生物学的試料を試剤でパルスし、こうしてパルスされた試料を安定化するための装置、キット及び方法
本発明は、生物学的試料を試剤でパルスし、引き続きこうしてパルスされた試料を安定化するための装置、キット及び方法に関する。本発明は、特に免疫に関連する医学的診断の分野で使用される。本発明の一実施態様は、液状の生物学的試料を収容し、その試料を第一の物質に曝露し、引き続き核酸安定化剤に曝露するのに適した容槽であって、ここで前記容槽は、a)前記容槽内部に存在する第一の物質、b)前記安定化剤が存在する容器、c)前記容槽内部と前記容器内部との間の接続部、d)前記接続部を一時的に遮断する物的障壁
を有する。
を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断的アッセイで使用するための装置、方法及びキットに関し、かつ本発明は免疫学の分野で使用される。
【背景技術】
【0002】
概論
核酸濃度、例えばmRNA濃度を監視することは、生物学的系での試剤の効果を直接的に確認する上で有用である。例えば、ある試剤をある生物学的系に所定の長さの時間にわたって導入した場合、その系のその試剤に対する反応は、mRNA濃度を測定することによって決定できる。このことは免疫性の監視にあたり有用であって、こういった場合、例えば、その試剤は抗原であり、かつ監視されるmRNAはサイトカインmRNA、例えばインターロイキンmRNAである。
【0003】
個体から血液を採取して暫く後の時点で、ある試剤を添加しその試剤の効果を試験すると、循環外採取と試剤刺激との間で血液に種々の遅延が導入される。その遅延の間に、血液は、例えば保持される温度に応じて遅かれ早かれ化学修飾を受けうる。更に、遅延が変動するということは、連続的に採取された試料間を比較調査しても無意味ということにある。
【0004】
核酸について試験する場合に、RNAのインビトロでの不安定性、特に低い濃度のRNA又は不安定なRNAを検出する必要があるときの不安定性は大きな課題である。ほんの少しのRNAが分解されただけでも、RNA濃度の解釈は変化しうる。ある転写物は細胞中に低コピーで存在することが知られており、また他の転写物は"AUリッチ"配列を3′末端に有し、それが内因性RNAアーゼによる迅速な分解を促す。調査研究によれば、RNAは試料収集後数時間以内に迅速に著明に分解することが判っている。更に、ある種のRNAは、ひとたびその試料が収集されたら遺伝子誘導の過程を通して増大する。RNA分解とインビトロでの遺伝子誘導の両方により、インビボでの遺伝子転写物数についての評価は過小にも過大にもなる。
【0005】
従って採取された血液に対する試剤の効果を測定する場合には、当該技術での課題は、採血直後から始まり、抗原の導入後に再び始まるmRNAの分解過程を制御することである。"事前"分解が"事後"分解に影響を及ぼすことがあるので、2つの過程にミスが結合すると、ミスの可能性がより高くなり、そのミスを解明するのがより困難となる。
【0006】
当該技術でのもう一つの問題は、生物学的試料をある試剤に曝露し、引き続きその核酸分析を実施する装置の幾つかの部品についての必然性である。一般的に、試薬びん、精密分注器、冷却手段が定量測定の実施のために少なくとも必要である。試料が適切な研究設備の無いところで、例えば個人の自宅で又は基本装備による手術に際して採取されているのであれば、正確な基質の添加を実施するのに適していないか又は都合が良くないことがあり、更には冷却設備を利用できないこともある。
【0007】
試料を試剤に曝露すれば、その中の核酸、例えばmRNAを単離及び測定する方法は多数存在する。幾つかの方法は、転写物プールから低濃度の転写物の測定さえも可能にする。しかしながら、それらのいずれの方法によっても、生物学的試料中に存在する試料採取時点での転写物の濃度を測定することはできない。冷却された条件下でさえも、生物学的試料を貯蔵すると誤ったmRNA濃度に導かれる。むしろ実際には、試料採取と同じ場所で新鮮な試料を分析することはできず、RNA分析の場所は異なる場所になる。
【0008】
最近では、PreAnalytiX社(ベクトン・ディキンソン社とキアゲン社との共同事業)がPAXgene(商標)Blood RNAシステムを制作した。PAXgene(商標)Blood RNAシステム(キアゲン法とも呼ばれる)は、全血検体の回収及び安定化と細胞性RNAの単離とについての総合的な標準的システムである。PreAnalytiX社によれば、PAXgene(商標)Blood RNAシステムにおいて、血液はPAXgene(商標)Blood RNA 採血管に直接回収され、そして引き続きRNAはPAXgene(商標)Blood RNAキットを用いて単離される。このシステムを用いて、全血から無損傷の細胞性RNAを取り出すことができる。
【0009】
PAXgene(商標)Blood RNA採血管は、全血の回収と細胞性RNAプロファイルの安定化のためのプラスチック製の真空の管である。それらの管は添加剤(専売の試薬配合物)を含有し、その添加剤は細胞性RNAを安定化し、かつエクスビボでの遺伝子転写誘導をなくすことができ、かつインビトロで通常行われる細胞性RNA発現プロファイルに劇的な変化を与えないようにするものである。次いでRNAを、PAXgene(商標)Blood RNAキットに提供されるシリカゲルメンブレン・テクノロジーを用いて単離する。PreAnalytiX社によれば、得られるRNAはin vivoでの正確な発現プロファイルを示し、ダウンストリーム・アプリケーションの範囲での使用に適している。製造業者によれば、このシステムを用いて遺伝子転写物の正確な定量が可能である。PAXgene(商標)Blood RNAシステムの主な欠点は、各々のPAXgene(商標)Blood RNA採血管をPAXgene(商標)Blood RNAキットと組み合わせる必要があることである(PAXgene(商標)Blood RNA採血管の解説マニュアルを参照のこと)。しかしながら、前記の組み合わせが余儀なくされることで、このシステムの更なる改善が制約されている。
【発明の開示】
【0010】
発明の目的
本発明の目的は、生物学的試料を試剤に曝露し、このように曝露された試料中の核酸を安定化するための装置、キット及び方法を提供することである。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を得てから、その試料を試剤に曝露するまでの時間を削減する、一定にする、又はほぼ一定にする装置、キット及び方法を提供することである。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、試料を試剤に曝露してから、その試料中の核酸を安定化するまでの時間を削減する、一定にする、又はほぼ一定にする装置、キット及び方法を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を試剤に曝露するのに、試料及び/又は試剤の量を測定する必要がない装置、キット及び方法を提供することである。
【0014】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を試剤に曝露するのに、安定化剤の量を測定する必要がない装置、キット及び方法を提供することである。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を試剤に曝露し、このように曝露される試料中の核酸を安定化し、そして更なる分析のためにそこから核酸を抽出するための装置、キット及び方法を提供することである。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、前記の目的の1つ又はそれ以上の組み合わせに対処する装置、キット及び方法を提供することである。
【課題を解決する手段】
【0017】
発明の要旨
本発明の一実施態様は、液状の生物学的試料を収容し、その試料を第一の物質に曝露し、引き続き核酸安定化剤に曝露するのに適した容槽であって、
a)前記容槽内部に存在する第一の物質、
b)前記安定化剤が存在する容器、
c)前記容槽内部と前記容器内部との間の接続部、
d)前記接続部を一時的に遮断する物的障壁
を有する容槽である。
【0018】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されている容槽である。
【0019】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が固体担体上に固定化されている容槽である。
【0020】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が液体である容槽である。
【0021】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が固体である容槽である。
【0022】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、注射針による穿刺に適した1つ又はそれ以上の領域を有する容槽である。
【0023】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の領域が再封可能な隔壁である容槽である。
【0024】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、注射器を収容し、かつその内容物をその容槽内部に送出するのに適した取付具を有する容槽である。
【0025】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、注射針を収容するのに適した取付具を有する容槽である。
【0026】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、体液を採取するのに適したカニューレを有する容槽である。
【0027】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、容槽からの気体/液体の流出を最小限にすることができ、かつ容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする弁を有する容槽である。
【0028】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、排気を通過させて放出できる手段を有する容槽である。
【0029】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、該容槽が負圧下に保持されている容槽である。
【0030】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、項目d)の物的障壁が、その容槽に物理力をかけることによって開放される容槽である。
【0031】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記物理力が開放手段を前記物的障壁に送る容槽である。
【0032】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記物理力が不可逆的に前記物的障壁を開放する容槽である。
【0033】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、その容槽中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有する容槽である。
【0034】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含む容槽である。
【0035】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の免疫系抗原がワクチン成分である容槽である。
【0036】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原である容槽である。
【0037】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の免疫系抗原が、組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原、GAD65から選択される1種又はそれ以上である容槽である。
【0038】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の安定化剤が細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤である容槽である。
【0039】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在するものである容槽である。
【0040】
本発明のもう一つの実施態様は、血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされ安定化された血液試料中のRNA成分を試験する方法において、前記の容槽を使用することを含む方法である。
【0041】
本発明のもう一つの実施態様は、抗原に対する個体の免疫応答を試験するにあたり、前記の容槽であって、第一の物質が調査対象の抗原である容槽を使用する方法において、
a)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
b)場合により前記容槽を撹拌する工程、
c)所定時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、及び
d)mRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0042】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、工程d)が更に、
e)核酸を含む沈殿物を形成する工程、
f)工程(e)の前記の沈殿物を上清から分離する工程、
g)工程(f)の前記の沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
h)工程(g)の前記の懸濁液から自動装置を用いて核酸を単離する工程、
i)自動装置を用いてRT−PCR用の試薬混合物を分散/分配する工程、
j)工程(h)で単離された核酸を自動装置を用いて工程(i)の分散された試薬混合物中に分散/分配する工程、及び
k)自動化された機構で工程(j)の核酸/RT−PCR試薬混合物を用いてインビボでの転写物濃度を測定する工程
を含む方法である。
【0043】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験し、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつサイトカインmRNAの濃度を試験する方法である。
【0044】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、前記のサイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である方法である。
【0045】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、個体の抗原に対する過剰アレルゲン性を試験し、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつIL−4 mRNAの濃度を試験する方法である。
【0046】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、個体における器官移植片の拒絶反応を抗原に対して試験するにあたり、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、そしてIL−2 mRNAの濃度を試験する方法である。
【0047】
本発明のもう一つの実施態様は、血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされた安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、前記の容槽の使用である。
【0048】
本発明のもう一つの実施態様は、所定容量の血液試料を個体から前記の針又はカニューレを用いて抜き取り、前記試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされた安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、前記の容槽の使用である。
【0049】
本発明のもう一つの実施態様は、液状の生物学的試料を第一の物質でパルスし、引き続いてそこに細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する試剤を導入し、そしてこのようにパルスされた安定化された血液試料中のmRNA成分を試験するのに適したキットであって、
a)前記の第一の物質が存在する容槽、及び
b)前記の試剤が存在する容器
を有するキットである。
【0050】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽内部と前記の容器内部とが接続されており、かつ物的障壁が一時的に前記接続を遮断するキットである。
【0051】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されているキットである。
【0052】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が固体担体上に固定化されているキットである。
【0053】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が液体であるキットである。
【0054】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が個体であるキットである。
【0055】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が1つ又はそれ以上の開口部を有するキットである。
【0056】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が注射針による穿刺のために適した1つ又はそれ以上の領域を有するキットである。
【0057】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の領域が再封可能な隔壁であるキットである。
【0058】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が注射器を収容し、かつその内容物をその容槽内部に送出するのに適した1つ又はそれ以上の取付具を有するキットである。
【0059】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が皮下注射針を収容するのに適した1つ又はそれ以上の取付具を有するキットである。
【0060】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が体液を採取するのに適した1つ又はそれ以上のカニューレを有するキットである。
【0061】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が、容槽からの気体の流出を最小限にすることができ、容槽からの液体の流出を最小限にすることができ、かつ/又は容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする1つ又はそれ以上の弁を有するキットである。
【0062】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が、排気を通過させて放出できる1つ又はそれ以上の手段を有するキットである。
【0063】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が負圧下に保持されているキットである。
【0064】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、項目d)の物的障壁が、前記容槽に物理力をかけることによって開放されるキットである。
【0065】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記物理力が開放手段を前記物的障壁に送るキットである。
【0066】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記物理力が不可逆的に前記物的障壁を開放するキットである。
【0067】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽及び/又は容器がそれらの中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有するキットである。
【0068】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含むキットである。
【0069】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の免疫系抗原がワクチン成分であるキットである。
【0070】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原であるキットである。
【0071】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の免疫系抗原が、1種又はそれ以上の組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原及びGAD65から選択されるものであるキットである。
【0072】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在するものと同じものであるキットである。
【0073】
本発明のもう一つの実施態様は、個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験するための前記のキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがサイトカインmRNAであるキットである。
【0074】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記のサイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上であるキットである。
【0075】
本発明のもう一つの実施態様は、個体を抗原に対する過剰アレルゲン性について試験するための前記のキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−4 mRNAであるキットである。
【0076】
本発明のもう一つの実施態様は、個体を器官移植片の拒絶反応について試験するための前記のキットであって、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−2 mRNAであるキットである。
【0077】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、更に前記のmRNAを試験するために適した1種又はそれ以上のオリゴヌクレオチドを含むキットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
発明の詳細な説明
本発明の一態様は、生物学的試料を収容するために適した容槽であって、所定量のパルス試剤を収容している容槽に関する。
【0079】
本明細書で使用される"パルス試剤"は、生物学的試料を曝露できる任意の物質を含む。それらの物質の例は、例えばペプチド、核酸、抗原である。パルス試剤には、前記の物質の他に、他の成分、例えば安定化剤、指示薬、リンカー、マトリクス等を含んでよい。
【0080】
用語"生物学的試料"とは、核酸/生物学的因子を含有する試料、例えば臨床的試料(例えば細胞分画、全血、血漿、血清、尿、組織、細胞など)、農業環境試料(例えば土壌、泥、鉱物、水、空気)、食品試料(任意の食材)、法医学試料又は他の可能な試料を意味する。"全血"とは、静脈採集によって採集されたままの血液、すなわち白血球及び赤血球、血小板、血漿、そして可能性としては感染原因物質(該物質はウイルス性、細菌性又は寄生虫性であってよい)を含有する血液を意味する。臨床的試料はヒト由来又は動物由来であってよい。分析される試料は固体又は液体の性質の両者であってよい。固体材料が使用される場合には、まずこれらを適切な溶液(キアゲン社が販売しているRNAlater試薬であってよい)中に溶解させることは明らかである。本発明によれば、この溶液は、少なくとも2種の良く平衡化された成分を有する実際の"バッファー"とは限らない。その溶液は、NaCl単独のような強い低張液か、又はアルコールを有するような抽出溶液であってよい。
【0081】
容槽は、幾つかの様式でパルス試剤を収容することができる。本発明の一態様によれば、パルス試剤は容槽の内壁上に固定化されていてよい。容槽の内壁は、パルス試剤を結合可能にする適切なコーティングで内張りされていてよい。あるいは、パルス試剤は容槽の内壁上の一部又は全てに直接結合されていてよい。前記の結合に適したコーティング、そのための方法及びそれに適した容槽材料は当該技術において公知である。本発明のもう一つの態様によれば、パルス試剤は固体として存在する。固体は粉末、凍結乾燥ペレット、ゲル、クリームであってよい。適切な固体組成物及びそれらの製造方法は当該技術において公知である。本発明のもう一つの態様によれば、パルス試剤は固体担体上に固定化される。固体担体は容槽の内側に取り付けられていてよい。あるいは、固体担体は容槽の内側から離れていてもよい。固体担体の例は、例えばこれらに制限されないが、クロマトグラフィー担体、磁気ビーズである。本発明のもう一つの態様によれば、パルス試剤は液体として存在する。適切な液体組成物及びそれらの製造方法は当該技術において公知である。
【0082】
分析的なパルス試験を研究室の条件外で実施するには、較正測定機器、例えば分注器が必要である。非較正測定装置によるミスは固有誤差をもたらすことがあり、そしてまた計量分配における人為ミスが種々の試料の間にミスをもたらすことがあり、こうしたことが比較分析を妥当でないものにしてしまう。パルス試剤についての所定量が供給された容槽を提供することで、追加の機器の必要が無くなり、かつ人為的な測定誤差が排除される。
【0083】
本発明による容槽の型は、生物学的試料の貯蔵に適した任意の型であってよい。本発明の一態様によれば、パルス試剤を含有する容槽は封止されている。本発明の一態様によれば、パルス試剤を含有する容槽は再封手段、例えばスクリューキャップ、プッシュオンキャップ、フリップキャップを有する。例えば図5を参照のこと。本発明の一態様によれば、生物学的試料は、注射針を用いて容槽の壁部に穿刺することにより容槽中に導入することができる。容槽の壁部は穿刺後に再封可能であってよく、又は容槽の壁部は穿刺後に再封可能でなくてよく、又は容槽の壁部に再封可能な領域、例えば隔壁が設けられていてよい。例えば図4を参照のこと。
【0084】
本発明の一態様によれば、生物学的試料は、注射器の収容のため又は結合手段を備えた他の容器の収容のために容槽に取り付けられた1つ又はそれ以上の取付具によって容槽中に導入できる。例えば、容槽は、無針注射器を収容できるルアー接続部を備えていてよい。例えば図3を参照のこと。別の例では、容槽は、往復型の非ルアー設計の接続部を有する容器と嵌合しうる非ルアー接続部を備えていてよい。
【0085】
本発明の一態様によれば、生物学的試料は、個体から生物学的試料を直接採取するために適した、前記の容槽に装着されたカニューレ又は皮下針によって容槽中に導入できる。例えば図6を参照のこと。
【0086】
本発明の一態様によれば、生物学的試料は再封手段を開放することによって容槽中に導入できる。例えば図5を参照のこと。
【0087】
当業者に公知のように、試料を封止容槽中に導入することで、等容量の空気又は気体を容槽から排出させることとなるか、又は容槽中の圧力が上昇することとなる。従って、容槽には、排気をその容槽から逃がすか又は圧力上昇を吸収するのに適した手段が設けられていてよい。前記の手段は当該技術では公知であり、例えば弁、ノンドリップ孔、脱気孔、布張り脱気孔、伸縮性の容槽壁、容槽内負圧の使用である。例えば図11の矢印31を参照のこと。
【0088】
本発明の一態様において、封止された容槽内圧は負圧である。負圧を利用して、前記の封止された容槽中に生物学的試料を導入した後の圧力上昇を軽減することができる。選択的に又は追加的に、負圧は所定の水準であってよく、かつ負圧を利用して、一定容量の生物学的試料の導入を可能にすることができる。
【0089】
所定量のパルス試剤が既に供給された容槽により、前記の抗原を測定するための装置を必要とせずに、個体について診断試験を実施することが可能である。更に、診断試験を研究室の条件外で実施する場合には、コンタミネーションと計量配分精度に関する問題が定量アッセイに誤った結果をもたらすことがある。本願に記載される容槽はこれらの問題を克服している。
【0090】
本発明のもう一つの態様は、前記の容槽であって、更に安定化剤が存在する容器を有し、安定化剤とパルス試剤又はその試剤に曝露されるべき生物学的試料との接触が一時的に妨げられている容槽に関する。
【0091】
本発明の一態様において、安定化剤は、核酸安定化剤及び/又は細胞性RNA分解阻害剤及び/又は遺伝子誘導阻害剤を含み、かつ/又は安定化剤は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に認められるものと同じものである。試剤及びそれらの組み合わせは当該技術において公知であるか、又は当業者によって類推できるものである。
【0092】
PAXgene(商標)Blood RNA採血管には、細胞性RNAを安定化し、かつエクスビボでの遺伝子転写誘導をなくすことができる添加剤を含有する溶液が供給されている。この添加剤の性質を記載することで詳細な情報を提供しない。前記採血管を規定するパンフレットは、このために特許US5,906,744号を参照している。それにも拘わらず、前記特許に記載される採血管により当業者は血漿から核酸を調製することは可能であっても、本発明で実施されるような全血からは核酸を調製できない。特に、US5,906,744号の装置は、有利にはプラスチック管又はガラス管、凝血を阻害する手段及び全血から血漿を分離する手段を含む(US5,906,744号、第2欄、42〜43行目)。従って、本発明によれば、US5,906,744号に記載される内容はPAXgene(商標)Blood RNA採血管の実際の内容に関するものではなく、異なった使用に関連するものである。
【0093】
本発明によれば、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に保持される溶液は四級アミン界面活性剤を含有してよい。従って、本発明によれば、四級アミン界面活性剤を安定化剤として使用できる。生物学的試料中の核酸を安定化するために四級アミン界面活性剤を使用することは以前にUS5,010,183号に記載されている。前記特許は、生物学的材料の混合物からDNA又はRNAを精製するための方法を提供している。前記方法は、カチオン系界面活性剤をRNA又はDNAを含有する混合物へと、細胞を溶解し、該混合物中の全ての不純タンパク質及び脂質を溶解させ、かつ核酸と界面活性剤とで不溶性の疎水性複合体を形成するのに十分な量で添加する工程を含む。RNA又はDNAと界面活性剤とを含む複合体は、こうして可溶化された不純物から分離されることとなる。より最近の特許において、同一発明者は、US5,010,183号に記載の界面活性剤と他の市販の界面活性剤とを使用すると、RNAの沈殿が不十分となり、そして血液細胞の溶解が不完全となることを示している。このために改善されたカチオン系界面活性剤が必要とされていたので、US5,010,183号の発明者は、選択された四級アミンを含有するカチオン系界面活性剤水溶液の使用を伴う、血液を含む生物学的試料からRNAを単離するための新規の方法について調査した(US5,985,572号)。新規の水性の四級アミン界面活性剤は生物学的試料からのRNAを安定化でき、これはまたWO94/18156号及びWO02/00599号にも記載されている。本発明のいずれかの方法で使用できる種々の可能な界面活性剤の合成は、前記の特許又は関連特許で公開された解説に従って実施できる。本発明の方法で使用できる四級アミンの一例は、テトラデシルトリメチル−アンモニウムシュウ酸塩である。(US5,985,572号)。選択的に、前記のカチオン系界面活性剤は、本発明の実施例1に示されるCatrimox−14TM(US5,010,183号)であってよい。前記の生物学的試料の安定化の他に、前記出願はカラムクロマトグラフィーのような慣用の分離技術を用いた核酸の単離を記載している。PAXgene(商標)Blood RNA採血管はPAXgene(商標)Blood RNAキット(カラムクロマトにもかける)と組み合わせることを余儀なくされるので、製造業者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在する化合物は前記のクロマトグラフィー法と共存できるに過ぎないとの印象を与えている。
【0094】
本発明の一態様において、安定化剤は、生物学的試料がパルス試剤と混合され、かつ/又は利用者が安定化剤の導入を必要とする時点まで前記の容器中に収容されている。
【0095】
本発明の一態様によれば、前記の容器の内部と前記の容槽の内部とは接続されており、その接続を遮断する物的障壁が存在する。適切な時に、力の印加で物的障壁を開放し、安定化剤と生物学的試料とを混合して、パルスすることができる。本発明の一態様によれば、物的障壁は印加される物理力により可逆的に開閉する。印加される力は物的障壁それ自体に伝わるか、又は安定化剤を介して物的障壁に伝わってもよい。かかる物的障壁の例は、例えば回転弁、開放弁、スリット弁、ダイヤフラム弁、ボール弁、フラップ弁である。本発明のもう一つの態様によれば、物的障壁は力の印加によって不可逆的に開放されてよい。印加される力は物的障壁それ自体に伝わるか(例えば図7を参照のこと)、又は安定化剤を介して物理障壁に伝わってもよい(例えば図8を参照のこと)。かかる物的障壁のもう一つの例は、例えばポジションから押し出される栓(例えば図1を参照のこと)、力の印加により破砕する障壁(例えば図7を参照のこと)である。
【0096】
本発明のもう一つの態様によれば、前記の容器の内部と前記の容槽の内部とは接続されていて、かつ容器から容槽への安定化剤の流動は、接続部の開口寸法と組み合わさった安定化剤の表面張力によって妨げられている。本発明の前記の態様によれば、適切な時に、力は印加することで安定化剤に伝わり、安定化剤は容器から容槽中へと押し出される。その力は、例えば圧搾、連続的な反転及び撹拌によって印加することができる。
【0097】
本願に記載される容槽は、安定化剤を計量分配するための容器を含むことで、経験を積まない技術者にも血液試料のパルスを可能にし、そして後続段階で熟練技師による分析のためにパルスされる血液を安定化することを可能にする。こうして、多くの試料を回収する必要がある場合に、本明細書に開示される容槽はコスト削減を可能とする。それというのも不熟練作業者を使って、血液をパルスし、かつ安定化することができるからである。更に、該容槽は再現性を可能にする。それというのも、既知量のパルス試剤と安定剤とを事前にその容槽中に供給しておくことができるので、分注作業に関連するミスを最小限にすることができるからである。更に、生物学的試料を採取する時から、その試料をパルスする抗原に曝露する時までの時間が大きく削減される。それというのも、試料は前記の管中に直接引き込むことができるか、又は例えば注射器を介して抜き出すことができるからである。更に、生物学的試料をパルスする時と生物学的試料を安定化する時の間の時間を正確に設定できる。それというのも、安定化剤を試料へと導入することは、力の印加によって簡単に達成されるため、安定化剤を分注することによる遅延が生じないからである。
【0098】
本発明のもう一つの実施態様は、生物学的試料をパルス試剤でパルスし、引き続いてそこに安定化剤を導入し、かつこうしてパルスされた生物学的試料中のRNA成分を試験するために適したキットであって、前記の1つ又はそれ以上の容槽と、安定化剤が中に存在する1つ又はそれ以上の容器とを有するキットである。
【0099】
キットの一実施態様において、前記の安定化剤が中に存在する容器は、パルス試剤が中に存在する容槽に接続されていない。このように容器は隔離されていてよく、かつキット中に安定化剤を収容するのに適した当該技術のいかなる容器であってよい。容器は、再封手段、例えばスクリューキャップ、プッシュオンキャップ、フリップキャップを有してよい。容器はブレーカブルシール、例えば引き剥がし接着シール、スナップオフシールを有してよい。容器は、容槽に嵌合される相互接続手段の取付と、前記容槽へと安定化試剤を移送するためとに適した1つ又はそれ以上の取付具を有してよい。例えば、容器は前記の容槽に取り付けられた相互ルアー取付具を収容できるルアー取付具を備えていてよい(例えば図9、図10、図11を参照のこと)。別の例では、容器は、往復型の非ルアー設計の接続部を有する容槽と嵌合しうる非ルアー接続部を備えていてよい。安定化剤は、容槽の再封手段を開放することによって移送することができ、安定化剤は前記の取付具又は開口部を介して容器から出ることもできる。容器は場合により、安定化剤が出ていくうちに空気を入れることを可能にする手段を有してよい。本発明の一態様において、容器は、安定化剤をその容器から押し出す手段を有してよく、例えばこれらに制限されないが注射器型のプランジャー、圧搾可能な容器壁である。容器は、場合により計量分配される安定化剤の容量を測定する測定手段、例えば計量装置を有している。本発明の一態様において、容器は一回用に十分な安定化剤容量を収容する。本発明の一態様において、容器は複数回のパルス試験に十分な安定化剤容量を収容する。
【0100】
