説明

生物学的排水処理方法及び生物学的排水処理装置

【課題】膜分離汚泥法における膜の目詰まりを軽減し、長期に渡って安定したろ過を可能とする生物学的排水処理方法及び生物学的排水処理装置を提供する。
【解決手段】排水を汚泥に導入する工程と、汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る工程と、汚泥と処理水とを膜で固液分離する工程と、を含む、生物学的排水処理方法であって、排水又は汚泥にタンパク質吸着剤を添加する工程を更に含む方法、及び、汚泥を保持し、汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る生物反応槽と、汚泥と前記処理水とを固液分離する膜と、を含む、生物学的排水処理装置であって、生物反応槽がタンパク質吸着剤を含む、生物学的排水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的排水処理方法及び生物学的排水処理装置に関する。より詳細には、生物処理による排水処理において、汚泥と処理水の固液分離を行う膜の目詰まりを軽減する生物学的排水処理方法及び生物学的排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、排水処理において、膜分離汚泥法(Membrane Bio Reactor)(以下、場合により「MBR」という。)が非常に着目されている。MBRとは、従来の排水処理で一般的に使われている生物学的排水処理技術と、膜処理技術を組み合わせたものである。この2つを組み合わせることによって、処理水が清澄になり、最終沈殿池が不要になるため装置全体がコンパクトになる等のメリットが得られる。
【0003】
しかしながら、MBRにおいて、運転時間が経過すると膜の目詰まりが進行してろ過水量が低下するという問題がある。
【0004】
膜の目詰まりによって低下した膜性能を回復する方法として、例えば、分子量400以下のポリオール、または分子量400以下のポリオールと他の有機溶媒、酸およびアルカリから選ばれる少なくとも1種の成分とを含む洗浄液を吸着剤と接触させ、膜汚染性物質を吸着除去した洗浄液を選択性透過膜と接触させて、該選択性透過膜に付着した膜汚染性物質を溶解除去することを特徴とする選択性透過膜の洗浄方法が検討されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−159124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、MBRから膜を取り出して洗浄する必要があり、手間がかかる場合があった。また、特許文献1の方法では、膜の目詰まり自体を低減することはできなかった。
【0007】
そこで本発明は、MBRにおける膜の目詰まりを軽減し、長期に渡って安定したろ過を可能とする生物学的排水処理方法及び生物学的排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、実汚泥を用いたろ過試験を行った結果、MBRにおける膜の目詰まりの主な要因の一つがタンパク質であることを明らかにした。本発明は、上記の知見に基づくものであり、排水又は汚泥中のタンパク質を膜処理の手前で吸着除去することによって、膜の目詰まりの要因を取り除き、長期に渡って安定したろ過を可能とするものである。
【0009】
すなわち、本発明は、排水を汚泥に導入する工程と、汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る工程と、汚泥と処理水とを膜で固液分離する工程とを含む、生物学的排水処理方法であって、排水又は汚泥にタンパク質吸着剤を添加する工程を更に含む方法を提供する。
【0010】
上記本発明の生物学的排水処理方法によれば、MBRにおける膜の目詰まりを軽減し、長期に渡って安定したろ過を実現することができる。
【0011】
本発明はまた、上記の生物学的排水処理方法において、破過したタンパク質吸着剤を回収し再生処理する工程と、再生処理したタンパク質吸着剤を排水又は汚泥に再度添加する工程とを更に含む、生物学的排水処理方法を提供する。
【0012】
