説明

生物材料およびその使用

【課題】ガンでない疾患を治療および/または予防する方法の提供
【解決手段】本発明は、自己免疫疾患またはアレルギー疾患といったガンでない病因の病態の治療において、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)
または 関係する原核細胞に由来するおよそ60kDa ポリペプチド (またはそれをコ
ードする 核酸分子) または機能的に等価な分子またはそのフラグメントの医薬組成物のいずれかを、治療的または予防的に有効である一の用量、または複数の用量を投与することを含む、上記疾患を治療および/または予防する方法に関する。適当な免疫治療用の処置剤/ワクチン製剤用のアジュバントとして、図1のヌクレオチド配列の核酸分子、抗原ならびに製剤的に許容される賦型剤、希釈剤または担体を含有する組成物の使用の方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば自己免疫疾患、骨粗そう症(osteoporosis)、アレルギー疾患または免疫亢進病態、とりわけ喘息、および/またはTヘルパー リンパ球2(
Th2)−型免疫応答に代表される病態、および/または好酸球増加症(eosinophilia)に関係する病態といったガンでない病態の治療および予防において、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)または 関係する原核細胞に由来するおよそ60kDa ポリペプチド (またはそれをコードする 核酸分子) または機能的に等価な分子またはそのフラグメントの使用、ならびに免疫応答メディエーター、たとえばサイトカインのインビトロまたはインビボでの産生を刺激する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫は、「自己」寛容の喪失を反映し、正常細胞または組織の不適切な破壊に至る。多数の病態で自己抗体が見出されるが、疾患の原因というよりも効果を反映するかも知れない。しかしながら、ある疾患では自己抗体が、最初の主要かつ唯一の検出可能な異常であろう。このことに関係している分子の一つの集団は、高度に免疫原性であるシャペロニン(chaperonin)である。シャペロニンは、分子シャペロン(chaperones)と呼ばれるタン白質のグループに属する。分子シャペロンは、ネイティブでないタン白質に結合し、このタン白質がATP−依存性の触媒プロセスで、機能的タン白質に要求される正確な3次元形態に折りたたまれるように、補助する。
【0003】
シャペロニンは単球(monocytes)、マクロファージ、線維芽細胞様の細胞、おそらく他のタイプの細胞およびT細胞を含め、多くのレベルで免疫(器官)系を同時に刺激すると信じられている。哺乳類における免疫防御は、「自然」および「適応」の防御に分けられる。ファゴサイト(phagocytes)、ナチュラルキラー細胞および補体といった既に適所にある細胞は、自然免疫であると見なされる。抗原投与(challenge)の際には、適応免疫がBおよび Tリンパ球の形態で活性化される。 シャペロニンは、自然防御メカニズム、具体的にはファゴサイトに直接的に作用することが知られている。シャペロニンは、強力な適応免疫の応答を刺激する。すなわち抗体産生、ならびにある場合には防御的であるTリンパ球の刺激である。特にシャペロニンは、宿主防御に重要と考えられているサイトカイン分泌を誘導する。しかし、ある場合にはシャペロニンの存在が宿主に損害を与えるとも信じられている。
【0004】
自己免疫疾患におけるシャペロニンの役割は、議論が分れるところである。シャペロニンを含有する生物での感染/免疫は、普遍的であり、健康な人々は、 自己シャペロニン
に対してT細胞応答を示すが、シャペロニン特異的抗体の産生を含め、古典的な自己免疫疾患は、極めて稀である。シャペロニンに対する免疫反応の存在は、偶発的であり重要ではないかも知れない。しかしながら分子的模倣の理論は、自己免疫疾患におけるシャペロニンの関わりを示唆し、微生物および哺乳類起源のシャペロニン間で、アミノ酸配列の高いレベルの保存性に依拠する。この理論は、広範囲の微生物との感染の間に、微生物および哺乳類との間で共有されるシャペロニンエピトープは、T リンパ球を刺激することを
提案する。 この理論によれば、共有されたシャペロニンエピトープによる高レベルのシ
ャペロニン提示が、自己シャペロニンに対する寛容を破壊しおよび自己免疫疾患が発症する。
【0005】
腫瘍から得られるシャペロニンは、これらの腫瘍に対する壊死的効果となることが判った。これは、腫瘍の抗原が免疫認識を増強することにより起こることが示唆されているが、その機構は知られていない。よって、シャペロニンは、細菌感染およびガンに対し防御
的な適応免疫を誘導するようである。
【0006】
アレルギー反応、たとえば喘息では、均衡的に不適切である免疫応答か、または対象を誤った免疫応答が関係する。たとえば喘息の蔓延は増大しているが、あらゆるケースを治療する有効な治療法はまだ見出されていない。現在の治療は、往々に免疫抑制のグルココルチコステロイド(Glucocorticosteroids)、ベータ・アゴニスト、クロモグリケート(cromoglycate)、ロイコトリエン調節物質(leukotriene modifiers)など、多数の副作用を有するものを使用する。
【0007】
そのようなアレルギー反応においては、IgE レベルが高くなり、またT ヘルパー
リンパ球−2 (Th2) 免疫応答が Thl応答を圧倒し、結果的に炎症性の応答とな
る。Thl 応答は、主に微生物感染に対する防御であると考えられ、サイトカイン、具
体的にはインターロイキン−12 (IL−12)、IL−2 および インターフェロン
−γによって促進される。対照的に、Th2応答は、適当な遺伝的基盤においてアレルギー性の有害な組織損傷に関係している。
【0008】
しかし、自己免疫疾患、たとえば アジュバント(adjuvant) 関節炎といった他の病態では、過剰 Thl応答が、疾患の原因であることが示唆されている。したがっ
てThl応答のTh2への転換またはTh2応答のThlへの転換は、上記疾患を治療する上で有用性がある。
【0009】
L.Monocytogenes 、M. bovis および結核菌といった細菌は、
Th2応答を Thl応答に転換することができることが知られているが、この転換を担
う分子は同定されていない。
【0010】
しかしながら、当業界における示唆は、Thl応答を誘導できる M. Leprae
からのヒートショックタン白質、 hsp65を意味している (Lowrie ら、 1999、 Nature、400、p269−271; Bonatoら、1998、Infect. Immun. 66、P169−175)。
【0011】
結核菌に由来する相同体(homologues)、 hsp65は、前炎症性サイト
カインを産生するようにヒト単球を刺激し、ならびに単球およびヒトの血管系の血管内皮細胞を活性化する能力を有する(Friedland ら、1993、Clin. Ex
p.Immunol.91、 p5862; Peetermansら、1995、 Infect.Immun.63、p3454−3458; Verdegaalら、19
96、J.Immunol.157、p369−376)。
【0012】
