説明

生物学的物質の捕獲又は分離用複合微粒子

【課題】安価で、遠心分離などに対する機械的耐性が向上した分析・分離に使用可能な捕獲用マイクロビーズを提供すること。
【解決手段】樹脂表面を有する微粒子に金層が直接又は有機バインダの層を介して付着した金層被覆微粒子と、該金層に連結され且つ生物学的物質と特異的に結合し得るリガンドとからなることを特徴とする生物学的物質の捕獲又は分離用複合微粒子により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的物質の捕獲又は分離用複合微粒子及びそれを利用した分離又は検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、マイクロサイズの樹脂ビーズは、分析・分離の用途に多用されているが、そのほとんどは樹脂表面をカルボキシル基やアミノ基などで官能化したものである。
樹脂表面を抗体などのリガンドで修飾するためには、図1に示すように、粒子表面のカルボキシル基をカルボジイミドカップリング剤(1)及びスクシンイミド誘導体(2)により活性化エステルとし;ヒドラジン又はその誘導体(3)によりアミド化(ヒドラジド化)し;そして還元剤(5)の存在下での還元的アミノ化により、アルデヒド基を導入したリガンド(4)と結合させるといった、多段階の化学反応を経由する必要がある。
このような方法では、リガンドの導入効率や導入密度において問題が多い。
【0003】
マイクロビーズとしては金微粒子も使用可能であるが、金表面へのリガンドの結合は、リガンドのチオール化により単一工程で可能である。
しかしながら、金微粒子自体は極めて高価である。
【0004】
また、粒子表面を金メッキしたマイクロビーズが電子材料の分野で知られている。しかしながら、金メッキマイクロビーズは、ニッケルの下地メッキを有するためメッキ層が剛直であり、分析・分離等に多用される遠心分離によりメッキ層の剥離が起こる(図5)。このため、下地にニッケルメッキ層を有する金メッキマイクロビーズを分析・分離等に使用することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、安価で、遠心分離などに対する機械的耐性が向上した分析・分離に使用可能な捕獲又は分離用マイクロビーズの開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、樹脂表面を有する微粒子に金層が直接又は有機バインダの層を介して付着した金層被覆微粒子と、該金層に連結され且つ生物学的物質と特異的に結合し得るリガンドとからなることを特徴とする生物学的物質の捕獲又は分離用複合微粒子が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、試料中の生物学的物質を上記複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子を前記試料から遠心分離又は磁性分離により分離することを特徴とする試料中の生物学的物質の分離方法が提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、試料中の生物学的物質を上記複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子に捕獲された生物学的物質の存在を、該生物学的物質に特異的に結合する別のリガンドを用いて検知することを特徴とする試料中の生物学的物質の検出方法が提供される。
【0009】
本発明によれば、試料中の生物学的物質を上記複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子を磁力により作用極上に集積させ、該複合微粒子に捕獲された生物学的物質の存在を電気化学的に検知することを特徴とする試料中の生物学的物質の検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の捕獲又は分離用複合微粒子によれば、リガンド導入の大幅な単純化、高効率化、高密度化、低コスト化が図れる。
また、本発明の捕獲又は分離用複合微粒子は、従来の金メッキ樹脂粒子より機械的耐性が向上し、金微粒子と同等に使用できる一方、金微粒子より極めて安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の樹脂粒子表面へのリガンド導入法を示す。
【図2】金層被覆樹脂微粒子の作製に用いた樹脂粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図2の樹脂粒子に金ナノ粒子を被覆した後のSEM写真である。
【図4】金層被覆樹脂微粒子のSEM写真である。
【図5】ニッケルの下地メッキ層を有する金メッキマイクロビーズの遠心分離後の状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】金層被覆樹脂微粒子の遠心分離後の状態を示す顕微鏡写真である。
【図7】金層被覆磁性樹脂微粒子1の作製に用いた磁性ビーズのSEM写真である。
【図8】図7の磁性ビーズに金ナノ粒子を被覆した後のSEM写真である。
【図9】金層被覆磁性樹脂微粒子のSEM写真である。
【図10】本発明の複合微粒子を用いたDNA捕獲実験の概略手順を示す。
【図11】本発明の複合微粒子を用いたDNA捕獲実験の結果を示す。横軸は波長(nm)を表し、縦軸は吸光度を表す。
【図12】実施例2で用いた正電荷金ナノ粒子の粒度分布(a)とTEM写真(b)である。(a)のグラフにおいて、横軸は粒子直径(nm)を表し、縦軸は該当する粒子径を有する粒子の数を全粒子数に対する割合(%)で表す。
【図13】実施例2で作製した金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子(a)及び金層被覆磁性樹脂粒子(b)のSEM写真である。
【図14】実施例2で作製した金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子(a)及び金層被覆磁性樹脂微粒子(b)の断面TEM写真である。「AuNP」は金ナノ粒子を表し、「plastic」は樹脂微粒子を表す。
【図15】実施例2で作製したビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子の分散液の蛍光顕微鏡写真である。a、bは、分散液を単独で観察した場合のそれぞれ明視野像及び蛍光視野像である。c、dは、フルオレセイン標識化ストレプトアビジンを添加した分散液を観察した場合のそれぞれ明視野像及び蛍光視野像である。
【図16】本発明の検出方法で使用し得る磁性電極の一形態を作製するための概略手順を示す。
【図17】実施例で作製した磁性電極(Au/Fe electrode)及び金電極(Au electrode)の硫酸溶液中でのサイクリックボルタモグラムである。横軸は参照極(Ag|AgCl)に関する電位(V)を表し、縦軸は電流密度(μA/mm2)を表す。
【図18】実施例で作製した磁性電極(Au/Fe electrode)及び金電極(Au electrode)で測定した、PBS buffer溶液中のフェロシアン化カリウムのサイクリックボルタモグラムである。横軸は参照極(Ag|AgCl)に関する電位(V)を表し、縦軸は電流密度(μA/mm2)を表す。
【図19】磁性電極(a)の電極面(及びその周辺)への金層被覆磁性樹脂微粒子の集積による電極面積の増大を説明する(b)。
【図20】(a)電極面に金層被覆磁性樹脂粒子を外部磁力により集積させた磁性電極で測定した、PBS buffer溶液中のフェロシアン化カリウムのサイクリックボルタモグラムである。横軸は参照極(Ag|AgCl)に関する電位(V)を表し、縦軸は電流(μA)を表す。(b)金層被覆磁性樹脂粒子固定量と酸化電流ピーク値(ΔIpeak)の関係を示す図である。横軸は粒子の固定量をμgで表し、縦軸は酸化電流ピーク値をμAで表す。
【図21】(a)磁性電極及び(b)電極面に金層被覆磁性樹脂粒子を外部磁力により集積させた磁性電極で測定した、PBS buffer(pH 7.4)溶液中のフルオレセインのサイクリックボルタモグラムである。いずれも、横軸は参照極(Ag|AgCl)に関する電位(V)を表し、縦軸は電流(μA)を表す。
【図22】本発明の検出方法の手順を説明する概略図である。