上記本発明の生物学的排水処理方法によれば、破過したタンパク質吸着剤を再利用することにより、産業廃棄物の量を削減することができ、生物学的排水処理の運用コストも削減することができる。
【0013】
本発明はまた、汚泥を保持し、汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る生物反応槽と、汚泥と処理水とを固液分離する膜とを含む、生物学的排水処理装置であって、生物反応槽がタンパク質吸着剤を含む、生物学的排水処理装置を提供する。
【0014】
上記本発明の生物学的排水処理装置によれば、MBRにおける膜の目詰まりを軽減し、長期に渡って安定したろ過を実現することができる。
【0015】
上記のタンパク質吸着剤は、孔径2〜50nmの細孔を有する多孔質体であることが好ましい。
【0016】
上記のサイズの細孔を有する多孔質体は、タンパク質の吸着性能が高いため、効率よくタンパク質を吸着することができる。
【0017】
上記タンパク質吸着剤は、複数種類の多孔質体の混合物であることが好ましい。
【0018】
異なるサイズの細孔を有する多孔質体を組み合わせることにより、より広範なサイズに分布するタンパク質を効率よく吸着することが容易になる。
【0019】
上記の多孔質体は、活性アルミナ又は多孔質ガラスであることが好ましい。
【0020】
活性アルミナ及び多孔質ガラスは、孔径2〜50nmの細孔を有する多孔質体であり、タンパク質を効率よく吸着することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、MBRにおける膜の目詰まりを軽減し、長期に渡って安定したろ過を可能とする生物学的排水処理方法及び生物学的排水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】MBRの構造を説明する概略図である。
【図2】(a)〜(d)は、生物学的排水処理方法の実施形態を説明する概略図である。
【図3】平膜試験装置の概略図である。
【図4】汚泥中のタンパク質濃度と限界フラックスとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、膜分離汚泥法とは、汚泥と処理水とを膜で固液分離する工程を含む生物学的排水処理方法を意味する。ここで、汚泥は、好気性である場合及び嫌気性である場合を含む。
【0024】
本実施形態の生物学的排水処理方法は、排水を汚泥に導入する工程と、汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る工程と、汚泥と処理水とを膜で固液分離する工程とを含む生物学的排水処理方法であって、排水又は汚泥にタンパク質吸着剤を添加する工程を更に含むものである。
【0025】
(汚泥)
本実施形態の生物学的排水処理方法で使用する汚泥は、好気性のものであっても嫌気性のものであってもよい。排水又は汚泥にタンパク質吸着剤を添加する工程を含むことにより、膜の目詰まりの主な要因の一つである、排水又は汚泥中のタンパク質が吸着除去され、膜の目詰まりを軽減することができる。
【0026】
(MBR)
膜分離汚泥法(MBR)には、槽外型及び浸漬型が存在する。図1aは槽外型MBRの概略図である。槽外型MBR100では、汚泥を含む生物反応槽110の外に膜120が設置される。ラインL110を通して汚泥が膜120に供給される。膜120において、汚泥と処理水とが分離される。処理水はラインL120を通して回収され、汚泥はラインL130を通して生物反応槽110に返送される。
【0027】
浸漬型MBRとは、汚泥を含む生物反応槽に膜を浸漬して、汚泥と処理水を分離する方式である。浸漬型には、さらに一体型と槽別置型が存在する。図1bは浸漬型MBR(一体型)200の概略図である。浸漬型MBR(一体型)200では、汚泥を含む生物反応槽210内に膜220が設置される。膜220において、汚泥と処理水とが分離され、処理水はラインL220を通して回収される。
【0028】
浸漬型MBR(槽別置型)とは、汚泥を含む生物反応槽と膜を設置する膜分離槽とが分離した方式である。図1cは浸漬型MBR(槽別置型)300の概略図である。浸漬型MBR(槽別置型)300では、汚泥を含む生物反応槽310と、膜320が設置された膜分離槽330とが分離している。生物反応槽310からラインL310を通して汚泥が膜分離槽330に供給される。膜320において、汚泥と処理水とが分離される。処理水はラインL320を通して回収され、汚泥はラインL330を通して生物反応槽310に返送される。
