電極9の電位を制御したときに、メタン発酵液4と電解液4aとの間でのイオン電流の流れが許容されるので、メタン発酵液4の電荷バランスを維持しながら、作用電極9の電位を制御し続けることができる。
【0070】
ここで、本発明では、担体保持電極の担体に微生物が十分に付着することから、作用電極9の近傍の溶液電位のみを制御できれば、担体に担持した微生物にとって至適な電位環境に制御することができ、微生物に電子が供給されてメタン発酵に関与する微生物コミュニティーを安定に維持することができる。したがって、溶液電位を制御するために一般的に用いられる酸化還元物質(鉄イオン錯体、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスルホン酸ナトリウムなどのキノン化合物、メチルビオロゲン)のような高価な試薬を一切添加する必要が無い点において極めて優れたものである。
【0071】
(第一の実施形態B)
【0072】
図31に示す処理装置1は、上方が開放されている容器23をイオン交換膜6で仕切ることにより開放された二つの槽が形成され、処理槽7としての一方の槽の上方開放部がガス不透過膜またはガス不透過部材24により塞がれているものとしている。つまり、図31に示す処理装置1は、対電極槽8から発生するガスを処理槽7に漏れ出さないようにする構成以外は、図30と同一の構成としている。したがって、図30に示す処理装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0073】
ガス不透過膜またはガス不透過部材24としては、各種分野で一般に用いられているものを適宜用いることができる。例えば、ガス不透過部材としては、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過膜としては、例えばイオン交換膜6を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0074】
尚、対電極槽8については、開放したままでもよいが、処理槽7と同様に密閉構造とし、対電極槽8において発生するガスを対電極槽8の外に排出するガス排出管を備えるようにしてもよい。この場合には、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収し、場合によっては再利用することが可能となる。
【0075】
(第一の実施形態C)
図32に示す処理装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器25aと25bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてU字型の容器25が形成され、一方の容器25aを密閉構造として処理槽7とし、他方の容器25bを開放して対電極槽8としている。この場合、メタン発酵液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、処理槽7のメタン発酵液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器25自体のU字型構造によって隔てて配置される。そして、一方の容器25aが密閉構造とされていることから、対電極槽8から発生するガスが処理槽7に侵入するのを防ぎながら、処理槽7から発生するバイオガスが処理槽7から漏洩するのを防ぐことができる。したがって、図30に示す処理装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0076】
尚、図32に示す処理装置1における他方の容器25bの開放とは、例えば他方の容器25bの端部を完全に開放した場合は勿論のこと、一方の容器25aと同様に密閉構造としつつ、対電極槽8において発生するガスを対電極槽8の外に排出するガス排出管を備える場合も含むことを意味している。ガス排出管を備える場合には、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収して再利用し易くなる。
【0077】
(第一の実施形態D)
図33に示す処理装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器26aと26bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてH字型の容器26が形成され、一方の容器26aを密閉構造として処理槽7とし、他方の容器26bを開放して対電極槽8としている。この場合にも、メタン発酵液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、処理槽7のメタン発酵液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器26自体のH字型構造によって隔てて配置される。そして、H字型容器26の一方の容器26aが密閉構造とされていることから、処理槽7は密閉構造となる。したがって、対電極槽8から発生するガスが処理槽7に侵入するのを防ぎながら、処理槽7から発生するバイオガスが処理槽7から漏洩するのを防ぐことができる。したがって、図30に示す処理装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0078】
尚、本実施形態における他方の容器26bの開放とは、容器26を完全に開放した場合は勿論のこと、一方の容器26aと同様に密閉構造としつつ、対電極槽8において発生するガスを対電極槽8の外に排出するガス排出管を備える場合も含むことを意味している。ガス排出管を備える場合には、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収して再利用し易くなる。
【0079】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかるメタン発酵方法は、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極を作用電極とし、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、メタン発酵液と対電極とをイオン交換膜を介して接触させ、メタン発酵液に作用電極と参照電極とを接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御するようにしている。つまり、第一の実施形態におけるメタン発酵方法とは、電解液を用いることなく対電極を直接イオン交換膜に接触させている点のみが異なっている。
【0080】
しかしながら、第一の実施形態のように電解液4aを用いずとも、作用電極9と対電極10との間でイオン交換膜6を介してイオン電流は流れる。また、メタン発酵液4中の微生物を対電極10側に移動(拡散)させることなく、処理槽7に留める効果も得られる。したがって、第二の実施形態にかかるメタン発酵方法によれば、第一の実施形態と同様の電位制御条件で、同様の効果を得ることが可能である。
【0081】
第二の実施形態にかかるメタン発酵方法は、例えば図34に示す処理装置により実施される。図34に示す処理装置1は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造の容器5内に作用電極9と参照電極11が配置され、容器5の外側に対電極10が配置され、容器5にメタン発酵液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11がメタン発酵液4に浸され、容器4のイオン交換膜6は容器5にメタン発酵液4が収容されたときに少なくともその一部がイオン交換膜6と接触しうる位置に備えられ、イオン交換膜6のメタン発酵液4の接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。図34に示す処理装置1では、容器5のメタン発酵液4の液面よりも下部に開口部5aが設けられ、開口部5aがイオン交換膜6で塞がれ、容器5の外側のイオン交換膜6の表面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。つまり、図34に示す処理装置1では、容器5全体が処理槽7として機能することとなる。
【0082】
したがって、図34に示す処理装置1によれば、容器5からバイオガスが漏洩することがない。また、対電極10から発生するガスが容器5内に漏れ出すことがないので、バイオガスに対電極10から発生したガスが混入してバイオガスのメタン濃度を低下させたり、対電極10から発生したガスがメタン発酵液4に溶け込んでメタン発酵に関与する微生物群の生育や機能に悪影響を及ぼすこともない。さらに、容器5を密閉構造としているので、容器5内を嫌気環境に制御し易い利点もある。
【0083】
尚、図34に示す処理装置1では、第一の実施形態と同様に、ガス回収手段15、メタン発酵液採取手段16を備えるようにしているが、上記の通り、ガス回収方法、メタン発酵液採取方法は、これらの手段を利用したものには限定されない。また、第一の実施形態と同様、メタン発酵液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0084】
以下、図34に示す処理装置1の詳細について説明する。但し、以下に説明する以外の構成については、第一の実施形態と実質的に同一であり、説明は省略する。
【0085】