【図23】HRPにより触媒される過酸化水素の還元反応を説明する図である。
【図24】磁性電極(a)及び表面にビオチンを固定した磁性電極(b、c)で測定した、250μM H2O2/PBS buffer(pH 7.4)溶液中でのサイクリックボルタモグラムである。ビオチン固定磁性電極は、ビオチンにHRP標識化ストレプトアビジンを結合させて使用した(b)か又は結合なしで使用した(c)。横軸は参照極(Ag|AgCl)に関する電位(V)を表し、縦軸は電流(nA)を表す。
【図25】電極面に金層被覆磁性樹脂微粒子を外部磁力により集積させた磁性電極で測定した、250μM H2O2/PBS buffer(pH 7.4)溶液中でのサイクリックボルタモグラムである。(a)金層被覆磁性樹脂粒子として、該金層にビオチンを導入した金層被覆磁性樹脂粒子を用い、ビオチンにHRP標識化ストレプトアビジンを結合させて測定した。(b)ビオチン導入金層被覆磁性樹脂粒子を用い、ビオチンにHRP標識化ストレプトアビジンを結合させることなく測定した。(c)ビオチン非導入金層被覆磁性樹脂粒子を用いた。横軸は参照極(Ag|AgCl)に関する電位(V)を表し、縦軸は電流(μA)を表す。
【図26】ビオチンに、それぞれフルオレセイン(a)、ローダミン(b)、HRP(c)で標識されたストレプトアビジンを結合させたビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子及びいずれも結合させていないビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子(d)を外部磁力により集積させた磁性電極で測定した、250μM H2O2/ PBS buffer(pH 7.4)中でのサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の複合微粒子>
本発明に従う捕獲又は分離用複合微粒子(以下、単に「複合微粒子」ともいう)は、樹脂表面を有する微粒子に金層が直接又は有機バインダの層を介して付着した金層被覆微粒子と、該金層に連結され且つ捕獲又は分離対象物と特異的に結合し得るリガンドとからなることを特徴とする。
金被覆微粒子は、換言すれば、樹脂表面を有する微粒子と、該樹脂表面を直接又は有機バインダの層を介して覆う金層とからなる。
【0013】
樹脂表面は、樹脂を微粒子化した樹脂微粒子の表面であってもよいし、コア微粒子が樹脂層で被覆されてなる樹脂被覆微粒子の該樹脂層の表面であってもよい。
【0014】
樹脂表面を構成する樹脂としては、当該分野で樹脂粒子又は樹脂被覆粒子に使用し得ることが公知のいずれの樹脂も使用できる。例として、スチレン、(メタ)アクリル酸、オレフィン、アミド、イミド及びこれらの誘導体の(共)重合体並びにその架橋処理物が挙げられる。より具体的な例としては、ポリスチレン(PS)、ポリペプチドメチルメタクリレート(PMMA)、ポリペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリトリメチロールプロパントリアクリレート、ナイロン、ポリオレフィン及びこれらの共重合体及び架橋処理物、アクリル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。また、後述する「金と相互作用し得る部位」を含む樹脂の例としては、ポリリジン、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピリジン、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリスルフィドなどが挙げられる。
【0015】
樹脂を微粒子化する方法としては、モノマーキャスティング、懸濁重合、溶融スピンコート、超遠心、超音波など当該分野において使用され得るいずれの方法も使用でき、樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0016】
コア微粒子には、当該分野で樹脂被覆粒子のコア粒子として使用し得ることが公知のいずれのものを使用できる。例として、磁性材料(例えば、マグネタイトのような各種フェライト、鉄など)からなるものが挙げられる。
コア微粒子上の樹脂層は、公知の方法により形成することができる。例えば、樹脂を適切な溶媒に溶解し又は分散させた塗液をコア微粒子表面に(浸漬法などにより)塗布した後、乾燥・硬化させることにより形成することができる。
【0017】
樹脂微粒子又は樹脂層(コア微粒子が磁性材料から構成されていない場合)には、上記のような磁性材料が、好ましくは一様に分布するように、含まれていてもよい。
【0018】
樹脂表面を有する微粒子の平均粒径(体積平均粒径)は、ナノオーダー〜マイクロオーダーであり得、例えば1nm〜100μm、好ましくは10nm〜100μm、より好ましくは1μm〜10μmであり得る。
【0019】
金層は樹脂表面を直接覆って設けられている。したがって、樹脂表面と金層との間には、後述する「有機バインダ」の層を除き、他の層は存在しない。
樹脂表面を覆う金層は、樹脂表面上に、好ましくは、先ず金ナノ粒子を固定し、次いで金を析出させることにより形成する。
【0020】
樹脂表面上への金ナノ粒子の固定は、該樹脂表面を有する微粒子を金ナノ粒子分散液(金コロイド溶液)中に混合し、撹拌又は静置することにより行うことができる。金ナノ粒子分散液は任意に有機バインダ(下記参照)を含んでいてもよい。固定反応温度は、反応期間中に分散液が完全に凍結又は蒸発しない温度であれば任意の温度であり得るが、室温付近(例えば、10〜35℃)が好ましい。固定反応時間は、温度にも依存するが、例えば室温にて2時間〜48時間(2日間)であり得る。
【0021】
金ナノ粒子の数平均粒径は、サブナノオーダー〜ナノオーダー(約0.1〜1000nm)であり、例えば0.1〜500nm、好ましくは0.1〜100nm、より好ましくは1〜100nm、より好ましくは5〜50nmであり得る。
金ナノ粒子の平均粒径は、例えば、樹脂表面を有する微粒子の平均粒径の1/1000000〜1/10、好ましくは5/100000〜1/10、より好ましくは5/10000〜5/100であり得る。
【0022】
金ナノ粒子分散液は、市販品を用いてもよいが、金イオン(金錯体イオン)含有溶液及び還元剤を用いて溶液内還元反応により容易に製造できる。例えば、塩化金酸溶液にクエン酸を加えて加熱して得られる。
樹脂表面上への金ナノ粒子の固定に静電的相互作用を利用する場合、金ナノ粒子は、正電荷又は負電荷を有するように製造される。この場合、金イオン(金錯体イオン)含有溶液に、樹脂表面(の基)と静電的に相互作用し得る基を有する後述の有機バインダを加えて撹拌し、次いで還元剤を加え更に撹拌することにより正電荷又は負電荷を有する金ナノ粒子の分散液が得られる。
正電荷又は負電荷を有する金ナノ粒子のゼータ電位は、任意であるが、例えば+/−5〜+/−50mVであり得る。
【0023】
樹脂表面上への金ナノ粒子の固定は、樹脂表面に存在する金と相互作用し得る部位を介し得る。ここで、「相互作用」とは、化学結合、ファンデルワールス力、静電的相互作用、疎水性相互作用、吸着力などをいう。
【0024】
金と相互作用し得る部位(基)(X)としては、例えば、チオール基、スルフィド基(-S-)、ジスルフィド基(-S-S-)、アミノ基、イミノ基(-N=)、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、ホスホリル基が挙げられる。中でも、チオール基、ジスルフィド基、アミノ基、イミノ基が好ましく、チオール基、ジスルフィド基がより好ましい。
【0025】
金と相互作用し得る部位は、樹脂の一部として樹脂表面に存在していてもよいし、有機バインダが有していてもよい。
ここで、「有機バインダ」とは、金と相互作用し得る部位を、樹脂表面を構成する樹脂(又は樹脂表面に存在する基)と相互作用し得る部位と共に有する有機化合物である。
【0026】
樹脂と相互作用し得る部位(Y)としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素数1〜10、好ましくは2〜8)、芳香環(例えばベンゼン環)若しくは複素環又はそれらの誘導体(フェノール)、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシル基が挙げられる。
