説明

生物学的DNAの検出

【課題】 リアルタイムPCRと任意の分析工程との組み合わせに基づいて、試料中に存在する可能性のある生物学的DNAを分析するための方法、キット、およびシステムを提供すること。
【解決手段】 a) 存在する可能性のある生物学的DNAが増幅される普遍的リアルタイムPCRを行う工程、および
b) 工程a)で生物学的DNAが増幅された場合に、前記増幅された生物学的DNAを分析する追加の分析工程を行う工程であって、ここで前記分析工程が質量分析計(MS)を用いて行われる、工程
を含む、生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的DNAの存在に関して試料を分析するための方法、キット、およびシステムを提供する。特に、本発明は該試料に存在する可能性のある微生物を検出し、同定する方法、キット、およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸分析に基づいた生物学的および微生物学的テストは、診断学、研究、および産業への適用のために、依然としてその重要性が増大している。このようなテストは試料中の生物学的DNAの存在の検出だけでなく、その同定や定量にも用いられている。該生物学的および微生物学的テストの適用は、疾患の認識、環境のモニタリングおよび試薬、治療、化粧品、または食物の品質管理において見られ得る。
【0003】
核酸はしばしば非常に低い濃度で存在するので、多くの場合、これらのテストは特徴的DNA分子の増幅工程を少なくとも1回は含んでいる。2つのオリゴヌクレオチドプライマーの選択的結合をともなう周知のアッセイを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)といい、US 4,683,195にて説明されている。この方法は、数回のサイクルでデオキシヌクレオチド三リン酸の存在下、熱安定性ポリメラーゼによって、ある特定の核酸領域の、検出可能なレベルまでの選択的増幅を可能にする。
【0004】
PCRは核酸分子の飛躍的な増幅であるため、例えば、該増幅に必要な試薬からの核酸分子で試料が極めて微量に汚染されただけでも、誤ったデザインのプライマー分子と同様に、結果として、膨大な量の望ましくない増幅産物が生じ得る。かかる現象の顕著な例は、試料中の微生物の存在が検査されるべきで、用いられる試薬の一部にこの細菌またはこの細菌由来の核酸が混入している、微生物学的テストにおいて起こることがある。
【0005】
プライマーのデザインはある種の生物学的または微生物学的テストを成功させるために最も重要で、主に、テストの特異性はプライマーのデザインによって調節可能である。一方で、偽陽性結果が出るリスクを最小限にするために、細菌の特定の株のみを増幅するプライマーを用いることがある。他方では、様々な型の細菌を増幅させるプライマーを用いることがあり、それによって、偽陰性結果が出るリスクは最小限になるが、亜種についての情報は得られない。
【0006】
様々な源から(例えば微生物、ウイルスから)の生物学的DNAの並行した検出、同定および定量は、通常、一対以上のプライマーおよび様々な標的特異的蛍光ハイブリダイゼーションプローブ(例えば加水分解やハイブリダイゼーションプローブ)を用いて行われる。これらの複合PCRアッセイにおいて、様々な蛍光性質を有する多重の蛍光色素を用いることによってのみ、様々なDNA標的を同時に同定することができる。適当な蛍光色素の数が限られているため、様々なDNA標的の同定のために、多くの場合、さらにプローブの融解曲線分析を行う必要がある。
【0007】
かかる複合PCRアッセイの不利な点は、試薬混合物の複雑さと、展開に時間がかかること、および生成にかかるコストが高いことである。さらに、プライマーとプローブの相互作用の確率は、必要なプライマーおよびプローブの数と共に上がるため、かかる検出混合物の複雑さはしばしば感度を低くする。プローブに基づいた複合PCRアッセイのさらなる限界は、新規および未知の種を同定することができないことである。
【0008】
複数のDNA分子を並行して検出、同定および定量する別の方法は、質量分析(MS)の使用である。核酸、特にPCR産物の分析のためのMS技術は、当該分野で周知であり、本発明に関連のある従来技術はMayr, B.らAnal. Chem. 77(14)(2005)4563-4570に要約されている。質量分析を使用して、分子量によって、DNA分子を同定することが可能である。DNA分子を同定するのに分子量だけで十分でなくても、タンデムMS技術は存在する分子の配列を決定するために、さらなる機会を提供してくれる。しかしながら上述したMSを基にした方法は、特に長いPCR産物については費用がかかり、分析に時間がかかることで、日常的な分析法としての実際上の有用性を限定してしまう。
【0009】
(発明の簡単な説明)
生物学的DNAの存在に関する試料の分析の多くの他の方法は、当業者に公知であるが、これらの他の方法で、任意の分析工程とリアルタイムPCRを組み合わせているものはない。従って、本発明は、任意の分析工程とリアルタイムPCRの組み合わせに基づいて、該試料に存在する可能性のある生物学的DNAの分析のための、方法、キット、およびシステムに関する。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] a) 存在する可能性のある生物学的DNAが増幅される普遍的リアルタイムPCRを行う工程、および
b) 工程a)で生物学的DNAが増幅された場合に、前記増幅された生物学的DNAを分析する追加の分析工程を行う工程であって、ここで前記分析工程が質量分析計(MS)を用いて行われる、工程
を含む、生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法。
[2] 前記試料が生物学的試料、好ましくは血液、尿、組織または食物である、[1]記載の方法。
[3] 前記試料が試薬、好ましくは診断キットの試薬またはバッファー溶液である、[1]記載の方法。
[4] 前記試料が化粧品、治療剤、または環境の試料である[1]記載の方法。
[5] 工程a)の前に追加の単離工程が行われ、ここで前記単離工程は前記試料から生物学的DNAを単離する、[1]〜[4]いずれか記載の方法。
[6] 工程a)の前記普遍的リアルタイムPCRが、前記試料に存在する可能性のある生物学的DNAを増幅する少なくとも1つのプライマーを用いて行われる、[1]〜[5]いずれか記載の方法。
[7] 前記普遍的リアルタイムPCRが二本鎖DNA結合部分を含んでいる、[1]〜[6]いずれか記載の方法。
[8] 前記質量分析計(MS)がエレクトロスプレイイオン化MS、脱離エレクトロスプレイイオン化MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS、高速原子衝撃MS、イオントラップMS、三連四重極MS、飛行時間型(TOF) MS、四重極TOF MS、フーリエ変換MS、またはその組み合わせである、[1]〜[7]いずれか記載の方法。