驚くことに、ヒートショックタン白質またはシャペロニンであるとはまだ知られていない別のタン白質が、一個体の免疫に影響を及ぼすことができ、しかもそれが自己免疫疾患、免疫亢進病態またはアレルギー疾患、とりわけ喘息、および/またはTh2−型免疫応答に代表される病態、および/または好酸球増加症に関係する病態といったガンではない病態を治療しまたは予防するために用い得ることが今や知られている。
【0013】
機能が知られていないこのタン白質が結核菌において同定され、配列決定がなされた(Kong ら、 1993、 Proc. Natl. Acad. Sci.、 90、 p2608−2612)。 これに匹敵するタン白質が、M. bovis および Legionellaを含む、様々な他の細菌に存在することが知られている。それは、シャペロニン 60.1(cpn 60.1)と名づけられたが、この命名の採用は、単に他のシャペロニンに対するそのアミノ酸配列同一性に基づくだけである。
【0014】
シャペロニン60.2(同一起源から) は、後記するアライメント配列方法を用いる
とcpn 60.1に対して、59.60% のアミノ酸配列同一性および 65.6% の核酸配列同一性を示す。cpn 60.1と共通してCpn 60.2 は、確認されたシ
ャペロニン性質を持たない。シャペロニンは、互いに向き合い、約10kDaモノマー(cpn 10により生成)からなる環ヘプタマーでキャップされた2 環ヘプタマー(約60kDaのモノマーからなる)を形成することにより機能すると信じられている。
【0015】
支援を受ける折りたたみは、標的タン白質が、一旦、中心コア内に入り込んで行なわれ、その後、放出される。したがって、ヘプタマー形成は、目下理解されているシャペロニンの機能には必須であるようである。しかしながら、他の種からのcpn60と異なり、結核菌cpn 60.1のヘプタマーを産生することが可能であるとはわかっていない。
さらにGroE シャペロニン 折りたたみ装置とは異なりcpn 60.1 遺伝子もcpn 60.2 遺伝子も、いずれもシャペロニンcpn 10 遺伝子とは同一オペロン内にはなく、このため、シャペロニン複合体の形成に必要な構成要素の転写は、同じ制御機構のもとにはない。
【0016】
cpn 60.1 タン白質は、グリシンおよびメチオニンに富む配列を通常に有する他の種からのcpn 60とは異なり、C−末端で特異なヒスチジンの多い配列を有するこ
とが観察されてきた。60.2 タン白質は、公知のヒートショックタン白質であり、他
の種のヒートショックタン白質に対し、極めて高い相同性を有する。具体的には、M.lepraeからの同じタン白質に対し、95% の同一性を示す。上記の通り、cpn 60.2は、結核菌のゲノム上で cpn 60.1とは離れて位置していて、異なる転写制御を受けている。結果的に、cpn 60.1がヒートショック タン白質またはシャペロニンのいずれかであることを示す証拠はない。これらの事実は、結核菌においてcpn60タン白質類が異なる機能的役割を有することを強く示唆するものである。
【発明の開示】
【0017】
よって、本発明は、自己免疫疾患、免疫亢進病態を含む病態、アレルギー反応および/またはTh2−型免疫応答に代表される病態および/または好酸球増加症に関係する病態といった、ガンではない様々な病態を治療しまたは予防において、増強された性質を持つcpn 60.1といった分子を提供する。治療および/または予防的応用は、以下に詳
細に説明を加える核酸分子またはペプチド/タン白質を用いることにより達成することができる。
【0018】
かくして 本発明は、最初の面として核酸分子を含む医薬組成物を提供し、 このものは、
(i) 図1のヌクレオチド配列、または
(ii) (i)の配列に対して66%を超える、たとえば 70%もしくは75%、好ましくは 80% を超える、具体的には90%を超える または 95%の 同一性(後記の
テストによる)を有する配列、あるいは 2 x SSC、65°C (ここで SSC =
0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.2)の条件下で、(i)の配列とハイブリダイズし、図1のヌクレオチド配列によりコードされる配列と機能的に等価なタン白質をコードする配列、または
(iii)機能的に等価なタン白質フラグメントをコードする(i)または(ii)配列のフラグメント
を含む核酸分子、さらに製剤的に許容される賦型剤、希釈剤または担体を含有する。
【0019】
上述のように、治療および/または予防的効果は、核酸分子またはペプチド/タン白質を用いることにより達成することができる。よって、本発明は、次の局面としてポリペプチドを含む医薬組成物を提供し、このものは、
(i) 図1のアミノ酸配列 、または
(ii) (i)の配列に対して60%を超える、たとえば65%もしくは70% 、好ましくは 80% を超える、具体的には90%を超える、または95%の同一性(後記のテストによる)を有して、機能的に等価なタン白質を与える配列、または
(iii) (i)または(ii)の配列の機能的に等価なフラグメント
を含むポリペプチド、ならびに製剤的に許容される賦型剤、希釈剤または担体を含有する。
【0020】
本発明による「核酸分子」は、1本鎖または2本鎖のDNA、cDNAまたはRNAであってもよく、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)である。
機能的に等価なポリペプチドをコードすることができるヌクレオチド配列の誘導体は、技術上、周知である通常の方法を用いて得ることができる。
【0021】
本発明に使用される核酸分子は、図1に由来する配列だけからなるもの(または関連する機能的に等価な配列)であってもよく、あるいは構造上もしくは機能上の配列、具体的には転写および/または発現(特に哺乳類細胞において)を制御する配列、あるいは、たとえば分泌シグナルとして作用する特異的性質を有する融合タン白質を形成する付加的なタン白質部分のための配列を含む、追加の配列などを包含することができる。かくして、たとえば、上記配列は本明細書で記載した核酸分子を含むベクターの形態にあってもよい。好適なベクターとして、プラスミドおよび ウィルスがある。
【0022】
本明細書でいう「ポリペプチド」には、完全長のタン白質のほか、より短い鎖長のペプチド 配列、たとえば本明細書で記載するタン白質フラグメントのいずれも含まれる。そ
うしたポリペプチドは、任意の便利な手段により調製することができる。たとえば原核生物起源からの単離により、あるいは発現制御配列を作動的に結合させた適当な核酸分子を宿主細胞で発現させるか、またはそのような組換えDNA分子を含む組換えDNAクローニングベヒクルもしくはベクターを発現させる組換え手段により、あるいは化学的または生化学的な合成 (細胞外)により調製することができる。
【0023】
ヌクレオチド配列に関連して本明細書でいう「配列同一性」は、クラスタルW(ClustalW)を用いて、以下のパラメーターとともに評価を行なったときに得られる値をいう(Thompsonら、1994、Nucl. Acids Res.22、p4673− 4680):
ペア方式アライメント・パラメータ−方法:accurate
マトリックス: IUB、 Gap open penalty: 15.00、 Gap e
xtension penalty: 6.66;
多重アライメント・パラメーター−マトリックス: IUB、 Gap open penalty: 15.00、 % identity for delay: 30、 Negat
ive マトリックス: no、 Gap extension penalty: 6.66、 DNA transitions weighting: 0.5.