アルキル基及びその誘導体の具体例は、-(CH2)nCH3、-(CH2)m(CH)nCH3、-(CH2)nCOOH、-(CH2)nOHである(ここで、炭素上の水素はC1〜C4アルキル基で置換されていてもよい)。
芳香環及びその誘導体の具体例は、ベンゼン環、5〜7員の複素芳香環(1又は2つのへテロ原子はN、S、Oから選択される)及びそれらの2又は3の縮合環である(ここで、環の水素はC1〜C4アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基で置換されていてもよい)。
【0027】
有機バインダにおいて、金と相互作用し得る部位と、樹脂表面を構成する樹脂(又は樹脂表面に存在する基)と相互作用し得る部位とは、直接結合していてもよいし、飽和炭化水素鎖(-(CH2)p-;pは整数、例えば0〜20、より好ましくは2〜10)のようなスペーサ(Z)を介して結合していてもよい。
すなわち、Xがチオール基に代表される一価基である場合、有機バインダは、一般式X-Zq-Y(qは0又は1)として表し得る。
【0028】
有機バインダは、例えば、アルカンチオール(CH3-(CH2)n-SH)、カルボキシアルカンチオール(HOOC-(CH2)n+1-SH)、ヒドロキシアルカンチオール(HO-(CH2)n+1-SH)、アミノアルカンチオール(H3N-(CH2)n+1-SH)であり得る(ここで、nは整数、好ましくは0〜20、より好ましくは1〜10、より好ましくは2〜5である。炭素上の水素はC1〜C4アルキル基で置換されていてもよい)。
有機バインダはまた、例えば、Y1-(CH2)p-SHであり得る(ここで、Y1は芳香族環及びその誘導体であり、pは整数、好ましくは1〜8である)。
有機バインダはまた、例えば、(-S-(CH2)m-OH)2、(-S-(CH2)m-COOH)2である(ここで、nは整数、好ましくは0〜20、より好ましくは2〜10である。炭素上の水素はC1〜C4アルキル基で置換されていてもよい)。
有機バインダはまた、例えば、ジチア(C4〜C8)シクロアルカン-(CH2)n-CH3、ジチア(C4〜C8)シクロアルカン-(CH2)n+1-COOH、ジチア(C4〜C8)シクロアルカン-(CH2)n+1-OH、ジチア(C4〜C8)シクロアルカン-(CH2)n+1-NH2、ジチア(C4〜C8)シクロアルカン-(CH2)q-Y1であり得る(ここで、シクロアルカン中の2つのSはジスルフィドを形成し、nは整数、好ましくは0〜20、より好ましくは1〜10、より好ましくは2〜5であり、Y1は芳香族環及びその誘導体であり、pは整数、好ましくは1〜10である)。
【0029】
有機バインダの具体例としては、チオクト酸、アミノフェニルジスルフィド、アリルメルカプタン、プロパンチオール、ブタンチオール、p−アミノチオフェノール、アミルメルカプタン、2-アミノエタンチオールなどが挙げられる。
有機バインダは、固定反応に際して、金ナノ粒子分散液中に遊離状態で存在していてもよいし、金と相互作用し得る基を介して予め金ナノ粒子に付着していてもよい。
樹脂表面は、固定反応の前に、例えばカルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、トシル基で活性化されていてもよい。
【0030】
金ナノ粒子が固定された微粒子の電気抵抗は、例えば、103〜109Ω、より好ましくは103〜105Ωであり得る。
本発明において、(金ナノ粒子固定又は金属被覆)微粒子の電気抵抗は、1×1cmの白金板とタングステン針(先端径5μm;駿河精機社製、M904-0017)の間に微粒子を挟み、約20%圧縮した状態で、デジタルマルチメータ(model 34970A、Agilent社製、印加電流:1mA)で電気抵抗を測定する。電気抵抗値は、微粒子10個の測定値の平均値として得る。
【0031】
金ナノ粒子が固定された微粒子上への金の析出は、金化合物又は金錯体化合物の溶液中に該微粒子及び還元剤を加えて撹拌又は静置することにより行うことができる。析出反応温度は、反応期間中に分散液が完全に凍結又は蒸発しない温度であれば任意の温度であり得、例えば10〜80℃であり得る。析出反応時間は、得ようとする金層の厚さや温度にも依存するが、例えば30分間〜24時間であり得る。
【0032】
金化合物又は金錯体化合物としては、例えば、塩化金酸(テトラクロロ金酸)、塩化金酸ナトリウム、三塩化ジエチルアミン金酸、臭化金、水酸化金、酸化金などが挙げられる。
還元剤としては、金イオン又は金錯体イオンを金単体に還元することができる物質であれば特に限定されない。例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、メタノール、過酸化水素水などを用いることができる。
【0033】
微粒子同士の凝集を防ぐために、金化合物又は金錯体化合物の溶液には分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ポリビニルアルコールなどのアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0034】
金層の厚さは、任意の厚さであり得るが、例えば、用いた金ナノ粒子の平均粒径程度からその3倍程度であり得る。
得られた金層被覆微粒子の電気抵抗は、例えば、0.01〜100Ω、好ましくは0.01〜10Ωであり得る。
【0035】
「リガンド」とは、少なくとも特定の条件下に、互いに特異的に結合する一対の物質(「特異結合対」)の一方をいい、「特異結合パートナー」ともいう。
特異結合対としては、抗体と抗原、互いに相補的な核酸分子、酵素と基質、アプタマーとその標的タンパク質又はポリペプチド、レクチンと糖鎖、ビオチンとアビジン、金属イオンとタンパク質又はペプチド(例えば、銅イオンはペプチドとキレート化合物を生成する;この結合はBiuret法によるタンパク質定量に利用されている。また、ニッケルイオンは(His)6のようなヒスチジンタグを有する融合タンパク質の精製に利用される。)などが知られている。
【0036】
本発明に使用するリガンドは、公知の特異結合対の中から、該複合微粒子を用いて捕獲又は分離しようとする対象物に応じて適宜選択することができ、例えば、抗体、抗原、核酸プローブ、アプタマー、レクチン(例えば、コンカナバリンA、インゲンマメレクチン(PHA))、グルタチオン、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチンであり得る。リガンドは、複合微粒子の被覆金層への吸着反応あるいはリガンドのチオール化を通じて金層被覆微粒子に固定することが可能である。
捕獲又は分離対象物は、例えば、生物学的物質からなり得る。「生物学的物質」には、タンパク質、核酸、脂質(リン脂質を含む)、糖質(糖鎖)が含まれる。なお、「核酸」には、DNA及びRNAに加え、相補的な塩基配列を有するDNA又はRNAへの特異結合性を有する人工核酸(例えば、PNA、LNA)も含まれるものとする。
【0037】
金属イオンはチオール化した金属配位子により金層被覆微粒子の表面に固定され、この金属と試料タンパク質又はペプチドの結合を通じてその分離・精製に利用することもできる。一方、捕獲物質はさらに他の特異的反応を利用して,異なる捕獲機能を獲得することも含まれる。一例として、DNA及びRNAはビオチン化されてアビジン/チオール化ビオチン修飾複合微粒子に捕捉され、DNAやRNA結合タンパク質の精製などの用途に使用されることも含まれる。同様に、抗原又は抗体はビオチン化されて複合微粒子に捕獲され、菌類などの微生物分離、細胞分離、タンパク質精製、イムノアッセイ、免疫沈降などの用途に使用されることも含まれる。
【0038】
例えば、捕獲又は分離対象物がタンパク質又はポリペプチドである場合、本発明の複合微粒子に使用するリガンドは、抗体又はアプタマーであり得る。また、捕獲又は分離対象物が核酸である場合、リガンドは核酸プローブであり得、捕獲又は分離対象物が糖である場合には、リガンドはレクチンであり得る。更に、捕獲又は分離対象物がグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)、ビオチン又は(ストレプト)アビジンに結合している場合、リガンドはそれぞれグルタチオン、(ストレプト)アビジン又はビオチンであり得る。
【0039】