【0029】
本実施形態の生物学的排水処理方法は、上記のMBRのうち、いずれのMBRにおいても適用することができる。
【0030】
(膜)
本実施形態の生物学的排水処理方法が対象とする膜は、通常MBRに使用されるものでよく、塩素化ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セラミック等から形成された多孔質膜等が挙げられる。
【0031】
膜の形態には、平膜、中空糸膜、チューブラー膜等が存在するが、いずれの形態であってもよい。平膜とは、平面状又はシート状に成形した膜である。中空糸膜とは、内部が内径3mm程度以下の空洞である糸状の膜である。チューブラー膜とは、内部が内径3〜5mm以上の空洞である管状の膜である。平膜や中空糸膜は浸漬型MBRで使用される場合が多く、チューブラー膜は槽外型MBRで使用されることが多い。
【0032】
(タンパク質吸着剤)
一般的なタンパク質の1つであるアルブミンは、分子量が69kDa程度で、長さは10nm程度であるといわれている。また、下水中の高分子の分子量は数十〜数百kDaのものが多いと考えられている。これらの高分子が全てタンパク質であるとは限らないが、孔径2〜50nmの細孔を有する多孔質体であれば、排水中のタンパク質を効率よく吸着除去できると考えられる。したがって、排水又は汚泥にタンパク質吸着剤を添加することにより、排水又は汚泥中のタンパク質が吸着除去され、MBRにおける膜の目詰まりを軽減し、長期に渡って安定したろ過を実現することができる。
【0033】
タンパク質吸着剤としては、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス等の多孔質体が使用できる。これらのうち、活性炭やシリカゲルは、細孔の孔径が約1〜20nmであるため、サイズの大きなタンパク質を吸着しにくい場合がある。また、活性アルミナは、孔径約1〜100nmの細孔を有しており、細孔の孔径分布が広いため、排水中のタンパク質を効率よく吸着することが可能である。また、多孔質ガラスは、数nm〜約10μmの範囲で細孔の孔径を制御して製造することが可能である。このため、排水中のタンパク質を効率よく吸着できる孔径に製造することが可能である。多孔質体としてはゼオライトも知られている。しかしながら、ゼオライトの細孔の孔径は約0.4〜0.8nmであり、排水中のタンパク質を吸着させる用途には小さすぎる場合がある。これらの多孔質体のなかでも、活性アルミナ又は多孔質ガラスが、タンパク質を吸着させる用途に適している。また、タンパク質吸着剤として、異なるサイズの細孔を有する複数種類の多孔質体の混合物を使用することにより、より広範なサイズに分布するタンパク質を効率よく吸着することもできる。
【0034】
タンパク質吸着剤の形状には特に制限はなく、例えば、直径数mmの球状であってよい。また、タンパク質吸着剤の投入量にも特に制限はない。当業者は、膜の目詰まりを軽減する効果が得られるタンパク質吸着剤の量を適宜設定することができる。タンパク質吸着剤の投入量が少ないと膜の目詰まりを軽減する効果が小さい場合がある。また、タンパク質吸着剤の投入量が多いと、生物学的排水処理の運用コストが高くなる場合がある。
【0035】
また、膜の表面(膜面)にタンパク質吸着剤が衝突することにより、膜に付着したタンパク質等の付着物を物理的に剥離し、膜の目詰まりを軽減する効果も期待できる。
【0036】
(生物学的排水処理方法)
図2(a)は、生物学的排水処理方法の一実施形態を説明する概略図である。本実施形態のMBRは、浸漬型MBR(一体型)である。本実施形態では、好気性汚泥を用いて排水処理を行う。まず、汚泥を保持する曝気槽に排水を導入する。続いて、曝気槽において排水が生物学的に処理されて処理水が生成される。その後、膜分離槽において、汚泥と処理水とを膜で固液分離し、処理水を回収する。本実施形態においては、曝気槽にタンパク質吸着剤を添加する。これにより、曝気槽中の汚泥に含まれるタンパク質が吸着除去され、MBRにおける膜の目詰まりが軽減され、長期に渡る安定したろ過が可能となる。
