説明

生物学的試料の判別方法およびその解析用キット

【課題】新規な生物学的試料の判別方法およびそれに使用される解析キットの提供によりハイスループットな実験ができ、マルチパラメーター、マルチプレックスな解析が可能になることで実験および検査の時間短縮と経費節減を実現させる。
【解決手段】測定可能なシグナルを検出することにより生物学的試料中の標的分析物質の存在を判別する方法であって、(a)個体基板上に生物学的試料、または、生物学的試料に対する特異的結合物質を固定することにより成した第1の基板と、生物学的試料に対する特異的結合物質、または、生物学的試料を含む区画を2個以上有する第2の基板とを接触するように密着させる工程と;(b)生物学的試料とその特異的結合物質との間に結合反応が起こるとした場合に該結合反応が完了するのに充分な条件下で加熱冷却および培養する工程と;(c)該加熱冷却および培養の後に生物学的試料における測定可能なシグナルを確認する工程と、を含む、ハイスループットな実験および解析方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【発明に属する技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料と特異的に反応する物質を用い生物学的試料内の多種多様な情報をハイスループットに解析する新規な方法とその解析キットに関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的試料である動植物の組織、細胞の素性を調べることは、動植物の病気の診断、治療、薬剤耐性、薬剤開発、動植物の品種改良、などをする上でますます重要となっており、たとえば免疫反応を利用し抗原の発現とその局在を観察する抗原抗体法、薬剤を細胞に暴露して毒性を検査する細胞毒性検査、薬剤耐性試験、細胞に蛋白質、核酸などを導入することで新しい薬剤、治療法などの開発など、様々な技術が開発されている。
【0003】
しかしながら、実施されている方法は、ひとつの生物学的試料に対してひとつの種類の分析、試験、検査をするのがほとんどで、現在、ハイスループット化した技術が開発されているが、多数の生物学的試料に対してひとつの反応物である場合がほとんどである。その為、多数の生物学的試料に対し多種類の反応を実施しするには時間と経費がかなりかかる。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生物学的試料の中の情報をできるだけ多く獲得し、加えてできるだけ多くの生物学的試料を同時に比較検討できる分析系を開発することが必要であり、かつ時間短縮と経費節減を実現させる為には微量反応、微量検出の方法を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記のような事情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、固体基板上に生物学的試料、または、生物学的試料に対する特異的結合物質を固定することにより成した第1の基板と、生物学的試料に対する特異的結合物質、または、生物学的試料を保持できる構造を有する第2の基板と、その第1の基板と第2の基板を密着させ生物学的試料とその特異的結合物質との間に加熱冷却および培養を含む結合反応を起こさせ、該結合反応後、生物学的試料における測定可能なシグナルを確認することにより生物学的試料中の標的物質の存在を判別することができる上記の方法とそれに使用するための解析用キットを利用することで、一度の操作で標的分析物質と特異的結合物資の結合反応を同時または個別に多数行えて、また、多数の標的物質を同時または個別に染色などの方法で標識化することで標的物質を確認することができ、また、標的分析物質に対する特異的結合物質の所要量も従来法に比べて微量ですむことで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は第1の基板(1)と第2の基板(2)(6)及びそれらを固定する器具(4)(7)とを複合的に組み合わせ使用することで生物学的試料とそれに対する特異的物質を反応させハイスループット及び解析することを特徴とし、かつ培養もできることを特徴とする。
【0007】
本発明における第1の基板(1)は、空間的に分離した領域が複数整列している基板で、生物学的試料もしくは生物学的試料と特異的に反応する物質を固定しうるに十分な面積を有する。
【0008】
本発明における第1の基板(1)の基体としては、例えばガラス、石英、プラスチックもしくはセラミック等からなるものが好ましい。より好ましくは、ガラス、更に好ましくはスライドガラスである。該基体は、微細加工された固体状態のデバイスの一部として形成されてもよい。
【0009】
本発明の第1基板(1)の空間的に分離した領域は、スポットまたは溝、ディンプルまたはくぼみ、ピット、ウェルのもの、チャンバーまたは小室の形状であってもよい。それを形成するために、例えば、ブラックインクを用いた印刷技術もしくは撥水性、疎水性の物質の組み合わせを応用したものが一般的である。また、空間的に分離した領域を明確にするために、アルファベットや数字を印刷することが適切である。