キットのもう一つの実施態様において、安定化剤が存在する容器は、パルス試剤が存在し、実施態様が前記のものである容槽に接続されている。
【0101】
場合により、本発明のキットは、生物学的試料をパルスする方法の説明を含む解説マニュアルを有していてよい。
【0102】
本発明のもう一つの態様は、本明細書に開示される容槽を有し、パルス剤が抗原を含む容槽とキットに関する。本発明の一態様によれば、抗原は細菌性LPSである。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は免疫応答想起抗原である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は破傷風毒素である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は癌免疫療法抗原である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はMAGE−3である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はネコアレルゲンである。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はFeld1である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は器官ドナー由来の抗原提示細胞である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は自己抗原である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はGAD65である。
【0103】
本発明のもう一つの態様は、生物学的試料を抗原でパルスし、引き続いてその中の核酸を安定化し、そしてこうしてパルスされた安定化している生物学的試料中のRNA成分を試験する方法に関する。該方法は、場合により試料を回収し、パルスし、かつ安定化するための、本願に開示される容槽及び/又はキットの使用を含む。
【0104】
本発明の一実施態様において、生物学的試料をパルスする方法は、
i)前記の容槽中に生物学的試料を導入する工程、
ii)場合により前記容槽を撹拌する工程、
iii)所定の時間後に前記容槽中に安定化剤を導入する工程、及び
iv)その中の核酸濃度を試験する工程
を含む。
【0105】
本発明のもう一つの実施態様は、個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験する方法において、前記の容槽であって、パルス試剤が調査対象の抗原である容槽を使用し、かつ
a)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
b)場合により前記容槽を撹拌する工程、
c)予定された時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、
d)サイトカインmRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0106】
本発明の一態様によれば、サイトカインはIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である。
【0107】
本発明のもう一つの実施態様は、抗原に対する過剰アレルゲン性について個体を試験する方法において、前記の容槽であって、パルス試剤が調査対象の抗原である容槽を使用し、かつ
e)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
f)場合により前記容槽を撹拌する工程、
g)予定された時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、
h)IL−4 mRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0108】
本発明のもう一つの実施態様は、器官移植片の拒絶について個体を試験する方法において、前記の容槽であって、パルス試剤がドナーの組織適合抗原である容槽を使用し、かつ
i)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
j)場合により前記容槽を撹拌する工程、
k)予定された時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、
l)IL−2 mRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0109】
本発明のもう一つの態様は、生物学的試料を抗原でパルスし、引き続いてその中の核酸を安定化し、そしてこうしてパルスされ安定化している生物学的試料中のRNA成分を試験する方法において、
A)前記のキット、装置及び/又は方法を用いて、前記生物学的試料をパルス試剤でパルスし、そしてそこにinhibitingRNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を添加する工程、
B)核酸を含有する沈殿物を形成する工程、
C)工程(B)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
D)工程(C)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成する工程、
E)工程(D)の前記懸濁液から自動化装置を用いて核酸を単離する工程、
F)自動装置を用いてRT−PCR用の試薬混合物を計量分配/分配する工程、
G)工程(E)で単離された核酸を自動装置を用いて工程(F)の計量分配された試薬混合物中に計量分配/分配する工程、及び
H)自動化された機構で工程(G)の核酸/RT−PCR試薬混合物を用いてインビボでの転写物濃度を測定する工程
を含む方法に関する。
【0110】
生物学的試料採取時点でのRNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害は、インビボでの転写物濃度の測定に使用できるRNAのプールを得るために重要である。細胞性RNAはPAXgene(商標)Blood RNAシステムを用いてその完全な形で精製することができるが、本発明は、このシステムを"そのまま"使用して実際のインビボでの濃度を測定できないことを示している(参照:実施例2)。
【0111】
本発明は、インビボでの核酸転写物の濃度は、細胞外及び/又は細胞内RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を用いて安定化された生物学的試料から調製されたRNAのプールから出発して、核酸の単離を自動装置を用いて実施し、RT−PCR反応のために使用される試薬混合物と単離された核酸とを自動装置を用いて計量分配し、そして転写物濃度の測定を自動化された機構で実施する場合にのみ測定/決定/定量できることを示している。本発明によれば、このアプローチのみが再現的にインビボでのRNAの定量を可能にする。前記の方法で実施される工程数は最低限に削られて、ミスが避けられる。"ミス"は分注ミス、取扱ミス、手順ミス及び/又は計算ミス又は当業者によってなされうる任意のミスでありうる。この点で、本発明はRTとPCR反応を一工程で実施することを提案している。本発明の方法は、より多くの中間工程を一緒にすれば、更により正確になる。例えば本発明の方法では、工程(A)と(B)を一緒にすることができる。
【0112】
本発明のもう一つの態様では、核酸の計量分配(工程(G))は、RT−PCRに必要な試薬混合物の計量分配(工程(F))の後、その前又はそれと同時に実施してよい。
【0113】
本発明の方法によれば、核酸濃度の計算で生ずるミスを排除するのにOD測定は必要ない。それに対して、完全なPAXgene(商標)Blood RNAキットの使用は、OD測定を使用する必要がある。このことはまた、本発明による方法は前出のシステムと比較してより信頼性が高くかつより正確な方法であることを説明している。本発明のより良好な精度は、表1に示される再現性調査によって説明される。
【0114】
本発明のもう一つの態様では、本発明による方法の工程(D)で形成される沈殿物を溶解された場合に、得られる懸濁液は、完全に自動化されたRNA抽出法と分析法と組み合わせて使用できる。それは、実施される方法の正確な最適化と再現性を可能にし、かつパルス後のRNA濃度の正確かつ再現的な測定を可能にする唯一の組み合わせである。PAXgene(商標)Blood RNAシステムのパンフレットが、相応の採血管を他の単離法と組み合わせて使用できないと記載しており、そして種々のキットの組成物を記載する詳細な情報を得ることができないので、当業者には、PAXgene(商標)Blood RNAシステムの一部を使用して、そこから新規の方法を開発することは自明ではない。
【0115】
完全に自動的にRNAの単離を可能にする市販のシステムは幾つかしか存在しない。かかる自動化された核酸抽出器の例は:MagNa Pure LCインスツルメント(ロシュ・ダイアグノスティクス社)、AutoGenprep 960(オートジェン社)、ABI Prism(商標)6700全自動核酸ワークステーション(アプライドバイオシステムズ社)、WAVE(登録商標)核酸解析システムと別売りのWAVE(登録商標)フラグメントコレクターFCW200(トランスジェノミック社)及びBioRobot 8000(キアゲン社)である。
【0116】
本発明は、これらの全てのシステムについて、できる限り新鮮であるか又は安定化された材料から出発して、パルスした後に、RNA分解が最低限で転写物濃度を測定できることが必須であるということを指摘している。これらの全てのシステムに関する問題は、生物学的試料が回収され、かつ添加剤を含有しないか又は慣例の添加剤しか含有しない採取管中で研究所に持ち込まれるので、mRNAはなお迅速に分解されうるということである。従って、これらの方法を用いたmRNA定量化は採取管中に存在する転写物の定量化は確実にもたらすが、この定量化は、試料採取時点で細胞/生物学的因子中に存在した転写物濃度を表すものではない。この実験的証拠を本発明の実施例1の図13.2に示す。
【0117】
用語"定量化"とは、RNAコピー数の正確かつ再現的な測定を意味するが、当業者には、本発明によって記載される方法により単離されたRNAを用いて定性的又は半定性的な調査も実施できるということは問題にならない。
【0118】
定義"転写物"はメッセンジャーRNA(mRNA)に制限されずに、当業者によって存在が知られる他の種類のRNA分子に関するものでもある。本発明の方法によれば、mRNA並びに全RNAを取り出すことができる。このことは、インビボでの核内RNAの正確な定量を可能にし、こうして遺伝子転写を評価するのに強力なツールがもたらされる。
【0119】
用語"核酸"は一本鎖又は二本鎖の核酸配列を指し、前記核酸はデオキシリボヌクレオチド(DNA)又はリボヌクレオチド(RNA)、RNA/DNAハイブリッドからなってよく、又は増幅されたcDNA又は増幅されたゲノムDNA又はそれらの組み合わせであってよい。本発明による核酸配列は当該分野で知られる任意の修飾ヌクレオチドを有してもよい。
【0120】
本発明によれば、核酸は生物学的試料中に細胞外又は細胞内で存在してよい。
【0121】
本発明の工程(C)における沈殿物の上清からの"分離"は、遠心分離、濾過、吸収又は当業者に公知の他の手段を介して実施してよい。前記の沈殿物は、例えば細胞、細胞/破片、核酸又はそれらの組み合わせであってよい。構想の根本となることは、核酸含有因子(又は生物学的因子)を外的な要因/パルス/シグナルとの接触から阻止することである。これは、核酸含有因子を固定化、溶解及び/又は分解することによって、又は当業者に公知の他の手段によって実施できる。
【0122】
本発明の方法の工程(D)で使用されるバッファーは、前記の方法の工程(C)で得られる沈殿物を溶解させるバッファーであってよい。このバッファーは、核酸含有因子の溶解又は更なる溶解のような付加的な効果を有してよい。
【0123】
使用される"自動装置"は自動分注装置又は指示された働きを実施するために適した当業者に公知の別の自動装置であってよい。
【0124】
"RT−PCR用の試薬混合物"とは、RTとPCRの同時の反応のために必要な全ての試薬を意味する(但し、明示される場合にはオリゴヌクレオチドは除く)。本発明によれば、"オリゴヌクレオチド"は、例えばプライマー又はプローブ中に見いだされる短鎖の核酸を含むことができる。本発明によれば、この方法はマイクロアレイ又はRNアーゼ保護アッセイと組み合わせて使用することができる。
【0125】
既に指摘したように、血液のような生物学的試料の貯蔵はmRNA濃度の誤測定に導く。むしろ実際には、新鮮な試料の分析は試料採取と同じ場所で実現できず、RNA分析の場所は異なる場所である。本発明による方法は、生物学的試料を離れた場所から適切な研究室へと、インビボでの転写物含量にいかなる影響も与えずに輸送することを可能にする。生物学的試料の輸送は、本発明の方法における工程(A)又は工程(B)の後に実施できる。
【0126】
通常、血液試料を使用する場合は、好ましくは赤血球細胞が核酸の単離前に排除される。赤血球細胞はヘモグロビンに富み、そして存在は非常に粘性の溶解物の生成をもたらす。従って、これらの除去により、より改善された様式で核酸の単離が可能となる。しかしながら、本発明の方法では、この工程は、核酸を含有し、それらを生物学的試料の他の全ての成分から隔離する不溶性の沈殿物を直ちに形成するので排除される。このことは、他の利点に加えて、本発明の方法が殆どの先行技術法と比較して優れた方法であることを説明している。
【0127】
本発明によれば、本発明の方法の工程(D)で使用されるバッファーはチオシアン酸グアニジン含有バッファーであってよい。
【0128】
本発明の実施例では、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中で形成される沈殿物は、MagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)によって提供される溶解バッファー中に溶解される。従って、本発明においては、本発明の方法で使用できる可能なバッファーの1つはMagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)によって提供されるチオシアン酸グアニジン含有バッファーである。
【0129】
MagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)は、特に全血、白血球細胞及び末梢血リンパ球から高品質かつ未分解のRNAを単離することを保証するのにMagNA Pure LCインストルメントで使用するために設計されている。その製品説明によれば、得られたRNAは高感度の定量的なライトサイクラーRT−PCR反応並びに標準的なブロックサイクラーRT−PCR反応、ノーザンブロッティング用途及び他の標準的なRNA用途のために適している。それにもかかわらず、本発明は、この方法の"そのまま"での使用は正確な転写物濃度の測定をもたらし得ないということを示している。本発明は、RNAはRNA単離前に安定化する必要があることを示している(実施例1を参照のこと)。本発明は、RNA安定化化合物と自動化された単離/解析手法との使用の独自な組み合わせを記載している。
【0130】
本発明によれば、MagNA Pure LC mRNA単離キットIによって提供されるバッファーのような溶解バッファー中に工程(D)の沈殿物を溶解させたら、本発明の方法は引き続きMagNA Pure LC mRNA単離キットIについて記載されるような手順を行ってよい。試料を溶解バッファー中でカオトロピック塩の存在で溶解させた後に、ストレプトアビジン被覆された磁気粒子をビオチン標識されたオリゴdTと一緒に添加し、そしてmRNAはその粒子表面に結合する。これに引き続いてDNアーゼ消化工程を行う。次いでmRNAを結合されていない物質から磁気を用いて分離して、数回洗浄工程を行う。最後に、精製されたmRNAを溶出させる。この単離キットにより、"放っておける"システムとして純粋なmRNAの自動的な単離が可能となる。遺伝子発現分析に関する全ての主要なダウンストリーム・アプリケーションに適した高品質で高い完全性のmRNAを単離することができる。使用される試料材料に依存して種々のプロトコールが提供される。試料はMagNA Pure LCインストルメントのステージ上に直接セットすることができる。全血を使用する場合に、試料中に存在する細胞は好ましくは手動で溶解される。次いでmRNA単離を先送りするか、又は直接的に前記インストルメント上で更に処理してよい。
【0131】
本発明は、実施例において、MagNA Pure LCインストルメント(ロシュ・ディアグノスティクス社、モレキュラーバイオケミカルズ社)を本発明による方法の工程(E)、工程(F)及び/又は工程(G)における自動装置として使用することにより、パルス試剤に曝露した後に転写物の正確な濃度を測定するのに使用できるRNAのプールの生成がもたらされることを示している。RNA捕捉ビーズ、例えばストレプトアビジン系又は同等の系を介してオリゴdTで被覆された磁気ビーズを本発明の方法で利用して、mRNAを細胞破片から分離することができる。
【0132】
あるいは、本発明によれば、他の自動装置、例えばABI Prism(商標)6700全自動核酸ワークステーション(アプライドバイオシステムズ社)又はこのために使用できる任意の他の自動装置を使用できる。
【0133】
MagNA Pure LC mRNA単離キットI(カタログ番号3004015)のパンフレットには、このキットで使用されるバッファーの組成の詳細は述べられていない。従って、当業者には、このキットによって提供されるバッファーが、PAXgene(商標)Blood RNA採血管の方法によって得られるペレットを溶解できることを推測することが自明ではない。更に、当業者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管のパンフレットによって提供される情報に基づくと、これらの採血管が相応のPAXgene(商標)Blood RNAキットと組み合わせることしかできないと明記されているので両方の方法を組み合わせることはない。
【0134】
前記に指摘したように、血液試料を使用する場合には、赤血球細胞は好ましくは本発明の方法において工程(A)の後に溶解される。MagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)の設計では、mRNAを白血球細胞から単離する前に赤血球細胞を溶解させて、排除する可能性がある。それにも拘わらず、この工程のため、試料はmRNA分解を避けるに十分に迅速に処理できない。本発明者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に含まれる安定化剤とMagNA Pure mRNA単離キットとを組み合わせてMagNA Pureインストルメントにおいて使用するという結論に達した。PAXgene(商標)Blood RNA採血管を使用することにより核酸の沈殿が得られるが、それはMagNA Pure mRNA単離キットの溶解バッファー中に可溶であると想定されていない。それにも拘わらず、本発明者はその使用が実際に可能であることを見いだした。前記の知見に従って、本発明者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中の安定化剤の使用と自動化されたRNA単離システムの使用を組み合わせた。本発明者は、驚くべきことに、この組み合わせが可能であり、そしてこの組み合わせが生物学的試料から正確にmRNAを定量化するための強力な手法を提供することを見いだした。
【0135】
本発明による方法を用いて単離されたRNAは、例えば核酸増幅技術、例えばRT−PCR及びNASBA(登録商標)、発現アレイ分析及び発現チップ分析、定量RT−PCR、TaqMan(登録商標)技術、cDNA合成、RNアーゼ保護及びS1ヌクレアーゼ保護、ノーザン分析、ドット・スロットブロット分析及びプライマー伸長を含む広範なダウンストリームアプリケーションですぐに使用できる。
【0136】
本発明者は、本発明の実施例1と実施例2において、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物と自動化されたRNA単離法及び自動化された分析法、例えばリアルタイムPCRとを組み合わせて使用することで、転写物のインビボでの濃度を測定できることを示した。それにも拘わらず、本発明によれば、リアルタイムPCR以外の分析方法も、それらが自動化された機構で提供される限りは利用できる。
【0137】
本発明による方法の主な利点は、本方法を用いることによって試料の容量が少なくても分析できることである。このことは、少量でさえ利用できる場合、例えば新生児の血液試料を分析する場合又は失血が多い場合に主に重要である。本発明によれば、RNA定量化は、100μl程度の少量の生物学的試料を用いて実施することができる。100μl程度の少量の試料からRNAを分析することはキアゲンのキット(PAXgene(商標)Blood RNAシステム)では不可能であり、これにはより多量の血液が必要とされる(キットのハンドブックによれば2.5ml)。
【0138】
前記のように、本発明の一態様は、生物学的試料をパルス試剤でパルスし、引き続いてこうしてパルスされた生物学的試料からの核酸を安定化させるのに適したキットである。本発明のもう一つの態様では、前記キットは、安定化され、パルスされた生物学的試料から定量化可能なRNAを単離するための追加成分を含む。本発明の一態様によれば、該キットは、追加成分、例えば
− 自動化されたRNA単離のための試薬、
− 自動化された計量配分が可能な、RT反応とリアルタイムPCR反応の同時の反応のための試薬混合物又前記混合物の別個の化合物、
− 場合により、前記RT−PCR反応を実施するための特異的なオリゴヌクレオチド、及び
− 自動化されたRNA単離のための方法、試薬混合物とRT−リアルタイムPCRのための単離された核酸の自動化された計量配分のための方法並びに自動化されたRNA分析のための方法を説明する解説マニュアルを含んでよい。
【0139】
本発明の実施例で、本発明者は、ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社製の"ライトサイクラーmRNAハイブリダイゼーションプローブキット"(カタログ番号3018954)を利用して、一工程でRT−PCR反応を実施する。必要な全ての試薬はこのキットに含まれているが、オリゴヌクレオチドは除く(これらはバイオソース社によって合成される)。それにも拘わらず、本発明に記載されるリアルタイムPCRは他の機器、例えばアプライドバイオシステムズ社製の機器でも実施できる。該キットは更にバッファー、例えばチオシアン酸グアニジン含有バッファーを含み、該バッファーは本発明による方法の工程(b)で使用できる。
【0140】
本発明による方法は、生物学的試料中のDNA(二本鎖又は一本鎖)の定量化/検出のために使用することもできる。従ってまた、本発明は、生物学的試料からDNAを定量化するために、本発明によるRNAの定量化のために実施される方法を用いる方法において、RT反応を省き、そして工程(a)の化合物がDNAの分解をも保護する方法に関する。これらの核酸はRNAよりも安定なので、その安定化はRNAに関するよりも重要ではない。
【0141】
加えて、本発明は、生物学的試料から定量化可能なDNAを単離するための本発明によるキットであって、前記RT反応を実施するための試薬混合物/化合物が存在しないキットに関する。生物学的試料中で正確なDNA濃度を測定する必要がある状況とは、生物学的試料中での不測の遺伝子、病原又は寄生物による感染/汚染の"存在"を決定すること、及び/又は前記の感染/汚染の"程度"を決定することでありうる。例えば本方法を使用して、穀物ロット中の遺伝子導入物の割合を決定できる。
【0142】
また本発明は、一定の疾病を診断するために、ある試剤でパルスした後に、生物学的試料中の生物学的指標のインビボでの核酸の変化を監視/検出するために、本発明による装置、キット及び方法を使用することに関する。
【0143】
また本発明は、ある疾病を治療するための医薬品の製造のために使用される化合物をスクリーニングするために、ある試剤でパルスした後に、生物学的試料中の生物学的指標のインビボでの核酸の変化を監視/検出するために、本発明による装置、キット及び方法を使用することに関する。従ってまた、本発明は本発明による方法によって同定可能な化合物に関する。
【0144】
本願に開示される装置、キット及び方法を使用して、疾病を治療及び/又は診断することができる。治療されるべき又は診断されるべき疾病の例は免疫関連疾病である。本発明によれば、免疫関連疾病の例は、自己免疫病、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、1型糖尿病、癌(例えば癌免疫療法での)、免疫不全(例えばAIDSにおける)、アレルギー、移植片拒絶又は対宿主性移植片病(GVHD)(例えば移植における)であってよい。本願に開示される実施例は、前記の利用を詳説するものである。従って、免疫調節化合物又は免疫調節剤は前記の疾病の1つに作用しうる;免疫関連転写物又はエピトープ特異的なCTL関連転写物又はTヘルパーリンパ球関連転写物の変化は前記の疾病の1つの存在及び/又は状態並びに前記の疾病の1つの状態を説明できる免疫学的状態を示すことができる。
【0145】
前記の免疫関連疾病の研究のために、本発明の装置、キット及び方法を用いて定量化できる核酸は、例えばケモカイン、サイトカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、転写因子、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド、アポトーシスマーカー、イムノグロブリン、T細胞受容体及び、既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化又は阻害に関連する任意のマーカーをコードする核酸であってよい。
【0146】
本発明によれば、前記核酸は、マーカー、例えばIL−1ra、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−9、IL−10、IL−12p35、IL−12p40、IL−13、TNF−α、IFN−γ、IFN−α、TGF−β及び、免疫応答に必要又は不必要な任意のインターロイキン又はサイトカインをコードしてよい。ハウスキーピング遺伝子、例えばβ−アクチン又はGAPDH(グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ)は内部マーカーとして使用することができた。
【0147】
本発明によれば、前記のエピトープ特異的なCTL関連の転写物又はTヘルパーリンパ球関連の転写物は、サイトカイン、サイトカイン受容体、細胞毒素、炎症メディエーター又は抗炎症メディエーター、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド、Gタンパク質結合受容体及びそれらのリガンド、チロシンキナーゼ受容体及びそれらのリガンド、転写因子及び細胞内シグナル伝達経路に必要なタンパク質をコードする核酸である。
【0148】
本発明によれば、前記核酸は、グランザイム、パーフォリン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、イムノグロブリン及びイムノグロブリンスーパーファミリー受容体、Fas及びFasリガンド、T細胞受容体、ケモカイン及びケモカイン受容体、プロテインチロシンキナーゼC、プロテインチロシンキナーゼA、シグナル伝達物質並びに転写活性化因子(STAT)、NF−kB、T−bet、GATA−3、Oct−2の任意のもののマーカーをコードしてよい。
【0149】
また本発明は、真核細胞、原核細胞、ウイルス、ファージ、寄生生物、薬物(天然抽出物、有機分子、ペプチド、タンパク質、核酸)、内科療法、ワクチン及び移植片からなる群から選択できる免疫調節化合物を検出/監視/スクリーニングするための、本発明による装置、方法又はキットの使用を記載している。かかる方法の使用は単一の化合物の検出/監視/スクリーニングに制限されるものではない。物質群の相乗効果も研究することができる。
【0150】
また本発明は、エピトープ特異的なCTL転写物又は免疫関連転写物の検出/監視のための、前記の装置、キット及び方法のいずれかの使用に関する。
【0151】
また本発明による装置、キット及び方法は、免疫状態の調節の影響を受けやすい薬物/治療/ワクチンで患者を治療した後のインビボでの免疫学的応答を監視するためにも利用できる。本発明によれば、免疫調節薬又は免疫調節治療又はワクチン(治療的ワクチン又は予防的ワクチン)による療法又はそれらによる臨床試験に登録された患者の全血中に前記の方法を用いてサイトカインmRNA(これはケモカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、アポトーシスマーカー又は既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化に関連する任意のマーカーにまで拡張できる)を検出することを用いて、該療法の効力、安全性及び/又は可能性のある副作用を評価することができる。
【0152】
また本発明は、免疫系に作用する疾病(癌、自己免疫疾病、アレルギー、移植片拒絶、GVHDなど)の診断/予知のためにインビボでの免疫学的状態を検出するための装置、キット及び方法に関する。
【0153】
本発明によれば、免疫系に直接又は間接的に作用する疾病を患う患者の全血において、診断又は予知する(adress)目的で前記方法を用いてサイトカインmRNA(これはケモカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、アポトーシスマーカー又は既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化に関連する任意のマーカーにまで拡張できる)が検出される。
【0154】
また本発明は、被検体の免疫学的状態を調節できる試剤をエピトープ特異的なCTLの分析を介して同定する方法において、
(a)免疫調節剤を被検体に適用する工程、
(b)前記被検体から全血を採取する工程、
(c)工程(b)の全血試料中に存在する血液細胞を前記の装置を用いて、工程(a)で適用されたのと同一の/類似の及び/又は異なる免疫調節剤でパルスする工程、
(d)工程(c)のパルスされた血液細胞又は工程(b)のパルスされていない血液細胞を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を含有する管中に採集する工程又はパルスされた細胞/パルスされていない細胞に前記化合物を添加する工程、
(e)核酸を含有する沈殿物を形成させる工程、
(f)工程(e)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
(g)工程(f)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
(h)工程(g)からの前記懸濁液から自動化された装置を用いて核酸を単離する工程、
(i)RT−PCR用の試薬混合物を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(j)工程(h)で単離された工程(i)の計量分配された試薬中の核酸を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(k)エピトープ特異的なCTL関連転写物のインビボでの濃度を工程(j)の分配された溶液中で自動化された機構において検出/監視/分析する工程、及び
(l)前記被検体の免疫学的状態を調節できる試剤を同定する工程
を含み、工程(a)の試剤が既に被検体中に存在する場合には工程(a)を省く方法を説明している。また本発明は、少なくとも前記の工程(c)の実施を可能にする成分を含むキットに関する。該キットは、実施されるべき他の一工程以上を可能にする追加的な試薬及び解説書を含んでよい。本願になされる開示は、所望のキットを構成するのに必要な成分を熟練者に指示するものである。
【0155】
本発明によれば、免疫調節剤は疾病の場合に又は前記被検体に移植片が存在する場合に存在してよい。本発明において、"エピトープ特異的なCTL関連転写物"は、サイトカイン、サイトカイン受容体、細胞毒素(例えばグランザイム、パーフォリンなど)、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド(例えばFas及びFasリガンド)又は他の細胞性受容体をコードする転写物であってよい。
【0156】
また本発明は、被検体の免疫学的状態を調節できる試剤を同定する方法において、
(a)免疫調節剤を被検体に適用する工程、
(b)前記被検体から全血を採取する工程、
(c)工程(b)の全血試料中に存在する血液細胞を前記の装置又はキットを用いて、工程(a)で適用されたのと同一の/類似の及び/又は異なる免疫調節剤でパルスする工程、
(d)工程(c)のパルスされた血液細胞又は工程(b)のパルスされていない血液細胞を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を含有する管中に採集する工程又はパルスされた細胞/パルスされていない細胞に前記化合物を添加する工程、
(e)核酸を含有する沈殿物を形成させる工程、
(f)工程(e)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
(g)工程(f)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
(h)工程(g)からの前記懸濁液から自動化された装置を用いて核酸を単離する工程、
(i)RT−PCR用の試薬混合物を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(j)工程(h)で単離された工程(i)の計量分配された試薬中の核酸を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(k)免疫関連転写物のインビボでの濃度を工程(j)の分配された溶液中で自動化された機構において検出/監視/分析する工程、及び
(l)前記被検体の免疫学的状態を調節できる試剤を同定する工程
を含み、工程(a)の試剤が既に被検体中に存在する場合には工程(a)を省く方法に関する。
【0157】
また本発明は、少なくとも前記の工程(c)の実施を可能にする成分を含むキットに関する。該キットは、実施されるべき他の一工程以上を可能にする追加的な試薬及び解説書を含んでよい。本願になされる開示は、所望のキットを構成するのに必要な成分を熟練者に指示するものである。
【0158】
本発明において、"免疫関連転写物"は、例えばサイトカイン、ケモカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、転写因子、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド又は既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化に関連する任意のマーカーをコードする転写物であってよい。本発明によれば、免疫調節剤は疾病の場合に又は前記被検体に移植片が存在する場合に存在してよい。本発明による被検体はヒト由来又は動物由来の両者の被検体であってよい。
【0159】
また本発明は、被検体における免疫系に影響を及ぼす臨床状態の診断/予知/監視のための方法において、
(a)前記被検体から全血を採取する工程、
(b)工程(a)の全血試料中に存在する血液細胞を前記の装置又はキットを用いて、被検体中に存在するのと同一の/類似の及び/又は異なる免疫調節剤でパルスする工程、
(c)工程(b)のパルスされた血液細胞を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を含有する管中に採集する工程又はパルスされた細胞に前記化合物を添加する工程、
(d)核酸を含有する沈殿物を形成させる工程、
(e)工程(d)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
(f)工程(e)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
(g)工程(f)からの前記懸濁液から自動化された装置を用いて核酸を単離する工程、
(h)RT−PCR用の試薬混合物を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(i)工程(g)で単離された工程(h)の計量分配された試薬中の核酸を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(j)免疫関連転写物のインビボでの濃度を工程(i)の分配された溶液中で自動化された機構において検出/監視/分析する工程、
(k)免疫関連転写物のインビボでの濃度の変化を検出/監視する工程、及び
(l)免疫系に影響を及ぼす疾病を診断/予知/監視する工程
を含む方法を提供する。
【0160】
本発明において、"臨床状態"は被検体の身体状態の任意の変化、例えば種々の疾病又は移植片の存在である。
【0161】
また本発明は、少なくとも前記の工程(c)の実施を可能にする成分を含むキットに関する。該キットは、実施されるべき他の一工程以上を可能にする追加的な試薬及び解説書を含んでよい。本願になされる開示は、所望のキットを構成するのに必要な成分を熟練者に指示するものである。
【0162】
特に定義がない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術の熟練者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。方法及び材料の例を以下に記載するが、本願に記載されるものと類似の又は等価の方法及び材料を本発明の実施又は試験で使用することができる。本願に挙げられる全ての文献及び他の参考資料は参照を持ってその全内容が開示されたものとする。対立がある場合に、定義を含む本願明細書が支配する。材料、方法及び実施例は説明的なものであって、限定を意図するものではない。本発明の更なる特徴及び利点は以下の図面、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【0163】