[9] 2以上の前記普遍的リアルタイムPCRが並行して行われ、前記2以上の普遍的リアルタイムPCRのそれぞれは異なるプライマーを含む、[1]〜[8]いずれか記載の方法。
[10] 普遍的リアルタイムPCR、任意の質量分析および任意の単離工程に必要な試薬を含む、[1]〜[9]いずれか記載の方法を行うキット。
[11] 前記普遍的リアルタイムPCRのための前記試薬は蛍光色素、好ましくはSybrGreenを含む、[10]記載のキット。
[12]− 普遍的リアルタイムPCRのための、熱安定性DNAポリメラーゼ、プライマー、核酸三リン酸、および検出化合物を含む試薬、任意の分析工程のための試薬、および任意の単離工程のための溶解バッファー、結合バッファー、および洗浄バッファー、ならびに
− 核酸分析器
を含む、複数の微生物の存在に関して試料を分析するシステム。
[13] 前記核酸分析器が質量分析計で、好ましくはエレクトロスプレイイオン化MS、脱離エレクトロスプレイイオン化MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS、高速原子衝撃MS、イオントラップMS、三連四重極MS、飛行時間型(TOF) MS、四重極TOF MS、フーリエ変換MS、またはその組み合わせである、[12]記載のシステム。
[14] 2以上の前記普遍的リアルタイムPCRを並行して行うための使い捨てのものをさらに含む、[12]又は[13]記載のシステム。
【0011】
本発明によると、リアルタイムPCRと任意の解析工程の組み合わせに基づく、上記試料中に存在する可能性のある生物学的DNAの分析のための方法、キットおよびシステムが提供され得る。
【0012】
本発明の1つの主題は、生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法で、以下の工程を含む
a)存在する可能性のある生物学的DNAが増幅される普遍的リアルタイムPCRを行う工程および
b)工程a)で生物学的DNAが増幅された場合に、該増幅された生物学的DNAを分析する追加の分析工程を行う工程であって、ここで該分析工程が質量分析計(MS)を用いて行われる工程。
【0013】
本発明の範囲において、試料を分析するということは、該試料に存在する可能性のある生物学的DNAの検出だけではなく、同定も含む。本発明を通して、試料の分析は、生物学的DNAが少しでも存在するかを検証する第一の純粋な検出工程と、検出された生物学的DNAをさらに分析する第二の任意の分析工程の、2つの工程で行われていることに留意されたい。普遍的リアルタイムPCR検出工程を任意の分析工程と分けることには、該分析工程は必要な時のみ、すなわち普遍的リアルタイムPCR中に増幅した生物学的DNAの場合に行う、という利点がある。
【0014】
本発明を通して、「普遍的リアルタイムPCR」という語句は、このPCRは単一の標的分子の増幅のためにデザインされたのではなく、ある種の標的群の中の、全ての標的分子を増幅するということを強調するために、使われている。
【0015】
「生物学的DNA」という語句は、生物学的起源の色々な種類のDNAを要約する。特に、該生物学的DNAは、細菌、ウイルス、または酵母などの、微生物から生じる。
【0016】
本発明の別の主題は、普遍的リアルタイムPCR、任意の質量分析、および任意の単離工程に必要な試薬を含む、本発明の方法を行うためのキットである。
【0017】
「単離工程」という語句は、それに続くPCR増幅に適用できる形態で該試料に存在する可能性のある生物学的DNAを抽出するのに必要な、全ての調製工程を要約する。従って、該単離工程は、リアルタイムPCR増幅の前に、細胞膜が破砕されなければならないときには、例えば溶解工程を含む。
【0018】
本発明のさらに別の主題は、複数の微生物の存在に関して試料を分析するシステムで、以下を含む
−普遍的リアルタイムPCRのための、熱安定性DNAポリメラーゼ、プライマー、核酸三リン酸、および検出化合物を含む試薬、任意の分析工程のための試薬、および任意の単離工程のための溶解バッファー、結合バッファー、および洗浄バッファー、ならびに
−核酸分析器。
【0019】
本発明を通して、「核酸分析器」という語句は、濃度、分子量、塩基の組成または配列などの、核酸分子についての情報を得るのに適当な色々の種類の装置を要約している。
【0020】
普遍的リアルタイムPCRの検出化合物は、非特異的に核酸に結合可能、および、核酸の定量を行うために検出可能な、色々な種類の化合物である。
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明の1つの主題は、生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法で、以下の工程を含む
a)存在する可能性のある生物学的DNAが増幅される普遍的リアルタイムPCRを行う工程および
b)工程a)で生物学的DNAが増幅された場合に、該増幅された生物学的DNAを分析する追加の分析工程を行う工程であって、ここで該分析工程が質量分析計(MS)を用いて行われる工程。
【0022】
本発明を通じて、生物学的DNAを含む可能性がある全ての試料は分析され得る。本発明の範囲を限定せず、生物学的DNAの存在に関する試料の分析が関心事である、主に3つの異なった適用がある。
【0023】
任意の分析工程は、必要なとき、すなわち生物学的DNAが普遍的リアルタイムPCR中に増幅された場合にのみ、行われる。従って、本発明の方法は、試料の少量の画分のみが生物学的DNAを含むと予測されるスクリーニング適用に、有利である。かかる適用は品質管理や伝染性調査、ならびに不測または未知の種の検出である。生物学的DNAがリアルタイムPCR中に検出されたときのみ、費用のかかる分析工程を行うので、本発明の方法は、これらの適用に、根本的なコスト削減を提供する。さらに、PCR結果が陽性の場合でも、存在するDNAについてそれ以上の情報が必要なければ、使用者および/または適用によって、分析工程は省略できる。最後だが忘れてはならないのは、試料の少量の画分にのみ追加の分析工程を行うとき、スクリーニング適用の処理量に関して好ましい効果を有することである。
【0024】
本発明の別の主題は、生物学的DNAのスクリーニング方法で、以下の工程を含む
a)存在する可能性のある生物学的DNAが増幅される普遍的リアルタイムPCRを行う工程および
b)工程a)で生物学的DNAが増幅された場合に、該増幅された生物学的DNAを分析する追加の分析工程を行う工程であって、好ましくは、ここで該分析工程が質量分析計(MS)を用いて行われる工程。
【0025】
本発明のいずれかの主題の好ましい方法では、該試料が生物学的試料、好ましくは血液、尿、組織または食物である。
【0026】