容器5は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造としている。容器5の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。尚、図34では、密閉構造の容器5のメタン発酵液4の液面よりも下部に設けられた開口部5aをイオン交換膜6により塞ぐようにしているが、容器5の形態や構造は特に限定されない。例えば容器5全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいし、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成してもよいし、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分はガラス等の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えばメタン発酵液4とメタン発酵液4中の成分(微生物を含む)の双方を透過させることがない膜材により構成してもよい。要は、容器5に収容されるメタン発酵液4が容器5の少なくとも一部を構成するイオン交換膜6と接触しうる構造の容器とすればよい。
【0086】
対電極10は、イオン交換膜6のメタン発酵液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に接触させるようにしている。本実施形態において、対電極10は板状の炭素電極としているが、対電極10の形状と材質はこれに限定されるものではなく、要は、イオン交換膜6との接触が可能な形状であり、且つ作用電極9における酸化還元反応に対して電子の授受を補完する反応を進行させることが可能な材質、つまり、作用電極9において還元反応が生じる際に酸化反応を進行させることが可能な材質の電極とすればよい。また、本実施形態では、対電極10の面積をイオン交換膜6の面積よりも大きなものとしてイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにし、イオン交換膜6と対電極10とを接触させるようにしているが、イオン交換膜6のメタン発酵液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10を接触させれば、イオン交換膜6を介してメタン発酵液4から対電極10にイオンが伝達するので、必ずしもイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにしてイオン交換膜6と対電極10とを接触させずともよい。但し、イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うことで、対電極10をイオン交換膜6の保護材としても機能させることができると共に、メタン発酵液4からのイオンの伝達面が増大する結果として、メタン発酵液4の電位制御性を高めることができる利点があり、好適である。イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆う方法としては、例えば、容器5の開口部5aの周囲に接着剤を塗布して対電極10を接着することにより、開口部5aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよいし、容器5の開口部5aの周囲に接着剤を塗布して対電極10の表面の少なくとも一部に塗布形成されたイオン交換膜6を接着することにより、開口部5aをイオン交換膜6で塞ぎつつ、開口部5aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよい。イオン交換膜6を塗布形成するための薬剤としては、例えばナフィオン分散液が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、対電極10の表面にナフィオン分散液を塗布し、ナフィオン分散液が乾燥する前にイオン交換膜6を貼り付けるようにしてもよい。この場合には、イオン交換膜6の対電極10の表面への接着性と接触性とを十分なものとすることができる。
【0087】
ここで、対電極10は多孔質体とすることが好適である。この場合には、イオン交換膜6と対電極10との接触面で発生したガスを接触面とは反対側の面に通過させやすくなる。尚、対電極10を多孔質体とし、ナフィオン分散液を用いてイオン交換膜6を貼り付けることで、ナフィオン分散液の多孔質体の孔への侵入によりイオン交換膜6と対電極10との接触面積を増大させて電気化学反応をより進行させやすくすることができ、好適である。
【0088】
ここで、上述の第一の実施形態及び第二の実施形態においては、メタン発酵処理が行われるのと同時に、微生物群担持担体の作製も行われる。微生物群担持担体は、引き続きメタン発酵液4に接触させたまま作用電極9として使用し、本発明のメタン発酵処理を行うことが好適である。この場合、作製した微生物群担持担体を取り出すことなく、そのままメタン発酵処理を継続できる。また、メタン発酵液4に生息する微生物の量や分布も電位制御によってメタン発酵に適したものとなっているので、その恩恵を受けながら、メタン発酵処理を行うことができる。勿論、上記により作製した微生物群担持担体を一旦取り出して、別のメタン発酵槽のメタン発酵液に入れてメタン発酵処理を行っても良いし、さらに微生物群担持担体に電位を印加して、メタン発酵処理を行うようにしてもよい。
【0089】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明を実施するための処理装置は、例えば図35に示すように、メタン発酵液4と電解質4aをイオン交換膜6ではなく、イオンや微生物を一切透過させることのない不透過部材40で隔て、あるいは処理槽7と対電極槽8を別の容器で形成し、塩橋41(寒天等にKCl等の飽和電解質溶液を入れたもの)を介してメタン発酵液4と電解質4aを接触(液絡)させるようにしてもよい。この場合にも、メタン発酵液4中の微生物の対電極槽8への移動を防ぐことができるので、対電極10からの電子の引き抜きを防ぐことができ、しかも、塩橋によってイオン電流の流れが許容される。また、メタン発酵液4に含まれる酸化還元物質3についても対電極槽8に透過しないので、メタン発酵液4の溶液電位の制御性も確保される。
【0090】
また、上述の実施形態では、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極を用いるようにしているが、微生物を担持し得る担体を電極表面の一部に備えることなく、電極から離して(即ち、担体を電極に付着させることなく培養液または発酵液に分散させて)本発明の生物学的処理方法またはメタン発酵処理方法を実施するようにしてもよい。この場合にも、電極による溶液電位の制御によって、本発明と同様に、高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮し、目的の処理を効率よく実施することが可能となり得る。
【0091】
さらに、上述の実施形態では、電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極を用いながらも、微生物を担持し得る担体を培養液または発酵液に分散させて本発明の生物学的処理方法またはメタン発酵処理方法を実施するようにしてもよい。このように、微生物を担持し得る担体を培養液中または発酵液中と電極表面の双方に備えることによって、培養液中または発酵液中と電極表面の双方の担体にて微生物を活性化させ、さらなる高負荷条件下においても優れた処理能力を発揮し、目的の処理をさらに効率よく実施することが可能となり得る。
【実施例】
【0092】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0093】
まず、参考例として、微生物を担持し得る担体を保持していない電極を用いた場合の実験結果を以下に示す。
【0094】
(参考例A−1)
1.実験装置及び実験方法
本参考例において使用した実験装置の断面図を図1に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(Duran製)のうちの一方をメタン発酵槽26aとし、他方を対電極槽26bとし、下部開口部において陽イオン交換膜(ナフィオンK)を介して2つのバイアル瓶を接続し、H字型の容器26とした。また、メタン発酵槽26aには排出部51と供給部52を設けた。メタン発酵槽26aには蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極を通した際の密閉製を確保した。また、蓋の上面のシリコーンゴム栓に管33を通し、メタン発酵槽26aの発酵液4の液面の上部の空間(ヘッドスペース)のガスを管33の一端から排出して、管の他端に接続された袋34にガスを回収するようにした。
【0095】
対電極槽26bには、電解液4aを収容すると共に対電極10(2.5cm×7.5cm×0.3cmの板状炭素電極)を収容して電解液4aに浸した。対電極槽26bも蓋をし、蓋の上面にはシリコーンゴム栓を設けて、シリコーンゴム栓にガス排出管22を貫通させた。そして、対電極10と電位制御装置12を結線するための配線31をガス排出管22に通した。ガス排出管22は両端が開口されており、一端を対電極槽26bの内部に、他端を対電極槽26bの外側に配置するようにして、対電極槽26bで発生するガスが対電極槽26bの外側に排出されるようにした。
【0096】
作用電極9(2.5cm×7.5cm×0.3cmの板状炭素電極)は、メタン発酵槽26aに収容して発酵液4に浸し、作用電極9から電位制御装置12への配線はシリコーンゴム栓を通してメタン発酵槽26aの外側に引き出した。参照電極11(銀・塩化銀電極)はメタン発酵槽26aの外側からシリコーンゴム栓に差し込んで、発酵液4と接触させた。作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の電位制御装置(ポテンシオスタット)12に結線して、作用電極9の電位を制御した。