図面
図1aから1dは本発明による容槽と方法の一例を表す。図1aは、抗原粒子2が存在する容槽1を示している。容槽は、注射針用の入口3の再封手段を備えている。容器4は容槽1の一部でもあり、その際、安定化剤5は該容器中に存在し、かつ容槽1の内側と容器4の内側との接続は一時的に物的障壁、この場合には栓25によって遮断されている。栓を外す物理力を伝える手段はプランジャー28の形で提供される。この実施例では、プランジャーは蓋23で覆われている。図1bでは、生物学的試料は容槽中に注射針6によって入口3の再封手段を通じて導入され、そしてその生物学的試料8は抗原2に曝露されうる。図1cでは、プランジャーの蓋23は取り除かれる26。図1dでは、シャフト7を導入し、そこに圧力が印加され27、こうしてプランジャー28を押して、栓25が容器4から押し出されている。栓25が取り除かれた後に、安定化剤5は容槽1中に放出され、そして生物学的試料8と抗原2とが混合されうる。
【0164】
図2は、抗原2が存在する、本発明による容槽1の例を表す。容槽は図示されるように無蓋7であるか、又は図3〜6に例が示される蓋又は試料又は安定化剤を導入する手段を備えていてよい。容槽1の胴部はまた、安定化剤が存在する図7及び8に示される容器を有してもよい。
【0165】
図3は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は注射器11に相互ルアー取付具を収容できるルアー取付具8を備えている。注射器は、本発明の実施態様によれば生物学的試料又は安定化剤を含有してよい。
【0166】
図4は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は、注射針を収容できる再封可能な隔壁9を備えている。注射器は、本発明の実施態様によれば生物学的試料又は安定化剤を含有してよい。
【0167】
図5は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は、スクリューキャップ10を受ける手段を備える。
【0168】
図6は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は皮下注射針19を備える。容槽を直接使用して、個体から試料を取り出すことができる。
【0169】
図7は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。抗原2が存在する容槽1は安定化剤5が存在する容器12を有する。容器の壁部は、全体的又は部分的15に力の印加により破砕する材料からなる。該容器は、利用者からの力を伝えて容器の一部又は全てを破砕する手段を備え、前記容器は鋭点部14に取り付けられた押し下げ可能領域13を有している。領域13を押し下げると、鋭点部14は破砕可能な材料15と接触して、その破砕をもたらし、こうして容器と容槽との間の物的障壁が取り除かれ、利用者によって決められた時点で安定化剤を容槽1中に流入させることが可能となる。
【0170】
図7は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。抗原2が存在する容槽1は安定化剤5が存在する容器16を有する。容器内側と容槽内側との間の接続部17は、力の印加によって破壊可能な隔壁18によって物理的に遮断されている。容器16の壁部を圧搾することで、圧力が隔壁に伝わり、隔壁が破壊され、こうして安定化剤5を容槽1中に進入することが可能となる。
【0171】
図9は、容槽に接続されていない本発明の容器20の一例を表す。安定化剤5は容器20中に存在し、そして容器20は相互取付具を有する容槽と接続するのに適したルアー型取付具22を備えている(例えば図3及び図11に示される)。容器20の壁部は圧搾可能であってよく、そこに力を印加することで安定化剤を押し出すことが可能である。
【0172】
図10は、容槽に接続されていない本発明の容器29の一例を表す。安定化剤5は容器29中に存在し、そして容器29は相互取付具を有する容槽と接続するためのルアー型取付具22を備えている(例えば図3及び図11に示される)。該容槽は更にプランジャーを備えており、そこに力を印加することで安定化剤を押し出すことが可能となる。
【0173】
図11は、ルアー型取付具8及びこの場合には排気を容槽から逃がすことができる弁31を備えた容槽1を含む、本発明によるキットの一例を表す。該キットはまた、図10に表されたのと同様の、安定化剤5が存在する容器29を含む。容槽上の取付具8は容器上の取付具22と接続可能である。
【0174】
図12は所定の実施例で採用される手法を示している。
【0175】
図12.1は破傷風毒素に対する免疫応答のエクスビボでの監視を示している。
【0176】
図12.2は実施例3で採用される手法を示している。
【0177】
図12.3は実施例4で採用される手法を示している。
【0178】
図12.4は実施例5で採用される手法を示している。
【0179】
図13.1は、末梢血液中でのIFN−γとIL−10のmRNAの自然産生についてのRT−PCRを示している。全RNAを全血及びPBMCから、示されるように6人の異なる健康なボランティア(カラム1〜6)から抽出した。全血:全血0.6mlを試料採取後の短時間でCatrimox−14(商標)6mlと混合した。次いでその試料を12000gで5分間遠心分離した。得られた核酸ペレットを慎重に水で洗浄し、そして1mlのTripure(商標)中に溶解させた。次いでRNA抽出をTripure(商標)の製造元の解説に従って実施した。PBMC:ヘパリン処理された静脈血15mlから標準的な手順に従って細胞を調製し、そしてRNA抽出のために細胞を1mlのTripure(商標)中で溶解させた。IFN−γ、IL−10及びハウスキーピング遺伝子HPRTについてのRT−PCRを1μgの全RNAからの全ての試料に対して記載(Stordeur et al., (1995), Pradier et al., (1996))されるように実施した。
【0180】
図13.2は、全血中でのIFN−γとIL−10のmRNAについてのリアルタイムPCRを示している。クエン酸処理された静脈血の試料を健康なドナーから採集した。この試料から、100μlのアリコートを血液採集後1分以内と5時間の間に毎時で900μlのCatrimox−14(商標)と混合し、その際、血液試料は各アリコートを取る間、単に室温で保持した。得られる核酸ペレット(図13.1についての凡例参照)を"MagNA Pure LC mRNA単離キットI"(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)からの溶解バッファー300μl中に溶解させた。mRNAをMagNA Pure LCインストルメント(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)を用いて製造元の解説に従って抽出した(最終溶出容量:100μl)。逆転写とリアルタイムPCRを、"ライトサイクラーRNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット"(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)に記載される標準的な手順に従って、mRNA調製物5μlから出発して1工程で実施した。プライマーとプローブの配列及びPCR条件はStordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載されている。
【0181】
図14は、PreAnalytiXによって提唱される全血からのRNA抽出法を本発明によって提案される方法に対比させた図式的比較である。
【0182】
図15は、破傷風毒素による血中サイトカインmRNAのエクスビボでの誘導を示している。破傷風毒素(10μg/ml、アベンティス社)を、7年前に破傷風に対するワクチン接種された健康なボランティアから採集された全血500μlに添加した。5%のCO2雰囲気中37℃で種々の時間後に、PAXgene採血管中に含有される試薬1.4mlを添加した。得られた溶解物300μlを使用して、MagNA Pureインストルメントで全mRNAを単離し、そしてRT−PCRを本発明に記載されるように実施した。
【0183】
図16は、全血をLPSで刺激した後のIL−1βとIL−1RAのmRNAの動力学を示している。ヘパリン処理された血液200μlを10ng/mlのLPSと一緒に0時間(培養開始)、0.5時間、1時間、2時間、そして6時間インキュベートした。培養完了時に、PAXgene(商標)採血管の試薬500μlを全細胞溶解と核酸沈殿のために添加した。次いでRTとリアルタイムPCRをIL−1β、IL−1RA及びβ−アクチンのmRNAについて、本発明に記載されるように1工程で実施した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数で表現する。5つの独立した試験の平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0184】
図17は、出発血液容量に対するmRNAコピー数の線形回帰を示している。種々の容量の全血(20〜200μlの範囲、X軸)を10ng/mlのLPSの存在下に6時間培養した。培養完了時に、RTとリアルタイムPCRをIL−1β及びβ−アクチンのmRNAについて、本発明に記載されるように実施した。Y軸は粗コピー数を表す。線は線形回帰に関するものである。6つの試験の代表的な1つを示している。
【0185】
図18は、破傷風毒素で全血を刺激した後のサイトカインmRNA動力学を示している。ヘパリン処理された血液を、少なくとも5年前に破傷風に対してワクチン接種された5人の健康なボランティアから採取した。各ドナーについて、200μlの全血アリコートを10μg/mlの破傷風毒素と一緒に0時間(培養開始)、4時間、8時間、16時間、24時間及び48時間にわたりインキュベートした。培養完了時に、PAXgene(商標)採血管中に含有される試薬500μlを添加し、そして種々の転写物を本発明の方法論を用いて定量した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数で表現する。5つの独立した試験の平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0186】
図19は、LPSの静注後の血中サイトカインmRNAのインビボでの調節を示している。5人の健康なボランティアに一回量4ng/kgのLPSを注入した。LPS注入の10分前、そしてその0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、3時間後及び6時間後に、2.5mlの血液試料をPAXgene(商標)採血管に採取した。サイトカインmRNAの定量化を本発明の方法に従って実施した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数で表現する。各時点についての平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0187】
図20は、抗破傷風ワクチン応答の追跡調査を示している。6人の健康なボランティアが選択され、抗破傷風の想起を受けた。IL−2 mRNA濃度を、10μg/mlの破傷風毒素と一緒に(塗り丸)又は該毒素無く(空丸)20時間にわたり培養した全血から定量化し、定量化は想起の時点(0日目)で、14日前に、そして3日後、7日後、14日後、21日後、そして90日後(X軸)に実施した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数(Y軸)で表現する。6つのパネル(1〜6と番号付けされた)のそれぞれは、6人の異なるドナーからの個別のデータを表す(1パネルにつき1ドナー)。
【0188】
図21は、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10及び実施例11で採用される手順の概要を示している。
【0189】
図22は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。Y軸は粗コピー数を表す。線は線形回帰に関するものである。
【0190】
図23は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。Y軸は粗コピー数を表す。線は線形回帰に関するものである。
【0191】
図24は、癌免疫療法に登録された患者の症例報告の概略を示している。黒色腫が1999年7月に診断された。2001年8月に、多発性転移が示され、2002年4月の睾丸摘出術直後に、その患者は癌ワクチンの被検に登録された。ワクチンは、MAGE−3精製タンパク質(黒色腫細胞によって特異的に発現される抗原)とアジュバントとを組み合わせて数回注入することからなる。
【0192】
図25は、種痘プロトコールとリアルタイムPCRによる免疫応答の監視を表した図を示している。患者は3回のワクチン注入を受け、一方で血液試料を9週間の間に1週間に1回で採取した。各患者の全血試料の200μlのアリコートを10μg/mlのMAGE−3タンパク質又はネガティブコントロールとして10μg/mlのTRAP(熱帯熱マラリア原虫抗原)の存在下にインキュベートした。培養の完了時に、PAXgene採血管中に含有される試薬を添加して、実施例6に記載されるIL−2 mRNA定量化を可能とした。結果を図26に示す。
【0193】
図26で、MAGE−3刺激された全血においてMAGE−3ワクチン追加抗原刺激した後により高いIL−2 mRNA濃度が観察される。Y軸はβ−アクチンmRNAコピーの百万個当りのIL−2のmRNAコピー数を表し、かつX軸は血液試料が採取された週を表す。ワクチン注入は0週目、2週目及び6週目に施した。暗赤色のカラムはMAG−3の存在下にインキュベートされた全血についてのものであり、そして青色のカラムはTRAPの存在下にインキュベートされた全血についてのものである。
【0194】
図27は、アレルゲンと一緒に全血をインキュベートした後にIL−4 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。血液試料をネコに対するアレルギーがある被検体からと、2人の健康な被検体から採取した。次いで全血をネコアレルゲン(つまりFeld1)の不在下又は存在下に種々の培養時間にわたってインキュベートし、その完了時に、PAXgene採血管中に含有される試薬を添加して、実施例6に示されるIL−4 mRNA定量化を可能とした。結果を図28で示す。
【0195】
図28では、Feld1アレルゲンはネコに対してアレルギーがある被検体由来の全血においてアレルギーがない被検体と比較してより極めて高いIL−4 mRNA濃度を誘発する。Y軸はβ−アクチンmRNAコピーの百万個当りのIL−4のmRNAコピー数を表し、かつX軸は種々のインキュベート時間を表す。緑色のカラムは、アレルゲンと一緒にインキュベートされた正常な全血中に見いだされるIL−4 mRNA濃度を表し、その際、アレルギーのある被検体の全血中に見いだされるIL−4 mRNA濃度は赤色のカラム(Feld1の存在下にインキュベートされた血液)及び黄色のカラム(Feld1なくしてインキュベートされた血液)によって表されている。
【0196】
図29では、この全血系でのFeld1に対する応答は特異的であり、かつ用量依存性である。アレルギーがある被検体からの全血を2時間にわたり、1)Feld1の存在で濃度を増大させて(赤色カラム);2)別のアレルゲンであるβ−ラクトグロブリン(BLG)の存在下に10μg/mlで(青色カラム);3)架橋されるIgEの存在下に(緑色カラム)インキュベートした。Y軸は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのIL−4 mRNAコピー数を表す。
【0197】
図30では、全血をFeld1で刺激した後のIL−4 mRNA濃度がネコに対してアレルギーがある患者において健康な対照と比較してより高い。スライド9〜11で説明される試験を10人の健康な被検体(CTRカラム)とネコに対してアレルギーがある10人の患者(ALLカラム)からの全血で繰り返した。全血試料を2時間にわたり、10μgのFeld1の存在下に、又はポジティブコントロールとしての架橋されるIgEの存在下にインキュベートした。平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0198】
図31は、精製されたGAD65タンパク質と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。血液試料を6人の1型糖尿病患者からと、5人の健康な被検体から採取した。次いで全血を10μg/mlのGAD65を含まないか又はそれと一緒に18時間に亘りインキュベートして、その後PAXgene採血管に含有される試薬を添加することによって培養を停止した。IL−2 mRNA濃度を次いで実施例6に記載されるように定量化した。結果を図32に示す。
【0199】
図32では、1型糖尿病の患者由来の全血は健康な被検体と比較してGAD65刺激後により高いIL−2 mRNA濃度を示している。これらの結果は、GAD65を含まずに培養された全血中に見いだされるコピー数に対して、β−アクチンに対して補正して計算されたIL−2 mRNAコピー数で表現される。対数目盛を使用する。平均とその平均に対する標準誤差が示されている。健康なドナー:CTRカラム;自己免疫糖尿病患者:PATカラム。
【0200】
図33は、非血縁の樹状細胞(DC)と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化して、同種異系反応性T細胞応答を評価するために実施される試験を表す図を示している。2人の非血縁の健康なボランティア(MT及びMA)由来の樹状細胞をIL−4とGM−CSFの存在下にインビトロで発生させた。各ドナー由来の全血試料を、他のドナーの樹状細胞集団(1)の存在で又はドナー自身の樹状細胞(2)の存在で培養した。両方のドナー由来の全血試料を混合し(3)、かつ両方の樹状細胞調製物を混合した(4)。12時間インキュベートした後に、培養を、PAXgene採血管中に含有される試薬を添加することによって停止させた。IL−2 mRNA濃度を次いで実施例6に記載されるように定量化した。結果を図34で示す。
【0201】
図34は、全血中のIL−2 mRNA定量化による同種異系反応性T細胞応答の評価を示している。β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのIL−2 mRNAコピー数を示している。条件は、左から右に向かって:ドナーMA単独からの全血、ドナーMAからの全血+ドナーMAからのDC、ドナーMAからの全血+ドナーMTからのDC、ドナーMT単独からの全血、ドナーMTからの全血+ドナーMTからのDC、ドナーMTからの全血+ドナーMAからのDC、ドナーMTからの全血+ドナーMAからの全血、ドナーMTからのDC+ドナーMAからのDCである。
【実施例1】
【0202】
末梢血中のサイトカインmRNAの自然産生の分析
末梢血細胞によって合成されるサイトカインmRNAを定量すれば、"末梢免疫規則"を推測することができる筈である。しかしながら、正確な定量は、mRNAがヌクレアーゼ消化に対して保護され、かつ遺伝子転写が阻害されている新鮮な全血試料からのみ実施できる。この注記で論じられるように、このことは、シュウ酸テトラデシルトリメチルアンモニウムのような界面活性試薬の使用によって可能となった。末梢血中で自然産生されるIL−10とIFN−γのmRNAの定量のためのRT−PCRを実施した。その結果から、全血中のIFN−γ転写物濃度が、同じ個体からの末梢血単核細胞(PBMC)と比較して顕著に高い一方で、IL−10 mRNAについては大きな差は見られないことが判った。IFN−γ mRNAの量は血液中に観察される方が多いことの原因は、少なくともmRNA分解にあるとすることができる。リアルタイムPCR技術を用いて、血中IFN−γ mRNAが実際にインビトロで迅速に分解され、その際、t1/2は室温でほぼ1時間に相当することを実証できた。
【0203】
Haertel他は近年、末梢血中のサイトカインmRNAの自然産生に対する細胞精製法の影響を分析した(Hartel et al., 2001)。彼らは、新鮮に単離された末梢血の単核細胞(PBMC)が同じ個体から新鮮に採集された全血よりも高濃度でIL−2、IL−4及びTNF−αのmRNAを発現することを明らかにし、一方、IFN−γmRNA濃度には相違がないことが明らかになった。異なる6個体中のIFN−γについての比較を実施し、そして異なる結果が見いだされた。全てのドナーの全血中にIFN−γのmRNAが強く発現することが観察され、それはPBMC中では明らかに減少する(図13.1)。得られた結果とHaertel他の結果との差異は、後者が定量的リアルタイムPCR技術を使用しているにも拘わらず、全血から全RNAを単離するのに使用される手法に関連する可能性があった。Haertel他は、ヘパリン処理が施され、等張塩化アンモニウム処理によって2時間以内で溶血された血液を使用した。本方法では、シュウ酸テトラデシルトリメチルアンモニウム、つまりCatrimox−14(商標)(キアゲン社、Westburg, Leusden, オランダ)が使用され、これは抗凝血薬の使用を省き血液と直接混合される(Dahle and Macfarlane, (1993); Schmidt et al., (1995))。更に、この試薬は試料採集後の短時間で核酸沈殿とヌクレアーゼ阻害を誘導する。これにより、全RNA調製物はおそらくインビボでのmRNAに最も近い状態で得られる。このことは、3′非翻訳領域に存在するAUリッチ配列によって内因性ヌクレアーゼに対して感受性となっているサイトカインmRNAにとって特に重要である。リアルタイムPCR技術を用いて観察すると、実際に末梢血IFN−γ mRNAが自然にかつ迅速に分解され、その際、その濃度は血液採集の1時間後にはほぼ50%減少していた。しかしながら、この現象は全てのサイトカインについて必ずしも真ではなく、IL−10 mRNA濃度は血液採集後の少なくとも5時間にわたり安定であることが判明している(図13.2)。更に全血中のIL−10 mRNA濃度において、PBMCのそれと比較した大きな差異は見られなかった(図13.1)。
【0204】
Catrimox−14(商標)による溶解(図13.1についての凡例参照)の後に得られる核酸ペレットは、Chomczynski and Sacchi (1987)によって記載されるグアニジウム/チオシアン酸塩溶液中に溶解させることができ、かつ前記の界面活性剤の使用を特に容易にしたTripure(商標)(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社、ブリュッセル、ベルギー)のようなその市販版中に溶解させることができる。このことは、Catrimox−14(商標)を用いる第一工程を除き、RNA単離法が全血と細胞について同一であることを意味する。あるいは、PAXgene(商標)Blood RNA採血管(キアゲン社、Westburg, Leusden, オランダ)をCatrimox−14(商標)の代わりに使用することができた。この場合に、得られるペレットは、図13.2に対する凡例にCatrimox−14(商標)について記載されたように、"MagNa Pure LC mRNA単離キット"の溶解バッファー中に溶解させることができる。ヒト単核血液細胞によるIL−10 mRNAの自然産生のキャラクタリゼーション(Stordeur et al., (1995))とOKT3モノクローナル抗体による組織因子mRNAのインビボでの誘導の監視(Pradier et al., (1996))とは、Catrimox−14を効果的に使用した2つの例である。強力なIL−2 mRNA誘導は、イオノホアA23187+酢酸ミリスチン酸ホルボールを全血に添加した後にも観察され(示さず)、これは全血におけるインビトロでの研究のためのその使用を示唆している。
【0205】
本実施例でなされた観察から、末梢血サイトカインmRNAを正確に定量するためには、溶解された全血からできる限り迅速にRT−PCRを実施することの重要性が強調される。このために、Catrimox−14又はPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に含有される添加剤のような試薬と一緒にリアルタイムRT−PCRを使用することは、おそらく今日では最良の手法である。そうすることで、末梢血細胞の天然の状態の研究は、イオノマイシン又はフィトヘマグルチニンのようなインビトロでの強力な刺激を用いることなく可能である。
【実施例2】
【0206】
PAXgene(商標)Blood RNAシステムと本発明により提案された方法との比較
"PAXgene(商標)Blood RNAシステム"とは、"PAXgene(商標)Blood RNA採血管"と"PAXgene(商標)Blood RNAキット"との組み合わせを意味する。"キアゲン法"とは、"PAXgene(商標)Blood RNAキット"を意味する。
【0207】
Stordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載される実験的証拠に基づいて、本発明は、全血からmRNAを単離し、それにより簡単かつ再現可能な方法を用いてインビボでの転写物濃度の測定を可能にする新規の手法を提案する。PAXgene(商標)Blood RNAシステムと本発明による方法を図14において図式で比較する。
【0208】
材料と方法:
全ての実験は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中にPAXgene(商標)Blood RNAシステム(キアゲン社)によって推奨されるように直接的に採集された(すなわち2.5mlの血液を、6.9mlの未知の試薬を含む管内に真空で採集した)末梢静脈血から実施した。溶解が完了した後に、管の内容物を他の2つの管に移した:4.7mlをPAXgene Blood RNAキットに使用し、そして0.4mlをMagNA Pure抽出に使用した。残りの溶解物は廃棄した。これらの2つの管を2000gで1分間遠心分離し、そして上清を棄てた。
次いで:
a)PAXgene(商標)Blood RNA採血管+PAXgene(商標)Blood RNAキット
核酸ペレットを、全RNA抽出のためのBR1バッファー中に溶解する前に対応する解説マニュアルで推奨されるように水中で洗浄した。PAXgene(商標)Blood RNAシステムの手順は以下のとおりである:血液試料(2.5ml)をPAXgene Blood RNA採血管中に採集し、そして所望であれば室温で貯蔵又は輸送してもよい。RNA単離は、PAXgene Blood RNA採血管中で遠心分離をして、核酸をペレットにすることから始まる。そのペレットを洗浄し、そしてプロテイナーゼKを添加して、タンパク質消化を引き起こす。アルコールを添加して、結合条件を調整し、そして試料をPAXgene(商標)Blood RNAキットにより提供されるスピンカラムにかける。簡単な遠心分離の間に、RNAはPAXgene(商標)Blood RNAキットによって提供されるシリカゲルメンブレンに選択的に結合して、夾雑物は通過する。洗浄工程に引き続き、RNAを最適化されたバッファーで溶出させる。逆転写とリアルタイムPCRをIFN−γとβ−アクチンのmRNAについて、Stordeur他によって記載されるように("Cytokine mRNA Quantification by Real Time PCR" J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002)実施した。
b)PAXgene(商標)Blood RNA採血管++MagNA Pure LC mRNA単離キットI
核酸ペレットをMagNA Pure mRNA単離キットからの溶解バッファー300μl中に溶解させた。次いで、最終溶出容量100μl中のmRNAの抽出及び精製を、MagNA Pure LCインストルメントにおいてロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社による解説に従って実施した。
【0209】
逆転写とリアルタイムPCRを、"ライトサイクラーRNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット"(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)に記載される標準的な手順に従って、mRNA調製物5μlから出発して1工程で実施した。
【0210】
結果:
キアゲン社によって推奨される抽出法に、PAXgene(商標)Blood RNA採血管を組み合わせたもの(PAXgene(商標)Blood RNAシステム)と、MagNA Pure LCインストルメント抽出法にまたPAXgene(商標)Blood RNA採血管を組み合わせたものとの比較を実施した。両方の方法で、PAXgene(商標)Blood RNA採血管の使用は、血液細胞由来のRNAの安定化を可能にする。結果を表1.1と表1.2に列記する。この試験結果は、MagNA Pure LC技術について再現性がより良好であることを示している(β−アクチンに対して補正されたIFN−γ mRNAコピー数についての変動係数はキアゲンとMagNA Pure LCそれぞれについて26%と16%である)。
【0211】
MagNA Pure抽出は、キアゲン法で使用したより少量の血液容量から出発して実施したことを留意すると興味深い(MagNA Pureについては0.11mlであるのに対して、キアゲンについては1.25ml)。仮にキアゲン法をそのような少量で実施したのであれば、RNA濃度の測定は不可能であり、同様に逆転写の実施も不可能である。このことは、本発明に記載される手法のもう一つの利点:mRNAを非常に少量の血液(約100μl)で定量できることを強調している。
【0212】
まとめ:
実施例2は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管にMagNA Pure LC mRNA単離キットIを組み合わせて使用できること、又はより厳密には、PAXgene(商標)Blood RNA採血管からの沈殿物を前記キットに含まれ、必要に応じて該キットの他の成分と一緒に使用されるべきである溶解バッファー中に溶解させることができることを説明している。
【0213】
この実施例において、他の組み合わせに対して、本発明に記載される組み合わせのみが、正確な/実際のインビボでの転写物の定量をもたらすことが判明する。
【実施例3】
【0214】
破傷風毒素に対する免疫応答のエクスビボでの監視
実施例3では、血液を、血液ドナーが免疫化されたと推測(それというのも7年前に種痘を受けたため)される抗原(すなわち破傷風毒素)によりエクスビボで刺激する。RT−PCRは方法(図12.1)に従って実施する。サイトカインmRNAは、ボランティアの免疫系が抗原に対して反応する能力の読出値として測定する。IL−2、IL−4、IL−13及びIFN−γのmRNAを優先的に分析するが、全ての潜在的に反応性のタンパク質はそれらに対応するmRNAの定量を介して分析することができる。実施例3の結果を図15に示す。一般に、この実施例で以下に挙げる手法は図12.2に示されるように図示することができる。
【0215】
可能な用途の例:癌免疫療法
数年来、癌免疫療法での基礎的な手法は種痘として発展した。事実、遺伝学と免疫学での進歩は、腫瘍細胞表面に発現される腫瘍抗原を数多く同定することを可能にした。これらの抗原は、主要組織適合複合体(HLA)に会合するペプチドの形として腫瘍細胞表面に提示される。腫瘍抗原として考慮される抗原の例は、FongとEngleman(Annu. Rev. Immunol. 2000. 18:245-273)によって記載されている。抗癌ワクチン接種の原理は、最も免疫原性の様式で患者の免疫系に免疫を提示することからなる。これは、抗原又は相応のペプチドを添加剤の存在で注射して、ペプチドを自己抗原提示細胞(例えば樹状細胞)上に提示させることとなる。ワクチン接種、つまり抗癌ワクチン接種の最終的な目標は腫瘍の退縮にあるが、抗癌ワクチン接種の効率の決定は、限られた治療窓からしか恩恵を受けることができない疾病の進行した段階の患者の場合には特に困難なままである。抗癌ワクチン接種がアジュバント療法として又は予防の枠組みにおいて関心が持たれているのは、そういった理由からである。従って、高感度で正確な監視技術を開発して、実験的な抗癌ワクチン接種の免疫学的効果を評価し、これらのワクチンの投与方法を規定し、かつ将来の治療法の規定により良い支援をなしうる暗黙の生物学的機構を見いだすことが極めて重要である。これらのワクチンの免疫学的効率を測定する困難性は、事実上、インビボでの細胞性免疫応答を感知するのに十分なアッセイが存在しないことにある。今までに、使用された技術は、患者のPBMCの激しいインビトロでの培養を長時間にわたり抗原の存在で、かつリンパ球の本来の機能的特性の変更が誘発されやすい同時刺激の存在で行うことを包含していた。こうして、腫瘍抗原に対するリンパ球前駆体のアネルギー状態又は寛容状態の分析は極めて困難であり、抗原の存在においてインビトロで延長してインキュベートした後にそれらの機能的状態の可逆的性質が与えられる。他方で、低頻度のエピトープ特異的CTL前駆体を検出するために使用されるMHCペプチド複合体の四量体を基礎とした手法は通常、腫瘍特異的リンパ球の検出についての感度に欠いている。更にこれらの技術はこれらのリンパ球の機能的反応性についての情報を何ら提供しない。
【0216】
リンパ球の所定の抗原に対する本来の機能的な反応性を、例えばインビトロでの抗原による短時間の刺激の後に検出できる程度に十分な感度を持った技術によってのみ、抗癌ワクチン接種のプロトコールの効率を実際に評価することができる。
【0217】
近年に(Kammula, U. S., Marincola, F. M., and Rosenberg, S. A. (2000) Real-time quantitative polymerase chain reaction assessment of immune reactivity in melanoma patients after tumor peptide vaccination. J. Natl. Cancer Inst. 92: 1336-44)、PBMCの短時間のインビトロ刺激(2時間)に関連するサイトカインmRNAの検出は、腫瘍抗原によりワクチン接種を受けた患者のPBMC中のエピトープ特異的CTLを検出することができることが示されている。それにも拘わらず、本発明によれば、この短時間のエクスビボでのパルスは必須ではない。
【実施例4】
【0218】
ドナーの組織適合抗原によってレシピエントの免疫系を活性化することの検出
実施例4では、ドナー由来の器官(例えば肝臓、腎臓、骨髄など)をレシピエントに移植する。レシピエントの全血を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する本発明による化合物を含有する管中に採集する。RT−PCRはその方法に従って実施する。サイトカインmRNAは、ドナーの組織適合抗原によるレシピエントの免疫系の活性化の読出値として測定する(図12.3)。
【実施例5】
【0219】
ドナーの組織適合抗原に対するレシピエントの免疫系の反応性の検出
実施例5では、ドナー由来の器官(例えば肝臓、腎臓、骨髄など)をレシピエントに移植する。レシピエントの全血を管に採集し、そしてエクスビボでドナーの組織適合抗原と一緒にインキュベートする。その血液にRNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する本発明による化合物を添加する。RT−PCRはその方法に従って実施する。サイトカインmRNAは、ドナーの組織適合抗原によるレシピエントの免疫系の応答の読出値として測定する(図12.4)。
【0220】
用途の例:器官移植後の拒否反応の監視
移植片の拒否の監視は、事実上、患者の尿又は血液中に測定されるマーカーの検出(腎臓移植片の場合には血中尿素窒素(BIN)又はクレアチニン)に基づくか、又は移植された器官の生検の時点である。これらの指標はしかしながら、拒否機構が既に十分に進行している場合にのみ検出される。事実、移植片拒否は、移植された器官の変質に先行する免疫学的機構の結果である。これらの免疫学的機構を移植された器官が損傷される前に検出することで、より早い段階で免疫抑制的治療を適応させることによって移植された器官の損失をかなり低減することができる。他方でまた、拒否の非顕性エピソード(臨床兆候を誘発せずに)はしばしば移植後に発生することも認められている。これらのエピソード、つまり非顕性の拒否エピソードは慢性拒否の原因となりえる。数人の著者は、器官拒否の早発性の免疫学的マーカーの検出と、特にドナーのアロ抗原に対するレシピエントのアロ反応性Tリンパ球の血行における検出を調査している。これらの方法では、混合培養し、被移植者のリンパ球の増殖の連続的な測定又はサイトカインの産生の測定を種々の方法(ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリーなど)によって行うことが本質的に含む。より最近では、他の著者が、早発的な拒否機構のトリガリングを明白に示すために、リンパ球活性化マーカーのパターンのキャラクタリゼーションに注目した。細胞毒性活性化Tリンパ球、つまり活性化Tによって発現される遺伝子のmRNA(グランザイムB、パーフォリン、種々のサイトカイン)を定量的PCRの高感度な方法によって検出することが、拒絶のトリガリングの測定に優れたツールであることが示された。このために、本発明によれば、様々な種類のサイトカインをコードするメッセンジャーが研究され、有利なターゲットはIL−2、IFN−γ、IL−4、IL−5、グランザイム、パーフォリン及びFasFasリガンドであってよい。