本発明においては、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び特異結合活性を保持したそれらの断片(例えば、単鎖抗体、F(ab')2、Fab、Fab'又はFv)が含まれるものとする。抗体又はその断片はモノクローナルであることが好ましい。
【0040】
本発明においては、核酸プローブは、相補鎖と特異的にハイブリダイズし得る一本鎖領域(例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは20塩基以上)が存在しさえすれば形態は問わず、一部が二本鎖であってもよい。
【0041】
金層の表面にリガンドを連結する方法には、当該分野で使用され得る公知の方法のいずれもを使用することができる。
例えば、リガンドを含む溶液(例えば、緩衝液)中に金層被覆微粒子を浸漬することにより両者を連結させることができる。
【0042】
また、例えば、チオール基、スルフィド基又はジスルフィド基を有する分子が金表面に自己組織化単分子膜(SAM)を形成する性質を利用して連結する方法を用いてもよい。この方法では、上記の基を予め導入したリガンドを含む溶液中に金層被覆微粒子を浸漬することにより容易に行うことができる。ポリペプチドやタンパク質又は核酸プローブにチオール基、スルフィド基又はジスルフィド基を導入する方法は当該分野において公知であり、例えばアルカンチオールや市販の試薬(例えば、SAM試薬)を使用することができる。
【0043】
本発明の複合微粒子は、リガンドの連結後に、ウシ血清アルブミン(BSA)や脱脂粉乳のような非特異結合をブロックし得る任意のブロッキング剤で処理されてもよい。
ブロッキング剤で非特異結合領域をマスクする方法は当該分野において公知である。例えば、ブロッキング剤を含有する緩衝液中で本発明の複合微粒子をインキュベートすることにより行うことができる。
【0044】
<本発明の分離方法>
本発明に従う試料中の対象物の分離方法は、試料中の対象物を上記で説明した本発明に係る複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子を試料から遠心分離又は磁気分離により分離することを特徴とする。
【0045】
本発明の分離方法に使用し得る試料は、分離対象物を含む可能性のある試料である限り、特に限定されない。試料は、例えば、ヒト及びウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、ラット、マウスのような家畜動物を含む動物からの生物学的試料であり得る。生物学的試料としては、例えば、血液(血清及び血漿を含む)、リンパ液、髄液、腹水、組織滲出液又は分泌液(涙液、汗、唾液を含む)、痰及び尿などの体液;脳、脊髄、心臓、肝臓、粘膜などの組織(そのホモジネート、溶解物若しくは抽出物);細胞(その溶解産物及び抽出物を含む);細胞又は組織の培養上清などを挙げることができる。なお、本発明において、「試料」にはその希釈物が含まれるものとする。
【0046】
試料は、必要に応じて、対象物以外の成分の除去(分解を含む)又は対象物の増幅のために、前処理を行なってもよい。前処理としては、例えば、濾過、酵素処理、PCR増幅などが挙げられる。
【0047】
本発明の分離方法に使用し得る複合微粒子には、分離対象物と特異的に結合する物質をリガンドとして有するものが選択される。
【0048】
試料中に存在し得る対象物の複合微粒子での捕獲は、該複合微粒子中のリガンドと該対象物とが特異的に結合し得る条件下で、該複合微粒子と該試料又はその希釈物とを混合することにより、容易に達成し得る。特異的結合条件の決定方法は当該分野において公知である。
【0049】
試料からの複合微粒子の分離は、例えば遠心分離により、行うことができる。複合微粒子中に(例えば、コア微粒子として、又は樹脂層中に)磁性材料が用いられている場合には、磁力によっても分離を行うことができる。
【0050】
本発明の分離方法は、対象物の精製に使用することができる。例えば、組換えポリペプチド又はタンパク質をGST-融合体として発現させる場合、リガンドとしてグルタチオンを含む複合微粒子を用いて、培養上清又は細胞破砕物から組換え発現物を精製することができる。また、例えば、目的の核酸を、ビオチン又は(ストレプト)アビジンが結合したプライマーを用いてPCR増幅させる場合、リガンドとして(ストレプト)アビジン又はビオチンを含む複合微粒子を用いて、目的の核酸を精製することができる。
【0051】
本発明の分離方法はまた、対象物を検出又は測定する方法の一部として実施することもできる。
【0052】
<本発明の第1の検出方法>
本発明に従う試料中の対象物の検出方法は、試料中の対象物を上記で説明した本発明に係る複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子に捕獲された対象物の存在を、該対象物に特異的に結合する別のリガンドを用いて検知することを特徴とする。
【0053】
本発明の検出方法に使用し得る試料は、検出対象物を含む可能性のある試料である限り、特に限定されず、本発明の分離方法について記載したものと同様である。
【0054】
本発明の検出方法において、複合微粒子には、検出対象物と特異的に結合する物質をリガンド(以下、便宜上「第1のリガンド」とも呼ぶ)として有するものが適宜選択される。好ましくは、第1のリガンドは、抗体、抗原、核酸プローブ、アプタマーであり得る。
【0055】
試料中に存在し得る検出対象物の複合微粒子による捕獲は、例えば、試料と複合微粒子とを、試料中に存在し得る検出対象物が複合微粒子により捕獲されるに十分な条件(例えば、時間及び温度など)下で接触させることにより行うことができる。このような条件の設定法は当該分野において公知であり、例えば予備反応試験により行うことができる。
この接触は静置状態で行っても振盪状態で行なってもよい。
【0056】
接触後、必要に応じて、複合微粒子を、上記で説明した本発明に係る分離方法により試料から分離してもよく(完全に分離されずに濃縮される程度でもよい)、更に/或いは洗浄してもよい。分離若しくは濃縮及び/又は洗浄を行うことにより、検知時のS/N比が高くなり検出精度(検出感度)が向上し得る。
【0057】
別のリガンド(以下、便宜上「第2のリガンド」とも呼ぶ)は、検出(捕獲)対象物と特異的に結合する限り、本発明に係る複合微粒子中の第1のリガンドと同種のリガンドであっても、異種のリガンドであってもよい。すなわち、第1のリガンドが抗体であるとき、第2のリガンドは抗体であっても、アプタマーであってもよい(当然のことではあるが、アプタマー以外のリガンドであることもできる)。ただし、第1のリガンドと第2のリガンドは、検出(捕獲)対象物への結合に関して競合してはならない。
【0058】
第2のリガンドは、公知の特異結合対の中から、検出(捕獲)対象物及び第1のリガンドに応じて適宜選択することができる。
このような1つの検出(捕獲)対象物について2つのリガンドを用いる方法は、サンドイッチ法として当該分野において公知である。
【0059】
サンドイッチ法では、好ましくは、第2のリガンドは、検知のための標識を有する。標識は、当該分野で公知であり、使用する検知の方法に応じて適宜選択される。標識は、光学的、化学的、放射能、磁気的又は電気的に検知され得る。標識は、例えば、蛍光色素、酵素、吸収色素、化学発光団、放射性同位体、スピン標識及び電気化学的標識からなる群より選択される。
【0060】
第2のリガンドを用いる複合、微粒子に捕獲された対象物の存在の検知は、例えば、
− 第2のリガンドと複合微粒子とを、第2のリガンドが検出対象物(これは、試料中に存在していれば複合微粒子(中の第1のリガンド)に捕獲されている)と結合するに十分な条件下で接触させ、
− 未結合の第2のリガンドを、例えば洗浄により、除去し、
− 第2のリガンドの存在を検知する
ことにより行うことができる。
【0061】
接触条件(例えば、時間及び温度など)設定法は当該分野において公知であり、例えば予備試験により行うことができる。接触は、静置状態で行っても、振盪状態で行ってもよい。
第2のリガンドの存在の検知は、例えば標識からのシグナルを検知することにより、行うことができる。検知に際しては、標識からのシグナルを定量的に測定してもよい。
【0062】