【0097】
メタン発酵槽26aに収容される発酵液4の組成は、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/lとした。また、酸化還元物質としてアントラキノン-2,6-ジスルホン酸(AQDS)を終濃度0.2mMになるように添加し、メタン発酵液4の電位制御性を確保した。電解液4aの組成は、NaCl 5.844 g/lとした。
【0098】
発酵液4には、模擬生ゴミでメタン発酵を行って集積した種汚泥から取得した微生物群集を添加した。また、実験中は発酵液4のpHを7.4〜7.9に維持し、温度は55℃に維持した。また、発酵液4と電解液4aは攪拌子で攪拌し続けた。
【0099】
また、本参考例では、図2に示す負荷(有機物負荷量OLR、水理学的滞留時間HRT)をかけながら運転を行った。尚、メタン発酵槽の運転はフィルアンドドロー方式でおこなった。つまり一定量の発酵液を廃棄し、同量の基質を添加する方式で運転を行った。基質には、ドッグフード(日本ペットフード製)を100g/l(10重量%)、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/l含む模擬生ごみ基質を用いた。
【0100】
作用電極9の電位は、参照電極11である銀・塩化銀電極電位基準で、+0.6V、+0.3V、−0.3V、−0.6Vとして、メタン発酵処理を行った。また、比較実験として、作用電極9への通電を行わずにメタン発酵処理を行った。尚、作用電極9と微生物群集を添加した発酵液4は実験開始数日前から接触させておき、予め作用電極9に若干数の微生物群集を担持させてから実験に供した。
【0101】
尚、メタン発酵液4の電位は−0.5V程度であったことから、作用電極9の電位が+0.6V、+0.3V、−0.3Vの場合には、作用電極9で酸化反応が生じており、−0.6Vでは還元反応が生じていることになる。このことは、−0.6Vでは作用電極9においてカソード電流が流れ、+0.6V、+0.3V、−0.3Vでは作用電極9にアノード電流が流れていることからも確認することができた。
【0102】
2.分析方法
(1)化学分析方法
メタン発酵槽26aから排出されるガスの組成(メタン、水素、二酸化炭素)は、熱伝導率検出器(GC390B、GLサイエンス製)と活性炭充填カラム(GLサイエンス製)を備えたガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0103】
発酵液4の低級脂肪酸濃度分析は、分析方法:液体クロマトグラフィー(GLサイエンス製、装置名GL-7400)により行った。
【0104】
COD(化学的酸素要求量)の分析は、分析方法:Japanese Industrial Standard (JIS) K 0102-20(HACH製、装置名DR800)により行った。
【0105】
SS(浮遊固形分量)の分析は、分析方法:JIS K 0102-14.1(ヤマト製、装置名DN63)により行った。
【0106】
(2)生物学的分析
実験終了後に作用電極9に付着している微生物群とメタン発酵液4に含まれる微生物群の16S rRNA遺伝子のコピー数をリアルタイムPCRを用いて定量分析した。具体的には、作用電極9に付着している微生物群を懸濁させた溶液またはメタン発酵液4を遠心分離処理して微生物群を沈降させ、トリス−EDTA緩衝液 (pH8.0、100mM トリスHCl、40mM EDTA)に懸濁した。DNAはドデシル硫酸ナトリウム及びフェノール−クロロホルム−イソアミルアルコール溶液(25:24:1 v/v)の存在下、微生物群から繰り返しビーズを衝突させて抽出し、次いで、抽出DNAをQIAamp DNAミクロキット(キアゲン社製)で精製した。これを、TaqMan リアルタイムPCRに供して微生物群の16S rRNA遺伝子のコピー数を定量分析した。プライマー/プローブセットは以下の通りとした。そして、原核生物に関する定量分析結果にメタン菌に関する定量分析結果を加算して、微生物群全体の16S rRNA遺伝子のコピー数を求めた。尚、実験に使用したプライマー/プローブセットは、以下の論文に記載されているものである(Takai, K., K. Horikoshi (2000). "Rapid detection and quatification of members of archaeal community by quantitative PCR using fluorogenic probes." Appl. Environ. Microbiol. 66(11): 5066-5072.、Sawayama, S., Tsukahara K, Yagishita T (2006). "Phylogenetic description of immobilized methanogenic community using real-time PCR in a fixed-bed anaerobic digester." Bioresour. Technol. 97(1): 69-76.)。
・原核生物用プライマー/プローブセット:
Uni340F/Uni806R/Uni516F
・メタン菌用プライマー/プローブセットセット:
S-P-MArch-0348-S-a-17/S-D-Arch-0786-A-a-20/S-P-MArch-0515-S-a-25
【0107】
また、末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち古細菌を除く細菌の群集構造と、全菌のうち細菌を除く古細菌の群集構造とを解析した。具体的には、細菌のフォーワードプライマーとして5’末端で6-FAMでラベルされたBa27fを用い、リバースプライマーとしてBa907を用い、古細菌のフォーワードプライマーとしてAr109fを用い、リバースプライマーとして5’末端で6-FAMでラベルされたAr912rtを用いて、50μLの反応混合物中でPCRを行い、PCR単位複製配列物を得た。PCR単位複製配列物はWizard SV Gel and PCR Clean-Up System (プロメガ社製)で精製した後、細菌の制限酵素としてMspI(New England BioLabs社製)を用い、古細菌の制限酵素としてTaqI(New England BioLabs社製)を用いて消化した。この精製消化物の内部サイズ標準としてDNAサイズ標準GeneScan-500 ROX Size Standard (Applied Biosystems社製)を用いた。3130xl Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)により、末端断片長多型解析を実行した。尚2%未満の成分については、データから取り除いた。
【0108】
さらに、細菌を除く古細菌について、クローン解析を行った。具体的には、T−RFLPと同様の条件でPCRを行い、PCR産物を精製してpGEM−T Easy ベクター(プロメガ社製)にライゲートさせた。プラスミドはEscherichia coli JM109細胞に組み込み、そのクローンをランダムに選択して、BigDye Terminator cycle sequencing chemistryを用いたABI 3130xl sequencer(アプライドバイオシステムズ)によりシーケンシングを行った。
【0109】
3.実験結果
(1)設定電位とガス生成速度の関係
図3に各種設定電位におけるガス生成速度の経時変化を示す。尚、本実験で得られたガスのうち50〜70%がメタンガスであった。設定電位が+0.6Vの場合には、有機物負荷量11.2gCOD/l/日でガス生成速度が低下した(最終ガス生成速度1000ml/l/日)。また、高負荷条件下(有機物負荷量26.9gCOD/l/日)で運転を続けたところ、設定電位が−0.3Vの場合と通電なしの場合には、ガス生成速度の低下が見られた(最終ガス生成速度は共に2300ml/l/日)。一方、+0.3V及び−0.6Vの場合には、高負荷条件下(有機物負荷量26.9gCOD/l/日)で運転を続けても、ガス生成速度の低下が見られなかった(最終ガス生成速度は共に6800ml/l/日)。
【0110】
(2)設定電位とCOD除去速度の関係
図4に各種設定電位におけるCOD除去速度の経時変化を示す。設定電位が+0.6Vの場合には、COD除去速度の有機物負荷量の増加に伴う上昇は見られなかった(最終COD除去速度3.1gCOD/l/日)。また、設定電位が−0.3V、通電なし、+0.3V、−0.6Vの場合にはそれぞれCOD除去速度の有機物負荷量の増加に伴う上昇が見られ、有機物負荷量が26.9gCOD/l/日に上昇した場合にもCOD除去速度は上昇した。特に、設定電位が−0.6Vと+0.3Vの場合にCOD除去速度の上昇が顕著であった。尚、最終的なCOD除去速度は16.1gCOD/l/日(設定電位−0.6V)、12.0gCOD/l/日(通電なし)、12.6gCOD/l/日(設定電位−0.3V)、15.4gCOD/l/日(設定電位+0.3V)であった。
【0111】
(3)設定電位とSS除去速度の関係
図5に各種設定電位におけるSS除去速度の経時変化を示す。設定電位が+0.3V、−0.6Vの場合には、有機物負荷量の増加に伴い、SS除去速度も上昇する傾向が見られ、有機物負荷量が26.9gCOD/l/日に上昇した場合にもSS除去速度の上昇が見られた。尚、最終的なSS除去速度は、4.8g/l/日(設定電位−0.6V)、5.0g/l/日(設定電位+0.3V)であった。また、設定電位が−0.3V、通電なしの場合には、有機物負荷量の増加に伴うSS除去速度の大幅な上昇は見られなかった。尚、最終的なSS除去速度は、3.3g/l/日(設定電位−0.3V)、3.0g/l/日(通電なし)であった。