【実施例6】
【0221】
リアルタイムPCRを用いた全血での免疫監視
実施例6では、全血法が記載され、これによりmRNA濃度におけるサイトカイン合成の誘導を測定することが可能となる。この方法の独自性は、採血用のmRNA安定化剤を含有するPAXgene(商標)採血管と、mRNA抽出並びにRT−PCR試薬混合物調製のための自動化された装置としてのMagNA Pure(商標)インストルメントと、転写物濃度の正確かつ再現可能な定量のためのLightcycler(商標)でのリアルタイムPCR方法論との組み合わせにある。この実施例でまず実証されることは、細菌性リポ多糖類(LPS)を全血に添加するとIL(インターロイキン)−1β及びIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1 RA)のmRNAが誘導されることを測定するのには本方法が適していることである。更にまたこの実施例では、破傷風毒素と一緒にインキュベートした全血中にT細胞由来のサイトカインをコードするmRNAが産生することを、想起抗原に対するインビトロでの免疫応答のモデルとして検出するのに、このアプローチが適していることが実証される。最後に、本実施例は、この方法が炎症性並びにインビボでのT細胞応答を評価するのに効果的に使用できることを実証しており、それは健康なボランティアにおけるLPSの注射後にIL−1β及びIL−1 RAの誘導を検出でき、また破傷風ワクチンによる想起免疫化後にIL−2の誘導も検出できたからである。
【0222】
材料と方法
インビボでの研究のための採血。末梢血mRNA濃度の正確な定量のために、2.5mlの血液試料を、迅速な細胞溶解と核酸沈殿のためにPAXgene(商標)採血管中に採取した。そのmRNAは前記血液溶解物中で5日まで安定であり、その際、該管はmRNA抽出までは室温に保たれる。
【0223】
インビトロでの全血培養。インビトロでの全血LPS刺激又は破傷風毒素抗原の再投与を200μlのヘパリン処理された全血で行い、そして採血4時間後に開始した。培養を、全細胞溶解とmRNA安定化をもたらすPAXgene(商標)採血管の試薬500μlを添加することによって止めた。これにより、インビトロとインビボでの試験の両方で同じmRNA抽出プロトコールを使用できた。
【0224】
mRNA抽出。PAXgene(商標)採血管中で又は全血培養の完了時に得られる血液溶解物を軽く混合してから、300μlのアリコートを1.5mlのエッペンドルフチューブに移して、最高速度で5分間遠心分離した(装置に応じて12000〜16000g)。上清を棄て、そして核酸ペレットを、MagNA Pure(商標)mRNA抽出キット(ロシュ・アプライドサイエンス社)に含まれる溶解バッファー300μl中にボルテックスにかけることによって徹底的に溶解させた。次いでmRNAを前記溶液300μlから、MagNA Pure(商標)インストルメント(ロシュ・アプライドサイエンス社)におけるキットを用いて製造元の指示に従って抽出した("mRNA I cells"ロシュ社のプロトコール、最終溶出容量100μl)。抽出されたmRNAの質はノーザンブロット分析により事前に証明された(ロシュ・アプライドサイエンス社、未公表データ)。
【0225】
リアルタイムPCRと試薬混合物調製。逆転写とリアルタイムPCRを、"ライトサイクラー(商標)RNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット"(ロシュ・アプライドサイエンス社)に記載される標準的な手順に従って、1工程で実施した。より厳密には、RT−PCR反応は、1)20μlまでのH2O;2)7.5μlのRNAマスターハイブリダイゼーションプローブ2.7倍濃縮(RNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット − ロシュ・アプライドサイエンス社);3)1.3μlの50mMのMn(OAc)2;4)1、2又は3μlの6ピコモル/μlのフォワードプライマーとリバースプライマー(標的となるmRNAに応じて最終濃度300、600又は900nM;標的の各mRNAに特異的な条件はStordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載されているが、IL−2及びIL−4については除く、そしてこれらを表2に列記する);5)1μlの4ピコモル/μlのTaqManプローブ(最終濃度200nM);6)5μlの精製されたmRNA又は標準希釈、を含有する20μlの最終容量で実施した。61℃で20分間のインキュベート時間でmRNAの逆転写を可能にし、次いで初期変性工程を95℃で30秒間した後に、温度サイクルを開始した。各サイクルは、95℃で0(ゼロ)秒、60℃で20秒からなり、その際、第二段階の終わりに蛍光が読み出された(F1/F2チャンネル、色補償なし)。全体で45サイクルを実施した。全てのプライマーは、イントロン配列にまたがるように選択されたので、ゲノムDNA増幅は不可能であった。
【0226】
全ての試薬、オリゴヌクレオチド及び試料を含有するRT−PCR反応混合物は、MagNA Pure(商標)インストルメントによりLightcycler(商標)で使用されるキャピラリー中で完全に直接的に調製された。これらのキャピラリーは端部閉鎖されており、それを遠心分離してから、一工程のRT−PCRのためにLightcycler(商標)に導入した。こうして全てのRT−PCRの要素は完全に自動化されており、手動での試料採取ミスは回避される。
【0227】
結果は、β−アクチンのmRNAに対して正規化されたコピー数で表現した(β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのサイトカインmRNAのmRNAコピー数)。各試料について、mRNAコピー数を、機器ソフトウェアによってCt値("算術Fit point解析")を用いて標準曲線から計算した。標準曲線は、Stordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載されているように、精製DNAの連続希釈から各PCR運転に対して作成した。
【0228】
実験的な内毒素血症。 試験前の少なくとも10日間で如何なる薬剤も摂取していない5人の健康な男性ボランティア(21〜28歳)に一回量のLPS(E.コリ由来、lot G;米国薬局方協会、ロックヴィル、メリーランド州;4ng/kg(体重))を静注した。LPS注入の10分前、そしてその0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、3時間後及び6時間後に、2.5mlの血液試料をPAXgene(商標)採血管に採取した。インビトロでの研究のために、ヘパリン処理された、健康な個体から採取した全血200μlを10ng/mlのLPS(E.コリ由来血清型0128:B12、シグマ−アルドリッチ、Bornem, ベルギー)と一緒に、37℃で5%のCO2雰囲気において0時間(培養開始)、0.5時間、1時間、2時間、そして6時間にわたりインキュベートした。
【0229】
抗破傷風想起ワクチン接種
最後の破傷風毒素ワクチン接種が少なくとも5年前である健康なボランティア(2人の男性、4人の女性、27〜53歳)に筋内ワクチン想起(Tevax、スミスクライン・ビーチャム・バイオロジカルズ社、Rixensart,ベルギー)を行った。ヘパリン処理された血液を投与日の14日前、そして投与日の3日後、7日後、14日後、21日後、90日後に採取した。200μlの血液を37℃で5%のCO2雰囲気において10μg/mlの破傷風毒素(フランス、リオンのアベンティスパスツールのE.Trannoy博士からの寄贈)と一緒に又はそれを含まずに20時間にわたりインキュベートした。
【0230】
結果
全血に細菌性LPSを添加した後のIL−1βとIL−1 RAのmRNAの測定
図16で実証されるように、全血にLPS(10ng/ml)を添加することにより、IL−1βとIL−1 RAのmRNAの迅速な誘導がもたらされる。この誘導はLPS添加の30〜60分後に既に明らかであり、6時間後にはIL−1βとIL−1 RAのそれぞれについてmRNA濃度は44倍と22倍に増大した。この曲線型は、両方のサイトカインmRAN量の迅速かつ持続性の増大を示唆している。mRNA定量化のための系の精度を評価するために、mRNAを、20〜200μlの種々の容量のLPS刺激された全血からβ−アクチンとIL−1βについて定量した。図17に示されるように、β−アクチンとIL−1βの両方のmRNAコピー数は実際に、開始血液量と直接的に相関を示した。
【0231】
破傷風毒素に対するインビトロでの応答。この方法がT細胞応答の分析に適しているかどうかを決めるために、全ての個体が幼少期にワクチン接種を受けた良く確立された想起抗原である破傷風毒素を添加した後で全血培養中のサイトカインmRNA濃度を定量化した。全血と一緒に前記抗原をインキュベートした後にIFN−γ、IL−2、IL−4及びIL−13のmRNAの迅速な一過性の誘導が見られた(図18)。各サイトカインについての応答の較差を比較すると、IL−2 mRNAの誘導が最も顕著であるように見えた。実際に、該毒素の存在でのインキュベートの16時間後のIL−2 mRNAコピーの広域な増加は図18に示される5つの独立試験に対して約220倍である一方で、同じ試験でのIL−4とIFN−γのmRNAの最大増加は5倍を超えなかった。従って、IL−2のmRNAの定量化は、この全血系でT細胞応答を評価するのに最も高感度のパラメータと思われる。表3に示されるデータは、この試験における破傷風毒素に対する応答の較差はむしろ、おそらく最後のワクチン想起の時点に応じて変わりやすいことを示している。IL−2 mRNAの誘導は新生児の臍帯血に破傷風毒素を添加した後に効果的に観察されず、このことは事前に初回抗原刺激を受けたT細胞のみがこのアッセイでは応答を示すことができ、ナイーブT細胞はこのアッセイでは応答を示すことができないことを示している(表3)。
【0232】
LPSの静注後の全血中でのIL−1 RA及びIL−1βのmRNAの誘導。インビボでのサイトカイン誘導の検出のための方法の第一の用途として、低い用量(4ng/kg)の細菌性リポ多糖類を注射された健康なボランティアからの一連の血液試料を分析した。IL−1RAとIL−1βのmRNAの両者の明らかな誘導が観察された(図19)。IL−1βmRNAの誘導が迅速であったのは、それが既に内毒素投与の30〜60分後に検出されたためであり、そして一過性であったのは、IL−1βのmRNA濃度が6時間後に注射前の値に戻ったからである。またIL−1RAのmRNAは、IL−1βのmRNAと比較して遅れた動態で誘導された。
【0233】
想起ワクチン接種後の抗破傷風毒素免疫応答の検出。インビトロでの実験は、IL−2のmRNAが抗破傷風毒素応答を監視するのに最も高感度のパラメータであると示唆しているので、このパラメータを、インビボでの想起ワクチン接種後の全血中の破傷風毒素に対するT細胞応答における変化を分析するために選択した。このために、破傷風毒素の不在又は存在において全血インキュベーションを、ワクチン投与前とその後の幾つかの時点で実施した。図20に示されるように、抗原に曝露された全血中のIL−2 mRNAの産生は全てのワクチン接種された個体でかなり増大した。IL−2 mRNA誘導はワクチン接種の7日後に既に明らかであり、その際、最大濃度へは14日目又は21日目に達した。個体間の変動はおそらく、抗破傷風免疫性の基底状態の差異に関連するものである(表3も参照のこと)。ワクチン接種後に全血中で測定されるIL−2応答が免疫化する抗原について特異的であったのは、インビトロでの再度の刺激の不在で測定されたIL−2 mRNA濃度が大きく変化しなかったからである(表3)。
【0234】
考察
リアルタイムPCRがそう呼ばれるのは、増幅産物の蓄積をPCR過程の間に、PCR産物に結合する発光源分子を用いて追跡できるからである。これにより、各試料についての蛍光曲線が作成され、そこから試料の(c)DNAコピー数を、較正された標準で得られた蛍光曲線と比較することによって測定することができる。特異性を高めるために、その発光原分子は2つのプライマー間に位置するPCR産物の配列と相補性のオリゴヌクレオチドであってよい。本明細書に記載される新規の方法は、先行技術の方法を用いては不可能であった生物学的試料中の核酸を高感度かつ正確に定量する方法を提供する。本明細書は、これを、インビボでの状況を表す精製された細胞又は組織からサイトカインmRNAを定量することによって説明している。
【0235】
RT−PCR分析に全血を用いることで直面する問題の1つは、RNA抽出に先行する細胞溶解である。血漿と赤血球に存在する多量のタンパク質のため、全血からRNAを単離する殆どの方法は、分析されるmRNAの可能性のある細胞源の精製又は赤血球細胞の排除をRNA抽出実施前に必要とする。これらの中間工程はmRNA分解及び/又は遺伝子誘導に、ひいてはmRNA濃度の変化に関連することがある。更に、簡単な採血という事実が幾らかのmRNAの分解をもたらすことがある。このことは、3′非翻訳領域に存在するAUリッチ配列によって内因性ヌクレアーゼに対して感受性なサイトカインmRNAにとって特に当てはまることである。今までに、末梢血のIFN−γのmRNA濃度は実際に血液採集の1時間後に既にほぼ50%減少することが示されている(Stordeur et al., (2002) J. Immunol Meth. 261:195)。このことは、テトラデシルトリメチルアンモニウムのような四級アミン界面活性剤、つまり全細胞溶解に導き、同時に核酸沈殿に導くCatrimox−14(商標)(キアゲン社、Westburg, Leusden, オランダ)と呼ばれるカチオン系界面活性剤を使用して回避することができる。本実施例は、PAXgene(商標)採血管で得られた核酸沈殿物は驚くべきことにグアニジウム/チオシアン酸塩溶液中に溶解させることができることを述べている。前記溶液の例は、mRNA単離用のMagNA Pure(商標)LCキット(ロシュ・アプライドサイエンス社)で提供される溶解バッファーである。このことにより、PAXgene(商標)採血管とMagNA Pure(商標)インストルメントの使用を組み合わせることが促され、それによって、PCR反応混合物の全ての成分の調製が自動化されるので高い再現性と後者の装置の精度が利用される。
【0236】
興味深いことに、本願の方法はインビボでの内毒素投与後の全血中のサイトカイン遺伝子誘導の検出に適用して成功し、これは全身性の炎症応答を監視するのに使用できることを裏付けている。インビボでの抗原投与後のIL−1応答の一過性の性質は、LPSを血液にインビトロで添加した後のIL−1 mRNAの持続的な増大とは対照的である。このことは、インビボでのLPSの迅速な浄化に関連するが、インビボでのサイトカイン産生細胞の再分布にも関連し、そしてこれは接着分子とケモカイン受容体のアップレギュレーションに関連している。前記の全血法のもう一つの考えられる用途は、破傷風毒素のワクチン接種された個体にインビトロで再度の抗原投与をした後に観察されるIL−2 mRNAの明らかな誘導によって示唆されるように、ワクチン接種後のT細胞応答の監視である。これは、細胞の単離を良い条件で整えることが困難な、特に幾つかの新規のワクチンが評価段階にある途上国において大規模なワクチン研究をするために関心がもたれる。ワクチン実験における前記方法の応用性を更に調査するために、早々にB型肝炎に対する一次ワクチン接種後のT細胞応答を読み出す試験を行うつもりである。
【0237】
血液の出発容量とmRNAコピー数との間の直接相関(図17)は、この方法を用いれば結果の表現のためにmRNA濃度を測定することが絶対に必要ではないことを示唆している。しかしながら、試料容量の些細な変動でさえも定量誤差をもたらすため、測定されたコピーをβ−アクチンのようなハウスキーピング遺伝子の同時の測定によって補正することが好ましい。これが未だに最適ではないのは、ハウスキーピング遺伝子の発現がある一定の刺激条件で変動しうるからである。従って、mRNA抽出前に試料に外部標準を添加することもできる。サイトカインの細胞源がIL−2についてのT細胞の場合のように良く確立されていれば、サイトカイン遺伝子コピー数を、直前の実施例でCD3のような相応の細胞型で特異的に発現される遺伝子をコードするコピーの数によって補正することが好適である。同様に、リアルタイムPCRによるサイトカインmRNA定量のための較正物質の国際標準は、種々の研究室で作成されるデータの比較を容易にするように開発されることが望ましい。全血中のサイトカインmRNA測定は、新規のワクチンと免疫療法の評価のために必要な先天免疫応答と適応免疫応答の監視のために有用である。
【実施例7】
【0238】
MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。該系の精度を説明するために、出発細胞数に対するmRNAコピー数の線形回帰を計算した(図22)。mRNAを、様々な数の末梢血単核細胞(PBMC)(100000〜600000細胞の範囲、X軸)から抽出し、そしてβ−アクチンmRNAについて一工程のRT−リアルタイムPCRを本実施例6の"材料と方法"部で記載されるように実施した。この試験をPBMCからβ−アクチンとTNF−αのmRNAについて繰り返し(図23、パネルBとD)、そして全血から(図23、パネルA)、そしてCD4+の精製T細胞から(図23、パネルC)β−アクチンmRNAについて繰り返した。
【実施例8】
【0239】
癌免疫療法
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。その方法を、癌ワクチンによって誘発される免疫応答の監視に適用した。図24、25及び26は、この現場で黒色腫患者に関して得られた結果を示している。
【実施例9】
【0240】
アレルギー
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。次いでその方法をアレルギーに適用した。アレルギーがある被検体の全血を関連のアレルゲンと一緒にインビトロでインキュベートすることによって誘発された応答を、リアルタイムPCRを用いたIL−4 mRNA定量化によって分析した。図27、28、29及び30はこの現場で得られた結果を示す。
【実施例10】
【0241】
自己免疫性
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。次いでその方法を自己免疫性に適用した。この全血系を用いたIL−2 mRNA定量化を適用して、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、つまり自己免疫性1型糖尿病における自己反応性T細胞の標的である自己抗原に対するT細胞応答を評価した。図31及び32はこの現場で得られた結果を示す。
【実施例11】
【0242】
移植
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。次いでその方法を移植に適用した。アロ反応性の非T細胞と一緒に全血をインキュベートした後にリアルタイムPCRを行うことによるIL−2 mRNA定量化によって、アロ反応性のT細胞応答を監視する古典的な混合リンパ球反応(MLR)の代替がもたらされる。図33及び34はこの現場で得られた結果を示す。
【0243】
本発明は発明の詳細な説明と共に説明されているが、一方で上述の記載は本発明を説明することを意図するものであって、本発明の範囲を制限するものではなく、範囲は付随する特許請求の範囲によって定義されるものである。他の態様、利点及び改変は以下の特許請求の範囲内にある。
【0244】
【表1】
【0245】
【表2】
【0246】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0247】
【図1】図1aから1dは本発明による容槽と方法の一例を表す。
【図2】図2は、抗原2が存在する、本発明による容槽1の例を表す。
【図3】図3は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図4】図4は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図5】図5は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図6】図6は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図7】図7は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。
【図8】図8は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。
【図9】図9は、容槽に接続されていない本発明の容器20の一例を表す。
【図10】図10は、容槽に接続されていない本発明の容器29の一例を表す。
【図11】図11は、ルアー型取付具8及びこの場合には排気を容槽から逃がすことができる弁31を備えた容槽1を含む、本発明によるキットの一例を表す。
【図12】図12.1は破傷風毒素に対する免疫応答のエクスビボでの監視を示している。図12.2は実施例3で採用される手法を示している。図12.3は実施例4で採用される手法を示している。図12.4は実施例5で採用される手法を示している。
【図13】図13.1は、末梢血液中でのIFN−γとIL−10のmRNAの自然産生についてのRT−PCRを示している。図13.2は、全血中でのIFN−γとIL−10のmRNAについてのリアルタイムPCRを示している。
【図14】図14は、PreAnalytiXによって提唱される全血からのRNA抽出法と本発明によって提案される方法と比較しての図式的比較を示している。
【図15】図15は、破傷風毒素による血中サイトカインmRNAのエクスビボでの誘導を示している。
【図16】図16は、全血をLPSで刺激した後のIL−1βとIL−1RAのmRNAの動力学を示している。
【図17】図17は、出発血液容量に対するmRNAコピー数の線形回帰を示している。
【図18】図18は、破傷風毒素で全血を刺激した後のサイトカインmRNA動力学を示している。
【図19】図19は、LPSの静注後の血中サイトカインmRNAのインビボでの調節を示している。
【図20】図20は、抗破傷風ワクチン応答の追跡調査を示している。
【図21】図21は、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10及び実施例11で採用される手順の概要を示している。
【図22】図22は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。
【図23】図23は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。
【図24】図24は、癌免疫療法に登録された患者の症例報告の概略を示している。
【図25】図25は、種痘プロトコールとリアルタイムPCRによる免疫応答の監視を表した図を示している。
【図26】図26は、MAGE−3刺激された全血においてMAGE−3ワクチン追加抗原刺激した後により高いIL−2 mRNA濃度が観察されることを示している。
【図27】図27は、アレルゲンと一緒に全血をインキュベートした後にIL−4 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。
【図28】図28は、Feld1アレルゲンはネコに対してアレルギーがある被検体由来の全血においてアレルギーがない被検体と比較してより極めて高いIL−4 mRNA濃度を誘発することを示している。
【図29】図29は、この全血系でのFeld1に対する応答は特異的であり、かつ用量依存性であることを示している。
【図30】図30は、全血をFeld1で刺激した後のIL−4 mRNA濃度がネコに対してアレルギーがある患者において健康な対照と比較してより高いことを示している。
【図31】図31は、精製されたGAD65タンパク質と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。
【図32】図32は、1型糖尿病の患者由来の全血は健康な被検体と比較してGAD65刺激後により高いIL−2 mRNA濃度を示すことを示している。
【図33】図33は、非血縁の樹状細胞(DC)と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化して、同種異系反応性T細胞応答を評価するために実施される試験を表す図を示している。
【図34】図34は、全血中のIL−2 mRNA定量化による同種異系反応性T細胞応答の評価を示している。
【符号の説明】
【0248】
1 容槽、 2 抗原粒子、 3 入口、 4 容器、 5 安定化剤、 6 注射針、 7 シャフト、 8 生物学的試料、 9 隔壁、 10 キャップ、 11 注射器、 12 容器、 13 押し下げ可能領域、 14 鋭点部、 15 破砕可能な材料、 16 容器、 17 接続部、 18 隔壁、 19 皮下注射針、 20 容器、 22 取付具、 23 蓋、 25 栓、 28 プランジャー、 29 容器、 31 弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断的アッセイで使用するための装置、方法及びキットに関し、かつ本発明は免疫学の分野で使用される。
【背景技術】
【0002】
概論
核酸濃度、例えばmRNA濃度を監視することは、生物学的系での試剤の効果を直接的に確認する上で有用である。例えば、ある試剤をある生物学的系に所定の長さの時間にわたって導入した場合、その系のその試剤に対する反応は、mRNA濃度を測定することによって決定できる。このことは免疫性の監視にあたり有用であって、こういった場合、例えば、その試剤は抗原であり、かつ監視されるmRNAはサイトカインmRNA、例えばインターロイキンmRNAである。
【0003】
個体から血液を採取して暫く後の時点で、ある試剤を添加しその試剤の効果を試験すると、循環外採取と試剤刺激との間で血液に種々の遅延が導入される。その遅延の間に、血液は、例えば保持される温度に応じて遅かれ早かれ化学修飾を受けうる。更に、遅延が変動するということは、連続的に採取された試料間を比較調査しても無意味ということにある。
【0004】
核酸について試験する場合に、RNAのインビトロでの不安定性、特に低い濃度のRNA又は不安定なRNAを検出する必要があるときの不安定性は大きな課題である。ほんの少しのRNAが分解されただけでも、RNA濃度の解釈は変化しうる。ある転写物は細胞中に低コピーで存在することが知られており、また他の転写物は"AUリッチ"配列を3′末端に有し、それが内因性RNAアーゼによる迅速な分解を促す。調査研究によれば、RNAは試料収集後数時間以内に迅速に著明に分解することが判っている。更に、ある種のRNAは、ひとたびその試料が収集されたら遺伝子誘導の過程を通して増大する。RNA分解とインビトロでの遺伝子誘導の両方により、インビボでの遺伝子転写物数についての評価は過小にも過大にもなる。
【0005】
従って採取された血液に対する試剤の効果を測定する場合には、当該技術での課題は、採血直後から始まり、抗原の導入後に再び始まるmRNAの分解過程を制御することである。"事前"分解が"事後"分解に影響を及ぼすことがあるので、2つの過程にミスが結合すると、ミスの可能性がより高くなり、そのミスを解明するのがより困難となる。
【0006】
当該技術でのもう一つの問題は、生物学的試料をある試剤に曝露し、引き続きその核酸分析を実施する装置の幾つかの部品についての必然性である。一般的に、試薬びん、精密分注器、冷却手段が定量測定の実施のために少なくとも必要である。試料が適切な研究設備の無いところで、例えば個人の自宅で又は基本装備による手術に際して採取されているのであれば、正確な基質の添加を実施するのに適していないか又は都合が良くないことがあり、更には冷却設備を利用できないこともある。
【0007】
試料を試剤に曝露すれば、その中の核酸、例えばmRNAを単離及び測定する方法は多数存在する。幾つかの方法は、転写物プールから低濃度の転写物の測定さえも可能にする。しかしながら、それらのいずれの方法によっても、生物学的試料中に存在する試料採取時点での転写物の濃度を測定することはできない。冷却された条件下でさえも、生物学的試料を貯蔵すると誤ったmRNA濃度に導かれる。むしろ実際には、試料採取と同じ場所で新鮮な試料を分析することはできず、RNA分析の場所は異なる場所になる。
【0008】
最近では、PreAnalytiX社(ベクトン・ディキンソン社とキアゲン社との共同事業)がPAXgene(商標)Blood RNAシステムを制作した。PAXgene(商標)Blood RNAシステム(キアゲン法とも呼ばれる)は、全血検体の回収及び安定化と細胞性RNAの単離とについての総合的な標準的システムである。PreAnalytiX社によれば、PAXgene(商標)Blood RNAシステムにおいて、血液はPAXgene(商標)Blood RNA 採血管に直接回収され、そして引き続きRNAはPAXgene(商標)Blood RNAキットを用いて単離される。このシステムを用いて、全血から無損傷の細胞性RNAを取り出すことができる。
【0009】
PAXgene(商標)Blood RNA採血管は、全血の回収と細胞性RNAプロファイルの安定化のためのプラスチック製の真空の管である。それらの管は添加剤(専売の試薬配合物)を含有し、その添加剤は細胞性RNAを安定化し、かつエクスビボでの遺伝子転写誘導をなくすことができ、かつインビトロで通常行われる細胞性RNA発現プロファイルに劇的な変化を与えないようにするものである。次いでRNAを、PAXgene(商標)Blood RNAキットに提供されるシリカゲルメンブレン・テクノロジーを用いて単離する。PreAnalytiX社によれば、得られるRNAはin vivoでの正確な発現プロファイルを示し、ダウンストリーム・アプリケーションの範囲での使用に適している。製造業者によれば、このシステムを用いて遺伝子転写物の正確な定量が可能である。PAXgene(商標)Blood RNAシステムの主な欠点は、各々のPAXgene(商標)Blood RNA採血管をPAXgene(商標)Blood RNAキットと組み合わせる必要があることである(PAXgene(商標)Blood RNA採血管の解説マニュアルを参照のこと)。しかしながら、前記の組み合わせが余儀なくされることで、このシステムの更なる改善が制約されている。
【発明の開示】
【0010】
発明の目的
本発明の目的は、生物学的試料を試剤に曝露し、このように曝露された試料中の核酸を安定化するための装置、キット及び方法を提供することである。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を得てから、その試料を試剤に曝露するまでの時間を削減する、一定にする、又はほぼ一定にする装置、キット及び方法を提供することである。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、試料を試剤に曝露してから、その試料中の核酸を安定化するまでの時間を削減する、一定にする、又はほぼ一定にする装置、キット及び方法を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を試剤に曝露するのに、試料及び/又は試剤の量を測定する必要がない装置、キット及び方法を提供することである。
【0014】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を試剤に曝露するのに、安定化剤の量を測定する必要がない装置、キット及び方法を提供することである。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、生物学的試料を試剤に曝露し、このように曝露される試料中の核酸を安定化し、そして更なる分析のためにそこから核酸を抽出するための装置、キット及び方法を提供することである。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、前記の目的の1つ又はそれ以上の組み合わせに対処する装置、キット及び方法を提供することである。
【課題を解決する手段】
【0017】
発明の要旨
本発明の一実施態様は、液状の生物学的試料を収容し、その試料を第一の物質に曝露し、引き続き核酸安定化剤に曝露するのに適した容槽であって、
a)前記容槽内部に存在する第一の物質、
b)前記安定化剤が存在する容器、
c)前記容槽内部と前記容器内部との間の接続部、
d)前記接続部を一時的に遮断する物的障壁
を有する容槽である。
【0018】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されている容槽である。
【0019】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が固体担体上に固定化されている容槽である。
【0020】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が液体である容槽である。
【0021】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が固体である容槽である。
【0022】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、注射針による穿刺に適した1つ又はそれ以上の領域を有する容槽である。
【0023】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の領域が再封可能な隔壁である容槽である。
【0024】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、注射器を収容し、かつその内容物をその容槽内部に送出するのに適した取付具を有する容槽である。
【0025】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、注射針を収容するのに適した取付具を有する容槽である。
【0026】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、体液を採取するのに適したカニューレを有する容槽である。
【0027】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、容槽からの気体/液体の流出を最小限にすることができ、かつ容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする弁を有する容槽である。
【0028】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、排気を通過させて放出できる手段を有する容槽である。
【0029】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、該容槽が負圧下に保持されている容槽である。
【0030】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、項目d)の物的障壁が、その容槽に物理力をかけることによって開放される容槽である。
【0031】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記物理力が開放手段を前記物的障壁に送る容槽である。
【0032】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記物理力が不可逆的に前記物的障壁を開放する容槽である。
【0033】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、その容槽中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有する容槽である。
【0034】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含む容槽である。
【0035】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の免疫系抗原がワクチン成分である容槽である。
【0036】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原である容槽である。
【0037】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の免疫系抗原が、組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原、GAD65から選択される1種又はそれ以上である容槽である。
【0038】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の安定化剤が細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤である容槽である。
【0039】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の容槽であって、前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在するものである容槽である。
【0040】
本発明のもう一つの実施態様は、血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされ安定化された血液試料中のRNA成分を試験する方法において、前記の容槽を使用することを含む方法である。
【0041】
本発明のもう一つの実施態様は、抗原に対する個体の免疫応答を試験するにあたり、前記の容槽であって、第一の物質が調査対象の抗原である容槽を使用する方法において、
a)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
b)場合により前記容槽を撹拌する工程、
c)所定時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、及び