【0010】
本発明の第2の基板は、密閉型(2)と開放型(6)があり目的より使い分けることができる。
【0011】
本発明の第2の基板(2)(6)は、空間的に分離した領域が孔として複数整列している基板で、生物学的試料もしくは生物学的試料と特異的に反応する物質を単独もしくは第1の基板との組み合わせで保持できる構造を有している。
【0012】
本発明の第2の基板(2)(6)の基体は、エラストマー、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂から選ばれるいずれか1種を含む素材、あるいはそれらの複合素材で形成された基板である。
【0013】
本発明の第1の基板(1)と第2の基板(2)(6)の空間的に分離した領域の形状は、特に限定しないが、好適には円形であり、空間的に分離した領域のサイズは、特に限定しないが、好適には0.5mm〜5mmの孔が用いられ、より好適には、1.5mm〜3.5mmである。
【0014】
本発明の第1の基板(1)の領域と第2の基板(2)(6)の孔の位置は、特に限定しないが好適には同じ位置であり、空間的に分離した領域の数は、特に限定しないが2〜200個であり、好適には10〜100個、更に好適には30〜60個である。
【0015】
本発明の密閉型固定器具(4)と開放型固定器具(7)を使用することで、本発明の第1の基板(1)と第2の基板(2)(6)を固定、密着させることができ、目的によって使いわけることができる。
【0016】
本発明の固定器具の材質は、特に限定しないが、好適にはステンレスである。
【0017】
本発明の第1の基板(1)と第2の基板(2)(6)と固定、密着状態を作り出す為の器具(4)(7)を組み合わせることで、基板1と基板2に固定および保持された生物学的試料とそれと特異的に反応する物質とをそれぞれ個々に反応させることができる。
【0018】
本発明の第1の基板(1)と第2の基板(2)および固定器具(4)を組み合わせ密閉状態を形成することで簡易培養器具としての機能を発揮することができる。
【0019】
本発明における生物学的試料とは、動植物の組織切片、細胞を意味し、固定された動植物の切片および生きた培養細胞なども対象とすることができる。
【0020】
本発明における特異的結合物質とは、生物学的試料に対する、反応物を意味し、蛋白質、核酸、非ペプチド性物質、薬物、化合物などがあげられる。蛋白質としては、各種抗体、各種膜蛋白質、各種可溶性蛋白質、酵素、受容体、中間フィラメント、間質成分、ホルモン、などがあげられる。核酸物質としては、各種DNA、各種RNAなどがあげられる。非ペプチド性物質としては、脂質、糖鎖、金属などがあげられる。薬物、としては制癌剤など治療薬などがあげられる。化合物としては、除草剤などの農薬などがあげられる。
【0021】
本発明における生物学的試料と特異的結合物質との反応形態としては、抗原−抗体反応、ハイブリダイゼーション反応、酸化還元反応、エステル化反応、加水分解反応、付加反応、置換反応、重合反応、吸着反応、などがあげられる。
【0022】
本発明の生物学的試料と特異的に反応する物質を用い生物学的試料内の多種多様な情報をハイスループットに解析する方法を利用した解析用キットは、第1の基板(1)および第2の基板(2)(6)のどちらか一方に
【0019】
の生物学的試料または
【0020】
の特異的結合物質を固定、保持させ該反応
【0021】
のための試薬をセットした解析キットである。
【0023】
本発明における結果を確認する方法として、目視による直接検出方法、各種光学顕微鏡、各種電子顕微鏡、各種蛍光読取装置、各種発光読取装置、各種放射性同位元素の読取装置があげられる。
【0024】
本発明におけるシステム全体としては、本発明の第1の基板および第2の基板への生物学的試料および特異的結合物資の供給システムがあげられ、反応結果を確認する各種観察装置があげられ、観察された情報を解析する装置、その情報を処理する装置などがあげられる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例にて第1の基板(1)、第2の基板(2)(6)、固定器具(4)(7)を組み合わせた実験器具と各基板への試薬供給システム、反応結果の観察装置、その解析情報処理装置をシステムとして使用することにより、ハイスループトで、マルチパラメーター、マルチプレックス、な実験が可能であることを示す。なお、本発明は細胞の種類、分析対象、試験方法等に関して本実施例の内容のみに制限されるものではない。
【0026】