【0112】
(4)設定電位と低級脂肪酸濃度の関係
図6に各種設定電位における低級脂肪酸濃度(酢酸、酪酸、プロピオン酸)の経時変化を示す。設定電位が+0.6Vの場合には、20日目あたりで既に低級脂肪酸の蓄積が見られた。また、(有機物負荷量26.9gCOD/l/日)で運転を続けたところ、設定電位が−0.3Vの場合と通電なしの場合には、低級脂肪酸の蓄積が見られた。一方で、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合には、低級脂肪酸の蓄積が見られなかった。この結果から、設定電位を+0.3Vと−0.6Vにした場合には、メタン発酵槽の酸敗を防いで、長期にわたりメタン発酵処理を実施できることが明らかとなった。
【0113】
(参考例A−2)
上記参考例A−1の実験が終了した後、発酵液画分と担体付着画分とを遺伝子学的解析に供し、微生物の付着状態と微生物群の分布状態について検討した。
【0114】
1.全菌とメタン菌の定量PCR結果
参考例A−1の実験終了後、発酵液の画分と担体付着画分とを取得し、全菌及びメタン菌のコピー数を定量PCRにより測定した。結果を図7〜10に示す。図7が発酵液画分の全菌のコピー数であり、図8が発酵液画分のメタン菌のコピー数であり、図9が担体付着画分の全菌のコピー数であり、図10が担体付着画分のメタン菌のコピー数である。この結果、いずれの画分においても、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合には、通電なしの場合と比較してコピー数が大幅に増加することが明らかとなった。また、発酵液画分については、通電なしの場合と設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合でコピー数が2〜5倍程度しか変わらなかったにも関わらず、担体付着画分については、通電なしの場合と設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合でコピー数が400〜900倍も変わることが明らかとなった。このことから、参考例A−1において見られた高負荷条件におけるメタン発酵処理能の維持ないしは向上効果は、担体付着画分が大幅に増加することに起因することが明らかとなった。
【0115】
2.T−RFLPによる細菌群集構造の比較
末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、古細菌を除く細菌の群集構造を比較した。結果を図11に示す。図11に示される結果から、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合に、262bpに該当する微生物の占める割合が大きくなり、特に炭素板においてその傾向が顕著であった。尚、図11中のかっこ内の電位は、発酵液の電位を意味している。つまり、作用電極9(担体)の電位と、発酵液の電位は異なるものである。
【0116】
次に、TAクローニングにより細菌群集の構造を解析した結果を図12に示す。この解析結果から、262bpに該当する微生物が、サーモトガ(Thermotogae)門に属する微生物であることが明らかとなった。したがって、サーモトガ(Thermotogae)門に属する微生物がSS除去及びCOD除去において、有効に作用していることが考えられた。また、このことから、サーモトガ(Thermotogae)門に属する微生物を含む微生物群集を培養液に添加し、培養液と微生物を担持し得る導電性担体、例えば炭素製の担体を接触させて、導電性担体の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.6Vまたは+0.3Vに設定することで、サーモトガ(Thermotogae)門に属する微生物を導電性担体上に担持させて活性化させることができ、SS除去及びCOD除去を高負荷環境下においても効率よく実施できることが明らかとなった。
【0117】
また、図11に示される結果から、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合に、210bpに該当する微生物が検出されなくなったことから、210bpに該当する微生物がSS除去及びCOD除去の阻害要因となっており、設定電位を+0.3Vと−0.6Vとすることで、210bpに該当する微生物を失活または除去して、SS除去及びCOD除去を高負荷環境下においても効率よく実施できる効果が得られる可能性もこの実験から示唆された。
【0118】
さらに、サーモトガ(Thermotogae)門に属する微生物が低級脂肪酸の分解に関与しており、設定電位を+0.3Vと−0.6Vとすることで、低級脂肪酸の分解を促進できる可能性も示唆された。また、210bpに該当する微生物が低級脂肪酸の蓄積を促進しており、設定電位を+0.3Vと−0.6Vとすることで、低級脂肪酸の蓄積を抑えられる可能性も示唆された。
【0119】
そして、さらに解析を進めた結果、設定電位が−0.6Vの場合に炭素板に付着していた95bpのの微生物が蛋白質分解能を有すると考えられるBacteroidetes門の細菌に近縁性を示し、150bpの細菌は生ごみの蛋白質や繊維分を特異的に分解していると考えられているFirmicutes門の細菌に近縁性を示すことが確認された。このことから、設定電位を−0.6Vとすることで、有機性廃棄物のメタン発酵処理に有効な微生物群を担体に付着させる効果があることも明らかとなった。
【0120】
3.T−RFLPによる古細菌群集構造の比較
末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、細菌を除く古細菌の群集構造を比較した。尚、古細菌にはメタン生成菌が含まれている。結果を図13に示す。設定電位が+0.3Vの場合には、92bpに該当する微生物の占める割合が大きくなり、特に炭素板においてその傾向が顕著であったが、186bpに該当する微生物については占有割合が殆ど変わらなかった。設定電位が−0.6Vの場合には、炭素板において186bpに該当する微生物の占有割合の若干の増加と、92bpに該当する微生物の占有割合の若干の増加が見られた。
【0121】
次に、TAクローニングにより古細菌群集の構造を解析した結果を図14に示す。この結果から、設定電位が+0.3Vの場合に占有割合が増加した92bpに該当する微生物が水素資化性メタン生成菌であるMethanothermobacter thermautotrophicusであることが明らかとなった。また、186bpに該当する微生物が酢酸資化性メタン生成菌であるMethanosarcina thermophilaであり、設定電位が+0.3V及び−0.6Vの場合には、その占有割合が通電なしの場合と同等かあるいは若干増加しており、低級脂肪酸である酢酸の蓄積の抑制につながったものと考えられた。つまり、定量PCRの結果から、設定電位が+0.3V及び−0.6Vの場合には、通電なしの場合と比較して担体上でメタン生成菌のコピー数の大幅な増加が確認されていることから、メタン生成菌の増殖に伴って酢酸資化性メタン生成菌もその占有割合を維持しながら増加しており、その結果として低級脂肪酸である酢酸の蓄積の抑制につながったものと考えられた。
【0122】
以上の結果から、酢酸資化性メタン生成菌であるMethanosarcina thermophilaを含む微生物群集を培養液に添加し、培養液と微生物を担持し得る導電性担体、例えば炭素製の担体を接触させて、導電性担体の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.6Vまたは+0.3Vに設定することで、酢酸を生成源としてメタンガスを効率よく生成できることが明らかとなった。
【0123】
また、水素資化性メタン生成菌であるMethanothermobacter thermautotrophicusを含む微生物群集を培養液に添加し、培養液と微生物を担持し得る導電性担体、例えば炭素製の担体を接触させて、導電性担体の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.6Vまたは+0.3Vに設定することで、水素ガスと二酸化炭素を生成源としてメタンガスを効率よく生成できることが明らかとなった。
【0124】
(参考例A−3)
水素資化性メタン生成菌であるMethanothermobacter thermautotrophicusについて、菌体自体の活性を設定電位により高めて、メタン生成速度を増加させることが可能か検討した。
【0125】
図17に示す実験装置を用いて実験を行った。250mL容のガラスバイアル瓶(Duran製)を培養容器5とし、培養液4の液面より下部に開口部を3つ設けた。1つめの開口部5bには参照電極11(東亜DDK製、HS−205C、銀・塩化銀電極)を差し込んで参照電極11と培養液4とを接触させた。2つめの開口部5cは培養液4を採取するために設け、蓋の開閉により培養液4を採取可能とした。3つめの開口部5aはポーラス板状の炭素電極(対電極10)で塞ぎ、この板状の炭素電極の片側表面の下半分には20%ナフィオン分散液(DE2021)を塗布し、さらにナフィオン膜N117で覆うことでイオン交換膜6を形成し、イオン交換膜6によって3つめの開口部5aが塞がれるようにした。対電極10をポーラスなものとした理由は、イオン交換膜6と対電極10との接触面で発生したガスを対電極10の反対側の面に通過しやすくするためである。作用電極9(導電性担体)として板状の炭素電極を培養液4に浸した。作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の電位制御装置(ポテンシオスタット)12に結線して、作用電極9(導電性担体)の電位を厳密に制御可能とした。尚、培養液4は培養容器5の8分目程度まで入れ、液面上部にヘッドスペースを確保した。培養容器5には蓋18をし、蓋18の上面18aに弾性材料であるシリコーンゴムを備えて、注射器の注射針を差し込んで培養容器5内のヘッドスペースからガス状物質を回収可能とし、且つ注射針の差し込みにより生じた孔が注射針を抜いた際に塞がるようにした。