d)mRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0042】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、工程d)が更に、
e)核酸を含む沈殿物を形成する工程、
f)工程(e)の前記の沈殿物を上清から分離する工程、
g)工程(f)の前記の沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
h)工程(g)の前記の懸濁液から自動装置を用いて核酸を単離する工程、
i)自動装置を用いてRT−PCR用の試薬混合物を分散/分配する工程、
j)工程(h)で単離された核酸を自動装置を用いて工程(i)の分散された試薬混合物中に分散/分配する工程、及び
k)自動化された機構で工程(j)の核酸/RT−PCR試薬混合物を用いてインビボでの転写物濃度を測定する工程
を含む方法である。
【0043】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験し、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつサイトカインmRNAの濃度を試験する方法である。
【0044】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、前記のサイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である方法である。
【0045】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、個体の抗原に対する過剰アレルゲン性を試験し、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつIL−4 mRNAの濃度を試験する方法である。
【0046】
本発明のもう一つの実施態様は、前記の方法において、個体における器官移植片の拒絶反応を抗原に対して試験するにあたり、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、そしてIL−2 mRNAの濃度を試験する方法である。
【0047】
本発明のもう一つの実施態様は、血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされた安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、前記の容槽の使用である。
【0048】
本発明のもう一つの実施態様は、所定容量の血液試料を個体から前記の針又はカニューレを用いて抜き取り、前記試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされた安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、前記の容槽の使用である。
【0049】
本発明のもう一つの実施態様は、液状の生物学的試料を第一の物質でパルスし、引き続いてそこに細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する試剤を導入し、そしてこのようにパルスされた安定化された血液試料中のmRNA成分を試験するのに適したキットであって、
a)前記の第一の物質が存在する容槽、及び
b)前記の試剤が存在する容器
を有するキットである。
【0050】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽内部と前記の容器内部とが接続されており、かつ物的障壁が一時的に前記接続を遮断するキットである。
【0051】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されているキットである。
【0052】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が固体担体上に固定化されているキットである。
【0053】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が液体であるキットである。
【0054】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が個体であるキットである。
【0055】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が1つ又はそれ以上の開口部を有するキットである。
【0056】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が注射針による穿刺のために適した1つ又はそれ以上の領域を有するキットである。
【0057】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の領域が再封可能な隔壁であるキットである。
【0058】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が注射器を収容し、かつその内容物をその容槽内部に送出するのに適した1つ又はそれ以上の取付具を有するキットである。
【0059】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が皮下注射針を収容するのに適した1つ又はそれ以上の取付具を有するキットである。
【0060】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が体液を採取するのに適した1つ又はそれ以上のカニューレを有するキットである。
【0061】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が、容槽からの気体の流出を最小限にすることができ、容槽からの液体の流出を最小限にすることができ、かつ/又は容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする1つ又はそれ以上の弁を有するキットである。
【0062】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が、排気を通過させて放出できる1つ又はそれ以上の手段を有するキットである。
【0063】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽が負圧下に保持されているキットである。
【0064】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、項目d)の物的障壁が、前記容槽に物理力をかけることによって開放されるキットである。
【0065】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記物理力が開放手段を前記物的障壁に送るキットである。
【0066】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記物理力が不可逆的に前記物的障壁を開放するキットである。
【0067】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の容槽及び/又は容器がそれらの中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有するキットである。
【0068】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含むキットである。
【0069】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の免疫系抗原がワクチン成分であるキットである。
【0070】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原であるキットである。
【0071】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の免疫系抗原が、1種又はそれ以上の組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原及びGAD65から選択されるものであるキットである。
【0072】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在するものと同じものであるキットである。
【0073】
本発明のもう一つの実施態様は、個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験するための前記のキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがサイトカインmRNAであるキットである。
【0074】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、前記のサイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上であるキットである。
【0075】
本発明のもう一つの実施態様は、個体を抗原に対する過剰アレルゲン性について試験するための前記のキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−4 mRNAであるキットである。
【0076】
本発明のもう一つの実施態様は、個体を器官移植片の拒絶反応について試験するための前記のキットであって、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−2 mRNAであるキットである。
【0077】
本発明のもう一つの実施態様は、前記のキットであって、更に前記のmRNAを試験するために適した1種又はそれ以上のオリゴヌクレオチドを含むキットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
発明の詳細な説明
本発明の一態様は、生物学的試料を収容するために適した容槽であって、所定量のパルス試剤を収容している容槽に関する。
【0079】
本明細書で使用される"パルス試剤"は、生物学的試料を曝露できる任意の物質を含む。それらの物質の例は、例えばペプチド、核酸、抗原である。パルス試剤には、前記の物質の他に、他の成分、例えば安定化剤、指示薬、リンカー、マトリクス等を含んでよい。
【0080】
用語"生物学的試料"とは、核酸/生物学的因子を含有する試料、例えば臨床的試料(例えば細胞分画、全血、血漿、血清、尿、組織、細胞など)、農業環境試料(例えば土壌、泥、鉱物、水、空気)、食品試料(任意の食材)、法医学試料又は他の可能な試料を意味する。"全血"とは、静脈採集によって採集されたままの血液、すなわち白血球及び赤血球、血小板、血漿、そして可能性としては感染原因物質(該物質はウイルス性、細菌性又は寄生虫性であってよい)を含有する血液を意味する。臨床的試料はヒト由来又は動物由来であってよい。分析される試料は固体又は液体の性質の両者であってよい。固体材料が使用される場合には、まずこれらを適切な溶液(キアゲン社が販売しているRNAlater試薬であってよい)中に溶解させることは明らかである。本発明によれば、この溶液は、少なくとも2種の良く平衡化された成分を有する実際の"バッファー"とは限らない。その溶液は、NaCl単独のような強い低張液か、又はアルコールを有するような抽出溶液であってよい。
【0081】
容槽は、幾つかの様式でパルス試剤を収容することができる。本発明の一態様によれば、パルス試剤は容槽の内壁上に固定化されていてよい。容槽の内壁は、パルス試剤を結合可能にする適切なコーティングで内張りされていてよい。あるいは、パルス試剤は容槽の内壁上の一部又は全てに直接結合されていてよい。前記の結合に適したコーティング、そのための方法及びそれに適した容槽材料は当該技術において公知である。本発明のもう一つの態様によれば、パルス試剤は固体として存在する。固体は粉末、凍結乾燥ペレット、ゲル、クリームであってよい。適切な固体組成物及びそれらの製造方法は当該技術において公知である。本発明のもう一つの態様によれば、パルス試剤は固体担体上に固定化される。固体担体は容槽の内側に取り付けられていてよい。あるいは、固体担体は容槽の内側から離れていてもよい。固体担体の例は、例えばこれらに制限されないが、クロマトグラフィー担体、磁気ビーズである。本発明のもう一つの態様によれば、パルス試剤は液体として存在する。適切な液体組成物及びそれらの製造方法は当該技術において公知である。
【0082】
分析的なパルス試験を研究室の条件外で実施するには、較正測定機器、例えば分注器が必要である。非較正測定装置によるミスは固有誤差をもたらすことがあり、そしてまた計量分配における人為ミスが種々の試料の間にミスをもたらすことがあり、こうしたことが比較分析を妥当でないものにしてしまう。パルス試剤についての所定量が供給された容槽を提供することで、追加の機器の必要が無くなり、かつ人為的な測定誤差が排除される。
【0083】
本発明による容槽の型は、生物学的試料の貯蔵に適した任意の型であってよい。本発明の一態様によれば、パルス試剤を含有する容槽は封止されている。本発明の一態様によれば、パルス試剤を含有する容槽は再封手段、例えばスクリューキャップ、プッシュオンキャップ、フリップキャップを有する。例えば図5を参照のこと。本発明の一態様によれば、生物学的試料は、注射針を用いて容槽の壁部に穿刺することにより容槽中に導入することができる。容槽の壁部は穿刺後に再封可能であってよく、又は容槽の壁部は穿刺後に再封可能でなくてよく、又は容槽の壁部に再封可能な領域、例えば隔壁が設けられていてよい。例えば図4を参照のこと。
【0084】
本発明の一態様によれば、生物学的試料は、注射器の収容のため又は結合手段を備えた他の容器の収容のために容槽に取り付けられた1つ又はそれ以上の取付具によって容槽中に導入できる。例えば、容槽は、無針注射器を収容できるルアー接続部を備えていてよい。例えば図3を参照のこと。別の例では、容槽は、往復型の非ルアー設計の接続部を有する容器と嵌合しうる非ルアー接続部を備えていてよい。
【0085】
本発明の一態様によれば、生物学的試料は、個体から生物学的試料を直接採取するために適した、前記の容槽に装着されたカニューレ又は皮下針によって容槽中に導入できる。例えば図6を参照のこと。
【0086】
本発明の一態様によれば、生物学的試料は再封手段を開放することによって容槽中に導入できる。例えば図5を参照のこと。
【0087】
当業者に公知のように、試料を封止容槽中に導入することで、等容量の空気又は気体を容槽から排出させることとなるか、又は容槽中の圧力が上昇することとなる。従って、容槽には、排気をその容槽から逃がすか又は圧力上昇を吸収するのに適した手段が設けられていてよい。前記の手段は当該技術では公知であり、例えば弁、ノンドリップ孔、脱気孔、布張り脱気孔、伸縮性の容槽壁、容槽内負圧の使用である。例えば図11の矢印31を参照のこと。
【0088】
本発明の一態様において、封止された容槽内圧は負圧である。負圧を利用して、前記の封止された容槽中に生物学的試料を導入した後の圧力上昇を軽減することができる。選択的に又は追加的に、負圧は所定の水準であってよく、かつ負圧を利用して、一定容量の生物学的試料の導入を可能にすることができる。
【0089】
所定量のパルス試剤が既に供給された容槽により、前記の抗原を測定するための装置を必要とせずに、個体について診断試験を実施することが可能である。更に、診断試験を研究室の条件外で実施する場合には、コンタミネーションと計量配分精度に関する問題が定量アッセイに誤った結果をもたらすことがある。本願に記載される容槽はこれらの問題を克服している。
【0090】
本発明のもう一つの態様は、前記の容槽であって、更に安定化剤が存在する容器を有し、安定化剤とパルス試剤又はその試剤に曝露されるべき生物学的試料との接触が一時的に妨げられている容槽に関する。
【0091】
本発明の一態様において、安定化剤は、核酸安定化剤及び/又は細胞性RNA分解阻害剤及び/又は遺伝子誘導阻害剤を含み、かつ/又は安定化剤は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に認められるものと同じものである。試剤及びそれらの組み合わせは当該技術において公知であるか、又は当業者によって類推できるものである。
【0092】
PAXgene(商標)Blood RNA採血管には、細胞性RNAを安定化し、かつエクスビボでの遺伝子転写誘導をなくすことができる添加剤を含有する溶液が供給されている。この添加剤の性質を記載することで詳細な情報を提供しない。前記採血管を規定するパンフレットは、このために特許US5,906,744号を参照している。それにも拘わらず、前記特許に記載される採血管により当業者は血漿から核酸を調製することは可能であっても、本発明で実施されるような全血からは核酸を調製できない。特に、US5,906,744号の装置は、有利にはプラスチック管又はガラス管、凝血を阻害する手段及び全血から血漿を分離する手段を含む(US5,906,744号、第2欄、42〜43行目)。従って、本発明によれば、US5,906,744号に記載される内容はPAXgene(商標)Blood RNA採血管の実際の内容に関するものではなく、異なった使用に関連するものである。
【0093】
本発明によれば、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に保持される溶液は四級アミン界面活性剤を含有してよい。従って、本発明によれば、四級アミン界面活性剤を安定化剤として使用できる。生物学的試料中の核酸を安定化するために四級アミン界面活性剤を使用することは以前にUS5,010,183号に記載されている。前記特許は、生物学的材料の混合物からDNA又はRNAを精製するための方法を提供している。前記方法は、カチオン系界面活性剤をRNA又はDNAを含有する混合物へと、細胞を溶解し、該混合物中の全ての不純タンパク質及び脂質を溶解させ、かつ核酸と界面活性剤とで不溶性の疎水性複合体を形成するのに十分な量で添加する工程を含む。RNA又はDNAと界面活性剤とを含む複合体は、こうして可溶化された不純物から分離されることとなる。より最近の特許において、同一発明者は、US5,010,183号に記載の界面活性剤と他の市販の界面活性剤とを使用すると、RNAの沈殿が不十分となり、そして血液細胞の溶解が不完全となることを示している。このために改善されたカチオン系界面活性剤が必要とされていたので、US5,010,183号の発明者は、選択された四級アミンを含有するカチオン系界面活性剤水溶液の使用を伴う、血液を含む生物学的試料からRNAを単離するための新規の方法について調査した(US5,985,572号)。新規の水性の四級アミン界面活性剤は生物学的試料からのRNAを安定化でき、これはまたWO94/18156号及びWO02/00599号にも記載されている。本発明のいずれかの方法で使用できる種々の可能な界面活性剤の合成は、前記の特許又は関連特許で公開された解説に従って実施できる。本発明の方法で使用できる四級アミンの一例は、テトラデシルトリメチル−アンモニウムシュウ酸塩である。(US5,985,572号)。選択的に、前記のカチオン系界面活性剤は、本発明の実施例1に示されるCatrimox−14TM(US5,010,183号)であってよい。前記の生物学的試料の安定化の他に、前記出願はカラムクロマトグラフィーのような慣用の分離技術を用いた核酸の単離を記載している。PAXgene(商標)Blood RNA採血管はPAXgene(商標)Blood RNAキット(カラムクロマトにもかける)と組み合わせることを余儀なくされるので、製造業者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在する化合物は前記のクロマトグラフィー法と共存できるに過ぎないとの印象を与えている。
【0094】
本発明の一態様において、安定化剤は、生物学的試料がパルス試剤と混合され、かつ/又は利用者が安定化剤の導入を必要とする時点まで前記の容器中に収容されている。
【0095】
本発明の一態様によれば、前記の容器の内部と前記の容槽の内部とは接続されており、その接続を遮断する物的障壁が存在する。適切な時に、力の印加で物的障壁を開放し、安定化剤と生物学的試料とを混合して、パルスすることができる。本発明の一態様によれば、物的障壁は印加される物理力により可逆的に開閉する。印加される力は物的障壁それ自体に伝わるか、又は安定化剤を介して物的障壁に伝わってもよい。かかる物的障壁の例は、例えば回転弁、開放弁、スリット弁、ダイヤフラム弁、ボール弁、フラップ弁である。本発明のもう一つの態様によれば、物的障壁は力の印加によって不可逆的に開放されてよい。印加される力は物的障壁それ自体に伝わるか(例えば図7を参照のこと)、又は安定化剤を介して物理障壁に伝わってもよい(例えば図8を参照のこと)。かかる物的障壁のもう一つの例は、例えばポジションから押し出される栓(例えば図1を参照のこと)、力の印加により破砕する障壁(例えば図7を参照のこと)である。
【0096】
本発明のもう一つの態様によれば、前記の容器の内部と前記の容槽の内部とは接続されていて、かつ容器から容槽への安定化剤の流動は、接続部の開口寸法と組み合わさった安定化剤の表面張力によって妨げられている。本発明の前記の態様によれば、適切な時に、力は印加することで安定化剤に伝わり、安定化剤は容器から容槽中へと押し出される。その力は、例えば圧搾、連続的な反転及び撹拌によって印加することができる。
【0097】
本願に記載される容槽は、安定化剤を計量分配するための容器を含むことで、経験を積まない技術者にも血液試料のパルスを可能にし、そして後続段階で熟練技師による分析のためにパルスされる血液を安定化することを可能にする。こうして、多くの試料を回収する必要がある場合に、本明細書に開示される容槽はコスト削減を可能とする。それというのも不熟練作業者を使って、血液をパルスし、かつ安定化することができるからである。更に、該容槽は再現性を可能にする。それというのも、既知量のパルス試剤と安定剤とを事前にその容槽中に供給しておくことができるので、分注作業に関連するミスを最小限にすることができるからである。更に、生物学的試料を採取する時から、その試料をパルスする抗原に曝露する時までの時間が大きく削減される。それというのも、試料は前記の管中に直接引き込むことができるか、又は例えば注射器を介して抜き出すことができるからである。更に、生物学的試料をパルスする時と生物学的試料を安定化する時の間の時間を正確に設定できる。それというのも、安定化剤を試料へと導入することは、力の印加によって簡単に達成されるため、安定化剤を分注することによる遅延が生じないからである。
【0098】
本発明のもう一つの実施態様は、生物学的試料をパルス試剤でパルスし、引き続いてそこに安定化剤を導入し、かつこうしてパルスされた生物学的試料中のRNA成分を試験するために適したキットであって、前記の1つ又はそれ以上の容槽と、安定化剤が中に存在する1つ又はそれ以上の容器とを有するキットである。
【0099】
キットの一実施態様において、前記の安定化剤が中に存在する容器は、パルス試剤が中に存在する容槽に接続されていない。このように容器は隔離されていてよく、かつキット中に安定化剤を収容するのに適した当該技術のいかなる容器であってよい。容器は、再封手段、例えばスクリューキャップ、プッシュオンキャップ、フリップキャップを有してよい。容器はブレーカブルシール、例えば引き剥がし接着シール、スナップオフシールを有してよい。容器は、容槽に嵌合される相互接続手段の取付と、前記容槽へと安定化試剤を移送するためとに適した1つ又はそれ以上の取付具を有してよい。例えば、容器は前記の容槽に取り付けられた相互ルアー取付具を収容できるルアー取付具を備えていてよい(例えば図9、図10、図11を参照のこと)。別の例では、容器は、往復型の非ルアー設計の接続部を有する容槽と嵌合しうる非ルアー接続部を備えていてよい。安定化剤は、容槽の再封手段を開放することによって移送することができ、安定化剤は前記の取付具又は開口部を介して容器から出ることもできる。容器は場合により、安定化剤が出ていくうちに空気を入れることを可能にする手段を有してよい。本発明の一態様において、容器は、安定化剤をその容器から押し出す手段を有してよく、例えばこれらに制限されないが注射器型のプランジャー、圧搾可能な容器壁である。容器は、場合により計量分配される安定化剤の容量を測定する測定手段、例えば計量装置を有している。本発明の一態様において、容器は一回用に十分な安定化剤容量を収容する。本発明の一態様において、容器は複数回のパルス試験に十分な安定化剤容量を収容する。
【0100】
キットのもう一つの実施態様において、安定化剤が存在する容器は、パルス試剤が存在し、実施態様が前記のものである容槽に接続されている。
【0101】
場合により、本発明のキットは、生物学的試料をパルスする方法の説明を含む解説マニュアルを有していてよい。
【0102】
本発明のもう一つの態様は、本明細書に開示される容槽を有し、パルス剤が抗原を含む容槽とキットに関する。本発明の一態様によれば、抗原は細菌性LPSである。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は免疫応答想起抗原である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は破傷風毒素である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は癌免疫療法抗原である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はMAGE−3である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はネコアレルゲンである。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はFeld1である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は器官ドナー由来の抗原提示細胞である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原は自己抗原である。本発明のもう一つの態様によれば、抗原はGAD65である。
【0103】
本発明のもう一つの態様は、生物学的試料を抗原でパルスし、引き続いてその中の核酸を安定化し、そしてこうしてパルスされた安定化している生物学的試料中のRNA成分を試験する方法に関する。該方法は、場合により試料を回収し、パルスし、かつ安定化するための、本願に開示される容槽及び/又はキットの使用を含む。
【0104】
本発明の一実施態様において、生物学的試料をパルスする方法は、
i)前記の容槽中に生物学的試料を導入する工程、
ii)場合により前記容槽を撹拌する工程、
iii)所定の時間後に前記容槽中に安定化剤を導入する工程、及び
iv)その中の核酸濃度を試験する工程
を含む。
【0105】
本発明のもう一つの実施態様は、個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験する方法において、前記の容槽であって、パルス試剤が調査対象の抗原である容槽を使用し、かつ
a)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
b)場合により前記容槽を撹拌する工程、
c)予定された時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、
d)サイトカインmRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0106】
本発明の一態様によれば、サイトカインはIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である。
【0107】
本発明のもう一つの実施態様は、抗原に対する過剰アレルゲン性について個体を試験する方法において、前記の容槽であって、パルス試剤が調査対象の抗原である容槽を使用し、かつ
e)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
f)場合により前記容槽を撹拌する工程、
g)予定された時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、
h)IL−4 mRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0108】
本発明のもう一つの実施態様は、器官移植片の拒絶について個体を試験する方法において、前記の容槽であって、パルス試剤がドナーの組織適合抗原である容槽を使用し、かつ
i)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
j)場合により前記容槽を撹拌する工程、
k)予定された時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、
l)IL−2 mRNA濃度を試験する工程
を含む方法である。
【0109】
本発明のもう一つの態様は、生物学的試料を抗原でパルスし、引き続いてその中の核酸を安定化し、そしてこうしてパルスされ安定化している生物学的試料中のRNA成分を試験する方法において、
A)前記のキット、装置及び/又は方法を用いて、前記生物学的試料をパルス試剤でパルスし、そしてそこにinhibitingRNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を添加する工程、
B)核酸を含有する沈殿物を形成する工程、
C)工程(B)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
D)工程(C)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成する工程、
E)工程(D)の前記懸濁液から自動化装置を用いて核酸を単離する工程、
F)自動装置を用いてRT−PCR用の試薬混合物を計量分配/分配する工程、
G)工程(E)で単離された核酸を自動装置を用いて工程(F)の計量分配された試薬混合物中に計量分配/分配する工程、及び
H)自動化された機構で工程(G)の核酸/RT−PCR試薬混合物を用いてインビボでの転写物濃度を測定する工程
を含む方法に関する。
【0110】
生物学的試料採取時点でのRNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害は、インビボでの転写物濃度の測定に使用できるRNAのプールを得るために重要である。細胞性RNAはPAXgene(商標)Blood RNAシステムを用いてその完全な形で精製することができるが、本発明は、このシステムを"そのまま"使用して実際のインビボでの濃度を測定できないことを示している(参照:実施例2)。
【0111】
本発明は、インビボでの核酸転写物の濃度は、細胞外及び/又は細胞内RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を用いて安定化された生物学的試料から調製されたRNAのプールから出発して、核酸の単離を自動装置を用いて実施し、RT−PCR反応のために使用される試薬混合物と単離された核酸とを自動装置を用いて計量分配し、そして転写物濃度の測定を自動化された機構で実施する場合にのみ測定/決定/定量できることを示している。本発明によれば、このアプローチのみが再現的にインビボでのRNAの定量を可能にする。前記の方法で実施される工程数は最低限に削られて、ミスが避けられる。"ミス"は分注ミス、取扱ミス、手順ミス及び/又は計算ミス又は当業者によってなされうる任意のミスでありうる。この点で、本発明はRTとPCR反応を一工程で実施することを提案している。本発明の方法は、より多くの中間工程を一緒にすれば、更により正確になる。例えば本発明の方法では、工程(A)と(B)を一緒にすることができる。
【0112】
本発明のもう一つの態様では、核酸の計量分配(工程(G))は、RT−PCRに必要な試薬混合物の計量分配(工程(F))の後、その前又はそれと同時に実施してよい。
【0113】
本発明の方法によれば、核酸濃度の計算で生ずるミスを排除するのにOD測定は必要ない。それに対して、完全なPAXgene(商標)Blood RNAキットの使用は、OD測定を使用する必要がある。このことはまた、本発明による方法は前出のシステムと比較してより信頼性が高くかつより正確な方法であることを説明している。本発明のより良好な精度は、表1に示される再現性調査によって説明される。
【0114】
本発明のもう一つの態様では、本発明による方法の工程(D)で形成される沈殿物を溶解された場合に、得られる懸濁液は、完全に自動化されたRNA抽出法と分析法と組み合わせて使用できる。それは、実施される方法の正確な最適化と再現性を可能にし、かつパルス後のRNA濃度の正確かつ再現的な測定を可能にする唯一の組み合わせである。PAXgene(商標)Blood RNAシステムのパンフレットが、相応の採血管を他の単離法と組み合わせて使用できないと記載しており、そして種々のキットの組成物を記載する詳細な情報を得ることができないので、当業者には、PAXgene(商標)Blood RNAシステムの一部を使用して、そこから新規の方法を開発することは自明ではない。
【0115】
完全に自動的にRNAの単離を可能にする市販のシステムは幾つかしか存在しない。かかる自動化された核酸抽出器の例は:MagNa Pure LCインスツルメント(ロシュ・ダイアグノスティクス社)、AutoGenprep 960(オートジェン社)、ABI Prism(商標)6700全自動核酸ワークステーション(アプライドバイオシステムズ社)、WAVE(登録商標)核酸解析システムと別売りのWAVE(登録商標)フラグメントコレクターFCW200(トランスジェノミック社)及びBioRobot 8000(キアゲン社)である。
【0116】
本発明は、これらの全てのシステムについて、できる限り新鮮であるか又は安定化された材料から出発して、パルスした後に、RNA分解が最低限で転写物濃度を測定できることが必須であるということを指摘している。これらの全てのシステムに関する問題は、生物学的試料が回収され、かつ添加剤を含有しないか又は慣例の添加剤しか含有しない採取管中で研究所に持ち込まれるので、mRNAはなお迅速に分解されうるということである。従って、これらの方法を用いたmRNA定量化は採取管中に存在する転写物の定量化は確実にもたらすが、この定量化は、試料採取時点で細胞/生物学的因子中に存在した転写物濃度を表すものではない。この実験的証拠を本発明の実施例1の図13.2に示す。
【0117】
用語"定量化"とは、RNAコピー数の正確かつ再現的な測定を意味するが、当業者には、本発明によって記載される方法により単離されたRNAを用いて定性的又は半定性的な調査も実施できるということは問題にならない。
【0118】
定義"転写物"はメッセンジャーRNA(mRNA)に制限されずに、当業者によって存在が知られる他の種類のRNA分子に関するものでもある。本発明の方法によれば、mRNA並びに全RNAを取り出すことができる。このことは、インビボでの核内RNAの正確な定量を可能にし、こうして遺伝子転写を評価するのに強力なツールがもたらされる。
【0119】
用語"核酸"は一本鎖又は二本鎖の核酸配列を指し、前記核酸はデオキシリボヌクレオチド(DNA)又はリボヌクレオチド(RNA)、RNA/DNAハイブリッドからなってよく、又は増幅されたcDNA又は増幅されたゲノムDNA又はそれらの組み合わせであってよい。本発明による核酸配列は当該分野で知られる任意の修飾ヌクレオチドを有してもよい。
【0120】
本発明によれば、核酸は生物学的試料中に細胞外又は細胞内で存在してよい。
【0121】
本発明の工程(C)における沈殿物の上清からの"分離"は、遠心分離、濾過、吸収又は当業者に公知の他の手段を介して実施してよい。前記の沈殿物は、例えば細胞、細胞/破片、核酸又はそれらの組み合わせであってよい。構想の根本となることは、核酸含有因子(又は生物学的因子)を外的な要因/パルス/シグナルとの接触から阻止することである。これは、核酸含有因子を固定化、溶解及び/又は分解することによって、又は当業者に公知の他の手段によって実施できる。
【0122】
本発明の方法の工程(D)で使用されるバッファーは、前記の方法の工程(C)で得られる沈殿物を溶解させるバッファーであってよい。このバッファーは、核酸含有因子の溶解又は更なる溶解のような付加的な効果を有してよい。
【0123】
使用される"自動装置"は自動分注装置又は指示された働きを実施するために適した当業者に公知の別の自動装置であってよい。
【0124】
"RT−PCR用の試薬混合物"とは、RTとPCRの同時の反応のために必要な全ての試薬を意味する(但し、明示される場合にはオリゴヌクレオチドは除く)。本発明によれば、"オリゴヌクレオチド"は、例えばプライマー又はプローブ中に見いだされる短鎖の核酸を含むことができる。本発明によれば、この方法はマイクロアレイ又はRNアーゼ保護アッセイと組み合わせて使用することができる。
【0125】
既に指摘したように、血液のような生物学的試料の貯蔵はmRNA濃度の誤測定に導く。むしろ実際には、新鮮な試料の分析は試料採取と同じ場所で実現できず、RNA分析の場所は異なる場所である。本発明による方法は、生物学的試料を離れた場所から適切な研究室へと、インビボでの転写物含量にいかなる影響も与えずに輸送することを可能にする。生物学的試料の輸送は、本発明の方法における工程(A)又は工程(B)の後に実施できる。
【0126】
通常、血液試料を使用する場合は、好ましくは赤血球細胞が核酸の単離前に排除される。赤血球細胞はヘモグロビンに富み、そして存在は非常に粘性の溶解物の生成をもたらす。従って、これらの除去により、より改善された様式で核酸の単離が可能となる。しかしながら、本発明の方法では、この工程は、核酸を含有し、それらを生物学的試料の他の全ての成分から隔離する不溶性の沈殿物を直ちに形成するので排除される。このことは、他の利点に加えて、本発明の方法が殆どの先行技術法と比較して優れた方法であることを説明している。
【0127】
本発明によれば、本発明の方法の工程(D)で使用されるバッファーはチオシアン酸グアニジン含有バッファーであってよい。
【0128】