1つの適用は、例えば人間または動物の感染の指標として、生物学的DNAを検出および同定するために、生物学的試料の分析を扱う。かかる感染を効果的に処置するために、何らかの感染があるという情報だけでなく、当然、病原菌について詳しく知る必要がある。しかし他方で、感染が全くない場合は、本発明を通して、さらなる分析工程は行われない。本発明の方法は、例えば微生物のDNAの存在が食品の汚染または腐敗の指標になる、食品分析にも適用できる。食品分析の分野における本発明の重要な適用は、飲料水の品質管理である。
【0027】
本発明のいずれかの主題の別の好ましい方法では、該試料が試薬、好ましくは診断キットの試薬または緩衝液である。
【0028】
さらに本発明のいずれかの主題の別の好ましい方法では、該試料が化粧品、治療剤、または環境の試料である。
【0029】
別の適用は生物学的DNAを試薬、化粧品、治療剤、または環境の試料などの試料中の混入として扱い、従って、本発明の分析は該試料の純度を検証するテストである。生物学的な混入の場合は、該混入があるかを知ることのみが関心事ではなく、特に該生物学的DNAの同定が、その起源を明らかにし、将来かかる試料混入を防ぐために重要である。また一方、本発明では、混入が全く検出されなかった場合は、さらなる分析工程は行われない。
【0030】
本発明のいずれかの主題の同じく好ましい方法は、工程a)の前に行われる追加の単離工程を含み、ここで該単離工程は該試料から生物学的DNAを単離する。
【0031】
大抵の場合、試料の他の成分から該生物学的DNAを分離する必要があり、従って、PCR増幅の前に、当業者に公知の単離工程を1つ以上行うのが好ましい。この目的で最も顕著な例は、カオトロピック試薬の存在下でDNAを可逆的に結合できるため、ガラス表面などのDNA結合物質の使用である(Vogelstein, B., およびGillespie, D., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76 (1979) 615-619)。
【0032】
例えば試料の微生物混入の場合、微生物のDNAは直接には増幅され得ない。従って、本発明の方法の好ましい態様では、該単離工程は追加の溶解工程を含む。該溶解工程は例えば細菌の細胞膜を破砕し、それに続く単離工程は、リアルタイムPCR増幅の前に、該微生物のDNAを細胞残屑およびバッファー成分から分離する。
【0033】
本発明のより好ましい方法では、該単離工程は該試料中に存在する可能性のある微生物から微生物のDNAを単離し、該分析工程は該試料にどの微生物が存在するかを同定する。
【0034】
ここで、増幅した生物学的DNAの分析は、その微生物のDNAの公知の塩基組成または標的配列に基づき、該試料に存在する微生物を同定するのに用いられる。
【0035】
本発明のいずれかの主題の方法の別の好ましい態様では、工程a)の該普遍的リアルタイムPCRが、該試料に存在する可能性のある生物学的DNAを増幅する少なくとも1つのプライマーを用いて行われる。
【0036】
さらに本発明の方法の別の好ましい態様では、該普遍的リアルタイムPCRが、少なくとも1対のプライマーを用いて行われる。
【0037】
本発明の方法のさらに好ましい態様では、該普遍的リアルタイムPCRは、2対から5対のプライマーまたはジェネリックプライマー(generic primers)対を用いて行われる。
【0038】
プライマーの選択および数は、要求される増幅反応の普遍性および均一性による。一方、プライマー混合物の普遍性は、検出混合物中のプライマー数をただ増加させるだけで改善され得る。しかし他方では、プライマーとプローブの相互作用の可能性はプライマーおよびプローブの数と共に増加し、それによって検出混合物の感度は下がるだろう。
【0039】
検出混合物の感度をゆるめずに(without loosing)普遍性を得る選択肢は、ジェネリックプライマーの使用である。ジェネリックプライマーは、1つの標的DNAだけを増幅するようにデザインされた特異的プライマーとは対照的に、1つ以上の生物学的標的DNAを増幅するようにデザインされたプライマーである。一般に、該ジェネリックプライマーは例えばある種の細菌の全ての種を、それらのゲノムの共通部分を増幅するという点で、並行して検出するようにデザインされている。
【0040】
本発明のいずれかの主題の同じく好ましい方法は、該普遍的リアルタイムPCRが二本鎖DNA結合部分を含んでいる方法である。
【0041】
リアルタイムPCRを実現するには非常に様々な方法がある。相補的な配列を有する他のオリゴヌクレオチドに結合する標識されたオリゴヌクレオチドなどの特異的プローブや、例えば任意の二本鎖DNAの間に挿入される検出可能な二本鎖DNA結合部分などの非特異的プローブがある。本発明を通して、非特異的二本鎖DNA結合部分が好ましい。なぜなら、それはどんな生物学的DNAの増幅も検出し、それによって偽陰性結果のリスクを軽減するからである。
【0042】
本発明の方法でより好ましいのは、該二本鎖DNA結合部分が蛍光色素で、好ましくはSybrGreenである方法である。
【0043】
リアルタイムPCRの標準標識は蛍光標識で、本発明を通して、二本鎖DNAの間に挿入される非特異的蛍光色素を用いることが好ましい。かかる蛍光色素は挿入されることによってその蛍光性質を変化し、それによって二本鎖DNAの量を示すことができる。本発明のために、周知のSybrGreen蛍光色素を用いることが好ましい。
【0044】
生物学的DNAに関して試料を分析するために、非特異的蛍光色素および例えばジェネリックプライマー対を用いてリアルタイムPCRを使用すると、偽陰性結果のリスクが最小限になるという利点がある。本発明を通して、非特異的蛍光色素および例えばジェネリックプライマー対を用いたリアルタイムPCRを、普遍的リアルタイムPCRと呼ぶ。このPCRは単一の標的分子の増幅のためにデザインされたのではなく、ある標的群中の全てのDNA分子を増幅するようデザインされているからである。
【0045】
かかる普遍的リアルタイムPCRの使用には、増幅したDNAについて詳細な情報を得ることができないという不利益がある。従って、いったんリアルタイムPCR検出工程が生物学的DNAの通常の存在を示したら、オリゴヌクレオチド組成または配列に関して優良な識別力のある特性を備えている分析技術を、分析工程に用いなければならない。
【0046】
本発明の別の好ましい方法は、該分析工程が融解曲線分析を含む方法である。
【0047】
融解曲線分析は多くの場合、増幅反応に使用されるリアルタイムPCR装置で直接行うことができる。ここで、蛍光シグナルをモニタリングしている間に試料温度を連続的に上げることによって、二本鎖DNAの融解温度が測定され、得られた融解温度は増幅後に存在するDNAの型の指標である。融解曲線分析を用いると、例えばPCR増幅の間に見られる蛍光強度がプライマー−ダイマー形成にのみ基づくかどうか判断できる。従って、融解曲線分析は、より識別力のある特性を備えているさらなる分析技術を実施する前に、不必要なPCR産物を識別する簡単な分析工程である。
【0048】