実施例1図7に示す5x10個の円の領域を有するパターンをスライドグラスに特殊インクで印刷し、領域自体が相対的に周囲より陥凹するように処理し、アレイを作成した(基板1)。その基板1の領域に、濃度を変えた薬剤を分注していった。次に、薬液を保持する機能を持つ基板2にHeLaS3を含んだ培養液を分注し、薬剤が分注された基板1を基板2に被せ固定器具(4)で密閉した。次に、薬剤と細胞を反応させ、反応を完結させるため37℃で培養した。培養完了後、染色し観察。図8は直接顕微鏡観察した画像で、結果、薬剤の濃度変化にともない個々の領域で違った細胞の形態変化が観察された。この一連の操作で、従来の操作方法において必要とされていた操作回数50回が一回で完了し、時間は30時間かかっていたものが2時間で終了し、試薬代も大幅に節約できた。
【発明の効果】
【0027】
上述のように、基板1、基板2、固定器具を複合的に組み合わせて使用し、試薬供給システム、反応結果の観察装置、その解析情報処理装置をシステムとして使用することにより、一度に多種類の標的物質に対し多種類の反応が可能となり、マルチパラメーター、マルチプレックスな解析がハイスループットに行うことができ、実験の時間の短縮と経費の削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の基板1、密閉型基板2、密閉型固定器具の分解斜視図である。
【図2】本発明の基板1、開放型基板2、開放型固定器具の分解斜視図である。
【図3】本発明の密閉型基板2の断面図である。
【図4】本発明の密閉型基板2の平面図である。
【図5】本発明の開放型基板2の断面図である。
【図6】本発明の開放型基板2の平面図である。
【図7】本発明の基板1の実際例としてのスライドグラスである。
【図8】本発明の実際例としての培養細胞顕微鏡画像である。
【符号の説明】
【0029】
1 基板1
2 密閉型基板2
3 押さえ板
4 密閉型固定器具
5 加圧用板ばね
6 開放型基板2
7 開放型固定器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定可能なシグナルを検出することにより生物学的試料中の標的分析物質の存在を判別する方法であって、
(a)固体基板上に生物学的試料、または、生物学的試料に対する特異的結合物質を固定することにより成した第1の基板と、生物学的試料に対する特異的結合物質、または、生物学的試料を含む区画を2個以上有する第2の基板とを接触するように密着させる工程と;
(b)生物学的試料とその特異的結合物質との間に結合反応が起こるとした場合に該結合反応が完了するのに充分な条件下で加熱冷却および培養する工程と;
(c)該加熱冷却および培養の後に生物学的試料における測定可能なシグナルを確認する工程と、を含む、判別方法。
【請求項2】
第2の基板における区画が孔である請求項目1に記載の方法。
【請求項3】
標的分析物質である生物学的試料が動植物の組織、細胞であり、標的分析物質に対する特異的結合物質が蛋白質、核酸、非ペプチド性物質、薬物、化学合成物である請求項目1に記載の方法。
【請求項4】
特異的結合物質の確認をする方法と、特異的結合物質に対し選択的に結合する色素、放射性同位元素などの物質を用いてシグナルを確認する請求項目1に記載の方法。
【請求項5】
請求項目3及び請求項目4を単独または複合的に使うことでひとつの生物学的試料又は多数の生物学的試料において一度に多項目を測定できる請求項目1に記載の方法。
【請求項6】
請求項目3及び請求項目4を単独または複合的に使うことで個々の生物学的試料の比較において一度に多項目を比較検討できる請求項目1に記載の方法。
【請求項7】
請求項目3及び請求項目4を単独または複合的に使い、かつ、培養ができる方法。加えて、請求項目5および請求項目6を実施することができる請求項目1に記載の方法。
【請求項8】
請求項目1記載の方法に使用される解析用キットであって、
(a)固体基板上に生物学的試料、または、生物学的試料に対する特異的結合物質を固定することにより成した第1の基板と;
(b)生物学的試料に対する特異的結合物質、または、生物学的試料を含む区画を2個以上有する第2の基板と;
(c)第1の基板と第2の基板とを接触させ密着するように工夫された器具と、
を組み合わせ、更に、前記標的分析物質とその特異的結合物質との間に結合反応が起こるとした場合に該結合反応が完了するに十分な条件下で加熱冷却および培養することが可能である前記基板と、を含む解析用キット。
【請求項9】
請求項目3を含む請求項目8の解析用キット。
【請求項10】
請求項目4を含む請求項目8の解析用キット。
【請求項11】
請求項目5を含む請求項目8の解析用キット。
【請求項12】
請求項目6を含む請求項目8の解析用キット
【請求項13】
請求項目7を含む請求項目8の解析用キット

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−230381(P2006−230381A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87033(P2005−87033)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(505107778)
【Fターム(参考)】