本発明の実施例では、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中で形成される沈殿物は、MagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)によって提供される溶解バッファー中に溶解される。従って、本発明においては、本発明の方法で使用できる可能なバッファーの1つはMagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)によって提供されるチオシアン酸グアニジン含有バッファーである。
【0129】
MagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)は、特に全血、白血球細胞及び末梢血リンパ球から高品質かつ未分解のRNAを単離することを保証するのにMagNA Pure LCインストルメントで使用するために設計されている。その製品説明によれば、得られたRNAは高感度の定量的なライトサイクラーRT−PCR反応並びに標準的なブロックサイクラーRT−PCR反応、ノーザンブロッティング用途及び他の標準的なRNA用途のために適している。それにもかかわらず、本発明は、この方法の"そのまま"での使用は正確な転写物濃度の測定をもたらし得ないということを示している。本発明は、RNAはRNA単離前に安定化する必要があることを示している(実施例1を参照のこと)。本発明は、RNA安定化化合物と自動化された単離/解析手法との使用の独自な組み合わせを記載している。
【0130】
本発明によれば、MagNA Pure LC mRNA単離キットIによって提供されるバッファーのような溶解バッファー中に工程(D)の沈殿物を溶解させたら、本発明の方法は引き続きMagNA Pure LC mRNA単離キットIについて記載されるような手順を行ってよい。試料を溶解バッファー中でカオトロピック塩の存在で溶解させた後に、ストレプトアビジン被覆された磁気粒子をビオチン標識されたオリゴdTと一緒に添加し、そしてmRNAはその粒子表面に結合する。これに引き続いてDNアーゼ消化工程を行う。次いでmRNAを結合されていない物質から磁気を用いて分離して、数回洗浄工程を行う。最後に、精製されたmRNAを溶出させる。この単離キットにより、"放っておける"システムとして純粋なmRNAの自動的な単離が可能となる。遺伝子発現分析に関する全ての主要なダウンストリーム・アプリケーションに適した高品質で高い完全性のmRNAを単離することができる。使用される試料材料に依存して種々のプロトコールが提供される。試料はMagNA Pure LCインストルメントのステージ上に直接セットすることができる。全血を使用する場合に、試料中に存在する細胞は好ましくは手動で溶解される。次いでmRNA単離を先送りするか、又は直接的に前記インストルメント上で更に処理してよい。
【0131】
本発明は、実施例において、MagNA Pure LCインストルメント(ロシュ・ディアグノスティクス社、モレキュラーバイオケミカルズ社)を本発明による方法の工程(E)、工程(F)及び/又は工程(G)における自動装置として使用することにより、パルス試剤に曝露した後に転写物の正確な濃度を測定するのに使用できるRNAのプールの生成がもたらされることを示している。RNA捕捉ビーズ、例えばストレプトアビジン系又は同等の系を介してオリゴdTで被覆された磁気ビーズを本発明の方法で利用して、mRNAを細胞破片から分離することができる。
【0132】
あるいは、本発明によれば、他の自動装置、例えばABI Prism(商標)6700全自動核酸ワークステーション(アプライドバイオシステムズ社)又はこのために使用できる任意の他の自動装置を使用できる。
【0133】
MagNA Pure LC mRNA単離キットI(カタログ番号3004015)のパンフレットには、このキットで使用されるバッファーの組成の詳細は述べられていない。従って、当業者には、このキットによって提供されるバッファーが、PAXgene(商標)Blood RNA採血管の方法によって得られるペレットを溶解できることを推測することが自明ではない。更に、当業者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管のパンフレットによって提供される情報に基づくと、これらの採血管が相応のPAXgene(商標)Blood RNAキットと組み合わせることしかできないと明記されているので両方の方法を組み合わせることはない。
【0134】
前記に指摘したように、血液試料を使用する場合には、赤血球細胞は好ましくは本発明の方法において工程(A)の後に溶解される。MagNA Pure LC mRNA単離キットI(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)の設計では、mRNAを白血球細胞から単離する前に赤血球細胞を溶解させて、排除する可能性がある。それにも拘わらず、この工程のため、試料はmRNA分解を避けるに十分に迅速に処理できない。本発明者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中に含まれる安定化剤とMagNA Pure mRNA単離キットとを組み合わせてMagNA Pureインストルメントにおいて使用するという結論に達した。PAXgene(商標)Blood RNA採血管を使用することにより核酸の沈殿が得られるが、それはMagNA Pure mRNA単離キットの溶解バッファー中に可溶であると想定されていない。それにも拘わらず、本発明者はその使用が実際に可能であることを見いだした。前記の知見に従って、本発明者は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中の安定化剤の使用と自動化されたRNA単離システムの使用を組み合わせた。本発明者は、驚くべきことに、この組み合わせが可能であり、そしてこの組み合わせが生物学的試料から正確にmRNAを定量化するための強力な手法を提供することを見いだした。
【0135】
本発明による方法を用いて単離されたRNAは、例えば核酸増幅技術、例えばRT−PCR及びNASBA(登録商標)、発現アレイ分析及び発現チップ分析、定量RT−PCR、TaqMan(登録商標)技術、cDNA合成、RNアーゼ保護及びS1ヌクレアーゼ保護、ノーザン分析、ドット・スロットブロット分析及びプライマー伸長を含む広範なダウンストリームアプリケーションですぐに使用できる。
【0136】
本発明者は、本発明の実施例1と実施例2において、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物と自動化されたRNA単離法及び自動化された分析法、例えばリアルタイムPCRとを組み合わせて使用することで、転写物のインビボでの濃度を測定できることを示した。それにも拘わらず、本発明によれば、リアルタイムPCR以外の分析方法も、それらが自動化された機構で提供される限りは利用できる。
【0137】
本発明による方法の主な利点は、本方法を用いることによって試料の容量が少なくても分析できることである。このことは、少量でさえ利用できる場合、例えば新生児の血液試料を分析する場合又は失血が多い場合に主に重要である。本発明によれば、RNA定量化は、100μl程度の少量の生物学的試料を用いて実施することができる。100μl程度の少量の試料からRNAを分析することはキアゲンのキット(PAXgene(商標)Blood RNAシステム)では不可能であり、これにはより多量の血液が必要とされる(キットのハンドブックによれば2.5ml)。
【0138】
前記のように、本発明の一態様は、生物学的試料をパルス試剤でパルスし、引き続いてこうしてパルスされた生物学的試料からの核酸を安定化させるのに適したキットである。本発明のもう一つの態様では、前記キットは、安定化され、パルスされた生物学的試料から定量化可能なRNAを単離するための追加成分を含む。本発明の一態様によれば、該キットは、追加成分、例えば
− 自動化されたRNA単離のための試薬、
− 自動化された計量配分が可能な、RT反応とリアルタイムPCR反応の同時の反応のための試薬混合物又前記混合物の別個の化合物、
− 場合により、前記RT−PCR反応を実施するための特異的なオリゴヌクレオチド、及び
− 自動化されたRNA単離のための方法、試薬混合物とRT−リアルタイムPCRのための単離された核酸の自動化された計量配分のための方法並びに自動化されたRNA分析のための方法を説明する解説マニュアルを含んでよい。
【0139】
本発明の実施例で、本発明者は、ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社製の"ライトサイクラーmRNAハイブリダイゼーションプローブキット"(カタログ番号3018954)を利用して、一工程でRT−PCR反応を実施する。必要な全ての試薬はこのキットに含まれているが、オリゴヌクレオチドは除く(これらはバイオソース社によって合成される)。それにも拘わらず、本発明に記載されるリアルタイムPCRは他の機器、例えばアプライドバイオシステムズ社製の機器でも実施できる。該キットは更にバッファー、例えばチオシアン酸グアニジン含有バッファーを含み、該バッファーは本発明による方法の工程(b)で使用できる。
【0140】
本発明による方法は、生物学的試料中のDNA(二本鎖又は一本鎖)の定量化/検出のために使用することもできる。従ってまた、本発明は、生物学的試料からDNAを定量化するために、本発明によるRNAの定量化のために実施される方法を用いる方法において、RT反応を省き、そして工程(a)の化合物がDNAの分解をも保護する方法に関する。これらの核酸はRNAよりも安定なので、その安定化はRNAに関するよりも重要ではない。
【0141】
加えて、本発明は、生物学的試料から定量化可能なDNAを単離するための本発明によるキットであって、前記RT反応を実施するための試薬混合物/化合物が存在しないキットに関する。生物学的試料中で正確なDNA濃度を測定する必要がある状況とは、生物学的試料中での不測の遺伝子、病原又は寄生物による感染/汚染の"存在"を決定すること、及び/又は前記の感染/汚染の"程度"を決定することでありうる。例えば本方法を使用して、穀物ロット中の遺伝子導入物の割合を決定できる。
【0142】
また本発明は、一定の疾病を診断するために、ある試剤でパルスした後に、生物学的試料中の生物学的指標のインビボでの核酸の変化を監視/検出するために、本発明による装置、キット及び方法を使用することに関する。
【0143】
また本発明は、ある疾病を治療するための医薬品の製造のために使用される化合物をスクリーニングするために、ある試剤でパルスした後に、生物学的試料中の生物学的指標のインビボでの核酸の変化を監視/検出するために、本発明による装置、キット及び方法を使用することに関する。従ってまた、本発明は本発明による方法によって同定可能な化合物に関する。
【0144】
本願に開示される装置、キット及び方法を使用して、疾病を治療及び/又は診断することができる。治療されるべき又は診断されるべき疾病の例は免疫関連疾病である。本発明によれば、免疫関連疾病の例は、自己免疫病、リウマチ様関節炎、多発性硬化症、1型糖尿病、癌(例えば癌免疫療法での)、免疫不全(例えばAIDSにおける)、アレルギー、移植片拒絶又は対宿主性移植片病(GVHD)(例えば移植における)であってよい。本願に開示される実施例は、前記の利用を詳説するものである。従って、免疫調節化合物又は免疫調節剤は前記の疾病の1つに作用しうる;免疫関連転写物又はエピトープ特異的なCTL関連転写物又はTヘルパーリンパ球関連転写物の変化は前記の疾病の1つの存在及び/又は状態並びに前記の疾病の1つの状態を説明できる免疫学的状態を示すことができる。
【0145】
前記の免疫関連疾病の研究のために、本発明の装置、キット及び方法を用いて定量化できる核酸は、例えばケモカイン、サイトカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、転写因子、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド、アポトーシスマーカー、イムノグロブリン、T細胞受容体及び、既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化又は阻害に関連する任意のマーカーをコードする核酸であってよい。
【0146】
本発明によれば、前記核酸は、マーカー、例えばIL−1ra、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−5、IL−9、IL−10、IL−12p35、IL−12p40、IL−13、TNF−α、IFN−γ、IFN−α、TGF−β及び、免疫応答に必要又は不必要な任意のインターロイキン又はサイトカインをコードしてよい。ハウスキーピング遺伝子、例えばβ−アクチン又はGAPDH(グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ)は内部マーカーとして使用することができた。
【0147】
本発明によれば、前記のエピトープ特異的なCTL関連の転写物又はTヘルパーリンパ球関連の転写物は、サイトカイン、サイトカイン受容体、細胞毒素、炎症メディエーター又は抗炎症メディエーター、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド、Gタンパク質結合受容体及びそれらのリガンド、チロシンキナーゼ受容体及びそれらのリガンド、転写因子及び細胞内シグナル伝達経路に必要なタンパク質をコードする核酸である。
【0148】
本発明によれば、前記核酸は、グランザイム、パーフォリン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、イムノグロブリン及びイムノグロブリンスーパーファミリー受容体、Fas及びFasリガンド、T細胞受容体、ケモカイン及びケモカイン受容体、プロテインチロシンキナーゼC、プロテインチロシンキナーゼA、シグナル伝達物質並びに転写活性化因子(STAT)、NF−kB、T−bet、GATA−3、Oct−2の任意のもののマーカーをコードしてよい。
【0149】
また本発明は、真核細胞、原核細胞、ウイルス、ファージ、寄生生物、薬物(天然抽出物、有機分子、ペプチド、タンパク質、核酸)、内科療法、ワクチン及び移植片からなる群から選択できる免疫調節化合物を検出/監視/スクリーニングするための、本発明による装置、方法又はキットの使用を記載している。かかる方法の使用は単一の化合物の検出/監視/スクリーニングに制限されるものではない。物質群の相乗効果も研究することができる。
【0150】
また本発明は、エピトープ特異的なCTL転写物又は免疫関連転写物の検出/監視のための、前記の装置、キット及び方法のいずれかの使用に関する。
【0151】
また本発明による装置、キット及び方法は、免疫状態の調節の影響を受けやすい薬物/治療/ワクチンで患者を治療した後のインビボでの免疫学的応答を監視するためにも利用できる。本発明によれば、免疫調節薬又は免疫調節治療又はワクチン(治療的ワクチン又は予防的ワクチン)による療法又はそれらによる臨床試験に登録された患者の全血中に前記の方法を用いてサイトカインmRNA(これはケモカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、アポトーシスマーカー又は既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化に関連する任意のマーカーにまで拡張できる)を検出することを用いて、該療法の効力、安全性及び/又は可能性のある副作用を評価することができる。
【0152】
また本発明は、免疫系に作用する疾病(癌、自己免疫疾病、アレルギー、移植片拒絶、GVHDなど)の診断/予知のためにインビボでの免疫学的状態を検出するための装置、キット及び方法に関する。
【0153】
本発明によれば、免疫系に直接又は間接的に作用する疾病を患う患者の全血において、診断又は予知する(adress)目的で前記方法を用いてサイトカインmRNA(これはケモカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、アポトーシスマーカー又は既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化に関連する任意のマーカーにまで拡張できる)が検出される。
【0154】
また本発明は、被検体の免疫学的状態を調節できる試剤をエピトープ特異的なCTLの分析を介して同定する方法において、
(a)免疫調節剤を被検体に適用する工程、
(b)前記被検体から全血を採取する工程、
(c)工程(b)の全血試料中に存在する血液細胞を前記の装置を用いて、工程(a)で適用されたのと同一の/類似の及び/又は異なる免疫調節剤でパルスする工程、
(d)工程(c)のパルスされた血液細胞又は工程(b)のパルスされていない血液細胞を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を含有する管中に採集する工程又はパルスされた細胞/パルスされていない細胞に前記化合物を添加する工程、
(e)核酸を含有する沈殿物を形成させる工程、
(f)工程(e)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
(g)工程(f)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
(h)工程(g)からの前記懸濁液から自動化された装置を用いて核酸を単離する工程、
(i)RT−PCR用の試薬混合物を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(j)工程(h)で単離された工程(i)の計量分配された試薬中の核酸を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(k)エピトープ特異的なCTL関連転写物のインビボでの濃度を工程(j)の分配された溶液中で自動化された機構において検出/監視/分析する工程、及び
(l)前記被検体の免疫学的状態を調節できる試剤を同定する工程
を含み、工程(a)の試剤が既に被検体中に存在する場合には工程(a)を省く方法を説明している。また本発明は、少なくとも前記の工程(c)の実施を可能にする成分を含むキットに関する。該キットは、実施されるべき他の一工程以上を可能にする追加的な試薬及び解説書を含んでよい。本願になされる開示は、所望のキットを構成するのに必要な成分を熟練者に指示するものである。
【0155】
本発明によれば、免疫調節剤は疾病の場合に又は前記被検体に移植片が存在する場合に存在してよい。本発明において、"エピトープ特異的なCTL関連転写物"は、サイトカイン、サイトカイン受容体、細胞毒素(例えばグランザイム、パーフォリンなど)、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド(例えばFas及びFasリガンド)又は他の細胞性受容体をコードする転写物であってよい。
【0156】
また本発明は、被検体の免疫学的状態を調節できる試剤を同定する方法において、
(a)免疫調節剤を被検体に適用する工程、
(b)前記被検体から全血を採取する工程、
(c)工程(b)の全血試料中に存在する血液細胞を前記の装置又はキットを用いて、工程(a)で適用されたのと同一の/類似の及び/又は異なる免疫調節剤でパルスする工程、
(d)工程(c)のパルスされた血液細胞又は工程(b)のパルスされていない血液細胞を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を含有する管中に採集する工程又はパルスされた細胞/パルスされていない細胞に前記化合物を添加する工程、
(e)核酸を含有する沈殿物を形成させる工程、
(f)工程(e)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
(g)工程(f)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
(h)工程(g)からの前記懸濁液から自動化された装置を用いて核酸を単離する工程、
(i)RT−PCR用の試薬混合物を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(j)工程(h)で単離された工程(i)の計量分配された試薬中の核酸を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(k)免疫関連転写物のインビボでの濃度を工程(j)の分配された溶液中で自動化された機構において検出/監視/分析する工程、及び
(l)前記被検体の免疫学的状態を調節できる試剤を同定する工程
を含み、工程(a)の試剤が既に被検体中に存在する場合には工程(a)を省く方法に関する。
【0157】
また本発明は、少なくとも前記の工程(c)の実施を可能にする成分を含むキットに関する。該キットは、実施されるべき他の一工程以上を可能にする追加的な試薬及び解説書を含んでよい。本願になされる開示は、所望のキットを構成するのに必要な成分を熟練者に指示するものである。
【0158】
本発明において、"免疫関連転写物"は、例えばサイトカイン、ケモカイン、成長因子、細胞毒性マーカー、転写因子、TNF関連サイトカイン受容体スーパーファミリーの仲間及びそれらのリガンド又は既知の又は明らかにされるべき免疫系の活性化に関連する任意のマーカーをコードする転写物であってよい。本発明によれば、免疫調節剤は疾病の場合に又は前記被検体に移植片が存在する場合に存在してよい。本発明による被検体はヒト由来又は動物由来の両者の被検体であってよい。
【0159】
また本発明は、被検体における免疫系に影響を及ぼす臨床状態の診断/予知/監視のための方法において、
(a)前記被検体から全血を採取する工程、
(b)工程(a)の全血試料中に存在する血液細胞を前記の装置又はキットを用いて、被検体中に存在するのと同一の/類似の及び/又は異なる免疫調節剤でパルスする工程、
(c)工程(b)のパルスされた血液細胞を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する化合物を含有する管中に採集する工程又はパルスされた細胞に前記化合物を添加する工程、
(d)核酸を含有する沈殿物を形成させる工程、
(e)工程(d)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
(f)工程(e)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解させて、懸濁液を形成させる工程、
(g)工程(f)からの前記懸濁液から自動化された装置を用いて核酸を単離する工程、
(h)RT−PCR用の試薬混合物を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(i)工程(g)で単離された工程(h)の計量分配された試薬中の核酸を自動化された装置を用いて計量分配/分配する工程、
(j)免疫関連転写物のインビボでの濃度を工程(i)の分配された溶液中で自動化された機構において検出/監視/分析する工程、
(k)免疫関連転写物のインビボでの濃度の変化を検出/監視する工程、及び
(l)免疫系に影響を及ぼす疾病を診断/予知/監視する工程
を含む方法を提供する。
【0160】
本発明において、"臨床状態"は被検体の身体状態の任意の変化、例えば種々の疾病又は移植片の存在である。
【0161】
また本発明は、少なくとも前記の工程(c)の実施を可能にする成分を含むキットに関する。該キットは、実施されるべき他の一工程以上を可能にする追加的な試薬及び解説書を含んでよい。本願になされる開示は、所望のキットを構成するのに必要な成分を熟練者に指示するものである。
【0162】
特に定義がない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術の熟練者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。方法及び材料の例を以下に記載するが、本願に記載されるものと類似の又は等価の方法及び材料を本発明の実施又は試験で使用することができる。本願に挙げられる全ての文献及び他の参考資料は参照を持ってその全内容が開示されたものとする。対立がある場合に、定義を含む本願明細書が支配する。材料、方法及び実施例は説明的なものであって、限定を意図するものではない。本発明の更なる特徴及び利点は以下の図面、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【0163】
図面
図1aから1dは本発明による容槽と方法の一例を表す。図1aは、抗原粒子2が存在する容槽1を示している。容槽は、注射針用の入口3の再封手段を備えている。容器4は容槽1の一部でもあり、その際、安定化剤5は該容器中に存在し、かつ容槽1の内側と容器4の内側との接続は一時的に物的障壁、この場合には栓25によって遮断されている。栓を外す物理力を伝える手段はプランジャー28の形で提供される。この実施例では、プランジャーは蓋23で覆われている。図1bでは、生物学的試料は容槽中に注射針6によって入口3の再封手段を通じて導入され、そしてその生物学的試料8は抗原2に曝露されうる。図1cでは、プランジャーの蓋23は取り除かれる26。図1dでは、シャフト7を導入し、そこに圧力が印加され27、こうしてプランジャー28を押して、栓25が容器4から押し出されている。栓25が取り除かれた後に、安定化剤5は容槽1中に放出され、そして生物学的試料8と抗原2とが混合されうる。
【0164】
図2は、抗原2が存在する、本発明による容槽1の例を表す。容槽は図示されるように無蓋7であるか、又は図3〜6に例が示される蓋又は試料又は安定化剤を導入する手段を備えていてよい。容槽1の胴部はまた、安定化剤が存在する図7及び8に示される容器を有してもよい。
【0165】
図3は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は注射器11に相互ルアー取付具を収容できるルアー取付具8を備えている。注射器は、本発明の実施態様によれば生物学的試料又は安定化剤を含有してよい。
【0166】
図4は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は、注射針を収容できる再封可能な隔壁9を備えている。注射器は、本発明の実施態様によれば生物学的試料又は安定化剤を含有してよい。
【0167】
図5は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は、スクリューキャップ10を受ける手段を備える。
【0168】
図6は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。容槽の頂部7は皮下注射針19を備える。容槽を直接使用して、個体から試料を取り出すことができる。
【0169】
図7は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。抗原2が存在する容槽1は安定化剤5が存在する容器12を有する。容器の壁部は、全体的又は部分的15に力の印加により破砕する材料からなる。該容器は、利用者からの力を伝えて容器の一部又は全てを破砕する手段を備え、前記容器は鋭点部14に取り付けられた押し下げ可能領域13を有している。領域13を押し下げると、鋭点部14は破砕可能な材料15と接触して、その破砕をもたらし、こうして容器と容槽との間の物的障壁が取り除かれ、利用者によって決められた時点で安定化剤を容槽1中に流入させることが可能となる。
【0170】
図7は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。抗原2が存在する容槽1は安定化剤5が存在する容器16を有する。容器内側と容槽内側との間の接続部17は、力の印加によって破壊可能な隔壁18によって物理的に遮断されている。容器16の壁部を圧搾することで、圧力が隔壁に伝わり、隔壁が破壊され、こうして安定化剤5を容槽1中に進入することが可能となる。
【0171】
図9は、容槽に接続されていない本発明の容器20の一例を表す。安定化剤5は容器20中に存在し、そして容器20は相互取付具を有する容槽と接続するのに適したルアー型取付具22を備えている(例えば図3及び図11に示される)。容器20の壁部は圧搾可能であってよく、そこに力を印加することで安定化剤を押し出すことが可能である。
【0172】
図10は、容槽に接続されていない本発明の容器29の一例を表す。安定化剤5は容器29中に存在し、そして容器29は相互取付具を有する容槽と接続するためのルアー型取付具22を備えている(例えば図3及び図11に示される)。該容槽は更にプランジャーを備えており、そこに力を印加することで安定化剤を押し出すことが可能となる。
【0173】
図11は、ルアー型取付具8及びこの場合には排気を容槽から逃がすことができる弁31を備えた容槽1を含む、本発明によるキットの一例を表す。該キットはまた、図10に表されたのと同様の、安定化剤5が存在する容器29を含む。容槽上の取付具8は容器上の取付具22と接続可能である。
【0174】
図12は所定の実施例で採用される手法を示している。
【0175】
図12.1は破傷風毒素に対する免疫応答のエクスビボでの監視を示している。
【0176】
図12.2は実施例3で採用される手法を示している。
【0177】
図12.3は実施例4で採用される手法を示している。
【0178】
図12.4は実施例5で採用される手法を示している。
【0179】
図13.1は、末梢血液中でのIFN−γとIL−10のmRNAの自然産生についてのRT−PCRを示している。全RNAを全血及びPBMCから、示されるように6人の異なる健康なボランティア(カラム1〜6)から抽出した。全血:全血0.6mlを試料採取後の短時間でCatrimox−14(商標)6mlと混合した。次いでその試料を12000gで5分間遠心分離した。得られた核酸ペレットを慎重に水で洗浄し、そして1mlのTripure(商標)中に溶解させた。次いでRNA抽出をTripure(商標)の製造元の解説に従って実施した。PBMC:ヘパリン処理された静脈血15mlから標準的な手順に従って細胞を調製し、そしてRNA抽出のために細胞を1mlのTripure(商標)中で溶解させた。IFN−γ、IL−10及びハウスキーピング遺伝子HPRTについてのRT−PCRを1μgの全RNAからの全ての試料に対して記載(Stordeur et al., (1995), Pradier et al., (1996))されるように実施した。
【0180】
図13.2は、全血中でのIFN−γとIL−10のmRNAについてのリアルタイムPCRを示している。クエン酸処理された静脈血の試料を健康なドナーから採集した。この試料から、100μlのアリコートを血液採集後1分以内と5時間の間に毎時で900μlのCatrimox−14(商標)と混合し、その際、血液試料は各アリコートを取る間、単に室温で保持した。得られる核酸ペレット(図13.1についての凡例参照)を"MagNA Pure LC mRNA単離キットI"(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)からの溶解バッファー300μl中に溶解させた。mRNAをMagNA Pure LCインストルメント(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)を用いて製造元の解説に従って抽出した(最終溶出容量:100μl)。逆転写とリアルタイムPCRを、"ライトサイクラーRNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット"(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)に記載される標準的な手順に従って、mRNA調製物5μlから出発して1工程で実施した。プライマーとプローブの配列及びPCR条件はStordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載されている。
【0181】
図14は、PreAnalytiXによって提唱される全血からのRNA抽出法を本発明によって提案される方法に対比させた図式的比較である。
【0182】
図15は、破傷風毒素による血中サイトカインmRNAのエクスビボでの誘導を示している。破傷風毒素(10μg/ml、アベンティス社)を、7年前に破傷風に対するワクチン接種された健康なボランティアから採集された全血500μlに添加した。5%のCO2雰囲気中37℃で種々の時間後に、PAXgene採血管中に含有される試薬1.4mlを添加した。得られた溶解物300μlを使用して、MagNA Pureインストルメントで全mRNAを単離し、そしてRT−PCRを本発明に記載されるように実施した。
【0183】
図16は、全血をLPSで刺激した後のIL−1βとIL−1RAのmRNAの動力学を示している。ヘパリン処理された血液200μlを10ng/mlのLPSと一緒に0時間(培養開始)、0.5時間、1時間、2時間、そして6時間インキュベートした。培養完了時に、PAXgene(商標)採血管の試薬500μlを全細胞溶解と核酸沈殿のために添加した。次いでRTとリアルタイムPCRをIL−1β、IL−1RA及びβ−アクチンのmRNAについて、本発明に記載されるように1工程で実施した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数で表現する。5つの独立した試験の平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0184】
図17は、出発血液容量に対するmRNAコピー数の線形回帰を示している。種々の容量の全血(20〜200μlの範囲、X軸)を10ng/mlのLPSの存在下に6時間培養した。培養完了時に、RTとリアルタイムPCRをIL−1β及びβ−アクチンのmRNAについて、本発明に記載されるように実施した。Y軸は粗コピー数を表す。線は線形回帰に関するものである。6つの試験の代表的な1つを示している。
【0185】
図18は、破傷風毒素で全血を刺激した後のサイトカインmRNA動力学を示している。ヘパリン処理された血液を、少なくとも5年前に破傷風に対してワクチン接種された5人の健康なボランティアから採取した。各ドナーについて、200μlの全血アリコートを10μg/mlの破傷風毒素と一緒に0時間(培養開始)、4時間、8時間、16時間、24時間及び48時間にわたりインキュベートした。培養完了時に、PAXgene(商標)採血管中に含有される試薬500μlを添加し、そして種々の転写物を本発明の方法論を用いて定量した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数で表現する。5つの独立した試験の平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0186】
図19は、LPSの静注後の血中サイトカインmRNAのインビボでの調節を示している。5人の健康なボランティアに一回量4ng/kgのLPSを注入した。LPS注入の10分前、そしてその0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、3時間後及び6時間後に、2.5mlの血液試料をPAXgene(商標)採血管に採取した。サイトカインmRNAの定量化を本発明の方法に従って実施した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数で表現する。各時点についての平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0187】
図20は、抗破傷風ワクチン応答の追跡調査を示している。6人の健康なボランティアが選択され、抗破傷風の想起を受けた。IL−2 mRNA濃度を、10μg/mlの破傷風毒素と一緒に(塗り丸)又は該毒素無く(空丸)20時間にわたり培養した全血から定量化し、定量化は想起の時点(0日目)で、14日前に、そして3日後、7日後、14日後、21日後、そして90日後(X軸)に実施した。結果は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのmRNAコピー数(Y軸)で表現する。6つのパネル(1〜6と番号付けされた)のそれぞれは、6人の異なるドナーからの個別のデータを表す(1パネルにつき1ドナー)。
【0188】
図21は、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10及び実施例11で採用される手順の概要を示している。
【0189】
図22は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。Y軸は粗コピー数を表す。線は線形回帰に関するものである。
【0190】
図23は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。Y軸は粗コピー数を表す。線は線形回帰に関するものである。
【0191】
図24は、癌免疫療法に登録された患者の症例報告の概略を示している。黒色腫が1999年7月に診断された。2001年8月に、多発性転移が示され、2002年4月の睾丸摘出術直後に、その患者は癌ワクチンの被検に登録された。ワクチンは、MAGE−3精製タンパク質(黒色腫細胞によって特異的に発現される抗原)とアジュバントとを組み合わせて数回注入することからなる。
【0192】
図25は、種痘プロトコールとリアルタイムPCRによる免疫応答の監視を表した図を示している。患者は3回のワクチン注入を受け、一方で血液試料を9週間の間に1週間に1回で採取した。各患者の全血試料の200μlのアリコートを10μg/mlのMAGE−3タンパク質又はネガティブコントロールとして10μg/mlのTRAP(熱帯熱マラリア原虫抗原)の存在下にインキュベートした。培養の完了時に、PAXgene採血管中に含有される試薬を添加して、実施例6に記載されるIL−2 mRNA定量化を可能とした。結果を図26に示す。
【0193】
図26で、MAGE−3刺激された全血においてMAGE−3ワクチン追加抗原刺激した後により高いIL−2 mRNA濃度が観察される。Y軸はβ−アクチンmRNAコピーの百万個当りのIL−2のmRNAコピー数を表し、かつX軸は血液試料が採取された週を表す。ワクチン注入は0週目、2週目及び6週目に施した。暗赤色のカラムはMAG−3の存在下にインキュベートされた全血についてのものであり、そして青色のカラムはTRAPの存在下にインキュベートされた全血についてのものである。