アミノ酸配列に関連して、「配列同一性」は、クラスタルW(ClustalW)を用いて、以下のパラメーターとともに評価を行なったときに得られる値をいう (Thom
psonら、1994、上掲):
ペア方式アライメント・パラメーター−方法: accurate
マトリックス: PAM、 Gap open penalty: 10.00、 Gap e
xtension penalty: 0.10;
多重アライメント・パラメーター−マトリックス: PAM、Gap open pena
lty: 10.00、 % identity for delay: 30、 Penal
ize end gaps: on、 Gap separation distance: 0、 Negative マトリックス: no、 Gap extension penal
ty: 0.20、 Residue−specific gap penalties:
on、 Hydrophilic gap penalties: on、 親水性残基: GPSNDQEKR。
【0024】
特定残基における配列同一性は、簡単に誘導された同一残基を含むようにされている。
「機能的に等価な」タン白質またはタン白質フラグメントとは、図1のアミノ酸配列に関係するか、またはそれから誘導されるものであり、そのアミノ酸配列は、単一もしくは複数のアミノ酸 (具体的には 1〜50、たとえば10〜30、 好ましくは1〜5塩基
)の置換、付加および/または欠失により修飾されているが、それにもかかわらず該アミノ酸配列は機能的活性を保持している。たとえば、オボアルブミン誘導好酸球増加症(ovalbumin−induced eosinophilia)を抑制し、具体的には
10 %を超える、好ましくは25%を超える、とくに好ましくは 50%を超える程度まで 好酸球数を減少させ、および/または特定のサイトカイン、具体的にはインターロイ
キン−1β (IL−1β)、IL−2、IL− 6、IL−8、 IL−10、IL−1
2、IL−12レセプター、腫瘍壊死因子a(TNFα)、インターフェロン−γおよび
顆粒球−マクロファージ−コロニー刺激因子(GM− CSF)の産生を増加させ、たとえば正常レベルの10倍を超える、好ましくは100倍を超える増加であり、および/またはTH1応答の刺激である。
【0025】
サイトカイン刺激は、様々な方法により測定できる。たとえば、バッフィコート血液をPBS−2%ウシ胎児血清(FCS)で3倍に希釈する。その30 mlを15 ml の Lymphoprep (Histopaque 1077)上に重層し、室温で30 分
間、 700 g (1800rpm、Eppendorf遠心機)で遠心分離する。注意
深く単核細胞の層を吸引してその細胞を2回PBSで洗浄する。該細胞は、最終的に、2
x 106 細胞/mlに懸濁する。PBMCは、次に 2 x 106 細胞/ウェル濃度
で、2% FCS、グルタミンおよびPen/strepを含む RPMI 培地に播種す
る。1時間インキュベートして、単球をプレート表面に付着させる。該プレートは1回PBSで洗浄する。
【0026】
T 細胞を枯渇させたPBMCは、最初にRosetteSep試薬(Stemcel
l)とともに20分間、室温でインキュベートすることを除き、同様にして得ることができる。
【0027】
サイトカインのアッセイは、当業者の知識の範囲内にある。たとえば、IL6 および IL8 産生は、細胞の上清をそれぞれ 1/10 および 1/100に希釈してから測定できる。ペアの抗体および標準抗体は、国立生物標準規格研究所(the Nation
al Institute for Biological Standards and Control)から入手でき、推奨された通り使用する。
【0028】
サンプル調製は次の通りにしてできる: Cpn60.1 および Cpn60.2は、 Lionex (ドイツ)から入手できる。両タン白質は、煮沸またはオートクレーブに
かける前にPBS中に200 μg/ml 濃度に希釈する。煮沸サンプルは、100°C、 20 分間インキュベーションし、次いで氷上に直接置くことにより得られる。オートクレーブ処理サンプルは、120°Cで 20分間、2回オートクレーブにかけることで
得られる。SDS−PAGEは、4−20% グラジエントゲル (Invitrogen、オランダ)上で実施できる。プレ染色タン白質マーカーは、 Gibco/BRL社か
ら得られる Benchmark Prestained Protein Ladder
である。FACS 分析は、FacsCan装置(Becton Dickinson)
およびWinMDIプログラム、バージョン2.8を用いてデータを解析することにより実施できる。
【0029】
アミノおよび/またはカルボキシル末端融合タン白質またはポリペプチドは、「付加」変異体の意味の中に含まれ、ポリペプチド配列に融合した、付加的なタン白質またはポリペプチドを含む。
【0030】
とりわけ好ましいのは、生物変異体といった自然界に生じる等価体であり、たとえばアレルの、地理上のまたはアロタイプの変異体および公知の技術を用いて調製される誘導体である。たとえば、機能的に等価なタン白質またはフラグメントは、化学的ペプチド合成、部位特異的突然変異、ランダム突然変異または酵素的開裂および/または核酸の連結といった公知の技術を用いる組換え体の形態のうち、いずれかの方法で調製できる。
【0031】
本発明は、異なる原核生物からの等価体および関係する分子に向けられる。たとえば細菌の属、種または株から、とりわけMycobacterium属、具体的には 結核菌
、M. bovisおよび M. africanumを含む結核菌複合体からの等価体で
ある。そうした配列自体も修飾されていてもよく、特に機能を保持して提供される誘導体化である。
【0032】
タン白質の誘導体は、合成/単離後の修飾あるいはたとえば修飾残基を用いる合成中の修飾、あるいは適切であれば修飾核酸分子の発現により調製できる。
本発明の機能的に等価なフラグメントは、切り詰めによるもの(Truncation)であってもよく、たとえばNおよび/またはC末端からのペプチドの除去、あるいは適切な活性のあるドメイン領域、たとえば機能を保持しているエピトープ領域の選択による。そのようなフラグメントは、図1の配列から誘導されてもよく、あるいは図1に開示されたものと機能的に等価なタン白質から誘導されてもよい。
【0033】
機能的フラグメントが選択される場合、それらのフラグメントは、元の分子に帰される機能を必ずしも示す必要はないことは理解されるであろう。したがって、機能的に等価なタン白質またはフラグメントは、関係のある機能的特性を保持するものであり、そのためフラグメントは、本発明による有用性、具体的には上記のように、好酸球増加症の抑制、特定サイトカイン産生の増加および/またはThl免疫応答の刺激を保持する。
【0034】
好ましくは、上記フラグメントは、鎖長6〜400 残基、具体的には6〜100また
は15〜100 残基、 好ましくは 6〜30、10〜25、15〜50または15〜3
0残基である。とくに好ましいフラグメントは以下の残基に由来するか、または以下の残基からなる:
1-8 MSKLIEYD、 (8)
14-21 AMEVGMDK (8)
40-48 AKAFGGPTV、 (9)
64-71 PFEDLGAQ、 (8)
96-105 QALIKGGLRL、 (11)
110-129 VNPIALGVGIGKAADAVSEA、 (20)
132-143 ASATPVSGKTGI、 (12)
144-155 AQVATVSSRDEQ、 (12)
160-175 VGEAMSKVGHDGWSV (16)
179-200 STLGTELEFTEGIGFDKGFLSA、 (22)
195-219 KGFLSAYFVTDFDNQQAVLEDALIL、 (25)
206-219 FDNQQAVLEDALIL、 (14)
221-229 HQDKISSLP、 (9)
264-271 AIRKTLKA、 (8)
276-293 GPYFGDRRKAFLEDLAW、 (18)
299-314 VNPDAGMVLREVGLEV、 (16)
315-326 LGSARRVVVSKD (12)
327-342 DTVIVDGGGTAEAVAN、 (16)
343-353 RAKHLRAEIDK、 (11)
379-391 VGAATETALKERK (13)
392-400 ESVEDAVAA、 (9)
411-433 PGGGASLIHQARKALTELRASLT、 (23)
434-449 GPEVLGVDVFSEALAA、 (16)
450-463 PLFWIAANAGLDGS、 (14)
464-471 VVVNKVSE、 (8)
480-494 VNTLSYGDLAADGVI、 (15)
501-526 RSAVLNASSVARMVLTTETVVVDKPA、 (15)
526-539 KAEDHDHHHGHAH (14)。

図1に掲げられた配列に対し、機能的に等価な核酸の配列/フラグメントは、本発明の組成物にも使用される。これらの配列は、コードする(上記に定義したように)機能的に等価なタン白質/ペプチドに関して明確にされる。
【0035】
本明細書で使用する「ハイブリダイゼーション」は、非ストリンジェント条件 (6 x