本発明の検出方法は、免疫測定法(酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法、蛍光イムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法など)と組み合せて使用することができる。
【0063】
<本発明の第2の検出方法>
本発の第2の検出方法は、試料中の検出対象物(生物学的物質)を上記で説明した本発明に係る複合微粒子のうち磁性を有するもので捕獲し、該複合微粒子を磁力により作用電極上に集積させ、該集積された複合微粒子に捕獲された対象物の存在を電気化学的に検知することを特徴とする。
【0064】
本発明の第2の検出方法に使用し得る試料、複合微粒子及びリガンドについては「本発明の分離方法」及び「本発明の第1の検出方法」の項に記載したとおりである。また、試料中に存在し得る検出対象物の複合微粒子による捕獲も上記のとおりである。ただし、複合微粒子は磁性を有するものを用いる。
【0065】
複合微粒子による捕獲後、外部磁力により複合微粒子を電極(電気化学的検出法における作用極)上に集積させる。集積に利用する磁力は、複合微粒子の集積状態を維持するに十分である一方、電気化学的測定中に得られる酸化還元電流に影響を及ぼさないように適宜決定できる。
本発明に係る複合微粒子は、(表面を金層で覆われた)導電性であるので、作用電極自体の電極面積に制限されることなく(すなわち三次元的に)、集積させてもよい。
【0066】
集積の前に、試料中に存在し得かつ電気化学的検出に意図しない影響を及ぼし得る物質を確実に排除するために、好ましくは、複合微粒子を、上記で説明した本発明に係る分離方法により試料から分離・回収する(完全に分離されずに濃縮される程度でもよい)。
用いた試料がそのような物質を含まないことが明らかなときは、分離・回収工程を省略し得る。
【0067】
作用極としては、外部磁力の印加により、その表面(特に電極面)に磁性粒子を集積させることができる磁性電極を用いる。磁性電極本体は、例えば棒状の磁性・導電性材料(例えば、鉄のような磁性金属)からなるが、電極としての有効面積を規定するため所定領域を残して非磁性・非導電性材料(例えば、テフロン(登録商標)やPEEK樹脂、エポキシのような樹脂)で覆ってもよい。当該被覆層は、外部磁力に影響を及ぼさない程度の厚さで形成され得る。また、電極面では、腐食及び(酸や塩基、及び支持塩を含む)電解液中への金属イオンの溶出を抑えるため、貴金属(例えば、金)で覆ってもよい。電極面を貴金属で被覆した磁性電極は、使用した貴金属からなる電極(例えば、金(Au)電極)と、電気化学的特性(例えば、酸化皮膜の生成・還元に伴うピークが観察される電位)が同等であることが好ましい。
外部磁力の供給源は、永久磁石や電磁石のような磁石であり得る。作用極への外部磁力の印加は、作用極上に磁性粒子を集積させるに必要な磁力を付与し得る任意の手段及び態様で行うことができ、例えば磁石を磁性電極本体に接触させることにより行い得る。
【0068】
対極(及び必要に応じて参照極)には、電気化学的検出で通常用いられる電極を使用し得、例えば白金や白金黒のような貴金属電極、酸化チタンや酸化マンガンのような酸化物電極、銀塩化銀電極、炭素電極が挙げられる。好ましくは、対極として白金電極を用い、参照極として銀/塩化銀電極を用いる。
【0069】
検出対象物自体が電気化学的検出に適する物質(例えば、酸化/還元酵素)である場合には、検出対象物自体の存在を電気化学的に検知できる。
検出対象物自体が電気化学的検出に適さない場合、該検出対象物と特異的に結合する別のリガンドであって、電気化学的検出に適切な標識を有するリガンド(以下、便宜上「第2のリガンド」とも呼ぶ)を用いるサンドイッチ法で、電極上に捕獲された検出対象物に電気化学的標識を付与することによって、検出対象物の存在を電気化学的に検知可能とすることができる。第2のリガンドは、標識が電気化学的検出に適切なものであること以外は、第1の検出方法について記載したとおりである。電気化学的検出に適切な標識としては、(ペル)オキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどの酸化/還元酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼなど)又は酸化性/還元性の化合物(例えば、フルオレセイン)が挙げられる。
【0070】
電気化学的検知の具体的手法は、検出対象物又は第2のリガンドに応じて、公知の手法を使用し得る。
電気化学的検出に利用する酸化還元反応は、検出対象物又は使用する標識に応じて適切に選択できる。例えば、標識がHRPである場合、H2O2 + 2e- +2H+ → 2H2Oの酸化反応を利用できる。この場合には過酸化水素を基質として使用できる。
電気化学的検出に際して、フェロシアン化カリウム/フェリシアン化カリウムのようなメディエーターを使用してもよい。
【0071】
本発明の第2の方法には、当該分野において公知のいずれの電気化学的検出法も使用することができる。電気化学的検出は、サイクリックボルタンメトリー、ポテンシャルステップクロノアンペロメトリー、クーロメトリー、対流ボルタンメトリーや微分パルスボルタンメトリー、矩形波ボルタンメトリー、交流インピーダンス測定により行ってもよい。
電気化学的測定系は、作用極、対極、参照極及びポテンショスタットから構成される。
【0072】
本発明の第2の検出方法によれば、複合微粒子を介して検出対象物を電極上に集積させるので、検出対象物が試料中で低濃度である場合や試料自体が少量である場合にも、高感度での検出が可能である。
【実施例】
【0073】
(1)金層被覆樹脂微粒子の作製
超純水156mLにテトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬工業)の1%水溶液24mL及びクエン酸ナトリウム(片山化学工業)の3%水溶液20mLを添加し、80℃にて20分間スターラーを用いて撹拌することにより、金ナノ粒子の分散液を得た(30±5nm)。
【0074】
得られた金ナノ粒子分散液17mLに、アクリル系樹脂粒子(早川ゴム社製;ハヤビーズM−11R;粒径5μm;アクリル樹脂;図2)30mg及び10mMチオクト酸/エタノール溶液240μLを加え、室温にて4時間スターラーを用いて撹拌した。次いで、オムニポアメンブレンフィルター(日本ミリポア社製;孔径0.2μm)で濾過し、超純水で洗浄することにより、金ナノ粒子被覆樹脂粒子を得た(図3)。
【0075】
次に、超純水20mLに、得られた金ナノ粒子被覆樹脂粒子を加え、更に0.5%ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製;重合度:約500)300μL、1%テトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液4mL及び30%過酸化水素水270μLを加え、60℃にて3時間スターラーを用いて撹拌した。次いで、オムニポアメンブレンフィルターで濾過し、超純水で洗浄することにより、金層被覆樹脂微粒子を得た(図4)。
【0076】
得られた金層被覆樹脂微粒子及びニッケルの下地メッキ層を有する金メッキマイクロビーズ(ミクロパールAU)をそれぞれ遠心分離(6037×g、30秒間)に付し、遠心分離後の状態を観察した。
下地ニッケルメッキ層を有する金メッキマイクロビーズは、遠心分離後、メッキ層の剥離が観察された(図5)。
一方、金被覆樹脂微粒子では、遠心分離による金層の剥離は観察されなかった(図6)。
【0077】
(2)金層被覆磁性樹脂微粒子の作製
上記と同様にして得られた金ナノ粒子の分散液18mLに、高分子ポリマー磁性ビーズ(Dynabeads(登録商標)M-270 Carboxylic Acid(Invitrogen社製;粒径3.0 μm;図7)750μL及び100mMアミノフェニルジスルフィド/エタノール溶液27μLを加え、室温にて4時間スターラーを用いて撹拌した。次いで、オムニポアメンブレンフィルター(日本ミリポア社製;孔径0.2μm)で濾過し、超純水で洗浄することにより、金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子を得た(図8)。
【0078】