該試料中のPCR産物のオリゴヌクレオチド配列に関してさらなる情報を得るために、当業者に公知のいくつかの技術がある。他の方法の中で、この目的に適当な技術は、例えばSanger配列決定法またはピロシーケンスである。
【0049】
本発明を通して、本発明の分析工程に質量分析技術を用いることが好ましい。当業者に公知の非常に様々な質量分析技術があるが、現在DNA分析には、エレクトロスプレイイオン化質量分析(ESI-MS)およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)の2つの技術が主に用いられている。
【0050】
本発明のいずれかの主題のさらに別の好ましい方法は、該質量分析計(MS)がエレクトロスプレイイオン化MS、脱離エレクトロスプレイイオン化MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS、高速原子衝撃MS、イオントラップMS、三連四重極MS、飛行時間型(TOF) MS、四重極TOF MS、フーリエ変換MS、またはその組み合わせである方法である。
【0051】
質量分析は一般に被検体のイオン化を伴う。イオン化された標的核酸は通常、P-O-H基からのプロトン除去によってリン酸のバックボーンを負に荷電することにより、生じる。これは負のモードでの質量分析の実行も含む。ESI-MSでは、始めに被検体を液体エアロゾル滴に溶解する。高電磁場の影響下および高温下および/または乾燥ガスの適用下、液滴は荷電され、液体マトリックスは蒸発する。全ての液体マトリックスの蒸発後、質量分析計に移される被検体分子に電荷が局在化したままになる。MALDI-MSでは、レーザー光線によって被検体とマトリックスとの混合物を照射する。このことによってマトリックス物質は局在的にイオン化し、被検体とマトリックスを脱離する。被検体のイオン化は、ガス相におけるマトリックス物質からの電荷移動によって起こると考えられる。
【0052】
適用によって、最適な実験装備をデザインするために、上述の様々なMS技術のどんな組み合わせでも用いることができる。本発明を通して、ESI-MSとイオントラップまたは飛行時間型質量分析器の組み合わせを用いることが、特に好ましい。
【0053】
同じく適用によって、試料の他の成分から核酸を分離するために、MS分析の前に追加の分離工程を行う必要があるかもしれない。この目的のためには高速液体クロマトグラフィー(HPLC)など、液体クロマトグラフィー(LC)を用いることが好ましい。
【0054】
MS技術は分析される試料の成分に関して非常に感度が高い。従って、核酸増幅産物がMSによって任意に分析されるべき場合には、増幅産物がMS分析に干渉または妨害さえするかもしれない成分を含んでいないことを、確認しなければならない。
【0055】
言い換えると、PCR増幅のパラメータを変更するには、それに続くMS分析の品質に関しての最適化が常に必要で、本発明によるリアルタイムPCRのための検出化合物はそれに応じて選択されなければならない。結果として、非特異的蛍光色素SybrGreenはそれに続くMS分析に影響しないので、本発明を通してリアルタイムPCRのための色素として用いるのが好ましいことがわかった。
【0056】
本発明のより好ましい方法は、該質量分析計が該増幅生物学的DNAの分子量を得るのに、好ましくは該増幅生物学的DNAの配列を得るのに用いられる方法である。
【0057】
該増幅生物学的DNAの分子量の検出は多くの場合、DNAの源を指定するのに既に十分である。しかし該増幅生物学的DNAの分子量だけでは、例えば微生物の2つの異なる種を区別するための十分な識別力がない場合もある。ここで、DNA配列についてのさらなる情報が必要である。
【0058】
核酸の場合、既知の参照配列からの理論的質量スペクトルと、質量分析で測定された実験的質量スペクトルとの比較によって、核酸配列の同定ができる。この目的のために、実験的および理論的データの間で最もよく適合するまで並べ替えをして、参照配列を体系的に変更する(WO 03/025219 A2, Oberacher, H.ら、 Nucleic Acids Research 30(14) (2002) e67)。この方法で、配列(再配列)を確実に検証する、または生物学的試料中のオリゴヌクレオチドを特異的に検出することができる。
【0059】
MS/MS技術はタンデム質量分析とも呼ばれ、親分子のイオンの単離とそれに続くガス相での衝突または共鳴活性化によるフラグメント形成およびフラグメントの分子量の決定を含む。ペプチド配列分析にタンデム質量分析を適用することは、文献(US 6,017,693)で周知である。DNA配列のためにMS/MS技術を使用することは、Oberacher, H.らの論文「Comparative sequencing of nucleic acids by liquid chromatography-tandem mass spectrometry」 Analytical Chemistry 74 (1) (2002) 211-218 に記載されている。
【0060】
本発明の同じくより好ましい方法は、該増幅生物学的DNAの該分子量または好ましくは該増幅生物学的DNAの該配列が、該試料中に存在する微生物を同定するのに用いられる方法である。
【0061】
該増幅生物学的DNAの配列が質量分析計による分析工程で得られる場合、データベース情報を用いて、該生物学的DNAの源として1つ以上の微生物を指定することができる。
【0062】
本発明のさらに別のより好ましい方法は、少なくとも1つの該プライマー、該プライマー対あるいは該ジェネリックプライマー対が、200以下の塩基対、好ましくは130以下の塩基対の長さを有する該生物学的DNAの断片を増幅する方法である。
【0063】
質量分析は塩基対の量がある一定量までの核酸を分析するのに有力な手段である。特にMSで配列決定をする場合、短めの配列の長さのみが扱われ得る。例えばMALDI/Sanger法を用いると、最大30bpの配列決定が可能である。このことは、NA長が10bpで既に問題が顕著になっている米国特許第6,017,693号の方法にもいえる。WO 03/025219 A2による配列検証は、40から60bpより長いオリゴヌクレオチドについて問題を示している。さらに、可能性のある全ての配列の理論的データと、新たに配列決定した実験的データの比較は、核酸長が増すにつれ時間がかかるようになる。
【0064】
より長い生物学的DNAを分析する必要がある場合は、質量分析の前に制御下の様式で核酸断片を生成する機会を提供する、いくつかの様々な方法が当該分野で公知である。
【0065】
制御下での核酸の断片化は、例えば消化または制限酵素などの塩基特異的試薬を用いて実現してもよい。リボ核酸の場合、標的分子を切断することができるいくつかのRNアーゼ、例えばG-特異的RNアーゼ T1またはA-特異的RNアーゼ U1 が公知である。Dicer酵素(RNアーゼIIIファミリー)はRNAを約20塩基の明確な断片に切断する。DNAの場合は、特定の塩基配列を認識し、その領域の中または近くで切断する、例えばウラシル-DNA-グリコシラーゼ(UDG)または制限エンドヌクレアーゼを用いることができる。ニック-エンドヌクレアーゼはdsDNAの二重螺旋の1本鎖のみを切断するのに用いることができる。