SSC/50% ホルムアミド、室温) で結合し、ならびに高ストリンジェンシーな条
件、すなわち 2 x SSC、 65°C (SSC = 0.15M NaCl、0. 01
5Mクエン酸ナトリウム、 pH7.2)で洗浄される配列である。
【0036】
本明細書で述べる「製剤的に許容される」は、生理学的に許容される賦形剤のみならず、組成物の他の成分と共存できる成分について言う。
本発明に基づく医薬製剤は、容易に入手できる成分を用いて、従来の方式で処方することができる。したがって活性のある成分(すなわち、核酸分子またはタン白質/ペプチド)を、必要に応じて他の活性物質ならびに1つ以上の通常使用される担体、希釈剤および/または賦形剤と一緒に含有して、錠剤、ピル、 散剤、トローチ剤、小袋剤、カシェ剤
、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、 シロップ剤、エアゾル剤 (固体としてまたは液体媒体中に)、軟膏剤、軟および硬ゼラチンカプセル、座薬、無菌注射溶液、無菌包装散剤などといった通常のガレヌス(galenic)製剤を形成することができる。
【0037】
上記のような組成物には前記の核酸分子、ポリペプチドの作用を支援するか、または増強する分子を追加して含んでいてもよい。たとえばサリドマイド(thalidomide)(およびその類縁体)、低用量のシクロホスファミド(cyclophosphamide)、 LPS、 サイトカイン、 ケモカイン(chemokines) CpG オ
リゴデオキシヌクレオチドおよび他の免疫調節薬および/または抗炎症性剤、たとえばサイトカイン・アンタゴニストまたはグルココルチコステロイドである。
【0038】
したがってたとえば上記組成物は、特別の免疫治療のために活性のある成分と一緒に使用してもよい。本明細書で記載した核酸分子/ポリペプチドを含む、適当な免疫治療用の処置剤/ワクチン製剤には、サブユニット・ワクチンあるいは細胞特異的抗原、関係した抗原もしくは抗体または抗イディオタイプ・抗体に基づく処置剤または治療またはワクチン接種用の細胞全体の調製物が挙げられる。治療またはワクチン接種に使用される場合、本明細書で記載した核酸分子またはポリペプチドは、抗原に対する特定の免疫応答をもたらす該抗原を提供する(またはコードする)ことができ、および/または一般的で非特異的な免疫応答となるかも知れない。後者の場合、他の活性成分を含む組成物を用いる際、本明細書で記載した核酸分子/ポリペプチドは、アジュバントとして作用し、したがってこの目的に使用できる。
【0039】
予防用または治療用の製剤は、1つ以上の製剤学的に許容される担体または希釈剤の存在下で1つ以上の好適なアジュバント、たとえば不完全フロインドアジュバント、BCG、モンタニド(Montanide)、水酸化アルミニウム、サポニン、quil A 、またはそれらのさらに精製された形態、ムラミルジペプチド、鉱油または植物油、ノバソーム(Novasome)または非イオン性のブロックコポリマーまたは DEAE デキストラン、を含むように処方してもよい。好適な担体には、生理食塩水溶液といった液体媒体が含まれる。
【0040】
好適な担体、賦形剤および希釈剤の例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、 リン酸カルシウム、アグ
リネート(aglinates)、トラガカント(tragacanth)、ゼラチン、珪酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、 セルロース、 水シロップ、 水、 水/エタノール、 水/グリコール、 水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース、 メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシ
ベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油または脂肪物質、たとえば硬性脂質またはそれらの適当な混合物などが挙げられる。上記組成物は、付加的に、潤滑剤、保湿剤、乳化剤、 懸濁化剤、 保存剤、 甘味剤、 香味剤などを含んでもよい。本発明の組成物は、患者に投与した後、活性成分の迅速な、持続する、または遅延した放出を与えるように公知の手順を使用することにより処方することができる。上記組成物は、適切な投与形態、たとえば、エマルジョン、またはリポソーム、ニオソーム(niosomes)、マイクロスフェア(microspheres)、ナノパーティクル(nanoparticles)などとすることができる。
【0041】
必要なら上記組成物は、活性成分に結合したターゲティング部分を含んでもよい。たとえばリンパ球、単球、マクロファージ、血管内皮細胞、 上皮細胞、血液細胞、 赤血球、血小板、好酸球、好中球、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、脳細胞、心臓細胞、肺細胞、島細胞、 腎臓細胞、ホルモン分泌腺細胞、皮膚、骨、関節、骨髄、胃腸粘膜、リンパ
節、パイエル板、大網および他の免疫組織などへのターゲティングといった特定の細胞型または位置へのターゲティングを可能とする、内因性レセプターに特異的かつ選択的に結合するリガンドである。
【0042】
上記組成物は、自己免疫疾患、免疫亢進病態、アレルギー反応および/またはTh2−型免疫応答に代表される病態、および/または好酸球増加症に関係する病態といった、ガンではない病態を治療または予防には有用性がある。
【0043】
よって、本発明の別の態様として、自己免疫疾患、(たとえば異種の細胞または組織の移植後の拒絶を防止するための)免疫亢進病態、アレルギー反応および/またはTh2−型免疫応答に代表される病態および/または好酸球増加症に関係する病態といったガンではない病態を治療または予防する際に使用される医薬製剤として、好ましくは免疫抑制剤として、本明細書で記載される医薬組成物が提供される。
【0044】
別の局面から本発明は、前記の医薬組成物を投与された患者において、自己免疫疾患、免疫亢進病態、アレルギー性応答および/またはTh2−型免疫応答に代表される病態、および/または好酸球増加症に関係する病態といった、ガンではない病態を治療するかまたは予防する方法を提供する。
【0045】
さらに、本発明は、自己免疫疾患、免疫亢進病態、アレルギー疾患および/またはTh2−型免疫応答に代表される病態、および/または好酸球増加症に関係する病態といった、ガンではない病態を治療するかまたは予防するための医薬製剤を製造する際において、
(i) 図1のヌクレオチド配列 、 または
(ii) (i)の配列に対して66%を超える、たとえば 70% もしくは 75%、
好ましくは 80% を超える、具体的には90%を超える、または95%の 同一性(前
記のテストによる)を有する配列、あるいは 2 x SSC、65°C (ここで SSC = 0.15M NaCl、 0.015M クエン酸ナトリウム、 pH 7.2)の条件下で、(i)の配列とハイブリダイズし、図1のヌクレオチド配列によりコードされる配列と機能的に等価なタン白質をコードする配列、または
(iii)機能的に等価なタン白質フラグメントをコードする(i)または(ii)配列のフラグメント;
を含む核酸分子の使用、あるいは
(i) 図1のアミノ酸配列、または
(ii) (i)の配列に対して60%を超える、たとえば65%もしくは70% 、好ましくは 80% を超える、具体的には90%を超える、または95%の 同一性(前記の
テストによる)を有して、機能的に等価なタン白質を与える配列、あるいは
(iii) (i)または(ii)の配列の機能的に等価なフラグメント
を含むポリペプチドの使用を提供する。
【0046】
本明細書では、「治療」とは治療前の症状に対して、治療対象である1以上の病態症状を低減させ、軽減させ、または除去することをいう。たとえば、罹患する症状には、好酸球増加症、特定のサイトカイン分泌減少、Th2に偏倚した免疫応答、アレルギー応答、自己抗体の存在などが挙げられ、これらは機能的に等価なポリペプチドの機能特性について特に規定されたような効果を達成するように治療される。
【0047】
病態の「予防」とは、前記病態の1以上の症状の発現または程度によって評価されるが、病態の発生を遅らせるか、または予防すること、あるいはその過酷さを軽減することをいう。
【0048】
治療される、ガンではない病態には、特に自己免疫疾患として、たとえば溶血性貧血(Haemolytic anaemia)、血小板減少症(Thrombocytope
nia )、甲状腺炎(Thyroiditis)、悪性貧血(pernicious
anaemia)、アジソン病(Addison’s disease)、自己免疫糖尿
病(autoimmune diabetes)、 重症筋無力症(myaesthen
ia gravis)、 リューマチ性関節炎(rheumatoid arthriti
s)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus)、アテローム性動脈硬化症 (atherosclerosis)および 自己免疫脳症(autoimmune encephalitis)が挙げられる。