次いで、超純水60mLに、得られた金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子を加え、更に0.5%ポリビニルアルコール(和光純薬工業社製;重合度:約500)960μL、1%テトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液13mL及び30%過酸化水素水880μLを加え、60℃にて3時間スターラーを用いて撹拌した。次いで、オムニポアメンブレンフィルターで濾過し、超純水で洗浄することにより、金層被覆磁性樹脂微粒子を得た(図9)。
【0079】
(3)本発明の複合微粒子を用いたDNAの捕獲の確認
12塩基のチオール化DNAプローブ(プローブA:3' HS-(T)12;又はプローブB:(T)12-SH 5')の溶液(1mM、TE緩衝液(pH7))中に、上記のように作製した金層被覆樹脂微粒子(4mg)を分散させて1時間室温にて撹拌した。
金層被覆樹脂微粒子を遠心(6037×g、30秒間)により沈澱させ、上澄み液を除去して新たなTE緩衝液(1.0mL)を加えた。遠心分離及び再懸濁を更に2回繰り返し、過剰なDNAを除去した。
【0080】
標的DNA(ポリ(A)24)の溶液(1mM)中に、リガンドとしてプローブAを含む複合微粒子及びリガンドとしてプローブBを含む複合微粒子を加え、1時間室温にて撹拌した。複合微粒子を遠心(6037×g、30秒間)により沈澱させ、上澄み液のUV測定(吸光度測定)を行った(UV-2400−PC紫外可視分光光度計;島津製作所製;掃引範囲240〜300nm)。UV測定は、複合微粒子を加える前にも行った(図10)。
【0081】
結果を図11に示す。
なお、遠心分離による複合微粒子の破壊(特に、金層の剥離)は観察されなかった。
【0082】
図11より明らかなように、本発明の複合微粒子の添加により、260nm(核酸の最大吸収波長)での吸光度が低下している。この吸光度の低下は約8pmolの核酸の減少に対応する。このことより,金層被覆微粒子上のDNA密度は5.1pmol cm-2と算出され、この値は12nm径金ナノ粒子へのDNA修飾密度17pmol cm-2とは粒子径の違いによる空間障害を考慮すると比較しうる値であった。
すなわち、図11は、溶液中の核酸の一部が本発明の複合微粒子に捕獲されたことを明確に示している。
【0083】
(4)本発明の複合微粒子を用いたストレプトアビジンの捕獲
(4-1)リガンドとしてビオチンを有する本発明の複合微粒子の作製
(4-1-1)正電荷金ナノ粒子の作製
超純水37.66 mLに、テトラクロロ金(III)酸四水和物(和光純薬工業)の1重量%水溶液2.34 mL及び2-アミノエタンチオール塩酸塩(和光純薬工業)の450 mM水溶液189 μLを添加し、25℃にて20分間撹拌した。水素化ホウ酸ナトリウム(和光純薬工業)の10 mM水溶液10 μLを加え、暗室中で室温にて10分間激しく攪拌することで、金ナノ粒子の懸濁液を得た。
【0084】
得られた懸濁液2.0 μLをTEMグリッド(日新EM株式会社製;200 mesh;No.6511)に滴下し、室温で24時間真空乾燥させた後、透過型電子顕微鏡(TEM,日本電子株式会社製;JEM-2000FXII)で観察した。粒径40 nm程度の金ナノ粒子の生成が確認された(図12b)。
【0085】
金ナノ粒子のゼータ電位及び粒度分布をゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製;ELSZ-2)により測定した。平均粒径は42.5±6.8 nmであった(図12a)。ゼータ電位は+36.47 mVであり、正電荷を帯びていることが確認された。この正電荷は、アミノエタンチオールが持つアミノ基(-NH3+)によるものと考えられる。
【0086】
(4-1-2)金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子の作製
磁性ビーズ(磁性樹脂微粒子)として、Dynabeads(登録商標)M-270 Carboxylic Acid(Invitrogen社製;粒径3.0 μm)を用いた。この磁性ビーズは表面にカルボン酸基を有する。市販品を吸引ろ過して100 mLの超純水で十分に洗浄後、室温で24時間真空乾燥して使用した。
乾燥後の磁性ビーズ30 mgを、上記で得られた正電荷金ナノ粒子懸濁液18 mLに加え、3分間の超音波処理により分散させた後、ミックスローター(AS ONE社製;MIX-ROTAR VMR-5)を用いて室温で2時間攪拌した。次いで、ビーズを外部磁力により回収し、500 μLの超純水に分散させ、再度外部磁力により回収した。この精製操作を3回行った後、室温で24時間真空乾燥させ、金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子を得た(図13a)。
【0087】
ここで、磁性ビーズと金ナノ粒子との吸着は、磁性ビーズ表面に存在するカルボン酸基の負電荷と金ナノ粒子上のアミノエタンチオールのアミノ基の正電荷による静電的相互作用:
Magnetic bead(-COO-) + AuNP(-NH3+) → Magnetic bead(-COO-+H3N-)AuNP
によると考えられる。
【0088】
(4-1-3)金層被覆磁性樹脂微粒子の作製
金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子30 mgを超純水60 mLに加え、3分間超音波処理することで分散させた。得られた分散液に、ポリビニルアルコール(和光純薬工業)の0.5 wt%水溶液1.05 mL、1%テトラクロロ金(III)酸四水和物の水溶液12.8 mL及び30 wt%過酸化水素水0.88 mLを加え、ミックスローター(AS ONE社製;MIX-ROTAR VMR-5)を用いて室温で12時間攪拌した。次いで、ビーズを外部磁力により回収し、500 μLの超純水に分散させ、再度外部磁力により回収した。この精製操作を3回行った後、室温で24時間真空乾燥させ、金層被覆磁性樹脂微粒子を得た(図13b)。
【0089】
金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子及び金層被覆磁性樹脂微粒子をそれぞれ、エポキシ樹脂(応研商事株式会社製;Epok 812)中に分散させ、60℃で一晩静置し硬化させた。硬化した樹脂の表面を研磨フィルム(住友3M社製;#4000)で研磨した後、ダイヤモンドナイフ(日進EM株式会社製;サイズ2.0 mm,;45°;DiATOME)で薄く切り出し、TEMグリッド(日進EM株式会社製;200 mesh;No.6511)に載せ、透過型電子顕微鏡(JEOL社製;TEM;JEM-2000FXII)で観察した。金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子及び金層被覆磁性樹脂微粒子の膜厚は、それぞれ約50 nm及び100 nmと見積もられた(図14a及び14b)。
【0090】
金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子及び金層被覆磁性樹脂微粒子の電気抵抗は、それぞれ8.0 MΩ及び1.3 Ωであり、金層被覆磁性樹脂微粒子の導電性は飛躍的に向上した(表1)。これは、断面TEM像(図14)から明らかなように、金ナノ粒子被覆磁性樹脂粒子で見られる金ナノ粒子間の空隙に金が析出した結果として、連続する金層が形成されたためである。
【表1】

【0091】
(4-1-4)金層被覆磁性樹脂微粒子表面へのビオチンの導入
1 mMビオチン(Thermo scientific社製;Sulfosuccinimidyl 2-(Biotinamido) ethyl-1,3'Dithiopropionate)水溶液に金層被覆磁性樹脂微粒子4 mgを混合し、3分間の超音波処理により分散させ、ロータリーミキサー(FINEPCR社製;ROTARER;AG)を用いて室温で1時間攪拌した。次いで、微粒子を外部磁力により回収し、1 mLのPBS bufferに分散させ、再度外部磁力により回収した。この精製操作を3回行った後、1 mL PBS buffer中に再分散させてビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子(本発明の複合微粒子)の分散液を得た。
【0092】
(4-2)ストレプトアビジンの捕獲