【0066】
他に、Gelfandらは、リボヌクレオチド(NTPまたはリボ-NTPまたはリボ-塩基)に対する識別を弱めた熱安定性ポリメラーゼを紹介した(US 5,939,292)。該熱安定性ポリメラーゼによる増幅工程の後、増幅産物は、リボ−塩基位置において、制御下での断片化のための単純なアルカリ加水分解工程を用いる機会を提供する、組み込まれたデオキシリボヌクレオチド(dNTP)とNTPの混合物を含む。得られた断片化産物は、核酸配列の情報を得るために、後で電気泳動法を用いて分析してもよい。
【0067】
配列変化の分析のための、断片化に基づく質量分析法は、WO 2004/050839に開示されている。出願人が同じWO 2004/097369は、断片化による生体分子の分析および配列決定の質量分析法を開示している。Genetrace Systems Inc.のUS 6,468,748 B1は質量分析および断片化工程を含む、生体分子の分析方法を記載している。US 6,777,188 B1は質量の比較および修飾されたヌクレオチドでの切断工程を含む、二倍体生物の遺伝子型決定方法を開示している。Methexis Inc.は質量分析、切断反応および参照の核酸との比較に基づく配列分析を記載している(WO 00/66771)。
【0068】
本発明のいずれかの主題のさらに別の好ましい方法は、2以上の該普遍的リアルタイムPCRが並行して行われ、該2以上の普遍的リアルタイムPCRのそれぞれは異なるプライマーを含む方法である。
【0069】
以前に概略を述べた理由によって、1つのPCR増幅に用いられ得るプライマーの量は限られているので、1つのPCRで例えばグラム(+)、ならびにグラム(-)の細菌を増幅することができるプライマーのセットをデザインするのは困難である。従って、多量の様々な混入を含む可能性のある試料の分析のために、時には2以上の本発明の普遍的リアルタイムPCRを行う必要がある。かかる2以上の普遍的リアルタイムPCRを並行して行うことは、分析処理量に関して当然好ましい。
【0070】
本発明の好ましい方法では、該様々なプライマーのそれぞれが、1対から5対のプライマー対の混合物またはジェネリックプライマー対である。
【0071】
前述の通り、該2以上の普遍的リアルタイムPCRのそれぞれを行うにはいくつかの方法がある。少なくとも1つのプライマー、好ましくは、該試料に存在する可能性のある標的群中の全ての標的分子を増幅する少なくとも1つのプライマー対を準備する必要があり、ここでプライマーの選択および数は要求される増幅反応の普遍性および均一性による。別の好ましい選択肢は、検出混合物の感度をゆるめずに普遍性を得るためにジェネリックプライマーを使用することである。
【0072】
本発明の別の方法では、少なくとも10、好ましくは30以上の、最も好ましくは96または384の普遍的リアルタイムPCRが並行して行われる。
【0073】
本発明を通して、該2以上の普遍的リアルタイムPCRを並行して行うために、マイクロタイタープレートを用いることが好ましい。普遍的リアルタイムPCRが増幅を示すウェルについてのみ、それに続く分析工程が行われる。
【0074】
融解曲線分析は該マイクロタイタープレートの中で直接行ってもよい。それに続くMS分析の場合、増幅産物を引き続いてMS分析器に移動しなければならない。
【0075】
本発明の別の側面は、普遍的リアルタイムPCR、任意の質量分析および任意の単離工程に必要な試薬を含む、本発明の方法を行うキットに関する。
【0076】
本発明の生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法を行うために、いくつかの試薬を含むキットが必要である。
【0077】
生物学的源からの核酸単離のためのキットは、通常、PCR反応に影響があるかもしれない混入が全くない純粋な核酸を得るために必要な全ての試薬を含む。従って、かかるキットは例えば溶解バッファー、核酸結合マトリックス、結合バッファー、洗浄バッファーおよび核酸溶出バッファーを含む。
【0078】
核酸単離の後、核酸増幅反応、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が行われる。しかしながら、当業者に公知の、他の核酸増幅反応も、本発明中で適用できる。この目的のためにキットは、プライマーアニーリング段階、プライマー伸長段階および変性段階を含む、調節されたサーモサイクリングプロトコルの最中に、増幅産物を生ずるために、バッファー系に順方向および逆方向のプライマー、熱安定性DNAポリメラーゼ、核酸三リン酸を含んでいる。RNA分子から開始する場合は、キットはさらに逆転写酵素を含む。
【0079】
PCR産物の検出は、当業者に公知のどのDNA検出法でも行い得る。良否決定に十分な最も簡単な方法は、全ての二本鎖DNAを検出する挿入色素の使用である。
【0080】
本発明のキットの好ましい態様では、該普遍的リアルタイムPCRのための該試薬が蛍光色素、好ましくはSybrGreenを含む。
【0081】
従って、例えば蛍光色素を含む検出バッファーが、追加のキット構成要素であってもよい。PCR産物のかかる蛍光検出は、例えばゲル電気泳動分離の後に行ってもよい。前述の通り、どの二本鎖DNAにも挿入される非特異性蛍光色素を用いることが好ましい。かかる蛍光色素は挿入されることによってその蛍光性質を変化し、それによって二本鎖DNAの量を示すことができる。本発明では、周知のSybrGreen蛍光色素を用いることが好ましい。
【0082】
本発明のキットの別の好ましい態様では、分析工程のための該試薬が、質量分析を行う試薬を含む。
【0083】
本発明の質量分析を行うために必要な試薬は、用いる方法による。例えばMALDI-MSを用いるときには、キットは追加の試薬としてマトリックス物質を含む。
【0084】
本発明のキットのより好ましい態様では、分析工程のための該試薬が、液体クロマトグラフィー、好ましくはHPLCを行う試薬を含む。
【0085】
通常、HPLCの溶離液は、PCR反応混合物の他成分(例えば、塩、酵素、洗浄剤)からPCR単位複製配列を分離するのに適当である必要がある。可能な溶離液は、有機溶媒(例えばアセトニトリル)と水の組み合わせに、適当な量のイオンペアー試薬(例えばブチルジメチル重炭酸アンモニウム)を加えたものである。さらに、適当な標準物質および測定器、ならびに適当なHPLC分離カラムがキット構成要素であってもよい。
【0086】
本発明のキットのさらに別の好ましい態様では、任意の単離工程のための該試薬が、微生物の溶解および生物学的DNAの精製を行う試薬を含む。
【0087】
例えば細菌検出の場合、感度を高くするために細菌DNAを含まない特級試薬を使用する必要があるかもしれない。細菌などの微生物の溶解には、試料物質によって、当業者に公知の多様な戦略があり、ここでは適当な文献を参照するに留める。