【0126】
培養温度は55℃とした。また、培養液4にAQDS(アントラキノン−2,6−ジスルホン酸)を添加し、AQDS濃度は0.5mMとした。尚、培養液4は攪拌子19で攪拌し、上部のシリコーンゴム栓に注射針を2本刺し、一方の注射針からH/CO=80/20混合ガスを1時間通気することにより、ヘッドスペースをHとCOの混合ガスで置換した。培養液4の組成は以下の通りとした。また、培養液4のpHは7.2とした。
<培養液組成(/L)>KH2PO4 0.3 g, (NH4)2SO4 1.5 g, NaCl 0.6 g, MgSO4・7H2O 0.12 g, CaCl2・2H2O 0.08 g, FeSO4・7H2O 4.0 mg, K2HPO4 0.15 g, Na2CO3 4.0 g, Trace vitamins 10.0 ml, Trace element solution 10.0 ml, L-Cysteine・HCl・H2O 0.5 g, Na2S・9H2O 0.5 g, Resazurin 1.0 mg
<Vitamin solution(/L)>Biotin 2.0 mg, Folic acid 2.0 mg, Pyridoxine-HCl 10.0 mg, Thiamine-HCl・2H2O 5.0 mg, Riboflavine 5.0 mg, Nicotinic acid 5.0 mg, Ca-pantothenate 5.0 mg, p-Aminobenzoic acid 1.0 mg, Vitamin B12 0.01 mg
<Trace element solution(/L)>Na2・EDTA 0.64 g, MgSO4・7H2O 6.2 g, MnSO4・4H2O 0.55 g, NaCl 1.0 g, FeSO4・7H2O 0.1 g, CoCl2・6H2O 0.17 g, CaCl2・2H2O 0.13 g, ZnSO4・7H2O 0.18 g, CuSO4 0.05 g, KAl(SO4)2・12H2O 0.018 g, H3BO3 0.01 g, Na2MoO4・12H2O 0.011 g, NiCl2・6H2O 0.025 g
【0127】
結果を図15に示す。尚、図15の相対活性とは、通電しない条件での菌体当たりのメタン生成量を1とした相対評価値である。即ち、この値を比較することで、メタン生成菌1菌体当たりのメタン生成活性を評価することができる。
【0128】
図15に示される結果から、作用電極9(導電性担体)の設定電位を−0.8Vとすることで、通電しない場合と比較してメタン生成活性が3.5倍向上することが明らかとなった。
【0129】
この実験結果から、導電性担体の電位を−0.6Vまたは+0.3Vに制御して担体に水素資化性メタン生成菌であるMethanothermobacter thermautotrophicusを優占的に担持させた後、導電性担体の電位を−0.8Vに制御することで、極めて高効率にメタンを生成できることが明らかとなった。
【0130】
(参考例A−4)
担体付着画分の菌数よりも発酵液画分の菌数を多くして、ガス生成速度の検証を行った。
【0131】
実験は以下の9条件の担体を発酵液に浸して実施した。尚、発酵液は、模擬生ゴミでメタン発酵を行って集積した種汚泥を脱イオン水で1/3に希釈して200ml使用した。
(a)PE:ポリエチレン製の担体
(b)C:炭素製の担体
(c)PP:ポリプロピレン製の担体
(d)PE:ポリエチレン製の担体にバイオフィルムを付着
(e)C:炭素製の担体にバイオフィルムを付着
(f)PP:ポリプロピレン製の担体にバイオフィルムを付着
(g)担体なし
【0132】
運転条件は、0.95g/l/日とした。尚、(d)〜(f)のバイオフィルムを付着した条件においても、担体担持画分と比較して発酵液画分の方が菌数が多い。
【0133】
結果を図16に示す。(d)〜(f)の条件については、ガス生成速度が徐々に増加する傾向が見られたが、その他の条件については、ガス生成速度の増加が殆ど見られなかった。この結果から、担体に付着している菌は活性が高く、スタートアップに寄与したものと考えられた。
【0134】
以上の結果から、担体付着画分を増加させることで、微生物反応プロセスの進行に極めて有利に作用することが明らかとなった。このことから、本発明のように導電性担体の電位を制御して目的の微生物群を予め担持・集積させ、あるいは処理を行いながら担持・集積させることによって、極めて効率よく微生物反応プロセスを進行させて所望の処理を実施できることが明らかとなった。
【0135】
(参考例B−1)
1.実験装置及び実験方法
参考例A−1と同様の実験装置及び実験方法により、設定電位を変更して実験を実施した。また、参考例A−1において実施された一部の設定電位条件での実験について、再度実験を行い、再現性を確認した。
【0136】
具体的には、作用電極9の電位を、参照電極11である銀・塩化銀電極電位基準で+0.0V、−0.8Vとした条件で新たに実験を実施した。−0.8Vでの実験は3回実施した。
【0137】
また、通電無しの条件と−0.6Vの条件について、参考例A−1で得られた結果の再現性を確認する実験を2回実施した。
【0138】
さらに、−0.6Vの条件と−0.8Vの条件について、有機物負荷量(OLR)を増大させて実験を行った。−0.6Vの条件については、本参考例で行った2回の実験とも、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させた。−0.8Vの条件については、本参考例で行った3回の実験のうちの2回の実験について、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させた。本参考例におけるメタン発酵槽の運転条件(負荷条件)を図18に示す。
【0139】
尚、−0.6V、−0.8Vでは作用電極9上で還元反応が生じていることになる。このことは、−0.6V、−0.8Vでは作用電極9においてカソード電流が流れていることからも確認することができた。
【0140】
2.実験結果
(1)設定電位とガス生成速度の関係
図19に各種設定電位におけるガス生成速度の経時変化を示す。図19において、×は通電無しの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)をそのままプロットしたものである。○は−0.8Vの条件の3回の実験結果の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。□は−0.6Vの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。△は+0.0Vの条件の実験結果である。◇(−0.3V)、◆(+0.3V)及び▲(+0.6V)で示される実験結果は、参考例A−1で得られた結果をそのまま掲載したものである。
【0141】
通電無しの条件と−0.6Vの条件については、参考例A−1と同様の傾向が確認された。また、+0.3V及び−0.6Vの条件に加えて、−0.8Vの条件についても、運転期間中にガス生成速度の低下が見られなかった。特に、−0.6V及び−0.8Vの条件については、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させても、ガス生成速度の低下は見られなかった。
【0142】
(2)設定電位とCOD除去速度の関係
図20に各種設定電位におけるCOD除去速度の経時変化を示す。図20において、×は通電無しの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものであり、標準偏差をエラーバーで示した。○は−0.8Vの条件の3回の実験結果の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。□は−0.6Vの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。△は+0.0Vの条件の実験結果である。◇(−0.3V)、◆(+0.3V)及び▲(+0.6V)で示される実験結果は、参考例A−1で得られた結果をそのまま掲載したものである。
【0143】
通電無しの条件と−0.6Vの条件については、参考例A−1と同様の傾向が確認された。また、+0.3V及び−0.6Vの条件に加えて、−0.8Vの条件についても、有機物負荷量の増加に伴い、COD除去速度が低下することなく上昇し続けた。特に、−0.6V及び−0.8Vの条件については、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させても、COD除去速度は低下することなく上昇し続けた。
【0144】
(3)設定電位とSS除去速度の関係
図21に各種設定電位におけるSS除去速度の経時変化を示す。図21において、×は通電無しの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものであり、標準偏差をエラーバーで示した。○は−0.8Vの条件の3回の実験結果の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。□は−0.6Vの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。△は+0.0Vの条件の実験結果である。◇(−0.3V)及び◆(+0.3V)で示される実験結果は、参考例A−1で得られた結果をそのまま掲載したものである。