【0037】
図2(b)は、生物学的排水処理方法の一実施形態を説明する概略図である。本実施形態のMBRは、槽外型MBR又は浸漬型MBR(槽別置型)である。本実施形態では、好気性汚泥を用いて排水処理を行う。まず、汚泥を保持する曝気槽に排水を導入する。続いて、曝気槽において排水が生物学的に処理されて処理水が生成される。その後、曝気槽の汚泥を膜分離槽に供給し、膜分離槽において、汚泥と処理水とを膜で固液分離し、処理水を回収する。膜で分離された汚泥は、曝気槽に返送する。本実施形態においては、曝気槽にタンパク質吸着剤を添加する。曝気槽に添加されたタンパク質吸着剤は、フィルター等を用いて曝気槽から膜分離槽に移動しないようにしてもよいし、汚泥とともに膜分離槽に導入してもよい。これにより、曝気槽中又は膜分離槽中の汚泥に含まれるタンパク質が吸着除去され、MBRにおける膜の目詰まりが軽減され、長期に渡る安定したろ過が可能となる。
【0038】
図2(c)は、生物学的排水処理方法の一実施形態を説明する概略図である。本実施形態のMBRは、槽外型MBR又は浸漬型MBR(槽別置型)である。本実施形態では、好気性汚泥を用いて排水処理を行う。まず、排水を調整槽に導入する。次に、調整槽中の排水を、汚泥を保持する曝気槽に導入する。続いて、曝気槽において排水が生物学的に処理されて処理水が生成される。その後、曝気槽の汚泥を膜分離槽に供給し、膜分離槽において、汚泥と処理水とを膜で固液分離し、処理水を回収する。膜で分離された汚泥は、曝気槽に返送する。本実施形態においては、調整槽にタンパク質吸着剤を添加する。調整槽に添加されたタンパク質吸着剤は、フィルター等を用いて調整槽から曝気槽に移動しないようにしてもよいし、排水とともに曝気槽に導入してもよい。さらに、タンパク質吸着剤を排水とともに曝気槽に導入した場合には、フィルター等を用いて曝気槽から膜分離槽に移動しないようにしてもよいし、汚泥とともに膜分離槽に導入してもよい。これにより、排水又は汚泥に含まれるタンパク質が吸着除去され、MBRにおける膜の目詰まりが軽減され、長期に渡る安定したろ過が可能となる。
【0039】
図2(d)は、生物学的排水処理方法の一実施形態を説明する概略図である。本実施形態のMBRは、浸漬型MBR(一体型)である。本実施形態では、好気性汚泥を用いて排水処理を行う。まず、汚泥を保持する曝気槽に排水を導入する。続いて、曝気槽において排水が生物学的に処理されて処理水が生成される。その後、膜分離槽において、汚泥と処理水とを膜で固液分離し、処理水を回収する。本実施形態においては、曝気槽にタンパク質吸着剤を添加する。これにより、曝気槽中の汚泥に含まれるタンパク質が吸着除去され、MBRにおける膜の目詰まりが軽減され、長期に渡る安定したろ過が可能となる。本実施形態は、破過したタンパク質吸着剤を分離装置で分離して回収し再生処理する工程と、再生処理したタンパク質吸着剤を曝気槽に再度添加する工程とを更に含む。
【0040】
本明細書において、タンパク質吸着剤の破過とは、タンパク質吸着剤にタンパク質が吸着されて、タンパク質吸着剤の細孔が飽和した状態を意味する。
【0041】
タンパク質吸着剤の分離方法としては、篩を用いる分離方法、汚泥とタンパク質吸着剤との比重の違いを用いる分離方法、予めタンパク質吸着剤に磁性を持たせておき、磁気を利用する分離方法等が挙げられる。また、タンパク質吸着剤の再生処理方法としては、高熱で焼く方法、酸又はアルカリで洗浄する方法、タンパク質分解酵素で洗浄する方法、界面活性剤で洗浄する方法等が挙げられる。
【0042】
破過したタンパク質吸着剤を再利用することにより、産業廃棄物の量を削減することができ、生物学的排水処理の運用コストも削減することができる。
【0043】
いずれの実施形態においても、膜よりも前の段階でタンパク質吸着剤を添加することにより、膜に接触するタンパク質の量を低減させ、膜の目詰まりが軽減される。
【0044】
上記の各実施形態の変形例として、嫌気性汚泥を用いる生物学的排水処理方法が挙げられる。嫌気性汚泥を用いる場合には、曝気を行わないため、曝気槽の代わりに嫌気性汚泥を含む生物反応槽が設けられる。その他の点については上記の各実施形態と同様である。
【0045】