【0049】
本明細書でいうガンではない免疫亢進の病態には、不適切な活性化、たとえば自己免疫病態が含まれるが、さらに望ましくない(が正常な)活性化、具体的には、外来性の細胞または組織(あるいは改変された内在性の細胞または組織) 、たとえばある器官または
骨髄をある個体の体内に移植することに起因する免疫応答も含まれる。
【0050】
治療されるまたは予防されるべき、ガンではない病態には、湿疹(eczema)、
皮膚炎(dermatitis)、アレルギー性鼻炎(allergic rhinit
is)、アレルギー性結膜炎(allergic conjunctivitis)、ア
レルギー性気道疾患(allergic airway diseases)、過好酸球性症候群(hyper−eosinophilic syndrome)、接触性皮膚炎(
contact dermatitis)、食物アレルギーならびに好酸球気道炎症(e
osinophilic airway inflammation)および気道過敏症(airway hyperresponsiveness)に代表される呼吸疾患、これ
には、たとえばアレルギー性喘息(allergic asthma)、内因性喘息(i
ntrinsic asthma)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(alle
rgic bronchopulmonary aspergillosis)、好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia)、アレルギー性気管支炎、気管
支拡張症(allergic bronchitis bronchiectasis)、職業性喘息(occupational asthma)、反応性気道疾患症候群(re
active airway disease syndrome)、間質性肺疾患(in
terstitial lung disease)、過好酸球性症候群(hypereosinophilic syndrome)、寄生虫性肺疾患(parasitic lung disease)などが挙げられる。
【0051】
しかしながら上記組成物は、喘息の治療に好ましく使用される。さらに好ましい態様において、該組成物は好酸球増加症がある役割を演じている病態、たとえばアレルギー(上記のように、とりわけ喘息)、アトピー性疾患および肺好酸球増加症を治療するために使用される。
【0052】
治療される患者として、限定するものでないが哺乳類、とりわけ霊長類、飼育動物および家畜が含まれる。よって、特に好ましい治療の動物として、マウス、ネズミ、モルモット、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマが挙げられ、 とりわけ好ましくは、ヒトで
ある。
【0053】
すでに述べたように、本発明による方法では核酸分子またはポリペプチドのいずれかが使用される。核酸分子を使用する場合、核酸分子は患者内で発現させる形態で便利に使用され、よって遺伝子治療の形態となる。したがって本明細書で記載された、核酸分子を含む医薬組成物は、遺伝子治療方法において使用することができる。
【0054】
上記核酸分子は、たとえばリポソーム、ミセルまたは関心が向けられた細胞へのターゲティングを可能とするターゲティング部分を含む、他の適当な搬送ベヒクルで提供されてもよい。
【0055】
あるいは、上記分子は、ウィルス、プラスミドまたは 細胞 (とりわけトランスフェクトされた種に適合する細胞)などの他の「ベヒクル」に包含されてもよい。これらは、そうした駐在分子の発現をもたらす目的のために当該技術分野ではいずれも周知である。
【0056】
トランスフェクションのための適切な技術はよく知られており、これには、エレクトロポーレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション(lipofection)、吸着、ウィルス・トランスフェクションおよびプロトプラスト融合などが挙げられる。
【0057】
本発明の組成物の投与は、従来的な任意の経路で行なわれてもよく、具体的には、吸入によるか、経鼻的に、経口的に、経直腸的にあるいは筋肉内、皮下、腹腔内または静脈内の注射といった非経口的による。皮膚に組成物、たとえば軟膏を局所投与することによる治療または予防も可能である。
【0058】
投与は、必要に応じた間隔をおいて行なわれ、たとえば2回またはそれ以上の適用、具体的には毎時間、毎日、週ごとまたは月ごとの間隔で2−4回の適用あるいは1日、3−5日ごとに、または 2週間ごとに、毎月または季ごとの間隔で数回の適用である。
【0059】
関係する分子cpn60.2について行なわれた研究において、投与経路は生起する免疫応答に影響を及ぼすことが観察されている。たとえば、Mtcpn 60.2が鼻腔内
に投与されると、Th2からThlへのシフトが刺激され、腹腔内に投与されると反対の効果が観察された。このため投与経路は、治療または予防する疾患を考慮に入れるべきである。たとえば自己免疫疾患を治療する際は、腹腔内投与が適切であり、他方、特定のアレルギー性疾患の治療または予防には、たとえば鼻腔内投与が適切である。
【0060】
本発明の予防方法において、投与 (好都合には経口的に、または吸入、あるいは皮下
もしくは筋肉内注射)は、好ましくはもっと長い間隔、具体的には2−12週の間隔で実施される。治療目的には、投与(好都合には経口的に、または吸入、あるいは静脈内注射) 1日にまたは2日にわたって1−4回行なわれる。
【0061】
本発明の組成物中の活性成分は、処方物重量の約0.01重量% 〜約99重量%含有
される。 好ましくは約0.1〜約50%、たとえば10%である。該組成物は好ましく
は投与形態単位で処方され、具体的には各投与単位には約O.Olmg〜約lgの活性成分を含有する。たとえば、ヒトに対して0.05mg〜0.5gで、好ましくは1〜100mgである。
【0062】
投与される活性化合物の正確な投与量ならびに治療期間の長さは、たとえば患者の年齢および体重および治療に求められる特別の条件、その重篤度、および投与経路を含む多数の要因にもちろん依存する。しかしながら一般的には、有効用量は、投与する動物、投与形態に応じて、単一の投与として約O. 1μg/kg 〜約14mg/kgの範囲内にあり、好ましくは 0.1 〜lmg/kg、たとえば1日あたり、約1mg〜lgのポリペプチドである。よってたとえば、成人の1日あたりの適切な用量は、7μg〜1g、たとえばlOmg〜lg/日、あるいは25〜500mg/日のポリペプチドである。
【0063】
本明細書に記載された核酸分子を使用するときは、類似のまたはより少ない用量が用いられてもよく、具体的には約0.2ng/kg〜約2.5mg/kg (たとえば 約0.2ng/kg〜約2ng/kgまたは約1.5ng/kg〜約2.5mg/kg)、成人には約14ng〜約175mgである。しかし、核酸分子が細胞またはベクターに包含される場合には、非cpn コードDNAの規模ならびに発現レベルに影響を及ぼす配列に
よっては、より多いかまたはより低い量が相応に必要となるかも知れない。具体的には5− または 10倍多い量である。たとえばベクターに包含された本明細書に記載の核酸分子では、約1.Ong/kg〜約12.5mg/kgで使用することができる。
【0064】
上述のように本明細書で規定したポリペプチドのファミリーおよびそれらをコードする核酸分子は、サイトカイン群の産生を刺激する。それゆえこのことは、治療/予防の状況においてそれが生起するか否かにかかわらず、これらのサイトカイン産生を刺激する発現目的のためにこれらの化合物の使用を許容する。
【0065】
よってさらなる面において、本発明は細胞のサイトカイン産生を刺激する方法を提供する。その方法は、
(i) 図1のヌクレオチド配列、または
(ii) (i)の配列に対して66%を超える、たとえば 70%もしくは75%、好ましくは 80% を超える、具体的には90%を超える、または95%の 同一性(前記の
テストによる)を有する配列、あるいは 2 x SSC、65°C (ここで SSC =
0.15M NaCl、 0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.2)の条件下で、
(i)の配列とハイブリダイズし、図1のヌクレオチド配列によりコードされる配列と機能的に等価なタン白質をコードする配列、あるいは
(iii)機能的に等価なタン白質フラグメントをコードする、(i)または(ii)配列のフラグメント;
を含む核酸分子、あるいは
(i) 図1のアミノ酸配列、または
(ii) (i)の配列に対して60%を超える、たとえば65%もしくは70% 、好ましくは 80% を超える、具体的には90%を超える、または95%の同一性(前記のテストによる)を有して、機能的に等価なタン白質を与える配列、または
(iii) (i)または(ii)の配列の機能的に等価なフラグメント
を含むポリペプチド
の上記細胞に対する投与を含む。
【0066】
そのような方法は、インビトロで、すなわち生体外の細胞、組織または器官について実施することができる。具体的にはこの方法論は、本発明の分子、たとえばcpn 60.