【0145】
通電無しの条件と−0.6Vの条件については、参考例A−1と同様の傾向が確認された。また、+0.3V及び−0.6Vの条件に加えて、−0.8Vの条件についても、有機物負荷量の増加に伴い、SS除去速度が低下することなく上昇し続けた。特に、−0.6V及び−0.8Vの条件については、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させても、SS除去速度は低下することなく上昇し続けた。
【0146】
(4)設定電位と低級脂肪酸濃度の関係
図22に各種設定電位における低級脂肪酸濃度の経時変化を示す。図22において、×は通電無しの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものである。○は−0.8Vの条件の3回の実験結果の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。□は−0.6Vの条件の3回の実験結果(参考例A−1における1回の実験結果と本参考例における2回の実験結果)の平均値をプロットしたものであり、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させる前までのデータについては、標準偏差をエラーバーで示した。△は+0.0Vの条件の実験結果である。◇(−0.3V)、◆(+0.3V)及び▲(+0.6V)で示される実験結果は、参考例A−1で得られた結果をそのまま掲載したものである。
【0147】
通電無しの条件と−0.6Vの条件については、参考例A−1と同様の傾向が確認された。また、+0.3V及び−0.6Vの条件に加えて、−0.8Vの条件についても、低級脂肪酸の蓄積が殆ど見られず、特に、−0.6V及び−0.8Vの条件については、有機物負荷量を31.8g/l/日まで増加させても、低級脂肪酸の蓄積は殆ど見られなかった。この結果から、設定電位を+0.3Vと−0.6Vにした場合に加えて、−0.8Vとした場合についても、メタン発酵槽の酸敗を防いで、長期にわたりメタン発酵処理を実施できることが明らかとなった。
【0148】
3.まとめ
以上の結果から、作用電極9の電位を、参照電極11である銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V、−0.6V、−0.8Vに設定することで、高負荷条件下(有機物負荷量26.9gCOD/l/日)においても、ガス生成速度、COD除去速度、SS除去速度を低下させることなく、また、低級脂肪酸を蓄積させることなく、メタン発酵処理の一連の微生物反応プロセスを進行させることが可能であることが明らかとなった。特に、作用電極9の電位を、参照電極11である銀・塩化銀電極電位基準で−0.6V、−0.8Vに設定することで、さらに高負荷条件下(有機物負荷量31.8gCOD/l/日)においても、ガス生成速度、COD除去速度、SS除去速度を低下させることなく、また、低級脂肪酸を蓄積させることなく、メタン発酵処理の一連の微生物反応プロセスを進行させることが可能であることが明らかとなった。
【0149】
また、設定電位を−0.6Vとした場合と−0.8Vとした場合とでは、ほぼ同様の結果が得られたことから、設定電位を−0.6Vと−0.8Vの間の値に設定した場合にもほぼ同様の結果が得られるものと推定された。このことから、設定電位を+0.3Vまたは−0.6V〜−0.8Vとすることで、高負荷条件下においても、メタン発酵処理の一連の微生物反応プロセスを進行させることが可能であることがわかった。そして、設定電位を−0.6V〜−0.8Vとすることで、SS除去速度の向上効果及び低級脂肪酸の蓄積抑制効果が得られやすくなり、メタン発酵処理の一連の微生物反応プロセスを進行させる上で好適であることがわかった。
【0150】
(参考例B−2)
参考例B−1で新たに加えた条件について、参考例A−2と同様、発酵液各分と担体付着各分とを遺伝子学的解析に供し、微生物の付着状態と微生物群の分布状態について検討した。
【0151】
1.全菌とメタン菌の定量PCR結果
参考例B−1の実験終了後、発酵液の画分と担体付着画分とを取得し、全菌及びメタン菌のコピー数を定量PCRにより測定した。結果を図23〜図26に示す。図23が発酵液画分の全菌のコピー数であり、図24が発酵液画分のメタン菌のコピー数であり、図25が担体付着画分の全菌のコピー数であり、図26が担体付着画分のメタン菌のコピー数である。尚、図23〜図26において、設定電位が−0.3V、+0.3V及び−0.6Vの場合については、基本的には参考例A−2で得られた結果をそのまま掲載したが、一部は再測定した結果を掲載した。
【0152】
この結果、担体付着画分については、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合に加えて、−0.8Vの場合についても、通電無しの場合と比較してコピー数が大幅に増加することが明らかとなった。ところが、発酵液画分については、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合とは異なり、−0.8Vの場合にはコピー数が減少することが明らかとなった。
【0153】
このように、設定電位が−0.8Vの場合には、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合とは異なり、発酵液画分についてはコピー数が減少する傾向が見られた。それにも関わらず、参考例B−1では、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合のみならず、−0.8Vの場合にも、高負荷条件においてメタン発酵処理能の維持ないしは向上効果が確認された。このことから、高負荷条件におけるメタン発酵処理能の維持ないしは向上効果には、担体付着画分が大きく寄与していることが明らかとなった。即ち、担体付着画分のコピー数の増加によって、高負荷条件におけるメタン発酵処理能の維持ないしは向上効果が確実に得られることが明らかとなった。
【0154】
以上の結果から、設定電位を+0.3Vまたは−0.6Vとした場合に加えて、−0.8Vとした場合にも、担体付着画分を増加できることが明らかとなった。また、設定電位を−0.6Vとした場合よりも−0.8Vとした場合の方が担体付着画分が増加したことから、設定電圧を−0.6Vを含んで−0.6Vよりもマイナス側に大きくすれば、担体付着画分の増加効果が得られるものと考えられた。特に、設定電位を−0.6Vとした場合よりも−0.8Vとした場合の方がメタン菌の担体付着画分が大幅に増加していることに鑑みれば、設定電圧を−0.6Vを含んで−0.6Vよりもマイナス側に大きくすれば、担体付着画分の増加効果が得られ、高負荷条件におけるメタン発酵処理能の維持ないしは向上効果が得られるものと考えられた。ここで、模擬有機性廃棄物のボルタンメトリー測定を行った結果を図27に示す。図27に示されるように、設定電位を−1.0Vよりもマイナス側に大きくすると、水分解が起こることが確認された。つまり、設定電位を−1.0Vよりもマイナス側に大きくすると、作用電極からガスが発生し易くなって、目的外の反応が起こる虞があることがわかった。但し、−1.2V程度であれば、水の電気分解はそれほど激しくは起こらないので、−1.2V程度としても、本発明を実施可能であるが、設定電位は−0.6V〜−1.0Vとするのが好適であり、−0.6V〜−0.8Vとするのがより好適であり、−0.8Vとするのがさらに好適であることがわかった。ここで、設定電位を−0.6Vよりもマイナス側に大きな電位に制御すると、作用電極9上で還元反応が生じることから、設定電位は、作用電極9にて還元反応が生じ得る電位とすることが好適であり、尚かつ水の電気分解が激しく起こることのない電位が好適であることがわかった。
【0155】
2.T−RFLPによる細菌群集構造の比較
末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、古細菌を除く細菌の群集構造を比較した。結果を図28に示す。図28に示される結果から、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合に加えて、−0.8Vの場合においても、262bpに該当する微生物、即ち、サーモトガ(Thermotogae)門に属する微生物の占める割合が大きくなり、特に炭素板においてその傾向が顕著であることが明らかとなった。
【0156】
また、図28に示される結果から、設定電位が+0.3Vと−0.6Vの場合に加えて、−0.8Vの場合においても、210bpに該当する微生物が検出されなくなった。
【0157】
以上の結果から、設定電位を+0.3Vまたは−0.6Vとした場合に加えて、設定電位を−0.8Vとした場合にも古細菌を除く細菌の群集構造を制御できることが明らかとなった。
【0158】
また、設定電位を−0.6Vとした場合と−0.8Vとした場合とでは、古細菌を除く細菌の群集構造が類似していたことから、設定電位を−0.6Vと−0.8Vの間の値とした場合にもほぼ同様の結果が得られることが考えられた。したがって、設定電位を+0.3Vまたは−0.6V〜−0.8Vとすることで、古細菌を除く細菌の群集構造を制御できることがわかった。
【0159】
そして、さらに解析を進めた結果、設定電位が−0.6Vと−0.8Vの場合に炭素板に付着していた95bpのの微生物が蛋白質分解能を有すると考えられるBacteroidetes門の細菌に近縁性を示し、150bpの細菌は生ごみの蛋白質や繊維分を特異的に分解していると考えられているFirmicutes門の細菌に近縁性を示すことが確認された。このことから、設定電位を−0.6V〜−0.8Vとすることで、有機性廃棄物のメタン発酵処理に有効な微生物群を担体に付着させる効果があることも明らかとなった。