ビオチン導入金層被覆磁性樹脂粒子分散液1 mLに、ターゲット物質として、4 mg/mLフルオレセイン標識化ストレプトアビジン(Thermo scientific)水溶液5 μLを加え、ロータリーミキサーを用いて室温で1時間攪拌した。その後、微粒子を外部磁力により回収し、1 mLのPBS bufferに分散させ、再度外部磁力により回収した。この精製操作を3回行った後、500 μL PBS buffer中に再分散させた。
【0093】
ビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子分散液単独及びフルオレセイン標識ストレプトアビジンを添加したビオチン導入金層被覆磁性樹脂粒子分散液をそれぞれスライドガラス上に3 μL滴下し、カバーガラスを被せ、蛍光顕微鏡(OLYMPUS社製;BX51)により観察した。画像の取り込みは、デジタルカメラ(OLYMPUS社製;DP72)で行った(図15)。
ビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子分散液(単独)中では、明視野で樹脂微粒子像が観察される(図15a)が、蛍光視野では像は観察されなかった(図15c)。一方、フルオレセイン標識化ストレプトアビジンを添加したビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子分散液中では、明視野で観察された樹脂微粒子像(図15b;明視野像)に対応する場所に、フルオレセインによる蛍光像が観察された(図15d)。このことにより、ビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子は、ターゲットである(ストレプト)アビジンを選択的に捕獲できることが明らかになった。
【0094】
(4-3)磁性電極を用いる電気化学的検出
(4-3-1)磁性電極
磁性電極の作製
長さ5 cmのテフロン(登録商標)棒(図16a)の中心に直径1 mmの穴を空け(図16b)、テフロン(登録商標)棒の片方の端にエポキシ樹脂(応研社製;Epok 812)を塗布した。そこに長さ7 cm程度の鉄線(ニラコ社製;FE-221480;φ1.0 mm;99.995%)を挿入し、エポキシ樹脂を60℃で一晩静置することで硬化させ、鉄線をテフロン(登録商標)棒に固定した(図16c)。その後、電極面となる一端を精密仕上げ用研磨フィルム(住友3M社製;2000メッシュ)で研磨し、電極面側に付着したエポキシ樹脂を削り取った。電極面の反対側から鉄線を2 mm程度引き抜き、電極面側に深さ2 mmの空隙を形成した(図16d)。この空隙に隙間なく金箔を詰め込んだ。金箔を埋め込んだ電極表面を、精密仕上げ用研磨フィルム(住友3M社製;2000メッシュ)、精密仕上げ用研磨フィルム(住友3M社製;4000メッシュ)、液体コンパウンド(Soft 99社製;9800メッシュ)の順に使用して鏡面に仕上げた(図16e)。こうして、磁性・導電性材料を用いて外部からの磁力に応答する構造を持つ電極を作製した(図16f)。
【0095】
磁性電極の特性評価
作用極として上記で作製した磁性電極又は金電極(φ1.0 mm)を、対極として白金電極(1 cm×2 cm)を、参照極としてAg|AgCl電極を用い、0.1 M硫酸(和光純薬工業)溶液中、掃引速度100 mV s-1、掃引範囲−0.25〜+1.5 Vでサイクリックボルタンメトリーを行い両者を比較した(図17)。
いずれの作用極を用いても、アノード側1.5 V、カソード側0.9 V付近に金の酸化被膜生成・還元に伴うピークが見られた。よって、上記で作製した金被覆磁性電極は金電極と同様の電気化学特性を持つことが確認された。
【0096】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS buffer)調製
塩化ナトリウム(和光純薬工業)80 g、塩化カリウム(和光純薬工業) 2 g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(和光純薬工業)36.3 g、リン酸二水素ナトリウム(和光純薬工業) 2.4 gを超純水約900 mLに溶解させ、35 %塩酸(片山化学工業)でpH 7.4に調製し、さらに超純水を加えて1 Lにメスアップした。
【0097】
フェロシアン化カリウムの電気化学測定
作用極として上記の磁性電極、対極として白金電極(1 cm×2 cm)、参照極としてAg|AgCl電極を用い、5 mMフェロシアン化カリウム(K4[Fe(CN)6]・3H2O;和光純薬工業)/PBS buffer溶液中、掃引速度10 mV s-1、掃引範囲0〜+0.5 Vでサイクリックボルタンメトリーを行った(図18)。
0.32 Vと0.25 V付近に一対の酸化還元ピークが得られた。これは電解溶液中のフェロシアン化物イオンの酸化還元に起因するピークであり、金電極で得られる典型的な曲線が得られた。
【0098】
(4-3-2)磁性電極への金層被覆磁性樹脂微粒子の集積と電気化学測定
(4-1)で作製した金層被覆磁性樹脂微粒子は、磁力による集積が可能であり、また金層により被覆されているため高い導電性を持つ。これらの性質を利用して、磁性電極表面に金層被覆磁性樹脂粒子を外部磁力で集積することにより、電極面積を増大させて電気化学応答の高感度化を図った(図19)。
【0099】
金層被覆磁性樹脂粒子4 mgをPBS buffer 1 mL中に分散させ、そこから4〜32 μLまで4 μLずつ取って磁性電極上に滴下し、外部磁石により磁性樹脂粒子を電極表面に集積、固定しこれを作用極とした。対極には白金電極(1 cm×2 cm)、参照極にはAg|AgClを用い、5 mM フェロシアン化カリウム/PBS buffer溶液中、掃引速度10 mVs-1、掃引範囲0〜+0.5 Vでサイクリックボルタンメトリーを行った (図20) 。
サイクリックボルタンメトリーの結果、磁性電極表面の金層被覆磁性樹脂粒子固定量が増加するにつれ、フェロシアンの酸化還元に伴う電流応答は大きくなった(図20a)。酸化ピーク電流値とベース電流値の差(ΔIpeak) をプロットした(図20b)。ビーズ分散液滴下量が24 μL以下の場合、ΔIpeakは比例増加したが、24 μL以上になるとΔIpeakが飽和に達した。これは、磁性電極の電極面積に対して固定可能な金層被覆磁性樹脂粒子量が飽和したためであると考えられる。今回の実験条件下ではΔIpeakは滴下量0 μLの場合と比べて3倍程度まで増加した。電流値は電極面積に比例するため、電極面積が3倍程度増大したことが示唆された。
【0100】
フルオレセインの電気化学測定
顕微鏡観察などに用いられる蛍光色素の一種であるフルオレセインのサイクリックボルタンメトリーを行った。フルオレセインの電離平衡におけるpKaは6.4であり、pH5〜9の範囲でpH依存性の吸収と蛍光放出を示す。また、フルオレセインは溶液のpHによって次式(I)で表わされるような構造をとると考えられる。
【化1】

【0101】
PBS buffer(pH7.4)中に溶解させるとフルオレセインは(B)の構造をとり、溶液は黄緑色を呈し、0.1 M硫酸溶液(pH1.0)中では(A)の構造をとり、溶液は橙色を呈する。
作用極に磁性電極および金層被覆磁性樹脂粒子を外部磁力により集積した磁性電極、対極には白金電極(1 cm×2 cm)、参照極にはAg|AgClを用い、1 mM フルオレセイン(和光純薬工業) /PBS buffer溶液中、掃引速度10 mV s-1、掃引範囲0〜0.8 Vでサイクリックボルタンメトリーを行った (図21) 。
その結果、PBS buffer中で電位0.7 V付近に酸化ピークが見られた。これは下式(II)で表わされる酸化反応によるピークであると考えられる。金層被覆磁性樹脂粒子を集積することでΔIpeakが11倍になり、電気化学信号が高感度化された。
【化2】

【0102】
(4-3-3)磁性電極によるHRP標識化ストレプトアビジンの電気化学測定
(4-1)で作製したビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子を用いて、ストレプトアビジンの電気化学的検出を行った(図22)。
【0103】
HRP(Horseradish peroxidase)は、過酸化水素の還元反応に対する高い触媒機能を示し、電子メディエーターなしでも、高い電気応答性を示すことが知られている。そのため、免疫染色や、ELIZAなどの分析化学実験での標識物質として頻繁に使用される。HRPの酵素触媒反応は下式()〜(3)のように表される。