【0088】
本発明のさらに別の側面は、複数の微生物の存在に関して試料を分析するシステムに関し、以下を含む
−普遍的リアルタイムPCRのための、熱安定性DNAポリメラーゼ、プライマー、核酸三リン酸、および検出化合物を含む試薬、任意の分析工程のための試薬、および任意の単離工程のための溶解バッファー、結合バッファー、および洗浄バッファー、ならびに
−核酸分析器。
【0089】
本発明の生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法を行うために、いくつかの様々な試薬を有するキットおよび核酸分析器を含むシステムが必要である。リアルタイムPCRの目的のため、試薬は少なくともバッファー系に順方向および逆方向プライマー、熱安定性DNAポリメラーゼ、核酸三リン酸ならびに増幅産物のオンライン検出のための検出化合物を含む。本発明の普遍的リアルタイムPCRのために、SybrGreenなどの蛍光色素は好ましい検出化合物である。RNA分子から開始する場合は、試薬はさらに逆転写酵素を含む。
【0090】
本発明のシステムの試薬は、任意の単離工程で混入なく核酸を得るために必要な試薬を含む。かかる試薬は、例えば溶解バッファー、核酸結合マトリックス、結合バッファー、洗浄バッファーおよび核酸溶出バッファーを含む。
【0091】
任意の分析工程のための試薬に関して、必要な試薬は用いられる核酸分析器によるところが大きい。
【0092】
本発明に必要な生物学的DNAの濃度、分子量、塩基組成または配列を決定するのに適当で、当業者に公知の核酸分析器はいくつかある。かかる核酸分析器は、ゲル電気泳動装置、融解曲線分析器、キャピラリーシーケンサーおよびピロシーケンス装置を含む。
【0093】
本発明のより好ましいシステムでは、該核酸分析器が質量分析計で、好ましくはエレクトロスプレイイオン化MS、脱離エレクトロスプレイイオン化MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS、高速原子衝撃MS、イオントラップMS、三連四重極MS、飛行時間型(TOF) MS、四重極TOF MS、フーリエ変換MS、またはその組み合わせである。
【0094】
適用によって、最適な実験装備をデザインするために、上述の様々なMS技術の組み合わせを用いる必要があるかもしれない。質量分析配列決定を行うために、タンデム質量分析器を用いると有利である。本発明を通して、ESI-MSとイオントラップまたは飛行時間型質量分析計の組み合わせを用いることが特に好ましい。
【0095】
同じく適用によって、試料の他成分から核酸を分離するために、MS分析の前に追加の分離装置を用いる必要があるかもしれない。本発明を通して、この目的のために、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの、液体クロマトグラフィー(LC)を用いることが好ましい。
【0096】
用いられる質量分析器によって、本発明のシステムの試薬は、PCR反応混合物の他成分(例えば、塩、酵素、洗浄剤)からPCR単位複製配列を分離するのに適当なHPLC溶離液を含んでもよい。可能な溶離液は、有機溶媒(例えばアセトニトリル)と水の組み合わせに、適当な量のイオンペアー試薬(例えばブチルジメチル重炭酸アンモニウム)を加えたものである。
【0097】
本発明のシステムが核酸分析器としてMALDI-MSを含む場合、システムの試薬がさらにマトリックス物質を含む。
【0098】
本発明の好ましいシステムは、2以上の該普遍的リアルタイムPCRを並行して行うための使い捨てのものをさらに含む。
【0099】
試料が多量の様々な混入物を含んでいる可能性があると分析される場合、存在する全ての混入物を増幅するために、本発明の普遍的リアルタイムPCRを時には2以上行う必要がある。分析処理量に関して、2以上の普遍的リアルタイムPCRを並行して行うために使い捨てのものを用いることが当然好ましい。
【0100】
本発明の好ましいシステムでは、2以上の該普遍的リアルタイムPCRを並行して行うための該使い捨てのものが、96または384の普遍的リアルタイムPCRを並行して行うためのマイクロタイタープレートである。
【0101】
2以上の普遍的リアルタイムPCRを並行して行う目的のために、本発明を通して、96または384ウェルを有するマイクロタイタープレートを用いることが好ましい。普遍的リアルタイムPCRが増幅を示すウェルについてのみ、それに続く分析工程が行われることに留意されたい。融解曲線分析を行う場合、該マイクロタイタープレートで好ましくは直接行える。それに続くMS分析の場合、増幅産物を引き続いてMS分析器に移動しなければならない。
【0102】
本発明のより好ましいシステムは、マイクロタイタープレートから該核酸分析器に試料を移動する装置をさらに含む。
【0103】
効果的な方法で、マイクロタイタープレートから分析器に試料を移動するかかる装置、例えば自動ピペット装置を用いることは、当業者に公知であり、ここではより詳細には記載しない。
【0104】
以下の実施例、参考文献、配列表、および図面は本発明の理解を助けるために提供されるものであり、その真の範囲は添付の特許請求の範囲の中に述べられている。変更は発明の意図から逸脱することなく、示された手順で行うことができると理解される。
【0105】
実施例1
試薬混合物への黄色ブドウ球菌(Staphylcoccus aureus)混入物の同定および定量(図3〜7):
実験の目的は、ハイブリダイゼーションプローブ(以下「プローブ−レッド610」といい、pH = 8.0の10 mM Tris中c = 50 μMで、蛍光色素Red 610で標識された13-mer)を含む試薬混合物へのグラム陽性(以下、グラム(+))細菌の混入を検出する能力が、本発明にあるかを検査することであった。
【0106】
起こりうる程度の混入をシミュレートするために、黄色ブドウ球菌(S. aureus)のゲノムDNA(社内で細菌から単離された)の1および0.5 geqを試薬混合物にスパイクした。
【0107】
標準物質として、黄色ブドウ球菌(S. aureus)ゲノムDNAの濃度が溶出バッファー(pH 8.3の10 mM TRIS)中で、c = 102 geq / 50 μl、c = 10 geq / 50 μl、c = 1 geq / 50 μlおよびc = 0.5 geq / 50 μlの一連の希釈液を調製した。対照として、どの標的DNAも含まない(NTC=鋳型なし対照)PCR実験、および純粋な試薬混合物のPCR実験を行った。
【0108】
従って、4種類の増幅実験を行った:
1)2つの異なる濃度で試薬混合物にスパイクされた黄色ブドウ球菌(S. aureus)ゲノムDNA
2)異なる濃度の黄色ブドウ球菌(S. aureus)ゲノムDNA
3)NTC
4)試薬混合物
【0109】
この実施例のPCR実験のために、全てのグラム(+)細菌を等しい感度で増幅するという要件を満たしながら、グラム(+)細菌の16S領域からの配列を増幅するために、ジェネリックプライマー混合物を調製した(様々なG(+)種のプライマーに従った要約として、図2を参照されたい)。