また、上記の各実施形態の生物学的排水処理方法は、破過したタンパク質吸着剤を回収して破棄する工程を更に備えていてもよい。
【0046】
(生物学的排水処理装置)
実施形態に係る生物学的排水処理装置は、汚泥を保持し、汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る生物反応槽と、汚泥と処理水とを固液分離する膜とを含み、生物反応槽はタンパク質吸着剤を含む。
【0047】
生物反応槽がタンパク質吸着剤を含むことにより、汚泥中のタンパク質が吸着除去される。これにより、MBRにおける膜の目詰まりが軽減され、長期に渡って安定したろ過を実現することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0049】
平膜試験装置を用いて、汚泥中のタンパク質濃度と限界フラックス(限界透過水量)との関係を検討した。測定には、タンパク質濃度がそれぞれ異なる、好気性及び嫌気性の数種類の汚泥を使用した。
【0050】
(平膜試験装置)
図3は平膜試験装置400の概略図である。平膜420の下部に散気管430を設置し、連続曝気による膜面洗浄を行った。ラインL440を通して圧縮空気をマスフローコントローラ440に供給することで十分な風量を確保した。マスフローコントローラ440からラインL450を通して散気管430に空気を供給した。平膜420とバッフル板との隙間は、8mmとした。ろ過水は、ラインL410を通して回収した。吸引ポンプ450には容量ポンプを用いた。また、平膜と容量ポンプの間に連成圧用の圧力計460を設置して静圧を測定した。水槽410中の汚泥濃度及び水量を一定にするために、ろ過水は、ラインL420を通して全て水槽410に返送した。また、流量測定の際には、ラインをL430に切り替えてメスシリンダーを用いて流量を測定した。
【0051】
(限界フラックス測定)
上記の平膜試験装置を使用して、汚泥中のタンパク質濃度と限界フラックスとの関係を検討した。汚泥中のタンパク質濃度は後述する方法により測定した。
【0052】
限界フラックスの測定は次のようにして行った。上記の平膜試験装置において、一定間隔で容量ポンプの回転数を上げることにより、段階的にフラックスを上げていく運転を行った。これと同時に、膜間差圧を測定し、膜間差圧が上昇し始めた時のフラックスの値を限界フラックスとした。ここで、限界フラックスが低いことは、膜が目詰まりしやすいことを意味する。
【0053】
(汚泥からのタンパク質の抽出)
Frolund(1996)らの方法にしたがって、次のようにして、汚泥からタンパク質を抽出した。
(1)イオン交換樹脂(DOWEX MARATHON C Na−form)をビーカーに取り、緩衝液(2mM NaPO−4mM NaHPO−9mM NaCl−1mM KCl、pH7)を加えてスターラ上で300rpmで撹拌しながら1時間洗浄した。
(2)汚泥100mlを遠心分離し(2000g、15分、4℃)、沈降物と上清とに分けた。
(3)(2)の上清に、上記緩衝液の5倍濃度のものを、上清の1/4容量添加して混合した。
(4)(3)の溶液を200mlビーカーに移し、イオン交換樹脂(以下「CER」という場合がある。)を1g添加した。
(5)(4)の溶液をスターラ上で4℃、300rpmで1時間撹拌してタンパク質の抽出を行った。なお、上記のイオン交換樹脂はNa型であるため、陽イオン、特に価数の多いCa2+やFe2+等を吸着する。汚泥のフロック(バイオフィルム)中のタンパク質はFe2+等の金属によりキレートされているため、イオン交換樹脂によりFe2+等を吸着除去することでフロックがもろくなり、タンパク質が溶出されるものと考えられる。なお、イオン交換樹脂へのタンパク質の吸着は極めて低いと考えられる。それは、中性付近のサンプルを扱っているため多くのタンパク質の等電点よりpHが高くなっていること、及び、汚泥中の金属イオンに比べるとイオン交換されにくいこと等による。
(6)(5)の溶液を遠心分離(12000g、1分、4℃)し、上清及び汚泥・CERに分離した。上清にタンパク質が抽出されている。
(7)(6)の上清を更に2回遠心分離(12000g、15分、4℃)し、微細なフロックを除去した。この上清をタンパク質濃度測定用の試料とした。
【0054】