1 レセプター分子と反応するか、それに結合するか、あるいはそれにより活性化される
分子もしくは分子群を同定するための研究方法において使用することができる。このような方法に対する1つの帰結として、サイトカイン産生の刺激は、本発明分子の存在を測定するために用いることができる。
【0067】
したがって、別の面から本発明は、 サンプル中に本発明のポリペプチドまたはペプチ
ドの存在または濃度を評価する方法を提供する。その方法では、上記サンプルが細胞に適用されて、1つ以上のサイトカイン産生が測定され、対照サンプルにおけるそ(れら)のサイトカイン産生のレベルと比較される。ここで対照レベルを超える上昇は、当該サンプルにおいて上記ポリペプチドまたはペプチドの存在または濃度との関係を与える。
【0068】
本明細書で用いる「対照」とは、本発明の分子または測定されるサイトカイン(類)の産生を増大させる部分を含まないサンプルを言及するものである。適切であれば、本発明の分子を用いて標準曲線を作成してもよく、これにより該分子の存在または濃度について、定性的評価も可能であるが、定量的評価をなすことを可能とする。この方法は、本発明の分子を同定するためにさらに使用することができる。
【0069】
しかしながら代わりに、特定サイトカインの産生を増強すべく、インビボでサイトカイン産生を刺激する方法が実施されてもよい。このことは治療上または予防上の効果に利点を有するものである。この場合において本発明は、特定のサイトカインを増加させることにより軽減され、克服されるかまたは防止される病態を治療するために使用される上記の核酸分子およびポリペプチドならびにその目的用の医薬製剤の調製のため、そうした分子の使用に拡張される。
正常レベルより10倍を超えて、または100倍を超えて増大させるサイトカインは、好ましくは IL−1β、IL−2、IL−6、IL−8、IL−10、IL−12、TN
Fα、インターフェロン−γおよびGM−CSFからなる群より選択される。
定義
「自己免疫疾患」 本用語は、自己免疫のプロセスがある疾患の病因に関与することが示され得る場合をカバーすることを意図している。典型的にはそのような病気はT ヘルパ
ー リンパ球−1 (Th−1) 型免疫応答に関係している。
「アレルギー病態」 本用語は、T ヘルパー リンパ球−2 (Th−2) 型免疫応答に関係する病態をカバーすることを意図している。アレルギー反応において、高いIgEレベルが生起し、Th−2 免疫応答がTh−1応答よりも優勢となり、その結果、炎症性
の応答となる。アレルギー病態の例として、喘息、鼻炎/枯草熱、(rhinitis/hay fever)、湿疹(eczema)およびアナフィラキシー(anaphyl
axis)が挙げられる。
「アジュバント」 この用語は、抗原と一緒に取り込まれるか、あるいは同時に投与されると免疫応答が増強される物質をいずれもカバーする意図で用いられている。
「MT60.1」、「Mtcpn60.1」、「cpn 60.1」、「60.1」は、
図1に示されたアミノ酸配列を言及するため、本明細書中では互いに交換できるように使
用される。
【0070】
[実施例]
次に実施例を通して本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0071】
Mycobacterium tuberculosis cpn 60.1はサイトカ
インの強力な誘発因子(inducer)である。
本実験において、精製M. tuberculosis cpn 60.1 組換えタン白質のサイトカイン誘導活性をELISAにより調べた。
方法
シャペロニン60タン白質の発現および精製
M. tuberculosis cpn 10、60.1 および 60.2は、M. Singh教授 (WHO Collaborating Centre、ドイツ)により通
常のクロマトグラフィーを用いて下記のようにして調製された。
組換えcpn60.2の精製
該タン白質は、M. tuberculosis cpn 60.2をコードするプラス
ミドを担持する、加熱誘導(42°C)組換えE. Coli K12 細胞から得られた
。細胞を超音波処理により溶解した。
【0072】
その上清をアニオン交換クロマトグラフィー カラムでクロマトグラフィーを行なった
。透析後、cpn 60.2を含むフラクションは、2番目の異なるアニオン交換クロマ
トグラフィー カラムでさらに精製を行なった。最終的に、タン白質溶液は、その小分け
および凍結乾燥をする前にlOmM重炭酸アンモニウム溶液に対し透析を行なった。
【0073】
タン白質各バッチのLPS汚染について、Limulusアッセイ(Tabona ら
、 1998、 J. Immunol.、161、p1414−1421)を用いてチェ
ックすることにより充分な注意を払った。もしLPS汚染が検出されたならば、ポリミキシンB(polymyxin B)アフィニティカラム上でそれを除去し、LPSレベル
を再びアッセイした。
【0074】
低LPSの組換えシャペロニンはさらに“Reactive Red カラム”上で、汚染するタン白質および ペプチドを除去して精製した(Tabona ら、1998、上記)。
【0075】
ヒトPBMCにおいて、cpn 60.1 および cpn 60.2による、IL−1β、IL− 6、 IL−8、IL−10、IL−12、TNFαおよび GM−CSFの産
生へのインビトロ効果を、Tabonaら(1998、上記)に記載されたように2−サイトELISAを用いて決定した。
結果
結果が図2に示されている。驚くべきことにcpn 60.1 タン白質は、よく研究されたcpn 60.2 または hsp65よりもさらに強力なサイトカインインデューサ
ーであることがわかった。cpn 60.1 タン白質は、cpn 60.2よりも2の対
数次数分(10オーダー)、強力であることに加えて、ヒト単球においてcpn 60
.2 またはLPSよりも著しく大きい最大級の応答を亢進する。
【0076】
興味深いのは、両シャペロニンは、いずれもIL−12 産生を刺激するが、抗ミコバ
クテリア性(mycobacterial)サイトカイン、IFN−γの産生を促進できなかった。これに関連して、我々は多数のcpn 60−由来ペプチドを調べた。推定さ
れるcpn 60.1 T細胞エピトープ・ペプチド、195−219が、IFN−γの産生も含めて(データは示されていない)サイトカイン産生の強力なインデューサーであることがわかった。M. tuberculosis cpn 60.2 およびE. col
i cpn 60 タン白質、groEL、における同じペプチドは、サイトカイン誘導活
性を欠いていた。(Lewthwaite、Henderson およびCoates、
未発表データ)。これらの知見は、単球/マクロファージへのM. tuberculo
sis cpn 60.1の作用を確認するものであり、したがって、ある病態の治療または予防においてそれらの利用を確認する。
【実施例2】
【0077】
マウスにおいてMycobacterium tuberculosis cpn 60.1は喘息を抑制する
本実施例では、アレルギー性炎症のげっ歯類モデルにおいてM. tuberculo
sis cpn 60.1 タン白質が、免疫したマウス気道への好酸球の動員を阻害する
ことを初めて示す。
【0078】
好酸球応答へのcpn 60.1の効果は、用量および時期に依存する。これらの結果
から、Mtcpn 60.1がマウスの気道炎症を変調させることを示している。よって
、アレルギー疾患の治療および予防について重要な示唆を有する。
方法
炎症のげっ歯類モデル
抗原投与後に、気道における好酸球および T リンパ球の漸加の定量を可能とするアレルギー性炎症のげっ歯類モデルが開発された。さらに肺モニタリングシステムが使用され、これは気管支収縮剤アゴニストに対する肺の機能における変化をインビボで測定することを可能とする。
免疫化プルトコル
C57B1/6 野生型 (地域の供給者)の6−8 週齢マウスは、0日目に、オボア
ルブミンを用いて免疫され (10μg 腹腔内注射; 1 mg 水酸化アルミニウム) 、7日後に繰り返した。14、 15 および 16日目に マウス は、プレキシガラス(p
lexiglass)容器(12 L)に収容して、霧状にしたオボアルブミン溶液(1
0 mg/ml; De Vilibiss Ultraneb 90)に曝した。シャム免
疫の野生型マウスは、0日および7日目に水酸化アルミニウム1mg を注射し、14− 16日目にオボアルブミンで抗原投与した。
【0079】
エアゾール暴露は、毎日3回1時間の間隔で20分間暴露させて行ない、気管支肺胞洗浄、免疫組織化学用の肺の採取および肺力学(lung mechanics)は、最後
のエアゾール投与の後、24時間して行なった。
【0080】
オボアルブミンは、喘息患者がよく遭遇する呼吸器系のアレルゲンではないが、炎症げっ歯類モデルで観察されるTh2応答は、ハウスダストのダニで免疫した後に見られるものに類似している。これら2つのアレルゲンにより生起されるTh2 サイトカインのプ
ロフィールは、類似している。このオボアルブミンを用いる利点は、それが容易に入手でき、しかもこのアレルゲンの特異的な活性は、バッチ間で変動せず、そのため我々は、バッチ間で抗原投与量をコントロールできる。
BCG処置
オボアルブミン(10μg)で免疫してから6日目に、マウスに経静脈経路により B
CG (log (BCG viable単位):−4、−5 および−6)を注入した。
7日目、マウス は、オボアルブミン(10μg)の ブースター(booster)注射を受けた。13日目、マウス は6日目と同じ投与量、同一の投与経路にて2度目のBC
G投与を受けた。14日目、マウスは、プレキシガラス容器に収容し、霧状にしたオボア
ルブミン溶液(1% 溶液)への30分間暴露を1時間間隔で3回行なった。この操作を
15および16日目にも繰返した。最後のオボアルブミン暴露の24時間後、マウスを麻酔にかけ好酸球を数えるために気管支肺胞洗浄を行なった。
Cpn 60. 1/60. 2 処置
動物の同じバッチからのマウスをオボアルブミンで免疫し、Mtcpn 60.1 (10μg/動物)を気管に直接点滴することにより処置した。マウスはMtcpn 60.