順方向プライマー配列(配列番号:1): 5’- GAA CCT TAC CAG ATC TTG ACA TCC -3’
逆方向プライマー配列(配列番号:2): 5’- CCA TGC ACC ACC TGT CAC -3’)
【0110】
しかしながら、プライマーとゲノム配列の不適合のために、増幅の最中に異なるヌクレオチドが図2の太字で示される位置に組み込まれた。図2の表中、右列は順方向および逆方向の単位複製配列の、計算上の理論量を要約する。さらに、一般に見られる5'-鋳型なしアデノシン付加産物の分子量を図2の表中、右列に示す。
【0111】
図2でaによって識別されているいくつかの種には、太字で示された位置では同一配列を持たない、16S rRNA遺伝子のコピーが多数存在する。しかしながら16S rRNAコピー2および3は同一の塩基組成を有しており、それゆえにそれらは同じ分子量を有することに留意されたい。
【0112】
該PCR実験のために、FastStart酵素(ボトル1a)、反応混合物(ボトル1b)、MgCl2溶液(ボトル2: 25 mM、M-級)およびPCR-M-級水(ボトル3)を含む、DNAを含まないあつらえのマスター混合溶液(LightCycler UniTool 100 v.3 Kit, Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, カタログ番号 03 585 727)中で、プライマーを用いた。増幅実験はLightCycler(登録商標)(LC) 2.0 装置(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim)で実行した。
【0113】
【表1】

【0114】
50 μlのマスター混合物を100 μlのLC-キャピラリーにピペットで移し、50 μlの標準物質(黄色ブドウ球菌(S. aureus)ゲノムDNA)を加えた。
【0115】
増幅実験は、変性、増幅および融解曲線分析に分けることができ、以下のように行った:
−最初の変性は95℃で10分間行い、加熱は20℃/秒の速度で行った。
−増幅は45PCRサイクルの間に行われた。各サイクルが以下の温度プロフィールを有した:95℃で20秒(変化速度:20℃/秒)、60℃で25秒(変化速度:20℃/秒)および72℃で40秒(変化速度:20℃/秒)。蛍光測定は増幅サイクル11〜45の各最後で1回ずつ行った。
−融解曲線分析の前に、試料を60秒間40℃に冷却した(変化速度:20℃/秒)。その後、試料を95℃に加熱する間(変化速度:0.1℃/秒)、融解曲線を連続蛍光測定で記録した。
【0116】
検出はSybrGreen (Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, ID番号: 11988131001 PCR-級水中で1:100希釈)を用いて行い、反応は製造者の指示に従い、LightCycler(登録商標)装置のSybrGreen方式を用いて実時間でモニターした。
【0117】
PCR増幅に続いて、PCR産物を含むキャピラリー反応容器の内容を開封し、MS分析に供した。
【0118】
500 nLの混合物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分離し、タンデム質量分析で分析した。市販のコンピューター制御の統合HPLCシステムが用いられた(Surveyorモデル, Thermo Electron Corp., San Jose, CA)。システムは、傾斜マイクロポンプ、自動サンプラー、および500 nLの内部試料ループを有するマイクロインジェクター弁からなっていた。50 mmで内径0.2 mmの継ぎ目のないキャピラリーカラムはLC-Packings (Sunnyvale, CA)からであった。カラムを通る2.0 μL/分の流速は、250 μL/分の最初の流れからTピースおよび溶融シリカ制限キャピラリーによって分かれた。溶離液A:水中で25 mM BDMAB (pH 9)、および溶離液B:水/アセトニトリル (40:60) pH 9中で25 mM BDMABの二成分溶出システムを用いた。PCR反応混合物の分離のための勾配は100% A (0-5分)、100→20% A (5-15分)、そして20% A (15-20分)であった。鎖変性のためにHPLCカラムを65℃に加熱し、直接エレクトロスプレイキャピラリー(溶融シリカ、外径90 μm、内径20 μm、Polymicro Technologies, Phoenix, AZ)に連結した。エレクトロスプレイイオン源を備えたイオントラップ質量分析器(LCQ Deca XP, Thermo Electron Corp., San Jose, CA)で、ESI-MSを行った。-3.0 kVのエレクトロスプレイ電位を使用し、加熱されたキャピラリー温度は200℃に調節した。総イオンクロマトグラムおよび質量スペクトルはデータ分析ソフトウェアXcalibur ver. 1.4 (Thermo Electron)を有するパソコンに記録した。Ultramark、カフェイン、およびMRFA (Thermo Electron Corp., San Jose, CA)の混合物を用いて、質量キャリブレーションおよび粗いチューニングを行った。ESI-MSの負イオンモードでのオリゴデオキシヌクレオチドの細かいチューニングは、24-merオリゴデソキシチミジン(dT24)を用いて行った。この実験装備を用いて、増幅産物の分子量(MW)を決定した。対応する黄色ブドウ球菌(S. aureus)の単位複製配列の計算された分子量と比較することによって、混入のあった試料を明確に同定することが可能となった。NTCは予想された範囲ではシグナルを示さず、スパイクした試料は約0.5 geq/PCRまで黄色ブドウ球菌(S. aureus)に陽性だった(図7を参照されたい)。
【0119】
図3および4の増幅実験における定量曲線のCp-値は、この実験の直線性および感度を示している。鋳型なし対照(NTC)の陽性シグナルはプライマー/ダイマー形成の結果であり、融解曲線分析(図4および6参照)またはLC-MS/MSによって、G(+)細菌の混入とは区別され得る。
【0120】
実施例2
試薬混合物への未知のG(+)細菌のDNAの混入物の同定および定量(図8〜12):
この実験のために、実施例1に記載したのと同じ条件を用い、未知の試薬混合物はフルオレセイン標識されたハイブリダイゼーションプローブ(pH = 8.0の10 mM Tris中c = 50 μM)であった。実施例1に従い、400 pmolのプローブをPCR増幅に用いた。追加の対照実験として、可能性のある細菌混入物の定量ために、10 geqの黄色ブドウ球菌(S. aureus)ゲノムDNAを第二のPCR増幅の試薬混合物にスパイクした。
【0121】
実施例1に記載したように、PCR増幅に続いて(図8および9を参照されたい)、PCR産物を含むキャピラリー反応容器の内容を開封し、MS分析に供した。