(タンパク質濃度の測定)
続いてローリー法により、試料中のタンパク質濃度を測定し、汚泥のタンパク質濃度とした。まず、試薬A(4g/L水酸化ナトリウム−20g/L炭酸ナトリウム)及び試薬B(10g/L酒石酸ナトリウム−5g/L硫酸銅5水和物)を体積比で50:1となるように混合し、C試薬を調製した。
【0055】
続いて、上記前処理で調製した試料0.6mlを試験管に取り、試薬Cを3ml加え、10分以上静置した。その後、フェノール試薬(フォーリン−チオカルト試薬)を超純水で2倍に希釈したものを0.3ml加え、すぐに強攪拌した。続いて、2時間以上静置し、吸光度(600nm又は500nm)を測定した。検量線として、0、10、25、100、250mg/Lとなるように調製したアルブミン水溶液を用いて、上記と同様の方法で吸光度を測定した値を用いた。
【0056】
図4は、好気性及び嫌気性の数種類の汚泥について測定した、タンパク質濃度と限界フラックスとの関係を示すグラフである。好気性及び嫌気性のいずれの汚泥においても、汚泥中のタンパク質濃度と限界フラックスとの間には負の相関が見られた。この結果は、汚泥中のタンパク質濃度が高いほど膜の目詰まりが起こりやすいことを意味する。したがって、汚泥中のタンパク質濃度が膜の目詰まりに大きく影響することが明らかとなった。
【符号の説明】
【0057】
100…槽外型MBR、110,210,310…生物反応槽、120,220,320…膜、L110,L120,L130,L220,L310,L320,L330,L410,L420,L430,L440,L450…ライン、200…浸漬型MBR(一体型)、300…浸漬型MBR(槽別置型)、330…膜分離槽、400…平膜試験装置、410…水槽、420…平膜、430…散気管、440…マスフローコントローラ、450…吸引ポンプ、460…圧力計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を汚泥に導入する工程と、前記汚泥に導入された前記排水を生物学的に処理して処理水を得る工程と、
前記汚泥と前記処理水とを膜で固液分離する工程と、
を含む、生物学的排水処理方法であって、
前記排水又は前記汚泥にタンパク質吸着剤を添加する工程を更に含む、方法。
【請求項2】
破過した前記タンパク質吸着剤を回収し再生処理する工程と、
前記再生処理した前記タンパク質吸着剤を前記排水又は前記汚泥に再度添加する工程と、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質吸着剤は、孔径2〜50nmの細孔を有する多孔質体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質吸着剤は、複数種類の前記多孔質体の混合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔質体は、活性アルミナ又は多孔質ガラスである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
汚泥を保持し、前記汚泥に導入された排水を生物学的に処理して処理水を得る生物反応槽と、
前記汚泥と前記処理水とを固液分離する膜と、
を含む、生物学的排水処理装置であって、
前記生物反応槽がタンパク質吸着剤を含む、生物学的排水処理装置。
【請求項7】
前記タンパク質吸着剤は、孔径2〜50nmの細孔を有する多孔質体である、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記タンパク質吸着剤は、複数種類の前記多孔質体の混合物である、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
前記多孔質体は、活性アルミナ又は多孔質ガラスである、請求項6〜8のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99731(P2013−99731A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245601(P2011−245601)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】