【0160】
3.T−RFLPによる古細菌群集構造の比較
末端断片長多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、細菌を除く古細菌の群集構造を比較した。尚、古細菌にはメタン生成菌が含まれている。結果を図29に示す。設定電位を−0.8Vとした場合には、設定電位を−0.6Vとした場合と同様に、炭素板において186bpに該当する酢酸資化性メタン生成菌(Methanosarcina thermophila)の占有割合が増加することが明らかとなった。
【0161】
また、設定電位を−0.6Vとした場合と−0.8Vとした場合の双方で、炭素板において186bpに該当する酢酸資化性メタン生成菌(Methanosarcina thermophila)の占有割合が増加することが明らかとなったことから、設定電位を−0.6Vと−0.8Vの間の値とした場合にもほぼ同様の結果が得られることが考えられた。したがって、設定電位を−0.6V〜−0.8Vとすることで、炭素板上における酢酸資化性メタン生成菌(Methanosarcina thermophila)の占有割合を増加できることがわかった。
【0162】
以上、T−RFLPによる古細菌群集構造の比較結果から、設定電位を+0.3Vまたは−0.6V〜−0.8Vとすることで、古細菌群集構造を制御することができることが明らかとなった。そして、設定電位を+0.3Vとすることで、炭素板上における水素資化性メタン生成菌の占有割合を増加することができ、設定電位を−0.6V〜−0.8Vとすることで、酢酸資化性メタン生成菌の占有割合を増加することができることが明らかとなった。
【0163】
(実施例1)
作用電極9の炭素板の片面に炭素繊維不織布(炭素繊維不織布(タイプ:ピッチ、空隙率:約98%、径:30.0mm、高さ:70.0mm、厚さ:2.4mm)を接着剤(バスコーク:セメダイン社製)で貼り付けて、上記参考例と同様の実験を行った。但し、酸化還元物質であるAQDSはメタン発酵液4には添加しなかった。したがって、メタン発酵液4の溶液電位の制御性は上記参考例よりも劣るものとなっている。また、基質の組成は、ドッグフード(日本ペットフード製)を100g/L、稲藁0.8g/L、KH2PO4 1.135 g/l, K2HPO4 1.740 g/l, NiCl2・6H2O 0.403 mg/l, CoCl2・6H2O 0.484 mg/lとした。
【0164】
運転条件(温度、pH、運転方式)は参考例と同様とした。有機物負荷量と水理学的滞留時間は図36に示す通りとした。
【0165】
設定電位は−0.8V、−1.0Vとした。また、比較のために電位制御を行わない場合(コントロール)についても実験を行った。
【0166】
ガス生成速度の経時変化を図37に示す。コントロールについては、有機物負荷量を27.8gCODcr/L/日とすると、ガス生成速度が低下し始めたのに対し、−0.8Vではこの有機物負荷量においてもガス生成速度が低下することなく、メタン発酵が進行していることが確認された。また、−1.0Vとした場合には、有機物負荷量を32.7gCODcr/L/日としても、高いガス生成速度が得られることが確認された。
【0167】
次に、メタンガス含有率を図38に示す。コントロールについては、有機物負荷量を27.8gCODcr/L/日とすると、メタンガス含有率が大幅に低下した。これに対し、−0.8Vと−1.0Vではこの有機物負荷量においてもメタンガス含有率が低下することなく、−1.0Vについては、有機物負荷量を32.7gCODcr/L/日としてもメタン含有率の低下が見られなかった。
【0168】
次に、VFA(低級脂肪酸)濃度の経時変化を図39に示す。コントロールについては、有機物負荷量を27.8gCODcr/L/日とすると、VFA濃度の大幅な増加が見られた。これに対し、−0.8Vと−1.0Vではこの有機物負荷量においてもVFA濃度の大幅な増加は見られず、−1.0Vについては、有機物負荷量を32.7gCODcr/L/日としてもVFA濃度を低濃度に維持できていることが確認された。
【0169】
次に、COD除去率を図40に示す。コントロールについては、−0.8Vと−1.0Vの場合と比較してCOD除去率が小さい上に、有機物負荷量を27.8gCODcr/L/日とすると、COD除去率が大きく低下する傾向が見られた。これに対し、−0.8Vと−1.0Vではこの有機物負荷量においてもCOD除去率の低下は見られず、−1.0Vについては、有機物負荷量を32.7gCODcr/L/日としてもCOD除去率の低下が見られなかった。
【0170】
次に、SS除去率を図41に示す。コントロールについては、−0.8Vと−1.0Vの場合と比較してSS除去率が小さい上に、有機物負荷量を27.8gCODcr/L/日とすると、SS除去率が低下する傾向が見られた。これに対し、−0.8Vと−1.0Vではこの有機物負荷量においても40%以上のSS除去率が維持できており、−1.0Vについては、有機物負荷量を32.7gCODcr/L/日としても40%以上のSS除去率が維持できていた。
【0171】
以上、電極表面に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えることで、酸化還元物質をメタン発酵液に添加することなく、27.8gCODcr/L/日という高い有機物負荷量、さらには32.7gCODcr/L/日という極めて高い有機物負荷量においても、メタン発酵処理を安定して行うことが可能であることが明らかとなった。つまり、本発明のメタン発酵処理の構成をとることで、高負荷条件下においても、効率よく連続してメタン発酵処理を実施できることが確認できた。また、本実施例では、酸化還元物質が添加されていないことによって、溶液電位の制御性が低いものとなっていたにも関わらず、上記参考例と同等ないしはそれ以上の有機物負荷量においてもメタン発酵処理を安定して行うことができた。このことから、酸化還元物質を添加することなく、効率よく連続してメタン発酵処理を実施できることも明らかとなった。さらには、稲藁のような分解されにくいリグノセルロース系バイオマスを含む有機性基質を効率よく分解処理できることも明らかとなった。
【0172】
(実施例2)
実施例1における、有機物負荷量27.8gCODcr/L/日(54日目)における発酵液画分及び担体付着画分と、有機物負荷量32.7gCODcr/L/日(62日目)における発酵液画分及び担体付着画分(炭素繊維不織布付着画分)とを、参考例A−1の2の(2)と同様の方法で生物学的分析に供し、発酵液及び担体における微生物の存在状況と、微生物群の分布状態について検討した。
【0173】
1.全菌とメタン菌の定量PCR結果
全菌とメタン菌の定量PCR結果を図42〜図45に示す。図42が有機物負荷量27.8gCODcr/L/日における発酵液画分の全菌のコピー数であり、図43が有機物負荷量27.8gCODcr/L/日における担体付着画分の全菌のコピー数であり、図44が有機物負荷量32.7gCODcr/L/日における発酵液画分のメタン菌のコピー数であり、図45が有機物負荷量32.7gCODcr/L/日における担体付着画分のメタン菌のコピー数である。また、全菌とメタン菌の定量PCR結果について纏めた表を表1に示す。
【0174】
【表1】

【0175】
図43及び図45に示されるように、担体付着画分については、全菌及びメタン菌ともに、通電の有無によるコピー数の差はあまり見られなかった。この理由は、担体である炭素繊維不織布はもともと微生物保持効果が高く、電位制御による付着菌数の差異が出にくいことによるものと考えられた。
【0176】
また、図42に示されるように、発酵液画分の全菌のコピー数については、有機物負荷量27.8gCODcr/L/日の場合、通電有り(−0.8V、−1.0V)では、通電無しと比較してコピー数が若干低下する傾向が見られた。有機物負荷量32.7gCODcr/L/日の場合、通電有り(−0.8V、−1.0V)では、通電無しと比較してコピー数が同等かあるいは若干増加する程度であった。
【0177】
また、図44に示されるように、発酵液画分のメタン菌のコピー数については、有機物負荷量27.8gCODcr/L/日の場合、通電有り(−0.8V、−1.0V)では、通電無しと比較してコピー数が増加する傾向が見られた。一方、有機物負荷量32.7gCODcr/L/日の場合、−0.8Vでは通電無しと比較してコピー数が若干増加する傾向が見られたが、−1.0Vでは通電無しと比較してコピー数が若干低下する傾向が見られた。
【0178】
ここで、発酵液画分について、全菌のコピー数に占めるメタン菌のコピー数の割合を比較すると、有機物負荷量27.8gCODcr/L/日の場合には、−0.8Vで約15.7%、−1.0Vで約21.3%となり、通電無しのとき(約8.2%)と比較して、増加する傾向が見られた。一方で、有機物負荷量32.7gCODcr/L/日の場合には、−0.8Vで約10.1%、−1.0Vで約6.3%となり、通電無しのとき(約8.2%)と比較して、殆ど変わらない傾向が見られた。
【0179】
2.T−RFLPによる古細菌群集構造の比較
末端断片多型解析(T−RFLP)により、全菌のうち、細菌を除く古細菌の群集構造を比較した。結果を図46に示す。
【0180】
解析の結果、参考例A−2の3、参考例B−2の3と同様、メタン生成菌に該当する84bp、92bp、186bp、779bpの4つの末端制限断片(T−RFs)が検出され、発酵液画分及び担体付着画分の古細菌の菌叢は、全てメタン生成菌であることが明らかとなった。因みに、84bpは水素資化性メタン生成菌であるMethanoculleus sp.に該当し、92bpは水素資化性メタン生成菌であるMethanothermobacter sp.に該当し、186bpは酢酸資化性メタン生成菌であるMethanosarcina sp.に該当し、779bpは水素資化性メタン生成菌であるMethanobacterium sp.に該当する。