【0194】
図27は、アレルゲンと一緒に全血をインキュベートした後にIL−4 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。血液試料をネコに対するアレルギーがある被検体からと、2人の健康な被検体から採取した。次いで全血をネコアレルゲン(つまりFeld1)の不在下又は存在下に種々の培養時間にわたってインキュベートし、その完了時に、PAXgene採血管中に含有される試薬を添加して、実施例6に示されるIL−4 mRNA定量化を可能とした。結果を図28で示す。
【0195】
図28では、Feld1アレルゲンはネコに対してアレルギーがある被検体由来の全血においてアレルギーがない被検体と比較してより極めて高いIL−4 mRNA濃度を誘発する。Y軸はβ−アクチンmRNAコピーの百万個当りのIL−4のmRNAコピー数を表し、かつX軸は種々のインキュベート時間を表す。緑色のカラムは、アレルゲンと一緒にインキュベートされた正常な全血中に見いだされるIL−4 mRNA濃度を表し、その際、アレルギーのある被検体の全血中に見いだされるIL−4 mRNA濃度は赤色のカラム(Feld1の存在下にインキュベートされた血液)及び黄色のカラム(Feld1なくしてインキュベートされた血液)によって表されている。
【0196】
図29では、この全血系でのFeld1に対する応答は特異的であり、かつ用量依存性である。アレルギーがある被検体からの全血を2時間にわたり、1)Feld1の存在で濃度を増大させて(赤色カラム);2)別のアレルゲンであるβ−ラクトグロブリン(BLG)の存在下に10μg/mlで(青色カラム);3)架橋されるIgEの存在下に(緑色カラム)インキュベートした。Y軸は、β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのIL−4 mRNAコピー数を表す。
【0197】
図30では、全血をFeld1で刺激した後のIL−4 mRNA濃度がネコに対してアレルギーがある患者において健康な対照と比較してより高い。スライド9〜11で説明される試験を10人の健康な被検体(CTRカラム)とネコに対してアレルギーがある10人の患者(ALLカラム)からの全血で繰り返した。全血試料を2時間にわたり、10μgのFeld1の存在下に、又はポジティブコントロールとしての架橋されるIgEの存在下にインキュベートした。平均とその平均に対する標準誤差が示されている。
【0198】
図31は、精製されたGAD65タンパク質と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。血液試料を6人の1型糖尿病患者からと、5人の健康な被検体から採取した。次いで全血を10μg/mlのGAD65を含まないか又はそれと一緒に18時間に亘りインキュベートして、その後PAXgene採血管に含有される試薬を添加することによって培養を停止した。IL−2 mRNA濃度を次いで実施例6に記載されるように定量化した。結果を図32に示す。
【0199】
図32では、1型糖尿病の患者由来の全血は健康な被検体と比較してGAD65刺激後により高いIL−2 mRNA濃度を示している。これらの結果は、GAD65を含まずに培養された全血中に見いだされるコピー数に対して、β−アクチンに対して補正して計算されたIL−2 mRNAコピー数で表現される。対数目盛を使用する。平均とその平均に対する標準誤差が示されている。健康なドナー:CTRカラム;自己免疫糖尿病患者:PATカラム。
【0200】
図33は、非血縁の樹状細胞(DC)と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化して、同種異系反応性T細胞応答を評価するために実施される試験を表す図を示している。2人の非血縁の健康なボランティア(MT及びMA)由来の樹状細胞をIL−4とGM−CSFの存在下にインビトロで発生させた。各ドナー由来の全血試料を、他のドナーの樹状細胞集団(1)の存在で又はドナー自身の樹状細胞(2)の存在で培養した。両方のドナー由来の全血試料を混合し(3)、かつ両方の樹状細胞調製物を混合した(4)。12時間インキュベートした後に、培養を、PAXgene採血管中に含有される試薬を添加することによって停止させた。IL−2 mRNA濃度を次いで実施例6に記載されるように定量化した。結果を図34で示す。
【0201】
図34は、全血中のIL−2 mRNA定量化による同種異系反応性T細胞応答の評価を示している。β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのIL−2 mRNAコピー数を示している。条件は、左から右に向かって:ドナーMA単独からの全血、ドナーMAからの全血+ドナーMAからのDC、ドナーMAからの全血+ドナーMTからのDC、ドナーMT単独からの全血、ドナーMTからの全血+ドナーMTからのDC、ドナーMTからの全血+ドナーMAからのDC、ドナーMTからの全血+ドナーMAからの全血、ドナーMTからのDC+ドナーMAからのDCである。
【実施例1】
【0202】
末梢血中のサイトカインmRNAの自然産生の分析
末梢血細胞によって合成されるサイトカインmRNAを定量すれば、"末梢免疫規則"を推測することができる筈である。しかしながら、正確な定量は、mRNAがヌクレアーゼ消化に対して保護され、かつ遺伝子転写が阻害されている新鮮な全血試料からのみ実施できる。この注記で論じられるように、このことは、シュウ酸テトラデシルトリメチルアンモニウムのような界面活性試薬の使用によって可能となった。末梢血中で自然産生されるIL−10とIFN−γのmRNAの定量のためのRT−PCRを実施した。その結果から、全血中のIFN−γ転写物濃度が、同じ個体からの末梢血単核細胞(PBMC)と比較して顕著に高い一方で、IL−10 mRNAについては大きな差は見られないことが判った。IFN−γ mRNAの量は血液中に観察される方が多いことの原因は、少なくともmRNA分解にあるとすることができる。リアルタイムPCR技術を用いて、血中IFN−γ mRNAが実際にインビトロで迅速に分解され、その際、t1/2は室温でほぼ1時間に相当することを実証できた。
【0203】
Haertel他は近年、末梢血中のサイトカインmRNAの自然産生に対する細胞精製法の影響を分析した(Hartel et al., 2001)。彼らは、新鮮に単離された末梢血の単核細胞(PBMC)が同じ個体から新鮮に採集された全血よりも高濃度でIL−2、IL−4及びTNF−αのmRNAを発現することを明らかにし、一方、IFN−γmRNA濃度には相違がないことが明らかになった。異なる6個体中のIFN−γについての比較を実施し、そして異なる結果が見いだされた。全てのドナーの全血中にIFN−γのmRNAが強く発現することが観察され、それはPBMC中では明らかに減少する(図13.1)。得られた結果とHaertel他の結果との差異は、後者が定量的リアルタイムPCR技術を使用しているにも拘わらず、全血から全RNAを単離するのに使用される手法に関連する可能性があった。Haertel他は、ヘパリン処理が施され、等張塩化アンモニウム処理によって2時間以内で溶血された血液を使用した。本方法では、シュウ酸テトラデシルトリメチルアンモニウム、つまりCatrimox−14(商標)(キアゲン社、Westburg, Leusden, オランダ)が使用され、これは抗凝血薬の使用を省き血液と直接混合される(Dahle and Macfarlane, (1993); Schmidt et al., (1995))。更に、この試薬は試料採集後の短時間で核酸沈殿とヌクレアーゼ阻害を誘導する。これにより、全RNA調製物はおそらくインビボでのmRNAに最も近い状態で得られる。このことは、3′非翻訳領域に存在するAUリッチ配列によって内因性ヌクレアーゼに対して感受性となっているサイトカインmRNAにとって特に重要である。リアルタイムPCR技術を用いて観察すると、実際に末梢血IFN−γ mRNAが自然にかつ迅速に分解され、その際、その濃度は血液採集の1時間後にはほぼ50%減少していた。しかしながら、この現象は全てのサイトカインについて必ずしも真ではなく、IL−10 mRNA濃度は血液採集後の少なくとも5時間にわたり安定であることが判明している(図13.2)。更に全血中のIL−10 mRNA濃度において、PBMCのそれと比較した大きな差異は見られなかった(図13.1)。
【0204】
Catrimox−14(商標)による溶解(図13.1についての凡例参照)の後に得られる核酸ペレットは、Chomczynski and Sacchi (1987)によって記載されるグアニジウム/チオシアン酸塩溶液中に溶解させることができ、かつ前記の界面活性剤の使用を特に容易にしたTripure(商標)(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社、ブリュッセル、ベルギー)のようなその市販版中に溶解させることができる。このことは、Catrimox−14(商標)を用いる第一工程を除き、RNA単離法が全血と細胞について同一であることを意味する。あるいは、PAXgene(商標)Blood RNA採血管(キアゲン社、Westburg, Leusden, オランダ)をCatrimox−14(商標)の代わりに使用することができた。この場合に、得られるペレットは、図13.2に対する凡例にCatrimox−14(商標)について記載されたように、"MagNa Pure LC mRNA単離キット"の溶解バッファー中に溶解させることができる。ヒト単核血液細胞によるIL−10 mRNAの自然産生のキャラクタリゼーション(Stordeur et al., (1995))とOKT3モノクローナル抗体による組織因子mRNAのインビボでの誘導の監視(Pradier et al., (1996))とは、Catrimox−14を効果的に使用した2つの例である。強力なIL−2 mRNA誘導は、イオノホアA23187+酢酸ミリスチン酸ホルボールを全血に添加した後にも観察され(示さず)、これは全血におけるインビトロでの研究のためのその使用を示唆している。
【0205】
本実施例でなされた観察から、末梢血サイトカインmRNAを正確に定量するためには、溶解された全血からできる限り迅速にRT−PCRを実施することの重要性が強調される。このために、Catrimox−14又はPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に含有される添加剤のような試薬と一緒にリアルタイムRT−PCRを使用することは、おそらく今日では最良の手法である。そうすることで、末梢血細胞の天然の状態の研究は、イオノマイシン又はフィトヘマグルチニンのようなインビトロでの強力な刺激を用いることなく可能である。
【実施例2】
【0206】
PAXgene(商標)Blood RNAシステムと本発明により提案された方法との比較
"PAXgene(商標)Blood RNAシステム"とは、"PAXgene(商標)Blood RNA採血管"と"PAXgene(商標)Blood RNAキット"との組み合わせを意味する。"キアゲン法"とは、"PAXgene(商標)Blood RNAキット"を意味する。
【0207】
Stordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載される実験的証拠に基づいて、本発明は、全血からmRNAを単離し、それにより簡単かつ再現可能な方法を用いてインビボでの転写物濃度の測定を可能にする新規の手法を提案する。PAXgene(商標)Blood RNAシステムと本発明による方法を図14において図式で比較する。
【0208】
材料と方法:
全ての実験は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管中にPAXgene(商標)Blood RNAシステム(キアゲン社)によって推奨されるように直接的に採集された(すなわち2.5mlの血液を、6.9mlの未知の試薬を含む管内に真空で採集した)末梢静脈血から実施した。溶解が完了した後に、管の内容物を他の2つの管に移した:4.7mlをPAXgene Blood RNAキットに使用し、そして0.4mlをMagNA Pure抽出に使用した。残りの溶解物は廃棄した。これらの2つの管を2000gで1分間遠心分離し、そして上清を棄てた。
次いで:
a)PAXgene(商標)Blood RNA採血管+PAXgene(商標)Blood RNAキット
核酸ペレットを、全RNA抽出のためのBR1バッファー中に溶解する前に対応する解説マニュアルで推奨されるように水中で洗浄した。PAXgene(商標)Blood RNAシステムの手順は以下のとおりである:血液試料(2.5ml)をPAXgene Blood RNA採血管中に採集し、そして所望であれば室温で貯蔵又は輸送してもよい。RNA単離は、PAXgene Blood RNA採血管中で遠心分離をして、核酸をペレットにすることから始まる。そのペレットを洗浄し、そしてプロテイナーゼKを添加して、タンパク質消化を引き起こす。アルコールを添加して、結合条件を調整し、そして試料をPAXgene(商標)Blood RNAキットにより提供されるスピンカラムにかける。簡単な遠心分離の間に、RNAはPAXgene(商標)Blood RNAキットによって提供されるシリカゲルメンブレンに選択的に結合して、夾雑物は通過する。洗浄工程に引き続き、RNAを最適化されたバッファーで溶出させる。逆転写とリアルタイムPCRをIFN−γとβ−アクチンのmRNAについて、Stordeur他によって記載されるように("Cytokine mRNA Quantification by Real Time PCR" J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002)実施した。
b)PAXgene(商標)Blood RNA採血管++MagNA Pure LC mRNA単離キットI
核酸ペレットをMagNA Pure mRNA単離キットからの溶解バッファー300μl中に溶解させた。次いで、最終溶出容量100μl中のmRNAの抽出及び精製を、MagNA Pure LCインストルメントにおいてロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社による解説に従って実施した。
【0209】
逆転写とリアルタイムPCRを、"ライトサイクラーRNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット"(ロシュ・ダイアグノスティクス,モレキュラーバイオケミカルズ社)に記載される標準的な手順に従って、mRNA調製物5μlから出発して1工程で実施した。
【0210】
結果:
キアゲン社によって推奨される抽出法に、PAXgene(商標)Blood RNA採血管を組み合わせたもの(PAXgene(商標)Blood RNAシステム)と、MagNA Pure LCインストルメント抽出法にまたPAXgene(商標)Blood RNA採血管を組み合わせたものとの比較を実施した。両方の方法で、PAXgene(商標)Blood RNA採血管の使用は、血液細胞由来のRNAの安定化を可能にする。結果を表1.1と表1.2に列記する。この試験結果は、MagNA Pure LC技術について再現性がより良好であることを示している(β−アクチンに対して補正されたIFN−γ mRNAコピー数についての変動係数はキアゲンとMagNA Pure LCそれぞれについて26%と16%である)。
【0211】
MagNA Pure抽出は、キアゲン法で使用したより少量の血液容量から出発して実施したことを留意すると興味深い(MagNA Pureについては0.11mlであるのに対して、キアゲンについては1.25ml)。仮にキアゲン法をそのような少量で実施したのであれば、RNA濃度の測定は不可能であり、同様に逆転写の実施も不可能である。このことは、本発明に記載される手法のもう一つの利点:mRNAを非常に少量の血液(約100μl)で定量できることを強調している。
【0212】
まとめ:
実施例2は、PAXgene(商標)Blood RNA採血管にMagNA Pure LC mRNA単離キットIを組み合わせて使用できること、又はより厳密には、PAXgene(商標)Blood RNA採血管からの沈殿物を前記キットに含まれ、必要に応じて該キットの他の成分と一緒に使用されるべきである溶解バッファー中に溶解させることができることを説明している。
【0213】
この実施例において、他の組み合わせに対して、本発明に記載される組み合わせのみが、正確な/実際のインビボでの転写物の定量をもたらすことが判明する。
【実施例3】
【0214】
破傷風毒素に対する免疫応答のエクスビボでの監視
実施例3では、血液を、血液ドナーが免疫化されたと推測(それというのも7年前に種痘を受けたため)される抗原(すなわち破傷風毒素)によりエクスビボで刺激する。RT−PCRは方法(図12.1)に従って実施する。サイトカインmRNAは、ボランティアの免疫系が抗原に対して反応する能力の読出値として測定する。IL−2、IL−4、IL−13及びIFN−γのmRNAを優先的に分析するが、全ての潜在的に反応性のタンパク質はそれらに対応するmRNAの定量を介して分析することができる。実施例3の結果を図15に示す。一般に、この実施例で以下に挙げる手法は図12.2に示されるように図示することができる。
【0215】
可能な用途の例:癌免疫療法
数年来、癌免疫療法での基礎的な手法は種痘として発展した。事実、遺伝学と免疫学での進歩は、腫瘍細胞表面に発現される腫瘍抗原を数多く同定することを可能にした。これらの抗原は、主要組織適合複合体(HLA)に会合するペプチドの形として腫瘍細胞表面に提示される。腫瘍抗原として考慮される抗原の例は、FongとEngleman(Annu. Rev. Immunol. 2000. 18:245-273)によって記載されている。抗癌ワクチン接種の原理は、最も免疫原性の様式で患者の免疫系に免疫を提示することからなる。これは、抗原又は相応のペプチドを添加剤の存在で注射して、ペプチドを自己抗原提示細胞(例えば樹状細胞)上に提示させることとなる。ワクチン接種、つまり抗癌ワクチン接種の最終的な目標は腫瘍の退縮にあるが、抗癌ワクチン接種の効率の決定は、限られた治療窓からしか恩恵を受けることができない疾病の進行した段階の患者の場合には特に困難なままである。抗癌ワクチン接種がアジュバント療法として又は予防の枠組みにおいて関心が持たれているのは、そういった理由からである。従って、高感度で正確な監視技術を開発して、実験的な抗癌ワクチン接種の免疫学的効果を評価し、これらのワクチンの投与方法を規定し、かつ将来の治療法の規定により良い支援をなしうる暗黙の生物学的機構を見いだすことが極めて重要である。これらのワクチンの免疫学的効率を測定する困難性は、事実上、インビボでの細胞性免疫応答を感知するのに十分なアッセイが存在しないことにある。今までに、使用された技術は、患者のPBMCの激しいインビトロでの培養を長時間にわたり抗原の存在で、かつリンパ球の本来の機能的特性の変更が誘発されやすい同時刺激の存在で行うことを包含していた。こうして、腫瘍抗原に対するリンパ球前駆体のアネルギー状態又は寛容状態の分析は極めて困難であり、抗原の存在においてインビトロで延長してインキュベートした後にそれらの機能的状態の可逆的性質が与えられる。他方で、低頻度のエピトープ特異的CTL前駆体を検出するために使用されるMHCペプチド複合体の四量体を基礎とした手法は通常、腫瘍特異的リンパ球の検出についての感度に欠いている。更にこれらの技術はこれらのリンパ球の機能的反応性についての情報を何ら提供しない。
【0216】
リンパ球の所定の抗原に対する本来の機能的な反応性を、例えばインビトロでの抗原による短時間の刺激の後に検出できる程度に十分な感度を持った技術によってのみ、抗癌ワクチン接種のプロトコールの効率を実際に評価することができる。
【0217】
近年に(Kammula, U. S., Marincola, F. M., and Rosenberg, S. A. (2000) Real-time quantitative polymerase chain reaction assessment of immune reactivity in melanoma patients after tumor peptide vaccination. J. Natl. Cancer Inst. 92: 1336-44)、PBMCの短時間のインビトロ刺激(2時間)に関連するサイトカインmRNAの検出は、腫瘍抗原によりワクチン接種を受けた患者のPBMC中のエピトープ特異的CTLを検出することができることが示されている。それにも拘わらず、本発明によれば、この短時間のエクスビボでのパルスは必須ではない。
【実施例4】
【0218】
ドナーの組織適合抗原によってレシピエントの免疫系を活性化することの検出
実施例4では、ドナー由来の器官(例えば肝臓、腎臓、骨髄など)をレシピエントに移植する。レシピエントの全血を、RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する本発明による化合物を含有する管中に採集する。RT−PCRはその方法に従って実施する。サイトカインmRNAは、ドナーの組織適合抗原によるレシピエントの免疫系の活性化の読出値として測定する(図12.3)。
【実施例5】
【0219】
ドナーの組織適合抗原に対するレシピエントの免疫系の反応性の検出
実施例5では、ドナー由来の器官(例えば肝臓、腎臓、骨髄など)をレシピエントに移植する。レシピエントの全血を管に採集し、そしてエクスビボでドナーの組織適合抗原と一緒にインキュベートする。その血液にRNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する本発明による化合物を添加する。RT−PCRはその方法に従って実施する。サイトカインmRNAは、ドナーの組織適合抗原によるレシピエントの免疫系の応答の読出値として測定する(図12.4)。
【0220】
用途の例:器官移植後の拒否反応の監視
移植片の拒否の監視は、事実上、患者の尿又は血液中に測定されるマーカーの検出(腎臓移植片の場合には血中尿素窒素(BIN)又はクレアチニン)に基づくか、又は移植された器官の生検の時点である。これらの指標はしかしながら、拒否機構が既に十分に進行している場合にのみ検出される。事実、移植片拒否は、移植された器官の変質に先行する免疫学的機構の結果である。これらの免疫学的機構を移植された器官が損傷される前に検出することで、より早い段階で免疫抑制的治療を適応させることによって移植された器官の損失をかなり低減することができる。他方でまた、拒否の非顕性エピソード(臨床兆候を誘発せずに)はしばしば移植後に発生することも認められている。これらのエピソード、つまり非顕性の拒否エピソードは慢性拒否の原因となりえる。数人の著者は、器官拒否の早発性の免疫学的マーカーの検出と、特にドナーのアロ抗原に対するレシピエントのアロ反応性Tリンパ球の血行における検出を調査している。これらの方法では、混合培養し、被移植者のリンパ球の増殖の連続的な測定又はサイトカインの産生の測定を種々の方法(ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリーなど)によって行うことが本質的に含む。より最近では、他の著者が、早発的な拒否機構のトリガリングを明白に示すために、リンパ球活性化マーカーのパターンのキャラクタリゼーションに注目した。細胞毒性活性化Tリンパ球、つまり活性化Tによって発現される遺伝子のmRNA(グランザイムB、パーフォリン、種々のサイトカイン)を定量的PCRの高感度な方法によって検出することが、拒絶のトリガリングの測定に優れたツールであることが示された。このために、本発明によれば、様々な種類のサイトカインをコードするメッセンジャーが研究され、有利なターゲットはIL−2、IFN−γ、IL−4、IL−5、グランザイム、パーフォリン及びFasFasリガンドであってよい。
【実施例6】
【0221】
リアルタイムPCRを用いた全血での免疫監視
実施例6では、全血法が記載され、これによりmRNA濃度におけるサイトカイン合成の誘導を測定することが可能となる。この方法の独自性は、採血用のmRNA安定化剤を含有するPAXgene(商標)採血管と、mRNA抽出並びにRT−PCR試薬混合物調製のための自動化された装置としてのMagNA Pure(商標)インストルメントと、転写物濃度の正確かつ再現可能な定量のためのLightcycler(商標)でのリアルタイムPCR方法論との組み合わせにある。この実施例でまず実証されることは、細菌性リポ多糖類(LPS)を全血に添加するとIL(インターロイキン)−1β及びIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1 RA)のmRNAが誘導されることを測定するのには本方法が適していることである。更にまたこの実施例では、破傷風毒素と一緒にインキュベートした全血中にT細胞由来のサイトカインをコードするmRNAが産生することを、想起抗原に対するインビトロでの免疫応答のモデルとして検出するのに、このアプローチが適していることが実証される。最後に、本実施例は、この方法が炎症性並びにインビボでのT細胞応答を評価するのに効果的に使用できることを実証しており、それは健康なボランティアにおけるLPSの注射後にIL−1β及びIL−1 RAの誘導を検出でき、また破傷風ワクチンによる想起免疫化後にIL−2の誘導も検出できたからである。
【0222】
材料と方法
インビボでの研究のための採血。末梢血mRNA濃度の正確な定量のために、2.5mlの血液試料を、迅速な細胞溶解と核酸沈殿のためにPAXgene(商標)採血管中に採取した。そのmRNAは前記血液溶解物中で5日まで安定であり、その際、該管はmRNA抽出までは室温に保たれる。
【0223】
インビトロでの全血培養。インビトロでの全血LPS刺激又は破傷風毒素抗原の再投与を200μlのヘパリン処理された全血で行い、そして採血4時間後に開始した。培養を、全細胞溶解とmRNA安定化をもたらすPAXgene(商標)採血管の試薬500μlを添加することによって止めた。これにより、インビトロとインビボでの試験の両方で同じmRNA抽出プロトコールを使用できた。
【0224】
mRNA抽出。PAXgene(商標)採血管中で又は全血培養の完了時に得られる血液溶解物を軽く混合してから、300μlのアリコートを1.5mlのエッペンドルフチューブに移して、最高速度で5分間遠心分離した(装置に応じて12000〜16000g)。上清を棄て、そして核酸ペレットを、MagNA Pure(商標)mRNA抽出キット(ロシュ・アプライドサイエンス社)に含まれる溶解バッファー300μl中にボルテックスにかけることによって徹底的に溶解させた。次いでmRNAを前記溶液300μlから、MagNA Pure(商標)インストルメント(ロシュ・アプライドサイエンス社)におけるキットを用いて製造元の指示に従って抽出した("mRNA I cells"ロシュ社のプロトコール、最終溶出容量100μl)。抽出されたmRNAの質はノーザンブロット分析により事前に証明された(ロシュ・アプライドサイエンス社、未公表データ)。
【0225】
リアルタイムPCRと試薬混合物調製。逆転写とリアルタイムPCRを、"ライトサイクラー(商標)RNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット"(ロシュ・アプライドサイエンス社)に記載される標準的な手順に従って、1工程で実施した。より厳密には、RT−PCR反応は、1)20μlまでのH2O;2)7.5μlのRNAマスターハイブリダイゼーションプローブ2.7倍濃縮(RNAマスターハイブリダイゼーションプローブキット − ロシュ・アプライドサイエンス社);3)1.3μlの50mMのMn(OAc)2;4)1、2又は3μlの6ピコモル/μlのフォワードプライマーとリバースプライマー(標的となるmRNAに応じて最終濃度300、600又は900nM;標的の各mRNAに特異的な条件はStordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載されているが、IL−2及びIL−4については除く、そしてこれらを表2に列記する);5)1μlの4ピコモル/μlのTaqManプローブ(最終濃度200nM);6)5μlの精製されたmRNA又は標準希釈、を含有する20μlの最終容量で実施した。61℃で20分間のインキュベート時間でmRNAの逆転写を可能にし、次いで初期変性工程を95℃で30秒間した後に、温度サイクルを開始した。各サイクルは、95℃で0(ゼロ)秒、60℃で20秒からなり、その際、第二段階の終わりに蛍光が読み出された(F1/F2チャンネル、色補償なし)。全体で45サイクルを実施した。全てのプライマーは、イントロン配列にまたがるように選択されたので、ゲノムDNA増幅は不可能であった。
【0226】
全ての試薬、オリゴヌクレオチド及び試料を含有するRT−PCR反応混合物は、MagNA Pure(商標)インストルメントによりLightcycler(商標)で使用されるキャピラリー中で完全に直接的に調製された。これらのキャピラリーは端部閉鎖されており、それを遠心分離してから、一工程のRT−PCRのためにLightcycler(商標)に導入した。こうして全てのRT−PCRの要素は完全に自動化されており、手動での試料採取ミスは回避される。
【0227】
結果は、β−アクチンのmRNAに対して正規化されたコピー数で表現した(β−アクチンのmRNAコピーの百万個当りのサイトカインmRNAのmRNAコピー数)。各試料について、mRNAコピー数を、機器ソフトウェアによってCt値("算術Fit point解析")を用いて標準曲線から計算した。標準曲線は、Stordeur et al, J Immunol Methods, 259 (1-2): 55-64, 2002に記載されているように、精製DNAの連続希釈から各PCR運転に対して作成した。
【0228】
実験的な内毒素血症。 試験前の少なくとも10日間で如何なる薬剤も摂取していない5人の健康な男性ボランティア(21〜28歳)に一回量のLPS(E.コリ由来、lot G;米国薬局方協会、ロックヴィル、メリーランド州;4ng/kg(体重))を静注した。LPS注入の10分前、そしてその0.5時間後、1時間後、1.5時間後、2時間後、3時間後及び6時間後に、2.5mlの血液試料をPAXgene(商標)採血管に採取した。インビトロでの研究のために、ヘパリン処理された、健康な個体から採取した全血200μlを10ng/mlのLPS(E.コリ由来血清型0128:B12、シグマ−アルドリッチ、Bornem, ベルギー)と一緒に、37℃で5%のCO2雰囲気において0時間(培養開始)、0.5時間、1時間、2時間、そして6時間にわたりインキュベートした。
【0229】
抗破傷風想起ワクチン接種
最後の破傷風毒素ワクチン接種が少なくとも5年前である健康なボランティア(2人の男性、4人の女性、27〜53歳)に筋内ワクチン想起(Tevax、スミスクライン・ビーチャム・バイオロジカルズ社、Rixensart,ベルギー)を行った。ヘパリン処理された血液を投与日の14日前、そして投与日の3日後、7日後、14日後、21日後、90日後に採取した。200μlの血液を37℃で5%のCO2雰囲気において10μg/mlの破傷風毒素(フランス、リオンのアベンティスパスツールのE.Trannoy博士からの寄贈)と一緒に又はそれを含まずに20時間にわたりインキュベートした。
【0230】
結果
全血に細菌性LPSを添加した後のIL−1βとIL−1 RAのmRNAの測定
図16で実証されるように、全血にLPS(10ng/ml)を添加することにより、IL−1βとIL−1 RAのmRNAの迅速な誘導がもたらされる。この誘導はLPS添加の30〜60分後に既に明らかであり、6時間後にはIL−1βとIL−1 RAのそれぞれについてmRNA濃度は44倍と22倍に増大した。この曲線型は、両方のサイトカインmRAN量の迅速かつ持続性の増大を示唆している。mRNA定量化のための系の精度を評価するために、mRNAを、20〜200μlの種々の容量のLPS刺激された全血からβ−アクチンとIL−1βについて定量した。図17に示されるように、β−アクチンとIL−1βの両方のmRNAコピー数は実際に、開始血液量と直接的に相関を示した。
【0231】
破傷風毒素に対するインビトロでの応答。この方法がT細胞応答の分析に適しているかどうかを決めるために、全ての個体が幼少期にワクチン接種を受けた良く確立された想起抗原である破傷風毒素を添加した後で全血培養中のサイトカインmRNA濃度を定量化した。全血と一緒に前記抗原をインキュベートした後にIFN−γ、IL−2、IL−4及びIL−13のmRNAの迅速な一過性の誘導が見られた(図18)。各サイトカインについての応答の較差を比較すると、IL−2 mRNAの誘導が最も顕著であるように見えた。実際に、該毒素の存在でのインキュベートの16時間後のIL−2 mRNAコピーの広域な増加は図18に示される5つの独立試験に対して約220倍である一方で、同じ試験でのIL−4とIFN−γのmRNAの最大増加は5倍を超えなかった。従って、IL−2のmRNAの定量化は、この全血系でT細胞応答を評価するのに最も高感度のパラメータと思われる。表3に示されるデータは、この試験における破傷風毒素に対する応答の較差はむしろ、おそらく最後のワクチン想起の時点に応じて変わりやすいことを示している。IL−2 mRNAの誘導は新生児の臍帯血に破傷風毒素を添加した後に効果的に観察されず、このことは事前に初回抗原刺激を受けたT細胞のみがこのアッセイでは応答を示すことができ、ナイーブT細胞はこのアッセイでは応答を示すことができないことを示している(表3)。
【0232】
LPSの静注後の全血中でのIL−1 RA及びIL−1βのmRNAの誘導。インビボでのサイトカイン誘導の検出のための方法の第一の用途として、低い用量(4ng/kg)の細菌性リポ多糖類を注射された健康なボランティアからの一連の血液試料を分析した。IL−1RAとIL−1βのmRNAの両者の明らかな誘導が観察された(図19)。IL−1βmRNAの誘導が迅速であったのは、それが既に内毒素投与の30〜60分後に検出されたためであり、そして一過性であったのは、IL−1βのmRNA濃度が6時間後に注射前の値に戻ったからである。またIL−1RAのmRNAは、IL−1βのmRNAと比較して遅れた動態で誘導された。
【0233】
想起ワクチン接種後の抗破傷風毒素免疫応答の検出。インビトロでの実験は、IL−2のmRNAが抗破傷風毒素応答を監視するのに最も高感度のパラメータであると示唆しているので、このパラメータを、インビボでの想起ワクチン接種後の全血中の破傷風毒素に対するT細胞応答における変化を分析するために選択した。このために、破傷風毒素の不在又は存在において全血インキュベーションを、ワクチン投与前とその後の幾つかの時点で実施した。図20に示されるように、抗原に曝露された全血中のIL−2 mRNAの産生は全てのワクチン接種された個体でかなり増大した。IL−2 mRNA誘導はワクチン接種の7日後に既に明らかであり、その際、最大濃度へは14日目又は21日目に達した。個体間の変動はおそらく、抗破傷風免疫性の基底状態の差異に関連するものである(表3も参照のこと)。ワクチン接種後に全血中で測定されるIL−2応答が免疫化する抗原について特異的であったのは、インビトロでの再度の刺激の不在で測定されたIL−2 mRNA濃度が大きく変化しなかったからである(表3)。
【0234】
考察
リアルタイムPCRがそう呼ばれるのは、増幅産物の蓄積をPCR過程の間に、PCR産物に結合する発光源分子を用いて追跡できるからである。これにより、各試料についての蛍光曲線が作成され、そこから試料の(c)DNAコピー数を、較正された標準で得られた蛍光曲線と比較することによって測定することができる。特異性を高めるために、その発光原分子は2つのプライマー間に位置するPCR産物の配列と相補性のオリゴヌクレオチドであってよい。本明細書に記載される新規の方法は、先行技術の方法を用いては不可能であった生物学的試料中の核酸を高感度かつ正確に定量する方法を提供する。本明細書は、これを、インビボでの状況を表す精製された細胞又は組織からサイトカインmRNAを定量することによって説明している。
【0235】
RT−PCR分析に全血を用いることで直面する問題の1つは、RNA抽出に先行する細胞溶解である。血漿と赤血球に存在する多量のタンパク質のため、全血からRNAを単離する殆どの方法は、分析されるmRNAの可能性のある細胞源の精製又は赤血球細胞の排除をRNA抽出実施前に必要とする。これらの中間工程はmRNA分解及び/又は遺伝子誘導に、ひいてはmRNA濃度の変化に関連することがある。更に、簡単な採血という事実が幾らかのmRNAの分解をもたらすことがある。このことは、3′非翻訳領域に存在するAUリッチ配列によって内因性ヌクレアーゼに対して感受性なサイトカインmRNAにとって特に当てはまることである。今までに、末梢血のIFN−γのmRNA濃度は実際に血液採集の1時間後に既にほぼ50%減少することが示されている(Stordeur et al., (2002) J. Immunol Meth. 261:195)。このことは、テトラデシルトリメチルアンモニウムのような四級アミン界面活性剤、つまり全細胞溶解に導き、同時に核酸沈殿に導くCatrimox−14(商標)(キアゲン社、Westburg, Leusden, オランダ)と呼ばれるカチオン系界面活性剤を使用して回避することができる。本実施例は、PAXgene(商標)採血管で得られた核酸沈殿物は驚くべきことにグアニジウム/チオシアン酸塩溶液中に溶解させることができることを述べている。前記溶液の例は、mRNA単離用のMagNA Pure(商標)LCキット(ロシュ・アプライドサイエンス社)で提供される溶解バッファーである。このことにより、PAXgene(商標)採血管とMagNA Pure(商標)インストルメントの使用を組み合わせることが促され、それによって、PCR反応混合物の全ての成分の調製が自動化されるので高い再現性と後者の装置の精度が利用される。
【0236】