【0122】
PCR増幅曲線(図8および9参照)に見られるように、試薬混合物はG(+)細菌のDNA混入を10 geq程度含んでいた。それに続くMS分析は正しいサイズ(85 bp)の単位複製配列の存在を明らかに証明したが、決定された分子量は既知の黄色ブドウ球菌(S. aureus)種に一致しなかった(図2と比較して図10〜12を参照されたい)。
【0123】
要約すると、この実験では、反応混合物中の混入物は明らかに検出され、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の未知の種に対応して、定量され得た。従って、ハイブリダイゼーションプローブを用いた古典的なやり方を使用すると、この未知の混入は検出されないまま、または誤って解釈されたままであったかもしれない。
【0124】
上記の結論を検証するための対照実験として、試薬混合物の混入を古典的なPCR産物のSanger配列決定法でさらに同定した。前述したMS分析で測定された分子量と、古典的なSanger配列決定法により得られた配列情報から計算された分子量のずれは0.03 %未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】分析工程に質量分析を用いた本発明の一態様のフローチャート。
【図2】細菌のゲノム配列およびその計算された分子量(Mr)、ただしプライマー配列には下線が引いてある。
【図3】pH 8.0の10 mM Tris緩衝液中で、4つの異なる濃度の細菌のDNAのPCR増幅曲線(曲線A: 100 geq; 曲線B: 10 geq; 曲線C: 1 geq; 曲線D: 0.5 geq)および細菌のDNAなしの対照増幅(曲線E)。
【図4】図3のPCR産物の融解曲線分析。
【図5】蛍光プローブを含む試料中の、2つの異なる濃度の細菌のDNAのPCR増幅曲線(曲線A: 1 geq; 曲線B: 0.5 geq)および細菌のDNAなしの対照増幅(曲線C)。
【図6】図5のPCR産物の融解曲線分析。
【図7】対応する単位複製配列の質量スペクトル(挿入図)と共に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)混入物の単位複製配列を含む、PCR反応混合物の抽出イオンクロマトグラム(TIC)。
【図8】蛍光プローブと未知の混入物を含む試料のPCR増幅曲線(実線A)。対照増幅として、既知量の細菌のDNAが該蛍光プローブに加えられた(破線B)。
【図9】図8のPCR産物の融解曲線分析。
【図10】未知の細菌の試薬混入の単位複製配列を含む、PCR反応混合物の抽出イオンクロマトグラム(TIC)。
【図11】未知の細菌の単位複製配列の質量スペクトル。
【図12】未知の細菌の単位複製配列のMWを示すデコンボリュートされた質量スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)存在する可能性のある生物学的DNAが増幅される普遍的リアルタイムPCRを行う工程、および
b)工程a)で生物学的DNAが増幅された場合に、前記増幅された生物学的DNAを分析する追加の分析工程を行う工程であって、ここで前記分析工程が質量分析計(MS)を用いて行われる、工程
を含む、生物学的DNAの存在に関して試料を分析する方法。
【請求項2】
前記試料が生物学的試料、好ましくは血液、尿、組織または食物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記試料が試薬、好ましくは診断キットの試薬またはバッファー溶液である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記試料が化粧品、治療剤、または環境の試料である請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程a)の前に追加の単離工程が行われ、ここで前記単離工程は前記試料から生物学的DNAを単離する、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
工程a)の前記普遍的リアルタイムPCRが、前記試料に存在する可能性のある生物学的DNAを増幅する少なくとも1つのプライマーを用いて行われる、請求項1〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
前記普遍的リアルタイムPCRが二本鎖DNA結合部分を含んでいる、請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析計(MS)がエレクトロスプレイイオン化MS、脱離エレクトロスプレイイオン化MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS、高速原子衝撃MS、イオントラップMS、三連四重極MS、飛行時間型(TOF) MS、四重極TOF MS、フーリエ変換MS、またはその組み合わせである、請求項1〜7いずれか記載の方法。
【請求項9】
2以上の前記普遍的リアルタイムPCRが並行して行われ、前記2以上の普遍的リアルタイムPCRのそれぞれは異なるプライマーを含む、請求項1〜8いずれか記載の方法。
【請求項10】
普遍的リアルタイムPCR、任意の質量分析および任意の単離工程に必要な試薬を含む、請求項1〜9いずれか記載の方法を行うキット。
【請求項11】
前記普遍的リアルタイムPCRのための前記試薬は蛍光色素、好ましくはSybrGreenを含む、請求項10記載のキット。
【請求項12】
−普遍的リアルタイムPCRのための、熱安定性DNAポリメラーゼ、プライマー、核酸三リン酸、および検出化合物を含む試薬、任意の分析工程のための試薬、および任意の単離工程のための溶解バッファー、結合バッファー、および洗浄バッファー、ならびに
−核酸分析器
を含む、複数の微生物の存在に関して試料を分析するシステム。
【請求項13】
前記核酸分析器が質量分析計で、好ましくはエレクトロスプレイイオン化MS、脱離エレクトロスプレイイオン化MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS、高速原子衝撃MS、イオントラップMS、三連四重極MS、飛行時間型(TOF) MS、四重極TOF MS、フーリエ変換MS、またはその組み合わせである、請求項12記載のシステム。
【請求項14】
2以上の前記普遍的リアルタイムPCRを並行して行うための使い捨てのものをさらに含む、請求項12又は13記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−75110(P2007−75110A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−244943(P2006−244943)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】