【0181】
3.まとめ
定量PCR及び末端断片多型解析の結果から、作用電極の表面に備えられた炭素繊維にメタン生成菌群が付着していることが確認された。このことから、炭素繊維に付着したメタン生成菌群に電子が供給されて活性化されたことによって、実施例1において通電(−0.8V、−1.0V)した場合にメタン発酵処理能が大きく向上したと考えられる。より詳細には、作用電極の表面に備えられた炭素繊維周辺の電位が設定電位と極めて近い電位に制御されることによって、炭素繊維に付着したメタン生成菌群に電子が供給され易くなり、メタン生成菌群の活性化が促され易くなったと考えられる。
【0182】
また、実施例1では、有機物負荷量27.8gCODcr/L/日として通電(−0.8V、−1.0V)した場合に優れたメタン発酵処理能が確認された。この結果と定量PCRにおいて得られた結果について考察すると、発酵液画分における全菌中に占めるメタン菌の割合の増加が、メタン発酵処理能の向上に寄与している可能性が示唆された。そして、発酵液画分における全菌中に占めるメタン菌の割合の増加の要因の一つとして、担体において活性化されたメタン菌が発酵液に供給されたことが考えられる。
【0183】
尚、電極表面に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた場合においても、上記参考例において優れた効果が得られた電位によって、同様の効果が得られるものと推察される。つまり、設定電位を作用電極にて還元反応が生じ得る電位で尚且つ水の電気分解が激しく生じることのない電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vとしても、担体にメタン菌を付着させて、酸化還元物質を用いることなくメタン発酵処理を効率よく進行させ得るものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と前記担体への担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集と培養液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら生物学的処理を行うことを特徴とする生物学的処理方法。
【請求項2】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極と有機性基質を含むメタン発酵液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御しながらメタン発酵処理を行うことを特徴とするメタン発酵方法。
【請求項3】
前記担体保持電極を作用電極とし、
前記作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、
前記メタン発酵液と電解液とをイオン交換膜を介して接触させ、
前記メタン発酵液に前記作用電極と前記参照電極とを接触させ、
前記電解液に前記対電極を接触させ、
前記作用電極の電位を3電極方式で制御する請求項2に記載のメタン発酵方法。
【請求項4】
前記担体保持電極を作用電極とし、
前記作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、
前記メタン発酵液と前記対電極とをイオン交換膜を介して接触させ、
前記メタン発酵液に前記作用電極と前記参照電極とを接触させ、
前記作用電極の電位を3電極方式で制御する請求項2に記載のメタン発酵方法。
【請求項5】
前記担体保持電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8V〜−1.0Vに制御する請求項3または4に記載のメタン発酵方法。
【請求項6】
前記担体が炭素繊維である請求項2〜5のいずれか1つに記載のメタン発酵方法。
【請求項7】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担持対象微生物群として物質変換処理能を有する微生物群を少なくとも含む微生物群集と前記担持対象微生物群により変換処理される被処理物を含む培養液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら前記被処理物を変換処理することを特徴とする物質処理方法。
【請求項8】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と担持対象微生物群として物質生産処理能を有する微生物群を少なくとも含む微生物群集と前記担持対象微生物群による生産物の生成源物質を含む培養液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担持対象微生物群の至適範囲に制御しながら物質生産することを特徴とする物質生産方法。
【請求項9】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る担体を備えた担体保持電極と前記担体への担持対象微生物群を少なくとも含む微生物群集と培養液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担持対象微生物群の至適範囲に制御し、前記担体に前記担持対象微生物群を担持させて活性化させることを特徴とする微生物群担持担体の作製方法。
【請求項10】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極と有機性基質を含むメタン発酵液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位または銀・塩化銀電極電位基準で+0.3Vに制御し、前記担体にメタン発酵に関与する微生物群を担持させて活性化させることを特徴とする微生物群担持担体の作製方法。
【請求項11】
電極表面の少なくとも一部に微生物を担持し得る疎水性の担体を備えた担体保持電極とメタン生成菌群及び前記メタン生成菌群の基質となる物質を少なくとも含む培養液とを接触させ、前記担体保持電極の電位を前記担体保持電極にて還元反応が生じ得る電位に制御し、前記担体に前記メタン生成菌群を担持させて活性化させることを特徴とする微生物群担持担体の作製方法。
【請求項12】
前記担体保持電極を作用電極とし、
前記作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、
前記メタン発酵液または前記培養液と電解液とをイオン交換膜を介して接触させ、
前記メタン発酵液または前記培養液に前記作用電極と前記参照電極とを接触させ、
前記電解液に前記対電極を接触させ、
前記作用電極の電位を3電極方式で制御する請求項10または11に記載の微生物群担持担体の作製方法。
【請求項13】
前記担体保持電極を作用電極とし、
前記作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、
前記メタン発酵液または前記培養液と前記対電極とをイオン交換膜を介して接触させ、
前記メタン発酵液または前記培養液に前記作用電極と前記参照電極とを接触させ、
前記作用電極の電位を3電極方式で制御する請求項10または11に記載の微生物群担持担体の作製方法。
【請求項14】
前記担体保持電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8V〜−1.0Vに制御する請求項12または13に記載の微生物群担持担体の作製方法。
【請求項15】
前記担体が炭素繊維である請求項10〜14のいずれか1つに記載の微生物群担持担体の作製方法。
【請求項16】
前記担持対象微生物群が物質変換処理能を有する微生物群であり、前記培養液に前記担持対象微生物群により変換処理される被処理物を含ませ、前記担体保持電極の電位を前記担持対象微生物群の至適範囲に制御する請求項9に記載の微生物群担持担体の作製方法。
【請求項17】
前記担持対象微生物群が物質生産能を有する微生物群であり、前記培養液に前記担持対象微生物群による生産物の生成源物質を含ませ、前記担体保持電極の電位を前記担持対象微生物群の至適範囲に制御する請求項9に記載の微生物群担持担体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図46】
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【図11】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図28】
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【図44】
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【図45】
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【公開番号】特開2011−224539(P2011−224539A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241396(P2010−241396)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月25日 社団法人 日本生物工学会発行の「第62回 日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】