1で、 6日目 および13日目、次いで14、15、および16 日目の投与プロトコル
の開始の30分前にも処置した(総数5 処置)。
結果
図3は、オボアルブミンで免疫した(シャムでない)マウスの気道への好酸球の有意の動員を示す。
【0081】
図3は、またマウスにおいてBCGが気道炎症を抑制することを示す。オボアルブミン免疫マウスにおいて、オボアルブミン投与は、肺の好酸球増加症を誘導し(55±12%、 n = 5、 P < 0.05 シャムに対する)、これは抗原の前にBCG(106
viable 単位/ml)で 処置したマウスでは有意に抑制された。
【0082】
図4は cpn60.1で処置した場合、しなかった場合に得られた結果を示す。オボ
アルブミン免疫マウス (ova)における気管支肺胞洗浄液中に見いだされた好酸球の
パーセンテージは37.7 ± 7.4 % (図5)であった。オボアルブミン投与に続く、気道への好酸球動員の有意の抑制が見られた(% 好酸球 Mtcpn 60.1処置マウス; 12.6 ± 3.9 % P< 0.05 対照に対する)。このことは、 喘息に
おけるM. tuberculosisの保護効果についての強力な証拠を与える。
【0083】
本出願人はさらに別の実験も行なった。その実験においてマウスは、 Mtcpn 60.1で2度の機会 (6 および13日)だけ処置したが、 好酸球の動員は阻害されない
ことが観察された。これは好酸球の応答へのMtcpn 60.1の効果が投与量および 時期に依存することを示している。
【0084】
これらの結果から、喘息のげっ歯類モデルにおいて、Mtcpn 60.1 が好酸球性炎症を抑制できることが初めて示された。鼻炎/枯草熱、湿疹、アナフィラキシーといった他のアレルギー病態もまた、喘息と共通の機作(Th−2 細胞の過剰反応)を共有し
ている 。したがって、もし 60−1が喘息を抑制することができるなら、他のアレルギー病態もまた抑制できるはずである。これは、そのタン白質がマウスの気道炎症を変調させる能力を有しているという仮説を支持するものである。このことは、アレルギー疾患および自己免疫疾患といったガンでない病態の治療および予防に対し重要な手がかりとなるものである。
【0085】
60.1の重要な利点は、それがアレルギー病態における急性症状の治療とは区別される予防的な治療を与え得るということである。 換言すれば、60.1処置はアレルギー
病態の急性症状がさらに進行するのを防止できることである。
【実施例3】
【0086】
自己免疫疾患: 60.1はラットの関節炎を抑制する
本実施例では、関節炎のラットモデルにおいて M. tuberculosis cp
n 60.1 タン白質が、免疫されたラットでは骨粗しょう症、骨侵食および骨膜炎を抑制したことを初めて示す。これらのデータは、Mtcpn 60.1がラットにおいて関
節炎を変調させることを支持し、したがって関節炎疾患の治療および予防に重要な手がかりとなるものである。
方法
アジュバント/M. tuberculosisは、関節炎患者がよく出会う刺激では
ないけれども、炎症ラットモデルに見られる Thl応答は、リューマチ性関節炎に観察
されるものに類似している。
【0087】
これら2つのアレルゲンにより生起されるTh1 サイトカインプロフィールは、類似
している。このアジュバントを用いる利点は、それが容易に入手でき、この刺激の特異的な活性は、バッチ間で変動せず、そこで我々は、バッチ間でアジュバント投与量をコントロールできる。
アジュバント関節炎を誘導する一般プロトコル
加熱殺菌Mycobacterium tuberculosisヒト株C、 DT お
よび PN (Mtb) は、乳鉢で微細に磨り潰し、軽パラフィンオイルに懸濁して最終
濃度10mg/mlとした。
【0088】
ラットは、上記Mtb懸濁液の全100μlを尾の基底部で接種された (Andre
ws ら1987)。動物を毎日、体重および臨床スコアを評価しながら、3−4週間観
察した。実験の最後に動物は炭酸ガス中で窒息死させ、血液および組織サンプルを採取した。
臨床スコア
関節炎誘導の日を0日目と設定し、関節炎を次の標準点数評価システムを用いて評価した (Currey および Ziff、1968の評点から改変した)。
0. 炎症なし。
1. 僅かに赤くなり肢は膨張する。
2. 肢が膨張し、腱はもはや見られない。
3. 膨張は踝関節まで伸びる。
4. 大幅な炎症および踝関節の変形。
【0089】
評価点数は動物ごとに集計し、可能な最大値を16とする。ついでながら、尾は皮膚結節の有無にもとづき0〜1と評価できる。耳は、赤熱の状態の有無により0〜1と評価できる。尾および耳は、シャペロニン実験では評価されなかった。
引用文献
Andrews FJ、 Morris CJ、Kondratowicz B、 Blak
e DR: Effect of iron chelation on inflammat
ory joint disease. Ann Rheum Dis 1987 ; 46:
327−33.
Currey HLF、 Ziff M. Suppression of adjuvant
disease in the rat by heterologous antilym
phocyte globulin. J Exp Med 1968; 127: 185−
203.
実験の詳細
種:ウィスターラット、実験開始時、160−200g
系統(Strain): Bath−誕生および離乳(born and weaned)
性:雌
ケージ中の数:6
ヒートショックタン白質(シャペロニン)調製
Cpn 10 (hsp 10): 20 mMリン酸カリウム、1mM DTT、1mM E
DTA(lml)中、lmg/mlで供給
Cpn 60.1 (hsp60.1): lOmM重炭酸アンモニウム(0.3ml)中
、 2.25 mg/mlで供給
Cpn 60.2 (hsp65): lOmM重炭酸アンモニウム(0.45ml)中、 3.33 mg/mlで供給
リン酸緩衝化生理食塩水 (PBS)
無菌DulbeccoのPBS w/o Ca および Mg used (Gibco)
PBS、720μlをCpn 60.1調製物に、570μlを Cpn 60.2調製物
に、および 120μlをhsp 10調製物に (容量で) 加えて、最終的にlmg/mlとする。cpn調製物(320μl)は、エッペンドルフ(eppendorf)で小分けし注射時まで冷蔵庫中で保管した。残りは、ELISAのために−70°Cで再凍結した。
【0090】
6匹のラットからなる5つのグループを、軽パラフィン油(アジュバント)中に粉砕した加熱殺菌Mtb (lOmg/ml)を含むもの(100μl)で尾から接種した(0
日目)。6ラットの1グループは、処置を受けなかった(ナイーブ(naive))。すべてのラットは体重を測定した。4、5 および6日目に、アジュバントを受けた5グル
ープは、次のように処置した。
群1:処置なし (AAだけ)
群2: 各ラットは、50μlのPBSを尾から注入された(AA+ベヒクル)。
群3: 各ラットは、50μlのhsp10を尾から注入された(AA+hsp10)。
群4: 各ラットは、50μlのcpn60.1を尾から注入された(AA+cpn60
.1)。
群5:各ラットは、50μlのhsp65 (cpn60.2)を尾から注入された(A
A+hsp65)。
群6:免疫なし(ナイーブ)
すべての動物は毎日評点をつけ、0、4、6、8、11、13、15、18 および2
1日目に体重を測定した。
結果
図6は、シャペロニン処置ラットで著しい抗体産生があり、無処置またはPBS−処置ラットではなかったことを示す。図6はまた、アジュバント処置ラットをcpn60.1で免疫すると、最大量の抗体をもたらすことを示している。これは Th2−応答の誘導
を示唆する。
【0091】
図7は、cpn 60.1、60.2 または10を用いる処置をした場合としなかった合の結果を示す。ベヒクルだけの処置は、21日後に臨床スコア12を与えた。これは、60.2により14まで増加したが、cpn 10により9に減少した。
【0092】
60.1を用いる処置は、ベヒクルのみの処置とは区別できなかった。このことから炎症性応答が60.2によって増大し、10により減少し、他方60.1は効果がないという証拠を与える。
【0093】