興味深いことに、本願の方法はインビボでの内毒素投与後の全血中のサイトカイン遺伝子誘導の検出に適用して成功し、これは全身性の炎症応答を監視するのに使用できることを裏付けている。インビボでの抗原投与後のIL−1応答の一過性の性質は、LPSを血液にインビトロで添加した後のIL−1 mRNAの持続的な増大とは対照的である。このことは、インビボでのLPSの迅速な浄化に関連するが、インビボでのサイトカイン産生細胞の再分布にも関連し、そしてこれは接着分子とケモカイン受容体のアップレギュレーションに関連している。前記の全血法のもう一つの考えられる用途は、破傷風毒素のワクチン接種された個体にインビトロで再度の抗原投与をした後に観察されるIL−2 mRNAの明らかな誘導によって示唆されるように、ワクチン接種後のT細胞応答の監視である。これは、細胞の単離を良い条件で整えることが困難な、特に幾つかの新規のワクチンが評価段階にある途上国において大規模なワクチン研究をするために関心がもたれる。ワクチン実験における前記方法の応用性を更に調査するために、早々にB型肝炎に対する一次ワクチン接種後のT細胞応答を読み出す試験を行うつもりである。
【0237】
血液の出発容量とmRNAコピー数との間の直接相関(図17)は、この方法を用いれば結果の表現のためにmRNA濃度を測定することが絶対に必要ではないことを示唆している。しかしながら、試料容量の些細な変動でさえも定量誤差をもたらすため、測定されたコピーをβ−アクチンのようなハウスキーピング遺伝子の同時の測定によって補正することが好ましい。これが未だに最適ではないのは、ハウスキーピング遺伝子の発現がある一定の刺激条件で変動しうるからである。従って、mRNA抽出前に試料に外部標準を添加することもできる。サイトカインの細胞源がIL−2についてのT細胞の場合のように良く確立されていれば、サイトカイン遺伝子コピー数を、直前の実施例でCD3のような相応の細胞型で特異的に発現される遺伝子をコードするコピーの数によって補正することが好適である。同様に、リアルタイムPCRによるサイトカインmRNA定量のための較正物質の国際標準は、種々の研究室で作成されるデータの比較を容易にするように開発されることが望ましい。全血中のサイトカインmRNA測定は、新規のワクチンと免疫療法の評価のために必要な先天免疫応答と適応免疫応答の監視のために有用である。
【実施例7】
【0238】
MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。該系の精度を説明するために、出発細胞数に対するmRNAコピー数の線形回帰を計算した(図22)。mRNAを、様々な数の末梢血単核細胞(PBMC)(100000〜600000細胞の範囲、X軸)から抽出し、そしてβ−アクチンmRNAについて一工程のRT−リアルタイムPCRを本実施例6の"材料と方法"部で記載されるように実施した。この試験をPBMCからβ−アクチンとTNF−αのmRNAについて繰り返し(図23、パネルBとD)、そして全血から(図23、パネルA)、そしてCD4+の精製T細胞から(図23、パネルC)β−アクチンmRNAについて繰り返した。
【実施例8】
【0239】
癌免疫療法
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。その方法を、癌ワクチンによって誘発される免疫応答の監視に適用した。図24、25及び26は、この現場で黒色腫患者に関して得られた結果を示している。
【実施例9】
【0240】
アレルギー
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。次いでその方法をアレルギーに適用した。アレルギーがある被検体の全血を関連のアレルゲンと一緒にインビトロでインキュベートすることによって誘発された応答を、リアルタイムPCRを用いたIL−4 mRNA定量化によって分析した。図27、28、29及び30はこの現場で得られた結果を示す。
【実施例10】
【0241】
自己免疫性
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。次いでその方法を自己免疫性に適用した。この全血系を用いたIL−2 mRNA定量化を適用して、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、つまり自己免疫性1型糖尿病における自己反応性T細胞の標的である自己抗原に対するT細胞応答を評価した。図31及び32はこの現場で得られた結果を示す。
【実施例11】
【0242】
移植
この実施例で採用される手法を図21にまとめる。次いでその方法を移植に適用した。アロ反応性の非T細胞と一緒に全血をインキュベートした後にリアルタイムPCRを行うことによるIL−2 mRNA定量化によって、アロ反応性のT細胞応答を監視する古典的な混合リンパ球反応(MLR)の代替がもたらされる。図33及び34はこの現場で得られた結果を示す。
【0243】
本発明は発明の詳細な説明と共に説明されているが、一方で上述の記載は本発明を説明することを意図するものであって、本発明の範囲を制限するものではなく、範囲は付随する特許請求の範囲によって定義されるものである。他の態様、利点及び改変は以下の特許請求の範囲内にある。
【0244】
【表1】
【0245】
【表2】
【0246】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0247】
【図1】図1aから1dは本発明による容槽と方法の一例を表す。
【図2】図2は、抗原2が存在する、本発明による容槽1の例を表す。
【図3】図3は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図4】図4は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図5】図5は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図6】図6は、図2に示される容槽型に適した取付具の例を表す。
【図7】図7は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。
【図8】図8は、例えば図2〜6に示される容槽及び取付具と組み合わせて使用できる容槽1の胴部の例を表す。
【図9】図9は、容槽に接続されていない本発明の容器20の一例を表す。
【図10】図10は、容槽に接続されていない本発明の容器29の一例を表す。
【図11】図11は、ルアー型取付具8及びこの場合には排気を容槽から逃がすことができる弁31を備えた容槽1を含む、本発明によるキットの一例を表す。
【図12】図12.1は破傷風毒素に対する免疫応答のエクスビボでの監視を示している。図12.2は実施例3で採用される手法を示している。図12.3は実施例4で採用される手法を示している。図12.4は実施例5で採用される手法を示している。
【図13】図13.1は、末梢血液中でのIFN−γとIL−10のmRNAの自然産生についてのRT−PCRを示している。図13.2は、全血中でのIFN−γとIL−10のmRNAについてのリアルタイムPCRを示している。
【図14】図14は、PreAnalytiXによって提唱される全血からのRNA抽出法と本発明によって提案される方法と比較しての図式的比較を示している。
【図15】図15は、破傷風毒素による血中サイトカインmRNAのエクスビボでの誘導を示している。
【図16】図16は、全血をLPSで刺激した後のIL−1βとIL−1RAのmRNAの動力学を示している。
【図17】図17は、出発血液容量に対するmRNAコピー数の線形回帰を示している。
【図18】図18は、破傷風毒素で全血を刺激した後のサイトカインmRNA動力学を示している。
【図19】図19は、LPSの静注後の血中サイトカインmRNAのインビボでの調節を示している。
【図20】図20は、抗破傷風ワクチン応答の追跡調査を示している。
【図21】図21は、実施例7、実施例8、実施例9、実施例10及び実施例11で採用される手順の概要を示している。
【図22】図22は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。
【図23】図23は、MagNA Pureでの自動化されたmRNA抽出と試薬混合物調製:出発生物学的材料の量と実測コピー数との間の直接相関を示している。
【図24】図24は、癌免疫療法に登録された患者の症例報告の概略を示している。
【図25】図25は、種痘プロトコールとリアルタイムPCRによる免疫応答の監視を表した図を示している。
【図26】図26は、MAGE−3刺激された全血においてMAGE−3ワクチン追加抗原刺激した後により高いIL−2 mRNA濃度が観察されることを示している。
【図27】図27は、アレルゲンと一緒に全血をインキュベートした後にIL−4 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。
【図28】図28は、Feld1アレルゲンはネコに対してアレルギーがある被検体由来の全血においてアレルギーがない被検体と比較してより極めて高いIL−4 mRNA濃度を誘発することを示している。
【図29】図29は、この全血系でのFeld1に対する応答は特異的であり、かつ用量依存性であることを示している。
【図30】図30は、全血をFeld1で刺激した後のIL−4 mRNA濃度がネコに対してアレルギーがある患者において健康な対照と比較してより高いことを示している。
【図31】図31は、精製されたGAD65タンパク質と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化のために実施される試験を表す図を示している。
【図32】図32は、1型糖尿病の患者由来の全血は健康な被検体と比較してGAD65刺激後により高いIL−2 mRNA濃度を示すことを示している。
【図33】図33は、非血縁の樹状細胞(DC)と一緒に全血をインキュベートした後にIL−2 mRNA定量化して、同種異系反応性T細胞応答を評価するために実施される試験を表す図を示している。
【図34】図34は、全血中のIL−2 mRNA定量化による同種異系反応性T細胞応答の評価を示している。
【符号の説明】
【0248】
1 容槽、 2 抗原粒子、 3 入口、 4 容器、 5 安定化剤、 6 注射針、 7 シャフト、 8 生物学的試料、 9 隔壁、 10 キャップ、 11 注射器、 12 容器、 13 押し下げ可能領域、 14 鋭点部、 15 破砕可能な材料、 16 容器、 17 接続部、 18 隔壁、 19 皮下注射針、 20 容器、 22 取付具、 23 蓋、 25 栓、 28 プランジャー、 29 容器、 31 弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の生物学的試料を収容し、その試料を第一の物質に曝露し、引き続き核酸安定化剤に曝露するのに適した容槽であって、
a)前記容槽内部に存在する第一の物質、
b)前記安定化剤が存在する容器、
c)前記容槽内部と前記容器内部との間の接続部、
d)前記接続部を一時的に遮断する物的障壁
を有する容槽。
【請求項2】
第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されている、請求項1記載の容槽。
【請求項3】
前記の第一の物質が固体担体上に固定化されている、請求項1記載の容槽。
【請求項4】
前記の第一の物質が液体である、請求項1記載の容槽。
【請求項5】
前記の第一の物質が固体である、請求項1記載の容槽。
【請求項6】
注射針による穿刺に適した1つ又はそれ以上の領域を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項7】
前記の領域が再封可能な隔壁である、請求項1から6までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項8】
注射器を収容し、かつその内容物を前記容槽の内部に送出するのに適した取付具を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項9】
注射針を収容するのに適した取付具を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項10】
体液を採取するのに適したカニューレを有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項11】
容槽からの気体/液体の流出を最小限にすることができ、かつ容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする弁を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項12】
排気を通過させて放出できる手段を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項13】
容槽が負圧下に保持されている、請求項1から12までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項14】
項目d)の物的障壁が、容槽に物理力をかけることによって開放される、請求項1から13までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項15】
前記の力が開放手段を前記物的障壁に送る、請求項14記載の容槽。
【請求項16】
前記の力が不可逆的に前記物的障壁を開放する、請求項14又は15記載の容槽。
【請求項17】
容槽中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有する、請求項1から16までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項18】
前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含む、請求項1から17までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項19】
前記の免疫系抗原がワクチン成分である、請求項18記載の容槽。
【請求項20】
前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原である、請求項18記載の容槽。
【請求項21】
前記の免疫系抗原が、組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原、GAD65から選択される1種又はそれ以上である、請求項18記載の容槽。
【請求項22】
前記の安定化剤が細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤である、請求項1から21までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項23】
前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在する、請求項22記載の容槽。
【請求項24】
血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされ安定化された血液試料中のRNA成分を試験する方法であって、請求項1から23までのいずれか1項記載の容槽を使用することを特徴として含む方法。
【請求項25】
抗原に対する個体の免疫応答を試験するにあたり、請求項1から23までのいずれか1項記載の容槽を使用し、第一の物質を調査対象の抗原とする方法であって、以下の工程
a)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
b)任意に前記容槽を撹拌する工程、
c)所定時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、及び
d)mRNA濃度を試験する工程
を含む方法。
【請求項26】
工程d)が更に、以下の工程、
e)核酸を含む沈殿物を形成する工程、
f)工程(e)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
g)工程(f)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解し、懸濁液を形成させる工程、
h)工程(g)の前記懸濁液から自動装置を用いて核酸を単離する工程、
i)自動装置を用いてRT−PCR用の試薬混合物を分散/分配する工程、
j)工程(h)で単離された核酸を自動装置を用いて工程(i)の分散された試薬混合物中に分散/分配する工程、及び
k)自動化された機構で工程(j)の核酸/RT−PCR試薬混合物を用いて転写物のインビボ濃度を測定する工程
を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
個体を予備免疫した抗原に対する個体の免疫応答を試験するにあたり、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつサイトカインmRNAの濃度を試験する、請求項25及び26記載の方法。
【請求項28】
サイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
個体の抗原に対する過剰アレルゲン性を試験するにあたり、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつIL−4 mRNAの濃度を試験する、請求項25及び26記載の方法。
【請求項30】
個体の器官移植片の抗原に対する拒絶反応を試験するにあたり、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、そしてIL−2 mRNAの濃度を試験する、請求項25及び26記載の方法。
【請求項31】
血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされ安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、請求項1から23までのいずれか1項記載の容槽の使用。
【請求項32】
所定容量の血液試料を個体から前記の針又はカニューレを用いて抜き取り、前記試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされた安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、請求項13から23までのいずれか1項記載の容槽の使用。
【請求項33】
液状の生物学的試料を第一の物質でパルスし、引き続いてそこに細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する試剤を導入し、そしてこのようにパルスされ安定化された血液試料中のmRNA成分を試験するのに適したキットであって、ここで、該キットは、
a)前記の第一の物質が存在する容槽、及び
b)前記の試剤が存在する容器
を有する。
【請求項34】
前記の容槽内部と前記の容器内部とが接続されており、かつ物的障壁が一時的に前記接続部を遮断する、請求項33記載のキット。
【請求項35】
前記の第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されている、請求項33及び34記載のキット。
【請求項36】
前記の第一の物質が固体担体上に固定化されている、請求項33から35までのいずれか1項記載のキット。
【請求項37】
前記の第一の物質が液体である、請求項33及び34のいずれかに記載のキット。
【請求項38】
前記の第一の物質が固体である、請求項33及び34のいずれかに記載のキット。
【請求項39】
前記の容槽が1つ又はそれ以上の開口部を有する、請求項33から38までのいずれか1項記載のキット。
【請求項40】
前記容槽が注射針による穿刺に適した1つ又はそれ以上の領域を有する、請求項33から39までのいずれかに記載のキット。
【請求項41】
前記の領域が再封可能な隔壁である、請求項40のいずれかに記載のキット。
【請求項42】
前記容槽が、注射器を収容し、かつその内容物を容槽内部に送出するために適した1つ又はそれ以上の取付具を有する、請求項33から41までのいずれか1項記載のキット。
【請求項43】
前記の容槽が皮下注射針を収容するのに適した1つ又はそれ以上の取付具を有する、請求項33から42までのいずれか1項記載のキット。
【請求項44】
前記の容槽が体液を採取するのに適した1つ又はそれ以上のカニューレを有する、請求項33から43までのいずれかに記載のキット。
【請求項45】
前記の容槽が、容槽からの液体の流出を最小限にすることができ、容槽からの又は容槽中への気体の流出又は流入を最小限にすることができ、かつ/又は容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする1つ又はそれ以上の弁を有する、請求項33から44までのいずれかに記載のキット。
【請求項46】
前記の容槽が排気を通過させて放出できる1つ又はそれ以上の手段を有する、請求項33から45までのいずれかに記載のキット。
【請求項47】
前記の容槽が負圧下に保持されている、請求項33から46までのいずれか1項記載のキット。
【請求項48】
項目d)の物的障壁が、前記の容槽に物理力をかけることによって開放される、請求項33から47までのいずれかに記載のキット。
【請求項49】
前記の力が開放手段を前記物的障壁に送る、請求項48記載のキット。
【請求項50】
前記の力が不可逆的に前記物的障壁を開放する、請求項48及び49記載の容槽。
【請求項51】
前記の容槽及び/又は容器が容槽中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有する、請求項33から50までのいずれかに記載のキット。
【請求項52】
前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含む、請求項33から51までのいずれかに記載のキット。
【請求項53】
前記の免疫系抗原がワクチン成分である、請求項52記載のキット。
【請求項54】
前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原である、請求項52記載のキット。
【請求項55】
前記の免疫系抗原が、組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原、GAD65から選択される1種又はそれ以上のものである、請求項52記載のキット。
【請求項56】
前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在する、請求項55から55までのいずれかに記載のキット。
【請求項57】
個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験するためのキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがサイトカインmRNAである請求項33から56までのいずれかに記載のキット。
【請求項58】
サイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である、請求項57記載のキット。
【請求項59】
個体を抗原に対する過剰アレルゲン性について試験するためのキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−4 mRNAである請求項33から56までのいずれかに記載のキット。
【請求項60】
個体を器官移植片の拒絶反応について試験するためのキットであって、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−2 mRNAである請求項33から56までのいずれかに記載のキット。
【請求項61】
更に前記のmRNAを試験するのに適した1種又はそれ以上のオリゴヌクレオチドを含む、請求項33から60までのいずれかに記載のキット。
【請求項1】
液状の生物学的試料を収容し、その試料を第一の物質に曝露し、引き続き核酸安定化剤に曝露するのに適した容槽であって、
a)前記容槽内部に存在する第一の物質、
b)前記安定化剤が存在する容器、
c)前記容槽内部と前記容器内部との間の接続部、
d)前記接続部を一時的に遮断する物的障壁
を有する容槽。
【請求項2】
第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されている、請求項1記載の容槽。
【請求項3】
前記の第一の物質が固体担体上に固定化されている、請求項1記載の容槽。
【請求項4】
前記の第一の物質が液体である、請求項1記載の容槽。
【請求項5】
前記の第一の物質が固体である、請求項1記載の容槽。
【請求項6】
注射針による穿刺に適した1つ又はそれ以上の領域を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項7】
前記の領域が再封可能な隔壁である、請求項1から6までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項8】
注射器を収容し、かつその内容物を前記容槽の内部に送出するのに適した取付具を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項9】
注射針を収容するのに適した取付具を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項10】
体液を採取するのに適したカニューレを有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項11】
容槽からの気体/液体の流出を最小限にすることができ、かつ容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする弁を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項12】
排気を通過させて放出できる手段を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項13】
容槽が負圧下に保持されている、請求項1から12までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項14】
項目d)の物的障壁が、容槽に物理力をかけることによって開放される、請求項1から13までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項15】
前記の力が開放手段を前記物的障壁に送る、請求項14記載の容槽。
【請求項16】
前記の力が不可逆的に前記物的障壁を開放する、請求項14又は15記載の容槽。
【請求項17】
容槽中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有する、請求項1から16までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項18】
前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含む、請求項1から17までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項19】
前記の免疫系抗原がワクチン成分である、請求項18記載の容槽。
【請求項20】
前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原である、請求項18記載の容槽。
【請求項21】
前記の免疫系抗原が、組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原、GAD65から選択される1種又はそれ以上である、請求項18記載の容槽。
【請求項22】
前記の安定化剤が細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤である、請求項1から21までのいずれか1項記載の容槽。
【請求項23】
前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在する、請求項22記載の容槽。
【請求項24】
血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされ安定化された血液試料中のRNA成分を試験する方法であって、請求項1から23までのいずれか1項記載の容槽を使用することを特徴として含む方法。
【請求項25】
抗原に対する個体の免疫応答を試験するにあたり、請求項1から23までのいずれか1項記載の容槽を使用し、第一の物質を調査対象の抗原とする方法であって、以下の工程
a)前記の個体から採取された血液試料をその容槽に導入する工程、
b)任意に前記容槽を撹拌する工程、
c)所定時間後に、前記の核酸安定化剤を該容槽中に導入する工程、及び
d)mRNA濃度を試験する工程
を含む方法。
【請求項26】
工程d)が更に、以下の工程、
e)核酸を含む沈殿物を形成する工程、
f)工程(e)の前記沈殿物を上清から分離する工程、
g)工程(f)の前記沈殿物をバッファーを用いて溶解し、懸濁液を形成させる工程、
h)工程(g)の前記懸濁液から自動装置を用いて核酸を単離する工程、
i)自動装置を用いてRT−PCR用の試薬混合物を分散/分配する工程、
j)工程(h)で単離された核酸を自動装置を用いて工程(i)の分散された試薬混合物中に分散/分配する工程、及び
k)自動化された機構で工程(j)の核酸/RT−PCR試薬混合物を用いて転写物のインビボ濃度を測定する工程
を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
個体を予備免疫した抗原に対する個体の免疫応答を試験するにあたり、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつサイトカインmRNAの濃度を試験する、請求項25及び26記載の方法。
【請求項28】
サイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
個体の抗原に対する過剰アレルゲン性を試験するにあたり、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつIL−4 mRNAの濃度を試験する、請求項25及び26記載の方法。
【請求項30】
個体の器官移植片の抗原に対する拒絶反応を試験するにあたり、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、そしてIL−2 mRNAの濃度を試験する、請求項25及び26記載の方法。
【請求項31】
血液試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされ安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、請求項1から23までのいずれか1項記載の容槽の使用。
【請求項32】
所定容量の血液試料を個体から前記の針又はカニューレを用いて抜き取り、前記試料を抗原でパルスし、引き続き該試料中での細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害し、その後にこのようにパルスされた安定化された血液試料中のRNA成分を試験するための、請求項13から23までのいずれか1項記載の容槽の使用。
【請求項33】
液状の生物学的試料を第一の物質でパルスし、引き続いてそこに細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導を阻害する試剤を導入し、そしてこのようにパルスされ安定化された血液試料中のmRNA成分を試験するのに適したキットであって、ここで、該キットは、
a)前記の第一の物質が存在する容槽、及び
b)前記の試剤が存在する容器
を有する。
【請求項34】
前記の容槽内部と前記の容器内部とが接続されており、かつ物的障壁が一時的に前記接続部を遮断する、請求項33記載のキット。
【請求項35】
前記の第一の物質がその容槽の内表面上の一部又は全てに固定化されている、請求項33及び34記載のキット。
【請求項36】
前記の第一の物質が固体担体上に固定化されている、請求項33から35までのいずれか1項記載のキット。
【請求項37】
前記の第一の物質が液体である、請求項33及び34のいずれかに記載のキット。
【請求項38】
前記の第一の物質が固体である、請求項33及び34のいずれかに記載のキット。
【請求項39】
前記の容槽が1つ又はそれ以上の開口部を有する、請求項33から38までのいずれか1項記載のキット。
【請求項40】
前記容槽が注射針による穿刺に適した1つ又はそれ以上の領域を有する、請求項33から39までのいずれかに記載のキット。
【請求項41】
前記の領域が再封可能な隔壁である、請求項40のいずれかに記載のキット。
【請求項42】
前記容槽が、注射器を収容し、かつその内容物を容槽内部に送出するために適した1つ又はそれ以上の取付具を有する、請求項33から41までのいずれか1項記載のキット。
【請求項43】
前記の容槽が皮下注射針を収容するのに適した1つ又はそれ以上の取付具を有する、請求項33から42までのいずれか1項記載のキット。
【請求項44】
前記の容槽が体液を採取するのに適した1つ又はそれ以上のカニューレを有する、請求項33から43までのいずれかに記載のキット。
【請求項45】
前記の容槽が、容槽からの液体の流出を最小限にすることができ、容槽からの又は容槽中への気体の流出又は流入を最小限にすることができ、かつ/又は容槽中への液状の生物学的試料の流入を可能にする1つ又はそれ以上の弁を有する、請求項33から44までのいずれかに記載のキット。
【請求項46】
前記の容槽が排気を通過させて放出できる1つ又はそれ以上の手段を有する、請求項33から45までのいずれかに記載のキット。
【請求項47】
前記の容槽が負圧下に保持されている、請求項33から46までのいずれか1項記載のキット。
【請求項48】
項目d)の物的障壁が、前記の容槽に物理力をかけることによって開放される、請求項33から47までのいずれかに記載のキット。
【請求項49】
前記の力が開放手段を前記物的障壁に送る、請求項48記載のキット。
【請求項50】
前記の力が不可逆的に前記物的障壁を開放する、請求項48及び49記載の容槽。
【請求項51】
前記の容槽及び/又は容器が容槽中の安定化剤の既知の容量を計量分配するための標示を有する、請求項33から50までのいずれかに記載のキット。
【請求項52】
前記の第一の物質が1種又はそれ以上の免疫系抗原を含む、請求項33から51までのいずれかに記載のキット。
【請求項53】
前記の免疫系抗原がワクチン成分である、請求項52記載のキット。
【請求項54】
前記の免疫系抗原が過剰アレルゲン性応答を誘発する抗原である、請求項52記載のキット。
【請求項55】
前記の免疫系抗原が、組織適合抗原、細菌性LPS、破傷風毒素、癌免疫療法抗原、MAGE−3、ネコアレルゲン、Feld1、器官ドナー由来の抗原提示細胞、自己抗原、GAD65から選択される1種又はそれ以上のものである、請求項52記載のキット。
【請求項56】
前記の細胞性RNA分解及び/又は遺伝子誘導の阻害剤がPAXgene(商標)Blood RNA採血管中に存在する、請求項55から55までのいずれかに記載のキット。
【請求項57】
個体が予備免疫される抗原に対する個体の免疫応答を試験するためのキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがサイトカインmRNAである請求項33から56までのいずれかに記載のキット。
【請求項58】
サイトカインがIL−2、IL−4、IL−13、IFN−γの1種又はそれ以上である、請求項57記載のキット。
【請求項59】
個体を抗原に対する過剰アレルゲン性について試験するためのキットであって、第一の物質が調査対象の抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−4 mRNAである請求項33から56までのいずれかに記載のキット。
【請求項60】
個体を器官移植片の拒絶反応について試験するためのキットであって、第一の物質がドナーの組織適合抗原であり、かつ試験されるmRNAがIL−2 mRNAである請求項33から56までのいずれかに記載のキット。
【請求項61】
更に前記のmRNAを試験するのに適した1種又はそれ以上のオリゴヌクレオチドを含む、請求項33から60までのいずれかに記載のキット。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図3】
【図4】
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【図22】
【図23】
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【図25】
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【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公表番号】特表2007−506403(P2007−506403A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503808(P2005−503808)
【出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007453
【国際公開番号】WO2005/005044
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(502222267)ユニヴェルシテ リブル ドゥ ブリュッセル (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2003/007453
【国際公開番号】WO2005/005044
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(502222267)ユニヴェルシテ リブル ドゥ ブリュッセル (2)
【Fターム(参考)】
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