HRP(Fe3+) + H2O2 → Compound-I(Fe4+=O, P+) + H2O (1)
Compound-I (Fe4+=O, P+) + e- + H+ → Compound-II (Fe4+=O) (2)
Compound-II (Fe4+=O) + e- + H+ → HRP(Fe3+) + H2O (3)
まず過酸化水素によるHRPの補欠因子ヘムの2電子酸化が起こり、この結果、oxyferryl iron (Fe4+=O)とポルフィリンπカチオンラジカル(P+)からなる酸化数+5の反応中間体Compound-I (Fe4+=O, P+) が生成する(1)。次にCompound-I (Fe4+=O, P+)が電極から電子を受け取り、ポルフィリンπカチオンラジカルが1電子還元され、酸化数+4の反応中間体Compound-II (Fe4+=O)になる(2)。最後に、Compound-II (Fe4+=O)が電子を受け取り、もとの状態に戻る。従って、本反応系は全体として以下の式(4)、図23で示される。
H2O2 + 2e- +2H+ → 2H2O (4)
【0104】
(4-3-1)で作製した磁性電極の表面に1 mMビオチン(Thermo Scientific社製, EZ-LinkTM Sulfo-NHS-SS-Biotin)溶液3 μLを滴下し、4℃で30分間静置することで、リガンドとしてビオチンを電極表面に修飾した。ビオチン修飾した磁性電極に1mg/mL HRP標識化ストレプトアビジン(Ana Spec, Inc社製,Streptavidin, HRP Conjugated)溶液を3μL滴下し、4℃で暗室に30分間静置した。超純水ですすいだ後、これを作用極とし、対極には白金電極(1 cm×2 cm)、参照極はAg|AgClとして、250μM H2O2/PBS buffer溶液中、掃引速度10 mVs-1、掃引範囲-0.2〜+0.3 Vでサイクリックボルタンメトリーを行った (図24)。
アノードとカソードではそれぞれ0.19 Vと0.10 Vにピークが見られた。これは、HRPによる過酸化水素の酵素触媒反応内における電極表面との直接電子移動反応によるピークであると考えられる。このことから、HRP標識化ストレプトアビジンは電気化学活性を示すことが示唆された。
【0105】
金層被覆磁性樹脂粒子を用いたHRP標識化ストレプトアビジンの電気化学測定
(1)で作製したビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子により試料溶液中のHRP標識化ストレプトアビジンを捕捉して、外部磁力により電極上に金層被覆磁性樹脂粒子を集積して、過酸化水素を含むPBS buffer中でサイクリックボルタンメトリーを行った(図25)。アノードとカソードではそれぞれ0 Vと0.06 Vにピークが見られた。これは、HRPによる過酸化水素の酵素触媒反応内における、電極表面との直接電子移動反応によるピークであると考えられる。しかし、磁性電極を用いた場合(上記参照)と金層被覆磁性樹脂粒子を用いた場合とを比較すると、カソードでのピーク電流値ΔIpc (ピーク電流からベース電流を差し引いたもの)はそれぞれ20 nAと2.7 μAであり、130倍以上のピーク電流の増幅が達成された。このことから、金層被覆磁性樹脂粒子を用いることにより、高感度な電気化学計測が可能になった。
【0106】
ビオチン導入金層被覆磁性樹脂微粒子を用いたターゲット分子の検出
それぞれ標識化されたターゲットに分散させたビオチン修飾金層被覆磁性樹脂粒子を電極上に20 μLずつ滴下し、外部磁力により電極表面に金層被覆磁性樹脂粒子を集積した。金層被覆磁性樹脂粒子を集積した電極を作用極として用い、対極には白金電極(1 cm×2 cm)、参照極はAg|AgClとした。HRP標識化ストレプトアビジンの場合は、250μM H2O2/PBS buffer溶液中、掃引速度10 mV s-1、掃引範囲−0.2〜+0.3 Vでサイクリックボルタンメトリーを行った(図26)。
HRP標識ストレプトアビジンを回収した金層被覆磁性樹脂粒子を測定した場合のみ、一対の顕著な酸化還元ピークが見られた。これは、HRPによる過酸化水素の酸化還元ピークであると考えられ、この電位走査範囲では、HRP標識ストレプトアビジンのみを検出することが可能である。よってこの結果から、標識化された複数種類の抗原を一括測定し、ある特定の抗原のみを検出するといったマルチアレイ方式での測定も可能であるということが示唆された。
【0107】
以上の結果から、外部磁力により金層被覆磁性樹脂微粒子を磁性電極上に集積させることによって、検出対象物の高感度/高精度検出が可能になると理解できる。
【0108】
上記の実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書または添付図面に記載された具体的な構成のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法は、本明細書に基づいて理解される本発明の基本思想を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、理解すべきであり、当業者であれば容易に認識することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂表面を有する微粒子に金層が直接又は有機バインダの層を介して付着した金層被覆微粒子と、該金層に連結され且つ生物学的物質と特異的に結合し得るリガンドとからなることを特徴とする生物学的物質の捕獲又は分離用複合微粒子。
【請求項2】
前記金層被覆微粒子が、前記樹脂表面を有する微粒子を、有機バインダを含むか又は含まない金ナノ粒子分散液中に混合して該樹脂表面に金ナノ粒子が固定された微粒子を得、得られた微粒子を金イオン又は金錯体イオン含有溶液中、還元剤の存在下に混合することにより得られる請求項1に記載の複合微粒子。
【請求項3】
前記リガンドが、抗体、抗原、核酸プローブ、アプタマー、レクチン、グルタチオン、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金属イオンからなる群より選択される請求項1又は2に記載の複合微粒子。
【請求項4】
前記樹脂表面を有する微粒子が樹脂微粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合微粒子。
【請求項5】
前記樹脂表面を有する微粒子が磁性微粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合微粒子。
【請求項6】
試料中の生物学的物質を請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子を前記試料から遠心分離により分離することを特徴とする試料中の生物学的物質の分離方法。
【請求項7】
試料中の生物学的物質を請求項5に記載の複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子を前記試料から磁気分離により分離することを特徴とする試料中の生物学的物質の分離方法。
【請求項8】
試料中の生物学的物質を請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子に捕獲された生物学的物質の存在を、該生物学的物質に特異的に結合する別のリガンドを用いて検知することを特徴とする試料中の生物学的物質の検出方法。
【請求項9】
試料中の生物学的物質を請求項5に記載の複合微粒子に捕獲し、該複合微粒子を磁力により作用極上に集積させ、該複合微粒子に捕獲された生物学的物質の存在を電気化学的に検知することを特徴とする試料中の生物学的物質の検出方法。
【請求項10】
電気化学的検知がサイクリックボルタンメトリーにより行われる請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−242387(P2011−242387A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95014(P2011−95014)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】