本出願人は、X線で関節部を調べた(図5、8、8 (a) および 8 (b))。10は、骨粗しょう症、骨侵食および骨膜炎についてX線スコアを上昇させたが、60.2は、ベヒクルだけの場合と差異はなかった。
【0094】
これらの結果は、Mtcpn 60.1が関節炎ラットモデルにおいて骨粗しょう症、
骨侵食および骨膜炎を抑制できることを初めて示す。このことは、ラットでは本タン白質が関節炎を変調する能力を有することを示すものであり、自己免疫およびアレルギー疾患の治療および予防に重要な手がかりとなる。
【0095】
関節炎といった自己免疫疾患は、アレルギー性の病態(Th−2 細胞の過剰反応性) とは異なる機作(Th−1 細胞の過剰反応性)で作用していると考えられる。
したがって、60.1が喘息 (Th2) および関節炎(Th1))ともに抑制することは驚くべきことである。
【実施例4】
【0096】
アジュバント活性
正常ラットならびにcpn 60.1を含む調製物および 60.2を含む調製物、PBS (緩衝液) のみを尾基底部で、皮下注射により投与したアジュバント 活性 (AA)ラットおよびnaiveラット(免疫化なし)における抗体産生。 実験の詳細は実施例
3で記載されたものと同一である。
【0097】
図6、9 および10は、60.1 および 60.2処置ラットでは著しい抗体産生が
あり、PBS処置動物または「ナイーブ( naive)」動物ではないことを示す。
よって、60.1 および 60.2は、極めて強力なアジュバント活性を有する。さらに、60.1は、60.2よりも4倍もの抗体応答を作り出した。したがって、ワクチン組成物において60.1は、抗原に対し、アジュバントとして作用できる。
【0098】
とりわけ好ましいワクチン組成物の例は、本発明の化合物を、次の抗原のうち、1つまたはそれ以上の抗原と一緒に含むものである:
炭疽(Anthrax)、コレラ(Cholera)、ジフテリア(Diphtheria)、ヘモフィルス・インフルエンザb (Hib)(Haemophilus influenza b(HIB))、 肝炎A(Hepatitis A)、肝炎B( Hepatitis B)、 インフルエンザ(Influenza)、日本脳炎(Japanese
encephalitis)、麻疹 (Measles)、流行性耳下腺炎(mumps)および風疹(rubella (MMR))、髄膜炎菌(Meningococcal
)、百日咳(Pertussis)、肺炎双球菌(Pneumococcal)、ポリオ(Poliomyelitis)(sabin および salk ワクチン)、 狂犬病(Rabies)、三日はしか( Rubella)、 天然痘(Smallpox)および種痘症(Vaccinia)、破傷風(Tetanus)、 ダニ起因性脳炎(Tick borne encephalitis)、結核(Tuberculosis)(BCG
)、チフス(Typhoid)、水痘/ヘルペス(Varicella/Herpes)、帯状疱疹(zoster)、黄熱病(Yellow fever)および 獣医ワクチン用抗原(veterinary vaccine antigens)たとえば足および口腔疾患 ウィルス。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1−1】図1−1は結核菌(M. tuberculosis)からのcpn 60.1のヌクレオチドおよびアミノ酸の配列を示す。
【図1−2】図1−2は図1−1の配列の続きを示す。
【図2】図2は M. tuberculosis cpn 60.1 および 60.2 によるサイトカイン産生へのインビトロ(in vitro)作用を示す; A) IL−1β 、 B) IL−6、 C) IL−8、 D) IL−10、 E) IL−12、 F) TNFα および G) GM−CSF、黒丸は、cpn 60.1を 白丸はcpn 60.2を表す。
【図3】図3はマウスにおける気道炎症へのBCGの作用を示す。
【図4】図4は、オボアルブミン(ovalbumin)で誘導した肺の好酸球増加症のマウスにおいてcpn 60.1を5用量、投与した後の好酸球レベルの減少を示す。
【図5】図5は オボアルブミンで免疫したマウス(ova)の気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid)中に見られた好酸球のパーセンテージは37.7±7.4%であった。
【図6】図6はシャペロニン処置ラット(すなわち60.1 および 60.2で処置した動物)では有意の抗体産生が示され、その処置がないかまたはPBSで処置した動物ではそれがなかったことを表すELISAの結果である。略語: Naive (免疫しない); ELISAで使用した抗原は、cpn 60.2 (”65”); cpn 60.1(”cpn”) または cpn 10 (”10”)である。たとえば、y軸上で”Naive/65”は、その動物が免疫されず、ELISAで使用した抗原は60.2であることを示す。 同様に ”cpn/cpn”は60.1で免疫され、しかもELISAで使用した抗原は60.1であることを示す。
【図7】図7はcpn60.1、60.2 または10による処置をした場合としない場合について、関節炎用の臨床スコアで表す効果を示す。
【図8】図8はcpn60.1、60.2 または10による処置をした場合としない場合について、関節炎用のX線スコアで表す効果を示す。略語:”Ost”=osteoporosis(骨粗しょう症);”Peri”=骨膜炎; および”Ero”= erosion(侵食)。図8(a)は、アジュバント誘導リューマチ性関節炎のウィスター・ラットをcpn60.1で処置した効果を示す。関節炎は、油(アジュバント)中にある加熱殺菌Mycobacterium tuberculosisを、尾からの皮内注射を1回することにより誘導した。誘導後、4、5 および 6日目にCPN 60.1 (50 μg リン酸緩衝化生理食塩水中)を注射することにより処置した。疾患の進行は、足の炎症で評価して毎日観察した。関節炎が最大級になったとき(>9日処置後)、X線スキャンを行なった。スキャン上部:アジュバントで誘導後、CPN 60.1で処置したラット後肢において骨密度および関節生理が正常ラットと区別できないことを示す。スキャン下部:ラットの後肢は、アジュバント誘導関節炎に典型的なリューマチ様障害:骨の侵食、骨粗しょう症、関節変化および閉塞を示す。これらは図8bにおいて注釈を付している。
【図9】図9は60.1 で免疫したラットおよびPBSで処置したラットにおける抗体産生の相対レベルを示す。
【図10】図10は60.2で免疫したラットおよびPBSで処置したラットにおける抗体産生の相対レベルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジュバントとして、図1のヌクレオチド配列の核酸分子、ならびに製剤的に許容される賦型剤、希釈剤または担体を含有する組成物の使用の方法。
【請求項2】
(i)図1のヌクレオチド配列の核酸分子、ならびに製剤的に許容される賦型剤、希釈
剤または担体を含有する組成物および
(ii)抗原
を含むアジュバント・システム。
【請求項3】
前記抗原が以下のものから、少なくとも1つ選択されることを特徴とする、請求項2に記載のアジュバント・システム:
炭疽、コレラ、ジフテリア、ヘモフィルス・インフルエンザb (Hib)、肝炎A、肝炎B、イ
ンフルエンザ、日本脳炎、麻疹、流行性耳下腺炎および風疹(MMR)、髄膜炎菌、百日咳、
肺炎双球菌、ポリオ、狂犬病、三日はしか、天然痘および種痘症,破傷風、ダニ起因性脳
炎、結核、チフス、 水痘/ヘルペス帯状疱疹、黄熱病および獣医ワクチン用抗原。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−174565(P2008−174565A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37290(P2008−37290)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【分割の表示】特願2002−542409(P2002−542409)の分割
【原出願日】平成13年11月16日(2001.11.16)
【出願人】(503179171)ヘルパーバイ セラピューティクス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】